JP2023017697A - 非水電解質二次電池用正極及びその製造方法 - Google Patents

非水電解質二次電池用正極及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】優れた出力特性を維持しつつ、保存特性により優れた非水電解質二次電池を構成可能な非水電解質二次電池用正極の製造方法を提供する。【解決手段】平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であり、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、コバルトのモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を準備することと、リチウム遷移金属複合酸化物と、コバルト化合物とを接触させて付着物を得ることと、付着物を、700℃を超えて1100℃未満の温度で熱処理して熱処理物を得ることと、熱処理物と、導電助剤と、結着剤とを含む正極組成物を得ることと、正極組成物を集電体上に付与し、加圧して、密度が2.7g/cm3以上3.9g/cm3以下の活物質層を集電体上に形成することと、を含む。【選択図】図1

Description

本開示は、非水電解質二次電池用正極及びその製造方法に関する。
電気自動車等の大型動力機器用途の非水電解質二次電池用正極活物質には、高い出力特性が求められている。高い出力特性を得るには、多くの一次粒子が凝集した二次粒子の構造を有する正極活物質が有効とされている。しかしながら、そのような正極活物質では、電極を形成する際の加圧処理、充放電時の膨張収縮等により二次粒子に割れが生じる場合がある。これに関連して単一粒子又は1つの二次粒子を構成する一次粒子の数を少なくするようにしたリチウム遷移金属複合酸化物粒子を含む正極活物質の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を芯材として、コバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物で被覆する技術が提案され、容量特性を維持しつつ、安定性が改善されるとされている(例えば、特許文献2参照)。
特開2017-188443号公報 特開2006-019229号公報
本発明の一態様は、優れた出力特性を維持しつつ、保存特性により優れた非水電解質二次電池を構成可能な非水電解質二次電池用正極及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の第一態様は、非水電解質二次電池用正極の製造方法である。この製造方法は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であり、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を準備することと、リチウム遷移金属複合酸化物と、コバルト化合物とを接触させて付着物を得ることと、付着物を、700℃を超えて1100℃未満の温度で熱処理して熱処理物を得ることと、熱処理物と、導電助剤と、結着剤とを含む正極組成物を得ることと、正極組成物を集電体上に付与し、加圧して、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下の活物質層を集電体上に形成することと、を含む。
本発明の第二態様は、集電体と、集電体上に配置される活物質層とを備える非水電解質二次電池用正極である。この活物質層は、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下であり、正極活物質と、導電助剤と、結着剤とを含む。正極活物質は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であって、層状構造を有し、少なくともニッケル及びコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0.01以上0.5未満である。活物質層を構成するリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子は、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が、粒子表面からの深さが500nmである第1領域よりも粒子表面からの深さが10nm以下の第2領域の方が大きい。
本発明の一態様によれば、優れた出力特性を維持しつつ、保存特性により優れた非水電解質二次電池を構成可能な非水電解質二次電池用正極及びその製造方法を提供することができる。
参考例1に係る正極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)画像の一例である。 参考例8に係る正極活物質のSEM画像の一例である。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、非水電解質二次電池用正極及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す非水電解質二次電池用正極及びその製造方法に限定されない。
非水電解質二次電池用正極の製造方法
非水電解質二次電池用正極の製造方法は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であり、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を準備することと、リチウム遷移金属複合酸化物と、コバルト化合物とを接触させて付着物を得ることと、付着物を、700℃を超えて1100℃未満の温度で熱処理して熱処理物を得ることと、熱処理物と、導電助剤と、結着剤とを含む正極組成物を得ることと、正極組成物を集電体上に付与し、加圧して、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下の活物質層を集電体上に形成することと、を含む。
50/DSEMが1以上4以下であるという単一粒子又は1つの二次粒子を構成する一次粒子の数が少ないリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子(以下、合わせて単に「単粒子」ともいう)に、コバルト化合物を付着させて、特定の温度で熱処理することで、非水電解質二次電池において優れた出力特性を達成できる正極活物質が製造される。これは例えば、表面に付着したコバルト化合物に由来して、リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子の表面近傍にコバルトが高濃度で存在するためと考えることができる。
正極活物質として特定のリチウム遷移金属複合酸化物を含み、導電助剤および結着剤を含んで、特定の密度を有して形成される活物質層を備える電極を正極として用いて構成される非水電解質二次電池は、優れた出力特性を維持しつつ、保存特性に優れる。特定のリチウム遷移金属複合酸化物は、単粒子であって、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0.01以上0.5未満である。単粒子であるリチウム遷移金属複合酸化物の表面にコバルトが高濃度となる領域が存在する場合には、リチウム遷移金属複合酸化物に含まれるアルカリ成分と電解液とが直接反応することで発生するガスを低減できる場合があると考えられる。また、一次粒子が多数凝集した二次粒子の場合には、正極作製時のプレスによる粒子割れが生じることで、電解液との接触によるガス発生の増大が懸念される。一方で単粒子であると粒子割れが起こりにくいため、活物質層の密度を特定の密度まで大きくすることで、電解液との反応によるガス発生をさらに低減できると考えられる。本開示の一態様では、特定の密度で活物質層が形成されることで、導電助剤と単粒子表面との接触面積もしくは、単粒子表面どうしの接触面積が増加するため、相対的に電解液と単粒子表面とが直接接触する箇所が少なくなり、ガスの発生を低減でき、保存特性が向上すると考えられる。
準備工程
準備工程では、D50/DSEMが1以上4以下であり、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0以上0.5未満である組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を準備する。リチウム遷移金属複合酸化物は、少なくともリチウムとニッケルとコバルトとを含み、マンガン、アルミニウム等からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を更に含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物は、市販品から適宜選択してもよく、所望の組成及び構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を製造して準備してもよい。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば0.3以上1未満である。リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比の下限は、好ましくは0.31以上であり、より好ましくは0.32以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比の上限は、好ましくは0.98以下であり、より好ましくは0.8以下であり、特に好ましくは0.6以下である。ニッケルのモル比が上述した範囲であると、非水電解質二次電池において、高電圧時の充放電容量とサイクル特性の両立を達成することができる。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば0以上0.5未満であり、充放電容量の点から、好ましくは0.15以上0.45以下であり、より好ましくは0.3以上0.4以下である。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物は、マンガン及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素Mを更に含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物が金属元素Mを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するMのモル数の比は、例えば0より大きく0.5未満であり、安全性の点から、好ましくは0.15以上0.45以下であり、より好ましくは0.3以上0.4以下である。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物は、ホウ素、ナトリウム、マグネシウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、スズ、バリウム、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリウム、タンタル、タングステン、ビスマス等からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素Mを更に含んでいてもよい。リチウム以外の金属の総モル数に対するMのモル数の比は、例えば0以上0.1以下であり、好ましくは0.001以上0.05以下である。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば0.95以上1.5以下であり、好ましくは1以上1.3以下である。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物の組成において、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル数の比は、例えば、ニッケル:コバルト:マンガン=(0.3から0.95):(0から0.5):(0から0.5)であり、好ましくは(0.3から0.6):(0.15から0.45):(0.15から0.45)であり、より好ましくは(0.3から0.4):(0.3から0.4):(0.3から0.4)である。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、例えば下式(1)で表される組成であってよい。なお、ここでいうリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、リチウム遷移金属複合酸化物全体としての組成を意味する。
LiNiCo (1)
0.95≦p≦1.5、0.3≦x<1、0≦y<0.5、0≦z<0.5、0≦w≦0.1、x+y+z+w≦1、MはAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、MはB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。0.9≦x+y+z+wであってよい。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば4個以下の一次粒子からなる、いわゆる単粒子の形態であってよい。リチウム遷移金属複合酸化物は、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の、電子顕微鏡(SEM)観察に基づく平均粒径DSEMに対する比D50/DSEMが1以上4以下であってよい。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物において、D50/DSEMが1の場合、単一粒子であることを示し、1に近づくほど、構成する一次粒子の数が少ないことを示す。D50/DSEMは、耐久性の観点から、1以上4以下が好ましく、出力密度の観点から、3.5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、特に2以下が好ましい。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物においては、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、耐久性の観点から、例えば0.1μm以上20μm以下であり、出力密度及び極板充填性の観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、また、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下が更に好ましく、5μm以下が特に好ましい。
電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定される一次粒子の球換算径の平均値である。平均粒径DSEMは具体的には以下のようにして求められる。走査型電子顕微鏡を用い、粒径に応じて倍率が1000倍から10000倍の範囲で観察する。粒子の輪郭が確認でき、その大きさがリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子の体積平均粒径(D50)±1μm以内である一次粒子を100個選択する。選択された粒子について画像処理ソフトウエアを用いて、一次粒子の輪郭をなぞることで輪郭長を求める。輪郭長から球換算径を算出し、得られた球換算径の算術平均値として、平均粒径DSEMが求められる。
また準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒径D50は、例えば1μm以上30μm以下であり、1.5μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、また出力密度の観点から10μm以下が好ましく、5.5μm以下がより好ましい。
50%粒径D50は、レーザー回折式粒径分布測定装置を用いて、湿式条件で測定される体積基準の累積粒度分布において、小径側からの体積累積50%に対応する粒径として求められる。同様に、後述する90%粒径D90及び10%粒径D10は、それぞれ小径側からの累積90%及び累積10%に対応する粒径として求められる。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物の体積基準による累積粒度分布における90%粒径D90の10%粒径D10に対する比は、粒度分布の広がりを示し、値が小さいほど粒子の粒径がそろっていることを示す。D90/D10は、例えば4以下であってよく、出力密度の観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。D90/D10の下限は、例えば1.2以上であってよい。
準備工程にて準備されるD50/DSEMが1以上4以下であるリチウム遷移金属複合酸化物については、例えば、特開2017-188443号公報(米国公開特許2017-0288221)、特開2017-188444号公報(米国公開特許2017-0288222)、特開2017-188445号公報(米国公開特許2017-0288223)等を参照することができる。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物は組成にニッケルを含む。リチウム遷移金属複合酸化物は、非水電解質二次電池における初期効率の観点から、X線回折法により求められるニッケル元素のディスオーダーが4.0%以下であることが好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましい。ここで、ニッケル元素のディスオーダーとは、本来のサイトを占有すべき遷移金属イオン(ニッケルイオン)の化学的配列無秩序(chemical disorder)を意味する。層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物においては、Wyckoff記号で表記した場合に3bで表されるサイト(3bサイト、以下同様)を占有すべきアルカリ金属イオンと3aサイトを占有すべき遷移金属イオンの入れ替わりが代表的である。ニッケル元素のディスオーダーが小さいほど、初期効率が向上するので好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物におけるニッケル元素のディスオーダーは、X線回折法により求めることができる。リチウム遷移金属複合酸化物について、CuKα線によりX線回折スペクトルを測定する。組成モデルを(Li1-dNi)(NiCoMn)O(x+y+z=1)とし、得られたX線回折スペクトルに基づいて、リートベルト解析により構造最適化を行う。構造最適化の結果として算出されるdの百分率をニッケル元素のディスオーダーの値とする。
準備工程にて準備されるリチウム遷移金属複合酸化物は、具体的には以下のようにして調製することができる。リチウム遷移金属複合酸化物の調製方法は、例えば、前駆体を準備する前駆体準備工程と、前駆体とリチウム化合物とからリチウム遷移金属複合酸化物を合成する合成工程とを含んでいてよい。
前駆体準備工程では、ニッケル及びコバルトを含む複合酸化物(以下、単に複合酸化物ともいう)を含む前駆体を準備する。前駆体は、市販品から適宜選択して準備してもよく、常法により所望の構成を有する複合酸化物を調製して準備してもよい。所望の組成を有する複合酸化物を得る方法としては、原料化合物(水酸化物、炭酸化合物等)を目的組成に合わせて混合し熱処理によって複合酸化物に分解する方法、溶媒に可溶な原料化合物を溶媒に溶解し、温度調整、pH調整、錯化剤投入等で目的の組成を有する沈殿物を得て、それら沈殿物の熱処理によって複合酸化物を得る共沈法などを挙げることができる。以下、複合酸化物の製造方法の一例について説明する。
共沈法により複合酸化物を得る方法には、所望の構成比で金属イオンを含む混合溶液のpH等を調整して種晶を得る種生成工程と、生成した種晶を成長させて所望の特性を有する複合水酸化物を得る晶析工程と、得られる複合水酸化物を熱処理して複合酸化物を得る工程とを含むことができる。このような複合酸化物を得る方法の詳細については、例えば、特開2003-292322号公報、特開2011-116580号公報(米国公開特許2012-270107)等を参照することができる。
種生成工程では、所望の構成比でニッケルイオン及びコバルトイオンを含む混合溶液のpHを、例えば11から13に調整することで種晶を含む液媒体を調製する。種晶は例えば、ニッケル及びコバルトを所望の比率で含む水酸化物を含むことができる。混合溶液は、ニッケル塩及びコバルト塩を所望の割合で水に溶解することで調製できる。ニッケル塩及びコバルト塩としては例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩等を挙げることができる。混合溶液は、ニッケル塩及びコバルト塩に加えて、必要に応じて他の金属塩を所望の構成比で含んでいてもよい。種生成工程における温度は例えば40℃から80℃とすることができる。種生成工程における雰囲気は、低酸化性雰囲気とすることができ、例えば酸素濃度を10体積%以下に維持することができる。
晶析工程では、生成した種晶を成長させて所望の特性を有するニッケル及びコバルトを含む沈殿物を得る。種晶の成長は例えば、種晶を含む液媒体に、そのpHを例えば7から12.5、好ましくは7.5から12に維持しつつ、ニッケルイオン及びコバルトイオンと必要に応じて他の金属イオンとを含む混合溶液を添加することで行うことができる。混合溶液の添加時間は例えば1時間から24時間であり、好ましくは3時間から18時間である。晶析工程における温度は例えば40℃から80℃とすることができる。晶析工程における雰囲気は種生成工程と同様である。種生成工程及び晶析工程におけるpHの調整は、硫酸水溶液、硝酸水溶液等の酸性水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水等のアルカリ性水溶液などを用いて行うことができる。
複合酸化物を得る工程では、晶析工程で得られる複合水酸化物を含む沈殿物を、熱処理することにより複合酸化物を得る。複合酸化物を得る工程における熱処理は例えば500℃以下の温度で複合水酸化物を加熱して行うことができ、好ましくは350℃以下で加熱することができる。また熱処理の温度は例えば100℃以上であり、好ましくは200℃以上である、熱処理の時間は例えば0.5時間から48時間とすることができ、好ましくは5時間から24時間である。熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素を含む雰囲気であってもよい。熱処理は、例えばボックス炉、ロータリーキルン炉、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉等を用いて行うことができる。
得られる複合酸化物は、ニッケル及びコバルトに加えて他の金属元素Mを含んでいてもよい。他の金属元素Mとしては、Mn、Al等が挙げられ、これらからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、少なくともMnを含むことがより好ましい。複合酸化物が、他の金属を含む場合、沈殿物を得る混合溶液に、所望の構成で他の金属イオンを含有させればよい。これにより、沈殿物にニッケル及びコバルトと他の金属を含有せしめ、沈殿物を熱処理することで所望の組成を有する複合酸化物を得ることができる。
複合酸化物の平均粒径は、例えば2μm以上30μm以下であり、好ましくは3μm以上25μm以下である。複合酸化物の平均粒径は、体積平均粒径であり、レーザー散乱法によって得られる体積基準の粒度分布における小径側からの体積積算値が50%となる値である。
合成工程では、複合酸化物とリチウム化合物とを混合して得られるリチウムを含む混合物を熱処理して熱処理物を得る。得られる熱処理物は、層状構造を有し、ニッケル及びコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む。
複合酸化物と混合するリチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウム等を挙げることができる。混合に用いるリチウム化合物の粒径は、体積基準による累積粒度分布の50%平均粒径として、例えば0.1μm以上100μm以下であり、2μm以上20μm以下が好ましい。
混合物における複合酸化物を構成する金属元素の総モル数に対するリチウムのモル数の比は例えば、0.95以上1.5以下である。複合酸化物とリチウム化合物との混合は、例えば、高速せん断ミキサー等を用いて行うことができる。
混合物は、リチウム、ニッケル及びコバルト以外の他の金属元素Mをさらに含んでいてもよい。他の金属元素Mとしては、B、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W、Bi等が挙げられ、これらからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。混合物が、他の金属を含む場合、他の金属の単体又は金属化合物を複合酸化物及びリチウム化合物と共に混合することで、混合物を得ることができる。他の金属を含む金属化合物としては、酸化物、水酸化物、塩化物、窒化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、蓚酸塩等を挙げることができる。
混合物が、他の金属を含む場合、複合酸化物を構成する金属元素の総モル数と他の金属の総モル数との比は、例えば1:0.015から1:0.1であり、1:0.025から1:0.05が好ましい。
混合物の熱処理温度は、例えば550℃以上1100℃以下であるが、600℃以上1080℃以下が好ましく、700℃以上1080℃以下がより好ましい。混合物の熱処理は、単一の温度で行ってもよいが、高電圧時における放電容量の点から複数の温度で行うことが好ましい。複数の温度で熱処理する場合、例えば、第一温度を所定時間で保持した後、さらに昇温し、第二温度を所定時間で保持することが望ましい。第一温度は、例えば850℃以上950℃以下であり、好ましくは900℃以上940℃以下である。また第二温度は、例えば980℃以上1100℃以下であり、好ましくは1000℃以上1080℃以下である。また第一温度と第二温度との差は、例えば30℃以上であり、好ましくは100℃以上であり、また例えば250℃以下であり、好ましくは180℃以下である。
単一の温度で熱処理する場合の熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下であり、5時間以上10時間以下が好ましい。また、複数の温度で熱処理する場合、第一温度での熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下であり、5時間以上10時間以下が好ましい。第二温度での熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下であり、2時間以上10時間以下が好ましい。第一温度での熱処理時間と第二温度での熱処理時間とは同じであっても、異なっていてもよい。第一温度での熱処理時間と第二温度での熱処理時間とが異なる場合、例えば第一温度での熱処理時間を第二温度での熱処理時間よりも長くすることができる。具体的には例えば、第一温度での熱処理時間を第二温度での熱処理時間の1.05から2倍とすることができ、1.1から1.5倍であることが好ましい。ここで第一温度での熱処理及び第二温度での熱処理は連続して行ってもよく、それぞれ独立して行ってもよい。第一温度での熱処理及び第二温度での熱処理を連続して行う場合、第一温度から第二温度への昇温速度は例えば、5℃/分とすることができる。
熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素を含む雰囲気であってもよい。熱処理は、例えばボックス炉、ロータリーキルン炉、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉等を用いて行うことができる。
熱処理物には、必要に応じて分散処理が行われる。強い剪断力や衝撃を伴う粉砕処理ではなく、分散処理によって焼結した一次粒子の解離を行うことで粒度分布が狭く、粒度の揃ったリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子が得られる。分散処理は乾式で行っても、湿式で行ってもよく、乾式で行うことが好ましい。分散処理は、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。分散処理の条件は、例えば分散処理後のリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子のD50/DSEMが所望の範囲、例えば1以上4以下となるように設定することができる。
例えば分散処理をボールミルで行う場合、樹脂メディアを用いることができる。樹脂メディアの材質としては、例えばウレタン樹脂やナイロン樹脂等を挙げることができる。一般的にボールミルのメディアの材質としては、アルミナ、ジルコニア等が用いられ、これらのメディアによって粒子が粉砕される。これに対して樹脂メディアを用いることで、粒子が粉砕されることなく、焼結した一次粒子の解離が行われる。樹脂メディアの大きさは、例えばφ5mmから30mmとすることができる。また胴体(シェル)としては、例えばウレタン樹脂、ナイロン樹脂等を用いることができる。分散処理の時間は、例えば3から60分間であり、10から30分間が好ましい。ボールミルによる分散処理の条件としては、所望のD50/DSEMが達成できるように、メディア量、回転もしくは振幅速度、分散時間、メディア比重等を調整すればよい。
例えば分散処理をジェットミルで行う場合、一次粒子が粉砕されずに、所望のD50/DSEMが達成できるように、供給圧、粉砕圧等を調整すればよい。供給圧は、例えば0.1から0.5MPaとすることができ、粉砕圧は、例えば0.1から0.6MPaとすることができる。以上の調製方法により、単粒子のリチウム遷移金属複合酸化物を効率よく製造することができる。
付着工程
付着工程では、準備したリチウム遷移金属複合酸化物とコバルト化合物とを接触させて、リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子の表面にコバルト化合物が付着した付着物を得る。リチウム遷移金属複合酸化物とコバルト化合物との接触は、乾式で行っても、湿式で行ってもよい。乾式で行う場合、例えば高速せん断ミキサー等を用いて、リチウム遷移金属複合酸化物とコバルト化合物とを混合して、これらの接触を行うことができる。コバルト化合物としては、例えば、水酸化コバルト、酸化コバルト、炭酸コバルト等を挙げることができる。
湿式で行う場合、リチウム遷移金属複合酸化物を、コバルト化合物を含む液媒体と接触させることでリチウム遷移金属複合酸化物とコバルト化合物との接触を行うことができる。このとき必要に応じて液媒体を撹拌してもよい。コバルト化合物を含む液媒体は、コバルト化合物の溶液であっても、コバルト化合物の分散液であってもよい。また、コバルト化合物の溶液にリチウム遷移金属複合酸化物を懸濁させ、pH調整、温度調整等によって溶液中にコバルト化合物を析出させ、リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子の表面にコバルト化合物を付着させてもよい。
溶液に含まれるコバルト化合物としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト等を挙げることができる。分散液に含まれるコバルト化合物としては、例えば水酸化コバルト、酸化コバルト、炭酸コバルト等を挙げることができる。液媒体は、例えば水を含んでいればよく、水に加えてアルコール等の水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。液媒体におけるコバルト化合物の濃度は、例えば1質量%以上8.5質量%以下とすることができる。
リチウム遷移金属複合酸化物に接触させるコバルト化合物の総量は、リチウム遷移金属複合酸化物に対して、コバルト基準で例えば、1モル%以上20モル%以下であり、好ましくは3モル%以上15モル%以下である。
リチウム遷移金属複合酸化物とコバルト化合物の接触温度は、例えば20℃以上80℃以下であり、好ましくは40℃以上80℃以下、又は40℃以上60℃以下とすることができる。また、接触時間は、例えば30分以上180分以下であり、好ましくは30分以上60分以下である。
コバルト化合物を含む液媒体と接触させた後に、必要に応じて、コバルト化合物が付着したリチウム遷移金属複合酸化物に対して濾別、水洗、乾燥等の処理を行ってもよい。また、付着するコバルト化合物の種類等に応じて、予備的な熱処理を行ってもよい。予備的な熱処理を行う場合、その温度は、例えば100℃以上350℃以下であり、好ましくは120℃以上320℃以下である。また処理時間は、例えば5時間以上20時間以下であり、好ましくは8時間以上15時間以下である。また、予備的な熱処理の雰囲気は、例えば、酸素を含む雰囲気であり、大気雰囲気であってよい。
熱処理工程
熱処理工程では、付着工程で得られる付着物を、700℃を超えて1100℃未満の所定の温度で熱処理して熱処理物を得る。得られる熱処理物は、粒子の表面近傍におけるコバルト濃度が高いリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質であり、これを用いて構成される非水電解質二次電池において、優れた出力特性を達成することができる。
熱処理に供される付着物は、リチウム化合物との混合物であってもよい。すなわち、製造方法は、熱処理工程の前に、付着物とリチウム化合物とを混合して混合物を得る混合工程を含んでいてよい。付着物をリチウム化合物とともに所定の温度で熱処理することで、非水電解質二次電池における出力特性をより向上させることができる。
付着物と混合するリチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム等を挙げることができる。リチウム化合物の添加量は、付着工程で付着させたコバルト量に対してリチウムとコバルトのモル比(Li:Co)が、例えば0.95から1.50:1、好ましくは1.00から1.30:1となるように混合する。混合は、例えば高速せん断ミキサー等を用いて行うことができる。
付着物の熱処理の温度は、例えば700℃を超えて1100℃未満である。熱処理温度の下限は、好ましくは750℃以上、より好ましくは800℃以上、特に好ましくは860℃以上である。また熱処理温度の上限は、好ましくは1080℃以下、より好ましくは1060℃以下、さらに好ましくは1020℃以下、特に好ましくは1000℃以下である。熱処理の時間は、例えば1時間以上20時間以下であり、好ましくは3時間以上10時間以下である。熱処理の雰囲気は、例えば酸素を含む雰囲気であり、大気雰囲気であってよい。
熱処理後の熱処理物は、必要に応じて、解砕、粉砕、分級操作、整粒操作等の処理を行ってもよい。
以上のようにして得られる熱処理物は、単粒子形態のリチウム遷移金属複合酸化物を含み、粒子の表面近傍においてコバルトの濃度が高くなっている。すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子においては、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が、粒子表面からの深さが500nm近傍である第1領域よりも粒子表面からの深さが10nm近傍である第2領域において大きくなっている。第1領域は粒子表面からの深さが、例えば450nmから550nmとすることができ、第2領域は粒子表面からの深さが、例えば5nmから15nmとすることができる。
正極組成物準備工程
正極組成物準備工程では、熱処理物として得られるリチウム遷移金属複合酸化物と、導電助剤と、結着剤とを含む正極組成物を得る。正極組成物は、例えば、熱処理物として得られるリチウム遷移金属複合酸化物と、導電助剤と、結着剤とを液媒体に分散・溶解することで調製することができる。
正極組成物における熱処理物の含有量は、正極組成物の全固形分に対して、例えば70質量%以上99質量%以下であり、好ましくは80質量%以上98質量%以下である。
導電助剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラック等のカーボンブラック;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素材料;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。正極組成物における導電助剤の含有量は、正極組成物の全固形分に対して、例えば0.5質量%10質量%以下であり、好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
結着剤は、例えば正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物などの熱処理物と導電助剤などとの付着、及び集電体に対する正極活物質の付着を助ける材料である。結着剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、様々な共重合体などが挙げられる。正極組成物における結着剤の含有量は、正極組成物の全固形分に対して、例えば0.5質量%以上25質量%以下であり、好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
正極組成物は、液媒体として有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を挙げることができる。
正極組成物は、必要に応じて充填剤を含んでいてよい。充填剤は、例えば活物質層の膨脹を抑制する材料である。充填剤の例としては、炭酸リチウムやポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合体;ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状物質等が挙げられる。
活物質層形成工程
活物質層形成工程では、得られる正極組成物を集電体上に付与し、加圧して、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下の活物質層を集電体上に形成する。コバルトが付着した単粒子である熱処理物を含む正極組成物を用いて、特定の密度を有する活物質層が形成されてなる正極は、これを用いて構成される非水系二次電池において、優れた出力特性を維持しつつ、保存特性をより向上させることを可能にする。
集電体としては、例えば、板状又は箔状のアルミニウム、ニッケル、ステンレス等を用いることができる。集電体の厚みとしては、例えば3μm以上500μm以下とすることができる。
正極組成物は、例えば、流動性を有するスラリーとして調製される。得られるスラリーを集電体上に塗布し、乾燥した後、ロールプレス機等によって加圧することで、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下の活物質層が形成されてよい。また、正極組成物は固体状に調製され、集電体上に圧着されて、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下の活物質層が形成されてもよい。活物質層の密度は、例えば、2.7g/cm以上3.9g/cm以下であってよく、好ましくは2.9g/cm以上3.7g/cm以下、より好ましくは3.0g/m以上3.6g/cm以下、さらに好ましくは3.1g/m以上3.5g/cm以下である。なお、活物質層の密度は、活物質層の質量を活物質層の体積で除して算出される。
集電体上に、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、所定の密度を有する活物質層が形成されて、非水電解質二次電池用正極が製造される。集電体には必要に応じてリード電極が配置されて、非水系二次電池の製造に供されてよい。
非水電解質二次電池用正極
非水電解質二次電池用正極は、集電体と、集電体上に配置される活物質層とを備える。活物質層の密度は、例えば2.7g/cm以上3.9g/cm以下である。また活物質層は、単粒子であって、層状構造を有し、少なくともニッケル及びコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0.01以上0.5未満である正極活物質と、導電助剤と、結着剤とを含む。
正極活物質は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であって、層状構造を有し、少なくともニッケル及びコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0.01以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を含む。リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子は、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が、粒子表面からの深さが500nmである第1領域よりも粒子表面からの深さが10nm以下の第2領域の方が大きくなっている。
正極活物質を構成するリチウム遷移金属複合酸化物では、粒子の表面近傍においてコバルトが偏在して、その濃度が高くなっている。これにより、かかる正極活物質を用いて電池を構成する場合に出力特性を向上させることができる。粒子の表面近傍におけるコバルトの存在形態は明確ではないが、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子の表面近傍にコバルトが固溶している形態、コバルトを含む化合物が母材となるリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子の表面を被覆している形態等が考えられる。
コバルトが粒子の表面近傍に偏在することによる出力特性の向上効果は、一次粒子が多数凝集して構成され、D50/DSEMが4より大きい、いわゆる凝集粒子の場合に比べて、D50/DSEMが4以下である単粒子の場合においてより効果的に奏される。これは例えば以下のように考えられる。凝集粒子では三次元的な粒界ネットワークが形成されるため、粒界伝導によって出力特性が向上すると考えられる。一方、単粒子では、粒界伝導を十分に利用することが難しいところ、粒子の表面近傍に偏在するコバルトによるリチウム伝導性の向上がより効果的に奏されるため出力特性がより向上すると考えることができる。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子のD50/DSEMは、例えば1以上4以下であり、出力密度の観点から、3.5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、特に2以下が好ましい。電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEM及び50%粒径D50の測定方法ついては既述の通りである。
活物質層の密度は、例えば2.7g/m以上3.9g/cm以下であってよく、好ましくは2.9g/m以上3.7g/cm以下、より好ましくは3.0g/m以上3.6g/cm以下、さらに好ましくは3.1g/m以上3.5g/cm以下である。活物質層の密度が、上記の範囲内であることで、ガスの発生をより低減することができる傾向がある。特に活物質層の密度が、3.1g/m以上3.5g/cm以下の範囲である場合には、保存特性を優れたものとしつつ、出力特性をより維持できる傾向がある。活物質層の密度は、活物質層の質量を活物質層の体積で除して算出される。ここで活物質層の密度は、正極組成物を集電体上に付与した後、加圧することで調整することができる。
リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子においては、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、耐久性の観点から、例えば0.1μm以上20μm以下である。電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMの下限は、出力密度及び極板充填性の観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、また上限は、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下が更に好ましく、5μm以下が特に好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子の50%粒径D50は、例えば1μm以上30μm以下であり、1.5μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、また出力密度の観点から10μm以下が好ましく、5.5μm以下がより好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子のD90/D10は、例えば4以下であってよく、出力密度の観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。D90/D10の下限は、例えば1.2以上である。
リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子では、粒子表面からの深さが500nm近傍である第1領域におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比(以下、単に「ニッケル比」ともいう)が、例えば0.2以上であり、好ましくは0.25以上であってよい。第1領域のニッケル比は、例えば1以下であり、好ましくは0.5以下である。また、粒子表面からの深さが10nm以下である第2領域におけるニッケル比は、例えば0.06以上であり、好ましくは0.1以上である。第2領域のニッケル比は、例えば0.9以下であり、好ましくは0.5以下であってよい。さらに、第2領域のニッケル比を第1領域のニッケル比で除した値は、例えば1未満であり、好ましくは0.9以下または0.8以下である。また、第2領域のニッケル比を第1領域のニッケル比で除した値は、例えば0.02以上であり、好ましくは0.03以上または0.07以上であってよい。ここで第2領域の粒子表面からの深さは、例えば10nm以下であるが、10nm近傍であってよい。
さらにリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子では、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比(以下、単に「コバルト比」ともいう)が、第1領域よりも第2領域において大きくなっている。第1領域のコバルト比は、例えば0以上であり、好ましくは0.2以上である。第1領域のコバルト比は、例えば0.5以下であり、好ましくは0.4以下であってよい。また、第2領域のコバルト比は、例えば0.3以上であり、好ましくは0.5以上であってよい。第2領域のコバルト比は、例えば0.9以下であり、好ましくは0.8以下であってよい。第1領域のコバルト比と第2領域のコバルト比の合計で第2領域のコバルト比を除した値は、例えば0.5より大きく1未満であり、好ましくは0.55以上0.72以下であってよい。
第1領域及び第2領域におけるニッケル比及びコバルト比は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子の断面において、SEM-EDXを測定することで算出することができる。
リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子では、粒子表面から粒子内部にかけてコバルト比が連続的または不連続的に減少していてよい。第1領域及び第2領域におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比の差を、第1領域及び第2領域の粒子表面からの深さの差で除した値の絶対値であるコバルトの濃度傾斜は、例えば、0.00004(nm-1)より大きく0.00122(nm-1)未満であり、好ましくは0.00005(nm-1)以上0.0011(nm-1)以下または0.00006(nm-1)以上0.0009(nm-1)以下である。具体的に、コバルトの濃度傾斜は、第2領域におけるコバルト比から第1領域におけるコバルト比を差し引いた値を、第1領域の表面からの深さから第2領域の表面からの深さを差し引いた値で除して求められる。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、既述の製造方法におけるコバルト化合物を付着する前のリチウム遷移金属複合酸化物の組成に付着させたコバルト化合物を加味した組成と考えることができる。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば0.3以上1未満である。リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比の下限は、好ましくは0.31以上であり、より好ましくは0.32以上である。リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比の上限は、好ましくは0.98以下であり、より好ましくは0.8以下であり、特に好ましくは0.6以下である。ニッケルのモル比が上述した範囲であると、非水電解質二次電池において、高電圧時の充放電容量とサイクル特性の両立を達成することができる。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば0を超えて0.5未満又は0.01以上0.5未満であってよく、充放電容量の点から、好ましくは0.15以上0.45以下であり、より好ましくは0.3以上0.4以下である。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、マンガン及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素Mを更に含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物が金属元素Mを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するMのモル数の比は、例えば0より大きく0.5未満であり、安全性の点から、好ましくは0.15以上0.45以下であり、より好ましくは0.3以上0.4以下である。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、ホウ素、ナトリウム、マグネシウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、スズ、バリウム、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリウム、タンタル、タングステン、ビスマス等からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素Mを更に含んでいてもよい。リチウム以外の金属の総モル数に対するMのモル数の比は、例えば0以上0.1以下であり、好ましくは0.001以上0.05以下である。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば0.95以上1.5以下であり、好ましくは1以上1.3以下である。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の組成において、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比は、例えば、ニッケル:コバルト:マンガン=(0.3から0.95):(0.01から0.5):(0から0.5)であり、好ましくは(0.3から0.6):(0.15から0.45):(0.15から0.45)であり、より好ましくは、(0.3から0.4):(0.3から0.4):(0.3から0.4)である。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物を組成として表すと、例えば下式(2)で表される組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
LiNiCo (2) 0.95≦q≦1.5、0.3≦r<1、0.01≦s<0.5、0≦t<0.5、0≦u≦0.1、r+s+t+u≦1、MはAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、MはB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。0.9≦r+s+t+uであってよい。
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物は、非水電解質二次電池における初期効率の観点から、X線回折法により求められるニッケル元素のディスオーダーが4.0%以下であることが好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましい。ニッケル元素のディスオーダーについては既述の通りである。
[非水電解質二次電池]
非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極を備える。非水電解質二次電池は、非水電解質二次電池用正極に加えて、非水電解質二次電池用負極、非水系電解質、セパレータ等を備えて構成される。非水電解質二次電池における、負極、非水系電解質、セパレータ等については例えば、特開2002-075367号公報、特開2011-146390号公報、特開2006-12433号公報(これらは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)等に記載された、非水電解質二次電池用のものを適宜用いることができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(参考例1)
種生成工程
反応槽内に、水を30kg入れて撹拌しながら、窒素ガスを流通し、槽内温度を40℃に設定した。反応槽内空間の酸素濃度を10体積%以下に保持した後、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を197g加えて、反応槽内の溶液のpH値を11以上に調整した。次に、硫酸ニッケル溶液、硫酸マンガン溶液及び硫酸コバルト溶液を混合し、ニッケルイオン、マンガンイオン及びコバルトイオンをモル比1:1:1で含み、ニッケルイオン、マンガンイオン及びコバルトイオンの総イオン濃度が1.7モル/Lとなるように混合溶液を調製した。反応槽内の溶液を撹拌しながら、調製した混合溶液を4.76L加え、種晶を含む液媒体を調製した。
晶析工程
前記種生成工程後、40℃に温度維持したまま、25質量%水酸化ナトリウムの452モル分と、混合溶液の201モル分とをそれぞれ反応槽内へ一定流量で18時間以上かけて投入した。この時のpHは11.0から12.0で維持されていた。得られたニッケル、マンガン及びコバルトを含む水酸化物の50%粒径D50は10.1μmであった。次に生成した沈殿物を水洗、濾過して複合水酸化物を得た。得られた複合水酸化物を大気雰囲気下、320℃で12時間、熱処理を行い、Ni/Co/Mn=0.33/0.33/0.33の組成比率を有する複合酸化物を得た。
合成工程
得られた複合酸化物と炭酸リチウムとをLi:(Ni+Co+Mn)=1.15:1となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中925℃で7.5時間、熱処理した後、1060℃で4時間、熱処理して熱処理物を得た。得られた熱処理物を分散処理して、50%粒径D50が10.5μmであり、組成式:Li1.14Ni0.33Co0.33Mn0.33で表される組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
付着工程及び熱処理工程
得られたリチウム遷移金属複合酸化物5kgを水50kgに反応槽内で懸濁し、槽内温度を40℃に設定した。コバルト源として濃度が8.1質量%である硫酸コバルトを2.2kg用い、炭酸ガスを0.56L/minで吹き込みながら、25%水酸化ナトリウムによりpH9.5とし、コバルト付着物前駆体を得た。使用した硫酸コバルト量は、リチウム遷移金属複合酸化物に対して、コバルト換算で6モル%であった。次に生成したコバルト付着物前駆体を水洗、濾過して複合水酸化物を得た。得られた複合水酸化物を大気雰囲気下、300℃で12時間、熱処理を行い、リチウム遷移金属複合酸化物にコバルト化合物が付着したコバルト付着物を得た。その後、添加したコバルトとリチウムのモル比がLi:Co=1.15:1となるように水酸化リチウムを混合して混合物を得た。得られた混合物に対して、大気中1000℃で3時間熱処理を施した。得られた熱処理物を、乾式篩にかけて、Li1.14Ni0.313Co0.374Mn0.313で表される組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を得た。得られた正極活物質の物性値を表1に示す。
(参考例2)
混合物の熱処理温度を表1に示すように、900℃に変更したこと以外は、参考例1と同様にして、参考例2の正極活物質を製造した。
(参考例3)
混合物の熱処理温度を表1に示すように、850℃に変更したこと以外は、参考例1と同様にして、参考例3の正極活物質を製造した。
(参考例4)
参考例1の合成工程で得られたリチウム遷移金属複合酸化物を参考例4の正極活物質とした。
(参考例5)
混合物の熱処理温度を表1に示すように、1100℃に変更したこと以外は、参考例1と同様にして、参考例5の正極活物質を製造した。
(参考例6)
混合物の熱処理温度を表1に示すように、700℃に変更したこと以外は、参考例1と同様にして、参考例6の正極活物質を製造した。
(参考例7)
参考例1の晶析工程で得られた複合酸化物と炭酸リチウムとをLi:(Ni+Co+Mn)=1.15:1となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中930℃で12時間、熱処理して熱処理物を得た。得られた熱処理物を分散処理して、50%粒径D50が9.6μmであり、組成式:Li1.14Ni0.33Co0.33Mn0.33で表される組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を得た。
(参考例8)
参考例7で得られたリチウム遷移金属複合酸化物5kgを水50kgに反応槽内で懸濁し、槽内温度を40℃に設定した。コバルト源として濃度が8.1質量%である硫酸コバルトを2.2kg用い、炭酸ガスを0.56L/minで吹き込みながら、25%水酸化ナトリウムによりpH9.5とし、コバルト付着物前駆体を得た。次に生成したコバルト付着物前駆体を水洗、濾過して複合水酸化物を得た。得られた複合水酸化物を大気雰囲気下、300℃で12時間、熱処理を行い、コバルト付着物を得た。その後、添加したコバルトとリチウムの比をLi:Co=1.15:1とし水酸化リチウムを混合して混合物を得た。得られた混合物に対して、大気中900℃で3時間熱処理を施した。得られた熱処理物を、乾式篩にかけて、Li1.14Ni0.313Co0.374Mn0.313で表される組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を得た。
粒径評価
上記で得られた正極活物質について、以下のようにして物性値を測定した。D50については、レーザー回折式粒径分布測定装置((株)島津製作所製SALD-3100)を用いて、体積基準の累積粒度分布を測定し、小径側からの累積50%に対応する粒径として求めた。また電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMについては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、1000倍から10000倍で観察した画像において、粒子の輪郭が確認できる粒子を100個選択し、選択された粒子について画像処理ソフトウエア(ImageJ)を用いて球換算径を算出し、得られた球換算径の算術平均値として求めた。
コバルト分布及びニッケル分布の評価
上記で得られた正極活物質について、粒子内部におけるコバルト分布及びニッケル分布を評価した。具体的には、第1領域及び第2領域におけるニッケル含有率及びコバルト含有率を以下のようにして評価した。
組成分析
参考例1から8で得られた正極活物質をそれぞれエポキシ樹脂に分散させ固化した後、クロスセクションポリッシャ(日本電子製)を用いて、正極活物質の二次粒子の断面出しを行って測定サンプルを作製した。測定サンプルの第1領域(500nm)および第2領域(10nm)におけるそれぞれ各1点において、走査型電子顕微鏡(SEM)/エネルギー分散型X線分析(EDX)装置(日立ハイテクノロジーズ社製;加速電圧3kV)によりリチウム以外の金属成分のそれぞれの強度比を求めた。なおコバルト比は、リチウム以外の金属成分の強度比の合計に対するコバルトの強度比とし、ニッケル比は、リチウム以外の金属成分の強度比の合計に対するニッケルの強度比とした。
走査型電子顕微鏡観察
参考例1及び参考例8で得られた正極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM;加速電圧1.5kV)を用いてSEM画像を得た。参考例1の正極活物質のSEM画像を図1に、参考例8の正極活物質のSEM画像を図2に示す。
評価用電池の作製
上記で得られた正極活物質を用いて、以下の手順で評価用電池を作製した。
正極の作製
正極活物質90質量部、アセチレンブラック5質量部、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)5質量部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて正極組成物を調製した。得られた正極組成物を、集電体としてのアルミニウム箔に塗布し、乾燥後ロールプレス機で活物質層の密度が3.2g/cmとなるように圧縮成形した後、所定のサイズに裁断することにより、正極を作製した。
(負極の作製)
人造黒鉛97.5重量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)1.5質量部及びSBR(スチレンブタジエンゴム)1.0質量部を純水に分散、溶解させて負極スラリーを調製した。得られた負極スラリーを銅箔からなる集電体に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定のサイズに裁断することにより、負極を作製した。
(評価用電池の作製)
正極及び負極の集電体に各々リード電極を取り付けた後、正極と負極との間にセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。次いで、これを65℃で真空乾燥させて、各部材に吸着した水分を除去した。その後、アルゴン雰囲気下でラミネートパック内に電解液を注入し、封止して評価用電池を作製した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを体積比3:7で混合し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度が1モル/Lになるように溶解させたものを用いた。こうして得られた評価用電池を25℃の恒温槽に入れ、微弱電流でエージングを行った後に、以下の評価を行った。
(直流内部抵抗測定)
エージング後の評価用電池を-25℃の環境下に置き、直流内部抵抗の測定を行った。満充電電圧4.75Vにおける充電深度50%まで定電流充電を行った後、特定の電流iによるパルス放電を10秒間行い、10秒目の電圧Vを測定した。横軸に電流i、縦軸に電圧Vをとって交点をプロットし、交点を結んだ直線の傾きを直流内部抵抗(DC-IR)とした。なお、電流i=0.03A、0.05A、0.08A、0.105A及び0.13Aとした。DC-IRが低いことは、出力特性が良好であることを意味する。
Figure 2023017697000002
参考例1から3の正極活物質のように、D50/DSEMが1以上4以下であって、第2領域におけるコバルト比が、第1領域におけるコバルト比よりも大きい正極活物質を含んで構成される電池は、参考例4から6と比べて、出力特性が改善される。
Figure 2023017697000003
Figure 2023017697000004
表2から3において、コバルト付着工程及び熱処理工程を有しない製法で得られるリチウム遷移金属複合酸化物を基準とした場合に対する、コバルト付着工程及び処理工程を有する製法で得られるリチウム遷移金属複合酸化物の出力特性の改善率を示す。表3の凝集粒子を用いたコバルト付着工程及び熱処理工程を有する製法における効果と比べて、表2の参考例におけるコバルト付着工程及び熱処理工程を有する製法における効果が大きいことが確認できた。
[実施例1]
参考例1の正極活物質を用いて、上述の正極の作製において、正極活物質92質量部、アセチレンブラック3質量部、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)5質量部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて正極組成物を調製したことと、活物質層の密度が2.9g/cmとなるように圧縮成形したこと以外は同様にして、実施例1の正極を得た。
[実施例2]
参考例1の正極活物質を用いて、実施例1の正極の作製において、活物質層の密度が3.1g/cmとなるように圧縮成形したこと以外は同様にして、実施例2の正極を得た。
[実施例3]
参考例1の正極活物質を用いて、実施例1の正極の作製において、活物質層の密度が3.3g/cmとなるように圧縮成形したこと以外は同様にして、実施例3の正極を得た。
[実施例4]
参考例1の正極活物質を用いて、実施例1の正極の作製において、活物質層の密度が3.5g/cmとなるように圧縮成形したこと以外は同様にして、実施例4の正極を得た。
[実施例5]
参考例1の正極活物質を用いて、実施例1の正極の作製において、活物質層の密度が3.7g/cmとなるように圧縮成形したこと以外は同様にして、実施例5の正極を得た。
(保存特性の評価)
実施例1から5の正極を用いて、上述の評価用電池の作製条件において、正極活物質でそれぞれの評価用電池を作製し、ガス発生量の測定を行った。評価用電池を25℃の恒温槽に入れた後、充放電試験装置(TOSCAT-3100、東洋システム株式会社製)を用いて、2.75Vから4.25Vの条件にて3回充放電を行った。3回充放電の後に、上記充放電試験装置を用いて60℃にて、充電速度0.2Cでの4.25V定電流定電圧充電を72時間行った。評価用電池を25℃の雰囲気下で十分放冷した後、定電流定電圧充電前後での評価用電池の体積変化を測定し、定電流定電圧充電中のガス発生量(cm)を求めた。得られたガス発生量を正極組成物の質量で除した規格値について、実施例1における規格値を100%とした場合の各サンプルの規格値を相対ガス発生量(%)として算出した。なお、体積変化は、定電流定電圧充電前及び後の評価用電池の体積をアルキメデスの原理を用いて測定した後、その差分を計算することにより求めた。表4に活物質層の密度ごとに、相対ガス発生量(%)を保存特性の指標として示す。
実施例1から5について、上述の測定方法と同様にして直流内部抵抗を測定した。実施例3の直流内部抵抗を1とした際の各サンプルの相対値を表4に示す。
Figure 2023017697000005
表4において、活物質層の密度を大きくすることで、ガスの発生量を低減できることが確認され、特定の密度では、出力特性を維持しつつ効率良くガス発生が抑制できていることが確認された。
本開示にかかる発明は、例えば以下の態様を包含してよい。
[1]電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であり、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を準備することと、前記リチウム遷移金属複合酸化物と、コバルト化合物とを接触させて付着物を得ることと、前記付着物を、700℃を超えて1100℃未満の温度で熱処理して熱処理物を得ることと、前記熱処理物と、導電助剤と、結着剤とを含む正極組成物を得ることと、前記正極組成物を集電体上に付与し、加圧して、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下の活物質層を前記集電体上に形成することと、を含む非水電解質二次電池用正極の製造方法。
[2]前記熱処理の温度が800℃以上1000℃以下である[1]に記載の製造方法。
[3]接触させる前記コバルト化合物の総量が、前記リチウム遷移金属複合酸化物に対して、コバルト基準で1モル%以上20モル%以下である[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記付着物の熱処理は、前記付着物にリチウム化合物を混合して混合物を得ることと、前記混合物を熱処理することとを含む[1]から[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記準備されるリチウム遷移金属複合酸化物は、下式で表される組成を有する[1]から[4]のいずれかに記載の製造方法。LiNiCo (0.95≦p≦1.5、0.3≦x<1、0≦y<0.5、0≦z<0.5、0≦w≦0.1、x+y+z+w≦1、MはAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、MはB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。)
[6]前記活物質層の密度が3.1g/cm以上3.5g/cm以下である[1]から[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]集電体と、前記集電体上に配置される活物質層とを備え、前記活物質層は、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下であり、正極活物質と、導電助剤と、結着剤とを含み、前記正極活物質は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であって、層状構造を有し、少なくともニッケル及びコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0.01以上0.5未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が、粒子表面からの深さが500nmである第1領域よりも粒子表面からの深さが10nm以下の第2領域の方が大きい非水電解質二次電池用正極。
[8]前記第1領域及び前記第2領域におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比の差を、前記第1領域及び前記第2領域の粒子表面からの深さの差で除した値の絶対値が、0.00004(nm-1)より大きく0.00122(nm-1)未満である[7]に記載の非水電解質二次電池用正極。
[9]前記正極活物質は、下式で表される組成を有する[7]又は[8]に記載の非水電解質二次電池用正極。LiNiCo (0.95≦q≦1.5、0.3≦r<1、0.01≦s<0.5、0≦t<0.5、0≦u≦0.1、r+s+t+u≦1、MはAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、MはB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。)
[10]前記正極活物質は、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が、前記第1領域において0.2以上であり、前記第2領域において0.06以上である[7]から[9]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
[11]前記活物質層の密度が3.1g/cm以上3.5g/cm以下である[1]から[10]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。

Claims (11)

  1. 電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であり、層状構造を有し、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0以上0.5未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を準備することと、
    前記リチウム遷移金属複合酸化物と、コバルト化合物とを接触させて付着物を得ることと、
    前記付着物を、700℃を超えて1100℃未満の温度で熱処理して熱処理物を得ることと、
    前記熱処理物と、導電助剤と、結着剤とを含む正極組成物を得ることと、
    前記正極組成物を集電体上に付与し、加圧して、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下の活物質層を前記集電体上に形成することと、
    を含む非水電解質二次電池用正極の製造方法。
  2. 前記熱処理の温度が800℃以上1000℃以下である請求項1に記載の製造方法。
  3. 接触させる前記コバルト化合物の総量が、前記リチウム遷移金属複合酸化物に対して、コバルト基準で1モル%以上20モル%以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記付着物の熱処理は、前記付着物にリチウム化合物を混合して混合物を得ることと、前記混合物を熱処理することとを含む請求項1又は2に記載の製造方法。
  5. 前記準備されるリチウム遷移金属複合酸化物は、下式で表される組成を有する請求項1又は2に記載の製造方法。
    LiNiCo
    (0.95≦p≦1.5、0.3≦x<1、0≦y<0.5、0≦z<0.5、0≦w≦0.1、x+y+z+w≦1、MはAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、MはB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。)
  6. 前記活物質層の密度が3.1g/cm以上3.5g/cm以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
  7. 集電体と、前記集電体上に配置される活物質層とを備え、
    前記活物質層は、密度が2.7g/cm以上3.9g/cm以下であり、正極活物質と、導電助剤と、結着剤とを含み、
    前記正極活物質は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50の比D50/DSEMが1以上4以下であって、
    層状構造を有し、少なくともニッケル及びコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子であり、
    リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.3以上1未満であり、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0.01以上0.5未満であり、
    リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が、粒子表面からの深さが500nmである第1領域よりも粒子表面からの深さが10nm以下の第2領域の方が大きい非水電解質二次電池用正極。
  8. 前記第1領域及び前記第2領域におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比の差を、前記第1領域及び前記第2領域の粒子表面からの深さの差で除した値の絶対値が、0.00004(nm-1)より大きく0.00122(nm-1)未満である請求項7に記載の非水電解質二次電池用正極。
  9. 前記正極活物質は、下式で表される組成を有する請求項7又は8に記載の非水電解質二次電池用正極。
    LiNiCo
    (0.95≦q≦1.5、0.3≦r<1、0.01≦s<0.5、0≦t<0.5、0≦u≦0.1、r+s+t+u≦1、MはAl及びMnからなる群より選択される少なくとも1種であり、MはB、Na、Mg、Si、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Ta、W及びBiからなる群より選択される少なくとも1種である。)
  10. 前記正極活物質は、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が、前記第1領域において0.2以上であり、前記第2領域において0.06以上である請求項7又は8に記載の非水電解質二次電池用正極。
  11. 前記活物質層の密度が3.1g/cm以上3.5g/cm以下である請求項7又は8に記載の非水電解質二次電池用正極。
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