JP2006037220A - 塗膜密着性と耐塗装下腐食性に優れた高クロム鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】 犠牲防食作用を有するめっき金属などの特別な塗装前処理を施さずに、長期にわたり塗膜下腐食を防止できる安価な鋼材の提供。
【解決手段】 質量%にて、C:0.001〜0.030%、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:7.0〜14.0%、N:0.025%以下を含有し、残部は実質的にFeおよび不可避不純物からなる鋼であって、表面酸化皮膜内にSiおよびCrの濃化層を有し、その濃化の最も大きい部分の濃度が、C、O、およびNを除いたカチオンのみの割合で、Siについては5%以上、Crについては18%以上35%以下であることを特徴とする塗膜密着性と耐塗装下腐食性に優れた高クロム鋼。必要に応じて、Ti,Nb、Al、Ni、CuMo、Wの内1種以上を添加することが可能。
【選択図】 なし

Description

本発明は、土木建築構造物、車両輸送機器、送電設備、ガス・水道設備など塗装された後に、屋外などの腐食環境で使用される鋼材であって、塗膜密着性および耐塗膜下腐食性に優れる高クロム鋼に関する。
土木・建築構造物、輸送機器、送電設備、ガス・水道設備など社会基盤を構成する鉄鋼材料としては、SS400などの普通鋼(ここでは溶接構造用鋼や高張力鋼も含むものとする)に、塗装を施した材料が使用されている。しかし、塗装による防錆処理は、キズ部などの欠陥箇所から腐食が生じやすいという短所がある。一般に使用時のキズ付きも含め欠陥を皆無にすることは不可能であるため、塗装処理により長期にわたって腐食を防止することは困難である。また、見かけ上、塗膜自体は健全であっても、酸素や水分が塗膜を通して下地金属に到達し、長い年月の間に塗膜下腐食が生じることは避けられない。このため塗装による防食処理は、構造物の洗浄や塗装の塗り替えなどの定期的メンテナンスが必要不可欠とされている。
ところで、塗膜密着性を向上させ、かつ塗膜下腐食を防止する技術として、鋼材に亜鉛めっきなどの犠牲防食作用のある金属被覆を施した後に、塗装を行う手法が用いられている。この防食処理は、普通鋼に塗装のみを施す手法(リン酸塩処理などの密着性改善の下地処理手法も含む)に比較して格段に耐食性・耐候性に優れる。しかし、この場合、部材の耐食性はめっき層の厚さに依存しており、50〜100年あるいは100年越といった超長期の防食性能を必要とするときは、めっき層を極めて厚くしなくてはならない。
しかしながら、以下の理由でめっき層を100年程度の防食特性を有するまで厚くすることは事実上不可能である。すなわち、めっき層を厚くすると、めっき層自体のひび割れや剥離の問題が顕在化するばかりか、構造上必要な穴部やコーナー部などに、平坦部を数倍上回るめっき金属が付着し、設備機能上不具合を生じることがある。例えば、金具をボルト−ナットで固定するための穴があいている鋼板に、非常に厚い亜鉛めっきを施した場合、穴の部分は、めっき金属のきれが悪いため、亜鉛が多く残存し、塗装後の最終工程でボルトが穴を通らなくなるという不具合が生じやすい。このため、めっき層を厚くして防食性能をアップさせるということは、不必要な部分のめっきを除去することを意味しており、極めて高いコストがかかる技術となる。コストと防食性能の関係から、下地めっき層を際限なく厚くすることは不可能である。このため、たとえ、めっきによる下地処理を施した場合でも、普通鋼部材を塗装処理により長期にわたりメンテナンスフリーで使用することは困難である。
このように、社会基盤に関係する設備に必要な50〜100年、あるいは100年以上というような超長期の耐用年数を考えた場合、普通鋼のように基材の耐食性が低い材料に表面処理を施して防錆するということには限界がある。この観点から、ステンレス鋼を使用することで、無塗装のまま長期耐久性を確保しようという試みがなされている。しかし、一般に屋外で無塗装やめっき処理なしで赤さびを生じない耐食鋼材としてはFe−18Cr−8Ni以上のCrとNiの添加が必要であり、普通鋼に比較し価格が極めて高いため、耐食性には優れるものの社会基盤用の構造材として広く使われる可能性は低い。
そこで、特許文献1には、FeにNi、Cu、Cr、Moなどの元素を極端に増量することや、Nb、Tiの添加、さらにはC、Nの過度の低減を必要とすることなしに、溶接性や耐初期発錆性に優れたFe−Cr合金が開示されている。この合金は下地金属自体が耐食性を有するため、SUS304ステンレス鋼ほどではないが、裸使用であっても耐さび性に優れることが示されている。しかし、塩水噴霧において鉄さびが生じていることから、無塗装やめっき処理なしで長期間屋外で使用できるものではない。
特開2002−53938号公報
上述したように、土木・建築構造物、輸送機器、送電設備、ガス・水道設備など社会基盤用の構造材料として、50〜100年、あるいは100年越の長期にわたり優れた耐食性を発揮でき、かつ安価な材料や防食手法は未だ開発されていない。
本発明者は、このような従来技術の短所を補い、未解決の課題を解決するため種々の試験研究を行い、本発明を完成させた。
本発明の主旨は、以下の通りである。
(1)質量%にて、
C:0.001〜0.030%、
Si:1.0%以下、
Mn:1.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.030%以下、
Cr:7.0〜14.0%、
N:0.025%以下
を含有し、残部は実質的にFeおよび不可避不純物からなる鋼であって、表面酸化皮膜内にSiおよびCrの濃化層を有し、その濃化の最も大きい部分の濃度が、C、OおよびNを除いたカチオンのみの割合で、Siについては5%以上、Crについては18%以上35%以下であることを特徴とする塗膜密着性と耐塗装下腐食性に優れた高クロム鋼。
(2)上記(1)の基材組成に、さらに、質量%で、
Ti:0.08〜2%、
Nb:0.08〜2%、
Al:0.01〜1%
の内1種以上を含み、表面酸化皮膜内に付加元素の濃化層を有し、これら元素の濃化の最も大きい部分の濃度の合計が、C、OおよびNを除いたカチオンのみの割合で、1%以上であることを特徴とする塗膜密着性と耐塗装下腐食性に優れた高クロム鋼。
(3)上記(1)あるいは(2)の基材組成に、さらに、質量%で、
Ni:0.08〜2%、
Cu:0.08〜2%、
Mo:0.08〜2%、
W:0.08〜2%
の内1種以上を含むことを特徴とする塗膜密着性と耐塗装下腐食性に優れた高クロム鋼。
本発明によれば、犠牲防食作用を有する下地めっき処理を施すことなく塗装を行った状態で、耐塗膜下腐食性に優れる構造材料を提供することが可能となる。しかも、塗膜密着性にも優れるため、クロメート処理やリン酸塩塗布などの特別な塗装下地処理を行うことなく塗膜処理を実施することができる。また、基材の合金添加量がSUS304などの汎用ステンレス鋼に比べて少量であるため、原料コストが低く、しかも酸洗や圧延が容易であるため製造コストも低く抑えることが可能である。このため、本発明鋼は、普通鋼+塗装、普通鋼めっき+塗装、ステンレス鋼(無塗装、めっき無し使用)などの従来技術に比較し低コストで、かつ塗装後の長期防食性能に優れるという特徴を有している。
以下に、本発明の限定理由について述べる。
1.基材の成分範囲
Cは、鋼材の強度を向上させるために有効な元素である。構造物の強度部材として必要な機械特性を確保するため0.001%以上添加することとしたが、0.030%を越えて添加すると逆に靱性を低下させる。このため、0.001%以上、0.030%以下に限定した。
Siは、脱酸材として添加され鋼の熱間加工性を向上させる。本願では、この作用に加え、Siは酸化物として、鋼表面に濃縮して塗膜との密着性向上と塗膜下腐食に対する耐食性を向上させる作用を有する。このため、Siは可能な限り濃度を高める必要があるが、1.0%を越えてSiを添加すると、鋼は硬くなり伸びが低下したり、成形加工性が低下するため、1.0%以下とした。Si成分値下限を0.01%とすると好ましい。
Mnは、鋼材の熱間加工性を低下させるSを硫化物系介在物として固定し無害化する作用を有する反面、鋼の耐食性を低下させる作用を有する。このため、1.0%以下とした。Mn成分値下限を0.01%とすると好ましい。
Pは、粒界偏析しやすい元素であり、鋼材の熱間加工性を低下させる。そのため0.040%以下とした。
Sは、硫化物系介在物を形成し耐食性を低下させるとことに加え、鋼の熱間加工性も低下させる。そこで、Sは0.030%以下とした。
Crは、鋼の塗膜下腐食に対する耐食性を向上させる作用がある。犠牲防食作用を有するめっき金属による塗装前処理を施さずに、塗膜下腐食を防止する特性を確保するため7.0%以上添加することとした。しかし、Crを14.0%を越えて添加すると、Crが表面皮膜内に過度に濃縮しやすくなり、逆に塗膜密着性が阻害される。また、Crが14.0%を越えると、熱間圧延や、その後の熱処理工程でCrが濃縮した酸化スケールが生成し、酸洗デスケール性が低回し、製造コストの上昇を招くという側面もある。そこで、本願ではCrを7.0%以上、14.0%以下に限定した。ところで、腐食環境が厳しく、かつ塗膜を厚くすることが出来ないなどの耐食性上の不利な条件が重なる際には、Crを10.0%以上14.0%以下とすることが特に望ましい。
Nは、溶接熱影響部あるいは溶体化処理後に窒化物として析出し、鋼の耐食性を低下させる。そのため、Nは0.025%以下とした。
以下に述べるTi,Nb、Alは表面皮膜に濃縮することで、塗装密着性と塗膜下腐食の防止に有効に作用する元素である。そのため、腐食性の厳しさに応じて、1種以上を添加することが有効である。
TiとNbは、表面皮膜に濃縮し塗膜密着性を向上させると共に、塗膜下腐食を防止する作用を有する。このためTiあるいはNbは、0.08%以上添加することとした。しかし、過度の添加はコスト上昇に見合う耐食性向上効果が得られなくばかりか、鋼の靱性を低下させるため上限を2%とした。
Alも、表面皮膜に濃縮し塗膜密着性を向上させると共に、塗膜下腐食を防止する作用を有する。AlはTiやNbと比較して、少量であってもその効果を発揮するため、0.01%以上添加することとした。しかし、過度の添加はコスト上昇に見合う耐食性向上効果が得られなくばかりか、鋼の靱性を低下させるため上限を1%とした。
以下に述べるNi、Cu、Mo、Wは、表面皮膜には濃縮しないものの鋼基材の耐食性を改善することで、塗膜下腐食を防止する作用を有する。したがって、腐食環境の厳しさや、構造材料の使用形態に応じて、1種以上を添加することが有効である。
Ni,Cu,Mo、W共に、塗膜下腐食を抑制する作用を期待するためには、0.08%を越えて添加する必要があるが、2%を越えて添加しても、耐食性向上に見合う以上のコストアップになる。そのため、これら元素は0.08%以上、2%以下に限定した。
2.表面酸化皮膜の成分範囲
表面酸化皮膜内のSiは、塗膜密着性を向上させると共に、塗膜下腐食を抑制する作用を有する。表面酸化皮膜内において、C、OおよびNを除いたカチオンのみの割合で、その濃化の最も大きい部分の濃度を5%以上とすることで、密着性向上と塗膜下腐食防止に顕著な効果が現れる。Siは皮膜に濃縮するほど改善効果が現れるため、腐食環境が厳しいなど特に必要な際には、皮膜内での濃化層のSi濃度を9%以上にすることが望ましい。
同じく、表面酸化皮膜内のCrも、塗膜密着性と耐塗膜下腐食性を向上させる作用を有する。これら効果を発現させるためには、C、OおよびNを除いたカチオンのみの割合で、その濃化の最も大きい部分の濃度を18%以上とする必要がある。しかし、過度にCrが濃縮すると返って塗膜密着性が阻害されるため、Cr濃度は35%以下とする必要がある。
表面酸化皮膜内のTi、Nb、Alは、塗膜密着性を向上させると共に、塗膜下腐食を抑制する作用を有する。このため、SiとCrの濃縮のみで耐食性が不充分な際には、これらの内1種以上を鋼に添加し、表面酸化皮膜内における、これら元素の濃化の最も大きい部分の濃度の合計が、C、OおよびNを除いたカチオンのみの割合で、1%以上にすることで、塗膜密着性の向上と、塗膜下腐食の防止を効果的に達成することができる。
3.表面酸化膜組成の作り込み
本発明鋼は、所定成分のステンレス鋼を通常の方法で溶解圧延し、焼鈍酸洗を組み合わせた製造工程では、安定して製造することはできない。そこで、以下に製造方法について詳細に記載する。しかし、本願の発明鋼は、ここに記載された方法で製造されたものに限定されるものではない。
SiとCr、さらにはTi,Nb,Alは、焼鈍時の酸素濃度を低下させるほど、酸化スケールに濃縮しやすい。特に、酸化スケールと金属界面に濃縮しやすいため、下地金属を過度に溶削しない酸洗デスケールを施すことで、SiとCr、さらにはTi、Nb、Alを表面酸化皮膜に濃縮させることができる。一般には、厚い酸化スケールが生成した場合ほど、その除去に時間が必要となりスケール除去と同時に下地金属の溶解も生じてしまう。したがって、焼鈍時の酸素量を低く抑えスケール厚さを薄く制御し、かつSiなどの濃縮度合いを高めた上で軽酸洗を行うことが、本発明鋼製造の基本指針である。
具体的には、(1)炉内ガスとして2〜10vol%の水素を含むの雰囲気中で焼鈍し、引き続き、pHが1〜10の85〜250g/L硫酸ナトリウム中で電解を行いデスケールを施す、(2)酸素濃度が1.5%以下の燃焼雰囲気中で焼鈍を行った後に、硝酸あるいは硫酸水溶液中で電解酸洗を行う、(3)熱間圧延後に、炉内ガスとして2〜10vol%の水素を含むの雰囲気中で焼鈍し、引き続き、300g/L 以下の硫酸で酸洗を施す、といった手法で本発明鋼を製造できる。
特に、酸洗液としては、Si、Cr,Ti、Nb、Alを溶解させるHFあるいはHClなどの、ハロゲン化物水素の酸を使用しないことが肝要である。
4.塗膜種類について
本願は塗膜を構成する樹脂組成物の種類を限定するものではない。これは、SiやCrなどの表面濃化により、密着性と耐塗膜下腐食性が向上する機構が、特定の樹脂との特異作用によるものではなく、鋼材と有機物との静電的、電気化学的な相互作用によりものであり、有機物を主成分とする組成物からなる塗膜であれば、程度に差異はあるものの、優れた効果を発揮するものと考えられるためである。
表1に化学組成を示す鋼を真空溶解により鋼塊に鋳込み、熱間圧延、冷間圧延を経て、板厚1mmの冷延板とし、水素ガス濃度2.5%(残部窒素ガス)を流した赤外線加熱炉で、850℃(空冷)の焼鈍を施した。次いで、少量の硫酸でpH=2.5に調整した硫酸ナトリウム水溶液中で、鋼材が交互に陽極と陰極になるように交番電解を行いデスケールを実施した。この際、皮膜組成は、焼鈍時の850℃での保持時間と、交番電解での電解時間を変化させることで調整した。尚、表1で鋼基材組成の部分の「−」印は鋼材に無添加であることを示している。
Figure 2006037220
表1には、GDS(グロー放電発光分光分析法)で分析した皮膜組成を併せて示した。まず、表面分析は、鋼中金属成分に加え、O、C、Nの濃度を深さ方向に1μmまで分析して行き、O(酸素)の濃度が最高濃度と最低濃度の1/2になる位置が酸化皮膜/金属母地であるとした。次いで、鋼中金属成分(P,Sも含む)のみの割合でSi、Cr、Ti、Nb、Al濃度を算出し、先に求めた酸化皮膜内にてSi、Cr、Ti、Nb、Al濃化の最も大きい部分の濃度を求めた。尚、表1で表面酸化皮膜の部分の「−」印は、GDSの分析下限界である0.1%以下であることを示している。尚、図1に、表1の番号16を表面分析した際のGDS深さプロファイルを示す。左図は鋼中元素からO、C、Nを抜いて求めたカチオンの濃度である。右図は、その原点付近を拡大したものである。
これら試験片(寸法:長さ150mm×幅100mm)を、エタノールで脱脂した後に、さび止め塗料などの下塗りを行わずに、JIS K 5516 1種に準拠した合成樹脂調合ペイント(SDホルス、関西ペイント製)を吹き付け塗装し、乾燥時の膜厚が約20μmになるように塗布した。そして、試験片中央のやや下寄りの部分にカッターナイフで、キズが下地金属に到達するようにクロスカットを導入した。そして、この試験片を、(1)人工塩水噴霧(35℃、4時間)→(2)乾燥(60℃、2時間)→(3)湿潤(50℃、相対湿度95%以上、2時間)を1サイクルとする腐食試験を行い、自動車技術会のJASO M 609−91規格に従い、最大の塗膜剥離幅を計測評価した。尚、サンプルは、試験装置内に水平に対して60度の傾斜をつけて配置した。
評価結果を表1に示す。この表には、本願の特徴である表面酸化皮膜も併せて示した。まず、番号1〜8は、主に鋼基材(母地)のCr量の影響をみたものである。番号1は下地Cr量が少ないため焼鈍酸洗を工夫しても酸化皮膜にSiとCrを濃縮させることができなかった。このため、150サイクルでの試験結果でも、最大の塗膜剥離幅が15.9mmとなった。これに対して、番号2はやや母地Cr濃度を高めたものである。表面皮膜の組成は本願の範囲に調整したものの、下地Cr量が本願の範囲を下回っているため耐食性が低く、剥離幅は13.2mmであった。
これらに対して、下地組成と皮膜組成が共に本願の範囲に入っている番号3〜6は、最大の塗膜剥離幅が2.0mm以下であり、番号1、2に比べ格段に、塗膜の密着性に優れ、しかも塗膜下腐食に対する耐食性が向上していることが分かる。
一方、番号7と8は、母地Cr量と表面皮膜のCr量が本願の範囲を越えて高い比較例である。番号1、2ほどではないが、塗膜剥離幅は発明鋼3〜6に比較し大きくなっている。これは塗膜下で鋼が腐食したというよりも、塗膜と鋼材が密着しておらず剥離したような形態であった。このように、本願の範囲を超えて母地および酸化皮膜中にCrを加えると、塗膜密着性が低下することが分かる。
次に、番号9〜13は、本願の特徴である皮膜組成の重要性を明確にするための例である。これからいずれも母材組成は同一であるが、焼鈍酸洗条件を調整して、皮膜組成を変化させたものである。番号9はSiとCrが、番号10はSiが、そして番号11と12はCrが本願の範囲外である。いずれも最大塗膜剥離幅は6mm以上であり、本発明鋼である番号13の1.3mmに比較し、極めて劣位であることが分かる。
以上のように、塗膜密着性と耐塗膜下腐食性に優れるクロム鋼を得るには鋼母材組成に加え、表面酸化皮膜の組成を制御する必要があることが分かる。
次に、番号14〜18は、Ti、Nb、Alの効果を確認した例である。番号14と15がTiとNbが本願の範囲を下回る例で、それ以外がTiあるいはNb、もしくは両方をAlと共に添加した例である。表1に示すように下地に、これら金属を添加し、かつ皮膜組成を本願の範囲に制御することで、塗膜剥離幅を著しく小さくできることが分かる。
同じく、番号19〜24は、Ni、Cu、Mo、Wの効果をみたものである。これら選択元素を含まない番号19に比較し、Ni、Cu、Mo、Wを添加した番号20〜24は、塗膜剥離幅が小さくなることが分かる。同様に、番号25〜27のように、Ti、Nb、Alと共に、Ni、Cu、Moなどを加えると更に塗膜下腐食に対する耐食性が向上することが分かる。
表2に、塗膜を構成する樹脂成分を変えた際の実施結果を示す。いずれも吹きつけ塗装にて、乾燥時の膜厚が約20μmになるように吹きつけ量や回数を調整した。そして、先に示したサイクル腐食試験にて、所定サイクルの腐食試験を行った後、最大の塗装剥離幅を計測した。表2から分かるように、塗膜の種類に関係なく、本発明鋼は優れた塗膜密着性と耐塗膜下腐食性を示すことが分かる。
Figure 2006037220
本発明鋼は、SUS304ステンレス鋼のように多量にCrやNiを含まないため、素材自体は安価でありながら、特異な表面酸化皮膜組成に制御することで、塗膜との密着性に優れ、しかも耐塗膜下腐食性にも優れる特性を有する。このため、耐食性以外の意匠性の観点から塗装が必須な構造材などに好適であり、土木・建築構造物、輸送機器、送電設備、ガス・水道設備など社会基盤用の構造材料として、50〜100年、あるいは100年越の長期にわたり優れた耐食性を発揮できる安価な耐食材料として、各種環境で使用することが可能である。
表1番号16の鋼のGDS深さ分析プロファイルである。左図は鋼中元素からO、C、Nを抜いて求めたカチオンの濃度表示。右図は、その原点付近を拡大したもの。

Claims (3)

  1. 質量%にて、
    C:0.001〜0.030%、
    Si:1.0%以下、
    Mn:1.0%以下、
    P:0.040%以下、
    S:0.030%以下、
    Cr:7.0〜14.0%、
    N:0.025%以下
    を含有し、残部は実質的にFeおよび不可避不純物からなる鋼であって、表面酸化皮膜内にSiおよびCrの濃化層を有し、その濃化の最も大きい部分の濃度が、C、OおよびNを除いたカチオンのみの割合で、Siについては5%以上、Crについては18%以上35%以下であることを特徴とする塗膜密着性と耐塗装下腐食性に優れた高クロム鋼。
  2. 請求項1の基材組成に、さらに、質量%で、
    Ti:0.08〜2%、
    Nb:0.08〜2%、
    Al:0.01〜1%
    の内1種以上を含み、表面酸化皮膜内に付加元素の濃化層を有し、これら元素の濃化の最も大きい部分の濃度の合計が、C、OおよびNを除いたカチオンのみの割合で、1%以上であることを特徴とする塗膜密着性と耐塗装下腐食性に優れた高クロム鋼。
  3. 請求項1あるいは2の基材組成に、さらに、質量%で、
    Ni:0.08〜2%、
    Cu:0.08〜2%、
    Mo:0.08〜2%、
    W:0.08〜2%
    の内1種以上を含むことを特徴とする塗膜密着性と耐塗装下腐食性に優れた高クロム鋼。
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