以下、本発明の実施形態によるサスペンションシステムを、例えば4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図6は本発明の第1の実施形態を示している。図1において、車体1は、車両のボディを構成している。車体1の下側には、例えば左,右の前輪と左,右の後輪(以下、総称して車輪2という)が設けられている。
サスペンション装置3は、車体1と車輪2との間に介装して設けられている。サスペンション装置3は、懸架ばね4(以下、スプリング4という)と、スプリング4と並列関係をなして車体1と車輪2との間に介装して設けられた減衰力調整式緩衝器(以下、可変ダンパ5という)とにより構成される。
サスペンション装置3の可変ダンパ5は、車体1側と車輪2側との間で調整可能な力を発生する減衰力発生機構である。可変ダンパ5は、減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成されている。可変ダンパ5には、発生減衰力の特性(即ち、減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ等からなる減衰力可変アクチュエータ6が付設されている。減衰力可変アクチュエータ6は、供給される電流(駆動電流)に応じて減衰力が調整される減衰力調整部である。
なお、減衰力可変アクチュエータ6は、減衰力特性を必ずしも連続的に調整する構成でなくてもよく、例えば2段階以上の複数段階で減衰力を調整可能なものであってもよい。また、可変ダンパ5は、圧力制御タイプでもよく、流量制御タイプであってもよい。
可変ダンパ5は、車体1と車輪2との間の振動周波数に応じて減衰力が調整される周波数感応部7を有している。周波数感応部7は、例えば特許文献1に開示された周波数感応部と同様に構成されている。即ち、周波数感応部7は、ピストンに可変ダンパ5の減衰力を発生させるディスクバルブが設けられているときに、ピストンに設けられたフリーピストンによって構成されている。図4および図5に示すように、周波数感応部7は、車体1と車輪2との間の高周波の振動に対して減衰力を低減させる。このとき、可変ダンパ5の減衰力は、周波数感応部7のカットオフ周波数fcよりも低周波領域に比べて、高周波領域の方が小さくなる。図6に示すように、ピストン速度が大きくなるのに従って、周波数感応部7のカットオフ周波数fcは高くなる。
なお、周波数感応部7は、可変ダンパ5のピストンに限らず、可変ダンパ5のシリンダのボトム側に位置するボトムバルブに設けてもよく、減衰力可変アクチュエータ6(減衰力調整部)に設けてもよい。
CAN8(controller area network)は、車体1に搭載されたシリアル通信部である。CAN8は、車両に搭載された多数の電子機器とコントローラ10との間で車載向けの多重通信を行う。CAN8は、シリアル信号からなるCAN信号によって車両運転情報を伝送する。この場合、CAN8を伝送する車両運転情報としては、例えば操舵角、アクセル開度、車速、車輪速、横加速度、前後加速度等が挙げられる。CAN8は、車体1と車輪2との間の振動を取得する車両振動取得手段となっている。
コントローラ10は、マイクロコンピュータ等によって構成されている。コントローラ10は、ROM、RAM、不揮発性メモリ等からなる記憶部(図示せず)を備えている。コントローラ10は、記憶部に格納されたプログラムを実行することによって、可変ダンパ5の減衰力を制御する。図1に示すように、コントローラ10は、入力側がCAN8等に接続され、出力側は可変ダンパ5の減衰力可変アクチュエータ6等に接続されている。コントローラ10は、CAN8から車両運転情報をシリアル通信により読込む。
コントローラ10は、後述する車両挙動演算部20と、減衰力指令信号出力部11とを有している。減衰力指令信号出力部11は、車体1と車輪2との間の相対速度(ピストン速度V)と車両挙動に基づいて、減衰力可変アクチュエータ6に供給される電流の指令信号を出力する。減衰力指令信号出力部11は、スカイフック制御部12、アンチロール制御部13、アンチダイブ制御部14、アンチスクオット制御部15、車速オフセット制御部16および制御指令演算部17を有している。
スカイフック制御部12は、車両の乗り心地を向上させる乗り心地制御部を構成している。スカイフック制御部12は、CAN8から取得するピストン速度Vと車両挙動演算部20から出力される車両挙動とに基づいて、制御指令値を出力する。具体的には、スカイフック制御部12は、各輪のピストン速度V、ばね上速度等に基づいて減衰力可変アクチュエータ6への電流の指令信号となる制御指令値を算出する。スカイフック制御部12は、例えばスカイフック制御則に基づいて、ストローク速度、ばね上速度等からばね上の上下振動を低減するための制御指令値を制御指令演算部17に出力する。
アンチロール制御部13、アンチダイブ制御部14およびアンチスクオット制御部15は、車両の操縦安定性を高める操縦安定性制御部を構成している。アンチロール制御部13は、車両のロールを抑制するための制御指令値を出力する。アンチロール制御部13は、車両の横加速度に応じて制御指令値を算出し、この制御指令値を制御指令演算部17に出力する。
アンチダイブ制御部14は、車両のダイブを抑制するための制御指令値を出力する。アンチダイブ制御部14は、車体1の前後方向の加速度に基づいて制御指令値を算出し、この制御指令値を制御指令演算部17に出力する。
アンチスクオット制御部15は、車両のスクオットを抑制するための制御指令値を出力する。アンチスクオット制御部15は、車体1の前後方向の加速度に基づいて制御指令値を算出し、この制御指令値を制御指令演算部17に出力する。
車速オフセット制御部16は、車速に応じて減衰力を調整するための制御部である。車速オフセット制御部16は、車速が所定の速度よりも上昇すると、車速の上昇に従って減衰力がハード側になるように、制御指令値のオフセット値を制御指令演算部17に出力する。
制御指令演算部17の入力側には、スカイフック制御部12、アンチロール制御部13、アンチダイブ制御部14、アンチスクオット制御部15、車速オフセット制御部16が接続されている。制御指令演算部17は、互いに並列に接続されたスカイフック制御部12、アンチロール制御部13、アンチダイブ制御部14、アンチスクオット制御部15、車速オフセット制御部16からの制御指令値に基づいて、各可変ダンパ5の減衰力可変アクチュエータ6に出力すべき減衰力の指令信号として指令電流Iを演算する。各可変ダンパ5の減衰力可変アクチュエータ6は、制御指令演算部17から供給された駆動電流となる指令電流Iに従って、減衰力特性をハードとソフトの間で連続的に、または複数段で可変に制御する。
次に、車両挙動演算部20の具体的に構成について、図3ないし図6を参照して説明する。
図3に示すように、車両挙動演算部20は、CAN8から入力される情報(車両運転情報)に基づいて推定した車両挙動を出力する。車両挙動演算部20が推定する車両挙動には、例えば、ばね上速度、相対速度(ピストン速度V)、ピッチレイト、ロールレイト等が含まれている。車両挙動演算部20は、高域通過フィルタ21(以下、HPF21という)と、カットオフ周波数選定部22と、を備えている。これに加え、車両挙動演算部20は、減衰力演算部23と、減衰力可変幅演算部24と、減衰力補正部25と、を備えている。車両挙動演算部20の入力側には、CAN8と制御指令演算部17が接続されている。車両挙動演算部20には、CAN8から車両運転情報が入力されると共に、制御指令演算部17から指令電流Iが入力される。このとき、車両運転情報は、ピストン速度Vを含んでいる。このため、車両挙動演算部20は、ピストン速度Vと指令電流Iとに基づいて、可変ダンパ5が発生する減衰力を推定する。
HPF21は、CAN8から入力される車両運転情報を高周波数帯に振り分ける周波数帯振分部となっている。具体的には、HPF21は、車両運転情報に含まれるピストン速度Vのうちカットオフ周波数fcよりも周波数の高い高周波成分VHを抽出する。HPF21は、ピストン速度Vの高周波成分VHを出力する。このとき、HPF21のカットオフ周波数fcは、カットオフ周波数選定部22によって設定される。
カットオフ周波数選定部22は、車体1と車輪2との間の相対速度(ピストン速度V)に応じてHPF21のカットオフ周波数fcを求める。ここで、可変ダンパ5は、ピストン速度Vの振動周波数に応じて減衰力が調整される周波数感応部7を有している。このため、可変ダンパ5が発生する減衰力は、ピストン速度Vの振動周波数に応じて変化する。図5に示すように、ピストン速度Vの振動周波数がカットオフ周波数fcよりも低いときには、可変ダンパ5の減衰力は大きくなる。ピストン速度Vの振動周波数がカットオフ周波数fcよりも高いときには、可変ダンパ5の減衰力は小さくなる。一方、カットオフ周波数fcは、ピストン速度Vに応じて変化する。ピストン速度Vが高速になるに従って、カットオフ周波数fcは高くなる。そこで、カットオフ周波数選定部22は、ピストン速度Vが高速になるに従って、カットオフ周波数fcを高くする(図6参照)。
図3に示すように、減衰力演算部23の入力側には、CAN8から入力される車両運転情報を遅延させる遅延部26が設けられている。このため、減衰力演算部23の入力側は、制御指令演算部17に接続されると共に、遅延部26を介してCAN8に接続されている。HPF21のフィルタ処理によって、HPF21から出力されるピストン速度Vの高周波成分VHは、ピストン速度Vに対して、位相にずれが生じる。このずれている位相を合わせるために、遅延部26は、車両運転情報に含まれるピストン速度Vを遅延させて、減衰力演算部23に入力する。
減衰力演算部23は、制御指令演算部17から入力される指令電流Iと、CAN8から入力される車両運転情報(ピストン速度V)とに基づいて、可変ダンパ5が発生する減衰力Fを求める。具体的には、減衰力演算部23は、減衰力Fと指令電流Iとピストン速度Vとの関係を示す3次元マップ(F−V−Iマップ)によって構成されている。
このとき、可変ダンパ5の減衰力は、主としてピストン速度Vの低周波成分VLによって決まる。このため、減衰力演算部23が求める減衰力Fは、ピストン速度Vの低周波成分VLに応じた値になる。一方、可変ダンパ5は、減衰力可変アクチュエータ6によって減衰力が調整される。このとき、可変ダンパ5は、指令電流Iに応じて、減衰力が大きいハードな特性と、減衰力が小さいソフトな特性とが切替わる(図4参照)。また、ピストン速度Vが高速になるに従って、減衰力は大きくなる。このような特性を考慮して、減衰力演算部23は、指令電流Iとピストン速度Vとが入力されると、これらに対応する減衰力Fを出力する。
減衰力可変幅演算部24は、制御指令演算部17から入力される指令電流Iと、HPF21によって振り分けられた高周波数帯の車両運転情報であるピストン速度Vの高周波成分VHとに基づいて減衰力可変幅ΔFを求める。具体的には、減衰力可変幅演算部24は、減衰力可変幅ΔFと指令電流Iとピストン速度Vの高周波成分VHとの関係を示す3次元マップ(ΔF−VH−Iマップ)によって構成されている。図4および図5に示すように、可変ダンパ5は、周波数感応部7によって、ピストン速度Vの低周波成分VLに比べて、高周波成分VHに対する減衰力が低減される。このとき、可変ダンパ5は、指令電流Iに応じて、減衰力が大きいハードな特性と、減衰力が小さいソフトな特性とが切替わる。このような特性を考慮して、減衰力可変幅演算部24は、指令電流Iとピストン速度Vの高周波成分VHとが入力されると、これらに対応する減衰力可変幅ΔFを出力する。
なお、ピストン速度Vが低速になるに従って、減衰力可変幅ΔFは小さくなる傾向がある。一例として、可変ダンパ5がハードな特性となっている場合を考える。この場合、ピストン速度Vと減衰力との関係は、図4中の特性線Aに示す通りである。特性線Aに示すように、ピストン速度Vが高速になるに従って、減衰力Fは大きくなる。ここで、特性線Aは、ピストン速度Vに対する減衰力Fの増加率が変化する点Pを有する。点Pに対応する速度値Vpよりもピストン速度Vが低速なときには、ピストン速度Vに対する減衰力の増加率は大きくなる。速度値Vpよりもピストン速度Vが高速なときには、ピストン速度Vに対する減衰力の増加率は小さくなる。速度値Vpよりもピストン速度Vが低速なときには、速度値Vpよりもピストン速度Vが高速なときに比べて、減衰力可変幅ΔFは小さくなる傾向がある。この傾向は、可変ダンパ5がソフトな特性となっている場合でも同様である。このため、減衰力可変幅演算部24は、指令電流Iとピストン速度Vの高周波成分VHに加えて、ピストン速度V(低周波成分VL)を考慮して、減衰力可変幅ΔFを求めてもよい。
減衰力補正部25の入力側は、減衰力演算部23と減衰力可変幅演算部24に接続されている。減衰力補正部25は、減算器によって構成されている。減衰力補正部25は、減衰力演算部23が求めた減衰力Fから減衰力可変幅演算部24が求めた減衰力可変幅ΔFを差し引いて補正減衰力Fo(Fo=F−ΔF)を求める。減衰力補正部25は、可変ダンパ5の減衰力として補正減衰力Foを出力する。
第1の実施形態によるサスペンションシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の走行時に路面の凹凸等により上下方向の振動が発生すると、コントローラ10には、CAN8から車体1と車輪2との間の振動を含む車両運転情報が入力される。このとき、コントローラ10の減衰力指令信号出力部11は、スカイフック制御部12、アンチロール制御部13、アンチダイブ制御部14、アンチスクオット制御部15、車速オフセット制御部16、制御指令演算部17を有している。スカイフック制御部12は、車両挙動演算部20によって推定した車両挙動に基づいて、車両の乗り心地を高めるための制御指令値を求める。また、アンチロール制御部13、アンチダイブ制御部14、アンチスクオット制御部15、車速オフセット制御部16は、CAN8から入力された車両運転情報に基づいて、車両の操縦安定性を高めるための制御指令値を求める。制御指令演算部17は、これらの制御指令値に基づいて、減衰力可変アクチュエータ6に供給する駆動電流の指令信号(指令電流I)を出力する。
ところで、ばね下加速度センサやストロークセンサを使用しないシステムでは、車両挙動演算部を用いて、ばね上とばね下の相対速度を推定する。このため、車両挙動演算部には、ダンパ入力速度や変位に対する発生減衰力を求めるダンパモデルが必要になる。特許文献1に開示されたシステムでは、このダンパモデルは、減衰力と入力加振速度(ピストン速度)と指令電流値の実測値に基づく3次元マップを使用している。
例えば周波数感応型ダンパの場合、入力加振速度の周波数によって出力の減衰力が変化し、高周波で減衰力が低下する。従来技術によるダンパモデルを用いて周波数感応型ダンパの減衰力を推定した場合、高周波入力に対してダンパの減衰力が低下するため、実際の減衰力と推定減衰力に差が生じ、車両挙動の推定精度が悪化する。結果として、コントローラの計算負荷や消費電力が増加して、制御の非効率化が生じる。これに加え、適切な制御ができないため、乗り心地の制御効果が小さくなってしまう。
これに対し、第1の実施形態による車両挙動演算部20は、可変ダンパ5の周波数感応部7を考慮したダンパモデルを用いている。これにより、車両挙動演算部20は、高周波域の減衰力を可変させる可変ダンパ5の周波数依存性を考慮して、可変ダンパ5の減衰力を求めることできる。この結果、車両挙動演算部20による車両挙動の推定精度が向上するから、制御の効率が向上して、コントローラ10の計算負荷を低減させることができると共に、消費電力を低減させることができる。これに加えて、乗り心地のさらなる改善が可能となる。
また、車両挙動演算部20に用いるダンパモデルは、HPF21と、カットオフ周波数選定部22と、3次元マップからなる減衰力演算部23および減衰力可変幅演算部24と、を組み合わせている。このため、車両挙動演算部20のダンパモデルは、油圧計算や力学的な運動の計算をしない簡易的なモデルになっている。
このとき、減衰力演算部23は、ピストン速度Vに対する可変ダンパ5の減衰力Fを求める。減衰力演算部23が求める減衰力Fは、ピストン速度Vの低周波成分VLに応じた値になる。これに加えて、可変ダンパ5の周波数感応部7によってピストン速度Vの高周波成分VHに対して減衰力が低減することを考慮するために、減衰力可変幅演算部24は、高周波成分VHに対する減衰力の低下分となる減衰力可変幅ΔFを求める。減衰力補正部25は、減衰力演算部23が求めた減衰力Fから減衰力可変幅演算部24が求めた減衰力可変幅ΔFを差し引く。これにより、車両挙動演算部20は、周波数感応部7の機能を考慮した減衰力を求めることができる。
また、可変ダンパ5は、入力周波数そのものに感応するものではなく、周波数感応部7への油の流入量(ボリューム)に応じて減衰力が切り替わる機能(加振振幅依存)を有している。このため、減衰力を低減させるカットオフ周波数fcは、ピストン速度Vにより変化し、一定ではない。そこで、車両挙動演算部20は、カットオフ周波数fcとピストン速度Vのマップからなるカットオフ周波数選定部22を利用する。これにより、車両挙動演算部20は、油圧計算せずに、可変ダンパ5の周波数感応部7の機能を考慮することができる。
このようにして、第1の実施形態では、油圧計算のない簡易的なダンパモデルを、コントローラ10による可変ダンパ5の制御に適用する。これにより、コントローラ10の計算負荷を抑えながら、可変ダンパ5の周波数感応部7の機能を考慮して、車両挙動を推定することができる。この結果、可変ダンパ5に対する減衰力の制御指令の精度を上げることができるから、制御効率が良くなり、乗り心地を改善できると共に、コントローラ10の計算負荷の低減と消費電力の低減を図ることができる。
かくして、本実施形態によれば、車両挙動演算部20は、CAN8(車両振動取得手段)から入力される車両運転情報を高周波数帯に振り分けるHPF21(周波数帯振分部)と、車体1と車輪2との間の相対速度(ピストン速度V)に応じてHPF21のカットオフ周波数fcを求めるカットオフ周波数選定部22と、を備えている。このため、車両挙動演算部20は、高周波域の減衰力を可変させる可変ダンパ5の機能を考慮して、車両挙動を演算することができる。これにより、推定精度の高い車両挙動に基づいて、可変ダンパ5の減衰力を制御することができる。
この結果、実際の値に近い減衰力に基づいて、精度の良い車両挙動を推定することができる。このため、制御効率が向上して、消費電力を低下させることができる。また、車両挙動の推定精度が向上することによって、減衰力制御の精度も向上し、乗り心地を改善することができる。さらに、可変ダンパ5の油圧計算モデルを考慮する必要がないため、車両挙動の推定に伴う計算負荷を十分に小さく抑えた状態で、適切な制御指令(指令電流I)を出力することができる。
また、車両挙動演算部20は、減衰力指令信号出力部11から入力される指令電流I(指令信号)とCAN8から入力される車両運転情報とに基づいて減衰力Fを求める減衰力演算部23と、減衰力指令信号出力部11から入力される指令電流IとHPF21(周波数帯振分部)によって振り分けられたピストン速度Vの高周波成分VH(高周波数帯の情報)とに基づいて減衰力可変幅ΔFを求める減衰力可変幅演算部24と、減衰力演算部23が求めた減衰力Fから減衰力可変幅演算部24が求めた減衰力可変幅ΔFを差し引いて補正減衰力Foを求める減衰力補正部25と、を備えている。
これにより、可変ダンパ5の周波数感応部7によってピストン速度Vの高周波成分VHに対する減衰力が低下する場合でも、車両挙動演算部20は、高周波成分VHに対する減衰力の低下分を減衰力可変幅演算部24によって求めることができる。このため、車両挙動演算部20は、減衰力演算部23が求めた減衰力Fから減衰力可変幅演算部24が求めた減衰力可変幅ΔFを差し引く。これにより、車両挙動演算部20は、可変ダンパ5の減衰力の周波数特性を考慮した補正減衰力Foを求めることができ、補正減衰力Foを可変ダンパ5が発生する実際の減衰力に近付けることができる。
さらに、減衰力演算部23の入力側には、CAN8から入力される車両運転情報を遅延させる遅延部26が設けられている。これにより、HPF21によって、減衰力可変幅演算部24から出力される減衰力可変幅ΔFが減衰力演算部23から出力される減衰力Fに比べて遅延する場合でも、このような減衰力可変幅ΔFの遅延を遅延部26によって補償することができる。この結果、減衰力演算部23から出力される減衰力Fと、減衰力可変幅演算部24から出力される減衰力可変幅ΔFとの位相を合わせることができる。このため、減衰力補正部25は、減衰力Fから減衰力可変幅ΔFを差し引くことによって、可変ダンパ5が発生する実際の減衰力に近い補正減衰力Foを求めることができる。
次に、図7は本発明の第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、双線形最適制御部を用いて乗り心地を向上させるための制御指令値を求めることにある。なお、第2の実施形態では、前述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第2の実施形態によるコントローラ30は、第1の実施形態によるコントローラ10とほぼ同様に構成されている。コントローラ30は、入力側がCAN8等に接続され、出力側は可変ダンパ5の減衰力可変アクチュエータ6等に接続されている。
コントローラ30は、車両挙動演算部20と、減衰力指令信号出力部31とを有している。減衰力指令信号出力部31は、車体1と車輪2との間の相対速度(ピストン速度V)と車両挙動に基づいて、減衰力可変アクチュエータ6に駆動電流の指令信号(指令電流I)を出力する。減衰力指令信号出力部31は、双線形最適制御部32(以下、BLQ制御部32という)、アンチロール制御部13、アンチダイブ制御部14、アンチスクオット制御部15、車速オフセット制御部16および制御指令演算部17を有している。
BLQ制御部32は、第1の実施形態によるスカイフック制御部12に代えて減衰力指令信号出力部31に備えられている。BLQ制御部32は、車両の乗り心地を向上させる乗り心地制御部を構成している。BLQ制御部32は、CAN8から取得するピストン速度Vと車両挙動演算部20から出力される車両挙動とに基づいて、制御指令値を出力する。具体的には、BLQ制御部32は、各輪のピストン速度V、ばね上速度等に基づいて減衰力可変アクチュエータ6への電流の指令信号となる制御指令値を算出する。BLQ制御部32は、例えば双線形最適制御理論に基づいて、ストローク速度、ばね上速度等からばね上の上下振動を低減するための制御指令値を出力する。
かくして、このように構成される第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、第2の実施形態では、乗り心地制御部としてのBLQ制御部32は双線形最適制御を行う場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、乗り心地制御部は例えばH∞制御を行ってもよく、各種のフィードバック制御を行ってもよい。
次に、図8は本発明の第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、車両挙動演算部がCANから取得する車両運転情報に加えて、ばね上加速度センサから取得するばね上加速度に基づいて、車両挙動を推定することにある。なお、第3の実施形態では、前述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第3の実施形態によるコントローラ40は、第1の実施形態によるコントローラ10とほぼ同様に構成されている。コントローラ40は、入力側がCAN8と上下加速度センサ41に接続され、出力側は可変ダンパ5の減衰力可変アクチュエータ6等に接続されている。
上下加速度センサ41は、車体1に設けられ、ばね上側となる車体1側で上下方向の振動加速度を検出する。上下加速度センサ41は、例えば車体1に合計3個設けられている。この場合、上下加速度センサ41は、各前輪側の可変ダンパ5の上端側近傍となる位置で車体1に取付けられると共に、左右の後輪間の中間位置で車体1に取付けられている。上下加速度センサ41は、車体1と車輪2との間の振動を取得する車両振動取得手段となっている。
コントローラ40は、車両挙動演算部42と、減衰力指令信号出力部11とを有している。車両挙動演算部42は、第1の実施形態による車両挙動演算部20とほぼ同様に構成されている。但し、車両挙動演算部42には、CAN8から車両運転情報が入力されると共に、上下加速度センサ41からばね上加速度が入力される。車両挙動演算部42は、CAN8および上下加速度センサ41から入力される情報に基づいて推定した車両挙動を出力する。具体的には、車両挙動演算部42は、CAN8から操舵角、アクセル開度、車速、車輪速、横加速度、前後加速度等を取得すると共に、上下加速度センサ41から車体1側の3箇所の上下方向の振動加速度を取得する。車両挙動演算部42は、これらの情報に基づいて、各輪の相対速度(ピストン速度V)を取得する。これにより、車両挙動演算部42は、第1の実施形態による車両挙動演算部20と同様に、ピストン速度Vと指令電流Iとに基づいて、可変ダンパ5が発生する減衰力を推定する。
かくして、このように構成される第3の実施形態でも、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、第3の実施形態では、サスペンションシステムが車両振動取得手段となる上下加速度センサ41を3個備えた場合を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、例えば上下加速度センサを左,右の前輪側および左,右の後輪側にそれぞれ設け、サスペンションシステムが合計4個の上下加速度センサを備えてもよい。また、車両振動取得手段は、上下加速度センサに限らず、例えば車高センサ、車輪速センサ、操舵角センサ等のような各種のセンサでもよい。車両振動取得手段は、例えば車両の走行路面を計測可能なステレオカメラ等のようなカメラセンシング装置でもよい。
次に、図1および図3は本発明の第4の実施形態を示している。第4の実施形態の特徴は、車両挙動演算部のカットオフ周波数選定部、減衰力演算部、減衰力可変幅演算部がマップに代えて数式を用いることにある。なお、第4の実施形態では、前述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第4の実施形態によるコントローラ50は、第1の実施形態によるコントローラ10とほぼ同様に構成されている。コントローラ50は、入力側がCAN8に接続され、出力側は可変ダンパ5の減衰力可変アクチュエータ6等に接続されている。
コントローラ50は、車両挙動演算部51と、減衰力指令信号出力部11とを有している。車両挙動演算部51は、第1の実施形態による車両挙動演算部20とほぼ同様に構成されている。車両挙動演算部51は、HPF21、カットオフ周波数選定部52、減衰力演算部53、減衰力可変幅演算部54および減衰力補正部25を備えている。但し、カットオフ周波数選定部52、減衰力演算部53、減衰力可変幅演算部54は、マップに代えて数式を有している。
カットオフ周波数選定部52は、車体1と車輪2との間の相対速度(ピストン速度V)に応じてHPF21のカットオフ周波数fcを求める。カットオフ周波数選定部52は、ピストン速度Vが高くなるに従って、カットオフ周波数fcを高くする。このとき、カットオフ周波数選定部52は、例えばピストン速度Vに比例してカットオフ周波数fcを高くなるような一次関数からなる数1の数式を有している。
カットオフ周波数選定部52は、この数式を用いて、ピストン速度Vからカットオフ周波数fcを求める。カットオフ周波数選定部52に用いる数式は、一次関数に限らず、実際のピストン速度Vとカットオフ周波数fcとの関係を考慮した各種の近似式が適用可能である。
減衰力演算部53は、制御指令演算部17から入力される指令電流Iと、CAN8から入力される車両運転情報(ピストン速度V)とに基づいて、可変ダンパ5が発生する減衰力Fを求める。具体的には、減衰力演算部53は、減衰力Fと指令電流Iとピストン速度Vとの関係を示す数2の数式によって構成されている。減衰力演算部53は、指令電流Iとピストン速度Vとが入力されると、これらに対応する減衰力Fを出力する。
減衰力可変幅演算部54は、制御指令演算部17から入力される指令電流Iと、HPF21によって振り分けられた高周波数帯の車両運転情報であるピストン速度Vの高周波成分VHとに基づいて減衰力可変幅ΔFを求める。具体的には、減衰力可変幅演算部54は、減衰力可変幅ΔFと指令電流Iとピストン速度Vの高周波成分VHとの関係を示す数3の数式によって構成されている。減衰力可変幅演算部54は、指令電流Iとピストン速度Vの高周波成分VHとが入力されると、これらに対応する減衰力可変幅ΔFを出力する。
かくして、このように構成される第4の実施形態でも、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、前記第1の実施形態では、減衰力指令信号出力部11は、乗り心地制御部となるスカイフック制御部12に加えて、操縦安定性制御部となるアンチロール制御部13、アンチダイブ制御部14、アンチスクオット制御部15を備えると共に、車速オフセット制御部16を備えるものとした。本発明はこれに限るものではなく、減衰力指令信号出力部からアンチロール制御部、アンチダイブ制御部、アンチスクオット制御部、車速オフセット制御部のいずれかを省いてもよく、これらを全て省いてもよい。即ち、減衰力指令信号出力部は、乗り心地制御部のみを備えてもよい。この構成は、第2ないし第4の実施形態にも適用することができる。
前記各実施形態では、4輪自動車に用いるサスペンションシステムを例に挙げて説明した。本発明はこれに限るものではなく、例えば2輪、3輪自動車、または作業車両、運搬車両であるトラック、バス等にも適用できる。
前記各実施形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
次に、上記実施形態に含まれるサスペンションシステムとして、例えば、以下に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、サスペンションシステムは、車両の相対移動する2部材間に設けられており、前記2部材間の振動周波数に応じて減衰力が調整される周波数感応部と、供給される電流に応じて減衰力が調整される減衰力調整部とを有する減衰力発生機構と、前記2部材間の振動を取得する車両振動取得手段と、前記車両振動取得手段から入力される情報に基づいて推定した車両挙動を出力する車両挙動演算部と、前記2部材間の相対速度と前記車両挙動に基づいて、前記減衰力調整部に供給される電流の指令信号を出力する減衰力指令信号出力部とを有するコントローラと、を備え、前記車両挙動演算部は、前記車両振動取得手段から入力される情報を高周波数帯に振り分ける周波数帯振分部と、前記2部材間の相対速度に応じて前記周波数帯振分部のカットオフ周波数を求めるカットオフ周波数選定部と、を備えたことを特徴としている。
第2の態様としては、第1の態様において、前記車両挙動演算部は、前記減衰力指令信号出力部から入力される前記指令信号と前記車両振動取得手段から入力される前記情報とに基づいて減衰力を求める減衰力演算部と、前記減衰力指令信号出力部から入力される前記指令信号と前記周波数帯振分部によって振り分けられた高周波数帯の前記情報とに基づいて減衰力可変幅を求める減衰力可変幅演算部と、前記減衰力演算部が求めた減衰力から前記減衰力可変幅演算部が求めた前記減衰力可変幅を差し引いて補正減衰力を求める減衰力補正部と、を備えている。
第3の態様としては、第2の態様において、前記減衰力演算部の入力側には、前記車両振動取得手段から入力される前記情報を遅延させる遅延部が設けられている。