JP2021091938A - 土木用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法ならびに前記鋼板を用いてなる土木構造物 - Google Patents
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Description
C:0.001〜0.030%、
Si:0.01〜1.00%、
Mn:0.01〜0.30%、
P:0.05%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.01〜1.00%、
Cr:18.0〜35.0%、
Ni:0.01〜2.00%、および
N:0.001〜0.030%を含有し、
さらに、Ti:0.10〜0.50%、Nb:0.10〜0.50%のうちから選ばれた1種または2種と、
Mo:0.05〜3.00%、Cu:0.05〜0.80%のうちから選ばれた1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有し、
表面に存在する表面皮膜におけるCrのカチオン分率が0.30以上であり、かつ、Mnのカチオン分率に対するSiのカチオン分率およびAlのカチオン分率の合計の比が2.0以上であることを特徴とする土木用フェライト系ステンレス鋼板。
ここで、上記Cr、Mn、Si、Alのカチオン分率は、それぞれ前記表面皮膜に含まれるCr、Mn、Si、AlおよびFeの原子存在量の合計に対するCr、Mn、Si、Alの原子存在量の比である。
[2]前記成分組成が、さらに、質量%で、
W:0〜1.00%、Co:0〜0.50%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする[1]に記載の土木用フェライト系ステンレス鋼板。
[3]前記成分組成が、さらに、質量%で、
Zr:0〜0.50%、
V:0〜0.50%、
REM:0〜0.10%、
B:0〜0.0100%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の土木用フェライト系ステンレス鋼板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の土木用フェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
フェライト系ステンレス鋼冷延板に、30体積%以下の水素を含む露点−30℃以下の雰囲気中で、700〜1100℃の温度で焼鈍を行う冷延板焼鈍工程と、
前記冷延板焼鈍工程後のフェライト系ステンレス鋼冷延焼鈍板に、5〜20質量%のHNO3を含む溶液中で電気量が10〜30C/dm2となる電解処理を行う電解処理工程とを有することを特徴とする土木用フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
[5]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の土木用フェライト系ステンレス鋼板を用いてなる土木構造物。
Cは鋼に不可避的に含まれる元素である。Cの含有量が多いと強度が向上し、少ないと加工性が向上する。土木用途に使用するうえで適度な強度を得るためには0.001%以上のCの含有が適当である。一方で、過剰のCの含有は耐食性の低下が顕著となるため、0.030%以下の含有が適当である。よって、C含有量は0.001〜0.030%とした。C含有量は、好ましくは0.002%以上である。また、C含有量は、好ましくは0.020%以下である。
Siは本発明において重要な元素である。SiをAlとともに表面皮膜中に濃化させることで、酸素の還元によるカソード反応を抑制し、酸素濃度の差によって生じる通気差腐食の発生を抑制する効果が得られる。その効果は鋼中のSi含有量が0.01%以上で得られる。しかし、Si含有量が1.00%を超えると鋼の靭性が低下する。よって、Si含有量は0.01〜1.00%とした。Si含有量は、好ましくは0.08%以上である。また、Si含有量は、好ましくは0.80%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。
Mnは鋼の強度を高める効果がある。その効果は0.01%以上のMnの含有で得られる。一方、鋼中のMn含有量が0.30%を超えると、表面皮膜中にMnが多量に含まれるようになって、通気差腐食が進行しやすくなる。よって、Mn含有量は0.01〜0.30%とした。Mn含有量は、好ましくは0.02%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは0.20%以下である。
Pは鋼に不可避的に含まれる元素であり、ステンレス鋼の耐食性を低下させる元素である。よって、P含有量は少ないほど好ましく、0.05%以下とした。P含有量は、好ましくは0.04%以下であり、さらに好ましくは0.03%以下である。下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Pは製造コストの増加を招くので、P含有量の下限は0.01%程度とすることが好適である。
Sを0.01%超えて含有するとCaSやMnSなどの水溶性硫化物が生成し、耐食性が低下する。よって、S含有量は0.01%以下とした。下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Sは製造コストの増加を招くので、S含有量の下限は0.0005%程度とすることが好適である。
Alは本発明において重要な元素である。AlをSiとともに表面皮膜中に濃化させることで、酸素の還元によるカソード反応を抑制し、通気差腐食の発生を抑制する効果が得られる。その効果は鋼中のAl含有量が0.01%以上で得られる。一方で、Al含有量が1.00%を超えると加工性が低下する。よって、Al含有量は0.01〜1.00%とした。Al含有量は、好ましくは0.02%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。また、Al含有量は、好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.15%以下である。
Crはフェライト系ステンレス鋼の優れた耐食性を発揮するためには必須の元素であり、本発明において通気差腐食を抑制するための重要な役割を持つ元素である。ステンレス鋼の表面皮膜は主にCrとFeの酸化物・水酸化物を主体とした皮膜であるが、表面皮膜に含まれるCr、Si、Mn、AlおよびFeの原子存在量の合計に対するCrの原子存在量の比(Crのカチオン分率)が0.30以上である表面皮膜を形成するためには鋼中に18.0%以上のCrの含有が必要である。一方で、35.0%を超えてCrを含有すると熱間加工性が低下し、製造が困難となる。よって、Cr含有量は18.0〜35.0%とした。Cr含有量は、好ましくは20.0%以上である。また、Cr含有量は、好ましくは33.0%以下であり、より好ましくは26.0%以下であり、さらに好ましくは24.0%以下である。
Niは鋼中の金属成分のイオン化を抑制し、耐食性を向上する元素である。その効果は0.01%のNiの含有で得られる。一方で、2.00%を超えるNiの含有は応力腐食割れが発生するようになり、耐食性を低下させる。よって、Ni含有量は0.01〜2.00%とした。Ni含有量は、好ましくは0.02%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは1.00%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。
Nは、Cと同様に固溶強化により鋼の強度を上昇させる効果がある。その効果はN含有量が0.001%以上で得られる。しかし、0.030%を超えてNを含有すると加工性の低下が顕著となる。よって、N含有量は0.001〜0.030%とした。N含有量は、好ましくは0.002%以上である。また、N含有量は、好ましくは0.020%以下である。
Tiは鋼中のC、Nと結合して、Cr炭窒化物の生成による耐食性の低下を抑制する作用がある。その効果は0.10%以上のTiの含有で得られる。一方で、0.50%を超えてTiを含有させると、鋼の靭性が低下する。よって、Ti含有量は0.10〜0.50%とした。Ti含有量は、好ましくは0.15%以上である。また、Ti含有量は、好ましくは0.40%以下である。
Moは本発明における重要な元素のひとつである。Moを鋼中に含有させることで表面皮膜へのCrの濃化を促進し、低酸化性環境における表面皮膜の維持能力を向上させる作用がある。その効果は0.05%以上のMoの含有で得られる。一方で、3.00%を超えるMoの含有は加工性を低下させる。よって、Mo含有量は0.05〜3.00%とした。Mo含有量は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.40%以上である。また、Mo含有量は、好ましくは2.00%以下である。
(A群)W:0〜1.00%、Co:0〜0.50%のうちから選ばれた1種または2種
(B群)Zr:0〜0.50%、V:0〜0.50%、REM:0〜0.10%、B:0〜0.0100%のうちから選ばれた1種または2種以上
WはMoと同様に鋼の耐食性を向上する効果がある。しかし、過剰のWの含有は鋼の強度を上昇させ、加工性を低下させる。よって、Wを含有する場合、W含有量は1.00%以下とした。W含有量は、好ましくは0.01%以上である。また、W含有量は、好ましくは0.50%以下である。
Coは鋼の靭性を向上させる元素である。しかし、0.50%を超えてCoを含有すると加工性が低下する。よって、Coを含有する場合、Co含有量は0.50%以下とした。Co含有量は、好ましくは0.01%以上である。また、Co含有量は、好ましくは0.30%以下である。
ZrはC、Nと結合して、鋭敏化を抑制する効果がある。しかし、過剰のZrの含有は加工性を低下させるうえ、Zrは非常に高い元素であるためコストの増大を招く。よって、Zrを含有する場合、Zr含有量は0.50%以下とした。Zr含有量は、好ましくは0.01%以上である。また、Zr含有量は、好ましくは0.20%以下である。
Vは、VNを形成することでCr窒化物の析出による鋼の耐食性の低下を抑制する元素である。しかし、0.50%を超える過剰なVの含有は、加工性を低下させる。よって、Vを含有する場合、V含有量は0.50%以下とした。V含有量は、好ましくは0.01%以上である。また、V含有量は、好ましくは0.30%以下である。
REM(希土類金属;Rare Earth Metals)は耐酸化性を向上する元素である。しかし、過剰のREMの含有は酸洗性などの製造性を低下させるうえ、コストの増大を招く。よって、REMを含有する場合、REM含有量は0.10%以下とした。REM含有量は、好ましくは0.01%以上である。
Bは二次加工脆性を改善する元素である。しかし、過剰のBの添加は、固溶強化による加工性低下を引き起こす。よって、Bを含有する場合、B含有量は0.0100%以下とした。B含有量は、好ましくは0.0003%以上である。また、B含有量は、好ましくは0.0030%以下である。
ステンレス鋼の耐食性はその表面に形成される皮膜(一般的には不動態皮膜と呼ばれる)によって担保される。この鋼表面に存在する表面皮膜は、Cr含有量が多いほど、緻密で良好な皮膜になるとされている。本発明が想定する使用環境は、鋼の一部を地中に埋めて使用する環境であり、地中部分では酸素などの酸化性物質が不十分となる。そのため、表面皮膜の維持電流による皮膜の溶解が、酸化による皮膜の生成より優勢となり、表面皮膜が緩やかに溶解しやすい環境となる。表面皮膜に含まれるCr、Mn、Si、AlおよびFeの原子存在量の合計に対するCrの原子存在量の比であるCrのカチオン分率を0.30以上とすることで、維持電流の小さい溶解しにくい表面皮膜が得られ、低酸化性環境である地中において表面皮膜の維持が可能となる。よって、表面皮膜に含まれるCrのカチオン分率を0.30以上とする。前記カチオン分率は、好ましくは0.35以上である。また、前記カチオン分率は、高くなりすぎると皮膜にクラックが入り欠陥となるおそれがあるため、0.80以下が好ましく、0.70以下がより好ましい。
ステンレス鋼の表面皮膜は半導体的な性質を有しており、その導電性は不純物原子に依存する。種々検討の結果、表面皮膜におけるMnのカチオン分率に対するSiのカチオン分率およびAlのカチオン分率の合計の比が2.0以上の場合に、表面皮膜を通した酸素の還元によるカソード反応が抑制されることが明らかとなった。この原因は明確にはなっていないが、価数変化の起こりやすいMnに対して、安定した酸化物を形成するSi、Alが相対的に増えることで表面皮膜の半導体的な性質が変化し、溶存酸素の還元反応に必要な電子の授受が抑制されたものと考えられる。よって、表面皮膜におけるMnのカチオン分率に対するSiのカチオン分率およびAlのカチオン分率の合計の比を2.0以上とした。好ましくは、前記の比は2.5以上である。また、表面皮膜の変形性能の点からは、前記の比は、10.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましい。
表1に示す成分組成のステンレス鋼を実験室において真空溶製し、分解圧延、熱間圧延を行い板厚3.0mmの熱延板を作製した。得られた熱延板に950〜1050℃の温度で熱延板焼鈍し酸洗を行い、スケールを除去した。その後、板厚1.0mmまで冷間圧延を行った。得られたフェライト系ステンレス鋼冷延板に、900〜1050℃の温度で冷延板焼鈍を行った。均熱時間は20〜60sとした。焼鈍雰囲気は水素5体積%、窒素95体積%、露点−50℃とした。冷延板焼鈍後には50℃の10質量%HNO3溶液中で電気量が10C/dm2となる電解処理を行い、供試材とした。
表1のNo.2に示す成分組成のステンレス鋼を実験室において真空溶製し、分解圧延、熱間圧延を行い板厚3.0mmの熱延板を作製した。得られた熱延板に950〜1050℃の温度で熱延板焼鈍し酸洗を行い、スケールを除去した。その後、板厚1.0mmまで冷間圧延を行った。得られたフェライト系ステンレス鋼冷延板に、表2に示す条件で、冷延板焼鈍と、電解処理を施し、供試材とした。
Claims (5)
- 質量%で、
C:0.001〜0.030%、
Si:0.01〜1.00%、
Mn:0.01〜0.30%、
P:0.05%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.01〜1.00%、
Cr:18.0〜35.0%、
Ni:0.01〜2.00%、および
N:0.001〜0.030%を含有し、
さらに、Ti:0.10〜0.50%、Nb:0.10〜0.50%のうちから選ばれた1種または2種と、
Mo:0.05〜3.00%、Cu:0.05〜0.80%のうちから選ばれた1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有し、
表面に存在する表面皮膜におけるCrのカチオン分率が0.30以上であり、かつ、Mnのカチオン分率に対するSiのカチオン分率およびAlのカチオン分率の合計の比が2.0以上であることを特徴とする土木用フェライト系ステンレス鋼板。
ここで、上記Cr、Mn、Si、Alのカチオン分率は、それぞれ前記表面皮膜に含まれるCr、Mn、Si、AlおよびFeの原子存在量の合計に対するCr、Mn、Si、Alの原子存在量の比である。 - 前記成分組成が、さらに、質量%で、
W:0〜1.00%、
Co:0〜0.50%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の土木用フェライト系ステンレス鋼板。 - 前記成分組成が、さらに、質量%で、
Zr:0〜0.50%、
V:0〜0.50%、
REM:0〜0.10%、
B:0〜0.0100%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の土木用フェライト系ステンレス鋼板。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の土木用フェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
フェライト系ステンレス鋼冷延板に、30体積%以下の水素を含む露点−30℃以下の雰囲気中で、700〜1100℃の温度で焼鈍を行う冷延板焼鈍工程と、
前記冷延板焼鈍工程後のフェライト系ステンレス鋼冷延焼鈍板に、5〜20質量%のHNO3を含む溶液中で電気量が10〜30C/dm2となる電解処理を行う電解処理工程とを有することを特徴とする土木用フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の土木用フェライト系ステンレス鋼板を用いてなる土木構造物。
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