JP2022108709A - タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 実車の摩耗状態と相関が高い摩耗状態を計算することが可能なシミュレーション方法を提供する。【解決手段】 タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するためのシミュレーション方法である。この方法は、コンピュータに、計算用のタイヤモデルを入力する工程S1と、コンピュータが、タイヤモデルを用いて摩耗状態を計算するシミュレーション工程S2とを含む。入力されたタイヤモデルは、タイヤの新品時のトレッド部に比べて、予め僅かに摩耗した状態である初期摩耗トレッド部を備えている。初期摩耗トレッド部の形状は、トレッド部の摩耗を特定する少なくとも一つの摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束した形状である。【選択図】図3

Description

本開示は、タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法に関する。
下記特許文献1には、タイヤの摩耗状況をシミュレートするための方法が記載されている。この方法では、先ず、評価対象となるタイヤにしたがって、タイヤモデルが作成される。次に、タイヤモデルを仮想路面で転動させて、タイヤモデルの摩耗特性が取得される。そして、前記摩耗特性に基づいてトレッド面を凹ませて、タイヤモデルが摩耗状態に修正される。
特許第4460337号公報
上記の方法では、時々刻々と摩耗が進行していく状態が計算されているものの、その状態が、実車の摩耗状態とは乖離する場合があった。
本開示は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、実車の摩耗状態と相関が高い摩耗状態を計算することが可能なシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
本開示は、タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するためのシミュレーション方法であって、コンピュータに、計算用のタイヤモデルを入力する工程と、前記コンピュータが、前記タイヤモデルを用いて摩耗状態を計算するシミュレーション工程と、を含み、前記入力されたタイヤモデルは、前記タイヤの新品時のトレッド部に比べて、予め僅かに摩耗した状態である初期摩耗トレッド部を備えており、前記初期摩耗トレッド部の形状は、前記トレッド部の摩耗を特定する少なくとも一つの摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束した形状である、タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法である。
本開示のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法は、上記の工程を採用することにより、実車の摩耗状態と相関が高い摩耗状態を計算することが可能となる。
タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。 摩耗状態が計算されるタイヤの一例を示す断面図である。 タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。 タイヤモデル入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。 摩耗特徴量と走行距離との関係を示すグラフである。 タイヤモデル及び路面モデルの一例を示す斜視図である。 タイヤモデルの一例を示す断面図である。 (a)は、実施例及び実験例の摩耗量とタイヤ軸方向の位置との関係を示すグラフ、(b)は、比較例及び実験例の摩耗量とタイヤ軸方向の位置との関係を示すグラフである。 新品時のタイヤを示す断面図である。 他の実施形態のタイヤモデル入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。 新品時タイヤモデルを示す断面図である。 (a)は、新品時タイヤモデルの拡大図、(b)は、踏面の節点を移動させたタイヤモデルの拡大図である。 さらに他の実施形態のタイヤモデル入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。 摩耗の進行が相対的に早い部分を有しないトレッド部の形状を示す断面図である。
以下、本開示の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、開示の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
本実施形態のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、タイヤのトレッド部の摩耗状態が計算される。本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータが用いられる。
[コンピュータ]
図1は、タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、例えば、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。したがって、コンピュータ1は、タイヤ摩耗状態のシミュレーション装置として構成される。
[タイヤ]
図2は、摩耗状態が計算されるタイヤの一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2のトレッド部3には、タイヤ周方向に連続してのびる周方向溝4が設けられる。これにより、トレッド部3は、周方向溝4で区分された複数の陸部5が設けられる。
本実施形態の周方向溝4は、タイヤ赤道Cのタイヤ軸方向の両外側に配置される一対のクラウン周方向溝4A、4A、及び、クラウン周方向溝4Aとトレッド端3tとの間に配置される一対のショルダー周方向溝4B、4Bを含んでいる。なお、周方向溝4は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、一部の周方向溝が省略されてもよいし、他の周方向溝(図示省略)がさらに設けられてもよい。
本実施形態の陸部5には、クラウン陸部5A、一対のミドル陸部5B、5B、及び、一対のショルダー陸部5C、5Cが含まれる。クラウン陸部5Aは、一対のクラウン周方向溝4A、4A間で区分されている。一対のミドル陸部5B、5Bは、クラウン周方向溝4Aとショルダー周方向溝4Bとで区分されている。一対のショルダー陸部5C、5Cは、ショルダー周方向溝4Bとトレッド端3tとで区分されている。これらのショルダー陸部5C、5Cは、クラウン陸部5Aのタイヤ軸方向の外側、かつ、一対のトレッド端3t、3t側にそれぞれ配されている。なお、陸部5は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、一部の陸部が省略されてもよいし、他の陸部(図示省略)がさらに設けられてもよい。また、各陸部5には、例えば、周方向溝4と交差する方向に延びる横溝(図示省略)等が設けられてもよい。
本明細書において、「トレッド端3t」とは、タイヤ2が空気入りタイヤの場合、正規状態のタイヤ2に、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置として特定される。正規状態とは、タイヤ2が正規リムにリム組みされ、かつ、正規内圧が充填された無負荷の状態である。本明細書では、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、正規状態で測定された値で示される。
「正規リム」とは、タイヤ2が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムである。したがって、正規リムは、例えば、JATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば"Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
「正規内圧」とは、タイヤ2が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧である。したがって、正規内圧は、例えば、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
「正規荷重」とは、タイヤ2が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重である。したがって、正規荷重は、例えば、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
ところで、実際のタイヤ2の多くは、新品時から僅かに摩耗が進行した摩耗初期までの間、トレッド部3の摩耗は均一ではなく、摩耗しやすい部分が相対的に早期に摩耗する(初期摩耗)。図2では、初期摩耗のトレッド部3の形状が示されており、新品時のトレッド部3の断面形状7が二点鎖線で示されている。
摩耗しやすい部分としては、例えば、クラウン陸部5Aの接地面8A、一対のショルダー陸部5C、5Cの接地面8C、及び、トレッド部3の接地面8と周方向溝4の溝壁9とのコーナー部10等が挙げられる。なお、摩耗しやすい部分は、トレッドパターン等によって異なる。
図2に示されるように、初期摩耗時の接地形状は、新品時のそれ(図2において二点鎖線で示す)とは異なったものになる。一方、初期摩耗後は、トレッド部3の摩耗の変化が比較的収束する(均一化する)傾向がある。その理由としては、摩耗しやすいコーナー部10等が、初期摩耗時に早期に摩耗してしまい、初期摩耗後のトレッド部3の摩耗に影響しなくなるためと考えられる。したがって、初期摩耗に至ったトレッド部3の形状から進展する摩耗を、シミュレーション中に取り込むことは、実車の摩耗状態と高い相関を持った計算結果を得るために有効である。なお、従来の方法では、新品時のタイヤ(図2で二点鎖線で示す)をモデリングしたタイヤモデル(図示省略)について、時々刻々と摩耗が進行していく状態が計算されているものの、初期摩耗に至ったトレッド部3の形状が考慮されていなかった。このため、従来の方法で計算された摩耗状態が、実車の摩耗状態から乖離する場合があった。
[タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法]
本実施形態のシミュレーション方法では、初期摩耗に至ったトレッド部3の形状に基づいて、タイヤ2のトレッド部3の摩耗状態が計算される。図3は、タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
[タイヤモデル入力工程]
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、計算用のタイヤモデルが入力される(タイヤモデル入力工程S1)。図4は、タイヤモデル入力工程S1の処理手順の一例を示すフローチャートである。
[初期摩耗形状取得工程(第1実施形態)]
本実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、先ず、タイヤ2の新品時のトレッド部3(図2で二点鎖線で示す)に比べて、予め僅かに摩耗した状態である初期摩耗時のトレッド部3の形状(図2に示す)が取得される(初期摩耗形状取得工程S11)。
初期摩耗時のトレッド部3の形状は、適宜特定することができる。本実施形態の初期摩耗時のトレッド部3の形状は、図2に示したトレッド部3の摩耗を特定する少なくとも一つの摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束した形状として特定される。
摩耗特徴量は、トレッド部3の摩耗を特定することができれば、適宜採用されうる。上述のような相対的に摩耗しやすい部分の摩耗により、新品時から摩耗初期までの間において、クラウン陸部5Aの摩耗の変化、及び、ショルダー陸部5Cの摩耗の変化の少なくとも一方が大きくなる場合がある。なお、これらの摩耗の変化は、初期摩耗後に解消される(変化が比較的収束する)傾向がある。このため、摩耗特徴量には、クラウン陸部5Aの摩耗量とショルダー陸部5Cの摩耗量との比が含まれてもよい。
また、上述の摩耗の変化だけでなく、一方のショルダー陸部5Cの摩耗、及び、他方のショルダー陸部5Cの摩耗の変化の少なくとも一方が大きくなったり、トレッド部3の接地面8の曲率半径Rの変化が大きくなったりする場合がある。なお、これらの摩耗や曲率半径の変化も、初期摩耗後に解消される(変化が比較的収束する)傾向がある。したがって、摩耗特徴量には、一方のショルダー陸部5Cの摩耗量と他方のショルダー陸部5Cの摩耗量との比や、トレッド部3の接地面8の曲率半径Rが含まれてもよい。
各陸部5A~5Cの摩耗量、及び、トレッド部3の接地面8の曲率半径Rは、適宜特定されうる。本実施形態の各陸部5A~5Cの摩耗量は、タイヤ周方向で等間隔に設定された複数の測定箇所(例えば、4~10箇所)で測定された摩耗量の平均値として、それぞれ特定される。本実施形態の曲率半径Rは、タイヤ赤道Cと接地面8との交点11と、一対のトレッド端3t、3tとを通る円弧の曲率半径が、上述の複数の測定箇所で測定され、これらの曲率半径が平均されることで特定されうる。
本実施形態では、クラウン陸部5Aの摩耗量とショルダー陸部5Cの摩耗量との比が、摩耗特徴量として採用されるが、その他の摩耗特徴量が採用されてもよいし、全ての摩耗特徴量が採用されてもよい。
本実施形態の初期摩耗形状取得工程S11では、タイヤ2を新品時から徐々に摩耗させて、摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束したトレッド部3の形状が取得される。図5は、摩耗特徴量と走行距離との関係を示すグラフである。図5において、タイヤの新品時は、走行距離が「0」のときである。
本実施形態では、先ず、新品のタイヤ2を装着した車両を走行させて、予め定められた距離ごとに、摩耗特徴量が取得される。次に、今回(直近に)取得された摩耗特徴量と、その前回(直近の一つ前に)取得された摩耗特徴量との比が取得される。そして、それらの摩耗特徴量の比が予め定められた範囲(例えば、0.9~1.1(90%~110%))となったときに、摩耗特徴量の新品時からの変化が、小さい範囲に収束したと判断される。この収束したときのトレッド部3の形状が、初期摩耗時のトレッド部3の形状(一例として、図2に示す)として特定される。特定された形状は、例えば、コンピュータ1で取り扱い可能なデータ(例えば、座標値)として、コンピュータ1に記憶される。
[モデリング工程(第1実施形態)]
次に、本実施形態のタイヤモデル入力工程S1は、取得された形状に基づいて、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデルがモデル化される(モデリング工程S12)。図6は、タイヤモデル15及び路面モデル16の一例を示す斜視図である。図7は、タイヤモデル15の一例を示す断面図である。図6では、タイヤモデル15のトレッドパターンが省略されている。
本実施形態のモデリング工程S12では、図7に示されるように、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)を用いて、取得されたタイヤ2の初期摩耗時の形状(図2に示す)が離散化される。これにより、タイヤモデル15がモデリングされる。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。
要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素F(i)は、複数の節点17を有している。各要素F(i)には、要素番号、節点17の番号、節点17の座標値及び材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
本実施形態のタイヤモデル15のトレッド部21には、周方向溝モデル19と、陸部モデル20とが設定されている。周方向溝モデル19は、周方向溝4(図2に示す)がモデリングされたものである。一方、陸部モデル20は、陸部5(図2に示す)がモデリングされたものである。
周方向溝モデル19には、一対のクラウン周方向溝モデル19A、19A、及び、一対のショルダー周方向溝モデル19B、19Bが含まれる。一対のクラウン周方向溝モデル19A、19Aは、一対のクラウン周方向溝4A、4A(図2に示す)がそれぞれモデリングされたものである。一対のショルダー周方向溝モデル19B、19Bは、一対のショルダー周方向溝4B、4B(図2に示す)がそれぞれモデリングされたものである。
陸部モデル20には、クラウン陸部モデル20A、一対のミドル陸部モデル20B、20B、及び、一対のショルダー陸部モデル20C、20Cが含まれる。クラウン陸部モデル20Aは、クラウン陸部5A(図2に示す)がモデリングされたものである。一対のミドル陸部モデル20B、20Bは、一対のミドル陸部5B、5B(図2に示す)がそれぞれモデリングされたものである。一対のショルダー陸部モデル20C、20Cは、一対のショルダー陸部5C、5C(図2に示す)がそれぞれモデリングされたものである。
本実施形態のモデリング工程S12では、初期摩耗時のトレッド部3の形状(一例として、図2に示す)に基づいて、タイヤモデル15がモデリングされている。このため、タイヤモデル15は、タイヤ2の新品時のトレッド部3(図2で二点鎖線で示す)に比べて、予め僅かに摩耗した状態である初期摩耗トレッド部22を備えている。この初期摩耗トレッド部22の形状は、トレッド部3の摩耗を特定する少なくとも一つの摩耗特徴量(本例では、クラウン陸部5Aの摩耗量と、ショルダー陸部5Cの摩耗量との比)の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束した形状である。したがって、モデリング工程S12では、初期摩耗に至った(すなわち、その後の摩耗の変化が比較的均一化する)トレッド部3を有するタイヤ2を、精度よくモデリングすることができる。タイヤモデル15は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
[シミュレーション工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、タイヤモデル15を用いて摩耗状態を計算する(シミュレーション工程S2)。摩耗状態の計算は、従来技術(例えば、特許文献2)の手順に基づいて、適宜実施されうる。
本実施形態のシミュレーション工程S2では、先ず、特許文献(特開2019-91302号公報)に記載の手順と同様に、タイヤモデル15を路面モデル16に転動させた状態が計算される。タイヤモデル15の転動計算は、実車走行で取得される転動条件に限定されることなく、任意の転動条件で実施されうる。そして、シミュレーション工程S2では、図7に示したトレッド部21(初期摩耗トレッド部22)の各節点17で計算された摩耗エネルギーに基づいて、トレッド部21の各節点17の移動が計算される。これにより、シミュレーション工程S2では、トレッド部21の摩耗が進展する状態を計算することができる。
シミュレーション工程S2では、例えば、終了条件が満たされるまで、タイヤモデル15の摩耗状態が計算(例えば、シミュレーションの単位時間T(x)毎に計算)されてもよい。終了条件としては、例えば、計算終了時間や、トレッド部21の摩耗量などが適宜設定されうる。また、シミュレーション工程S2では、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。なお、単位時間T(x)については、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。摩耗状態が計算されたタイヤモデル15は、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態のシミュレーション工程S2では、摩耗の変化を収束させた初期摩耗トレッド部22に基づいて、タイヤモデル15の摩耗状態が計算されている。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、初期摩耗に至ったトレッド部3の形状から進展する摩耗を、シミュレーション中に取り込むことができる。本実施形態のシミュレーション方法は、新品時のタイヤ(図2で二点鎖線で示す)をモデリングしたタイヤモデル(図示省略)の摩耗状態を計算していた従来の方法に比べて、実車の摩耗状態と相関が高い摩耗状態を計算することができる。
[評価工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、トレッド部21の摩耗状態が、良好か否かが評価される(工程S3)。摩耗状態の評価は、コンピュータ1によって行われてもよいし、オペレータによって行われてもよい。摩耗状態の良否は、評価対象のタイヤ2(図2に示す)に応じて、適宜評価されうる。例えば、各陸部モデル20の偏摩耗の有無等に基づいて、摩耗状態の良否が評価されてもよい。
工程S3において、トレッド部21の摩耗状態が良好であると判断された場合(工程S3において、「Yes」)、図2に示したタイヤ2の設計因子に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S4)。一方、工程S3において、トレッド部21の摩耗状態が良好ではないと判断された場合(工程S4において、「No」)、タイヤ2の設計因子が変更されて(工程S5)、タイヤモデル入力工程S1~工程S3が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、トレッド部3の摩耗状態が良好なタイヤ2を確実に設計及び製造することができる。
[タイヤモデル入力工程(第2実施形態)]
これまでの実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、図2に示したタイヤ2を新品時から徐々に摩耗させて、摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束したトレッド部3の形状が取得されたが、このような態様に限定されない。例えば、タイヤ2を実際に摩耗させなくても、摩耗特徴量の新品時からの変化が収束したトレッド部3の形状が予測されてもよい。これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号が付され、説明が省略されることがある。
[初期摩耗形状取得工程(第2実施形態)]
この実施形態の初期摩耗形状取得工程S11では、摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束可能なトレッド部3の形状が予測される。トレッド部3の形状予測は、摩耗特徴量の変化が収束可能であれば、適宜実施されうる。
この実施形態では、新品時のトレッド部3の形状(図2で二点鎖線で示す)から、上述の摩耗しやすい部分が取り除かれる(削除される)ことにより、上述の収束可能なトレッド部3の形状(一例として、図2に示す)が予測される。摩耗しやすい部分は、例えば、これまでに取得されてきた初期摩耗のトレッド部3の形状から分析された摩耗傾向に基づいて特定されうる。
なお、予測されたトレッド部3の形状について、摩耗特徴量の新品時からの変化が収束しているか否かを確認するために、例えば、図3に示したシミュレーション工程S2に先立ち、タイヤモデル15の転動計算が実施されてもよい。
転動計算は、予測されたトレッド部3の形状に基づいてモデリングされたタイヤモデルを用いて、シミュレーション工程S2の転動計算と同様の手順で実施される。そして、この転動計算では、例えば、クラウン陸部モデル20A及びショルダー陸部モデル20Cの摩耗エネルギーが計算される。
この実施形態では、予め定められた間隔(シミュレーションでの走行距離)ごとに、摩耗エネルギーの合計値が計算される。摩耗エネルギーの合計値は、実際のトレッド部3の摩耗量と相関がある。このため、例えば、クラウン陸部モデル20Aの摩耗エネルギーと、ショルダー陸部モデル20Cの摩耗エネルギーの比を、摩耗特徴量(図2に示したクラウン陸部5Aの摩耗量と、ショルダー陸部5Cの摩耗量との比)として扱うことができる。
この実施形態では、直近に計算された摩耗エネルギーと、直近の一つ前に計算された摩耗エネルギーとの比が、上記の範囲に収束している場合、予測されたトレッド部3の形状について、摩耗特徴量の新品時からの変化が収束していると判断されうる。これにより、この実施形態では、タイヤ2を実際に摩耗させなくても、摩耗特徴量の新品時からの変化が収束可能なトレッド部3の形状を確実に予測することができる。予測されたトレッド部3の形状は、コンピュータ1に記憶される。
[モデリング工程(第2実施形態)]
この実施形態のモデリング工程S12は、予測された形状に基づいて、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15(図7に示す)がモデリングされる。これにより、この実施形態のモデリング工程S12では、これまでの実施形態と同様に、図2に示した初期摩耗に至った(すなわち、その後の摩耗の変化が比較的均一化する)トレッド部3を有するタイヤ2を、精度よくモデリングすることができる。なお、この実施形態のモデリング手順には、これまでの実施形態のモデリング手順が採用されうる。
この実施形態のシミュレーション工程S2では、摩耗の変化を収束させた初期摩耗トレッド部22に基づいて、タイヤモデル15の摩耗状態が計算される。したがって、この実施形態のシミュレーション方法では、実車の摩耗状態との相関を高めることができる。
[タイヤモデル入力工程(第3実施形態)]
これまでの実施形態では、トレッド部3の摩耗を特定する少なくとも一つの摩耗特徴量の新品時からの変化について、予め定められた小さい範囲に収束した形状が、初期摩耗トレッド部22(図7に示す)の形状として特定されたが、このような態様に限定されない。例えば、初期摩耗トレッド部22は、新品時のトレッド部の外面のうち、摩耗の進行が相対的に早い部分を有しないものでもよい。これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号が付され、説明が省略されることがある。
図9は、新品時のタイヤ2を示す断面図である。トレッド部3には、踏面13(接地面8)からタイヤ半径方向内側に延びる一対の溝壁9、9を有する溝12が設けられている。溝12には、例えば、周方向溝4と横溝6とが含まれるが、いずれか一方のみでもよい。新品時のトレッド部3の外面のうち、踏面13と一対の溝壁9、9のそれぞれとのコーナー部10は、その他の部分に比べて、摩耗しやすい傾向がある。したがって、摩耗の進行が相対的に早い部分(初期摩耗時に早期に摩耗する部分)14には、コーナー部10が含まれる。
この実施形態では、新品時のトレッド部3の外面のうち、コーナー部10を有しない初期摩耗トレッド部が設定される。なお、コーナー部10以外に、摩耗の進行が相対的に早い部分14が含まれる場合、その部分(コーナー部10以外の部分)も有しない初期摩耗トレッド部が設定される。
図10は、他の実施形態のタイヤモデル入力工程S1の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、これまでの実施形態と同様に、図7に示した複数の節点17を有する有限個の要素F(i)を用いて、初期摩耗トレッド部を備えたタイヤモデルがモデリングされる。
[新品時タイヤモデルの入力(第3実施形態)]
この実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、先ず、コンピュータ1に、新品時のタイヤ2(図9に示す)をモデリングした新品時タイヤモデルが入力される(工程S13)。図11は、新品時タイヤモデル25を示す断面図である。
この実施形態の工程S13では、新品時タイヤモデル25(図9に示す)が、複数の節点17を有する要素(数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素)F(i)を用いてモデリング(離散化)される。これにより、工程S13では、踏面23を備えた新品時タイヤモデル25が設定される。要素F(i)は、節点17、17間を連結する辺18を有している。本実施形態の辺18は、例えば、直線状にのびている。
本実施形態の新品時タイヤモデル25のトレッド部21には、周方向溝モデル19と、陸部モデル20とが設定されている。さらに、トレッド部21には、横溝6(図9に示す)をモデリングした横溝モデル(図示省略)が含まれてもよい。
本実施形態の周方向溝モデル19(横溝モデル(図示省略))には、踏面23からタイヤ半径方向内側に延びる一対の溝壁29、29が設けられている。さらに、本実施形態のトレッド部21には、踏面23と一対の溝壁29、29のそれぞれとのコーナー部30が含まれる。したがって、新品時タイヤモデル25は、トレッド部21に、摩耗の進行が相対的に早い部分14(コーナー部30)を有している。新品時タイヤモデル25は、コンピュータ1に記憶される。
[踏面の節点を移動(第3実施形態)]
次に、この実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、新品時タイヤモデル25の踏面23を構成する節点17の少なくとも一部を、タイヤ半径方向内側に移動させて、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15がモデリングされる(工程S14)。図12(a)は、新品時タイヤモデル25の拡大図である。図12(b)は、踏面23の節点17を移動させたタイヤモデル15の拡大図である。
図12(a)に示されるように、この実施形態の工程S14では、新品時タイヤモデル25において、摩耗の進行が相対的に早い部分14(コーナー部30)が無くなるように、踏面23を構成する節点17の一部を、タイヤ半径方向内側に移動させている。これにより、図12(b)に示されるように、新品時タイヤモデル25に、面取り部34が形成され、新品時タイヤモデル25から、摩耗の進行が相対的に早い部分14を無くすことができる。
節点17の移動量L1(図12(a)に示す)は、新品時タイヤモデル25から、摩耗の進行が相対的に早い部分14(コーナー部30)を無くすことができれば、適宜決定されうる。移動量L1は、例えば、オペレータの経験則(これまでの摩耗実験結果等)に基づいて決定されてもよい。また、移動量L1は、例えば、新品のタイヤ2を装着した車両を、予め定められた距離(例えば100~2000km)を走行させた後のトレッド部3の形状に基づいて決定されてもよい。この実施形態の移動量(最大移動量)L1は、例えば、0.05~0.20mm程度に設定される。
本実施形態の節点17の移動量L1は、図11に示したクラウン陸部モデル20Aのコーナー部30、ミドル陸部モデル20Bのコーナー部30、及び、ショルダー陸部モデル20Cのコーナー部30において、同一に設定されている。これにより、各陸部モデル20A~20Cにおいて、新品時タイヤモデル25から、摩耗の進行が相対的に早い部分14(コーナー部30)を一律に無くすことができるため、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15を早期にモデリングすることができる。なお、各陸部5A~5Cのコーナー部10の摩耗のし易さ等を考慮して、各陸部モデル20A~20Cでの節点17の移動量L1が互いに異なっていてもよい。
工程S14において、移動させる節点17は、例えば、摩耗の進行が相対的に早い部分14の大きさに応じて、適宜選択されうる。図12(a)に示されるように、この実施形態では、コーナー部10に位置する第1節点31と、第1節点31と辺18を介して隣り合う第2節点32とが、タイヤ半径方向に移動されているが、このような態様に限定されない。例えば、工程S14では、第1節点31のみが移動されてもよいし、第2節点32と辺18を介して隣り合う第3節点33も移動されてもよい。
この実施形態では、コーナー部10を構成する節点17が、要素F(i)の辺18に沿って、タイヤ半径方向内側に移動させている。これにより、溝壁29の輪郭を維持しつつ、新品時タイヤモデル25から、摩耗の進行が相対的に早い部分14を無くすことが可能となる。
この実施形態では、図12(b)に示されるように、上述の節点17の移動によって、摩耗の進行が相対的に早い部分14を有しない(面取り部34が形成された)初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15をモデリングすることができる。このような初期摩耗トレッド部22は、これまでの実施形態と同様に、その後の摩耗の変化が比較的均一化する。したがって、この実施形態では、摩耗特徴量の新品時からの変化が収束した形状を取得しなくても、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15(図7及び図12(b)に示す)を、短時間かつ容易にモデリングしうる。
[シミュレーション工程]
この実施形態のシミュレーション工程S2では、摩耗の進行が相対的に早い部分14を有しない初期摩耗トレッド部22に基づいて、タイヤモデル15の摩耗状態が計算される。したがって、この実施形態のシミュレーション方法では、これまでの実施形態と同様に、初期摩耗に至ったトレッド部3の形状から進展する摩耗を、シミュレーション中に取り込むことができるため、実車の摩耗状態と相関が高い摩耗状態を計算することができる。
[タイヤモデル入力工程(第4実施形態)]
図12(a)、(b)に示されるように、前実施形態では、新品時タイヤモデル25の踏面23の節点17を、タイヤ半径方向内側に移動させることで、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15がモデリングされたが、このような態様に限定されない。例えば、最初から、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15(図7及び図12(b)に示す)がモデリングされてもよい。これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号が付され、説明が省略されることがある。
図13は、さらに他の実施形態のタイヤモデル入力工程S1の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、これまでの実施形態と同様に、図7に示した複数の節点17を有する有限個の要素F(i)を用いて、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15がモデリングされる。
[トレッド部の形状を取得(第4実施形態)]
この実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、先ず、新品時のトレッド部3の外面のうち、摩耗の進行が相対的に早い部分14を有しないトレッド部3の形状が取得される(工程S15)。図14は、摩耗の進行が相対的に早い部分14を有しないトレッド部3の形状を示す断面図である。
この実施形態の工程S15では、先ず、図9に示した新品時のタイヤ2のトレッド部3の形状が取得される。トレッド部3の形状の取得は、例えば、新品時のタイヤ2の設計図(CADデータ)から、座標値として取得されうる。
次に、この実施形態の工程S15では、図14に示されるように、トレッド部3の外面(踏面13)のうち、摩耗の進行が相対的に早い部分14が削除される。この実施形態では、トレッド部3の外面(踏面13)から摩耗の進行が相対的に早い部分14(コーナー部10)が無くなるように、コーナー部10に面取り部36が設定される。これにより、摩耗の進行が相対的に早い部分14を有しないトレッド部3の形状が取得されうる。
面取り部36は、新品時タイヤモデル25から、摩耗の進行が相対的に早い部分14を無くすことができれば、適宜設定されうる。面取り部36は、上述の節点17の移動量L1と同一の観点に基づいて設定されうる。また、面取り部36は、例えば、新品時のタイヤ2の設計図(CADデータ)に基づいて、容易に設定することができる。トレッド部3の形状は、コンピュータ1に記憶される。
[タイヤモデルのモデリング(第4実施形態)]
次に、この実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、摩耗の進行が相対的に早い部分14を有しないトレッド部3の形状(図14に示す)に基づいて、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデルがモデル化される(工程S16)。
この実施形態の工程S16では、摩耗の進行が相対的に早い部分14を有しないトレッド部3の形状が、図7に示した数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)を用いて離散化される。これにより、工程S16では、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15(図7及び図12(b)に示す)がモデリングされる。
この実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、前実施形態と同様に、摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束した形状を取得しなくても、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15をモデリングすることができる。したがって、この実施形態のシミュレーション方法では、実車の摩耗状態と相関が高い摩耗状態を計算しつつ、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15を、短時間かつ容易にモデリングしうる。
さらに、この実施形態では、図12(a)及び(b)に示されるように、新品時タイヤモデル25(図11に示す)の踏面23の節点17を移動させなくても、最初から、初期摩耗トレッド部22を備えたタイヤモデル15をモデリングすることができる。したがって、この実施形態のタイヤモデル入力工程S1では、節点17を移動させる前実施形態に比べて、タイヤモデル15のモデリングに要する時間を短縮することができる。
以上、本開示の特に好ましい実施形態について詳述したが、本開示は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
[実施例A]
図3に処理手順に基づいて、タイヤのトレッド部の摩耗状態が計算された(実施例及び比較例)。実施例では、タイヤの新品時のトレッド部に比べて、予め僅かに摩耗した状態である初期摩耗トレッド部を備えたタイヤモデルが設定された。一方、比較例では、従来と同様に、新品時のタイヤをモデリングしたタイヤモデルが設定された。
実施例では、図4に示した処理手順に基づいて、タイヤを新品時から徐々に摩耗させて、摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束したトレッド部の形状が取得された。そして、実施例では、取得されたトレッド部の形状に基づいて、初期摩耗トレッド部を備えたタイヤモデルがモデリングされた。
実施例及び比較例のシミュレーション方法では、約5000km走行した後の摩耗状態が計算された。そして、実施例及び比較例の摩耗状態が、上記の走行距離を実車走行させた後の摩耗状態(実験例)とそれぞれ比較された。実施例の仕様は、次のとおりである。
摩耗特徴量:クラウン陸部の摩耗量と、ショルダー陸部の摩耗量との比
摩耗特徴量の範囲:0.9~1.1
図8(a)は、実施例及び実験例の摩耗量とタイヤ軸方向の位置との関係を示すグラフである。図8(b)は、比較例及び実験例の摩耗量とタイヤ軸方向の位置との関係を示すグラフである。図8(a)、(b)のグラフでは、クラウン陸部、一対のミドル陸部及び一対のショルダー陸部の摩耗量がそれぞれ示されており、タイヤ軸方向の位置が「0」での摩耗量が、タイヤ赤道C上に配置されているクラウン陸部の摩耗量である。
図8(a)に示されるように、実施例では、実験例と同様に、一方のショルダー陸部及びミドル陸部の摩耗量に比べて、他方のショルダー陸部及びミドル陸部の摩耗量が相対的に大きい状態が計算された。したがって、実施例の摩耗傾向と、実験例の摩耗傾向とが近似した。
図8(b)に示されるように、比較例では、クラウン陸部の摩耗量が相対的に大きくなり、他方ミドル陸部の摩耗量が相対的に小さくなった。したがって、比較例の摩耗傾向と、実験例の摩耗傾向とが相違した。
このように、実施例は、比較例に比べて、実車の摩耗状態と相関が高い摩耗状態を計算することができた。
[実施例B]
図3の処理手順に基づいて、タイヤのトレッド部の摩耗状態が計算された(実施例2及び実施例3)。実施例2及び実施例3では、新品時のトレッド部の外面のうち、摩耗の進行が相対的に早い部分(コーナー部)を有しない初期摩耗トレッド部を備えたタイヤモデルが設定された。
実施例2では、先ず、図10に示した処理手順に基づいて、新品時のタイヤをモデリングした新品時タイヤモデルが入力された。そして、実施例2では、新品時タイヤモデルの踏面を構成する節点の少なくとも一部を、タイヤ半径方向内側に移動させることにより、初期摩耗トレッド部を備えたタイヤモデルがモデリングされた。
実施例3では、図13に示した処理手順に基づいて、最初から、初期摩耗トレッド部を備えたタイヤモデルがモデリングされた。実施例3では、先ず、摩耗の進行が相対的に早い部分を有しないトレッド部の形状が取得された。そして、実施例3では、トレッド部の形状に基づいて、タイヤモデルがモデリングされた。
実施例2及び実施例3のシミュレーション方法では、実施例Aと同様の手順に基づいて、トレッド部の摩耗状態が計算され、実験例の摩耗状態と比較された。
実施例2及び実施例3では、実施例Aの実験例や実施例と同様に、一方のショルダー陸部及びミドル陸部の摩耗量に比べて、他方のショルダー陸部及びミドル陸部の摩耗量が相対的に大きい状態が計算された。したがって、実施例2及び3の摩耗傾向と、実験例の摩耗傾向とを近似させることができ、実車の摩耗状態と相関が高い摩耗状態を計算することができた。
さらに、実施例2及び3は、実施例Aの実施例のように、摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束した形状を取得する必要がない。このため、実施例2及び3では、実施例Aの実施例に比べて、タイヤモデルの作成に要した時間を短縮することができた。したがって、実施例2及び3は、実車の摩耗状態と相関が高い摩耗状態を計算可能なタイヤモデルを、短時間かつ容易に作成することができた。
[付記]
本開示は以下の態様を含む。
[本開示1]
タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するためのシミュレーション方法であって、
コンピュータに、計算用のタイヤモデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤモデルを用いて摩耗状態を計算するシミュレーション工程と、を含み、
前記入力されたタイヤモデルは、前記タイヤの新品時のトレッド部に比べて、予め僅かに摩耗した状態である初期摩耗トレッド部を備えており、
前記初期摩耗トレッド部の形状は、前記トレッド部の摩耗を特定する少なくとも一つの摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束した形状である、
タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示2]
前記トレッド部は、クラウン陸部と、前記クラウン陸部のタイヤ軸方向外側に配されるショルダー陸部とを含み、
前記摩耗特徴量は、前記クラウン陸部の摩耗量と、前記ショルダー陸部の摩耗量との比を含む、本開示1に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示3]
前記トレッド部は、一対のトレッド端側にそれぞれ配される一対のショルダー陸部を含み、
前記摩耗特徴量は、一方のショルダー陸部の摩耗量と、他方のショルダー陸部の摩耗量との比を含む、本開示1又は2に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示4]
前記摩耗特徴量は、前記トレッド部の接地面の曲率半径を含む、本開示1ないし3のいずれかに記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示5]
前記タイヤモデルを入力する工程は、前記タイヤを新品時から徐々に摩耗させて、前記摩耗特徴量の新品時からの変化が、前記範囲に収束したトレッド部の形状を取得する工程と、
前記トレッド部の形状に基づいて、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程とを含む、本開示1ないし4のいずれかに記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示6]
前記タイヤモデルを入力する工程は、前記摩耗特徴量の新品時からの変化が、前記範囲に収束するトレッド部の形状を予測する工程と、
予測した前記トレッド部の形状に基づいて、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程とを含む、本開示1ないし4のいずれかに記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示7]
タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するためのシミュレーション方法であって、
コンピュータに、計算用のタイヤモデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤモデルを用いて摩耗状態を計算するシミュレーション工程と、を含み、
前記入力されたタイヤモデルは、前記タイヤの新品時のトレッド部に比べて、予め僅かに摩耗した状態である初期摩耗トレッド部を備えており、
前記初期摩耗トレッド部は、前記新品時のトレッド部の外面のうち、摩耗の進行が相対的に早い部分を有しない、
タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示8]
前記トレッド部は、踏面からタイヤ半径方向内側に延びる一対の溝壁を有する溝が設けられており、
前記摩耗の進行が相対的に早い部分は、前記踏面と前記一対の溝壁のそれぞれとのコーナー部を含む、本開示7に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示9]
前記タイヤモデルを入力する工程は、複数の節点を有する有限個の要素を用いて、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程を含む、本開示7又は8に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示10]
前記モデリングする工程は、前記新品時のタイヤを、前記複数の節点を有する前記要素を用いてモデリングして、踏面を備えた新品時タイヤモデルを入力する工程と、
前記新品時タイヤモデルの前記踏面を構成する前記節点の少なくとも一部を、タイヤ半径方向内側に移動させることにより、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程とを含む、本開示9に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
[本開示11]
前記タイヤモデルを入力する工程は、最初から、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程を含む、本開示9に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
S1 タイヤモデルを入力する工程
S2 シミュレーション工程

Claims (11)

  1. タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するためのシミュレーション方法であって、
    コンピュータに、計算用のタイヤモデルを入力する工程と、
    前記コンピュータが、前記タイヤモデルを用いて摩耗状態を計算するシミュレーション工程と、を含み、
    前記入力されたタイヤモデルは、前記タイヤの新品時のトレッド部に比べて、予め僅かに摩耗した状態である初期摩耗トレッド部を備えており、
    前記初期摩耗トレッド部の形状は、前記トレッド部の摩耗を特定する少なくとも一つの摩耗特徴量の新品時からの変化が、予め定められた小さい範囲に収束した形状である、
    タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  2. 前記トレッド部は、クラウン陸部と、前記クラウン陸部のタイヤ軸方向外側に配されるショルダー陸部とを含み、
    前記摩耗特徴量は、前記クラウン陸部の摩耗量と、前記ショルダー陸部の摩耗量との比を含む、請求項1に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  3. 前記トレッド部は、一対のトレッド端側にそれぞれ配される一対のショルダー陸部を含み、
    前記摩耗特徴量は、一方のショルダー陸部の摩耗量と、他方のショルダー陸部の摩耗量との比を含む、請求項1又は2に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  4. 前記摩耗特徴量は、前記トレッド部の接地面の曲率半径を含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  5. 前記タイヤモデルを入力する工程は、前記タイヤを新品時から徐々に摩耗させて、前記摩耗特徴量の新品時からの変化が、前記範囲に収束したトレッド部の形状を取得する工程と、
    前記トレッド部の形状に基づいて、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程とを含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  6. 前記タイヤモデルを入力する工程は、前記摩耗特徴量の新品時からの変化が、前記範囲に収束するトレッド部の形状を予測する工程と、
    予測した前記トレッド部の形状に基づいて、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程とを含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  7. タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するためのシミュレーション方法であって、
    コンピュータに、計算用のタイヤモデルを入力する工程と、
    前記コンピュータが、前記タイヤモデルを用いて摩耗状態を計算するシミュレーション工程と、を含み、
    前記入力されたタイヤモデルは、前記タイヤの新品時のトレッド部に比べて、予め僅かに摩耗した状態である初期摩耗トレッド部を備えており、
    前記初期摩耗トレッド部は、前記新品時のトレッド部の外面のうち、摩耗の進行が相対的に早い部分を有しない、
    タイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  8. 前記トレッド部は、踏面からタイヤ半径方向内側に延びる一対の溝壁を有する溝が設けられており、
    前記摩耗の進行が相対的に早い部分は、前記踏面と前記一対の溝壁のそれぞれとのコーナー部を含む、請求項7に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  9. 前記タイヤモデルを入力する工程は、複数の節点を有する有限個の要素を用いて、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程を含む、請求項7又は8に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  10. 前記モデリングする工程は、前記新品時のタイヤを、前記複数の節点を有する前記要素を用いてモデリングして、踏面を備えた新品時タイヤモデルを入力する工程と、
    前記新品時タイヤモデルの前記踏面を構成する前記節点の少なくとも一部を、タイヤ半径方向内側に移動させることにより、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程とを含む、請求項9に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
  11. 前記タイヤモデルを入力する工程は、最初から、前記初期摩耗トレッド部を備えた前記タイヤモデルをモデリングする工程を含む、請求項9に記載のタイヤ摩耗状態のシミュレーション方法。
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