JP2021118162A - 耐火樹脂組成物、耐火材、耐火積層体、バッテリー、背面カバー材及び電子機器 - Google Patents

耐火樹脂組成物、耐火材、耐火積層体、バッテリー、背面カバー材及び電子機器 Download PDF

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秀康 中嶋
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Abstract

【課題】バッテリーの温度上昇等に伴う熱暴走及び発火に対して、高い耐火性及び消火性能を有する耐火樹脂組成物、耐火材、耐火積層体、バッテリー、背面カバー材及び電子機器を提供する。【解決手段】吸熱剤及び熱膨張性層状無機物からなる群から選択される少なくとも1種の耐火性添加剤と、熱伝導性物質と、樹脂とを含有し、バッテリーを搭載する電子機器に使用される耐火樹脂組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、耐火樹脂組成物、耐火材、耐火積層体、バッテリー、背面カバー材及び電子機器に関する。
リチウム電池に代表される各種バッテリーは、内部短絡等が原因によりバッテリーが熱暴走し、発火や発煙等の不具合を生じることがある。このような不具合による被害を最小限に抑えるために、異常高温になったバッテリーの熱を周囲のバッテリー及びバッテリーを収容した筐体に伝え難くする方法が検討されており、例えば、バッテリーセルの周辺に耐火材や断熱層等の保護材を用いる方法が挙げられる。
例えば、特許文献1には、外側の少なくとも一部が耐火性コーティングで覆われている電池セルが開示されており、耐火性コーティングがアブレーティブコーティング、膨張性コーティング又は吸熱性コーティングであること、ポリウレタン系コーティングが使用可能であることが開示されている。
特表2013−528911号公報
ところで、近年、携帯電話等の電子機器のバッテリーでは、電池容量が高く、急激な温度上昇により熱暴走して発火しやすくなっており、高い耐火性及び消火性能が求められている。しかし、特許文献1の耐火性コーティングは、発火が生じるとその形状を保持できずに、十分な耐火性及び消火性能を発揮することができない。
そこで、本発明は、バッテリーの温度上昇等に伴う熱暴走及び発火に対して、高い耐火性及び消火性能を有する耐火樹脂組成物、耐火材、耐火積層体、バッテリー、背面カバー材及び電子機器を提供することを課題とする。
本発明は、下記[1]〜[16]を要旨とする。
[1]難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物からなる群から選択される少なくとも1種の耐火性添加剤と、熱伝導性物質と、樹脂とを含有し、バッテリーを搭載する電子機器に使用される耐火樹脂組成物。
[2]前記樹脂100質量部に対する前記熱伝導性物質の含有量が100〜1,500質量部である、[1]に記載の耐火樹脂組成物。
[3]前記熱伝導性物質の10MHzにおける比誘電率が10以下である、[1]又は[2]に記載の耐火樹脂組成物。
[4]前記熱伝導性物質が窒化ホウ素及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる1種以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の耐火樹脂組成物。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の耐火樹脂組成物からなる耐火材。
[6]厚みが5〜10,000μmである、[5]に記載の耐火材。
[7]難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物からなる群から選択される少なくとも1種の耐火性添加剤と樹脂とを含む耐火樹脂層と、熱伝導性物質を含む熱伝導層とを備え、バッテリーを搭載する電子機器に使用される耐火積層体。
[8]前記耐火樹脂層と前記熱伝導層とが直接積層されている、[7]に記載の耐火積層体。
[9]前記熱伝導層は、前記熱伝導性物質と樹脂とを含有する第1熱伝導層、及び、前記熱伝導性物質から実質的になる第2熱伝導層の少なくともいずれかを有する、[7]又は[8]に記載の耐火積層体。
[10]シート状である、[7]〜[9]のいずれかに記載の耐火積層体。
[11]厚みが5〜10,000μmである、[10]に記載の耐火積層体。
[12]前記耐火樹脂層は、前記電子機器の構成部材と接している、[7]〜[11]のいずれかに記載の耐火積層体。
[13]前記熱伝導層は、前記電子機器の構成部材と接していない、[7]〜[12]のいずれかに記載の耐火積層体。
[14][5]又は[6]に記載の耐火材及び[7]〜[13]に記載の耐火積層体の少なくともいずれかがバッテリーセルの表面上に設けられるバッテリー。
[15][5]又は[6]に記載の耐火材及び[7]〜[13]に記載の耐火積層体の少なくともいずれかが表面上に設けられている背面カバー材。
[16][14]に記載のバッテリー及び[15]に記載の背面カバー材の少なくともいずれかを備える、電子機器。
本発明によれば、バッテリーの温度上昇等に伴う熱暴走及び発火に対して、高い耐火性及び消火性能を有する耐火樹脂組成物、耐火材、耐火積層体、バッテリー、背面カバー材及び電子機器を提供することができる。
角型バッテリーセルを有するバッテリーの一実施形態を示す概略的な断面図である。 角型バッテリーセルを有するバッテリーの別の実施形態を示す概略的な断面図である。 ラミネート型のバッテリーセルを有するバッテリーの一実施形態を示す概略的な断面図である。 円筒形バッテリーセルを有するバッテリーの一実施形態を示す概略的な断面図である。 角型バッテリーセルを有するバッテリーの別の実施形態を示す概略的な断面図である。 角型バッテリーセルを有するバッテリーの別の実施形態を示す概略的な断面図である。 ラミネート型のバッテリーセルを有するバッテリーの別の実施形態を示す概略的な断面図である。 円筒形バッテリーセルを有するバッテリーの別の実施形態を示す概略的な断面図である。 背面カバー材の一実施形態を示す概略的な断面図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
[耐火樹脂組成物]
本発明の耐火樹脂組成物は、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物からなる群から選択される少なくとも1種の耐火性添加剤と、熱伝導性物質と、樹脂とを含有し、バッテリーを搭載する電子機器に使用される。
本発明の耐火樹脂組成物は、熱伝導性物質を含有することで、バッテリーが熱暴走などして加熱されると、熱を伝導して放熱し、発火を抑制したり、発火が生じた場合に消火したりすることができる。
<熱伝導性物質>
熱伝導性物質は、熱伝導性を有する物質であり、具体的には熱伝導率が5W/m・K以上の物質である。耐火樹脂組成物に含有される熱伝導性物質としては、熱伝導性フィラー、ウィスカー及びチョップドストランド等が挙げられ、中でも、熱伝導性フィラーが好ましい。熱伝導性物質としては、黒鉛、金属、無機化合物等が挙げられ、したがって、熱伝導性フィラーとしては、例えば、黒鉛、金属、無機化合物等のフィラーが挙げられる。
金属としては、アルミニウム、銀、銅、マグネシウム、鉄、クロム、ニッケル、チタン、亜鉛、錫、モリブデン、タングステン、及びこれらいずれかを含む合金(ステンレス等)が挙げられる。金属フィラーとしては、銀、銅、アルミニウム、鉄、ステンレスが好ましい。
無機化合物は、黒鉛、金属以外を意味し、具体的な無機化合物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化錫、酸化アンチモン、酸化亜鉛等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、炭化ケイ素等炭化物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウム等の炭酸塩化合物(ただし、炭酸カルシウム以外)等が挙げられる。また、これらの他にも、シリカ、珪藻土、硫酸バリウム、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、シリカ系バルーン、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、フェライト、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、ステンレス繊維、スラグ繊維、フライアッシュ等が挙げられる。
無機化合物フィラーとしては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素が好ましく、低い誘電率及び高い熱伝導率を有し、かつ汎用性を兼ね備える窒化ホウ素、酸化アルミニウムがより好ましい。
窒化ホウ素は、熱伝導性をより向上させやすい観点から、窒化ホウ素の一次粒子を凝集させた二次粒子である凝集粒子、例えば、麟片状の一次粒子が凝集した凝集粒子であることがさらに好ましい。
熱伝導性フィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの熱伝導性フィラーは、樹脂への密着性、及び加工性向上のために、表面処理がされていてもよい。
耐火樹脂組成物における熱伝導性物質の含有量は、樹脂100質量部に対して、100〜1,500質量部が好ましく、150〜1,400質量部がより好ましく、200〜1,300質量部がさらに好ましく、250〜1,200質量部がよりさらに好ましい。熱伝導性物質の含有量が上記範囲内であることで、熱伝導性をより向上させやすくなる。
熱伝導性物質の比誘電率は、10MHz周波数帯において10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。熱伝導性物質の比誘電率が上記上限以下であることで、電磁波遮蔽性能が抑制され、電子機器の通信及び非接触給電等を阻害することがなくなる。
熱伝導性物質の比誘電率は、材料を適宜選択することで調整可能であるが、粒径などによっても調整可能である。上記比誘電率を有する熱伝導性物質としては、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び酸化亜鉛等が挙げられ、好ましくは窒化ホウ素である。
なお、熱伝導性物質の比誘電率は、測定温度(23℃)にて、例えば、空洞共振器法により測定することができる。
熱伝導性物質としての熱伝導性フィラーの平均粒子径は、0.1〜200μmが好ましく、5〜150μmがより好ましく、10〜100μmが更に好ましい。
なお、熱伝導性物質の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したメディアン径(D50)の値である。
熱伝導性物質としての熱伝導性フィラーの密度は、2.0〜8.0g/cmが好ましく、2.0〜6.0g/cmがより好ましく、2.0〜5.0g/cmがさらに好ましい。
熱伝導性物質としての熱伝導性フィラーの熱伝導率は、5W/m・K以上が好ましく、10W/m・K以上がより好ましく、上限は特に制限されないが、通常2,000W/m・K以下である。
熱伝導性物質としての熱伝導性フィラーの形状は特に限定されず、球状、中空状、板状、麟片状、針状等いずれの形状でもよく、異なる形状を混在させてもよい。一次粒子を凝集させた二次粒子である凝集粒子であってもよい。
<樹脂>
本発明における樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びエラストマー樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
エラストマー樹脂としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
本発明においては、これら樹脂のうち1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂から選択される少なくとも1種が好ましい。これらのなかでは、押出成形による成形性を確保する観点からは、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
また、熱伝導性物質などの添加剤を比較的大量に配合しても、成形性及び引張強度などの機械的強度を確保しやすい観点からは、ポリビニルアセタール樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種がより好ましく、ポリビニルアセタール樹脂がさらに好ましい。
ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂などの熱可塑性樹脂のメルトフローレートは、1.0g/10min以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂のメルトフローレートを1.0g/10min以上とすると、熱膨張性層状無機物、さらには、後述する難燃剤、吸熱剤の分散性が良好となり、これらを多量に配合しても、押出成形などにおけるシート成形性が良好に維持できる。メルトフローレートは、2.4g/10min以上がより好ましく、10g/10min以上がさらに好ましく、20g/10min以上がよりさらに好ましい。メルトフローレートをこれら下限値以上とすることで、熱膨張性層状無機物、難燃剤、吸熱剤などの分散性を向上させてこれらをより多量に配合しやすくなる。
また、上記熱可塑性樹脂のメルトフローレートは、40g/10min以下が好ましく、35g/10min以下がより好ましい。
なお、メルトフローレートは、JIS K 7210−2:1999に従って190℃、2.16kg荷重の条件によって測定されたものである。
《ポリ塩化ビニル樹脂》
ポリ塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル単独重合体であってもよいし、塩化ビニル系共重合体でよい。塩化ビニル系共重合体は、塩化ビニル及び塩化ビニルと共重合可能な不飽和結合を有する単量体の共重合体であって、塩化ビニル由来の構成単位を50質量%以上含有する。
塩化ビニルと共重合可能な不飽和結合を有する単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリロニトリル、スチレン等の芳香族ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
また、ポリ塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル系共重合体などを塩素化したポリ塩素化塩化ビニル樹脂でもよい。
ポリ塩化ビニル樹脂は、上記したものの中から1種単独で使用してもよいし、2種以上
を併用してもよい。
《ポリオレフィン樹脂》
ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1−)ブテン樹脂、及びポリペンテン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂等が挙げられるが、これらの中では、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂が好ましい。
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂としては、非架橋型のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよいし、また、高温架橋型のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよい。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物、エチレン−酢酸ビニルの加水分解物などのようなエチレン−酢酸ビニル変性体樹脂も用いることができる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂は、JIS K 6730:1995「エチレン・酢酸ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定される酢酸ビニル含量が好ましく10〜50質量%、より好ましくは25〜45質量%である。酢酸ビニル含量をこれら下限値以上とすることで、熱膨張性層状無機物などの添加剤への接着性が高くなる。また、酢酸ビニル含量をこれら上限値以下とすることで、耐火樹脂層の破断強度などの機械強度が良好となる。
《ポリビニルアセタール樹脂》
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であれば特に限定されないが、ポリビニルブチラール樹脂が好適である。ポリビニルブチラールを用いることで、耐火樹脂組成物における樹脂の量が比較的少ない場合でも、機械的強度を高くすることが可能となる。そのため、耐火樹脂組成物による生成物の厚さを薄くしても、一定の機械的強度を確保することができる。
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量は、好ましくは20〜40モル%である。水酸基量を20モル%以上とすることで、ポリビニルアセタール樹脂の極性が高くなり、熱膨張性層状無機物、難燃剤、吸着剤などに対する接着力が強くなり、耐火樹脂組成物からなる耐火材の機械的強度が向上しやすくなる。また、水酸基量を40モル%以下とすることで、耐火樹脂組成物からなる耐火材が硬くなりすぎて引張強度などの機械的強度が低下することを防止する。上記水酸基量は、より好ましくは22モル%以上である。また、上記水酸基量は、より好ましくは37モル%以下、さらに好ましくは35モル%以下、よりさらに好ましくは33モル%以下である。
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、好ましくは40〜80モル%である。アセタール化度を上記範囲内とすることで、上記する水酸基量を所望の範囲内として、耐火樹脂組成物による生成物の機械的強度が向上しやすくなる。アセタール化度は、より好ましくは55モル%以上であり、さらに好ましくは65モル%以上、よりさらに好ましくは67モル%以上であり、また、より好ましくは76モル%以下である。
また、上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量は、好ましくは0.1〜30モル%である。アセチル基量がこの範囲内であると、耐湿性に優れ、また、上記する水酸基量を所望の範囲内として、耐火樹脂組成物による生成物の機械的強度が向上しやすくなる。これら観点から、アセチル基量は、0.2モル%以上がより好ましく、0.5モル%以上がさらに好ましく、また、15モル%以下がより好ましく、7モル%以下がさらに好ましい。
なお、アセタール化度、水酸基量、及びアセチル基量は、例えば、JIS K 6728:1977「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定し、また算出することができる。
ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、好ましくは200〜3,000である。重合度をこれら範囲内にすることで、熱膨張性層状無機物、難燃剤、吸着剤などを適切に耐火樹脂組成物中に分散させることがきる。重合度は、より好ましくは250以上、さらに好ましくは300以上である。
ポリビニルアセタール樹脂の重合度を低くすると粘度も下がり、耐火樹脂組成物中に熱膨張性層状無機物、難燃剤、吸着剤などを分散しやすくなり、耐火樹脂組成物による生成物の機械的強度が向上する。そのような観点から、ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、より好ましくは1,500以下、さらに好ましくは1,000以下、よりさらに好ましくは900以下である。
なお、ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、JIS K 6728:1977に記載の方法に基づいて測定した粘度平均重合度をいう。
ポリビニルアセタール樹脂の10質量%エタノール/トルエン粘度は、好ましくは5mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上であり、さらに好ましくは15mPa・s以上である。また、10質量%エタノール/トルエン粘度は、好ましくは500mPa・s以下、より好ましくは300mPa・s以下であり、更に好ましくは200mPa・s以下である。ポリビニルアセタール樹脂の10質量%エタノール/トルエン粘度を上記のとおりにすることにより、耐火樹脂組成物中に熱膨張性層状無機物、難燃剤、吸着剤などを分散しやすくなり、耐火樹脂組成物からなる耐火材の機械的強度が向上する。
なお、10質量%エタノール/トルエン粘度は、次のように測定した値である。エタノール/トルエン(質量比1:1)混合溶剤150mlを三角フラスコにとり、これに秤量した試料を加え、樹脂濃度を10wt%とし、20℃の恒温室にて振とう溶解する。その溶液を20℃に保持しBM型粘度計を用いて粘度を測定して、10質量%エタノール/トルエン粘度を求めることができる。
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般には、炭素数が1〜10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1〜10のアルデヒドは特に限定されず、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
《アクリル樹脂》
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーを含むモノマー成分を重合したものである。なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」とは、「アクリル酸アルキルエステル、又はメタクリル酸アルキルエステル」を意味する。他の類似の用語も同様である。
本発明における(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーは、(メタ)アクリル酸と脂肪族アルコールとのエステルであって、上記脂肪族アルコールのアルキル基の炭素数は、例えば1〜18、好ましくは1〜14、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜8である。
具体的な(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、及びテトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、アクリル樹脂を得るためのモノマー成分としては、上記した(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの他に、極性基含有モノマーを含んでもよい。
極性基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、及びイタコン酸等のビニル基を含有するカルボン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、及びポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等の水酸基を有するビニルモノマー、(メタ)アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルラウリロラクタム、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、及びジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート等の窒素含有ビニルモノマーが挙げられる。
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、5〜80℃であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)をこれら範囲内とすることで、成形性、柔軟性などを良好にしつつ、耐火樹脂組成物による生成物に一定の機械的強度を付与することができる。これら観点から、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、15〜70℃であることが好ましく、25〜60℃であることがさらに好ましい。なお、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、使用するモノマー成分の種類、量を適宜選択することで調整できる。
なお、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は例えば示差熱走査熱量分析計(DSC)により測定できる。
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの重合体が好ましい。具体的には、アルキル基の炭素数が1〜14である(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの重合体が好ましく、アルキル基の炭素数が1〜10である(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの重合体がより好ましく、アルキル基の炭素数が1〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの重合体がさらに好ましい。アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの単独重合体であってもよいし、2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの共重合体であってもよい。具体的な好適なアクリル樹脂としては、イソブチルメタクリレートの単独重合体、イソブチルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合体などが挙げられる。アクリル樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アクリル樹脂の重量平均分子量は、熱膨張性層状無機物、難燃剤、吸着剤などを適切に耐火樹脂組成物中に分散させることができ、耐火樹脂組成物からなる耐火材の機械強度を向上させる観点から、10,000〜300,000が好ましい。また、これら観点から、アクリル樹脂の重量平均分子量は、30,000〜250,000がより好ましく、60,000〜200,000が更に好ましい。なお、アクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。GPC法によって重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、Shodex LF−804(昭和電工社製)等が挙げられる。
《エポキシ樹脂》
本発明で用いられるエポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、エポキシ化合物単独、又は、主剤であるエポキシ化合物と、硬化剤とからなるものが挙げられる。エポキシ化合物は、エポキシ基を有する化合物であり、具体的には、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型が例示される。グリジシルエーテル型は、2官能でもよいし、3官能以上の多官能でもよい。また、グリシジルエステル型も同様である。エポキシ化合物は、架橋度を調整するためなどに1官能のものを含んでもよい。これらの中では、2官能のグリシジルエーテル型が好ましい。
上記2官能のグリシジルエーテル型のエポキシ化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型などのアルキレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1、6−ヘキサンジオール型、水添ビスフェノールA型等の脂肪族エポキシ化合物が例示される。さらには、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、エチレンオキサイド−ビスフェノールA型、プロピレンオキサイド−ビスフェノールA型などの芳香族環を含む芳香族エポキシ化合物が挙げられる。これらの中では、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型などの芳香族エポキシ化合物が好ましい。
上記グリシジルエステル型のエポキシ化合物としては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p−オキシ安息香酸型等のエポキシ化合物が例示される。
3官能以上のグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン・フェノール型等が例示される。
これらのエポキシ化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
硬化剤としては、重付加型又は触媒型のものが用いられる。重付加型の硬化剤としては、例えば、ポリアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、ポリメルカプタン等が挙げられる。また、上記触媒型の硬化剤としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が例示される。これら硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
耐火樹脂組成物における樹脂の含有量は、耐火樹脂組成物の固形分基準で、例えば1〜90質量%であり、好ましくは2〜85質量%、より好ましくは3〜80質量%である。これら下限値以上であると、耐火性添加剤などの耐火樹脂組成物における分散性が向上し、引張強度などの耐火樹脂組成物からなる耐火材の機械的強度や成形性が高くなりやすい。また、上限値以下であると、耐火樹脂組成物からなる耐火材の耐火性、消火性能が向上しやすくなる。なお、耐火樹脂組成物の固形分とは、耐火材を製造する過程において揮発する揮発成分を除く耐火樹脂組成物の含有量であり、耐火樹脂組成物が溶媒で希釈される場合には、溶媒の量を除く耐火樹脂組成物の量である。
<耐火性添加剤>
本発明において、耐火性添加剤は、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物から選択される1種又は2種以上である。耐火性添加剤は、耐火性を有し、発火が生じたときに、消火性能を発揮するものである。耐火性添加剤は、耐火樹脂組成物において樹脂中に分散され、かつ樹脂によって保持される。
耐火性添加剤は、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物の3成分うちの1成分を単独で使用してもよいし、これらのうち2成分を組み合わせて使用してもよい。すなわち、難燃剤と吸熱剤を併用してもよいし、難燃剤と熱膨張性層状無機物を併用してもよいし、吸熱剤と熱膨張性層状無機物を併用してもよい。さらには、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物の全てを使用してもよい。
耐火樹脂組成物における耐火性添加剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、50〜2,500質量部が好ましく、100〜2,300質量部がより好ましく、150〜2,100質量部がさらに好ましく、200〜1,900質量部がよりさらに好ましい。耐火性添加剤の含有量を上記下限値以上とすることで、耐火樹脂組成物からなる耐火材に適切な耐火性及び消火性能を付与できる。また、耐火性添加剤の含有量を上記上限値以下とすることで、耐火樹脂組成物に一定割合以上の樹脂を含有させることができるので、耐火樹脂組成物からなる耐火材の樹脂中に耐火性添加剤を適切に分散させることが可能になり、成形性が良好となる。
《難燃剤》
本発明における難燃剤としては、リン化合物が挙げられる。リン化合物としては、例えば、低級リン酸塩、ポリリン酸塩、メラミン系リン化合物、赤リン、縮合リン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステル、含ハロゲン縮合型リン酸エステル、後述する一般式(1)で表されるリン化合物などが挙げられる。また、リン化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ−2,6−キシレニルホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートも挙げられる。難燃剤としてこれらリン化合物を使用することで、適切な耐火性、消火性能が得られる。難燃剤は、これら1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
〈低級リン酸塩〉
低級リン酸塩は、無機リン酸類の塩のうち、縮合していない、つまり高分子化していない無機リン酸類の塩を指し、無機リン酸類の1分子中におけるリン原子が1つとなるものである。無機リン酸類としては、リン酸(オルトリン酸)に限らず、メタリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等であってもよい。リン酸塩は、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩のいずれであってもよい。
塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩などの周期表3B族金属の塩、チタン塩、マンガン塩、鉄塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩、バナジウム塩、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩などの遷移金属塩などの金属塩が挙げられる。また、アンモニウム塩、アミン塩、例えば、グアニジン塩又はトリアジン系化合物の塩などが挙げられる。これらの中では、好ましくは金属塩であり、より好ましくはアルミニウム塩である。なお、メラミン系化合物の塩については、本明細書では、後述するメラミン系リン化合物として規定する。
低級リン酸の金属塩の具体例として、第1リン酸アルミニウム、第1リン酸ナトリウム、第1リン酸カリウム、第1リン酸カルシウム、第1リン酸亜鉛、第2リン酸アルミニウム、第2リン酸ナトリウム、第2リン酸カリウム、第2リン酸カルシウム、第2リン酸亜鉛、第3リン酸アルミニウム、第3リン酸ナトリウム、第3リン酸カリウム、第3リン酸カルシウム、第3リン酸亜鉛、亜リン酸アルミニウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、次亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸亜鉛、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸亜鉛等が挙げられる。これらの中では、リン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウムが好ましい。
〈ポリリン酸塩〉
ポリリン酸塩としては、例えばポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸ピペラジン、ポリリン酸アンモニウムアミド等のポリリン酸アンモニウム塩類、ポリリン酸アルミニウム等のポリリン酸金属塩が挙げられる。中でも、耐火性、安全性、コスト、取扱性等の点からポリリン酸アンモニウムが好ましい。
〈メラミン系リン化合物〉
メラミン系リン化合物としては、メラミン、メレム、メロンなどのメラミン又はメラミン誘導体の塩が挙げられる。メラミン又はメラミン誘導体の塩としては、ポリリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、オルトリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、ポリメタリン酸メラミン、有機ホスホン酸メラミン、有機ホスフィン酸メラミン等が挙げられる。これらの中では、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレムなどのメラミン系化合物のポリリン酸塩が好ましい。
〈縮合リン酸エステル〉
縮合リン酸エステルとしては、例えば、トリアルキルポリホスフェート、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物等の縮合リン酸エステルが挙げられる。
また、含ハロゲン縮合リン酸エステルは、上記した縮合リン酸エステルの一部が塩素原子で置換された化合物が挙げられる。含ハロゲンリン酸エステルとしてはトリス(β−クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)などのクロロアルキルリン酸エステルが挙げられる。
また、一般式(1)で表される化合物は以下の通りである。
Figure 2021118162

式(1)中、R1及びR3は、同一又は異なって、水素、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を示す。R2は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を示す。
上記化学式で表される化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。
上記リン化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
リン化合物は、シラン化合物により表面処理されたリン化合物を用いてもよい。シラン化合物により表面処理されたリン化合物を用いると、耐火樹脂組成物を低粘度化することができ、耐火樹脂組成物の成形性などを良好にできる。
リン化合物は、上記した中では、形状保持力を高め、耐火性能を向上させる観点からは、低級リン酸塩、ポリリン酸塩、及びメラミン系リン化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
本発明における難燃剤は、加熱により膨張する難燃剤が好ましい。加熱により膨張する難燃剤としては、上記した低級リン酸塩が挙げられ、好ましくは低級リン酸の金属塩であり、より好ましくは亜リン酸アルミニウムである。
上記した低級リン酸塩、ポリリン酸塩、及びメラミン系リン化合物から選択される少なくとも1種は、耐火樹脂組成物における難燃剤全量であってもよいし、難燃剤の一部であってもよく、その含有量は、好ましくは20〜270質量部、より好ましくは30〜250質量部、さらに好ましくは40〜200質量部である。
また、耐火樹脂組成物による生成物に耐水性を付与する観点から、リン化合物は、これらの中でも、低級リン酸塩、及びメラミン系リン化合物から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、中でも低級リン酸塩を含むことが特に好ましい。
耐火性、耐水性などの観点から、低級リン酸塩は、リン酸塩及び亜リン酸塩の少なくとも一方であることが好ましく、亜リン酸塩がより好ましい。また、低級リン酸塩は、上記のとおり金属塩が好ましく、また、金属としてはアルミニウムがより好ましい。したがって、低級リン酸塩は、リン酸金属塩及び亜リン酸金属塩の少なくとも一方であることが好ましく、亜リン酸金属塩がよりさらに好ましく、亜リン酸アルミニウム塩が特に好ましい。
耐火樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、難燃剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、100〜1,500質量部が好ましく、150〜1,400質量部がより好ましく、200〜1,300質量部がさらに好ましい。難燃剤の含有量をこれら下限値以上とすることで、耐火樹脂組成物の形状保持力が高められ、耐火性能をより向上させることができる。また、上記上限値以下とすることで、耐火樹脂組成物の柔軟性、形状保持性などが損なわれにくくする。
《吸熱剤》
本発明における吸熱剤としては、水和金属化合物が好ましくは使用できる。水和金属化合物は、加熱により分解して水蒸気を発生し、吸熱及び消火をする効果を有する化合物である。
水和金属化合物としては、金属水酸化物、又は金属塩の水和物などが挙げられ、中でも金属水酸化物が好ましい。また、金属水酸化合物と金属塩の水和物との組み合わせも好ましい。金属水酸化合物を使用することで、消火性能を向上させやすくなる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。金属塩の水和物としては、例えば2ZnO・3B・3.5HOで表されるホウ酸亜鉛の水和物、硫酸カルシウムの水和物(例えば、2水和物)、硫酸マグネシウムの水和物(例えば、7水和物)などの硫酸金属塩の水和物などが挙げられる。また、カオリンクレー、ドーソナイト、ベーマイトなどが挙げられる。また、吸熱剤としては、アルミン酸カルシウム、タルクなどであってもよい。
吸熱剤としては、上記した中では、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛の水和物、硫酸カルシウムの水和物(例えば、2水和物)、硫酸マグネシウムの水和物(例えば、7水和物)が好ましく、これらの中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムがより好ましい。
吸熱剤としては、熱分解開始温度が800℃以下、吸熱量が300J/g以上である吸熱剤が好ましい。吸熱剤は、熱分解開始温度、及び吸熱量のいずれかが上記範囲内となると、バッテリーなどが発火した場合に速やかに消火でき、消火性などをより一層良好にできる。
吸熱剤の熱分解開始温度は、500℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましく、250℃以下がよりさらに好ましい。吸熱剤の熱分解開始温度がこれら上限値以下とすることで発火時に速やかに吸熱剤が分解し、迅速に消火することが可能になる。また、吸熱剤の熱分解開始温度は、例えば50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。
なお、熱分解開始温度は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)により測定することができる。具体的には、測定条件は、室温から1000℃まで、昇温速度4℃/min、吸熱剤重量10mgとし、得られたTG曲線から重量が減少し始める温度を熱分解開始温度とした。
吸熱剤の吸熱量は、好ましくは500J/g以上、より好ましくは600J/g以上、さらに好ましくは900J/g以上である。吸熱剤の吸熱量が上記範囲内であると、熱の吸収性が向上するため、耐火性がより良好となる。前記吸熱剤の吸熱量は、通常、4,000J/g以下、好ましくは3,000J/g以下、さらに好ましくは2,000J/g以下である。
なお、吸熱量は熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて測定することができる。具体的には、測定条件は、室温から1000℃まで、昇温速度4℃/min、吸熱剤重量10mgとし、得られたDTA曲線から吸熱量(凹部の面積)を算出した。
吸熱剤は、平均粒子径が0.1〜90μmであるものが好ましい。平均粒子径が上記範囲内とすることで、樹脂中に吸熱剤を均一に分散でき、多量に配合させることも可能になる。これら観点から、吸熱剤の平均粒子径は、0.5〜60μmがより好ましく、0.8〜40μmがさらに好ましく、0.8〜10μmがよりさらに好ましい。吸熱剤の平均粒子径が上記範囲内であると、耐火樹脂組成物における吸熱剤の分散性が向上し、吸熱剤を樹脂中に均一に分散させたり、樹脂に対する吸熱剤の配合量を多くしたりすることができる。
なお、吸熱剤の平均粒子径は、熱伝導性物質の平均粒子径の測定方法と同様である。
耐火樹脂組成物が吸熱剤を含有する場合、吸熱剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、10〜1,000質量部が好ましく、20〜800質量部がより好ましく、30〜600質量部がさらに好ましい。吸熱剤の含有量が上記下限値以上とすることで、急激な温度上昇を緩和でき、かつ発火した場合でも速やかに消火することができる。吸熱剤の含有量を上記上限値以下とすることで、吸熱剤を耐火樹脂組成物中に均一に分散させやすくなり、耐火樹脂組成物による生成物の成形性及び機械的強度を良好にしやすくなる。
《熱膨張性層状無機物》
熱膨張性層状無機物は、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、例えば、バーミキュライト、熱膨張性黒鉛などが挙げられ、中でも熱膨張性黒鉛が好ましい。熱膨張性層状無機物としては、粒子状及び鱗片状のものを用いることができる。
熱膨張性層状無機物は、膨張度を100ml/g以上とすることが好ましく、150ml/g以上とすることがより好ましい。熱膨張性層状無機物の膨張度を上記下限値以上とすることで、加熱膨張時に大容量の空隙を形成できる。
熱膨張性層状無機物は、膨張開始温度を200℃以下とすることが好ましく、140℃以下とすることがより好ましい。熱膨張性層状無機物の膨張開始温度を上記上限値以下とすることで、耐火樹脂組成物による耐火材の耐火性及び消火性能を優れたものにすることができる。
〈熱膨張性黒鉛〉
熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、無機酸と、強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。無機酸としては濃硫酸、硝酸、セレン酸等が挙げられる。強酸化剤としては濃硝酸、過硫酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和処理してもよい。
熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。熱膨張性黒鉛の粒度が上記範囲内であると、膨脹して大容量の空隙を作りやすくなるため耐火性が向上する。また、樹脂への分散性も向上する。
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比の上限は特に限定されないが、熱膨張性黒鉛の割れ防止の観点から、1,000以下であることが好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が2以上であることにより、膨張して大容量の空隙を作りやすくなるため難燃性が向上する。
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は、10個の熱膨張性黒鉛について、それぞれ最大寸法(長径)及び最小寸法(短径)測定し、最大寸法(長径)を最小寸法(短径)で除した値の平均値を平均アスペクト比とする。熱膨張性黒鉛の長径及び短径は、例えば、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて測定することができる。
耐火樹脂組成物が熱膨張性層状無機物を含有する場合、熱膨張性層状無機物の含有量は樹脂100質量部に対して、10〜1,000質量部が好ましく、20〜800質量部がより好ましく、30〜600質量部がさらに好ましい。熱膨張性層状無機物の含有量が上記範囲内であると、耐火樹脂組成物からなる耐火材中に大容量の空隙を作りやすくなるため難燃性が向上する。
<任意成分>
《無機充填剤》
本発明の耐火樹脂組成物は、熱伝導性物質、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物以外の無機充填剤をさらに含有してもよい。
無機充填剤としては特に制限されず、例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機充填剤の平均粒子径は、0.5〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。無機充填剤は、含有量が少ないときは分散性を向上させる観点から粒子径が小さいものが好ましく、含有量が多いときは高充填が進むにつれて、耐火樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するため粒子径が大きいものが好ましい。
本発明の耐火樹脂組成物が無機充填剤を含有する場合、無機充填剤の含有量は樹脂100質量部に対して、好ましくは10〜300質量部、より好ましくは10〜200質量部である。無機充填剤の含有量が上記範囲内であると、耐火樹脂組成物からなる耐火材の機械的物性を向上させることができる。
《可塑剤》
本発明の耐火樹脂組成物は、さらに可塑剤を含有してもよい。特に樹脂成分がポリ塩化ビニル樹脂である場合、成形性を向上させる観点から可塑剤を含むことが好ましい。
可塑剤は、一般にポリ塩化ビニル樹脂成形体を製造する際に使用されている可塑剤であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤、ジ−2−エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等の脂肪酸エステル可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤、アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のアジピン酸エステル可塑剤、トリー2−エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤、鉱油等のプロセスオイル等が挙げられる。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の耐火樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、可塑剤の含有量は、樹脂100質量部に対して5〜40質量部が好ましく、5〜35質量部がより好ましい。可塑剤の含有量が上記範囲内であると、押出成形性が向上する傾向があり、また耐火樹脂組成物からなる耐火材が柔らかくなり過ぎることを抑制することができる。
《分散剤》
本発明の耐火樹脂組成物は、さらに分散剤を含有してもよい。分散剤は、耐火樹脂組成物において、熱伝導性物質、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物の分散性を良好にする。
分散剤としては、各種の界面活性剤が使用できる。界面活性剤は、親水基部分と、樹脂成分と相溶性を有する疎水基部分を有するとよい。具体的には、ポリエーテルリン酸エステル又はそのアミン塩、ポリエーテルポリオールポリエステル酸又はそのアミン塩、ポリエステル又はそのアミン塩、ポリカルボン酸又はそのアミン塩、ポリアミノアマイドとリン酸との燐酸塩、ポリエステル酸アミド又はそのアミン塩などが挙げられる。これら分散剤において使用されるアミンはポリアミンであってもよい。分散剤としては、ポリエーテル系分散剤であることが好ましく、中でも、ポリエーテルリン酸エステル又はそのアミン塩が好ましい。分散剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の耐火樹脂組成物が分散剤を含有する場合、分散剤の含有量は、樹脂100質量部に対して1〜40質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。分散剤の含有量が上記範囲内であると、熱伝導性物質、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物を耐火材に多量に含有させやすくなり、耐火樹脂組成物からなる耐火材の耐火性及び消火性能を向上させることができる。
《溶媒》
本発明の耐火樹脂組成物は、溶媒により希釈されてもよい。溶媒は、熱伝導性物質、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物を含有する耐火樹脂組成物による分散液の粘度を調整する。
溶媒としては、特に限定されないが、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶媒、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系溶媒などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上併用する場合、例えば、アルコール類と水を併用して混合溶媒とすることが好ましい。
本発明の耐火樹脂組成物が溶媒により希釈される場合、溶媒の含有量は、樹脂100質量部に対して50〜5,000質量部が好ましく、100〜4,000質量部がより好ましい。溶媒の含有量が上記範囲内であると、耐火樹脂組成物による分散液の粘度の調整が容易となり、耐火樹脂組成物からなる耐火材の成形性が良好となる。
<その他成分>
本発明の耐火樹脂組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の添加成分を含有させることができる。
この添加成分の種類は特に限定されず、各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、補強剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、及び表面処理剤等が挙げられる。添加成分の添加量は成形性等を損なわない範囲で適宜選択できる。添加成分は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<耐火樹脂組成物の製造方法>
本発明の耐火樹脂組成物は、樹脂、熱伝導性物質、難燃剤、吸熱剤、熱膨張性層状無機物及び任意成分をビーズミル、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、及び遊星式撹拌機等の公知の装置を用いて混合することにより得ることができる。また、耐火樹脂組成物は、溶媒により希釈する場合、耐火樹脂組成物の希釈液は、これらにさらに溶媒を加えて上記混合装置を用いて混合して得ればよい。
[耐火材]
本発明の耐火材は、上記の耐火樹脂組成物からなる成形体である。本発明では、耐火樹脂組成物からなる耐火材を、バッテリーを搭載する電子機器に使用することで、バッテリーなどが発火した場合でも、発火による熱を効率よく放熱して迅速に消火することができる。
本発明の耐火材は、シート状である耐火シートとすることができる。耐火シートの厚みは、特に限定はないが、5〜10,000μmが好ましく、10〜4,000μmがより好ましく、15〜2,000μmがさらに好ましく、20〜1,800μmがよりさらに好ましく、25〜1,500μmが特に好ましい。耐火シートの厚みが上記範囲内であると、機械強度を維持しつつ小型のバッテリーセルにも使用することができる。
なお、本明細書における耐火材(耐火シート)の「厚み」とは、耐火材(耐火シート)の幅方向3点の平均厚みを指す。
耐火材の比誘電率は、例えば10以下である。比誘電率を10以下とすることで、電磁波遮蔽性能が抑制され、電子機器の通信及び非接触給電等を阻害することがなくなり、広範な用途に用いることが可能となる。また、耐火材の比誘電率は、9以下が好ましく、8以下がより好ましく、7以下がさらに好ましく、6以下がよりさらに好ましい。
なお、耐火材の比誘電率は、測定温度(23℃)にて、例えば、同軸プローブ法、容量法により測定することができる。
本発明の耐火材は、耐火材単体で用いられてもよいし、耐火材以外の層が積層された構成としてもよい。耐火材以外の層が積層された構成としては、例えば、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられる耐火材とを有する構成が挙げられる。
ここで、基材は、可燃層であっても準不燃層又は不燃層であってもよい。基材の厚みは特に限定されないが、例えば5μm〜1mmである。可燃層に使用される素材としては、例えば、布材、紙材、木材、樹脂フィルム等の1種もしくは2種以上を挙げることができる。基材が準不燃層又は不燃層である場合、準不燃層又は不燃層に使用される素材としては、例えば、金属、無機材等を挙げることができ、金属と無機材の複合体でもよく、複合体としては、例えばアルミニウムとガラスの複合体でもよい。
また、耐火材以外の層が積層された構成は、耐火材と、耐火材の少なくともいずれか一方の面に設けられる粘着剤層とを備えるものでもよい。粘着剤層は、上記基材の上に設けられてもよいし、耐火材の表面に直接形成されてもよい。また、耐火材の少なくともいずれか一方の面に、基材の両表面に粘着剤層が設けられた両面粘着テープが貼り付けられてもよい。すなわち、耐火材の一方の面に、粘着剤層、基材、及び粘着剤層がこの順に設けられてもよい。
粘着剤層を構成する粘着剤としては、特に制限はなく、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられるが、これらに限定されない。粘着剤層の厚みは、特に限定されないが、例えば、3〜500μm、好ましくは10〜200μmである。
<耐火材の製造方法>
本発明の耐火材の製造方法としては、耐火樹脂組成物を塗工成膜する方法、及び、耐火樹脂組成物を成形体とする方法により得ることができる。
耐火樹脂組成物を塗工成膜する方法では、耐火樹脂組成物を基材上又は離型シートの離型処理面上に塗工し、乾燥することによって塗工塗膜としての耐火材が得られる。
耐火樹脂組成物を成形体とする方法では、押出成形、射出成形及びプレス成形等の成形手段により耐火樹脂組成物を成形体とすることで耐火材が得られる。成形手段としては、押出成形が好ましく、一軸押出機、二軸押出機、射出成型機等を用いて成形することができる。
本発明の耐火材の製造方法で得られた耐火材は、圧延機等で圧延することで所望の厚みの耐火シートとすることができる。
[耐火積層体]
本発明の耐火積層体は、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物からなる群から選択される少なくとも1種の耐火性添加剤と樹脂とを含む耐火樹脂層と、熱伝導性物質を含む熱伝導層とを備え、バッテリーを搭載する電子機器に使用される。本発明では、耐火積層体を、バッテリーを搭載する電子機器に使用することで、バッテリーなどが発火した場合でも、発火による熱を効率よく放熱して迅速に消火することができる。
本発明の耐火積層体は、耐火樹脂層と熱伝導層とが直接積層された構成でもよいし、耐火樹脂層及び熱伝導層以外の層が積層された構成としてもよく、例えば耐火樹脂層と熱伝導層の間に接着層が設けられてもよい。本発明の耐火積層体は、機械強度を向上し、高い熱伝導による放熱効率により耐火性及び消火性能を発揮しやすくする観点から、耐火樹脂層と熱伝導層とが直接積層されることが好ましい。
本発明の耐火積層体は、シート状であることが好ましく、また、シート状の耐火積層体の厚みは特に限定はないが、5〜10,000μmが好ましく、10〜4,000μmがより好ましく、15〜2,000μmがさらに好ましく、20〜1,800μmがよりさらに好ましく、25〜1,500μmが特に好ましい。なお、本明細書における耐火積層体の「厚み」とは、耐火積層体の幅方向3点の平均厚みを指す。
シート状の耐火積層体の厚みを下限値以上とすることで、耐火積層体に適切な耐火性、消火性能を容易に付与できる。また、上限値以下とすることで、耐火積層体の厚さが必要以上に厚くなることを防止し、携帯電話、スマートフォンなどの携帯機器等の小型の電子機器にも適用しやすくなる。
耐火積層体の比誘電率は、例えば10以下である。比誘電率を10以下とすることで、電磁波遮蔽性能が抑制され、電子機器の通信及び非接触給電等を阻害することがなくなり、広範な用途に用いることが可能となる。また、耐火積層体の比誘電率は、9以下が好ましく、8以下がより好ましく、7以下がさらに好ましく、6以下がよりさらに好ましい。
なお、耐火積層体の比誘電率は、測定温度(23℃)にて、例えば、同軸プローブ法、容量法により測定することができる。
本発明の耐火積層体の耐火樹脂層は、電子機器の構成部材と接していることが好ましい。ここで、「電子機器の構成部材」は、背面カバー材等の筐体、並びに、バッテリー、中央処理装置及びメモリ等の筐体内部に収容される電子部品などの各種部品を含む電子機器を構成するいかなる部材であってもよい。耐火樹脂層が電子機器の構成部材と接していることによって、電子機器の構成部材であるバッテリー等が熱暴走した場合に、熱暴走による発火や発煙を耐火樹脂層により抑止することができる。また、電子機器の構成部材であるバッテリー等の熱暴走により生じた熱は、耐火積層体に積層された熱伝導層により放熱することで、熱暴走による不具合の被害を低減させることができる。
また、本発明の耐火積層体の熱伝導層は、電子機器の構成部材と接していないことが好ましい。熱伝導層が電子機器の構成部材と接していないことによって、電子機器の構成部材であるバッテリー等の熱暴走により生じた熱を電子機器内における空間に放熱することができ、放熱効率を向上させることが可能となるので、熱暴走による不具合の被害を低減させることができる。
<耐火樹脂層>
本発明の耐火樹脂層は、上記した、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物からなる群から選択される少なくとも1種の耐火性添加剤と樹脂とを含む組成物を成形することにより製造することができる。本発明の耐火樹脂層は、耐火性添加剤を含有していることで、耐火性を有し、発火が生じたときに、消火性能を発揮する。
本発明の耐火樹脂層は、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物の3成分うちの1成分を単独で含有するものでもよいし、これらのうち2成分を組み合わせて含有するものであってもよい。すなわち、難燃剤と吸熱剤を併用して含有してもよいし、難燃剤と熱膨張性層状無機物を併用して含有してもよいし、吸熱剤と熱膨張性層状無機物を併用して含有してもよい。さらには、難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物の全てを含有していてもよい。
なお、本発明の耐火樹脂層に用いる耐火性添加剤及び樹脂は、上記した耐火樹脂組成物の耐火性添加剤及び樹脂と同じものを採用することができるので、その詳細は上記と同様であり、記載を省略する。
耐火樹脂層における耐火性添加剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、50〜2,500質量部が好ましく、100〜2,300質量部がより好ましく、150〜2,100質量部がさらに好ましく、200〜1,900質量部がよりさらに好ましい。耐火性添加剤の含有量を上記下限値以上とすることで、耐火樹脂層に適切な耐火性及び消火性能を付与できる。また、耐火性添加剤の含有量を上記上限値以下とすることで、耐火樹脂層に一定割合以上の樹脂を含有させることができるので、耐火樹脂層の樹脂中に耐火性添加剤を適切に分散させることが可能になり、成形性が良好となる。
耐火樹脂層が難燃剤を含有する場合、難燃剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、100〜1,500質量部が好ましく、150〜1,400質量部がより好ましく、200〜1,300質量部がさらに好ましい。難燃剤の含有量をこれら下限値以上とすることで、耐火樹脂層の形状保持力が高められ、耐火性能をより向上させることができる。また、上記上限値以下とすることで、耐火樹脂層の柔軟性、形状保持性などが損なわれにくくする。
耐火樹脂層が吸熱剤を含有する場合、吸熱剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、10〜1,000質量部が好ましく、20〜800質量部がより好ましく、30〜600質量部がさらに好ましい。吸熱剤の含有量が上記下限値以上とすることで、急激な温度上昇を緩和でき、かつ発火した場合でも速やかに消火することができる。吸熱剤の含有量を上記上限値以下とすることで、吸熱剤を耐火樹脂層中に均一に分散させやすくなり、耐火樹脂層の成形性及び機械的強度を良好にしやすくなる。
耐火樹脂層が熱膨張性層状無機物を含有する場合、熱膨張性層状無機物の含有量は樹脂100質量部に対して、10〜1,000質量部が好ましく、20〜800質量部がより好ましく、30〜600質量部がさらに好ましい。熱膨張性層状無機物の含有量が上記範囲内であると、耐火樹脂層中に大容量の空隙を作りやすくなるため難燃性が向上する。
耐火樹脂層における樹脂の含有量は、耐火樹脂層の固形分基準で、例えば1〜97質量%であり、好ましくは2〜97質量%、より好ましくは3〜97質量%である。これら下限値以上であると、耐火性添加剤などの分散性が向上し、引張強度などの耐火樹脂層の機械的強度や成形性が高くなりやすい。また、上限値以下であると、耐火樹脂層の耐火性、消火性能が向上しやすくなる。
本発明の耐火樹脂層は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の添加成分を含有させることができる。
本発明の耐火樹脂層の厚みは、特に限定はないが、5〜10,000μmが好ましく、10〜4,000μmがより好ましく、15〜2,000μmがさらに好ましく、20〜1,800μmがよりさらに好ましく、25〜1,500μmが特に好ましい。耐火樹脂層の厚みが上記範囲内であると、機械強度を維持しつつ、耐火性及び消火性能が得られる。
なお、本明細書における耐火樹脂層の「厚み」とは、耐火樹脂層の幅方向3点の平均厚みを指す。
《耐火樹脂層の製造方法》
本発明の耐火樹脂層を形成する組成物は、耐火性添加剤、樹脂及び任意成分をビーズミル、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、及び遊星式撹拌機等の公知の装置を用いて混合することにより得ることができる。また、本発明の耐火樹脂層を形成する組成物は、溶媒により希釈する場合、組成物の希釈液は、これらにさらに溶媒を加えて上記混合装置を用いて混合して得ればよい。
そして、得られた耐火樹脂層を形成する組成物を用いて、上記した耐火材の製造方法と同様に、塗工成膜する方法、及び、成形体とする方法により耐火樹脂層を得ることができる。
<熱伝導層>
本発明の熱伝導層は、上記した熱伝導性物質を含有する層である。熱伝導層は、熱伝導性物質と樹脂とを含有する組成物を成形する形態(第1熱伝導層)であってもよく、熱伝導性物質から実質的になる形態(第2熱伝導層)であってもよい。熱伝導層は、第1熱伝導層及び第2熱伝導層の少なくともいずれかを有し、1層であってもよく、2層以上であってもよい。熱伝導層が2層以上である場合は、第1熱伝導層及び第2熱伝導層を組み合わせたものであることが好ましく、膜強度を向上させる観点から、耐火樹脂層上に第1熱伝導層及び第2熱伝導層を順に積層する構成がより好ましく、耐火樹脂層上に第1熱伝導層及び複数の第2熱伝導層を順に積層する構成であることがさらに好ましい。また、第1熱伝導層が2層以上であってもよく、これらの層は、含有する熱伝導性物質が異なるものであってもよい。
《第1熱伝導層》
本発明の第1熱伝導層は、上記した熱伝導性物質と樹脂とを含有する。よって、本発明の第1熱伝導層に用いる熱伝導性物質及び樹脂は、上記した耐火樹脂組成物の熱伝導性物質及び樹脂と同じものを採用することができるので、その詳細は上記と同様であり、記載を省略する。なお、第1熱伝導層に用いる熱伝導性物質としては、熱伝導性フィラーが好ましい。
第1熱伝導層における熱伝導性物質の含有量は、樹脂100質量部に対して、100〜1,500質量部が好ましく、150〜1,400質量部がより好ましく、200〜1,300質量部がさらに好ましく、250〜1,200質量部がよりさらに好ましい。第1熱伝導層における熱伝導性物質の含有量が上記範囲内であることで、熱伝導性が向上しやすくなる。
第1熱伝導層における樹脂の含有量は、第1熱伝導層の固形分基準で、例えば1〜20質量%であり、好ましくは2〜15質量%、より好ましくは3〜10質量%である。これら下限値以上であると、耐火性添加剤などの分散性が向上し、引張強度などの第1熱伝導層の機械的強度や成形性が高くなりやすい。また、上限値以下であると、第1熱伝導層の熱伝導性が向上しやすくなる。
本発明の第1熱伝導層に含有する熱伝導性物質は、第1熱伝導層の固形分基準で、95%質量以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましく、91質量%以下であることがさらに好ましい。これら上限値以下であると、成形性及び機械的強度を確保しつつ、高い熱伝導による放熱効率により耐火性及び消火性能を発揮することができる。また、本発明の第1熱伝導層に含有する熱伝導性物質は、第1熱伝導層の固形分基準で、25%質量以上であることが好ましく、50%質量以上であることがより好ましく、75%質量以上であることがさらに好ましい。これら下限値以上であると、第1熱伝導層の熱伝導性が向上しやすくなる。
本発明の第1熱伝導層は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の添加成分を含有させることができる。
本発明の第1熱伝導層の厚みは、特に限定はないが、5〜10,000μmが好ましく、10〜1,000μmがより好ましく、15〜500μmがさらに好ましい。第1熱伝導層の厚みが上記範囲内であると、機械的強度を確保しつつ、高い熱伝導による放熱効率により耐火性及び消火性能を発揮することができる。
なお、本明細書における第1熱伝導層の「厚み」とは、第1熱伝導層の幅方向3点の平均厚みを指す。
《第1熱伝導層の製造方法》
本発明の第1熱伝導層を形成する組成物は、熱伝導性物質、樹脂及び任意成分をビーズミル、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、及び遊星式撹拌機等の公知の装置を用いて混合することにより得ることができる。また、本発明の第1熱伝導層を形成する組成物は、溶媒により希釈する場合、組成物の希釈液は、これらにさらに溶媒を加えて上記混合装置を用いて混合して得ればよい。
そして、得られた第1熱伝導層を形成する組成物を用いて、上記した耐火材の製造方法と同様に、塗工成膜する方法、及び、成形体とする方法により第1熱伝導層を得ることができる。
《第2熱伝導層》
本発明の第2熱伝導層は、上記した熱伝導性物質から実質的になるものである。ここで、「熱伝導性物質から実質的になる」とは、第2熱伝導層が熱伝導性物質のみからものでもよいし、熱伝導性物質以外の物質を第2熱伝導層が奏する機能を損なわない範囲内で含有してもよい。また、第2熱伝導層は、一般的に樹脂を含有しない。
具体的には、第2熱伝導層において、熱伝導性物質は、第2熱伝導層全量に対して、95質量%を超えるように含有されるとよく、好ましくは97質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
本発明の第2熱伝導層は、第1熱伝導層、耐火樹脂層などの耐火積層体のいずれか1層を構成する層上に熱伝導性物質を層状に付着させることで得るができる。さらに、本発明の第2熱伝導層は、予めフィルム状又は層状にした熱伝導性物質を第1熱伝導層又は耐火樹脂層上に積層させることで得ることができる。
本発明の第2熱伝導層に用いる熱伝導性物質は、上記した耐火樹脂組成物の熱伝導性物質と同じものを採用することができるので、その詳細は上記と同様であり、記載を省略する。なお、第2熱伝導層に用いる熱伝導性物質としては、熱伝導性フィラーが好ましい。
第2熱伝導層として熱伝導性物質を層状に付着させる手段としては、特に限定されないが、例えば、熱伝導性物質をスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、パルスレーザーデポジション法等により行うことができる。これらの中でも、膜厚制御性の観点から、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法としては、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ、高周波マグネトロンスパッタ及びイオンビームスパッタ等が挙げられる。また、スパッタ装置は、バッチ方式であってもロール・ツー・ロール方式であってもよい。
第2熱伝導層の厚みは、成形性及び機械的強度を確保しつつ、高い熱伝導による放熱効率により耐火性及び消火性能を発揮する観点から、5μm〜10,000μmであることが好ましく、10μm〜1,000μmであることがより好ましく、15μm〜500μmであることが好ましく、25μm〜250μmであることがさらに好ましい。
なお、耐火積層体は、基材、粘着剤層などをさらに備えてもよい。例えば、基材を備える場合には、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられる耐火樹脂層及び熱伝導層とを有する構成が挙げられる。
また、粘着剤層が設けられる場合には、耐火樹脂層及び熱伝導層と、耐火樹脂層及び熱伝導層の積層構造の外側に設けられる粘着剤層とを備えるものでもよい。粘着剤層は、上記基材の上に設けられてもよいし、耐火樹脂層及び熱伝導層の少なくともいずれか一方の表面に直接形成されてもよい。また、耐火樹脂層及び熱伝導層の少なくともいずれか一方の面に、基材の両表面に粘着剤層が設けられた両面粘着テープが貼り付けられてもよい。すなわち、耐火樹脂層及び熱伝導層の少なくとも一方の面に、粘着剤層、基材、及び粘着剤層がこの順に設けられてもよい。基材及び粘着剤層の詳細は、上記のとおりである。
《耐火積層体の製造方法》
本発明の耐火積層体の製造方法としては、耐火樹脂層及び熱伝導層を積層した構成とすることが可能な方法であればよい。例えば、耐火樹脂層と熱伝導層とをそれぞれ別々に用意して圧着等により積層して成形する方法であってもよく、耐火樹脂層及び熱伝導層の組成物を押出機等により共押出しすることで一体に成形する方法であってもよい。
[バッテリー]
本発明の耐火材及び耐火積層体の少なくともいずれかがバッテリーセルの表面上に設けられているバッテリーであることが好ましい。バッテリーは、バッテリーセルを1つ有してもよいし、2つ以上有してもよい。
以下において、耐火材及び耐火積層体の総称として「耐火性部材」と称することがある。
バッテリーセルは、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、及び負極端子等が外装部材に収容されたバッテリーの構成単位を指す。また、バッテリーセルは、セルの形状により、円筒型、角型、ラミネート型に分類される。
バッテリーセルが円筒型の場合、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、負極端子、絶縁材、安全弁、ガスケット、及び正極キャップ等が外装缶に収容されているバッテリーの構成単位を指す。一方、バッテリーセルが角型の場合、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、負極端子、絶縁材、及び安全弁等が外装缶に収容されているバッテリーの構成単位を指す。バッテリーセルがラミネート型の場合、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、及び負極端子等が外装フィルムに収容されているバッテリーの構成単位を指す。ラミネート型のバッテリーでは、2枚の外装フィルムの間、或いは、1枚の外装フィルムが例えば2つ折りで折り畳まれ、その折り畳まれた外装フィルムの間に、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、及び負極端子等が配置され、外装フィルムの外縁部がヒートシールによって圧着されている。外装フィルムとしては例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されたアルミニウムフィルム等が挙げられる。
また、バッテリーセルは、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、ニッケル・水素電池、リチウム・硫黄電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル・鉄電池、ニッケル・亜鉛電池、ナトリウム・硫黄電池、鉛蓄電池、空気電池等の二次電池であり、これらの中でもリチウムイオン電池が好ましい。
バッテリーは、例えば、携帯電話及びスマートフォン等の小型電子機器、ノートパソコン、自動車等の電子機器に使用されるが、これらに限定されない。
耐火性部材は、バッテリーセルのいずれの表面上に設けられるとよいが、バッテリーセルの大部分(例えば、表面積の50%以上、より好ましくは70%以上)の表面を覆うことが好ましい。耐火性部材が表面の大部分を覆うことでバッテリーセルの発火に対して、迅速に消火しやすくなる。
また、バッテリーセルは、安全弁を有することが多いが、安全弁を有する場合、耐火性部材によって安全弁を覆うように設けられることが好ましい。このとき、耐火性部材は、安全弁の機能を担保するために、安全弁を密封させないように覆うとよい。さらに、ラミネート型のバッテリーセルの場合には、ヒートシールによって圧着されるヒートシール部を覆うように設けられることが好ましい。
バッテリーセルは、安全弁又はヒートシール部から発火することが多いため、これらを耐火性部材で覆うことでバッテリーセルの発火より有効に消火しやすくなる。
さらに、耐火性部材は、バッテリーセルの大部分の表面を多い、かつ安全弁又はヒートシール部を有する場合、安全弁又はヒートシール部も覆うように配置されることがより好ましい。例えば、耐火性部材はバッテリーセルに巻くように配置されるとよい。
例えば、図1に示すようにバッテリー10のバッテリーセル11が角型の場合、耐火性部材12は、バッテリーセル11の外周面を巻き付けられるように配置され、例えば、その主面11A,11Bと、端面11C,11Dの上に配置されることが好ましい。なお、主面11A,11Bとは、角型のバッテリーセル11において、最も面積が大きくなる両面であり、端面11C,11Dは、主面11A,11Bを接続する端面である。角型セルでは、一般的に、端面11C,11Dのいずれかに安全弁(図示しない)が設けられるため、図1の構成においても、耐火性部材12がバッテリーセル11の安全弁を覆う。
また、例えば、図2に示すようにバッテリーセル11が角型の場合、耐火性部材12は、主面11A,11Bの両方のみに設けられてもよい。さらに、主面11A,11Bのうち、一方のみに設けられてもよい。
バッテリーセル11がラミネート型の場合、図3に示すように、耐火性部材12は、例えば、バッテリーセル11の両面11X,11Yそれぞれを覆うように設けられるとよい。このとき、耐火性部材12は、ヒートシール部11Zも覆うように配置されるとよい。 なお、ラミネート型においても、耐火性部材12は、一方の面11Xのみを覆うように設けられてもよい。さらに、ラミネート型においても、耐火性部材12は、バッテリーセル11の外周面を巻くように配置されてもよい。
さらに、図4に示すように、バッテリーセル11が円筒型の場合、耐火性部材12は、バッテリーセル11の外周面に巻き付けられるように配置されればよい。
なお、図1〜4において、耐火性部材12は、耐火性部材12の一方の面に設けられた粘着剤層を介してバッテリーセル11に接着されてもよい。
また、図1〜4に示した構成は、耐火性部材の配置位置の一例に過ぎず、これら以外の位置に配置されてもよい。
図5〜8に示すように、耐火性部材20は、バッテリーセル11の表面上に設けられている。耐火性部材20が耐火積層体である場合は、バッテリーセル11側から耐火樹脂層22及び熱伝導層21の順に配置されることが好ましい。このように配置されることで、バッテリーセル11で発火が生じたときに、その発火を耐火樹脂層22により迅速に消火できるようになる。また、バッテリーセル11による発火で生じた熱は、熱伝導層21により電子機器内における空間に放熱され、熱による被害を低減することができる。
バッテリーセル11は、本発明の耐火性部材20を備えているため、バッテリーセル11の短絡等の異常により発火が生じた場合でも、短時間で消火することが可能である。
[背面カバー材]
本発明の耐火材及び耐火積層体の少なくともいずれかが表面上に設けられている背面カバー材であることが好ましい。背面カバー材は、例えば、携帯電話、スマートフォン及びノートパソコン等の電子機器の筐体の一部であり、正面ケース材の背面を覆う部材である。正面ケース材及び背面カバー材は、一体となって筐体を構成し、例えば、バッテリー、中央処理装置及びメモリ等の電子部品などの各種部品を内部に収容する。
以下において、耐火材及び耐火積層体の総称として「耐火性部材」と称することがある。
耐火性部材は、背面カバー材の表面上に設けられるとよいが、背面カバー材の大部分(例えば、面積の50%以上、より好ましくは70%以上)の表面を覆うことが好ましい。耐火性部材が背面カバー材の大部分を覆うことでバッテリーの温度上昇等に伴う発火に対して、高い耐火性を有し、かつ、迅速に消火しやすくなる。
なお、耐火材部材は、背面カバー材において、バッテリーを覆う位置に設けられていることが好ましい。耐火材部材がバッテリーを覆う位置に配置されていることで、バッテリーの温度上昇等に伴う発火に対して、より高い耐火性を有し、かつ、より迅速に消火しやすくなる。
図9に、本発明の耐火性部材を備える背面カバー材の一実施形態の断面図を示す。背面カバー材33は、正面ケース材40に背面側から覆うようにして取り付けることで、正面ケース材40とともに筐体を構成し、バッテリー41等の各種部品を内部に収容する。
背面カバー材33は、表面33A上に耐火性部材30が設けられている。表面33Aは、正面ケース材40と対向する面である。耐火性部材30が耐火積層体である場合は、表面33A側から耐火樹脂層31及び熱伝導層32の順に配置されていることが好ましい。このように配置されることで、バッテリー41で発火が生じたときに、発火で生じた熱は、熱伝導層32により均等に耐火樹脂層31に伝達され、耐火樹脂層22により迅速に消火できるようになる。
また、耐火積層体である耐火性部材30は、耐火性部材30の一方の面に設けられた粘着材を介してバッテリー41に接着されてもよい。すなわち、耐火樹脂層31の表面上に配置された粘着材を介して背面カバー材33に取り付けられてもよい。
背面カバー材33は、本発明の耐火性部材30を備えているため、バッテリー41の短絡等の異常により発火が生じた場合でも、短時間で消火することが可能である。
背面カバー材33形成する材料としては、特に制限されないが、樹脂及び金属等が挙げられ、携行性及び廉価性の観点から、樹脂が好ましい。背面カバー材33を形成する材料としての樹脂は、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びABS樹脂等が好ましい。背面カバー材33を形成する材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
[電子機器]
本発明のバッテリー及び背面カバー材の少なくともいずれかを備える電子機器であることが好ましい。本発明のバッテリー及び背面カバー材を備える電子機器は、本発明の耐火材及び耐火積層体の少なくともいずれかを備えていることによって、高い熱伝導による放熱効率により耐火性及び消火性能を発揮するので、バッテリーの熱暴走による被害を抑制することができる。
電子機器としては、特に限定はなく、例えば、バッテリーを搭載しているノート型パーソナルコンピューター、携帯電話、電子ペーパー、デジタルカメラ、ビデオカメラ等が挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<難燃剤>
・亜リン酸アルミニウム:APA100、太平化学産業社製
・トリフェニルホスフェート:TPhP、東京化学工業株式会社製
<吸熱剤>
・水酸化アルミニウム:BF013、日本軽金属株式会社製、平均粒子径1μm、熱分解開始温度200℃、吸熱量1000J/g
・水酸化マグネシウム:キスマ10、協和化学工業社製、平均粒子径0.9μm、熱分解開始温度280℃、吸熱量1350J/g
<熱膨張性層状無機物>
・熱膨張性黒鉛:ADT−351、ADT社製
<熱伝導性物質>
・窒化ホウ素(BN):UHP−S2、昭和電工株式会社製、熱伝導率200W/m・K、比誘電率3.6、平均粒子径0.7μm、密度2.27g/cm
・酸化アルミニウム(Al):CB−P02、昭和電工株式会社製、20W/m・K、比誘電率8.5、平均粒子径2μm、密度3.98g/cm
<樹脂>
・PVB:ポリビニルブチラール樹脂、重合度1,700、アセタール化度75mol%、アセチル基量3mol%、水酸基量22mol%
<分散剤>
・ポリエーテル系分散剤:ED−400、楠本化成社製
<可塑剤>
・ジイソデシルフタレート(DIDP):試薬特級、東京化成社製
<溶媒>
・エタノール(EtOH):試薬特級、東京化成社製
・トルエン(PhMe):試薬特級、東京化成社製
・酢酸エチル(AcOEt):試薬特級、東京化成社製
<シート化>
《塗工成膜》
表1に示した配合に従って、難燃剤、吸熱剤、熱膨張性無機物、熱伝導性物質、樹脂、分散剤、可塑剤及び溶媒をビーズミル(アイメックス社製「レディーミル」)にて60分間攪拌することにより、耐火樹脂組成物を得た。得られた耐火樹脂組成物の粘度を溶媒で調整したスラリー液を用意した。スラリー液を剥離シートの離型処理面に塗布し、60℃、24時間乾燥させて塗工成膜によりシート化した。得られたシートは、剥離シートを剥離した後に耐火材部材に用いた。
《成形体》
表1に示した配合に従って、難燃剤、吸熱剤、熱膨張性無機物、熱伝導性物質、樹脂、分散剤、可塑剤及び溶媒をビーズミル(アイメックス社製「レディーミル」)にて60分間攪拌することにより、耐火樹脂組成物を得た。得られた耐火樹脂組成物を一軸押出機に供給し、50℃で押出成形し、押出成形体を得た。そして、得られた押出成形体を圧延機で目的の厚みのシートに調整し、耐火材部材に用いた。
Figure 2021118162
[実施例1−6、比較例1−3]
表1に示した層種類を、表2に示した層構成に従って積層した耐火性部材(耐火材又は耐火積層体)を得た。各耐火性部材の評価を以下のように行った。
<耐火積層体の比誘電率の測定方法>
耐火積層体の比誘電率は、容量法で測定した。具体的には、HP社製4291Bを用いた。周波数を10MHzに設定し、誘電率を測定した。
<バッテリー消火テスト>
スマートフォンに使用されるラミネート型のリチウムイオン電池の周囲に、実施例及び比較例で作成した耐火積層体を巻くように配置した試験体を作製した。300℃に設定したホットプレート上に試験体を載せて火の放出から火が消されるまでの時間を評価した。消火時間が5秒以内であった場合を「A」、消火時間が5秒超10秒以内であった場合を「B」、消火時間が10秒超30秒以下であった場合を「C」、消火時間が30秒超であった場合を「D」として評価し、消火時間が短い方が消火性能に優れていることを表す。結果を表2に示す。
<背面カバー耐火テスト>
スマートフォンに使用される背面カバー(6.4インチ、PC/PMMA)の内面側全面に実施例及び比較例で作成した耐火積層体を配置した試験体を作製した。IEC60695−11−5のFigure 2bに準拠して、燃焼性試験装置(スガ試験機製、NF−1、バーナー寸法:孔径0.5±0.1mm、外径0.9mm以内、炎高さ:12±2mm、燃焼試験用ガス:ブタンガス)を用い、接炎時間60秒後の背面カバーの外側の状態を評価した。60秒後に変化がなかった場合を「A」、変形や変色が見られる場合を「B」、5mm以下の気泡や裂けが見られる場合を「C」、5mmを超える気泡や裂けが見られる場合を「D」として評価し、変化がない方が優れていることを表す。結果を表2に示す。
Figure 2021118162
以上の実施例の結果から明らかなように、本発明によればバッテリーセルの熱暴走時における急激な温度上昇等に伴う発火に対して、短時間で消火することができ、かつ、耐火性を有する耐火樹脂組成物を提供できた。
10 バッテリー
11 バッテリーセル
12 耐火性部材
20 耐火性部材
21 熱伝導層
22 耐火樹脂層
30 耐火性部材
31 耐火樹脂層
32 熱伝導層
33 背面カバー材
40 正面ケース材
41 バッテリー

Claims (16)

  1. 難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物からなる群から選択される少なくとも1種の耐火性添加剤と、熱伝導性物質と、樹脂とを含有し、バッテリーを搭載する電子機器に使用される耐火樹脂組成物。
  2. 前記樹脂100質量部に対する前記熱伝導性物質の含有量が100〜1,500質量部である、請求項1に記載の耐火樹脂組成物。
  3. 前記熱伝導性物質の10MHzにおける比誘電率が10以下である、請求項1又は2に記載の耐火樹脂組成物。
  4. 前記熱伝導性物質が窒化ホウ素及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐火樹脂組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐火樹脂組成物からなる耐火材。
  6. 厚みが5〜10,000μmである、請求項5に記載の耐火材。
  7. 難燃剤、吸熱剤及び熱膨張性層状無機物からなる群から選択される少なくとも1種の耐火性添加剤と樹脂とを含む耐火樹脂層と、熱伝導性物質を含む熱伝導層とを備え、バッテリーを搭載する電子機器に使用される耐火積層体。
  8. 前記耐火樹脂層と前記熱伝導層とが直接積層されている、請求項7に記載の耐火積層体。
  9. 前記熱伝導層は、前記熱伝導性物質と樹脂とを含有する第1熱伝導層、及び、前記熱伝導性物質から実質的になる第2熱伝導層の少なくともいずれかを有する、請求項7又は8に記載の耐火積層体。
  10. シート状である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の耐火積層体。
  11. 厚みが5〜10,000μmである、請求項10に記載の耐火積層体。
  12. 前記耐火樹脂層は、前記電子機器の構成部材と接している、請求項7〜11のいずれか1項に記載の耐火積層体。
  13. 前記熱伝導層は、前記電子機器の構成部材と接していない、請求項7〜12のいずれか1項に記載の耐火積層体。
  14. 請求項5又は6に記載の耐火材及び請求項7〜13に記載の耐火積層体の少なくともいずれかがバッテリーセルの表面上に設けられるバッテリー。
  15. 請求項5又は6に記載の耐火材及び請求項7〜13に記載の耐火積層体の少なくともいずれかが表面上に設けられている背面カバー材。
  16. 請求項14に記載のバッテリー及び請求項15に記載の背面カバー材の少なくともいずれかを備える、電子機器。

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