JP2023023667A - 音響部材用フィルム、離型フィルム付き音響部材用フィルム、音響部材、積層体及び音響変換器 - Google Patents

音響部材用フィルム、離型フィルム付き音響部材用フィルム、音響部材、積層体及び音響変換器 Download PDF

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Abstract

【課題】成形前の形状保持性、及び成形時の賦形性及び型への追従性を高くしつつ、成形前に離型フィルムを剥がすに際し、離型フィルムから破れることなく剥離できる音響部材用フィルムを提供する。【解決手段】硬化性を有するフィルムであって、下記(a)の粘弾性特性を有する音響部材用フィルム。(a)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’が0.1MPa以上500MPa以下。【選択図】なし

Description

本発明は、音響部材用フィルム、及び離型フィルム付き音響部材用フィルム、並びに、これらから得られる音響部材、積層体、及び音響変換器に関する。
例えば、スマートフォン、PDA、ノートブックコンピューター、DVD、液晶テレビ、デジタルカメラ、携帯音楽機器等の小型電子機器の普及により、これら電子機器に使用される小型のスピーカー(通常、マイクロスピーカーと呼ばれる)や小型のレシーバ、さらにはマイクロホン、イヤホン等の小型の電気音響変換器の需要が高まっている。これら電気音響変換器に使用される振動板には、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等が広く使用されている。
また、近年、シリコーン樹脂が上記した振動板に使用されることも検討されている。例えば、特許文献1には、離型シートと、未硬化液状シリコーン組成物から成る第1層と、主として熱可塑性ポリウレタンを含む第2層とを順に積層して成る振動板用シート、及びこの振動板用シートを用いた振動板の製造方法が開示されている。特許文献1においては、振動板用シートが金型内にセットされて賦形成形された後、成形物から離型シートを剥離することで振動板が製造されている。特許文献1に記載の振動板用シートは、未硬化液状シリコーン組成物を使用するため、成形時の賦形性を高くすることができ、また、金型への追従性も高くすることができる。
特開2018-152817号公報
上記の通り、特許文献1において、振動板用シートは、未硬化液状シリコーン組成物から成る第1層に離型フィルムを積層したまま金型にセットして賦形成形される。そのため、成形後に離型フィルムを剥がす必要があるが、成形時の加熱及び加圧により、離型フィルムが第1層から剥がれにくくなることが多く作業性が低くなり、量産化することが難しい。
したがって、振動板用シートは、離型フィルムを剥がしたうえで、金型などの型にセットすることが望ましい。しかし、離型フィルムを剥がすに際し、未硬化液状シリコーン組成物から成る第1層が破れるという問題があった。なお、特許文献1の振動板用シートは、離型フィルムがないと、賦形前の形状保持性が低くなる。
そこで、本発明は、成形前の形状保持性、及び成形時の賦形性及び型への追従性を有し、成形前に離型フィルムを剥がすに際し離型フィルムから破れることなく剥離できる、音響部材用フィルムを提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の貯蔵弾性率を有するフィルムとすることで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下の[1]~[11]を提供する。
[1]硬化性を有するフィルムであって、下記(a)の粘弾性特性を有する音響部材用フィルム。
(a)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’が0.1MPa以上500MPa以下。
[2]熱硬化性を有する、、上記[1]に記載の音響部材用フィルム。
[3]架橋構造を有する、上記[1]または[2]に記載の音響部材用フィルム。
[4]ゲル分率が90%以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
[5]シリコーンフィルムである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
[6]硬化後の状態で、下記(b)~(d)の粘弾性特性を有する上記[1]~[5]のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
(b)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’20が0.1MPa以上500MPa以下。
(c)測定温度100℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’100が0.1MPa以上500MPa以下。
(d)上記のE’100/E’20が0.4~1.0。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載の音響部材用フィルムと、前記音響部材用フィルムの少なくとも片面に設けられた離型フィルムとを備える、離型フィルム付音響部材用フィルム。
[8]上記[1]~[6]のいずれかにに記載の音響部材用フィルムを硬化してなる音響部材。
[9]上記[1]~[6]のいずれかに記載のフィルムを型に積層させて、熱成形させてなる積層体。
[10]上記[9]に記載の積層体において、型から剥がされてなる、音響部材。
[11]上記[8]又は[10]に記載の音響部材を備えた音響変換器。
本発明によれば、成形前の形状保持性、及び成形時の賦形性を有し、成形前に離型フィルムを剥がすに際し離型フィルムから破れることなく剥離できる、音響部材用フィルムを提供できる。
本発明の一実施形態に係るマイクロスピーカー振動板1の構造を示す断面図である。 本発明の他の一実施形態に係るマイクロスピーカー振動板11の構造を示す断面図である。 本発明の他の一実施形態に係るマイクロスピーカー振動板21の構造を示す平面図である。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、フィルムとシートとの境界は定かではないため、本発明において、フィルムはシートを包含するものとする。
[音響部材用フィルム]
本発明の音響部材用フィルム(以下、本フィルムともいう)は、下記(a)の粘弾性特性を有する。
(粘弾性特性)
(a)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’が0.1MPa以上500MPa以下。
貯蔵弾性率E’が0.1MPa以上であると、フィルムが適度な硬さを有することで、離型フィルムからの剥離が容易になり、また、剥離時に破れが発生する懸念がなくなる。また離型フィルムを剥がした後であっても形状を保持することができる。一方、貯蔵弾性率E’が500MPa以下であると、フィルムは適度な柔軟性を有し、成形時の型への追従性や賦形性が可能となる。
以上の観点から、E’は、0.5MPa以上300MPa以下が好ましく、0.8MPa以上200MPa以下がより好ましく、1.0MPa以上100MPa以下がさらに好ましい。
また、本フィルムは、硬化後の状態で、下記(b)~(d)の粘弾性特性を有することが好ましい。
(b)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’20が0.1MPa以上500MPa以下。
(c)測定温度100℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’100が0.1MPa以上500MPa以下。
(d)上記のE’100/E’20が0.4~1.0。
(b)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’20が0.1MPa以上であると、硬化後に一定の硬さを有するので、硬化後のハンドリング性などが良好となる。一方、E’20が500MPa以下であると、振動板の音質及び再生性などの音響特性が優れる傾向となる。音響特性及び硬化後のハンドリング性の観点から、硬化後の20℃での貯蔵弾性率E’20は、1MPa以上400MPa以下がより好ましく、2MPa以上200MPa以下がさらに好ましく、4MPa以上50MPa以下が特に好ましい。
また、(c)測定温度100℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’100が、0.1MPa以上500MPa以下であると、耐熱性が良好となり、高温環境下でも、優れた音響特性が得られることが期待される。音響特性及び硬化後のハンドリング性の観点から、貯蔵弾性率E’100は、1MPa以上400MPa以下であることがより好ましく、2MPa以上200MPa以下であることがさらに好ましく、4MPa以上50MPa以下が特に好ましい。
また、(d)貯蔵弾性率の比(E’100/E’20)を0.4~1.0の範囲内とすることで、温度変化に伴う弾性率変化が小さくなり、耐熱性が良好となる傾向にある。また、加熱した際の弾性率変化が小さいため、高温環境下における音質が低下しにくくなり、低温域から高温域まで音の再生性を優れたものに維持しやすくなる。
以上の観点から、上記比(E’100/E’20)は、0.5~0.99であることがより好ましく、0.55~0.97であることがさらに好ましく、0.6~0.95であることがよりさらに好ましい。
本フィルムは、上記(a)の粘弾性特性を有し、好適には硬化後の状態で、上記(b)~(d)の粘弾性特性を有するものであれば、単層のフィルムであっても、積層フィルムであってもよいが、上記(a)の要件を満足するためには、ある程度の硬さを有するフィルムであることが肝要であり、積層フィルムの場合には、多層のうちの少なくとも一層がある程度の硬さを有するとよい。
単層フィルムであれば、上記条件(a)を満足する程度の架橋構造を有するものが好ましく、フィルムの柔軟性、成形時の型への追従性や賦形性を考慮すると、適度な架橋度を有するフィルムであることが好ましい。すなわち、硬度としては、未架橋フィルムよりも硬く、完全硬化されたフィルムよりも柔らかいフィルム(低硬度フィルム)であることが好ましい。
また多層フィルムであれば、その一部の層が架橋構造を有しており、高い硬度を有する層(以下「高硬化層」ということがある。)であればよい。すなわち、本フィルムは、少なくとも1層の高硬化層と、少なくとも1層の未硬化層を有することが好ましい。具体的には、高硬化層/未硬化層の2層構成、高硬化層/未硬化層/高硬化層、未硬化層/高硬化層/未硬化層の2種3層構成が挙げられる。また、例えば中間層が2層ある4層構成であってもよく、各層の層間に接着層があってもよい。このように、積層フィルムの場合には、いずれかの層の硬度を高く設計することで、上記条件(a)を満たす積層フィルムを得やすく、特に、高硬化層/未硬化層/高硬化層の積層構造を有することが好ましい。
なお、ここで未硬化層とは、全く架橋されていない場合だけではなく、一部架橋された部分的に架橋されている態様も含み、例えば上記低硬度フィルムを未硬化層として用いることもできる。そして、未硬化層のゲル分率は、高硬化層のゲル分率より低くするとよい。
(ゲル分率)
本フィルムは、ゲル分率が90%以下であることが好ましい。ゲル分率が90%以下であると、成形前のフィルムを柔軟にすることができ、成形時に十分な硬化が得られ、賦形性や型への追従性が得られ、実用に耐え得る程度の成形性が得られる。
賦形性及び成形性の観点から、ゲル分率は85%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。ゲル分率の下限値については、特に限定されず、0%以上であればよいが、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。ゲル分率を10%以上とすると、上記条件(a)を上記所定の範囲内に調整しやすくなり、また、成形前に離型フィルムを剥がす際、本フィルムが破れにくくなる。
上記の通りフィルムは、少なくとも1層の高硬化層と、少なくとも1層の未硬化層を有することが好ましい。未硬化層は、ゲル分率が0%以上80%未満であるのが好ましい。未硬化層のゲル分率が80%未満であると、成形前のフィルムを柔軟にしやすくなり、また、成形時に十分に硬化できるので、賦形性や型への追従性が十分となり、成形性が向上する。
賦形性及び成形性の観点から、未硬化層のゲル分率は、70%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。中間層のゲル分率は、特に限定されず、0%以上であればよいが、例えば10%以上であってもよいし、20%以上であってもよい。
一方、高硬化層のゲル分率は、80%以上であることが好ましい。最表裏層のゲル分率が80%以上であると、本フィルムの離型フィルムからの剥離が容易になり、また、剥離時に破れが発生する懸念が少なくなる。また、本フィルムは、ゲル分率を上記のとおり高くすることで、フィルム硬化前においても形状保持性をより向上させることができる。
以上の観点から、高硬化層のゲル分率は、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。高硬化層のゲル分率は、上限に関して特に限定されず、100%以下であればよいが、一般的には100%より低く、例えば、99%以下であってもよい。
本フィルムは、単層/積層であるにかかわらず、フィルム表面部のゲル分率が75%以上であると、プレス用の金型にフィルムを挟んでプレスした後、フィルムを取り出す際に、フィルムが金型から取り出しにくくなるのを防ぐことができる。
なお、ゲル分率は、以下の要領で測定できる。
1)フィルム全体、又は、フィルムの中間層、最表層、若しくは最裏層からサンプルを約100mg採取して、そのサンプルの質量(a)を測定する。
2)採取したサンプルをクロロホルムに23℃の条件で24時間浸漬する。
3)クロロホルム中の固形分を取り出し、50℃で7時間真空乾燥する。
4)乾燥後の固形分の質量(b)を測定する。
5)質量(a)、(b)を用いて、以下の式(i)に基づいてゲル分率を算出する。
Figure 2023023667000001
上記測定方法から明らかなように、ゲル分率は、フィルムに含まれる架橋成分のみならず、充填材などの架橋成分以外の不溶解分もゲル分として含めて算出される。
但し、硬化前の本フィルムの中間層については、硬化前の本フィルム全体及び最表裏層のゲル分率と、層厚みの比から計算することで求めるものとする。
本フィルムは、硬化性を有するフィルムであり、硬化のタイプとしては、光硬化性、湿気硬化性、熱硬化性のいずれでもよいが、熱硬化性を有することが好ましい。本フィルムは、熱硬化性を有することで、加熱しながら賦形成形する際に硬化させることができるので、賦形性がより一層良好となる。なお、本フィルムは、熱硬化性を有すると、加熱されることでそのゲル分率が上昇するものである。
本フィルムは、架橋構造を有することが好ましい。適度な架橋構造を有することで、上述のように、単層フィルムにおいて、上記粘弾性特性(a)の要件を満足するフィルムが得やすくなる。また、硬化前(すなわち、成形前)における形状保持性が向上しやすくなる。
また、本フィルムが積層フィルムの場合、上述のように、多層のうちの少なくとも1層が架橋構造を有することで、上記粘弾性特性(a)の要件を満足するフィルムが得やすくなる。このようなフィルムであれば、硬化前において、フィルムの柔軟性を大きく損なうことなく形状保持性を向上させやすくなる。
本フィルムの厚みは、特に限定されないが、5μm以上500μm以下が好ましく、15μm以上400μm以下がより好ましく、30μm以上300μm以下がさらに好ましい。フィルムの厚みがかかる範囲であれば、振動板に適した厚みの成形品を製造できる。
(引張破断伸度)
本フィルムは、硬化後の状態で、引張破断伸度が100%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、300%以上であることがさらに好ましい。引張破断伸度がかかる範囲にあれば、フィルムの靭性が高くなることで、長時間の振動による破断が起こりにくく、振動板などの音響部材に使用した際の耐久性が優れる傾向となる。なお、引張破断伸度は大きければ大きいほどよく、特に上限は無いが、通常は1500%以下である。
なお、貯蔵弾性率及び引張破断伸度は、実施例記載の方法で測定すればよいが、硬化後の状態での貯蔵弾性率及び引張破断伸度とは、本フィルム全体のゲル分率が80%以上になるように硬化させたフィルムに対して測定すればよい。本フィルムをゲル分率80%以上に硬化させる具体的な方法として例えば、加熱による硬化、放射線による硬化が挙げられる。
加熱による硬化の場合、硬化時の加熱温度は180℃以上260℃以下であることが好ましく、190℃以上250℃以下であることがより好ましく、200℃以上240℃以下であることが更に好ましい。
また加熱時間は、1秒以上5分以下であることが好ましく、5秒以上4分以下であることがより好ましく、10秒以上3分以下であることが更に好ましく、20秒以上2分以下であることが特に好ましい。
また加熱時の圧力は0.01MPa以上100MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以上50MPa以下であることがより好ましい。
一方、放射線による硬化の場合、放射線架橋に用いる放射線としては、電子線、X線、γ線などを利用することができ、用いる放射線の種類と積算照射線量を調整することによって、本フィルムをゲル分率80%以上に硬化することができる。
また、貯蔵弾性率及び引張破断伸度の測定方法の詳細は、実施例に記載のとおりであり、フィルムに方向性がある場合にはTD(樹脂の流れ方向に直交する方向)について測定するとよい。
本フィルムは、樹脂層により構成され、樹脂層を構成する樹脂は、好ましくは硬化性樹脂であり、より好ましくは熱硬化性樹脂である。中でも、好ましい具体例としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。本フィルムが多層フィルムの場合は、いずれの層も樹脂層であることが好ましい。また、本フィルムの各層において、これら樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
また、本フィルムが多層フィルムの場合に、各層は同一の種類の樹脂を使用してもよいし、異なる種類の樹脂を使用してもよいが、同じ種類の樹脂を使用することが好ましい。同じ種類の樹脂を使用することで、接着層などを使用しなくても、各層間を容易に接着しやすくなる。
また、本フィルムは、シリコーンフィルムであることが好ましい。なお、シリコーンフィルムであるとは、多層フィルムの場合には、多層のうちの一部の層が樹脂としてシリコーン樹脂を使用したフィルムであってよいが、全層においてシリコーン樹脂を使用することが特に好ましい。本フィルムがシリコーンフィルムであると、耐熱性、機械強度などが良好となり、上記した粘弾性特性(a)および(b)~(d)も充足しやすくなる。また、引張破断伸度も上記した所望の範囲内に調整しやすくなる。
(オルガノポリシロキサン)
本フィルムに使用されるシリコーン樹脂としては、オルガノポリシロキサンが挙げられる。
オルガノポリシロキサンは、例えば、以下の式(ii)で表される構造を有する。
SiO(4-n)/2 ・・・(ii)
ここで、Rは同一又は異なっていてもよい、置換又は非置換の一価炭化水素基、好ましくは炭素原子数1~12、より好ましくは炭素原子数1~8の一価炭化水素基、nは1.95~2.05の正の数である。
Rは、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、及びドデシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、及びヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、及びトリル基等のアリール基、β-フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子又はシアノ基等で置換したクロロメチル基、トリフルオロプロピル基、及びシアノエチル基等が挙げられる。
オルガノポリシロキサンは、分子鎖末端がトリメチルシリル基、ジメチルビニル基、ジメチルヒドロキシシリル基、トリビニルシリル基等で封鎖されていることも好ましい。また、オルガノポリシロキサンは、分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。具体的には、Rのうち0.001モル%以上、5モル%以下、好ましくは0.005モル%以上、3モル%以下、より好ましくは0.01モル%以上、1モル%以下、特に0.02モル%以上、0.5モル%以下のアルケニル基を有することが好ましく、特にビニル基を有することが最適である。オルガノポリシロキサンは、基本的には直鎖状のジオルガノポリシロキサンであるが、一部分岐していてもよい。また、分子構造の異なる2種、又はそれ以上の混合物でもよい。
本フィルムの樹脂層を構成するオルガノポリシロキサンは、架橋剤などによって架橋されているとよく、好ましくは有機過酸化物によって架橋される。したがって、樹脂層は、オルガノポリシロキサンと有機過酸化物などの架橋剤とを備える樹脂組成物を硬化した硬化物であることが好ましい。この際、樹脂層は、ゲル分率が上記した所望の範囲内となるように硬化させるとよい。
上述した単層フィルムの場合には、適度な架橋構造を有し、適度な硬度を有することが好ましい。ゲル分率が上記した所望の範囲内となるように、半硬化の状態であるとよい。したがって、単層フィルムを構成する樹脂層に配合される有機過酸化物は、一部分解され、一部は分解されずに有機過酸化物の状態のまま樹脂層に含有されているとよい。
一方、本フィルムが多層フィルムである場合は、少なくとも高硬化層と未硬化層を有することが好ましい。高硬化層はオルガノポリシロキサンが好ましくは有機過酸化物によって架橋され、有機過酸化物は分解しており、殆ど含有されない。一方、未硬化層は、オルガノポリシロキサンと有機過酸化物などの架橋剤とを備える樹脂組成物からなることが好ましく、ゲル分率が上記した所望の範囲内となるように、未硬化であるか硬化していても半硬化の状態であり、未硬化層に配合される有機過酸化物は、殆ど分解せずに有機過酸化物の状態のまま未硬化層に含有されているとよい。
また、本フィルムが、例えば、2種3層の積層フィルムである場合には、表裏層が高硬化層であり、中間層が未硬化層の態様があり、また、表裏層が未硬化層であり、中間層が高硬化層の態様がある。いずれの層構成であっても、未硬化層は、オルガノポリシロキサンは、未架橋状態であるか、架橋されても部分的に架橋された状態(半硬化状態)であり、有機過酸化物は、殆ど分解せずに有機過酸化物の状態のまま未硬化層に含有される。一方、高硬化層はオルガノポリシロキサンが好ましくは有機過酸化物によって架橋され、有機過酸化物は分解しており、殆ど含有されない。
有機過酸化物としては、例えばジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等のアルキル過酸化物、2,4-ジクミルパーオキサイド等のアラルキル過酸化物等の有機過酸化物が挙げられるが、架橋速度や安全性の観点から、アルキル過酸化物、特に、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
樹脂層を形成する樹脂組成物における有機過酸化物の配合量は、樹脂組成物全量基準で、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.03質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上4質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以上3質量%以下が特に好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がとりわけ好ましい。有機過酸化物の配合量がかかる範囲であれば、十分な硬化速度を有する組成物が安全に得られる傾向となる。なお、樹脂組成物に配合される有機過酸化物は、高硬化層においては、殆ど分解しており殆ど含有されないが、未硬化層においては上記した配合量の範囲で有機過酸化物が含有されるとよい。
樹脂組成物は、オルガノポリシロキサンを含むミラブル型であることが好ましい。ミラブル型の樹脂組成物は、未硬化状態において、室温(25℃)で自己流動性がない非液状(例えば、固体状又はペースト状)ではあるが、後述する混練機によって均一に混合できる。本フィルムにおいて、ミラブル型の樹脂組成物を使用することで、積層フィルムの場合に、樹脂組成物を中間層、又は最表裏層に加工する際の生産性が良好となる。
また、樹脂層を形成する樹脂組成物は、上記の通り、樹脂としてシリコーン樹脂(オルガノポリシロキサン)以外の樹脂を使用してもよく、その場合にも、最表裏層は、例えば、樹脂と架橋剤を含有する樹脂組成物を、ゲル分率が所望の範囲内となるように硬化してなる層であるとよい。また、中間層は、同様に樹脂と架橋剤を含有する樹脂組成物から形成されるとよいが、この際、樹脂組成物は、ゲル分率が上記した所定の範囲内となるように、未硬化、又は硬化していても半硬化の状態とするとよい。
本フィルムを構成する樹脂層は、シリカ系充填材などの充填材を含有してもよい。本フィルムは、充填材を含有させることで、フィルムの貯蔵弾性率や、引張破断伸度等の機械物性を適切な範囲としやすくなる。また、充填材を使用することで、樹脂組成物の粘度や硬度を調整しやすく、樹脂組成物の流動性や二次加工性のバランスも最適化しやすくなる。さらに、音響部材の設計や音響特性に合わせて硬度を適宜調整しやすくなるといった利点がある。
なお、充填材は、ゲル分率の測定においてはゲル分の一部を構成し、各層のゲル分率は、充填材を含有することで高くなる。充填材を含有することで、ゲル分率が高くなっても、架橋することでゲル分率が高くなる場合と同様に、各層の硬度を高めることができる。
シリカ系充填材としては、例えば煙霧質シリカ、又は沈降性シリカ等が挙げられ、シランカップリング剤で表面処理されたシリカ系充填材でもよい。
各層における充填材の含有量は、各層を構成する樹脂組成物全量基準で、例えば10質量%以上50質量%以下、好ましくは15質量%以上40質量%以下、より好ましくは20質量%以上35質量%以下である。また、充填材の平均粒子径は、例えば0.01μm以上、20μm以下、好ましくは0.1μm以上、10μm以下、より好ましくは0.5μm以上、5μm以下である。充填材の平均粒子径は、レーザー光回折法等による粒度分布測定装置を用い、メジアン径(D50)として測定することができる。
本発明では、樹脂層を形成するための樹脂組成物は、効果を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、染料、難燃剤、耐衝撃性改良剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
本フィルムが積層フィルムの場合に、各層を形成するための樹脂組成物は、互いに同じ組成を有していてもよいが、異なる組成を有してもよい。なお、ここでいう樹脂組成物の組成とは、樹脂組成物が硬化される前の組成を意味する。
本発明において、オルガノポリシロキサンは市販品も使用可能である。また、オルガノポリシロキサンに加え、シリカ系充填材などの添加剤を含有する混合物の市販品を使用してもよい。具体的には、信越化学工業株式会社製の商品名「KE-597-U」、「KE-594-U」なども使用できる。
[離型フィルム付きフィルム]
上記した本フィルムは、離型フィルムが付けられて、離型フィルム付きフィルムとして使用されてもよい。離型フィルム付きフィルムは、上記した本フィルムと、本フィルムの少なくとも片面に設けられた離型フィルムとを備える。
また、離型フィルム付きフィルムにおいては、本フィルムの両面に離型フィルムが設けられることが好ましい。
離型フィルムとしては、樹脂フィルムであってもよいし、樹脂フィルムの少なくとも片面が離型処理された離型層を有するフィルムであってもよい。離型フィルムは、離型層を有する場合には、離型層が本フィルムに接触するように本フィルムに積層されるとよい。
樹脂フィルムに使用される樹脂としては、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂などが例示できる。これらの中では、ポリエステル系樹脂が好ましく、中でもポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。
離型フィルムの厚さは、特に制限はないが、好ましく5μm以上100μm以下、より好ましくは7μm以上80μm以下、さらに好ましくは10μm以上50μm以下である。
本フィルムは、離型フィルムが付けられることで、離型フィルムによって保護される。したがって、輸送するときなどに本フィルムに傷が付いたりすることを防止する。なお、離型フィルムは、本フィルムを製造する際に積層される離型フィルムをそのまま使用してもよいし、製造された本フィルムに対して別途積層してもよい。
また本フィルムは、後述する通りに例えば賦形成形などにより成形されるが、離型フィルムは成形時には本フィルムから剥がされたうえで、金型などの型にセットされるとよい。その際に、本フィルムは離型フィルムから破れることなく剥離することができる。
[本フィルムの製造方法]
本フィルムは、一般的な成形法により成形することができ、例えば、押出成形等により成形することができる。単層フィルムの場合、単層フィルムを得るための樹脂組成物を下記するように混練等により得て、これを押出成形等により成形すればよい。また、離型フィルムを用いて、ラミネート成形により、離型フィルムの間に、樹脂組成物を積層して、離型フィルム付きの本フィルムを得てもよい。
単層フィルムの場合には、粘弾性特性の条件(a)を満足するように、半硬化することが好ましい。半硬化の条件としては、上記条件(a)を満足するものであれば、特に限定されない。
また、本フィルムが積層フィルムである場合、例えば、ラミネート成形、共押し等の押出成形、コーティング、又はこれらを組み合わせて成形することができる。これらの中では、最表裏層と、中間層との多層化の容易性も考慮し、ラミネート成形を利用することが好ましい。
ラミネート成形を利用する場合には、まず、最表層、最裏層を用意し、これら最表層、最裏層の間に中間層をラミネートすることで得るとよい。
より具体的に説明すると、まず、最表層及び最裏層を得るための樹脂組成物(最表層又は最裏層用樹脂組成物)、及び中間層を得るための樹脂組成物(中間層用樹脂組成物)を用意するとよい。
各樹脂組成物は、特に限定されないが、例えば樹脂組成物を構成する材料を混練することで得ることができる。混練に使用する混練機としては、単軸又は二軸押出機などの押出機、2本ローラーや3本ローラー等のカレンダーロール、ロールミル、プラストミル、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の公知の混練機を用いることができる。
混練温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整されるが、架橋(硬化)を抑制しつつ樹脂の粘度を適度に下げて混練しやすくするため、20℃以上150℃以下であることが好ましく、30℃以上140℃以下であることがより好ましく、40℃以上130℃以下であることが更に好ましく、50℃以上120℃以下であることが特に好ましく、60℃以上110℃以下であることがとりわけ好ましい。
混練時間は、樹脂組成物を構成する材料が均一に混合される程度であればよく、例えば、数分~数時間、好ましくは5分~1時間である。
以下、高硬化層/未硬化層/高硬化層の2種3層のフィルムの製造方法について説明する。
上記のようにして用意した最表層又は最裏層用の樹脂組成物は、一般的な方法で離型フィルムの上に積層して積層体を得て、その後、積層体を加熱などして、樹脂組成物を硬化させるとよい。これにより、離型フィルムの上に最表層又は最裏層が積層されてなる積層体が得られる。
なお、該積層体が離型処理面を有する場合、最表裏層用の樹脂組成物は、離型フィルムの離型処理面に積層されるとよい。
次に、ラミネート成形により、上記積層フィルムの間に、中間層用樹脂組成物から形成される中間層を積層して本フィルムを得るとよい。具体的には、中間層用樹脂組成物を未硬化又は半硬化の状態で、例えば一対のロール間において、二方向から繰り出された積層フィルムの間に投入する。ここで、中間層用樹脂組成物は、例えば、押出機などを使用してTダイなどから押し出すことで、積層フィルム間に投入するとよい。また、各積層フィルムは、最表層及び最裏層が内側となり、これらが互いに対向するように繰り出されるとよい。
そして、必要に応じてロールの間隙にて厚みを調整し、積層フィルムの間に、未硬化又は半硬化状態の中間層が形成された積層体が得られる。該積層体は、離型フィルム/最表層/中間層/最裏層/積層フィルムの積層構造を有するとよく、上記した離型フィルム付きフィルムとなる。
一方、未硬化層/高硬化層/未硬化層の態様の場合には、最初に押出成形等で単層フィルムを得ておき、これを架橋硬化して、高硬化層用の単層フィルムを用意する。次いで、該高硬化層の両面に、未硬化層用の樹脂組成物を塗工することで、本態様のフィルムを製造することができる。
[成形品]
本フィルムは、金型などの型により成形し、かつ硬化されることで成形品に成形することができ、典型的には型により賦形成形して各種の成形品に成形するとよい。硬化は、本フィルムの特性に応じて行うとよく、加熱、光照射、湿気付与又はこれらの組み合わせで行うとよいが、加熱により行うことが好ましい。本フィルムは、振動板用フィルムであり、成形品は振動板を構成する。
本フィルムから成形品を得る場合には、少なくとも以下の工程1及び工程2を行うことが好ましい。
工程1:本フィルムを加熱して型により成形し、かつ本フィルムを硬化させる工程
工程2:成形かつ硬化された本フィルム(すなわち、成形品)を型から剥がす工程
以下、各工程についてより詳細に説明する。
(工程1)
工程1では、本フィルムを加熱して型により成形し、かつ本フィルムを硬化して成形品を成形する。成形品は、型により賦形成形されるとよく、それにより、所望の形状に成形される。工程1における成形は、特に限定されず、真空成形、圧空成形、プレス成形等のいずれかの成形方法により行うとよいが、これらの中では、成形がより簡便な点からプレス成形が好ましい。
型としては、成形方法に応じた型を用意すればよいが、型には、製造される成形品の形状に応じた凹凸等を設けるとよい。型としては、典型的には金属製の型(金型)を使用するが、樹脂製の型でもよい。例えば後述のとおり成形品(振動板)がドーム形状又はコーン形状の少なくともいずれかを有するならば、型にはドーム形状又はコーン形状に対応した凹凸を設けるとよい。また、成形品(振動板)が表面にタンジェンシャルエッジを有する場合には、型にはタンジェンシャルエッジに応じた凹凸を設けるとよい。
本フィルムは、上記の通り、離型フィルムが付けられることがあるが、本フィルムは、上記の通り離型フィルムが剥がされたうえで、型にセットされるとよい。
工程1では、加熱した本フィルムを型によって賦形すればよく、例えば、型上に配置した本フィルムを加熱しつつ型により賦形してもよいし、予め加熱した本フィルムを型上に配置し、その後型により賦形してもよいし、これらを組み合わせてもよい。また、本フィルムは、いかなる方法で加熱してもよく、例えば、型上に配置したフィルムを加熱する場合には、型を加熱しその伝熱で加熱してもよいし、他の方法で加熱してもよい。
賦形又は硬化時の加熱温度は180℃以上260℃以下であることが好ましく、190℃以上250℃以下であることがより好ましく、200℃以上240℃以下であることが更に好ましい。賦形又は硬化時の温度がかかる範囲であれば、本フィルムが熱で溶融変形しない範囲で十分な速度で硬化が可能となる傾向がある。
賦形時間は、1秒以上5分以下であることが好ましく、5秒以上4分以下であることがより好ましく、10秒以上3分以下であることが更に好ましく、20秒以上2分以下であることが特に好ましい。賦形時の熱処理時間がかかる範囲であれば、生産性を維持したまま十分に硬化させやすい傾向となる。
なお、本フィルムは、好ましくは賦形しながら硬化されるが、特に限定されず賦形後に硬化されてもよい。なお、賦形時間とは、本フィルムが型内で賦形ないし硬化されている時間をいい、賦形開始前および賦形終了後の型移動時間や、積層体を離型する際の時間は含まないものとする。
(工程2)
工程2では、工程1で成形かつ硬化された本フィルムを型から剥がし、成形品を得る。本発明では、本フィルムのゲル分率が一定値未満であるため、賦形性が高く、かつ型へのフィルムの追従性が高い。そのため、成形品は、高い成形精度で製造することができる。
また、本フィルムは、特定の粘弾性特性を有することから、形状保持性が高く、ハンドリング性が良好である。さらに、離型フィルムから剥離する際に破れることがなく、剥離することができ、フィルムの形状を維持したまま金型に容易にセットすることができる。そして、離型フィルムが積層されないことで、成形品から離型フィルムを剥がす工程が省略できるので、量産化もしやすくなる。
本発明において、上記フィルムから得られる成形品のゲル分率は、80%以上であればよい。ゲル分率が80%以上であると、音響部材に適した貯蔵弾性率と、機械強度とを有する成形品を得やすくなる。成形品のゲル分率は、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、成形品のゲル分率は、上限に関して特に限定されず、100%以下であればよいが、一般的には100%より低く、例えば、99%以下であってもよい。なお、成形品のゲル分率とは、成形品全体のゲル分率であり、成形品の厚み方向に均等にサンプリングして測定するとよい。ゲル分率の測定方法の詳細は上記の通りである。
[フィルムの用途]
本発明のフィルムは、上記の通り、音響部材に好適に使用することができる。本発明の音響部材は、本フィルムを硬化してなるものであり、具体的には上記した成形品よりなるとよい。音響部材は、振動板、具体的にはスピーカー振動板であることがより好ましく、特に携帯電話等のマイクロスピーカー振動板として好適に使用できる。
本フィルムは、適宜成形されることで振動板などの各種の音響部材となるものである。
音響部材は、例えば、少なくとも一部がドーム形状やコーン形状などを有するとよい。また、音響部材は、表面にタンジェンシャルエッジを有してもよい。ドーム形状またはコーン形状を有し、あるいは、タンジェンシャルエッジを有する場合には、音響部材は、好ましくは振動板、より好ましくはスピーカー振動板に使用される。
(振動板)
振動板についてより詳細に説明すると、振動板の形状は特に制限されず、任意であり、円形状、楕円形状、オーバル形状等が選択できる。また、振動板は、一般的に、電気信号などに応じて振動するボディと、ボディの周囲を囲むエッジとを有する。振動板のボディは、通常、エッジにより支持される。振動板の形状は、上記のとおりドーム状、コーン状でもよいし、これらを組み合わせた形状でもよいし、振動板に使用されるその他の形状でもよい。
本フィルムは、音響部材の少なくとも一部を形成すればよく、例えば、振動板のボディ又はエッジが本フィルムにより形成され、振動板のエッジ又はボディが別の部材により形成してもよい。もちろん、ボディ及びエッジの両方が、本フィルムにより一体的に形成されてもよく、振動板全体が、本フィルムにより形成されてもよい。
図1は、本発明の一実施形態に係る振動板1の構造を示す図であり、平面視で円形の振動板1を、円の中心線を通る面で切断した断面図である。振動板1はマイクロスピーカー用振動板である。図1に示すように、振動板1は、ドーム部(ボディ)1aを中心に、ボイスコイル2に取り付ける凹嵌部1b、周縁部(エッジ)1c、および、その外周にフレーム等に貼り付ける外部貼付け部1dを有する。
図2は、本発明の他の実施形態に振動板11の構造を示す図であり、平面視で円形の振動板11を、円の中心線を通る面で切断した断面図である。振動板11はマイクロスピーカー用振動板である。図2に示すように、振動板11は、ドーム形状に加工されたドーム部(ボディ)11aを中心に、ボイスコイル2に取り付ける凹嵌部11b、コーン形状に加工されたコーン部11j、および、周縁部(エッジ)11cを有する。振動板11に例示するように、振動板は、一部がドーム形状に加工され、且つ、該一部を除く他の一部がコーン形状に加工されていてもよい。なお、振動板11は、それぞれ周縁部11cを直接フレーム等に取り付けてもよく、他の部材を介してフレーム等に取り付けてもよい。
振動板の表面には、上記のとおり、タンジェンシャルエッジを付与してもよい。タンジェンシャルエッジは、例えば、横断面形状がV字状の溝などにより構成されるとよい。図3には、本発明の他の実施形態に係る振動板21の平面図を示す。振動板21は、円形のドーム部(ボディ)21aの外周縁部に、複数のタンジェンシャルエッジ21eが付与されたタンジェンシャルエッジ部21gと、タンジェンシャルエッジ部21gの外周に配置された複数のタンジェンシャルエッジ21fが付与されたタンジェンシャルエッジ部21hを有する。なお、図3では、径方向に沿って2つのタンジェンシャルエッジ部が設けられる例を示すが、タンジェンシャルエッジ部は径方向に沿って1つのみであってもよいし、3つ以上設けられてもよい。
なお、振動板は、上記の通りスピーカー振動板、中でもマイクロスピーカー振動板であることが好ましい。マイクロスピーカー振動板として好適に使用する観点から、振動板の大きさは、最大径が25mm以下、好ましくは20mm以下であり、また最大径が5mm以上のものが好適に用いられる。なお、最大径とは振動板の形状が円形状の場合には直径、楕円形状やオーバル形状の場合には長径を採用するものとする。
振動板は、本フィルム単体により成形されてもよいし、本フィルムと他の部材との複合材により成形されてもよい。例えば、上記のとおりエッジまたはボディのいずれかを他の部材により形成してもよい。
さらに、振動板の二次加工適性や防塵性あるいは、音響特性の調整や意匠性向上等のために、振動板の表面にさらに帯電防止剤をコーティングしたり、金属を蒸着したり、スパッタリングしたり、着色(黒色や白色など)したりするなどの処理を適宜行ってもよい。さらに、アルミニウムなどの金属との積層、あるいは、不織布との複合化などを適宜行ってもよい。
(音響変換器)
本発明の音響変換器は、上記した音響部材、好ましくは振動板を備える音響変換器である。音響変換器としては、典型的には電気音響変換器であり、スピーカー、レシーバ、マイクロホン、イヤホン等が挙げられる。音響変換器は、これらの中では、スピーカーであることが好ましく、携帯電話等のマイクロスピーカーが好適である。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
[評価及び測定方法]
本実施例では、以下のとおりに各種物性の測定及びフィルムの評価を行った。
(1)貯蔵弾性率E’
各実施例、比較例で得られた硬化前及び硬化後の本フィルムから4mm×8cmの試験片を切り出し、測定試料として得た。その測定試料を用いて、JIS K7244-4:1999に準拠して、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200(アイティー計測制御株式会社製)」を用いて測定した。プレス成形前の本フィルムについては測定モードを引張で、周波数10Hzにて、歪み0.1%、温度範囲-100~300℃、加熱速度3℃/minで昇温させ、20℃の貯蔵弾性率を測定した。また、プレス成形後のフィルムについては周波数10Hz、歪み0.1%、温度範囲-100~300℃、加熱速度3℃/minで昇温させ、20℃及び100℃における貯蔵弾性率を測定した。なお、測定はTDについて行った。
(2)ゲル分率の測定
明細書記載の方法に従って、硬化前の本フィルム全体のゲル分率、硬化前の本フィルムの最表裏層のゲル分率、及び硬化後の本フィルム全体のゲル分率を測定した。本フィルム全体のゲル分率を測定する際には、サンプリングをフィルムの厚み方向と平行する方向に切断を行った。また、硬化前の本フィルムの中間層については、硬化前の本フィルム全体及び最表裏層のゲル分率と、層厚みの比から計算することで求めた。
(3)ハンドリング性
(3-1)破れの有無
各実施例、比較例で本フィルムを作製する際、最表裏面に離型フィルムを積層した状態で作製した。得られた硬化前の本フィルムから最表裏面上の離型フィルムを手で剥がす工程において、破れの有無を評価した。フィルムが破れることなく離型フィルムを剥がせたものを評価「〇」、離型フィルムにとられてフィルムの一部に破れがあったものを評価「×」とした。
なお、破れの有無以外の各種評価及び測定の際には離型フィルムを剥がした状態の本フィルムを用いた。
(3-2)形状保持性
各実施例、比較例で得られた硬化前の本フィルムについて形状保持性を評価した。離型フィルムから本フィルムを剥がして各種評価や測定に用いる際に、形状が保持されているため容易に操作できたものを評価「〇」、形状が保持できず操作の過程で撓んでフィルム自身が絡まったり切れたりしたものを評価「×」とした。
(4)引張破断伸度
JIS K7161:2014に準じた方法により、引張速度200mm/分、23℃の環境下で、TDについて、硬化後の本フィルムが破断したときの伸度を測定した。
(5)成形性・賦形性
各実施例及び比較例で得られた本フィルムから7cm×10cmほどの試験片を切り出し、評価試料とした。予め240℃に加熱したタンジェンシャルエッジがついたドーム形状の振動板用の金型に評価試料を挟み込んで0.6MPaの圧力でプレスし、加圧した状態で30秒保持してから試料を金型から取り出した。
(6)金型への貼り付き性
上記の成形性・賦形性の評価と同様に各実施例及び比較例で得られた本フィルムから7cm×10cmほどの試験片を切り出し、評価試料とした。予め240℃に加熱した振動板用の金型に評価試料を挟み込んで0.6MPaの圧力でプレスし、加圧した状態で30秒保持してから試料を金型から取り出した。
実施例1
離型フィルムとして、表面粗さ(Ra)が0.88μmのPETフィルム(1)と表面粗さ(Ra)が1.9μmのPETフィルム(2)を用意した。PETフィルム(1)とPETフィルム(2)の間に厚さ20μmのシリコーンゴム(商品名「TSE2571-5U」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)をラミネートし、硬化させた積層フィルムを準備し、PETフィルム(1)を剥離し硬化済みシリコーンを露出させた。
オルガノポリシロキサンとシリカを含む混合物(商品名「KE-597-U」、信越化学工業株式会社製)100質量部と、有機過酸化物(商品名「C-8B」、信越化学工業株式会社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、有機過酸化物を約40質量%含有)1質量部を、プラネタリーミキサーを用いて、温度90℃で10分間混練して、ミラブル型の樹脂組成物(1)を得た。
上記で得られた2枚の積層フィルムを、シリコーン露出面が内側になるように径100mmの2本のカレンダーロールに沿って供給し、カレンダーロール間で積層フィルムの間に、樹脂組成物(1)を投入して、室温25℃、ロール温度90℃でロールにバンクを形成させ、中間層の厚みが100μmとなるように、離型フィルム/最表層/中間層/最裏層/離型フィルムからなる離型フィルム付きフィルムを得た。また、最表層及び最裏層の厚みは20μmであった。
2枚の離型フィルムは、上記条件で剥がしたところ、破れることなく剥がれた。また、形状保持性も良好であった。
離型フィルムを剥がした本フィルムについて、ゲル分率、20℃での貯蔵弾性率を測定した。測定結果を表1に示す。
賦形成形により成形品を製造することを想定して、上記で得られた本フィルムを220℃で2分間加熱しながら圧力0.2MPaで2枚の平板よりプレス成形する簡易的な方法で硬化させた。得られた硬化後の本フィルムについて、ゲル分率(フィルム全体)、20℃と100℃での貯蔵弾性率、及び引張破断伸度を測定した。測定結果を表1に示す。
実施例2
積層フィルムの代わりに、実施例1で使用した離型フィルム(PETフィルム(2))単体を、径100mmの2本のカレンダーロールに沿って供給し、カレンダーロール間で離型フィルムの間に、樹脂組成物(1)を投入して、室温25℃、ロール温度90℃でロールにバンクを形成させ、樹脂層の厚みが100μmとなるように、離型フィルム/単体フィルム/離型フィルムからなる離型フィルム付きフィルムを得た。
該離型フィルム付きフィルムを150℃で2分間加熱しながら圧力0.2MPaで2枚の平板よりプレス成形する簡易的な方法で半硬化させ、表1に記載の貯蔵弾性率、ゲル分率を有するフィルムを得た。2枚の離型フィルムは、上記条件で剥がしたところ、破れることなく剥がれた。また、形状保持性も良好であった。
離型フィルムを剥がした本フィルムについて、ゲル分率、20℃での貯蔵弾性率を測定した。測定結果を表1に示す。
また、実施例1と同様の条件でプレス硬化させ、得られた硬化後の本フィルムについて、ゲル分率(フィルム全体)、20℃と100℃での貯蔵弾性率、及び引張破断伸度を測定した。
比較例1
実施例2において、半硬化させないこと以外は実施例2と同様にして、表1に記載のゲル分率を有するフィルムを得た。
得られた離型フィルム付きフィルムから2枚の離型フィルムを、上記条件で剥がそうとしたところ、フィルムが一部破れた。そのため、貯蔵弾性率E’については、明確な数値を得ることができなかった。
本フィルムを硬化させて上記方法にて、硬化後の物性について評価した。硬化方法としては、賦形成形を想定して、220℃で2分間加熱しながら圧力0.2MPaで2枚の平板よりプレス成形する簡易的な方法で、硬化させた。得られた硬化後のフィルムについて、ゲル分率、、20℃と100℃での貯蔵弾性率、及び引張破断伸度を測定した。
下記表1に、実施例1、2及び比較例1における評価測定結果を示す。
Figure 2023023667000002
実施例1の中間層と最表裏層を有し、最表裏層が高硬化層である離形フィルム付きフィルムは、破れることなく離型フィルムから剥離することができた。また、最表裏層が比較的硬い層であったため、離型フィルムを剥がした後でもフィルムの形状が適切に保持されてハンドリング性に優れる。
さらに、硬化後のフィルムが、上記した(b)~(d)の粘弾性特性を満たすため、実施例1のフィルムによって振動板を成形すると、音質及び再生性などの音響特性に優れることが期待できる。また、硬化後のフィルムは、引張破断伸度が高く、長時間の振動による破断が起こりにくく、耐久性に優れた音響部材を提供できることも期待できる。
また、半硬化の単層フィルムである実施例2の離形フィルム付きフィルムは、、破れることなく離型フィルムから剥離することができた。また、該単層フィルムは比較的硬い層であり、離型フィルムを剥がした後でもフィルムの形状が適切に保持されてハンドリング性に優れる。
実施例1、2で得られた本フィルムについて、上記方法で成形性・賦形性を評価したところ、実用性に耐え得る程度の成形性・賦形性を示した。
また、実施例1、2で得られた本フィルムは、金型への貼り付き性評価においても、金型から評価試料を取り出す際に、評価試料が金型に貼りつかず容易に取り出せた。
これに対して、比較例1の比較的柔軟である離形フィルム付きフィルムは、離型フィルムを剥がした際に破れが生じた。また、形状を適切に保持しにくく、ハンドリング性に劣っていた。
また、比較例1のフィルムは、成形性・賦形性を評価したところ、実用性に耐え得る程度の成形性・賦形性を示した。しかし、金型への貼り付き性評価においては、評価試料が金型に貼りつき引っ掛かりがあり、不具合を生じた。

Claims (11)

  1. 硬化性を有するフィルムであって、下記(a)の粘弾性特性を有する音響部材用フィルム。
    (a)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’が0.1MPa以上500MPa以下。
  2. 熱硬化性を有する、請求項1に記載の音響部材用フィルム。
  3. 架橋構造を有する、請求項1または2に記載の音響部材用フィルム。
  4. ゲル分率が90%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の音響部材用フィルム。
  5. シリコーンフィルムである、請求項1~4のいずれか1項に記載の音響部材用フィルム。
  6. 硬化後の状態で、下記(b)~(d)の粘弾性特性を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の音響部材用フィルム。
    (b)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’20が0.1MPa以上500MPa以下。
    (c)測定温度100℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’100が0.1MPa以上500MPa以下。
    (d)上記のE’100/E’20が0.4~1.0。
  7. 請求項1~6のいずれか1項に記載の音響部材用フィルムと、前記音響部材用フィルムの少なくとも片面に設けられた離型フィルムとを備える、離型フィルム付音響部材用フィルム。
  8. 請求項1~6のいずれか1項に記載の音響部材用フィルムを硬化してなる音響部材。
  9. 請求項1~6のいずれか1項に記載の音響部材用フィルムを型に配置させて、熱成形させてなる積層体。
  10. 請求項9に記載の積層体において、型から剥がされてなる、音響部材。
  11. 請求項8又は10に記載の音響部材を備えた音響変換器。

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