X線回折測定において、X線照射点から撮像面までの距離(以下、照射点―撮像面間距離という)を測定対象物により様々に設定して測定を行う場合があるが、この場合は形成される回折環の半径値が変化するので、X線回折測定装置に固体撮像素子を出射X線の光軸に対して垂直方向(回折環の半径方向)に移動させる機構を設ける必要がある。しかし、特許文献3に示されているこの移動の方法は、固体撮像素子を先端に固定したロボットハンドとX線管を先端に固定したロボットハンドを動かすという方法のみであり、この方法では装置のコストダウンを図ることはできないという問題がある。また、この方法では装置全体が大型化するとともに装置をセットしてからロボットハンド先端の移動位置を調整するのに多大の時間を要するため、実質的にロボットハンドが固定された場所でのみ測定が可能になり、運搬や切り出しができない測定対象物は測定できないというという問題もある。
本発明はこの問題を解消するためなされたもので、その目的は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線を撮像面に配置した固体撮像素子で受光して、撮像面に形成される回折環を検出するX線回折測定装置において、照射点―撮像面間距離を様々に設定して測定を行う場合でも、固体撮像素子を照射点―撮像面間距離に応じて簡単な機構で回折環の半径方向に移動させることができ、装置が運搬可能な程度に小型で、コストダウンが図れるX線回折測定装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射機構と、X線出射機構から測定対象物に向けてX線が出射された際、測定対象物にて発生した回折X線を受光し、受光位置ごとのX線強度に相当する信号を出力する複数の固体撮像素子であって、複数の固体撮像素子の面を含む面である撮像面が出射されるX線の光軸に対して垂直である複数の固体撮像素子と、複数の固体撮像素子を撮像面内で移動させる撮像素子移動機構であって、出射されるX線の光軸が撮像面と交差する点に対して対称位置になっている固体撮像素子を互いの反対方向に移動させる撮像素子移動機構とを備えたX線回折測定装置において、撮像素子移動機構は、出射されるX線の光軸を中心軸とする孔を有し、1つの回転駆動を複数の移動体の該孔の中心軸に垂直な方向への移動に変換する機構であって、複数の固体撮像素子のそれぞれは複数の移動体のそれぞれと一体になっているようにしたことにある。
これによれば、撮像素子移動機構により、複数の固体撮像素子のそれぞれにおける出射されるX線の光軸からの距離を、一律に変化させることができるので、照射点―撮像面間距離に応じて複数の固体撮像素子を適切な位置に移動させることができる。そして、撮像素子移動機構は、例えばスクロールチャックのように1つの回転駆動を中心にある孔の中心軸に垂直な方向への移動に変換できる機構であるので、既存の一般的な機構をそのまま用いることができ、コストダウンが図れるとともに、小型の機構であるため装置を運搬可能な程度に小型にすることができる。既存の一般的なスクロールチャックは加工において円柱形状の物体を挟んで固定するものであるが、本発明ではスクロールチャックの爪と呼ばれる箇所を移動体にして複数の固体撮像素子のそれぞれと一体にし、複数の固体撮像素子を移動できるようにする。なお、スクロールチャックは、既存の一般的な機構の1つの例であり、1つの回転駆動を複数の移動体の中心にある孔の中心軸に垂直な方向への移動に変換する機構であれば、どのようなものでも用いることができる。
また、本発明の他の特徴は、複数の固体撮像素子は正方形の形状をした4つの固体撮像素子であり、撮像素子移動機構による4つの固体撮像素子のそれぞれの移動方向は、4つの固体撮像素子のそれぞれの2つの対角線に対して平行と垂直である方向であるようにしたことにある。
これによれば、照射点―撮像面間距離を大きくして撮像面に形成される回折環の半径値が大きくなる場合、4つの固体撮像素子の出射されるX線の光軸からの距離を大きくすることで、不連続ながら回折環のそれぞれの箇所のX線強度データを得ることができる。そして、4つの固体撮像素子の移動方向を回折環の回転角度0とするラインに対し45°の角度を成す方向にすれば、回折環の45°、−45°、135°、−135°の回転角度周辺のデータを得ることができるので、回折環全周のデータから残留応力を計算した場合に比べても、残留応力を同程度の精度で求めることができる。また、このような移動が可能となる撮像素子移動機構としては、例えば4爪のスクロールチャックのように既存の一般的な機構をそのまま用いることができるので、コストダウンが図れる。
また、本発明の他の特徴は、X線出射機構から出射されるX線の測定対象物における照射点から撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離を検出する距離検出手段と、撮像素子移動機構による移動体の移動における移動位置を検出する移動位置検出手段と、照射点―撮像面間距離と複数の固体撮像素子の適切な位置に回折環が形成されるための移動体の移動位置との関係を予め記憶している記憶手段と、距離検出手段が検出した照射点―撮像面間距離と記憶手段に記憶されている関係とを用いて移動体の移動位置を定め、移動位置検出手段により検出される移動位置が定めた移動位置になるよう撮像素子移動機構による移動を制御する移動制御手段とを備えたことにある。
これによれば、距離検出手段が照射点―撮像面間距離を検出すれば、移動制御手段が撮像素子移動機構を制御して固体撮像素子を適切な位置に移動させるので、X線回折測定装置の操作者は、固体撮像素子の移動位置を気にすることなく測定を行うことができ、測定効率をよくすることができる。
また、本発明の他の特徴は、X線出射機構、固体撮像素子及び撮像素子移動機構を含む筐体と、筐体に連結され、筐体の位置と姿勢を任意に設定する筐体位置姿勢変化機構と、筐体にセットされ、重力方向に対する直交する2軸の傾斜角をそれぞれ検出する傾斜角センサと、X線出射機構からX線が出射されない状態で、X線出射機構から出射されるX線と光軸を同一にした可視の平行光を出射する可視光出射手段と、可視光出射手段から可視の平行光が測定対象物に向けて出射されたとき、測定対象物にて発生する反射光を受光し、受光位置を検出できる信号を出力する受光器であって、撮像素子移動機構の複数の移動体の間の面に、撮像面に形成される回折環の回転角度を0とするラインと出射されるX線の光軸とを含む平面である基準平面を跨ぐように配置されている受光器と、可視光出射手段が可視光を出射して受光器が反射光を受光したときの、受光器が出力する信号から検出した反射光の受光位置と、距離検出手段が検出した照射点―撮像面間距離とから、予め記憶している関係を用いて可視光の入射角を検出する入射角検出手段と、傾斜角センサの直交する2軸と、回折環の回転角度を0とするラインの方向及び基準平面に垂直な方向との関係が予め記憶され、傾斜角センサが検出した先の角度と後の角度から、可視光の入射角の変化量を検出する入射角変化量検出手段とを備えたことにある。
これによれば、固体撮像素子が出力する信号から得られる回折環の形状から測定対象物の残留応力を計算する際に必要なパラメータであるX線入射角を、入射角検出手段が検出する可視光の入射角に、その後の入射角変化量検出手段が検出する可視光の入射角の変化量を加算又は減算することで得ることができる。この際、傾斜角センサが検出する先の角度を、筐体位置姿勢変化機構により筐体の位置と姿勢を変化させて、可視光の照射点がX線照射点(測定点)になり、入射角検出手段が可視光の入射角を検出したときの角度とする。そして、傾斜角センサが検出する後の角度を、筐体位置姿勢変化機構により可視光の照射点と基準平面に垂直な軸の方向が変わらないよう筐体の位置と姿勢を変化させたときの角度とすればよい。また、測定対象物の残留応力をより精度よく測定するためには、X線照射点における法線方向と基準平面とが成す角度を0にする必要があるが、これは、入射角検出手段が可視光の入射角を検出するときを、受光器の反射光の受光位置を基準平面が受光器と交差する位置になるようにし、それ以降の筐体位置姿勢変化機構による筐体の姿勢変更を、基準平面に垂直な軸の方向が変わらないよう行うようにすればよい。なお、傾斜角センサの直交する2軸の方向が、回折環の回転角度を0とするラインの方向及び基準平面に垂直な方向と一致するようにすれば、入射角変化量検出手段が検出する可視光の入射角の変化量の計算がより簡単になる。
また、本発明の他の特徴は、X線出射機構、固体撮像素子及び撮像素子移動機構を含む筐体と、撮像素子移動機構はX線出射機構と一体になっており、X線出射機構を撮像素子移動機構とともに筐体に対して移動させるX線光軸移動機構であって、出射されるX線の光軸が撮像面と交差する点である中心点から撮像面に形成される回折環の回転角度を0とする方向に向けて移動させるX線光軸移動機構とを備え、撮像素子移動機構による移動は、X線光軸移動機構による移動と同時に行われるとともに、中心点に対してX線光軸移動機構による移動の方向の反対側にある固体撮像素子は、X線光軸移動機構による移動と平行な方向における移動がないようにされていることにある。
これによれば、回折環の回転角度が180°となる部分、別の表現をすると、X線回折測定により形成される回折環において最も測定対象物に近くなる部分の周辺を撮像する固体撮像素子は、回折環の中心から回折環の回転角度が180°となる部分へ向かう方向へは移動しないので、回折環の中心から見て該固体撮像素子の前側にあるX線回折測定装置の筐体は、該固体撮像素子に近接させて設けることができる。これにより、該固体撮像素子を測定対象物により近づけることができ、照射点―撮像面間距離をより小さく設定することが可能になる。
また、本発明の他の特徴は、中心点に対してX線光軸移動機構による移動の方向の反対側にある固体撮像素子は、ストッパによりX線光軸移動機構による移動と平行な方向における移動がないようにされ、撮像素子移動機構に移動体を移動させるための動力が供給されたとき、X線光軸移動機構はその動力を用いて移動を行うようにしたことにある。
これによれば、X線光軸移動機構はモータ等の動力部分を有さないので、X線回折測定装置をコンパクトにし、コストダウンを図ることができる。
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図5を用いて説明する。図1に示すように、X線回折測定システムは、X線回折測定装置1、アーム式移動装置、コンピュータ装置90及び高電圧電源95から構成され、測定対象物OBがある所まで持ち運ばれ、アーム式移動装置を測定対象物OBの近傍にセットして操作することで、X線回折測定装置1を測定対象物OBに対して適切な位置と姿勢にすることができるものである。X線回折測定装置1はX線を測定対象物OBに照射し、照射点で発生する回折X線により撮像面に形成される回折環の形状を表すデータをコンピュータ装置90に出力するものであり、コンピュータ装置90は入力したデータを用いてcosα法による演算処理を行い測定対象物OBの残留応力を算出するものである。測定対象物OBはX線照射により発生する回折X線により撮像面に回折環が形成されれば、どのようなものでも測定可能であるが、本実施形態では大型の鉄材とする。なお、回折環が形成される撮像面とは、後述する複数の固体撮像素子25の平面が含まれる1つの平面である。固体撮像素子25は位置ごとのX線強度に相当する強度の信号を出力する素子であるが、該信号を処理することで回折環の形状を表すデータを作成できるので、撮像面に回折環が形成されると表現する。
図1、図2A及び図2Bに示すように、X線回折測定装置1は筐体50の側面壁がアーム式移動装置の先端にある先端アーム51に連結されており、アーム式移動装置を操作することにより、筐体50(X線回折測定装置1)を測定対象物OBに対して任意の位置と姿勢にすることができる。別の表現をすると、X線回折測定装置1から出射されるX線(以下、出射X線という)の測定対象物OBにおける照射点(以下、X線照射点という)から回折環が形成される撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離、出射X線の測定対象物OBに対する入射角(以下、X線入射角という)、及び出射X線の光軸を測定対象物OBの表面に投影した方向(以下、残留垂直応力の測定方向という)を任意に設定することができる。また、先端アーム51と筐体50の側面壁との連結部は図2A及び図2Bの紙面垂直方向周りに回転可能になっており、別の表現をすると出射X線の光軸と回折環の回転角度を0とするラインを含む平面の垂直方向周りに回転可能になっている。なお、図2A及び図2Bは固体撮像素子25の半径位置を最小にしたときの図と最大にしたときの図であるが、これについては後述する。また、これ以降、方向の説明においては、図1、図2A及び図2Bの紙面垂直方向をX軸方向、横方向をY軸方向、縦方向をZ軸方向とする。
図1、図2A及び図2Bに示すように、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、固体固体撮像素子25を取り付けたプレート24、プレート24を固定した移動体21を出射X線の光軸の垂直方向に移動させるスクロールチャック20、X線管10から出射されたX線を略平行にするコリメータの役割をする円筒状パイプ12、出射X線と同じ光軸で可視のLED光を出射するLED光出射機構40、及びLED光の照射点付近を撮影して画像用データを出力するカメラCa等を備えている。そして、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、固体撮像素子25、スクロールチャック20、LED光出射機構40及びカメラCa等に接続され、それらの作動を制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に収められている。そして、これらの各種回路はコンピュータ装置90に接続され、コンピュータ装置90のコントローラ91から入力する指令により作動する。コンピュータ装置90は入力装置92及び表示装置93を有し、コントローラ91は、入力装置92からの入力及びインスト−ルされているプログラムの作動により上述した各種回路に指令を出力し、また、該各種回路が出力したデータ及び入力装置92から入力された値を入力してメモリに記憶する。そして、記憶されたデータをインスト−ルされているプログラムにより処理し、得られた残留応力等の測定結果及びカメラCaの撮影画像等を表示装置93に表示させる。また、図1に示すように、X線回折測定システムは高電圧電源95を備え、高電圧電源95はX線管10がX線を出射するための電圧及び電流をX線管10に出力する。
図2A及び図2Bに示すように、X線回折測定装置1の筐体50は、直方体形状の上面と底面にそれぞれ1つの角をなくすように斜面を形成し、底面に段差をつけたような構造をしている。詳細には、筐体50は、第1底面壁50a、第2底面壁50c、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、第1底面壁50aと第2底面壁50cを連結する底面傾斜壁50h、第2底面壁50cと前面壁50bが交差する角部をなくすように設けた繋ぎ壁50d及び後面壁50eと上面壁50fが交差する角部をなくすように設けた上面傾斜壁50gを有するように形成されている。第2底面壁50cと上面壁50fは略平行であり、前面壁50bと後面壁50eも略平行である。そして、第2底面壁50cと上面壁50fに対し前面壁50bと後面壁50eは略垂直であり、側面壁も略垂直である。また、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり第2底面壁50cと所定の角度を有している。この所定の角度は、例えば30〜40度であり、後述するように出射X線の光軸は第2底面壁50cと上面壁50fに略垂直で、前面壁50b、後面壁50e及び側面壁に対して略平行であるので、繋ぎ壁50dの平面を測定対象物OBの平面と平行にすると、この所定の角度がX線入射角になる。第2底面壁50cには円形孔50c1があり、撮像面への回折環形成時にはこの円形孔50c1を通過してX線が出射され、測定対象物OBにて発生した回折X線はこの円形孔50c1を通過して複数の固体撮像素子25で受光される。そして、回折X線は複数の固体撮像素子25が含まれる1つの平面である撮像面の所定の位置に回折環を形成する。また、底面傾斜壁50hはカメラCaの結像レンズ48を取り付けた円筒状の枠体を固定しており、カメラCaはX線照射点付近を撮影することができる。
図1、図2A及び図2Bに示すように、X線管10は筐体50内の上部にて図示左右方向に延設されて固定されている。X線管10の中心軸は、上面壁50f、第2底面壁50c及び側面壁に略平行になっており、X線管10から出射されるX線の光軸は、X線管10の中心軸に対して略垂直になっている。そして、X線管10は、高電圧電源95から高電圧の供給を受けると、その側面に形成された円状の出射口11からX線を図の下方向に出射する。図1に示すX線制御回路71は、コントローラ91から指令が入力すると、X線管10から一定強度のX線が出射するように、高電圧電源95からX線管10に供給される駆動電圧及び駆動電流を制御する。また、X線管10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。
図3は、図2A及び図2Bに示すX線回折測定装置1の、固体撮像素子25、プレート24、スクロールチャック20、LED光出射機構40及び円筒状パイプ12の部分を拡大して示した部分断面図である。スクロールチャック20は、中心にある孔20aの中心軸がX線管10の出射口11から出射されるX線の光軸と一致するよう筐体50に固定されている。スクロールチャック20は、回転駆動を複数の移動体21のスクロールチャック20の半径方向への移動に変換するものであり、その構造は市販されているスクロールチャックと同じである。スクロールチャック20の半径方向は、孔20aの中心軸に対して垂直であり、孔20aの中心軸はX線管10から出射されるX線が通過する円筒状パイプ12の中心軸と一致しており、後述するように出射X線の光軸は円筒状パイプ12の中心軸と同一であるので、スクロールチャック20の半径方向は、出射X線の光軸に対して垂直である。また、複数の固体撮像素子25は平面形状が略同一の複数のプレート24にそれぞれ固定され、複数のプレート24は、複数の固体撮像素子25の平面が含まれる1つの平面である撮像面が出射X線の光軸に対して垂直になるよう、すなわち移動体21の移動方向に平行になるよう移動体21に取り付けられている。よって、スクロールチャック20の半径方向(移動体21の移動方向)は、撮像面に形成される回折環の半径方向であり、以下、出射X線の光軸に対して垂直な方向を、単に半径方向という。市販されているスクロールチャックは円柱状の加工対象物を固定するために使用されるものであり、その多くは、作業者が手動で側面にある回転部を回転させることで、複数の爪を半径方向に移動させ、複数の爪で加工対象物を押圧することで加工対象物を固定するものである。これに対し、本実施形態のスクロールチャック20は、通常、爪と呼ばれる箇所を移動体21にし、それぞれの移動体21に固体撮像素子25を固定したプレート24をそれぞれ固定することで、それぞれの固体撮像素子25を半径方向に移動させるために用いられている。また、本実施形態のスクロールチャック20は、側面にある回転部にモータ22の回転部を連結させ、モータ22の回転駆動により、それぞれの固体撮像素子25(移動体21)を半径方向に移動させる。
図1に示すように、モータ22にはモータ制御回路73が接続され、モータ制御回路73から駆動信号が出力するとモータ22は回転駆動する。また、モータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはモータ22が回転するとパルス列信号を、位置検出回路72及びモータ制御回路73へ出力する。位置検出回路72及びモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動し、位置検出回路72はエンコーダ22aから入力するパルス列信号のパルス数を積算カウントすることで、固体撮像素子25(移動体21)の出射X線の光軸側の移動限界位置を原点とした移動距離をモータ制御回路73とコントローラ91に出力する。この移動距離は、固体撮像素子25(移動体21)の半径方向の位置であり、以下、位置検出回路72が出力する値である固体撮像素子25の移動距離を単に半径値又は半径位置という。モータ制御回路73は、コントローラ91から入力した半径値が位置検出回路72から入力する半径値に等しくなるまで、モータ22に駆動信号を出力する。このときモータ制御回路73は、エンコーダ22aから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数が、設定された値になるよう駆動信号の強度を制御する。これにより、固体撮像素子25(移動体21)は、設定された速さでコントローラ91が指示した半径位置に移動する。また、モータ制御回路73と位置検出回路72は、コントローラ91から移動限界位置への移動の指令が入力すると、モータ制御回路73は固体撮像素子25(移動体21)が出射X線の光軸側の移動限界位置へ向かう駆動信号をモータ22に出力し、位置検出回路72はエンコーダ22aからのパルス列信号の入力がなくなると、カウント値をリセットして0にし、モータ制御回路73に作動停止の信号を出力する。これにより、位置検出回路72は移動限界位置を0にした半径値を出力することができるようになる。
図3に示すように、スクロールチャック20の中心にある孔20aには、径が孔20aの径より大きい円柱部分と径が孔20aの径より僅かに小さい円柱部分とを中心軸が一致するよう合体させた形状の固定ブロック27が挿入されている。そして、固定ブロック27の孔20aの径より大きい円柱部分の縁の近傍に数箇所形成された孔27bを、スクロールチャック20の面に形成されたねじ穴20bと合わせ、ボルトBtを挿入して締め込むことにより、固定ブロック27はスクロールチャック20に固定されている。固定ブロック27の中心には固定ブロック27と中心軸を合わせて孔27aが形成されており、その孔27aには円筒状パイプ12が挿入され接着剤で固定されている。円筒状パイプ12aの両側の先端には通路部材13,14がそれぞれ固定されており、通路部材13,14の中心には通路部材13,14と中心軸を合わせて孔13a,14aが形成されている。固定ブロック27の中心軸とスクロールチャック20の孔20aの中心軸は一致しており、上述したように、スクロールチャック20は、孔20aの中心軸がX線管10から出射されるX線の光軸と一致するように固定され、孔20aの中心軸は円筒状パイプ12の中心軸と一致しているので、円筒状パイプ12の中心軸はX線管10から出射されるX線の光軸と一致している。図3においては、X線管10の出射口11の近傍にLED光出射機構40の回転プレート45があるが、後述するように、回転プレート45はモータ46の回転により位置を変えるので、出射口11から円筒状パイプ12までの間には回転プレート45がないようにすることができる。その状態であれば、出射口11から出射したX線は通路部材13の孔13aから円筒状パイプ12に入射し、円筒状パイプ12の内部を通過して通路部材14の孔14aから出射する。出射するX線は円筒状パイプ12の中心軸付近を平行に通過するX線のみであるので、円筒状パイプ12の内部を通過することで、出射するX線は略平行なX線となる。すなわち、両側の先端に通路部材13,14を固定した円筒状パイプ12は、出射X線のコリメータとして働く。よって、出射X線の光軸は円筒状パイプ12の中心軸と同一であり、さらに、固定ブロック27の中心軸、スクロールチャック20の孔20aの中心軸、及びX線管10から出射されるX線の光軸とも一致している。
スクロールチャック20の移動体21、移動体21に固定されているプレート24及びプレート24に固定されている固体撮像素子25はそれぞれ4つあり、図3においては、それぞれを区別するため−1,−2,−3,−4と番号を付している。ただし、図3においては、−3,−4の番号を付した固体撮像素子25及びプレート24は、−1,−2の番号を付した固体撮像素子25及びプレート24の紙面奥側にあり、重なっているため表示されていない。スクロールチャック20及び固体撮像素子25を、出射X線の光軸方向から見た図が図4A及び図4Bである。図4Aは、固体撮像素子25の半径位置が最も小さいときの図であり、言い換えると固体撮像素子25の半径位置が図2A及び図3に相当するときの図である。また、図4Bは固体撮像素子25の半径位置が最も大きいときの図であり、言い換えると固体撮像素子25の半径位置が図2Bに相当するときの図である。図4A及び図4Bに示すように、移動体21及び固体撮像素子25は、出射X線の光軸方向からX軸方向を上にして見て、左上のものから順に−1,−2,−3,−4と番号を付している。別の表現をすると、撮像面に形成される回折環の回転角度0のラインにする、固体撮像素子25−1と固体撮像素子25−4の中間のラインから右周りに順に番号を付している。なお、回転角度0のライン、及び該ラインを固体撮像素子25−1と固体撮像素子25−4の中間のラインにするための機能及び方法については後述する。上述したように、モータ22の回転駆動によりスクロールチャック20は固体撮像素子25(移動体21)を半径方向に移動させるが、図4A及び図4Bに示すように、スクロールチャック20は移動体21−1〜21−4を90°間隔で配置しており、固体撮像素子25−1〜25−4は回折環の回転角度0のラインから見て、45°,135°,−45°,−135°の回転角度のラインの方向へ移動する。そして、図4A及び図4Bに示すように、固体撮像素子25−1〜25−4は正方形であり、その2つの対角線が移動体21−1〜21−4の移動方向に対して垂直と平行になるよう、固体撮像素子25−1〜25−4を固定したプレート24が移動体21に固定されている。
照射点―撮像面間距離に比例して撮像面に形成される回折環の半径は変化するので、照射点―撮像面間距離により固体撮像素子25−1〜25−4の適切な箇所に回折環が形成されるよう、固体撮像素子25−1〜25−4の半径位置は調整される。コントローラ91のメモリには、照射点―撮像面間距離と固体撮像素子25の半径位置との関係が記憶されており、後述するように照射点―撮像面間距離が検出されると、コントローラ91は検出した照射点―撮像面間距離をメモリに記憶している該関係に当てはめて半径位置を算出し、算出した半径位置をモータ制御回路73に出力する。これにより、固体撮像素子25−1〜25−4の半径位置は適切な箇所に回折環が形成される半径位置になる。図4A及び図4Bからわかるように、照射点―撮像面間距離が小さく回折環の半径が小さいときは、回折環の大部分が固体撮像素子25−1〜25−4上に形成されるが、照射点―撮像面間距離が大きく回折環の半径が大きいときは、回折環の45°,135°,−45°,−135°の回転角度部分の周囲のみが固体撮像素子25上に形成される。しかし、そのような場合でも、例えば特許第4276106号に示されている回折環の形状から残留応力を計算するcosα法の演算の式から分かるように、45°,135°,−45°,−135°の回転角度部分の周囲のデータが、計算において重要の要素になる。よって、照射点―撮像面間距離が大きく回折環の半径が大きい場合でも、測定される残留応力の精度は照射点―撮像面間距離が小さく回折環の半径が小さい場合の精度と同等である。
固体撮像素子25は、X線CCDのようにそれぞれの画素位置におけるX線強度を検出することができるものであれば、どのようなものでも用いることができる。図1に示すように固体撮像素子25はX線強度信号取出回路74と信号線が接続されており、コントローラ91からX線強度信号取出回路74にデータ取出しの指令が入力すると、固体撮像素子25のそれぞれの画素は受光するX線強度に相当する強度の信号をX線強度信号取出回路74に出力する。そして、X線強度信号取出回路74は入力した信号の強度をデジタルデータにし、画素位置の分かるデジタルデータと共に又は画素位置順に該デジタルデータをコントローラ91に出力し、コントローラ91は入力したデジタルデータをメモリに記憶する。これにより、コントローラ91には撮像面の位置ごとの回折X線強度データが記憶される。このデータは言い換えると撮像面に形成される回折環の形状データであり、コントローラ91は、このデータを用いてcosα法による演算を行うことで、残留応力を算出することができる。
照射点―撮像面間距離は、出射X線と同じ光軸で可視のLED光を照射し、カメラCaの撮影画像におけるLED光照射点の位置を検出し、予め記憶されている撮影画像におけるLED光照射点の位置と照射点―撮像面間距離との関係に当てはめることで求めることができる。出射X線と同じ光軸で可視のLED光を照射する機構及びカメラCaの構成と機能は、先行技術文献の特許文献1である特許第6048547号公報で示されているものと同一である。図3に示すように、固定ブロック27は、X線管10と対向する面にモータ46を取り付けており、モータ46は出力軸46aに回転プレート45を取り付けている。図5は、このモータ46と回転プレート45の拡大斜視図である。回転プレート45は、モータ46の回転によりストッパ部材47aに当たるまで回転すると、円筒状パイプ12の中心軸と回転プレート45が交差する箇所が中心となるようにLED光源44を取り付けている。LED光源44は、図1に示すLED駆動回路85から駆動信号が入力すると可視のLED光を出射し、そのLED光は出射X線の光路と同じ光路で測定対象物OBに向けて照射される。これにより、出射X線の光軸及びX線照射点をLED光の光軸および照射点として把握することができる。また、モータ46の回転により回転プレート45がストッパ部材47bに当たるまで回転すると、X線管10の出射口11と円筒状パイプ12の間には何もなくなり、前述したようにX線管10から出射されたX線は円筒状パイプ12に入射する。モータ46は図1に示すモータ制御回路86からの駆動信号により図5に示すD1方向及びD2方向に回転するようになっており、モータ制御回路86は、コントローラ91からの回転方向の指令が入力すると、モータ46のエンコーダ46bからのパルス列信号が入力しなくなるまで駆動信号を出力する。また、LED駆動回路85は、コントローラ91からの指令が入力すると駆動信号をLED光源44に出力する。よって、回転プレート45の回転位置及びLED光源44からのLED光照射は、コントローラ91により制御される。
図2A及び図2Bに示すように、底面傾斜壁50hはカメラCaの結像レンズ48を取り付けており、結像レンズ48の光軸は撮像器49に略垂直になっているとともに、出射X線の光軸と交差するようになっている。そして、該交差する点がLED光照射点(X線照射点)であるとき、結像レンズ48により撮像器49上に形成されるLED光照射点の像は、結像レンズ48の光軸が撮像器49と交差する箇所に形成される。そして、LED光照射点(X線照射点)が該交差する点から離れるにしたがって撮像器49上に形成されるLED光照射点の像の位置は、結像レンズ48の光軸が撮像器49と交差する箇所から離れていく。すなわち、LED光照射点の位置(照射点―撮像面間距離)が変化すると、撮像器49上に形成されるLED光照射点の像の位置は変化し、この関係は1対1の関係である。カメラCaはデジタルカメラであり、撮像器49はCCD受光器又はCMOS受光器で構成され、コントローラ91からセンサ信号取出回路87にデータ出力指令が入力すると、撮像器49の各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路87に出力する。そして、センサ信号取出回路87は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度データを、画素位置が分かるデジタルデータと共に又は画素位置順にコントローラ91に出力し、コントローラ91は入力したデータから画像を作成し表示装置93の画面に撮影画像を表示させる。操作者は、表示装置93に表示される撮影画像によりカメラCaが撮影している箇所を知ることができる。また、上述したように、照射点―撮像面間距離と撮像器49上に形成されるLED光照射点の像の位置は1対1の関係にあるので、照射点―撮像面間距離と撮影画像におけるLED光照射点の位置も1対1の関係にあり、コントローラ91のメモリには予めこの関係が記憶されている。よって、コントローラ91は撮影画像を処理することでLED光照射点の位置を検出し、予め記憶されている関係に当てはめることで、照射点―撮像面間距離を検出することができる。
コントローラ91が回折環の形状のデータからcosα法による演算を行うことで残留応力を算出するにはいくつかのパラメータが必要であり、その中にはヤング率、ポアソン比及び基準回折角 のように既定値であり予め記憶されているパラメータ値もあるが、照射点―撮像面間距離やX線入射角のようにX線回折測定を行うごとに、変化するパラメータ値もある。照射点―撮像面間距離は、上述したようにカメラCaの撮影画像を処理することで得ることができる。そして、X線入射角を検出するために設けられている機器が、図4A及び図4Bに示すようにスクロールチャック20の下面に取り付けられているエリアセンサ28、図2A及び図2Bに示すように筐体50の上面壁50fに取り付けられている傾斜角センサ60、及び図1に示すように、これらのセンサから信号を入力してコントローラ91にデータを出力するセンサ信号取出回路88と傾斜角信号取出回路75である。また、これらは、出射X線の光軸と回折環の回転角度を0とするライン(固体撮像素子25−1,25−4の中間のライン)が含まれる平面(以下、この平面を基準平面という)に、X線照射点における法線が含まれるようにするためにも用いられる。回折環の回転角度0のラインは、測定対象物OBのX線照射点における法線と出射X線の光軸とを含む平面が撮像面と交差するラインにおいて、出射X線の光軸が撮像面と交差する点から測定対象物OBから遠い側にあるラインである。精度のよい測定を行うには、この回折環の回転角度0のラインを固体撮像素子25−1と固体撮像素子25−4の中間のラインになるようにする必要があり、このようにすることを、上述したように、基準平面にX線照射点における法線が含まれるようにすると表現する。
エリアセンサ28はCCD受光器又はCMOS受光器で構成され、固体撮像素子25−1,25−4の中間のラインと中心線が一致するようにスクロールチャック20の下面に取り付けられている。そして、コントローラ91からセンサ信号取出回路88にデータ出力指令が入力すると、各画素ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路88に出力する。センサ信号取出回路88は、エリアセンサ28の各画素ごとの信号強度データを、画素位置が分かるデータと共に又は画素位置順にコントローラ91に出力し、コントローラ91は入力したデータから光の強度が最も大きい点の位置を表示装置93に表示する。これは、出射X線と同じ光軸で可視のLED光を照射したとき、測定対象物OBで反射し、エリアセンサ28で受光される反射光の受光位置を検出するために用いられる。傾斜角センサ60は、コントローラ91から傾斜角信号取出回路75にデータ出力指令が入力すると、回折環の回転角度を0とするライン(固体撮像素子25−1,25−4の中間のライン)に平行な軸とこの軸と出射X線の光軸に垂直な軸、すなわち基準平面に垂直な軸の重力方向に対する傾斜角度に相当する信号を傾斜角信号取出回路75に出力する。傾斜角信号取出回路75は、上述した2軸の傾斜角度のデジタルデータをコントローラ91に出力し、コントローラ91は入力した2軸の傾斜角度から、出射X線の入射角とX線照射点における測定対象物OBの法線に対する基準平面の傾き角(以下、基準平面傾き角という)を計算して表示装置93に表示する。
以下に、コントローラ91が行う出射X線の入射角と基準平面傾き角の計算方法を、操作者が行うX線回折測定装置1(筐体50)の位置と姿勢の調整手順と共に説明する。まず、操作者は、入力装置92から位置・姿勢調整を入力する。これによりコントローラ91はLED駆動回路85、センサ信号取出回路87、モータ制御回路73及びセンサ信号取出回路88に指令を出力し、出射X線と同じ光軸のLED光を出射させ、カメラCaの撮影画像を表示装置93に表示させ、固体撮像素子25を図4Bに示す最大半径位置まで移動させ、エリアセンサ28でのLED光の反射光の受光位置を表示装置93に表示させる。さらに、カメラCaの撮影画像におけるLED光照射点の位置から照射点―撮像面間距離を計算し表示装置93に表示させる。操作者はLED光照射点の位置と表示装置93に表示される画像と値を見ながら、アーム式移動装置を操作してX線回折測定装置1(筐体50)の位置と姿勢を調整することで、X線照射点(LED光照射点)が希望箇所(測定箇所)になり、残留垂直応力の測定方向が希望方向になり、照射点―撮像面間距離をおおよそで希望距離になるようにする。さらに、LED光の反射光の受光位置がエリアセンサ28の中心線の位置になるようにする。操作者はこの調整が完了すると入力装置92から、1次調整完了の入力を行う。これによりコントローラ91は、表示装置93に基準平面傾き角が0(X線照射点における測定対象物OBの法線が基準平面に含まれる状態)であることを表示するとともに、X線入射角(LED光の入射角)を算出して表示する。コントローラ91のメモリには、照射点―撮像面間距離ごとに、エリアセンサ28の反射光の受光位置とX線入射角(LED光の入射角)との関係が記憶されており、照射点―撮像面間距離はカメラCaの撮影画像におけるLED光照射点の位置から算出されるので、記憶されているこの関係にエリアセンサ28の反射光の受光位置を当てはめることで、X線入射角(LED光の入射角)を算出することができる。これによりX線入射角が算出できることは、図2BにX線照射点から2点鎖線で示されているラインのようにLED光の反射光を発生させたとき、照射点―撮像面間距離が一定であれば、反射光の光軸と出射X線の光軸とが成す角度(入射角の倍の角度)と、エリアセンサ28の受光位置とは1対1の関係になることからもわかる。
コントローラ91は、X線入射角を算出するとともに、その時点で傾斜角信号取出回路75から入力した2軸の傾斜角度のデータをコントローラ91に記憶する。以後、操作者はX線回折測定装置1(筐体50)とアーム式移動装置の先端アーム51とを回転可能に接続している接続部のみを回転させ、コントローラ91は、回転がされるごとにX線入射角と基準平面傾き角を計算して表示装置93に表示する。X線回折測定装置1(筐体50)と先端アーム51との接続部の回転の軸は、基準平面に対して垂直であり、基準平面に垂直な軸の重力方向に対する傾斜角度はこの回転では変化しない。よって、コントローラ91は、基準平面に垂直な軸の傾斜角度を最初に記憶した同軸の傾斜角度から加算又は減算し、この角度を基準平面傾き角とする。基準平面傾き角は0、すなわちX線照射点における測定対象物OBの法線が基準平面に含まれる状態にすべきものであるので、操作者はX線回折測定装置1の位置と姿勢の調整の間、表示装置93に表示される基準平面傾き角の絶対値が予め定めた0近傍の許容値内であることを確認する。また、コントローラ91は、回折環の回転角度を0とするラインに平行な軸(以下、Y方向軸という)の傾斜角度と最初に記憶した同軸の傾斜角度から、基準平面に垂直な軸(以下、X方向軸という)周りのY方向軸の角度変化を計算し、最初に記憶したX線入射角に加算又は減算し、この角度をX線入射角にする。X方向軸周りのY方向軸の角度変化Yaは、以下のようにすれば計算することができる。重力方向の単位ベクトルを(0,0,1)とし、最初のY方向軸の傾斜角度をα0、X方向軸の傾斜角度をβとし、X方向軸の単位ベクトルを(cosβ,0,sinβ)として、最初のY方向軸の単位ベクトルを、重力方向の単位ベクトルとの内積がsinα0、X方向軸の単位ベクトルとの内積が0になることから計算する。その後は、X方向軸の傾斜角度はβのまま変化させず、Y方向軸の傾斜角度のみが変化するので、それ以降のY方向軸の傾斜角度をα1とすると、Y方向軸の単位ベクトルは、重力方向の単位ベクトルとの内積がsinα1、X方向軸の単位ベクトルとの内積が0になることから計算する。これにより、最初のY方向軸の単位ベクトルとそれ以降のY方向軸の単位ベクトルが揃うので、2つのベクトルの内積がcosYaになることからX方向軸周りのY方向軸の角度変化Yaを計算することができる。
操作者は、X線回折測定装置1(筐体50)とアーム式移動装置との接続部を回転させながら、表示装置93に表示される基準平面傾き角が0近傍の許容値内にとどまるとともに、X線入射角が希望する値になるようにする。また、1次調整完了時のようにX線照射点(LED光照射点)が希望箇所(測定箇所)になり、残留垂直応力の測定方向を希望方向になり、照射点―撮像面間距離が希望距離になるようにする。これによりX線回折測定装置1(筐体50)の位置姿勢調整は完了するので、操作者は入力装置92から最終調整完了の入力を行う。これによりコントローラ91は、表示装置93に表示されている照射点―撮像面間距離とX線入射角をメモリに記憶し、LED駆動回路85、モータ制御回路86、センサ信号取出回路87及びセンサ信号取出回路88に指令を出力し、LED光源44からのLED光の出射を停止させ、LED光源44が固定された回転プレート45を図5のD2方向に回転させて、X線管10の出射口11と円筒状パイプ12の間に遮蔽物がないようにし、カメラCaの撮影画像の表示装置93への表示を終了させ、エリアセンサ28でのLED光の反射光の受光位置の表示装置93への表示を終了させる。さらに、記憶した照射点―撮像面間距離から上述したように固体撮像素子25の半径値を計算し、モータ制御回路73に計算した半径値を出力する。これにより、固体撮像素子25は半径方向に移動し、X線を測定対象物OBに照射した際、固体撮像素子25の適切な箇所に回折環が形成されるようになる。
次に操作者は、入力装置92から測定開始の指令を出力する。これによりコントローラ91はX線制御回路71とX線強度信号取出回路74に指令を出力し、X線管10からX線が出射し、X線強度信号取出回路74から出力される固体撮像素子25のそれぞれの素子が出力する信号の強度を表すデジタルデータが、コントローラ91に入力してメモリに記憶されていく。コントローラ91は指令を出力して時間計測を開始し、例えば1〜5秒程度の設定時間が経過した後、X線制御回路71とX線強度信号取出回路74に停止指令を出力してX線の出射とデータの入力を停止する。この後、コントローラ91はインストールされているプログラムを用いて、回折環の形状から残留応力等の特性値を計算する。これは、回折環の形状である回転角度αごとのX線強度がピークとなる半径値rαのデータ、照射点―撮像面間距離、X線入射角及び既定のパラメータ値を用いて、cosα法により行う演算である。この演算は公知技術であり、例えば特開2005−241308号公報の〔0026〕〜〔0044〕に詳細に説明されているので、説明は省略する。コントローラ91は残留応力の計算が終了すると、表示装置93に残留応力の計算結果を表示する。なお、残留応力以外に、照射点―撮像面間距離、X線入射角等の測定条件、回折環の形状曲線(回転角度αごとの半径値rαから得られる曲線)及び回折環の強度分布画像(固体撮像素子25の各素子が出力する信号の強度を明度に換算し、各素子の位置と該明度から作成される画像)等を表示するようにしてもよい。作業者は表示された結果を見ることで、測定対象物OBの評価を行うことができる。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線管10、円筒状パイプ12等からなるX線出射機構と、X線出射機構から測定対象物OBに向けてX線が出射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を受光し、受光位置ごとのX線強度に相当する信号を出力する複数の固体撮像素子25であって、複数の固体撮像素子25の面を含む面である撮像面が出射されるX線の光軸に対して垂直である複数の固体撮像素子25と、複数の固体撮像素子25を撮像面内で移動させるスクロールチャック20であって、出射されるX線の光軸が撮像面と交差する点に対して対称位置になっている固体撮像素子25を互いの反対方向に移動させるスクロールチャック20とを備えたX線回折測定装置1において、スクロールチャック20は、出射されるX線の光軸を中心軸とする孔を有し、モータ22の回転駆動を複数の移動体21の該孔の中心軸に垂直な方向への移動に変換する機構であって、複数の固体撮像素子25のそれぞれは複数の移動体21のそれぞれと一体になっている。
これによれば、スクロールチャック20により、複数の固体撮像素子25のそれぞれにおける出射されるX線の光軸からの距離を、一律に変化させることができるので、照射点―撮像面間距離に応じて複数の固体撮像素子25を適切な位置に移動させることができる。そして、スクロールチャック20は、1つの回転駆動を中心にある孔の中心軸に垂直な方向への移動に変換できる機構であるので、既存の一般的な機構をそのまま用いることができ、コストダウンが図れるとともに、小型の機構であるため装置を運搬可能な程度に小型にすることができる。既存の一般的なスクロールチャックは加工において円柱形状の物体を挟んで固定するものであるが、本実施形態ではスクロールチャックの爪と呼ばれる箇所を移動体21にして複数の固体撮像素子25のそれぞれと一体にし、複数の固体撮像素子25を移動できるようにしてある。
また、上記実施形態においては、複数の固体撮像素子25は正方形の形状をした4つの固体撮像素子25−1〜25−4であり、スクロールチャック20による4つの固体撮像素子25−1〜25−4のそれぞれの移動方向は、4つの固体撮像素子25−1〜25−4のそれぞれの2つの対角線に対して平行と垂直である方向にされている。
これによれば、照射点―撮像面間距離を大きくして撮像面に形成される回折環の半径値が大きくなる場合、4つの固体撮像素子25−1〜25−4の出射されるX線の光軸からの距離を大きくすることで、不連続ながら回折環のそれぞれの箇所のX線強度データを得ることができる。そして、4つの固体撮像素子25−1〜25−4の移動方向を回折環の回転角度0とする方向に対し45度の角度を成す方向にすれば、回折環の45°、−45°、135°、−135°の回転角度周辺のデータを得ることができるので、回折環全周のデータから残留応力を計算した場合に比べても、残留応力を同程度の精度で求めることができる。また、このような移動が可能となるスクロールチャック20としては、4爪のスクロールチャックのように既存の一般的な機構をそのまま用いることができるので、コストダウンが図れる。
また、上記実施形態においては、X線出射機構から出射されるX線の測定対象物OBにおける照射点から撮像面までの距離である照射点―撮像面間距離を検出するLED光出射機構40、カメラCa及びコントローラ91の演算プログラムからなる距離検出手段と、スクロールチャック20による移動体21の移動における移動位置を検出する移動位置検出回路72と、照射点―撮像面間距離と複数の固体撮像素子25の適切な位置に回折環が形成されるための移動体21の移動位置との関係を予め記憶しているコントローラ91のメモリと、距離検出手段が検出した照射点―撮像面間距離とコントローラ91のメモリに記憶されている関係とを用いて移動体21の移動位置を定め、移動位置検出回路72により検出される移動位置が定めた移動位置になるようスクロールチャック20による移動を制御するモータ制御回路73及びコントローラ91の制御プログラムからなる移動制御手段とを備えている。
これによれば、距離検出手段が照射点―撮像面間距離を検出すれば、移動制御手段がスクロールチャック20を制御して固体撮像素子25を適切な位置に移動させるので、X線回折測定システムの操作者は、固体撮像素子25の移動位置を気にすることなく測定を行うことができ、測定効率をよくすることができる。
また、上記実施形態においては、X線出射機構、固体撮像素子25及びスクロールチャック20を含む筐体50と、筐体50に連結され、筐体50の位置と姿勢を任意に設定するアーム式移動装置と、筐体50にセットされ、重力方向に対する直交する2軸の傾斜角をそれぞれ検出する傾斜角センサ60と、X線出射機構からX線が出射されない状態で、X線出射機構から出射されるX線と光軸を同一にした可視のLED光を出射するLED光出射機構40と、LED光出射機構40から可視のLED光が測定対象物OBに向けて出射されたとき、測定対象物OBにて発生する反射光を受光し、受光位置を検出できる信号を出力するエリアセンサ28であって、スクロールチャック20の複数の移動体21の間の面に、撮像面に形成される回折環の回転角度を0とするラインと出射されるX線の光軸とを含む平面である基準平面を跨ぐように配置されているエリアセンサ28と、LED光出射機構40がLED光を出射してエリアセンサ28が反射光を受光したときの、エリアセンサ28が出力する信号から検出した反射光の受光位置と、距離検出手段が検出した照射点―撮像面間距離とから、予め記憶している関係を用いてLED光の入射角を検出するコントローラ91の演算プログラムと、傾斜角センサ60の直交する2軸の方向が、回折環の回転角度を0とするラインの方向及び基準平面に垂直な方向にされ、傾斜角センサ60が検出した先の角度と後の角度から、LED光の入射角の変化量を検出するコントローラ91の別の演算プログラムとを備えている。
これによれば、固体撮像素子25が出力する信号から得られる回折環の形状から測定対象物OBの残留応力を計算する際に必要なパラメータであるX線入射角を、コントローラ91の演算プログラムにより検出するLED光の入射角に、その後のコントローラ91の別の演算プログラムにより検出するLED光の入射角の変化量を加算又は減算することで得ることができる。この際、傾斜角センサ60が検出する先の角度を、アーム式移動装置により筐体50の位置と姿勢を変化させて、LED光の照射点がX線照射点(測定点)になり、コントローラ91の演算プログラムがLED光の入射角を検出したときの角度とする。そして、傾斜角センサ60が検出する後の角度を、アーム式移動装置により可視光の照射点と基準平面に垂直な軸の方向が変わらないよう筐体50の位置と姿勢を変化させたときの角度とすればよい。また、測定対象物OBの残留応力をより精度よく測定するためには、X線照射点における法線方向と基準平面とが成す角度を0にする必要があるが、これは、コントローラ91の演算プログラムがLED光の入射角を検出するときを、エリアセンサ28の反射光の受光位置を基準平面がエリアセンサ28と交差する位置になるようにし、それ以降のアーム式移動装置による筐体50の姿勢変更を、基準平面に垂直な軸の方向が変わらないよう行うようにすればよい。
(変形例)
上記実施形態におけるX線回折測定装置1は、X線管10及びスクロールチャック20は筐体50に対して固定されており、移動体21、プレート24及び固体撮像素子25が筐体50に対して移動するようになっている。このため、図2Bに示すように筐体50における繋ぎ壁50dの位置は、固体撮像素子25の半径位置を最も大きくしたとき固体撮像素子25に接触しない位置にする必要がある。そして、図2A及び図2Bにおいて測定対象物OBを上方に移動させて、照射点―撮像面間距離を小さくしていくと、繋ぎ壁50dが測定対象物OBに接触する位置になる。この繋ぎ壁50dが測定対象物OBに接触する位置が照射点―撮像面間距離が最小値となる位置であり、上記実施形態においては、照射点―撮像面間距離をこの最小値より小さくして測定を行うことはできない。これに対し、本変形例は、照射点―撮像面間距離を上記実施形態の最小値よりさらに小さくして測定を行うことが可能な実施形態である。
本変形例におけるX線回折測定装置1’は、図6に示すように上記実施形態の筐体50の繋ぎ壁50dの部分を上部段差壁50jと横段差壁50kの2つにし、横段差壁50kの下部にストッパ36を固定し、このストッパ36にプレート24及び固体撮像素子25を当接させ、プレート24及び固体撮像素子25は半径位置が変化しても、これ以上、図6の右方向には移動しないようになっている。図6は、後述する筐体50内をX線管10の後方からX線管10の軸方向に見た図7と対比できやすくするため、図2A及び図2Bを紙面垂直周りに30°左周りに回転させた図になっている。図6において測定対象物OBを上方に移動させて、照射点―撮像面間距離を小さくしていくと、横段差壁50kと第2底面壁50cの角に測定対象物OBが接触するまで、照射点―撮像面間距離を小さくすることができ、照射点―撮像面間距離の最小値を上記実施形態より小さくすることができる。
X線回折測定装置1’が、固体撮像素子25の半径位置が変化しても、固体撮像素子25の近傍に横段差壁50kを設けることができるのは、X線管10及びスクロールチャック20が移動機構30により筐体50に対して移動し、固体撮像素子25は前面壁50b、横段差壁50kの方向には移動しない構造になっているためである。移動機構30は、X線管10及びスクロールチャック20を固定し一体化している移動ブロック32と、移動ブロック32に嵌合し、移動ブロック32をX線管10の中心軸方向(回折環の回転角度0とするラインの方向)に移動可能にする枠体31と、移動ブロック32のそれぞれの移動位置で移動ブロック32が固定されるようにする圧縮ばね35とから構成される。図7はX線回折測定装置1’の筐体50の内部をX線管10の後方位置からX線管10の中心軸方向に見た図である。図7に示すように移動ブロック32は、直方体形状で上面に円柱状のくぼみ32a1が形成された上部32aと、平板形状で上下に貫通孔が数箇所形成されている下部32bと、枠体31の側板の段差部分と嵌合し、X線管10の中心軸方向に移動が可能になっている凸部32cとから構成されている。枠体31は、X線管10の中心軸方向に見て左右に段差のある側板31bを前方と後方で平板により固定した形状をしており、前方の平板が筐体50の横段差壁50kに当接した状態で筐体50に対して固定されている。移動ブロック32の上部32aのくぼみ32a1はX線管10の側面と嵌合する形状であり、X線管10をくぼみ32a1に置き、X線管10の中心軸方向に見て上部32aの上面の左右の端に固定されている3箇所のベルト固定部33に、X線管10の側面にまわしたベルト34を締め付けて固定することで、移動ブロック32にX線管10が固定される。また、移動ブロック32の下部32bに形成された貫通孔とスクロールチャック20の上面に形成されたねじ穴との位置を合わせ、ボルトBtを締め込むことで移動ブロック32にスクロールチャック20が固定される。これにより、移動ブロック32が枠体31の長尺方向でありX線管10の中心軸方向に移動すると、X線管10、スクロールチャック20及びスクロールチャック20に固定されているLED光出射機構40や固体撮像素子25等は、一体になってX線管10の中心軸方向に移動する。
移動ブロック32には、上部32aの上面の中心を中心とする貫通孔32a2が形成されており、貫通孔32a2の孔径は固定ブロック27の上部の径よりやや大きくなっており、移動ブロック32にスクロールチャック20を固定したとき、図3においてスクロールチャック20の上面より上側に出ている箇所は貫通孔32a2内に収まるようになっている。よって、本変形例においても上記実施形態と同様、出射X線と同じ光軸でLED光を出射する機能を有する。なお、出射X線と該LED光の光軸は、移動ブロック32のX線管10の中心軸方向への移動により移動するので、本変形例では、第2底面壁50cに形成された円形孔50c1は、長方形の左右に半円を密着させた形状をしている。
移動ブロック32を枠体31の長尺方向でありX線管10の中心軸方向に移動させるときの駆動力は、スクロールチャック20の移動体21を移動させるモータ22の駆動力である。図8A及び図8Bは、図6において第2底面壁50cを外し、出射X線の光軸方向からX線回折測定装置1’を見た図であり、モータ22の駆動力により固体撮像素子25−1〜25−4とスクロールチャック20が筐体50に対して移動する様子を示した図である。なお、図8A及び図8Bは、図を見やすくするため、移動機構30、X線管10、上部段差壁50j及び前面壁50bは省略されている。図8Aは固体撮像素子25−1〜25−4の半径位置が最小である場合であり、図8Bは固体撮像素子25−1〜25−4の半径位置が最大である場合であるが、図8A及び図8Bに示すよう、固体撮像素子25−2及び固体撮像素子25−3の横段差壁50kに向かう方向の位置は変化しない。これは、固体撮像素子25−2,25−3とそれらを固定するプレート24は、断面がL字状のストッパ36により横段差壁50kに向かう方向への移動ができないようにされており、ストッパ36の長尺方向への移動(側面壁Lに向かう方向への移動)のみが可能になっているためである。これにより、固体撮像素子25−2,25−3とそれらを固定するプレート24を横段差壁50k方向へ移動させる力は、X線管10やスクロールチャック20を固定している移動ブロック20に作用し、移動ブロック32は枠体31の長尺方向でありX線管10の中心軸方向に移動する。この時、枠体31の後方板31aとスクロールチャック20との間には圧縮ばね35があるため、移動ブロック20を移動させる力に等しい力が反対側から移動ブロック20に作用する。これにより、コントローラ91が固体撮像素子25の半径位置をモータ制御回路73に指令すると、固体撮像素子25−2,25−3の横段差壁50kに向かう方向における位置は一定のまま、4つの固体撮像素子25−1〜25−4は指令された通りの半径位置になり、X線管10やスクロールチャック20は移動位置が固定される。すなわち、固体撮像素子25の半径位置と移動ブロック20の移動位置とには、言い換えると固体撮像素子25の半径位置と出射X線の移動位置とには1対1の関係があり、コントローラ91のメモリにはこの関係が記憶されている。
本変形例にもカメラCaの撮影機能があり、コントローラ91はLED光出射機構40からLED光を出射させたとき、表示装置93にカメラCaの撮影画像を表示させることができる。しかし、上述したように、本変形例においては固体撮像素子25の半径位置により出射X線(LED光)の移動位置は変化するので、照射点―撮像面間距離と撮影画像におけるLED光の照射点位置との関係は1つにはならない。よって、本変形例においては固体撮像素子25の半径位置ごとに(出射X線の移動位置ごとに)照射点―撮像面間距離と撮影画像におけるLED光の照射点位置との関係が記憶されており、固体撮像素子25の半径位置が定まると、定まった半径位置に相当する該関係が用いられて、撮影画像におけるLED光の照射点位置から照射点―撮像面間距離が検出される。そして、固体撮像素子25の半径位置は、上記実施形態と同様、照射点―撮像面間距離により設定される。よって、本変形例においてはX線回折測定装置1’の位置と姿勢の調整は次のように行われる。
まず、操作者は入力装置92から位置・姿勢調整を入力する。このときコントローラ91は希望する照射点―撮像面間距離を入力するよう表示装置93に指示するので、操作者は次いで希望する照射点―撮像面間距離を入力する。これによりコントローラ91は上記実施形態と同じ回路に指令を出力し、出射X線と同じ光軸のLED光を出射させ、カメラCaの撮影画像を表示装置93に表示させ、固体撮像素子25を入力された照射点―撮像面間距離に対応する半径位置まで移動させ、カメラCaの撮影画像におけるLED光の照射点位置から照射点―撮像面間距離を算出して表示装置93に表示させる。また、入力装置92から入力された照射点―撮像面間距離も設定すべき照射点―撮像面間距離として表示装置93に表示する。操作者はX線照射点(LED光照射点)が希望箇所(測定箇所)になり、残留垂直応力の測定方向を希望方向になるとともに、表示装置93に表示された照射点―撮像面間距離を見ながら、検出される値の設定すべき値からのずれが許容値内になるようアーム式移動装置を操作してX線回折測定装置1’(筐体50)の位置と姿勢を調整する。
また、本変形例においてもX線回折測定により残留応力を求めるには、X線入射角(LED光の入射角)を検出する必要がある。また、精度のよいX線回折測定を行うには基準平面傾き角を0、すなわち、X線照射点における測定対象物OBの法線が基準平面に含まれる状態にする必要がある。本変形例においては、固体撮像素子25の半径位置を変化させることで、LED光が移動する機能を利用してX線入射角を検出する。この方法は先行技術文献の特許文献1である特許第6048547号公報に示されている方法であるので、説明は簡単に行う。上述したようにコントローラ91は出射X線(LED光)の移動位置ごとに照射点―撮像面間距離と撮影画像におけるLED光の照射点位置との関係が記憶されているので、LED光を移動させるごとに、照射点―撮像面間距離を検出することができる。これは、LED光の光軸をZ軸として、LED光をY軸方向に移動させたときのLED光照射点の移動箇所における測定対象物OBのプロファイルをY−Z平面で検出することであるので、X線照射点におけるこのプロファイルの法線方向とZ軸との成す角度からX線入射角を算出することができる。また、測定対象物OBが平面であれば、測定対象物OBのプロファイルを求める必要はなく、LED光の移動位置の2点において照射点―撮像面間距離を検出すれば、X線入射角を算出することができる。
また、本変形例においては、X線回折測定装置1’(筐体50)とアーム式移動装置の先端アーム51との接続部には基準平面に垂直な軸周りにX線回折測定装置1’(筐体50)を回転できる機構と共に、基準平面に垂直な方向にX線回折測定装置1’(筐体50)を微小量移動できる機構があり、基準平面傾き角の検出は、この機構を用いて行う。この方法も先行技術文献の特許文献1である特許第6048547号公報に示されている方法であるので、説明は簡単に行う。X線回折測定装置1’(筐体50)を基準平面に垂直な方向に微小量移動させるごとに、照射点―撮像面間距離を検出する。これは、LED光の光軸をZ軸として、LED光をX軸方向に移動させたときのLED光照射点の移動箇所における測定対象物OBのプロファイルをX−Z平面で検出することであるので、X線照射点におけるこのプロファイルの法線方向とZ軸との成す角度から基準平面傾き角を算出することができる。また、測定対象物OBが平面であれば、測定対象物OBのプロファイルを求める必要はなく、LED光の移動位置の2点において照射点―撮像面間距離を検出すれば、基準平面傾き角を算出することができる。
操作者は、照射点―撮像面間距離の検出される値が設定すべき値になるようX線回折測定装置1’(筐体50)の位置と姿勢を調整する際、目測でX線入射角が希望する値になり、基準平面傾き角が0になるようにし、調整が終了すると入力装置92から角度検出の指令を入力する。これにより、コントローラ91はモータ制御回路73に指令を出力し、固体撮像素子25の半径位置を変化させて元の半径位置に戻ることを行い、LED光の移動位置ごとのカメラCaの撮影画像におけるLED光の照射点位置から照射点―撮像面間距離を算出して、上述したようにX線入射角を算出して表示装置93に表示する。次いで、X線回折測定装置1’(筐体50)とアーム式移動装置の先端アーム51との接続部に指令を出力して、基準平面に垂直な軸方向にX線回折測定装置1’(筐体50)を微小量移動させて元の位置に戻ることを行い、LED光の移動位置ごとのカメラCaの撮影画像におけるLED光の照射点位置から照射点―撮像面間距離を算出して、上述したように基準平面傾き角を算出して表示装置93に表示する。操作者は、表示装置93に表示されたX線入射角と基準平面傾き角を見て、X線入射角の希望値との差及び基準平面傾き角の絶対値がそれぞれ許容値内であれば入力装置92から調整完了を入力する。また、いずれかが許容値を超えていれば、照射点―撮像面間距離の検出値の設定すべき値からのずれを許容値内に保ったままX線回折測定装置1’(筐体50)の位置と姿勢を微調整し、再度、入力装置92から角度検出の指令を入力する。これを、X線入射角の希望値との差及び基準平面傾き角の絶対値がそれぞれ許容値内になるまで行う。
操作者が、入力装置92から調整完了を入力したときのコントローラ91の作動は、モータ制御回路73への半径値の出力を除き、上記実施形態と同様である。すなわち、コントローラ91は、表示装置93に表示されている照射点―撮像面間距離の検出値とX線入射角をメモリに記憶し、各回路に指令を出力して、LED光の出射停止、回転プレート45の遮蔽とならない位置への回転、カメラCaの撮影画像の表示装置93への表示の終了を行う。次いで操作者は、入力装置92から測定開始の指令を出力するが、これによるコントローラ91の作動は上記実施形態と同様である。すなわち、コントローラ91は各回路に指令を出力し、X線の出射及び固体撮像素子25の位置ごとのX線強度に相当するデジタルデータのメモリへの記憶を行い、演算プログラムを用いて残留応力等の特性値を計算し、測定条件、回折環の形状曲線及び回折環の強度分布画像等の有用なデータと共に表示装置93へ表示する。
上記説明からも理解できるように、上記変形例においては、X線管10、円筒状パイプ12等からなるX線出射機構、固体撮像素子25及びスクロールチャック20を含む筐体50と、スクロールチャック20はX線出射機構と一体になっており、X線出射機構をスクロールチャック20とともに筐体50に対して移動させる移動機構30であって、出射されるX線の光軸が撮像面と交差する点である中心点から撮像面に形成される回折環の回転角度を0とする方向に向けて移動させる移動機構30とを備え、スクロールチャック20による移動は、移動機構30による移動と同時に行われるとともに、該中心点に対して移動機構30による移動の方向の反対側にある固体撮像素子25−2,25−3は、移動機構30による移動と平行な方向における移動がないようにされている。
これによれば、回折環の回転角度が180°となる部分、別の表現をすると、X線回折測定により形成される回折環において最も測定対象物OBに近くなる部分の周辺を撮像する固体撮像素子25−2,25−3は、回折環の中心から回折環の回転角度が180°となる部分へ向かう方向へは移動しないので、回折環の中心から見て固体撮像素子25−2,25−3の前側にあるX線回折測定装置1’の筐体50は、固体撮像素子25−2,25−3に近接させて設けることができる。これにより、固体撮像素子25−2,25−3を測定対象物OBにより近づけることができ、照射点―撮像面間距離をより小さく設定することが可能になる。
また、上記変形例においては、該中心点に対して移動機構30による移動の方向の反対側にある固体撮像素子25−2,25−3は、ストッパ36により移動機構30による移動と平行な方向における移動がないようにされ、スクロールチャック20に移動体21を移動させるための動力が供給されたとき、移動機構30は該動力を用いて移動を行うようにされている。
これによれば、移動機構30はモータ等の動力部分を有さないので、X線回折測定装置1’をコンパクトにし、コストダウンを図ることができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態及び変形例においては、固体撮像素子25を正方形の形状で4つにし、それぞれの固体撮像素子25の移動方向を、4つの固体撮像素子25のそれぞれの2つの対角線に対して平行と垂直である方向にした。しかしながら、スクロールチャック20により、出射X線の光軸が撮像面と交差する点に対して対称位置になっている固体撮像素子25を、互いの反対方向に移動させる構造であれば、固体撮像素子の形状および個数はこれ以外のものであってもよい。例えば、図9A及び図9Bに示すように固体撮像素子26−1,26−2を長方形の形状で2つにし、スクロールチャック20の2つの移動体21−1,21−2を用いて互いの反対方向に移動させる構造にしてもよい。この場合、移動方向は回折環の回転角度0とするラインと平行な方向にすればよい。なお、このようにした場合、上記実施形態及び変形例に示すように、X線入射角及び基準平面傾き角を検出することができなくなるが、X線入射角及び基準平面傾き角の検出方法は上記実施形態及び変形例に限定されない。これについては後述する。
また、上記実施形態及び変形例においては、モータ22の回転駆動によりスクロールチャック20の移動体21を移動させるようにしたが、1つの回転駆動により移動体21を移動させることができれば、回転駆動はモータ以外の手段であってもよい。例えば、筐体50の外側に回転機構を設けてスクロールチャック20の回転機構と接続し、手動による回転により移動体21を移動させるようにしてもよい。なお、手段を変更した場合でも回転数を検出する機器等、移動体21の移動位置を検出する手段を設ける必要がある。
また、上記実施形態及び変形例においては、固体撮像素子25を移動させる機構としてスクロールチャック20を用いたが、中心に孔があり、1つの回転駆動を複数の移動体の該孔の中心軸に垂直な方向への移動に変換する機構であれば、スクロールチャック以外の機構を用いてもよい。
また、上記実施形態及び変形例においては、傾斜角センサ60が重力方向に対する傾斜角を検出する際の直交する2軸を、回折環の回転角度0の方向と平行な軸と基準平面に垂直な方向の軸とした。しかしながら、傾斜角センサ60の該直交する2軸と回折環の回転角度0の方向に平行な軸及び基準平面に垂直な方向の軸との関係がコントローラ91のメモリに記憶されていれば、X線入射角と基準平面傾き角を計算することは可能である。この場合は、記憶されている関係を用いて座標変換の計算を行うことで、傾斜角センサ60が検出した傾斜角を、回折環の回転角度0の方向に平行な軸と基準平面に垂直な方向の軸に対する傾斜角にすればよい。
また、上記実施形態及び変形例においては、照射点―撮像面間距離の検出を、出射X線と光軸が同じ可視のLED光を照射し、LED光照射点付近をカメラCaで撮影し、撮影画像におけるLED光照射点の位置を検出して、これを予め記憶している照射点―撮像面間距離とLED光照射点の位置との関係に当てはめることで行うようにした。しかしながら、照射点―撮像面間距離を精度よく検出することができるならば、検出方法はどのような方法を用いてもよい。例えば、タイムオブフライトの測定原理の距離計測器を筐体50内に設け、該距離計測器のレーザ光源から出射したレーザ光を出射X線と同じ光軸で測定対象物OBに照射し、該距離計測器が検出する距離から該レーザ光源から撮像面までの距離を減算して照射点―撮像面間距離としてもよい。
また、上記変形例においては、スクロールチャック20の移動体21を半径方向に移動させるモータ22の動力により、X線管10及びスクロールチャック20を固定した移動ブロック32を移動させた。しかしながら、X線回折測定により形成される回折環において最も測定対象物OBに近くなる部分の周辺を撮像する固体撮像素子25が、回折環の中心から回折環の回転角度が180°となる部分へ向かう方向へ移動しないようにすれば、固体撮像素子25の移動のための動力とX線管10及びスクロールチャック20を固定した移動ブロック32の移動の動力とは別々にしてもよい。
また、上記実施形態においては、エリアセンサ88、傾斜角センサ60、これらに接続される回路及びコントローラ91の演算プログラムによりX線入射角及び基準平面傾き角を検出するようにし、上記変形例においては、LED光の光軸を回折環の回転角度0のライン方向及び基準平面に垂直な方向に移動させ、先行技術文献の特許文献1である特許第6048547号公報に示されている方法により、X線入射角及び基準平面傾き角を検出するようにした。しかしながら、X線入射角及び基準平面傾き角を検出することができるならば、これ以外の方法を用いてもよい。例えば、希望するX線入射角の範囲が大きければ、特許第5967491号公報に示されているように、回折環の形状データを得た後に、回折環の回転角度に対する回折環のピーク強度の変化曲線又は回折環の回転角度に対する回折環の半価幅の変化曲線からX線入射角及び基準平面傾き角を求めてもよい。また、特許第6115597号公報に示されているように、X線照射点(LED光照射点)の近傍にパターン光を投影し、パターン光の形状からX線入射角及び基準平面傾き角を検出するようにしてもよい。
また、上記実施形態及び変形例においては、X線回折測定装置1,1’(筐体50)の位置と姿勢調整をアーム式移動装置により行うようにしたが、X線回折測定装置1,1’(筐体50)の位置と姿勢を調整することができれば、どのような装置を用いてもよい。例えば、ステージを3軸方向に移動させる機構と2軸周りに傾斜させる機構を設けた装置のステージにX線回折測定装置1,1’(筐体50)を連結させた構造にしてもよい。
また、上記実施形態及び変形例においては、X線回折測定装置1,1’(筐体50)の位置と姿勢の調整をアーム式移動装置により行うようにしたが、測定対象物OBに対するX線回折測定装置1,1’(筐体50)の位置と姿勢を調整することができれば本発明は適用することができるので、測定対象物OBが運搬可能ならば、X線回折測定装置1,1’は固定され、測定対象物OBを載置するステージの位置と姿勢が調整できる構造であってもよい。また、X線回折測定装置1,1’と測定対象物OBを載置するステージの双方が位置と姿勢が調整できる構造であってもよい。
また、上記実施形態及び変形例においては、コントローラ91に回折環の形状データから残留応力を演算して求めるプログラムや回折環の形状曲線及び回折環の強度分布画像等を作成するプログラムがインストールされているとした。しかし、測定効率を重要視しなければ、X線回折測定システムは回折環の形状データを得るまでにし、コントローラ91が行っている演算を別の装置で行うようにしてもよい。この場合、別の装置に回折環の形状データを入力する方法としては、記録媒体を介する方法、ネット回線等を使用して転送する方法等、様々な方法が考えられる。
また、上記実施形態及び変形例においては、回転プレート45、モータ46及びストッパ部材47aによりLED光源44を出射X線の光軸上に移動させて、出射X線の光軸と同一光軸の可視のLED光を照射する構造にした。しかし、出射X線の光軸と同一光軸の可視の平行光を照射することができれば、可視の平行光を照射する構造はどのようなものでもよい。例えば、ビームスプリッタを出射X線の光軸上に配置し、可視のレーザ光、SLD光又はLED光を平行光にしてビームスプリッタで反射させて出射X線と光軸を同一にして照射するようにしてもよい。