JP2022549957A - 永久磁石用の新規磁性相を合成するためのビルディングブロックとしての希土類の高エントロピー合金および遷移金属の高エントロピー合金 - Google Patents

永久磁石用の新規磁性相を合成するためのビルディングブロックとしての希土類の高エントロピー合金および遷移金属の高エントロピー合金 Download PDF

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Abstract

本発明は、希土類元素R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12から選択される少なくとも4つから12までの元素を含み、前記希土類元素R1~R12は各々、周期表の57~60、62~70、39および40番の元素の1つを表す、希土類元素の高エントロピー合金(RE-HEA)、および遷移元素TM1、TM2、TM3、TM4、TM5、TM6、TM7、TM8、TM9、TM10、TM11、TM12から選択される少なくとも3つから12までの元素を含み、前記遷移元素TM1~TM12は各々、周期表の21~30、41~48および72~79番の元素の少なくとも1つを表す、遷移元素の高エントロピー合金(TM-HEA)に関する。そのようなRE-HEAおよび/またはTM-HEAは、磁気装置および永久磁石を製造するための、例えば(RE-HEA)x(TM-HEA)yTz型の磁性高エントロピー複合合金におけるビルディングブロックとして使用できる。

Description

本発明が関する技術分野は、並外れた磁気特性および機械的特性を有する、化学元素の周期表に基づく、単純および複合の高エントロピー磁性合金の技術分野、並びに磁性相における希土類元素およびコバルトを置き換えるための新規ビルディングブロックとしてのそれらの使用、およびそれらで製造された永久磁石の技術分野である。
本願内で使用される場合、「希土類元素」との用語は、原子番号61を有するPmを除いて、原子番号57~70を有するランタノイド元素、並びに原子番号39を有するイットリウム、および原子番号40を有するジルコニウムを含み、それらは通常、希土類鉱石中で見出され、且つ類似した化学的特性を有する。「希土類元素の重元素」(HRE)との用語は、本願内では原子番号63~71を有するランタノイド系列の元素を示すために使用され、且つ「希土類元素の軽元素」(LHR)との用語は、原子番号61を有するPmを除いて、原子番号57~62を有するデータを示すために使用される。
「遷移元素」との用語が本願内で使用される場合、それは周期表の第3~12族に属し、原子番号21~30、41~48、および72~79を有する元素を含むと理解される。最も代表的なものは、マンガン(25)、鉄(26)、コバルト(27)およびニッケル(28)などの原子番号を有する元素、およびそれらの金属の1つ以上を含有する様々な合金である。また、磁性合金を作り出すために添加される元素は、ホウ素(5)、アルミニウム(13)、ガリウム(31)およびインジウム(49)が考慮される。
強磁性金属および永久磁石は磁気ヒステリシスの特徴的な状態を有する。磁気ヒステリシスは、磁性体の特性であり、それらの磁気誘導が磁場の強度に依存するのみならず、以前の磁気状態にも依存する(ヒステリシスループ)というものである。本発明にとって特に興味深いヒステリシスループにおけるポイントは第2象限または減磁曲線内にあり、なぜなら、永久磁石を使用する大半の装置は反磁場の影響下で動作するからであり、図1に示される。
永久磁石を製造するための基本は、興味深い特性を有する磁性合金の存在であり、例えば、(a)立方晶より低い対称性を有する結晶構造、例えば正方晶、(b)高い結晶磁気異方性(>1×107J/m3)および(c)永久磁石の予測される最高作業温度の50%以上高くなければならない高いキュリー点(磁性合金中で磁化がゼロになる温度)である。磁性合金は高い結晶磁気異方性を有するので、他の非常に興味深い特性は、図1に示されるように磁化を反転させる磁場の値として定義される保磁場Hcである。
上記の磁性化合物に基づく永久磁石(永久強磁性材料)は、エネルギーの生成および変換、大小の電気機器、健康および環境において多大な用途が見出されており、2020年で200億ドルを超える市場を有する。磁石には多くの用途、例えばスピーカーのヘッドホン、電気モーター、発電機、計数機、および多様な科学機器がある。前記の分野における研究は通常、常により良好な特性を有する材料を用いた永久磁石の開発に向けられており、特に近年では、永久磁石に基づく装置のサイズを低減してそれらの用途を例えばコンピュータ装置、携帯電話、ヘッドホンおよび他の多くの機器に拡大することが主な前提条件となっている。現在、上述のとおりの希土類金属および遷移元素の合金による、焼結および粉末冶金によって製造される永久磁石の3つの大きな系統がある。
第1のカテゴリは化学量論比(1:5および2:17)を有するサマリウムコバルト型(サマリウムコバルト)である:
最も普及しているのは、サマリウムとコバルトとを含有する合金であり、化学式SmCo5(1:5)(図2)またはSm(Co(残部)FexCu0.1Zr0.037.5-8.5(x=0.09~0.21)を有し、1960年代後半および1970年代初めに開発された。それらの磁石は通常、上述のそれらの磁気特性を改質することを助けるための少量の他の元素を含有する。しかしながら、サマリウムコバルト磁石は、主にサマリウムが比較的稀少であり且つコバルトの価格が高いことに起因して、非常に高価である。この要因が、大量の用途、例えば電気モーターにおける磁石の有用性を低下させ、希土類金属およびコバルトの金属よりも豊富であり、あまり高価ではない材料を用いた永久磁石を開発するための研究が奨励されてきた。サマリウムコバルト磁石は、500℃までの高温で使用できる唯一のものであり、そのキュリー点は750℃を上回るので好ましいが、エネルギー積においてはあまり大きくなく、16~33MGOeの範囲である(128~264KJ/m3、理論上の限界である34MGOeまたは270KJ/m3に近い(1MGOeは約7.95KJ/m3)。
第2の系統の永久磁石はNd2Fe14B型である:
M.Sagawaによる1984年の研究では、希土類元素を含有する鉱物中でサマリウムよりも豊富なネオジム、コバルトよりも遙かに安価な鉄、およびホウ素を様々な比率で含有する新規磁性合金が発見された(J.Appl.Phys. Vol 55, 2083~2087ページ(1984)参照)。その新規磁性材料についての化学式はR2Fe14B[前記式中、Rは軽希土類、例えばネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)またはセリウム(Ce)である]である(AL Robinson, Science, Vol.223, 920~922ページ(1984)参照)。希土類-鉄-ホウ素磁石の製造についてのさらなる指標はM.Sagawa, S.FujimuraおよびY.Matsuuraによって、欧州特許出願公開第83106573号明細書および第83107351号明細書(European Patent Applications No. 83 106 573.5 and 83 107 351.5)(それぞれ1983年7月5日および1983年7月26日提出)に開示されている。ネオジム-鉄-ホウ素磁石についてのエネルギー積は52MGOeまたは約420KJ/m3のオーダーであり、これにより、それらの磁石は現在最強になっている。磁性相Nd2Fe14Bのキュリー点が低い(約310℃)ことに起因して、それらの磁石の使用は130~150℃までの温度に制限される。重希土類(HRE)、例えばジスプロシウム(Dy)またはテルビウム(Tb)の添加はエネルギー積と180~200℃までの動作温度との両方を改善する。
第3のカテゴリの磁石はRFe12-xx型である:
このカテゴリは1980年代の終わりにBuschow(IEEE,Trans.Magn.MAG-24(1988),1611)によって、およびOhashi((IEEE).Trans.Magn.MAG-23(1987)3101)によって発見され、主たる特徴は、約7.8%での最も低いパーセンテージの軽希土類(LRE)元素(LRE、例えばNd、Pr、Sm)、約300℃のキュリー温度、高い磁化および比較的高い磁気異方性である。その相は1980年代終わりから知られていたが、トヨタの受益者を有する特許出願である米国特許出願公開第2017/0178772号明細書(US2017/0178772 A1)(2017年6月22日)からわかるとおり、最近になって初めて、興味深い特性を有する永久磁石を製造することが可能になった。上記の相は、用途のためにより魅力的になり、なぜなら、Hirayama(Scr.Mater.95(2015)70)によって最近実証されたとおり、全ての磁気特性が結晶格子内の窒素吸収によって改善されるからである。窒素は約500℃を超える温度で合金から抜け出すので、500℃未満で磁性粉末を焼結するための新規の技術、または永久磁石のための新規の直接的な鋳造技術が必要とされる。このカテゴリの磁石は、理論的にはそれらは以前の磁石よりも高いエネルギー積を有するにもかかわらず、結晶磁気異方性がより低いことに起因して、エネルギー積100~250KJ/m3を有する中間のカテゴリを対象にすることが予期されている。
報告された3つ全てのカテゴリは、それらのそれぞれのコスト、エネルギー積および使用できる最高温度の他に、粗悪な機械的特性を有し、且つ、それらが適切な磁性合金の金属粉末から製造される方法に起因して、および焼結によって、それらは脆く、使用において多大なケアと注意が必要である。
さらには以下がある:
高エントロピー合金(HEA):
近年、高エントロピー合金(HEA)の設計の概念を使用した新規合金の探索に非常に興味が示されている。高エントロピー合金(HEA)は、2004年から(Yeh,Advance Engineering, Vol 6, Issue 5, 299~303, 2004)、等モル濃度で少なくとも4つの主たる元素を有し、その各々が使用される元素の数に依存して5%~35%の個々の割合を有する合金として定義されており、図3に示される。
HEA合金の設計アプローチは組成の設計および新規の型のHEAの範囲を広げ、高エントロピー材料、例えば高エントロピー超合金、高密度エントロピー合金、大金属長エントロピーガラス、高エントロピー炭化物、高エントロピー窒化物、高エントロピー酸化物、高エントロピー複合材料が開発された。
高エントロピー合金(HEA)は現在、材料科学および工学において高い研究の興味を有する。1つおよび通常は2つの基本の元素を含有する従来の合金とは異なり、HEAは複数の主要元素を等モル濃度で含み、HEAの組成の可能な数は従来の合金よりも著しく広がっている。最も重要なことに、それらのHEAは従来の材料と同様の手順を使用して構築および加工され得る。HEAについての従来の材料の特徴的な技術も使用され得る。HEAの分野における組成と処理経路との組み合わせは、潜在的に広範な新規の微細構造および特性をもたらし得る。それらが産業用途のための従来の材料を置き換える可能性は多くの予備的な研究が実証している。
HEAの主たる特徴は以下である:
(i) HEA固体の高い形成エントロピーは合金相のギブスエネルギー形成に支配的な影響を有するので、通常形成されるバイメタル相に関して固溶体を安定化する。(ii) HEAの格子構造は、割り当て元素間の原子サイズの不整合に起因して歪んでいる。これは、HEAの物理的特性および機械的特性において多様な影響を有する。(iii) HEAはより小さい原子拡散定数を有し、なぜなら高濃度の多くの元素を有する固溶体を通じる個々の原子拡散は、主に格子構造のばらつきに起因してより困難であるからである。(iv) HEA形成の複雑さがいわゆる「カクテル効果」を引き起こし、ここで原子間の相互作用は通常ではない挙動を引き起こす。合金設計の分野においては、以前の経験から、より多くの合金元素を添加することは通常、粗悪な機械的特性を有するバイメタル化合物形成をもたらすことが知られている。
前記の興味深い特性に起因して、例えば高いエントロピー現象が合金における成分の相の数を減らして、好ましい微細構造を設計することを容易にすることができる。限定的な拡散効果は、相転移速度を低下させ且つ高温での種々の微細構造を安定化させることができる。格子歪みによって著しい助けがもたらされ得る。そして、カクテル効果は、正しい合金成分を選択することによって注文に応じた特性を有する材料を設計することを可能にする。適切な合金の設計および熱処理により、優れた機械的特性、例えば耐久性、硬さ、耐摩耗性および耐食性が達成される。
また、HEAは興味深い物理的特性、例えば磁気特性、電気抵抗および超伝導性を示して注目も集めている。新規の軟磁性材料が変圧器、モーター、電磁石等で必要とされているが、主に脆い二元系化合物の析出に起因する既存の材料の粗悪な機械的特性が常にそれらの性能を制限する。最近では、FeCoNi-Xに基づき、魅力的な軟磁性を有するいくつかの高エントロピー合金が作製された。しかしながら、機械的特性と磁気特性との最適なバランスはまだ見出されていない。
文献内の既存の実験データ並びに古典的な冶金学の理解に基づくこれらの主張の評価において、新規相を鋳造するためのビルディングブロックとしての高エントロピー合金(HEA)の使用は最も有望であり且つ刺激的な機会の1つであると結論付けられる。従って、HEAは現在の材料科学において最も探索的であり且つ有望な研究分野の1つとなる。
欧州特許出願公開第83106573号明細書 欧州特許出願公開第83107351号明細書 米国特許出願公開第2017/0178772号明細書
M.Sagawa, J.Appl.Phys. Vol 55, 2083~2087ページ(1984) AL Robinson, Science, Vol.223, 920~922ページ(1984) Buschow, IEEE,Trans.Magn.MAG-24(1988),1611 Ohashi, (IEEE).Trans.Magn.MAG-23(1987)3101 Hirayama, Scr.Mater.95(2015)70 Yeh,Advance Engineering, Vol 6, Issue 5, 299~303, 2004
本発明は磁性相およびそれらから製造された磁石において共在する4つの主要な課題を解決する。
第1の課題は、経済的なものであり且つ永久磁石の製造のために必要とされる成分の価格の変動性に関する。希土類元素の価格は90%より多くが中国から管理されており、コバルトの価格は過去3年間にわたって3倍になり、リチウムイオン電池用の用途の需要に起因してさらに上昇することが予測されており、さらに、50%より多くがコンゴ民主共和国によって供給されている。また、現在最良の磁石の成分であるNd-Prの価格は、電気自動車用、風力用、および様々な他の用途のための磁石の需要が高いことに起因して上昇傾向である。
前記の3つの群の永久磁石の製造において使用される磁性相のカテゴリに応じて、希土類元素に基づく適切なHEA(RE-HEA)で置き換えると、希土類元素のコストにおいて30~40%までの節約が可能であり、且つ、高い磁化を有する遷移元素に基づく相応のHEA(TM-HEA)で置き換えると、コバルトにおいて50~60%までの削減が可能である。(RE-HEA)-(TM-HEA)型の合金については、合金全体のコストにおいてなし得る節約は、現在使用されているものに比して50%に達し得る。
第2の課題は、いくつかの希土類元素、例えばDyおよびTbの不足に関しており、従ってそれらを現在豊富な希土類元素の混合物、例えばLaまたはCeで置き換える可能性は、現在使用されているもの、つまりサマリウム、ネオジムプラセオジムに匹敵する特性を有する新規の高エントロピー合金の製造を可能にする。
第3の課題は、約1.6T(テスラ)の磁気モーメントを有するコバルトを、遷移金属元素、例えばコバルト、鉄、ニッケル、マンガンおよび他の添加物に基づくほぼ同じ磁気モーメントを有する相応の高エントロピー合金で置き換えることである。
永久磁石の機械的特性、および製造される方法に起因するそれらの脆さに関する第4の課題に言及する価値がある。
前記で概説した課題を解決するために、本発明は第1の態様において、希土類元素R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12から選択される少なくとも4つから12までの元素を含み、前記希土類元素R1~R12は各々、周期表の原子番号61を有するPmを除いて、周期表からの原子番号57~71を有する元素の1つを表し、番号39のイットリウムおよび番号40のジルコニウムを希土類元素に対するそれらの親和性に起因して含む、希土類元素の高エントロピー合金(RE-HEA)を提供する。
前記の課題を解決するためのこの第1の基本的なアプローチは、(61のPmを除いて)個々の番号57~71を有する希土類元素に基づき、番号39のイットリウムおよび番号40のジルコニウムを希土類元素に対するそれらの親和性に起因して含む、高エントロピー合金(RE-HEA)を初めて使用することである。当該RE-HEAは、特に高価な、または豊富に入手可能ではない希土類金属、例えばサマリウム、ネオジムおよび/またはプラセオジムを、それらの現在の用途において少なくとも部分的に置き換えることを可能にする。場合によっては、そのような現在使用されている高価な希土類金属の量の少なくとも半分を、より豊富に入手可能な元素、例えばLaおよびCeによって置き換えることが可能であり、従って需要が増え続けている永久磁石の提供に伴って必要とされるコストを著しく低減する。
本発明のRE-HEAの好ましいが網羅的ではない例は、LaCePrNd、YLaCePrNd、YCePrNdDy、YLaCePrNdGdまたはLaCePrNdGdHo、および任意に上記で定義されたさらなる元素を含む。しかしながら、ZrおよびYを含む、希土類元素の他の組み合わせも、現在高コストであり容易に入手可能ではない希土類材料を有利に置き換えることができる。本発明の好ましい実施態様において、そのような希土類元素はRE-HEA中にほぼ等しい割合で含まれる。
第2の態様において、本発明は、遷移元素TM1、TM2、TM3、TM4、TM5、TM6、TM7、TM8、TM9、TM10、TM11、TM12から選択される少なくとも3つから12までの元素を含み、前記遷移元素TM1~TM12が各々、周期表の原子番号21~30、41~48および72~79を有する元素の少なくとも1つを表す、遷移金属元素の高エントロピー合金(TM-HEA)を提供する。
本発明のこの態様の好ましい実施態様において、TM1は3つの元素Fe、CoおよびNiを含むとして定義される。そのような実施態様においては9つまでの追加的な元素が合金中に含まれ得るが、永久磁石などの用途内で想定される用途を考慮すると、3または5のより少ない数の合金成分も適している。
上述の課題を解決するためのこの第2のアプローチは、周期表における第3族~第12族に属する元素に基づく高エントロピー合金内でのそれぞれの材料において高コスト元素のコバルトの全てまたは一部を、個々の番号21~30、40~48、および72~79で、および第13族によって置き換えることに基づいて、上述の課題を解決する。任意にホウ素(5)、アルミニウム(13)、ガリウム(31)、およびインジウム(49)も、前記少なくとも3つから12までの元素の1つとして含まれ得る。それらの合金を以下でTM-HEAと称する。
本発明のこの態様のいくつかの特に好ましい実施態様は、FeCoNi、FeCoNiMn、FeCoNiCu、FeCoNiMnAlまたはFeCoNiMnCuAlからなるか、またはそれらを含む組成物を有するTM-HEAを含む。
本発明のさらなる態様は、上記のとおり且つ本明細書を通じて、磁気装置および永久磁石を製造するための、磁性高エントロピー複合合金におけるビルディングブロックとしてのRE-HEAおよび/またはTM-HEAの使用である。本願内で提供される上記および以下の開示から明らかなとおり、いくつかの態様において、磁性合金中に含有される全てまたは特定の希土類金属が本発明のRE-HEAによって置き換えられることができ、且つ/または磁性合金中に含有される他の元素の全てまたは一部が本発明のTM-HEAによって置き換えられることができる。さらに、以下で定義される追加的な材料を任意に含んで、新規の高エントロピー磁性合金としての本発明のRE-HEAとTM-HEAとの両方を組み合わせることも可能である。
従って、本発明の他の態様は、
(RE-HEA)x(TM-HEA)yz
の型の高エントロピー複合合金であって、ここで
x=1、2であり、y=2、3、5、12、14、17であり、z=0.5~3であり、且つ
T=Mo、Ti、V、Si、NおよびBであり、且つ
RE-HEAおよびTM-HEAは上記で定義されたとおりである、
前記高エントロピー複合合金に関する。
現在使用されている磁性合金のそれぞれの部分を置き換えるためのビルディングブロックとして使用される場合、様々な合金成分の比が保持されることが好ましい。従って、本発明の好ましい実施態様においては、高エントロピー複合合金中でRE-HEAは、高価であるかまたは容易に入手可能ではない元素の置き換えが望まれる代表的な合金中の希土類金属と同じ割合で存在する。適宜、他の元素も置き換えるTM-HEAに関して同じことが該当する。最後に、これまで使用されてきた希土類元素と、他の元素、例えばコバルトとの両方がTM-HEAによって置き換えられる、上述の複合合金に関して同じことが該当する。
さらなる態様において、本発明は、上述のサマリウムコバルト型に従い、特に化学量論比1:5および2:17を有する磁性合金を提供する。前記の型SmxCoyのそのような高エントロピー複合合金において、
Smは上記で定義されたRE-HEAによって置き換えられ、
Coは上記で定義されたTM-HEAによって置き換えられ、
x=1または2であり、且つ
y=5、17である。
1:5の型の磁石について、好ましい新規複合合金は、
Sm-(TM-HEA)5
(RE-HEA)-Co5
によって表される。
より一般的には、
(RE-HEA)-(TM-HEA)5
の型の合金も本発明の文脈内に含まれる。
2:17型の相応の磁石については、相応の置き換えが
Sm-(TM-HEA)7.5-8.5
(RE-HEA)-(Co残部FexCu0.1Zr0.03) (前記x=0.09~0.21である)
によって表される合金をもたらす。
2:14:1型の磁石については、本発明の他の好ましい実施態様は
(RE-HEA)2Fe14
によって表される。
1:12型の磁石については、本発明のなおもさらに好ましい実施態様は
(RE-HEA)Fe12-xx (前記T=Mo、Ti、V、Si、Nであり、且つx=0.5~2である)
によって表される。
上述のとおり、様々な磁石の型についてのそれらの式において上記の定義が適用され、それによればRE-HEAは希土類型
1234…R12
に基づく高エントロピー合金であり、
R=希土類元素La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびY、Zrであり、
且つ、
TM-HEAは、遷移元素(TM)型
TM1TM2TM3TM4…TM12
に基づく高エントロピー合金であり、
好ましくはTM1=(Fe、Co、Ni)であり、且つ
TM2TM3TM4…TM12は他の遷移元素+B、Al、GaおよびInから選択される。
上記で詳細に説明されたとおり、上記の合金(RE-HEA)、(TM-HEA)の製造、およびそれに基づく磁性相の作製について、および永久磁石を製造するための原料である(RE-HEA)-(TM-HEA)型の合金の製造についても、製造技術は合金の製造のための従来の技術、特に、推奨される材料からの粉末を
a) アーク溶融すること、または
b) RF溶融すること
であり、電気抵抗炉またはマイクロ波炉のいずれかにおける固相反応(反応)を用いる。
従来の結晶学的な技術、キュリー点の測定および磁気ヒステリシスループが、上記の合金、並びに温度に伴う磁化の変化を特徴付けるために使用される。
妨げのない鋳造(RE-HEA)により、大半の場合において主に六方晶構造を有する相がもたらされることは注目に値する。
焼きなましを行わない鋳造(TM-HEA)によって、高エントロピー合金の特徴的なFCCまたはBCCのいずれかの立方対称性を有する相がもたらされることも注目に値する。
この発明の最も重要な成果は、磁石の製造のために現在まで使用されている通常の磁性相は、鋳造後に時間がかかり且つ複雑な熱処理を要する一方で、高エントロピー合金を使用すると、鋳造後に通常且つ好ましくは、磁性相を焼きなましをする必要がないことである。
高エントロピー合金(RE-HEA)および(TM-HEA)の並外れた耐食特性に起因して、それらは、空気にさらされるとすぐに酸化される希土類元素の成分に比して、長期間酸化されないままである。
また、(RE-HEA)および(TTM-HEA)の並外れた機械的特性、および遅い拡散が大きな保持場の発現のために望ましい可能性のある異なる微細構造をもたらすことに起因して、本発明は磁石の焼結よりもむしろ鋳造の可能性を対象とする。
本発明の主たる利点は、磁石の製造のための原料コストにおいて大きな節約を達成することでもある。
図面の説明
本発明の上記および他の特徴、性質および様々な利点を、付属の図解と関連付けて示す。
図1は磁性材料のヒステリシスループを示し、用途のために興味深いパラメータを示す。点10は材料の飽和磁化であり、点20は残留磁化であり、且つ点30は保磁場である。ヒステリシスループの面積は、材料のエネルギー積に比例する。 図2は、サマリウムを等価の(RE-HEA)で置き換え、且つコバルトを相応の(TM-HEA)で置き換えることによる、SmCo5材料の構造を示す。10は1つの(RE-HEA)であり、且つ20は1つの(TM-HEA)である。 図3は周期表の5つの元素を有し、個々の原子半径の差に起因する格子の小さな変形を有する合金の構造を示す。TM-HEAについての文面で述べたとおり、10はTM1、20はTM2、30はTM3、40はTM4、および50はTM5であってよい。RE-HEAの場合、10はR1、20はR2、30はR3、40はR4、および50はR5であってもよい。
例1: 1:5 SmCo5型の相
このステージでは、希土類のSmを(RE-HEA)で置き換えること、またはコバルトを等価の(TM-HEA)で置き換えること、または希土類とコバルトとを同時に且つ(RE-HEA)(TM-HEA)5の製造において置き換えることが可能である。
(RE-HEA)は少なくとも4つから12までの元素をほぼ等しい割合で有する希土類合金であって、例えばLaCePrNdの4元素、YLaCePrNdの5元素、またはLaCePrNdGdHoの6元素などを有する前記合金を意味する。
それらの合金を、純度が少なくとも99.9原子%の希土類金属を混合することによって、およびアーク溶融などの技術により、または高周波電流を用いて、例えば酸化を避けるために不活性雰囲気中で溶融することによって作製する。希土類元素に加え、イットリウムおよびジルコニウムも元素として使用できる。
(TM-HEA)は少なくとも3つから12までの元素をほぼ等原子割合で有する合金であって、且つ周期表からの室温での3つの磁性材料、例えば鉄、コバルトおよびニッケルに基づき、例えばFeCoNiの3成分、FeCoNiMnの4成分、FeCoNiMnAlの5成分、FeCoNiMnCuAlの6成分等を有する前記合金を定義する。
それらの合金を、少なくとも99.9原子%の周期表からの遷移金属を混合することによって、およびアーク溶融などの技術により、または高周波電流を用いて、例えば酸化を避けるために不活性雰囲気中で溶融することによって作製する。前記遷移元素に加え、ホウ素、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムなどの元素を使用できる。
(RE-HEA)(TM-HEA)5の適切な型の加工をもたらす磁性相を、相応の(RE-HEA)と所望の(TM-HEA)とを1:5の比で選択し、且つRE-HEAおよびTM-HEAの製造について記載された同じ技術を使用することによって作製する。さらなる加工は必要ではなく、1:5の相が非常に良好な特性を有して形成される。
そのような相は(Y,Ce,Pr,Nd,Dy)Co5であり、磁化約75emu/g、結晶磁気異方性場約12T、キュリー点>500℃、および理論エネルギー積80~130KJ/m3を有する。
相応の相はSm-(Fe,Co,Ni,Cu)5であり、70~100KJ/m3のオーダーの理論エネルギー積を有するが、材料コストは遙かに低く、なぜなら前記構造中に存在するコバルトはSmCo5に比して1/5であるからである。あまりにも多くの組み合わせがあるのだが、1:5のカテゴリにおいて最も大きな経済的な利益をもたらすことができるのはコバルトの置換である。Sm(コバルト(残部)FexCu0.1Zr0.037.5-8.5系列(x=0.09~0.21)においてはより大きな利益があり、なぜならCo/Sm比がさらに大きいからである。
例2: Nd2Fe14B型の相
このステージでは、高価なネオジム(または、Nd-Pr、産業においてはネオジム-プラセオジム合金が使用されるため)を、より豊富且つより安価であるRE-HEA、例えば(Y、La、Ce、Nd-Pr、Gd、Ho…)で置き換えることによってのみ節約が達成される。自然界においてより豊富であり且つ経済的な材料である鉄を置き換えることは決して利益にはならない。(Y,La,Ce,Pr,Nd)2Fe14Bの合金を製造する場合、それはNd2Fe14Bよりわずかに劣る磁気特性を有するが、45%のより低いコストであり、且つ(Y,La,Ce,Pr,Nd,Gd)2Fe14Bの合金について40%の節約が達成できる。この相は磁化約1000emu/g、キュリー点約300℃、および当初の相Nd2Fe14Bよりも20%低い異方性を有する。30~40MGOe(240~320KJ/m3)の範囲のエネルギー積を達成することができる。
例3: NdFe12-xTix型の相
このステージでは、高価なネオジム(産業においてはネオジム-プラセオジム合金が使用される)を、より豊富であり且つより安価であるRE-HEA、例えば(Y、La、Ce、Nd-Pr、Gd、Ho…)で置き換えることによってのみ節約が達成される。自然界において最も豊富であり且つ経済的な材料である鉄を置き換えることは決して利益にはならない。(Y,La,Ce,Pr,Nd)Fe12-xTix合金については、NdFe12-xTixとほぼ同じ磁気特性、および2倍の異方性場が得られるが、45%のコストであり、且つ(Y,La,Ce,Pr,Nd,Gd)Fe12-xTix合金についての節約は40%の高さであることができる。
上記の磁性化合物において希土類元素または遷移金属元素、またはその両者の組み合わせに基づくいずれかの高エントロピー合金の使用の、それ自体による、および永久磁石の製造のための現在の場合よりも容易な工程による価値を強調する組み合わせはあまりにも多い。本発明は材料および資源の節約をもたらすだけでなく、高エントロピー合金の特性に起因して、合金の作製におけるより少ない段階ももたらし、機械的特性に起因して、鋳造による永久磁石の製造能力ももたらし、且つ低い拡散に起因して、微細構造を操作して永久磁石の製造のために必要な望ましい保磁力を達成することもできる。本発明の材料は、任意の形状に鋳造されることもでき、適した微細構造の条件下で非常の望ましい特性を有する永久磁石であることができる。
永久磁石用の新規磁性相のためのビルディングブロックとしての希土類および遷移金属の高エントロピー合金:
本発明が関する技術分野は、磁性相における希土類およびコバルトを置き換えるための新規ビルディングブロックとしての、優れた磁気特性および機械的特性を有する、化学元素の周期表に基づく単純および複合高エントロピー磁性合金の技術分野、およびそれらで製造された永久磁石の技術分野である。
高品質な永久磁石を製造するための磁性合金における主成分である原料、例えば希土類およびコバルトの供給における高いコストおよび制限が、希土類および遷移金属に基づく高エントロピー合金の創出によって適切に対処され、それはより良好な機械的特性も提供する。このアプローチによって、新規相の磁気特性を大幅に変えることなく、且つより良好な永久磁石のためのより良好な機械的特性を有して、40%を上回る原料コストの削減が達成される。

Claims (15)

  1. 希土類元素R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12から選択される少なくとも4つから12までの元素を含み、前記希土類元素R1~R12が各々、周期表の57~60、62~70、39および40番の元素の1つを表す、希土類元素の高エントロピー合金(RE-HEA)。
  2. 前記少なくとも4つから12までの、好ましくは10の希土類元素が、ほぼ等しい割合で存在する、請求項1に記載のRE-HEA。
  3. 前記合金が少なくともLaCePrNd、YLaCePrNd、YCePrNdDy、YLaCePrNdGdまたはLaCePrNdGdHoを含む、請求項1または2に記載のRE-HEA。
  4. 遷移元素TM1、TM2、TM3、TM4、TM5、TM6、TM7、TM8、TM9、TM10、TM11、TM12から選択される少なくとも3つから12までの元素を含み、前記遷移元素TM1~TM12が各々、周期表の21~30、41~48および72~79番の元素の少なくとも1つを表す、遷移元素の高エントロピー合金(TM-HEA)。
  5. TM1が3つの元素Fe、CoおよびNiを含む、請求項4に記載のTM-HEA。
  6. B、Al、GaおよびInの1つ以上をさらに含む、請求項4または5に記載のTM-HEA。
  7. 少なくともFeCoNi、FeCoNiMn、FeCoNiCu、FeCoNiMnAlまたはFeCoNiMnCuAlを含む、請求項4から6までのいずれか1項に記載のTM-HEA。
  8. 磁気装置および永久磁石を製造するための磁性高エントロピー複合合金におけるビルディングブロックとしての、請求項1から3までのいずれか1項に記載のRE-HEAおよび/または請求項4から6までのいずれか1項に記載のTM-HEAの使用。
  9. (RE-HEA)x(TM-HEA)yz型の高エントロピー複合合金であって、ここで
    x=1、2であり、y=2、3、5、12、14、17であり、z=0.5~3であり、且つ
    T=Mo、Ti、V、Si、NおよびBであり、且つ
    RE-HEAは請求項1から3までのいずれか1項で定義されたとおりであり、且つTM-HEAは請求項4から7までのいずれか1項で定義されたとおりである、
    前記高エントロピー複合合金。
  10. SmxCoy型の高エントロピー複合合金であって、ここで
    Smは請求項1から3までのいずれか1項で定義されたRE-HEAによって置き換えられ、且つ/または
    Coは請求項4から7までのいずれか1項で定義されたTM-HEAによって置き換えられ、
    x=1または2であり、且つ
    y=5、17である、
    前記高エントロピー複合合金。
  11. (RE-HEA)2Fe14B型の高エントロピー複合合金であって、ここで
    (RE-HEA)は請求項1から3までのいずれか1項で定義されたとおりである、
    前記高エントロピー複合合金。
  12. (RE-HEA)Fe12-xx型の高エントロピー複合合金であって、ここで
    (RE-HEA)は請求項1から3までのいずれか1項で定義されたとおりであり、
    T=Mo、Ti、V、Si、Nであり、且つ
    x=0.5~2である、
    前記高エントロピー複合合金。
  13. 請求項1から7までのいずれか1項に記載の高エントロピー合金の、または請求項9から12までのいずれか1項に記載の高エントロピー複合合金の製造方法であって、RE-HEAの元素および/またはTM-REAの元素を含む粉末を混合し、前記粉末を溶融し、そして合金を適切な形状に鋳造することによる、前記方法。
  14. 溶融をアーク溶融、または電気抵抗炉またはマイクロ波炉におけるRF溶融を介して、好ましくは不活性雰囲気中で達成する、請求項13に記載の方法。
  15. 永久磁石を製造するための、請求項9から12までのいずれか1項に記載の高エントロピー複合合金の使用。
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