以下、図面等を参照して、本開示のひび割れ検知用ラベルの一例について説明する。ただし、本開示のひび割れ検知用ラベルは、以下に説明する実施形態や実施例に限定されない。
なお、以下に示す各図は、模式的に示したものである。そのため、各部の大きさ、形状は理解を容易にするために、適宜誇張している。また、各図において、部材の断面を示すハッチングを適宜省略する。本明細書中に記載する各部材の寸法等の数値および材料名は、実施形態としての一例であり、これに限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば平行や直交、垂直等の用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含むものとする。
1.第1実施形態
本開示のひび割れ検知用ラベルの第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態のひび割れ検知用ラベルの一例を示す断面図である。図1(a)は、ひび割れ検知用ラベル100の断面図、図1(b)は、図1(a)の破断層1の部分だけを抜き出した、詳細な断面図、図1(c)は、図1(a)に示す、ひび割れ検知用ラベル100の粘着層5のプライマー層4や樹脂基材3とは反対側の面に、セパレータ6を備えたセパレータ付きひび割れ検知用ラベル100Aの断面図である。
図1(a)に示すとおり、ひび割れ検知用ラベル100は、下層側から、粘着層5、プライマー層4、樹脂基材3、プライマー層2、破断層1、粘着層17、断線検知層16および表面保護層12が、この順に積層された積層構造を有している。以下、各層の構成について説明する。
(a)粘着層
粘着層は、最下層である粘着層5と、破断層1と断線検知層16との間にある粘着層17との2箇所で用いられている。粘着層17は本実施形態では粘着層5と同じ材質で、厚みのみが異なるものとしているが、粘着層17は粘着層5とは異なる材質でもよく、粘着層17を設けずに他の接着剤等を用いてもよい。以下、主として粘着層5について説明する。
粘着層5は、本開示の検査対象となるコンクリート構造物等の表面に、ひび割れ検知用ラベル100を貼着させる機能を有する。当該コンクリート構造物等がひび割れを起こした際、または、打検によりひび割れの前兆状況が確認された際に、当該ひび割れ部分および前兆確認部分を跨いで貼着されたひび割れ検知用ラベル100が、このひび割れおよび前兆確認部分の割れに追従して所定長さ分だけ伸びることが要求される。したがって、粘着層5には、ひび割れに対してひび割れ検知用ラベル100が外れてしまわないだけの粘着力が求められる。このような粘着層としては、一般的なラベルに用いられる各種材料が使用でき、例えば天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤、ウレタン樹脂系粘着剤、アクリル樹脂系粘着剤等を使用することができる。
合成ゴム系粘着剤としては、例えば、イソプレンゴム、イソブチレン-イソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンブロック共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等を使用することができる。シリコーン樹脂系粘着剤としては、例えばシロキサンポリマーを使用することができる。また、アクリル樹脂系粘着剤としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリロニトリル等の重合体、共重合体等を使用することができる。また、これらの粘着剤を2種以上組み合わせて使用することもできる。
上記粘着層5には、必要に応じて粘着付与剤、填料、軟化剤、老化防止剤、あるいは染料、顔料等の着色剤等を配合することもできる。粘着付与剤としては、ロジン系樹脂、テルペン樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂等が挙げられる。また、填料としてはシリカ、タルク、炭酸カルシウム、クレイ等が挙げられる。軟化剤としては可塑剤等が挙げられる。
粘着層5の厚みについて特に限定はないが、検査対象となるコンクリート構造物等の表面に多少凹凸があっても、当該ひび割れ検知用ラベル100が密着でき、かつひび割れ時の変形を正しく伝達するために適切な厚みを有することが必要である。これより、厚みとしては、例えば0.01~5.0mm、好ましくは0.02~0.05mmであってもよい。厚みが0.01~5.0mmの範囲であれば、構造物等のひび割れの伝達の感度を上げるためには厚みを薄くし、構造物等の表面の凹凸が大きい場合には厚みを厚くする等の厚みの選択をこの範囲で適宜することにより、適切なひび割れ検知ができる。さらに厚みが0.02~0.05mmの範囲であれば、構造物等のひび割れの伝達の感度の向上と、構造物等の表面の凹凸への追従の効果の両方を兼ね備えた条件でひび割れ検知ができる。粘着層5は着色されていても、透明性すなわち可視光に対する透過性を有していてもよい。ちなみに粘着層17の厚みは粘着層5よりも薄くてもよく、例えば0.005~0.03mm程度あれば十分である。
一方、粘着層17については、粘着剤を用いる代わりに、破断層1と断線検知層16との密着性を確保するために両者間にドライラミネート層を設けてもよい。この場合は、特に材料としての限定はなく、公知のアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、シリコーン系、ゴム系等の各種材料を溶剤等に希釈したものを選定することができる。形成方法としては、破断層1の片側面に印刷方式、コーティング方式、スプレー塗布方式、インクジェット方式等任意の方法により、ドライラミネート層を形成し、所定温度、所定時間に晒して溶剤を蒸発させ、接着剤成分のみを残す。ドライラミネート層の上に断線検知層16を載せ、所定熱圧を掛ければ破断層1と密着する。厚みの制限は特にないが、1~50μm程度、中でも3~10μm程度が、密着性の確保、破断検知層16の破断適性等の観点から好適である。
(b)樹脂基材
図1(a)に示すとおり、粘着層5の上層に、プライマー層4を介して樹脂基材3が積層されている。樹脂基材3は、上述した粘着層5の伸びに応じて、検査対象となるコンクリート構造物等のひび割れによる変形に追従して伸び、所定長さ分だけ弾性変形することが求められる。所定長さとは、ひび割れにより想定される当該ひび割れ検知用ラベルの伸びの長さであり、例えば当該ひび割れ検知用ラベルの長さを20~200mm程度としたとき、0.1~10mm程度である。
これにより、後述する破断層1が構造物のひび割れの進行により当該樹脂基材3よりも先に破断する性質を有する。もし、樹脂基材3が、破断層1よりも先に破断する性質を有する場合には、構造物等のひび割れによって粘着層5に伝達された変形が中間層である樹脂基材3の破断によって吸収されてしまい、例えば樹脂基材3と破断層1の界面で剥離、または材破した場合には、破断層1にひび割れ状態が正しく伝達されないおそれがある。よって、当該樹脂基材3が所定の弾性変形に追従できることが重要となる。
このような所定の弾性変形の性質を有する材料としては各種の樹脂が使用できる。例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリフッ化エチレンフィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、エチエン-ビニルアルコールフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリアミドフィルム、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリウレタンフィルム、アクリル変性ポリウレタンフィルム等のウレタン樹脂フィルム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、アセテート樹脂フィルム等またはこれらの複合材料等が使用できるが、必要な弾性変形が可能な部材でさえあればこれらの材料には限定されない。
樹脂基材3は、上層に配置される破断層1、断線検知層16および表面保護層12等が可視光や紫外線を透過しやすい部材、すなわち可視光や紫外線に対して透明性を有する場合には、樹脂基材3にも長期間可視光や紫外線が照射され続け、基材が劣化するおそれがあるため、できる限り耐候性を持たせることが望ましい。基材の材質自体で耐候性を高めるには、ポリカーボネート樹脂フィルム等を選択することもできるが、その他の方法として、基材に酸化防止剤や紫外線吸収剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、アクリロニトリル系、サリシレート系、または超微粒子酸化チタン、超微粒子酸化亜鉛等の公知の各種紫外線吸収剤が選択可能である。その他、長期使用時の加水分解による劣化を遅らせるため、例えば比較的加水分解を起こしやすいポリエステル基材等を使用する場合には、カルボジイミド化合物等の公知の耐加水分解剤を添加してもよい。
樹脂基材3の厚みは特に限定はないが、ひび割れによる所定の伸びによって破断しないために、ある程度の厚みを有することが望ましい。必要な厚みは部材の弾性率等にも関連するが、例えば、0.01~3.0mm、好ましくは0.03~1.0mm、さらに好ましくは0.05~0.25mmである。厚みが0.01~3.0mmであれば、ひび割れによる伸び量が小さい場合と大きい場合の両方の条件に対応することができる。厚みが0.03~1.0mmであれば、より薄い部材を選択できることになり、材料選択の幅が広がり、ひび割れ検知用ラベルの製造コストを下げることに寄与する。さらに、厚みが0.05~0.25mmであれば、さらにこれらの部材の選択範囲が広がり、例えば磁気カードやICカード等に通常に使用されるプラスチック基材の材質や厚みと共通する部分が増え、一層ひび割れ検知用ラベルの製造納期を早めたり製造コストを下げることに寄与する。樹脂基材3は着色されていても、透明性を有していてもよい。
(c)プライマー層
図1(a)に示すとおり、樹脂基材3と下層側の粘着層5との間、および樹脂基材3と上層側の破断層1との間、のそれぞれにプライマー層4およびプライマー層2が形成されている。実際には、樹脂基材3の粘着層5側の表層と破断層1側の表層の2面に、液状のプライマーを塗布して層形成し、これに粘着層5および破断層1を積層している。プライマー層4、2は、それぞれ樹脂基材3と粘着層5、および樹脂基材3と破断層1との密着性を確保するために形成される。もしこれらが密着していない場合、構造物等がひび割れしたときに、ひび割れの変形が粘着層5から樹脂基材3に伝達されずに粘着層5から樹脂基材3が界面で剥離したり、樹脂基材3の変形時に当該樹脂基材3から破断層1が界面で剥離する可能性がある。この場合、破断層1がひび割れ状態に対応して破断すべきであるにも関わらず、破断しないおそれがある。
プライマー層4およびプライマー層2は、粘着層5と樹脂基材3、および樹脂基材3と破断層1の密着性を確保できるものであれば特に限定はなく、公知のアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、シリコーン系、ゴム系等の各種プライマーを選定することができる。形成方法としては、樹脂基材3の表裏両面に印刷方式、スプレー塗布方式、インクジェット方式等任意の方法が選択できる。プライマー層2、4の厚みについては特に制限はなく、密着性を確保するために必要な厚みがあればよいため、例えば0.1~200μm程度であればよい。プライマー層2とプライマー層4は、同一材料でもよく、異なってもよい。また、プライマー層2とプライマー層4の厚みについても、同一でもよく、異なってもよい。
なお、粘着層5と樹脂基材3、または樹脂基材3と破断層1が、接着剤を介さなくても密着できる場合、例えば、樹脂基材3が易接着性樹脂製である場合や、表面に易接着処理がされている場合、熱プレス工程等により互いに密着できるような場合には、プライマー層2およびプライマー層4のいずれか一方、またはプライマー層2およびプライマー層4の両方がなくてもよい。また、プライマー層2、4は着色されていても、透明性を有していてもよい。
(d)破断層
図1(a)に示すとおり、樹脂基材3の粘着層5とは反対側の面において、樹脂基材3と、プライマー層2を介して破断層1が積層されている。破断層1は、ひび割れ検知用ラベル100を、検査対象となるコンクリート構造物等の表面に貼着した場合には、当該コンクリート構造物に発生したひび割れの発生程度を、上層側の断線検知層16に伝達する機能を有する。
破断層1は、その下層に配置される樹脂基材3のひび割れに伴う伸び変形に対して、ある程度は追従して弾性変形する。破断層1の弾性変形が可能な伸び量は、下層側の樹脂基材3の弾性変形が可能な伸び量よりも小さいため、ひび割れが所定レベルまで進行して変形が進んだ場合、樹脂基材3はこれに追従して伸びるが、破断層1は伸び量の限界を超えて破断する。この破断する条件を、確認したいひび割れ度合に合わせて設計しておけば、破断層1が破断したときに、どの程度のひび割れが発生したかを確認者が直ちに把握することができる。
例えば、ひび割れによるひび割れ検知用ラベル100の伸びが0.1~0.3mmの間で破断層1が破断するような条件で、当該ひび割れ検知用ラベル100の層構成の条件を定めて製造しておけば、破断層1が破断したことを無線通信で検出した場合、または、外部から目視で確認した場合、直ちにその個所のひび割れが0.1~0.3mmの間で、またはそれ以上の間隔に開いて発生したことを把握できる。
また、後述するとおり、このような破断層1の破断が起きる伸び量の条件を変えた複数種類のひび割れ検知用ラベルを、同一のひび割れ発生予定箇所に並べて貼着すれば、これらの複数のひび割れ検知用ラベルのうち、どの破断層が破断したかを確認することにより、実際に発生したひび割れのレベルを正確に絞り込むことが可能である。
このような破断層1の材料としては、樹脂基材3との相対的な関係において、所定の伸び量の条件に対して、樹脂基材3は破断しないが破断層1が破断するような条件のものをその寸法や厚みも含めて選定すればよい。このような部材として、前述した樹脂基材3と明確に物性が異なり、比較的容易に積層可能な材料を得る方法として、以下をあげることができる。例えば、ポリメチルメタクリレート等のメタクリル系樹脂、3官能以上、好ましくは6官能以上の紫外線や電子線等の電離放射線硬化性のエポキシ変性アクリレート樹脂やウレタン変性アクリレート樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂等に、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系等の光重合開始剤を希釈混合した液状の塗布液を印刷、ダイコート、スプレー塗布、インクジェット等により塗布形成することが考えられる。中でも高官能基数のポリエステルアクリレートオリゴマー樹脂を選定すると、所定の伸びが生じた際に破断層としての破断し易さ、すなわち破断適性がよく、好適である。
また、破断層1に用いる上述の紫外線や電子線等の電離放射線硬化性樹脂に、適宜添加剤やフィラーを所定割合分、添加、充填してもよい。特にポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、エチレン酢酸ビニルワックス、エチレンアクリル酸ワックス等のワックス系添加剤は、破断層全体の凝集力を低下させ、所定の伸びが生じた際の破断のし易さを向上させる効果を有する。中でもポリエチレンワックスがこれらの適性において良好である。図1(b)は、ひび割れ検知用ラベル100の破断層1の拡大断面図であるが、樹脂層10の中に添加剤11を均一に分散させている。本実施形態では添加剤11はポリエチレンワックスである。一方、シリカ等の無機材料系のフィラーは電離放射線硬化性樹脂内での分散性が悪く、破断し易さ等の性能に悪影響を及ぼす可能性がある。
破断層1の厚みは特に限定はないが、ひび割れによる所定の伸び量の範囲内でのみ、確実に破断するように厚みを選定する必要がある。厚みは部材の弾性率等にも関連するが、例えば、0.001~1mm、好ましくは0.005~0.1mm、さらに好ましくは0.01~0.05mmである。厚みが0.001~1mmであれば、ひび割れによる伸び量が小さい場合と大きい場合の両方の条件において、所定の伸び量の範囲内で確実に破断する条件に対応することができる。厚みが0.005~0.1mmであれば、より薄い厚みで破断層を形成することができ、紫外線、電子線を照射するエネルギーを低くしても確実に破断層を形成する樹脂を硬化させることができる。これにより、安定した破断特性を得ることができる。さらに、厚みが0.01~0.05mmであれば、紫外線、電子線を照射するエネルギーをさらに低くしてもより確実に破断層を形成する樹脂を硬化させることができる。これにより、さらに安定した破断特性を得ることができる。破断層1は、紫外線、電子線で硬化させる性質上、一般的に可視光に対しても透明性を有するが、紫外線、電子線による硬化を阻害しない範囲で着色されていてもよい。
特に、高官能基数(18官能)のポリエステルアクリレートオリゴマー紫外線硬化性樹脂に紫外線硬化開始剤混合し、紫外線照射により架橋硬化させて形成した破断層を使用する場合においては、当該破断層の厚み範囲が0.005~0.03mm程度であるとき、厚みが増すほど破断し易い傾向、すなわち厚みが増すほど弾性率が低下する傾向がある。これは、厚みが増すほど架橋構造がより立体的に強固に形成され、柔軟性を失う方向に向かうためと推定される。採用する材料によっては、厚みが増すほど破断し難くなるものもあるため、材料の性質を十分把握した上で、所定の引張り力で破断させるための必要な厚み設計を行う必要がある。
(e)断線検知層
図1(a)に示すとおり、破断層1の、樹脂基材3とは反対の面側である上層側には、粘着層17を介して、断線検知層16が積層されている。図2は、断線検知層16のみを上方から見たときの平面図であり、図2(a)が、断線検知層16の全体を示す図であり、図2(b)が、RFIDタグ41の構造を示す図である。また、図2(c)は、図2(a)の断線検知層において配線部46が断線したことを示す図である。
図2(a)に示すように、断線検知層16は、断線検知部付RFIDタグ40から構成され、断線検知部付RFIDタグ40は、配線基板42とループ形状を形成する細い線状の配線部46とを有する断線検知部43、および配線基板42上に形成されたRFIDタグ41から構成される。また、図2(b)に示すように、RFIDタグ41は、ICチップ45およびアンテナ44から構成される。RFIDタグ41は、UHF帯(周波数900MHz近辺)またはHF帯(周波数13.56MHz近辺)での非接触通信が可能なICチップ45およびアンテナ44を備えている。ただし、RFIDタグは、無線通信が可能な周波数帯であればこれらに限定するものではなく、マイクロ波帯(2.45GHz近辺)やLF帯(135kHz以下)で通信するものであってもよい。また、必要があれば、RFIDタグ41は、ICチップ45とアンテナ44以外にも、各種抵抗、コンデンサ、整流素子、サージキラー、電源、発電素子、表示部、モジュール化された電子回路等の部品を追加で設けていてもよい。ICチップ45には、図示しないパッド電極が2箇所設けられており、断線検知部43を構成するループ形状である線状の配線部46の2箇所の先端部が、ICチップ45の2箇所のパッド電極とそれぞれ電気的に接続され、配線部46およびICチップ45は、閉回路を形成している。
断線検知部43を構成する配線基板42は、下層に配置される破断層1の破断と連動して一緒に破断する必要があるため、脆性を有する素材または脆性を付与するような加工を施したものが用いられる。例えば、合成樹脂材、紙材、ガラス材である。ガラス材を用いる場合は、板厚が0.5mm以下で好ましくは0.05mm以下の薄板ガラスを選択することができる。塩化ビニル系樹脂に可塑剤と充填材とを多量に含有させたフィルム、塩化ビニル系樹脂とアクリル系樹脂との混合樹脂に溶融シリカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウムのいずれかの充填材を多量に含有させたフィルム等のいわゆる脆性フィルムを用いることもできる。また、通常のプリント基板等で用いられるエポキシ樹脂をガラス繊維に含浸させたガラスエポキシや、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートを用いることもできるが、これらを使用する場合には脆性を持たせるため、複数個所に切欠きやミシン目、穴開け加工等を施すことが好ましい。
配線基板42の片側の主面に形成される配線部46は、あらかじめ配線部46のパターン形状に合わせて打ち抜き加工された銅箔、アルミ箔等の金属箔を接着剤で貼り付ける方法や、配線基板42の片側の主面に金属箔を一面に接着剤で貼り付け、これにレジスト塗布、露光、エッチング等を施して配線部46を得る方法、導電性ペーストや導電性インクを使用してシルク印刷あるいはインクジェット方式で配線部46のパターンを形成する方法、マスキングをして配線部46のパターン形状に合わせて真空蒸着法によって金属蒸着の配線部46を形成する方法等、種々の方法を用いることができる。また、例えば銅箔を用いる場合は、表面が酸化により劣化するため、銅箔表面にニッケルめっきおよび金メッキを施すことが好ましい。
金属箔としては、アルミニウム、亜鉛、スズ、銅、ニッケル、クロム、チタン、金、銀、インジウム等の金属を圧延機等により打ち延ばす等、公知の圧延方法によって箔形成したものを使用する。特にアルミニウムの金属箔が、加工容易性、材料、加工コスト、耐久性、視認性等の観点で好適である。
金属箔の厚みは特に限定はないが、破断層1の破断に追従して破断することが求められるため、最低限の耐久性を確保した薄さを有することが望ましい。必要な厚みは例えば、2~100μm、好ましくは5~30μmである。厚みが2~100μmであれば、製造コストや耐久性、破断適性等の幅広い要求に対して対応することができる。厚みが5~30μmであれば、より高い耐久性と破断適性を安定して確保することができる。
また、真空蒸着法により、金属蒸着の配線部46を形成する場合は、抵抗加熱方式、高周波誘導加熱方式、電子ビーム加熱方式等の加熱方式により、アルミニウム、亜鉛、スズ、銅、ニッケル、クロム、チタン、金、銀、インジウム等の金属を公知の真空蒸着法により破断層1の表面に蒸着することにより形成できる。特にアルミニウムの金属蒸着層が、加工容易性、材料、加工コスト、耐久性、視認性等の観点で好適である。
真空蒸着法による金属蒸着層の厚みは特に限定はないが、自然断線しない等の観点からある程度の厚みを有することが望ましい。必要な厚みは例えば、10~1000nm、好ましくは20~500nm、さらに好ましくは50~200nmである。厚みが10~1000nmであれば、製造コストや遠方からの破断状態の視認性確保等の幅広い要求に対して対応することができる。厚みが20~500nmであれば、より耐久性と視認性の両立をより確実に図ることができ、厚みが50~200nmであれば、極めて安定した耐久性と視認性の確保が図れ、ひび割れ検知用ラベルの長期使用における高い信頼性を得ることができる。
次に、断線検知部付RFIDタグ40の機能について説明する。図3は、断線検知部付RFIDRFタグ40の構成を示すブロック図である。電源部51は、断線検知部付RFIDRFタグ40の動作に必要な電力を供給する。電源部51はICチップ45に内蔵されていてもよく、外付けのコンデンサや電池モジュールを搭載していてもよい。電源部51は、一次電池または二次電池として機能するものでもよく、無線通信中の電波から必要な電力を取り出す機能を有していてもよい。また、これ以外にも、電源部51は、光起電力素子、振動発電素子、熱電発電素子とコンデンサを組み合わせ、発電した電力を蓄電するように構成したものでもよい。
電源供給制御回路52は、ICチップ45のCPUである制御部53によるメモリへのアクセス、各種演算、アンテナ44を介したリーダライター200との無線通信時の情報の受信および復号化、送信情報の暗号化および送信等に必要な電力を、電源部51から制御部53に供給する機能を有する。また、電源供給制御回路52は、電源部51の電力消費をセーブするため、制御部53によるメモリへの書き込み、読み出し時やリーダライター200との通信等の動作時以外は、制御部53への電力供給を極力抑制するパワーセーブ機能等を有していてもよい。電源供給制御回路52はICチップ45の内部に設けられているが、ICチップ45とは別の制御回路モジュールとして構成されていてもよい。
また、電源供給制御回路52は、断線検知部43の配線部46の2端子に対して所定電圧を印加し、配線部46の2端子間の抵抗値の変化の発生有無を検出し、その情報を制御部53に伝達する機能を有している。例えば、図2(c)のように、配線部46のループ形状のいずれかの場所で断線により断線部35が生じた場合、これによる抵抗値変化の情報を発生させ、制御部53に伝達する。制御部53は、抵抗値変化が配線部46の断線のモードを示すと判断した場合、断線が発生した旨を示す情報を外部に送信する準備を行い、アンテナ44を介した無線通信により、当該情報を外部のリーダライター200に対して送信する。あるいは、断線検知部付RFIDタグ40は、リーダライター200からの問いかけのコマンドを無線通信で受信した場合に限り、当該断線検知部43の配線部46が断線しているか否かの情報を当該リーダライター200に対して送信するように構成してもよい。
この場合、断線検知部付RFIDタグ40は、制御部53から電源供給制御回路52に対して、あらかじめ設定された一定の時間間隔で、断線検知部43のループ状の閉回路を形成する配線部46の抵抗値の測定を行うよう指示する。その測定後、測定結果が断線を示すものか否かについての情報を、制御部53がICチップ45内のメモリの特定エリアに書き込む。例えば、断線していない場合はメモリの特定エリアにフラグ情報として0を書き込み、断線している場合は1を書き込む。さらには、断線していない状態から断線した状態に変化したときに、その発生時刻情報を当該メモリの別の特定エリアに書き込むこととしてもよい。また、ICチップ45には、当該ICチップ45を特定するための固有IDが、あらかじめ当該メモリの別の特定エリアに書き込まれている。
このとき、例えば、リーダライター200からの問いかけのコマンドを複数の断線検知部付RFIDタグ40が受信したときに、それぞれの断線検知部付RFIDタグ40は、ICチップ45の制御部53によって、ICチップ45の各メモリエリアから自身の固有ID、断線有無のフラグ情報および断線発生時の発生時刻情報を読み出し、これらの情報をリーダライター200に送信することができる。よって、ひび割れ検知用ラベル100を構造物の複数個所に貼着しておき、定期的に外部からリーダライターによる無線通信の確認を行うことにより、固有IDに紐づけられた個々のひび割れ検知用ラベル100ごとの断線有無および断線発生時刻の情報を容易に収集することができる。
上述した断線検知部付RFIDタグ40の動作はあくまで一例であり、他にも種々の運用方法があり得ることはいうまでもない。例えば、複数のひび割れ検知用ラベル100の断線検知部付RFIDタグ40に対して、ハブとなる1台または複数台の中継用通信モジュールを設置しておき、この中継用通信モジュールが一定時間ごとに、自身がカバーしている範囲内にあるひび割れ検知用ラベル100の断線検知部付RFIDタグ40に対して無線通信で問いかけを行い、その結果を携帯電話通信網等を使ってサーバーに自動送信する等のシステムを構築してもよい。
なお、本実施形態では、断線検知層16に、RFIDタグ41と配線部46から構成される断線検知部43とが一体化した断線検知部付RFIDタグ40として形成されているが、断線検知層16には、最低限、配線部46から構成される断線検知部43が配されていればよく、RFIDタグ41は断線検知層16とは別の層に形成されていてもよい。あるいは、RFIDタグ41は、ひび割れ検知用ラベル100の積層構造とは別個に構成されていてもよく、断線検知層16に形成された断線検知部43と電気的に接続されていればよい。
(f)表面保護層
図1(a)に示すとおり、ひび割れ検知用ラベル100の最表面には、表面保護層12が設けられている。これは、下層の断線検知層16に含まれる断線検知部43の配線部46や、RFIDタグ41を、風雨等から保護するためである。このような表面保護層12の材料としては、断線検知層16の視認性を阻害しないある程度の透明性と外部環境に対する保護機能を有していれば特に制限はないが、例えば、ポリメチルメタクリレート等のメタクリル系樹脂、紫外線や電子線等の電離放射線硬化性のエポキシ変性アクリレート樹脂やウレタン変性アクリレート樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂等にベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系等の光重合開始剤を希釈混合した液状の塗布液を用いて、これを印刷、ダイコート、スプレー塗布、インクジェット等により塗布形成することとしてもよい。断線検知層16の配線部46やRFIDタグ41が直接視認できなくても断線検知の機能としては支障はないが、これらを視認可能とすることにより、配線部46やRFIDタグ41の劣化状況を目視で確認したい場合や、断線検知時に配線部のどの場所で断線が起きているかを実際に目視で確認したい場合に便宜である。
(g)セパレータ
第1実施形態のひび割れ検知用ラベル100の各構成部材の説明は上記のとおりであるが、実際には、検査対象に当該ラベルを貼着する前の保管において、粘着層5の粘着力の維持のため、セパレータを付着させることが望ましい。図1(c)は、ひび割れ検知用ラベル100の粘着層5の樹脂基材3とは反対側の粘着面に、セパレータ6を付着させたセパレータ付きひび割れ検知用ラベル100Aの断面図である。検査対象への貼着前の保管状態では、セパレータ6を粘着層5に付着させておくことにより、粘着層5が空気中に剥き出しとならず、粘着力の長期間の維持が可能となる。セパレータの材料としては、粘着層の粘着力を阻害しないで当該粘着層に付着できるものであれば特に制限はなく、各種樹脂フィルムやコート紙、あるいはそれらの複合材料に、シリコーン等の離型剤を塗布したもの等を使用することができる。
(h)ひび割れ検知用ラベルの機能(1)
次に、上述の層構成を有するひび割れ検知用ラベル100の使用方法とその機能について説明する。
図4はコンクリート構造物等の検査対象に、ひび割れ検知用ラベル100を貼着した状態を示す断面図である。まず、図4(a)に示すように、ひび割れ検知用ラベル100の粘着層5の表面を、コンクリート構造物等の検査対象20の表面に押圧して貼着する。当該貼着箇所は、例えば、コンクリート構造物等において内部応力が集中し、最初にひび割れが発生すると予測されるような場所を選定することが好ましい。また、ひび割れ検知用ラベル100は、予測されるひび割れを跨ぐような配置に貼着することが好ましい。
ひび割れがすでに発生しつつあるか、ある程度進行している場合においても、当該ひび割れを跨ぐように、ひび割れ検知用ラベル100を貼着することができる。この場合は、ひび割れが現状よりもさらに進行した場合に、その進行したひび割れ間隔に応じて、ひび割れ検知用ラベル100の破断層1が破断することによって、所定のひび割れの進行を検知することができ、進行中のひび割れの状況を正確に把握することができる。
検査対象20が、図4(a)の水平方向、すなわちX方向に沿って引張り力を受けることにより、弾性変形範囲においてX方向に沿った伸びが発生する。ただし、検査対象20の表面がコンクリートである場合は、この伸びはほとんど発生せずに亀裂すなわちひび割れが生じることとなる。検査対象20がX方向に伸びた場合、これに密着しているひび割れ検知用ラベル100の粘着層5、その上層の樹脂基材3、さらにその上層の破断層1、粘着層17および断線検知層16は、それぞれ一体的に検査対象20の伸びに追従して伸びる。
さらに、検査対象20がX方向の引張り力によって伸びた場合、ある段階で検査対象20は破断し、図4(b)に示すとおり、ひび割れ31を粘着層5との界面に至る範囲に生じさせる。このとき、粘着層5、樹脂基材3、破断層1、粘着層17および断線検知層16は、ある程度まではひび割れ31の広がりに追従して継続して伸びていくが、やがて、最も許容伸び量が小さい破断層1が伸び量の限界に達して破断し、これに追従して上層の断線検知層16が破断することによって、破断部32が形成される。断線検知層16が破断したときには、断線検知層16に形成された断線検知部43の配線部46も断線する。破断層1と断線検知層16との間に形成される粘着層17が破断するか否かは、粘着層17の弾性率や厚みによって決まるが、破断層1が破断することに追従して上層の断線検知層16が破断することに関しては、粘着層17の破断の有無は影響しない。
破断部32は、ひび割れ検知用ラベル100の最表面である表面保護層12の下層である断線検知層16に形成されることから、表面保護層12が透明性のある部材で形成されているときには、外部から確認者が当該ひび割れ検知用ラベル100の表面を目視で確認するだけでも、断線検知層16の破断、すなわち破断部32を確認し、検査対象20にひび割れが生じていると判断することができる。例えば、このひび割れ検知用ラベル100の破断層1が、伸び量0.2~0.3mmで破断するように材料及び寸法設計がされている場合には、断線検知層16の破断部32を確認することによって、検査対象のひび割れが少なくとも0.2mm以上の幅で広がったことを即座に判断することができる。
しかしながら、表面保護層12が不透明な部材で形成されている場合や、夜間等、視認性が悪い状況下においても、前述したとおり、外部からのリーダライターによる無線通信によって、ひび割れ検知用ラベル100が内蔵するRFIDタグ41からの配線部46の断線有無の情報を確認することができる。このため、確認者の目視検査だけに頼る方法と比べて、確認者に特別なスキルを要せず、確認者の判断ミスや個人差によるひび割れ状況の把握の誤差を極力低減することができる。
また、本開示のひび割れ検知用ラベルは、磁気カード等で汎用的に使用されている樹脂基材や、普通のラベルに用いられる粘着層、および表面保護層等の形成で通常用いられている紫外線、電子線硬化性樹脂の層厚みや添加剤の調整のみによって、ラベルの伸び量に対する破断層の破断条件を簡単に対応付けることができる。また、無線通信のために設けるRFIDタグや断線検知部も、特別な機能を付与することなく、汎用的な製品や汎用技術を流用して行い得るため、ひび割れ検知用ラベルの製造コストを安価にでき、かつ再現性等の信頼性に優れる。
ひび割れ検知用ラベル100は、表面保護層12が透明または半透明であり、かつ、樹脂基材3が、断線検知部43の配線部46の色、および配線基板42の色とは異なる色に着色されていてもよい。粘着層17が伸縮性の少ない、破断しやすい材質のものを使用するか、粘着層17の厚みが十分薄くてある程度の透明性を有する場合には、検査対象20がひび割れを起こし、破断層1および断線検知層16が破断した際に、下層側の樹脂基材3を外部から直接視認することができる。このとき、樹脂基材3の色が、断線検知部43の配線部46の色、および配線基板42の色とは異なる色に着色されていることが視認性を高める上で好ましい。外部から樹脂基材3の色がはっきりと視認できるということは、断線検知層16の配線部46または配線基板42が破断して下地である樹脂基材3が見えることを示すため、リーダライター200を使用した無線通信による確認をするまでもなく、目視でひび割れの発生を確認することができる。
樹脂基材3の着色は、樹脂基材3の製造時に、所定色の顔料等を充填する等により行うことができる。断線検知層16の配線部46および配線基板42が破断した際に、その下地として視認される樹脂基材3の着色は、当該配線部46および当該配線基板42の着色に対して十分なコントラストを持たせるような色の組み合わせとなるようにしてもよい。例えば樹脂基材3を赤色に着色し、配線基板42を緑色に着色する等、互いの色が補色関係になるような組み合わせとしてもよく、あるいは、樹脂基材3を光沢色、配線基板42を非光沢色としたり、その逆の組み合わせとすることもできる。遠方からの断線検知層16の配線部46および配線基板42の破断状態の視認性を確保するためには、例えば、樹脂基材3の着色部と配線部46の着色部との色差、および樹脂基材3の着色部と配線基板42の着色部との色差を、それぞれ、JIS Z8730(2009年)の7.1.1に規定するL*a*b*表色系における色差△E*abであるとしたとき、当該色差が25.0以上であることが好ましい。
また、製造適性や品質向上のために、粘着層17が不透明で、断線検知層16の配線部46および配線基板42が破断しても下地の樹脂基材3が視認できない場合には、粘着層17自体を着色したものとすることができる。粘着層17の粘着適性を阻害しない範囲であれば、任意の着色顔料を粘着層17に充填することによって粘着層17に着色することができる。このとき、粘着層17の着色は、断線検知層16の配線部46および配線基板42が破断した際に、その下地としての粘着層17が視認できる程度に、当該配線部46および当該配線基板42の着色に対して十分なコントラストを持たせるものとすることができる。この場合にも、遠方からの断線検知層16の配線部46および配線基板42の破断状態の視認性を確保するため、例えば、粘着層17の着色部と配線部46の着色部との色差、および粘着層17の着色部と配線基板42の着色部との色差を、それぞれ、JIS Z8730(2009年)の7.1.1に規定するL*a*b*表色系における色差△E*abであるとしたとき、当該色差が25.0以上であることが好ましい。
(i)ひび割れ検知用ラベルの機能(2)
さらに、これら破断特性の異なる複数のひび割れ検知用ラベルを使用することにより、より正確なひび割れレベルの把握が可能となる。
図5は、異なる破断特性を有する本開示のひび割れ検知用ラベル101および102を検査対象20に貼着した状態を、検査対象面に垂直な方向から見た平面図である。図5(a)は、検査対象20の表面に沿って、縦方向すなわちY方向に沿って、ひび割れ検知用ラベル101と、これとは破断特性が異なるひび割れ検知用ラベル102を、上下に平行に貼着している。ひび割れ検知用ラベル101、102は、その最表面である表面保護層12が透明性を有しており、その下層の断線検知部43の状態が視認される。ちなみに、ひび割れ検知用ラベル101は、破断層1の伸びが0.2~0.3mmの範囲で破断するように、また、ひび割れ検知用ラベル102は、破断層1の伸びが0.3~0.4mmの範囲で破断するように設計されている。
検査対象20が、X方向に引っ張り力を受け、X方向に沿って伸びた場合、これに追従して、ひび割れ検知用ラベル101、102ともX方向に伸びる。実際には、図5(a)と同様に、粘着層5、樹脂基材3、破断層1、粘着層17および断線検知層16のそれぞれが一体的にX方向に沿って伸びていく。やがて、図5(b)のように、検査対象20にひび割れ31が生じ、ひび割れ検知用ラベル101、102はそれぞれ可能な限り、ひび割れに追従して伸びていくが、やがて、ひび割れ検知用ラベル101は破断層1および断線検知層16が破断し、ひび割れ検知用ラベル102は断線検知層16に変化がない状態で安定した状態となったものとする。
上記の場合、リーダライター200を近づけて、ひび割れ検知用ラベル101、102のそれぞれと無線通信によって断線有無の情報を得ることにより、ひび割れ検知用ラベル101の断線検知部43の配線部46が断線しており、ひび割れ検知用ラベル102の断線検知部43の配線部46が断線していないことが確認できる。さらに、ひび割れ検知用ラベル101、102の表面を直接確認した確認者は、それぞれの破断の状況の違いから、即座に検査対象20が、0.2~0.3mmのひび割れを生じていることを判断することができる。このように、破断特性の異なる複数のひび割れ検知用ラベルを同一のひび割れ想定箇所に貼着し、ひび割れ検知用ラベルごとの断線の有無の違いを確認することによって、より確実なひび割れ状況の把握が可能となる。破断条件の異なるひび割れ検知用ラベルの貼着数を増やすほど、より詳細な判断が可能となる。
(j)ひび割れ検知用ラベルの製造方法
次に、第1実施形態のひび割れ検知用ラベルの製造方法について説明する。図1(c)に示すように、セパレータ付きひび割れ検知用ラベル100Aは、ひび割れ検知用ラベル100にセパレータ6が付加されたものであるが、これを別の分け方で見ると、下層側のひび割れ検知部150と上層側のRFIDタグインレット部160とから構成されていると考えることができる。ひび割れ検知部150は、下層側からセパレータ6、粘着層5、プライマー層4、樹脂基材3、プライマー層2および破断層1が、この順に積層されている。一方、RFIDタグインレット部160は、下層側から粘着層17、破断検知層16および表面保護層12が、この順に積層されている。ひび割れ検知部150とRFIDタグインレット部160とは、それぞれ別工程で製造されたものがラミネート加工によって積層されることにより、一体化したセパレータ付きひび割れ検知用ラベル100Aを構成することができる。
図6は、ひび割れ検知部150とRFIDタグインレット部160とをそれぞれ別工程で製造する際のそれぞれの部材の積層構造を説明する断面図である。図6(a)は、図1(c)のひび割れ検知部150の層構成と同じ内容となっている。ひび割れ検知部150を製造する場合、まず、樹脂基材3の両面に、プライマー層2、4を塗布、印刷、インクジェット等の方法により形成する。プライマー層を形成する代わりに、あらかじめ基材の両面に易接着処理がされたものをプライマー層形成済み樹脂基材として用いてもよい。プライマー層4を形成した樹脂基材3の一方の面側に粘着層5を形成し、その下層側にセパレータ6を積層する。さらにプライマー層2を形成した樹脂基材3の他方の面側に紫外線硬化性樹脂等によるハードコート層である破断層1を形成する。
一方、図6(b)には、セパレータ付きRFIDタグインレット部160Aの積層構造の断面が示されているが、図1(c)に示したRFIDタグインレット部160の層構成に対して、上層側と下層側にそれぞれ追加の層が積層されている。RFIDタグインレット部160の表面保護層12の上層側には離形層18と、さらにその上層側にベース基材19が積層されている。また、粘着層17の下層側にはセパレータ6が積層されている。セパレータ付きRFIDタグインレット部160Aは、例えば、断線検知部43やRFIDタグ41を備えた断線検知層16を公知のRFIDタグ等の製造方法に準じて製造する。ただし、配線部46は、脆性を備える必要があることから巻き線で形成することは好ましくなく、前述のとおり、金属箔、金属蒸着、または導電性ペースト、導電性インク等で形成すべきである。また、RFIDタグ41についても、アンテナ44は配線部46と同様の方法で形成することができ、さらに、ICチップ45や必要な電子部品等を取り付けることによってRFIDタグ41を形成することができる。
このようにRFIDタグ41や断線検知部43が形成された断線検知層16の上層側に紫外線硬化性樹脂等により、表面保護層12を形成し、その上層側にシリコーン等を含む材料による離形層18を形成した上、最上層に、PET基材等によるベース基材19を積層する。また、粘着層17の下層側にセパレータ6を積層する。セパレータ付きRFIDタグインレット部160A製造の順番はこれに限らず、例えば、先にベース基材19を先に準備し、これに順次、離形層18の塗布形成、断線検知層16、粘着層17およびセパレータ6の積層を行うこととしてもよい。特に、セパレータ付きRFIDタグインレット部160Aは、転写用リボンとしてリールに巻き取られた状態に製造、保管することができる。これより、セパレータ付きRFIDタグインレット部160Aを必要時にひび割れ検知部150に対してラミネートすることによって、ひび割れ検知用ラベル100を容易に製造することができる。
ひび割れ検知部150に対して、セパレータ付きRFIDタグインレット部160Aから、RFIDタグインレット部160の部分をラミネート転写する方法を説明する。まずラミネーター装置において、セパレータ付きRFIDタグインレット部160Aからセパレータ6を剥離し、粘着層17の面がひび割れ検知部150の破断層1の面と向き合うようにセパレータ付きRFIDタグインレット部160Aをひび割れ検知部150に対向させる。ついで、両者の位置決めがされたところで、所定形状の転写用の加熱ヘッドをセパレータ付きRFIDタグインレット部160Aのベース基材19の側からひび割れ検知部150に向けて所定時間、押し当てる。これにより、セパレータ付きRFIDタグインレット部160Aのベース基材19と離形層18を残して、表面保護層12、断線検知層16および粘着層17から構成されるRFIDタグインレット部160が、ひび割れ検知部150の破断層1の上層に転写され、破断層1と粘着層17が密着することにより、一体化したセパレータ付きひび割れ検知用ラベル100Aを得ることができる。
2.第2実施形態
次に、本開示のひび割れ検知用ラベルの第2実施形態について説明する。図7は、第2実施形態のひび割れ検知用ラベル110を示す平面図および断面図である。図7(a)は、コンクリート構造物等の検査対象20の表面に、ひび割れ検知用ラベル110が貼着された状態を示す平面図であり、最表面の透明な表面保護層12を通して下層の断線検知層16が視認される。断線検知層16には、二つの断線検知部と、これを構成する二つの配線部とを備えている。第1断線検知部43Aと第2断線検知部43B、および第1配線部46Aと第2配線部46B、である。図7(a)では、これら二つの配線部に対応した別々のRFIDタグ本体を備えているが、RFIDタグ本体は一つとし、第1配線部46Aと46Bとを一つのRFIDタグ本体と接続する方法としてもよい。
図7(b)は、図7(a)の矢印A-Aを通るX方向に垂直な平面で切った、ひび割れ検知用ラベル110の断面図である。断線検知層16の下層には、粘着層17を介して2種類の破断層に分かれた破断層1が積層されている。第1断線検知部43Aの下方に対応する部分には、第1破断層1Aが配置され、第2断線検知部43Bの下方に対応する部分には、第2破断層1Bが配置されている。第1破断層1Aと第2破断層1Bとは、それぞれが、面方向の引張り力に対する破断特性が異なるように設計されている。例えば、第1破断層1Aは、0.2~0.3mmの範囲で破断するように構成され、第2破断層1Bは、0.3~0.4mmの範囲で破断するように構成されている。また、上層側に配置されている第1断線検知部43Aは、少なくとも第1破断層1Aが破断したときには一緒に破断する程度の脆性のある構造を有し、第2断線検知部43Bは、少なくとも第2破断層1Bが破断したときには一緒に破断する程度の脆性のある構造を有する。
このような構成とすることにより、例えば、検査対象20に0.2~0.3mmのひび割れが発生した場合、ひび割れ検知用ラベル110は、破断層1の第1破断層が破断し、第2破断層は破断しない。また、断線検知層16の第1断線検知部43Aの第1配線部46Aは断線し、第2断線検知部43Bの第2配線部46Bは断線しない。このとき、外部からリーダライター200による無線通信の問いかけを行うと、ひび割れ検知用ラベル110は、第1断線検知部43Aの第1配線部46Aが断線し、第2断線検知部43Bの第2配線部46Bが断線していない旨の情報を送信する。これより、当該検査対象20のひび割れの間隔が0.2~0.3mmの範囲であることが現状を直接見ることなく判定できる。ひとつのひび割れ検知用ラベル110が、破断条件の異なる複数の破断層および断線検知部を有することにより、構造物のひび割れの程度をより正確に把握することが可能となる。
3.第3実施形態
次に、本開示のひび割れ検知用ラベルの第3実施形態について説明する。図8は、第3実施形態のひび割れ検知用ラベル120を示す断面図である。図8に示すとおり、第1実施形態に対する第3実施形態の相違点は、樹脂基材3とプライマー層2の間に印刷層7が設けられていることである。第1実施形態のひび割れ検知用ラベル100では、樹脂基材3自体を着色させることによって、破断検知層16が破断した際に、下地の樹脂基材を視認し易くすることができ、目視の破断状況確認を容易にすることにつき説明した。しかし、樹脂基材3は、伸縮特性等の特性維持のため着色顔料等を直接充填することが困難であることも考えられる。このため、本実施形態では、樹脂基材3自体には着色顔料を混ぜることをせず、樹脂基材3の表面に追加の印刷層7を設けることにより、任意の色を着色することを可能とする。これにより、樹脂基材3の特性変化を懸念する必要がなく、色選択の自由度を広げることができる。
この印刷層7は任意の着色およびデザインとすることができ、任意色の顔料、着色料、染料等と溶媒等から構成されるインキを用いて、印刷、ダイコート、スプレー塗布、インクジェット等の公知の転写、塗布技術により印刷層7を形成することができる。また、プライマー層2自体を着色することにより、これを印刷層7とみなしてもよい。
樹脂基材3を直接着色する場合と同様に、断線検知層16の配線部46および配線基板42が破断した際に、その下地として視認される印刷層7の着色は、当該配線部46および当該配線基板42の着色に対して十分なコントラストを持たせるような色の組み合わせとなるようにしてもよい。遠方からの断線検知層16の配線部46および配線基板42の破断状態の視認性を確保するためには、例えば、印刷層7の着色部と配線部46の着色部との色差、および印刷層7の着色部と配線基板42の着色部との色差を、それぞれ、JIS Z8730(2009年)の7.1.1に規定するL*a*b*表色系における色差△E*abであるとしたとき、当該色差が25.0以上であることが好ましい。
また、印刷層7の着色は、破断層の全面に渡って均一な一定濃度の着色(いわゆるべた印刷)としてもよいが、例えば、格子縞、メッシュ柄等の、着色された線部分と透明な非印刷部分とが混在したデザインとすることもできる。このようなデザインとした場合、さらに破断層1、樹脂基材3および粘着層5のいずれもが透明または半透明であった場合には、検査対象20の実際のひび割れ部分が粘着層5、樹脂基材3、破断層1および印刷層7の非印刷部分を通して直接目視でき、かつ、印刷層7の配置の変化等から、破断層1の破断が生じたことが目視確認できる。
また、印刷層7の着色は、蓄光顔料を含んだ蓄光印刷層としてもよい。日中、紫外線等の励起光を取り込むことにより発光エネルギーを蓄え、夜間等においても破断層1の破断状況を印刷層7の発光により目視確認することができる。蓄光印刷層を形成するためのインキ樹脂材料は、アクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等のある程度の透明性を有する熱可塑性、熱硬化性、あるいは電子線硬化性の樹脂が使用できる。透明性は、用いる蓄光顔料において、それを刺激し得る波長光および残光して発光する波長光に対して、透明性、透光性を有するものであればよい。例えばSrAl2O4系蓄光顔料では、励起光の波長は200~450nmであり、発光は520nmにピークを持つ、430~640nm程度の波長域となる。
蓄光顔料としては、硫化物系蓄光顔料として、硫化亜鉛等を母結晶とし、これに微量の不純物、すなわち賦活剤としてCu、Bi等を含有させたものが用いられ、例えば、ZnS:Cu、CaS:Bi、CaSrS:Bi、ZnCdS:Cu等が挙げられ、これらはそれぞれ黄緑色、紫青色、青色、黄色に発光する。中でもZnS:Cuは黄緑色発光の夜光塗料用の蓄光顔料としてよく知られている。これら蓄光顔料にユウロピウム等の賦活剤を微量含有させ、さらに必要に応じて適宜、マンガン、ビスマス、スズ、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム等の共賦活剤を微量含有させることにより、蓄光性能を向上させることができる。これらの蓄光顔料は、前述のとおり、印刷層7として形成するために用いるほか、樹脂基材3やプライマー層2、粘着層17自体に加えることとしてもよい。
また、印刷層7の着色は、パール顔料を含むパールインキによるものでもよい。パールインキは、薄板状雲母粒子(マイカ)の表面を二酸化チタンや酸化鉄等で被覆したパール顔料を含有した公知のインキであり、複雑な光沢感や色彩を得ることができる。これを印刷層7に使用することにより、遠方からのひび割れ検知用ラベルの断線検知層の配線部および配線基材の破断状態の視認性が向上する。同様の効果を得るため、パール顔料は、前述のとおりパールインキにより印刷層7として形成するために用いるほか、樹脂基材3やプライマー層2、粘着層17自体に加えることとしてもよい。
4.第4実施形態
次に、本開示のひび割れ検知用ラベルの第4実施形態について説明する。図9は、第4実施形態のひび割れ検知用ラベル130をひび割れが起き始めた検査対象20に貼着した状態を示す斜視図である。第1実施形態に対する第4実施形態の相違点は、表面保護層12の表面から積層方向に向けて、一定深さのハーフカットの切れ込みが形成され、かつ、切れ込みの形状が断続的な線状に形成されていることである。断続的な線状とは例えばミシン目形状などが含まれる。
図9は、第1実施形態の層構成であるひび割れ検知用ラベルの最表面である表面保護層12から積層方向に向けて、一定の深さまでのミシン目部14の切れ込みが形成されたひび割れ検知用ラベル130が、ひび割れ31が発生し始めた検査対象20に貼着された状態を示す。切れ込みの深さは、粘着層5および樹脂基材3には達しておらず、破断層1のみが貫通する深さである。これにより、破断層1は、切れ込みがない場合と比べてひび割れ31の伸び量に対する破断のし易さを増すことができる。破断層1の厚みを調整することが困難な場合等に、破断層の厚みはある程度厚くしておき、これに形成するミシン目部14の切れ込みの深さやピッチの長さを調整することにより、破断層1の厚みを薄く形成したときと同様の検知感度を得ることができる。
しかし、前述したとおり、本実施形態では高官能基数(18官能)のポリエステルアクリレートオリゴマー紫外線硬化性樹脂に紫外線硬化開始剤混合し、紫外線照射により架橋硬化させて形成した破断層を使用しているため、当該破断層の厚み範囲が0.005~0.03mm程度であるとき、厚みが増すほど破断し易い傾向、すなわち厚みが増すほど弾性率が低下する傾向がある。したがって、この場合は、破断層の厚みをある程度薄くしておき、これに形成するミシン目部14の切れ込みの深さやピッチの長さを調整することにより、破断層1の厚みを厚く形成したときと同様の検知感度を得るようにすることができる。なお、ミシン目を形成する際には、断線検知層16の配線部を切断しない程度に、切れ込みの間隔または切れ込みの場所を選択する必要がある。
また、破断層1の感度を上げるため、添加物を適宜加えることができるが、様々な感度に応じたひび割れ検知用ラベルを製造する際に、同一の添加剤、添加量で大量に製造しておき、後から切れ込みの深さ等を変える等して感度を調整するようにすれば、途中の製造条件の細かな変更、調整が不要となり、製造が容易となる。切れ込みの深さは上記に限る必要はなく、例えば、破断層1自体をハーフカットとすることや、樹脂基材3の厚み方向の途中まで切れ込むこともでき、破断層1を破断させたいひび割れの伸び量に応じて条件を定めればよい。
5.第5実施形態
次に、本開示のひび割れ検知用ラベルの第5実施形態について説明する。図10は、第5実施形態のひび割れ検知用ラベル140をひび割れが起き始めた検査対象20に貼着した状態を示す斜視図である。第4実施形態に対する相違点は、表面保護層12の表面から積層方向に向けて、粘着層5までの貫通する深さの切れ込みが形成されることである。もともと、ひび割れによってひび割れ検知用ラベルが伸びたときに、樹脂基材3よりも先に破断層1が破断する条件で形成しているため、同一形状のミシン目部を貫通形成しても、基本的にはこの関係が大きく変わることはない。製造上の都合等により、適宜、ハーフカットにするか、貫通形成とするかを選択することができる。ミシン目を形成する際の、断線検知層16の配線部に関する注意点については、第4実施形態と同様である。
6.実施例
次に、本開示を実施例により説明する。
(a)試験片作成条件
(i)ひび割れ検知部の作製
樹脂基材として、厚み230μのポリエチレンテレフタレートフィルムを選定し、これの両面に、プライマー層としてメラミン樹脂塗料のメジウム(大日本インキ製造(株)製、TCM01メジウム)を固形分塗布量で0.4μmの厚みで塗布し、180℃20秒間の熱処理を行った。その片側には、アクリル系エマルション型粘着剤(東洋インキ製造(株)製、オリバインBPW5012)を塗布して塗布膜を形成し、これを100℃60秒間の熱処理を行い、厚み20μの粘着層を形成した。また、粘着層と反対側の樹脂基材面に、高官能基数(18官能)のポリエステルアクリレートオリゴマー紫外線硬化性樹脂(ザ・インクテック(株)製、KIZ044マット)100質量部に対し、紫外線硬化開始剤5質量部を希釈混合し、塗布し、紫外線照射により架橋硬化させ、ハードコート層である破断層を形成した。同時に、粘着層の下層にシリコーンを付着させた紙材によるセパレータを貼った。これにより、ひび割れ検知部の積層体が完成した。
(ii)セパレータ付きRFIDタグインレット部の作製
まず断線検知層を形成するにあたり、アンテナ基板として厚み9μmのポリエチレンテレフタレート基材を用い、これに厚み20μmのアルミ箔をエポキシ系接着剤を介して貼り、エッチング加工により所定のRFIDタグ本体のアンテナ部と断線検知部の配線部を形成した。配線部の線幅は1mmとした。RFIDタグ用のICチップのパッド電極には、あらかじめ金バンプを形成させておき、ICチップをフェイスダウンにして、RFIDタグ本体のアンテナのアンテナ端子と当該パッド電極との位置合わせを行い、異方導電性フィルムを介してアンテナ端子にICチップの金バンプを接触させた状態で超音波振動を加えるとともに熱圧を加え、ICチップとアンテナとを電気的に接合した。また、配線部に脆性を付与するため、ポリエチレンテレフタレート基材には、配線部を除く複数個所に切れ込みを設けておき、破断層の破断時には、配線部も一緒に断線することを事前に確認した。
次に、断線検知層の、配線部が形成された側の面に、高官能基数(18官能)のポリエステルアクリレートオリゴマー紫外線硬化性樹脂(ザ・インクテック(株)製、KIZ044マット)100質量部に対し、紫外線硬化開始剤5質量部を希釈混合し、塗布し、紫外線照射により架橋硬化させ、厚み5μの表面保護層を形成した。また、断線検知層の、配線部が形成された側とは反対側の面に、アクリル系エマルション型粘着剤(東洋インキ製造(株)製、オリバインBPW5012)を塗布して塗布膜を形成し、これを100℃60秒間の熱処理を行い、厚み12μの粘着層を形成した。同時に、粘着層の下層にシリコーンを付着させた紙材によるセパレータを貼った。
一方、セパレータ付きRFIDタグインレット部の全体を支持するためのベース基材として厚みが50μmである透明なポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、これにシリコーン等の離型剤を主成分とする離形層を形成した上で、セパレータ、粘着層、断線検知層および表面保護層が積層された積層体の表面保護層の表面と、ベース基材に形成された離形層の表面とが対向するように位置合わせした。さらに、これらに対して若干の熱圧を掛けることにより、表面保護層が融着してセパレータ、粘着層、断線検知層、表面保護層、離形層およびベース基材から構成されるセパレータ付きRFIDタグインレット部が得られ、これをリール材として巻き取った。
(iii)セパレータ付きひび割れ検知用ラベルの作製
セパレータ付きRFIDタグインレット部からセパレータを剥がし、あらかじめセットしたひび割れ検知部の破断層の面に、セパレータ付きRFIDタグインレット部の粘着層の面が対向するように位置合わせした。さらに、当該破断層と当該粘着層とを当接させ、セパレータ付きRFIDタグインレット部のベース基材の表面側から加熱ヘッドをひび割れ検知部に向けて押し当てることにより、セパレータ付きRFIDタグインレット部の粘着層、破断検知層および表面保護層だけをひび割れ検知部側にラミネート転写した。残留した離形層を含むベース基材はそのまま巻き取った。これにより、下層側からセパレータ、粘着層、プライマー層、樹脂基材、プライマー層、破断層、粘着層、破断検知層および表面保護層がこの順に積層されたセパレータ付きひび割れ検知用ラベルを得た。
(iv)試験片の条件
上述の共通条件のもと、破断層の条件として、試験片の試験番号1、2、3の破断層厚みを10.0μm、試験番号4、5、6の断層厚みを16.0μm、試験番号7、8、9、10、11の破断層厚みを20.0μmとした。また、試験番号2、5、8、10、11には、添加剤として、ポリエチレンワックス微粒子を紫外線硬化性樹脂(固形分)100質量部に対して1質量部添加し、試験番号3、6、9には、同添加剤を2質量部添加した。なお、試験番号10には、積層方向に貫通する深さの断続的な線状の形状としてミシン目部の切れ込みを、試験番号11には、同じく積層方向に破断層のみ貫通し、樹脂基材に達しない深さのハーフカットの断続的な線状の形状としてミシン目部の切れ込みを形成した。なお、ミシン目部の面方向の切れ込み部の1箇所あたりの長さを3.0mm、非切れ込み部の1箇所あたりの長さを2.0mmとした。
(b)試験方法、結果
試験片の試験番号1~11は、最終的に面方向の大きさを幅15.0mm、長さを40.0mmに仕上げ、試験番号10、11のミシン目部は、長さ方向の中心を通る、幅方向に並行な線上に形成した。これらの各試験片を、検査対象を摸した樹脂基材(厚み230μのポリエチレンテレフタレートフィルム)に貼着させ、間隔50mmを開始点とするように両端を保持し、100mm/minの速度で引張り試験を行い、試験片の伸び量を0.1mmから0.1mm刻みで増加させ、リーダライターによる無線通信による確認と、10m離れた箇所から確認者が目視で確認した破断状況の確認について試験した結果を以下に示す。
表1より、破断層の厚みを変化させることと、添加剤の添加量を変化させることにより、ひび割れの進行度合いに相当する、試験片の伸び量の範囲と破断検知の有無の対応付けが変化することが分かった。また、添加物の含有量を増やす代わりに、積層方向に貫通またはハーフカットとなる深さのミシン目形状の切れ込みを形成することでも、同様に試験片の伸び量に対する破断検知の感度を上げることができることが分かった。したがって、検知したいひび割れの度合に対応した、破断層の厚み条件および添加剤添加量条件または切れ込み条件を決め、これに応じた所定条件のひび割れ検知用ラベルを用いることにより、ひび割れ発生の検知が、当該ラベルの破断層の破断の有無に伴う断線検知部の配線部の断線の有無、という電気的な事象により客観的に判定できることが分かった。また、一定以上のひび割れ量については、目視によってもひび割れの有無を識別できることが確認できた。