JP2022014128A - インクジェット記録液セットおよび当該インクジェット記録液セットを用いる画像形成方法 - Google Patents

インクジェット記録液セットおよび当該インクジェット記録液セットを用いる画像形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低吸収性または非吸収性記録媒体への良好な定着性を有し、画像品質に優れ、かつ、耐水性に優れた画像を形成することができるインクジェット記録液セットを提供すること。【解決手段】本発明のインクジェット記録液セットは、インクジェットインクと前処理液を含むインクジェット記録液セットである。前記インクジェットインクは、少なくとも架橋剤、顔料、水を含み、前記前処理液は、少なくとも樹脂を含み、前記インクジェットインクおよび前記前処理液のいずれか一方は、リン酸エステル化合物を含む。【選択図】図1

Description

本発明は、インクジェット記録液セットおよび当該インクジェット記録液セットを用いる画像形成方法に関する。
インクジェット記録方式は、簡便・安価に画像を作成できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷など、様々な印刷分野に応用されている。
インクジェット記録方式で用いられるインクジェットインクには、水と少量の有機溶剤からなる水性インク、有機溶剤を含むが実質的に水を含まない非水系インク、室温では固体のインクを加熱溶融して印字するホットメルトインク、印字後に活性線を照射されることにより硬化する活性線硬化性インク等、複数の種類があり、これらのインクは用途に応じて使い分けられている。
中でも、水性インクは一般に臭気が少なく安全性が高い点から、家庭用プリンタだけでなく産業用プリンタなどへの適用も検討されている。
たとえば、特許文献1には、顔料とポリマー粒子とリン酸エステル系界面活性剤とを含むインク組成物、およびカチオンポリマーを凝集剤として含む処理液を有するインクセットが記載されている。特許文献1によると、上記インク組成物および上記処理液を用いることにより、高速印刷であっても画像品質に優れる画像を形成できるとされている。
また、特許文献2には、水系エポキシ樹脂を含む水性インクおよびアミン化合物を含む反応液を含む水性のインクジェット用インクセットが記載されている。特許文献2によると、上記インクジェット用インクセットから形成される被膜により、非吸収性記録媒体に対して密着性および耐水性に優れた画像を得ることができるとされている。
特開2011-207985号公報 特開2019-156961号公報
本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載のインクセットを用いて、コート紙などのセルロースを主体とする記録媒体に対して画像を形成したところ、良好な定着性を有し、十分な画像品質を有する画像が得られた。一方で、フィルム基材などの非吸収性記録媒体に対しては、所望する密着性を有する画像を得られないことがあった。
また、特許文献2に記載のインクジェット用インクセットを用いて、PET基材などの非吸収性記録媒体に対して画像を形成したところ、所望する密着性および耐水性を有する画像が得られないことがあった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、低吸収性または非吸収性記録媒体への良好な定着性を有し、画像品質に優れ、かつ、耐水性に優れた画像を形成することができるインクジェット記録液セットを提供することを第1の目的とする。また、本発明は、当該インクジェット記録液セットを用いた画像形成方法を提供することを第2の目的とする。
本発明のインクジェット記録液セットは、インクジェットインクと前処理液とを含むインクジェット記録液セットであって、前記インクジェットインクは、少なくとも架橋剤、顔料および水を含み、前記前処理液は、少なくとも樹脂を含み、前記インクジェットインクおよび前記前処理液のいずれか一方は、リン酸エステル化合物を含む。
本発明の画像形成方法は、記録媒体の表面に、前処理液を付与する前処理液付与工程と、前記前処理液が付与された表面に、インクジェットインクを付与するインク付与工程と、を有し、前記インクジェットインクおよび前記前処理液のいずれか一方は、リン酸エステル化合物を含む。
本発明によれば、低吸収性または非吸収性記録媒体への良好な定着性を有し、画像品質に優れ、かつ、耐水性に優れた画像を形成することができるインクジェット記録液セットを提供することができる。また、本発明は、当該インクジェット記録液セットを用いた画像形成方法を提供することができる。
図1は、本発明の一実施の形態に係る画像形成装置の例示的な構成を示す模式図である。
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、インクジェットインクと前処理液とを含むインクジェット記録液セットにおいて、少なくとも架橋剤、顔料および水を含むインクジェットインク、および少なくとも樹脂を含む前処理液のリン酸エステル化合物を含むことにより、低吸収性または非吸収性記録媒体への良好な定着性を有し、画像品質に優れ、かつ、耐水性に優れた画像を形成することができることを見出した。
非吸収性の記録媒体への定着性を高めるため、前処理液に樹脂を含有させ、インクジェットインクに架橋剤を含有させて、記録媒体上で架橋剤により樹脂を架橋させることは公知である。しかし、架橋剤を含むインクジェットインクを前処理液上に付与すると、架橋剤の影響でインクの濡れ広がりが不十分となり、画像品質が低下させることがあった。これに対し、本発明においては、インクジェットインクおよび前処理液のいずれか一方に、界面活性剤であるリン酸エステル化合物を含有することにより、インクを濡れ広がりやすくし、良好な画像品質を有する画像を得ようとする。
また、本発明者らの新たな知見によれば、リン酸エステル化合物は、架橋剤の架橋反応を促進する作用を有する。一般に、酸などを架橋反応の触媒として使用することは知られているが、用いる酸の酸強度によっては、重合反応や沈降などの予期せぬ副反応が生じることが知られている。たとえば、インクジェットインク中で上記副反応が生じると、インクの保存安定性が低下し、また射出安定性も低下しやすい。また、前処理剤に含まれていた触媒が、記録媒体上でインクジェットインク中の架橋剤と上記副反応を生じると、架橋剤による定着性の向上効果が奏されにくくなる。これに対し、本発明者らの知見によると、リン酸エステル化合物は、これらの副反応を生じさせず、一方では架橋剤の架橋反応を良好に促進し得る。
また、架橋剤は、顔料または顔料分散剤に由来するカルボン酸基などの親水性の官能基と反応し、形成された画像中へのこれらの官能基の残存量を減らすことができる。これに対し、リン酸エステルは上記架橋剤と親水性の官能基との反応をも促進し得るため、形成された画像中に残存する上記親水性の官能基の量を低減することができる。これらの親水性の官能基の量を低減することにより、画像が水(特には熱水)に接触したときに生じる樹脂の膨潤を抑制し、上記樹脂の膨潤による画像の耐水性の低下をも抑制することができると考えられる。
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
1.インクジェット記録液セット
本発明の一実施の形態に係るインクジェット記録液セットは、インクジェットインクおよび前処理液を含む。
1-1.インクジェットインク
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、少なくとも架橋剤、顔料および水を含む、水性のインクジェットインクである。
1-1-1.架橋剤
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、架橋剤を含む。上記架橋剤の種類は、水性のインクジェットインクに用いることができれば、特に制限されないが、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキサゾリン化合物およびカルボジイミド化合物からなる群から選択されることが好ましい。
上記エポキシ化合物の例には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-へキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどが含まれる。
上記ビニルエーテル化合物の例には、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ブチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、トリメチロールエタントリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、グリセリントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテルなどが含まれる。
上記カルボジイミド化合物の例には、カルボジイミド、N,N’-ジメチルカルボジイミド、N-エチル,N’-イソプロピルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジフェニルカルボジイミド,N,N’-ジアセチルカルボジイミド、N,N’-ビス(2-プロペン)-カルボジイミド、N,N’-ジピロリジルカルボジイミド、N,N’-ジエトキシカルボジイミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-p-トルエンスルホン酸塩、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、カルシウムシアナミド、およびカルボジイミド構造を主鎖または側鎖に有するポリマーなどが含まれる。
上記オキサゾリン化合物の例には、2-オキサゾリン、2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、2-(n-プロピル)-2-オキサゾリン、2-(イソプロピル)-2-オキサゾリン、2-シクロヘキシル-2-オキサゾリン、2-フェニル-2-オキサゾリン、2-ピロリジル-2-オキサゾリン、2-アセチル-2-オキサゾリン、2-(2-プロペン)-2-オキサゾリン、4,5-ジメチル-2-オキサゾリン、2,4,4-トリメチル-2-オキサゾリン、5-フェニル-2-(2-プロピニルアミノ)-2-オキサゾリン-4-オン、4-エトキシメチレン-2-フェニル-2-オキサゾリン-5-オン、およびオキサゾリン構造を主鎖または側鎖に有するポリマーなどが含まれる。
なお、上記架橋剤は、既知の技術を用いて合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
また、上記架橋剤の中では、ビニルエーテル化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物であることが好ましく、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物であることがより好ましく、オキサゾリン化合物であることがさらに好ましい。オキサゾリン化合物は、オキサゾリン基自体が水溶性液体中で他の官能基と反応しにくいため、インクジェットインクの保存安定性を低下しにくい。
上記架橋剤の含有量は、上記インクジェットインクの全質量に対して、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましく、5.0質量%以上10.0質量%以下であることが特に好ましい。架橋剤の含有量を上記インクジェットインクの全質量に対して、0.1質量%以上とすることにより、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体への定着性を向上させることができる。また、架橋剤の含有量を15.0質量%以下とすることにより、前処理液の表面に架橋剤を含むインクジェットインクを付与した場合であっても、架橋剤の影響によりインクの濡れ広がりが不十分となることを抑制するので、良好な画像品質を有する画像を得ることができる。
1-1-2.顔料
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、色材を含む。上記色材は、顔料でも染料でもよい。
顔料は、形成すべき画像の色彩などに応じて、たとえば、黄顔料、赤またはマゼンタ顔料、青またはシアン顔料、緑顔料、黒顔料、および白色顔料から選択することができる。
本発明に使用できる顔料としては、公知の有機および無機顔料を用いることができる。有機および無機顔料の例には、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料;カーボンブラック等の無機顔料が含まれる。
また、有機顔料および無機顔料の例には、カラーインデックスに記載される下記の顔料が含まれる。
赤またはマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、および88、ならびにPigment Orange 13、16、20、および36が含まれる。
青またはシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、および60が含まれる。
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、および50が含まれる。
黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94、95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、および193が含まれる。
黒顔料の例には、Pigment Black 7、26、および28が含まれる。
白色顔料の例には、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン(ルチル型、アナターゼ型、ブルーカイト型)、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、白色の中空樹脂粒子および高分子粒子が含まれる。
また、上記顔料として、水に自己分散可能な顔料(自己分散顔料)を用いることができる。自己分散顔料とは、その表面に官能基として少なくともスルホン酸、スルホン酸塩、カルボン酸、またはカルボン酸塩を有する顔料であり、分散剤が存在しなくても水中で分散可能な顔料のことをいう。
自己分散顔料としては、市販品を用いることができる。上記自己分散顔料の市販品の例には、CAB-O-JET200、300、400(キャボット社製、「CAB-O-JET」は同社の登録商標)、BONJET BLACK CW-1、CW-1S、CW-2(オリエント化学工業株式会社製、「BONJET」は同社の登録商標)などが含まれる。
上記黄顔料、赤またはマゼンタ顔料、青またはシアン顔料、緑顔料、黒顔料の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10.0質量%未満であることがより好ましく、0.1質量%以上8.0質量%以下であることがさらに好ましい。上記顔料の含有量が、インクジェットインクの全質量に対して0.1質量%以上であると、得られる画像の発色が十分となる。顔料の含有量がインクの全質量に対して15.0質量%以下であると、インクの粘度が高まりすぎず、安定して記録媒体に射出することができる。
また、上記白色顔料の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して2.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上20.0質量%未満であることがより好ましく、6.0質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。上記白色顔料を5質量%以上とすることで、十分に白い硬化膜(画像)を得ることができる。一方、上記白色顔料を30質量%以下とすることで、上記インクジェットインクを安定して吐出することができ、十分な隠蔽性を有する画像を形成することができる。
1-1-3.顔料分散剤
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、顔料分散剤を含むことが好ましい。顔料分散剤を含むことにより、低吸収性記録媒体および非吸収性記録媒体への密着性が向上する。
顔料分散剤の例には、高分子分散剤が含まれる。
高分子分散剤の例には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種類以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体およびこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が含まれる。
顔料は、さらに必要に応じて分散助剤によって分散性を高められていてもよい。
また顔料は、共重合樹脂を用いて分散してもよい。
共重合樹脂の例には、スチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体等のような水溶性樹脂が含まれる。
顔料分散剤の含有量は、顔料の全質量に対して10.0質量%以上200.0質量%以下であることが好ましい。分散剤の含有量が顔料の全質量に対して10.0質量%以上であると、顔料の分散安定性が高まり、分散剤の含有量が顔料の全質量に対して200.0質量%以下であると、インクジェットヘッドからのインクの吐出性が安定しやすくなる。
また、上記顔料は、上記顔料分散剤およびその他所望する目的に応じて必要な添加物と共に分散機により分散して用いることが好ましい。
分散機の例には、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等が含まれる。上記分散機の中では、分散により製造されるインクジェットインクの粒度分布をシャープにする観点から、サンドミルによる分散が好ましい。
また、サンドミルによる分散に使用するビーズの材質はビーズ破片やイオン成分のコンタミネーションの点から、ビーズ径が0.3~3mmのジルコニアまたはジルコンが好ましい。
なお、分散後の顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器などにより求めることができる。
1-1-4.リン酸エステル化合物
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、リン酸エステル化合物を含むことが好ましい。リン酸エステル化合物としては、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物であることがより好ましい。
Figure 2022014128000002
(式(1)中、Rは炭素数が1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、nは1または2である)
上記一般式(1)で表されるリン酸エステルの例には、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、n-プロピルアシッドホスフェート、n-ブチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、n-オクチルアシッドホスフェート等が含まれる。
また、上記Rは炭素数が1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることがより好ましく、炭素数が1~4の直鎖のアルキル基であることがさらに好ましい。上記炭素数が1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であると、上記リン酸エステル化合物は親水性であるため、水性のインクジェットインクおよび水性の前処理液に相溶しやすいので、架橋促進剤として作用して、塗膜(画像)中の顔料または顔料分散剤由来のカルボン酸を低減させ、耐水性を有する塗膜を形成することができる。
また、上記インクジェットインクの全質量に対する、上記リン酸エステル化合物の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上2.5質量%以下であることがさらに好ましい。上記リン酸エステル化合物の含有量が、5.0質量%以下であると、予期せぬ副反応と考えられるインクジェットインク中の色材成分が凝集するのを抑制し、インクジェットインクの保存安定性を向上させる。また、インクジェットインクに架橋剤が含まれる場合であっても、上記リン酸エステル化合物は界面活性剤として作用し得るので、インクの濡れ広がりを向上させて、良好な画像品質を有する画像を形成し得る。
1-1-5.有機溶剤
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、有機溶剤を含むことが好ましい。上記有機溶剤としては、グリコール類およびアルカンジオール類を含むことがより好ましい。
(グリコール類)
グリコール類の例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリブチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびソルビトールを含む多官能グリコールなどが含まれる。
(アルカンジオール類)
アルカンジオール類の例には、1,2-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジブチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが含まれる。
また、有機溶剤として、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert-ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコール、1-メトキシ-1-プロパノール、3-メトキシ-1-ブタノール、シクロヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、3-フェニルプロパノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリブチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびソルビトールを含む多官能グリコールメタノールなどを含むことができる。
上記有機溶剤は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
上記有機溶剤の沸点は250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましい。上記有機溶剤の沸点が250℃以下であると、乾燥性が早いので高速印刷に対応しやすい。
上記有機溶剤の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して、10.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下であることがより好ましい。有機溶剤の含有量が水性インクジェットインクの全質量に対して10.0質量%以上50.0質量%以下であることにより、吐出安定性に優れ、かつ、インクジェットインクの濡れ性も向上させることができる。
1-1-6.界面活性剤
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、界面活性剤を含むことができる。上記界面活性剤の例には、リン酸エステル化合物以外のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性、ベタイン界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤などが含まれる。
上記界面活性剤は、上記水性インクジェットインクの全質量に対して0.001質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
1-1-7.その他の成分
インクジェットインクは、pH調整剤、油滴微粒子、紫外線吸収剤、退色防止剤、蛍光増白剤、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防ばい剤、防錆剤などを含有してもよい。これらの成分は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。また、インクジェットインクに含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、または純水であってもよい。
1-2.前処理液
本発明の一実施の形態に係る前処理液は、少なくとも樹脂を含む。上記樹脂は、水不溶性樹脂であることが好ましい。「水不溶性樹脂」とは、弱酸性または弱塩基性の範囲の水に対して不溶な樹脂であり、好ましくは、pH4~10(25℃)の水溶液に対する溶解度が0.5%以下の樹脂のことをいう。
1-2-1.樹脂
上記樹脂の例には、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアクリル樹脂、が含まれる。上記樹脂の中では、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂であることが好ましい。
(ウレタン樹脂)
水不溶性樹脂に含有されるウレタン樹脂としては、親水基を有するものが用いられる。上記親水基の例には、カルボキシ基(-COOH)およびその塩、スルホン酸基(-SOH)およびその塩等が含まれる。上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アミン塩等が含まれる。上記親水基の中では、カルボキシ基またはその塩が好ましい。
ウレタン樹脂は、分子内に水溶性官能基を有する自己乳化型ポリウレタンを分散させた水分散体、または界面活性剤を併用して強力な機械剪断力の下で乳化した強制乳化型ポリウレタンの水分散体であることが好ましい。上記水分散体におけるポリウレタン樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネートおよび親水基含有化合物との反応により得ることができる。
上記ウレタン樹脂の水分散体の調製に使用し得るポリオールの例には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオールなどが含まれる。
ポリエステルポリオールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-および1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-および1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオール;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフラン酸、エンドメチンテトラヒドロフラン酸、ヘキサヒドロフタル酸などの多価カルボン酸との縮合物が含まれる。
ポリエーテルポリオールの例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンポリテトレメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが含まれる。
ポリカーボネートポリオールの例には、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはホスゲン等の炭酸誘導体と、ジオールとの反応により得ることができる。上記ジオールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-および1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノールなどが含まれる。
また、ウレタン樹脂の水分散体の調製に使用し得る有機ポリイソシアネートの例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI、H12MDI)などの脂環式イソシアネートが含まれる。これらは、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
また、ウレタン樹脂の水分散体の調製に使用し得る親水基含有化合物の例には、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、グリシンなどのカルボン酸含有化合物、およびそのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体;タウリン(即ち、アミノエチルスルホン酸)、エトキシポリエチレングリコールスルホン酸などのスルホン酸含有化合物、およびそのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩等の誘導体が含まれる。
ウレタン樹脂は、公知の方法により得ることができる。たとえば、上述したポリオールと有機ポリイソシアネートと、親水基含有化合物とを混合し、30~130℃で30分~50時間反応させることにより、ウレタンプレポリマーを得ることができる。
上記ウレタンプレポリマーは、鎖伸長剤により伸長してポリマー化することで、親水基を有するポリウレタン樹脂となる。鎖伸長剤としては、水および/またはアミン化合物であることが好ましい。鎖伸長剤として水やアミン化合物を用いることにより、遊離イソシアネートと短時間で反応して、イソシアネート末端プレポリマーを効率よく伸長させることができる。
鎖伸長剤としてのアミン化合物の例には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン;メタキシレンジアミン、トルイレンジアミンなどの芳香族ポリアミン;ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド等のポリヒドラジノ化合物等が含まれる。上記アミン化合物には、上記ポリアミンとともに、ポリマー化を大きく阻害しない程度で、ジブチルアミンなどの1価のアミンやメチルエチルケトオキシム等を反応停止剤として含んでいてもよい。
なお、ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネートと不活性であり、ウレタンプレポリマーを溶解しうる溶媒を用いてもよい。これらの溶媒の例には、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が含まれる。反応段階で使用されるこれらの親水性有機溶剤は、最終的に除去されるのが好ましい。
また、ウレタンプレポリマーの合成においては、反応を促進させるために、アミン触媒(例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルフォリン、トリエチルジアミン等)、スズ系触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等)、チタン系触媒(例えば、テトラブチルチタネート等)などの触媒を添加してもよい。
ウレタン樹脂の分子量は、分岐構造や内部架橋構造を導入して可能な限り大きくすることが好ましく、分子量50000~10000000であることが好ましい。分子量を上記範囲内にすることにより、ウレタン樹脂が溶剤に溶けにくくなるので、耐候性、耐水性に優れた塗膜が得られるからである。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば、株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。
また、ウレタン樹脂は市販品を用いてもよい。上記ウレタン樹脂の市販品の例には、WBR-016U(大成ファインケミカル株式会社製)、スーパーフレックス620、スーパーフレックス650、スーパーフレックス500M、スーパーフレックスE-2000(いずれも第一工業製薬株式会社製、「スーパーフレックス」は同社の登録商標)、パーマリンUC-20(三洋化成工業株式会社製、「パーマリン」は同社の登録商標)、パラサーフUP-22(大原パラヂウム化学株式会社製)などが含まれる。
(ポリエステル樹脂)
本発明においては、水不溶性樹脂微粒子としてポリエステル樹脂を用いてもよい。上記ポリエステル樹脂は、多価アルコール成分と多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸エステル等の多価カルボン酸成分とを用いて得ることができる。
多価アルコール成分の例には、炭素数2~36のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等)、炭素数4~36のアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等)、炭素数6~36の脂環式ジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等)、上記脂環式ジオールの炭素数2~4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド(以下、EOと略記する)、プロピレンオキシド(以下、POと略記する)、ブチレンオキシド(以下、BOと略記する))付加物(付加モル数1~30)またはビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)の炭素数2~4のアルキレンオキシド(EO、PO、BO等)付加物(付加モル数2~30)等が含まれる。これらの多価アルコール成分は1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
多価カルボン酸成分の例には、炭素数4~36のアルカンジカルボン酸(コハク酸、アピジン酸、セバシン酸等)、アルケニルコハク酸(ドデセニルコハク酸等)、炭素数4~36の脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸(2量化リノール酸)等)、炭素数4~36のアルケンジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸等)、または炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸またはこれらの誘導体、ナフタレンジカルボン酸等)等が含まれる。これらの多価カルボン酸成分は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
上記ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、1000~50000であることが好ましく、2000~20000であることがより好ましい。上記ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上であると、塗膜の凝集力が強くなり、密着性が向上し、50000以下であると、有機溶剤に対する溶解性が良く、乳化分散体の粒子径の微小化が促進されるからである。なお、数平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば、株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。
また、上記ポリエステル樹脂としては、市販品を用いてもよい。上記ポリエステル樹脂の市販品の例には、エリーテルKA-5034、エリーテルKA-5071S、エリーテルKA-1449、エリーテルKA-0134、エリーテルKA-3556、エリーテルKA-6137、エリーテルKZA-6034、エリーテルKT-8803、エリーテルKT-8701、エリーテルKT-9204、エリーテルKT-8904、エリーテルKT-0507、エリーテルKT-9511(いずれもユニチカ株式会社製、「エリーテル」は同社の登録商標)などが含まれる。これらは、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
(ポリオレフィン樹脂)
前処理液に含有するポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンおよび/またはプロピレンと他のコモノマー(例えば、炭素数が2以上である1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、炭素数が2~6のα-オレフィンコモノマー)とのランダム共重合体またはブロック共重合体(例えば、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体など)を用いることができる。また、上記他のコモノマーを2種類以上共重合したもの、および上記ポリマーを2種以上混合したものを用いることもできる。
また、上記ポリオレフィン樹脂は市販品を用いてもよい。上記ポリオレフィン樹脂の市販品の例にはアローベースSB-1200(ユニチカ株式会社製、「アローベース」は同社の登録商標)、アウローレン150A、アウローレンAE-301(日本製紙株式会社製、「アウローレン」は同社の登録商標)、スーパークロンE-415(日本製紙株式会社製、「スーパークロン」は同社の登録商標)、ハードレンNa-1001(東洋紡株式会社製、「ハードレン」は同社の登録商標)等が含まれる。
(ポリアクリル樹脂)
本発明においては、水不溶性樹脂微粒子としてポリアクリル樹脂を用いてもよい。上記ポリアクリル樹脂はアクリル酸エステル成分、メタクリル酸エステル成分、またスチレン成分等との共重合体を用いて得ることができる。
また、上記ポリアクリル樹脂としては、市販品を用いてもよい。上記ポリアクリル樹脂の市販品の例には、デルペット60N、80N(旭化成株式会社製、「デルペット」は同社の登録商標)、ダイヤナールBR52、BR80、BR83、BR85、BR88(三菱ケミカル株式会社製、「ダイヤナール」は同社の登録商標)、KT75(デンカ株式会社製)、またはビニブラン2680、2682、2684、2685(日信化学工業株式会社製、「ビニブラン」は同社の登録商標)などのアクリル系エマルジョン等が含まれる。
また、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂が樹脂の一部分を形成している複合樹脂を用いてもよい。複合樹脂の例にはウレタンアクリル樹脂などがあり、市販品の例には、WEM-202U(大成ファインケミカル株式会社製)などが含まれる。
上記樹脂の含有量は、前処理液の全質量に対して、1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上20.0質量%以下であることがより好ましい。
上記樹脂を含む前処理液を用いることにより、低吸収性記録媒体および非吸収性記録媒体への密着性を向上させることができる。
1-2-2.顔料凝集剤
本発明の一実施の形態に係る前処理液には、顔料凝集剤を含むことが好ましい。「顔料凝集剤」とはインクに含まれる顔料を凝集させる化合物のことをいう。
顔料凝集剤の例には、多価金属塩、有機酸およびカチオンポリマーが含まれる。上記顔料凝集剤の中では、多価金属塩および有機酸であることが好ましい。
(多価金属塩)
多価金属塩の例には、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、および亜鉛塩などの水溶性の塩が含まれる。多価金属塩は、塩析によって上記水系のインクジェットインク中のアニオン性の成分(アニオン性樹脂のエマルジョンなど)を凝集させることができる。
(有機酸)
有機酸の例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、フマル酸、グルタル酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、乳酸、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、ならびにアクリルアミドおよびその誘導体などを含むカルボキシ基を有する化合物、スルホン酸誘導体、ならびに、リン酸およびその誘導体などが含まれる。有機酸は、インクジェットインク中に含まれる顔料を凝集させることができる。また、有機酸は、pH変動によって水系のインクジェットインク中のアニオン性の成分(アニオン性樹脂のエマルジョンなど)を凝集させることができる。
(カチオンポリマー)
カチオンポリマーの例には、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ポリアリルアミン重合体、ポリビニルアミン重合体、およびポリエチレンイミン重合体などが含まれる。カチオンポリマーは、インクジェットインク中のアニオン性の成分(アニオン性樹脂のエマルジョンなど)を凝集させることができる。
上記顔料凝集剤の含有量は、前処理液の全質量に対して0.5質量%以上8.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。上記顔料凝集剤の含有量は、前処理液の全質量に対して、0.5質量%以上であると、前処理液上でインク液滴中の顔料凝集を促進して画像品質を良好にできる。また、前処理液の全質量に対して、8.0質量%以下であると、前処理液中の樹脂の凝集沈降など予期せぬ副反応を抑制することができる。なお、上記顔料凝集剤として有機酸を用いるときは、含有量は前処理液のpHを有機酸の第1解離定数未満(例えば3.5以下)に調整できる量であることが好ましい。
前処理液が上記凝集剤を含むことにより、前処理液の表面に付与されたインクジェットインク中の色材成分を凝集させることができるので、形成される画像の滲みを抑制することができる。とくに、上記多価金属塩および有機酸は、低分子量であることから、水系のインクジェットインクに拡散しやすいので、インクジェットインク中の色材成分をより高速に凝集させることができる。そのため、本発明のインクジェットインクは、高速印刷をした場合であっても、インクジェットインクのピニング性を向上させることができるので、良好な画像品質を有する画像を得ることができる。
顔料凝集剤の含有量は、公知の方法で測定することができる。たとえば、顔料凝集剤が多価金属塩であるときはICP発光分析で測定することができ、顔料凝集剤が有機酸であるときは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定することができ、顔料凝集剤がカチオンポリマーであるときはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
1-2-3.リン酸エステル化合物
本発明の一実施の形態に係る前処理液は、上述のインクジェットインクと同様に、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物を含むことができる。
Figure 2022014128000003
(式(1)中、Rは炭素数が1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、nは1または2である)
上記前処理液における、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物の含有量は、前処理液の全質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下であることがさらに好ましい。
また、上述のインクジェットインクに含まれるリン酸エステル化合物の質量と上述の前処理液に含まれるリン酸エステル化合物の質量との合計は、上記インクジェットインクの全質量および上記前処理液の全質量の合計量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上4.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。上記リン酸エステル化合物の質量の合計が、上記インクジェットインクの全質量および上記前処理液の全質量の合計量に対して、0.1質量%以上であると、上記一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物が、塗膜(画像)形成時に生成する顔料または顔料分散剤から生成するカルボン酸と架橋剤との反応を促進させることができる。そのため、塗膜(画像)中の顔料または顔料分散剤由来のカルボン酸を低減できるので、水と塗膜(画像)が接触しても塗膜が膨潤しにくくなり、耐水性が向上する。また、上記インクジェットインクの全質量および上記前処理液の全質量の合計量に対して、5.0質量%以下であると、リン酸エステル化合物が副反応を引き起こさずに、架橋促進剤として作用して、十分に架橋反応を促進させるので、低吸収性記録媒体および非吸収性記録媒体への密着性を高める。
1-2-4.界面活性剤
本発明の実施形態に係る前処理液は、界面活性剤を含むことができる。上記界面活性剤の例には、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性、ベタイン界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤などが含まれる。
1-2-5.水、その他の成分
前処理液は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他、架橋剤、防かび剤、殺菌剤等をさらに含むことができる。また、前処理液に含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、または純水であってもよい。
2.記録媒体
本発明の実施形態において、使用できる記録媒体の種類は限定されず、吸収性記録媒体、低吸収性記録媒体、および非吸収性記録媒体に使用することができる。本発明では、低吸収性記録媒体、および非吸収性記録媒体を用いたときに顕著な効果を奏する。
上記吸収性記録媒体の例には、薄紙から厚紙までの普通紙、中質紙、上質紙、再生紙が含まれる。
本発明でいう低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体とは、下記に示す記録媒体面の水に対する濡れ性の測定結果に基づき定義する。
すなわち、記録媒体の記録面に0.5μLの水滴を滴下し、接触角の低下率(着弾後0.5ミリ秒における接触角と5秒における接触角の比較)を測定することによって記録媒体の吸収性能の特徴付けを行う。より具体的には、記録媒体の性質としての、非吸収性記録媒体とは上記接触角の低下率が1.0%未満の特性を有する記録媒体のことであり、低吸収性記録媒体とは上記接触角の低下率が1.0%以上、5.0%未満の特性を有する記録媒体のことである。また、吸収性とは上記接触角の低下率が5.0%以上である記録媒体と定義する。接触角は、例えば、ポータブル接触角計「PCA-1」(協和界面科学株式会社製)を用いて測定することができる。
上記低吸収性記録媒体の例には、アート紙、コート紙、キャストコート紙などの塗工された印刷用紙が含まれる。
また、非吸収性記録媒体の例には、フィルムなどが含まれる。
上記フィルムには、公知のプラスチックフィルムが含まれる。上記プラスチックフィルムの例には、ポリエステル(PET)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ナイロン(NY)フィルム、ポリスチレン(PS)フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリアクリル酸(PAA)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、およびポリ乳酸フィルムなどの生分解性フィルムなどが含まれる。
ガスバリアー性、防湿性および保香性などを付与するために、フィルムの片面または両面にポリ塩化ビニリデンがコートされていてもよいし、金属酸化物が蒸着されていてもよい。また、フィルムには防曇加工が施されていてもよい。また、フィルムにはコロナ放電およびオゾン処理などが施されていてもよい。
また、上記フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよいし、紙などの吸収性の記録媒体の表面にPVAコートなどの層を設けて、記録をすべき領域を非吸収性とした、多層性の記録媒体でもよい。
3.画像形成方法
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法は、前述のインクジェットインクおよび前述の前処理液を含むインクジェット記録液セットを用いた画像形成方法である。具体的には、記録媒体上に、前処理液を付与する前処理液付与工程と、前処理液が付与された表面に、インクジェットインクを付与するインク付与工程と、上記前処理液の表面に付与されたインクジェットインクを乾燥させるインク乾燥工程と、を有する。
3-1.前処理液付与工程
前処理液付与工程は、記録媒体上に前処理液を付与する工程である。
記録媒体の種類は、上述の吸収性記録媒体、低吸収性記録媒体、および非吸収性記録媒体に使用することができる。
上記前処理液は、上述の前処理液である。
低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体への前処理液の付与方法は、特に限定されないが、例えば、ローラー塗布法、カーテン塗布法、スプレー塗布法、インクジェット法などがある。中でも、粘度が比較的高い場合であっても効率よく付与できる観点などから、ローラー塗布法が好ましい。なお、ローラー塗布法においては、ローラー塗布機などをインクジェット装置に連結して用いることができる。
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法は、インク付与工程(後述)の前に、前処理液を乾燥させる工程を有していてもよい。
前処理液の乾燥は、前処理液の溶媒成分である水や水溶性有機溶剤などを除去しつつ、前処理液に含まれる樹脂粒子が完全には融着しないような条件で乾燥を行うことが好ましい。前処理液の乾燥温度は、例えば、50℃以上100℃以下としうる。前処理液の乾燥時間は、例えば、3秒以上30秒以下としうる。
前処理液の乾燥は、例えば、乾燥炉や熱風送風機などのような非接触加熱型の乾燥装置を用いて行ってもよいし、ホットプレートや熱ローラーなどのような接触加熱型の乾燥装置を用いて行ってもよい。
乾燥温度は、(a)乾燥炉や熱風送風機等のような非接触加熱型の乾燥装置を用いる場合には、炉内温度または熱風温度などのような雰囲気温度、(b)ホットプレートや熱ローラーなどのような接触加熱型の乾燥装置を用いる場合には、接触加熱部の温度、あるいは、(c)被乾燥面の表面温度から選ばれるいずれか1つを前処理液の乾燥の全期間において測定することで得ることができ、測定場所としては(c)被乾燥面の表面温度を測定することがより好ましい。
記録媒体上に付与される前処理液の厚みは、0.3μm以上3.0μm以下であることが好ましく、前処理液の厚みは、0.5μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。前処理液の厚みが0.3μm以上であると、インクの滲みを抑制しつつ、画像の密着性やラミネート強度を高めやすい。前処理液の厚みが3.0μm以下であると、水分や熱による変形応力を低減できるので、画像の密着性やラミネート強度が損なわれにくい。
3-2.インク付与工程
インク付与工程は、前処理液が付与された表面に、インクジェット記録液セットのインクジェットインクを、インクジェット法により付与する工程である。
上記インクジェットインクは、少なくとも顔料、架橋剤および水を含む。
上記架橋剤は、水性のインクジェットインクに用いることができれば、特に制限されないが、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキサゾリン化合物およびカルボジイミド化合物からなる群から選択されることが好ましい。
上記顔料は、公知の有機および無機顔料を用いることができる。また、水に自己分散可能な顔料(自己分散顔料)を用いることもできる。
また、上記インクジェットインクは、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物を含んでもよい。インクジェットインク中に、適量の上記リン酸エステル化合物を含有することにより、インクジェットインクの保存安定性が向上する。
インクジェット法は、特に制限されず、インクを装填したインクジェットヘッドを備えるプリンタを用いることができる。具体的には、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドのノズルからインクを液滴として吐出させ、これをフィルム基材のプライマー層上に着弾させて印字を行うことができる。
上記インクジェットヘッドは、オンデマンド方式およびコンティニュアス方式のいずれのインクジェットヘッドでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドの例には、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型を含む電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(「バブルジェット」はキヤノン株式会社の登録商標)型を含む電気-熱変換方式等が含まれる。
上記インクジェットヘッドの中では、電気-機械変換方式に用いられる電気-機械変換素子として圧電素子を用いたインクジェットヘッド(ピエゾ型インクジェットヘッドともいう)であることが好ましい。
また、インクジェットヘッドは、スキャン式およびライン式のいずれのインクジェットヘッドでもよいが、ライン式であることが好ましい。
ライン式のインクジェットヘッドとは、印字範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドのことをいう。ライン式のインクジェットヘッドとしては、一つのヘッドで印字範囲の幅以上であるものを用いてもよいし、複数のヘッドを組み合わせて印字範囲の幅以上となるように構成してもよい。
また、複数のヘッドを、互いのノズルが千鳥配列となるように並設して、これらヘッド全体としての解像度を高くしてもよい。
記録媒体の搬送速度は、例えば、1~120m/minで設定することができる。搬送速度が速いほど画像形成速度が速まる。本発明によれば、シングルパスのインクジェット画像形成方法で適用可能な、線速50~120m/minという非常に速い線速でもインクの定着性の高く、良好な画像品質を有する画像を得ることができる。
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法は、上記インク付与工程の後に前処理液の表面に付与されたインクを乾燥させる工程を有していてもよい。
上記インクの乾燥は、主にインクの溶媒成分である水や有機溶剤などを除去する。インクの乾燥温度は、例えば、50℃以上100℃以下としうる。インクの乾燥時間は、例えば、3秒以上30秒以下としうる。
上記インクの乾燥は、前述した前処理液の乾燥と同様の方法で行うことができる。また、インクの乾燥温度も、前述した前処理液の乾燥温度と同様に測定することができる。
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法は、ロール状に収納されるフィルムに対して行うことができる。
なお、本発明の一実施の形態に係る画像形成方法を用いて形成された塗膜(画像)中に残存するカルボン酸およびリン酸エステル化合物は、例えば、X線光電子分光法(XPS)で確認することができる。
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法において形成される画像は、前述のインクジェットインクおよび前述の前処理液のいずれか一方が、リン酸エステル化合物を含むことにより、塗膜(画像)形成時に生成する顔料または顔料分散剤から生成するカルボン酸と架橋剤との反応を促進させて、塗膜(画像)中の顔料または顔料分散剤由来のカルボン酸を低減するので、水と塗膜(画像)が接触しても塗膜が膨潤しにくくなり、耐水性が向上する。また、リン酸エステル化合物が副反応を引き起こさずに、架橋促進剤として作用して、架橋反応を進行させるので低吸収性記録媒体および非吸収性記録媒体への密着性の高い画像を得ることができる。
4.画像形成装置
本発明に係る画像形成装置100は、図1に示すように、インクジェット記録液セットのインクジェットインクの液滴を吐出して記録媒体110上の領域に着弾させるインクジェットヘッドを有するヘッドキャリッジ120、記録媒体110に前処理液を付与するための前処理液付与部130を有する。画像形成装置100は、記録媒体110の表面に付与された前処理液を乾燥させる乾燥器140および前処理液の表面に付与されたインクジェットインクを乾燥させる乾燥器150をさらに有していてもよい。
図1では、記録媒体110の搬送方向(図中矢印方向)に沿って上流側から、前処理液付与部130、ヘッドキャリッジ120がこの順に配置されているが、これらの配置順はこの順番に限定されず、任意に設定できる。
ただし、前処理液付与部130、ヘッドキャリッジ120はこの順に配置されることが好ましい。
ヘッドキャリッジ120は、例えば、4つのインクジェットヘッド121を搭載しており、それぞれのインクジェットヘッド121が有するノズル122からは、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックのインクを吐出して記録媒体110のインクジェットインクの液滴を着弾させるべき領域に着弾させる。
前処理液付与部130は、インクジェットインクの液滴が着弾される記録媒体110上の領域よりも広い領域に、前処理液を付与できる構成であればよい。たとえば、前処理液付与部130は、塗布ローラー131に前処理液を供給するディスペンサー132と、供給された前処理液をフィルム状に塗布する塗布ローラー131と、を含む構成とすることができる。
なお、前処理液付与部130の構成はこれに限定されず、インクジェットヘッド121から前処理液をそれぞれ吐出して記録媒体110上に着弾させる構成であってもよい。
乾燥器140および150は、熱風を吹き付ける温風ドライヤー、および赤外線または電離放射線を照射する照射器などの公知の乾燥器とすることができる。乾燥器140は、前処理液付与部130の下流かつヘッドキャリッジ120の上流に設けられて、インクジェットインクの液滴の吐出前に前処理液を乾燥させる。また、乾燥器150は、ヘッドキャリッジ120の下流に設けられて、インクジェットインクの液滴の吐出後に当該インクジェットインクを乾燥させる。
本発明を以下の試験を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験に限定されない。
1.インクの調製
1-1.顔料分散液1の調製
CAB-O-JET 300(キャボット社製、15%分散液)を顔料分散液1とした。
1-2.顔料分散液2の調製
18.0質量%の顔料(ピグメントブルー15:3)と、27.0質量%の顔料分散剤(水酸化ナトリウム中和されたカルボキシ基を有するアクリル系分散剤「ジョンクリル819」(酸価:75.0mgKOH/g、固形分:20.0質量%、BASF社製、「ジョンクリル」は同社の登録商標)と、20.0質量%のエチレングリコールと、イオン交換水(残量:全量が100質量%となる量)と、の混合液をプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて6時間分散して、顔料固形分が18.0%の顔料分散液2を得た。
1-3.インクジェットインクI-1の調製
17.0質量%の顔料分散液1と、10.0質量%の1,2-ブタンジオール(A-1)と、20.0質量%のプロピレングリコール(A-2)と、10.0質量%の1,4-ブタンジオール(A-3)と、15.0質量%のエポキシ化合物(B-1)と、0.05質量%の添加剤(C-1)と、1.0質量%の界面活性剤(D)と、27.0質量%のイオン交換水と、を撹拌しながら添加し、得られた混合液を1μmのメンブレンフィルターにより濾過してインクジェットインクI-1を得た。
1-4.インクジェットインクI-2~I-19の調製
表1および表2に、インクジェットインクI-1、およびI-2~I-19の各成分の含有量(単位は質量%)を示す。
表1および表2で示される各略号は次のとおりである。
(有機溶剤)
A-1:1,2-ブタンジオール
A-2:プロピレングリコール
A-3:1,4-ブタンジオール
(架橋剤)
B-1:エポキシ化合物(デナコールEX-850、ナガセケムテックス株式会社製、「デナコール」は長瀬産業株式会社の登録商標)
B-2:オキサゾリン化合物(エポクロス WS-300(株式会社日本触媒製、「エポクロス」は同社の登録商標)
B-3:ビニルエーテル化合物(TEGDVE、日本カーバイド工業株式会社製)
B-4:カルボジイミド化合物(カルボジライト V-02(日清紡ケミカル株式会社製、「カルボジライト」は同社の登録商標)
(添加剤)
C-1:リン酸エステル化合物1(リン酸エステル型アニオン界面活性剤(ポリオキシプロピレン アルキルエーテルホスフェート塩)、ニューコール 1000-FCP、日本乳化剤株式会社製、「ニューコール」は同社の登録商標)
C-2:リン酸エステル化合物2(一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物(2つのRの炭素数はいずれも2)、Phoslex A-2、SC有機化学株式会社製)
C-3:リン酸エステル化合物3(一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物(2つのRの炭素数はいずれも8)、Phoslex A-8、SC有機化学株式会社製)
C-4:硫酸エステル化合物(アルスコープ NS-230、東邦化学工業株式会社製、「アルスコープ」は同社の登録商標)
(界面活性剤)
D:シリコーン系界面活性剤(BYK-333、ビックケミー社製)
Figure 2022014128000004
Figure 2022014128000005
2.前処理液の調製
次に、前処理液の調製を以下のとおりに行った。
2-1.前処理液P-1の調製
下記に示す各成分を撹拌しながら順次添加した後、5.0μmのフィルターにより濾過して前処理液P-1を得た。なお、濾過前後で、実質的な組成変化はなかった。
樹脂(E-1) 18.0質量%
顔料凝集剤(F-1) 4.0質量%
界面活性剤(H) 1.0質量%
イオン交換水 77.0質量%
2-2.前処理液P-2~P-10の調製
表3に、前処理液P-1およびP-2~P-10の各成分の含有量(単位は質量%)を示す。
表3で示される各略号は次のとおりである。
(樹脂)
E-1:エリーテル KT-0507(ポリエステル樹脂、ユニチカ株式会社製)
E-2:WBR-016U(ウレタンエマルジョン、大成ファインケミカル株式会社製)
(顔料凝集剤)
F-1:カチオンポリマー(PAS-H-1L、ニットーボーメディカル株式会社製)
F-2:有機酸(グルタル酸)
F-3:多価金属塩(塩化カルシウム)
(添加剤)
G-1:リン酸エステル化合物1(アニオン界面活性剤(ポリオキシプロピレン アルキルエーテルホスフェート塩)、ニューコール 1000-FCP)
G-2:リン酸エステル化合物2(一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物(2つのRの炭素数はいずれも2)、Phoslex A-2)
G-3:リン酸エステル化合物3(一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物(2つのRの炭素数はいずれも8)、Phoslex A-8)
G-4:硫酸エステル化合物(アルスコープ NS-230、東邦化学工業株式会社製、「アルスコープ」は同社の登録商標)
(界面活性剤)
H:シリコーン系界面活性剤(KF-351A、信越化学工業株式会社製)
Figure 2022014128000006
2-3.評価用の画像形成
評価用の画像1~30は、以下の方法で形成した。
(前処理液の付与方法)
前処理液P-1~P-10をバーコーター#10を用いて、記録媒体(OPPフィルム(商品名:FOS、フタムラ株式会社製))上に付与し、その後60℃で5分間乾燥させ、厚さ3.2μmの樹脂層を有する記録媒体を作製した。
(画像形成方法)
インクジェットインクI-1~I-19を、ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録ヘッドを有するインクジェット記録装置(コニカミノルタ株式会社製、360dpi、吐出量14pL)の独立駆動ヘッド二つをノズルが互い違いになるように配置し、720dpi×720dpiのヘッドモジュールを作成し、ステージ搬送機上に、搬送方向にノズル列が直交するように設置した。ヘッドモジュールのインクジェットに、インクジェットインクI-1~I-19を充填し、ステージ搬送機によって搬送される基材表面に形成された樹脂層上にシングルパス方式でベタ画像を記録できるようにインクジェット記録装置を構成した。上記ヘッドを用いて、インク付量が11.2cc/mである720dpi×720dpiのベタ画像が形成されるように、インクジェットインクの液滴を吐出した。
4.評価
4-1.画質評価
(評価方法)
上記方法で作製した画像を目視にて評価を行った。なお、下記評価においては、△以上が実用上好ましいと判断した。
(評価基準)
◎:インクの濡れ性が非常に良好で、濃度ムラがなく均一な画像で、インクの抜けが観察されない良好な画像
○:インクの濡れ性が良好で、濃淡が異なる箇所があるが、インクの抜けが観察されない実用上許容可能な画像
△:インクの濡れ性がわずかに足りず、インクの抜け落ちている箇所があり、僅かに白抜けが発生している画像
×:インクの濡れ性が十分でなく、画像中にインクが抜け落ちている箇所が多く存在し、白抜けが目立つ画像
4-2.インクの保存安定性評価
(評価方法)
インクジェットインクI-1~I-19を60℃、1週間の条件でサーモ保存した後に、マルバルーン社製の「ゼータサイザ1000HS」を用いて平均粒子径を測定した。得られた平均粒子径と保存前の平均粒子径から粒径増加率を算出し、下記の基準に基づいて評価した。
(評価基準)
評価は下記基準で行った。なお、下記評価においては、△以上が実用上好ましいと判断した。
◎:平均粒子径の増加率が120%以下
○:平均粒子径の増加率が120%以上140%未満
△:平均粒子径の増加率が140%以上160%未満
×:平均粒子径の増加率が160%以上
4-3.基材密着性評価
(評価方法)
上記記録方法で作成したベタ画像に1mm間隔で5×5の碁盤目状にカッターで切れ込みを入れ、クロスカット法によるテープ剥離試験を行った。
(評価基準)
評価は下記基準で行った。なお、下記評価においては、△以上が実用上好ましいと判断した。
◎:テープによる剥がれがない
○:碁盤目状の切れ込み1マス以上3マス未満の剥がれはあるが実用上許容できるレベル
△:碁盤目状の切れ込み3マス以上6マス未満の剥がれはあるが良好なレベル
×:碁盤目状の切れ込み6マス以上の剥がれがあり実用上許容できないレベル
4-4.耐水性評価
(評価方法)
インクジェットインクI-1~I-19、および前処理液P-1~P-10を用いて作成した画像1~30を40℃で3日保管したのち、ベタ部分が切断端面となるようにして10cm×1cmの短冊状に切断して試験片とした。試験片を熱水30分処理し、処理後の試験片の様子を目視で確認した。
(評価基準)
評価は下記基準で行った。なお、下記評価においては、△以上が実用上好ましいと判断した。
◎:試験片に全く剥がれがない
○:試験片に一部剥がれが生じているが、大きな剥がれはない
△:試験片に大きな剥がれが生じている
×:試験片フィルムから画像部分が全て剥がれ落ちている
インクジェットインクI-1~I-19、および前処理液P-1~P-10を用いて形成した画像1~30の各種評価の結果を表4および表5に示す。
Figure 2022014128000007
Figure 2022014128000008
表4および表5に示されるように、顔料凝集剤を含む前処理液の表面にリン酸エステル化合物を含むインクジェットインクを付与することにより、良好な画像品質を有する画像を形成できることがわかった。とくに、顔料凝集剤として、有機酸または多価金属塩を用いることにより、顕著な効果をする。これは、上記多価金属塩および有機酸は、低分子量であることから、水系のインクジェットインクに拡散しやすいので、インクジェットインク中の色材成分をより高速に凝集させることができるためであると考えられる。
また、リン酸エステル化合物を0.1質量%以上10.0質量%以下含むインクジェットインクの保存安定性が向上することがわかった。これは、リン酸エステル化合物を10.0質量%以下とすることにより、予期せぬ副反応と考えられるインクジェットインク中の色材成分が凝集するのを抑制することができるためであると考えられる。
架橋剤として、オキサゾリン化合物を含むインクジェットインクを用いることにより、記録媒体(基材)への密着性が向上することがわかった。これは、オキサゾリン化合物が親水性であることから水溶性液体中での安定性が高いため、インクジェットインクの保存安定性を低下しにくいためであると考えられる。
リン酸エステル化合物を含むインクジェットインクと、リン酸エステル化合物を含む前処理液を用いて塗膜を形成することにより、形成された塗膜の耐水性が向上することがわかった。これは、上記リン酸エステル化合物が、塗膜形成時の架橋反応を促進させて、塗膜形成時に生成する顔料または顔料分散剤から生成するカルボン酸と架橋剤とを効率的に反応させるので、塗膜(画像)中に顔料または顔料分散剤由来のカルボン酸を低減し、水と塗膜が接触しても塗膜が膨潤しにくくするためであると考えられる。
本発明のインクジェット記録液セットによれば、インクジェット法による印刷の適用の幅を広げ、同分野の技術の進展および普及に貢献することが期待される。
100 画像形成装置
110 記録媒体
120 ヘッドキャリッジ
121 インクジェットヘッド
122 ノズル
130 前処理液付与部
131 塗布ローラー
132 ディスペンサー
140、150 乾燥器

Claims (12)

  1. インクジェットインクと前処理液とを含むインクジェット記録液セットであって、
    前記インクジェットインクは、少なくとも架橋剤、顔料および水を含み、
    前記前処理液は、少なくとも樹脂を含み、
    前記インクジェットインクおよび前記前処理液のいずれか一方は、リン酸エステル化合物を含む、
    インクジェット記録液セット。
  2. 前記架橋剤は、ビニルエーテル化合物、オキサゾリン化合物およびカルボジイミド化合物からなる群から選択される、請求項1に記載のインクジェット記録液セット。
  3. 前記インクジェットインクに含まれる前記リン酸エステル化合物の質量と前記前処理液に含まれる前記リン酸エステル化合物の質量との合計は、前記インクジェットインクの全質量および前記前処理液の全質量の合計量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下である、請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録液セット。
  4. 前記前処理液は、前記リン酸エステル化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
  5. 前記架橋剤の含有量は、前記インクジェットインクの全質量に対して0.1質量%以上15.0質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
  6. 前記インクジェットインクは、顔料および顔料分散剤を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
  7. 前記インクジェットインクは、顔料を含み、
    前記前処理液は、顔料凝集剤を含む、
    請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
  8. 前記リン酸エステル化合物は、下記一般式(1)で表される、請求項1~7のいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
    Figure 2022014128000009
    (式(1)中、Rは炭素数が1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、nは1または2である)
  9. 記録媒体の表面に、前処理液を付与する前処理液付与工程と、
    前記前処理液が付与された表面に、インクジェットインクを付与するインク付与工程と、
    を有し、
    前記インクジェットインクおよび前記前処理液のいずれか一方は、リン酸エステル化合物を含む、
    画像形成方法。
  10. 前記インクジェットインクに含まれる前記リン酸エステル化合物の質量と前記前処理液に含まれる前記リン酸エステル化合物の質量との合計は、前記インクジェットインクの全質量および前記前処理液の全質量の合計量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下である、請求項9に記載の画像形成方法。
  11. 前記記録媒体の表面に付与された前処理液を乾燥する工程を含む、請求項9または請求項10に記載の画像形成方法。
  12. 前記記録媒体は、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体である、請求項9~11のいずれか一項に記載の画像形成方法。
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