JP2021136967A - 熱に対する安定性が向上したFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤 - Google Patents

熱に対する安定性が向上したFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤 Download PDF

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真澄 高山
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Abstract

【課題】 天然型ヒトFcRnに対して熱に対する安定性が向上したFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法、および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤を提供すること。【解決手段】 天然型のヒトFcRnα鎖のアミノ酸配列(UniProt No.P55899)の細胞外領域およびヒトFcRnβ鎖のアミノ酸配列(UniProt No.P61789)中のβ2ミクログロブリン領域を少なくとも含み、ただし当該領域のアミノ酸残基において少なくとも特定箇所のアミノ酸を別のアミノ酸に置換および/または欠失させたFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法、および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤により、前記課題を解決する。【選択図】 図3

Description

本発明は、免疫グロブリンG(IgG)に対し結合親和性を有するFc結合性タンパク質に関する。より詳しくは、ヒト新生児(neonatal)Fcレセプター(ヒトFcRn)α鎖の細胞外領域またはヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域中の特定位置にあるアミノ酸残基を他の特定のアミノ酸に置換または欠失させることにより、天然型ヒトFcRnよりも熱に対する安定性が向上したFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法、および当該タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる抗体吸着剤に関する。
Fcレセプターは、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する受容体タンパク質であり、抗原と免疫グロブリンとの免疫複合体に結合して細胞内にシグナル伝達を行なう(非特許文献1)。個々の分子は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する認識ドメインによって、単一の、または同じグループの免疫グロブリンイソタイプをFcレセプター上の認識ドメインによって認識している。これにより免疫応答においてどのアクセサリー細胞が動因されるかが決まっている。
Fcレセプターはさらにいくつかのサブタイプに分類でき、免疫グロブリンG(IgG)に対するレセプターであるFcγレセプターをはじめ、Fcαレセプター、Fcεレセプター等が存在する。各レセプターはさらに細かく分類されており、Fcγレセプターの場合、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32a)、FcγRIIb(CD32b)、FcγRIIc(CD32c)、FcγRIIIa(CD16a)およびFcγRIIIb(CD16b)のサブタイプに分類できる(非特許文献1および2)。
一方、ヒト新生児Fcレセプター(FcRn)は免疫グロブリンスーパーファミリーに属するヒトFcγレセプターとは異なる、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI関連分子であり、重鎖(α鎖)とβ2ミクログロブリン(β鎖)により構成されている(非特許文献3)。FcRnはIgGのリサイクリング機構に関与しており、IgGの分解を抑制する働きをもつ。また、FcRnはpH依存的にIgGと結合し、pH6.5以下で結合する(非特許文献4)。
ヒトFcRnのα鎖のアミノ酸配列(配列番号1)は、UniProt(Accession number:P55899)などの公的データベースに公表されている。また、β鎖のアミノ酸配列(配列番号2)も、UniProt(Accession number:P61769)に公表されている。さらに、ヒトFcRnの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列、細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されている。図1にヒトFcRnのα鎖の、図2にヒトFcRnのβ鎖の構造略図をそれぞれ示す。なお、図1中のアミノ酸番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1中の1番目のメチオニン(Met)から23番目のグリシン(Gly)までがシグナル配列(S)、24番目のアラニン(Ala)から297番目のセリン(Ser)までが細胞外領域(EC)、298番目のバリン(Val)から321番目のトリプトファン(Trp)までが細胞膜貫通領域(TM)および322番目のアルギニン(Arg)から365番目のアラニン(Ala)までが細胞内領域(C)とされている。また、図2中のアミノ酸番号は配列番号2に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号2中の1番目のメチオニン(Met)から20番目のアラニン(Ala)までがシグナル配列(S)、21番目のイソロイシン(Ile)から119番目のメチオニン(Met)までがβ2ミクログロブリン(B2M)とされている。
FcRnを産業応用するためには、使用や保存などの観点から熱に対して安定性が高いことが好ましい。特許文献1には、天然型ヒトFcRnに対し、熱または酸に対する安定性が向上した変異を開示している。しかしながら、ヒトFcRnを産業応用するためには、さらなる熱安定性の向上が必要であった。
特開2018−183087号公報
Takai T.,Jpn.J.Clin.Immunol.,28,318−326,2005 J.Galon et al.,Eur.J.Immunol.,27,1928−1932,1997 N.E.Simister et al.,Nature,337,184−187,1989 M.Raghavan et al.,Biochemistry,34,14649−14657,1995
本発明の課題は、天然型ヒトFcRnに対して熱に対する安定性が向上したFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法、および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤を提供することにある。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、ヒトFcRnにおける熱に対する安定性向上に関与したアミノ酸残基を特定し、当該アミノ酸残基をほかのアミノ酸残基に置換または欠失させた変異体が、熱に対して優れた安定性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本願は以下の[1]から[12]に記載の態様を包含する。
[1]以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるFc結合性タンパク質:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において、以下の(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有する、Fc結合性タンパク質;
(1)配列番号1の50番目のセリンがスレオニンに置換される変異
(2)配列番号1の76番目のトリプトファンが欠失する変異
(3)配列番号1の89番目のスレオニンがバリンに置換される変異
(4)配列番号1の167番目のグルタミンがグルタミン酸に置換される変異
(5)配列番号1の169番目のリジンがアスパラギンに置換される変異
(6)配列番号2の26番目のリジンがイソロイシンに置換される変異
(7)配列番号2の80番目のトリプトファンがセリンに置換される変異
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において、前記(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有し、さらに前記(1)から(7)に示す変異以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質;
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまで、および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸配列において、前記(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有するアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であり、ただし前記(1)から(7)に示すいずれかの変異が少なくとも1つ残存したアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質。
[2]以下の(iv)から(vi)のいずれかから選択されるFc結合性タンパク質:
(iv)配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該29番目から426番目までのアミノ酸残基において、以下の(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有する、Fc結合性タンパク質;
(1)配列番号3の55番目のセリンがスレオニンに置換される変異
(2)配列番号3の81番目のトリプトファンが欠失する変異
(3)配列番号3の94番目のスレオニンがバリンに置換される変異
(4)配列番号3の172番目のグルタミンがグルタミン酸に置換される変異
(5)配列番号3の174番目のリジンがアスパラギンに置換される変異
(6)配列番号3の333番目のリジンがイソロイシンに置換される変異
(7)配列番号3の387番目のトリプトファンがセリンに置換される変異
(v)配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該29番目から426番目までのアミノ酸残基において、前記(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有し、さらに前記(1)から(7)に示す変異以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質;
(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸配列において、前記(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有するアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であり、ただし前記(1)から(7)に示すいずれかの変異が少なくとも1つ残存したアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質。
[3]さらに以下の(8)から(14)に示す全ての変異を有する、[1]または[2]に記載のFc結合性タンパク質;
(8)配列番号1の71番目または配列番号3の76番目のシステインがアルギニンに置換される変異
(9)配列番号1の78番目または配列番号3の83番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換される変異
(10)配列番号1の151番目または配列番号3の156番目のグリシンがアスパラギン酸に置換される変異
(11)配列番号1の192番目または配列番号3の197番目のアルギニンがロイシンに置換される変異
(12)配列番号1の196番目または配列番号3の201番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換される変異
(13)配列番号1の232番目または配列番号3の237番目のグルタミンがロイシンに置換される変異
(14)配列番号1の295番目または配列番号3の300番目のリジンがグルタミン酸に置換される変異。
[4]以下の(2)に示す変異を少なくとも有する、[1]から[3]のいずれかに記載のFc結合性タンパク質:
(2)配列番号1の76番目または配列番号3の81番目のトリプトファンが欠失する変異。
[5]以下の(vii)から(ix)のいずれかから選択される、[4]に記載のFc結合性タンパク質:
(vii)配列番号6、8、10、12、14および16のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから425番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含む、Fc結合性タンパク質;
(viii)配列番号6、8、10、12、14および16のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから425番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該29番目から425番目までのアミノ酸残基において、前記アミノ酸配列が有する変異以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有する、Fc結合性タンパク質;
(ix)配列番号6、8、10、12、14および16のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから425番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該29番目から425番目までのアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつ前記アミノ酸配列が有する変異が残存し、かつ抗体結合活性を有する、Fc結合性タンパク質。
[6][1]から[5]のいずれかに記載のFc結合性タンパク質をコードするポヌクレオチド。
[7][6]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[8][7]に記載の組換えベクターで宿主を形質転換して得られる、Fc結合性タンパク質を生産可能な形質転換体。
[9]宿主が大腸菌である、[8]に記載の形質転換体。
[10][8]または[9]に記載の形質転換体を培養することによりFc結合性タンパク質を生産する工程と、得られた培養物から生産された前記Fc結合性タンパク質を回収する工程とを含む、Fc結合性タンパク質の製造方法。
[11][1]から[5]のいずれかに記載のFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる、抗体吸着剤。
[12][11]に記載の吸着剤を充填したカラムに抗体を含む溶液を添加して当該抗体を前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した抗体を溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、抗体の分離方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のFc結合性タンパク質は、抗体のFc領域に結合性をもつタンパク質であり、以下の(I)および(II)に示すアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において特定位置でのアミノ酸置換または欠失(本明細書では、以降まとめて「変異」とも表記する)が生じたタンパク質である。
(I)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcRnα鎖の細胞外領域(図1のECの領域)に相当する、24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基
(II)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域(図2のB2Mの領域)に相当する、21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基
したがって、本発明のFc結合性タンパク質は、ヒトFcRnα鎖の細胞外領域(図1のEC領域)やヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域(図2のB2Mの領域)のN末端側にあるシグナルペプチド領域(図1および図2のSの領域)の全てまたは一部を含んでもよいし、ヒトFcRnα鎖の細胞外領域(図1のEC領域)のC末端側にある細胞膜貫通領域(図1のTMの領域)および細胞外領域(図1のCの領域)の全てまたは一部を含んでもよい。
本明細書において、前記(I)および前記(II)に示すアミノ酸残基を少なくとも含むFc結合性タンパク質とは、当該タンパク質のアミノ酸配列に前記(I)に示すアミノ酸配列および前記(II)に示すアミノ酸配列を少なくとも含んでいればよく、前記(I)に示すアミノ酸残基と前記(II)に示すアミノ酸残基との順番は問わない。すなわち前記(II)に示すアミノ酸残基が、前記(I)に示すアミノ酸残基のN末端側にあってもよく、C末端側にあってもよい。また前記(I)に示すアミノ酸残基と前記(II)に示すアミノ酸残基とが直結した態様であってもよく、GSリンカー(Gly−Gly−Gly−Serの繰り返しからなるリンカー)など公知のリンカーを介して結合した態様であってもよい。
本明細書において「天然型FcRn」とは、天然に存在するFcRnに限らず、前記(I)および前記(II)に示すアミノ酸残基を少なくとも含むFcRnであって、前記(I)および前記(II)に示すアミノ酸残基においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加を有さないFcRnも包含する。一例として、前記(I)に示すアミノ酸残基と前記(II)に示すアミノ酸残基とが、リンカー配列を介して結合した態様である、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質が挙げられる。配列番号3のうち、1番目から26番目はMalEシグナルペプチド(UniProt No.P0AEX9の1番目から26番目までのアミノ酸残基からなるオリゴペプチド)の配列であり、27番目のメチオニンおよび28番目のグリシンはリンカー配列であり、29番目から302番目はFcRnα鎖の細胞外領域(図1のEC領域;配列番号1の24番目から297番目までの領域)であり、303番目から327番目まではGSリンカー配列であり、328番目から426番目はFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域(図2のB2M領域;配列番号2の21番目から119番目までの領域)であり、427番目および428番目のグリシンはリンカー配列であり、429番目から434番目まではヒスチジンタグ配列である。
前記特定位置での変異とは、具体的には、前記(I)および前記(II)に示すアミノ酸残基を少なくとも含むFc結合性タンパク質が配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質の場合、Ser55Thr(この表記は、配列番号3の55番目のセリンがスレオニンに置換されていることを表す、以下同様)、Thr94Val、Gln172Glu、Lys174Asn、Lys333Ile、Trp387Ser、ΔTrp81(この表記は、配列番号3の81番目のトリプトファンが欠失していることを表す)のうち、少なくともいずれか1つの変異である。中でもΔTrp81は、熱に対する安定性が特に向上した変異であることから、ΔTrp81の変異を少なくとも含むFc結合性タンパク質は、本発明のFc結合性タンパク質の好ましい態様といえる。なお前記特定位置での変異の配列番号1および2におけるアミノ酸残基位置を表1に示す。
Figure 2021136967
本発明のFc結合性タンパク質は、前述した特定位置における変異を少なくとも1つ以上有していればよく、抗体結合活性を有する限り、前述した特定位置の変異以外に、アミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上、さらに有してもよい。前記態様の具体例として、以下の(i)から(v)に示す、抗体結合活性を有したFc結合性タンパク質があげられる。なおアミノ酸残基を欠失させる場合、タンパク質二次構造におけるループ領域が取り除かれるよう欠失させると、耐熱性が向上する点で好ましい(Manandez−Alias and P. Argos,J.Mol.Biol.,206,1989)。
(i)前述した特定位置における変異に加え、Cys76Arg(配列番号1では71番目)、Asn83Asp(配列番号1では78番目)、Gly156Asp(配列番号1では151番目)、Arg197Leu(配列番号1では192番目)、Asn201Asp(配列番号1では196番目)、Glu237Leu(配列番号1では232番目)およびLys300Glu(配列番号1では295番目)の変異をさらに有したFc結合性タンパク質
(ii)前述した特定位置における変異に加え、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有したFc結合性タンパク質(ただし、前述した特定位置における変異が少なくとも1つ残存していること)
(iii)前述した特定位置における変異に加え、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し(ただし、前述した特定位置における変異が少なくとも1つ残存していること)、さらにCys76Arg、Asn83Asp、Gly156Asp、Arg197Leu、Asn201Asp、Glu237LeuおよびLys300Gluの変異を全て有したFc結合性タンパク質
(iv)前述した特定位置における変異を有したポリペプチドのアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するFc結合性タンパク質(ただし、前述した特定位置における変異が少なくとも1つ残存していること)
(v)前述した特定位置における変異を有したポリペプチドのアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するFc結合性タンパク質であり(ただし、前述した特定位置における変異が少なくとも1つ残存していること)、ただしCys76Arg、Asn83Asp、Gly156Asp、Arg197Leu、Asn201Asp、Glu237LeuおよびLys300Gluの変異を全て有したFc結合性タンパク質
このうち前記(i)、(iii)および(v)に記載のCys76Arg、Asn83Asp、Gly156Asp、Arg197Leu、Asn201Asp、Glu237LeuおよびLys300Gluの変異は、熱安定性および遺伝子組換体による生産性を向上させる変異である(特開2018−183087号公報)。したがって、前述した特定位置における変異を少なくとも1つ以上有した本発明のFc結合性タンパク質に、前記7箇所の変異(Cys76Arg、Asn83Asp、Gly156Asp、Arg197Leu、Asn201Asp、Glu237LeuおよびLys300Glu)をさらに有することで、特開2018−183087号で開示のFc結合性タンパク質よりも熱に対する安定性がさらに向上したタンパク質が得られる。
前記(ii)および(iii)において「1もしくは数個」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、例えば、1から50個、1から40個、1から30個、1から20個、1から10個のいずれかを意味する。また前記(ii)および(iii)に記載の「置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上」には、遺伝子が由来する微生物の個体差、種の違いなどに基づく、天然にも生じ得る変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
前記(iv)および(v)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上であればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。
本発明のFc結合性タンパク質は、両アミノ酸の物理的性質と化学的性質またはそのど
ちらかが類似したアミノ酸間で置換する保守的置換をさらに有していてもよい。保守的置
換は、Fc結合性タンパク質に限らず一般に、置換が生じているものと置換が生じていな
いものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守
的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、アスパラギン酸とグルタミン酸間、セリ
ンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間に生じる置換があげられる(タンパク
質の構造と機能、メディカル・サイエンス・インターナショナル社、9、2005)。
本発明のFc結合性タンパク質は、そのN末端側またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用なオリゴペプチドをさらに付加してもよい。前記オリゴペプチドとしては、ポリヒスチジン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等があげられる。さらに本発明のFc結合性タンパク質をクロマトグラフィー用の支持体等の固相に固定化する際に有用な、システインを含むオリゴペプチドを、本発明のFc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側にさらに付加してもよい。Fc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加するオリゴペプチドの長さは、本発明のFc結合性タンパク質のIgG結合性や安定性を損なわない限り特に制限はない。前記オリゴペプチドを本発明のFc結合性タンパク質に付加させる際には、前記オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを作成後、当業者に周知の方法を用いて遺伝子工学的にFc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加させてもよいし、化学的に合成した前記オリゴペプチドを本発明のFc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に化学的に結合させて付加させてもよい。さらに本発明のFc結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌の場合における前記シグナルペプチドの例としては、PelB、DsbA、MalE(UniProt No.P0AEX9に記載のアミノ酸配列のうち1番目から26番目までの領域)、TorTなどといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示できる(特開2011−097898号公報)。
本発明のFc結合性タンパク質の好ましい態様として、以下の(a)から(f)に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを少なくとも含むFc結合性タンパク質があげられる。これらのFc結合性タンパク質は熱に対する安定性(耐熱性)が向上する点で好ましい。
(a)FcRn−m7Δ1(配列番号6に記載のアミノ酸配列のうち、29番目から425番目までのアミノ酸残基)
配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基であり、ただし当該29番目から426番目のアミノ酸残基において、Cys76Arg、ΔTrp81、Asn83Asp、Gly156Asp、Arg197Leu、Asn201Asp、Gln237LeuおよびLys300Gluの変異を有するポリペプチド。
(b)FcRn−m8Δ1A(配列番号8に記載のアミノ酸配列のうち、29番目から425番目までのアミノ酸残基)
配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基であり、ただし当該29番目から426番目のアミノ酸残基において、Cys76Arg、ΔTrp81、Asn83Asp、Gly156Asp、Arg197Leu、Asn201Asp、Gln237Leu、Lys300GluおよびLys333Ileの変異を有するポリペプチド。
(c)FcRn−m8Δ1B(配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち、29番目から425番目までのアミノ酸残基)
配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基であり、ただし当該29番目から426番目のアミノ酸残基において、Cys76Arg、ΔTrp81、Asn83Asp、Gly156Asp、Arg197Leu、Asn201Asp、Gln237Leu、Lys300GluおよびTrp387Serの変異を有するポリペプチド。
(d)FcRn−m9Δ1A(配列番号12に記載のアミノ酸配列のうち、29番目から425番目までのアミノ酸残基)
配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基であり、ただし当該29番目から426番目のアミノ酸残基において、Cys76Arg、ΔTrp81、Asn83Asp、Gly156Asp、Gln172Glu、Arg197Leu、Asn201Asp、Gln237Leu、Lys300Glu、Lys333Ileの変異を有するポリペプチド。
(e)FcRn−m9Δ1B(配列番号14に記載のアミノ酸配列のうち、29番目から425番目までのアミノ酸残基)
配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基であり、ただし当該29番目から426番目のアミノ酸残基において、Cys76Arg、ΔTrp81、Asn83Asp、Gly156Asp、Gln172Glu、Arg197Leu、Asn201Asp、Gln237Leu、Lys300Glu、Trp387Serの変異を有するポリペプチド。
(f)FcRn−m10Δ1(配列番号16に記載のアミノ酸配列のうち、29番目から425番目までのアミノ酸残基)
配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基であり、ただし当該29番目から426番目のアミノ酸残基において、Cys76Arg、ΔTrp81、Asn83Asp、Gly156Asp、Gln172Glu、Arg197Leu、Asn201Asp、Gln237Leu、Lys300Glu、Lys333Ile、Trp387Serの変異を有するポリペプチド。
なお、配列番号6、8、10、12、14および16に記載のFc結合性タンパク質のうち、1番目のメチオニンから26番目のアラニンまでがMalEシグナルペプチドであり、27番目のメチオニンおよび28番目のグリシンがリンカー配列であり、29番目のアラニンから301番目のセリンまでがFcRnα鎖(配列番号1の細胞外領域(EC))のアミノ酸配列であり、302番目から326番目までがGSリンカー配列であり、327番目のイソロイシンから425番目のメチオニンまでがFcRnβ鎖(配列番号2のβ2ミクログロブリン領域(B2M))のアミノ酸配列であり、426番目および427番目のグリシンがリンカー配列であり、428番目から433番目のヒスチジンがタグ配列である。
本発明のFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、単に本発明のポリヌクレオチドとも表記する)の作製方法の一例として、
(A)本発明のFc結合性タンパク質のアミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換し、当該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを人工的に合成する方法や、
(B)Fc結合性タンパク質の全体または部分配列を含むポリヌクレオチドを直接人工的に、またはFc結合性タンパク質のcDNA等からPCR法といったDNA増幅法を用いて調製し、調製した当該ポリヌクレオチドを適当な方法で連結する方法、が例示できる。
前記(A)の方法において、アミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換する際、形質転換させる宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。一例として、宿主が大腸菌(Escherichia coli)の場合は、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドンであるため)、それらのコドンを避けるように変換すればよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のウェブサイトにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することによっても可能である。
本発明のポリヌクレオチドへ変異を導入する場合、エラープローンPCR法を用いることができる。エラープローンPCR法における反応条件は、ヒトFcRn(またはFc結合性タンパク質)をコードするポリヌクレオチドに所望の変異を導入できる条件であれば特に限定はなく、例えば、基質である4種類のデオキシヌクレオチド(dATP/dTTP/dCTP/dGTP)の濃度を不均一にし、MnClを0.01から10mM(好ましくは0.1から1mM)の濃度でPCR反応液に添加してPCRを行なうことで、ポリヌクレオチドに変異を導入できる。またエラープローンPCR法以外の変異導入方法としては、ヒトFcRnの全体または部分配列を含むポリヌクレオチドに、変異原となる薬剤を接触・作用させたり、紫外線を照射したりして、ポリヌクレオチドに変異を導入して作製する方法があげられる。当該方法において変異原として使用する薬剤としては、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン等、当業者が通常用いる変異原性薬剤を用いればよい。
本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主を形質転換する場合、本発明のポリヌクレオチドそのものを用いてもよいが、発現ベクター(例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドやプラスミド等)の適切な位置に本発明のポリヌクレオチドを挿入したものを用いると、より好ましい。なお当該発現ベクターは、形質転換する宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、大腸菌を宿主とする場合は、pETプラスミドベクター、pUCプラスミドベクター、pTrcプラスミドベクター、pCDFプラスミドベクター、pBBRプラスミドベクターを例示できる。
また前記適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。前記発現ベクターに本発明のポリヌクレオチドを挿入する際は、発現に必要なプロモータといった機能性ポリヌクレオチドに連結される状態で挿入すると好ましい。当該プロモータの例として、宿主が大腸菌の場合は、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータ、さらにはλファージのλPLプロモータ、λPRプロモータ等があげられる。
前記方法により作製した、本発明のポリヌクレオチドを挿入した発現ベクター(以下、本発明の発現ベクターとする)を用いて宿主を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行なえばよい。例えば、宿主としてEscherichia属に属する微生物(大腸菌JM109株、大腸菌BL21(DE3)株、大腸菌W3110株等)を選択する場合には、公知の文献(例えば、Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,256,1992)に記載の方法等により形質転換すればよい。前述した方法で形質転換して得られた形質転換体は、適切な方法でスクリーニングすることにより、本発明のFc結合性タンパク質を発現可能な形質転換体(以下、本発明の形質転換体とする)を取得できる。なお、本発明のFc結合性タンパク質を発現させる宿主には特に制限はなく、一例として、動物細胞(CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、HEK細胞、Hela細胞、COS細胞等)、酵母(Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Schizosaccharomyces japonicus、Schizosaccharomyces octosporus、Schizosaccharomyces pombe等)、昆虫細胞(Sf9、Sf21等)、大腸菌(JM109株、BL21(DE3)株、W3110株等)や枯草菌があげられる。なお動物細胞や大腸菌を宿主として用いると生産性の面で好ましく、大腸菌を宿主として用いるとさらに好ましい。
本発明の形質転換体から、本発明の発現ベクターを調製するには、本発明の形質転換体を培養して得られる培養物からアルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)等の市販の抽出キットを用いて調製すればよい。本発明の形質転換体を培養し、得られた培養物から本発明のFc結合性タンパク質を回収することで、本発明のFc結合性タンパク質を製造できる。なお本明細書において培養物とは、培養された本発明の形質転換体の細胞そのもののほか、培養に用いた培地も含まれる。本発明のタンパク質製造方法で用いる形質転換体は、対象宿主の培養に適した培地で培養すればよく、宿主が大腸菌の場合は、必要な栄養源を補ったLB(Luria−Bertani)培地が好ましい培地の一例としてあげられる。なお、本発明のベクターの導入の有無により本発明の形質転換体を選択的に増殖させるために、培地に当該ベクターに含まれる薬剤耐性遺伝子に対応した薬剤を添加して培養すると好ましい。例えば、当該ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は、培地にカナマイシンを添加すればよい。また培地には、炭素、窒素および無機塩供給源の他に、適当な栄養源を添加してもよく、所望により、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレートおよびジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含んでもよい。さらにグリシンといった前記形質転換体から培養液へのタンパク質分泌を促す試薬を添加してもよく、具体的には、宿主が大腸菌の場合、培地に対してグリシンを2%(w/v)以下で添加すると好ましい。培養温度は宿主が大腸菌の場合、一般に10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃、より好ましくは25℃前後であるが、発現させるタンパク質の特性により選択すればよい。培地のpHは宿主が大腸菌の場合、pH6.8からpH7.4、好ましくはpH7.0前後である。また本発明のベクターに誘導性のプロモータが含まれている場合は、本発明のFc結合性タンパク質が良好に発現できるような条件下で誘導をかけると好ましい。誘導剤としてはIPTG(isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)を例示できる。宿主が大腸菌の場合、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)を測定し、約0.5から1.0となったときに適当量のIPTGを添加後、引き続き培養することで、Fc結合性タンパク質の発現を誘導できる。IPTGの添加濃度は0.005から1.0mMの範囲から適宜選択すればよいが、0.01から0.5mMの範囲が好ましい。IPTG誘導に関する種々の条件は当該技術分野において周知の条件で行なえばよい。
本発明の形質転換体を培養して得られた培養物から本発明のFc結合性タンパク質を回収するには、本発明の形質転換体における本発明のFc結合性タンパク質の発現形態に適した方法で、当該培養物から分離/精製して本発明のFc結合性タンパク質を回収すればよい。例えば、培養上清に発現する場合は菌体を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明のFc結合性タンパク質を精製すればよい。また、細胞内(ペリプラズムを含む)に発現する場合には、遠心分離操作により菌体を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加することにより菌体を破砕して本発明のFc結合性タンパク質を抽出した後、精製すればよい。本発明のFc結合性タンパク質を精製するには、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として液体クロマトグラフィーを用いた分離/精製があげられる。液体クロマトグラフィーには、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等があり、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことにより、本発明のFc結合性タンパク質を高純度に調製できる。得られた本発明のFc結合性タンパク質のIgGに対する結合活性を測定する方法としては、例えばIgGに対する結合活性をEnzyme−Linked ImmunoSorbent Assay(以下、ELISAと表記)法や表面プラズモン共鳴法などを用いて測定すればよい。結合活性の測定に使用するIgGは、ヒトIgGが好ましく、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4のいずれを用いてもよい。
本発明のFc結合性タンパク質を不溶性担体に結合(固定化)させることで、本発明の吸着剤を製造できる。前記不溶性担体には特に限定はなく、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプンといった多糖質を原料とした担体や、ポリビニルアルコール、ポリメタクレート、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタンといった合成高分子を原料とした担体や、シリカなどのセラミックスを原料とした担体が例示できる。中でも、多糖質を原料とした担体や合成高分子を原料とした担体が不溶性担体として好ましい。前記好ましい担体の一例として、トヨパール(東ソー社製)等のヒドロキシ基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(GEヘルスケア社製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC社製)等のセルロースゲルがあげられる。不溶性担体の形状については特に限定はなく、粒状物または非粒状物、多孔性または非多孔性、いずれであってもよい。
本発明のFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化するには、不溶性担体にN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)活性化エステル基、エポキシ基、カルボキシ基、マレイミド基、ハロアセチル基、トレシル基、ホルミル基、ハロアセトアミド(ヨードアセトアミド、ブロモアセトアミド等)等の活性基を付与し、当該活性基を介してヒトFc結合性タンパク質と不溶性担体とを共有結合させることで固定化すればよい。活性基を付与した担体は市販の担体をそのまま用いてもよいし、適切な反応条件で担体表面に活性基を導入して調製してもよい。活性基を付与した市販の担体としてはTOYOPEARL AF−Epoxy−650M、TOYOPEARL AF−Tresyl−650M(いずれも東ソー社製)、HiTrap NHS−activated HP Columns、NHS−activated Sepharose 4 Fast Flow、Epoxy−activated Sepharose 6B(いずれもGEヘルスケア社製)、SulfoLink Coupling Resin(サーモサイエンティフィック社製)が例示できる。
一方、担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基やエポキシ基、カルボキシ基、アミノ基等に対して2個以上の活性部位を有する化合物の一方を反応させる方法が例示できる。当該化合物の一例のうち、担体表面のヒドロキシ基やアミノ基にエポキシ基を導入する化合物としては、エピクロロヒドリン、エタンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルが例示できる。前記化合物により担体表面にエポキシ基を導入した後、担体表面にカルボキシ基を導入する化合物としては、2−メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、4−メルカプト酪酸、6−メルカプト酪酸、グリシン、3−アミノプロピオン酸、4−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸を例示できる。
担体表面に存在するヒドロキシ基やエポキシ基、カルボキシ基、アミノ基にマレイミド基を導入する化合物としては、N−(ε−マレイミドカプロン酸)ヒドラジド、N−(ε−マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、4−(4−N−マレイミドフェニル)酢酸ヒドラジド、2−アミノマレイミド、3−アミノマレイミド、4−アミノマレイミド、6−アミノマレイミド、1−(4−アミノフェニル)マレイミド、1−(3−アミノフェニル)マレイミド、4−(マレイミド)フェニルイソシアナート、2−マレイミド酢酸、3−マレイミドプロピオン酸、4−マレイミド酪酸、6−マレイミドヘキサン酸、N−(α―マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル、(m−マレイミドベンゾイル)N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボニル−6−アミノヘキサン酸、スクシンイミジル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸、(p−マレイミドベンゾイル)N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、(m−マレイミドベンゾイル)N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にハロアセチル基を導入する化合物としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミド、クロロ酢酸無水物、ブロモ酢酸無水物、ヨード酢酸無水物、2−(ヨードアセトアミド)酢酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、3−(ブロモアセトアミド)プロピオン酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、4−(ヨードアセチル)アミノ安息香酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。なお担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にω−アルケニルアルカングリシジルエーテルを反応させた後、ハロゲン化剤でω−アルケニル部位をハロゲン化し活性化する方法も例示できる。ω−アルケニルアルカングリシジルエーテルとしては、アリルグリシジルエーテル、3−ブテニルグリシジルエーテル、4−ペンテニルグリシジルエーテルを例示でき、ハロゲン化剤としてはN−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミドを例示できる。
担体表面に活性基を導入する方法の別の例として、担体表面に存在するカルボキシ基に対して縮合剤と添加剤を用いて活性化基を導入する方法がある。縮合剤としては1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジアミド、カルボニルジイミダゾールを例示できる。また添加剤としてはN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、4−ニトロフェノール、1−ヒドロキシベンズトリアゾールを例示できる。
本発明のFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化する際用いる緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、MES(2−Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(2−[4−(2−Hydroxyethyl)−1−piperazinyl]ethanesulfonic acid)緩衝液、Tris緩衝液、ホウ酸緩衝液を例示できる。固定化させるときの反応温度は、5℃から50℃までの温度範囲の中から活性基の反応性や本発明のFc結合性タンパク質の安定性を考慮の上、適宜設定すればよく、好ましくは10℃から35℃の範囲である。
本発明のFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる本発明の吸着剤を用いて抗体を精製するには、例えば、本発明の吸着剤を充填したカラムに抗体を含む緩衝液をポンプ等の送液手段を用いて添加することで、抗体を本発明の吸着剤に特異的に吸着さ
せた後、適切な溶出液をカラムに添加することで抗体を溶出すればよい。なお本発明の吸着剤で精製可能な抗体は、Fc結合性タンパク質と親和性を有する抗体のFc領域を少なくとも含んだ抗体であればよい。一例として、抗体医薬に用いる抗体として一般的に用いられているキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体やそれらのアミノ酸置換体があげられる。また二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)、抗体のFc領域と他のタンパク質との融合抗体、抗体のFc領域と薬物との複合体(ADC)などの人工的に構造改変した抗体であっても、本発明の吸着剤で精製できる。また抗体を含む緩衝液をカラムに添加する前に、適切な緩衝液を用いてカラムを平衡化すると、抗体をより高純度に精製できるため好ましい。緩衝液としてはリン酸緩衝液等、無機塩を成分とした緩衝液を例示でき、緩衝液のpHは、pH3.0から10.0、好ましくはpH5.0から8.0である。
本発明の吸着剤に吸着した抗体を溶出させるには、抗体とリガンド(本発明のFc結合性タンパク質)との相互作用を弱めればよく、具体的には、緩衝液によるpH変化、カウンターペプチド、温度変化、塩濃度変化が例示できる。本発明の吸着剤に吸着した抗体を溶出させるための溶出液の具体例として、本発明の吸着剤に抗体を吸着させる際に用いた溶液よりも酸性側の緩衝液があげられる。緩衝液の種類としては酸性側に緩衝能を有するクエン酸緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、酢酸緩衝液を例示できる。緩衝液のpHは、抗体が有する機能を損なわない範囲で設定すればよく、好ましくはpH4から8、より好ましくはpH5から6である。
本発明のFc結合性タンパク質は、天然型ヒトFcRnα鎖の細胞外領域および/またはβ鎖中のβ2ミクログロブリン領域中の特定位置に変異を導入したタンパク質である。本発明のFc結合性タンパク質は天然型ヒトFcRnと比較し、熱に対する安定性が向上している。Fc結合性タンパク質を工業的に生産する場合、Fc結合性タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体を用いて生産すると効率がよいが、前記形質転換体の培養時や当該形質転換体より発現したFc結合性タンパク質の抽出精製時において、当該Fc結合性タンパク質の失活や変性が抑制されていると好ましい。本発明のFc結合性タンパク質は耐熱性が向上しており、失活や変性のおそれが低減されているため、前記工業的生産に適したタンパク質といえる。
また本発明のFc結合性タンパク質は抗体(イムノグロブリン)を分離するための吸着剤のリガンドとしても有用である。
ヒトFcRnのα鎖の概略図である。図中の数字は配列番号1に記載のアミノ酸配列の番号を示している。図中のSはシグナル配列、ECは細胞外領域、TMは細胞膜貫通領域、Cは細胞内領域を示している。 ヒトFcRnのβ鎖の概略図である。図中の数字は配列番号2に記載のアミノ酸配列の番号を示している。図中のSはシグナル配列、B2Mはβ2ミクログロブリンを示している。 配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質(Control)に対して特定の1箇所に変異導入したFc結合性タンパク質の耐熱性を評価した結果を示す図である。
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1 Fc結合性タンパク質への変異導入およびライブラリーの作製
特開2018−183087号に記載の方法で作製した、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質を発現する発現ベクターpET−FcRn_m7のうち、前記Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド部分(配列番号5)に対し、エラープローンPCRによるランダム変異導入を施した。なお配列番号4に記載の配列からなるFc結合性タンパク質は、配列番号1に記載の配列からなる天然型ヒトFcRnα鎖の細胞外領域および配列番号2に記載の配列からなる同β鎖のβ2ミクログロブリン領域を含む、配列番号3に記載の配列からなるFc結合性タンパク質に以下に示す7箇所のアミノ酸置換(変異)を導入したポリペプチドである。
配列番号3の76番目(配列番号1では71番目)のシステインがアルギニンに置換される変異
配列番号3の83番目(配列番号1では78番目)のアスパラギンがアスパラギン酸に置換される変異
配列番号3の156番目(配列番号1では151番目)のグリシンがアスパラギン酸に置換される変異
配列番号3の197番目(配列番号1では192番目)のアルギニンがロイシンに置換される変異
配列番号3の201番目(配列番号1では196番目)のアスパラギンがアスパラギン酸に置換される変異
配列番号3の237番目(配列番号1では232番目)のグルタミン酸がロイシンに置換される変異
配列番号3の300番目(配列番号1では295番目)のリジンがグルタミン酸に置換される変異
(1)前述したpET−FcRn_m7を鋳型DNAとして用い、エラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、配列番号18および19に記載のプライマーを用いて、表2に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、60℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。
Figure 2021136967
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をヒートショック法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養(37℃で18時間)後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異体ライブラリーとした。
実施例2 耐熱性Fc結合性タンパク質のスクリーニング
(1)実施例2で作製したランダム変異体ライブラリー(形質転換体)を、50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地(ペプトン16g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L)200μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、30℃で一晩振とう培養した。
(2)培養後、5μLの培養液を500μLの0.05mMのIPTG(isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)、0.3%(w/v)のグリシンおよび50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地に植え継ぎ、96穴ディープウェルプレートを用いて、さらに20℃で一晩振とう培養した。
(3)培養後、遠心操作によって得られた各Fc結合性タンパク質を含む培養上清を45℃で10分間熱処理した。
(4)(3)の熱処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(3)の熱処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、それぞれ下記に示すELISA法にて測定し、熱処理を行なった時のFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、熱処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4−1)ヒト抗体であるガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所製)を、96穴マイクロプレートのウェルに1μg/wellで固定化し(4℃で18時間)、固定化終了後、2%(w/v)のSKIM MILK(BD社製)および150mMの塩化ナトリウムを含んだ20mMのリン酸緩衝液(pH6.0)によりブロッキングした。
(4−2)洗浄緩衝液(0.05%[w/v]のTween 20、150mMのNaClを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH6.0))で洗浄後、抗体結合活性を評価するFc結合性タンパク質を含む溶液を添加し、Fc結合性タンパク質と固定化ガンマグロブリンとを反応させた(30℃で1時間)。
(4−3)反応終了後、前記洗浄緩衝液で洗浄し、100ng/mLに希釈したAnti−6His抗体(Bethyl Laboratories社製)を100μL/wellで添加した。
(4−4)30℃で1時間反応させ、前記洗浄緩衝液で洗浄した後、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を50μL/wellで添加した。1Mのリン酸を50μL/wellで添加することで発色を止め、マイクロプレートリーダー(テカン社製)にて450nmの吸光度を測定した。
(5)(4)の方法で約700株の形質転換体を評価し、その中から配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質と比較して熱安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。前記選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いて発現ベクターを調製した。
(6)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列をチェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing FS read Reaction kit(PEアプライドバイオシステム社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA analyzer(PEアプライドバイオシステム社製)にて塩基配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。なお当該解析の際、配列番号18または19に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドのいずれかをシークエンス用プライマーとして使用した。
(5)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質(Control)に対する変異位置および熱処理後の残存活性(%)をまとめたものを図3に示す。Ser55Thr(この表記は配列番号3の55番目(配列番号1では50番目)のプロリンがスレオニンに置換されていることを表す、以下同じ)、Thr94Val、Gln172Glu、Lys174Asn、Lys333Ile、Trp387SerまたはΔTrp81(この表記は配列番号3の81番目(配列番号1では76番目)のトリプトファンが欠失していることを表す)の変異を導入したFc結合性タンパク質は、Controlと比較し、熱安定性が向上していることがわかる。したがって、ヒトFcRnα鎖の細胞外領域およびβ鎖のβ2ミクログロブリン領域において、前記7箇所の変異を少なくともいずれか1つ以上有することで、熱安定性(耐熱性)が向上することがわかる。中でもΔTrp81は、残存活性が最も高いことから、ヒトFcRnα鎖の細胞外領域において、少なくともΔTrp81が欠失する変異を有したFc結合性タンパク質は、熱安定性(耐熱性)が特に向上することがわかる。
本実施例で取得した、熱安定性が向上したFc結合性タンパク質のうち、ΔTrp81が欠失する変異を有したFc結合性タンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号7に、それぞれ示す。なお、配列番号6において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のメチオニン(Met)および28番目のグリシン(Gly)までがリンカー配列であり、29番目のアラニン(Ala)から301番目のセリン(Ser)までがFcRnの細胞外領域(配列番号1の24番目から297番目までの領域に相当)であり、302番目のグリシン(Gly)から326番目までのセリン(Ser)までがGSリンカーであり、327番目のイソロイシン(Ile)から425番目のメチオニン(Met)までがβ2ミクログロブリン領域(配列番号2の21番目から119番目の領域)であり、426番目および427番目のグリシン(Gly)がリンカー配列であり、428番目から433番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。なお配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質のうち、29番目のアラニンから425番目のメチオニンまでのアミノ酸残基からなるポリペプチドを、FcRn−m7Δ1と命名する。
実施例3 耐熱性Fc結合性タンパク質の作製
実施例2で判明したFc結合性タンパク質の熱安定性向上に関与するアミノ酸置換(変異)を、FcRn−m7Δ1に導入することで、さらなる熱安定性向上を図った。変異導入(アミノ酸置換の集積)は主にPCRを用いて行ない、以下の(a)から(e)に示す5種類のFc結合性タンパク質を作製した。
(a)FcRn−m7Δ1に対し、さらにLys333Ileの変異を導入したポリペプチド(FcRn−m8Δ1Aと命名)
(b)FcRn−m7Δ1に対し、さらにTrp387Serのアミノ酸置換を導入したポリペプチド(FcRn−m8Δ1Bと命名)
(c)FcRn−m7Δ1に対し、さらにGln172GluおよびLys333Ileのアミノ酸置換を導入したポリペプチド(FcRn−m9Δ1Aと命名)
(d)FcRn−m7Δ1に対し、さらにGln172GluおよびTrp387Serのアミノ酸置換を導入したポリペプチド(FcRn−m9Δ1Bと命名)
(e)FcRn−m7Δ1に対し、さらにGln172Glu、Lys333IleおよびTrp387Serのアミノ酸置換を導入したポリペプチド(FcRn−m10Δ1と命名)
以下、各Fc結合性タンパク質の作製方法を詳細に説明する。
(a)FcRn−m8Δ1A
実施例2で明らかとなった熱安定性向上に関与する変異の中からLys333Ileを選択し、当該変異をFcRn−m7Δ1に集積したFcRn−m8Δ1Aを作製した。具体的には、実施例2で得られたFcRn−m7Δ1をコードするポリヌクレオチドに対して、Lys333Ileを生じさせる変異導入を行なうことでFcRn−m8Δ1Aを作製した。
(a−1)実施例2で取得した、FcRn−m7Δ1を含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号7)を鋳型DNAとし、配列番号18(forward)および配列番号20(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm8A−Fと命名した。
Figure 2021136967
(a−2)(a−1)と同じポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号21(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRおよびPCR産物の精製を行なった。精製したPCR産物をm8A−Rと命名した。
(a−3)(a−1)および(a−2)で得られた2種類のPCR産物(m8A−F、m8A−R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m8A−Fとm8A−Rを連結したPCR産物m8A−FRを得た。
Figure 2021136967
(a−4)(a−3)で得られたPCR産物m8A−FRを鋳型DNAとし、配列番号18(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcRn−m8Δ1Aをコードするポリヌクレオチドを作製した。
Figure 2021136967
(a−5)(a−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(a−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcRn−m7Δ1に対してさらに一か所変異導入したポリペプチドである、FcRn−m8Δ1Aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−m8Δ1Aを得た。
(a−7)pET−m8Δ1Aのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcRn−m8Δ1Aのアミノ酸配列を配列番号8に、前記FcRn−m8Δ1Aをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号9に示す。なお、配列番号8において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のメチオニン(Met)から28番目のグリシン(Gly)までがリンカー配列であり、29番目のアラニン(Ala)から425番目のメチオニン(Met)までがFcRn−m8Δ1Aのアミノ酸配列(配列番号4の29番目から426番目までの領域に相当)、426番目および427番目のグリシン(Gly)がリンカー配列であり、428番目から433番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
(b)FcRn−m8Δ1B
実施例2で明らかとなった熱安定性向上に関与する変異の中からTrp387Serを選択し、当該変異をFcRn−m7Δ1に集積したFcRn−m8Δ1Bを作製した。具体的には、実施例2で得られたFcRn−m7Δ1をコードするポリヌクレオチドに対して、Trp387Serを生じさせる変異導入を行なうことでFcRn−m8Δ1Bを作製した。
(b−1)配列番号18(forward)および配列番号22(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRおよび当該PCR産物の精製を行なった。精製したPCR産物をm8B−Fと命名した。
(b−2)配列番号23(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRおよびPCR産物の精製を行なった。精製したPCR産物をm8B−Rと命名した。
(b−3)PCR産物として(b−1)および(b−2)で得られた2種類のPCR産物(m8B−F、m8B−R)を混合したものを用いた他は、(a−3)と同様の方法でPCRを行ない、m8B−Fとm8B−Rを連結したPCR産物m8B−FRを得た。
(b−4)(b−3)で得られたPCR産物m8B−FRを鋳型DNAとし、配列番号18(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcRn−m8Δ1Bをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−5)(b−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcRn−m7Δ1に対してさらに一か所変異導入したポリペプチドである、FcRn−m8Δ1Bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−m8Δ1Bを得た。
(b−7)pET−m8Δ1Bのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcRn−m8Δ1Bのアミノ酸配列を配列番号10に、前記FcRn−m8Δ1Bをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号11に示す。なお、配列番号10において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のメチオニン(Met)から28番目のグリシン(Gly)までがリンカー配列であり、29番目のアラニン(Ala)から425番目のメチオニン(Met)までがFcRn−m8Δ1Aのアミノ酸配列(配列番号4の29番目から426番目までの領域に相当)、426番目および427番目のグリシン(Gly)がリンカー配列であり、428番目から433番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
(c)FcRn−m9Δ1A
実施例2で明らかとなった熱安定性向上に関与する変異の中からGln172GluおよびLys333Ileを選択し、これら変異をFcRn−m7Δ1に集積したFcRn−m9Δ1Aを作製した。具体的には、(a)で得られたFcRn−m8Δ1Aをコードするポリヌクレオチドに対して、Gln172Gluを生じさせる変異導入を行なうことでFcRn−m9Δ1Aを作製した。
(c−1)(a)で取得した、FcRn−m8Δ1Aを含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号9)を鋳型DNAとし、配列番号18(forward)および配列番号24(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRおよび当該PCR産物の精製を行なった。精製したPCR産物をm9A−Fと命名した。
(c−2)(c−1)と同じポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号25(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRおよびPCR産物の精製を行なった。精製したPCR産物をm9A−Rと命名した。
(c−3)PCR産物として(c−1)および(c−2)で得られた2種類のPCR産物(m9A−F、m9A−R)を混合したものを用いた他は、(a−3)と同様の方法でPCRを行ない、m9A−Fとm9A−Rを連結したPCR産物m9A−FRを得た。
(c−4)(c−3)で得られたPCR産物m9A−FRを鋳型DNAとし、配列番号18(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcRn−m9Δ1Aをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(c−5)(c−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(c−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcRn−m8Δ1Aに対してさらに一か所変異導入したポリペプチドである、FcRn−m9Δ1Aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−m9Δ1Aを得た。
(c−7)pET−m9Δ1Aのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcRn−m9Δ1Aのアミノ酸配列を配列番号12に、前記FcRn−m9Δ1Aをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号13に示す。なお、配列番号12において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のメチオニン(Met)から28番目のグリシン(Gly)までがリンカー配列であり、29番目のアラニン(Ala)から425番目のメチオニン(Met)までがFcRn−m8Δ1Aのアミノ酸配列(配列番号4の29番目から426番目までの領域に相当)、426番目および427番目のグリシン(Gly)がリンカー配列であり、428番目から433番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
(d)FcRn−m9Δ1B
実施例2で明らかとなった熱安定性向上に関与する変異の中からGln172GluおよびTrp387Serを選択し、これら変異をFcRn−m7Δ1に集積したFcRn−m9Δ1Bを作製した。具体的には、(b)で得られたFcRn−m8Δ1Bをコードするポリヌクレオチドに対して、Gln172Gluを生じさせる変異導入を行なうことでFcRn−m9Δ1Bを作製した。
(d−1)(b)で取得した、FcRn−m7Δ1Bを含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号11)を鋳型DNAとし、配列番号18(forward)および配列番号24(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRおよび当該PCR産物の精製を行なった。精製したPCR産物をm9B−Fと命名した。
(d−2)(d−1)と同じポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号25(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRおよびPCR産物の精製を行なった。精製したPCR産物をm9B−Rと命名した。
(d−3)PCR産物として(d−1)および(d−2)で得られた2種類のPCR産物(m9B−F、m9B−R)を混合したものを用いた他は、(a−3)と同様の方法でPCRを行ない、m9B−Fとm9B−Rを連結したPCR産物m9B−FRを得た。
(d−4)(d−3)で得られたPCR産物m9B−FRを鋳型DNAとし、配列番号18(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcRn−m9Δ1Bをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(d−5)(d−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(d−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcRn−m8Δ1Bに対してさらに一か所変異導入したポリペプチドである、FcRn−m9Δ1Bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−m9Δ1Bを得た。
(d−7)pET−m9Δ1Bのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcRn−m9Δ1Bのアミノ酸配列を配列番号14に、前記FcRn−m9Δ1Bをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号15に示す。なお、配列番号14において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のメチオニン(Met)から28番目のグリシン(Gly)までがリンカー配列であり、29番目のアラニン(Ala)から425番目のメチオニン(Met)までがFcRn−m9Δ1Bのアミノ酸配列(配列番号4の29番目から426番目までの領域に相当)、426番目および427番目のグリシン(Gly)がリンカー配列であり、428番目から433番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
(e)FcRn−m10Δ1
実施例2で明らかとなった熱安定性向上に関与する変異の中からGln172Glu、Lys333IleおよびTrp387Serを選択し、FcRn−m7Δ1に集積したFcRn−m10Δ1を作製した。具体的には、(c)で得られたFcRn−m9Δ1Aをコードするポリヌクレオチドに対して、Trp387Serを生じさせる変異導入を行なうことでFcRn−m10Δ1を作製した。
(e−1)(c)で取得した、FcRn−m9Δ1Aを含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号13)を鋳型DNAとし、配列番号18(forward)および配列番号22(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRおよび当該PCR産物の精製を行なった。精製したPCR産物をm10−Fと命名した。
(e−2)(e−1)と同じポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号23(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRおよびPCR産物の精製を行なった。精製したPCR産物をm10−Rと命名した。
(e−3)PCR産物として(e−1)および(e−2)で得られた2種類のPCR産物(m10−F、m10−R)を混合したものを用いた他は、(a−3)と同様の方法でPCRを行ない、m10−Fとm10−Rを連結したPCR産物m10−FRを得た。
(e−4)(e−3)で得られたPCR産物m10−FRを鋳型DNAとし、配列番号18(forward)および配列番号19(reverse)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcRn−m10Δ1をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(e−5)(e−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(e−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcRn−m9Δ1Aに対してさらに一か所変異導入したポリペプチドである、FcRn−m10Δ1をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−m10Δ1を得た。
(e−7)pET−m10Δ1のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcRn−m10Δ1のアミノ酸配列を配列番号16に、前記FcRn−m10Δ1をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号17に示す。なお、配列番号16において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のメチオニン(Met)から28番目のグリシン(Gly)までがリンカー配列であり、29番目のアラニン(Ala)から425番目のメチオニン(Met)までがFcRn−m8Δ1Aのアミノ酸配列(配列番号4の29番目から426番目までの領域に相当)、426番目および427番目のグリシン(Gly)がリンカー配列であり、428番目から433番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
実施例4 Fc結合性タンパク質の熱安定性評価
(1)実施例2で作製したFcRn−m7Δ1、ならびに実施例3で作製したFcRn−m8Δ1A、FcRn−m8Δ1B、FcRn−m9Δ1A、FcRn−m9Δ1BおよびFcRn−m10Δ1を発現する形質転換体を、それぞれ50μg/mLのカナマイシンを含む3mLの2YT液体培地(ペプトン16g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L)に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
(2)50μg/mLのカナマイシンを添加した20mLの2YT液体培地に前培養液を200μL接種し、37℃で好気的に振とう培養を行なった。
(3)培養開始1.5時間後、培養温度を20℃に変更して30分間振とう培養した。その後、終濃度0.01mMとなるようIPTGを添加し、引き続き20℃で一晩、好気的に振とう培養を行なった。
(4)培養終了後、遠心分離により集菌し、BugBuster Protein extraction kit(タカラバイオ製)を用いてタンパク質抽出液を調製した。
(5)(4)で調製したタンパク質抽出液中のFcRn−m7Δ1、FcRn−m8Δ1A、FcRn−m8Δ1B、FcRn−m9Δ1A、FcRn−m9Δ1BおよびFcRn−m10Δ1の抗体結合活性を、実施例1(4)に記載のELISA法によって測定した。このとき、精製し定量した配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質(FcRn−m7)を用いて検量線を作製し、タンパク質濃度測定を行なった。
(6)各Fc結合性タンパク質の濃度が10μg/mLとなるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液100μLを45℃で10分間熱処理した。
(7)熱処理を行なった場合の抗体結合活性を、熱処理を行わなかったときの抗体結合活性で除することによって、残存活性を算出し、熱安定性を評価した。
結果を表6に示す。FcRn−m7Δ1に対し、Gln172Gluの変異をさらに導入したFc結合性タンパク質(FcRn−m9Δ1A、FcRn−m9Δ1BおよびFcRn−m10Δ1)は、FcRn−m7Δ1に比べて熱安定性が向上していることが確認された。
Figure 2021136967

Claims (12)

  1. 以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるFc結合性タンパク質:
    (i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を含み、ただし当該アミノ酸残基において、以下の(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有する、Fc結合性タンパク質;
    (1)配列番号1の50番目のセリンがスレオニンに置換される変異
    (2)配列番号1の76番目のトリプトファンが欠失する変異
    (3)配列番号1の89番目のスレオニンがバリンに置換される変異
    (4)配列番号1の167番目のグルタミンがグルタミン酸に置換される変異
    (5)配列番号1の169番目のリジンがアスパラギンに置換される変異
    (6)配列番号2の26番目のリジンがイソロイシンに置換される変異
    (7)配列番号2の80番目のトリプトファンがセリンに置換される変異
    (ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を含み、ただし当該アミノ酸残基において、前記(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有し、さらに前記(1)から(7)に示す変異以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質;
    (iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまで、および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸配列において、前記(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有するアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であり、ただし前記(1)から(7)に示すいずれかの変異が少なくとも1つ残存したアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質。
  2. 以下の(iv)から(vi)のいずれかから選択されるFc結合性タンパク質:
    (iv)配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を含み、ただし当該29番目から426番目までのアミノ酸残基において、以下の(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有する、Fc結合性タンパク質;
    (1)配列番号3の55番目のセリンがスレオニンに置換される変異
    (2)配列番号3の81番目のトリプトファンが欠失する変異
    (3)配列番号3の94番目のスレオニンがバリンに置換される変異
    (4)配列番号3の172番目のグルタミンがグルタミン酸に置換される変異
    (5)配列番号3の174番目のリジンがアスパラギンに置換される変異
    (6)配列番号3の333番目のリジンがイソロイシンに置換される変異
    (7)配列番号3の387番目のトリプトファンがセリンに置換される変異
    (v)配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を含み、ただし当該29番目から426番目までのアミノ酸残基において、前記(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有し、さらに前記(1)から(7)に示す変異以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質;
    (vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち29番目のアラニンから426番目のメチオニンまでのアミノ酸配列において、前記(1)から(7)に示すいずれかの変異を少なくとも1つ以上有するアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であり、ただし前記(1)から(7)に示すいずれかの変異が少なくとも1つ残存したアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するFc結合性タンパク質。
  3. さらに以下の(8)から(14)に示す全ての変異を有する、請求項1または2に記載のFc結合性タンパク質;
    (8)配列番号1の71番目または配列番号3の76番目のシステインがアルギニンに置換される変異
    (9)配列番号1の78番目または配列番号3の83番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換される変異
    (10)配列番号1の151番目または配列番号3の156番目のグリシンがアスパラギン酸に置換される変異
    (11)配列番号1の192番目または配列番号3の197番目のアルギニンがロイシンに置換される変異
    (12)配列番号1の196番目または配列番号3の201番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換される変異
    (13)配列番号1の232番目または配列番号3の237番目のグルタミンがロイシンに置換される変異
    (14)配列番号1の295番目または配列番号3の300番目のリジンがグルタミン酸に置換される変異。
  4. 以下の(2)に示す変異を少なくとも有する、請求項1から3のいずれかに記載のFc結合性タンパク質:
    (2)配列番号1の76番目または配列番号3の81番目のトリプトファンが欠失する変異。
  5. 以下の(vii)から(ix)のいずれかから選択される、請求項4に記載のFc結合性タンパク質:
    (vii)配列番号6、8、10、12、14および16のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから425番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含む、Fc結合性タンパク質;
    (viii)配列番号6、8、10、12、14および16のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから425番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該29番目から425番目までのアミノ酸残基において、前記アミノ酸配列が有する変異以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有する、Fc結合性タンパク質;
    (ix)配列番号6、8、10、12、14および16のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち、29番目のアラニンから425番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該29番目から425番目までのアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつ前記アミノ酸配列が有する変異が残存し、かつ抗体結合活性を有する、Fc結合性タンパク質。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載のFc結合性タンパク質をコードするポヌクレオチド。
  7. 請求項6に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
  8. 請求項7に記載の組換えベクターで宿主を形質転換して得られる、Fc結合性タンパク質を生産可能な形質転換体。
  9. 宿主が大腸菌である、請求項8に記載の形質転換体。
  10. 請求項8または9に記載の形質転換体を培養することによりFc結合性タンパク質を生産する工程と、得られた培養物から生産された前記Fc結合性タンパク質を回収する工程とを含む、Fc結合性タンパク質の製造方法。
  11. 請求項1から5のいずれかに記載のFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる、抗体吸着剤。
  12. 請求項11に記載の吸着剤を充填したカラムに抗体を含む溶液を添加して当該抗体を前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した抗体を溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、抗体の分離方法。
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