JP2022108439A - ステンレス部材及び金属線材の製造方法 - Google Patents

ステンレス部材及び金属線材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐溶損性の高いステンレス部材を提供する。【解決手段】本開示の一態様は、質量%で、Cr:25%以上30%以下、及びSi:0.25%以上2%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成される母材と、母材の表面に配置されたSi酸化膜と、Si酸化膜の表面に配置されたCr酸化膜と、を備えるステンレス部材である。【選択図】図3

Description

本開示は、ステンレス部材及び金属線材の製造方法に関する。
金属線材の製造方法として、鋳型と圧延機とを用いた連続鋳造圧延法が公知である(特許文献1参照)。この方法では、タンディッシュに貯留された溶融金属(つまり溶湯)を鋳型に送り出し、棒状に冷却した後、圧延機によって圧延する。
タンディッシュから鋳型への溶融金属の送り出し量は、タンディッシュ内においてノズルの近傍に配置された調整ピンによって調整される。調整ピンは、一般にステンレス鋼で構成される。
調整ピンは、溶融金属と接触するため溶損し易い。そのため、調整ピンの溶損による製品品質の低下を抑制するために、母材の表面に酸化膜を設けたステンレス部材が開発されている(特許文献2参照)。
特許第3552043号 特開昭63-86826号公報
従来のステンレス部材では、母材の表面に設けられた酸化膜によって母材の溶損が抑制できるが、酸化膜の剥離が発生する可能性がある。そのため、酸化膜の剥離と、酸化膜の剥離に伴う母材の溶損に起因する製品品質の低下が発生するおそれがある。
本開示の一局面は、耐溶損性の高いステンレス部材を提供することを目的とする。
本開示の一態様は、質量%で、Cr:25%以上30%以下、及びSi:0.25%以上2%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成される母材と、母材の表面に配置されたSi酸化膜と、Si酸化膜の表面に配置されたCr酸化膜と、を備えるステンレス部材である。
本開示の別の態様は、タンディッシュに溶融金属を注入する工程と、タンディッシュから溶融金属を鋳型に送り出す工程と、鋳型に注入された溶融金属を冷却して鋳造材を形成する工程と、鋳造材を圧延する工程と、を備える金属線材の製造方法である。
送り出す工程では、タンディッシュが有するノズルからの溶融金属の流出量を、タンディッシュ内の溶融金属に浸漬された調整ピンで調整する。調整ピンは、質量%で、Cr:25%以上30%以下、及びSi:0.25%以上2%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成される母材と、母材の表面に配置されたSi酸化膜と、Si酸化膜の表面に配置されたCr酸化膜と、を備える。
図1は、実施形態における金属線材の製造装置の模式図である。 図2は、図1のタンディッシュの構成を示す模式図である。 図3Aは、図2の調整ピンを構成するステンレス部材の模式的な断面図であり、図3Bは、ステンレス部材の断面写真である。 図4は、実施形態における金属線材の製造方法のフロー図である。 図5は、実施例及び比較例における浸漬時間と膜厚との関係を示すグラフである。 図6は、実施例及び比較例における膜厚を比較するグラフである。 図7Aは、比較例におけるステンレス部材の模式的な断面図であり、図7Bは、ステンレス部材の断面写真である。
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す金属線材(つまり荒引線)の製造装置10は、連続鋳造圧延装置(SCR)の一種である。
金属線材の製造装置10は、溶解炉20と、保持炉30と、添加部40と、タンディッシュ50と、調整ピン60(図2参照)と、鋳造機70と、圧延機80と、コイラ90とを備える。
<溶解炉>
溶解炉20は、金属線材の原料となる金属を加熱して溶融させる。金属線材の原料となる金属としては、銅、アルミニウム等が挙げられる。
溶解炉20は、炉本体と、バーナとを有する。溶解炉20は、溶融金属(つまり溶湯)を連続的に生成する。溶解炉20が生成した溶融金属は、上樋25を介して、保持炉30に移送される。
<保持炉>
保持炉30は、溶解炉20が生成した溶融金属を所定の温度で貯留する。保持炉30内の溶融金属は、一定量で下樋35を介してタンディッシュ50に移送される。
<添加部>
添加部40は、保持炉30内の溶融金属に合金成分を添加する。合金成分としては、例えば、錫(Sn)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、インジウム(In)、銀(Ag)等の金属元素が挙げられる。
添加部40は、例えば、溶融金属に添加される合金成分で構成されたワイヤを溶融金属に投入する機器で構成される。また、添加部40は、下樋35内の溶融金属に合金成分を添加してもよい。
<タンディッシュ>
タンディッシュ50は、鋳造機70に溶融金属を連続的に供給するための貯留槽である。図2に示すように、タンディッシュ50の底面には、内部に貯留された溶融金属Mを鋳造機70に送り出すノズル51が設けられている。
<調整ピン>
調整ピン60は、図2に示すように、タンディッシュ50内に少なくとも一部が配置され、タンディッシュ50内の溶融金属に浸漬されている。
調整ピン60は、軸方向に移動することで、タンディッシュ50のノズル51からの溶融金属Mの流出量を調整する。具体的には、ノズル51への流入口52の近傍に配置された調整ピン60の先端が流入口52の実質的な開口面積を変化させることで、溶融金属Mのノズル51への流入量が調整される。調整ピン60の材質については後述する。
<鋳造機>
鋳造機70は、溶融金属を鋳造する鋳型を有する。鋳造機70は、棒状の鋳造材Cを連続的に形成する。
本実施形態の鋳造機70は、ホイール71と、ベルト72とを有する公知のベルトホイール式の鋳造機である。なお、鋳造機70として、双ベルト式の鋳造機が用いられてもよい。
ホイール71は、外周面に溝を有する。ベルト72は、ホイール71の外周面の一部に接触するように循環移動する。ホイール71及びベルト72は、それぞれ、例えば冷水によって冷却される。
タンディッシュ50内の溶融金属は、ノズル51からホイール71の溝とベルト72との間の鋳造空間に注入される。鋳造空間に注入された溶融金属は、ホイール71及びベルト72によって冷却され、棒状に固化する。
<圧延機>
圧延機80は、鋳造機70が鋳造した鋳造材Cを圧延する。圧延機80とコイラ90との間で酸化膜除去などの表面清浄化処理が行われることで、所定の外径(例えば、6mm以上)を有する金属線材Wが連続的に形成される。
<コイラ>
コイラ90は、金属線材Wを連続的に巻き取る。
<調整ピンの材質>
調整ピン60は、図3A,3Bに示すステンレス部材1によって構成されている。ステンレス部材1は、母材2と、Si酸化膜3と、Cr酸化膜4とを備える。なお、図3A,3Bは、溶融金属M(例えば溶銅)中に配置されたステンレス部材1(つまり調整ピン60)の断面を示している。
(母材)
母材2は、質量%で、Cr:25%以上30%以下、及びSi:0.25%以上2%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成されている。
母材2のCrの含有量が上記下限よりも小さいと、Cr酸化膜4の成長が不十分となるおそれがある。一方、母材2のCrの含有量が上記上限よりも大きいと、母材2の硬度が高くなることで耐衝撃性が不十分となるおそれがある。
母材2のSiの含有量が上記下限よりも小さいと、Cr酸化膜4の成長が過大となるおそれがある。一方、母材2のSiの含有量が上記上限よりも大きいと、母材2の内部にSi酸化物が生成され易くなるおそれがある。
母材2は、少なくとも溶融金属Mに浸漬される部位の表面全体が、後述するSi酸化膜3及びCr酸化膜4を含む保護性酸化膜によって被覆されている。
(保護性酸化膜)
保護性酸化膜は、母材2を溶融金属Mから保護し、母材2の溶融金属Mへの溶損を抑制する。保護性酸化膜は、Si酸化膜3とCr酸化膜4との二層構造を有する。
Si酸化膜3は、ケイ素(Si)の酸化物(例えば、SiO、SiO(クリストバライトなど)等)を主成分とし、残部が不可避的不純物からなる膜である。「主成分」とは、膜において、例えば、85質量%以上含有される成分である。
Si酸化膜3に含有される「不可避的不純物」とは、例えば、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)等である。Si酸化膜3に含有されるケイ素の酸化物の含有量は、例えば、85質量%以上である。
Si酸化膜3は、母材2の表面に配置されている。Si酸化膜3は、Cr酸化膜4の母材2に対する密着強度を高める機能を有する。また、Si酸化膜3は、Cr酸化膜4の過度の成長を抑制する機能も有する。
Cr酸化膜4は、クロム(Cr)の酸化物(例えば、Cr、CrO、CrO、CrO、Cr、Cr12、Cr15等)を主成分とし、残部が不可避的不純物からなる膜である。Cr酸化膜4に含有されるクロムの酸化物の含有量は、例えば、98質量%以上である。
Cr酸化膜4に含有される「不可避的不純物」とは、例えば、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、銅(Cu)等である。Cr酸化膜4は、Si酸化膜3の表面に配置されている。溶融金属Mとして溶銅を用いた場合、Cr酸化膜4が溶銅中で安定して存在することで、母材2の溶損が的確に抑制される。
したがって、Cr酸化膜4を有する調整ピン60は、銅線材の製造に好適に使用できる。なお、銅線材の製造工程において、タンディッシュ50内の溶銅の温度は、例えば、1083℃以上1200℃以下であり、酸素濃度は、例えば、100ppm以上450ppm以下である。
Si酸化膜3及びCr酸化膜4は、母材2を熱処理することで形成される。熱処理温度は、例えば、700℃以上1500℃以下であり、熱処理時間は、例えば、0.5時間(30分)以上10時間以下である。熱処理により、母材2に含まれるSiが外部の酸素と反応してSi酸化膜3が形成されると共に、母材2に含まれるCrが外部の酸素と反応してCr酸化膜4が形成される。上述した熱処理時間で熱処理することにより、形成されるSi酸化膜3が薄くなりすぎず、かつ、母材2の表面からSi酸化膜3が剥離しにくくなる。
保護性酸化膜の厚みは、ステンレス部材1の使用前(つまり、調整ピン60が溶融金属Mに投入される前)の状態で、例えば0.5μm以上1μm以下である。保護性酸化膜は、溶融金属M中でのSi酸化膜3及びCr酸化膜4の成長によって、ステンレス部材1の使用に伴って厚くなる。Si酸化膜3及びCr酸化膜4は、母材2に含まれるSi及びCrの溶融金属中の酸素との反応によって成長する。
<金属線材の製造方法>
図4に、金属線材の製造装置10を用いた金属線材の製造方法のフローを示す。本実施形態の金属線材の製造方法は、溶解工程S10と、注入工程S20と、送出工程S30と、鋳造工程S40と、圧延工程S50とを備える。
(溶解工程)
本工程では、溶解炉20において、金属線材の原料となる金属を溶解し、溶融金属を連続的に生成する。
(注入工程)
本工程では、タンディッシュ50に、溶解炉20で生成された溶融金属を連続的に注入する。
(送出工程)
本工程では、タンディッシュ50から溶融金属を連続的に鋳造機70の鋳型に送り出す。本工程では、タンディッシュ50が有するノズル51からの溶融金属の流出量を、タンディッシュ50内の溶融金属に浸漬された調整ピン60で調整する。
(鋳造工程)
本工程では、鋳造機70の鋳型に注入された溶融金属を冷却して鋳造材Cを連続的に形成する。
(圧延工程)
本工程では、圧延機80により鋳造材Cを圧延する。圧延機80とコイラ90との間で酸化膜除去などの表面清浄化処理が行われることで、所定の外径(例えば、6mm以上)を有する金属線材Wが連続的に形成される。
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)いずれも融点の高いSi酸化膜3及びCr酸化膜4によって母材2が保護されるため、母材2の溶損が抑制される。さらに、母材2に含まれるSi及びCrによって、これらの酸化膜が成長するため、耐溶損性が維持される。
また、Si酸化膜3によってCr酸化膜4の過度の成長が抑制されるため、Cr酸化膜4の剥離が抑制される。その結果、溶融金属に対する耐溶損性の高いステンレス部材1(つまり調整ピン60)が得られる。
(1b)耐溶損性の高い調整ピン60の使用により、金属線材に対する調整ピン60由来の成分(例えばFe-Cr系酸化物)の混入が抑制できる。そのため、金属線材の品質を高められる。
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
(2a)上記実施形態のステンレス部材は、金属線材の製造装置において使用される調整ピン以外の部品にも使用できる。また、上記実施形態のステンレス部材は、金属線材以外の金属製品の製造装置にも使用できる。
(2b)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
[3.実施例]
以下に、本開示の効果を確認するために行った試験の内容とその評価とについて説明する。
<実施例1>
Cr:25%及びSi:1%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成された母材を900℃で4時間熱処理し、Si酸化膜(SiOが85質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Cr、Mn)で構成される膜)及びCr酸化膜(Crが98質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Si、Mn)で構成される膜)を形成した。
<実施例2>
Cr:25%及びSi:2%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成された母材を900℃で4時間熱処理し、Si酸化膜(SiOが85質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Cr、Mn)で構成される膜)及びCr酸化膜(Crが98質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Si、Mn)で構成される膜)を形成した。
<実施例3>
Cr:30%及びSi:1%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成された母材を900℃で4時間熱処理し、Si酸化膜(SiOが85質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Cr、Mn)で構成される膜)及びCr酸化膜(Crが98質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Si、Mn)で構成される膜)を形成した。
<実施例4>
Cr:28%及びSi:2%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成された母材を900℃で4時間熱処理し、Si酸化膜(SiOが85質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Cr、Mn)で構成される膜)及びCr酸化膜(Crが98質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Si、Mn)で構成される膜)を形成した。
<比較例>
Cr:25%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成された母材を900℃で4時間熱処理し、Si酸化膜(SiOが85質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Cr、Mn)で構成される膜)及びCr酸化膜(Crが98質量%含有され、残部が不可避的不純物(Al、Fe、Si、Mn)で構成される膜)を形成した。この母材には、母材の形成材料であるFe-Cr合金に起因する不可避的不純物としてSiが含まれているが、その含有量は0.25%未満である。
<酸化膜の成長の評価>
実施例1-3及び比較例のステンレス部材をそれぞれ、酸素濃度300ppm及び1150℃の溶銅中に浸漬させ、保護性酸化膜の厚みを測定した。図5及び図6にその結果を示す。図5は、保護性酸化膜の厚みの時間変化を示すグラフであり、横軸は浸漬時間Tの平方根である。浸漬時間Tが0(ゼロ)のときの保護性酸化膜の厚みは、ステンレス部材の使用前(つまり、ステンレス部材を溶銅中に浸漬させる前)の状態での厚みである。また、図6は、30分浸漬後の保護性酸化膜の厚みを示す。
図5から、溶銅中において保護性酸化膜が成長することが確認される。また、図5及び図6から、Siの含有量が1%未満である比較例は、実施例1-3に比べてCr酸化膜の成長に起因する膜厚の増加が大きい。これに対し、実施例1-3は、SiによってCr酸化膜の過大成長が抑制されている。
また、溶銅に180分浸漬した後の実施例2のステンレス部材1の断面を観測したところ、図3A,3Bのように、母材2の表面に層状のSi酸化膜3が形成されていた。一方、溶銅に180分浸漬した後の比較例のステンレス部材101の断面を観測したところ、図7A,7Bに示すように、母材102の表面に粒状のSi酸化膜103が形成されていた。
この結果から、比較例のステンレス部材101では、母材102に含まれるCrが粒状のSi酸化膜103を通過することによって、Cr酸化膜104が過大成長したと推測される。
一方、実施例2のステンレス部材1では、層状のSi酸化膜3によって母材2に含まれるCrの拡散が抑制されることによって、Cr酸化膜4の過大成長が抑制されたと推測される。
<酸化膜の密着性の評価>
実施例2のステンレス部材を酸素濃度300ppm及び1150℃の溶銅中に30分浸漬した。その後、ステンレス部材の溶銅中への抜き差しを100回繰り返した後、保護性酸化膜の状態を確認した。
その結果、Cr酸化膜は剥離していたが、Si酸化膜は母材表面に残存していた。Cr酸化膜は、熱膨張率の大きいSi酸化膜の評価試験後の収縮によって剥離したと推測される。そのため、評価試験中はSi酸化膜及びCr酸化膜が共に母材に密着していたと推定される。
<耐溶損性の評価>
実施例2のステンレス部材を酸素濃度300ppm及び1150℃の溶銅中に30分浸漬した。その後、ステンレス部材の溶銅中への抜き差しを100回繰り返し、さらにステンレス部材を溶銅中で30分間、300rpmで回転させた後、ステンレス部材の溶損を確認した。その結果、ステンレス部材には溶損が見られなかった。
<亀裂の評価>
実施例4及び比較例のステンレス部材をそれぞれ、酸素濃度300ppm及び1150℃の溶銅中で10分間、200rpmで回転させた後、母材表面を観測した。
その結果、比較例では、母材表面に複数の亀裂が発生すると共に、亀裂内部に酸化物が生成されていた。この酸化物は、主にSi酸化物であり、大きな亀裂ではCr酸化物も生成されていた。
この亀裂におけるCr酸化物生成のメカニズムは以下のように推測される。まず、母材で内部酸化が発生し、これによって母材表面にSi酸化物が生成される。このSi酸化物が成長することで、母材表面を起点とする亀裂が発生する。この亀裂部分がさらに酸化することで、亀裂内部にCr酸化物が生成される。
一方で、実施例4の母材には亀裂が確認されなかった。実施例4では、Si酸化膜によって母材内における酸素の拡散が抑制されることで、亀裂の発生が抑制されたと推測される。
1…ステンレス部材、2…母材、3…Si酸化膜、4…Cr酸化膜、
10…金属線材の製造装置、20…溶解炉、25…上樋、30…保持炉、35…下樋、
40…添加部、50…タンディッシュ、51…ノズル、52…流入口、
60…調整ピン、70…鋳造機、71…ホイール、72…ベルト、80…圧延機、
90…コイラ。

Claims (3)

  1. 質量%で、Cr:25%以上30%以下、及びSi:0.25%以上2%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成される母材と、
    前記母材の表面に配置されたSi酸化膜と、
    前記Si酸化膜の表面に配置されたCr酸化膜と、
    を備える、ステンレス部材。
  2. 請求項1に記載のステンレス部材であって、
    タンディッシュ内の溶融金属に浸漬されると共に、前記タンディッシュが有するノズルからの前記溶融金属の流出量を調整する調整ピンである、ステンレス部材。
  3. タンディッシュに溶融金属を注入する工程と、
    前記タンディッシュから前記溶融金属を鋳型に送り出す工程と、
    前記鋳型に注入された前記溶融金属を冷却して鋳造材を形成する工程と、
    前記鋳造材を圧延する工程と、
    を備え、
    前記送り出す工程では、前記タンディッシュが有するノズルからの前記溶融金属の流出量を、前記タンディッシュ内の前記溶融金属に浸漬された調整ピンで調整し、
    前記調整ピンは、
    質量%で、Cr:25%以上30%以下、及びSi:0.25%以上2%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼で構成される母材と、
    前記母材の表面に配置されたSi酸化膜と、
    前記Si酸化膜の表面に配置されたCr酸化膜と、
    を備える、金属線材の製造方法。
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