JP2021187710A - 高純度微粒アルミナ粉末 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れたスラリー特性及び焼結特性を有するとともに、高周波領域で優れた誘電特性を示すアルミナ粉末を提供すること。【解決手段】体積粒度分布における50%粒径(D50)及びBET比表面積(SBET)が、式:D50≦0.20μm、及び式:D50×SBET≦2.0×10−6m3/gで表される関係を満足するとともに、ナトリウム(Na)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)及びカルシウム(Ca)のそれぞれの含有量が10ppm以下である、高純度微粒アルミナ粉末。【選択図】図3

Description

本発明は、高純度微粒アルミナ粉末に関する。
アルミナ(α−Al)焼結体は、絶縁性、耐熱性、耐摩耗性、耐食性等の諸特性に優れる。そのためアルミナ焼結体は、電子部品を始めとして、耐火物、研磨材、碍子、点火プラグ、充填剤、触媒担体といった幅広い分野で用いられている。アルミナ焼結体は、アルミナ粉末を原料とし、これを成形及び焼成して製造される。高特性のアルミナ焼結体を得る上で、原料たるアルミナ粉末には焼結性に優れること、すなわち微細であることが求められている。
ところでアンテナ焼結体を製造する際に、アルミナ粉末をスラリー化して、このスラリーを湿式処理する手法が多用されている。例えば成形時の成形性を良好にするために、アルミナ粉末のスラリーを噴霧造粒して造粒物にし、この造粒物を成形することが行われている。また大型かつ複雑形状のアルミナ製品を得るために、アルミナ粉末のスラリーを鋳込み成形する手法が知られている。さらにアルミナ粉末のスラリーを塗布及び焼成してシート状のアルミナ焼結体を製造する手法もある。
このような湿式処理を行う上で、スラリーのハンドリング性、すなわちスラリー粘度等の特性を適切に制御することが重要である。例えばスラリー粘度が過度に高いと、造粒や成形を行う際に問題が発生する。またスラリー特性が経時変化すると、最終製品の特性が安定せず、ばらつきが生じることがある。そのためアルミナ粉末の粉体特性を制御して、スラリー特性の改善を図る技術が従来から提案されている。
例えば特許文献1には、軽装嵩密度(LBD)と重装嵩密度(TBD)との比率(TBD/LBD)が1.5以上であるアルミナ粉末が開示され、当該アルミナ粉末を用いることにより、厚さが均一な薄膜の、アルミナ含有コート層を形成することができる旨が記載されている(特許文献1の請求項1及び[0032])。また特許文献1には、TBD/LBDの値が1.5未満であると、アルミナ粉末に含まれる個々の二次粒子(凝集粒子)の嵩密度が高くなりすぎる旨、この場合、アルミナ粉末を含むアルミナスラリーにおいてアルミナ凝集粒子の沈殿が起こりやすくなり、アルミナ粉末の分散安定性の確保が困難となる旨が記載されている(特許文献1の[0038])。
国際公開第2018/047871号
しかしながら従来から提案されている技術では、アルミナ粉末の焼結性とスラリー特性の両立を図る上で不十分であった。すなわちアルミナ粉末は、微細になればなるほど焼結性が優れたものになる。しかしながらアルミナ粉末が微細になると、これを含むスラリーの粘度が急上昇して、造粒や成形などのハンドリングを行うことが困難になる。特に従来の技術では、アルミナ粉末を強粉砕することで微細化を図ることが一般に行われているが、強粉砕により微細化したアルミナ粉末は、スラリー特性を悪化させやすい。またこのようなアルミナ粉末は、結晶性が低いために高特性のアルミナ焼結体製造用原料として問題がある。
例えば、特許文献1ではアルミナ粉末のD50値は0.45以上0.65μm以下であることが好ましい旨、D50値が0.45μm未満であると、粒子間の凝集が過密になる旨が記載されており(特許文献1の[0044])、アルミナ粉末の微細化、すなわち焼結性向上を図る上で限界があった。
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、体積粒度分布における50%粒径D50とBET比表面積SBETとが特定の関係を満足し、且つナトリウム等の不純物が特定量以下であるアルミナ粉末は、優れた焼結性とスラリー特性を両立し得るとの知見を得た。さらにこのアルミナ粉末は、焼結性及びスラリー特性に加えて、高周波領域で優れた誘電特性を示す焼結体用原料として好適であるとの知見を得た。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、優れたスラリー特性及び焼結特性を有するとともに、高周波領域で優れた誘電特性を示すアルミナ粉末の提供を課題とする。
本発明は下記(1)〜(6)の態様を包含する。なお本明細書において「〜」なる表現はその両端の数値を含む。すなわち「X〜Y」は「X以上Y以下」と同義である。
(1)体積粒度分布における50%粒径(D50)及びBET比表面積(SBET)が、式:D50≦0.20μm、及び式:D50×SBET≦2.0×10−6/gで表される関係を満足するとともに、ナトリウム(Na)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)及びカルシウム(Ca)のそれぞれの含有量が10ppm以下である、高純度微粒アルミナ粉末。
(2)式:1.6×10−6/g≦D50×SBETで表される関係を満足する、上記(1)のアルミナ粉末。
(3)X線回折プロファイルにおいて、(113)回折線の半値全幅(FWHM)が0.240°以下である、上記(1)又は(2)のアルミナ粉末。
(4)加圧嵩密度(GD)が2.20g/cm以上である、上記(1)〜(3)のいずれかのアルミナ粉末。
(5)体積粒度分布における10%粒径D10、50%粒径D50及び90%粒径D90が、式:(D90−D10)/D50≦1.1で表される関係を満足する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミナ粉末。
(6)α化度が80.0%以上である、上記(1)〜(5)のいずれかのアルミナ粉末。
本発明によれば、優れたスラリー特性及び焼結特性を有するとともに、高周波領域で優れた誘電特性を示すアルミナ粉末が提供される。
静水圧式スラリー評価装置の断面模式図を示す。 沈降圧測定によるスラリー評価の原理を示す。 アルミナ粉末のSEM像を示す。 アルミナ粉末のSEM像を示す。 アルミナ粉末のSEM像を示す。 アルミナ粉末のSEM像を示す。 アルミナ粉末の粒度分布曲線を示す。 焼成温度(焼結温度)とアルミナ焼結体密度の関係を示す。 アルミナ粉末のXRDパターンを示す。 スラリーのせん断速度と粘度の関係を示す。 スラリー沈降静水圧の時間変化を示す。
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
高純度微粒アルミナ粉末
本実施形態の高純度微粒アルミナ粉末(以下、「アルミナ粉末」と総称する場合がある)は、体積粒度分布における50%粒径(D50)及びBET比表面積(SBET)が、式:D50≦0.20μm、及び式:D50×SBET≦2.0×10−6/gで表される関係を満足する。一般に粉末の粒子径が小さくなるほど、比表面積が大きくなり、他の粒子との接触点の数が多くなる。また粒子の曲率半径が小さくなるとともに表面がより活性になり、焼結駆動力が大きくなる。したがって高い焼結性を得る観点から、D50を0.20μm以下に限定する。
一方で粉末の粒子径を小さくするのみでは、ハンドリング性に問題が生じるととともに、焼結性が却って悪化する場合がある。すなわち粉砕などの手法で粉末を微細化すると、粉末中の粒子にチッピングが起こり、その結果、粒子が角張った形状になる。このような粉末をスラリー化して湿式処理に供すると、スラリー粘度が高くなり過ぎるととともに、スラリー状態が不安定になる恐れがある。また乾式処理を行う場合であっても、粉末の流動性が悪化して充填密度を上げることが困難になり、これが焼結性の悪化につながることがある。
これに対して平均粒子径(D50)を小さくするともに、D50×SBETを小さく維持することで、ハンドリング性を良好に維持しながら焼結性の向上を図ることが可能になる。すなわち粒子径が同じであれば、粒子形状が丸みを帯びているほど、比表面積(SBET)は小さくなる。そのためD50を小さくするとともにD50×SBETを低く抑えることで、粒子径が小さくとも破断面やチッピングの少ない粒子にすることが可能である。本実施形態のアルミナ粉末は、そこに含まれる粒子の形状が丸みを帯びて粒子径が揃っている。そのためスラリー化した際にスラリー粘度の過度な上昇や不安定化を抑制することができる。また流動性及び成形性が優れたものになる。これらが相乗的に働く結果、優れた焼結性及びハンドリング性の両立が可能になる。D50は0.19μm以下であってもよい。またD50×SBETは1.9×10−6/g以下であってもよい。一方で粒子径が過度に小さいと、ハンドリング性悪化の影響を抑えることが困難になる。したがってD50は0.05μm以上であってよく、0.10μm以上であってよく、0.15μm以上であってもよい。
また本実施形態のアルミナ粉末は、ナトリウム(Na)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)及びカルシウム(Ca)のそれぞれの含有量が10ppm以下である。すなわちNa量が10ppm以下、Si量が10ppm以下、Fe量が10ppm以下、及びCa量が10ppm以下である。不純物は、焼結体において粒界相を形成する。例えばナトリウム(Na)やカルシウム(Ca)はケイ素(Si)とともにガラス相を形成する。またカルシウム(Ca)は主相中のアルミナ(Al)と反応してCaO・6Alなどの化合物を形成することがある。このような粒界相は異常粒成長を引き起こすため好ましくない。すなわち異常粒成長が起こると、局所的に粗大な粒子が発生し、全体としての均質な焼結性が損なわれることがある。その結果、閉空孔が生じてしまい、最終的な焼結密度が低くなることがある。また不純物の一部が主相中に取り込まれて、主相の電気抵抗を小さくする恐れがある。例えばナトリウム(Na)は主相アルミナ(Al)中に取り込まれてβ−アルミナ(NaO・11Al)になる。β−アルミナは電池の固体電解質として用いられる材料であり導電性が高い。このように不純物が多いと、焼結性や電気抵抗性(絶縁性)が悪化する。
特に本実施形態のアルミナ粉末は、平均粒子径(D50)が小さく、焼結駆動力が大きい。そのため不純物による焼結性や電気抵抗への悪影響を受けやすい。したがって不純物(Na、Si、Fe及びCa)のそれぞれの含有量を10ppm以下に限定している。それぞれの含有量は、9ppm以下が好ましく、8ppm以下がより好ましい。
本実施形態のアルミナ粉末は、式:1.6×10−6/g≦D50×SBETで表される関係をさらに満足してもよい。アルミナ粒子の形状が最大限に丸みを帯びると、真球状粒子になる。完全な真球状粒子のD50×SBETを、アルミナの密度(3.98g/cm)を用いて計算により求めると、この値は1.51×10−6/gになる。真球状アルミナ粒子を製造する手法も知られているが、これらの手法は高価な原料を必要とするとともに製法が複雑である。後述する実施例にて説明するように、本実施形態のアルミナ粉末を構成する粒子は、丸みを帯びて粒子径が揃っているものの、完全な真球状粒子ではない。また高価な原料を必要とせず製法も簡単である。そのためD50×SBETを完全な真球状粒子ほど低くする必要はなく、製造コストを低く抑えることができる。D50×SBETは1.7×10−6/g以上であってよく、1.8×10−6/g以上であってもよい。
本実施形態のアルミナ粉末は、好ましくはX線回折(XRD)プロファイルにおける(113)回折線の半値全幅(FWHM)が0.240°以下、より好ましくは0.230°以下である。一般に、微細な粉末は強解砕(強粉砕)により作製されている。しかしながら強い粉砕力を与えて解砕したアルミナ粉末では、その一次粒子の結晶表面に歪みが生じている。このような結晶表面の歪みは、アルミナ粒子表面を活性化させてハンドリング特性やスラリー特性に悪影響を及ぼす恐れがある。これに対して本実施形態のアルミナ粉末は、微細な一次粒子から構成されるものの、結晶歪みが少なく、結晶性に優れている。FWHMは小さいほど好ましいが、典型的には0.200°以上である。
本実施形態のアルミナ粉末は、好ましくは加圧嵩密度(GD)が2.20g/cm以上である。このように加圧嵩密度の高い粉末にすることで、この粉末から作製した成型体の密度を高めることができ、その結果、焼結体においても気孔(欠陥)の発生を抑えることが可能になる。なお加圧嵩密度は、アルミナ粉末を350kgf/cmの圧力で加圧時間無し(0分)の条件で加圧成型して得られた成型体(成型ピース)の嵩密度である。また加圧嵩密度の上限は高いほど好ましいが、典型的には2.50g/cm以下である。
アルミナ粉末は、好ましくは体積粒度分布における10%粒径(D10)、50%粒径(D50)及び90%粒径(D90)が、式:(D90−D10)/D50≦1.1で表される関係を満足する。アルミナ粉末の粒度分布が過度に広い場合には、焼結性やハンドリング性が悪化する恐れがある。したがって過度に広い粒度分布は好ましくない。(D90−D10)/D50は1.1以下がより好ましい。
本実施形態のアルミナ粉末は、好ましくはα化度が80.0%以上、より好ましくは90.0%以上である。α化度が80.0%未満であると、アルミナ粉末から焼結体を作製する際に、焼成時の収縮が大きく、気孔が生成し易くなる。そのため焼結体が緻密化しにくくなり特性が劣化する恐れがある。したがってα化度は高いほど好ましい。なおα化度は、X線回折法によりアルミナ粉末のX線回折パターンを求め、回折パターンの(012)面及び(116)面のX線回折強度を、α化度100%の標準試料の回折強度と比較することで求めることができる。
このような本実施形態のアルミナ粉末は、微細であるという特徴を活かして、焼結性に優れている。実際、本発明者らは、従来のアルミナ粉末に比べて著しく低温で緻密な焼結体を製造し得ることを確認している。
また、本実施形態のアルミナ粉末は、微細でありながらもスラリー特性に優れている。すなわちこのアルミナ粉末を含むスラリーは粘度が低く且つ安定である。一般に粉末の粒子径が小さくなると、粒子間の相互作用が強くなり、良分散させることが困難になる。そのためスラリー中で粉末を分散させるために、より強いせん弾力を加える必要がある。また、たとえ一時的に分散させたとしても、スラリー中で粉末が凝集又はゲル化し易く、スラリーが不安定になる。これに対して本実施形態のアルミナ粉末は、弱いせん断力でも分散でき、またスラリーが長時間にわたって良分散状態を維持する。これは粒子形状が丸みを帯びて粒子径が揃っているため、粒子間の相互作用が小さく、これがスラリーの低粘度化及び安定化につながっているのではないかと推察している。
その上、本実施形態のアルミナ粉末は、高周波領域で優れた誘電特性を示す。すなわちこのアルミナ粉末を原料に用いることで、誘電損失及び伝送損失の小さいアルミナ焼結体を作製することができる。実際、本発明者らは、10GHz以上の高周波領域で誘電正接(tanδ)及び伝送損失が小さいアルミナ焼結体を得ることができることを確認している。
スラリー
本実施形態のスラリーは、上述したアルミナ粉末と、水等の溶媒と、必要に応じて分散剤とを、混合して作製される。スラリー中のアルミナ粉末濃度は限定されるものではないが、例えば10〜70質量%であってよく、30〜70質量%であってよい。分散剤は限定されるものではないが、例えばポリカルボン酸アンモニウム系分散剤が挙げられる、分散剤の含有量は、例えば1〜10質量%であってよい。
本実施形態のスラリーは、せん断速度によらず粘度が低いという特徴がある。例えば、せん断速度300〜1000/秒の範囲でせん断速度を上昇及び下降させたときに粘度を6mPa・秒以下にすることができる。スラリーは非ニュートン流体であり、せん断速度とせん断応力とが比例関係を示さない。そのためスラリーの流動特性を評価する際は、せん断速度とせん断応力の関係である流動曲線によって評価することが好ましい。そのような手法として、JIS Z 8803で規定される円すい−平板形回転粘度計(コーンプレート形回転粘度計)を用いた手法が挙げられる。コーンプレート形回転粘度計では、試料(スラリー)を円すいと平板で挟み、円すいを一定速度で回転させてその時の回転トルクを測定する。せん断応力は回転トルクから計算することができる。
また本実施形態のスラリーは、長時間にわたって安定であるという特徴がある。スラリーの安定性は、重力場での沈降状態を調べることで評価が可能である。そのような手法として、静水圧式スラリー評価装置を用いた沈降静水圧測定が挙げられる。沈降静水圧測定の測定原理を図1及び図2を用いて説明する。図1に示すように、静水圧式スラリー評価装置は、上面が開口した沈降管と、この管内に先端が装入された圧力伝達管と、この圧力伝達管の他端部に設けられた圧力センサーと、から構成されている。沈降管にスラリーを入れて、深さHにおける静水圧を測定する。スラリー中の全粒子が懸濁している状態では、静水圧が最大となる。一方でスラリー中の全ての粒子が深さHを通過して沈降すると、静水圧が最小になる。したがって、静水圧(P)を時間(t)の関数で求めると、粒子の分散安定性を評価することができる。例えば図2に示されるように、良分散性のスラリーは、長時間経過後であっても静水圧の変化は小さい。一方でスラリー中の粒子が凝集又はゲル化すると静水圧が減少する。本実施形態のスラリーは分散状態が良好であり、静水圧の変化が小さい。
アルミナ焼結体
本実施形態のアルミナ焼結体は、上述したアルミナ粉末を成形し、得られた成型体を焼成(焼結)して作製される。成形は、プレス成形、鋳込み成形、射出成形及び押出成形など公知の手法で行えばよい。また成型体に冷間静水圧プレス(CIP)処理を施してもよい。焼成も公知の条件で行えばよい。例えば、大気、真空又は水素雰囲気下1300〜1500℃で1〜5時間の条件で焼成を行えばよい。
本実施形態のアルミナ焼結体は、高周波領域で良好な誘電特性を示すという特徴がある。例えば、10GHzにおける比誘電率(εr)を8.0〜12.0にすることができ、9.0〜11.0にすることもできる。また10GHzにおける誘電正接(tanδ)を0.20×10−4以下にすることができ、0.15×10−4以下にすることもできる。このように高周波領域で比誘電率及び誘電正接が小さいアルミナ焼結体は、限定されるものではないが、第5世代移動通信システム(5G)におけるアンテナ材料として好適である。
この点について説明するに、第5世代移動通信システム(5G)は、スマートフォンに代表される第4世代(4G)に続くシステムであり、2020年春から日本での商用サービスがスタートする。5Gでは、6GHz未満のマイクロ波とともに24GHz以上のミリ波といった極めて高い周波数領域での電波が利用される。このような高周波を利用する5Gは、高速大容量、高信頼・低遅延通信、多数同時接続という3つの特徴を有している。
高周波を利用する5Gにおいて、アンテナ材料の伝送損失を小さくすることが重要である。すなわち無線通信において発信された電波は、アンテナ材料で熱に変化する。この際に発生する伝送損失の損失量(a)は、下記式(1)に示されるように、電波の周波数(f)、アンテナ材料の比誘電率(εr)の平方根、及びアンテナ材料の誘電正接(tanδ)の積に比例する。なお下記式(1)においてKは比例定数である。
Figure 2021187710
伝送損失(a)は周波数(f)に比例することから、使用周波数が高くなるにつれ、アンテナ材料の損失をより小さくすることが必要である。4G以前の周波数領域におけるアンテナ材料として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が知られているが、5Gへと高周波化が進むと、PTFEでは損失が大きくアンテナ材料として不十分である。本実施形態のアルミナ焼結体は、高周波領域での誘電正接(tanδ)及び伝送損失をPTFEより小さくすることが可能である。そのため5Gにおけるアンテナ材料として期待がもたれる。
なお本実施形態のアルミナ焼結体は、その用途が5Gアンテナ材料に限定される訳ではない。回路基板、キャパシタ・抵抗体用基板、IC基板、センサー部材用基板、多層基板、パッケージ、RF窓、及び半導体製造装置など、アンテナ以外の用途に有用であることは言うまでもない。
アルミナ粉末の製造方法
本実施形態のアルミナ粉末は、上述した要件を満足する限りにおいて、その製造方法が限定されるものではない。しかしながら、好適な製造方法は、水酸化アルミニウム粉末とα−アルミナ種子を準備する工程(準備工程)と、準備した水酸化アルミニウム粉末にα−アルミナ種子を混合して、α−アルミナ種子を10〜20質量%含有する水酸化アルミニウム混合原料にする工程(混合工程)と、得られた水酸化アルミニウム混合原料に、乾式ビーズミルを用いたメカノケミカル処理を施して、結晶水の含有量が21.0質量%以下であり、示差走査熱量分析で750〜850℃の温度範囲内で発熱ピークを示す無定形水酸化アルミニウムにする工程(メカノケミカル処理工程)と、得られた無定形水酸化アルミニウムを900〜1000℃の範囲内の温度で熱処理する工程(熱処理工程)と、を含む。
この製造方法は、水酸化アルミニウム粉末とα−アルミナ種子の混合原料にメカノケミカル処理を施して作製した特定の無定形水酸化アルミニウムを中間原料にすることを特徴としている。この無定形水酸化アルミニウムは、α−アルミナへの結晶転移温度が著しく低い。そのためこの無定形水酸化アルミニウムを中間原料にすることで、微細且つ高α化度の高品質のα−アルミナ粉末を簡便に得ることができる。各工程の詳細について以下に説明する。
<準備工程>
準備工程では、水酸化アルミニウム粉末とα−アルミナ種子を準備する。水酸化アルミニウム粉末として、ギブサイトやバイヤーライトなどを用いることができる。しかしながら、製造コストを踏まえるとギブサイトが好ましい。また、水酸化アルミニウム粉末は何れの方法で製造されたものであってもよいが、バイヤー法で製造されたものが好ましい。粉末の流動性や扱いやすさの観点から、水酸化アルミニウム粉末は、その平均粒子径(D50)が3〜50μm、BET比表面積(SBET)が0.2〜5.0m/gであるものが好ましい。汎用的な水酸化アルミニウム粉末は、平均粒子径やBET比表面積が上記範囲内である。本実施形態の製造方法では、汎用の水酸化アルミニウム粉末原料を用いることが可能であり、その結果、製造コスト低減及び簡便さというメリットを最大限に生かすことができる。
一方で無定形水酸化アルミニウムのα化転移を低温化させる観点から、α−アルミナ種子は、高α化度且つ微粒であることが好ましい。α化度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。平均粒子径(D50)は0.1〜0.5μm、BET比表面積(SBET)は5〜15m/gが好ましい。
<混合工程>
混合工程では、準備した水酸化アルミニウム粉末にα−アルミナ種子を混合して、α−アルミナ種子を10〜20質量%含有する水酸化アルミニウム混合原料にする。混合手法は特に限定されない。α−アルミナ種子を加えることで、得られる無定形水酸化アルミニウムの結晶転移温度低下の効果を十分に発揮させることが可能となる。α化転移を低温化させる観点から、α−アルミナ種子の含有量は高いほど好ましい。しかしながら、高品質のα−アルミナ種子は高価である。本実施形態においては、α化転移低温化の効果及び経済性のバランスの観点から、α−アルミナ種子の含有量を10〜20質量%としている。α−アルミナ種子の含有量は、好ましくは15〜20質量%である。
α−アルミナ種子による結晶転移温度低下について、次のように推測している。すなわち、α−アルミナを種子として水酸化アルミニウム原料中に少量添加することで、α化転移温度が低下する現象は古くから知られている。本発明においては、原料である水酸化アルミニウム(ギブサイト等)とα−アルミナ種子とを、まず混合状態の原料粉体に調整し、同時にメカノケミカル処理を施すことによって、著しく小さくなるよう粉砕する。そのため、比表面積が増大している無定形水酸化アルミニウム一次粒子とα−アルミナ種子とが粒子界面で密接に凝集し、目的とする相互作用がより均一化される。その結果、無定形水酸化アルミニウムが、χアルミナなどの中間アルミナ相を経由せずに、本来では相転移しないような低温領域でのα化転移が可能になると考えている。
<メカノケミカル処理工程>
メカノケミカル処理工程では、得られた水酸化アルミニウム混合原料に、乾式ビーズミルを用いたメカノケミカル処理を施して、無定形水酸化アルミニウムにする。無定形水酸化アルミニウムは、無定形化された水酸化アルミニウムを主体とする。水酸化アルミニウムは、完全な結晶状態では、ギブサイト(Al(OH))などの組成を有する化合物である。無定形水酸化アルミニウムは、水酸化アルミニウムの結晶性が消失又は低下しているとともに、結晶水の一部が抜け出ている。したがって、無定形水酸化アルミニウムは、完全な結晶状態である水酸化アルミニウムとは、結晶状態及び結晶水量が異なる。無定形化の程度は、X線回折で測定されるギブサイトの結晶ピーク(002)面の強度(CPS)と、結晶水含有量(LOI)で評価することができる。本発明において、無定形水酸化アルミニウムとは、X線回折で測定されるギブサイトの結晶ピーク(002)面の強度が350CPS以下で、かつ結晶水量が21.0質量%以下のものを指す。これに対して、無定形化されていないギブサイトは、その結晶水量が、34.7質量%程度である。
本実施形態の無定形水酸化アルミニウムは、結晶水含有量(LOI)が21.0質量%以下である。無定形水酸化アルミニウムは、結晶水量が、完全な結晶状態である水酸化アルミニウムより少ない。後述するように、本発明の無定形水酸化アルミニウムは、水酸化アルミニウム粉末とα−アルミナ種子からなる混合原料に、乾式ボールミルを用いたメカノケミカル処理(無定形化処理)を施すことにより作製することができる。乾式ビーズミルを用いた無定形化処理の際、ギブサイト等の水酸化アルミニウム結晶を構成する一次粒子が微細な領域まで擦り潰され、内包する結晶水は外に吐き出される。結晶水量が少なくなるまで粉砕が進み、十分に微細な一次粒子となることで、α−アルミナへの結晶転移温度を十分に低くすることが可能になると推測している。無定形化を進める観点から、結晶水含有量は17.0質量%以下が好ましい。結晶水含有量の下限値は、特に限定されるものではないが、典型的には15.0質量%以上にしてもよい。
また本実施形態の無定形水酸化アルミニウムは、示差走査熱量分析で750〜850℃の温度範囲内で発熱ピークを示す。この発熱ピークはα−アルミナへの結晶転移(α−アルミナ化)に対応するものである。通常の水酸化アルミニウムは、α−アルミナへの結晶転移温度が1100〜1200℃である。これに対して、本発明の無定形水酸化アルミニウムは、結晶転移温度が750〜850℃と極めて低い。無定形水酸化アルミニウムは、好ましくは810〜830℃の温度範囲内で発熱ピークを示す。
無定形水酸化アルミニウムのBET比表面積は、特に限定されるものではないが、典型的には、15〜50m/gである。なお、BET比表面積は、JIS1626に基づき、比表面積自動測定装置(マイクロメリテックス社、フローソーブII2300形)を用いて測定することができる。
無定形水酸化アルミニウムは、アルミニウム(Al)、酸素(O)及び水素(H)以外の元素の含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。特に、ナトリウム(Na)含有量が0.01質量%以下、ジルコニウム(Zr)含有量が0.05質量%以下であることが好ましい。最終的な製品である易焼結セラミックスを製造する上で、ナトリウムやジルコニウムは焼結を阻害する成分であり、可能な限り少ないことが望ましい。本発明の無定形水酸化アルミニウムは、その製造時に、ナトリウム含有量が多いギブサイト等の水酸化アルミニウムを原料に用いても、無定形化処理の際に、結晶中に内包されるナトリウムが外に出てくるため、簡単に洗浄及び除去することができる。また、ナトリウム含有量の少ない原料を用いれば、当然、無定形水酸化アルミニウムのナトリウム含有量を減らすことができる。
結晶に対して粉砕操作を継続的に行うと、新生表面が増大するとともに繋ぎ手を失った表面原子及び/又は分子の数が増大し、それらの結合状態の乱れは表面層近傍に及ぶ。その結果、粉砕粒子は活性化する。また、乾式粉砕の場合は、粉末の凝集が起こり、見かけの表面積が減少する。粉砕粒子の活性表面は、空気中の水分やガスを表面吸着して、化学ポテンシャルが低下して安定になる。この一連の反応の際に、種々の相転移が起こる。このような現象及び効果をメカノケミカル反応といい、このようなメカノケミカル反応を引き起こす処理をメカノケミカル処理という。
本実施形態の製造方法では、メカノケミカル処理として、乾式ビーズミルを用いた処理を行う。乾式ビーズミル処理では、混合原料に高い粉砕シェアがかかり、メカノケミカル反応が効果的に引き起こされる。乾式ビーズミルは、媒体撹拌型粉砕機の一種であり、原料投入口と円筒容器(ベッセル)と円筒容器内に設けられた回転する撹拌部材(アジテータ)と処理粉の出口とから構成されている。また、ベッセル内のアジテータ間隙には、多数の粉砕媒体(ビーズ)が充填されている。乾式ビーズミルは、動作時にアジテータが高速回転し、ビーズを撹拌する。このとき、原料投入口から投入された原料は、アジテータ、ビーズ及びベッセル内壁と衝突を繰り返し、衝撃力、せん段力及び摩擦力などによって粉砕されるとともにメカノケミカル反応が引き起こされ、乾式処理粉となって出口から排出される。
乾式ビーズミル処理によるメカノケミカル反応の詳細なメカニズムは不明であるが、次のように推測している。処理の際に、水酸化アルミニウムに高シェア状態の乾式粉砕処理が連続的にかかり続けられる。そのため、水酸化アルミニウム中の結晶水の一部が脱離する。また、それとともに、粉砕粒子とビーズとベッセル内壁の摩擦により装置内が高温化し、その結果、粉砕粒子(水酸化アルミニウム)中で部分的に水熱反応や溶解再析出のような相転移現象が起こる。実際、原料水酸化アルミニウム粉末として、ギブサイト(結晶水含有量34.7質量%)を用い、α−アルミナ種子の混合量を20質量%とした場合、水酸化アルミニウム混合原料の結晶水含有量は27.0質量%以上であるのに対し、乾式ビーズミル処理後の乾式処理粉の結晶水含有量は21.0質量%以下、場合によっては17.0質量%以下にまで低減する。このことから、乾式ビーズミル処理により、結晶水の脱離が起こることが理解される。
乾式ビーズミルは、そのアジテータ周速(回転速度)が、好ましくは5.0〜6.0m/秒、より好ましくは5.0〜5.5m/秒であり、ビーズ充填量が、好ましくは60〜70容量%、より好ましくは60〜65容量%である。また、フィード量は、好ましく1.0〜4.0kg/時、より好ましくは2.0〜3.0kg/時である。アジテータ周速及びビーズ充填量が高いほど、メカノケミカル処理が、より効果的に行われ、高品質の無定形水酸化アルミニウムが得られる。また、フィード量が少ないほど、混合原料の滞留時間が長くなり、水酸化アルミニウムの無定形化が促進される。しかしながら、アジテータ周速及びビーズ充填量が過度に高いと、安定した連続運転が困難となる。また、フィード量が過度に少ないと、粉砕粉漏れによる収率低下等の問題が顕著となり、生産効率が悪くなる。アジテータ周速、ビーズ充填量及びフィード量が上記数値範囲内であれば、高品質の無定形化水酸化アルミニウムを、生産性よく得ることができる。
メカノケミカル処理の際、水酸化アルミニウム混合原料を乾式ビーズミルで1回処理(1パス処理)してもよく、多数回処理(2パス処理、3パス処理等)してもよい。上述したように、フィード量が少ないほど水酸化アルミニウムの無定形化は促進されるが、生産効率が悪くなる。この点、多数回処理することで、フィード量を多くしても、フィード量を少なくして1回処理した場合と同じ結果が得られる。そのため、生産効率を維持しつつ、高品質の無定形水酸化アルミニウムが得られる。フィード量を2.0〜3.0kg/時とし、2パス処理することが好ましい。またメカノケミカル処理の際、必要に応じて、水酸化アルミニウム混合原料に粉砕助剤を加えてもよい。粉砕助剤とし、例えば、エタノールが挙げられる。
乾式ビーズミル以外の一般的な乾式粉砕機、例えば、乾式ボールミルを用いて処理した場合では、処理粉のメカノケミカル反応が不十分であり、無定形水酸化アルミニウムを得ることができない。その上、このような一般的な乾式粉砕機では、処理時間を長くしても、粉砕粒子の微粒化には限界があり、比表面積を十分に高くすることができない。また、湿式粉砕機を用いて処理した場合には、粉砕粒子を1μm以下に微粒化することは可能であるが、メカノケミカル反応が不十分である。そのため、無定形水酸化アルミニウムを得ることができない。その上、湿式粉砕機を用いた場合には、コンタミネーション(不純物)が増加するとともに、生産性が悪いという問題がある。
これに対して、本実施形態の製造方法では、乾式処理である乾式ビーズ処理により、水酸化アルミニウム混合原料のメカノケミカル反応を十分なものとすることができ、その結果、α−アルミナへの結晶転移温度が著しく低い無定形水酸化アルミニウムを、簡便に得ることができる。特に、本実施形態の製造方法では、乾式ビールミルによるメカノケミカル処理を採用しているため、汎用の水酸化アルミニウムを出発原料としながらも、加工難度の高い無定形水酸化アルミニウムを安価に得ることができる。したがって、湿式粉砕処理で必要とされる高度な濾過装置や大型乾燥設備が不要であり、生産性に優れている。その上、乾式ビーズミルとして連続式の装置を用いた場合には、連続処理が可能である。
<熱処理工程>
熱処理工程では、得られた無定形水酸化アルミニウムを900〜1100℃の範囲内の温度で熱処理(焼成)する。また、必要に応じて、熱処理後の熱処理粉に解砕処理や洗浄処理を施してもよい。本実施形態の無定形水酸化アルミニウムは、α−アルミナへの結晶転移温度が著しく低いため、900〜1100℃という比較的低温での熱処理でも、α化度の十分に高いα−アルミナ粉末を得ることができる。また、熱処理温度が低いため、熱処理時の結晶粒成長を抑えることができる。したがって、微粒且つ高α化度のアルミナ粉末を得ることができる。熱処理温度は900〜1100℃が好ましく、1000〜1100℃がより好ましい。このようにして本実施形態の高純度微粒アルミナ粉末を製造することができる。
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)アルミナ粉末の合成
例1(実施例)
<準備工程>
原料として水酸化アルミニウム粉末とα−アルミナ種子を準備した。水酸化アルミニウム粉末として、バイヤー法により製造されるギブサイト(日本軽金属株式会社製BHP39)を用いた。またα−アルミナ種子として高純度微粒アルミナ(日本軽金属株式会社製)を用いた。このα−アルミナ種子(高純度微粒アルミナ)はその平均粒子径が0.18μmであった。
<混合工程>
次いで、準備した水酸化アルミニウム粉末に、α−アルミナ種子(高純度微粒アルミナ)を10質量%添加した後に混合して混合原料にした。
<メカノケミカル処理工程>
得られた混合原料に、乾式ビーズミル(アシザワ・ファイテンテック社製SDA−1)を用いたメカノケミカル処理を施して乾式処理粉を得た。メカノケミカル処理は、PSZ(部分安定化ジルコニア)製メディアビーズと粉砕助剤(エタノール)を用い、ビーズ充填率60容量%、周速4.5〜5.0m/秒、フィード量1.0kg/時の条件で行い、混合原料を乾式ビーズミルに1パス通過させた。
<熱処理工程>
得られた乾式処理粉を高純度アルミナルツボ(純度99%)に充填した。その後、充填した乾式処理粉を、高速昇温電気炉(株式会社モトヤマ製スーパーバーン)を用いて熱処理し、熱処理粉(α−アルミナ粉末)にした。熱処理は、昇温速度200℃/時、最高温度1070℃、保持時間30分の条件で行った。
<洗浄工程>
次に、Na分を除去するために、得られた熱処理粉を質量比2倍量の純水中で撹拌洗浄し、さらに質量比5倍量の水で通水洗浄した。その後、洗浄後の熱処理粉を、乾燥機を用いて110℃×24時間の条件で乾燥させた。
<解砕工程>
乾燥した熱処理粉を、ボールミルを用いて解砕した。このようにして例1のアルミナ粉末を得た。
例2(比較例)
市販されている高純度度アルミナ粉末(他社品)を入手し、これを例2とした。
例3(比較例)
開発品(LS超微粒)たるアルミナ粉末を例3とした。
例4(比較例)
市販されている高純度アルミナ粉末(日本軽金属株式会社製AHP200)を入手し、これを例4とした。
(2)アルミナ粉末の評価
例1〜例4に対して、各種特性の評価を以下に示す手順で行った。
<SEM観察>
走査電子顕微鏡(SEM)を用いてアルミナ粉末を観察した。観察は、走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス製S4700、日本電子株式会社製JSM−7200)を用いて、倍率50000倍の条件で行った。
<不純物量>
アルミナ粉末中の不純物(Si、Fe、Ca)量をICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製SP3100)用いて測定した。まずアルミナ粉末を加圧分解容器に入れ、乾燥機中で硫酸を用いて10時間加圧分解した。その後、加圧分解物を水で定容して試料溶液を作製した。試料溶液を分析装置にセットし、各元素の波長での発光強度を測定した。その後、同時に求めた検量線を用いて各元素の濃度を算出した。
アルミナ粉末中の不純物(Na)量を、原子吸光装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製偏光ゼーマン原子吸光光度計Z−2000)を用いて測定した。まずアルミナ粉末を加圧分解容器に入れ、水を用いて一定量になるよう希釈して試料溶液を作製した。試料容器を装置にセットし、空気−アセチレン炎を用いて波長589.0nmにおける吸光度を測定した。その後、同時に求めた標準溶液の吸光度を用いてNa量を算出した。
<粉体特性‐BET比表面積>
アルミナ粉末のBET比表面積(SBET)を、比表面積自動測定装置(マイクロメリテックス社製フローソーブII2300形)を用い、JIS1626にしたがって測定した。
<粉体特性‐粒度>
アルミナ粉末の粒度をレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラックMT3300)を用いて測定した。まずホモジナイザー(日本精密製作所製US−600T)を用いて600W、20kHz、1分間の条件でアルミナ粉末を分散処理した。その後、分散処理したアルミナ粉末を測定装置に導入し、そこで粒度を測定した。得られたデータを解析して、体積粒度分布における累積10%粒径(D10)、累積50%粒径(平均粒子径;D50)及び累積90%粒径(D90)を求めた。
<粉体特性‐加圧嵩密度>
アルミナ粉末の加圧嵩密度(GD)を次のように測定した。まずアルミナ粉末を金型に入れ、350kgf/cmの圧力で加圧成型した。この際、加圧時間は無し(0分)にした。得られた成型ピース(成型体)の質量及び寸法を測定し、これらの値を用いて嵩密度を算出した。
<焼結性>
アルミナ粉末の焼結性を評価した。まずアルミナ粉末を金型に充填し、350kgf/cmの圧力で一軸プレス成型した。得られた成型体を高速昇温電気炉(株式会社モトヤマ製スーパーバーン)で焼成して、焼結体にした。焼成は、昇温速度200℃/時間、最高温度(焼結温度)1350〜1600℃、保持時間2時間の条件で行った。得られた焼結体の密度(嵩密度)をアルキメデス法により測定した。
<X線回折>
粉末X線回折(XRD)法により、アルミナ粉末の分析を行った。分析は次のようにして行った。まずアルミナ粉末を専用試料板に載せ、20mm×20mm×0.5mmのサイズになるように軽く押し広げて測定サンプルを作製した。次にX線回折装置を用いて、測定サンプルのX線回折パターンを求めた。X線回折の条件は以下のとおりにした。
‐装置:株式会社リガク製RINT(試料水平型;UltimaII)
‐線源:CuKα線
‐電圧:40kV
‐電流:40mA
‐スキャンスピード:4°/分
‐サンプル幅:0.05°
‐開始角度:5°
‐終了角度:90°
得られた回折パターンにおいて、α−アルミナの結晶ピークたる(012)、(104)、(113)、(116)及び(300)面のピーク(回折線)に着目し、これらのピークの半価幅(半値全幅;FWHM)を算出した。また(012)及び(116)面のピーク強度を、標準試料(α化度100%)のピーク強度(回折強度)と比較してアルミナ粉末のα化度を求めた。
<スラリー特性‐粘度>
アルミナ粉末のスラリー(懸濁液)を調整し、その粘度を評価した。まずアルミナ粉末200g、純水164g、及びポリカルボン酸アンモニウム系分散剤(サンノプコ株式会社製ノプコスパース5600)4gを、φ20のメディアボール600gとともに、容量1Lのポットに入れた。次いで72rpmの回転数でポットを2時間回転させて、内容物を混合した。これにより濃度55質量%のスラリーを作製した。
得られたスラリーの粘度を、円すい−平板形回転粘度計である精密回転粘度計(英弘精機株式会社製RST−CPS)を用いて測定した。具体的には25℃でせん断速度を1/秒から1000/秒まで60秒間をかけて変化させ、1秒ごとに粘度の値を測定した。
<スラリー特性‐沈降静水圧>
スラリーの沈降静水圧を、静水圧式スラリー評価装置(ジャパンホテルグッズサプライ株式会社、HYSTAP−3)を用いて測定した。測定に用いてスラリーは、粘度評価の際に調整したものを用いた。また流体中に分散した粒子が互いに干渉しながら沈降する干渉沈降を考慮しながら沈降速度を算出し、この沈降速度に基づき良分散ラインを作成した。このときアルミナ粒子密度を3.98g/cm、水の密度を1.00g/cm、重力加速度を9.80665m/秒、媒液(水)の粘度を0.00089Pa・秒(25℃)として、沈降速度を算出した。
<焼結体の誘電特性>
アルミナ粉末から焼結体を作製し、その誘電特性を評価した。まずアルミナ粉末を金型に充填し、19.6MPaの圧力で一軸プレス成型した。続いて得られた成型体を真空パックした後、245MPaの圧力で1分間の冷間静水圧プレス(CIP)処理を施した。CIP処理した成型体を高速昇温電気炉(株式会社モトヤマ製スーパーバーン)で焼成して、焼結体にした。焼成は、昇温速度200℃/時、最高温度1500℃、保持時間2時間の条件で行った。
得られた焼結体について、1GHz、5GHz及び10GHzにおける誘電特性を測定した。1GHzでの値は、インピーダンス・アナライザ(キーサイト・テクノロジー社製E4991B)を用いて大気雰囲気下の室温で測定した。一方で5GHz及び10GHzでの値は、マイクロ波PNAネットワークアナライザ(キーサイト・テクノロジーズ社製N5227A)を用い、JIS1627にしたがって、大気雰囲気下、温度24℃、湿度45%の条件で測定した。
(3)評価結果
<SEM観察>
例1〜例4のアルミナ粉末につき、図3〜図6のそれぞれに粉末のSEM像を示す。実施例たる例1のアルミナ粉末は、微細であるとともに粒子径が揃っていた。また粒子形状が丸みを帯びていた。破断面は少なく、チッピング粒子は見られなかった(図3)。一方で、比較例たる例2のアルミナ粉末は微細であるものの粒子形状が角張っていた。また破断面やチッピング粒子が僅かではあるものの観察された(図4)。比較例たる例3及び例4のアルミナ粉末は粒子径がばらついていた。また破断面やチッピング粒子が多く観察された(図5、図6)。
<不純物量及び粉体特性>
例1〜例4のアルミナ粉末につき、不純物量と粉体特性を表1に示す。実施例たる例1では、ナトリウム(Na)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)及びカルシウム(Ca)のいずれの不純物もその含有量が10ppm以下と少なかった。一方で、比較例たる例2〜例4では、いくつかの不純物の含有量が10ppmを超えていた。特に例3はNa、Si、Fe及びCaのいずれの含有量が100〜200ppmと多かった。
例1はD50≦0.20μm以下且つD50×SBET≦2.0×10−6/gの条件を満足していた。一方で例2〜例4はD50×SBETが2.0×10−6/gを超えていた。特に例2はそのD50が例1と同等であるものの、SBETが大きく、その結果、D50×SBETが大きかった。
Figure 2021187710
例1〜例4のアルミナ粉末につき、粒度分布曲線を図7に示す。ここで図7において横軸は粒径(粒子径)を、縦軸は頻度を示す。例1のアルミナ粉末は、粒子径0.2μmを中心に比較的揃ったシャープな粒度分布を示していた。例2のアルミナ粉末は、粒子径0.2μmを中心にしたシャープな粒度分布を示すものの、数μm程度の大きさの粒子が存在していた。そのため全体としてブロードな粒度分布になっていた。例3のアルミナ粉末は例1や例2に比べてブロードな粒度分布を示していた。また数μm程度の大きさの粒子が少なからず存在していた。例4のアルミナ粉末は、中心粒子径が0.4〜0.5μmと大きく、かつブロードな粒度分布を示していた。
<焼結性>
例1〜例4のアルミナ粉末から作製した焼結体の密度(嵩密度)を図8に示す。例1及び例2のアルミナ粉末は、比較的低い焼成温度でも緻密化が進行し、1350℃ですでに3.8g/cm以上の密度を示していた。そして1450℃以上で密度がほぼ一定になっていた。一方で、例3のアルミナ粉末は、緻密化が例1及び例2より劣り、1350℃での密度は3.6〜3.7g/cmに留まっていた。例4のアルミナ粉末は緻密化が最も劣り、1350℃での密度が3.4g/cm未満と低かった。また1550℃以上でようやく密度が一定になった。
焼結性の結果は、平均粒子径(D50)の結果に対応している。すなわち例1及び例2のアルミナ粉末は、D50が0.18〜0.19μmと微細であるため焼結性に優れるのに対し、例3及び例4のアルミナ粉末はD50が0.23〜0.45μmと粗大であるため焼結性に劣ると考えられる。
<X線回折>
例1、例2及び例3のアルミナ粉末につき、(012)、(104)、(113)、(116)及び(300)回折線の半値全幅(FWHM)の値を表2に示す。また例1のアルミナ粉末のXRDパターンを図9に示す。
表2に示されるように、例1のアルミナ粉末は、いずれの回折線においても例2及び例3に比べてピーク半値幅(FWHM)が小さかった。また図9に示されるように、例1のアルミナ粉末のXRDパターンには、α−アルミナ以外の結晶相に由来する回折線が殆ど観察されなかった。このことから例1のアルミナ粉末は、結晶歪が小さく結晶性に極めて優れるとともに異相を殆ど含まないことが分かった。
Figure 2021187710
<スラリー特性‐粘度>
例1〜例4のアルミナ粉末を含むスラリーにつき、せん断速度と粘度との関係を図10に示す。図10では、せん断速度を上げた場合の粘度(一部の試料につき、図中で右向き矢印で示す)とせん断速度を下げた場合の粘度(図中で左向き矢印で示す)の両方が示されている。
例1のスラリーは、粘度が小さく、またせん断速度によらずほぼ一定であった。その上、せん断速度を上げた場合と下げた場合の粘度の違いが殆どなく、せん断速度に対して可逆的な応答を示していた。このことから、例1のスラリーは、粘度が小さく且つ安定でありせん断速度に対して可逆的な応答を示すことが分かった。一方で例2及び例3のスラリーは粘度が大きかった。特に例2のスラリーは、そこに含まれるアルミナ粉末の平均粒子径が例1とほぼ同じであるにも関わらず、せん断速度を上げた場合と下げた場合の粘度の差が大きく、せん断速度に対して不可逆的な応答を示していた。例4のスラリーは、例1と同様に、粘度が小さく、せん断速度によらずほぼ一定であった。
粘度測定より以下のことが推察された。すなわち例1のスラリーは、そこに含まれるアルミナ粉末が微細であるものの、粒子形状が丸みを帯び、粒子径が揃っている。そのためスラリー中で粒子同士が接触又は衝突しても、速やかに回避することができ、相互干渉が小さい。そのためスラリー粘度が低く且つ安定している。一方で例2のスラリーは、そこに含まれるアルミナ粉末の粒子径が例1と殆ど同じであるものの、チッピング粒子を含む粒度分布はブロードであり、また粒子形状も角張っている。そのため粒子同士が接触又は衝突した際に、互いに干渉しあい、スラリー粘度が不安定になる。また例4のスラリーは、そこに含まれるアルミナ粉末が粗大であるため、粘度が小さい。
<スラリー特性‐沈降静水圧>
例1及び例2のアルミナ粉末を含むスラリーにつき、沈降静水圧の時間変化を図11に示す。なお図11には理想的な良分散状態を示すスラリーの沈降静水圧ライン(良分散ライン)を併せて示す。例1のスラリーは沈降静水圧の時間変化が小さく、理想的な良分散状態に近かった。一方で例2のスラリーは、沈降静水圧の時間変化が大きかった。このことから例1のスラリーは良分散状態を長時間維持するのに対し、例2のスラリーは一部が凝集していることが推察された。
<焼結体の誘電特性>
例1、例2及び例4のアルミナ焼結体につき、誘電特性(比誘電率εr、誘電正接tanδ、(εr)1/2×tanδ)を表3に示す。なお表3にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の特性も併せて示されている。
例1のアルミナ焼結体は、高周波領域(5GHz、10GHz)での誘電正接及び(εr)1/2×tanδが他のサンプルに比べて小さかった。このことから例1はアンテナ材料として伝送損失の小さく優れた材料であることが分かった。
これに対して、例2の焼結体は、高周波領域(5GHz、10GHz)での誘電正接及び(εr)1/2×tanδが例1に比べて大きかった。例2ではアルミナ粉末のBET比表面積が例1に比べて大きいため成型密度が小さくなり、これが焼結体中の気孔(欠陥)発生及び誘電特性に影響を及ぼしたのではないかと考えられる。また例4の焼結体は、誘電正接及び(εr)1/2×tanδが例1及び例2に比べて大きかった。例4ではアルミナ粉末が多量のナトリウム(Na)を含んでおり、これが焼結体密度や電気抵抗に悪影響を及ぼしたのではないかと考えられる。一方でPTFEは、その1GHzでの誘電正接が比較的小さいものの、10GHzでの誘電正接がアルミナ焼結体(例1、例2及び例4)よりはるかに大きかった。
アンテナ材料の伝送損失量(a)は、下記式(1)に示されるように、(εr)1/2×tanδに比例する。したがって例1の焼結体は、10GHz以上の高周波領域での伝送損失が最も小さく、アンテナ材料として有望であることが分かる。
Figure 2021187710
Figure 2021187710

Claims (6)

  1. 体積粒度分布における50%粒径(D50)及びBET比表面積(SBET)が、式:D50≦0.20μm、及び式:D50×SBET≦2.0×10−6/gで表される関係を満足するとともに、ナトリウム(Na)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)及びカルシウム(Ca)のそれぞれの含有量が10ppm以下である、高純度微粒アルミナ粉末。
  2. 式:1.6×10−6/g≦D50×SBETで表される関係を満足する、請求項1に記載のアルミナ粉末。
  3. X線回折プロファイルにおいて、(113)回折線の半値全幅(FWHM)が0.240°以下である、請求項1又は2に記載のアルミナ粉末。
  4. 加圧嵩密度(GD)が2.20g/cm以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミナ粉末。
  5. 体積粒度分布における10%粒径D10、50%粒径D50及び90%粒径D90が、式:(D90−D10)/D50≦1.1で表される関係を満足する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミナ粉末。
  6. α化度が80.0%以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルミナ粉末。
JP2020095284A 2020-06-01 2020-06-01 高純度微粒アルミナ粉末 Active JP7516872B2 (ja)

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