以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
図1は、電動車両100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、電動車両100は、駆動輪10と、パワートレイン11と、コントローラ12と、操作部13と、を備える。
駆動輪10は、電動車両100の車輪である。駆動輪10には、パワートレイン11から駆動力及び/または制動力が伝達される。これにより、駆動輪10には、電動車両100を駆動する駆動トルク、及び/または、電動車両100を制動する制動トルクが発生する。
パワートレイン11は、駆動輪10に駆動トルク及び制動トルク(以下、制駆動トルクという)を発生する。パワートレイン11は、バッテリ14とバッテリパラメータ検出器15を備える。
バッテリ14は、電動車両100を駆動するためのエネルギー源である。バッテリパラメータ検出器15は、バッテリ14のSOC(充電状態)、バッテリ14の温度Tb、及び、初期の満充電容量に対する現在の満充容量(いわゆるSOH(State Of Health))等を検出する。バッテリパラメータ検出器15によって検出された各種バッテリパラメータは、コントローラ12に入力される。
また、パワートレイン11は、インバータ16、電流検出器17、駆動モータ18、電気角検出器19、減速機20を備える。これらは、駆動輪10に制駆動トルクを発生させる制駆動トルク発生系を構成する。
インバータ16は、電動車両100が駆動されるときに、バッテリ14から印加される直流電圧を交流電圧に変換して駆動モータ18に供給する。また、インバータ16は、電動車両100が制動されるときに、駆動モータ18によって生成される回生電力をバッテリ14に供給し、バッテリ14を充電することができる。
電流検出器17は、電動車両100が駆動されるときにインバータ16が駆動モータ18に供給する電流を検出する。また、電流検出器17は、電動車両100が減速するときに、駆動モータ18からインバータ16に入力される電流を検出する。電流検出器17が検出した電流は、コントローラ12に入力される。本実施形態では、駆動モータ18は、U相、V相、及びW相を有する三相同期交流モータである。このため、電流検出器17は、各相の電流I1u,I1v,I1w(図6参照)を検出する。但し、電流検出器17は、これら三相の電流のうち、任意の二相の電流を検出し、残りの一相の電流はコントローラ12で算出することができる。
駆動モータ18は、駆動用の電動モータであって、電動車両100が有する第1の電動モータである。駆動モータ18は、電動車両100の駆動力源であり、減速機20を介して駆動輪10に接続している。インバータ16を介してバッテリパラメータ検出器15から電力供給を受けて作動することにより、駆動モータ18は駆動輪10に駆動トルクを発生する。また、駆動モータ18発電機として機能する。すなわち、電動車両100が減速するときには、駆動モータ18は駆動輪10の回転に対する負荷となり、駆動輪10に制動トルク(以下、回生制動トルクという)を発生する。この回生制動によって、駆動モータ18は電力(以下、回生電力という)を回収する。したがって、駆動モータ18は、バッテリ14からの電力供給によって駆動輪10に駆動トルクを発生し、かつ、バッテリ14に電力を回収して駆動輪10に回生制動トルクを発生する。
電気角検出器19は、駆動モータ18の電気角θd(図6参照)を検出する。電気角検出器19によって検出された電気角θdは、コントローラ12に入力される。電気角θdは、コントローラ12において駆動モータ18の回転数Nd(図2参照)または電気角速度ωd(図示しない)に適宜変換等され、電動車両100の制御に使用される。
減速機20は、駆動モータ18の出力軸における回転速度を減速して駆動輪10に伝達する。これにより、減速機20は、駆動輪10にその減速比に応じたトルク(駆動トルク)を発生させる。
また、パワートレイン11は、エンジン21、エンジンパラメータ検出器22、減速機23、発電モータ24、電気角検出器25、電流検出器26、及び、インバータ27を備える。これらは、バッテリ14に供給する充電用の電力を発生する発電系を構成する。
エンジン21は、減速機23を介して発電モータ24に接続している。エンジン21の燃焼によるトルク(以下、燃焼トルクという)は、専ら発電モータ24の駆動に使用される。すなわち、電動車両100は、いわゆるシリーズハイブリッド車両である。また、バッテリ14等から供給される電力によって発電モータ24を駆動するときには、エンジン21は、自身の燃焼に依らず、発電モータ24によって回転される。このように、バッテリ14の電力を使用する等の目的で、発電モータ24をバッテリ14の電力で駆動し、エンジン21を空回しすることはモータリングと呼ばれる。モータリングにおいては、発電モータ24は最大の電力効率で駆動され、バッテリ14の電力は主としてエンジン21によって熱に変換される。
エンジンパラメータ検出器22は、エンジン21の回転数NE(図5参照)等、エンジン21の運転状態を表す各種パラメータを検出する。エンジンパラメータ検出器22は、これらエンジンパラメータを検出するための1または複数の検出器で構成される。
減速機23は、エンジン21の出力軸における回転速度を減速して発電モータ24に出力する。これにより、減速機23は、その減速比に応じたトルクで発電モータ24を駆動する。
発電モータ24は、電動車両100が有する第2の電動モータである。但し、発電モータ24は、主にバッテリ14を充電するための電力を生成する発電機として使用され、電動車両100の駆動(駆動トルクまたは制動トルクの発生)には使用されない。バッテリ14に供給する電力を生成する場合、発電モータ24はエンジン21によって駆動される。そして、発電モータ24で発生する電力は、インバータ27を介してバッテリ14に供給される。すなわち、発電モータ24は、エンジン21によって駆動されることでバッテリ14に電力を供給する「非駆動モータ」(非駆動用のモータ)である。また、発電モータ24は、モータリングを実行するために、バッテリ14の電力を用いて駆動される場合がある。
電気角検出器25は、発電モータ24の電気角θg(図7参照)を検出する。電気角検出器25によって検出された電気角θgは、コントローラ12に入力される。電気角θgは、コントローラ12において発電モータ24の回転数Ng(図2参照)または電気角速度ωg(図示しない)に適宜変換等され、電動車両100の制御に使用される。
電流検出器26は、インバータ27を介してバッテリ14に入力する電流、または、インバータ27を介してバッテリ14から発電モータ24に供給する電流を検出する。電流検出器26によって検出された電流は、コントローラ12に入力される。本実施形態では、発電モータ24は、U相、V相、及びW相を有する三相同期交流モータである。このため、電流検出器26は、各相の電流I2u,I2v,I2w(図7参照)を検出する。但し、電流検出器26は、これら三相の電流のうち、任意の二相の電流を検出し、残りの一相の電流はコントローラ12で算出することができる。
インバータ27は、発電モータ24が出力する交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ14に供給する。これにより、発電モータ24で生成された電力で、バッテリ14が充電される。また、モータリングを実行するときには、インバータ27は、バッテリ14の直流電圧を交流電圧に変換して発電モータ24に供給する。
上記の他、パワートレイン11は、摩擦ブレーキ28を含む。摩擦ブレーキ28は、駆動輪10を摩擦力により制動する。摩擦ブレーキ28は、少なくとも運転者によるブレーキペダルの操作によって駆動される。また、摩擦ブレーキ28は、コントローラ12の制御によって駆動される場合がある。摩擦ブレーキ28がコントローラ12の制御によって駆動されるときには、摩擦ブレーキ28と駆動モータ18は協調して制御される。すなわち、コントローラ12は、摩擦ブレーキ28によって発生する制動トルク(以下、摩擦制動トルクという)と、駆動モータ18が発生する回生制動トルクと、を合わせて、電動車両100の制動に必要な制動トルクを発生させることができる。但し、本実施形態においては、摩擦ブレーキ28はコントローラ12によっては制御されない。したがって、運転者がブレーキペダルを操作した場合を除き、摩擦ブレーキ28は作動しない。
コントローラ12は、パワートレイン11を構成する各部を直接的または間接的に制御するための制御信号を生成し、これらを制御する。例えば、コントローラ12は、駆動モータ18及び非駆動モータである発電モータ24を制御する。これにより、コントローラ12は、電動車両100の駆動、制動、及び、バッテリ14の充電または放電等を統合的に制御する。また、コントローラ12は、上記の制御信号を生成するために、各種の車両情報を取得し、それらを上記の制御信号の生成に使用する。車両情報とは、電動車両100の動作状態、及び、パワートレイン11を構成する各部の動作状態等を示す各種のパラメータであり、検出等によって直接的に取得可能なパラメータの他、検出等されたパラメータを用いて演算されるパラメータを含む。本実施形態では、駆動輪10の制駆動トルクT、駆動モータ18の回転数Nd、発電モータ24の回転数Ng、エンジン21の燃焼トルクTc、及び、エンジン21の回転数NE等が車両情報として任意のタイミングで取得及び使用可能である。また、例えば、バッテリ14の温度Tb及びSOCは、電動車両100の車両情報である。また、車両情報には、駆動モータ18の電流I1u,I1v,I1w、駆動モータ18の電気角θd、回転数Nd、及び、電気角速度ωdが含まれる。また、車両情報には、エンジン21の回転数NE、発電モータ24の電気角θg、回転数Ng、及び、電気角速度ωgも含まれる。
コントローラ12は、例えば、中央演算装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)等から構成されるコンピュータである。また、コントローラ12は、パワートレイン11を構成する各部の制御を、予め定められた所定の制御周期で定期的に実行するようにプログラムされている。
本実施形態においては、コントローラ12は、少なくとも回生電力が、バッテリ14に充電し得る電力を超えることで、回生制御によって、回生電力と充電し得る電力の偏差に応じた余剰電力Ps(図10参照)が発生するときに、その余剰電力Psを駆動モータ18及び非駆動モータである発電モータ24で消費させる。
ここでいう余剰電力Psの消費は、駆動モータ18及び発電モータ24を通常に駆動する所定の電力(例えば最大の電力効率で駆動した場合に使用する電力)よりも多くの電力を使用することによって実現される。また、余剰電力Psの消費は、主として、駆動モータ18に接続するインバータ16、及び、発電モータ24に接続するインバータ27が余剰電力Psを熱に変換することによって実現される。すなわち、余剰電力Psを「駆動モータ18及び発電モータ24で」消費することは、駆動モータ18及び発電モータ24を駆動する際に、主としてインバータ16及びインバータ27が余剰電力Psを熱に変換することを意味する。したがって、本実施形態における余剰電力Psの消費と、モータリングによる電力の使用と、を比較すると、電力を熱に変換する点において共通するが、電力を熱に変換する主体が異なる。以下において、駆動モータ18及び発電モータ24について、消費電力等というときの「消費」についても同様である。
そして、コントローラ12は、この余剰電力Psの発生または増減に対して、非駆動モータである発電モータ24における消費電力の追従速度δg(図5及び図10参照)を、駆動モータ18における消費電力の追従速度δd(図10参照)よりも遅くする。このための具体的なコントローラ12の構成及び回生制御方法については詳細を後述する。
なお、本実施形態において、余剰電力とは、駆動モータ18で発生する回生電力のうち、現実的なマージンPm(図示しない)を考慮し、バッテリ14が追加的に充電し得る電力(満充電容量と現在の充電容量の差分)を超える分量の電力をいう。また、余剰電力の「発生」とは、現実に余剰電力Psが生じたこと、将来において余剰電力Psが確実に発生すること、または、将来において余剰電力Psが生じる見込みがあること、をいう。余剰電力Psの増減とは、現実に発生した余剰電力Ps、将来において確実に発生する余剰電力Ps、または、将来において余剰電力Psが生じる見込み、が増加または減少することをいう。
また、本実施形態において、駆動モータ18における消費電力の追従速度δdは、駆動モータ18による電力消費量の変化率である。すなわち、駆動モータ18における消費電力の追従速度δdとは、駆動モータ18における消費電力が、余剰電力Psの発生または増減に追従して発生または増減する速度をいう。同様に、発電モータ24における消費電力の追従速度δgは、発電モータ24による電力消費量の変化率である。すなわち、発電モータ24における消費電力の追従速度δgとは、駆動モータ18における消費電力が、余剰電力Psの発生または増減に追従して発生または増減する速度をいう。すなわち、駆動モータ18の追従速度δd及び発電モータ24の追従速度δgは、どの程度の時間で、消費電力を目標とする消費電力に到達させるかを表す。目標とする消費電力は、駆動モータ18と発電モータ24について、それぞれ余剰電力Psに応じて定まる。駆動モータ18と発電モータ24が同型であるときには、例えば余剰電力Psの50%を、駆動モータ18及び発電モータ24の目標とする消費電力とすることができる。
操作部13は、運転者が直接に操作するステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバー等、及び、これらの操作状態を検出する検出器等(いずれも図示しない)によって構成される。また、電動車両100の動作モードのオン/オフまたは切り替え等を行うスイッチ等も操作部13に含まれる。これら操作部13の各部の操作状態は、電動車両100の車両情報として、コントローラ12が任意のタイミングで取得し得る。例えば、アクセルペダルの操作量に応じて定まるアクセル開度Apo(図2参照)は、車両情報としてコントローラ12に取得される。
図2は、コントローラ12の構成を示すブロック図である。図2に示すように、コントローラ12は、(1)制駆動トルク制御部31、(2)消費電力制御部32、(3)エンジン制御部33、(4)駆動モータ制御部34、及び、(5)発電モータ制御部35を含む。
(1)制駆動トルク制御部
制駆動トルク制御部31は、アクセル開度Apo及び駆動モータ18の回転数Ndに基づいて、目標トルクT*を演算する。目標トルクT*は、パワートレイン11によって駆動輪10で発生させる制駆動トルクの目標値である。目標トルクT*は、駆動モータ制御部34に入力される。
図3は、制駆動トルク制御部31の構成を示すブロック図である。図3に示すように、制駆動トルク制御部31は、車速演算部41と、目標トルク演算部42と、目標トルク制限部43と、を備える。
車速演算部41は、駆動モータ18の回転数Ndに基づいて、電動車両100の車速Vを演算により求める。本実施形態では、電動車両100の車速Vを算出するが、駆動輪10等に車輪速センサを設けているときには、検出された車輪速を電動車両100の車速Vとして用いることができる。
目標トルク演算部42は、アクセル開度Apo及び車速Vに基づいて目標トルクT*を演算する。目標トルクT*は、制駆動トルクの目標値である。目標トルクT*が正値であるとき、目標トルクT*は駆動トルクの目標値を表す。一方、目標トルクT*が負値であるとき、目標トルクT*は回生による制動トルク(以下、回生制動トルクという)の目標値を表す。すなわち、回生制御が実行されるときには、目標トルクT*は目標回生制動トルクを表す。目標トルクT*は、目標トルク制限部43を介して駆動モータ制御部34に入力される。
また、目標トルク演算部42は目標トルクT*を演算するとともに、目標トルクT*に相当する制駆動トルクを実現するための駆動モータ18の目標回転数Nd*を演算する。駆動モータ18の目標回転数Nd*は、実質的に最大の電力効率で目標トルクT*に相当する制駆動トルクを実現するように定められる。駆動モータ18の目標回転数Nd*は消費電力制御部32に入力される。
なお、目標トルク演算部42は、例えば、アクセル開度Apo及び車速Vで定まる動作点(運転点)ごとに目標トルクT*及び目標回転数Nd*を予め定めたマップを保有する。このため、目標トルク演算部42は、このマップを参照することにより、現在のアクセル開度Apo及び車速Vに対応する目標トルクT*及び目標回転数Nd*を算出する。すなわち、目標トルク演算部42が演算する目標トルクT*及び目標回転数Nd*の値、現在のアクセル開度Apo及び車速Vによって定まる静的な値である。
目標トルク制限部43は、電動車両100の運転性の維持等のために、目標トルクT*の時間変化率等について動的な制限を実施する。時間変化率等の制限が施された目標トルクT*は駆動モータ制御部34に出力される。
(2)消費電力制御部
消費電力制御部32(図2参照)は、駆動モータ18における消費電力の目標値(以下、駆動モータ18の目標消費電力という)Pcd*を演算する。また、消費電力制御部32は、発電モータ24における消費電力の目標値(以下、発電モータ24の目標消費電力という)Pcg*を演算する。
駆動モータ18の目標消費電力Pcd*及び発電モータ24の目標消費電力Pcg*は、少なくとも回生電力が発生するときに演算され、それぞれ駆動モータ制御部34と発電モータ制御部35に入力される。また、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*及び発電モータ24の目標消費電力Pcg*は、例えば所定の制御周期ごとに設定される短期的な消費電力の目標値であり、経時的に変化する。また、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*及び発電モータ24の目標消費電力Pcg*の経時的な変化率はそれぞれ個別に定められる。そして、発電モータ24の目標消費電力Pcg*の経時的な変化率は、駆動モータ18の目標消費電力Pcg*の経時的な変化率よりも小さい。このため、余剰電力の発生または増減に対して、発電モータ24の目標消費電力Pcg*の追従速度は、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*よりも遅い。
図4は、消費電力制御部32の構成を示すブロック図である。図4に示すように、消費電力制御部32は、目標回生電力演算部44、充電可能電力演算部45、第1消費可能電力演算部46、第2消費可能電力演算部47、及び、目標消費電力演算部48を備える。
目標回生電力演算部44は、回生制御が実行されるときに、目標トルクT*(目標回生制動トルク)と駆動モータ18の目標回転数Nd*とに基づいて、目標回生電力Preg*を演算する。目標回生電力Preg*は回生電力の見込み値である。すなわち、目標回生電力Preg*は、所定の回生制動トルクを駆動輪10に発生させようとするときに、これに応じて発生する回生電力を表す。目標回生電力Preg*は、目標消費電力演算部48に入力される。
充電可能電力演算部45は、バッテリ14の充電可能電力ΔPを演算する。バッテリ14の充電可能電力ΔPは、バッテリ14のSOC、及び、バッテリ14の温度Tb等に基づいて算出される。より具体的には、バッテリ14の充電可能電力ΔPは、原則として、SOC及び温度Tb等のバッテリ14の状態に応じて定まる充電可能な電力(以下、基本充電可能電力という)DPである。本実施形態では、より現実的に、現在の動作状態で駆動モータ18、発電モータ24、補機、及び、その他各部等が消費する電力の合計値(以下、損失電力という)Plossと、安全性確保等のための所定のマージンPmと、が考慮される。すなわち、バッテリ14の充電可能電力ΔPは、基本充電可能電力DPと損失電力Plossの和からマージンPmを減算して算出される。すなわち、ΔP=DP+Ploss-Pmである。
第1消費可能電力演算部46は、駆動輪10の現在の制駆動トルクT、駆動モータ18の現在の回転数Ndに基づき、駆動モータ18において追加的に消費可能な電力の上限値(以下、駆動モータ18の消費可能電力という)Pcdを演算する。
駆動モータ18は、目標トルクT*に基づく制駆動トルクTの出力を実現するために、原則として最大の電力効率で駆動される。これに対し、「消費可能な電力の上限値」とは、駆動モータ18に印加する電圧及び/または駆動モータ18に流れる電流を調節することにより、目標トルクT*に基づく制駆動トルクTの出力を維持しつつ、消費し得る最大の電力をいう。また、「追加的に」とは、最大の電力効率で駆動される場合の駆動モータ18の消費電力に対する増加分を表す。すなわち、駆動モータ18の消費可能電力Pcdは、駆動モータ18で余剰に消費可能な電力を表す。
なお、駆動モータ18及び/またはインバータ16の温度が車両情報として得られるときには、第1消費可能電力演算部46は、これらの温度を用いて、より正確に駆動モータ18の消費可能電力Pcdを演算することができる。
第2消費可能電力演算部47は、発電モータ24の回転数Ng及びエンジン21の現在の燃焼トルクTcに基づき、発電モータ24において消費可能な電力の上限値(以下、発電モータ24の消費可能電力という)Pcgを演算する。
発電モータ24について「消費可能な電力の上限値」とは、発電モータ24に印加する電圧及び/または発電モータ24に流れる電流を調節することにより、発電モータ24に燃焼トルクを入力するエンジン21の回転数NEに変動を生じさせずに、発電モータ24で消費し得る最大の電力をいう。すなわち、発電モータ24の消費可能電力Pcgは、発電モータ24で消費可能な電力を表す。
なお、発電モータ24及び/またはインバータ27の温度が車両情報として得られるときには、第2消費可能電力演算部47は、これらの温度を用いて、より正確に発電モータ24の消費可能電力Pcgを演算することができる。
目標消費電力演算部48は、発電モータ24の目標消費電力Pcg*を演算する。発電モータ24の目標消費電力Pcg*は、回生制御によって発生する余剰電力のうち、発電モータ24で消費する電力の過渡的な目標値である。発電モータ24の目標消費電力Pcg*の上限値は、発電モータ24の消費可能電力Pcgである。また、発電モータ24の目標消費電力Pcg*は制御周期ごとに定められ、経時的に変化し得る。そして、この目標消費電力Pcg*の経時的な変換量は、発電モータ24における消費電力の追従速度δgが所定の追従速度となるように定められる。
図5は、車速Vと、発電モータ24における消費電力の追従速度δgと、の関係を示す説明図である。図5に示すように、発電モータ24における消費電力の追従速度δgは、車速Vの増大に応じて大きくなるように設定される。また、エンジン21の回転数NEが高くなるほど、発電モータ24における消費電力の追従速度δgは大きくなるように設定される。その上で、発電モータ24における消費電力の追従速度δgは、駆動モータ18における消費電力の追従速度δd以上とならない範囲内で定められている。
この図5に示す追従速度δgのマップは、例えば、実験またはシミュレーション等に基づいて予め定められ、目標消費電力演算部48はこれを予め保有する。したがって、目標消費電力演算部48は、このマップを参照することにより、発電モータ24の消費可能電力Pcgを上限とし、電動車両100の車速V及びエンジン21の回転数NEに基づいて、追従速度δgの目標消費電力Pcg*を算出する。
なお、図5においては、発電モータ24における消費電力の追従速度δgは、電動車両100の車速V及びエンジン21の回転数NEによって定められているが、車速Vまたはエンジン21の回転数NEの一方に応じて定めることもできる。また、図5のマップを用いる代わりに、例えば図5のマップにおける最小値(図示しない)を、発電モータ24における消費電力の追従速度δgの固定値として使用してもよい。
目標消費電力演算部48は、上記のように発電モータ24の目標消費電力Pcg*を演算する他、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*を演算する。駆動モータ18の目標消費電力Pcd*は、回生制御によって発生する余剰電力のうち、駆動モータ18で消費する電力の過渡的な目標値である。駆動モータ18の目標消費電力Pcd*の上限値は、駆動モータ18の消費可能電力Pcdである。また、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*は制御周期ごとに定められ、経時的に変化し得る。
目標消費電力演算部48は、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*を、目標回生電力Preg*、バッテリ14の充電可能電力ΔP、及び、発電モータ24の目標消費電力Pcg*に基づいて算出する。
具体的には、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*の演算のために、目標消費電力演算部48は、まず、回生制御によって発生する余剰電力Psを演算する。余剰電力Psは、目標回生電力Preg*と、バッテリ14の充電可能電力ΔPの偏差(Preg*-ΔP)である。
次に、目標消費電力演算部48は、余剰電力Psと、発電モータ24の目標消費電力Pcg*の偏差(Ps-Pcg*)を算出し、これを駆動モータ18の目標消費電力Pcd*とする。そして、目標消費電力演算部48は、駆動モータ18の追従速度δdを、この残余の余剰電力を消費する追従速度にする。これにより、目標消費電力Pcd*が消費可能電力Pcdを超えない限り、発電モータ24での消費分(目標消費電力Pcg*)を除いた残余の余剰電力(偏差(Ps-Pcg*))は、駆動モータ18で消費される。
すなわち、余剰電力Psが一定であるとすると、発電モータ24の目標消費電力Pcg*が減少したときには、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*が増加する。したがって、発電モータ24の追従速度δgを駆動モータ18の追従速度δdよりも遅くしたことによって低減する総合的な消費電力は、駆動モータ18の追従速度δdが自動的に増加されることで、駆動モータ18における消費電力を増加することによって補われる。同様に、発電モータ24の目標消費電力Pcg*が増加したときには、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*は減少する。この結果、駆動モータ18及び発電モータ24で余剰電力Psが全て消費される。
駆動モータ18における消費電力の追従速度δdは、発電モータ24の目標消費電力Pcg*に応じて変化するが、発電モータ24における消費電力の追従速度δgはこの変化も考慮して、駆動モータ18における消費電力の追従速度δgよりも遅くなるように設定されている。
上記の他、目標消費電力演算部48は、目標回生電力Preg*とバッテリ14の充電可能電力ΔPを比較し、その比較結果に基づいて、発電モータ24の目標消費電力Pcg*及び駆動モータ18の目標消費電力Pcd*を増加させるか、減少させるかを決定する。具体的には、目標回生電力Preg*がバッテリ14の充電可能電力ΔPよりも大きいとき、すなわち、余剰電力Psが発生するときには、目標消費電力演算部48は、発電モータ24の目標消費電力Pcg*及び駆動モータ18の目標消費電力Pcd*を増加させる。一方、目標回生電力Preg*がバッテリ14の充電可能電力ΔP以下であるとき、すなわち、余剰電力Psが発生しないときには、目標消費電力演算部48は、発電モータ24の目標消費電力Pcg*及び駆動モータ18の目標消費電力Pcd*を減少させる。ここで行う発電モータ24の目標消費電力Pcg*及び駆動モータ18の目標消費電力Pcd*の増減は、前述の通り、各々の追従速度δg,δdにしたがって行われる。
(3)エンジン制御部
エンジン制御部33(図2参照)は、バッテリ14の充電可能電力ΔP等に応じてエンジン21を制御する。これにより、エンジン制御部33は、間接的に発電モータ24を駆動し、バッテリ14に供給する電力を発電する。本実施形態においては、エンジン制御部33は、バッテリ14の充電可能電力ΔPに基づいて、エンジン21の目標燃焼トルクTc*を演算する。目標燃焼トルクTc*は、エンジン21の燃焼によって発生するトルクの目標値である。また、エンジン制御部33は、目標燃焼トルクTc*を演算するとともに、発電モータ24の目標回転数Ng*を演算する。発電モータ24の目標回転数Ng*は、エンジン21に目標燃焼トルクTc*を出力させる場合における発電モータ24の回転数Ngの目標値である。
エンジン制御部33は、目標燃焼トルクTc*をエンジン21に入力することにより、エンジン21の燃焼を制御する。すなわち、目標燃焼トルクTc*は、燃焼トルク指令値である。また、発電モータ24の目標回転数Ng*は、発電モータ制御部35に入力される。
(4)駆動モータ制御部
駆動モータ制御部34(図2参照)は、目標トルクT*と、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*等に基づいて、駆動モータ18を制御するための制御信号を生成する。
図6は、駆動モータ制御部34の構成を示すブロック図である。図6に示すように、駆動モータ制御部34は、電流演算部51、回転数演算部52、目標電流演算部55、d軸電流偏差演算部56、d軸電流フィードバック制御部57(FB)、q軸電流偏差演算部58、q軸電流フィードバック制御部59(FB)、及び、電圧指令演算部60を備える。
電流演算部51は、電流検出器17から、駆動モータ18に流れる電流I1u,I1v,I1wを取得し、駆動モータ18の回転数Ndを用いて、これらの電流I1u,I1v,I1wからd軸電流I1d及びq軸電流I1qを演算する。d軸電流I1dはd軸電流偏差演算部56に入力され、q軸電流I1qはq軸電流偏差演算部58に入力される。
回転数演算部52は、電気角検出器19から、駆動モータ18の電気角θdを取得し、取得した電気角θdに基づいて駆動モータ18の回転数Ndを演算する。駆動モータ制御部34においては、駆動モータ18の回転数Ndは、目標電流演算部55に入力される。
目標電流演算部55は、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*、目標トルクT*、及び、駆動モータ18の現在の回転数Ndに基づいて、目標d軸電流I1d*及び目標q軸電流I1q*を演算する。目標d軸電流I1d*は、駆動モータ18におけるd軸電流I1dの目標値である。同様に、目標q軸電流I1q*は、駆動モータ18におけるq軸電流I1qの目標値である。目標d軸電流I1d*はd軸電流偏差演算部56に入力され、目標q軸電流I1q*はq軸電流偏差演算部58に入力される。
上記の通り、目標電流演算部55は、目標トルクT*、及び、駆動モータ18の現在の回転数Ndだけでなく、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*を考慮して、目標d軸電流I1d*及び目標q軸電流I1q*を演算する。したがって、回生制御により余剰電力Psが発生したときには、目標d軸電流I1d*及び/または目標q軸電流I1q*は、余剰電力Psが発生しない通常時と比べて大きい値が設定される。但し、目標d軸電流I1d*及び目標q軸電流I1q*は、駆動輪10に発生させる制駆動トルクが実質的に目標トルクT*に一致する範囲(電動車両100の車種等に応じて許容し得る範囲)内で設定される。駆動モータ18は、目標d軸電流I1d*及び目標q軸電流I1q*に基づいて制御されるので、回生制御により余剰電力Psが発生したときには駆動モータ18で余剰電力Psの少なくとも一部が消費される。
d軸電流偏差演算部56は、目標d軸電流I1d*と現在のd軸電流I1dの偏差ΔI1d(=I1d*-I1d)を演算する。この偏差ΔI1dは、d軸電流フィードバック制御部57に入力される。
d軸電流フィードバック制御部57は、偏差ΔI1dに基づいて、駆動モータ18のd軸電流I1dをフィードバック制御する。その結果として、d軸電流フィードバック制御部57は、駆動モータ18のd軸電流I1dに関するd軸電流指令を電圧指令演算部60に入力する。
q軸電流偏差演算部58は、目標q軸電流I1q*と現在のq軸電流I1qの偏差ΔI1q(=I1q*-I1q)を演算する。この偏差ΔI1qは、q軸電流フィードバック制御部59に入力される。
q軸電流フィードバック制御部59は、偏差ΔI1qに基づいて、駆動モータ18のq軸電流I1qをフィードバック制御する。その結果として、q軸電流フィードバック制御部59は、駆動モータ18のq軸電流I1qに関するq軸電流指令を電圧指令演算部60に入力する。
電圧指令演算部60は、上記のd軸電流指令及びq軸電流指令を、所定の演算により電圧指令に変換し、インバータ16に出力する。これにより、インバータ16と接続する駆動モータ18は、駆動輪10に目標トルクT*を発生させるように制御される。なお、電圧指令演算部60が演算する電圧指令は、駆動モータ18の各相に印加する電圧を指定する指令である。
(5)発電モータ制御部
発電モータ制御部35(図2参照)は、発電モータ24の目標回転数Ng*と、発電モータ24の目標消費電力Pcg*等に基づいて、発電モータ24を制御するための制御信号を生成する。
図7は、発電モータ制御部35の構成を示すブロック図である。図7に示すように、電流演算部61、回転数演算部62、回転数偏差演算部63、回転数フィードバック制御部64、目標電流演算部65、d軸電流偏差演算部66、d軸電流フィードバック制御部67、q軸電流偏差演算部68、q軸電流フィードバック制御部69、及び、電圧指令演算部70を備える。
電流演算部61は、電流検出器26から、発電モータ24に流れる電流I2u,I2v,I2wを取得し、発電モータ24の回転数Ngを用いて、これらの電流I2u,I2v,I2wからd軸電流I2d及びq軸電流I2qを演算する。d軸電流I2dはd軸電流偏差演算部66に入力され、q軸電流I2qはq軸電流偏差演算部68に入力される。
回転数演算部62は、電気角検出器25から、発電モータ24の電気角θgを取得し、取得した電気角θgに基づいて発電モータ24の回転数Ngを演算する。発電モータ制御部35においては、発電モータ24の回転数Ngは、回転数偏差演算部63と目標電流演算部65に入力される。
回転数偏差演算部63は、発電モータ24について、目標回転数Ng*と現在の回転数Ngとの偏差ΔNg(=Ng*-Ng;図示しない)を演算する。ここで算出された偏差ΔNgは回転数フィードバック制御部64に入力される。
回転数フィードバック制御部64は、偏差ΔNgに基づいて、発電モータ24の回転数Ngをフィードバック制御する。その結果として、回転数フィードバック制御部64は、発電モータ24の回転数Ngに関する回転数指令を目標電流演算部65に入力する。発電モータ24の制御における回転数指令は、駆動モータ18の制御における目標トルクT*に対応する。すなわち、駆動モータ制御部34の目標電流演算部55では、駆動モータ18の目標トルクT*を使用するが、非駆動用である発電モータ24には目標となるトルクはない。このため、目標電流演算部65では、駆動モータ18の目標トルクT*に代えて、回転数指令が使用される。
目標電流演算部65は、発電モータ24の目標消費電力Pcg*、回転数フィードバック制御部64から入力される回転数指令、及び、発電モータ24の現在の回転数Ngに基づいて、目標d軸電流I2d*及び目標q軸電流I2q*を演算する。目標d軸電流I2d*は、発電モータ24に流すd軸電流I2dの目標値である。同様に、目標q軸電流I2q*は、発電モータ24に流すq軸電流I2qの目標値である。
上記の通り、目標電流演算部65は、回転数指令、及び、発電モータ24の現在の回転数Ngだけでなく、発電モータ24の目標消費電力Pcg*を考慮して、目標d軸電流I2d*及び目標q軸電流I2q*を演算する。したがって、回生制御により余剰電力Psが発生したときには、目標d軸電流I2d*及び/または目標q軸電流I2q*は、余剰電力Psが発生しない通常時と比べて大きい値が設定される。但し、目標d軸電流I2d*及び目標q軸電流I2q*は、エンジン21の回転数NEが実質的に変化しない範囲(電動車両100の車種等に応じて許容し得る範囲)内で設定される。発電モータ24には、この目標d軸電流I2d*及び目標q軸電流I2q*に応じた電流が流れるので、回生制御により余剰電力Psが発生したときには発電モータ24で余剰電力Psの少なくとも一部が消費される。
d軸電流偏差演算部66は、目標d軸電流I2d*と現在のd軸電流I2dの偏差ΔI2d(=I2d*-I2d)を演算する。この偏差ΔI2dは、d軸電流フィードバック制御部67に入力される。
d軸電流フィードバック制御部67は、偏差ΔI2dに基づいて、発電モータ24のd軸電流I2dをフィードバック制御する。その結果として、d軸電流フィードバック制御部67は、発電モータ24のd軸電流I2dに関するd軸電流指令を電圧指令演算部70に入力する。
q軸電流偏差演算部68は、目標q軸電流I2q*と現在のq軸電流I2qの偏差ΔI2q(=I2q*-I2q)を演算する。この偏差ΔI2qは、q軸電流フィードバック制御部69に入力される。
q軸電流フィードバック制御部69は、偏差ΔI2qに基づいて、発電モータ24のq軸電流I2qをフィードバック制御する。その結果として、q軸電流フィードバック制御部69は、発電モータ24のq軸電流I2qに関するq軸電流指令を電圧指令演算部70に入力する。
電圧指令演算部70は、上記のd軸電流指令及びq軸電流指令を、所定の演算により電圧指令に変換し、インバータ27に出力する。これにより、インバータ27と接続する発電モータ24には、d軸電流指令及びq軸電流指令に対応する電流が流れる。なお、電圧指令演算部70が演算する電圧指令は、発電モータ24の各相に印加する電圧を指定する指令である。
図8は、駆動モータ18及び発電モータ24における消費電力の調節方法を示す説明図である。図8のd軸電流Id及びq軸電流Iqは、駆動モータ18の制御においては駆動モータ18のd軸電流I1d及びq軸電流I2qであり、発電モータ24の制御においては発電モータ24のd軸電流I2d及びq軸電流I2qである。また、図8の電流ベクトルItotalはd軸電流Idとq軸電流Iqの合成ベクトルであり、駆動モータ18または発電モータ24に流れる電流量を表す。
駆動モータ18及び発電モータ24の制御において、これら出力するトルクに対するd軸電流Idとq軸電流Iqの各相関関係(トルク相関)を比較すると、q軸電流Iqはトルク相関が大きく、d軸電流Idはトルク相関が小さい。すなわち、q軸電流Iqが変化すると、駆動モータ18及び発電モータ24が出力するトルクは大きく変化する。一方、d軸電流Idが変化しても、駆動モータ18及び発電モータ24が出力するトルクの変化は小さい。したがって、図8に示すように、q軸電流Iqを変えずに、d軸電流Idをd軸電流Id′に増加して、電流ベクトルItotalをI′totalに延長すると、概ね出力トルクを一定に保ったまま、消費電力を増加することができる。すなわち、主にd軸電流Idを調節することで、出力するトルクをほぼ変更せずに、駆動モータ18及び発電モータ24の電力効率を調節できる。
したがって、余剰電力Psが発生するときに、目標電流演算部55(図6参照)は、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*に基づいて、例えば目標d軸電流I1d*を増加し、電流ベクトルの大きさを駆動モータ18の目標消費電力Pcd*に対応する大きさにする。これにより、駆動輪10に発生させる制駆動トルクは、実質的に目標トルクT*に一致する範囲内に収まり、かつ、駆動モータ18における目標消費電力Pcd*が達成される。同様に、余剰電力Psが発生するときに、目標電流演算部65(図7参照)は、発電モータ24の目標消費電力Pcg*に基づいて、例えば目標d軸電流I2d*を増加し、電流ベクトルの大きさを発電モータ24の目標消費電力Pcg*に対応する大きさにする。これにより、エンジン21の回転数NEは実質的に変化しない範囲内に収まり、かつ、発電モータ24における目標消費電力Pcg*が達成される。
以下、上記のように構成される電動車両100における回生制御の作用を説明する。
図9は、第1実施形態に係る電動車両100の作用を示すフローチャートである。図9に示すように、電動車両100で実行される回生制御では、まず、ステップS101においてアクセル開度Apo等の制御に必要な車両情報が検出される。また、ステップS102において、車速V等が検出される。また、ステップS102では、検出されたアクセル開度Apo等の車両情報を用いて、演算等により、その他の必要な車両情報が検出される。
次いで、ステップS103において、回生制御時の目標トルクT*である目標回生制動トルクが演算される。また、ステップS104において目標回生電力Preg*が演算され、ステップS105において充電可能電力ΔPが演算される。さらに、ステップS106において非駆動モータである発電モータ24の消費可能電力Pcgが演算され、ステップS107において駆動モータ18の消費可能電力Pcdが演算される。
その後、ステップS108で目標回生電力Preg*と、充電可能電力ΔPと、が比較される。この比較の結果、目標回生電力Preg*が充電可能電力ΔPよりも大きく、回生制御により余剰電力Psが発生するときには、ステップS109及びステップS110が実行される。一方、ステップS108における比較の結果、目標回生電力Preg*が充電可能電力ΔP以下であって、回生電力をバッテリ14で回収でき、余剰電力Psが発生しないときには、ステップS111及びステップS112が実行される。
ステップS109では、非駆動モータである発電モータ24について、余剰電力Psの発生または増減に応じた目標消費電力Pcg*が演算される。また、ステップS110では、駆動モータ18について、余剰電力Psの発生または増減に応じた目標消費電力Pcd*が演算される。そして、これらの目標消費電力Pcg*及び目標消費電力Pcd*は、発電モータ24における消費電力の増加速度(追従速度δg)が駆動モータ18における消費電力の増加速度(追従速度δd)よりも遅くなるように、設定される。
一方、ステップS111では、非駆動モータである発電モータ24の消費電力を、ステップS109と同様の追従速度δgで減少させる目標消費電力Pcg*が演算される。また、ステップS112では、駆動モータ18の消費電力を、ステップS110と同様の追従速度δdで減少させる目標消費電力Pcd*が演算される。例えばアクセルの踏み込みによって回生制御から駆動制御に切り替わったとき等、急に余剰電力Psが発生しなくなったときにも、発電モータ24の回転数Ng、エンジン21の回転数NE、及び、駆動モータ18の回転数Ndの急峻な変化を抑制するためである。この場合の目標消費電力Pcd*は、発電モータ24で余剰電力Psを消費するための追加的な消費電力をゼロに漸近させるものである。
こうして、発電モータ24の目標消費電力Pcg*及び駆動モータ18の目標消費電力Pcd*が算出されると、ステップS113では、回生制御時の目標トルクT*である目標回生制動トルクに対して変化率制限等の制限処理が施される。その後、ステップS114において、発電モータ24の目標消費電力Pcg*に基づいて非駆動モータである発電モータ24が制御され、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*及び制限処理後の目標回生制動トルクに基づいて駆動モータ18が制御される。
以上のように動作することで、電動車両100では、回生制御によって余剰電力Psが発生するときに、この余剰電力Psは駆動モータ18及び発電モータ24で消費される。そして、余剰電力Psの発生または増減に対して、非駆動モータである発電モータ24における消費電力の追従速度δgは、駆動モータ18における消費電力の追従速度δdよりも遅くなるように調節される。
図10は、電動車両100が減速する際の(A)駆動モータ18の制駆動トルク、(B)余剰電力Ps、及び、(C)消費電力の推移を示すタイミングチャートである。
例えば、電動車両100が時刻t0から時刻t1にかけて一定の加速度で加速されており、その後、時刻t1から駆動モータ18が発生させる回生制御トルクによって電動車両100が減速され、時刻t6に電動車両100が停車に至るとする。より具体的には、図10(A)に示すように、時刻t0から時刻t1において駆動モータ18のトルクは正の一定値であり、駆動輪10には電動車両100を加速する駆動トルクが発生する。そして、時刻t1から時刻t2にかけて駆動モータ18のトルクは減少し、駆動輪10には回生制動トルクが発生する。この時刻t1から時刻t2の間に駆動モータ18の制駆動トルクが負に至る。また、時刻t2から時刻t3まで、駆動モータ18のトルクは一定であるため、電動車両100は一定の回生制動トルクで減速される。その後、時刻t6に至るまで、駆動トルクのトルクは漸増し、時刻t6においてゼロとなる。また、電動車両100が時刻t1以降において回生制動トルクによって減速されるときに、図10(B)に示すように余剰電力Psが生じるとする。
このとき、電動車両100では、回生制御によって生じる上記の余剰電力Psは、駆動モータ18及び発電モータ24によって消費されるが、駆動モータ18と発電モータ24で、余剰電力Psの発生または増減に対する消費電力の追従速度が異なる。具体的には、図10(C)に示すように、余剰電力Psが時刻t1から発生し、時刻t2にかけて余剰電力Psが増加する。そして、破線のグラフ71に示すように、この余剰電力Psの発生及び増加に対して、駆動モータ18における消費電力の追従速度δdは俊敏である。一方、実線のグラフ72に示すように、この同じ余剰電力Psの発生及び増加に対して、発電モータ24における消費電力の追従速度δgは、駆動モータ18における消費電力の追従速度δdよりも遅くなるように調節される。
これは、余剰電力Psが減少する場合も同様である。すなわち、余剰電力Psが時刻t2から減少し始めると、グラフ71に示すように、これに素早く対応して駆動モータ18における消費電力は直ちに減少し始め、時刻t4にはゼロに至る。一方、グラフ72に示すように、発電モータ24における消費電力は、追従が遅れ、時刻t2よりも後の時刻t3から減少を始め、その減少速度は、時刻t2から時刻t4における駆動モータ18の消費電力の減少速度よりも遅い。
このように、回生制御によって発生する余剰電力Psを駆動モータ18と発電モータ24で消費すると、バッテリ14が満充電に近い場合等、通常であれば、要求に対して小さい回生制動トルクしか得られないときでも、要求を満たす回生制動トルクが得られる。特に、発電モータ24だけでは余剰電力Psを消費しきれないこともあるが、駆動モータ18と発電モータ24を併用して余剰電力Psが消費されるので、バッテリ14が満充電に近いときでも、要求を満たす回生制度トルクが安定的に得られる。
その上で、駆動モータ18の追従速度δdよりも、発電モータ24の追従速度δgを遅らせているので、音振性能の悪化が防止される。例えば、余剰電力Psを消費できれば、要求を満たす回生制動トルクが得られるので、発電モータ24における消費電力も余剰電力Psの発生及び増減に対して急峻に追従させると、発電モータ24に接続するエンジン21の回転数NEもこれに応じて急変し、音振性能が悪化する。このため、発電モータ24の追従速度δgを、駆動モータ18の追従速度δdよりも遅らせることで、エンジン21の回転数NEの急変が防止される。その結果、バッテリ14が満充電に近いときでも、音振性能を維持しつつ、要求を満たす回生制動トルクが得られる。
また、駆動モータ18の追従速度δdと比較して、発電モータ24の追従速度δgを遅らせているので、発電モータ24の過加熱を防止することができる。例えば、余剰電力Psが発生するときには、バッテリ14のSOCは満充電に近く、エンジン21及び発電モータ24が停止している状況であることも多い。このように、停止している発電モータ24に、エンジン21の回転数NEがほぼ変わらない範囲で追加的に電流を流すと、発電モータ24の巻線のうち、一部の巻線に集中的に電流が流れ、過加熱となることがある。しかし、発電モータ24の追従速度δgを遅らせることで、発生する熱が低減される。すなわち、駆動モータ18の追従速度δdと比較して、発電モータ24の追従速度δgを遅くすることによって、バッテリ14が満充電に近いときでも、発電モータ24の過加熱を防止しつつ、要求を満たす回生制動トルクが得られる。また、発電モータ24の追従速度δgを遅らせると、その後、モータリングに移行する際にも、エンジン21の回転数NEの変動が小さくなる。その結果、バッテリ14が満充電に近いときでも、音振性能を維持しつつ、要求を満たす回生制動トルクが得られる。
なお、図10では、一例として、継続的な回生制御によって停車に至る過程を示しているので、余剰電力Psはその発生後、駆動モータ18及び発電モータ24での消費依らずに、急に消失する(ゼロになる)ことはない。しかし、回生制御の開始後、例えばアクセルが踏み込まれると、これに応じて余剰電力Psが急に消失する場合がある。このような場合には、ステップS111及びステップS112の動作により、発電モータ24の回転数Ng、エンジン21の回転数NE、及び、駆動モータ18の回転数Ndの急峻な変化が抑制される。その結果、音振性能が維持される。
以上のように、第1実施形態に係る回生制御方法は、バッテリ14からの電力供給によって駆動輪10に駆動トルクを発生する駆動制御とバッテリ14に電力を回収して駆動輪10に回生制動トルクを発生する回生制御に使用される駆動モータ18と、エンジン21によって駆動されることでバッテリ14に電力を供給する非駆動モータ(発電モータ24)と、を備える電動車両100の回生制御方法である。そして、この回生制御方法では、回生制動トルクを得るために発生する電力である回生電力(目標回生電力Preg*)を演算し、バッテリ14の充電可能電力ΔPを演算する。また、この回生制御方法では、少なくとも回生電力(目標回生電力Preg*)が充電可能電力ΔPを超えることで、回生制御によって余剰電力Psが発生するときに、余剰電力Psを駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)で消費する。さらに、この回生制御方法では、余剰電力Psの発生または増減に対して、非駆動モータ(発電モータ24)における消費電力の追従速度δgを、駆動モータ18における消費電力の追従速度δdよりも遅くする。
これにより、非駆動モータ(発電モータ24)の電力消費を最大限まで活用して余剰電力Psを消費する場合と比較して、非駆動モータ(発電モータ24)に接続するエンジン21の回転数NEの変化速度が抑えられる。また、余剰電力Psを消費するために、非駆動モータ(発電モータ24)の一部の巻線に電流が流れるとしても、この電流のピークは低下する。このため、非駆動モータ(発電モータ24)の電力消費を即座に最大限まで活用して余剰電力Psを消費する場合と比較して、その一部の巻線における発熱量が抑えられる。これらの結果、音振性能の悪化、及び、非駆動モータ(発電モータ24)の過加熱を防止しつつ、要求される回生制動トルクが得られる。
また、第1実施形態に係る回生制御方法では、駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)のトルクを維持するように、これらの消費電力が調節される。これにより、特に良好に、駆動モータ18では要求にほぼ一致する回生制御トルクを維持し、かつ、非駆動モータ(発電モータ24)ではエンジン21の回転数NEの変動を抑えることができるので、制御性が向上する。
また、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを駆動モータ18の追従速度δdよりも遅くすると、通常は、駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)における消費電力の総量は低減する。しかし、第1実施形態に係る回生制御方法では、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを駆動モータ18の追従速度δdよりも遅くしたことによって不足する消費電力は、駆動モータ18の追従速度δdを増加させて、駆動モータ18における消費電力を増加することによって消費される。このため、駆動モータ18における消費電力が、駆動モータ18の限界(消費可能電力Pcd)を超えない限りにおいて、余剰電力Psは駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)で消費できる。その結果、通常の運転状況であれば、バッテリ14のSOCに関わらず、ほぼ常に、要求される回生制動トルクが得られる。また、この制御によれば、非駆動モータ(発電モータ24)の消費電力が単純に低減されてしまう場合と比較して、より多くの余剰電力Psを駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)で消費できるようになる。その結果、駆動モータ18で発生できる最大の回生制動トルクが増加する。
より具体的には、第1実施形態に係る回生制御方法では、非駆動モータ(発電モータ24)における消費電力(目標消費電力Pcg*)を決定し、発生する余剰電力Psのうち、非駆動用モータ(発電モータ24)における消費分(目標消費電力Pcg*)を除いた残余の余剰電力(Ps-Pcg*)を演算する。そして、駆動モータ18の追従速度δdは、残余の余剰電力(Ps-Pcg*)を消費する追従速度にされる。これにより、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを駆動モータ18の追従速度δdよりも遅くしたことによって不足する消費電力は、自動的に補われる。このため、第1実施形態に係る回生制御方法では、余剰電力Psを駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)で消費し、要求される回生制動トルクが得られやすい。
上記の他、第1実施形態に係る回生制御方法では、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgは、電動車両100の車速V及び/またはエンジン21の回転数NEに基づいて決定される。このため、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを、運転状況に応じて適切に設定することができる。このように、運転状況に応じて適切に追従速度δgが適切に調節されることで、回生制御が適切に行われやすい。
より具体的には、第1実施形態に係る回生制御方法では、車速Vが大きいほど、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを高くする。これは、車速Vが高いほど、走行音等のいわゆる暗騒音が大きくなるので、エンジン21の回転数NEの変動に起因して音振性能が多少悪化しても、許容され得るからである。このように、車速Vが大きいほど、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを高くすることで、特に車速Vが大きい運転状況下で、回生制御が適切に行われやすい。
また、第1実施形態に係る回生制御方法では、エンジン21の回転数NEが高いほど、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを高くする。このように設定されるのは、エンジン21の回転数NEが高いほど音振が大きくなるので、エンジン21の回転数NEの変動に起因して音振性能が多少悪化しても、許容され得るからである。このように、エンジン21の回転数NEが高いほど、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを高くすることで、特にエンジン21の回転数NEが高い運転状況下で、回生制御が適切に行われやすい。
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、エンジン21の燃焼によるトルク変動に関わらず、発電モータ24の追従速度δgを決定するが(図5参照)、発電モータ24の追従速度δgを決定するときには、さらにエンジン21の燃焼によるトルク変動を考慮することが好ましい。本実施形態では、エンジン21の燃焼によるトルク変動を考慮して、発電モータ24の追従速度δgを決定する例を説明する。
図11は、第2実施形態で付加する判定処理のフローチャートである。図11に示すように、本実施形態では、発電モータ24の追従速度δgを決定するときに、ステップS201においてエンジン21が暖機運転の最中(暖機中)であるか否かが判定される。ステップS201の判定の結果、エンジン21が暖機中であるときには、ステップS202が実行される。一方、ステップS201の判定の結果、エンジン21が暖機中でないときには、ステップS204が実行される。
ステップS202においては、エンジン21が過渡中であるか否かが判定される。過渡中とは、暖機のために、エンジン21の回転数NEが予め定める所定の回転数NEから他の回転数に遷移させた状態、または、その過程においてエンジン21の回転数NEが変化している状態をいう。エンジン21が過渡中であるときには、ステップS203が実行される。一方、エンジン21が過渡中でないときには、ステップS204が実行される。
ステップS203においては、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgが、第1実施形態で定める追従速度δg(図5参照)よりもさらに低減される。エンジン21が暖機中であり、かつ、過渡中であるシーンは、エンジン21のトルク変動が顕著である。このため、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgが高いと、特に音振性能が悪化しやすい。このため、ステップS203では、エンジン21のトルク変動が顕著であるシーンにおいて、通常よりも、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgが低減される。このステップS203における追従速度δgの低減は、例えば、図5の追従速度δgを定めるマップを、より低い追従速度δgを定めるマップに交換することによって行われる。また、図5のマップで定める追従速度δgに対して、予め定める所定の上限値による制限を加えることによって、追従速度δgを低減することができる。
ステップS204においては、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgが、第1実施形態で定める追従速度δg(図5参照)に維持される。エンジン21が暖機中でなく、あるいは、エンジン21が暖機中であっても過渡中でないときには、エンジン21のトルク変動は通常時と相違ない。このため、ステップS204では、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを維持する。
図12は、エンジン21のトルク変動が大きい状況で電動車両100が減速する際の(A)駆動モータ18の制駆動トルク、(B)余剰電力Ps、及び、(C)消費電力の推移を示すタイミングチャートである。図12(A)及び図12(B)に示すように、電動車両100が停車しようとする状況は第1実施形態と同様である。一方、図12(C)に示すように、上記の判定処理を行うことによって、エンジン21のトルク変動が大きいときには、実線のグラフ81に示すように、発電モータ24の追従速度δgは、第1実施形態のとき(図10(C)のグラフ71参照)よりもさらに低減される。これに応じて、破線のグラフ82に示すように、駆動モータ18の追従速度δdは、第1実施形態のとき(図10(C)のグラフ72参照)よりも高くなる。
上記のように、第2実施形態に係る回生制御方法では、エンジン21のトルク変動が大きいシーンでは、発電モータ24の追従速度δgを低減する。これにより、エンジン21のトルク変動が大きいシーンにおいても、音振性能の悪化を特に適切に防ぎつつ、要求される回生制動トルクが得られる。
上記の第2実施形態の例では、エンジン21のトルク変動が大きいシーンは、特に、エンジン21が暖機運転中であり、かつ、エンジン21の回転数NEを予め定める所定の回転数から変化させているシーンである。これは、エンジン21のトルク変動が特に大きくなりやすいシーンである。このため、このシーンにおいて、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgをさらに遅くすると、音振性能の悪化を特に適切に防ぎつつ、要求される回生制動トルクが得られる。
なお、上記の第2実施形態においては、ステップS201の暖機中であるか否かの判定と、ステップS202の過渡中であるか否かの判定と、を組み合わせて、エンジン21のトルク変動が大きいシーンを判定しているが、これに限らない。例えば、ステップS201の暖機中であるか否かの判定を省略し、ステップ202の過渡中であるか否かの判定によってエンジン21のトルク変動が大きいシーンを判定してもよい。但し、電動車両100においては、発電モータ24は、暖機中を除き、動作時は発電効率が良い所定の回転数で駆動される。また、暖機中であるか否かの判定は、過渡中であるか否かの判定よりも容易である。このため、上記の第2実施形態の例のように、暖機中である場合に限って、さらに過渡中であるか否かの判定をすることにより、演算等の負荷が低下する利点がある。
[第3実施形態]
上記の第1実施形態及び第2実施形態においては、非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgは、車速Vに応じて変化するものの、車速Vの速度域に依らず、車速Vの増加に応じて単調に増加する(図5参照)。しかし、車速Vに応じた追従速度δgの変化のさせ方は、より柔軟に任意に設定できる。例えば、本実施形態では、第1実施形態で演算する発電モータ24の追従速度δgに、さらに車速Vに応じた上限値を設定する補正処理を実施する。
図13は、第3実施形態で発電モータ24における消費電力の追従速度δgに施す補正処理を示すグラフである。図13に示すように、本実施形態では、車速Vが所定の閾値Th1以下である範囲において、発電モータ24の追従速度δgに一定の上限値「δg0」で制限する。また、車速Vが閾値Th1より大きい範囲においては、車速Vの増加に応じて、この上限値を、一定の上限値「δg0」から大きくする。そして、第1実施形態で演算する発電モータ24の追従速度δgを、この図13に示す上限値で制限または拡張する。
閾値Th1は、例えば、電動車両100の走行によって発生する暗騒音と、電動車両100の車種に応じて許容し得る音振性能と、に基づいて予め定められる。また、一定の上限値「δg0」は、発電モータ24の過加熱等に対する安全性、及び、電動車両100の車種に応じて許容し得る音振性能に基づいて、実験等により予め定められる。
上記のように、第3実施形態に係る回生制御方法では、車速Vが所定の閾値Th1より大きいときの非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δgを、車速Vが閾値Th1以下であるときの非駆動モータ(発電モータ24)の追従速度δg(一定値「δg0」)よりも大きくする。これにより、車速Vが大きく、音振性能の悪化が大きな問題にならないときに、最大の回生制動トルクの応答が速くすることできる。また、車速Vが小さいときには、電動車両100の車種に応じて要求される音振性能が満たされつつ、要求される回生制動トルクが得られる。
[第4実施形態]
前述のように、電動車両100では、モータリングが実行される場合がある。モータリングでは、バッテリ14からの電力供給により、発電モータ24のトルクが変更される態様で発電モータ24が駆動される。その結果、エンジン21が空回しされる。これにより、モータリングではバッテリ14の電力が使用されるので、回生制御による余剰電力Psの発生自体を抑えることができる。したがって、本実施形態では、第1実施形態等の駆動モータ18及び発電モータ24における余剰電力Psの消費と、モータリングの使い分けについて説明する。
図14は、第4実施形態において付加する判定処理のフローチャートである。図14に示すように、本実施形態においては、ステップS301において、静粛性を優先すべき状況か否かが判定される。静粛性を優先すべき状況とは、例えば、車速Vが低い(例えば車速Vが第3実施形態の閾値Th1より小さい)状況である。また、例えば、運転モードとして、エンジン21を使用せずバッテリ14の電力の範囲内で電動車両100を駆動するEVモード(電気自動車モード)が設定されている状況も、静粛性を優先すべき状況である。
ステップS301において、静粛性を優先すべき状況であると判定されたときには、ステップS302が実行される。ステップS302では、第1実施形態等と同様に、非駆動モータ(発電モータ24)及び駆動モータ18の消費電力を増加する。すなわち、ステップS302では、モータリングに優先して、モータリングを実行する代わりに(例えばモータリングをせずに、または、モータリングを中止して)、回生制御によって発生する余剰電力Psを、駆動モータ18及び発電モータ24で消費する。このため、例えばd軸電流を調節することによって発電モータ24のトルクを維持しながら、余剰電力Psの少なくとも一部は発電モータ24で消費される。
一方、ステップS301において、静粛性を優先すべき状況でないと判定されたときには、ステップS303が実行される。ステップS303では、第1実施形態等のように余剰電力Psを駆動モータ18及び発電モータ24で消費する代わりに、モータリングを実行し、バッテリ14の電力を使用して余剰電力Psの発生自体を抑制する。すなわち、ステップS303では、モータリングを優先する。
上記のように、第4実施形態に係る回生制御方法では、電動車両100の車速Vが所定の閾値(例えば閾値Th1)よりも小さいとき、または、静粛性が優先される運転モード(EVモード)での制御が実行されているときには、モータリングを実行する代わりに、例えば非駆動モータ(発電モータ24)のd軸電流を調節することによって非駆動モータ(発電モータ24)のトルクを維持しながら、余剰電力Psの少なくとも一部を非駆動モータ(発電モータ24)で消費する。このように、余剰電力Psを駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)で消費する制御と、モータリングによってバッテリ14の電力を使用する制御と、を適宜に使い分けることによって、余剰電力Psを駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)で消費する制御が実行される頻度が低減される。その結果、駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)における熱の発生が抑えられる。
[第5実施形態]
上記の第1実施形態等においては、摩擦ブレーキ28はコントローラ12によって制御されないが、コントローラ12によって摩擦ブレーキ28を制御することによって、回生制御で摩擦ブレーキ28を併用することができる。この場合、コントローラ12は、駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)で余剰電力Psを消費させるときに、駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)で発生する熱量を演算する。そして、演算した各モータの熱量に応じて摩擦ブレーキ28を作動させる。例えば、駆動モータ18での発熱量が所定の閾値H1(図示しない)を超えるときに、または、発電モータ24での発熱量が所定の閾値H2(図示しない)を超えるときに、コントローラ12は、摩擦ブレーキ28を作動させる。そして、発熱量が閾値H1,H2以内となるように、コントローラ12は、駆動モータ18及び/または非駆動モータ(発電モータ24)に流れる電流を制限し、消費電力を制限する。閾値H1は、駆動モータ18及びその周辺部材の耐熱性等を考慮して予め定められる。同様に、閾値H2は、発電モータ24及びその周辺部材の耐熱性等を考慮して予め定められる。また、摩擦ブレーキ28によって発生させる摩擦制動トルクは、要求される回生制動トルクを実現するように調整される。
このように、余剰電力Psを消費するときに、駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)に発生する熱量を演算し、演算した熱量に応じて摩擦ブレーキ28を作動させると、駆動モータ18及び発電モータ24の発熱を抑えることができる。
上記の第5実施形態のように、コントローラ12が回生制御で摩擦ブレーキ28を併用する場合、コントローラ12は、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*が消費可能電力Pcdを超えるときに、摩擦ブレーキ28を作動させることができる。このように、駆動モータ18の目標消費電力Pcd*が消費可能電力Pcdを超えるときに、摩擦ブレーキ28を作動させると、駆動モータ18及び非駆動モータ(発電モータ24)で消費しきれない余剰電力Psが発生するときにも、要求される回生制動トルクを得ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び各変形例で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。例えば、本発明は、2以上の駆動モータを有する電動車両、及び、2以上の非駆動モータを有する電動車両にも好適である。