JP2022119266A - 健全性評価システム及び健全性評価方法 - Google Patents

健全性評価システム及び健全性評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】建物に配置されたセンサ数が少ない場合でも地震時における建物の応答推定を行うことができる健全性評価システム及び健全性評価方法を提供する。【解決手段】健全性評価システム1は、建物Bの健全性を評価する健全性評価システムであって、建物の上層に設けられた加速度を検出する1つのセンサS1と、建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が各層において適用された建物モデルに基づいて建物の応答波形を算出する演算部14と、を有し演算部は、センサの検出値を用いた周波数解析に基づいて建物の固有振動数及び減衰定数を算出し、算出値に基づいて各周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正し、修正された各周波数伝達関数に検出値を適用し、建物の応答波形を算出する、ことを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、建物の健全性を評価するための健全性評価システム及び健全性評価方法に関する。
構造物に地震動等の外力が加わった後に、構造物に生じた損傷の位置や程度を把握し、構造物の健全性を診断するヘルスモニタリングが研究されている。建物のヘルスモニタリングは、例えば、構造物に設けられたセンサの情報に基づいて、建物が健全性であるか、つまり安全に使用し得る状態にあるかを、損傷の位置、損傷の程度に基づき、建物に損傷が生じているか否かによって評価する。建物全体に多数のセンサを設けてモニタリングすることは現実的ではない。そこで、限られた数のセンサ情報に基づいて、地震時の建物全体の地震応答を推定する構造ヘルスモニタリングシステムがある。
地震の揺れは、加速度センサを有する地震計により検知される。地震計は、加速度センサの検出値に基づいて、通常は建物に生じる微弱な加速度を計測している。地震計が設置された建物は、地震が発生した場合には地震時の揺れがモニタリングされる。地震計により記録された加速度の波形情報を解析すると、建物の構造体としての健全性(安全性)や室内被害(損傷)などを判断することができる。
このような地震時建物健全性を判定するシステムは、「学習型応答推定機能を持つ構造ヘルスモニタリングシステム」として既に特許文献1、2、非特許文献1において提案されている(図4参照)。学習型応答推定機能は、例えば、ベイズ更新に基づいて建物をモデル化した建物モデルのパラメータを更新するものである。ベイズ更新は、検出値等の情報を得る度に建物モデルのパラメータを更新し推定値の精度を高めていく手法である。
このシステムを構築する場合、建物の動的応答をモデル化した建物モデルが初期情報として設定される。この建物モデルは、例えば、建物を質点の要素に置き換えて単純化した質点系モデルが用いられる。地震応答解析を行う場合、質点系モデルのパラメータが設定される。一般に、建物モデルにおいて、質量および剛性の分布がパラメータとして用いられており、専門家による高度な設計により設定されている(図5参照)。
このような建物モデルの初期情報を一般化することで質量および剛性の分布を簡便に自動で作成する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法では特別な動的解析モデルを必要とせず、建物階数と構造種別の情報から初期モデルを容易に自動作成できる(図6参照)。以上までに示したシステムでは、実際に発生した地震応答の計測値に基づいて、建物モデルを初期情報として与え、全層での応答を推定している。
特開2013-195354号公報 特開2015-001483号公報 特開2017-125742号公報
「建物モデルのベイズ更新を用いた地震応答推定と確率的被災度評価」 斎藤 知生 日本建築学会構造系論文集 78(683), 61-70, 2013
建物モデルを用いた応答推定には、質点系モデルのパラメータの初期情報を設定する必要がある。地震時における建物の応答推定をする場合、加速度センサの配置数の違いが応答推定のモード次数と推定波形の精度に影響を与えることが知られている。従来の質点系モデルを用いた応答推定を行うためには、建物の階数の数に応じて最低3個以上のセンサを配置し、観測データを記録する必要があった。
従来の応答推定は、精度を確保するために例えば、6階ごとに少なくとも1個のセンサを配置することが必要である。しかしながら応答推定の精度を高めるために、センサや収録機器などの数を増やすと、システムを構築するコストが増大する虞がある。地震時における建物の健全性を判定するシステムは、安価に構築されることが望まれている。そのため、システムにおいて実測データを取得するセンサは、なるべく少なくすることが望ましい。
本発明は、建物に配置されたセンサ数が少ない場合でも地震時における建物の応答推定を行うことができる健全性評価システム及び健全性評価方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様は、前記建物の健全性を評価する健全性評価システムであって、前記建物の上層に設けられた加速度を検出する1つのセンサと、前記建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が前記各層において適用された建物モデルに基づいて前記建物の応答波形を算出する演算部と、を有し前記演算部は、前記センサの検出値を用いた周波数解析に基づいて前記建物の固有振動数及び減衰定数を算出し、算出値に基づいて各前記周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正し、修正された各前記周波数伝達関数に前記検出値を適用し、前記建物の応答波形を算出する、ことを特徴とする。
本発明によれば、1つのセンサの検出値を用いて実際の応答波形に合うように建物モデルのパラメータを修正し、建物の応答波形を算出することで、システム構成を簡略化することができる。
また、本発明の前記演算部は、修正された各前記周波数伝達関数に前記検出値を適用し前記建物の前記各層における変位の応答波形を算出する。
本発明によれば、周波数伝達関数のパラメータの修正に用いた検出値を修正後の周波数伝達関数に入力することで、建物の応答波形を算出することができる。
また、本発明の前記演算部は、前記検出値を用いて算出した周波数応答に基づいて周波数毎のパワースペクトルを算出し、算出した前記パワースペクトルを用いたシステム同定を行い、各前記周波数伝達関数に含まれる前記パラメータを修正する。
本発明によれば、検出値に基づいて建物モデルのパラメータを同定するためのパワースペクトルを用いたシステム同定により周波数伝達関数のパラメータを修正することができる。
また、本発明の一態様は、前記センサより下層に設けられた他のセンサを備え、前記演算部は、前記センサの検出値と、前記他のセンサの他の検出値とを用いて、伝達関数を用いたカーブフィットに基づくシステム同定を行い、各前記周波数伝達関数に含まれる前記パラメータを修正する。
本発明によれば、2つのセンサの検出値に基づいて建物モデルのパラメータを同定するためのカーブフィットに基づくシステム同定により周波数伝達関数のパラメータを修正することができる。
本発明の一態様は、前記建物の健全性を評価する健全性評価方法であって、前記建物の上層に設けられた1つのセンサにより加速度を検出する工程と、前記建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が前記各層において適用された建物モデルに基づいて、前記センサの検出値を用いた周波数解析に基づいて前記建物の固有振動数及び減衰定数を算出する工程と、算出値に基づいて各前記周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正し、修正された各前記周波数伝達関数に前記検出値を適用し、前記建物の応答波形を算出する工程と、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、1つのセンサの検出値を用いて実際の応答波形に合うように建物モデルのパラメータを修正し、建物の応答波形を算出することで、システム構成を簡略化することができる。
本発明によれば、建物に配置されたセンサ数が少ない場合でも地震時における建物の応答推定を行うことができる。
本発明の実施形態に係る健全性評価システムの構成を示すブロック図である。 建物を質点系にモデル化した建物モデルの構成を示す図である。 建物応答の周波数伝達関数の機能を概略的に示す図である。 建物への入力波形に対する出力波形を示す図である。 建物の1次固有周期と高さ、建物の構造との関係を示す図である。 建物モデルの各パラメータの設定方法を示す図である。 建物モデルの質量分布と高さとの関係を示す図である。 建物モデルの剛性分布と高さとの関係を示す図である。 建物モデルの質点系振動モードで表し刺激関数と高さ方向の層(階)との関係を示す図である。 建物モデルの周波数伝達関数の特性を示す図である。 建物の各層に生じる振動の応答解析結果を示す図である。 振動が建物の最下層に入力される場合の応答解析結果を示す図である。 振動が建物の最上層に入力される場合の応答解析結果を示す図である。 振動が建物の最下層に入力される場合の建物の波形を示す図である。 振動が建物の最上層に入力される場合の建物の波形を示す図である。 カーブフィットを用いたシステム同定を行う方法を示す図である。 修正されたパラメータの算出結果を示す図である。 最上層1つのセンサの検出値を用いて修正された建物モデルによる応答解析結果を示す図である。 中間階1つのセンサの検出値を用いて修正された建物モデルによる応答解析結果を示す図である。 パワースペクトルから固有振動数における自己相関関数を求めカーブフィット法を用いて、建物の固有振動数を算出する方法を示す図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る健全性評価システム及び健全性評価方法の実施形態について説明する。健全性評価システムは、建物の応答推定に用いられる建物モデルのパラメータを、少ない数のセンサにより取得した実測データに基づいて設定可能とするものである。
図1に示されるように、健全性評価システム1は、建物Bに設けられた検出部2と、検出部2により検出された検出値に基づいて、建物Bの健全性を評価する評価装置10と、を備える。建物Bは、例えば、複数の階を有する高層建築物である。検出部2は、例えば、1つ又は2つのセンサS1、センサS2(他のセンサ)を備える。
センサS1は、例えば、建物Bの最下層(1階)に比して上層(上階)の任意の位置に設けられている。より好適にはセンサS1は、最上階に設けられている。センサS2は、例えば、建物Bの最下層に(基礎又は1階)からセンサS1の下層の間の任意の位置に設けられている。より好適にはセンサS2は、地盤と連動して動く建物Bの最下層に設けられている。以下センサS1,S2を代表して適宜センサSと呼ぶ。
センサSは、例えば、加速度センサである。センサSは、建物Bの加速度を検出する。センサSの出力値は、評価装置10に出力される。
評価装置10は、建物の応答推定を行うための建物モデルに基づいて建物Bの健全性を評価する情報処理端末である。評価装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等により実現される。評価装置10は、検出部2と電気的に接続されている。評価装置10は、ネットワーク(不図示)を通じて検出部2と接続されていてもよい。評価装置10は、例えば、検出部2から検出値のデータを取得する取得部12と、検出値に基づいて建物の健全性に関する演算を行う演算部14と、演算に関するデータを記憶する記憶部16と、演算結果を出力する表示部18とを備える。
取得部12は、ローカルネットワーク又は公衆ネットワーク等のネットワークに接続された通信インタフェースである。取得部12は、ネットワークを通じて検出部2から検出データを取得する。記憶部16は、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ等の記憶媒体を有する。
記憶部16は、評価装置10に必ずしも内蔵され、又は外部接続されているわけではなく、ネットワークを通じてデータを送受信するサーバ(不図示)に設けられていてもよい。表示部18は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置である。表示部18は、タブレット型端末、スマートフォン、パーソナルコンピュータ等の評価装置10と別体の他の端末装置であってもよい。
演算部14は、例えば、建物Bの動的な応答を示す建物モデル(応答推定モデル)に基づいて、建物Bの健全性の評価に関する演算を行う。演算部14は、センサSの検出値に基づいて、学習型の応答推定に関する演算を行い、演算結果に基づいて初期設定された建物モデルのパラメータを補正する。
図2に示されるように、建物モデルMは、高層建築物である建物Bが質量を有する複数の質点mc(cは自然数)と、複数の質点mcの間を連結し剛性kを有する弾性部材とにより解析用にモデル化されたものである。質点mcは、建物Bの各階又は、複数の階を1つの単位としてみなした各層を示す。
図3に示されるように、周波数伝達関数は、建物Bの観測値に基づいて、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する。図4には、建物Bの基礎への入力波形に対する上層からの出力波形が示されている。健全性評価システム1によれば、建物Bの各層に周波数伝達関数が適用された建物モデルMを用いて建物Bの応答波形の推定が行われる。
建物モデルMに適用される周波数伝達関数H(f)は、以下の式(1)により示される。
Figure 2022119266000002
但し、f:振動数、n:最高次のモード次数、j:各モード、h:j次の減衰定数、βuj:刺激係数、f:固有振動数、i:虚数単位である。
式(1)の第1項は基礎における入力を表しており、これを除いたものが各次の相対応答関数の重ね合せである。上記H(f)は、建物Bの基礎から入力される振動の周波数伝達関数であることを利用し、他の質点mcにおける周波数伝達関数は、式(2)を用いて変換される。
Figure 2022119266000003
但し、x:入力点、y:出力点、H:新しい入力に対応する周波数伝達関数、H:新しい出力に対応する周波数伝達関数である。
別入力における周波数伝達関数Hxyは、式(3)に基づいて、出力における周波数伝達関数Hを入力における周波数伝達関数Hにより除することにより算出される。周波数伝達関数は、検出部2から得られた建物Bの振動の波形が記録された実測データに基づいてパラメータが算出される。建物Bの振動の波形は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)スペクトル解析される。FFT解析結果G(f)は、式(3)を用いて算出される。
Figure 2022119266000004
但し、n:はフーリエスペクトルの平均化定数、x:入力点、G:波形のフーリエスペクトル、Gxx:パワースペクトルである。式(3)において、パワースペクトルGxxは、フーリエスペクトルGと複素共役G とを掛け合わせて算出される。式(3)を用いたFFT解析により周波数伝達関数が算出される。
フーリエスペクトルGから、以下の式(4)に基づいて、周波数伝達関数を算出するためのクロススペクトルGyxに変換される。
Figure 2022119266000005
但し、n:フーリエ変換の平均化、x:入力点、y:出力点である。クロススペクトルGyxはフーリエスペクトルGの複素共役G とを掛け合わせて算出される。
周波数伝達関数Hxyは、上記に示したパワースペクトルGxxおよびクロススペクトルGyxを用いて式(5)により算出される。
Figure 2022119266000006
但し、両スペクトルの平均化階数nは、同一であり、同区間のデータに基づいて計算される。上述した式に基づいて、周波数伝達関数が適用された質点系モデルに基づく建物モデルMの応答波形を推定することができる。
以下、建物の健全性を評価するため、周波数伝達関数に基づく健全性評価方法について説明する。健全性評価方法は、建物の全層に対応する応答推定を行うものである。本実施形態では、演算部14は、センサSから得られた検出値に基づいて、下記の処理を行い、建物モデルMの初期情報として設定されているパラメータを補正する。
一般に、質点系モデルを用いた応答解析は、建築設計において用いられる。この応答解析に用いられるモデルのパラメータは、専門家により設定される。そのため、応答解析モデルのパラメータの設定は、困難性が伴う。
そのため、建物モデルMは、簡易な質点系モデルに設定することで、応答解析におけるパラメータの初期設定を行うことができる(例えば特許文献3参照)。各パラメータは、例えば、建物の階高、階数、構造様式等の情報に基づいて初期設定される。但し、構造様式とは、例えば、鉄骨造(S造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)、鉄筋コンクリート造(RC造)などである。
図5に示されるように、高層の建物は、構造様式毎に建物の1次固有周期及び建物高さ、階数の各要素とは、実際の建物をサンプリングした範囲において関係性を有する。建物の1次固有周期は、建物の高さに比例して長くなり、剛性が高まるほど短くなる傾向にある。
図6に示されるように、建物Bの建物モデルMは、複数の質点が鉛直方向に沿って剛体により連結された質点系モデルにより簡易化してモデル化される(特許文献3参照)。建物モデルMにおいて、各層の剛体の剛性は、下層に向かうほど増加するように設定される。剛性の分布は、建物Bの1次固有周期に一致するように設定される。建物Bの各階高(h[m])の分布は、構造様式に応じて設定される。
建物モデルMにおける1次固有周期(T)は、例えば、建物Bの構造様式に応じて建物Bの軒高(H)又は回数(N)との関係式により算出される。S造の場合、T=0.02H、もしくはT=0.082Nである。RC造又はSRC造の場合、T=0.015HもしくはT=0.049Nである。建物モデルにおける減衰定数は、例えば、S造の場合、1次のモードをh=0.02とした剛性比例型に設定される。減衰定数は、RC造、SRC造の場合、例えば、1次のモードをh=0.03とした剛性比例型に設定される。
次に、検出部2から検出された検出データに基づいて、演算部14が建物モデルMに初期設定された上記パラメータをシステム同定により修正する方法について説明する。システム同定は、制御において用いられる手法であり、検出値に基づいて建物モデルMのパラメータを同定するものである。
パラメータの修正において、建物の上階に設けられたセンサS1のみの1つの検出データを用いる場合と、センサS1及び建物の基礎に設けられたセンサS2との2つの検出データを用いる場合がある。
先ず、2つのセンサS1,S2の検出値に基づくパラメータの修正について説明する。
演算部14は、例えば、センサS1の検出値と、他のセンサS2の他の検出値との2つの検出値により検出された加速度の波形の周波数応答に基づいて、周波数伝達関数に当てはまる最適な曲線を求めるカーブフィットを用いたシステム同定を行う。演算部14は、カーブフィットを用いたシステム同定に基づいて、建物モデルMに含まれる周波数伝達関数の固有振動数(或いは1次固有周期)、減衰定数、刺激関数の各パラメータを算出する。
具体的には、演算部14は、加速度の検出値をFFT処理し周波数成分の波形の応答(周波数応答)の算出値を算出する。演算部14は、初期パラメータが適用された建物モデルMに検出値を入力し建物Bの応答波形の周波数成分のモデル算出値を算出する。演算部14は、例えば、算出した応答波形の周波数成分に基づいて、カーブフィット法を用いて、建物Bの固有振動数を算出する(図20参照)。演算部14は、モデル算出値の曲線を実測算出値の曲線にフィットさせるように誤差を最小とするように最適な曲線を求めるカーブフィットを行う。
カーブフィット法は、検出値に良く合うようなパラメータを算出する手法である。カーブフィット法により、最小2乗法を用いて周波数軸又は時間軸上で関数フィッティングさせ、最適関数を推定し近似曲線が得られる。演算部14は、例えば、建物Bの上層に設けられたセンサS1により検出された微動波形の検出値に基づいて、パワースペクトルを算出する。パワースペクトルは、周波数に対応する振動のパワーの分布を表すものである。算出したパワースペクトルに対して逆離散時間フーリエ変換を行うと、自己相関関数に変換される。
演算部14は、例えば、パワースペクトルのうち最も低いスペクトルのピーク近傍の山の1周期分の周波数範囲を切り出す。演算部14は、切り出した周波数範囲を1次固有周期とみなして逆離散時間フーリエ変換し、自己相関関数を算出する。
演算部14は、算出した自己相関関数に基づいて減衰波形を算出する。演算部14は、非線形にカーブフィットするように固有振動数を算出すると共に、減衰定数を算出する。ここで得られた固有振動数などは、応答推定に利用する初期の建物モデルの剛性分布の補正に利用することで、精度の高い応答推定ができる。
演算部14は、カーブフィット法を用いて自己相関関数に基づいて算出される減衰波形を誤差が最小となるように、検出された応答波形に対して非線形にカーブフィットさせ、固有振動数を算出すると共に、減衰定数を算出する。演算部は、算出した固有振動数及び減衰定数に基づいて、建物モデルに含まれる質量及び剛性の分布に関するパラメータを更新する。
演算部14は、上記カーブフィットに基づいて、建物モデルMに適用される固有振動数、減衰定数、刺激関数の各パラメータを算出する。演算部14は、算出したパラメータを周波数伝達関数に当てはめ、周波数伝達関数が実際の応答に近い算出値に算出するように建物モデルMを更新する。但し、固有振動数は、3次モードまで算出される。演算部14は、加速度の波形の周波数応答は、カーブフィットの他に波形解析のためのARX(Auto Regressive with eXogenous)モデルを用いたシステム同定に基づいて算出してもよい。
次に、1つのセンサS1の検出値に基づくパラメータの修正について説明する。
演算部14は、例えば、センサS1の1つの検出データを取得し、加速度の波形の周波数応答に基づいて、初期設定されたパラメータを修正し建物モデルMを更新する。演算部14は、センサS1の1つの検出データを用いてFFTを用いた周波数解析を行う。演算部14は、検出データの周波数解析に基づいて周波数毎のパワーを示すパワースペクトルを算出する。演算部14は、算出したパワースペクトルを用いたシステム同定を行う。演算部14は、システム同定において、建物モデルMに含まれる固有振動数、減衰定数の各パラメータを算出する。演算部14は、算出した各パラメータを用いて建物モデルMのパラメータを修正する。
演算部14は、算出した固有振動数、減衰定数に基づいて、建物Bの各層に対応する周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正し、建物モデルMを更新する。演算部14は、加速度の波形の周波数応答をパワースペクトルの他に波形解析のためのAR(Auto Regressive)モデルを用いたシステム同定に基づいて算出してもよい。固有振動数は、例えば、3次モードまで同定することで精度を確保できる。
演算部14は、パラメータを修正した周波数伝達関数に対して建物Bの上層におけるセンサS1の検出データを適用し、建物Bの各層における加速度の応答波形を算出する。演算部14は、検出データに基づく応答波形の加速度の波形をFFT処理し、周波数成分毎の波形を算出する。演算部14は、FFT処理においてバンドパスフィルタを用いて振動数の範囲を限定する矩形窓を適用し、応答における高次のモードの影響を除去する。演算部14は、算出した周波数成分毎の波形を逆FFT処理し、モード毎の加速度の波形を算出する。
演算部14は、算出した加速度の応答波形を数値積分し、建物Bの各層における速度及び変位の波形を算出する。数値積分には、FFTにより算出したωの時間曲線が用いられる。演算部14は、算出した建物Bの各層における変位の波形を用いて、隣接する層同士の差分を算出し、建物Bの各層における層間変位を算出する。演算部14は、建物Bの各層において算出した層間変位の波形の最大値を算出する。演算部14は、算出した最大値に基づいて建物Bの各層の応答分布を算出する。
センサSは、日常的な微振動の他に、地震時に検出される地震動を検出してもよい。地震時に検出値が検出された場合、この検出値を利用して建物Bの固有振動数を算出できる。演算部14は、上記と同様に地震時に検出された検出値を用いて建物Bの地震時の応答波形を算出する。算出された建物Bの各層の応答分布は、建物Bの被災状況の判定に利用される。
次に健全性評価システム1において実行される建物Bの健全性評価方法における各工程について説明する。
建物Bの上層に設けられた1つのセンサS1により加速度を検出する。演算部14は、建物Bの各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が各層において適用された建物モデルMに基づいて、センサS1の検出値を用いた周波数解析を行う。演算部14は、検出値を用いて算出した周波数応答に基づいて周波数毎のパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルを用いたシステム同定を行い、建物の固有振動数及び減衰定数を算出し、各周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正する。
演算部14は、修正された各周波数伝達関数に検出値を適用し、建物の応答波形を算出する。演算部14は、修正された各周波数伝達関数に検出値を適用し建物の各層における変位の応答波形を算出する。
他の方法として、建物Bの上層に設けられた2つのセンサS1,S2により加速度を検出する。演算部14は、建物Bの各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が各層において適用された建物モデルMに基づいて、センサS1の検出値を用いた周波数解析を行う。演算部14は、センサS1の検出値と、他のセンサS2の他の検出値とを用いて、伝達関数を用いたカーブフィットに基づくシステム同定を行い、各周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正する。
演算部14は、修正された各周波数伝達関数に検出値を適用し、建物の応答波形を算出する。演算部14は、修正された各周波数伝達関数に検出値を適用し建物の各層における変位の応答波形を算出する。
以下、健全性評価システム1における応答推定の具体的な計算結果を例示する。
図7から図10に示されるように、建物Bを質点系により解析するための建物モデルMのパラメータが初期設定される。例示する建物モデルMは、例えば、5層(6階建て建物)の構造を有し、各質点の質量(m)、各質点間の剛性分布(k)、刺激関数(βu)の各パラメータが設定される。
先ず、初期パラメータが適用された建物モデルMについて、振動の入力に対する応答を数値解析する。次に、建物モデルMの各層に周波数伝達関数を適用し、振動の入力に対する応答を算出する。そして、建物モデルMの数値解析結果と周波数伝達関数に基づく応答の算出結果とを比較し、周波数伝達関数に基づく建物モデルMの精度を検証する。
図11には、初期パラメータ設定された質点系の建物モデルMを用いた数値計算に基づく線形の応答解析の計算結果が示されている。但し、線形の応答解析は、Newmarkのβ法(β=1/6)を用いて行われている。Newmarkのβ法は、構造物の動的解析を直接数値積分法により行って近似解を算出する手法である。入力される振動は、耐震設計において用いられる地震波の加速度記録であるエルセントロNS波であり、100(cm/s)に基準化されている。
図12には、振動が建物の最下層である0層(1F)に入力される場合の各層に周波数伝達関数が適用された建物モデルMの応答の算出結果が示されている。図12(1)には、各層の振幅の波形フィルタ特性が示されている。図12(2)には、各層の位相差の波形フィルタ特性が示されている。
図13には、振動が建物の最上層である5層(6F)に入力される場合の各層に周波数伝達関数が適用された建物モデルMの応答の算出結果が示されている。図13(1)には、各層の振幅の波形フィルタ特性が示されている。図13(2)には、各層の位相差の波形フィルタ特性が示されている。
図14には、周波数伝達関数に基づく建物モデルMの最下層である0層(1F)に振動が入力された場合における、最下層に比して上層(2F~6F)の応答の計算結果が示されている。周波数伝達関数に基づく応答波形は、数値解析に基づく線形の応答解析で計算された応答波形(図11参照)と完全に一致している。
図15には、周波数伝達関数に基づく建物モデルMの最上層である5層(6F)に振動が入力された場合における、最上層に比して下層(1F~5F)の応答の計算結果が示されている。周波数伝達関数に基づく応答波形は、数値解析で計算された応答波形(図11参照)と完全に一致している。これにより、建物Bには、少なくとも1箇所における観測データが取得できれば周波数伝達関数を用いで全層の応答が推定できる。
以上までに示した応答推定は、質点系に基づく建物モデルMの初期パラメータの設定が正しいものとして評価を行っていた。しかしながら、質点系に基づく建物モデルMの初期パラメータの設定が実際の建物Bの特性を再現しているとは限らない。従って、建物モデルMに用いられる各パラメータ(固有振動数、減衰定数、刺激関数)を現実の建物Bの応答に合致するように同定する。そして、同定したパラメータに基づいて建物モデルMを修正することで、建物Bの実際の応答の推定が可能となる。
図16に示されるように、6階に設けられたセンサS1と1階に設けられたセンサS2との2つのセンサSから検出値が得られた場合、検出値に基づいてカーブフィットを用いたシステム同定を行うことで周波数伝達関数が適用された建物モデルMの初期パラメータを修正することができる。図17に示されるように、初期設定されたパラメータに対して1次から3次までのパラメータが同定される。
図18には、同定されたパラメータに基づいて修正された建物モデルMにより応答推定した具体的な算出結果が示されている。修正された建物モデルMによれば、建物Bの5層(6階)に振動が入力された場合において、周波数伝達関数を用いた応答波形が算出され、より現実に近い応答推定が行われる。
図19には、修正された建物モデルMにより振動の入力位置を変えた場合に応答推定した具体的な算出結果が示されている。修正された建物モデルMによれば、建物Bの中間階の1層に振動が入力された場合において、周波数伝達関数を用いた応答波形が算出され、より現実に近い応答推定が行われる。上記例では、振動の1つの検出値に基づいて、建物モデルMを修正している。建物Bの中間層における1箇所の振動の検出値が得られていれば、建物モデルMの修正が可能である。
図20に示されるように、上層における振動の検出値をFFTにより周波数解析した結果、周波数成分と振幅との関係に基づいて、建物Bの上層の実際の応答から建物Bの固有振動数と減衰定数を同定することができる。建物Bの固有振動数と減衰定数との算出値に基づいて、建物モデルMのパラメータを修正し、建物Bの全層応答を推定することができる。演算部14は、例えば、カーブフィット法を用いて、建物Bの固有振動数と減衰定数を算出する。
演算部14は、算出した自己相関関数に基づいて算出される減衰波形を非線形にカーブフィットするように1次固有周期を算出すると共に、減衰定数を算出する。ここで得られた1次固有周期などは、応答推定に利用する初期の建物モデルの剛性分布の補正に利用することで、精度の高い応答推定ができる。
上述したように健全性評価システム1によれば、建物Bの上階1点に設けられた1箇所のセンサS1の検出値に基づいて、応答推定に用いる建物モデルMの初期設定されたパラメータを修正することができる。健全性評価システム1によれば、修正した建物モデルMに基づいて、建物Bの全層での応答波形を求めることができる。
健全性評価システム1による応答推定は、振動の検出値に対してFFTによる高速フーリエ変換を行い時系列領域から周波数領域に変換する。健全性評価システム1は、周波数伝達関数を用いて応答のフィルタリングを行い、iFFTによる逆高速フーリエ変換を行って時系列領域に戻すことで応答波形を求めることができる。健全性評価システム1によれば、建物Bの振動をセンサSにより検出し、建物モデルMの周波数伝達関数に初期設定されたパラメータを検出値に基づいて修正することができる。
健全性評価システム1によれば、建物Bから2個のセンサS1,S2、或いは1個のセンサS1の検出値が得られれば、建物モデルMの周波数伝達関数のパラメータを修正することができ、構成を簡便にすることができる。
上述した演算部14は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。上記実施形態においては、健全性評価システム1は、建物Bにおいて最上層或いは最下層から振動の検出データをセンサSにより検出して周波数伝達関数に基づく建物モデルMを用いて建物の応答波形を算出することを例示した。これに限らず、健全性評価システム1は、建物Bにおける最下層に比して上層の任意の1箇所にセンサSが設けられていてもよく、このセンサSの検出値に基づいて建物Bの応答波形を算出するようにしてもよい。また、健全性評価システム1は、地震応答推定の算出において、センサSの日常的な検出値を用いて建物モデルMを所定のタイミングで更新してもよい。健全性評価システムは、建物だけでなく、他の構造物の応答推定に適用してもよい。
1 健全性評価システム
2 検出部
10 評価装置
12 取得部
14 演算部
14 演算部
16 記憶部
18 表示部
B 建物
S、S1、S2 センサ

Claims (5)

  1. 建物の健全性を評価する健全性評価システムであって、
    前記建物の上層に設けられた加速度を検出する1つのセンサと、
    前記建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が前記各層において適用された建物モデルに基づいて前記建物の応答波形を算出する演算部と、を有し
    前記演算部は、前記センサの検出値を用いた周波数解析に基づいて前記建物の固有振動数及び減衰定数を算出し、算出値に基づいて各前記周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正し、修正された各前記周波数伝達関数に前記検出値を適用し、前記建物の応答波形を算出する、ことを特徴とする、
    健全性評価システム。
  2. 前記演算部は、修正された各前記周波数伝達関数に前記検出値を適用し前記建物の前記各層における変位の応答波形を算出する、
    請求項1に記載の健全性評価システム。
  3. 前記演算部は、前記検出値を用いて算出した周波数応答に基づいて周波数毎のパワースペクトルを算出し、算出した前記パワースペクトルを用いたシステム同定を行い、各前記周波数伝達関数に含まれる前記パラメータを修正する、
    請求項1または2に記載の健全性評価システム。
  4. 前記センサより下層に設けられた他のセンサを備え、
    前記演算部は、前記センサの検出値と、前記他のセンサの他の検出値とを用いて、伝達関数を用いたカーブフィットに基づくシステム同定を行い、各前記周波数伝達関数に含まれる前記パラメータを修正する、
    請求項1または2に記載の健全性評価システム。
  5. 建物の健全性を評価する健全性評価方法であって、
    前記建物の上層に設けられた1つのセンサにより加速度を検出する工程と、
    前記建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が前記各層において適用された建物モデルに基づいて、前記センサの検出値を用いた周波数解析に基づいて前記建物の固有振動数及び減衰定数を算出する工程と、
    算出値に基づいて各前記周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正し、修正された各前記周波数伝達関数に前記検出値を適用し、前記建物の応答波形を算出する工程と、を備えることを特徴とする、
    健全性評価方法。
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