JP2021161553A - 糸条、その製造方法、および織物 - Google Patents

糸条、その製造方法、および織物 Download PDF

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Abstract

【課題】高温水蒸気による脆化が生じにくく、防目ずれ性に優れた織物を与え得る糸条および織物を得ることを課題とする。また、本発明は特にプレス機等水湿熱処理装置に用いるのに好適な織物を提供することを課題とする。【解決手段】仮撚の撚方向と同方向に追撚されたポリフェニレンサルファイド繊維の仮撚順追撚加工糸で、168時間の水湿熱処理後における糸条切断強度保持率が80%以上であり、残留トルク撚り数が0〜10回/50cmである糸条およびそれからなる織物。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリフェニレンサルファイド繊維(以下PPS繊維)を用いた糸条、その製造方法およびそれを用いた織物に関するものである。
アパレルメーカーが縫製した後の衣料品やすでに着用されクリーニング店でクリーニングされた衣料品についたしわを伸ばすプレス仕上げにおいては、一般的にプレス機が使用されている。プレス機は、たとえば、クリーニングされた衣料品を置くパット台とその上からプレスするパット板から成り、パット板からは蒸気が吹き出し、その蒸気が衣料品を通過し、パット台の中へ吸引されるような構造になっている。具体的な作業手順としては、パット台に衣料品を手で伸ばしながら乗せ、その上からパット板でプレスして一定時間の水蒸気を通過させて湿熱セットを行うのである。
ところで、パット台は、絶えず高温の水蒸気が通過するので、外側をカバーする生地には一般的に耐熱性の高い繊維からなる織物が使われている。例えば、ワイシャツ用プレス機では一枚当たり150〜180℃の温度が30秒間施されるので、パット台に用いられている織物は、耐熱性の高い木綿やメタ系アラミド繊維からなるものがほとんどである。ポリエステル繊維では加水分解による脆化と熱収縮が激しく、ナイロンでは熱劣化や水分に対する寸法安定性に欠けるのでほとんど使われない。しかし、耐熱性の高い木綿やメタ系アラミド繊維からなるパット台用織物であっても、長期間水蒸気処理を施すことにより熱硬化したり脆化したりするので、使用頻度にもよるが数ヶ月毎に交換されているのが実状である。
また、この他病院用シーツやホーム用シーツなどの洗浄、プレスを一貫して処理するリネン用クリーニングに用いられるクリーニング資材においても、シーツ等を搬送するロ−ルのカバーに上述の生地が使用されている。しかしながら、これも温度180℃という高温で長時間次亜塩素酸を使用するので薬品処理による脆化も生じやすい。
特許文献1ではこれらの問題を鑑み、耐加水分解性および耐薬品性を有するPPSまたはフッ素繊維の紡績糸を用いてプレス機用織物およびクリーニング資材用織物を作製している。
ところで、縫製や洗濯したワイシャツなどの衣類を仕上げるプレス機としては、例えば特許文献2のようなものがある。
従来から、この種のプレス機の衣類を着せるための人体型パット台は、布製のカバーで覆われており、このカバーは前身頃と後ろ身頃が縫製されて作製されている。
この種のカバーは衣類に対する摩擦特性が前身頃と後ろ身頃で差があることでプレス作業性が良くなる。
衣類を人体型パット台に着せる際、カバーの前身頃に衣類がある程度引っかかるようにする(スリップ防止性、高摩擦)ことで、衣類をシワなく人体型パット台に着せることができる。
また、プレス後に人体型パット台から衣類を引きはがす際は、衣類を人体型パット台の上方へ引っ張り上げ、さらにそのあと手前に引っ張ることで引きはがすため、カバーの後ろ身頃は衣類に対して引っ掛かりが無いようにする(剥離性、低摩擦)ことが求められる。
このような要求性能から、この種のプレス機において、従来はカバーの前身頃に紡績糸を用いた織物、後ろ身頃にはフィラメント糸織物が使用されるか、作業性は差し置いて前身頃も後ろ身頃も同一の紡績糸織物またはフィラメント織物が使用されてきた。
特開2007−023412号公報 特開2015−012985号公報 特許第2737981号公報 特許第4366969号公報
しかし、上記のような部分ごとに求められる摩擦特性が異なり、それぞれの部分で異なる布が使用されているカバーの場合、それぞれの布の伸縮性が異なるために、縫製時にパッカリングなどの問題が生じることがあった。また、カバー全体を同一の紡績糸またはフィラメント糸織物で作製した場合は、パッカリングは生じないが、プレス作業性を差し置くことになるという問題があった。
加えて、特許文献1では熱収縮が起きにくい織物を提供しているが、パッド台カバーとして使用される際には、カバーの内側にクッションとなるフェルトが配されており、これはプレス回数を重ねることで熱収縮するため、このフェルトの収縮にカバーが追従できない場合、プレス時にカバーが折れ曲がり、その折れ曲がりがシワとして衣類などの被プレス物に熱セットされ、仕上がりが悪くなってしまうという問題があった。
また、プレス機用のカバーのような水湿熱処理用資材には上記のように水蒸気の通過性(通気性)が求められることが多い。通気性を向上させようとすると、織物であれば目の粗いものになり、フィラメント糸を用いた場合には目ずれが懸念される。特許文献3や特許文献4のようなPPS繊維を用いた仮撚加工糸を用いることで水湿熱処理用資材とした場合にも防目ずれ性を向上させることが出来ると考えられるが、特許文献3記載の作製法では布帛にする際に、仮撚加工糸の残留トルクによるビリつきにより、糸条が毛羽立ち、製織性が悪く、布帛にしても残留トルクによるカール欠点やビリつきによるスナール欠点、連れ込み欠点などが問題となることが判明した。また、特許文献4の作製法では仮撚−熱固定−解撚し、解撚後に再熱固定を行っているが、一般にPPS繊維のようなガラス転移温度の高い耐熱性繊維の場合、熱セット性が悪いために再熱固定を行っても残留トルクを消しきれないという問題がある。また、200℃前後の高温加熱処理を仮撚り時の熱固定工程を含めると2回行うことで糸条の脆化が発生する。
本発明は、かかる従来技術の問題点を改善し、高温水蒸気による脆化が生じにくく、防目ずれ性に優れた織物を与え得る糸条を得ることを課題とする。また、本発明は特にプレス機用等水湿熱処理装置に用いるのに好適な織物を提供することを課題とする。
かかる課題を解決するため本発明は、次の構成を有する。
(1)仮撚の撚方向と同方向に追撚されたポリフェニレンサルファイド繊維の仮撚順追撚加工糸で、168時間の水湿熱処理後における糸条切断強度保持率が80%以上であり、残留トルク撚り数が0〜10回/50cmである糸条。
(2)仮撚時の下記式に基づく撚係数Kが22000〜30000であって、仮撚り時と同方向への追撚時の撚係数が仮撚り時の撚り係数の40〜80%(仮撚加工前の繊度基準)であることを満足する条件で糸加工を行うことを特徴とする(1)に記載の糸条の製造方法。
K=T×D1/2 〔Tは撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す〕(3)(1)に記載の糸条からなる織物。
(4)通気性が50〜550cm/cm/secの範囲内であり、JIS K7125:1999に基づき、布の片面(高摩擦面)同士の静摩擦係数が0.60〜1.30かつ動摩擦係数が0.55〜1.00、もう一方の面(低摩擦面)同士の静摩擦係数が0.05〜0.60かつ動摩擦係数が0.05〜0.50である(3)に記載の織物。
(5)布の片面に針金起毛、エメリー起毛およびあざみ起毛から選択される一種以上の処理を行った(3)または(4)に記載の織物。
(6)15分の200℃乾熱処理後において、タテ方向および/またはヨコ方向の乾熱収縮率が−8〜−1%である(3)〜(5)のいずれかに記載の織物。
本発明によれば、防目ずれ性のある織物を提供でき、繰り返し水湿熱処理が長期間施される場合の織物自体の強度劣化や被水湿熱処理品の仕上がりを改善することができる織物を与え得る糸条が得られる。このような糸条を用いた織物は、水湿熱処理装置に用いる織物として好適である。また、この織物は、水蒸気とともにプレスする機能を有する装置であるプレス機やクリーニング機用の織物として特に好適である。さらに、織物の表裏で摩擦特性に差を持たせることで、プレス作業時の衣類などの位置決めや、パッド台からの引きはがしの作業性を向上させることが出来るプレス機のカバーとして好適な織物を得ることができる。
図1は残留トルク撚り数の測定方法の説明をするための概念図である。 図2は防目ずれ性の官能評価における各評価基準の典型例を示す図面代用写真である。
本発明の糸条は仮撚の撚方向と同方向に追撚されたPPS繊維の仮撚順追撚加工糸からなり、168時間の水湿熱処理後における糸条切断強度保持率が80%以上である。
ここで、水湿熱処理は、処理温度が160℃(0.61MPa)のオートクレーブにドライ状態(調湿などは行わず、水など液体に濡れていない状態)の糸条を気相中に糸条を7日間(168時間)配置する水湿熱処理を施し、糸条切断強度保持率は、その水湿熱処理前後の糸条について糸条切断強度を測定し、水湿熱処理後の糸条切断強度の水湿熱処理前のそれに対する割合を表した値である。水湿熱処理後に糸条強度保持率が80%を下回る糸条の場合、耐久性の劣るものとなる。
オートクレーブとは耐圧性を有する密閉缶体に水を張り、その水を加熱していくことで、缶体内部を飽和蒸気にて高温・高圧にする機器のことである。オートクレーブ内に棚などを水源と試料が触れない高さに配置することで、オートクレーブ内での気相中の水湿熱処理を行うことが出来る。
また、本発明の糸条は水湿熱処理後の糸条切断強度が3.0cN/dtex以上であることが好ましい。通常、糸条を織編物などに用いる際、起毛加工などの後加工でさらに強度が下がりやすくなる。したがって、強度が下がりすぎると水湿熱処理後の糸条切断強度も下がりやすくなり、編織物は耐久性が低いものとなってしまい、使用中に破断したり穴が空いたりしやすくなる。よって、水湿熱処理後の糸条切断強度で、少なくとも3.0cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは3.5cN/dtex以上である。
本発明で用いるポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維は、通常構成単位の90モル%以上がPPS単位で構成されているPPSを予備硬化することなく、溶融紡糸したのち、該紡糸フィラメントを加熱、延伸して得られる繊維が好ましく挙げられる。
PPSは結晶性の高機能性熱可塑性エンジニアリング・プラスチックであり、耐熱性や耐加水分解性、耐薬品性、難燃性などに優れた特性を持つ。
本発明において、繊維形態としては、仮撚順追撚加工糸とする観点から、マルチフィラメントの形態である。本発明においてはこのようなPPSマルチフィラメントを仮撚順追撚加工糸とする。
本発明の糸条は構成繊維が耐熱性および耐加水分解性を持つPPSマルチフィラメント100%であることが最も好ましいが、PPS繊維は現状高価であるため、コストダウンの観点から本発明の効果を損なわない範囲で、耐熱性ポリエステル、アラミド等の繊維を混繊しても構わない。なお、ポリエステルやアラミドの繊維は加水分解により強度が低下するため、使用に際しては本発明の範囲を外れないよう、注意が必要である。
また、本発明においては仮撚順追撚加工糸とすることが重要である。アラミド繊維などの高強力繊維は高い耐熱性を有していることから熱セット性が低く、残留トルクが残存しやすいため、混繊する場合は、PPSと同程度か、それ以下のガラス転移温度を有する、ポリエステルなどのような繊維が好ましい。しかし、ポリエステルは加水分解による強度低下が生じるため、混繊率は25質量%未満とすることが好ましく、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。
以下、仮撚順追撚加工糸について説明する。
織物にした際の目ずれ防止やカール防止、スナール防止、連れ込み防止などのためには仮撚の撚方向と同方向に追撚された仮撚順追撚加工糸にすることが重要である。仮撚加工を行うことで糸条表面に凹凸を形成することができ、この凹凸により、織物にした際のタテ糸−ヨコ糸間のアンカー効果を得ることができ、防目ずれ性を向上させることが出来る。また、水湿熱処理装置用の資材に用いられるようなガラス転移温度の高い耐熱性繊維の場合、熱セット性に劣る傾向がある。熱セット性に劣る糸条を仮撚りする場合、解撚後の再熱固定のみでは残留トルクを消しきれず、加えて再熱固定の高温加熱による糸条の脆化が起こってしまう。また、撚糸のみでは、熱セット性に劣る糸条の場合、スチームセットのみでは残留トルクが生じてしまう。加えて、糸条表面はなめらかであるため、織物にした際のタテ糸−ヨコ糸間のアンカー効果を得ることができず、防目ずれ性に劣るものとなってしまう。しかし、PPSマルチフィラメントを用い、仮撚時と同方向に追撚し、200℃以下の低温でのスチームセットを行うことで以上の問題を補うことが出来る。
ここで用いるマルチフィラメントの繊度は100〜800dtexが好ましく、200〜500dtexであることがより好ましい。100dtex以上であることにより仮撚時に追撚後の糸条表面の凹凸が十分な捲縮を得ることが出来、防目ずれ性に優れるため好ましい。800dtex以下であることにより、工程通過性に優れ、糸切れも抑制される点で好ましい。
マルチフィラメントの仮撚りは、通常、加撚後、熱固定を行い、解撚することにより行われる。仮撚り加工する際の仮撚機構はピン、フリクションディスク、ベルトニップのいずれであってもよい。
熱固定の工程としては接触型の加熱ヒーターであれば熱板温度180〜240℃であることが好ましい。加熱温度が180℃以上であることで優れた捲縮・糸条表面凹凸を得ることが出来るため好ましく、240℃以下とすることで糸が脆化してしまうことがないため好ましい。より好ましくは200〜230℃である。
また、仮撚時の下記式に基づく撚り係数Kは22000〜30000であることが好ましい。
K=T×D1/2 〔Tは撚り数(回/m)を表し、Dは仮撚加工前繊度(tex)を表す〕
仮撚り時の撚り係数が22000以上であると優れた捲縮・糸条表面凹凸を得ることが出来るため好ましく、30000以下であると毛羽の発生や強度低下が抑制されるため好ましい。より好ましくは24000〜28000である。加えて、仮撚時の加熱は非接触型ヒーターを用いてもよく、その際の熱板温度は300〜500℃であることが好ましい。
さらに、追撚時の上記式に基づく撚り係数Kは仮撚り時の撚り係数の40〜80%(仮撚加工前の繊度基準)、つまりは追撚数が仮撚数の40〜80%が好ましい。
追撚時の撚り係数を仮撚り時の撚り係数の40%以上とすることによりスチームセットを行ったとき残留トルクを十分に消すことができ、80%以下とすることで追撚時とは反対方向の解撚トルクの発生を抑制でき、糸条表面凹凸を消してしまうことや、防目ずれ性を低下させることがないため好ましい。より好ましくは50〜70%である。
また、追撚後のスチームセット温度に関しては110〜160℃にて、スチームセット時間を20〜60分行うことが好ましい。110℃以上とすることにより、十分な熱セットを行うことができ、160℃以下とすることで、糸条の脆化を抑制できる。より好ましくは120〜140℃である。スチームセット時間に関しては、20分以上とすることにより十分な熱セットを行うことができ、残留トルクが残りにくい。また、60分以下とすることにより生産性が低下することなく、糸条の脆化も抑制できるため好ましい。より好ましくは30〜50分である。
追撚時に用いる撚糸機はイタリー式やダウンツイスター、ダブルツイスターなど一般に用いられるいずれの撚糸機でも構わない。
また、本発明において上記手法で作製された糸条の残留トルク撚り数は0〜10回/50cmである。残留トルク撚り数を、10回/50cm以下とすることで、製織中のビリつきによる糸条の毛羽立ちを抑制することができ、製織性が良好であり、布帛にした際もカール欠点やビリつきによるスナール欠点、連れ込み欠点などの発生が抑制される点で好ましい。より好ましくは0〜8回/50cmであり、さらに好ましくは0〜5回/50cmである。
ここで残留トルク撚り数は加工糸を解撚しないように150cm程度採取し、図1(L)に示すように、一方の糸端を垂直面の固定点(P)に固定し、水平に糸を張るように滑車(A)に引っ掛け、もう一方の糸端に0.11cN/dtexの荷重(W)を取り付けて吊るす。この時(P)と滑車(A)の間の加工糸に試長100cmとなるよう、印し(B)と(C)を2か所につける。(B)と(C)の間のほぼ中央に0.44cNの小荷重(W)を吊したまま、印し(B)と(C)を寄せ、図1(R)のようにする。この時、小荷重(W)が回転して止まるまでの数を検撚機で読みとり、これを50cm当たりの残留トルク撚り数として5回の平均値を算出したものである。
かくして得られる糸条は、織物として有用である。
上記糸条を用いた、織物は耐熱性や耐加水分解性、難燃性、耐薬品性、防目ずれ性に優れた特性を有していることから、白衣や手術衣、化学防護服、などの特殊な作業服、液体薬品用のフィルターメッシュや高温集塵フィルターなどの工業用フィルターメッシュ、等に好適に展開することができる。
これらのように上記糸条を用いて織物とすることで様々な用途に展開可能であるが、特に耐湿熱性およびその耐久性に優れることから、水湿熱処理装置に用いられる資材として好適である。
本発明において水湿熱処理装置用の資材としては、同装置内で水蒸気や、熱水等高温液体・薬品に晒される部分に用いられる資材をいう。例えばプレス機に用いられる織物やクリーニング機に用いられるクリーニング資材、特にこれら装置において、プレス作業時のパッド台等に用いられる資材であり、これらの資材として用いられる織物は蒸気を通過させる必要があるものである。よって、本発明の織物はこのような蒸気の通過性に優れることが好ましい。この蒸気の通過性は通気性で表すことができる。織物の密度が高すぎると蒸気の通過性が悪くなりセット性が悪くなる傾向がある。一方、密度が低く蒸気の通過性が良い場合には、熱セット性が良くなるため、プレス時間を短く調整することができ、作業時間が短縮されるため、作業効率は向上する。よって、織物の耐久性を損なわない程度に織密度を低くして通気性を調整することが好ましい。ただし、通気性が高すぎる場合も、プレスで被プレス物のシワを伸ばしきる前に被プレス物が仕上げセットされてしまい、シワが残存してしまうため、調整することが好ましい。
以上のことから、通気性としては50〜550cm/cm/secであることが好ましい。なお、ここでいう通気性は後述の方法で測定した値である。
本発明の織物は、縫製後、あるいはクリーニング後のワイシャツなどの衣類を仕上げるプレス機、特に衣類を着せるための人体型パット台のカバーに特に好適に用いることができる。
また、この織物がパット台のカバーとして使用される場合、パット台全体としての蒸気の通過性はカバー内側に配される、フェルトの蒸気の通過性にも影響を受ける。また、フェルトはプレス回数を重ねることで、圧縮され蒸気の通過性が低下する。
加えて、ズボンや上着のラペルなどのように、生地が重ねられている衣類をプレスする場合、生地の重なっている箇所の蒸気の通過性を向上させるため、その他の部分が当たるカバーの部分はコーティング処理やラミネート処理、または蒸気の通過性の低い面状材で覆うなどして蒸気の通過性を変化させ、全体として衣類をセットしたときに均一となるようコントロールする場合もある。
以上のような理由から、カバーなどに用いる場合を含め、織物の通気性はある程度高くすることが好ましく、その範囲は、織物の厚さや密度にかかわらず、50〜550cm/cm/secとすることが好ましく、さらには200〜500cm/cm/secとすることがより好ましい。
さらに、プレス機に用いられる織物やクリーニング機に用いられるクリーニング資材に用いる織物において、プレス作業時の衣類などの位置決めや、パット台からの引きはがしの作業性の点からプレス機に用いる織物は、表裏で以下のような摩擦特性の差があることが好ましい。
布の片面(高摩擦面(スリップ防止面))同士の静摩擦係数が0.60〜1.30かつ動摩擦係数が0.55〜1.00、もう一方の面(低摩擦面(剥離面))同士の静摩擦係数が0.05〜0.55かつ動摩擦係数が0.05〜0.50であることを特徴とする。
なかでもスリップ防止面に関しては被プレス物がカバー上で動かないことと、位置決めまでの間はある程度衣類の移動のしやすさが重要であるため、静摩擦係数は0.70〜1.20かつ動摩擦係数は0.55〜0.95がより好ましい。剥離面同士に関しては被プレス物の引きはがしやすさが重要であるため、摩擦係数に関しては低い程好ましい点から、静摩擦係数および動摩擦係数はそれぞれ0.05〜0.40であることがより好ましい。
これにより、人体型パット台などに用いるようなカバーにおいて、部分ごとに摩擦特性に差を持たせることにより、使用する際のプレス作業性を向上させることができる。
なお、摩擦係数測定はJIS K7125:1999(プラスチック?フィルム及びシート?摩擦係数試験方法)に準拠し、2枚の織物試験片のタテ方向またはヨコ方向が直角に交わるように重ねることで測定する。
なお、本発明の織物としては、本発明の糸条を用いる限り、糸使いについては、タテ・ヨコ糸とも同素材あるいは異素材であっても構わない。本発明の糸条とともに使用可能な糸条としては長繊維、短繊維、コアーヤーン、複合フィラメントなどを適用できる。織物組織としてはタテ糸およびヨコ糸を本発明の糸条を含む長繊維糸条と短繊維糸条の併用構成とすることも可能である。織物組織としては、ツイルやサテン、二重組織、多重組織など、いずれでもよいが、通気性に加え、防目ずれ性に優れた組織としては平組織が好ましい。
さらに、織物の表裏の摩擦特性に差を生じさせる手法としてはパイル織物とする手法や片面に起毛加工や樹脂コーティング、またはこれら加工手法の組み合わせにより、スリップ防止面または剥離面を形成し、表裏の摩擦特性に差を生じさせてもよい。また、織物の両面ともにナップ仕上げ(nap finish)加工やエアタンブラー加工の揉み仕上げ加工により、フィラメントのフィブリル化を引き起こし、さらに片面に樹脂コーティング加工を行い、表裏の摩擦特性に差を生じさせてもよい。
なかでも布の片面に針金起毛、エメリー起毛またはあざみ起毛などの起毛加工により布の表裏で摩擦特性に差を生じさせることが、生産性やコストの面で好ましい。
起毛加工により織物の表裏で摩擦特性に差を生じさせ、起毛加工を行った上で強度を保持しつつ通気性を確保するには、元々の滑り性が良く、強度を確保できる本発明の糸条を用いることが重要である。
また、本発明の糸条は防目ずれ性に優れているため、通気性の良い低密度織物であっても、起毛加工中に糸条が引っ張られることによる目ずれが抑制できる。
このように、織物の表裏で摩擦特性に差を持たせることで、例えばプレス機の人体型パット台カバーを作製するに際し、縫製時は前身頃の衣類と触れる面(高摩擦面(スリップ防止面))に起毛面、後ろ身頃の衣類と触れる面(低摩擦面(剥離面))に非起毛面を用いてカバーを作製した場合、衣類をシワなく人体型パット台に着せることができ、プレス作業後は衣類を引きはがしやすくなり、作業性が向上する。また、人体型パット台カバーの前身頃と後ろ身頃で同一の織物を使用していることから、縫製時のパッカリングなどが生じにくくなる。
さらに、本発明による織物は15分の200℃乾熱処理後において、タテ方向および/またはヨコ方向の乾熱収縮率が−8〜−1%であることが好ましい。
ここで、乾熱収縮率は次のように測定する。織物30cm四方を織物の両端から5cm程度の間隔を空けて2枚、中央付近から1枚切り出し、それぞれにタテ・ヨコ方向3か所ずつ20cmを試長Lとして印しをつける。その後、200℃のドライオーブンで15分間加熱処理して、印しの間隔L’を測定する。タテ・ヨコ方向それぞれ9か所の収縮率を下記式に基づき算出し、平均値をさらに算出したものである。
Δ[%]=100×(L’−L)/L 〔Δは乾熱収縮率、Lは試長(今回20cm)、L’は加熱処理後の印しの間隔〕
このような特徴を有することでプレス機のパッド台カバーとして用いた際に、カバー内側に配されるフェルトの実使用時のプレスによる収縮に追従することが出来るようになり、カバーが折れ曲がらずに使用できるため、衣類などの被プレス物にシワ無く、きれいにプレス仕上げ出来る。
−8%以上であることにより、パッド台に用いられているフェルトを過度に押しつぶしてしまうことなく、フェルトの交換時期をおくらせることが可能となる。−1%以下であることによりフェルトの収縮に充分に追従することができる。なお、−7〜−2%であることがより好ましい。
なお、上記の乾熱収縮率を達成するためには、製織後に精練および乾燥工程で加工を止めるか、乾燥後のピンテンターでの熱セット条件(セット温度や幅出し率、オーバーフィード率)を調整することで達成する。
また、布のタテ方向またはヨコ方向のどちらか一方をより多く収縮させたい場合、一例としては収縮させたい方向に張力がかかるように(実際の熱セット温度で織物がフリーテンションの際に収縮できる範囲より小さいフィード率で)、低温で熱セットを行うことで達成することが出来る。これは、張力をかけた方向の糸が伸長することで織物のタテ糸−ヨコ糸間でのひずみ、ずれが生じ、低温で熱セットしているためにプレス機の熱により刺激を受けやすい(熱収縮しやすい)ことで、プレス機の熱によって始めの収縮が起き、それに連動してタテ糸−ヨコ糸間のひずみ(張力をかけた方向の糸の伸長)が解消され、収縮を引き起こすためである。
本発明において、このひずみをより生じさせやすくするのが、防目ずれ性のために行った仮撚順追撚加工であり、これにより形成された糸条表面の凹凸である。この凹凸により、タテ糸−ヨコ糸間でのアンカー効果が大きくなり、熱セット後のフリーテンションとなった際にもひずみを維持しやすくなる。
なお、本発明における織物の熱セット条件は、熱セット温度150℃〜220℃が好ましく、170℃〜200℃がより好ましい。幅出し率およびオーバーフィード率は目標仕上げ密度や織組織との兼ね合いもあるため、一概には言えないが幅出し率、オーバーフィード率ともに−3〜10%が好ましく、0〜6%がより好ましい。幅出し率に関しては、−3%以上とすることで十分な熱収縮性が得られる。また、10%以下とすることで組織や密度によるが、耳割けや目寄れ、熱セット中のピン外れなどが発生しにくくなる。また、オーバーフィード率に関して、−3%以上とすることで目寄れや斜行などが発生しにくくなる。また10%以下とすることで十分な熱収縮性が得られる。さらに、セット時間は0.5〜3分が好ましく、1〜2分がより好ましい。0.5分以上とすることで織物全体での熱履歴にバラつきが生じにくくなり、熱収縮性に差が生じにくくなるため好ましく、3分以下とすることで、熱による脆化が発生しにくく、また生産性も良好であるため好ましい。
そして、上述のような様態である本発明の織物は、タテ方向およびヨコ方向ともに引張破断強度が60N/cm 以上であることが好ましい。プレス機やクリーニング機材などに用いられる織物は60N/cm以上とすることで使用中に十分な耐久性が得られ、破断しにくく穴も空きにくい。
上記本発明の織物はプレス機用やクリーニング機に用いられるクリーニング資材用の水湿熱処理装置に特に好適である。なお、本発明において、水湿熱処理装置は高温水や高温薬品水溶液、水蒸気を伴う各種処理を行うための装置を指す。具体的には本発明の織物を高温液体・薬品にさらされるフィルター、メッシュ、カバーなどの部材として用い、湿熱処理を行う装置であり、典型例としてクリーニング機、プレス機などが挙げられる。本発明においてクリーニング機とは、背景技術に記載のリネン用のようなプレスまで一貫するクリーニング機を指し、プレス機は衣類の縫製後およびクリーニング(洗濯)後の仕上げプレス機を指す。
次に、本発明の織物の製造方法について、プレス機材であるパット台用カバーを製造する好ましい方法を例に挙げ説明するが、本発明の織物が得られる限り、これに限定されない。まず、先述の条件にてPPSマルチフィラメント糸を1ヒーターの仮撚工程に通す。仮撚加工後は撚糸工程へと供給し、追撚する。撚糸工程では仮撚糸の残留トルクを無くすため、仮撚時の撚り方向と同方向に撚りを加える。追撚後はスチームセットを行い、撚り止めを行う。なお、この時に仮撚時の撚り方向と反対に撚りをかけてしまうと、仮撚り時の残留トルクに加え、追撚した際の残留トルクが上乗せされ、製織性も悪く、織物にしても、カール欠点やスナール欠点、連れ込み欠点、さらにプレス機でのカバーとしての実使用時には、しわを発生させ、プレス時に衣類へのシワ移りを発生させてしまう恐れがある。
次いで、得られたフィラメント糸をタテ糸とヨコ糸に配列し、ウォータージェットルーム(WJL)織機やレピア織機あるいはエアジェットルーム(AJL)織機によって織物を製織する。得られた生機を精錬し、仕上げ熱セットを施す。今回、実施例で作製した人体型パット台カバーは身頃の横方向が布のタテ方向になり、身頃の横方向にフェルトへの追従性を求められるものであったため、布のタテ方向に熱収縮するような熱セット条件を検討した。
その後、針金起毛、エメリー起毛またはあざみ起毛等の起毛加工によって布の表裏で摩擦特性に差を生じさせ、プレス機のパット台用のカバーに縫製し製品として仕上げる。
なお、クリーニング機のクリーニング資材に用いる場合は、縫製段階で、その機材の形状にあうように縫製すればよい。
また、カバーや使用部位の部分ごとに摩擦特性に差が求められる場合は、布の表裏を変え、縫製すればよい。
以下、実施例により、本発明の糸条および織物についてさらに詳細に説明する。
本発明で用いられる特性は、次の算出方法および測定方法で求められる。
(1)撚り係数K
撚り係数Kは下記式に基づき算出した。
K=T×D1/2 〔Tは仮撚り数(回/m)を表し、Dは仮撚加工前繊度(tex)を表す〕
(2)追撚数および撚り数(回/m)
フィラメント糸の追撚数、撚り数はJIS L1013:2010 8.13.1(より数)に基づいて測定した。紡績糸の撚り数はJIS L1095:2010 9.15.1(JIS法)A法に基づいて測定した。
(3)短繊維長(mm)
短繊維長はJIS L1015:2010 8.4.1(平均繊維長) C法に基づいて測定した。
(4)繊度
フィラメント糸に関しては、JIS L1013:2010 8.3.1(A法)に基づいて測定した。
紡績糸に関しては、JIS L1095:2010 9.4.2 (見掛テックス及び番手)に基づいて測定した。
(5)フィラメント数
JIS L1013:2010 8.4(フィラメント数)に基づいて測定した。
(6)糸条切断強度(cN/dtex)および糸条切断強度保持率(%)
フィラメント糸に関してはJIS L1013:2010 8.5.1(標準時試験)に基づいて測定した。
また、紡績糸に関しては、JIS L1095:2010 9.5.1(JIS法)a)標準時に基づいて測定した。
糸条の強度測定に関して、水湿熱処理前の糸条切断強度は、糸条パッケージから糸条を10本採取し、これらの糸条それぞれについて強度を測定し、10本の平均値を水湿熱処理前糸条切断強度とした。一方、水湿熱処理後の糸条切断強度は、検尺機(なお、検尺機が利用出来ない場合同等の性能をもつ巻返し機を使用してもよい)を用いて、処理後の糸条切断強度測定に必要な糸量以上(2.5±0.5倍程度)をフィラメント糸の場合はJIS L1013:2010 5.1、紡績糸の場合はJIS L1095:2010 6.1にそれぞれ記載の初荷重をかけながら、糸枷を巻き取り、糸端を固定(撚糸や仮撚順追撚糸などであると解撚される恐れがあるため)し、該糸枷を温度160℃、0.61MPaのオートクレーブ中にドライ状態(調湿などは行わず、水など液体に濡れていない状態)にて気相中に168時間配置して水湿熱処理を施し、処理後の糸枷から糸条を採取し、処理前の糸条切断強度を求めるのと同様にして求めた。
以上のように水湿熱処理前後の糸条切断強度を測定し、水湿熱処理後の糸条切断強度の水湿熱処理前の糸条切断強度に対する割合を表した値が糸条強度保持率である。
また、紡績糸に関しては下記繊度換算式に基づいてデシテックス単位へ換算し、糸条切断強度を[cN/dtex]にて表した。
T=5905/n(Tはデシテックス式繊度[dtex]、nは英式綿番手繊度[S])
ここで、英式綿番手繊度は[糸条1ポンド](453.592グラム)当たりの[ヤード数/840ヤード](1ヤード=0.9144メートル)で表される。つまり、1ポンドあたり840ヤードの糸条は1番手(1S)であり、1ポンド当たり1680ヤードの糸条は2番手(2S)である。一方、デシテックス式繊度は[糸条10000メートル]あたりの[グラム数]で表される。つまり、10000メートルあたり100グラムの糸条は100dtexである。つまり、上記換算式にて現れる5905は以下式のように求められる。
(10000[m]/1[g])×(453.592[g]/(0.9144[m]×840))≒5905
(7)織物引張強度(N/cm)
JIS L1096:2010 8.14.1.(A法)(ラベルドストリップ法)に基づいて測定し、織物1cmあたりの引張強度を算出した。
(8)残留トルク撚り数
残留トルク撚り数は次のように測定する。すなわち、糸条に0.11cN/dtexの荷重を吊し、試料を水平方向に取り付け、試長100cmの糸両端に印しをつける。試長のほぼ中央に0.44cNの小荷重を吊したまま、印しを付けた糸両端を中央に寄せる。この時、小荷重が回転した数を検撚機で読みとり50cm当たりの残留トルク撚り数として5回の平均値を算出したものである。
(9)通気性(cm/cm/sec)
通気性は、JIS L1096:2010 8.26.1.(A法)(フラジール法)に基づいて測定した。
(10)摩擦係数
JIS K7125:1999(プラスチック?フィルム及びシート?摩擦係数試験方法)に準拠し、2枚の織物試験片のタテ方向またはヨコ方向が直角に交わるように重ねることで測定する。
(11)乾熱収縮率(%)
乾熱収縮率は次のように測定する。織物30cm四方を織物の両端から5cm程度の間隔を空けて2枚、中央付近から1枚切り出し、それぞれにタテ・ヨコ方向3か所ずつ20cmを試長として印しをつける。その後、200℃のドライオーブンで15分間加熱処理して、印しの間隔を測定する。タテ・ヨコ方向それぞれ9か所の収縮率を下記式に基づき算出し、平均値をさらに算出したものである。
Δ[%]=100×(L’−L)/L 〔Δは乾熱収縮率、Lは試長(今回20cm)、L’は加熱処理後の印しの間隔〕
(12)織物密度(本/2.54cm)
JIS L1096:2010に準拠して測定する。
(13)製織性
製織性(毛羽立ち具合や糸切れ、欠点の入りにくさなどの、糸条から織物への加工のしやすさ)に関して、次のように判定した。
〇:織物への加工のしやすさに優れている
△:織物への加工のしやすさにやや劣る
×:織物への加工のしやすさに劣る
(14)防目ずれ性
防目ずれ性に関して、織物製造従事者3名の官能評価により次のように判定した。
官能評価は織物を親指の爪と人差し指の腹で挟み、糸をタテ・ヨコ方向それぞれにずらすように引っ張ることで評価した。評価基準は下記のとおりであり、各基準の典型例を図2に示した。
◎:織り目が親指の爪痕部分でわずかにずれるが人差し指の腹の痕跡はほとんど判別できない程度であり、極めて防目ずれ性に優れている。
○:織り目が親指の爪痕付近でわずかにずれ、人差し指の腹の痕跡がほのかに判別できる程度であり概ね防目ずれ性に優れている。
△:織り目が親指の爪痕付近から人差し指の腹方向にずれ、人差し指の指先方向から根元方向に向けて人差し指の腹の輪郭を思わせる波紋状のずれが認められ、やや防目ずれ性に劣っている。
×:織り目が親指の爪痕付近から人差し指の腹の痕跡あたりまで、大きなずれが認められ、人差し指の指先方向から根元方向に向けて人差し指の腹の輪郭を思わせる波紋状のずれが認められ、防目ずれ性に劣っている。
(15)プレス作業性および仕上がり
以下の4点に関して、プレス作業者3名の官能評価により次のように判定した。
1)前身頃への衣類のセットのしやすさ(衣類の前身頃上でのある程度の移動のしやすさや衣類の位置決めした後の衣類の動きにくさ)
◎:極めて良い ○:良い △:不良
2)プレス後の後ろ身頃からの衣類の引きはがしやすさ
◎:極めて良い ○:良い △:不良
3)仕上がり(シワの有無や程度)
◎:極めて良い ○:良い △:不良
[実施例1]
繊度220dtex、フィラメント本数50本のPPSマルチフィラメント(220T−50fと表記する)を用いて、セット温度230℃、仮撚係数26698(仮撚数1800T/m)、加工フィード率3.0%、加工速度70m/分にてS方向の仮撚加工を施した。仮撚後は撚糸機に投入し、撚り係数を仮撚り時の67%(17799、撚り数1200T/m)とし、仮撚時と同方向に撚りを加え、さらに120℃、40分にてスチームセットし、撚り止めを行い、仮撚順追撚加工糸を得た。
[実施例2]
実施例1と同様のPPSマルチフィラメントを用いて、セット温度230℃、仮撚係数17799(仮撚数1200T/m)、加工フィード率3.0%、加工速度70m/分にてS方向の仮撚加工を施した。仮撚後は撚糸機に投入し、撚り係数を仮撚り時の67%(11866、撚り数800T/m)とし、仮撚時と同方向に撚りを加え、さらに120℃、40分にてスチームセットし、撚り止めを行い、仮撚順追撚加工糸を得た。
[実施例3]
実施例1と同様のPPSマルチフィラメントを用いて、セット温度230℃、仮撚係数34115(仮撚数2300T/m)、加工フィード率3.0%、加工速度70m/分にてS方向の仮撚加工を施した。仮撚後は撚糸機に投入し、撚り係数を仮撚り時の52%(17799、撚り数1200T/m)とし、仮撚時と同方向に撚りを加え、さらに120℃、40分にてスチームセットし、撚り止めを行い、仮撚順追撚加工糸を得た。
[比較例1]
実施例1と同様のPPSマルチフィラメントを用いて、セット温度230℃、仮撚係数26698(仮撚数1800T/m)、加工フィード率3.0%、加工速度70m/分にてS方向の仮撚加工を施した。仮撚後は撚糸機に投入し、撚り係数を仮撚り時の83%(22249、撚り数1500T/m)とし、仮撚時と同方向に撚りを加え、さらに120℃、40分にてスチームセットし、撚り止めを行い、仮撚順追撚加工糸を得た。
[比較例2]
実施例1と同様のPPSマルチフィラメントを用いて、セット温度230℃、仮撚係数26698(仮撚数1800T/m)、加工フィード率3.0%、加工速度70m/分にてS方向の仮撚加工を得た。
[比較例3]
実施例1と同様のPPSマルチフィラメントを撚糸機に投入し、撚り係数を17799(撚り数1200T/m)とし、S方向の撚りを加え、さらに120℃、40分にてスチームセットし、撚り止めを行い、撚糸を得た。
[比較例4]
繊度220dtex、フィラメント本数50本のPPSマルチフィラメントの生糸を用意した。
[比較例5]
耐熱性の高いメタ系アラミド繊維(Toray Advanced Materials Korea Inc.製:アラウィン(登録商標))の20Sで短繊維長51mm、撚り数550T/m、撚り方向Zの紡績糸を購入し、用意した。
以上の実施例1〜3と比較例1〜5にて得られた各種糸条に関して、160℃、168時間のオートクレーブによる水湿熱処理前後の糸条切断強度および水湿熱処理後の糸条切断強度保持率、残留トルク撚り数を評価した。加えて、タテ糸とヨコ糸の両方にそれぞれ得られた糸条を用いて下記条件にて織物作製し、製織性および防目ずれ性を評価した。評価結果を表1に示す。
<実施例1〜3および比較例1〜4の織物作製条件>
織機 WJL織機(以下WJ)
組織 平
生機乾燥 90℃
精練 90℃
乾燥 130℃
仕上げセット 180℃ 1.5分
オーバーフィード率 6%
幅出し率 6%
仕上がりタテ糸密度 75本/2.54cm
仕上がりヨコ糸密度 47本/2.54cm
<比較例5の織物作製条件>
織機 AJL織機(以下AJ)
組織 平
精練 90℃
乾燥 130℃
仕上げセット 230℃ 1.5分
オーバーフィード率 3%
幅出し率 3%
仕上がりタテ糸密度 55本/2.54cm
仕上がりヨコ糸密度 56本/2.54cm
Figure 2021161553
表1で示すように、実施例2の仮撚順追撚加工糸は、残留トルク撚り数は小さいが、仮撚数が小さかったために糸条の表面凹凸が充分には得られず、タテ糸−ヨコ糸間の凹凸の引っ掛かりが小さく、アンカー効果が小さかったために、◎:極めて防目ずれ性に優れているという評価のものと比較するとタテ糸とヨコ糸が滑りやすいものであったが、防目ずれ性は概ね実用上問題の無い範囲であった。
実施例3の仮撚順追撚加工糸は、残留トルク撚り数は小さいが、仮撚数が大きかったために、糸条切断強度が低下しており、水湿熱処理後の強度は3.2cN/dtexとなり、3.5cN/dtexを下回ったが、3.0cN/dtex以上となり実用には堪えるものとなった。比較例1の仮撚順追撚加工糸は仮撚り係数に対して、追撚時の撚り係数の割合が大きかったため、残留トルク撚り数が大きく、ビリつきにより糸が製織中に毛羽立ち、糸切れや欠点が入りやすく、製織性がやや劣る結果となった。また、追撚数の割合が仮撚り数に対して大きかったために、糸条表面の凹凸も減少してしまい、防目ずれ性もやや劣る結果となった。比較例2の仮撚加工糸は残留トルク撚り数が非常に大きいために、ビリつきにより糸が毛羽立ち、糸切れや欠点が非常に入りやすく、製織性に劣るものであった。比較例3の撚糸はPPSの熱セット性が低いために、残留トルク撚り数が大きくなり、比較例2と同様に製織性の劣るものとなり、また、仮撚り加工を行っていないため、糸条表面には凹凸が無く、防目ずれ性に劣るものとなった。比較例4の生糸は、糸が集束していないために、製織中にフィラメント割れが発生し、それに連動して毛羽立ち・糸切れが発生し、製織性がやや劣るものとなった。また、糸条表面に凹凸が存在しないために防目ずれ性に劣るものであった。比較例5のメタ系アラミド繊維紡績糸は水湿熱処理中に加水分解が起こり、糸条切断強度保持率に劣るものであった。
これら実施例2、3および比較例1〜5に対し、実施例1で得られた仮撚順追撚加工糸は糸条切断強度保持率および糸条切断強度、残留トルク撚り数、製織性、防目ずれ性に関し、特に優れていた。
[実施例4]
実施例1で得られた仮撚順追撚加工糸をタテ糸とヨコ糸の両方に用いて、次の条件にて織物を作製、さらに日機社製エメリー起毛機により、布の片面(高摩擦面)同士の静摩擦係数0.75±0.05かつ動摩擦係数が0.60±0.05となるよう起毛加工を施し、裁断と縫製工程を経て、人体型パット台カバーを作製した。縫製時は前身頃の衣類と触れる面(高摩擦面(スリップ防止面))に起毛面、後ろ身頃の衣類と触れる面(低摩擦面(剥離面))に非起毛面を用いてカバーを作製した。
織機 WJ
組織 平
生機乾燥 90℃
精練 90℃
乾燥 130℃
仕上げセット 180℃ 1.5分
オーバーフィード率(OF) 3%
幅出し率(PIN) 6%
[実施例5]
実施例1で得られた仮撚順追撚加工糸をタテ糸とヨコ糸の両方に用いて、仕上げセット時のオーバーフィード率を0%とし、他条件は実施例4と同条件にて織物を作製、さらに日機社製エメリー起毛機により、布の片面(高摩擦面)同士の静摩擦係数が1.15±0.05かつ動摩擦係数が0.95±0.05となるよう起毛加工を施し、起毛加工を施し、裁断と縫製工程を経て、人体型パット台カバーを作製した。縫製時は前身頃の衣類と触れる面(スリップ防止面)に起毛面、後ろ身頃の衣類と触れる面(剥離面)に非起毛面を用いてカバーを作製した。
[実施例6]
実施例1で得られた仮撚順追撚加工糸をタテ糸とヨコ糸の両方に用いて、仕上げセットを行わず、他条件は実施例4と同条件にて織物を作製、さらに日機社製エメリー起毛機により、実施例4での加工条件にて起毛加工を施し、裁断と縫製工程を経て、人体型パット台カバーを作製した。縫製時は前身頃の衣類と触れる面(スリップ防止面)に起毛面、後ろ身頃の衣類と触れる面(剥離面)に非起毛面を用いてカバーを作製した。
[実施例7]
実施例1で得られた仮撚加工糸をタテ糸とヨコ糸の両方に用いて、仕上げセット時のセット温度を230℃、オーバーフィード率を6%、幅出し率を6%とし、他条件は実施例4と同条件にて織物を作製、エメリー起毛加工は施さず、裁断と縫製工程を経て、人体型パット台カバーを作製した。
[比較例6]
比較例5にて作製した織物を用いて、裁断と縫製工程を経て、人体型パット台カバーを作製した。
以上の実施例4〜7と比較例6の織物および人体型パットカバーに関して、通気性、水湿熱処理前後の織物引張強度、摩擦係数、乾熱収縮率、プレス作業性および仕上がり具合について評価した。評価結果を表2に示す。
Figure 2021161553
表2で示すように、実施例5の織物および人体型パット台カバーは剥離面の静摩擦係数および動摩擦係数が大きく、それに伴いプレス後の後ろ身頃からの衣類の引きはがしやすさが少々劣るものではあったが、実用上は概ね問題なく、良いものであった。実施例6の織物および人体型パット台カバーはスリップ防止面の静摩擦係数および動摩擦係数が小さく、それに伴い前身頃への衣類のセットのしやすさが少々劣るものであったが、実用上は概ね問題なく、良いものであった。しかし、乾熱収縮率がタテ方向で−9.5%となり、カバー内側に配されたフェルトを押しつぶしてしまい、フェルトの交換時期を早めてしまう結果となった。実施例7の織物および人体型パット台カバーは起毛加工を行っていないために、剥離性が良いが、それに伴い前身頃への衣類のセットのしやすさが劣る結果となった。また、熱セット温度が高いために熱収縮性の劣るものとなり、パット台カバー内側のフェルトの熱収縮に追従することが出来ず、カバーがプレス時に折れ曲がり、そのシワが衣類へ移ってしまった。比較例6の織物および人体型パット台カバーは紡績糸を用いているために、スリップ防止性が高く、それに伴いプレス後の後ろ身頃からの衣類の引きはがしやすさが劣るものとなった。また、メタ系アラミド繊維紡績糸であるため、水湿熱処理後のタテ方向の織物引張強度が60N/cmを下回っており、耐久性の劣るものであった。
これらの実施例5〜7および比較例6に対し、実施例4で作製した、織物および人体型パット台カバーは通気性、水湿熱処理前後の織物引張強度、摩擦係数、乾熱収縮率、プレス作業性および仕上がり具合について非常に優れていた。
A:滑車
B:印し
C:印し
P:固定点
:荷重
:小荷重

Claims (6)

  1. 仮撚の撚方向と同方向に追撚されたポリフェニレンサルファイド繊維の仮撚順追撚加工糸で、168時間の水湿熱処理後における糸条切断強度保持率が80%以上であり、残留トルク撚り数が0〜10回/50cmである糸条。
  2. 仮撚時の下記式に基づく撚係数Kが22000〜30000であって、仮撚り時と同方向への追撚時の撚係数が仮撚り時の撚り係数の40〜80%(仮撚加工前の繊度基準)であることを満足する条件で糸加工を行うことを特徴とする請求項1に記載の糸条の製造方法。
    K=T×D1/2 〔Tは撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す〕
  3. 請求項1に記載の糸条からなる織物。
  4. 通気性が50〜550cm/cm/secの範囲内であり、JIS K7125:1999に基づき、布の片面(高摩擦面)同士の静摩擦係数が0.60〜1.30かつ動摩擦係数が0.55〜1.00、もう一方の面(低摩擦面)同士の静摩擦係数が0.05〜0.60かつ動摩擦係数が0.05〜0.50である請求項3に記載の織物。
  5. 布の片面に針金起毛、エメリー起毛およびあざみ起毛から選択される一種以上の処理を行った請求項3または4に記載の織物。
  6. 15分の200℃乾熱処理後において、タテ方向および/またはヨコ方向の乾熱収縮率が−8〜−1%であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の織物。
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