<構成部材等の記号、及び、記号末尾の添字>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各種記号の末尾に付された添字「i」〜「l」は、それが何れの車輪に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。例えば、4つのホイールシリンダにおいて、右前輪ホイールシリンダCWi、左前輪ホイールシリンダCWj、右後輪ホイールシリンダCWk、及び、左後輪ホイールシリンダCWlと表記される。更に、記号末尾の添字「i」〜「l」は、省略され得る。添字「i」〜「l」が省略された場合には、記号は、4つの各車輪に係るものの総称を表す。例えば、「CW」は、各車輪WHに設けられたホイールシリンダを表す。
各種記号の末尾に付された添字「f」、「r」は、車両の前後方向において、それが何れに関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は前輪、「r」は後輪を示す。例えば、車輪において、前輪WHf、及び、後輪WHrと表記される。更に、記号末尾の添字「f」、「r」は省略され得る。添字「f」、「r」が省略された場合には、各記号は、その総称を表す。「CWf(=CWi、CWj)」は前輪ホイールシリンダを表し、「CWr(=CWk、CWl)」は後輪ホイールシリンダを表す。
接続路HSにおいて、マスタリザーバRVに近い側が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側が「下部」と称呼される。また、制動液BFが循環する還流KNにおいて、流体ポンプHPの吐出部Btに近い側が「上流側(上流部)」と称呼され、吐出部Btから遠い側が「下流側(下流部)」と称呼される。
<本発明に係る車両の制動制御装置の実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る車両の制動制御装置SCの実施形態について説明する。車両には、2系統の流体路(即ち、2つの制動系統)が採用される。2つの制動系統のうちの前輪制動系統BKf(前輪マスタシリンダ室Rmfに係る系統)は、右前輪、左前輪ホイールシリンダCWi、CWj(=CWf)に接続される。また、2つの制動系統のうちの後輪制動系統BKr(後輪マスタシリンダ室Rmrに係る系統)は、右後輪、左後輪ホイールシリンダCWk、CWl(=CWr)に接続される。車両の2つの制動系統として、所謂、前後型(「II型」ともいう)のものが採用されている。ここで、「流体路」は、作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管、流体ユニットHUの流路、ホース等が該当する。
制動制御装置SCを備える車両には、制動操作部材BP、ホイールシリンダCW、マスタリザーバRV、マスタシリンダCM、及び、ブレーキブースタVBが備えられる。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、ホイールシリンダCWの液圧(「制動液圧」ともいう)Pwが調整され、車輪WHの制動トルクTqが調整され、車輪WHに制動力Fxが発生される。
車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置される。ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられ、その内部の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTqが発生される。この制動トルクTqによって、車輪WHに制動力Fxが生じる。
マスタリザーバ(大気圧リザーバであり、単に、「リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタシリンダCM内にて、制動液BFの量が不足している場合には、マスタリザーバRVからマスタシリンダ室(「液圧室」ともいう)Rmに制動液BFが補給される。
マスタシリンダCMの内部には、プライマリピストンPG、及び、セカンダリピストンPHによって、2つの液圧室Rmf、Rmrが形成されている。つまり、マスタシリンダCMとして、タンデム型のものが採用されている。マスタシリンダCM内のピストンPGは、制動操作部材BPに、ブレーキロッド、ブレーキブースタVB等を介して、機械的に接続されている。制動操作部材BPが操作されていない場合には、マスタシリンダCMの前輪、後輪液圧室Rmf、Rmr(=Rm)とマスタリザーバRVとは連通状態にある。
ブレーキブースタ(単に、「ブースタ」ともいう)VBによって、運転者による制動操作部材BPの操作力Fpが軽減される。ブースタVBとして、負圧式のものが採用される。負圧は、エンジン、又は、電動負圧ポンプにて形成される。ブースタVBとして、電気モータを駆動源とするものが採用されてもよい(例えば、電動ブースタ、アキュムレータ式ハイドロリックブースタ)。
更に、車両には、車輪速度センサVW、操舵操作量センサSA、ヨーレイトセンサYR、前後加速度センサ(「減速度センサ」ともいう)GX、横加速度センサGY、制動操作量センサBA、及び、距離センサOBが備えられる。車両の各車輪WHには、その回転速度である車輪速度Vwを検出するよう、車輪速度センサVWが備えられる。車輪速度Vwの信号は、車輪WHのロック傾向(即ち、過大な減速スリップ)を抑制するアンチロックブレーキ制御等の各輪独立制御に利用される。
操舵操作部材(例えば、ステアリングホイール)SWには、その操舵量(例えば、操舵角)Saを検出するように操舵操作量センサ(例えば、操舵角センサ)SAが備えられる。車両の車体には、ヨーレイト(ヨー角速度)Yrを検出するよう、ヨーレイトセンサYRが備えられる。また、車両の前後方向(進行方向)の加速度(前後加速度であり、「検出減速度」ともいう)Gx、及び、横方向(進行方向に直角な方向)の加速度(横加速度であり、「検出横加速度」ともいう)Gyを検出するよう、前後加速度センサGX、及び、横加速度センサGYが設けられる。これらセンサの検出信号は、過大なオーバステア挙動、アンダステア挙動を抑制する車両安定化制御(所謂、ESC)等の車両運動制御に用いられる。
運転者による制動操作部材BP(ブレーキペダル)の操作量Baを検出するよう、制動操作量センサBAが設けられる。制動操作量センサBAとして、マスタシリンダCM内の液圧(マスタシリンダ液圧)Pmを検出するマスタシリンダ液圧センサPM、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。つまり、操作量センサBAによって、制動操作量Baとして、マスタシリンダ液圧Pm、操作変位Sp、及び、操作力Fpのうちの少なくとも1つが検出される。
各センサ(VW等)によって検出された車輪速度Vw、操舵操作量(操舵角)Sa、ヨーレイトYr、前後加速度(検出減速度)Gx、横加速度(検出横加速度)Gy、及び、制動操作量Baは、制動コントローラECUに入力される。制動コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。
≪運転支援システム≫
車両には、自動制動制御によって、障害物との衝突を回避、又は、衝突時の被害を軽減するよう、運転支援システムが備えられる。運転支援システムは、距離センサOB、及び、運転支援コントローラECJを含んで構成される。距離センサOBによって、自車両の前方に存在する物体(他車両、固定物、人、自転車、等)と、自車両との間の距離(相対距離)Obが検出される。例えば、距離センサOBとして、画像センサ(カメラ)、レーダセンサ等が採用される。相対距離Obは、運転支援コントローラECJに入力される。
運転支援コントローラECJでは、相対距離Obに基づいて、要求減速度Gsが演算される。要求減速度Gsは、自動制動制御を実行するための車両減速度の目標値である。要求減速度Gsは、通信バスBSを介して、制動コントローラECUに送信される。
例えば、要求減速度Gsは、衝突余裕時間Tc、及び、車頭時間Twに基づいて演算される。衝突余裕時間Tcは、自車両と物体とが衝突に至るまでの時間であり、車両前方の物体と自車両との相対的な距離Obが、障害物と自車両との速度差(「相対速度」と称呼し、相対距離Obの時間微分値)によって除算されることによって決定される。車頭時間Twは、前方の物体の現在位置に自車両が到達するまでの時間であり、相対距離Obが、車体速度Vxにて除算されて演算される。要求減速度Gsは、衝突余裕時間Tcが大きいほど、小さくなるように演算される。また、要求減速度Gsは、車頭時間Twが大きいほど、要求減速度Gsが小さくなるように演算される。
≪制動コントローラECU≫
制動制御装置SCは、制動コントローラECU、及び、流体ユニットHU(「アクチュエータ」に相当)にて構成される。制動コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUは、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。コントローラECUは、車載の通信バスBSを介して、信号(検出値、演算値等)を共有するよう、他のコントローラ(ECJ等)とネットワーク接続されている。例えば、制動コントローラECUは、運転支援コントローラECJと、通信バスBSを通して接続される。制動コントローラECUから、運転支援コントローラECJには、車体速度Vxが送信される。一方、運転支援コントローラECJから、制動コントローラECUには、障害物との衝突を回避するよう(又は、衝突時の被害を軽減するよう)、自動制動制御を実行するための要求減速度Gs(目標値)が送信される。
制動コントローラECU(電子制御ユニット)によって、流体ユニットHUの電気モータMT、及び、3種類の異なる電磁弁UA、VI、VOが制御される。具体的には、マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、各種電磁弁UA、VI、VOを制御するための駆動信号Ua、Vi、Voが演算される。同様に、電気モータMTを制御するための駆動信号Mtが演算される。
コントローラECUには、電磁弁UA、VI、VO、及び、電気モータMTを駆動するよう、駆動回路DRが備えられる。駆動回路DRには、電気モータMTを駆動するよう、スイッチング素子(MOS−FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によってブリッジ回路が形成される。モータ駆動信号Mtに基づいて、各スイッチング素子の通電状態が制御され、電気モータMTの出力が制御される。また、駆動回路DRでは、電磁弁UA、VI、VOを駆動するよう、駆動信号Ua、Vi、Voに基づいて、スイッチング素子によって、それらの通電状態(即ち、励磁状態)が制御される。なお、駆動回路DRには、電気モータMT、及び、電磁弁UA、VI、VOの実際の通電量を検出する通電量センサが設けられる。例えば、通電量センサとして、電流センサが設けられ、電気モータMT、及び、電磁弁UA、VI、VOへの供給電流が検出される。
制動コントローラECUには、制動操作量Ba(Pm、Sp等)、車輪速度Vw、ヨーレイトYr、操舵角Sa、前後加速度(検出減速度)Gx、横加速度(検出横加速度)Gyが入力される。また、制動コントローラECUには、運転支援コントローラECJから、要求減速度Gsが、通信バスBSを介して入力される。制動コントローラECUによって、要求減速度Gsに基づいて、障害物との衝突を回避、又は、衝突の際の被害を低減するよう、偏向抑制制御(後述)を含む自動制動制御が実行される。
≪流体ユニットHU≫
流体ユニットHUは、各車輪WHの制動力Fxを個別に制御するアクチュエータである。流体ユニットHUは、電気モータMT、流体ポンプHP、調圧リザーバRC、調圧弁UA、マスタシリンダ液圧センサPM、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOにて構成される。
前輪、後輪液圧室Rmf、Rmrと、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrとは、前輪、後輪接続路(流体路の1つ)HSf、HSr(=HS)にて接続される。接続路HSには、流体ユニットHUが接続される。接続路HSは、流体ユニットHU内の部位Bbf、Bbrにて分岐され、前輪、後輪ホイールシリンダCWf(=CWi、CWj)、CWr(=CWk、CWl)に接続される。前輪、後輪調圧弁UAf、UAr(調圧弁UAと液圧室Rmとの間の接続路HSの部位)上部Bmf、Bmrと、前輪、後輪調圧弁UAf、UAr(調圧弁UAとインレット弁VIとの間の接続路HSの部位)下部Bbf、Bbrとは、前輪、後輪還流路HKf、HKr(=HK)によって接続される。前輪、後輪還流路HKf、HKrには、前輪、後輪流体ポンプHPf、HPr、及び、前輪、後輪調圧リザーバRCf、RCrが設けられる。
2つの流体ポンプ(前輪、後輪流体ポンプ)HPf、HPr(=HP)は、1つの電気モータMTによって駆動される。電気モータMTは、制動コントローラECUからの駆動信号Mtに基づいて制御される。流体ポンプHPによって、前輪、後輪調圧弁UAf、UAr(=UA)の上流側に位置する吸込部Bsf、Bsrにて、前輪、後輪調圧リザーバRCf、RCr(=RC)から制動液BFが汲み上げられる。汲み上げられた制動液BFは、前輪、後輪調圧弁UAf、UArの下流側に位置する、前輪、後輪吐出部Btf、Btrに吐出される。
前輪、後輪調圧弁UAf、UAr(=UA)が、前輪、後輪接続路HSf、HSrに設けられる。調圧弁UAとして、通電状態(例えば、供給電流)に基づいて開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁(「比例弁」、又は、「差圧弁」ともいう)が採用される。調圧弁UAは、制動コントローラECUからの駆動信号Uaに基づいて制御される。ここで、前輪、後輪調圧弁UAf、UArとして、常開型の電磁弁が採用される。
コントローラECUにて、自動制動制御等の演算結果(例えば、ホイールシリンダCWの基準液圧)に基づいて、調圧弁UAの目標通電量(例えば、目標電流)が決定される。目標通電量に基づいて駆動信号Uaが決定され、この駆動信号Uaに応じて、調圧弁UAへの通電量(電流値)が調整され、調圧弁UAの開弁量が調整される。
流体ポンプHPが駆動されると、還流路HK、及び、接続路HSで、「RC→HP→UA→RC」の制動液BFの還流(破線矢印で示す循環する制動液BFの流れ)KNが形成される。調圧弁UAへの通電が行われず、常開型調圧弁UAが全開状態である場合には、調圧弁UAの上流部Bmの液圧(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)と、調圧弁UAの下流部Bbの液圧Pp(「調整液圧」という)とは、略一致する。
常開型調圧弁UAへの通電量が増加され、調圧弁UAの開弁量が減少される。調圧弁UAによって、制動液BFの還流KNが絞られ、調圧弁UAの上流部Bmと下流部Bbとの間に圧力差(差圧)が発生される。即ち、調圧弁UAのオリフィス効果によって、下流側液圧(調整液圧)Ppは、上流側液圧(マスタシリンダ液圧)Pmから増加されて調整される。制動操作部材BPが操作されていない場合には、「Pm=0」であるが、調整液圧Ppによって、制動液圧(ホイールシリンダ液圧)Pwが、「0」から増加され、自動制動制御が行われる。
調圧弁UAの上部の接続路HSには、前輪、後輪マスタシリンダ液圧Pmf、Pmrを検出するよう、前輪、後輪マスタシリンダ液圧センサPMf、PMrが設けられる。なお、基本的には、「Pmf=Pmr」であるため、前輪、後輪マスタシリンダ液圧センサPMf、PMrのうちの一方は、省略可能である。
前輪、後輪接続路HSf、HSrは、前輪、後輪調圧弁UAf、UArの下部Bbf、Bbrにて分岐(分流)され、各ホイールシリンダCWi〜CWlに接続される。分岐部Bbf、Bbrの下部において、各車輪WH(=WHi〜WHl)に係る構成は同じである。
分岐部Bbf、Bbrの下部の接続路HS(=HSi〜HSl)には、インレット弁VI(=VIi〜VIl)が設けられる。インレット弁VIとして、常開型のオン・オフ電磁弁が採用される。接続路HSは、インレット弁VIの下部(即ち、インレット弁VIとホイールシリンダCWとの間)にて、前輪、後輪減圧路HGf、HGr(=HG)に接続される。また、減圧路HGは、調圧リザーバRC(=RCf、RCr)に接続される。減圧路HGには、アウトレット弁VO(=VOi〜VOl)が設けられる。アウトレット弁VOとして、常閉型のオン・オフ電磁弁が採用される。
ホイールシリンダCW内の液圧(制動液圧)Pwを減少するためには、インレット弁VIが閉位置にされ、アウトレット弁VOが開位置される。制動液BFのインレット弁VIからの流入が阻止され、ホイールシリンダCW内の制動液BFは、調圧リザーバRCに流出し、制動液圧Pwは減少される。また、制動液圧Pwを増加するため、インレット弁VIが開位置にされ、アウトレット弁VOが閉位置される。制動液BFの調圧リザーバRCへの流出が阻止され、調整液圧Ppが、ホイールシリンダCWに導入され、制動液圧Pwが増加される。更に、ホイールシリンダCW内の液圧(制動液圧)Pwを保持するためには、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOが、共に閉弁される。つまり、電磁弁VI、VOを制御することによって、制動液圧Pw(即ち、制動トルクTqであり、結果、制動力Fx)が、各車輪WHのホイールシリンダCWで独立に調整可能である。
<偏向抑制制御を含む自動制動制御の演算処理>
図2のフロー図を参照して、偏向抑制制御について、自動制動制御を例に説明する。該処理は、制動コントローラECUにて行われる。「自動制動制御」は、車両の前方の物体(障害物)と、車両との相対距離Obに応じた要求減速度Gsに基づいて、車両と障害物との衝突を回避等するよう、ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pw(=Pwi〜Pwl)をマスタシリンダCMの液圧(マスタシリンダ液圧)Pm(=Pmf、Pmr)から増加するものである。「偏向抑制制御」は、制動中(自動制動制御の実行中、又は、運転者の制動操作に応じた制動中)に発生した車両偏向を、各車輪WH(=WHi〜WHl)の制動力Fx(=Fxi〜Fxl)を独立して調節することによって抑制するものである。
ステップS110にて、各種信号が読み込まれる。具体的には、要求減速度Gs、検出減速度Gx(減速度センサGXの検出値)、ヨーレイトYr、検出横加速度Gy(横加速度センサGYの検出値であり、単に、「横加速度」ともいう)、及び、操舵角Saが取得(検出、又は、受信)される。
ステップS120にて、車体速度Vx、及び、実際に発生している車両の減速度(実減速度であり、単に、「減速度」ともいう)Gaが演算される。車体速度Vxは、車輪速度Vwに基づいて演算される。例えば、車両の加速時を含む非制動時には、4つの車輪速度Vwのうちの最も遅い車輪速度に基づいて、車体速度Vxが演算される。また、制動時には、4つの車輪速度Vwのうちの最も速い車輪速度に基づいて、車体速度Vxが演算される。更に、車体速度Vxの演算において、その時間変化量において制限が設けられてもよい。即ち、車体速度Vxの増加勾配の上限値αup、及び、減少勾配の下限値αdnが設定され、車体速度Vxの変化が、上下限値αup、αdnによって制約される。
実際の減速度(実減速度)Gaは、実際に発生している車両の前後方向(進行方向)において、車両を減速する方向の加速度である。実減速度Gaは、検出減速度Gx、及び、車体速度Vxの時間微分値(「演算減速度Ge」という)のうちの少なくとも1つに基づいて演算される。なお、要求減速度Gs、実減速度Ga、検出減速度Gx、及び、演算減速度Geは、車両を減速する側の値が「正符号(+)」で表される。
ステップS130にて、自動制動制御の要否が判定される。例えば、該要否は、要求減速度Gsと実際の減速度Gaとの比較に基づいて判定される。「Gs≦Ga」である場合には、自動制動制御は不要であり、処理は、ステップS110に戻される。「Gs>Ga」である場合には、自動制動制御が必要であることが判定され、処理は、ステップS140に進められる。
ステップS140にて、車体速度Vx、及び、実減速度Gaに基づいて、規範旋回量Ysが演算される。そして、規範旋回量Ys、及び、実際の旋回量Gy、Yrに基づいて旋回量偏差hYが演算される。具体的には、旋回量偏差hYは、実際の旋回量Gy、Yrから規範旋回量Ysが減算されて演算される。ここで、「旋回量」は、車両の旋回状態を表す状態量(状態変数)である。例えば、旋回量として、横加速度、及び、ヨーレイトのうちの少なくとも1つが採用される。また、「旋回量偏差hY」は、車両が進行すべき方向(即ち、規範旋回量Ys)からの、実際の車両進行方向(即ち、実際の旋回量)の相違を表す状態量である。従って、旋回量偏差hYによって車両の偏向状態が表現される。なお、規範旋回量Ysの詳細な演算については後述する。
ステップS150にて、要求減速度Gsに基づいて、前輪、後輪基準液圧Psf、Psr(=Ps)が決定される。基準液圧Psは、実際の前輪、後輪調整液圧Ppf、Pprに係る目標値の基準となる状態量である。例えば、前輪、後輪基準液圧Psf、Psrは同じになるよう演算され、4つのホイールシリンダCWi〜CWlの実際の液圧(制動液圧)Pw(=Pp)が同一になるように指示される。
ステップS160にて、旋回量偏差hYに基づいて、偏向抑制制御の実行の要否が判定される。具体的には、「旋回量偏差hYが、開始しきい値hx以上であるか、否か」に基づいて、偏向抑制制御の開始が判定される。ここで、開始しきい値hxは、予め設定された所定値(定数)である。
ステップS160にて、旋回量偏差hYが開始しきい値hx未満である場合には、車両偏向は生じていない。このため、「hY<hx」の場合には、処理は、ステップS170に進められる。旋回量偏差hYが開始しきい値hx以上である場合には、車両偏向が発生しているため、処理は、ステップS180に進められる。
ステップS170にて、最終的な前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptr(=Pt)が演算される。ステップS170は、自動制動制御において、車両偏向が生じていない処理に対応する。従って、目標液圧Ptとして、基準液圧Psが、そのまま決定される(即ち、「Pt=Ps」)。
ステップS180にて、吹き出し部に示す修正量演算ブロックZGの演算マップZpz、Zpg、及び、旋回量偏差hYに基づいて、液圧に係る修正量(増加、減少修正量)Pz、Pgが演算される。増加修正量Pzは、前輪基準液圧Psfを増加修正して前輪目標液圧Ptfを演算するための状態量である。増加修正量Pzは、増加演算マップZpzに従って、旋回量偏差hY(又は、その絶対値)が所定量(開始しきい値)hx未満の場合には「0」に演算され、旋回量偏差hY(又は、その絶対値)が所定量hx以上の場合には、旋回量偏差hYの絶対値の増加に従って、増加修正量Pzが「0」から増加するように演算される。減少修正量Pgは、後輪基準液圧Psrを減少修正して後輪目標液圧Ptrを演算するための状態量である。減少修正量Pgは、減少演算マップZpgに従って、「hY<hx」の場合には「0」に演算され、「hY≧hx」の場合には、旋回量偏差hYが増加するに従って、減少修正量Pgが「0」から増加するように演算される。なお、増加、減少修正量Pz、Pgには、上限値pz、pgが設定される。
ステップS190にて、前輪、後輪基準液圧Psf、Psr(=Ps)が、増加、減少修正量Pz、Pgによって修正され、最終的な前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptrが演算される。具体的には、前輪目標液圧Ptfは、前輪基準液圧Psfに増加修正量Pzが加算されて決定される(即ち、「Ptf=Psf+Pz」)。後輪目標液圧Ptrは、後輪基準液圧Psrから減少修正量Pgが減算されて決定される(即ち、「Ptr=Ps−Pg」)。後輪基準液圧Ptrが減少調整されるため、後輪制動力が減少され、車両偏向に応じて、後輪WHrの横滑り角が増加した場合に、後輪WHrの横力が発生され易くされ、車両偏向が抑制される。
ステップS200にて、「車両の偏向方向が、左方向であるか、右方向であるか」が判定(識別)される。例えば、該識別は、ヨーレイトYrの符号に基づいて行われる。また、ヨーレイトYrに基づいて演算された旋回量偏差hYの符号に応じて識別されてもよい。偏向方向が左方向である場合には、処理は、ステップS210に進められる。一方、偏向方向が右方向である場合には、処理は、ステップS220に進められる。
ステップS210にて、右前輪インレット弁VIiが開位置にされるとともに、左前輪インレット弁VIjが閉位置にされる。インレット弁VIは、常開型であるため、ステップS210では、右前輪インレット弁VIiは非通電のままであり、左前輪インレット弁VIjに通電が指示される。前輪調整液圧Ppfは増加されているため、右前輪WHiの制動液圧Pwiが増加され、左前輪WHjの制動液圧Pwjは保持される。このときに発生する前輪制動力Fxfの左右差によって左方向への車両偏向が抑制される。
ステップS220にて、右前輪インレット弁VIiが閉位置にされるとともに、左前輪インレット弁VIjが開位置にされる。ステップS220では、右前輪インレット弁VIiに通電が指示され、左前輪インレット弁VIjは非通電のままである。右前輪WHiの制動液圧Pwiは保持され、左前輪WHjの制動液圧Pwjが増加されるため、前輪制動力Fxfの左右差によって右方向への車両偏向が抑制される。
ステップS230にて、電気モータMTが駆動される。これにより、調圧弁UA、及び、流体ポンプHPを含む制動液BFの還流(「HP→UA→RC→HP」で循環する制動液BFの流れ)KNが発生される。
ステップS240にて、前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptr(=Pt)に基づいて、前輪、後輪調圧弁UAf、UAr(=UA)が制御される。具体的には、目標液圧Ptに基づいて、調圧弁UAへの目標通電量Itが決定され、調圧弁UAへの実際の通電量Iaが制御される。例えば、駆動回路DRに実際の通電量Iaを検出する通電量センサ(例えば、電流センサ)が設けられ、実際の通電量(実電流)Iaが目標通電量(目標電流)Itに一致するよう、サーボ制御(電流フィードバック制御)が行われる。更に、調圧弁UAの制御において、実際の減速度Gaが、要求減速度Gsに一致するよう、サーボ制御(減速度フィードバック制御)が行われてもよい。
ステップS180〜ステップS220は、自動制動制御の実行中に車両偏向を抑制する偏向抑制制御の実行に対応する。この一連の処理では、旋回量偏差hYに基づいて、前輪、後輪基準液圧Psf、Psrが修正され、最終的な前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptrが演算される。加えて、前輪インレット弁VIfの開閉状態が制御される。
以上で説明した目標液圧Ptが、偏向抑制制御における「制御量」に相当する。つまり、偏向抑制制御の制御量は、自動制動制御の実行において、車両偏向を抑制するための制動力Fxに係る状態量(状態変数)である。従って、制御量は、液圧の次元で演算される状態量(目標液圧)Ptに代えて、制動トルクTq(目標トルク)、又は、制動力Fx(目標制動力)に係る状態量であってもよい。何れにしても、偏向抑制制御の制御量は、旋回量偏差hY(旋回方向が考慮されれば、その絶対値|hY|)に基づいて、旋回量偏差hYが大きいほど、大きくなるように決定(演算)される。旋回量偏差hYには、演算周期毎で、車両停止時の横方向変位が考慮されている。このため、旋回量偏差hYに応じて偏向抑制制御が開始されるとともに、その制御量(Pt等)が演算されるため、偏向抑制制御において、車両の適合工数が低減される。
<規範旋回量Ys、及び、旋回量偏差hYの演算>
図3の概略図を参照して、規範旋回量Ys、及び、旋回量偏差hY(車両偏向の程度を示す状態変数)の演算について詳細に説明する。図3では、車両が走行車線内の中央を走行している状況で、位置(O)にて自動制動制御が開始され、その後、位置(P)にて偏向抑制制御が開始される。そして、自動制動制御によって、位置(S)にて車両が停止される。時間毎の車幅方向(道路の横断方向でもある)への変位(横移動距離)Dhは、以下の式(1)にて演算される。
Dh=(1/2)・Gy・(Vx/Ga)2 …式(1)
式(1)は、横移動距離Dhが、検出、又は、演算できる状態変数(Gy、Vx、Ga等)によって演算できることを示している。式(1)を変形すると、以下の式(2)となる。
Gy=2・Dh・(Ga/Vx)2 …式(2)
《横加速度Gyに応じた規範旋回量Ys》
式(2)の関係を参酌して、車両が停止した位置(S)(即ち、「Vx=0」に対応する位置)が走行車線内に収まる(又は、走行路の路肩から逸脱しない)ように、横加速度Gyに係る状態変数(つまり、横加速度Gyと同一次元の状態量)として、規範旋回量Ys(「規範横加速度」ともいう)が、以下の式(3)によって演算される。
Ys=2・hd・(Ga/Vx)2 …式(3)
ここで、「hd」は、車両が走行している道路の幅方向(「横断方向」であり、「幅員方向」ともいう)に対応する長さであり、「所定距離」と称呼される。所定距離hdと横移動距離Dhとの大小関係においては、横移動距離Dhが所定距離hdよりも小さく設定されることによって、車両は、車線(又は、路肩)LEからはみ出すことなく停止することができる。換言すれば、規範旋回量Ysと横加速度Gyとの偏差である旋回量偏差hYに基づいて、偏向抑制制御が開始され、その制御量Ptf、Ptrが演算される。このため、車両が車線LE内に停止可能とするための、偏向抑制制御の制御パラメータの適合工数が低減され得る。
道路の道幅(道路幅員)Deは、法令等によって規定されている。例えば、所定距離hdは、予め設定された定数(例えば、道路幅員Deの「1/2」未満の値)として決定される。また、車載のカメラ等によって、道路の端部(車線であって、例えば、白線、或いは、路肩等)LEが認識され、この認識結果に基づいて所定距離hdが決定されてもよい。更に、グローバル・ポジショニング・システム(所謂、GPS)によって得られる車両の現在位置が、地図データに照合され、この地図データに記憶されている情報に基づいて、道路幅員Deが取得されることで、所定距離hdが決定されてもよい。
《ヨーレイトYrに応じた規範旋回量Ys》
ヨーレイトYrと横加速度Gyとは、「Gy=Yr・Vx」の関係があるため、式(2)は、以下の式(4)のように変形される。
Yr=2・Dh・(Ga2/Vx3) …式(4)
上記同様に、式(4)の関係を参酌して、車両が停止した位置(S)(即ち、「Vx=0」に対応する位置)が走行車線内に収まる(又は、走行路の路肩から逸脱しない)ように、ヨーレイトYrに係る状態変数(つまり、ヨーレイトYrと同一次元の状態量)として、規範旋回量Ys(「規範ヨーレイト」ともいう)が、以下の式(5)によって演算される。
Ys=2・hd・(Ga2/Vx3) …式(5)
横移動距離Dhは、所定距離hdよりも小さく設定されるため、車両は、車線(又は、路肩)LEからはみ出すことがない。従って、上記同様に、規範旋回量YsとヨーレイトYrとの偏差である旋回量偏差hYに基づいて、偏向抑制制御が開始されるとともに、その制御量Ptf、Ptrが演算される。このため、車両が車線LE内に停止可能とするための、偏向抑制制御の制御パラメータの適合工数が低減され得る。
上述した内容をまとめると、偏向抑制制御では、旋回量偏差hYとして横加速度Gyに係る状態変数が採用される。具体的には、規範旋回量(規範横加速度)Ysが、式(3)にて示す様に、実減速度Gaの二乗を、車体速度Vxの二乗で除した値(即ち、「Ga2/Vx2」)に応じて演算される。そして、実際の横加速度Gy(横加速度センサGYの検出値)と規範横加速度Ysとの偏差(横加速度偏差)hYが演算され、開始しきい値hxと比較される。ここで、開始しきい値hxは、横加速度Gyの次元(同じ物理量)において予め設定される。
また、偏向抑制制御では、旋回量偏差hYとしてヨーレイトYrに係る状態変数が採用される。具体的には、規範旋回量(規範ヨーレイト)Ysが、式(5)にて示す様に、実減速度Gaの二乗を、車体速度Vxの三乗で除した値(即ち、「Ga2/Vx3」)に応じて演算される。そして、実際のヨーレイトYr(ヨーレイトセンサYRの検出値)と規範ヨーレイトYsとの偏差(ヨーレイト偏差)hYが演算され、開始しきい値hxと比較される。ここで、開始しきい値hxは、ヨーレイトYrの次元(同じ物理量)において予め設定される。
更に、偏向抑制制御では、ロバスト性を向上するために、旋回量偏差hYとして、横加速度Gyに係る状態変数、及び、ヨーレイトYrに係る状態変数が、共に採用されてもよい。具体的には、規範横加速度と実横加速度との偏差、及び、規範ヨーレイトと実ヨーレイトとの偏差に基づいて、旋回量偏差hYが演算される。換言すれば、旋回量偏差hYは、車体速度Vx、実際の減速度Ga、及び、「横加速度Gy、及び、ヨーレイトYrのうちの少なくとも1つ」に基づいて演算(決定)される。
旋回量偏差hYが、開始しきい値hx以上となる場合に、偏向抑制制御の実行が許可され、開始される。即ち、「hY≧hx」となる時点(演算周期)でステップS160が肯定される。その時点以降は、旋回量偏差hYに基づいて、制御量(制動液圧Pw、制動トルクTq、及び、制動力Fxのうちの少なくとも1つの目標値)が演算される。そして、制御量に基づいて、各車輪WHの制動力Fxが調整される。この制動力制御によって、車両に作用するヨーモーメントが調整され、車両の偏向が抑制される。つまり、旋回量偏差hYに基づいて偏向抑制制御の開始が判定されるとともに、旋回量偏差hYに基づいて偏向抑制制御に係る制御量が調整され、その実行が継続される。
<作用・効果>
本発明に係る制動制御装置SCの構成、及び、作用・効果についてまとめる。
制動制御装置SCでは、要求減速度Gsに応じて自動制動制御が実行される。自動制動制御が行われている途中で、片荷等の影響で車両が偏向する場合には、偏向抑制制御を実行される。ここで、偏向抑制制御は、各車輪WHの制動力Fxの調整によって、制動中の車両偏向を抑制するものである。
制動制御装置SCには、各輪制動力Fxを調整するアクチュエータ(例えば、流体ユニット)HUと、アクチュエータHUを制御するコントローラECUと、が備えられる。そして、コントローラECUでは、車体速度Vx、実際の減速度Ga、及び、実際の旋回量(横加速度Gy、及び、ヨーレイトYrのうちの少なくとも1つ)に基づいて、制動力Fxについての制御量(Fx、Tq、Pt等)が決定(演算)される。加えて、コントローラECUでは、車体速度Vx、実際の減速度Ga、及び、実際の旋回量(Gy、Yr)に基づいて、偏向抑制制御の実行開始が判定される。
具体的は、コントローラECUでは、車体速度Vx、及び、実際の減速度Gaに基づいて規範旋回量Ysが演算される。そして、規範旋回量Ys、及び、実際の旋回量(Yr、Gy)に基づいて制御量(例えば、Pt)が演算される。規範旋回量Ysは、車両の横方向(車幅方向)の変位において、走行路を逸脱しないように決定される。加えて、規範旋回量Ysは、車体速度Vx、実際の減速度Gaのように、演算周期毎に検出又は演算される状態量に基づいて演算される(式(3)(5)を参照)。これにより、偏向抑制制御において、車両が走行路を逸脱しないようにするための制御パラメータが車種毎に適合される必要がない。即ち、適合が簡素化、容易化され、車両適合に要する工数(時間)が削減される。
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様の効果(適合の容易化・簡素化による工数低減)を奏する。
上記の実施形態では、規範旋回量Ysが、横加速度Gy、ヨーレイトYrの次元にて演算された。これに代えて、規範旋回量Ysは、横移動距離の次元で演算されてもよい。何れにしても、偏向抑制制御の実行開始、及び、制御量は、車体速度Vx、実際の減速度Ga、及び、実際の旋回量Gy、Yrに基づいて決定される。
上記の実施形態では、自動制動制御を例に、偏向抑制制御について説明した。本発明に係る制動制御装置SCでは、偏向抑制制御は、自動制動制御中のみならず、運転者による制動操作部材BPの操作時(「マニュアル制動時」ともいう)にも実行され得る。マニュアル制動時においては、ステップS160での判定が否定される場合には、ホイールシリンダCWの液圧Pw(結果、制動力Fx)は、マスタシリンダ液圧Pm(即ち、制動操作部材BPの操作)によって調整される。一方、ステップS160での判定が肯定される場合には、流体ユニットHU(電気モータMT、調圧弁UA、インレット弁VI、アウトレット弁VO)が駆動されることによって、マニュアル制動中の制動液圧から、車幅方向において、一方側の制動液圧が増加され、他方側の制動液圧が減少される。即ち、偏向抑制制御の実行によって、結果、車両の偏向が抑制される。
上記の実施形態では、修正量演算ブロックZGの演算マップZpz、Zpgは、予め設定されたもの(特性)であり、制御量(Pt、Tq、Fx等)は、演算マップZpz、Zpgに基づいて演算された。これに代えて、制御量(Pt、Tq、Fx等)は、旋回量偏差hY、及び、既知の車両諸元(ホイールベース、トレッド、重心位置等)に基づいて演算されてもよい。例えば、旋回量偏差hY等に応じて、各車輪WHの制動力Fx(目標値)が演算され、これらに基づいて目標液圧Ptが演算される。そして、目標液圧Ptに基づいて、各車輪WHの制動液圧Pwが調整される。
上記の実施形態では、2系統の制動系統として、前後型のものが採用された。これに代えて、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用され得る。この場合、2つの液圧室Rmのうちの一方は、右前輪ホイールシリンダCWi、及び、左後輪ホイールシリンダCWlに接続され、2つの液圧室Rmのうちの他方は、左前輪ホイールシリンダCWj、及び、右後輪ホイールシリンダCWkに接続される。この場合でも、各車輪WHの制動力Fxは、調圧弁UA、及び、インレット弁VI、アウトレット弁VOによって、各輪独立で調節される。
上記の実施形態では、車両の偏向を抑制するために、車幅方向において、一方側の制動液圧が増加され、他方側の制動液圧が減少された。これに代えて、一方側の制動液圧の増加のみが実行されてよい。また、他方側の制動液圧の減少のみが実行されてもよい。即ち、偏向抑制制御では、一方側の制動液圧の増加、及び、他方側の制動液圧の減少のうちの少なくとも1つが実行される。
上記実施形態では、車輪WHに制動トルクTq(結果、制動力Fx)を調節するアクチュエータとして、制動液BFを介した液圧式のものが例示された。これに代えて、電気モータによって駆動される、電動式のものが採用され得る。電動式のアクチュエータでは、電気モータの回転動力が、直線動力に変換され、これによって、摩擦部材が回転部材KTに押し付けられる。従って、制動液圧Pwに依らず、電気モータによって、直接、制動トルクTqが付与され、制動力Fxが発生される。さらに、前輪WHf用として、制動液BFを介した液圧式のアクチュエータが採用され、後輪WHr用として、電動式のアクチュエータが採用された、複合型であってもよい。電動式アクチュエータが採用される場合には、上記の制御量として、目標トルクTq、目標制動力Fxの他に、摩擦部材が回転部材KTに押し付けられる力(「押圧力」という)の目標値(目標押圧力)が採用されてもよい。