JP2022128544A - 車両の制動制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】制動制御装置において、電磁弁の発熱が抑制され得るものを提供する。【解決手段】制動制御装置は、ホイールシリンダ(CW)の制動液圧(Pw)を調整することで車体速度を低速で一定に維持する速度制御を実行するものであって、制動液圧(Pw)を増加する加圧源と、加圧源とホイールシリンダ(CW)とを接続する連絡路(HS)に設けられる常開型のインレット弁(UI)と、インレット弁(UI)を制御するコントローラと、を備える。コントローラは、速度制御の実行中に制動液圧(Pw)を減少する場合にはインレット弁(UI)に対して加圧源側の液圧である調整液圧(Pq)と制動液圧(Pw)との液圧差(wQ)に基づいて特定通電量(ie)を決定し、インレット弁(UI)に特定通電量(ie)を通電してインレット弁(UI)を閉弁する。【選択図】図5

Description

本開示は、車両の制動制御装置に関する。
特許文献1には、「車両用制動制御装置において、ブレーキ加圧制御に係るモータの発熱をより抑制しながら、より長時間のブレーキ加圧制御を実行すること」を目的に、「車両用制動制御装置のブレーキECU70は、ブレーキ加圧制御の実行中に、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50のM/C13側から入力するブレーキ圧力である任意の上流液圧(M/C圧)が高いほどモータ60の作動を抑制する作動抑制制御を行う。ブレーキECU70は、上流液圧(M/C圧)が高いときには低いときに比べて少なくとも開始閾値を高く設定する閾値変更部(ステップS148~156)を有し、作動抑制制御として、リザーバ内液量が開始閾値を超えるとモータ60を作動させてリザーバ20,40内からブレーキ液を吸い出し、リザーバ内液量が停止閾値となるとモータ60を停止させる(ステップS162~168)」ことが記載されている。特許文献1に記載の装置は、電気モータの発熱を抑制するものであるが、制動制御装置の長時間作動においては、電気モータ以外の構成要素についても発熱抑制が望まれている。
特開2016-159678号
本発明の目的は、車両の制動制御装置において、電磁弁の発熱が抑制され得るものを提供することである。
本発明に係る制動制御装置は、車両のホイールシリンダ(CW)の制動液圧(Pw)を調整することで前記車両の車体速度(Vx)を低速で一定に維持する速度制御を実行するものであって、前記制動液圧(Pw)を増加する加圧源(YA、KB)と、前記加圧源(YA、KB)と前記ホイールシリンダ(CW)とを接続する連絡路(HS)に設けられる常開型のインレット弁(UI)と、前記インレット弁(UI)を制御するコントローラ(ECU)と、を備える。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記速度制御の実行中に前記制動液圧(Pw)を減少する場合には前記インレット弁(UI)に対して前記加圧源(YA、KB)側の液圧である調整液圧(Pq)と前記制動液圧(Pw)との液圧差(wQ(例えば、値pd))に基づいて特定通電量(ie)を決定し、前記インレット弁(UI)に前記特定通電量(ie)を通電して前記インレット弁(UI)を閉弁する。
本発明に係る制動制御装置は、差動機構(DF、DR)を介して接続される車両の第1、第2車輪(WH1、WH2)において、前記第1車輪(WH1)が空転しつつある場合に該第1車輪(WH1)のホイールシリンダ(CW1)の制動液圧(Pw1)を調整することで、前記第2車輪(WH2)の駆動力(Fd2)を調整するトラクション制御を実行するものであって、前記制動液圧(Pw1)を増加する加圧源(YA、KB)と、前記加圧源(YA、KB)と前記ホイールシリンダ(CW)とを接続する連絡路(HS)に設けられる常開型のインレット弁(UI)と、前記インレット弁(UI)を制御するコントローラ(ECU)と、を備える。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記トラクション制御の実行中に前記制動液圧(Pw1)を減少する場合には前記インレット弁(UI)に対して前記加圧源(YA、KB)側の液圧である調整液圧(Pq)と前記制動液圧(Pw1)との液圧差(wQ(例えば、値pd))に基づいて特定通電量(ie)を決定し、前記インレット弁(UI)に前記特定通電量(ie)を通電して前記インレット弁(UI)を閉弁する。
上記速度制御(オフロード制御)、及び、トラクション制御では、各ホイールシリンダCWの制動液圧Pwは、夫々が個別に調整される。そして、制動液圧Pwの増加が不要である場合(例えば、制動液圧Pwの減少が必要である場合)には、インレット弁UIが閉弁される。インレット弁UIが閉弁される際の電力供給には、発熱と閉弁維持との間でトレードオフ関係が存在する。具体的には、インレット弁UIへの通電量Iuが大きいと、閉弁状態は確実に維持されるが、発熱量は大きくなる。逆に、通電量Iuが小さいと、発熱量は小さいが、インレット弁UIは僅かな液圧変動でも開弁され易くなる。上記構成によれば、インレット弁UIの閉弁維持に必要、且つ、最小限の通電量Iu(即ち、特定通電量ie)が決定されるので、発熱と閉弁維持とのトレードオフ関係が、適切に両立される。
制動制御装置SCを搭載した車両JVの全体を説明するための構成図である。 第1ユニットYAの構成例を説明するための概略図である。 第2ユニットYBの構成例を説明するための概略図である。 オフロード制御での制動液圧Pwの調整方法を説明するためのフロー図である。 インレット弁UIを説明するための概略図、及び、特性図である。
以下、本発明に係る車両の制動制御装置SCの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
<構成要素の記号等>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された部材、信号、値等の構成要素は同一機能のものである。車輪に係る各種記号の末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前輪、後輪の何れに関する要素であるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は前輪に係る要素を、「r」は後輪に係る要素を、夫々示す。例えば、ホイールシリンダCWにおいて、前輪ホイールシリンダCWf、後輪ホイールシリンダCWrというように表記される。更に、添字「f」、「r」は省略されることがある。これらが省略される場合には、各記号は、その総称を表す。
<制動制御装置SCを搭載した車両JV>
図1の構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCを搭載した車両JVの全体について説明する。車両JVには、加速操作部材AP、制動操作部材BP、操舵操作部材SH、及び、各種センサ(BA等)が備えられる。加速操作部材(例えば、アクセルペダル)APは、運転者が車両JVを加速するとともに、車両JVの速度(車体速度Vx)を制御するために操作する部材である。制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両JVを減速するために操作する部材である。操舵操作部材(例えば、ステアリングホイール)SHは、運転者が車両JVを旋回させるために操作する部材である。
車両JVには、以下に列挙される各種センサが備えられる。これらのセンサの検出信号(Ba等)は、後述する制動用のコントローラECU(単に、「制動コントローラ」ともいう)に入力される。
・加速操作部材APの操作量(加速操作量)Aaを検出する加速操作量センサAA、制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Baを検出する制動操作量センサBA、及び、操舵操作部材SHの操作量(操舵操作量であって、例えば、操舵角)Saを検出する操舵操作量センサSA。
・車輪WHの回転速度(車輪速度)Vwを検出する車輪速度センサVW。
・車両JV(特に、車体)において、ヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサYR、前後加速度Gxを検出する前後加速度センサGX、及び、横加速度Gyを検出する横加速度センサGY。
加えて、後述する各種の自動制動制御の指示を行うため、ダウンヒルアシスト制御用のスイッチXD、クロール制御用のスイッチXC等の各種スイッチが備えられる。これらのスイッチXD、XCは、運転者によって操作される。そして、スイッチXDからの操作信号Xd(ダウンヒルアシスト制御用信号)、及び、スイッチXCからの操作信号Xc(クロール制御用信号)は、制動コントローラECUに入力される。
車両JVには、制動装置SX、及び、制動制御装置SCが備えられる。制動制御装置SCでは、2系統の制動系統として、所謂、前後型(「II型」ともいう)のものが採用されている。
制動装置SXには、制動制御装置SCによって発生される制動液圧Pwが供給される。そして、制動装置SXによって、制動液圧Pwに応じて、車輪WHに制動力Fbが発生される。制動装置SXは、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KT、及び、ブレーキキャリパCPを含んで構成される。回転部材KTは、車両の車輪WHに固定され、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパCPが設けられる。ブレーキキャリパCPには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCWには、制動制御装置SCから、制動液圧Pwに調整された制動液BFが供給される。制動液圧Pwによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSが、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTb(結果、制動力Fb)が発生される。
制動制御装置SCは、制動操作部材BPの操作量Baに応じて、実際の制動液圧Pwを調節し、前輪、後輪連絡路HSf、HSrを介して、制動装置SX(特に、ホイールシリンダCW)に制動液圧Pwを供給する。制動制御装置SCは、マスタシリンダCM、流体ユニットHU、及び、制動コントローラECUにて構成される。そして、流体ユニットHUは、2つのユニット(第1、第2ユニット)YA、YBにて構成される。制動制御装置SCの構成要素(第1、第2ユニットYA、YBに含まれる電磁弁、電気モータ等)は、コントローラECUによって制御される。コントローラECUは、信号処理を行うマイクロプロセッサMP、及び、電磁弁、電気モータを駆動する駆動回路DDにて構成される。制動用のコントローラECU、後述する原動機用のコントローラECP、動力伝達用のコントローラECTの夫々は、通信バスBSに接続されている。従って、これらのコントローラの間では、通信バスBSを介して情報(検出値、演算値)が共有されている。例えば、制動コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。車体速度Vxは、通信バスBSを通して、他のコントローラに送信される。コントローラECUには、加速操作量Aa、制動操作量Ba、操舵操作量Sa、ヨーレイトYr、前後加速度Gx、横加速度Gy、車輪速度Vw、操作信号Xc(クロール制御用)、操作信号Xd(ダウンヒルアシスト制御用)等が入力される。これら信号に基づいて、制動コントローラECUによって、流体ユニットHUが制御される。制動制御装置SCの詳細については後述する。
車両JVには、原動機制御装置GC、及び、動力伝達装置TSが備えられる。車両JVは、4つの車輪WHの全てが駆動輪(駆動トルクTdが伝達されて、駆動力Fdを発生する車輪)である4輪駆動方式の車両である。
原動機制御装置GCは、原動機PG、及び、それを制御する原動機用のコントローラECP(単に、「原動機コントローラ」ともいう)にて構成される。原動機PGは、自然界に存在する各種エネルギを機械的な仕事(力学的エネルギ)に変換する装置の総称である。原動機PGとして、内燃機関(ガソリンエンジン)が採用される場合を例に説明する。原動機PGによって、4つの車輪WHを駆動するための動力(駆動トルクTd)が発生される。原動機PGは、原動機コントローラ(エンジンコントローラ)ECPによって制御され、その出力が調整される。詳細には、原動機PGには、スロットル装置TH、燃料噴射装置FI、及び、エンジン回転数センサNEが含まれている。スロットル開度Thはスロットル装置THによって、燃料噴射量Fiは燃料噴射装置FIによって、夫々制御される。そして、回転数センサNEにて検出されるエンジン回転数Neに基づいて、スロットル開度Th、及び、燃料噴射量Fiのうちの少なくとも1つが、原動機コントローラECPによって制御される。その結果、原動機PGの出力が調節される。
原動機制御装置GC(特に、原動機PG)の出力(回転動力)は、動力伝達装置TSに入力される。そして、原動機PGの出力は、動力伝達装置TSを介して、4つの車輪WHに伝達され、車輪WHの夫々で駆動力Fdが発生される。動力伝達装置TSは、動力伝達機構TD、及び、それを制御する動力伝達用のコントローラECT(単に、「動力伝達コントローラ」ともいう)を含んでいる。動力伝達機構TDは、主変速機MH、副変速機FH、前輪差動機構DF、中央差動機構DC、及び、後輪差動機構DRにて構成される。主変速機MHは、車両の走行状態に応じて変速を行う自動変速機である。主変速機MHを介して、原動機PGの出力が副変速機FHに入力される。副変速機FHは、4輪駆動用の高速ギヤと低速ギヤとの切り替えを可能にしている。
副変速機FHからの出力は、夫々の差動機構DF(前輪差動ギヤ)、DC(中央差動ギヤ)、DR(後輪差動ギヤ)に入力される。前輪駆動トルクTdfは、前輪差動機構DF、及び、前輪ドライブシャフトを介して、左右の前輪WHfに伝達される。また、後輪駆動トルクTdrは、中央差動機構DC、後輪差動機構DR、及び、後輪ドライブシャフトを介して、左右の後輪WHrに伝達される。差動機構DF、DC、DRを介して、原動機PGが発生する動力が、前輪WHf、後輪WHrに伝達されるので、各車輪WHの間の回転速度差(即ち、差動)が許容される。動力伝達機構TDの各構成要素(MH等)は、動力伝達コントローラECTによって制御される。具体的には、動力伝達コントローラECTによって、主変速機MH、副変速機FH、及び、差動機構DF、DC、DRの夫々が制御される。
<オフロード制御>
車両JVでは、オフロード制御が実行される。「オフロード制御」は、未舗装路(「オフロード」ともいう)等で車体速度Vxを低速で維持するものである。ここで、オフロード制御は、「ダウンヒルアシスト制御」、及び、「クロール制御」の総称である。ダウンヒルアシスト制御、及び、クロール制御は、公知であるため、以下、簡単に説明する。
「ダウンヒルアシスト制御」は、「ヒルディセント制御」とも称呼され、降坂路において、運転者が制動操作部材BPを操作しなくても、車体速度Vxが所定車速vd以下で維持されるよう、制動力Fbを調整するものである。ダウンヒルアシスト制御は、運転者が操作するダウンヒルアシスト制御用スイッチXDからの操作信号Xd(ダウンヒルアシスト制御信号)によって指示される。操作信号Xdがオン状態を示している場合、ダウンヒルアシスト制御は実行されるが、操作信号Xdがオフ状態の場合には実行されない。また、スイッチXDによって、ダウンヒルアシスト制御の実行の要否が指示されることに加え、ダウンヒルアシスト制御による設定速度vdが指示される。即ち、操作信号Xdには、車両JVの車体速度Vxの目標値(設定速度)vdの情報が含まれている。ダウンヒルアシスト制御では、車輪WHのロック、横滑りが抑制されるとともに、車体速度Vxが予め設定された一定の低速度(設定速度)vdに一致し、維持されるよう、各車輪WHの制動液圧Pwが個別に調整される。
「クロール制御」は、上記のダウンヒルアシスト制御を、更に進化させたものである。クロール制御では、加速操作部材(アクセルペダル)AP、及び、制動操作部材(ブレーキペダル)BPが操作されなくても、車体速度Vxが所定の設定車速vcで維持されるよう、制動制御装置SC、及び、原動機制御装置GCによって、制動力Fb、及び、駆動力Fdが制御される。つまり、クロール制御は、下り坂のみならず、上り坂でも作動される。
具体的には、クロール制御は、運転者が操作するクロール制御用スイッチXCからの操作信号Xc(クロール制御用のスイッチ信号)によって指示される。操作信号(スイッチ信号)Xcがオン状態を示している場合、クロール制御は実行されるが、操作信号Xcがオフ状態の場合には実行されない。また、スイッチXCによって、クロール制御の実行の要否が指示されることに加え、クロール制御による設定速度vcが指示される。即ち、操作信号Xcには、車両JVの車体速度Vxの目標値(設定速度)vcの情報が含まれている。そして、クロール制御では、車輪WHのロック、横滑りが抑制されるとともに、車体速度Vxが予め設定された一定の低速度(設定速度)vcに一致し、維持されるよう、原動機PGの出力が調整されるとともに、各車輪WHの制動液圧Pwが個別に調整される。砂地、ダート、岩石路、泥濘路等では、加速操作部材AP、制動操作部材BPの微妙な操作が必要とされるが、クロール制御によって、該状況での走行が好適に補助される。
以上で説明したように、オフロード制御(例えば、ダウンヒルアシスト制御、クロール制御)によって、車輪WHの横滑り等が回避されるので車両JVの安定性が確保された上で、車体速度Vxが一定(極低速vd、vc)に維持されて走行が可能となる。このとき、運転者による加速操作部材AP、制動操作部材BPの操作は必要とされないため、運転者は操舵操作部材SHの操作に集中することができる。即ち、オフロード制御によって、不整地等での走破性が向上される。
<第1ユニットYA>
図2の概略図を参照して、流体ユニットHUに含まれる第1ユニットYAの構成例について説明する。第1ユニットYAは、4つのホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwを増加するための加圧源である。例では、第1ユニットYAは、マスタシリンダCMと一体化されている。そして、前後型の制動系統が採用されている。第1ユニットYAは、マスタシリンダCMを含むアプライユニットAU、及び、加圧ユニットKUにて構成される。アプライユニットAU、及び、加圧ユニットKUは、制動コントローラECUによって制御される。詳細には、コントローラECUには、制動操作量Ba(シミュレータ液圧Ps、操作変位Sp、操作力Fpのうちの少なくとも1つ)、車輪速度Vw、アキュムレータ液圧Pc、サーボ液圧Pu、供給液圧Pmが入力され、これら信号に基づいて、入力弁VNの駆動信号Vn、開放弁VRの駆動信号Vr、増圧弁UZの駆動信号Uz、減圧弁UGの駆動信号Ug、蓄圧用電気モータMAの駆動信号Maが演算される。そして、駆動信号「Vn、Vr、Uz、Ug、Ma」に応じて、第1ユニットYAを構成する電磁弁「VN、VR、UZ、UG」、及び、蓄圧用の電気モータMAが制御(駆動)される。
後述するように、流体ユニットHU、ホイールシリンダCW等は、連絡路HS、入力路HN、減圧路HG、還流路HKにて接続される。これらは、制動液BFが移動される流体路である。流体路(HS等)としては、流体配管、流体ユニットHU内の流路、ホース等が該当する。
≪アプライユニットAU≫
アプライユニットAUは、マスタリザーバRV、マスタシリンダCM,第1、第2マスタピストンNP、NS、第1、第2マスタばねDP、DS、入力シリンダCN、入力ピストンNN、入力ばねDN、入力弁VN、開放弁VR、ストロークシミュレータSS、及び、シミュレータ液圧センサPSにて構成される。
マスタリザーバ(「大気圧リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタリザーバRVは、マスタシリンダCM(特に、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmr)に接続されている。
マスタシリンダCMは、底部を有するシリンダ部材である。マスタシリンダCMの内部には、第1、第2マスタピストンNP、NSが挿入され、その内部が、シール部材SLによって封止されて、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmrに分けられている。マスタシリンダCMは、所謂、タンデム型である。前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmr内には、第1、第2マスタばねDP、DSが設けられる。第1、第2マスタばねDP、DSによって、第1、第2マスタピストンNP、NSは、後退方向Hb(マスタ室Rmの体積が増加する方向であり、前進方向Haとは逆方向)に押圧されている。前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmr(=Rm)は、前輪、後輪連絡路HSf、HSr(=HS)、及び、第2ユニットYBを介して、最終的には前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWr(=CW)に、夫々接続されている。第1、第2マスタピストンNP、NSが前進方向Ha(マスタ室Rmの体積が減少する方向)に移動されると、第1ユニットYA(特に、マスタシリンダCM)から第2ユニットYBに対して、液圧Pm(「供給液圧」と称呼され、「前輪、後輪供給液圧Pmf、Pmr」である)の制動液BFが供給される。ここで、前輪供給液圧Pmfと後輪供給液圧Pmrとは等しい。
第1マスタピストンNPには、つば部(フランジ)が設けられている。このつば部によって、マスタシリンダCMの内部は、更に、サーボ室Ruと後方室Roとに仕切られている。サーボ室Ruは、第1マスタピストンNPを挟んで、前輪マスタ室Rmfに相対するように配置される。また、後方室Roは、前輪マスタ室Rmfとサーボ室Ruとに挟まれ、それらの間に配置されている。サーボ室Ru、及び、後方室Roも、上記同様に、シール部材SLによって封止されている。
入力シリンダCNは、マスタシリンダCMに固定されている。入力シリンダCNの内部には、入力ピストンNNが挿入され、シール部材SLによって封止されて、入力室Rnが形成されている。入力ピストンNNは、クレビス(U字リンク)を介して、制動操作部材BPに機械的に接続されている。入力ピストンNNには、つば部(フランジ)が設けられる。このつば部とマスタシリンダCMに対する入力シリンダCNの取付面との間に、入力ばねDNが設けられる。入力ばねDNによって、入力ピストンNNは、後退方向Hbに押圧されている。
アプライユニットAUには、入力室Rn、サーボ室Ru、後方室Ro、及び、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmrの各液圧室が設けられる。ここで、「液圧室」は、制動液BFが満たされ、シール部材SLによって封止されたチャンバである。夫々の液圧室の体積は、入力ピストンNN、第1、第2マスタピストンNP、NSの移動によって変化される。液圧室の配置においては、マスタシリンダCMの中心軸線Jmに沿って、制動操作部材BPに近い方から、入力室Rn、サーボ室Ru、後方室Ro、前輪マスタ室Rmf、後輪マスタ室Rmrの順で並んでいる。
入力室Rnと後方室Roとは、入力路HNを介して接続されている。そして、入力路HNには、入力弁VNが設けられる。入力路HNは、後方室Roと入力弁VNとの間で、開放弁VRを介して、マスタリザーバRVに接続される。入力弁VN、及び、開放弁VRは、開位置(連通状態)と閉位置(遮断状態)とを有する2位置の電磁弁(「オン・オフ弁」ともいう)である。入力弁VNとして常閉型の電磁弁が採用される。開放弁VRとして常開型の電磁弁が採用される。入力弁VN、開放弁VRは、制動コントローラECUからの駆動信号Vn、Vrによって駆動(制御)される。
後方室Roには、ストロークシミュレータ(単に、「シミュレータ」ともいう)SSが接続されている。シミュレータSSによって、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。シミュレータSSの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。制動液BFがシミュレータSSに流入する際に、制動液BFによってピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液BFの流入を阻止する方向に力が加えられるため、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。つまり、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spと操作力Fpとの関係)は、シミュレータSSによって形成される。
シミュレータSSの液圧(シミュレータ液圧であり、入力室Rn、後方室Roの液圧でもある)Psを検出するよう、シミュレータ液圧センサPSが設けられる。シミュレータ液圧センサPSは、上記の制動操作量センサBAの1つである。シミュレータ液圧Psは、制動操作量Baとして、制動用のコントローラECUに入力される。
第1ユニットYAには、シミュレータ液圧センサPSの他に、制動操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び/又は、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPが設けられる。つまり、制動操作量センサBAとしては、シミュレータ液圧センサPS、操作変位センサSP(ストロークセンサ)、及び、操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。従って、制動操作量Baは、シミュレータ液圧Ps、操作変位Sp、及び、操作力Fpのうちの少なくとも1つである。
≪加圧ユニットKU≫
加圧ユニットKUによって、供給液圧Pmが発生され、調整される。加圧ユニットKUは、蓄圧用流体ポンプQA、蓄圧用電気モータMA、アキュムレータAC、アキュムレータ液圧センサPC、加圧シリンダCK、加圧ピストンNK、増圧弁UZ、減圧弁UG、及び、サーボ液圧センサPUにて構成される。
加圧ユニットKUには、アキュムレータACを蓄圧するように、蓄圧用の流体ポンプQAが設けられる。蓄圧用流体ポンプQAは、蓄圧用の電気モータMAによって駆動され、マスタリザーバRVから制動液BFを汲み上げる。そして、流体ポンプQAから吐出された制動液BFは、アキュムレータACに蓄えられる。アキュムレータACには、アキュムレータ液圧Pcにまで加圧された制動液BFが蓄えられる。アキュムレータ液圧Pcを検出するよう、アキュムレータ液圧センサPCが設けられる。
制動コントローラECUによって、アキュムレータ液圧Pcが所定範囲内に維持されるよう、蓄圧用の電気モータMAが制御される。具体的には、アキュムレータ液圧Pcが、下限値pl未満の場合には、電気モータMAが所定回転数で駆動される。また、アキュムレータ液圧Pcが、上限値pu以上の場合には、電気モータMAは停止される。ここで、下限値pl、及び、上限値puは、予め設定された所定値(定数)であり、「pl<pu」の関係にある。電気モータMAが制御されることによって、アキュムレータ液圧Pcは、下限値plから上限値puの範囲に維持される。
加圧ユニットKUには、アキュムレータACからのアキュムレータ液圧Pcを調整して、サーボ室Ruに供給するよう、加圧シリンダCKが設けられる。加圧シリンダCKには、加圧ピストンNKが挿入されている。加圧ピストンNKによって、加圧シリンダCKの内部は、シール部材SLにて封止された、3つの液圧室Rp(パイロット室)、Rv(環状室)、Rk(加圧室)に区画されている。パイロット室Rpと加圧室Rkとは、加圧ピストンNKを挟むように配置される。つまり、パイロット室Rpは、加圧シリンダCKにおいて、加圧ピストンNKに対して加圧室Rkの反対側に位置する。パイロット室Rpには、後述する増圧弁UZ、及び、減圧弁UGによって調節されたパイロット液圧Ppが供給される。
加圧ピストンNKの外周部には環状の凹部(くびれ部)が設けられている。この環状凹部と加圧シリンダCKの内周部とによって環状室Rvが形成される。更に、加圧ピストンNKの外周部には、弁体Vv(例えば、スプール弁)が形成されている。そして、この弁体Vvには、アキュムレータACからアキュムレータ液圧Pcに加圧された制動液BFが供給される。弁体Vvによって、アキュムレータ液圧Pcが調圧されて、環状室Rvに導入される。環状室Rvは、加圧ピストンNKに設けられた貫通孔を介して、加圧室Rkと連通されている。従って、環状室Rvの液圧と加圧室Rkの液圧は同一である。該液圧が、「サーボ液圧Pu」と称呼される。
具体的には、パイロット室Rpの液圧(パイロット液圧)Ppによって、加圧ピストンNKが移動されると、弁体Vvの開口量が変化する。そして、パイロット液圧Pp(パイロット室Rpの液圧)とサーボ液圧Pu(環状室Rv、加圧室Rkの液圧)とが一致するよう、加圧ピストンNKの弁体Vvを通して、アキュムレータACから制動液BFが供給される。つまり、高圧のアキュムレータ液圧Pcが、弁体Vvによって絞られ、サーボ液圧Puに調節される。実際のサーボ液圧Puを検出するよう、サーボ液圧センサPUが設けられる。検出されたサーボ液圧Puは、制動コントローラECUに入力される。コントローラECUによって、サーボ液圧Puに基づいて、パイロット液圧Ppが調節され、最終的には、サーボ液圧Puが目標値に一致するように制御される。加圧室Rkとサーボ室Ruとは流体路によって接続されているので、サーボ液圧Puに調整された制動液BFが、加圧ユニットKUからサーボ室Ruに供給される。
≪第1ユニットYAの作動≫
非制動時(即ち、制動操作部材BPの操作が行われていない場合)には、ピストン「NN、NP、NS」は、ばね「DN、DP、DS」によって押し付けられ、それらの初期位置(最も後退方向Hbに移動された位置)にまで戻されている。この状態では、前輪、後輪マスタ室Rmf、RmrとマスタリザーバRVとは連通状態であって、前輪、後輪供給液圧Pmf、Pmrは「0(大気圧)」である。また、各ピストンの初期位置においては、入力ピストンNNと第1マスタピストンNPとは隙間を有している。同様に、非制動時には、増圧弁UZは閉弁され、減圧弁UGは開弁されているので、パイロット室RpとマスタリザーバRVとは連通状態にされ、パイロット液圧Ppは「0(大気圧)」である。そして、加圧ピストンNKは、圧縮ばねDKによって、加圧シリンダCKの底部に押圧されていて、弁体Vv(スプール弁)は閉弁されている。加圧室RkとマスタリザーバRVとは連通状態にされているので、サーボ液圧Puも「0」である。更に、非制動時には、入力弁VN、及び、開放弁VRが開弁され、後方室Ro、及び、入力室RnはマスタリザーバRVに連通状態にされているので、これらの内圧Po、Pnも「0」である。即ち、非制動時には、「Pmf=Pmr=Pp=Pu=Po=Pn=0」の状態である。
制動時(即ち、制動操作部材BPが操作される場合)には、入力弁VNが開弁され、開放弁VRが閉弁されている。即ち、入力室Rnと後方室Roとが連通状態され、後方室RoとマスタリザーバRVとの連通状態が遮断され、非連通状態にされている。制動操作部材BPの操作量Baの増加に伴い、入力ピストンNNは前進方向Haに移動され、入力室Rnから制動液BFが排出される。この制動液BFは、ストロークシミュレータSSに吸収されるので、入力室Rnの液圧Pn(入力液圧)、及び、後方室Roの液圧Po(後方液圧)が増加され、制動操作部材BPに操作力Fpが発生される。このとき、制動操作量Ba(シミュレータ液圧Ps、操作変位Sp、操作力Fpのうちの少なくとも1つ)に応じて、増圧弁UZ、及び、減圧弁UGが制御され、パイロット室Rpの液圧Pp(パイロット液圧)が増加される。パイロット液圧Ppの増加に応じて弁体Vvが開弁され、環状室Rv、及び、加圧室Rkの液圧Pu(サーボ液圧)が増加される。このサーボ液圧Puは、サーボ室Ruに供給されるので、第1マスタピストンNPは前進方向Haに押圧され、前進方向Haに移動される。第1マスタピストンNPの前進方向Haの移動に伴って、前輪、後輪供給液圧Pmf、Pmr(=Pm)が増加される。そして、第1ユニットYAによって供給液圧Pmに調節された制動液BFが、第2ユニットYBに対して供給され、最終的にはホイールシリンダCWの制動液圧Pwが増加される。
制動制御装置SCは、所謂、ブレーキバイワイヤ型であるため、車両が電動車(例えば、電気自動車、ハイブリッド車)である場合には、回生協調制御が実行される。入力ピストンNNと第1マスタピストンNPとは隙間を有しているので、サーボ液圧Puが制御されることによって、この隙間の範囲内で、入力ピストンNNと第1、第2マスタピストンNP、NSとの相対的な位置関係が任意に調節可能である。例えば、回生制動による制動力のみが必要な場合には、「Pu=0」にされ、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmrからの供給液圧Pmは「0」のままにされる。回転部材KTと摩擦部材との摩擦による制動力は発生されず、制動力Fbは、発電機として機能する駆動用電気モータの回生制動力によってのみ発生される。
<第2ユニットYB>
図3の概略図を参照して、流体ユニットHUに含まれる第2ユニットYBの構成例について説明する。第2ユニットYBは、連絡路HS(制動液BFを移動するための流体路)において、第1ユニットYAとホイールシリンダCWとの間に設けられている。制動制御装置SCは、第2ユニットYBによって、供給液圧Pmを調整(増加、保持、減少)することができる。つまり、第2ユニットYBによって、ホイールシリンダCWの液圧Pwが最終的に調整される。例えば、第2ユニットYBは、アンチロックブレーキ制御(車輪WHのロックを抑制する制御)、トラクション制御(車輪WHの空転を抑制する制御)、及び、車両安定性制御(過度のアンダステア、オーバステアを抑制する制御)に利用される。第2ユニットYBは、供給液圧センサPM、調圧弁UB、還流用の流体ポンプQB、還流用の電気モータMB、調圧リザーバRC、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOにて構成される。
第1ユニットYAと同様に、第2ユニットYBも制動コントローラECUによって制御される。詳細には、コントローラECUでは、上述した各種信号(Ba等)に基づき、調圧弁UBの駆動信号Ub、インレット弁UIの駆動信号Ui、アウトレット弁VOの駆動信号Vo、還流用電気モータMBの駆動信号Mbが演算される。そして、これらの駆動信号(Ub等)に応じて、第2ユニットYBを構成する電磁弁「UB、UI、VO」、及び、還流用電気モータMBが制御(駆動)される。
前輪、後輪調圧弁UBf、UBr(=UB)が、前輪、後輪連絡路HSf、HSr(=HS)に設けられる。調圧弁UB(電磁弁)は、常開型のリニア弁(「差圧弁」、「比例弁」ともいう)である。調圧弁UBの上部(第1ユニットYAに近い側の連絡路HSの部位)と、調圧弁UBの下部(ホイールシリンダCWに近い側の連絡路HSの部位)とが、前輪、後輪還流路HKf、HKr(=HK)にて接続される。還流路HKには、前輪、後輪還流用流体ポンプQBf、QBr(=QB)、及び、前輪、後輪調圧リザーバRCf、RCr(=RC)が設けられる。還流用流体ポンプQBは、還流用電気モータMBによって駆動される。調圧弁UBの上部には、第1ユニットYAによって供給される実際の液圧(供給液圧)Pmを検出するよう、供給液圧センサPMが設けられる。
電気モータMBが回転駆動されると、流体ポンプQBは、調圧弁UBの上部から制動液BFを吸い込み、調圧弁UBの下部に制動液BFを吐出する。これにより、連絡路HS、及び、還流路HKには、調圧リザーバRCを含んだ、制動液BFの還流KN(即ち、前輪、後輪還流KNf、KNrであり、循環する制動液BFの流れ)が発生する。調圧弁UBによって制動液BFの還流KNが絞られると、オリフィス効果によって、調圧弁UBの下部の液圧Pq(「調整液圧」という)が、調圧弁UBの上部の液圧Pm(供給液圧)から増加される。つまり、第2ユニットYBによって、前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwr(=Pw)を、供給液圧Pmから増加することが可能である。第2ユニットYBにおいて、還流用電気モータMB、還流用流体ポンプQB、及び、調圧弁UBが、「加圧源KB」と称呼される。
第2ユニットYBの内部にて、前輪、後輪連絡路HSf、HSrは、夫々、2つに分岐されて、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrに接続される。そして、ホイールシリンダCW毎に、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが設けられる。インレット弁UI(電磁弁)は、調圧弁UBと同様に、常開型のリニア弁である。ただし、調圧弁UBとインレット弁UIとは、開弁する方向が異なる。詳細には、調圧弁UBはホイールシリンダCWからマスタシリンダCMへの制動液BFの流れに対応して開弁するので、調圧弁UBによる調圧では、調整液圧Pqは供給液圧Pm以上である(即ち、「Pq≧Pm」)。一方、インレット弁UIはマスタシリンダCMからホイールシリンダCWへの流れに対応して開弁するので、インレット弁UIによる調圧では、制動液圧Pwは調整液圧Pq以下である(即ち、「Pq≧Pw」)。
インレット弁UIは、分岐された連絡路HS(即ち、連絡路HSの分岐部に対してホイールシリンダCWに近い側)に設けられる。連絡路HSは、インレット弁UIの下部(ホイールシリンダCWに近い側の連絡路HSの部位)にて、減圧路HGを介して、調圧リザーバRCに接続される。そして、減圧路HGには、常閉型のオン・オフ弁であるアウトレット弁VOが配置される。
制動液圧Pwが、ホイールシリンダCW毎に別々に調整されるよう、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが個別に制御される。制動液圧Pwを減少するためには、インレット弁UIが閉弁され、アウトレット弁VOが開弁される。ホイールシリンダCWへの制動液BFの流入が阻止されるとともに、ホイールシリンダCW内の制動液BFが調圧リザーバRCに流出するので、制動液圧Pwは減少される。制動液圧Pwを増加するためには、インレット弁UIが開弁され、アウトレット弁VOが閉弁される。制動液BFの調圧リザーバRCへの流出が阻止され、調圧弁UBからの調整液圧PqがホイールシリンダCWに供給されるので、制動液圧Pwが増加される。制動液圧Pwを保持するためには、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが共に閉弁される。ホイールシリンダCWは流体的に封止されるので、制動液圧Pwが一定に維持される。
<オフロード制御での制動液圧Pwの調整>
図4のフロー図を参照して、オフロード制御における制動液圧Pwの調整処理について説明する。上述したように、オフロード制御は、ダウンヒルアシスト制御、及び、クロール制御の総称であるが、以下、クロール制御を例に、該処理について説明する。なお、ダウンヒルアシスト制御については、「Xc」を「Xd」に、「vc」を「vd」に、夫々読み替えたものが、該制御の説明に相当する。
ステップS110にて、クロール制御用の操作信号Xc、車輪速度Vw、車体速度Vx、サーボ液圧Pu、供給液圧Pm等を含む各種信号が読み込まれる。ここで、車体速度Vxは、車輪速度Vw、及び、公知の方法に基づいて、制動コントローラECUにて演算される。また、操作信号Xcには、クロール制御の実行要否に係る信号、及び、クロール制御の設定速度vcの情報が含まれている。
ステップS120にて、操作信号(スイッチ信号)Xc等に基づいて、「クロール制御(即ち、オフロード制御)が作動されるか、否か(作動要求の有無)」が判定される。スイッチ信号Xcにてクロール制御の作動が要求されている場合には、ステップS120は肯定され、処理はステップS130に進められる。一方、ステップS120が否定される場合には、処理はステップS110に戻される。
ステップS130にて、実際の車体速度Vxと設定速度vc(クロール制御における車体速度Vxの目標値)との偏差hVに基づいて、各ホイールシリンダCWの目標液圧Ptが演算される。即ち、クロール制御では、制動液圧Pwは、ホイールシリンダCW毎に個別に調整される。詳細には、車体速度Vxと設定速度vcとの偏差hVが演算される(即ち、「hV=Vx-vc」)。ここで、設定速度vcは、クロール制御における車体速度Vxの目標値である。速度偏差hVに基づいて、車両全体に作用する制動力(4輪の制動力の合計)の目標値である目標総制動力Fvtが演算される。更に、各輪WHの配分比率Hwが決定され、目標総制動力Fvtに該比率Hwが乗じられて、各車輪WHの制動力Fbの目標値(目標制動力)Fbtが決定される(即ち、「Fbt=Fvt・Hw」)。最終的には、目標制動力Fbtが、制動装置SX、制動制御装置SC等の諸元に基づいて、各ホイールシリンダCWにおける液圧の次元に変換され、制動液圧Pwに対応する目標液圧Ptが演算される。例えば、配分比率Hwは、4つの車輪WHで均一となるよう、「0.25」にされ得る。また、前輪WHfの方の配分比率Hwfが、後輪WHrの配分比率Hwrよりも大きくなるように設定されてもよい。
加えて、各車輪WHの目標制動力Fbtの算出には、以下の5つの補正のうちの少なくとも1つが考慮される。そして、補正後の目標制動力Fbtに応じて、最終的な目標液圧Ptが決定される。
(補正1):設定速度vcが小さいほど、前輪WHfへの制動力の配分比率が大きくなるように調整する。
(補正2):設定速度vcが小さい領域(低速領域)に設定された場合に、制動力Fbに下限値fbl(「下限制動力」という)が設定される。そして、各車輪WHには、少なくとも下限制動力fblが発生される。
(補正3):車体速度Vxが設定速度vcを超えている場合には、下限制動力fblが設定され、各車輪WHには、少なくとも下限制動力fblが発生される。
(補正4):駆動力Fdが所定値よりも大きい場合には、下限制動力fblが設定され、各車輪WHには、少なくとも下限制動力fblが発生される。
(補正5):制御中に車両が停止した場合には、停止後の所定時間の間は、制動力の減少に制限が加えられる。
ステップS140にて、選択ホイールシリンダCWx、及び、非選択ホイールシリンダCWzが決定される。「選択ホイールシリンダCWx」は、複数の目標液圧Ptのうちの最大値Ptx(「最大目標液圧」ともいう)に対応するホイールシリンダCWである。また、「非選択ホイールシリンダCWz」は、ホイールシリンダCWのうちで、選択ホイールシリンダCWx以外のホイールシリンダCWである。つまり、車両JVの車輪WHに備えられる4つのホイールシリンダCWのうちの1つが選択ホイールシリンダCWxであり、残りの3つが非選択ホイールシリンダCWzである。
以下の説明では、ホイールシリンダCWに係るもののうちで、添字「x」が選択ホイールシリンダCWxに対応するものであることを、添字「z」が非選択ホイールシリンダCWzに対応するものであることを、夫々表す。従って、4つの実際の制動液圧Pwのうちで、選択ホイールシリンダCWxの実液圧が「選択制動液圧Pwx」と、非選択ホイールシリンダCWzの実液圧が「非選択制動液圧Pwz」と、夫々称呼される。また、4つの目標液圧Ptのうちで、非選択ホイールシリンダCWzに該当するものが、「非選択目標液圧Ptz」と称呼される。なお、最大目標液圧Ptx(選択ホイールシリンダに該当する目標液圧)は、目標液圧Ptの最大値であるので、非選択目標液圧Ptz(結果、実際の非選択制動液圧Pwz)と最大目標液圧Ptx(結果、実際の選択制動液圧Pwx)との大小関係は、「Ptz≦Ptx、Pwz≦Pwx」である。
4つのホイールシリンダCWの夫々に対応して設けられる構成要素でも、選択ホイールシリンダCWxに該当する要素に添字「x」が付与され、非選択ホイールシリンダCWzに該当する要素(つまり、選択ホイールシリンダCWxに非該当の要素)に添字「z」が付与される。例えば、4つのインレット弁UI、及び、アウトレット弁VOにおいて、選択ホイールシリンダCWxに対応する各構成要素は、「選択インレット弁UIx」、及び、「選択アウトレット弁VOx」と称呼される。一方、4つのインレット弁UI、及び、アウトレット弁VOのうちで、非選択ホイールシリンダCWzに該当する各構成要素は、「非選択インレット弁UIz」、及び、「非選択アウトレット弁VOz」と称呼される。
更に、制動制御装置SCでは、2系統の制動流体路が採用されるが、選択ホイールシリンダCWxを含む系統の構成要素に添字「x」が付され、選択ホイールシリンダCWxを含まない系統の構成要素に添字「z」が付される。例えば、2つの連絡路HS、調圧弁UB、調圧リザーバRC、及び、流体ポンプQBのうちで、選択ホイールシリンダCWxを含む系統に属する各構成要素は、「選択連絡路HSx」、「選択調圧弁UBx」、「選択調圧リザーバRCx」、及び、「選択流体ポンプQBx」と称呼される。一方、2つの連絡路HS、調圧弁UB、調圧リザーバRC、及び、流体ポンプQBのうちで、選択ホイールシリンダCWxを含まない系統に属する各構成要素は、「非選択連絡路HSz」、「非選択調圧弁UBz」、「非選択調圧リザーバRCz」、及び、「非選択流体ポンプQBz」と称呼される。
ステップS150にて、最大目標液圧Ptx(4つの目標液圧Ptのうちの最大値)に基づいて、選択制動液圧Pwx(選択ホイールシリンダCWxの実際の液圧)が調整される。選択制動液圧Pwxは、第1ユニットYAが制御されることによって達成される。つまり、実際の選択制動液圧Pwxが、最大目標液圧Ptxに一致するように、第1ユニットYAの加圧ユニットKUが制御(駆動)される。詳細には、最大目標液圧Ptxに対応するサーボ液圧Puの目標値Pv(「目標サーボ液圧」ともいう)が演算され、実際のサーボ液圧Pu(サーボ液圧センサPUの検出値)が、目標サーボ液圧Pv(目標値)に一致するように、増圧弁UZ、及び、減圧弁UGが制御(所謂、液圧フィードバック制御)される。選択ホイールシリンダCWxにおいては、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOは非通電状態であり、それらは完全に開弁された状態(即ち、開弁量が最大の状態)にある。このため、選択制動液圧Pwxは、供給液圧Pmに一致している。
ステップS160にて、非選択ホイールシリンダCWzの目標液圧Ptzに基づいて、非選択制動液圧Pwz(非選択ホイールシリンダCWzの実際の液圧)が調整される。非選択制動液圧Pwzは、第2ユニットYBにおいて、インレット弁UIz(「非選択インレット弁」という)、及び、アウトレット弁VOz(「非選択アウトレット弁」という)が制御されることによって達成される。つまり、実際の非選択制動液圧Pwzが、非選択ホイールシリンダCWzの非選択目標液圧Ptzに一致するように、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzが制御(駆動)される。なお、非選択制動液圧Pwzの調整では、第1ユニットYAが加圧源とされている。従って、第2ユニットYBでは、第1ユニットYAからの供給液圧Pmを基にして、液圧調整が行われる。
詳細には、非選択制動液圧Pwzの調整には、「減少モード」、「増加モード」、及び、「保持モード」の3つの制御モードのうちの1つが選択される。減少モードにおいて、非選択制動液圧Pwzの減少が必要な場合には、非選択インレット弁UIzが閉弁され、非選択アウトレット弁VOzが開弁される。非選択インレット弁UIzの上部(第1ユニットYAに近い側)には、最大目標液圧Ptxに対応した供給液圧Pmが供給されるが、非選択インレット弁UIzは閉弁されるので、この供給が阻止される。そして、非選択アウトレット弁VOzが開弁されるので、非選択ホイールシリンダCWz内の制動液BFは、調圧リザーバRCに流出し、非選択制動液圧Pwzは減少される。
増加モードにおいて、非選択制動液圧Pwzの増加が必要な場合には、非選択アウトレット弁VOzが閉弁され、非選択インレット弁UIzが開弁される。非選択アウトレット弁VOzの閉弁によって、制動液BFの調圧リザーバRCへの流出が阻止される。そして、非選択インレット弁UIzを通して、供給液圧Pmが非選択ホイールシリンダCWzに供給されるので、制動液圧Pwzは増加される。なお、非選択制動液圧Pwzの調節では、第1ユニットYAが発生する供給液圧Pm(=Pwx)が基にされているため、非選択制動液圧Pwzの上限は、選択制動液圧Pwxである(即ち、「Pwz≦Pwx」)。
保持モードにおいて、非選択制動液圧Pwzの保持が必要な場合には、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzが共に閉弁される。非選択ホイールシリンダCWzは、流体的に封止されるので、非選択制動液圧Pwzは一定に維持される。なお、非選択制動液圧Pwzの調整において、保持モードは省略されてもよい。この場合、減少モードと増加モードとが繰り返されることによって、非選択ホイールシリンダCWzの制動液圧Pwzが調整される。
ステップS170にて、還流用の電気モータMBが駆動される。非選択制動液圧Pwzの調整(特に、減少モード)では、制動液BFが調圧リザーバRCに流出されることによって減圧が行われるが、調圧リザーバRC内に溜まった制動液BFを調圧弁UBとインレット弁UIとの間の連絡路HSに戻すよう、還流用電気モータMBによって還流用流体ポンプQBが回転される。
ステップS170では、電気モータMBの発熱を抑制するよう、調圧リザーバRC内の制動液BFの量(「リザーバ液量Ec」という)に基づいて、電気モータMBの駆動/停止が行われてもよい。具体的には、リザーバ液量Ecが所定液量ex未満の場合には、電気モータMBは停止される。そして、リザーバ液量Ecが所定液量ex以上の場合に、電気モータMBに通電が行われ、流体ポンプQBが駆動される。ここで、所定液量exは、予め設定された所定値(定数)である。なお、リザーバ液量Ecは、アウトレット弁VOzの駆動状態(例えば、開弁時間)、電気モータMBの駆動状態等に基づいて推定される。
<インレット弁UIの構造、及び、特性>
図5(a)(b)を参照して、インレット弁UIについて説明する。インレット弁UI(電磁弁)は、常開型のリニア弁であり、制動コントローラECUによって制御される。インレット弁UIでは、通電量Iu(例えば、電流値)が増加されるに従って、開弁量(リフト量)Liが減少される。
先ず、図5(a)の概略図を参照して、インレット弁UIの構造について説明する。インレット弁UIは、ソレノイドSD、弁体VT、ガイド部材GD、保持部材HJ、及び、ばね部材SBにて構成される。
ソレノイドSDは、固定コイルCL、及び、プランジャ(可動鉄心)PLにて構成される。固定コイルCLは、インレット弁UIのハウジング(例えば、ガイド部材GD)に固定される。プランジャPLには、弁体VTが固定される。弁体VTの先端部Vtは、球状に形成(加工)されている。インレット弁UIでは、球状先端部Vtと、後述の保持部材HJに円錐形状に形成(加工)された弁座Vzとの間の隙間(即ち、開弁量)Liが、固定コイルCLへの通電量(電流値)に応じてリニアに制御される。このリニア制御では、固定コイルCLに電流を流した際に、プランジャPLが固定コイルCL内に引き込まれる力Ca(図中で下向きの推力であり、「吸引力」という)が利用される。
ガイド部材GDには、直径が異なる2つの孔が設けられる。2つの孔のうち直径が小さい方が「ガイド孔Ag」と称呼され、直径が大きい方が「封止孔Af」と称呼される。弁体VTが、その中心軸線Jvの沿って円滑に移動可能なように、ガイド部材GDのガイド孔Agに挿入される。ガイド部材GDにおいて、プランジャPLの側とは反対側に位置する封止孔Afは、保持部材HJによって封止される。具体的には、封止孔Afの円筒形状の内周部に保持部材HJが圧入される。
ガイド部材GDの封止孔Afの内周部、保持部材HJの端面、及び、弁体VTにて、弁室Rzが形成される。保持部材HJにおいて、弁室Rzの側の端面には、円錐形状の弁座Vzが形成されている。ここで、弁座Vzの円錐面は、連絡路HSにおいて、ホイールシリンダCWの方を向いている。弁座Vzの中央部には、流入孔Aiが設けられる。流入孔Aiには、調圧弁UBによって調整液圧Pqに調節された制動液BFが供給される。流入孔Aiは、還流路HKを介して、還流用流体ポンプQBに接続される。保持部材HJには、弁室Rzの側から、還流用流体ポンプQBの側には、制動液BFが移動可能なように、逆止弁が設けられる。
保持部材HJと弁体VTとの間には、弁体VTをプランジャPLの側に押圧するように、ばね部材SB(例えば、圧縮コイルばね)が設けられる。ばね部材SBによって、弁体VTは、プランジャPLの側に、弾性力Cs(図中で上向きの推力)にて押されている。ここで、プランジャPL、弁体VT(先端部Vt)、ばね部材SB、弁座Vz、及び、流入孔Aiは、中心軸線Jv上に同軸で配置されている。従って、吸引力Caと弾性力Csとは、中心軸線Jv上で対抗している。
弁室Rzを形成する封止孔Afの内周部には、流出孔Aoが設けられる。流出孔Aoは、連絡路HSを介して、ホイールシリンダCWに接続されている。流出孔Aoからは、インレット弁UI(即ち、先端部Vt、及び、弁座Vzの隙間Li)によって制動液圧Pwに調整された制動液BFが、ホイールシリンダCWに供給される。連絡路HSにおいて、流出孔AoとホイールシリンダCWとの間は、減圧路HG、及び、アウトレット弁VOを介して、還流用流体ポンプQBに接続される。減圧路HGにおいて、アウトレット弁VOと還流用流体ポンプQBとの間には、調圧リザーバRCが接続される。
固定コイルCLへの通電が停止されている場合(即ち、「Iu=0」の状態)には、吸引力Caは発生されず、弁体VTは、弾性力Csによって、ソレノイドSD(プランジャPL、固定コイルCL)の側に押圧されている。従って、弁体VTの先端部Vtは、弁座Vzから離れている。即ち、インレット弁UIは完全に開弁している。
制動液圧Pwの減少、又は、保持が必要な場合(即ち、上述した、減少モード、又は、保持モードが選択される場合)には、固定コイルCLに通電が行われ、吸引力Caが発生される。この吸引力Caによって、弁体VTの先端部Vtが、弁座Vzに当接され、インレット弁UIは閉弁される。このとき、弁体VTには、弾性力Csに加え、制動液BFがホイールシリンダCWの側に流入しようとする力(図中で上向きの推力であり、「流体力」という)Cbが作用する。従って、インレット弁UIを閉弁するには、弾性力Csと流体力Cbとの合力(即ち、「Cs+Cb」)に対抗し得る吸引力Caが必要である。
流体力Cbの大きさは、弁座Vzの位置が基準とされたときに、調圧弁UBの側の液圧(調整液圧)PqとホイールシリンダCWの側の液圧(制動液圧)Pwとの差wQ(=Pq-Pw)に依存する。具体的には、液圧差wQ(「差圧」ともいう)が大きいほど、流体力Cbは大きくなる。従って、液圧差wQが大きいほど、インレット弁UIが閉弁されるために必要な通電量Iu(例えば、電流値)は大きくなる。換言すれば、液圧差wQが小さい場合には、僅かな通電量Iuで、インレット弁UIは閉弁され得る。
減少されていた制動液圧Pwの増加が再度必要な場合には、インレット弁UI(即ち、固定コイルCL)の通電量Iuが減少される。これにより、吸引力Caが減少されるので、インレット弁UIは開弁される。調圧弁UBの側から、調整液圧Pqに調整された制動液BFがホイールシリンダCWの側に流入し、制動液圧Pwは増加される。
次に、図5(b)の特性図を参照して、インレット弁UIの特性について説明する。連絡路HSにおいて、インレット弁UIの弁座Vzの円錐面はホイールシリンダCWの側を向いているので、インレット弁UIによる制動液圧Pwの調整は、調整液圧Pq以下の範囲で可能である。つまり、「Pw≦Pq」の状態が常に維持され、「Pw>Pq」の状態にはならない。
先端部Vtを弁座Vzに対して押圧し、先端部Vtと弁座Vzとを接触させることで、インレット弁UIは閉弁される。インレット弁UIの閉弁状態では、インレット弁UIへの電力供給によって、ホイールシリンダCWへの制動液BFの流入を阻止する方向(即ち、流体力Cbに対抗する方向)に吸引力Caが付与されている。ここで、流体力Cbと弾性力Csとの合力が、吸引力Caよりも大きくなると、先端部Vtは、弁座Vzから離れ、インレット弁UIは開弁される。そして、開弁量Li(先端部Vtと弁座Vzとの隙間)は、吸引力Caと合力「Cb+Cs」とが均衡した状態で定まる。流体力Cbの大きさは、液圧差wQ(=Pq-Pw)に依存する。また、吸引力Caの大きさは、通電量Iuに依存する。このため、液圧差wQと通電量Iuとの関係(特性図)において、上記の均衡状態は、特性Ziuにて表現することができる。特性Ziuは、所謂、インレット弁UIのIP特性(電流-液圧特性)である。
特性図において、「Iu=io(通電量Iuの座標軸での切片)」は、弾性力Csに対応している。つまり、固定コイルCLに値ioの通電量Iuが供給されると、弾性力Csに対抗し得る吸引力Caが発生される。特性Ziuに示すように、液圧差wQが「0」から値pm(「液圧差の上限値」という)までの範囲において、液圧差wQと通電量Iuとの関係は概ね比例する。換言すれば、インレット弁UIによって、「0」から上限値pmの範囲で、液圧差wQの調整が可能である。制動コントローラECUには、特性Ziuが演算マップとして記憶され、この演算マップZiuが、液圧差wQと通電量Iuとの間の変換演算に利用される。
特性Ziuよりも大きい通電量Iu(図において、特性Ziuよりも上方部分の通電量Iu)が供給されると、吸引力Caは、合力「Cb+Cs」よりも大きくなるので、インレット弁UIは閉弁される(即ち、先端部Vtが弁座Vzに当接される)。例えば、アンチロックブレーキ制御(車輪WHのロック状態を抑制する制御)において、制動液圧Pwの減少(又は、保持)が必要な場合には、液圧差の上限値pmに対応する通電量im(図中の点(M)に対応し、「通電量の上限値」という)に、更に所定の余裕量iuが加算された通電量ic(「最大通電量」という)が、インレット弁UIに供給される(図中の点(C)を参照)。つまり、通電量Iuとして、最大通電量icが供給されると、インレット弁UIは確実に閉弁されることになる。なお、上限値im、及び、余裕量iuは、予め設定された所定値(定数)であるため、最大通電量ic(=im+iu)も予め設定された所定値(定数)として設定されている。
インレット弁UIの発熱は、通電量Iuが或る程度大きく、且つ、長時間に亘って連続通電される場合に問題となってくる。アンチロックブレーキ制御では、車体速度Vxが高くても、車両JVが停止されるまでには、然程時間を要さない。また、アンチロックブレーキ制御において、インレット弁UIの閉弁が必要な際に、これが開弁されてしまうと、車輪ロックが好適には抑制されず、この影響が車両挙動に及ぶ状況が生じ得る。以上のことから、アンチロックブレーキ制御の減少モード、保持モードでは、通電量Iuとして、最大通電量icが供給され、インレット弁UIが確実に閉弁される。
一方、オフロード制御では、或る程度大きな通電量Iuが、長時間に亘って供給され続ける状況が発生する。このため、以下で説明するように、制動液圧Pwzが減少、又は、保持される場合には、液圧差wQに基づいて、インレット弁UIzの閉弁に必要な通電量ie(「特定通電量」という)が演算される。そして、特定通電量ieが、インレット弁UIzに供給されることによって、その閉弁状態が好適に達成にされる。なお、下記の説明は、非選択ホイールシリンダCWzに係るものであるため、「UI」は「UIz」に、「VO」は「VOz」に、「Pq」は「Pqz」に、「Pw」は「Pwz」に、「Pt」は「Ptz」に、「wQ」は「wQz」に、夫々対応している。
≪特定通電量ieの演算≫
調整液圧Pq、及び、制動液圧Pwに基づいて、液圧差wQが演算される。液圧差wQは、インレット弁UIに供給される液圧(調整液圧)Pqと、インレット弁UIに対応するホイールシリンダCWの液圧Pwとの差である(即ち、「wQ=Pq-Pw」)。例えば、液圧差wQは、制動コントローラECUの演算周期毎に算出される。従って、液圧差wQは、時間Tの経過に応じて変化する状態量(状態変数)である。
(1)調整液圧Pqは、以下に列挙する方法のうちの少なくとも1つによって取得(検出、又は、演算)される。
・調整液圧Pqとして、供給液圧センサPMの検出値(供給液圧)Pmが採用される。オフロード制御では、第1ユニットYAのみによって、制動液BFの加圧(制動液圧Pwの増加)が行われる。従って、加圧源KB(特に、調圧弁UB)は加圧には利用されないので、調圧弁UBは開弁状態のままである。このため、調整液圧Pqは、供給液圧Pmに一致するので、調整液圧Pqとして供給液圧Pmが用いられる。
・調整液圧Pqが、実際のサーボ液圧Pu(サーボ液圧センサPUの検出値)に基づいて演算されてもよい。これは、供給液圧Pmは、サーボ液圧Puに基づいて制御されることに基づく。また、サーボ液圧Puは、その目標値(目標サーボ液圧)Pvの結果であるため、調整液圧Pqは、目標サーボ液圧Pvに基づいて演算されてもよい。
・調整液圧Pqが、最大目標液圧Ptxに基づいて決定されてもよい。これは、供給液圧Pmが、最大目標液圧Ptxに基づいて調整されることに基づく。
・調整液圧Pqが検出できるよう、調整液圧センサPQ(図示せず)が設けられ、この調整液圧センサPQの検出値が、調整液圧Pqとして採用されてもよい。
(2)制動液圧Pwは、以下に列挙する方法のうちの少なくとも1つによって取得(検出、又は、演算)される。
・制動液圧Pwは、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOの駆動状態に基づいて演算(推定)される。
・制動液圧Pwが検出できるよう、制動液圧センサPW(図示せず)が設けられ、この制動液圧センサPWの検出値が、制動液圧Pwとして採用されてもよい。
・液圧差wQの演算には、制動液圧Pwに代えて、目標液圧Ptが採用されてもよい(即ち、「wQ=Pq-Pt」)。これは、制動液圧Pwが、目標液圧Ptに基づいて制御されることに基づく。
液圧差wQに基づいて、特定通電量ieが決定される。液圧差wQが値pd(或る時点での演算値)である状況を想定して説明する(点(D)を参照)。液圧差wQ(値pd)に対して、嵩上げ圧pkが加算されて、特定液圧peが演算される(即ち、「pe=wQ+pk(即ち、pe=pd+pk)」)。嵩上げ圧pkは、予め設定された所定値(定数)である。従って、「液圧差wQ」、「嵩上げ圧pk」、及び、「特定液圧pe」の物理量は「圧力」である。更に、演算マップZiuに基づいて、特定液圧peに対応する通電量Iuが、特定通電量ieとして演算される。特定通電量ieの物理量は、例えば、「電流値」である。
「wQ=pd」に対応する演算マップZiu上の点(D)では、吸引力Caと合力「Cb+Cs」とは拮抗し、均衡状態が達成される。インレット弁UIが閉弁されるためには、液圧差wQの値pdに対応する通電量Iuの値id(上記均衡状態に対応する通電量であり、「基準通電量」という)よりも大きい通電量Iu(例えば、電流値)が必要となる。通電量Iuの大きさが小さければ、発熱量は小さいが、外乱等による液圧変動によって、インレット弁UIの閉弁状態が確保され難くなる。一方、通電量Iuが大きければ、インレット弁UIの閉弁は確実に達成されるが、発熱量が増大する。つまり、インレット弁UIへの通電において、確実な閉弁と発熱とはトレードオフの関係にある。
このトレードオフ関係を両立させ、インレット弁UIの閉弁状態を維持するために必要最小限の通電量Iu(電流値)を決定するため、液圧差wQ(例として、値pd)に対して、嵩上げ圧pk分の余裕を持たせた特定液圧peが演算される。そして、特性Ziu(演算マップ)に基づいて、特定液圧peが通電量Iu(電流値)に変換されて、特定通電量ieが決定される(図中の点(E)を参照)。制動液圧Pwが減少(又は、保持)される場合には、インレット弁UIに特定通電量ieが供給(通電)されて、インレット弁UIが閉弁される。インレット弁UIに、特定通電量ieが通電されていれば、液圧差wQが広がっても、それが嵩上げ圧pkよりも小さければ、インレット弁UIの閉弁状態は維持される。換言すれば、特定通電量ieは、インレット弁UIの閉弁において、基準通電量idに比較して、嵩上げ圧pkに対応する嵩上げ通電量ik分だけ余裕を持った通電量Iuである。つまり、特定通電量ieは、基準通電量idよりも、嵩上げ通電量ik分だけ大きい値として演算(決定)される。
車輪WHのロック状態を抑制するアンチロックブレーキ制御では、長時間作動に起因する発熱は課題にはならない。このため、アンチロックブレーキ制御においては、インレット弁UIの閉弁を、より確実にするために、制動液圧Pwの減少時等には、最大通電量icが、インレット弁UIに供給される。しかしながら、液圧差wQが相対的に小さい場合には、最大通電量icの通電は過剰である。従って、制動制御装置SCでは、作動時間が長いオフロード制御では、制動液圧Pwの減少時等でのインレット弁UIの閉弁に際しては、最大通電量icではなく、特定通電量ie(液圧差wQに基づいて算出され、且つ、最大通電量icよりも小さい通電量Iu)が、インレット弁UIに供給される。これにより、インレット弁UIの発熱が抑制された上で、インレット弁UIの閉弁状態が適切に確保され得る。
更に、吹き出し部ZAに示すように、嵩上げ圧pkは、液圧差wQ(例として、値pd)に基づいて演算されてもよい。詳細には、演算マップZpk(予め設定され、制動コントローラECUに記憶された特性)に従って、液圧差wQが大きいほど、嵩上げ圧pkが大きくなるように決定される。その結果、液圧差wQが大きいほど、特定通電量ieが大きくなるように決定(演算)される。液圧差wQが大きいほど、調整液圧Pq、制動液圧Pwの変動が生じ易くなる。このため、インレット弁UIの閉弁が確実に維持されるよう、液圧差wQが大きいほど、特定通電量ieが大きくされる。結果、液圧変動に対する余裕が大きくなるので、液圧変動に起因する開弁が適切に回避され得る。
上記の例では、「液圧差wQを演算」→「液圧差wQに嵩上げ圧pkを加算して、特定液圧peを演算」→「演算マップZiuに基づいて、特定液圧peに対応する特定通電量ieを決定」の順で、特定通電量ieが演算された。しかしながら、演算マップZiu、及び、嵩上げ圧pkは既知であるため、液圧差wQに対応する通電量id(基準通電量)に、嵩上げ通電量ikが加算されることで、特定通電量ieが演算されてもよい。即ち、「液圧差wQを演算」→「演算マップZiuに基づいて、液圧差pdに対応する基準通電量idを決定」→「基準通電量idに嵩上げ通電量ikを加算して、特定通電量ieを演算」の順で、特定通電量ieが演算され得る。例えば、嵩上げ通電量ikは、所定値(定数)として予め設定されている。また、嵩上げ圧pkと同様に、嵩上げ通電量ikは、液圧差wQに基づいて演算されてもよい。具体的には、液圧差wQが大きいほど、嵩上げ通電量ikが大きくなるように決定される。その結果、液圧差wQが大きいほど、特定通電量ieは大きくなるように決定(演算)される。
<他の実施形態>
以下、制動制御装置SCの他の実施形態について説明する。他の実施形態でも、制動液圧Pwが減少される際に、液圧差(差圧)wQに基づいて決定された特定通電量ieが、インレット弁UIに供給されることによって、インレット弁UIの閉弁状態が達成される。これにより、上述した効果(つまり、インレット弁UIの発熱が抑制され、制動制御装置SCの長時間作動が確保されること)を奏する。
≪電動シリンダ型加圧源の採用≫
上記の実施形態では、第1ユニットYA(加圧源)として、アキュムレータACに蓄えられたアキュムレータ液圧Pcが利用された。これに代えて、電気モータによって、シリンダに挿入されたピストンが直接駆動されることで制動液圧Pwが増加されてもよい。所謂、電動シリンダ型のものが、第1ユニットYAとして採用され得る。電動シリンダ型の構成は、例えば、「WO2012/046703」等で公知であるので、以下、該構成について簡略に説明する。電動シリンダ型の第1ユニットYAは、調圧シリンダ、調圧ピストン、直動変換機構、及び、電気モータにて構成される。
マスタシリンダCMとは別に、調圧シリンダ(「スレーブシリンダ」ともいう)が設けられる。調圧シリンダは、マスタシリンダCMと同様の構成であって、例えば、タンデム型シリンダである。調圧シリンダには、2つの調圧ピストンが、弾性体(圧縮ばね)を介して挿入されている。2つの調圧ピストンのうちの1つは、直動変換機構(例えば、ねじ機構)を介して電気モータに接続される。ここで、直動変換機構は、電気モータの回転動力を、調圧ピストンの直線動力(推力)に変換するものである。
電気モータによって、調圧ピストンが駆動される。詳細には、電気モータが回転されると、その動力が、直動変換機構によって、調圧ピストンの直線動力に変換される。調圧シリンダ内は、2つの調圧ピストン、及び、シール部材によって、2つの調圧室に仕切られている。2つの調圧室は、連絡路HS、及び、第2ユニットYBを介して、ホイールシリンダCWに接続されている。従って、電気モータが駆動されると調圧室の体積が減少されるので、調圧室から、ホイールシリンダCWに制動液BFが、供給液圧Pmで圧送される。つまり、電動シリンダ型の第1ユニットYAでは、電磁弁UZ、UGが用いられることなく、電気モータの出力調整によって、供給液圧Pmが直接的に制御(調整)される。
該構成では、選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxが、電気モータによって制御される。そして、非選択ホイールシリンダCWzの液圧Pwzが、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzによって調整される。該構成でも、オフロード制御においては、制動液圧Pw(特に、非選択制動液圧Pwz)が減少(又は、保持)される場合には、液圧差(差圧)wQに基づいて決定される特定通電量ieが、インレット弁UI(特に、非選択インレット弁UIz)に通電されることで、その閉弁状態が達成される。
≪選択インレット弁UIx、及び、選択アウトレット弁VOxによる選択制動液圧Pwxの調整≫
上記の実施形態では、選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxが、第1ユニットYAによって調整された(即ち、増加、保持、減少された)。そして、非選択ホイールシリンダCWzの液圧Pwzが、選択制動液圧Pwxを基圧として、「0」から液圧Pwxの範囲内で、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzによって調整された。これに代えて、全てのホイールシリンダCWの液圧Pwが、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOによって調整されてもよい。具体的には、第1ユニットYAによって、最大目標液圧Ptxよりも大きい液圧が、基圧として供給される。そして、選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxが、非選択ホイールシリンダCWzと同様の液圧調整(電磁弁UI、VOによる調整)によって、「0」から該基圧(>Pwx)の範囲内で制御される。該構成では、選択制動液圧Pwxが減少される場合にも、図5を参照して説明したように、第1ユニットYA(加圧源)が供給する液圧(供給液圧)Pmと選択制動液圧Pwxとの液圧差wQに基づいて特定通電量ieが演算される。そして、特定通電量ieが選択インレット弁UIxに通電されることによって、インレット弁UIxが閉弁される。
≪加圧源KBによる制動液圧Pwの加圧≫
上記の実施形態では、全てのホイールシリンダCWの液圧Pwを増加するための加圧源は第1ユニットYA(特に、加圧ユニットKU)であった。しかしながら、電気モータMB、流体ポンプQB、及び、調圧弁UBにて構成される加圧源KBによって、制動液圧Pwが増加されてもよい。詳細には、還流用の流体ポンプQBが吐出する制動液BFが、調圧弁UBによって絞られることで、全てのホイールシリンダCWの液圧Pwの増加(即ち、加圧)が行われる。つまり、選択ホイールシリンダCWxに対応する選択制動液圧Pwxは、選択調圧弁UBxによって調整される。また、非選択ホイールシリンダCWzに対応する非選択制動液圧Pwzは、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzによって調整される。
該構成では、液圧差wQ(インレット弁UIによって発生される液圧差)を演算するための調整液圧Pqが、以下に列挙する取得方法のうちの少なくとも1つに基づいて決定される。なお、制動液圧Pwの取得方法は、上述した通りである。
・供給液圧センサPMの検出値Pm、及び、選択調圧弁UBxの駆動状態(例えば、調圧弁UBxに対する通電量Ib)に基づいて、調整液圧Pqが演算される。供給液圧Pmと調整液圧Pqとの液圧差mQ(選択調圧弁UBxによって発生される液圧差)は、調圧弁UBxへの通電量Ibに比例する。このため、通電量Ibに基づいて、液圧差mQが演算されるので、供給液圧Pmに算出された液圧差mQが加算されることによって、調整液圧Pqが演算される。
・調整液圧Pqが、最大目標液圧Ptxに基づいて決定されてもよい。これは、調整液圧Pqが、最大目標液圧Ptxに基づいて調整されることに基づく。
・調整液圧Pqが検出できるよう、調整液圧センサPQ(図示せず)が設けられ、この調整液圧センサPQの検出値が、調整液圧Pqとして採用されてもよい。
≪トラクション制御における実施形態≫
上記の実施形態では、オフロード制御(ダウンヒルアシスト制御、クロール制御)が実行される場合の例について説明した。液圧差wQに基づくインレット弁UIの閉弁処理は、オフロード制御だけでなく、トラクション制御にも適用され得る。
トラクション制御は公知の制御であるため、以下、簡単に説明する。トラクション制御では、前輪、後輪差動ギヤDF、DRを介して接続される車輪WHにおいて、空転しつつある車輪WHのホイールシリンダCWで制動液圧Pwが増加される。一方側の車輪WH1(「第1車輪」という)が空転すると、前輪、後輪差動ギヤDF、DRを介して接続される他方側の車輪WH2(「第2車輪」という)に駆動トルクTdが伝達されなくなり、駆動力Fdが発生され難くなる。このため、トラクション制御では、車輪速度Vwに基づいて車輪の空転(即ち、加速スリップ)が演算される。例えば、加速スリップは、車輪速度Vwに基づいて算出される車体速度Vxと車輪速度Vwとの差、及び、車輪速度Vwの時間微分値(車輪加速度)dVに基づいて演算される。そして、加速スリップが予め設定された所定値以上になる場合に、空転しつつある第1車輪WH1のホイールシリンダCW1の液圧Pw1(第1制動液圧)が増加される。結果、第1車輪WH1の空転が抑制され、第2車輪WH2に、駆動トルクTdが伝達され、駆動力Fdが発生される。所謂、第1車輪WH1の第1制動液圧Pw1が増加されることによって、トラクション制御における差動制限機能が実現される。
トラクション制御においても、オフロード制御と同様に、第1ユニットYA、又は、第2ユニットYB(特に、加圧源KB)を加圧源として、実際の制動液圧Pwが増加される。そして、最大目標液圧Ptxに対応する選択制動液圧Pwxは、第1ユニットYA、又は、加圧源KB(特に、電気モータMB、流体ポンプQB、調圧弁UB)によって調整される。一方、非選択目標液圧Ptzに応じて制御される非選択制動液圧Pwzは、非選択ホイールシリンダCWzに対応する、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzによって調整される。例えば、減少モード(又は、保持モード)によって非選択制動液圧Pwzが減少(又は、保持)される場合には、液圧差wQ(調整液圧Pqと制動液圧Pwとの偏差)に基づいて演算される特定通電量ie(電流値)が、非選択インレット弁UIzに通電(供給)され、非選択インレット弁UIzが閉弁される。
トラクション制御は、オフロード制御と同様に、その作動時間が長い。このため、インレット弁UIへの長時間通電に起因する発熱の課題が存在する。制動制御装置SCでは、インレット弁UIの閉弁が、液圧差wQに基づいて行われるため、上述したインレット弁UIにおける発熱と閉弁の確実性とのトレードオフ関係が好適に両立され得る。詳細には、制動液圧Pwの減少時(又は、保持時)には、液圧差wQに応じて、インレット弁UIに必要、且つ、最小限の通電量Iuが供給される。従って、過剰なインレット弁UIへの電力供給が回避されて、インレット弁UIの発熱が抑制された上で、インレット弁UIの閉弁が確保され得る。
≪ダイアゴナル型流体路≫
上記の実施形態では、2系統の制動流体路として、前後型の構成が採用された。これに代えて、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)の制動系統が採用され得る。該構成では、マスタシリンダCM(又は、調圧シリンダ)内に形成された2つの液圧室のうちで、一方側が右前輪ホイールシリンダ、左後輪ホイールシリンダに接続され、他方側が左前輪ホイールシリンダ、右後輪ホイールシリンダに接続される。
<制動制御装置SCの実施形態のまとめと作用・効果>
以下に、制動制御装置SCの実施形態についてまとめる。制動制御装置SCは、オフロード制御の実行に適用される。オフロード制御は、車両JVのホイールシリンダCWの制動液圧Pwを調整することで、車両の車体速度Vxを低速で一定に維持する速度制御である。
制動制御装置SCには、「制動液圧Pwを増加する加圧源YA、KB」と、「加圧源YA、KBとホイールシリンダCWとを接続する連絡路HS(流体路の1つ)に設けられる常開型のインレット弁UI」と、「インレット弁UIを制御するコントローラECU」と、が備えられる。そして、コントローラECUは、速度制御(オフロード制御)の実行中に制動液圧Pwを減少する場合には、調整液圧Pqと制動液圧Pwとの液圧差wQ(例えば、値pd)に基づいて特定通電量ieを決定する。更に、コントローラECUは、インレット弁UIに特定通電量ieを通電して、インレット弁UIを閉弁する。ここで、調整液圧Pqは、インレット弁UIに対して、加圧源YA、KBの側の液圧である。
また、制動制御装置SCは、トラクション制御の実行に適用される。トラクション制御では、差動機構(即ち、前輪、後輪差動機構DF、DR)を介して接続される車両の第1、第2車輪WH1、WH2において、一方側の第1車輪WH1が空転しつつある場合に、第1車輪WH1のホイールシリンダCW1の制動液圧Pw1を調整することで、他方側の第2車輪WH2の駆動力Fd2を調整する。
上記同様、制動制御装置SCには、「制動液圧Pw1を増加する加圧源YA、KB」と、「加圧源YA、KBとホイールシリンダCWとを接続する連絡路HSに設けられる常開型のインレット弁UI」と、「インレット弁UIを制御するコントローラECU」と、が備えられる。コントローラECUは、トラクション制御の実行中に制動液圧Pw1を減少する場合には、上記の液圧差wQ(例えば、値pd)に基づいて特定通電量ieを決定し、インレット弁UIに特定通電量ieを通電して、インレット弁UIを閉弁する。
オフロード制御、及び、トラクション制御では、各ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwは、夫々が個別に調整される。そして、制動液圧Pwの増加が不要である場合(つまり、制動液圧Pwの減少、又は、保持が必要な場合)には、インレット弁UIが閉弁される。インレット弁UIが閉弁される際の電力供給には、発熱と閉弁維持とに関するトレードオフ関係が存在する。インレット弁UIへの通電量Iuが大きいと、閉弁状態は確実に維持されるが、発熱が大となる。逆に、通電量Iuが小さいと、発熱は小であるが、インレット弁UIは僅かな液圧変動でも開弁され易くなる。上記構成では、インレット弁UIへの通電量Iuが、液圧差wQに基づいて設定される。これにより、インレット弁UIの閉弁維持に必要、且つ、最小限の通電量Iu(即ち、特定通電量ie)が決定されるので、発熱と閉弁維持とのトレードオフ関係が、適切に両立され得る。
コントローラECUは、液圧差wQ(例として、値pd)に対応する基準通電量idに、余裕pk(液圧の次元)、ik(通電量の次元)を見込んで、特定通電量ieが基準通電量idよりも大きくなるように決定(演算)する。また、コントローラECUは、液圧差wQが大きいほど、特定通電量ieが大きくなるように決定する。
例えば、上記余裕は液圧の次元で考慮される。詳細には、液圧差wQに嵩上げ圧pkが加えられた特定液圧pe(即ち、「pe=wQ+pk」)が演算され、特定液圧pe、及び、演算マップZiuに基づいて特定通電量ieが演算される。このとき、嵩上げ液圧pkは、液圧差wQが大きいほど、大きく決定されるとよい。また、通電量Iuと液圧差wQとの関係Ziuは既知であるため、上記余裕は通電量の次元で考慮され得る。具体的には、液圧差wQ、及び、演算マップZiuに基づいて、液圧差wQに対応する通電量(基準通電量)idが演算され、基準通電量idに嵩上げ通電量ikが加えられて特定通電量ieが演算される。同様に、嵩上げ通電量ikは、液圧差wQが大きいほど、大きく決定されるとよい。
液圧差wQに対応する基準通電量idがインレット弁UIに供給されると、インレット弁UIは上述した均衡状態にある。基準通電量idに対して余裕(嵩上げ圧pk、嵩上げ通電量ik)が見込まれた特定通電量ieは、インレット弁UIの閉弁維持に必要最小限の通電量である。特定通電量ieの供給によって、発熱と閉弁維持とのトレードオフ関係が両立される。更に、液圧差wQが大きいほど、上記余裕(嵩上げ液圧pk、嵩上げ通電量ik)が大きくされることにより、特定通電量ieが大きい値に決定される。液圧差wQが大きいほど、液圧変動の幅は大きくなるが、このように特定通電量ieが決定されることにより、インレット弁UIの閉弁維持が、より確実に達成され得る。
JV…車両、SC…制動制御装置、SX…制動装置、CP…ブレーキキャリパ、CW…ホイールシリンダ、KT…回転部材(ブレーキディスク)、MS…摩擦部材(ブレーキパッド)、ECU…制動用コントローラ、GC…原動機制御装置、PG…原動機、ECP…原動機用コントローラ、TS…動力伝達装置、TD…動力伝達機構、ECT…動力伝達用コントローラ、BS…通信バス、XC…クロール制御用スイッチ、XD…ダウンヒルアシスト制御用スイッチ、HU…流体ユニット、YA…第1ユニット(加圧源)、CM…マスタシリンダ、MA…電気モータ(蓄圧用)、KU…加圧ユニット、YB…第2ユニット、UB…調圧弁、UI…インレット弁、VO…アウトレット弁、RC…調圧リザーバ、MB…電気モータ(還流用)、QB…流体ポンプ(還流用)、PM…供給液圧センサ、Pm…供給液圧、Pq…調整液圧、Pw…制動液圧、wQ…液圧差(調整液圧Pqと制動液圧Pwとの差)、pd…液圧差(液圧差の一例)、pk…嵩上げ圧、pe…特定液圧、Iu…通電量(例えば、電流値)、id…基準通電量、ik…嵩上げ通電量、ie…特定通電量。


Claims (4)

  1. 車両のホイールシリンダの制動液圧を調整することで前記車両の車体速度を低速で一定に維持する速度制御を実行する車両の制動制御装置であって、
    前記制動液圧を増加する加圧源と、
    前記加圧源と前記ホイールシリンダとを接続する連絡路に設けられる常開型のインレット弁と、
    前記インレット弁を制御するコントローラと、
    を備え、
    前記コントローラは、前記速度制御の実行中に前記制動液圧を減少する場合には前記インレット弁に対して前記加圧源側の液圧である調整液圧と前記制動液圧との液圧差に基づいて特定通電量を決定し、前記インレット弁に前記特定通電量を通電して前記インレット弁を閉弁する、車両の制動制御装置。
  2. 差動機構を介して接続される車両の第1、第2車輪において、前記第1車輪が空転しつつある場合に該第1車輪のホイールシリンダの制動液圧を調整することで、前記第2車輪の駆動力を調整するトラクション制御を実行する車両の制動制御装置であって、
    前記制動液圧を増加する加圧源と、
    前記加圧源と前記ホイールシリンダとを接続する連絡路に設けられる常開型のインレット弁と、
    前記インレット弁を制御するコントローラと、
    を備え、
    前記コントローラは、前記トラクション制御の実行中に前記制動液圧を減少する場合には前記インレット弁に対して前記加圧源側の液圧である調整液圧と前記制動液圧との液圧差に基づいて特定通電量を決定し、前記インレット弁に前記特定通電量を通電して前記インレット弁を閉弁する、車両の制動制御装置。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の車両の制動制御装置において、
    前記コントローラは、前記液圧差に対応する基準通電量に余裕を見込み、前記特定通電量が該基準通電量よりも大きくなるように決定する、車両の制動制御装置。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の制動制御装置において、
    前記コントローラは、前記液圧差が大きいほど、前記特定通電量が大きくなるように決定する、車両の制動制御装置。
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