JP2023029913A - 回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】湿熱条件下における耐スティッキング性を有し、かつパターンもげの少ない回折光学素子及びその製造方法、回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物、並びに照明装置を提供する。【解決手段】光源からの光を整形する回折光学素子であって、透明基材の少なくとも一面側に、透明基材の表面から突出する一つ以上の高屈折率凸部と、一つ以上の低屈折率部とを配置した回折格子部を備えており、前記高屈折率凸部は、アクリル系樹脂組成物の硬化物で形成されており、当該硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×109Pa以上2.6×109Pa以下である、回折光学素子。【選択図】図2

Description

本開示は、湿熱条件下における耐スティッキング性を有し、かつパターンもげの少ない回折光学素子及びその製造方法、回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物、並びに照明装置に関する。
ネットワークの普及によるセキュリティリスク回避のための個人認証へのニーズや、自動車の自動運転化の流れ、あるいは、いわゆる「モノのインターネット」の普及など、近年、センサーシステムを必要とする局面が増大している。センサーには色々な種類があり、検出する情報も様々であるが、その中の一つの手段として、光源から対象物に対して光を照射し、反射してきた光から情報を得るというものがある。例えば、パターン認証センサーや赤外線レーダーなどはその一例である。
これらのセンサーの光源は用途に応じた波長分布や明るさ、広がりをもったものが使用される。光の波長としては、可視光波長から赤外線波長がよく用いられ、特に赤外線は外光の影響を受けにくく、不可視であり、対象物の表面近傍内部を観察することも可能という特徴があるため、広く用いられている。また、光源の種類としては、LED光源やレーザー光源等が多く用いられる。例えば、遠いところを検知するには光の広がりが少ないレーザー光源が好適に用いられ、比較的近いところを検知する場合や、ある程度の広がりを持った領域を照射するにはLED光源が好適に用いられる。
対象物における照射領域の大きさや形状は、必ずしも光源からの光の広がり(プロファイル)と一致しているとは限らず、その場合には拡散板やレンズ、遮蔽板などにより光を整形する必要がある。最近ではLight Shaping Diffuser(LSD)という、光の形状をある程度整形できる拡散板が開発されている。
また、光を整形する別の手段として、回折光学素子(Diffractive Optical Element:DOE)が挙げられる。これは異なる屈折率を持った材料が周期性を持って配列している場所を光が通過する際の回折現象を応用したものである。DOEは基本的に単一波長の光に対して設計されるものであるが、理論的にはほぼ任意の形状に光を整形することが可能である。また、前述のLSDにおいては照射領域内の光強度がガウシアン分布となるのに対し、DOEでは照射領域内の光分布の均一性を制御することが可能である。DOEのこのような特性は、不要な領域への照射を抑えることによる高効率化や、光源数の削減等による装置の小型化などの点で有利となる。
DOEは、レーザーの様な平行光源や、LEDの様な拡散光源のいずれにも対応可能であり、紫外光から可視光、赤外線までの広い範囲の波長に対して適用可能である。
DOEは、ナノオーダーでの微細加工が必要となり、特に長波長の光を回折するためには、高アスペクト比の微細形状を形成する必要があった。そのため、DOEの製造は、従来、電子線を用いた電子線リソグラフィ技術が用いられている。例えば、紫外線~近赤外線領域で透明である石英板に、ハードマスクやレジストを成膜後、電子線を用いてレジストに所定の形状を描画し、レジスト現像、ハードマスクのドライエッチング、石英のドライエッチングを順次行って、石英板表面にパターンを形成した後、ハードマスクを除去することで所望のDOEを得ることができる。
回折光学素子の形態として、グレーティングセルアレイ(Grating Cell Array)と呼ばれる形態が従来用いられている。グレーティングセルアレイ型の回折光学素子では、例えば正方形の微細な単位領域(セル)がマトリックス状に配列されている。そして、グレーティングセルアレイ型の回折光学素子の1つの単位領域内では、一定ピッチで面内の回転方向が一定の方向を向いた回折格子が配置されている。また、グレーティングセルアレイ型の回折光学素子では、それぞれの単位領域毎に、配置されている回折格子のピッチ及び回転方向が異なっており、それらの集合体として1つの回折光学素子を構成している。
一般的に、このグレーティングセルアレイを主とする回折光学素子は、ガラスをパターニングすることで製造される。ガラスのパターニングは、一般的にはレーザー、乃至は電子線などの直接描画方式が挙げられる。この直接描画方式は一点一点描画するため、数μm以下の細かいパターンを持つ回折光学素子の作製には、時間がかかるため、量産には不向きであり、一般的には普及していない。
回折光学素子を作製する手法として、直接描画方式の代替であるナノインプリント法が挙げられる(特許文献1参照)。
ナノインプリント法はマスター版のパターンを、レプリカ版に接触転写させる手法であり、高速でマスター版と同型の製品を作製可能である。ただし、転写される側はガラスではなく、樹脂材料となる。つまり製品となるレプリカ版は、ガラスでパターニングされたものではなく、樹脂でパターニングされたものとなる。
また、一般的に、アスペクト比2以上の微細構造パターンの形成に用いられる樹脂材料としては、アクリル系のUV硬化樹脂が知られている(特許文献2-3参照)。
国際公開第2017/119400号 特開2014-98864号公報 特開2004-4515号公報
しかし、ナノインプリント法により樹脂材料を用いて回折光学素子を作製する際には、スティッキング及び離型時のパターンもげが生じ易い。したがって、ナノインプリント法による回折光学素子の商業的製造は、従来技術では難しかった。
上述したアクリル系のUV硬化樹脂は、耐熱性が低く、高温条件下や高湿条件下において、材料劣化が発生することが知られている。特に、湿潤かつ高温条件(このような条件を、以下、湿熱条件という)下においては、微細パターン間から水分が抜ける際に発生するメニスカス力により、隣り合うパターン同士がくっついたり、離れたりする現象(スティッキング)が確認される場合がある。耐熱性のみが問題であれば、樹脂の架橋密度を向上させることや、樹脂を多官能化するという対応策が考えられるが、これらの対応策によってもスティッキングは解消できない。
一方、樹脂の架橋密度を向上させたり、樹脂を多官能化させたりすると、硬化後の膜硬度が向上する結果、離型時にパターンもげが生じる場合がある。
本開示は、直接描画法以外で回折光学素子を製造する場合に関する上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、湿熱条件下における耐スティッキング性を有し、かつパターンもげの少ない回折光学素子及びその製造方法、回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物、並びに照明装置を提供することを目的とする。
本開示の回折光学素子は、光源からの光を整形する回折光学素子であって、透明基材の少なくとも一面側に、透明基材の表面から突出する一つ以上の高屈折率凸部と、一つ以上の低屈折率部とを配置した回折格子部を備えており、前記高屈折率凸部は、アクリル系樹脂組成物の硬化物で形成されており、当該硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下であることを特徴とする。
本開示の製造方法は、透明基材の少なくとも一面側に、透明基材の表面から突出する一つ以上の高屈折率凸部と、一つ以上の低屈折率部とを配置した回折格子部を備え、光源からの光を整形する回折光学素子の製造方法であって、
前記高屈折率凸部と前記低屈折率部を形成するためのキャビティ形状を有する金型を準備する工程、
前記金型のキャビティに、アクリル系樹脂組成物であって、当該アクリル系樹脂組成物に対し積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を照射し硬化させて得られる硬化物サンプルの60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下であるアクリル系樹脂組成物を充填する工程、
前記金型のキャビティ開口部側において、前記透明基材と前記アクリル系樹脂組成物とを接触させ、かつ活性エネルギー線を照射することにより、前記アクリル系樹脂組成物を硬化させる工程、及び
前記透明基材から前記金型を引き離すことにより、透明基材上にアクリル系樹脂組成物の硬化物で形成された高屈折率凸部を有する回折格子部を形成する工程、
を有することを特徴とする。
本開示のアクリル系樹脂組成物は、透明基材の少なくとも一面側に、透明基材の表面から突出する一つ以上の高屈折率凸部と、一つ以上の低屈折率部とを配置した回折格子部を備え、光源からの光を整形する回折光学素子の高屈折率凸部を形成するためのアクリル系樹脂組成物であって、当該アクリル系樹脂組成物に対し積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を照射し硬化させて得られる硬化物サンプルの60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下であることを特徴とする。
本開示において、前記アクリル系樹脂組成物の硬化物の30℃かつ相対湿度30%における貯蔵弾性率(E’)が、1×10Pa以上5×10Pa以下であってもよい。
本開示において、前記アクリル系樹脂組成物の硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の比(tanδ(=E”/E’))は、0.12以下であってもよい。
本開示において、前記アクリル系樹脂組成物は、ウレタン結合を含むものであることが、湿熱条件下における耐スティッキング性に優れ、かつパターンもげがより少ないという点から好ましい。
本開示において、前記アクリル系樹脂組成物は、4官能以上の(メタ)アクリレートと、2官能の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であることが、湿熱条件下における耐スティッキング性に優れ、かつパターンもげがより少ないという点から好ましい。
本開示において、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、全硬化性成分に対し、前記4官能以上の(メタ)アクリレートを40質量%以上80質量%以下、及び、前記2官能の(メタ)アクリレートを10質量%以上60質量%以下含有することが、湿熱条件下における耐スティッキング性に優れ、かつパターンもげがより少ないという点から好ましい。
本開示において、前記4官能以上の(メタ)アクリレートは、4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートを含むことが、湿熱条件下における耐スティッキング性に優れ、かつパターンもげがより少ないという点から好ましい。
また、この際、前記4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートは、多価イソシアネート化合物のイソシアネート基と、分子中に1個の水酸基と2個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物の水酸基とがウレタン結合した化合物であることが、湿熱条件下における耐スティッキング性に優れ、かつパターンもげがより少ないという点から好ましい。
本開示において、前記2官能の(メタ)アクリレートは、分子量(Mw)が100以上5,000以下であることが、湿熱条件下における耐スティッキング性に優れ、かつパターンもげがより少ないという点から好ましい。
本開示において、JIS Z2244(2003)に準拠し、かつ最大荷重0.2mN、保持時間10秒の測定条件下にて行われるビッカース硬さ試験により測定される、前記アクリル系樹脂組成物の硬化物の復元率が、60%以上であることが、湿熱条件下における耐スティッキング性にさらに優れる点から好ましい。
本開示において、前記高屈折率凸部は、高さ400nm以上の部分を有することが、比較的長波長の光を回折できる点から好ましい。
本開示において、前記高屈折率凸部の頂上を上端と定め、当該高屈折率凸部と隣接する他の高屈折率凸部との間にある谷底の位置、又は、当該高屈折率凸部の頂上から最も近い平坦部の位置のうち、当該高屈折率凸部の頂上から近い方を下端と定めるとき、当該高屈折率凸部の下端から上端に向かって、上端と下端の高低差の半分に当たる高さの位置における当該高屈折率凸部の幅に対する当該高屈折率凸部の高さの比を、当該高屈折率凸部のアスペクト比と定義するとき、前記高屈折率凸部のアスペクト比は2以上であることが、比較的長波長の光を回折できる点から好ましい。
本開示の照明装置は、外部から給電可能な導通部と出光面となる開口部を有する枠体、光源、及び、上記回折光学素子を備え、前記枠体の内部空間に前記光源が固定されるとともに前記導通部と接続され、前記開口部に前記回折光学素子が配置されていることを特徴とする。
この際、前記光源は波長780nm以上の赤外線を放射する光源であってもよい。
本開示によれば、高屈折率凸部を形成するアクリル系樹脂組成物の硬化物に関する、湿熱条件下における貯蔵弾性率(E’)が特定の範囲内にあるため、湿熱条件下におけるスティッキングを防止でき、かつパターンもげを少なくすることができる。
回折光学素子の一実施形態を模式的に示す平面図である。 回折光学素子の一実施形態の斜視模式図である。 回折光学素子の一実施形態を示す図であり、図2のA-A’切断面の一例を模式的に示す断面図である。 回折光学素子の他の実施形態であり、透明基材1と回折格子部2との間に基部3が存在する実施形態を模式的に示す断面図である。 回折光学素子の他の実施形態であり、回折格子部2を挟んで透明基材1の反対側に被覆層5を備える実施形態を模式的に示す断面図である。 回折光学素子の他の実施形態であり、回折格子部2を挟んで透明基材1の反対側に被覆層5を備える実施形態を模式的に示す断面図である。 回折光学素子の他の実施形態であり、低屈折率部3に低屈折率樹脂7が充填された実施形態を模式的に示す断面図である。 回折光学素子の他の実施形態であり、低屈折率部3に低屈折率樹脂7が充填された実施形態を模式的に示す断面図である。 回折光学素子の他の実施形態であり、反射防止層9を備える実施形態を模式的に示す断面図である。 回折光学素子の他の実施形態であり、反射防止層9を備える実施形態を模式的に示す断面図である。 アスペクト比の説明の用に供する図であり、2値形状の高屈折率凸部を含む回折格子部の部分断面模式図である。 アスペクト比の説明の用に供する図であり、多段形状(4-level)の高屈折率凸部を含む回折格子部の部分断面模式図である。 回折格子部の断面形状の他の実施形態であり、高屈折率凸部2aの太さが、その先端から根元にかけて断続的に増している実施形態を模式的に示す断面図である。 回折格子部の断面形状の他の実施形態であり、高屈折率凸部2aの太さが、その先端から根元にかけて連続的に増している実施形態を模式的に示す断面図である。 回折格子部の断面形状の他の実施形態であり、高屈折率凸部2aが多段形状(4-level)を有する実施形態を模式的に示す断面図である。 回折格子部の断面形状の他の実施形態であり、高屈折率凸部2aが多段形状(8-level)を有する実施形態を模式的に示す断面図である。 照射光21が回折光学素子10により回折され、スクリーン22上の中央に正方形の像24が形成される様子を示した斜視模式図である。 照射光21が回折光学素子10により回折され、スクリーン22上の上部に正方形の像24が形成される様子を示した斜視模式図である。 図10Aに示すスクリーン22の正面図である。 図10Bに示すスクリーン22の正面図である。 本開示の製造方法に使用される金型の一例の模式図である。 本開示の製造方法におけるアクリル系樹脂組成物充填工程の一例を示し、金型31の表面にアクリル系樹脂組成物32を載置する様子を示す断面模式図である。 本開示の製造方法におけるアクリル系樹脂組成物充填工程の一例を示し、アクリル系樹脂組成物32を金型31表面に塗布する様子を示す断面模式図である。 本開示の製造方法におけるアクリル系樹脂組成物硬化工程の一例の模式図である。 本開示の製造方法における離型工程の一例の模式図である。 照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。 平面形状のスクリーン22に対し、照射領域23が円形となる光を直接投影した場合を示す斜視模式図である。 スティッキングが生じた回折光学素子50の斜視模式図である。 微細パターン間に水分が浸入した回折光学素子の断面模式図である。 スティッキングが生じた回折光学素子の断面模式図である。 回折光学素子の製造中にパターンもげが生じた様子を示す断面模式図である。
以下、本開示の回折光学素子及びその製造方法、回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物、並びに照明装置について順に詳細に説明するが、本開示は以下の実施の態様に限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本開示において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。また、この明細書における「平面視」とは、回折光学素子上面に対し垂直方向から視認することを意味する。通常、「平面視」とは、回折光学素子の回折格子部を有する面に対して垂直方向から視認することに相当する(図1のような平面図の方向に相当する)。
本開示において活性エネルギー線とは、可視光並びに紫外線及びX線等の非可視領域の波長の電磁波のみならず、電子線及びα線のような粒子線を総称する、アクリル系樹脂組成物を硬化させるに足るエネルギー量子を持った放射線が含まれる。活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。
本開示において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタアクリルの各々を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの各々を表し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルの各々を表す。
本開示において「光を整形する」とは、光の進行方向を制御することにより、対象物又は対象領域に投影された光の形状(照射領域)が任意の形状となるようにすることをいう。例えば、平面形状のスクリーン22に直接投影した場合に照射領域23が円形となる光(図14)を、本開示の回折光学素子10を透過させることにより、照射領域が正方形(図10Aの24)や、長方形、円形(図示せず)等、目的の形状とすることをいう。
本開示において、光源からの光が、回折光学素子を透過して回折せずにそのまま出光した光を0次光といい(図10Aの25)、回折光学素子で生じた回折光を1次光ということがある(図10Aの26a~26d)。
本開示において、回折格子部の断面形状は、回折光学素子を水平面に静置したものとして定義する。図2の例では、周期構造の繰り返し方向にX軸をとり、X軸と直交し、XYが水平面を形成するようにY軸をとり、XY水平面に垂直な方向にZ軸をとっている。本開示においては、凸部間の谷底(Zの極小点)を高さ0の基準とし、また、高さ0の部分を凹部とする。また本開示においては、高さH(H>0)を有する部分を凸部とする。一方、本開示においては凸部の最大高さを基準として、凸部間の谷底までを深さとすることがあるが、本開示において、高さと、深さは、表裏の関係にあり、凸部に着目する場合には高さ、凹部に着目する場合に深さとするものであって、実質的には同様のものである。
本開示において、回折格子部の断面形状が図3の例に示されるような、高さ0の凹部と高さHの凸部との繰り返し構造であることを、2値(2-level)形状ということがある。また本開示において、回折格子部の断面形状において凸部が、2以上の平坦部(略水平部)を有するものを多段形状ということがあり、当該多段形状の凸部と凹部とを合わせてn個の平坦部を有する場合、n値(n-level)形状ということがある。
また、本開示において透明とは、少なくとも目的の波長の光を透過するものをいう。例えば、仮に可視光を透過しないものであっても、赤外線を透過するものであれば、赤外線用途に用いる場合においては透明として取り扱うものとする。
1.回折光学素子
本開示の回折光学素子は、光源からの光を整形する回折光学素子であって、透明基材の少なくとも一面側に、透明基材の表面から突出する一つ以上の高屈折率凸部と、一つ以上の低屈折率部とを配置した回折格子部を備えており、前記高屈折率凸部は、アクリル系樹脂組成物の硬化物で形成されており、当該硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下であることを特徴とする。
以下、本開示の主要な特徴である、高屈折率凸部を形成する硬化物の物性について説明した後、回折光学素子の構造を説明する。
(1)アクリル系樹脂組成物の硬化物
本開示の回折光学素子における高屈折率凸部は、60℃かつ相対湿度95%の条件下で特定の貯蔵弾性率(E’)を有するアクリル系樹脂組成物の硬化物により形成されてなる。このように、湿熱条件下で適度な貯蔵弾性率(E’)を有することにより、回折光学素子中の回折格子部が、スティッキングを防止しかつパターンもげを少なくすることができる。そのメカニズムを以下説明する。
図2は、回折光学素子の一実施形態の斜視模式図である。この実施形態においては、透明基材1の一面側に、細長く繋がる高屈折率凸部2aが一定の間隔を空けて配置される。DOEやGCAは、通常、このような、いわゆるライン&スペース構造を有する。
一方、図15は、スティッキングが生じた回折光学素子の斜視模式図である。図15中において、スティッキングが生じた部分を斜線で示す。図2とは異なり、図15の回折光学素子においては、隣り合う高屈折率凸部2aの全部又は一部が、スティッキングを起こして互いに接触している。このように、DOEやGCAにおいては、細長く繋がる凸部が微細サイズで配置されているため、ドット状のモスアイ構造体等と比較して一度生じたスティッキングが全体に伝播しやすい。特に、GCAは、通常、DOEと比べてそのサイズが小さいため、スティッキングがさらに生じやすい。
上述したように、スティッキングとは、回折光学素子の微細パターン間から水分が抜ける際に発生するメニスカス力に由来する現象である。
図16Aは、回折光学素子の微細パターン間に水分が浸入した状態を示す断面模式図である。図16Bは、スティッキングが生じた回折光学素子の断面模式図であり、図15におけるB-B’切断面の一部に対応する。
図16Aには、透明基材1上に回折格子部2を備える回折光学素子10が描かれている。回折格子部2は高屈折率凸部2a及び低屈折率部2bを含み、図16Aの例においては、低屈折率部2bは空気である。しかし、図16Aに示すように、低屈折率部2bのうち1つに水分51が浸入している。この場合、水分51に接する高屈折率凸部2aに働く応力σは、下記式(1)により表される。
式(1) σ=(6γcosθ/D)×(H/W)
(上記式(1)中、σは応力を、γは表面張力を、θは接触角を、Dはラインパターンの間隔を、Hは高屈折率凸部の高さを、Wは高屈折率凸部の幅を、それぞれ示す。)
この応力σが一定値を超えると、高屈折率凸部2aが応力方向に倒れ込むことにより、隣り合う高屈折率凸部2a同士が接触し、スティッキングが生じる(図16B)。水分51が蒸発すると応力σが消失するため、スティッキングが解消され、接触していた高屈折率凸部2aが離れる場合もあるが、特に湿熱条件下では高屈折率凸部2aが融着し合うことにより、スティッキングが解消されない場合もある。
スティッキングを防ぐ為には、高屈折率凸部を形成する材料が、応力σに耐え得るほど硬いことが求められる。
図15~図16Bに示したように、高屈折率凸部は、稜線状に延びる部分(面方向に細長く線状に伸びる部分)を有しており、高屈折率凸部の稜線状に延びる部分の少なくとも一部が、高屈折率凸部の高さよりも狭い幅を有する低屈折率部により隔てられ、平行又は略平行に隣接しあっている場合には、特にスティッキングが生じやすい。
回折光学素子やこれを含む製品の製造工程においては、湿熱条件下にて組み立てが実施される場合がある。また、完成後の回折光学素子についても、湿熱条件下に置かれた場合、回折格子部の一部で生じたスティッキングが連鎖して全体に拡大する結果、微細パターンが維持できなくなるおそれもある(図15参照)。このように、スティッキングの回避は、所望の微細パターンを形成し、かつ維持するために特に重要である。
しかし、高屈折率凸部が単に硬いだけでは、離型時にパターンもげが発生する。ここでいう「パターンもげ」とは、回折格子部中の微細パターンを形成する全部又は一部の高屈折率凸部について、その一部が折れて取れるか、又はその全部が根元から抜けることを意味する。
図17は、回折光学素子の離型時にパターンもげが生じた様子を示す断面模式図である。このようなパターンもげは、例えば、電子線リソグラフィで作成した金型を用いて、樹脂で賦型(インプリント)することにより回折光学素子を複製する場合にみられるものである。
基材101上の凸状の樹脂硬化物102を金型103から引き離す際、樹脂硬化物102が硬すぎる場合には、樹脂硬化物102が金型103の中で破断することがある。これは、離型時において樹脂硬化物102がある程度変形する必要があるが、樹脂硬化物102が硬すぎる場合にはその自由な変形が望めず、離型に必要な荷重が大きくなる結果、過大な荷重が特に集中する部分において破断が生じるためと考えられる。樹脂硬化物102が破断すると、図示するように所望の高さを有する高屈折率凸部が得られない。
このようなパターンもげの問題は、成形した回折光学素子上の樹脂硬化物に限られない。例えば、回折光学素子の成形に樹脂型を用いる場合、その樹脂型上の凸部についても、同様にパターンもげの問題がある。
一方、樹脂硬化物102が変形しやすい場合には、離型しやすい反面、離型時の伸び縮みに耐え切れず樹脂硬化物102がスティッキングすることも考えられる。
このように、高屈折率凸部が硬すぎても柔らかすぎても、所望の微細パターンは得られない。本発明者らによる検討の結果、高屈折率凸部がアクリル系樹脂組成物の硬化物で形成され、かつ当該硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下である場合に、湿熱条件下におけるスティッキングを防止でき、かつ離型時のパターンもげを抑えられることが明らかとなった。
前記硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が0.90×10Pa未満の場合には、湿熱条件下でのスティッキングが避けられず、回折格子部の微細パターンを維持することができない。また、このように湿熱条件下での貯蔵弾性率(E’)が低すぎる場合には、離型時に当該硬化物が変形し過ぎる結果、スティッキングが生じる。
一方、前記貯蔵弾性率(E’)が2.6×10Paを超える場合には、前記硬化物が柔軟性に欠けるため、離型時に破断する結果、パターンもげが生じる。
湿熱条件下でのスティッキングを防止でき、前記硬化物の折れや破断も抑えられ、且つ離型性に優れ、離型時の変形も抑制される点から、前記硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)は、好適には1.0×10Pa以上2.5×10Pa以下であり、より好適には1.1×10Pa以上2.3×10Pa以下であり、更に好適には1.2×10Pa以上2.0×10Pa以下である。
上記特許文献1においては、25℃における貯蔵弾性率(E’)が所定の値である硬化物を用いることが記載されている。本開示における湿熱条件下での貯蔵弾性率(E’)は、25℃における貯蔵弾性率(E’)とは全く異なる物性である。また、上記特許文献1の課題は、単に耐久性に優れる回折光学素子を得ることであるのに対し、本開示の課題は、湿熱条件下における耐スティッキング性を有し、かつパターンもげの少ない回折光学素子を得ることであり、課題の面でも異なる。
貯蔵弾性率(E’)は、測定物の形状や大きさには依存しない物性である。本開示においては、回折光学素子から切り出したテストピースで測定されるか、又は、アクリル系樹脂組成物を別途重合させて得られたテストピースで測定される。
本開示において貯蔵弾性率(E’)は、JISK7244に準拠して、以下の方法により測定される。まず、測定用のテストピースを調製する。テストピースは、回折光学素子の回折格子部から適切な寸法に切り出すことにより得られる。または、アクリル系樹脂組成物に対し、積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を照射することによって十分に硬化させることにより、適切な寸法の単膜が得られ、これをテストピースとすることもできる。
次に、測定温度60℃及び相対湿度95%の条件、かつ実施例中の表Aに示す測定条件等に基づき動的粘弾性を測定することにより、60℃、相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が求められる。または、測定温度30℃及び相対湿度30%の条件、かつ実施例中の表Aに示す測定条件等に基づき動的粘弾性を測定することにより、30℃、相対湿度30%における貯蔵弾性率(E’)が求められる。測定装置としては、例えば、UBM製Rheogel E4000を用いることができる。
あるいは、テストピース表面に圧子を押し込んで、テストピース表面の貯蔵弾性率(E’)を求めることができる。測定装置としては、例えば、Hysitron社製TI950 TRIBOINDENTERなどのAFM(Atomic Force Microscope)ナノインデンターが使用可能である。
AFMナノインデンターによる測定は、回折光学素子表面の表面機械強度を直接測定できるという利点がある。ただし、この測定においては、測定値のばらつきを防ぐため、高屈折率凸部の中央付近に圧子を押し込んで測定することが好ましい。仮に回折光学素子表面の凹部を測定場所に選んだ場合、AFMナノインデンターにおいて通常使用されるバーコビッチ(Berkovich)圧子の幅では、当該凹部の底まで入り込めないことが多いため、当該凹部の底の表面機械強度は測定し難い。また、高屈折率凸部の周縁部分は、圧子の押し込みにより高屈折率凸部が折れ曲がることが予想され、表面機械強度の正確な測定値が取得し難い。このように、材料特性以外の影響により高屈折率凸部の中央付近以外では正確な値を安定して得ることが難しいため、高屈折率凸部の中央付近を測定場所に選ぶことが好ましい。
AFMナノインデンターを使用する場合の測定の概要は以下の通りである。まず、測定サンプルをステージ上にセットし、CCDカメラにより測定位置を確認する。次に、適宜キャリブレーションを取ったのち、バーコビッチ圧子の下にサンプルを移動させて、ダイナミック・フォース・モード(DFMモード)により回折光学素子表面のAFM像を取得する。得られたAFM像から高屈折率凸部を特定し、当該高屈折率凸部の中央付近を数か所選び、測定場所とする。この測定場所においてAFMのコンタクト・モードにより測定を行う。測定条件の例を以下に示す。荷重除荷時間において得られる変位と荷重との関係に基づき、インデンテーション硬さHITを求めることができる。このインデンテーション硬さHITから、目的とする貯蔵弾性率(E’)が求められる。
<測定条件>
・制御方式 変位制御
・測定深さ 50nm
・荷重印加時間 10秒間
・保持時間 5秒間
・荷重除荷時間 10秒間
・圧子 バーコビッチ圧子
・測定温度 30℃
・相対温度 30%
しかし、実際には、回折光学素子の回折格子部から、上記のような比較的大きな面積のテストピースを得ることは難しい。そこで、アクリル系樹脂組成物単膜のテストピースを用いて貯蔵弾性率(E’)を求める方法が現実的である。
回折光学素子上の高屈折率凸部に隣接した基部の貯蔵弾性率が、アクリル系樹脂組成物を硬化させて得られたテストピースの貯蔵弾性率と同程度の値であるため、アクリル系樹脂組成物を硬化させて得られたテストピースの貯蔵弾性率(E’)は、回折光学素子上の高屈折率凸部の貯蔵弾性率(E’)と変わらない。
アクリル系樹脂組成物の硬化物の30℃かつ相対湿度30%における貯蔵弾性率(E’)は、1×10Pa以上5×10Pa以下であってもよい。
常温常湿条件下において上記貯蔵弾性率(1×10Pa以上5×10Pa以下)を有する硬化物を用いることにより、当該条件下において回折光学素子に必要な物性を満たすことができる。このような硬化物の中から、さらに上述した湿熱条件下における貯蔵弾性率の条件(0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下)に適合するものを選ぶことによって、湿熱条件下における耐スティッキング性を有し、かつパターンもげの少ない回折光学素子が得られる。
本開示においては、相対湿度95%という高湿度条件下における貯蔵弾性率(E’)を特定している点も重要である。高湿度条件は、回折光学素子の回折格子部に過剰な水分をもたらすため、スティッキングの要因になると考えられる(上記図16A及び図16B)。さらに、60℃という高温条件は、回折格子部への水分供給を促すため、スティッキングを促進させる要因になると考えられる。したがって、60℃かつ相対湿度95%という湿熱条件下における貯蔵弾性率(E’)は、耐スティッキング性を検討する上で重要である。
他の技術分野、例えば、半導体の技術分野においては、水分によって半導体表面の溝にスティッキングが生じることが知られている。しかし、半導体の場合には材料が変更できないため、半導体表面の溝から水分を予め除去することにより、スティッキングを防ぐという対策が取られている。ここで、水分の除去方法としては、イソプロパノール等の揮発しやすい有機溶媒を半導体表面に塗布し、溝中の水分の表面張力を変えることによって、水分の除去を容易にする方法が知られている。
これに対し、本開示の回折光学素子の場合には、回折格子部を構成する材料(アクリル系樹脂組成物の硬化物)の調整が可能である。したがって、60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下となるように、アクリル系樹脂組成物の組成を調節することによって、耐スティッキング性を有する最適な回折光学素子を得ることができる。
回折格子部表面において、水の接触角が好適には90度以上、より好適には100度以上、さらに好適には110度以上であることが好ましい。アクリル系樹脂組成物の硬化物の表面が上記のような撥水性を有することにより、回折格子部表面に水が付着しにくくなり、スティッキングが生じにくくなるためである。
水の接触角の測定方法は次の通りである。回折光学素子の回折格子部表面を上にして、2.0μLの水滴を滴下し、着滴0.5秒後の接触角を計測する。測定装置は、例えば、協和界面科学社製 接触角計DM 500を用いることができる。
回折格子部を形成する硬化物の原料となったアクリル系樹脂組成物の組成が判明している場合には、その組成を有するアクリル系樹脂組成物の硬化物を用いて、水の接触角を測定してもよい。
まず、透明基材上に当該アクリル系樹脂組成物を塗布して、積算光量が1,000mJ/cmになるように当該アクリル系樹脂組成物に対し紫外線を照射することにより硬化させて、塗膜を形成する。当該塗膜側を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に水平に貼り付ける。次いで、塗膜に対して2.0μLの水滴を滴下し、着滴0.5秒後の接触角を計測する。測定装置は上記同様とする。
耐スティッキング性に対応する物性としては、後述する実施例の「5.アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)測定」において回折格子部の形成に使用されるアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度Tg(℃)が挙げられる。
耐スティッキング性を有するという観点から、前記ガラス転移温度Tgは、45℃以上80℃以下であってもよく、48℃以上79℃以下であってもよい。
ただし、本開示において前記ガラス転移温度Tgは、副次的な指標である。本開示においては、60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、耐スティッキング性の効果及びパターンもげ防止の効果を奏するための最も重要なパラメータである。この貯蔵弾性率(E’)によってこれら2つの効果の有無が判定し難い様な場合、前記ガラス転移温度Tgや、後述するアクリル系樹脂組成物の硬化物の復元率を指標として、これら2つの効果の有無を判定する。
湿熱条件下における耐スティッキング性を有し、かつパターンもげの少ない回折光学素子を得やすいという理由から、前記アクリル系樹脂組成物は、ウレタン結合を含むものであることが好ましい。また、同様の理由から、前記アクリル系樹脂組成物は、4官能以上の(メタ)アクリレートと、2官能の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であることが好ましい。
これらの中でも、4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートは、得られる硬化物の湿熱条件下における貯蔵弾性率(E’)を高める傾向があり、2官能ウレタン(メタ)アクリレートは、得られる硬化物の湿熱条件下における貯蔵弾性率(E’)を下げる傾向がある。したがって、得られる硬化物の湿熱条件下における貯蔵弾性率(E’)を所望の値に調節できるため、湿熱条件下における耐スティッキング性を有し、かつパターンもげの少ない回折光学素子がより得られやすいという点で、前記アクリル系樹脂組成物は、4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートと、2官能のウレタン(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であることがより好ましい。
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、水分に弱い材料、又は水を吸って膨潤しやすい材料を可能な限り含まない方が好ましい。なぜなら、このような材料を多く含む場合、得られる回折光学素子の耐スティッキング性が低下するおそれがあるためである。
水分に弱い材料としては、例えば、水と反応することにより分解する公知の材料が挙げられる。また、水を吸って膨潤しやすい材料としては、例えば親水性の高い材料が挙げられ、より具体的には、ビニルピロリドン、アクリル酸アンモニウム、カルボキシエチルアクリレート等が挙げられる。
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体を100質量%としたとき、水分に弱い材料、及び水を吸って膨潤しやすい材料の総含有割合は、好適には10質量%以下であり、より好適には5質量%以下であり、さらに好適には1質量%以下であり、特に好適には0質量%である。
以下、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
4官能以上の(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を1分子中に4個以上有する多官能アクリレートを意味する。4官能以上の(メタ)アクリレートには、モノマー及びポリマーの両方が含まれる。
4官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、オリゴエステルテトラ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールポリアクリレート;並びに、これらのエチレンオキサイド変性化合物、プロピレンオキサイド変性化合物、及びε-カプロラクトン変性化合物等が挙げられる。特に、エチレンオキサイド変性化合物、プロピレンオキサイド変性化合物、及びε-カプロラクトン変性化合物について、変性数n≦6であることが好ましい。なぜなら、変性数n>6の場合には、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物が柔らかくなりすぎる傾向にあり、スティッキングが生じやすくなるおそれがあるためである。これらの4官能以上の(メタ)アクリレートは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
4官能以上の(メタ)アクリレートの含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全硬化性成分に対して、40質量%以上80質量%以下であることが好ましく、55質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。
化学結合による架橋密度を高め、網目構造を密にすることにより、得られる回折光学素子の形状保持性と耐熱性を高める点から、4官能以上の(メタ)アクリレートは、4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。この場合のウレタン結合の位置や個数、(メタ)アクリロイル基が分子末端にあるか否か等は特に限定はない。分子中に(メタ)アクリロイル基を6個以上有する化合物が特に好ましく、10個以上有する化合物が更に好ましい。また、分子中の(メタ)アクリロイル基の個数の上限は特に限定はないが、15個以下が特に好ましい。ウレタン(メタ)アクリレート分子中の(メタ)アクリロイル基の数が少なすぎると、得られる硬化物の硬化性が低下し、貯蔵弾性率が小さくなる場合がある。一方、ウレタン(メタ)アクリレート分子中の(メタ)アクリロイル基の数が多すぎると、重合による(メタ)アクリロイル基の炭素間二重結合消費率、すなわち反応率が十分に上がらない場合がある。
4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートの構造は特に限定はないが、湿熱条件下における耐スティッキング性に優れ、かつパターンもげがより少ないという点から、多価イソシアネート化合物(a)のイソシアネート基と、分子中に1個の水酸基と2個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物(b)の水酸基とがウレタン結合した化合物であることが好ましい。
ここで、多価イソシアネート化合物(a)中のイソシアネート基は、そのほぼ全てが、前記化合物(b)中の水酸基とウレタン結合を形成することが好ましい。
この場合の多価イソシアネート化合物(a)としては特に限定はなく、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられる。分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、分子中に3個のイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等を変性してなるトリメチロールプロパン付加アダクト体、ビューレット体、イソシアヌレート体等が挙げられる。このうち、本開示には、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が特に好ましい。
分子中に1個の水酸基と2個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物(b)としては、特に限定はないが、分子中に3個以上(p個とする)の水酸基を有する化合物(b-1)の水酸基に、(メタ)アクリル酸が(p-1)個反応した化合物;グリシジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸が開環反応した化合物等が挙げられる。
ここで、「分子中に1個の水酸基と2個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物(b)」には、該化合物が2種以上の化合物を部分的に反応させて製造される場合に、分子中に2個以上の水酸基を有する化合物が混入する場合や、(メタ)アクリル基1個を有する化合物が混入する場合をも含むものとする。
化合物(b)のうち、「分子中にp個(pは3以上の整数)の水酸基を有する化合物(b-1)に、(メタ)アクリル酸が(p-1)個反応した化合物」における、「分子中に3個以上の水酸基を有する化合物(b-1)」としては特に限定はないが、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、テトラメチロールエタン、ジグリセリン、ジトリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ジテトラメチロールエタン;これらのエチレンオキサイド変性化合物;これらのプロピレンオキサイド変性化合物;イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性化合物、プロピレンオキサイド変性化合物、ε-カプロラクトン変性化合物;オリゴエステル等が挙げられる。
化合物(b-1)における水酸基の数は、得られるウレタン(メタ)アクリレート中の官能基の数を多くできる点で、4個以上が特に好ましく、6個以上が更に好ましい。具体的には例えば、ジグリセリン、ジトリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ジテトラメチロールエタン等が特に好ましい。
ジグリセリンを例にとると、ジグリセリンの4個の水酸基のうちの3個の水酸基に(メタ)アクリル酸が反応することによって、分子中に1個の水酸基と2個以上の(この場合は3個の)(メタ)アクリル基を有する化合物(b)が合成される。更に、多価イソシアネート化合物(a)が、イソホロンジイソシアネートである場合を例にとると、イソホロンジイソシアネートの2個のイソシアネート基に、上記水酸基を1個と2個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物(b)が2個反応し、「4官能以上のウレタン(メタ)アクリレート」が合成される。このとき、分子中に1個の水酸基と3個の(メタ)アクリル基を有する化合物(b)がイソホロンジイソシアネートに反応すれば、結果として、分子中に(メタ)アクリル基を6個有する「4官能以上のウレタン(メタ)アクリレート」が合成される。
2官能の(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個有する多官能アクリレートを意味する。
2官能の(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等の直鎖アルカンジオールジ(メタ)アクリレート;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(ポリエチレングリコール#200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#300ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#400ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#600ジ(メタ)アクリレート等)、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール#400ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール#700ジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;
ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノベンゾエート等の3価以上のアルコールの部分(メタ)アクリル酸エステル;
ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、EO変性テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等のビスフェノール系ジ(メタ)アクリレート;
ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールPO変性ジ(メタ)アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルのカプロラクトン付加物ジ(メタ)アクリレート;1,6-ヘキサンジオールビス(2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル)エーテル;トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレート;プロピレンジ(メタ)アクリレート;フタル酸ジ(メタ)アクリレート;トリシクロデカンメタノールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの2官能の(メタ)アクリレートは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
2官能(メタ)アクリレートの含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全硬化性成分に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物が適度な硬さを有する点から、前記2官能の(メタ)アクリレートの分子量(Mw)は、好適には100以上5,000以下であり、より好適には100以上4,000以下、更に好適には100以上2,000以下である。前記2官能の(メタ)アクリレートの分子量(Mw)が100以上の場合には、前記硬化物が適度な柔軟性を有する結果、得られる回折光学素子の耐スティッキング性がより良好となる。また、前記2官能の(メタ)アクリレートの分子量(Mw)が5,000以下の場合には、前記硬化物が適度な硬さを維持できる結果、得られる回折光学素子においてパターンもげが生じ難い。
2官能の(メタ)アクリレートは、2官能のウレタン(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。2官能のウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全硬化性成分に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
2官能の(メタ)アクリレートは、2官能のウレタン(メタ)アクリレート以外の2官能の(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。2官能のウレタン(メタ)アクリレート以外の2官能の(メタ)アクリレートの含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全硬化性成分に対して、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。
2官能のウレタン(メタ)アクリレートは、分子の両末端にそれぞれ1個ずつの(メタ)アクリル基を有する2官能のウレタン(メタ)アクリレートであることが好ましい。
かかる2官能のウレタン(メタ)アクリレートの化学構造には特に限定はなく、その重量平均分子量は、1,000以上30,000以下であることが好ましく、2,000以上5,000以下であることが特に好ましい。分子量が小さすぎると、柔軟性が低下する場合があり、分子量が大きすぎると、貯蔵弾性率の低下をまねく場合がある。
かかる2官能ウレタン(メタ)アクリレートとしては特に限定はないが、以下のものが特に好ましい。すなわち、両末端が水酸基、アミノ基等のポリマー若しくはオリゴマー(c)の両末端に、ジイソシアネート化合物(d)を反応させ、得られた「両末端にイソシアネート基を有するポリマー若しくはオリゴマー」に、更に、分子中に水酸基と(メタ)アクリル基を有する化合物(e)を、その両末端に反応させたものが特に好ましい。
両末端が水酸基のポリマー若しくはオリゴマー(c)としては特に限定はないが、例えば、エステルオリゴマー、エステルポリマー、ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。このうち、特に好ましくは、エステルオリゴマーやエステルポリマーが挙げられる。かかるオリゴマーやポリマーの分子量は特に限定はないが、重量平均分子量として、1,000~5,000の範囲が硬化性の点で好ましく、2,000~3,000が特に好ましい。
上記エステルのジオール成分としては特に限定はないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2,2’-チオジエタノール等が挙げられる。特に好ましくは、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等である。
上記エステルのジカルボン酸成分としては特に限定はないが、蓚酸、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸等のアルキレンジカルボン酸;テレフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。特に好ましくは、アジピン酸、テレフタル酸等である。
かかるポリマー又はオリゴマーの両末端に反応させるジイソシアネート化合物(d)としては、特に限定はなく、上記の多価イソシアネート化合物(a)の項目で記載したうちのジイソシアネート化合物と同様のものが使用できる。特に好ましくは、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
更に、上記で得られた両末端にイソシアネート基を有するポリマー若しくはオリゴマーの両末端に反応させる、「分子中に水酸基と(メタ)アクリル基を有する化合物(e)」としては特に限定はないが、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、4官能以上の(メタ)アクリレート、2官能の(メタ)アクリレート以外にも、単官能の(メタ)アクリレート、及び/又は3官能の(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。単官能の(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を1分子中に1個有するアクリレートを意味する。3官能の(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を1分子中に3個有する多官能アクリレートを意味する。
しかし、単官能の(メタ)アクリレート及び3官能の(メタ)アクリレートの含有量は、少なければ少ないほどよい。具体的には、単官能の(メタ)アクリレート及び3官能の(メタ)アクリレートの総含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全硬化性成分に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることがさらに好ましい。
単官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェノキシエチルアクリレート、トリメチルシクロヘキサノールアクリレート、イソボルニルアクリレート、フェニルフェノールアクリレート、ノニルフェノールアクリレート等が挙げられる。
3官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリセリンPO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ε-カプロラクトン変性トリ(メタ)アクリレート、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-s-トリアジン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートトリプロピオネート等が挙げられる。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物中の硬化性成分は、その分子量の大小に依存する架橋密度が、湿熱条件下における貯蔵弾性率を決定する一因となる場合がある。
アクリル系樹脂組成物は、必要に応じて1種類または2種類以上の光重合開始剤を含有してもよい。当該光重合開始剤の含有量は、通常、アクリル系樹脂組成物の全固形分に対して0.2~15質量%であり、0.3~13質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることが更に好ましい。
光重合開始剤としては特に限定はないが、ラジカル重合に対して従来用いられている公知のもの、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アルキルアミノベンゾフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルアセタール類、ベンゾイルベンゾエート類、α-アシロキシムエステル類等のアリールケトン系光重合開始剤;スルフィド類、チオキサントン類などの含硫黄系光重合開始剤;アシルジアリールホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド類;アントラキノン類等が挙げられる。また、光増感剤を併用させることもできる。
アクリル系樹脂組成物は、離型剤(離型性を有する材料)を含有することが好ましい。離型剤は、アクリル系樹脂組成物の硬化物の離型性を向上させることにより、当該硬化物のパターンもげを抑えることができる。それと共に、離型剤の種類を適切に選択することによって、前記硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)を0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下の範囲に調整することができ、当該硬化物に耐スティッキング性を付与することもできる。すなわち、離型剤は、前記硬化物におけるパターンもげの抑制とスティッキング防止の両面において、より良い効果をもたらす。
また、アクリル系樹脂組成物の硬化物を形成する段階においては、離型剤の添加により、離型時における樹脂詰まりによる金型寿命の低下を防ぐことができる。
離型剤は、回折光学素子の製造に通常用いられるものであれば、特に限定されない。離型剤は、必要に応じてシリコーン系、フッ素系、リン酸系などの公知の離型剤から適宜選定して使用することができる。またこれら離型剤はアクリル系樹脂組成物の架橋構造に固定されるものや遊離した状態で存在するものを用途に応じて選定できる。
中でも、離型剤としては、非反応性シリコーン、反応性シリコーン、リン酸系離型剤を使用することが好ましく、これらの中では非反応性シリコーンがより好ましい。
非反応性シリコーンとしては、KF-352A、KF-354L、KF-4003、KF-412、KF-413、KF-414、KF-415、KF-4701、KF-4917、KF-53、KF-54、KF-6004、KF-643、KF-7235B、X-22-1877、X-22-2516、X-22-7322、PC-88A(以上商品名、信越シリコーン社製)、TEGO Glide 100、TEGO Glide 410、TEGO Glide 432、TEGO Glide 435、TEGO Glide 440、TEGO Glide 450、TEGO Glide ZG400(以上商品名、エボニックジャパン社製)等が挙げられる。
反応性シリコーンとしては、KF-2012、KF-393、KF-684、KF-8002、KF-8004、KF-8005、KF-8021、KF-860、KF-861、KF-865、KF-867、KF-868、KF-869、KF-869、KF-877、KF-880、KF-889、KF-99、KF-9901、X-22-170、X-22-173、X-22-174、X-22-176、X-22-2404、X-22-2426、X-22-3939A(以上商品名、信越シリコーン社製)、TEGO Rad 2010、TEGO Rad 2011、TEGO Rad 2100、TEGO Rad 2200N、TEGO Rad 2250、TEGO Rad 2300、TEGO Rad 2500、TEGO Rad 2650、TEGO Rad 2700、TEGO Rad 2800(以上商品名、エボニックジャパン社製)等が挙げられる。
アクリル系樹脂組成物は、少なくとも上記活性エネルギー線硬化性成分を含有していればよく、必要に応じて、更に他の成分を含有してもよい。
他の成分としては、帯電防止剤や、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤などを複数添加することができる。帯電防止剤は加工プロセスや使用時のほこり付着防止に有効であり、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤は耐久性向上に有効である。光を吸収する材料を添加する場合は、回折光学素子の対象波長に影響を与えないよう配慮が必要である。耐熱性を改善させる目的でシルセスキオキサン等の無機材料との複合化なども有効である。
また、アクリル系樹脂組成物は環境への配慮から溶剤を実質的に含有しないことが好ましいが、基材への密着や粘度調整、面質改善などを考慮して溶剤を含有するものであってもよい。溶剤を含有する場合は基材ないし金型に樹脂を塗布後、溶剤を乾燥させた後に賦型する。
さらに、アクリル系樹脂組成物は、アクリル樹脂以外の樹脂を含有していてもよい。アクリル系樹脂組成物は、例えば、アクリル樹脂以外のエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物、具体的には、トリエチレングリコールジビニルエーテル、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等のビニル系化合物等を含有していてもよい。
本開示の回折光学素子は、優れたリフロー耐性を有することが好ましい。ここで、「優れたリフロー耐性」とは、加熱(例えば、260℃、1.5分間)前後の質量変化率が2%以下、かつ当該加熱前後の透過率変動が1%以下であることを意味する。
後述する「2.回折光学素子の製造方法」の「(5)その他の工程」において示すように、回折光学素子を用いて照明装置を製造する場合には、回折光学素子を含む仮組み立て体をリフロー炉に入れ、高温条件下で加熱する工程(リフロー工程)が実施されることがある。このリフロー工程により、例えばハンダ等により、光源やそれを囲む枠体を実装基板に電気的に接続することができ、照明装置を効率よく製造することができる。
しかし、リフロー工程においては、照明装置を構成する材料に対し瞬間的に200℃以上の高い温度が付与されるため、当該材料が溶解したり、昇華したりするおそれがある。特に、回折格子部中の高屈折率凸部は微細構造を形作っているため、当該高屈折率凸部を構成するアクリル系樹脂組成物の硬化物が溶解しやすかったり、昇華しやすかったりする場合には、当該高屈折率凸部の形状が変形する結果、回折光学素子において透過率変動が生じるおそれがある。また、たとえ当該高屈折率凸部の形状が維持されたとしても、アクリル系樹脂組成物の硬化物が分解する場合には、当該高屈折率凸部の質量が減るおそれもある。
したがって、本開示の回折光学素子は、優れたリフロー耐性を有することが好ましい。優れたリフロー耐性を有する回折光学素子は、リフロー工程において高屈折率凸部の形状が損なわれにくいため、賦形性に優れるとも言える。
優れたリフロー耐性を有する回折光学素子としては、例えば、4官能以上の(メタ)アクリレートを含むアクリル系樹脂組成物の硬化物が、高屈折率凸部の形成に使用されている回折光学素子が挙げられる。
質量変化率及び透過率変動の算出方法は、以下の通りである。
(回折光学素子の質量変化率の算出方法)
リフロー前、及びリフロー後における回折光学素子の質量を測定し、下記式Iから質量変化率aを算出する。
式I a={(M-M)/M}×100
(上記式I中、aは質量変化率(%)、Mはリフロー前の回折光学素子の質量(mg)、Mはリフロー後の回折光学素子の質量(mg)をそれぞれ示す。)
(回折光学素子の透過率変動の算出方法)
リフロー前、及びリフロー後における回折光学素子の透過率(%)を測定する。透過率は、紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR)分光光度計(例えば、島津製作所社製、UV-3150)等を用いて測定する。この装置より、850nmの波長の回折光学素子の透明基材及び回折格子部の透過率を測定する。
リフロー前における回折光学素子の透過率と、リフロー後における回折光学素子の透過率との差の絶対値を、その回折光学素子の透過率変動(%)とする。
高屈折率凸部を構成するアクリル系樹脂組成物の硬化物の屈折率は、特に限定されないが、1.4~2.0であることが好ましく、1.45~1.8であることがより好ましい。本開示によれば、アスペクト比が2以上の形状を安定して形成することができ、酸化ケイ素などと比較して屈折率の低い樹脂であっても良好な回折光学素子を得ることができる。
また、本開示において、高屈折率凸部を構成する樹脂組成物の硬化物の透過率は、特に限定されないが、赤外線透過率(波長850nm)が90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。
スティッキングを抑制する点から、アクリル系樹脂組成物の硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の比(tanδ(=E”/E’))は、好適には0.12以下であり、より好適には0.11以下であり、さらに好適には0.10以下である。湿熱条件下における前記比(tanδ(=E”/E’))が0.12以下であることにより、アクリル系樹脂組成物の硬化物において粘性の寄与よりも弾性の寄与の方が高くなり、当該硬化物が弾性体としての性質をより強く示すため、回折光学素子が湿熱条件下において優れた耐スティッキング性を有する。
なお、アクリル系樹脂組成物の硬化物の60℃かつ相対湿度95%における損失弾性率(E”)は、貯蔵弾性率(E’)と同様の方法により測定することができる。
アクリル系樹脂組成物の硬化物の復元率が、60%以上であることが好ましい。このような復元率を有する硬化物は、より優れた耐スティッキング性を有するためである。
前記復元率が60%以上となるという点から、アクリル系樹脂組成物中のアクリル系樹脂は、ウレタン結合を含むことが好ましく、4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートを含むことがより好ましい。
復元率の測定条件は以下の通りである。
復元率の測定に供するアクリル系樹脂組成物の硬化物としては、回折光学素子から切り出したテストピースを用いてもよいし、アクリル系樹脂組成物を別途重合させて得られたテストピースを用いてもよい。これらテストピースの調製方法は、上述した通りである。
JIS Z2244(2003)に準拠し、下記測定条件下にてビッカース硬さ試験を実施する。具体的には、テストピース表面に、下記測定条件で圧子を押し込んで、テストピース表面の復元率(%)を測定する。測定装置には、例えば、フィッシャーインストルメンツ社製PICODENTER HM-500を使用することができる。
<測定条件>
・最大荷重 0.2mN
・荷重速度 0.2mN/10秒
・保持時間 5秒間
・荷重除荷速度 0.2mN/10秒
・圧子 ビッカース圧子
・測定温度 25℃
(2)回折光学素子の構造
図1は、本開示の回折光学素子の一実施形態を模式的に示す平面図である。図2は、図1の回折光学素子の一実施形態を模式的に示す斜視図である。図3は、図2のA-A’切断面の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように本開示の回折光学素子10は、透明基材1の一面側に回折格子部2を備える。回折格子部2は、透明基材1の表面から突出する一つ以上の高屈折率凸部2aと、一つ以上の低屈折率部2bとが配置されてなる。図3に示すように、高屈折率凸部2aと低屈折率部2bとをそれぞれ二つ以上用いる場合には、これらが周期的に交互に現れるよう配置される。
回折格子部2は透明基材1の一方の面側に設けられていてもよく、透明基材1の両面側に設けられていてもよい。
本開示の回折光学素子は、通常、異なる周期構造を持つ複数の領域(例えば図1の2A~2D領域)を有している。なお、図1の例では部分周期構造2A~2D領域は凹凸の2値(2-level)(例えば図3の回折格子部2等)であるが、光を所望に整形するために領域の形状や深さは適宜設計する必要がある。
図4~図7Bは、本開示の回折光学素子に関する他の実施形態を模式的に示す断面図である。
図4は、透明基材1と回折格子部2との間に基部3が存在する実施形態を示す。高屈折率凸部2aを二つ以上用いる場合には、高屈折率凸部2aは互いに孤立したものであってもよいし(図3)、高屈折率凸部2a同士が基部3を介して連結していてもよい(図4)。後述するように金型を用いて高屈折率凸部2aを形成する際には、図4に示すように、実際には、厚みのごく薄い基部3が透明基材1上に形成される場合があるため、回折光学素子10は、このような基部3を備えていてもよい。
図5A及び図5Bは、回折格子部2を挟んで透明基材1の反対側に被覆層5を備える実施形態を示す。被覆層5は、回折格子部2と直に接していてもよいし、粘着層(接着層)を介して回折格子部2上に設けられていてもよい。なお、図3に示す実施形態に被覆層5を加えたものが図5Aに示す実施形態に相当し、図4に示す実施形態に被覆層5を加えたものが図5Bに示す実施形態に相当する。
図6A及び図6Bは、低屈折率部3に低屈折率樹脂7が充填された実施形態を示す。屈折率差を大きくする点からは、低屈折率部が空気であることが好ましい。一方、機械強度に優れる回折光学素子が得られるという点からは、低屈折率部3が低屈折率樹脂7からなることが好ましい。なお、図3に示す実施形態に低屈折率樹脂7を添加したものが図6Aに示す実施形態に相当し、図4に示す実施形態に低屈折率樹脂7を添加したものが図6Bに示す実施形態に相当する。
図7A及び図7Bは、透明基材1を挟んで回折格子部2の反対側に反射防止層9を備える実施形態を示す。このように反射防止層9を備えることにより、反射光を抑制して光の利用効率を高めることができる。反射防止層9は透明基材1に直に接して設けられていてもよいし、反射防止層9と透明基材1との間に他の部材(ガラス層や粘着層等)が介在していてもよい。なお、図3に示す実施形態にさらに反射防止層9を加えたものが図7Aに示す実施形態に相当し、図4に示す実施形態にさらに反射防止層9を加えたものが図7Bに示す実施形態に相当する。
前記高屈折率凸部は、「幅に対する高さの比」或いは「突起の細長さ」と概念されるアスペクト比が2以上である部分を有することが好ましい。
アスペクト比が2以上である高屈折率凸部を含む回折光学素子は、従来よりも長波長の赤外線(例えば780nm以上の赤外線)であっても所望の形状の回折光が得られ、且つ、当該回折光において0次光を抑制できる。また後述するように、このようにアスペクト比が比較的大きい回折光学素子は、透過型回折光学素子であることが好ましい。
ただし本開示において高屈折率凸部は、2値形状の場合と多段形状の場合がある。例えば、図8Aは2値形状の高屈折率凸部の断面模式図であり、図8Bは多段形状(4-level)の高屈折率凸部の断面模式図である。なお、高屈折率凸部2aの根元41は、透明基材であってもよく、又は基部であってもよい。
そのため、本開示における高屈折率凸部のアスペクト比は、以下のように定義される。
先ず、高屈折率凸部が2値形状である場合のアスペクト比は、図8Aに示すように、(高屈折率凸部の高さH)/(高屈折率凸部の高さの半分の高さ(H/2)の位置における高屈折率凸部の幅W)と定義される。ここで、高屈折率凸部の高さHとは、高屈折率凸部の頂上から凹部(隣接する他の高屈折率凸部との間にある谷底の位置)までの高低差を意味する。
また、高屈折率凸部が多段形状である場合のアスペクト比は、図8Bに示すように、(高屈折率凸部の高さH)/(高屈折率凸部の最小加工幅Wmin)と定義される。ここで、本開示における高屈折率凸部の最小加工幅Wminとは、図8Bに示すように、図中の高さhに相当する部分、つまり、多段形状の高屈折率凸部の中腹にある平坦部のなかで最も高い位置の平坦部から、当該多段形状の高屈折率凸部の頂上までの部分に注目し、この部分の2分の1高さの位置(h/2)における幅と定義される。別の言い方をすれば、図8Bに示すように、高屈折率凸部の最上段の平坦部(高さ:H)を上端とし、高屈折率凸部の上から2段目の平坦部(高さ:H-h)を下端として、下端から半分の高さ(h/2)における幅が、その高屈折率凸部の最小加工幅Wminである。
したがって、本開示において、2値形状の高屈折率凸部である場合と多段形状の高屈折率凸部である場合の両方を包含する広義の「高屈折率凸部のアスペクト比」とは、当該高屈折率凸部の頂上を上端と定め、当該高屈折率凸部と隣接する他の高屈折率凸部との間にある谷底の位置、又は、高屈折率凸部の頂上から最も近い平坦部の位置のうち高屈折率凸部の頂上から近い方を下端と定めるとき、当該高屈折率凸部の下端から上端に向かって、上端と下端の高低差の半分に当たる高さの位置における当該高屈折率凸部の幅に対する当該高屈折率凸部の高さの比であると定義される。
アスペクト比をこのように定義することで、回折格子部を光学的に緻密に設計でき、かつ高屈折率凸部の金型からの抜けやすさと高屈折率凸部のアスペクト比との相関性を高くすることができる。
高屈折率凸部の高さH、幅W及び最小加工幅Wminは、例えば、回折格子部の断面形状のSEM画像から算出できる。
一般に、回折格子の形状は光の波長、光が透過する材料の屈折率(差)、及び必要とする回折角で決まる。例えば空気中で屈折率1.5の材料を用い、レーザー光を回折光学素子の回折格子部の側の面に垂直入射させる場合、光の波長が長くなるほど最適な回折格子の溝の深さは深くなり、波長850nmの赤外線に対しては850nmの深さが必要となる。即ち本開示の回折光学素子においては、回折格子部の断面形状において、前記高屈折率凸部部は、高さ850nm以上の部分を含むことが好ましく、活性エネルギー線による硬化収縮(例えば10%)を加味すると高さ944nm以上となることがより好ましく、製造誤差(例えば5%)を加味すると高さ994nm程度とすることが好ましい。
また、回折角30°の方向に光を回折させるためには、高屈折率凸部のアスペクト比は1.1程度、70°の方向に回折させるにはアスペクト比は2.1程度あればよい。
しかしこれは光を1方向のみに回折させる場合であり、実際にセンサーの光源として使う場合にはある所定の領域に対して均一に回折光を行き渡らせる必要がある。そのためには種々の回折角度、回折方向を持った領域を複雑に組み合わせる必要があるが、その結果としてピッチがλ/4まで狭くなる領域が含まれてしまう。ここで回折格子の最適深さは光の波長と屈折率、level数で決まるため、ピッチが狭くなることでアスペクト比は2.1以上となり、時には4を越えることもある。例えば、850nmのレーザー光に対し、材質を石英とし、長辺±50°×短辺±3.3°に広がる矩形の拡散形状を2-levelで設計する場合には、回折格子の原版の最適深さは994nm、最も細かい形状のピッチを212nmとした場合、最大アスペクト比は4を越える。
これらの設計は、例えば厳密結合波解析(RCWA)アルゴリズムを用いたGratingMOD(Rsoft社製)や、反復フーリエ変換アルゴリズム(IFTA)を用いたVirtuallab(LightTrans社製)などの各種シミュレーションツールを用いて行うことができる。光源がレーザーでなくLEDの場合には、斜めの入射光を考慮した設計を行えばよい。
波長780nm以上の赤外線を所望の形状に整形することができるという点から、高屈折率凸部は、アスペクト比が2以上である部分を有することが好ましい。
回折格子部の断面形状は、図3~図7Bに示されるような矩形であってもよく、他の形状であってもよい。図9A~図9Dは、回折格子部の断面形状の他の実施形態を示す断面模式図である。なお、高屈折率凸部2aの根元41は、透明基材であってもよく、又は基部であってもよい。
図9A~図9Dに示す例は、いずれも、高屈折率凸部の断面形状が先細り形状となっており、このため、製造時における金型からの離型性に優れている。
高屈折率凸部2aの太さは、その先端から根元にかけて断続的に増加してもよい(図9A)し、その先端から根元にかけて連続的に増加してもよい(図9B)。
また、回折光学素子の回折効率を上げるには、回折格子部の断面形状を、通常の2値(2-level:図3~図7B)から多段形状(4-level(図9C)、8-level(図9D))と増やすのが効果的である。しかし、回折格子部の断面形状の段数を増やしすぎると、金型作成工程が複雑となりコストアップにつながるため、本開示においては、2値~8値の中から適宜選択することが好ましい。
回折格子部の断面形状の段数を増やすほど、溝深さは深くなる。例えば、前記アクリル系樹脂組成物の硬化物の屈折率が1.5である場合、4-levelのときの溝深さは対象波長の1.5倍であり、8-levelのときの溝深さは対象波長の1.75倍である。対象波長が長いほど、必要となる溝深さは深いため加工の難易度も増す。
設計の際に設定される最小加工溝幅は、通常、対象波長の1/4程度である。効率を上げるため、最小加工溝幅をさらに細かくしてもよい。ただし、最小加工溝幅が細かすぎる場合には加工が難しく時間もかかるため、最小加工溝幅は、80~100nm程度とするのが好ましい。
アクリル系樹脂組成物を用いて高屈折率凸部を形成することにより、本開示の回折光学素子がアスペクト比2以上、更にはアスペクト比4以上のものを含む場合であっても、信頼性に優れる。
本開示の回折光学素子において、高屈折率凸部をライン(L)、低屈折率部をスペース(S)としたときのライン&スペース比(L/S)は特に限定されない。ライン&スペース比(L/S)は、下記式(A)より求められる。
式(A) (L/S)=l/(l+s)
(上記式(A)中、(L/S)はライン&スペース比を、lはライン幅(nm)を、sはスペース幅(nm)を、それぞれ示す。)
ライン&スペース比(L/S)は、所望の回折光が得られるように適宜設定すればよいものであるが、例えば、0.1~0.9の範囲で適宜設定することができ、回折効率の点から0.4~0.6の範囲が好ましい。
また、本開示の回折光学素子においては、回折角を大きくしやすい点から、2以上の平坦部を有する多段形状であることが好ましい。
本開示の回折光学素子は、アスペクト比が2以上である場合には、0次光を弱めることができるものであるが、回折角を大きくした場合には、回折光の投影領域から0次光を外しながら所望の形状の回折光を得ることもできる。このことについて図を参照して説明する。図10A及び図10Bは、回折光学素子の説明の用に供する図面である。図11Aは、図10Aに示すスクリーン22の正面図であり、図11Bは、図10Bに示すスクリーン22の正面図である。
図10Aは、照射光21が回折光学素子10により回折され、スクリーン22上の中央に正方形の像24が形成される様子を示した斜視模式図である。図11Aに示されるように、正方形の像24は0次光照射位置27を含んでいるため、像24の中に0次光が含まれている。アスペクト比が2以上である場合には、0次光が抑制されるため、像24の中に0次光が含まれる場合であっても良好な回折光が得られる。
図10Bは、照射光21が回折光学素子10により回折され、スクリーン22上の上部に正方形の像24が形成される様子を示した斜視模式図である。図10Bに示す例においては、1次光26a~26dの回折角が、図10Aに示す例よりも大きく設定されている。したがって、図11Bに示されるように、正方形の像24は0次光照射位置27を含まない。
図10Bに示すように、最大回折角を大きく設定することにより、0次光を含まない回折光が得られる回折光学素子を得ることができる。以上の点から、本開示の回折光学素子においては、回折格子部が、2以上の平坦部を有する多段形状であることが好ましく、更にアスペクト比が3.5以上であることが好ましい。
本開示に用いられる透明基材は、公知の透明基材の中から用途に応じて適宜選択して用いることができる。透明基材に用いられる材料の具体例としては、例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレンやポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルサルホンやポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、アクロニトリル、メタクリロニトリル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の透明樹脂や、ソーダ硝子、カリ硝子、鉛ガラス等の硝子、PLZT等のセラミックス、石英、蛍石等の透明無機材料等が挙げられる。透明基材の複屈折は回折光学素子の効果自体には影響を与えないが、回折光学素子に入射する光、拡散する光の位相差を問題にする場合には適宜、適した複屈折をもつ基材を選定すればよい。
なおここでいう透明とは、目視で向こうが透けて見えるという状態のことをいうが、回折光学素子で設計した対象波長の光を透過することができれば、目視で色がついていても実用上問題はない。また、透明基材側から活性エネルギー線を照射してアクリル系樹脂組成物を硬化させる場合には、透明基材は照射する活性エネルギー線をなるべくカットしないものが好ましい。
前記透明基材の厚みは、本開示の用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、通常5~5,000μmであり、前記透明基材は、ロールの形で供給されるもの、巻き取れるほどには曲がらないが負荷をかけることによって湾曲するもの、完全に曲がらないもののいずれであってもよい。
本開示に用いられる透明基材の構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されてもよい。
また、透明基材にはアクリル系樹脂組成物との密着性を向上させるための表面処理や、プライマー層形成を行ってもよい。表面処理としてはコロナ処理や大気圧プラズマ処理などの一般的な密着改善処理が適用できる。またプライマー層は、透明基材および樹脂組成物との双方に密着性を有し、対象波長の光を透過するものが好ましい。ただし、用途によっては意図的に透明基材と樹脂組成物の間の密着を低く保つことで、賦型後の回折格子部を透明基材から剥がして使用するという使い方も可能である。このような使い方は特に回折光学素子の厚みを薄くしたい場合に有効である。
(3)回折光学素子のその他の構成
また、回折格子部の傷つき等を防止でき、かつ機械強度に優れる点から、本開示の回折光学素子は、透明基材上に、前記回折格子部と、被覆層とを、この順に有する構成であってもよい(図5A及び図5B)。被覆層としては、特に限定されないが、前記透明基材と同様のものを用いることが好ましい。また、回折格子部上に被覆層を設ける場合、回折格子部と被覆層との間に粘着剤(接着剤)層を設けてもよい。粘着層(接着層)用の粘着剤又は接着剤としては、従来公知のものの中から適宜選択すればよく、感圧接着剤(粘着剤)、2液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、熱溶融型接着剤等、いずれの接着形態のもの好適に用いることができるが、低屈折率部が空気の場合には、流動性の低い粘着剤又は接着剤を用いることが好ましい。なお、低屈折率部の一部が粘着剤又は接着剤により埋まる場合には、その分を考慮して回折格子部の設計を行えば良い。なおこのような被覆層を設けることで、回折格子部の凹凸を型にしたリバースエンジニアリングを防止することが可能という副次的な効果も期待できる。
さらに被覆層を形成することで、回折格子部に異物が入り込むことを防止でき、回折光学素子及び照明装置の長期信頼性を向上することが可能である。
また、更に、前記透明基材、又は、前記被覆層の、回折格子部とは反対側の面に、更に反射防止層を設けてもよい(図7A及び図7B)。反射防止層としては、従来公知のものの中から適宜選択すればよく、例えば、低屈折率層又は高屈折率層の単層からなる屈折率層であってもよく、低屈折率層と高屈折率層とを順次積層した多層膜であってもよく、微細凹凸形状が形成された反射防止層であってもよい。反射防止層を設けることにより、回折光学素子の回折効率を向上することが可能である。
また、前記透明基材、前記被覆層、前記粘着層(接着層)は、本開示の効果を損なわない範囲で、従来公知の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤等が挙げられる。
本開示の回折光学素子は、透過型回折光学素子であってもよく、反射型回折光学素子であってもよい。これらのうち、本開示の回折光学素子は、透過型回折光学素子であることが好ましい。透過型回折光学素子は、反射型回折光学素子と比較して、回折格子部における高屈折率凸部のアスペクト比を大きく設定する必要があり、その結果としてスティッキングの問題が生じ易い傾向にある。したがって、上述した湿熱条件下における貯蔵弾性率(E’)の条件を満たす高屈折率凸部を備える透過型回折光学素子は、同様の高屈折率凸部を備える反射型回折光学素子よりも、スティッキング防止の効果が高い。
2.回折光学素子の製造方法
本開示の製造方法は、透明基材の少なくとも一面側に、透明基材の表面から突出する一つ以上の高屈折率凸部と、一つ以上の低屈折率部とを配置した回折格子部を備え、光源からの光を整形する回折光学素子の製造方法であって、
前記高屈折率凸部と前記低屈折率部を形成するためのキャビティ形状を有する金型を準備する工程(以下、金型準備工程という)、
前記金型のキャビティに、アクリル系樹脂組成物であって、当該アクリル系樹脂組成物に対し積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を照射し硬化させて得られる硬化物サンプルの60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下であるアクリル系樹脂組成物を充填する工程(以下、アクリル系樹脂組成物充填工程という)、
前記金型のキャビティ開口部側において、前記透明基材と前記アクリル系樹脂組成物とを接触させ、かつ活性エネルギー線を照射することにより、前記アクリル系樹脂組成物を硬化させる工程(以下、アクリル系樹脂組成物硬化工程という)、及び
前記透明基材から前記金型を引き離すことにより、透明基材上にアクリル系樹脂組成物の硬化物で形成された高屈折率凸部を有する回折格子部を形成する工程(以下、離型工程という)、
を有することを特徴とする。
図12A~図12Eは、回折光学素子の製造方法の一例を模式的に示す工程図である。
まず、図12Aに示されるように、目的とする回折格子部の表面構造に対応するキャビティ形状を有する金型31を準備する(金型準備工程)。
次に、図12B及び図12Cに示されるように、金型のキャビティ31aに、アクリル系樹脂組成物32を充填する(アクリル系樹脂組成物充填工程)。ここで、アクリル系樹脂組成物32は、上記「1.回折光学素子」にて説明したアクリル系樹脂組成物と同様の組成物である。充填方法は特に限定されず、従来公知の方法を適宜選択すればよい。例えば、図12B及び図12Cに示されるように、金型31の表面にアクリル系樹脂組成物32を塗布することにより、アクリル系樹脂組成物32をキャビティ31aに充填してもよい。より具体的な例としては、まず、金型31の表面にアクリル系樹脂組成物32を載置し(図12B)、その上から透明基材33を載置する。次にその上から加圧ローラ34により透明基材33越しにアクリル系樹脂組成物32を金型31表面に均一に延ばして塗布し(図12C)、キャビティ31a内にアクリル系樹脂組成物32を充填する。図12C及び図12Dに示すように、アクリル系樹脂組成物32の一部は金型のキャビティ31aからはみ出していてもよい。アクリル系樹脂組成物32のはみ出た部分が、硬化後に基部となる。また、アクリル系樹脂組成物32の全てが金型のキャビティ31aに充填されてもよい。
続いて、図12Dに示されるように、金型のキャビティ開口部側から、アクリル系樹脂組成物32の塗膜に対し活性エネルギー線を照射して(35)、アクリル系樹脂組成物32を硬化させる(アクリル系樹脂組成物硬化工程)。なお、透明基材とアクリル系樹脂組成物との接触は、アクリル系樹脂組成物の充填と同時期に行ってもよいし、アクリル系樹脂組成物の充填よりも後に行ってもよい。
その後、図12Eに示されるように、得られた硬化物36を金型31から離型することにより、回折光学素子が得られる(離型工程)。
以下、当該製造方法の各工程の詳細について説明する。なお、前記本開示の回折光学素子と同様の説明については省略する。
(1)金型準備工程
回折光学素子製造用金型は、レーザーリソグラフィや電子線リソグラフィ、FIB(Focused Ion Beam)などの技術によって加工することができるが、通常は電子線リソグラフィが好適に用いられる。
材質は高アスペクト比の加工が可能なものであれば使用可能であるが、通常は石英やSiが用いられる。また、これらの金型から樹脂で複製したコピー金型(ソフトモールド)や、Ni電鋳で複製したコピー金型を使用することも可能である。
また必要に応じて、金型表面には離型処理を施すことができる。フッ素系やシリコン系などの離型剤、ダイヤモンドライクカーボン、Niめっきなどが適用可能である。処理手法は蒸着やスパッタ、ALD(Atomic Layer Deposition)などの気相処理、コーティングやディッピング、めっきなどの液相処理などから適宜選択できる。
回折光学素子に必要とされる形状は通常数mm角~数cm角と小さいため、1つの金型内に複数の回折格子部の形状を並べて加工することにより複製の効率を上げることができる。スループットを重視する場合は、上記の金型またはコピー金型を並べて複製し、多面付の金型として賦型に供してもよい。
アクリル系樹脂組成物の硬化時の体積変化が問題になる場合はそれを補正して金型設計を行うこともできる。また離型のしやすさを考慮し、金型の微細構造の奥より開口部側の間口が広くなる構造としてもよい(図9A~図9D)。この場合、得られた回折光学素子の回折格子部は表面側が細くなる形となる。
また、本開示の回折光学素子は、通常、異なる周期構造の領域が複数存在するため、1つの回折光学素子に対しピッチ(間口)が異なる溝が複数含まれることになるが、このような金型を作る場合、ピッチ(間口)に応じてドライエッチングでの深さがバラつく傾向がある。しかしこのようなばらつきは効率の低下につながるため、加工プロセスの最適化を行い、所望する深さの±10%以下に抑えることが重要である。
アスペクト比が2以上の高屈折率凸部を形成する場合には、高屈折率凸部の高さばらつきが生じやすい傾向にある。その場合、金型の深さを、設計値よりやや深く狙って作製することにより、高さばらつきを持ちながらも所望の光学特性を持った回折光学素子が得られやすくなる。
(2)アクリル系樹脂組成物充填工程
「アクリル系樹脂組成物に対し積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を照射し硬化させて得られる硬化物サンプル」とは、得られる回折光学素子の回折格子部中に実際に含まれるであろうアクリル系樹脂組成物の硬化物を模擬したものである。このように、硬化物サンプルにおける60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下であるアクリル系樹脂組成物を用いることにより、湿熱条件下におけるスティッキングを防止でき、かつ離型時のパターンもげを少なくすることができる回折光学素子が得られる。その理由は、上記「1.回折光学素子」において説明した通りである。
前述の例は、金型側にアクリル系樹脂組成物の塗膜を形成するものであったが、透明基材側に塗膜を形成してもよい。塗膜の形成方法は、前述の例の他、ダイコートやバーコート、グラビアコート、スピンコートなど従来公知の塗布方法から好適なものを選定することができる。
透明基材については、上記「1.回折光学素子」において説明したものを使用できる。透明基材は、枚葉のものであってもよく、また長尺なものを用いてロールトゥロール方式により塗布工程、アクリル系樹脂組成物硬化工程、及び離型工程を順次行ってもよい。金型が曲げにくい硬質の材料である場合は、透明基材は柔軟性があるものが泡をかみにくく好ましい。逆に透明基材として硬質なものを用いる場合は、金型はソフトモールドを使うのが好ましい。
(3)アクリル系樹脂組成物硬化工程
透明基材とアクリル系樹脂組成物とを接触させる工程(以下、接触工程という。)と、アクリル系樹脂組成物に活性エネルギー線を照射する工程(以下、照射工程という。)とは、同時に行ってもよいし、接触工程を照射工程より先に行ってもよい。
紫外線や電子線の照射は1回で照射しても複数回に分けて照射してもよく、複数回に分ける場合はある程度硬化させて離型した後に追加照射してもよい。
(4)離型工程
上述したように、本開示の製造方法では特定のアクリル系樹脂組成物を使用するため、透明基材から金型を引き離す際にパターンもげを少なく抑えることができる。特に、得られる回折光学素子において、高屈折率凸部のアスペクト比が2以上の場合には、従来は離型時にパターンもげが生じやすかったが、本開示の製造方法によればこのようなパターンもげを少なく抑えることができる。
(5)その他の工程
得られた回折光学素子を用いて、さらに照明装置を製造する場合には、例えば、以下の工程を実施することが考えられる。ただし、照明装置の製造方法は、以下に記載の方法に限定されるものではない。
以下、図13に示す符号に即して説明する。まず、導通部11a及び内部空間11cを備える枠体11を用意する。枠体11は、2以上の部材の組み合わせ(例えば、平面基板と中空の筒の組み合わせ等)であってもよい。次に、枠体11の内部空間11cに光源12を載置し、導線13等を用いて光源12と導通部11aとを電気的に接続する。続いて、枠体11の上に回折光学素子10を載置する。このようにして得られる構造体を実装基板14上に載せることにより、仮組み立て体が得られる。このとき、実装基板14上に載置されたハンダボールの位置が、枠体11の導通部11aの位置と重なるよう、位置合わせを行う。
この仮組み立て体をリフロー炉に入れ、260~280℃の温度条件下で0.5~1.5分間加熱することにより、実装基板14と枠体11とをハンダ付けし、照明装置20が得られる。
3.アクリル系樹脂組成物
本開示のアクリル系樹脂組成物は、透明基材の少なくとも一面側に、透明基材の表面から突出する一つ以上の高屈折率凸部と、一つ以上の低屈折率部とを配置した回折格子部を備え、光源からの光を整形する回折光学素子の高屈折率凸部を形成するためのアクリル系樹脂組成物であって、当該アクリル系樹脂組成物に対し積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を照射し硬化させて得られる硬化物サンプルの60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下であることを特徴とする。
アクリル系樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化性成分を含み、硬化後に上記物性が得られるものが好ましい。また設計した対象波長の光を透過することができれば、硬化後に目視で色がついていても実用上問題はない。
本開示のアクリル系樹脂組成物の詳細は、上述した「1.回折光学素子」の「(1)アクリル系樹脂組成物の硬化物」で説明した通りである。
また、本開示のアクリル系樹脂組成物を用いた高屈折率凸部の形成方法は、上述した「2.回折光学素子の製造方法」で説明した通りである。
高屈折率凸部形成用のアクリル系樹脂組成物は、金型に充填する際、流動性が低すぎると微細な溝に入っていきにくく、高すぎると当該組成物が薄く広がってしまい所定の厚みを確保できないことがある。またロール賦型の場合、流動性が高すぎるとインキたれの原因となる。本開示においては、アクリル系樹脂組成物の25℃における粘度が数十[mPas]~数千[mPas]程度となるようなアクリル系樹脂が好ましい。粘度は温度でも変わるため、本開示のアクリル系樹脂組成物を用いて高屈折率凸部を形成する際には、適切な温度調節を適宜行うことが好ましい。
4.照明装置
(1)照明装置の構成
本開示に係る照明装置は、外部から給電可能な導通部と出光面となる開口部を有する枠体、光源、及び、上述した回折光学素子を備え、前記枠体の内部空間に前記光源が固定されるとともに前記導通部と接続され、前記開口部に前記回折光学素子が配置されていることを特徴とする。
本開示の照明装置によれば、所望の形状に整形された光を照射することができる。
本開示の照明装置を、図を参照して説明する。図13は本開示に係る光照射装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。図13の例に示される照明装置20は、枠体11、光源12、及び、上述した回折光学素子10を備える。枠体11は、外部から給電可能な導通部11aと、出光面となる開口部11bを有する。図13に示すように、枠体11は、さらに内部空間11cを有し、当該内部空間11cに光源12が固定される。さらに、光源12は導通部11aと接続される。光源12は、導通部11aと直に接して接続されていてもよいし、図13に示すような導線13を介して導通部11aと接続されていてもよい。そして、開口部11bに回折光学素子10が配置される。
枠体11は、2以上の部材の組み合わせであってもよい。例えば、枠体11は、光源制御用の平面基板(ベース部分)と、その上に載置された中空の筒との組合せ等であってもよい。
枠体11を実装基板14(マザーボード)上に載置し、光源12を実装基板14の電気回路に接続することにより、実装基板14上の他の機器と光源12とを連動させることができる。
本開示の照明装置において、光源は、特に限定されず、公知の光源を用いることができる。前記本開示に係る回折光学素子が特定波長の回折を目的として設計されることから、光源として、特定波長の強度が高いレーザー光源やLED(発光ダイオード)光源などを用いることが好ましい。本開示においては、指向性を有するレーザー光源、拡散性のあるLED(発光ダイオード)光源など、いずれの光源であっても好適に用いることができる。本開示において光源は、前記本開示に係る回折光学素子の設計の際にシミュレーション対象とした光源を再現可能なものの中から適宜選択することが好ましい。中でも、波長780nm以上の赤外線を回折する回折光学素子を用いる場合は、波長780nm以上の赤外線を発し得る光源を選択することが好ましい。
本開示の照明装置は、前記本開示に係る回折格子を少なくとも1つ備えればよく、必要に応じて更に他の光学素子を備えていてもよい。他の光学素子としては、例えば、偏光板、レンズ、プリズム、特定波長、中でも回折光学素子の対象波長を透過するパスフィルターなどが挙げられる。複数の光学素子を組み合わせて用いる場合は、界面反射を抑制する点から、光学素子同士を貼り合わせることが好ましい。
(2)照明装置の用途
本開示に係る照明装置は、所望の形状に整形された光を照射することができ、また、赤外線が利用可能な点から、センサー用の照明装置として好適に用いることができる。光を効果的に整形できる点から例えば夜間の赤外線照明、防犯センサー用照明、人感知センサー用照明、無人航空機や自動車等の衝突防止センサー用照明、個人認証装置用の照明、検査装置用の照明、などに使用することができ、光源の簡略化、小型化や省電力化が可能となる。
以下、本開示について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本開示を制限するものではない。
1.光学回折格子の製造
[実施例1~9、比較例1~4]
(回折格子の設計)
シミュレーションツールを使い、下記の条件にて形状設計を行った。
対象光源:波長980nmのレーザー光
材料屈折率:1.456
拡散形状:長辺±50°×短辺±3.3°に広がる矩形
エリアサイズ:5mm角
回折格子のレベル:2-level(2値)
得られた回折格子形状の最適深さは1087nm、最も細かい形状のピッチは250nmとなり、最大アスペクト比は4.35となった。
(金型作成)
6インチ角サイズの合成石英板を用い、電子線描画装置とドライエッチング装置を使用した電子線リソグラフィプロセスにより、設計した形状の石英DOEを作成した。
SEM観察では所定の寸法に仕上がっていることを確認でき、また980nmのレーザーを入射させ、回折光をスクリーンに投影し赤外線カメラで観察したところ、所定の矩形形状に広がっていることを確認できた。
(アクリル系樹脂組成物の調製)
下記表1に示す(メタ)アクリレート化合物(4官能以上(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート)と光重合開始剤を表1に示した量で配合し、アクリル系樹脂組成物1~13を調製した。なお、表1中のこれら化合物に関する数値は質量部を示し、(メタ)アクリレート化合物の合計量は、100質量部となる。
(樹脂賦型方法)
回折格子部の樹脂賦型は次の通り行った。
まず前記石英DOEを金型とし、回折面にアクリル系樹脂組成物1~11及び13のうちいずれか1つを滴下した。次に透明基材としてPETフィルム(東洋紡コスモシャインA4300、100μm厚)を上からローラでラミネートし、前記アクリル系樹脂組成物を均一に広げた。さらにその状態のまま積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を透明基材側から照射し、前記アクリル系樹脂組成物を硬化させた後に、透明基材と賦型層を金型から剥離し、回折光学素子を得た(実施例1~9、比較例1、2、4)。なお、アクリル系樹脂組成物12は粘度が高く、金型のキャビティに当該組成物12が充填できなかったため、硬化物が賦型できず、回折光学素子が得られなかった(比較例3)。
得られた回折光学素子の回折格子部は、以下の周期構造1を有する。この周期構造1は、20本程度の高屈折率凸部を有する。各高屈折率凸部は、その平面視形状が直線状、その断面形状が矩形であり、高さ(H)は一定となるように形成されている。ただし、各高屈折率凸部の幅(W)は、下記の範囲内で互いに異なるように形成されている。
[周期構造1]
高屈折率凸部の高さ(H):500nm
高屈折率凸部の幅(W):50nm~500nmの範囲の一定幅
2.照明装置の製造及びリフロー耐性の評価
上記実施例6及び比較例2の回折光学素子を用いて、照明装置を製造した。
以下、図13に示す符号に即して説明する。まず、枠体11の内部空間11cに光源12を載置し、導線13を用いて光源12と導通部11aとを電気的に接続した。次に、枠体11の上に実施例6又は比較例2の回折光学素子を載置した。このようにして得られた構造体を実装基板14上に載せることにより、仮組み立て体が得られた。このとき、実装基板14上に載置されたハンダボールの位置が、枠体11の導通部11aの位置と重なるよう、位置合わせを行った。
この仮組み立て体をリフロー炉に入れ、260℃の温度条件下で1.5分間加熱し、実装基板14と枠体11とをハンダ付けし、実施例6又は比較例2の照明装置を製造した。
実施例6及び比較例2の照明装置に含まれる回折光学素子について、下記の方法により、それぞれリフロー前後の質量変化率及び透過率変動を調べた。
(回折光学素子の質量変化率の算出方法)
リフロー前、及びリフロー後における回折光学素子の質量を測定し、下記式Iから質量変化率aを算出した。
式I a={(M-M)/M}×100
(上記式I中、aは質量変化率(%)、Mはリフロー前の回折光学素子の質量(mg)、Mはリフロー後の回折光学素子の質量(mg)をそれぞれ示す。)
質量変化率の許容範囲は、2.0%以下とする。
(回折光学素子の透過率変動の算出方法)
リフロー前、及びリフロー後における回折光学素子の透過率(%)を測定した。透過率は、紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR)分光光度計(島津製作所社製、UV-3150)等を用いて測定した。この装置より、850nmの波長の回折光学素子の透明基材及び回折格子部の透過率を測定した。
リフロー前における回折光学素子の透過率と、リフロー後における回折光学素子の透過率との差の絶対値を、その回折光学素子の透過率変動(%)とした。
透過率変動の許容範囲は、1.0%以下とする。
比較例2の照明装置に含まれる回折光学素子につき、260℃、1.5分間のリフローについて、リフロー前後の質量変化率は3.8%であり、リフロー前後の透過率変動は0.0%である。したがって、この結果は、上記質量変化率の許容範囲を超えるものである。その理由としては、比較例2の回折光学素子に使用された化合物が2官能のアクリル系樹脂であるため、瞬間的に260℃の高温環境に曝された際、この2官能のアクリル系樹脂が昇華する結果、回折格子部の微細構造が変化することが考えられる。
これに対し、実施例6の照明装置に含まれる回折光学素子につき、260℃、1.5分間のリフローについて、リフロー前後の質量変化率は1.5%であり、リフロー前後の透過率変動は0.1%である。これらの結果はいずれも許容範囲内である。その理由としては、実施例6の回折光学素子に使用されたアクリル系樹脂組成物が、耐熱性の高い4官能以上のウレタンアクリレートを多く含むものであるため、瞬間的に260℃の高温環境に曝された場合であっても、質量変動が起こりにくく、その結果、回折格子部の微細構造の変化が最小限に抑えられることが考えられる。
3.アクリル系樹脂組成物の硬化物の粘弾性測定
アクリル系樹脂組成物1~13に対し、それぞれ積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を照射し硬化させて、基材及び凹凸形状を有しない、厚さ0.1mm、幅5mm、長さ15mmの試験用単膜をそれぞれ得た。
次いで、JIS K7244に準拠し、測定温度60℃及び相対湿度95%の条件、かつ下記表Aに示す測定条件に基づき動的粘弾性を測定することにより、60℃、相対湿度95%における、貯蔵弾性率E’、及び損失弾性率E”を求めた。また、当該E’及びE”の結果からtanδを算出した。測定装置はUBM製Rheogel E4000を用いた。貯蔵弾性率E’(60℃,95%)とtanδ(60℃,95%)の各値を表1に示す。
さらに、同様の試験用単膜を用いて、JIS K7244に準拠し、測定温度30℃及び相対湿度30%の条件、かつ下記表Aに示す測定条件に基づき動的粘弾性を測定することにより、30℃、相対湿度30%における、貯蔵弾性率E’を求めた。貯蔵弾性率E’(30℃,30%)の各値を表1に示す。
Figure 2023029913000002
4.アクリル系樹脂組成物の硬化物の復元率測定
上記「3.アクリル系樹脂組成物の硬化物の粘弾性測定」と同様に、アクリル系樹脂組成物1~13について、それぞれ試験用単膜を作製した。
JIS Z2244(2003)に準拠し、下記測定条件下にてビッカース硬さ試験を実施した。具体的には、各試験用単膜表面に、下記測定条件で圧子を押し込んで、試験用単膜表面の復元率(%)を測定した。測定装置は、フィッシャーインストルメンツ社製PICODENTER HM-500を用いた。結果を表1に示す。
<測定条件>
・最大荷重 0.2mN
・荷重速度 0.2mN/10秒
・保持時間 5秒間
・荷重除荷速度 0.2mN/10秒
・圧子 ビッカース圧子
・測定温度 25℃
5.アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)測定
アクリル系樹脂組成物1~13に対し、それぞれ積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を照射し硬化させて、基材及び凹凸形状を有しない、厚さ0.1mm、幅5mm、長さ20mmの試験用単膜をそれぞれ得た。
動的粘弾性試験機(セイコーインスツルメント社製、DMS6100)を用いて、上記各テストピースの長さ方向に周波数10Hzで周期的外力を加え、-20℃から200℃の範囲で測定し、それぞれの貯蔵弾性率E’、及び損失弾性率E”を求めた。当該E’及びE”の結果からtanδ=E”/E’を算出した。tanδが最大値のときの温度を、そのアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度Tg(℃)とした。
6.スティッキング評価及びパターンもげ評価
実施例1~9、比較例1、2、4の回折光学素子をSEM観察した。なお、上記の通り、比較例3(アクリル系樹脂組成物12を使用)は回折光学素子が得られなかったため、以下の評価は行わなかった。
スティッキング評価は以下の通り行った。まず、周期構造1(高さH=500nm)について、スティッキングが生じていない高屈折率凸部のうち、最も幅の小さい高屈折率凸部を特定した。そして、当該高屈折率凸部の幅を、スティッキング評価における最小幅W min(nm)とし、高さH(500nm)を当該最小幅W minで除して得られる値を、スティッキング評価における最大アスペクト比とした。最小幅W minが小さく、最大アスペクト比が大きいほど、その高屈折率凸部を形成する硬化物は適度な硬さを有するため、スティッキングが生じにくいといえる。
パターンもげ評価は以下の通り行った。まず、周期構造1について、パターンもげが生じていない高屈折率凸部のうち、最も幅の小さい高屈折率凸部を特定した。そして、当該高屈折率凸部の幅を、パターンもげ評価における最小幅W min(nm)とした。あとは、上記スティッキング評価と同様に最大アスペクト比を算出した。最小幅W minが小さく、最大アスペクト比が大きいほど、その高屈折率凸部を形成する硬化物は適度な柔軟性を有するため、パターンもげが生じにくいといえる。
7.考察
下記表1は、実施例1~9、比較例1~4に用いたアクリル系樹脂組成物の組成、並びに物性値及び評価結果をまとめたものである。
なお、下記表1中、スティッキング評価の最大幅について「>500」とあるのは、50nm~500nmの範囲内の幅(W)を有する高屈折率凸部の全てについてスティッキングが生じたことを意味する。したがって、この場合、アスペクト比は算出していない。
また、比較例3については、上記の通り回折光学素子が得られなかったため、スティッキング評価結果及びパターンもげ評価結果の記載はない。
Figure 2023029913000003
表1中、化合物(1)は、PETA―IPDI―PETAで示される6官能のウレタンアクリレート(Mw:1,400)である。なお、「PETA」はペンタエリスリトールトリアクリレートを、「IPDI」はイソホロンジイソシアネートを、「―」はウレタン結合を、それぞれ示す。
表1中、化合物(2)は、下記式(i)で示される9官能のウレタンアクリレート(Mw:11,000)である。
Figure 2023029913000004
(上記式(i)中、「PETA」はペンタエリスリトールトリアクリレートを、「HDI」はヘキサメチレンジイソシアネートを、「―」はウレタン結合を、それぞれ示す。)
表1中、化合物(3)は、DPPA―IPDI―DPPAで示される10官能のウレタンアクリレート(Mw:2,000)である。なお、「DPPA」はジペンタエリスリトールペンタアクリレートを、「IPDI」はイソホロンジイソシアネートを、「―」はウレタン結合を、それぞれ示す。
表1中、化合物(4)は、下記式(ii)で示される15官能のウレタンアクリレート(Mw:2,300)である。
Figure 2023029913000005
(上記式(ii)中、「DPPA」はジペンタエリスリトールペンタアクリレートを、「HDI」はヘキサメチレンジイソシアネートを、「―」はウレタン結合を、それぞれ示す。)
表1中、化合物(5)は、カプロラクトン変性HEA―水添MDI―カプロラクトン変性HEAで示される2官能のウレタンアクリレート(Mw:2,000)である。なお、「HEA」はヒドロキシエチルアクリレートを、「MDI」はジフェニルメタンジイソシアネートを、「―」はウレタン結合を、それぞれ示す。
表1中、化合物(6)は、1,9-ノナンジオールジアクリレート(CAS No.107481-28-7、Mw:268)である。
表1中、化合物(7)は、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート(Mw:700)である。
まず、比較例1について検討する。比較例1には、硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.42×10Paであるアクリル樹脂組成物10が使用されている。
比較例1は、パターンもげが生じていない高屈折率凸部の最小幅W minが90nmであり、最大アスペクト比が5.6である。したがって、高屈折率凸部の柔軟性については問題がない。
しかし、比較例1は、高屈折率凸部の幅Wが500nmであってもスティッキングが生じている。これは、湿熱条件下の貯蔵弾性率(E’)が0.90×10Paよりも小さく、高屈折率凸部が柔らか過ぎるためであると考えられる。
次に、比較例2について検討する。比較例2には、硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.06×10Paであるアクリル樹脂組成物11が使用されている。
比較例2は、パターンもげが生じていない高屈折率凸部の最小幅W minが85nmであり、最大アスペクト比が5.9である。したがって、高屈折率凸部の柔軟性については問題がない。
しかし、比較例2は、スティッキングが生じていない高屈折率凸部の最小幅W minが250nmと大きく、最大アスペクト比が2.0と小さい。したがって、比較例2の回折光学素子は、スティッキングが生じやすいと言える。これは、湿熱条件下の貯蔵弾性率(E’)が0.90×10Paよりも小さい上に、アクリル樹脂組成物11が4官能以上の(メタ)アクリレートを含まない結果、形成される高屈折率凸部が柔らか過ぎるためであると考えられる。
続いて、比較例3について検討する。比較例3には、硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、3.10×10Paであるアクリル樹脂組成物12が使用されている。
上記の通り、アクリル系樹脂組成物12は粘度が高く、金型のキャビティに当該組成物12が充填できなかったため、硬化物が賦型できず、回折光学素子が得られなかった。これは、湿熱条件下の貯蔵弾性率(E’)が2.6×10Paよりも大きすぎる結果、アクリル系樹脂組成物12が柔軟性に欠けるためと考えられる。
続いて、比較例4について検討する。比較例4には、硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.18×10Paであるアクリル樹脂組成物13が使用されている。
比較例4は、パターンもげが生じていない高屈折率凸部の最小幅W minが90nmであり、最大アスペクト比が5.6である。したがって、高屈折率凸部の柔軟性については問題がない。
しかし、比較例4は、高屈折率凸部の幅Wが500nmであってもスティッキングが生じている。これは、湿熱条件下の貯蔵弾性率(E’)が0.90×10Paよりも小さく、高屈折率凸部が柔らか過ぎるためであると考えられる。
実施例1~9の結果に示される通り、硬化後の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下であるアクリル系樹脂組成物を用いることにより、湿熱条件下におけるスティッキングを防止でき、かつパターンもげを少なくすることができることが明らかとなった。
表1より、実施例1~9のうち、硬化後の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、1.0×10Pa以上2.0×10Pa以下であり、さらに復元率が60%以上のアクリル系樹脂組成物を用いた実施例1~2及び4~6においては、その他の実施例と比較して、スティッキングが生じていない高屈折率凸部の最小幅W minが120nm以下と小さく、最大アスペクト比が4.2以上と大きいことが分かる。これは、湿熱条件下で適度な貯蔵弾性率(E’)を有し、かつ復元率が高いことにより、スティッキングが生じにくいためといえる。
1 透明基材
2 回折格子部
2a 高屈折率凸部
2b 低屈折率部
2A,2B,2C,2D 部分周期構造(領域)
3 基部
5 被覆層
7 低屈折率樹脂
9 反射防止層
10 回折光学素子
11 枠体
11a 導通部
11b 開口部
11c 内部空間
12 光源
13 導線
14 実装基板
20 照明装置
21 照射光
22 スクリーン
23 照射光の照射領域
24 回折光学素子を通過した光の照射領域
25 0次光
26a,26b,26c,26d 1次光(回折光)
27 0次光照射位置
31 金型
31a 金型のキャビティ
32 アクリル系樹脂組成物
33 透明基材
34 加圧ローラ
35 活性エネルギー線照射
36 硬化膜
41 透明基材又は基部
50 スティッキングが生じた回折光学素子
51 水分
101 基材
102 破断した硬化物
103 金型

Claims (9)

  1. 透明基材の少なくとも一面側に、透明基材の表面から突出する一つ以上の高屈折率凸部と、一つ以上の低屈折率部とを配置した回折格子部を備え、光源からの光を整形する回折光学素子の高屈折率凸部を形成するためのアクリル系樹脂組成物であって、
    当該アクリル系樹脂組成物は、ウレタン結合を含み、4官能以上の(メタ)アクリレートと、2官能の(メタ)アクリレートとを含み、
    当該アクリル系樹脂組成物に対し積算光量が1,000mJ/cmになるように紫外線を照射し硬化させて得られる硬化物サンプルの60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)が、0.90×10Pa以上2.6×10Pa以下である、回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物。
  2. 前記アクリル系樹脂組成物の硬化物の30℃かつ相対湿度30%における貯蔵弾性率(E’)が、1×10Pa以上5×10Pa以下である、請求項1に記載の回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物。
  3. 前記アクリル系樹脂組成物の硬化物の60℃かつ相対湿度95%における貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の比(tanδ(=E”/E’))が、0.12以下である、請求項1又は2に記載の回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物。
  4. 前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、全硬化性成分に対し、前記4官能以上の(メタ)アクリレートを40質量%以上80質量%以下、及び、前記2官能の(メタ)アクリレートを10質量%以上60質量%以下含有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物。
  5. 前記2官能の(メタ)アクリレートとして直鎖アルカンジオールジ(メタ)アクリレートを含み、前記4官能以上の(メタ)アクリレートとして6官能以上の(メタ)アクリレートを含み、当該6官能以上の(メタ)アクリレートの含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全硬化性成分に対して、50質量%以上85質量%以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物。
  6. 前記4官能以上の(メタ)アクリレートは、4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物。
  7. 前記4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートは、多価イソシアネート化合物のイソシアネート基と、分子中に1個の水酸基と2個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物の水酸基とがウレタン結合した化合物である、請求項6に記載の回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物。
  8. 前記2官能の(メタ)アクリレートは、分子量(Mw)が100以上5,000以下である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物。
  9. JIS Z2244(2003)に準拠し、かつ最大荷重0.2mN、保持時間10秒の測定条件下にて行われるビッカース硬さ試験により測定される、前記アクリル系樹脂組成物の硬化物の復元率が、60%以上である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の回折光学素子形成用のアクリル系樹脂組成物。
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