JP2021042462A - 快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱間加工性に優れ、強度が高く、強度と延性のバランスに優れ、鉛の含有量を大幅に減少させた快削性銅合金を提供する。【解決手段】Cu、Si、Pb、Bi、Pを含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、Fe,Mn,Co及びCrの合計量、Sn及びAlの合計量が所定値以下、組成関係式f1,f2を有し、α相、γ相、β相の面積率が、30≦(α)≦75、25≦(β)≦70、0≦(γ)<3、 10.0≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5≦14.0、1.2≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2≦3.0の関係を有し、α相内にBiを含む粒子が存在し、β相内にPを含む化合物が存在する。【選択図】なし

Description

本発明は、強度が高く、Pbの含有量を大幅に減少させた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法に関する。本発明は、自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品、及び飲料水、工業用水、排水、水素などの液体や気体に係る部品に用いられる快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法に関連している。具体的な部品名称として、バルブ、継手、コック、給水栓、水栓金具、歯車、軸、軸受け、シャフト、スリーブ、スピンドル、センサー、ボルト、ナット、フレアナット、ペン先、インサートナット、袋ナット、ニップル、スペーサー、ねじなどが挙げられ、本発明は、これら切削が施される部品に用いられる快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法に関連している。
従来から、自動車部品、電気・家電・電子機器部品、機械部品、文具、精密機械部品、医療用部品、および飲料水、工業用水、排水、水素などの液体や気体に関わる器具・部品、具体的な部品名称として、バルブ、継手、歯車、センサー、ナット、ねじなどの部品には、優れた被削性を備えた、Cu−Zn−Pb合金(いわゆる快削黄銅棒、鍛造用黄銅、鋳物用黄銅)、あるいはCu−Sn−Zn−Pb合金(いわゆる青銅鋳物:ガンメタル)が一般的に使用されていた。
Cu−Zn−Pb合金は、56〜65mass%のCuと、1〜4mass%のPbを含有し、残部がZnである。Cu−Sn−Zn−Pb合金は、80〜88mass%のCuと、2〜8mass%のSn、1〜8mass%のPbを含有し、残部がZnである。
しかしながら、近年では、Pbの人体や環境に与える影響が懸念されるようになり、各国でPbに関する規制の動きが活発化している。例えば、米国カリフォルニア州では、2010年1月より、飲料水器具等に含まれるPb含有量を0.25mass%以下とする規制が発効されている。米国以外の国においても、その規制の動きは急速であり、Pb含有量の規制に対応した銅合金材料の開発が求められている。
また、その他の産業分野、自動車、電気・電子機器、機械などの産業分野においても、例えば、欧州のELV規制、RoHS規制では、快削性銅合金のPb含有量が例外的に4mass%まで認められているが、飲料水の分野と同様、例外の撤廃を含め、Pb含有量の規制強化が活発に議論されている。
このような快削性銅合金のPb規制強化の動向の中、(1)Pbの代わりに被削性(被削性能、被削性機能)を有するBiと、場合によっては、Biと共にSeを含有するCu−Zn−Bi合金、Cu−Zn−Bi−Se合金、(2)高濃度のZnを含有し、β相を増やして被削性の向上を図ったCu−Zn合金、あるいは、(3)Pbの代わりに被削性を有するγ相、κ相を多く含んだCu−Zn−Si合金、Cu−Zn−Sn合金、さらには(4)γ相を多く含み、かつBiを含有するCu−Zn−Sn−Bi合金などが提唱されている。
例えば、特許文献1、及び、特許文献12においては、Cu−Zn合金に、約1.0〜2.5mass%のSnと、約1.5〜2.0mass%のBiを添加して、γ相を析出させることにより、耐食性と被削性の改善を図っている。
しかしながら、Pbの代わりにBiを含有させた合金に関して、Biは、被削性においてPbより劣ること、Biは、Pbと同様に環境や人体に有害であるおそれがあること、Biは、希少金属であるので資源上の問題があること、Biは、銅合金材料を脆くする問題があることなどを含め、多くの問題を有している。
また、特許文献1に示すように、Cu−Zn−Sn合金においてγ相を析出させたとしても、Snを含有させたγ相は、被削性を持つBiの共添加を必要としているように、被削性に劣る。
また、多量のβ相を含むCu−Znの2元合金は、β相が被削性の改善に貢献するが、β相は、Pbに比べ被削性が劣るので、到底、Pb含有快削性銅合金の代替にはなりえない。
そこで、快削性銅合金として、Pbの代わりにSiを含有したCu−Zn−Si合金が、例えば特許文献2〜11に提案されている。
特許文献2,3においては、主として、Cu濃度が69〜79mass%、Si濃度が2〜4mass%でありCu、Si濃度が高い合金で形成されるγ相、場合によってはκ相の優れた被削性を有することにより、Pbを含有させずに、又は、少量のPbの含有で、優れた被削性を実現させている。Sn,Alを、それぞれ、0.3mass%以上、0.1mass%以上の量で含有することにより、被削性を有するγ相の形成をさらに増大、促進させ、被削性を改善させる。そして、多くのγ相の形成により、耐食性の向上を図っている。
特許文献4においては、0.02mass%以下の極少量のPbを含有させ、主として、Pb含有量を考慮し、単純にγ相、κ相の合計含有面積を規定することにより、優れた快削性を得るものとしている。
特許文献5には、Cu−Zn−Si合金にFeを含有させた銅合金が提案されている。
特許文献6には、Cu−Zn−Si合金にSn,Fe,Co,Ni,Mnを含有させた銅合金が提案されている。
特許文献7には、Cu−Zn−Si合金において、κ相を含むα相マトリックスを有し、β相、γ相及びμ相の面積率を制限した銅合金が提案されている。
特許文献8には、Cu−Zn−Si合金において、κ相を含むα相マトリックスを有し、β相及びγ相の面積率を制限した銅合金が提案されている。
特許文献9には、Cu−Zn−Si合金において、γ相の長辺の長さ、μ相の長辺の長さを規定した銅合金が提案されている。
特許文献10には、Cu−Zn−Si合金に、Sn及びAlを添加した銅合金が提案されている。
特許文献11には、Cu−Zn−Si合金において、γ相をα相及びβ相の相境界の間に粒状に分布させることで、被削性を向上させた銅合金が提案されている。
特許文献14には、Cu−Zn合金に、Sn、Pb、Siを添加した銅合金が提案されている。
ここで、上述のCu−Zn−Si合金においては、特許文献13及び非特許文献1に記載されているように、Cu濃度が60mass%以上、Zn濃度が40mass%以下、Si濃度が10mass%以下の組成に絞っても、マトリックスα相の他に、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10種類の金属相、場合によっては、α’、β’、γ’を含めると13種類の金属相が存在することが知られている。さらに、添加元素が増えると、金属組織はより複雑になることや、新たな相や金属間化合物が出現する可能性があること、また、平衡状態図から得られる合金と実際に生産されている合金では、存在する金属相の構成に大きなずれが生じることが経験上よく知られている。さらに、これらの相の組成は、銅合金のCu、Zn、Si等の濃度、および、加工熱履歴によっても、変化することがよく知られている。
ところで、Pbを含有したCu−Zn−Pb合金においては、Cu濃度が約60mass%であるのに対し、これら特許文献2〜9に記載されているCu−Zn−Si合金では、Cu濃度がいずれも65mass%以上であり、経済性の観点から、高価なCuの濃度の低減が望まれている。
特許文献10においては、熱処理なしに優れた耐食性を得るために、Cu−Zn−Si合金に、SnとAlを含有することを必須とし、かつ、優れた被削性を実現させるために、多量のPb、またはBiを必要としている。
特許文献11においては、Cu濃度が、約65mass%以上であり、鋳造性、機械的強度が良好なPbを含有しない銅合金鋳物であり、γ相によって被削性が改善されるとしており、Sn,Mn,Ni,Sb,Bを多量に含有した実施例が記載されている。
また、従来のPbが添加された快削性銅合金には、少なくとも1昼夜の間に切削のトラブルなしに、さらには、1昼夜の間に切削工具の交換や刃具の研磨などの調整なしに、高速で外周切削やドリル穴あけ加工などの切削加工できることが求められている。切削の難易度にもよるが、Pbの含有量を大幅に低減させた合金においても、同等の被削性が求められている。
ここで、特許文献5においては、Cu−Zn−Si合金にFeを含有させているが、FeとSiは、γ相より硬く脆いFe−Siの金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、切削加工時には切削工具の寿命を短くし、研磨時にはハードスポットが形成され外観上の不具合が生じるなど問題がある。また、Feは添加元素であるSiと結合し、Siは金属間化合物として消費されることから、合金の性能を低下させてしまう。
また、特許文献6においては、Cu−Zn−Si合金に、SnとFe,Co,Mnを添加しているが、Fe,Co,Mnは、いずれもSiと化合して硬くて脆い金属間化合物を生成する。このため、特許文献5と同様に、切削や研磨時に問題を生じさせる。
国際公開第2008/081947号 特開2000−119775号公報 特開2000−119774号公報 国際公開第2007/034571号 特表2016−511792号公報 特開2004−263301号公報 国際公開第2012/057055号 特開2013−104071号公報 国際公開第2019/035225号 特開2018−048397号公報 特表2019−508584号公報 国際公開第2005/093108号 米国特許第4,055,445号明細書 特開2016−194123号公報
美馬源次郎、長谷川正治:伸銅技術研究会誌,2(1963),P.62〜77
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、熱間加工性に優れ、強度が高く、強度と延性のバランスに優れ、鉛の含有量を大幅に減少させた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法を提供することを課題とする。
なお、本明細書において、特に断りのない限り、熱間加工材には、熱間押出材、熱間鍛造材、熱間圧延材を含んでいる。冷間加工性とは、抽伸、伸線、圧延、かしめ、曲げなど冷間で行われる加工の性能を指す。ドリル切削は、ドリルによる穴あけ切削加工を指す。良好な、優れた被削性とは、旋盤を用いた外周切削やドリル穴あけ加工時、切削抵抗が低く、切屑の分断性が良いこと、或いは優れることを指す。伝導性とは、電気伝導性、熱伝導性を指す。また、β相には、β’相を含み、γ相には、γ’相を含み、α相にはα’相を含む。冷却速度とは、ある温度範囲での平均の冷却速度を指す。さらに、Biを含む粒子は、Bi粒子と、BiとPbの両方を含む粒子(BiとPbの合金の粒子)を指し、単にBi粒子と称することがある。1昼夜は、1日間を意味する。Pを含む化合物は、Pと、少なくともSi及びZnのいずれか一方又は両方とを含む化合物、場合によっては、さらにCuを含む化合物や、さらに不可避不純物であるFe、Mn、Cr、Coなどを含む化合物である。Pを含む化合物は、例えばP−Si、P−Si−Zn、P−Zn、P−Zn−Cuなどの化合物である。Pを含む化合物は、PとSi,Znを含む化合物とも言う。
上述の課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明者ら鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
上述の特許文献4では、Cu−Zn−Si合金において、β相は、銅合金の被削性にほとんど貢献することなく、むしろ阻害するとされている。特許文献2、3では、β相が存在する場合、熱処理によりβ相をγ相に変化させるとされている。特許文献7、8、9においても、β相の量は大幅に制限されている。特許文献1、12では、Cu−Zn−Sn−Bi合金において、優れた耐脱亜鉛腐食性を実現させるために、耐食性に劣るβ相が制限されている。
本発明者らは、まず、Cu−Zn−Si合金において、従来の技術では、被削性への効果がないとされていたβ相に関し、鋭意研究を重ね、被削性に大きな効果があるβ相の組成を究明した。すなわち、適切な量のCuとZnに、適切な量のSiを含有させたCu−Zn−Si合金のβ相は、Siを含有しないβ相に比べ、被削性が著しく向上した。しかしながら、Siを含有するβ相であっても、切屑の分断性や、切削抵抗では、3mass%のPbを含有した快削黄銅との被削性の差は依然として大きかった。
そこで、その課題を解決するために、更なる金属組織面からの改善手段があることが分かった。
1つは、β相自身の被削性(被削性能、被削性機能)を向上させるために、さらにPを含有させ、β相中へPを固溶し、そして約0.3〜3μmの大きさのPとSi,Znを含む化合物(例えばP−Si、P−Zn、P−Si−Zn、P−Zn−Cuなど)を、適切な量のSiを含有したCu−Zn−Si合金のβ相に析出させた。この結果、β相の被削性はより一層向上した。
しかしながら、被削性を向上させたβ相は、延性や靭性に乏しい。β相の被削性を損なわずに延性の改善を図るため、適正なβ相とα相の量と、α相とβ相の分布、およびα相の結晶粒の形状を制御した。
より重要な改善点は、被削性に乏しいα相の被削性の向上である。Siを含有したCu−Zn合金にBiを含有させると、Siの作用により、優先的にα相内に約0.1〜3μmの大きさのBi粒子を存在させることができる。これにより、α相の被削性が向上し、合金としての被削性が顕著に向上することを見出した。
以上のように、Siの含有により被削性が改善されたβ相と、Biの存在により被削性が改善されたα相と、そして、ごく少量のPbを含有させることにより、合金としての被削性を向上させることが可能であるとの知見を得た。勿論、前記のβ相内にPを固溶させ、Pを含む化合物を存在させると、さらに合金としての被削性が向上する。そして、場合によっては少量のγ相を含有させることにより、従来の多量のPbを含有する銅合金に匹敵する快削性能を有する本発明の快削性銅合金を発明するに至った。
本発明の第1の態様である快削性銅合金は、58.0mass%超え65.0mass%未満のCuと、0.30mass%超え1.30mass%未満のSiと、0.001mass%超え0.20mass%以下のPbと、0.020mass%超え0.10mass%以下のBiと、0.001mass%超え0.20mass%未満のPを含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co及びCrの合計量は、0.45mass%未満であり、かつSn及びAlの合計量は、0.45mass%未満であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.5≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]−0.5×[P]≦59.5
0.025≦f2=[Pb]+[Bi]<0.25
の関係を有し、
金属組織は、α相およびβ相を含み、金属間化合物、析出物、酸化物、及び硫化物である非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%とした場合に、
20≦(α)<85
15<(β)≦80
0≦(γ)<5
8.0≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5≦17.0
0.9≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2≦4.0
の関係を有し、
α相内にBiを含む粒子が存在していることを特徴とする。
本発明の第2の態様である快削性銅合金は、59.5mass%以上64.5mass%以下のCuと、0.50mass%超え1.20mass%以下のSiと、0.003mass%以上0.10mass%未満のPbと、0.030mass%以上0.10mass%未満のBiと、0.010mass%以上0.14mass%以下のPを含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co及びCrの合計量は、0.35mass%以下であり、かつSn及びAlの合計量は、0.35mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.8≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]−0.5×[P]≦59.0
0.04≦f2=[Pb]+[Bi]≦0.19
の関係を有し、
金属組織は、α相、β相を含み、金属間化合物、析出物、酸化物、及び硫化物である非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%とした場合に、
30≦(α)≦75
25≦(β)≦70
0≦(γ)<3
10.0≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5≦14.0
1.2≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2≦3.0
の関係を有し、
α相内にBiを含む粒子が存在し、かつβ相内にPを含む化合物が存在していることを特徴とする。
本発明の第3の態様である快削性銅合金は、本発明の第1、2の態様の快削性銅合金において、前記β相中に含有されるSi量が0.4mass%以上1.7mass%以下であることを特徴とする。
本発明の第4の態様である快削性銅合金は、本発明の第1〜3の態様の快削性銅合金において、熱間加工材、または熱間加工材に冷間加工が施された材料、または熱間加工と、焼鈍と、冷間加工とが施された材料であり、電気伝導率が14%IACS以上であり、かつ、少なくとも引張強さS(N/mm)が440N/mm以上であって、強度と伸び(E%)とのバランスを示すf8=S×(100+E)/100が580以上であることを特徴とする。
本発明の第5の態様である快削性銅合金は、本発明の第1〜4の態様の快削性銅合金において、自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品に用いられることを特徴とする。
本発明の第6の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜5の態様の快削性銅合金の製造方法であって、1以上の熱間加工工程を有し、前記熱間加工工程のうち、最終の熱間加工工程においては、熱間加工温度が530℃超え650℃未満であり、熱間加工後の530℃から450℃までの温度領域における平均冷却速度が0.1℃/分以上50℃/分以下であることを特徴とする。
本発明の第7の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第6の態様である快削性銅合金の製造方法において、冷間加工工程、矯正加工工程、及び焼鈍工程から選択される1以上の工程を更に有することを特徴とする。
本発明の第8の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第6,7の態様である快削性銅合金の製造方法において、前記熱間加工工程、前記冷間加工工程、前記矯正加工工程、及び前記焼鈍工程のうち、最終の工程の後に実施する低温焼鈍工程を更に有し、前記低温焼鈍工程では、保持温度が250℃以上430℃以下であり、保持時間が10分以上200分以下であることを特徴とする。
本発明の一態様によれば、熱間加工性に優れ、強度が高く、強度と延性のバランスに優れ、鉛の含有量を大幅に減少させた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法を提供することができる。
実施形態における快削性銅合金の組織観察写真である。 実施例のうち、試験No.T09の切削試験後の切屑の写真である。
以下に、本発明の実施形態に係る快削性銅合金及び快削性銅合金の製造方法について説明する。
本実施形態である快削性銅合金は、自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品に用いられるものである。具体的には、バルブ、水栓金具、給水栓、継手、歯車、ねじ、ナット、センサー、圧力容器などの、自動車部品、電気・家電・電子部品、機械部品、および、飲料用水、工業用水、水素などの液体、または気体と接触する器具・部品に用いられるものである。
ここで、本明細書では、[Zn]のように括弧の付いた元素記号は当該元素の含有量(mass%)を示すものとする。
そして、本実施形態では、この含有量の表示方法を用いて、以下のように、組成関係式f1及びf2を規定している。
組成関係式f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]−0.5×[P]
組成関係式f2=[Pb]+[Bi]
さらに、本実施形態では、金属間化合物、析出物、酸化物、硫化物などの非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%で示すものとする。各相の面積率は、各相の量、各相の割合、各相の占める割合とも言う。
そして、本実施形態では、以下のように、複数の組織関係式、及び、組成・組織関係式を規定している。
組織関係式f3=(α)
組織関係式f4=(β)
組織関係式f5=(γ)
組成・組織関係式f6=([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5
組成・組織関係式f7=([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2
本発明の第1の実施形態に係る快削性銅合金は、58.0mass%超え65.0mass%未満のCuと、0.30mass%超え1.30mass%未満のSiと、0.001mass%超え0.20mass%以下のPbと、0.020mass%超え0.10mass%以下のBiと、0.001mass%超え0.20mass%未満のPを含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、前記不可避不純物であるFe,Mn,Co及びCrの合計量が0.45mass%未満であり、かつ、Sn及びAlの合計量が0.45mass%未満であり、金属組織は、α相およびβ相を含み、上述の組成関係式f1が56.5≦f1≦59.5の範囲内、組成関係式f2が0.025≦f2<0.25の範囲内、組織関係式f3が20≦f3<85の範囲内、組織関係式f4が15<f4≦80の範囲内、組織関係式f5が0≦f5<5の範囲内、組成・組織関係式f6が8.0≦f6≦17.0の範囲内、組成・組織関係式f7が0.9≦f7≦4.0の範囲内とされており、α相内にBiを含む粒子が存在している。
本発明の第2の実施形態に係る快削性銅合金は、59.5mass%以上64.5mass%以下のCuと、0.50mass%超え1.20mass%以下のSiと、0.003mass%以上0.10mass%未満のPbと、0.030mass%以上0.10mass%未満のBiと、0.010mass%以上0.14mass%以下のP、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、前記不可避不純物であるFe,Mn,Co及びCrの合計量が0.35mass%以下であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.35mass%以下であり、金属組織は、α相およびβ相を含み、上述の組成関係式f1が56.8≦f1≦59.0の範囲内、組成関係式f2が0.04≦f2≦0.19の範囲内、組織関係式f3が30≦f3≦75の範囲内、組織関係式f4が25≦f4≦70の範囲内、組織関係式5が0≦f5<3の範囲内、組成・組織関係式f6が10.0≦f6≦14.0の範囲内、組成・組織関係式f7が1.2≦f7≦3.0の範囲内とされており、α相内にBiを含む粒子が存在し、かつ、β相内にPを含む化合物が存在している。
ここで、本発明の第1、2の実施形態である快削性銅合金においては、前記β相中に含有されるSi量が0.4mass%以上1.7mass%以下であることが好ましい。
さらに、電気伝導率が14%IACS以上であり、かつ、少なくとも引張強さS(N/mm)が440N/mm以上であって、引張強度と伸び(E%)とのバランスを示す特性関係式f8=S×(100+E)/100が580以上であることが好ましい。
以下に、成分組成、組成関係式f1,f2、組織関係式f3,f4,f5、組成・組織関係式f6,f7、特性関係式f8等を、上述のように規定した理由について説明する。
<成分組成>
(Cu)
Cuは、本実施形態の合金の主要元素であり、本発明の課題を克服するためには、少なくとも58.0mass%超えのCuを含有する必要がある。Cu含有量が、58.0mass%以下の場合、Si,Zn,P,Pb,Biの含有量や、製造プロセスにもよるが、β相の占める割合が80%を超え、材料としての延性に劣る。よって、Cu含有量の下限は、58.0mass%超えであり、好ましくは58.5mass%以上、より好ましくは59.5mass%以上であり、さらに好ましくは60.0mass%以上である。
一方、Cu含有量が65.0mass%以上であると、Si,Zn,P,Pb,Biの含有量や、製造プロセスにもよるが、β相の占める割合が少なくなり、γ相の占める割合が多くなる。場合によっては、μ相が出現する。従って、Cu含有量は、65.0mass%未満であり、好ましくは64.5mass%以下、より好ましくは64.0mass%以下である。
(Si)
Siは、本実施形態である快削性銅合金の主要な元素であり、Siは、κ相、γ相、μ相、β相、ζ相などの金属相の形成に寄与する。Siは、本実施形態の合金の被削性、強度、鋳造性、熱間加工性、耐摩耗性、耐応力腐食割れ性を向上させる。
また、Siの含有によって、被削性、特にβ相の被削性が向上し、α相、β相が固溶強化されるため、合金が強化され、合金の延性や靭性にも影響を与える。そしてSiの含有は、α相の導電率を低くするが、β相の形成により、合金の導電率を向上させる。
合金として優れた被削性を有し、高い強度を得て、鋳造性、熱間加工性を向上させるためには、Siは0.30mass%を超えた量で含有する必要がある。Si含有量は、好ましくは0.40mass%超えであり、より好ましくは0.50mass%超え、さらに好ましくは0.70mass%以上である。すなわち、合金のSi濃度が高いほど、β相に含有するSi濃度が高くなり、被削性、強度、熱間加工性が向上する。
熱間加工性に関し、Siの含有により、約500℃の比較的低温から、α相、β相の熱間変形能を高め、熱間変形抵抗を低くする。その結果、合金の熱間変形能を高め、熱間変形抵抗を低くする。
ところで、α相とβ相からなるCu−Zn合金に、Siを0.30mass%超え、好ましくは0.50mass%を超えた量で含有させると、Biが少量であっても、Bi粒子がα相内に存在するようになる。さらにSiを多く含有させると、Bi粒子がα相内に存在する頻度が高くなる。鋳造時の冷却中、熱間加工中、熱間加工後において、Biを含む銅合金の温度が約270℃以上であると、合金中のBiは、液状(溶融状態)で存在する。Siを含まない場合、α相とβ相からなるCu−Zn−Bi合金では、Bi粒子は、主としてα相とβ相の相境界、或いはβ相内に存在する。Siの作用により、Bi粒子をα相内に存在させることができるので、α相の被削性を向上させることが可能となっている。
一方、Si含有量が多すぎると、γ相が過多になり、場合によっては、κ相、μ相が出現する。γ相は、合金の被削性を向上させるが、β相より延性、靭性に劣り、合金の延性を低下させる。γ相が過多であると、却って被削性を低下させ、ドリル切削時のスラストが悪くなる。Siの増量(Si含有量を増やすこと)は合金の導電率を悪くする。本実施形態では、優れた被削性、高い強度と共に良好な延性、及び電気部品等を対象としていることから伝導性を兼ね備えることも目標としている。したがって、Si含有量の上限は、1.30mass%未満であり、好ましくは1.20mass%以下、より好ましくは1.10mass%以下である。製造プロセスやCu濃度、不可避不純物にもよるが、Si含有量が、おおよそ1.0mass%より少なくなると、γ相は、存在しなくなるが、β相の占める割合を増やし、BiとPbを少量含有することにより、優れた被削性を確保でき、強度と延性のバランスに優れるようになる。
前記の範囲の量のCuとZnとSiの含有によって形成されるβ相は、優れた被削性を有し、Siは優先的にβ相に配分されるので、少量のSiの含有で効果を発揮する。また、Cu−Zn合金にSiを含有させると、Biを含む粒子(以後、Bi粒子と称す)がα相内に存在しやすくなり、被削性に乏しいα相の被削性を向上させることができる。被削性に優れるβ相の組成としては、例えばCuが約59mass%、Siが約1mass%、Znが約40mass%の組成が挙げられる。α相の組成としては、例えばCuが約68mass%、Siが約0.6mass%、Znが約31mass%の組成が挙げられる。本実施形態の組成範囲で、α相も、Siの含有により被削性は改善されるが、その改善の度合いはβ相に比べはるかに小さい。α相内に被削性に優れたBi粒子を存在させることにより、α相の被削性を向上させることができる。
Cu−Znの2元合金ベースに、第3、第4の元素を含有させると、また、その元素の量を増減させると、β相の特性、性質は、変化する。特許文献2〜5に記載されているように、Cuが約69mass%以上、Siが約2mass%以上、残部がZnの合金で存在するβ相と、例えば、Cuが約62mass%、Siが約0.8mass%、残部がZnの合金で、生成するβ相とは、同じβ相であっても、特性や性質が異なる。さらに、不可避不純物が多く含まれると、β相の性質も変化し、場合によっては、被削性を含む特性が、低下することがある。同様にγ相の場合、形成されるγ相も主要元素の量や配合割合が異なると、γ相の性質は相違し、不可避不純物が多く含まれると、γ相の性質も変化する。そして、同じ組成であっても、温度などの製造条件によって、存在する相の種類、または、相の量、各相への各元素の分配が変化する。
(Zn)
Znは、Cu、Siとともに本実施形態である快削性銅合金の主要構成元素であり、被削性、強度、高温特性、鋳造性を高めるために必要な元素である。なお、Znは残部としているが、強いて記載すれば、Zn含有量は約41.5mass%より少なく、好ましくは約40.5mass%より少なく、約32.5mass%より多く、好ましくは33.5mass%より多い。
(Pb)
本実施形態においては、Siを含有したβ相によって被削性に優れるようになるが、さらに少量のPb、および少量のBiの含有によって、優れた被削性が達成される。本実施形態の組成において、Pbは、約0.001mass%の量がマトリックスに固溶し、それを超えた量のPbは直径が約0.1〜約3μmの粒子として存在する。PbとBiとの共添加で、主としてPbとBiを含んだ粒子(Biを含む粒子)として存在する。Pbは、微量で被削性に効果があり、Biの含有と相まって、0.001mass%超えの含有量で効果を発揮する。Pb含有量は、好ましくは0.003mass%以上である。
一方、Pbは、人体に有害であり、合金の延性、冷間加工性への影響もある。本実施形態においては、特に、現段階では環境や人体への影響が不明なBiを少量含有させるため、Pbの量は、自ずと制限する必要がある。よって、Pbの量は、0.20mass%以下であり、好ましくは0.10mass%未満、より好ましくは0.08mass%未満である。PbとBiは、各々単独で存在する場合もあるが、多くは共存し、共存してもPb、Biの被削性の効果は損なわれない。
(Bi)
Biは、約0.001mass%の量がマトリックスに固溶し、それを超えた量のBiは直径が約0.1〜約3μmの粒子として存在する。本実施形態においては、人体に有害なPbの量を0.20mass%以下に制限し、かつ、優れた被削性を目標としている。本実施形態において、Siの作用により、Bi粒子を、優先的にα相内に存在させ、α相の被削性を改善する。さらに、Si,Pの含有により被削性が大幅に改善されたβ相と相まって、合金として高度な被削性を有することが可能となった。Biによる被削性を改善する機能は、Pbより劣るとされていたが、本実施形態においてはPbと同じ、またはPbを超える効果を発揮することが、究明された。
α相の被削性を改善するためには、α相内に、Bi粒子が存在し、そしてBi粒子の存在頻度を高める必要があり、合金として高度な被削性を有するためには、少なくとも0.020mass%超えのBiが必要である。Bi含有量は、好ましくは、0.030mass%以上である。Biの環境や人体への影響は現段階では不明であるが、環境や人体への影響を鑑み、Biの量は、0.10mass%以下とし、好ましくは0.10mass%未満とし、かつ、PbとBiの合計含有量(後述する組成関係式f2)を、0.25mass%未満とする。Cu、Zn、Si、Pの含有量、β相の量、金属組織の要件をより適切にすることにより、Biが少量で、非常に限定された量であっても、合金として優れた被削性を得ることが可能になる。なお、α相内以外にもBi粒子が存在することがあるが、その場合においても、Biは、Pbによる被削性を改善する効果より小さいが、合金の被削性を向上させる。
(P)
Pは、Siを含有し主としてα相とβ相からなるCu−Zn−Si合金において、β相に優先的に配分される。Pに関しては、まず、β相中へのPの固溶により、Siを含有したβ相の被削性を向上させることができる。そして、Pの含有と製造プロセスによって、平均で直径0.3〜3μmの大きさのPを含む化合物が形成される。これらの化合物により、外周切削の場合、主分力、送り分力、背分力の3分力を低下させ、ドリル切削の場合では、特にトルクを引き下げる。外周切削の3分力と、ドリル切削のトルクと、切屑形状とは、連動しており、3分力、トルクが小さいほど、切屑は分断される。
Pを含む化合物は、熱間加工中には形成されない。Pは、熱間加工中、β相中に固溶する。そして、熱間加工後の冷却過程において、ある臨界の冷却速度以下で、主としてβ相内に、Pを含む化合物が析出する。α相中に、Pを含む化合物が析出することはほとんどない。金属顕微鏡で観察すると、Pを含む析出物は、小さな粒状の粒子で、平均粒子径は約0.3〜3μmである。そして、その析出物を含有したβ相は、さらに優れた被削性を備えることができる。Pを含む化合物は、切削工具の寿命にほとんど影響を与えず、合金の延性や靭性をほとんど阻害しない。Fe,Mn,Cr,Coと、Si,Pを含む化合物は、合金の強度や耐摩耗性の向上に寄与するが、合金中のSi,Pを消費し、合金の切削抵抗を高め、切屑の分断性を低下させ、工具寿命を悪くし、延性も阻害する。
またPは、Siとの共添加で、Biを含む粒子を、α相内に存在させやすくする働きがあり、α相の被削性の向上に貢献している。
これらの効果を発揮するためには、Pの含有量の下限は0.001mass%超えであり、好ましくは0.003mass%以上、より好ましくは0.010mass%以上、さらに好ましくは0.020mass%以上である。0.010mass%を超える量のPを含有することにより、Pを含む化合物の存在が、倍率500倍の金属顕微鏡で観察できるようになる。
一方、Pを、0.20mass%以上の量で含有させると、析出物が粗大化して被削性への効果が飽和するだけでなく、β相中のSi濃度が低下し、被削性が悪くなり、延性や靭性も低下する。このため、Pの含有量は、0.20mass%未満であり、好ましくは0.14mass%以下であり、より好ましくは0.10mass%以下である。Pの含有量は、0.05mass%未満でも、β相へのPの固溶と、十分な量のPを含む化合物を形成する。
なお、例えばPとSiの化合物は、Mn,Fe,Cr,CoなどSiやPと化合しやすい元素の量が増えると、徐々に化合物の組成比も変化する。すなわち、β相の被削性を顕著に向上させるPを含む化合物から、徐々に被削性に効果の少ない化合物に変化する。従って、少なくともFe,Mn,Co及びCrの合計含有量を0.45mass%未満、好ましくは0.35mass%以下にしておく必要がある。
(不可避不純物、特にFe,Mn,Co及びCr/Sn,Al)
本実施形態における不可避不純物としては、例えばMn,Fe,Al,Ni,Mg,Se,Te,Sn,Co,Ca,Zr,Cr,Ti,In,W,Mo,B,Ag及び希土類元素等が挙げられる。
従来から快削性銅合金、特にZnを約30mass%以上の量で含む快削黄銅は、電気銅、電気亜鉛など、良質な原料が主原料ではなく、リサイクルされる銅合金が主原料となる。当該分野の下工程(下流工程、加工工程)において、ほとんどの部材、部品に対して切削加工が施され、材料100に対して40〜80の割合で多量に廃棄される銅合金が発生する。例えば切屑、端材、バリ、湯道、および製造上の不良を含む製品などが挙げられる。これら廃棄される銅合金が、主たる原料となる。切削切屑、端材などの分別が不十分であると、Pbが添加された快削黄銅、Pbを含有しないがBiなどが添加されている快削性銅合金、或いは、Si,Mn,Fe,Alを含有する特殊黄銅合金、その他の銅合金から、Pb,Fe,Mn,Si,Se,Te,Sn,P,Sb,As,Bi,Ca,Al,Zr,Niおよび希土類元素が、原料として混入する。また切削切屑には、工具から混入するFe,W,Co,Moなどが含まれる。廃材は、めっきされた製品を含むため、Ni,Cr、Snが混入する。また、電気銅の代わりに使用される純銅系のスクラップの中には、Mg,Sn,Fe,Cr,Ti,Co,In,Ni,Se,Teが混入する。電気銅や電気亜鉛の代わりに使用される黄銅系のスクラップには、特に、Snがメッキされていることが度々あり、高濃度のSnが混入する。
資源の再使用の点と、コスト上の問題から、少なくとも特性に悪影響を与えない範囲で、これらの元素を含むスクラップは、原料として使用される。なお、JIS規格(JIS H 3250)のPbが添加された快削黄銅棒C3604において、必須元素のPbを約3mass%の量で含有し、さらに不純物として、Fe量は0.5mass%以下、Fe+Sn(FeとSnの合計量)は、1.0mass%まで許容されている。またJIS規格(JIS H 5120)のPbが添加された黄銅鋳物において、必須元素のPbを約2mass%の量で含有し、さらに、残余成分の許容限度として、Fe量は0.8mass%、Sn量は1.0mass%以下、Al量は0.5mass%、Ni量は1.0mass%以下とされている。市販のC3604で、FeとSnの合計含有量はおおよそ0.5mass%であり、さらに高い濃度のFeやSnが快削黄銅棒に含有されていることがある。
Fe,Mn,Co及びCrは、Cu−Zn合金のα相、β相、γ相にある濃度まで固溶するが、そのときSiが存在すると、Siと化合しやすく、場合によってはSiと結合し、被削性に有効なSiを消費させる恐れがある。そして、Siと化合したFe,Mn,Co及びCrは、金属組織中にFe−Si化合物,Mn−Si化合物,Co−Si化合物,Cr−Si化合物を形成する。これらの金属間化合物は非常に硬いので、切削抵抗を上昇させるだけでなく、工具の寿命を短くする。このため、Fe,Mn,Co及びCrの量は、制限しておく必要があり、それぞれの含有量は、0.30mass%未満が好ましく、より好ましくは0.20mass%未満であり、0.15mass%以下がさらに好ましい。特に、Fe,Mn,Co,Crの含有量の合計は、0.45mass%未満とする必要があり、好ましくは0.35mass%以下であり、より好ましくは0.25mass%以下であり、さらに好ましくは0.20mass%以下である。
一方、快削性黄銅や、めっきが施された廃製品などから混入するSn,Alは、本実施形態の合金においてγ相の形成を促進させ、一見被削性に有用であるように思われる。しかしながら、SnとAlは、Cu,Zn,Siで形成されるγ相本来の性質も変化させる。また、Sn,Alは、α相より、β相に多く配分され、β相の性質を変化させる。その結果、合金の延性や靭性の低下、被削性の低下を引き起こすおそれがある。そのため、Sn、Alの量も制限しておくことが必要である。Snの含有量は、0.40mass%未満が好ましく、0.30mass%未満がより好ましく、0.25mass%以下がさらに好ましい。Alの含有量は、0.20mass%未満が好ましく、0.15mass%未満がより好ましく、0.10mass%以下がさらに好ましい。特に、被削性、延性への影響を鑑み、Sn,Alの含有量の合計は、0.45mass%未満にする必要があり、好ましくは0.35mass%以下であり、より好ましくは0.30mass%以下であり、0.25mass%以下がさらに好ましい。
その他の主要な不可避不純物元素として、経験的に、Niはメッキ製品などのスクラップからの混入が多いが、特性に与える影響は前記のFe,Mn,Sn等に比べて小さい。FeやSnが多少混入したとしても、Niの含有量が0.3mass%未満であれば特性への影響は小さく、Niの含有量は0.2mass%以下がより好ましい。Agについては、一般的にAgはCuとみなされ、諸特性への影響がほとんどないことから、特に制限する必要はないが、Agの含有量は、0.1mass%未満が好ましい。Te,Seは、その元素自身が快削性を有し、稀であるが多量に混入する恐れがある。延性や衝撃特性への影響を鑑み、Te,Seの各々の含有量は、0.2mass%未満が好ましく、0.05mass%以下がより好ましく、0.02mass%以下がさらに好ましい。また、耐食性黄銅には、黄銅の耐食性を向上させるためにAsやSbが含まれているが、延性や衝撃特性への影響を鑑み、As,Sbの各々の含有量は、0.05mass%未満が好ましく、0.02mass%以下が好ましい。
その他の元素であるMg,Ca,Zr,Ti,In,W,Mo,B,および希土類元素等のそれぞれの含有量は、0.05mass%未満が好ましく、0.03mass%未満がより好ましく、0.02mass%未満がさらに好ましい。
なお、希土類元素の含有量は、Sc,Y,La、Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Tb,及びLuの1種以上の合計量である。
以上、これら不可避不純物の合計量は、1.0mass%未満が好ましく、0.8mass%未満がより好ましく、0.7mass%未満がさらに好ましい。
(組成関係式f1)
組成関係式f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]−0.5×[P]は、組成と金属組織の関係を表す式で、各々の元素の量が上記に規定される範囲にあっても、この組成関係式f1を満足しなければ、本実施形態が目標とする諸特性を満足できない。組成関係式f1が56.5未満であると、製造プロセスを工夫したとしても、β相の占める割合が多くなり、延性が悪くなる。よって、組成関係式f1の下限は、56.5以上であり、好ましくは56.8以上であり、より好ましくは57.0以上である。組成関係式f1がより好ましい範囲になるにしたがって、α相の占める割合が増え、優れた被削性を保持するとともに、良好な延性、冷間加工性、耐応力腐食割れ性を備えることができる。
一方、組成関係式f1の上限は、β相の占める割合、または、γ相の占める割合、そして凝固温度範囲に影響し、組成関係式f1が59.5より大きいと、β相の占める割合が少なくなり、優れた被削性が得られない。同時にγ相の占める割合が多くなり、延性が低下し、強度も下がる。場合によっては、μ相が析出する。そして凝固温度範囲が25℃を超え、引け巣やざく巣などの鋳造欠陥が発生しやすくなる。よって、組成関係式f1の上限は、59.5以下であり、好ましくは59.0以下であり、より好ましくは58.8以下であり、さらに好ましくは58.4以下である。
また、約600℃の熱間加工性に関しても、組成関係式f1は深くかかわっており、組成関係式f1が56.5より小さいと、熱間変形能に問題が生じる。組成関係式f1が59.5より大きいと、熱間変形抵抗が高くなり、600℃での熱間加工が困難になる。
本実施形態である快削性銅合金は、切削時の抵抗を低くし、切屑を細かく分断させるという一種の脆さが求められる被削性と、延性との全く相反する特性を備えたものであるが、組成だけでなく、組成関係式f1,f2および、後述する組織関係式f3〜f5、組成・組織関係式f6,f7を、詳細に議論することにより、より目的や用途に合った合金を提供することができる。
なお、Sn,Al,Cr,Co,Fe,Mnおよび別途規定した不可避不純物については、不可避不純物として扱われる範疇の範囲内であれば、組成関係式f1に与える影響が小さいことから、組成関係式f1では規定していない。
(組成関係式f2)
本実施形態においては、少量のPb、Biの含有、かつ限定された量のPb、Biで、優れた被削性を得ることを目的としている。本実施形態でのBiは、主として、α相の被削性の改善効果に発揮され、Pbと同等以上の被削性の効果がある。被削性を向上させる効果として簡潔に表すために、Pb、Biを各々単独で規定するだけでは不十分であり、組成関係式f2=[Pb]+[Bi]として規定する。
優れた被削性を得るためには、少なくともf2は、0.025以上であり、好ましくは、0.03以上である。切削速度が速くなる場合、送りが大きくなる場合、外周切削の切込深さが深くなる場合、ドリル穴径が大きくなる場合などのように、切削条件が厳しくなる場合は、f2は、より好ましくは0.04以上であり、さらに好ましくは0.05以上である。上限は、f2が大きいほど、被削性は向上するが、本実施形態においては、Biの環境や人体への影響度をPbと同列に捉えているので、合計含有量で制限する必要がある。環境や人体への影響を鑑み、f2は、0.25未満が好ましく、より好ましくは、0.19以下である。前記Siの含有によって、被削性が顕著に改善されたβ相の効果が絶大で、少量のBi、Pbの含有で優れた被削性を備えることができる。
(特許文献との比較)
ここで、上述した特許文献1〜14に記載されたCu−Zn−Si合金と本実施形態の合金との組成を比較した結果を表1,2に示す。
本実施形態と特許文献1、12とは、Snの含有量が異なっており、実質的に多量のBiを必要としている。
本実施形態と特許文献2〜9とは、主要元素であるCu、Siの含有量が異なっており、Cuを多量に必要としている。
特許文献2〜4、7〜9では、金属組織においてβ相は、被削性を阻害するとして、好ましくない金属相として挙げられている。そして、β相が存在する場合、熱処理によって、被削性に優れるγ相に、相変化させることが好ましいとされている。
特許文献4、7〜9では、許容できるβ相の量が記載されているが、β相の面積率は、最大で5%である。
特許文献10では、耐脱亜鉛腐食性を向上させるために、SnとAlを少なくとも、各々0.1mass%以上の量で含有し、優れた被削性を得るためには、多量のPb、Biの含有を必要としている。
特許文献11では、Cuを65mass%以上の量で必要とし、Siの含有とともに、Al,Sb,Sn,Mn,Ni,B等を微量含有させることにより、良好な機械的性質、鋳造性を備えた耐食性を有する銅合金の鋳物である。
特許文献14では、Biを含有せず、Snを0.20mass%以上の量で含有し、700℃〜850℃の高温に保持し、次いで熱間押出するとしている。
さらにいずれの特許文献においても、本実施形態で必須の要件である、Siを含有するβ相が被削性に優れていること、少なくともβ相の量が15%を超えて必要であること、β相の被削性の向上にPが有効であり、β相内に微細なPとSi、Znの化合物が存在すること、Biを含む粒子がα相内に存在していることに関し、何も開示されておらず示唆もされていない。
Figure 2021042462
Figure 2021042462
<金属組織>
Cu−Zn−Si合金には、10種類以上の相が存在し、複雑な相変化が起こり、組成範囲、元素の関係式だけでは、目的とする特性が必ずしも得られない。最終的には金属組織に存在する相の種類とその面積率の範囲を特定し、決定することによって、目的とする特性を得ることができる。そこで、以下のように、組織関係式、及び、組成・組織関係式を規定している。
20≦f3=(α)<85、
15<f4=(β)≦80、
0≦f5=(γ)<5、
8.0≦f6=([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5≦17.0、
0.9≦f7=([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2≦4.0
(γ相、組織関係式f5)
特許文献2〜9に記載されているように、γ相は、Cu濃度が約69〜約80mass%、Si濃度が約2〜約4mass%のCu−Zn−Si合金において、被削性に最も貢献する相である。本実施形態においても、γ相は被削性に貢献することが確認できたが、延性と強度とのバランスを優れたものにするためには、γ相を大幅に制限しなければならない。具体的には、γ相の占める割合を5%以上にすると、良好な延性や靭性が得られない。γ相は、少量で、ドリル切削のトルクを低くし、切屑の分断性をよくする作用があるが、γ相が多く存在すると、スラスト抵抗値、外周切削の抵抗値を高くする。β相が15%超えの量(面積率、以下、相の量の単位は面積率である)で存在することを前提に、γ相の被削性への効果は、γ相の量の1/2乗の値に相当し、少量のγ相が含有する場合では、被削性への改善効果は大きいが、γ相の量を増やしても被削性の改善効果は減少していく。同時に、γ相の増加は、β相の減少につながる。延性と、ドリル切削や外周切削の切削抵抗を考慮に入れると、γ相の占める割合は、5%未満にする必要がある。さらにはγ相の面積率は、3%未満であることが好ましく、1%未満であることがより好ましい。γ相が存在しない、すなわち、(γ)=0の場合でも、Siを含有するβ相を後述の割合で存在させ、かつPbとBiを含有させることにより、優れた被削性が得られる。
(β相、組織関係式f4)
γ相を制限し、κ相、μ相を皆無、または含まず、優れた被削性を得るためには、最適なSi量とCu、Znの量との配合割合、β相の量、β相に固溶するSi量が重要となる。なお、ここで、β相には、β’相が含まれる。
本実施形態における組成範囲にあるβ相は、α相に比べると延性に乏しいが、延性や靭性の面からは、大きな制約を受けるγ相に比べると、遥かに延性に富み、Cu−Zn−Si合金のκ相、μ相と比べても延性に富む。したがって、延性の点から、比較的多くのβ相を含有させることができる。また、β相は、高濃度のZnとSiを含有するにも関わらず、良好な伝導性を得ることができる。但し、β相やγ相の量は、組成だけでなく、プロセスに大きく影響される。
本実施形態の快削性銅合金であるCu−Zn−Si−P−Pb−Bi合金において、Pb、Biの含有量を最小限に留めながら良好な被削性にするためには、少なくとも、β相は、15%超えの面積率で必要であり、β相の面積率は、好ましくは、25%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは、40%以上である。γ相の量が0%であっても、β相が約15%超えの面積率で存在すると、良好な被削性を備えることができる。β相の量が約50%、被削性に乏しいα相の占める割合が約50%であっても、Siを含有したβ相が100%の合金と比較しても、高いレベルで被削性が維持され、かつ、良好な延性と強度を得ることができる。例えば、約1mass%のSiを含み、かつ、β相内にPを含む化合物が存在するβ相と、良好な延性を持つ軟らかなα相が共存する場合、軟らかなα相が、クッション材のような役割を果たす、或いは、α相と硬質のβ相の相境界が切屑の分断の起点になると考えられ、β相の量が約50%であっても、優れた被削性を保持する、すなわち、低い切削抵抗を維持し、場合によっては切屑の分断性が向上する。
機械的性質については、延性が増すこと、及びβ単相からα相が析出することにより結晶粒が細かくなることが相まって、β相の強度を維持する。β相の強度は、β相に固溶するSi量に関係し、β相にSiが約0.4mass%以上固溶すると高い強度が得られる。延性面では、β相の量が約50%、または約50%を超えても、クッション材のα相の作用により、α相の優れた延性が優先され、維持される。但し、β相の量が増えるにしたがって、徐々に、延性が低下する。良好な延性を得て、強度と延性のバランスをよくするためには、β相の占める割合を80%以下にする必要があり、好ましくは70%以下である。延性や冷間加工性を重要視するとき、β相の占める割合は、60%以下が好ましい。使用する目的、用途により、適切なβ相の占める割合は、多少変動する。
なお、Siを約1mass%の量で含有したβ相は、500℃の熱間加工の最低レベルの温度から、優れた熱間変形能、低い熱間変形抵抗を示し、合金として優れた熱間変形能、低い熱間変形抵抗を示す。
(Si濃度とβ相の被削性)
本実施形態における組成範囲において、β相に固溶するSi量が増えるほど、被削性が向上し、β相の量が増えるほど、被削性は向上する。β相中に固溶するSiの量は、大よそ0.15mass%で効果を発揮し始め、Siの量が約0.4mass%以上で、被削性への効果が明確になり、Siの量が、約0.6mass%以上、さらには約1.0mass%以上でより一層、被削性への効果が明瞭になる。これらβ相中に固溶するSiの量は、製造プロセスやβ相の量に左右されるが、例えば合金のSi濃度が0.8mass%の場合、β相中のSi濃度は0.9mass%〜1.2mass%になる。一方、β相に固溶するSiの量が1.7mass%を超えると、被削性への効果が飽和すると同時に、β相の延性が低下し、合金として延性が低下する。このため、β相に固溶するSi量は1.7mass%以下が好ましい。
次に、Siを含有したβ相が、被削性への効果が発揮し始めるのは、含有するSiの量によって変動するが、β相の量が大よそ5%〜8%のときであり、β相の量が増えるにしたがって、合金の被削性が急激に向上する。β相の量が15%超えで、合金の被削性に大きな効果を発揮し、β相が、25%、35%、40%に増えるにしたがってさらに被削性が向上する。
他方、β相に固溶するSi量、β相の量も、それらが増えるにしたがってその効果は徐々に飽和していく。合金のSi濃度と、β相の量と、合金の被削性の関係を鋭意研究の結果、合金の被削性は、簡便的に、Si濃度(mass%)を[Si]とし、β相の量(%)を(β)とした時、((β)−7)1/2に([Si]−0.1)1/2を掛け合わせた値(((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2)とよく適合することが判明した。
β相が、合金の被削性に効果を発揮し始める量は、約7%である。項((β)−7)1/2は、β相の面積率(β)から7%を減じた((β)−7)の1/2乗である。
Siが、合金の被削性に効果を発揮し始める濃度は、約0.1mass%である。項([Si]−0.1)1/2は、Si濃度[Si]から0.1mass%を差し引いた([Si]−0.1)の1/2乗である。
すなわち、同じ量のβ相であっても、Si濃度が高いほうが、被削性がよい。同じSi濃度であっても、β相の量が多いほど被削性が良く、その効果は、本実施形態で規定するSi濃度、β相の量が前提で、((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2で表すことができる。
(組成・組織関係式f6、f7)
組成・組織関係式f6、7は、組成関係式f1,2、組織関係式f3〜f5に加え、総合的に優れた被削性と機械的性質を得るための、組成と金属組織が関わった式である。f6は、被削性を得るための加算式であり、f7は、被削性の相互作用、相乗効果を表した関係式である。
Cu−Zn−Si−P−Pb−Bi合金において、被削性は、PbとBiの合計量(f2)、β相の量とSiの量、Pの量とPを含む化合物の存在、γ相の量に影響され、それぞれの効果が加算される。PbとBiの量と被削性への影響度を鑑みると、PbとBiによる被削性への効果は、([Bi]+[Pb]−0.002)1/2で表わすことができる。
被削性効果を発揮し始めるPbとBiの合計量は、0.002mass%である。([Bi]+[Pb]−0.002)1/2は、PbとBiの合計量から0.002mass%を差し引いた([Bi]+[Pb]−0.002)の1/2乗である。
β相の量とSiの量に関しては、前記のとおり、((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2で表すことができる。γ相の量に関して、被削性の効果は、γ相の量(%)の1/2乗で整理される。そして、Pを含む化合物の存在とその量、β相への固溶量を考慮し、Pの被削性への効果は、([P]−0.001)1/2で表わすことができる。
Pが効果を発揮し始める量は、0.001mass%である。([P]−0.001)1/2は、Pの量[P]から0.001mass%を差し引いた([P]−0.001)の1/2乗である。
これらの、各効果の要素に、鋭意研究を重ねた結果から導き出された係数を掛け合わせてf6が得られ、f6は、被削性への効果の加算式である。
f6=([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5
f6において、優れた被削性、高い強度を得るためには、少なくとも8.0以上必要であり、好ましくは8.5以上であり、より好ましくは9.2以上である。特に切削条件が厳しくなる場合は、f6は、10.0以上が好ましく、より好ましくは11.0以上である。一方、f6の上限は、環境や人体への影響、合金の延性、冷間加工性から、17.0以下であり、好ましくは15.0以下である。f6の上限は、([Bi]+[Pb])1/2の項を小さくする観点から、より好ましくは14.0以下であり、さらに好ましくは13.0以下である。
他方、被削性の相互作用、相乗作用は、PbとBiの合計量(f2)と、β相の量と、Siの量の積で表すことができる。前記のとおり、PbとBiの合計量の効果が発揮し始める量、β相が効果を発揮し始める量、Siが効果を発揮し始める量を鑑み、以下の関係式となる。
f7=([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2
f7は、PbとBiの項と、β相の項と、Siの項の積であるので、1つ項が小さすぎると、f7が満たせない場合がある。優れた被削性を得るためには、f7は、0.9以上必要であり、好ましくは1.0以上である。特に、切削条件が厳しくなる場合は、f7は、好ましくは1.2以上であり、さらに好ましくは1.4以上である。f7が、4.0を超えると、合金の延性、冷間加工性が低くなる。このため、f7は、4.0以下であり、好ましくは3.0以下であり、Pb+Biの項を小さくすることから、より好ましくは2.5以下である。
f6を、8.0以上17.0以下、好ましくは10.0以上14.0以下、最適には11.0以上13.0以下とし、かつ、f7を、0.9以上4.0以下、好ましくは1.2以上3.0以下、より好ましくは1.4以上2.5以下とする。このように狭い範囲で、組成と金属組織を制御することにより、Pb+Biの量を少なくし、優れた被削性、高い強度、良好な延性、冷間加工性を備える合金が完成する。被削性に関しては、β相中に含有されるSi濃度およびβ相の量、β相中でのPの固溶量およびβ相中に存在するPを含む化合物の量、α相中にBiを含む粒子の存在とその量、その他、微細な粒子として存在するBiおよびPbの量は、それぞれ別々の作用により合金の被削性を向上させる。これらのすべての要件が揃うと、それらの相互作用、相乗効果により、大きな被削性の改善効果を発揮し、ごく少量のPb、Bi、Pを含有することで、大幅に合金の被削性が向上する。
なお、組織関係式f3〜f5及び組成・組織関係式f6,f7においては、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の金属相を対象としており、Pを含む化合物を除く金属間化合物、Pb粒子、Bi粒子、酸化物、非金属介在物、未溶解物質などは対象としていない、すなわち、面積率の対象から除外される。Pを含む化合物は、その大きさが平均で、約0.3〜3.0μmで微細であり、大部分がβ相内、及びα相とβ相の境界に存在するので、β相内、及びα相とβ相の境界にあるPを含む化合物は、β相に含めるものとする。稀にPを含む化合物がα相内に存在する場合は、α相に含めるものとする。一方、SiやPと不可避的に混入する元素(例えばFe,Mn,Co,Cr)によって形成される金属間化合物は、金属相の面積率の適用範囲外である。本実施形態においては、500倍の金属顕微鏡で観察できる大きさ、約1000倍の金属顕微鏡で確認、判別できる析出物、金属相を対象としている。したがって、観察できる析出物、金属相の大きさの最小値は、概ね、約0.5μmであり、例えば、β相内に、約0.5μmより小さな、0.1〜0.4μmの大きさのγ相が存在することもあるが、これらのγ相は、金属顕微鏡では確認できないので、β相と見なす。
(α相、組織関係式f3)
α相は、β相、或いはγ相とともにマトリックスを構成する主要な相である。Siを含有したα相は、Siを含有しないものに比べると、被削性は少しの向上に留まり、Siの量が所定内であれば延性に富む。β相が100%であると、合金の延性で問題があり、適切な量のα相が必要である。β単相合金から、α相を比較的多く含んでも、例えば約50%の面積率で含んでも、α相自体がクッション材の役割を果たし、切削時、硬質のβ相との境界が応力集中源になって切屑を分断し、優れたβ単相合金の被削性が維持され、場合によっては被削性が向上すると考えられる。
鋭意研究を重ねた結果、合金の延性、冷間加工性の点から、α相の量は、20%以上必要であり、好ましくは30%以上である。本実施形態の対象とする用途において、切削加工後、冷間でカシメ加工が施されることがあり、カシメ時に割れないためには、α相の面積率は、40%以上であることが好ましい。一方、α相の面積率の上限は、優れた被削性を得るためには、少なくとも、85%未満であり、好ましくは75%以下であり、より好ましくは65%以下である。α相が多いと、被削性が改善されたβ相の量が少なくなり、またα相の被削性を改善するBiの量、すなわちα相中に存在するBi粒子が多く必要となる。
(被削性、機械的性質とα相の形状、β相の分布)
合金の被削性、機械的性質に及ぼす、α相の形状、分布、β相の分布に関し、α相結晶粒の形状が針状(結晶粒の長辺/短辺の比が4を超える楕円形)であるとα相の分散状況が悪くなり、針状の、長辺の大きいα相が、切削時の妨げになる。α相の量にもよるが、α相の形状が粒状で、α相結晶粒の平均結晶粒径が約30μm以下で細かいと、α相によってβ相が分断され、切削時に切屑分断の起点となり、β単相合金より切屑の分断性が向上すると思われる。したがって、好ましい実施形態として、長辺/短辺が4以下の粒状のα相結晶粒が全α相結晶粒に占める割合が50%以上、より好ましくは75%以上であると、被削性は向上する。厳密には、粒状のα相結晶粒の占める割合は、ある視野内でのα相結晶粒の総数(個数)を分母とし、長辺/短辺が4以下である粒状のα相結晶粒の数(個数)を分子とする割合であり、(長辺/短辺が4以下である粒状のα相結晶粒の数(個数)/α相結晶粒の総数(個数))×100である。そして、針状の、長辺の大きいα相結晶粒が占める割合が50%を超えると、延性は概ね維持されるが、合金の強度が下がる。したがって、粒状のα相結晶粒の割合が高くなると、強度が高くなり、強度と延性のバランスが向上する。長辺/短辺が4以下の粒状のα相結晶粒の占める割合が50%、或いは75%を超えるか否かは、組成だけでなく、製造プロセスに影響され、熱間加工温度が低いと、長辺/短辺が4以下の粒状のα相結晶粒の占める割合が高くなる。
なお、本実施形態では、結晶粒の長辺と短辺は、例えば500倍の倍率で結晶粒を観察して画像解析法により測定される。詳細には、結晶粒を楕円形と見立て、長辺(長径)は、結晶粒の輪郭上の2点を結ぶ線分のうち最長の線分の長さであり、短辺(短径)は、長辺に垂直に線を引いた時に粒界(結晶粒の輪郭)によって切断される線分のうち最長の線分の長さである。
α相結晶粒の平均結晶粒径は、以下の方法で測定される。JIS H 0501の伸銅品結晶粒度試験方法に記載の求積法に準じて粒径の平均値を測定する。そして、粒径の平均値にα相の面積率を乗じた値を平均結晶粒径とする。
化合物の粒子の粒径は、粒子の輪郭上の2点を結ぶ線分のうち最長の線分の長さであり、画像解析法により測定される。化合物の粒子の平均粒径は、測定された粒径の個数平均である。
(μ相、κ相、その他の相)
優れた被削性を備えるとともに、高い延性や靭性、高い強度を得るには、α、β、γ相以外の相の存在も重要である。本実施形態では、諸特性を鑑み、κ相、μ相、或いはδ相、ε相、ζ相、η相は、必要としない。金属組織を形成する構成相(α)、(β)、(γ)、(μ)、(κ)、(δ)、(ε)、(ζ)、(η)の総和を100としたとき、好ましくは、(α)+(β)+(γ)>99であり、測定上の誤差、数字の丸め方を除けば、最適には(α)+(β)+(γ)=100である。
(α相内に存在するBi粒子(Biを含む粒子))
Siを含有させたβ単相合金、さらに、Pを含む化合物を存在させたβ単相合金の被削性は、3mass%のPbを含有する快削黄銅の水準に近づくが、まだ達していない。より優れた被削性を得るためには、α相は、β相間のクッション材、切屑分断の起点の役割を果たし、切屑分断性が向上するものの、やはりα相自体の被削性を向上させる必要がある。本実施形態の合金において、Si、さらにPの含有により、約0.1〜3μmの大きさのBi粒子をα相に存在させやすくする。Bi粒子をα相内に存在させることにより、α相の被削性が顕著に向上し、被削性が向上したβ相と相まって、合金としての被削性を顕著に向上させることができる。
なお、Biは、銅合金にほとんど固溶せず、金属顕微鏡で観察すると0.3μm〜3μmの大きさの円形状の粒子として存在する。Biは、Cuや、CuとZnの合金である黄銅に比べ、融点が低く、原子番号が大きく、原子サイズが大きい。このため、Siを含まず、β相の割合が、おおよそ20%を超える黄銅合金の場合、Bi粒子は、α相には、ほとんど存在せず、主としてα相とβ相の相境界に存在し、β相の量が増すにしたがって、β相内にも多く存在する。本実施形態において、Cu−Zn合金へのSiの作用により、Bi粒子がα相内に存在する頻度が高くなることを究明した。その作用は、Si含有量が、大よそ0.1mass%で効果を発揮し始めるが不十分であり、Si含有量が、0.3mass%超え、0.5mass%超え、0.7mass%以上と増すに従って、明確になる。そして、Pの含有によって、Bi粒子がα相中に存在する頻度が高められる。Biは、Pbより被削性が劣るとされていたが、本実施形態においては、α相内にBi粒子を存在させることにより、Pbと同等以上の被削性を得ることができる。BiとPbを共に添加すると、その多くの粒子には、BiとPbが共存するが、Biを単独で含有する場合と類似の効果を発揮する。なお、α相中へのBi粒子が存在する頻度を高め、α相の被削性を高めるためには、Biは、0.020mass%を超えた量で含有しなければならない。さらに、Bi粒子をα相中に存在させると、Bi粒子がα相とβ相の相境界に存在する場合に比べ、常温、約300℃、約500℃での延性、加工性がよくなる。
(Pを含む化合物の存在)
Siを含有することによりβ相の被削性は大きく改善し、そしてPの含有、Pのβ相への固溶で被削性はさらに改善される。加えて、β相内に、粒径が約0.3〜約3μmのPとSi,Znによって形成される化合物を存在させることによって、β相は、一段と優れた被削性を備えることができる。Biを含有せず、Pb量が0.01mass%、P量が0.05mass%、Si量が約1mass%のβ単相合金の被削性は、Pを含む化合物が十分存在することによって、Pが無添加のβ単相合金に比べると、被削性指数で、約10%向上する。
Siを含有させたβ相に、Pを含む化合物を存在させることにより、β相の被削性がさらに高められる。またBi粒子の存在によってα相の被削性が高められる。単純に10%の被削性が向上する効果は期待できないが、より好ましい実施形態として、これら被削性がさらに高められたβ相と、被削性が高められたα相の組み合わせにより、より被削性の優れた合金になる。
Pを含む化合物は、Pと、少なくともSi及びZnのいずれか一方又は両方とを含む化合物、場合によっては、さらにCuを含む化合物や、さらに不可避不純物であるFe、Mn、Cr、Coなどを含む化合物である。そして、Pを含む化合物は、不可避不純物であるFe,Mn,Cr,Coなどにも影響される。不可避不純物の濃度が、前記で規定した量を超えると、Pを含む化合物の組成が変化し、被削性の向上に寄与しなくなるおそれがある。なお、約600℃の熱間加工温度では、Pを含む化合物は存在せず、熱間加工後の冷却時の臨界の冷却速度で生成する。したがって、熱間加工後の冷却速度が重要となり、530℃から450℃の温度域を、50℃/分以下の平均冷却速度で冷却することが望ましい。一方、冷却速度が遅すぎると、Pを含む化合物が成長し易くなり、被削性への効果が低下する。前記の平均冷却速度の下限は、0.1℃/分以上が好ましく、0.3℃/分以上がより好ましい。冷却速度の上限値50℃/分は、Pの量によっても多少変動し、Pの量が多いとより早い冷却速度でもPを含む化合物が形成される。
ここで、図1に、本実施形態である快削性合金の金属組織写真を示す。
図1は、Zn−63.1mass%Cu−1.13mass%Si−0.047mass%P−0.053mass%Pb−0.073mass%Bi合金であって、640℃で熱間鍛造し、530℃から450℃の平均冷却速度を10℃/分として得られた合金である。
図1に示すように、金属顕微鏡で、粒状で平均結晶粒径が約20μmのα相結晶粒内に、約1μmの大きさのBiを含む粒子が観察され、小さな粒状の粒子で約0.5〜1.5μmの大きさのPを含む化合物が、β相内に存在していることが観察される。金属組織写真から、同じ粒状であっても、Biを含む粒子とPを含む化合物の区別がつく。別の見方をすれば、α相にPを含む化合物がほとんど存在しないので、α相に存在する粒子は、Biを含む粒子と言える。
(β相に固溶するSi量と被削性)
本実施形態である組成範囲において生成するα相、β相、γ相のCu,Zn、Siの量には、おおよそ、次の関係がある。
Cu濃度は、α>β≧γ
Zn濃度は、β>γ>α
Si濃度は、γ>β>α
(1)量産設備で、580℃でφ25.6mmに熱間押出した試料(Zn−63.1mass%Cu−1.13mass%Si−0.047mass%P−0.053mass%Pb−0.073mass%Bi合金)、(2)前記(1)の熱間押出材をφ21.6mmに冷間抽伸、480℃で60分間焼鈍、φ20.5に冷間抽伸した試料、(3)実験室で、590℃でφ24mmに押出した試料(Zn−61.9mass%Cu−0.85mass%Si−0.039mass%P−0.089mass%Pb−0.050mass%Bi合金)、及び(4)実験室で、590℃でφ45mmに押出し、次いで600℃で熱間鍛造した試料(Zn−59.9mass%Cu−0.58mass%Si−0.046mass%P−0.045mass%Pb−0.044mass%Bi合金)について、α、β相中の、Cu,Zn,Siの濃度を、2000倍の倍率で、2次電子像、組成像を撮影し、X線マイクロアナライザーで定量分析した。測定は、日本電子製「JXA−8230」を用い、加速電圧20kV、電流値3.0×10−8Aの条件で行った。結果を表3〜6に示す。
表3〜6から、β相に固溶するSi濃度は、概ねα相の1.5倍、すなわち、β相には、α相の1.5倍のSiが配分される。なお、Zn−63.1mass%Cu−1.13mass%Si−0.047mass%P−0.053mass%Pb−0.073mass%Bi合金で、低温焼鈍で形成されたγ相を分析したところ、Cuが60mass%、Siが3mass%、Znが37mass%であった。
特許文献2の代表組成のZn−76mass%Cu−3.1mass%Si合金を作製し、X線マイクロアナライザー(EPMA)で分析したところ、γ相の組成は、73mass%Cu−6mass%Si−20.5mass%Znであった。本実施形態の快削性銅合金のγ相の組成例である60mass%Cu−3mass%Si−37mass%Znと大きな相違があり、両者のγ相の性質も異なることが予想される。
Figure 2021042462
Figure 2021042462
Figure 2021042462
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(被削性指数)
一般に、3mass%のPbを含有する快削黄銅を基準とし、その被削性を100%として、様々な銅合金の被削性が数値(%)で表されている。一例として、1994年、日本伸銅協会発行、「銅および銅合金の基礎と工業技術(改訂版)」、p533、表1、及び1990年、ASM International発行、“Metals Handbook TENTH EDITION Volume2 Properties and Selection: Nonferrous Alloys and Special-Purpose Materials”、p217〜228の文献に銅合金の被削性が記載されている。
表7の合金は、後述する実験室で作製したPbを0.01mass%の量で含む合金で、同じく実験室の押出試験機でφ22mmに熱間押出されたものである。Cu−Znの2元合金では、Pbを少量含んでも、被削性にほとんど影響がないことから、本実施形態の成分範囲内の0.01mass%の量のPbをそれぞれ含有させた。熱間押出温度は、合金A,Dでは、750℃であり、その他の合金B,C,E,F,G,Hでは、635℃であった。押出後、金属組織を調整するため、500℃で2時間熱処理した。後述する切削試験に従って、外周切削、ドリル切削の試験を行い、被削性を求めた。評価結果を表8に示す。なお、基準材の快削黄銅としては、市販されているC3604(Zn−59mass%Cu−3mass%Pb−0.2mass%Fe−0.3mass%Sn)を用いた。
Figure 2021042462
Figure 2021042462
前記文献では、α単相黄銅である70Cu−30Znの被削性は30%であると記されている。本実施形態において、表7及び表8に示すとおり、同じα単相黄銅である65Cu−35Zn(合金A)の総合の被削性指数は31%であった。そして、Cu、Znの量を調整し、Siを0.6mass%の量で含有したα単相黄銅(合金D)、すなわち、α相中にSiを0.6mass%の量で固溶させたα単相黄銅では、Siを含まないα黄銅に比べ、被削性指数は約4%向上した。合金A,Dともに、外周切削とドリル穴あけ切削の両者の試験で、切屑は連続した。
外周切削は、主分力、送り分力、背分力に分解できるが、それらの合力(3分力)を切削抵抗とした。ドリル切削については、トルク、スラストに分解し、それらの平均値をドリルの切削抵抗の「総合」として記載した。さらに、合金の被削性として、外周の切削抵抗とドリル切削抵抗を平均し、被削性「総合」指数(評価)とした。
Cu、Znを調整しSiを含まないβ単相黄銅(合金C、54Cu−46Zn)は、Siを含まないα相に比べ、被削性「総合」指数は、約20%向上するが、51%に留まり、切屑形状の改善はほとんどなく、切屑評価は変わらなかった。
0.5mass%のSiを含有したβ単相合金(合金E)では、Siを含まないβ単相黄銅(合金C)に比べ、被削性「総合」指数で、約17%向上した。その中でも、外周切削の切削抵抗は、約28%向上し、トルクは、約9%向上した。Siを約1mass%の量で含有したβ相合金(合金F)では、Siを含まないβ単相合金に比べ、被削性「総合」指数で約21%向上した。このようにβ相に含まれるSiの量が0mass%から0.5mass%の間で、β相の被削性が改善された。Siの量が0.1〜0.2mass%の間で、被削性への効果が発揮し始め、Siの量が0.4mass%以上で被削性への効果が明確になり、Siの量が0.6mass%以上で被削性への効果がより明確になり、Si量が0.8mass%以上、合金Fの結果から1.0mass%以上で、被削性への効果が顕著になると考えられる。
β単相黄銅に、0.5mass%のSiに加え、0.05mass%のPを添加すると(合金G)、合金Eに比べて被削性「総合」指数は、約8%良くなり、切屑の形状は、外周切削とドリル穴あけ切削の両者の試験で良くなった。そして、0.05mass%のPを含有し、1mass%のSiを含有するβ単相合金(合金H)は、Pを含まずSiを約1mass%の量で含むβ単相合金に比べ、被削性「総合」指数で約10%向上する。P含有の有無、β相中へのPの固溶と、Pを含む化合物の存在により、外周切削の切削抵抗の向上は、約14%で、ドリル穴あけ切削でのトルクは、約9%向上した。外周切削の切削抵抗、およびドリル穴あけ切削でのトルクの大小は、切屑形状に関連し、0.05mass%のPの含有により、外周切削、ドリル穴あけ切削の両者の試験で切屑形状の評価結果が「×」から「〇」に向上した。外周切削時の切削抵抗は、3mass%のPbを含有する快削黄銅との差が小さくなり、外周切削、ドリル穴あけ切削の切屑も、3mass%のPbを含有する快削黄銅の切屑に近づき、大幅に改善された。なお、切削抵抗は、材料の強度に影響され、強度が高いほど、切削抵抗が大きくなる。β単相黄銅や本実施形態の快削性銅合金は、3mass%のPbを含有する快削黄銅よりも、約1.2倍、高い強度を有するので、それを考慮に入れると、1mass%のSiと0.05mass%のPを含有するβ単相合金の被削性、特に外周切削時の被削性は、3mass%のPbを含有する快削黄銅の被削性に近づき、おおよそ同等といえる。
合金Bは、Pbを0.01mass%含むが、Si,Pを含まない黄銅で、β相の占める割合が約48%であった。合金Bは、被削性「総合」指数が31%のα単相黄銅(合金A)と、被削性「総合」指数が51%のβ単相黄銅(合金C)からなり、合金Bの被削性「総合」指数は44%で、面積比率に比べ、β相の影響を少し強く受ける。β相を48%含む黄銅の切屑形状は連続し、被削性「総合」指数、および切屑の形状から、到底、3mass%のPbを含有した快削黄銅の代替にはなり得ない。3mass%のPbを含む快削黄銅棒は、β相の占める割合が約20%で、マトリックスの被削性は、少なくとも合金Bより悪い。Pbを含有する快削黄銅棒は、Pbの作用により、マトリックスに比べ、被削性「総合」指数で60%以上向上し、切屑は分断される。
β単相合金E〜Hは、おおよそ本実施形態の快削性銅合金のβ相に相当し、合金Dは、おおよそα相に相当する。すなわち、β相の被削性は、SiとPの含有により、高いレベルにある。そして、Bi粒子がα相内に存在することにより、α相の被削性が高められ、合金としての被削性は、高いレベルに達していると考えられる。
<特性>
(常温強度及び高温特性)
自動車部品を始め本実施形態の使用対象となる部材、部品に対し、薄肉化、軽量化の強い要請がある。必要な強度としては、引張強さが重要視され、延性とのバランスも重要とされている。
そのためには、熱間押出材、熱間圧延材及び熱間鍛造材は、冷間加工を施さない熱間加工あがりの状態で、引張強さが440N/mm以上の高強度材であることが好ましい。引張強さは、より好ましくは480N/mm以上で、さらに好ましくは520N/mm以上である。バルブ、継手、圧力容器、空調・冷凍機に使用される多くの部品は、熱間鍛造で作られている。現行使用されている2mass%Pbを含有する鍛造用黄銅C3771の引張強さは、β相を含むにも拘らず、約400N/mm、伸びが30〜35%である。Siの含有と組織関係式f3〜f5の金属組織の要件を満たすことにより、高い強度が得られ、軽量化が図れる。
熱間加工後、冷間加工が行われることもあり、冷間加工の影響を加味し、以下の範囲にある材料を高強度・高延性の材料と定義する。
熱間加工材、熱間加工後にさらに加工率30%以内で冷間加工された材料、或いは、冷間加工と熱処理が施され、場合によっては繰り返し行われ、最終加工率30%以内で冷間加工された材料の場合、以下の特性を有する。以下、冷間加工率を[R]%とするが、冷間加工されない場合は、[R]=0である。引張強さS(N/mm)は、好ましくは、(440+8×[R])N/mm以上、より好ましくは、(480+8×[R])N/mm以上である。伸びE(%)は、好ましくは、(0.02×[R]−1.15×[R]+18)%以上、より好ましくは、(0.02×[R]−1.2×[R]+20)%以上である。そして、強度と延性のバランスを示す特性関係式f8=S×(100+E)/100は、580以上であることが好ましく、より好ましくは620以上であり、さらに好ましくは650以上である。
なお、Pbを含有した熱間加工あがりの快削黄銅は、上述の特性関係式f8が約530である。このため、本実施形態の快削性銅合金の特性関係式f8は、Pbを含有した熱間加工あがりの快削黄銅の特性関係式f8よりも、少なくとも50以上、さらには90以上大きく、強度と延性のバランスに優れている。
(導電率)
本実施形態の用途には、電気・電子機器部品、EV化が進む自動車部品、その他高い伝導性部材・部品が含まれる。現在、これらの用途には、Snを約5mass%、約6mass%、或いは約8mass%の量で含有する、りん青銅(JIS規格、C5102,C5191,C5210)、が多く使用され、それらの導電率は、各々、約15%IACS、約14%IACS、約12%IACSである。したがって、本実施形態の銅合金の導電率は、14%IACS以上、好ましくは15%IACS以上であれば、電気・電子部品、自動車部品用途において、電気伝導性に関し大きな問題は生じない。導電率を悪くする元素であるSiを含有し、かつ、高濃度のZnを含有するにも関わらず、高い伝導性を示すのは、β相の量とβ相中に固溶するSiが影響している。β相は、α相より、Zn濃度が高いにもかかわらず、β相を多く含むほど、電気伝導性が向上する。なお、導電率の上限は、伝導性が良くなることで、実用上、問題となることはほとんどないから、特に規定しない。
以上の検討結果から、以下の知見を得た。
第1に、従来からCu−Zn−Si合金において生成するβ相は、合金の被削性の向上に効果がないか、或いは、合金の被削性を妨げるとされていた。しかしながら、鋭意研究の結果、一例として、Si量が約1mass%、Cu量が約59mass%、Zn量が約40mass%のβ相が優れた被削性を有することを究明した。
第2に、Cu−Zn−Si合金にBiを少量含有させると、平均で約0.2〜約2μmの大きさのBi粒子を、Siの作用によりα相内に存在させることができた。Bi粒子の存在により、被削性に乏しいα相を、被削性が改善されたα相に変化させた。前記の優れた被削性を備えたβ相と合わせ、合金として優れた被削性を備えることができた。
第3に、Pbは、平均で約0.2〜約2μmの大きさのBiとPbが共存する粒子、または、Pb粒子として存在し、切屑の分断性を向上させ、切削抵抗を下げる効果を発揮することを明らかにした。
第4に、Cu−Zn−Si合金にPを含有させると、優先的にPがβ相内に固溶し、β相の被削性をさらに向上させた。そして、β相中に平均粒径が約0.3〜約3μmの大きさのPを含む化合物を存在させると、Pを含む化合物がないものに比べ、さらに被削性が向上することを究明した。
第5に、本実施形態の快削性銅合金で生成するγ相にも、切屑の分断性に効果があることを究明した。特許文献と本実施形態の快削性銅合金では組成が異なり、同じγ相であっても、前記のβ相のように組成が異なると被削性に大きな差が生じるが、本実施形態の快削性銅合金の組成範囲で存在するγ相に、優れた被削性があることを見出した。
第6に、環境などに問題のあるPb、およびBiの量を少なくするために、被削性と、β相の量、Siの量、BiとPbの量、β相に固溶するSiの量、β相中でのPを含む化合物の存在、Pの量、γ相の量との関係を明確にし、機械的諸特性を含め、組成と金属組織をより適切にすることにより、本実施形態の快削性銅合金を完成させた。
最後に、従来のPb含有銅合金は、熱間加工温度で多量のPbが溶けているので、650℃以下での熱間変形能に問題があった。本実施形態の快削性銅合金は、Bi,Pbを含んでも、その量を大幅に制限しているので、650℃より低い温度、約600℃で、優れた熱間変形能を有し、熱間変形抵抗が低く、容易に熱間加工でき、熱間での延性に富む銅合金に仕上げられた。
(熱間加工性)
本実施形態の快削性銅合金は、約600℃で優れた変形能を有していることが特徴であり、断面積が小さな棒に熱間押出でき、複雑な形状に熱間鍛造できる。Pbを含有する銅合金は、約600℃で強加工すると大きな割れが発生するので、適正な熱間押出温度は625〜800℃とされ、適正な熱間鍛造温度は650〜775℃とされている。本実施形態の快削性銅合金の場合、600℃で80%以上の加工率で熱間加工した場合に割れないことが特徴であり、好ましい熱間加工温度は、650℃より低い温度であり、より好ましくは、625℃より低い温度である。
本実施形態の快削性銅合金では、Siを含有することにより、600℃で、変形能が向上し、変形抵抗が低くなる。そしてβ相の占める割合が大きいので、600℃で容易に熱間加工できる。
熱間加工温度が約600℃であり、従来の銅合金の加工温度より低いと、熱間押出用の押出ダイスなどの工具、押出機のコンテナー、鍛造金型は、400〜500℃に加熱され使用されている。それらの工具と熱間加工材の温度差が小さいほど、均質な金属組織が得られ、寸法精度の良い熱間加工材が作れ、工具の温度上昇がほとんどないので、工具寿命も長くなる。また、同時に、高い強度、強度と伸びのバランスに優れた材料が得られる。
<製造プロセス>
次に、本発明の第1、2の実施形態に係る快削性銅合金の製造方法について説明する。
本実施形態の合金の金属組織は、組成だけでなく製造プロセスによっても変化する。熱間押出、熱間鍛造の熱間加工温度、熱処理条件に影響されるだけでなく、熱間加工や熱処理における冷却過程での平均冷却速度が影響する。鋭意研究を行った結果、鋳造、熱間加工、熱処理の冷却過程において、530℃から450℃の温度領域における冷却速度に金属組織が影響されることが分かった。
(溶解、鋳造)
溶解は、本実施形態の合金の融点(液相線温度)より約100〜約300℃高い温度である約950〜約1200℃で行われる。融点より、約50〜約200℃高い温度である約900〜約1100℃の溶湯が、所定の鋳型に鋳込まれ、空冷、徐冷、水冷などの幾つかの冷却手段によって冷却される。そして、凝固後は、様々に構成相が変化する。
(熱間加工)
熱間加工として、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延が挙げられる。それぞれの工程について、以下に説明する。なお、2以上の熱間加工工程を行う場合、最終の熱間加工工程を以下の条件で行う。
(1)熱間押出
まず、熱間押出に関して、好ましい実施形態として、押出比(熱間加工率)、設備能力にもよるが、実際に熱間加工される時の材料温度、具体的には押出ダイスを通過直後の温度(熱間加工温度)が530℃を超えて650℃より低い温度で熱間押出する。熱間押出温度の下限は、熱間での変形抵抗に関係し、上限は、α相の形状に関連し、より狭い温度で管理することにより、安定した金属組織が得られる。650℃以上の温度で熱間押出すると、α相結晶粒の形状が粒状でなく、針状になりやすくなるか、或いは、直径50μmを超える粗大なα相結晶粒が出現し易くなる。針状や、粗大なα相結晶粒が出現すると、強度がやや低くなり、強度と延性のバランスが少し悪くなる。またPを含む析出物の分布がやや不均一になり、長辺の大きなα相結晶粒や、粗大なα相結晶粒が切削の障害となり、被削性が少し悪くなる。α相結晶粒の形状は、組成関係式f1と関係があり、組成関係式f1が58.0以下の場合は、押出温度が625℃より低いことが好ましい。Pb含有銅合金より、低い温度で押出することにより、より良好な被削性と高い強度を備えることができる。
そして熱間押出後の冷却速度の工夫により、より優れた被削性を備えた材料を得ることができる。すなわち、熱間押出後の冷却過程で、530℃から450℃の温度領域における平均冷却速度を、50℃/分以下、好ましくは45℃/分以下に設定して冷却する。平均冷却速度を50℃/分以下に制限することにより、倍率500倍、または倍率1000倍の金属顕微鏡でPを含む化合物の存在が確認できる。一方、冷却速度が遅すぎると、Pを含む化合物が成長し、被削性への効果が低下するおそれがあるので、前記の平均冷却速度は、0.1℃/分以上が好ましく、0.3℃/分以上がより好ましい。
実測が可能な測定位置に鑑みて、熱間加工温度は、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延の終了時点から約3秒後または4秒後の実測が可能な熱間加工材の温度と定義する。金属組織は、大きな塑性変形を受けた加工直後の温度に影響を受ける。議論されている熱間加工後の平均冷却速度が約50℃/分であるので、3〜4秒後の温度低下は、計算上、約3℃であり、ほとんど影響を受けない。
(2)熱間鍛造
熱間鍛造は、素材として、主として熱間押出材が用いられるが、連続鋳造棒も用いられる。熱間押出に比べ、熱間鍛造は、加工速度が速く、複雑形状に加工し、場合によっては、肉厚が約3mmにまで強加工することがあるので、鍛造温度は高い。好ましい実施形態として、鍛造品の主要部位となる大きな塑性加工が施された熱間鍛造材の温度、すなわち鍛造直後(鍛造の終了時点)から約3秒後または4秒後の材料温度は、530℃を超えて675℃より低いことが好ましい。鍛造用の黄銅合金として広く使用されているPbを2mass%の量で含有する黄銅合金(59Cu−2Pb−残部Zn)では、熱間鍛造温度の下限は650℃とされるが、本実施形態の熱間鍛造温度は、650℃より低いことがより好ましい。熱間鍛造においても、組成関係式f1と関係があり、組成関係式f1が58.0以下の場合は、熱間鍛造温度が650℃より低いことが好ましい。熱間鍛造の加工率にもよるが、温度が低いほど、α相結晶粒の形状が粒状で、α相結晶粒の大きさが小さくなるので、強度が高くなり、強度と延性のバランスがより良くなり、かつ、被削性がより良くなる。
そして、熱間鍛造後の冷却速度の工夫により、より良好な被削性を備えた材料になる。すなわち、熱間鍛造後の冷却過程で、530℃から450℃の温度領域における平均冷却速度を、50℃/分以下、好ましくは45℃/分以下に設定して冷却する。冷却速度を制御することにより、β相中に、約0.3〜3μmのPを含む化合物を析出させ、これにより、合金の被削性を向上させることができる。なお、前記の平均冷却速度の下限は、冷却過程で化合物の粗大化が生じることを抑制するために、0.1℃/分以上とすることが好ましく、0.3℃/分以上とすることがさら好ましい。
(3)熱間圧延
熱間圧延では、鋳塊を加熱し、5〜15回、繰り返し圧延される。そして、最終の熱間圧延終了時の材料温度(終了時点から3〜4秒経過後の材料温度)が、530℃を超えて625℃より低いことが好ましい。熱間圧延終了後、圧延材が冷却されるが、熱間押出と同様、530℃から450℃の温度領域における平均冷却速度は、0.1℃/分以上50℃/分以下が好ましく、より好ましくは、0.3℃/分以上、または45℃/分以下である。
(熱処理)
銅合金の主たる熱処理は、焼鈍とも呼ばれ、例えば熱間押出では押出できない小さなサイズに加工する場合、冷間抽伸、或は冷間伸線後に、必要に応じて熱処理が行われ、この熱処理は、再結晶、すなわち材料を軟らかくすることを目的として実施される。圧延材も同様で、冷間圧延と熱処理が施される。本実施形態においては、さらに、γ相、β相の量を制御することも目的として熱処理が施される。
再結晶を伴う熱処理が必要な場合は、材料の温度が400℃以上600℃以下で、0.1時間から8時間の条件で加熱される。前工程で、Pを含む化合物が形成されていない場合、熱処理中に、Pを含む化合物が形成される。なお、530℃を超える温度で長時間、熱処理すると、Pを含む化合物が再固溶し、消失する。熱処理温度が530℃を超える場合、冷却過程において、530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を50℃/分以下、好ましくは45℃/分以下に設定して冷却し、Pを含む化合物を形成することが好ましい。前記の平均冷却速度の下限は、0.1℃/分以上が好ましい。
(冷間加工工程)
熱間押出棒の場合、高い強度を得るため、寸法精度を良くするため、または押出された棒材、コイル材を曲がりの少ない直線形状にするために、熱間押出材に対して冷間加工を施されることがある。例えば熱間押出材に対して、約0%〜約30%の加工率で冷間抽伸、冷間伸線、矯正加工が施される。
細い棒、線、或いは、圧延材は、冷間加工と熱処理が繰り返し実施され、熱処理後、最終加工率0%〜約30%の冷間加工、矯正加工、低温焼鈍が施される。
冷間加工の利点は、合金の強度を高めることである。熱間加工材に対して、冷間加工と、熱処理を組み合わせることにより、その順序が逆であっても、強度、延性のバランスを取ることができ、用途に応じ、強度重視、または延性重視の特性を得ることができる。なお、冷間加工による、被削性への影響はほとんどない。
(低温焼鈍)
低温焼鈍は、棒、線、鍛造品、圧延材を対象に、残留応力の除去、矯正、金属組織の調整と改善を主たる目的として、再結晶温度以下の温度で熱処理することであり、必要に応じて実施される。本実施形態の場合、前記熱処理と区別するため、金属組織中で再結晶する割合が50%より小さい場合を低温焼鈍と定義する。低温焼鈍は、保持温度が250℃以上430℃以下で、保持時間が10〜200分の条件で行われる。下限の条件は、残留応力が十分に除去できる最低の温度、または時間である。また、断面が凹状で、底面が平滑な面の型枠、例えば、幅約500mm、高さ約300mm、厚み約10mm、長さ約4000mmの鋼製の型枠(凹状のくぼみの深さは(高さ)−(厚み))に、棒材を整列して並べ、250℃以上430℃以下の温度で、10〜200分保持することにより、直線性に優れた棒材を得ることができる。温度をT℃、時間をt分とすると、300≦焼鈍条件式f9=(T−200)×(t)1/2≦2000の条件で実施することが好ましい。条件式f9が300より小さいと、残留応力の除去、または矯正が不十分である。焼鈍条件式f9が2000を超えると強度が低下する。焼鈍条件式f9は、好ましくは、400以上であり、1600以下である。前工程の冷却速度に関わらず、焼鈍条件式f9が400以上であると、微細なPを含む化合物が、低温焼鈍中に形成される。また、合金組成にもよるが、250℃以上430℃以下の温度で、10〜200分保持すると、β相内、またはβ相とα相の相境界に、微細なγ相が析出することがあり、穴あけ切削の切屑を微細にする。
このような製造方法によって、本発明の第1,2の実施形態に係る高強度快削性銅合金が製造される。
熱間加工工程、熱処理工程(焼鈍とも言う)、低温焼鈍工程は、銅合金を加熱する工程である。基本となる製造工程は、溶解・鋳造、熱間加工(押出、鍛造、圧延)、冷間加工(抽伸、伸線、圧延)、矯正加工、低温焼鈍であり、矯正加工、冷間加工、低温焼鈍を含まない場合もある。なお、矯正加工は、通常、冷間で行われるため、冷間加工とも言う。φ5〜7mm以下の細い棒、線、厚みが8mm以下の板は、前記工程に熱処理が含まれることがある。熱処理は、主として冷間加工後に行われ、最終寸法に応じ、熱処理と冷間加工が繰り返される。最終製品の直径が小さいほど、厚みが薄いほど、冷間加工性が重要視される。熱処理は、熱間加工後、冷間加工前に行われることもある。
低温焼鈍工程は、熱間加工工程、冷間加工工程、矯正加工工程、及び焼鈍工程のうち、最終の工程の後に実施する。低温焼鈍工程を行う場合、通常、焼鈍工程は、加工工程の間に行うため、低温焼鈍工程は、熱間加工工程、冷間加工工程、及び矯正加工工程のうち、最終の加工工程の後に実施するともいえる。
具体的には、以下の製造工程の組み合わせが挙げられる。なお、熱間押出の代わりに、熱間圧延を行ってもよい。
(1)熱間押出−低温焼鈍
(2)熱間押出−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−低温焼鈍
(3)熱間押出−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−矯正加工−低温焼鈍
(4)熱間押出−冷間加工(伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−低温焼鈍
(5)熱間押出−冷間加工(冷間伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−矯正加工−低温焼鈍
(6)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−低温焼鈍
(7)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−矯正加工−低温焼鈍
(8)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−低温焼鈍
(9)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−矯正加工−低温焼鈍
(10)熱間押出−冷間抽伸−矯正加工(矯正加工は無くともよい)−熱間鍛造−低温焼鈍
(11)熱間押出−矯正加工−熱間鍛造−低温焼鈍
(12)熱間押出−熱間鍛造−低温焼鈍
(13)鋳造−熱間鍛造−低温焼鈍
(14)鋳造−矯正加工−熱間鍛造−低温焼鈍
以上のような構成とされた本発明の第1、第2の実施形態に係る快削性合金によれば、合金組成、組成関係式f1、f2、組織関係式f3〜f5、組成・組織関係式f6、f7を上述のように規定しているので、PbおよびBiの含有量が少なくても優れた被削性を得ることができ、優れた熱間加工性、高い強度、強度と延性のバランスに優れている。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的要件を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
以下、本実施形態の効果を確認すべく行った確認実験の結果を示す。なお、以下の実施例は、本実施形態の効果を説明するためのものであって、実施例に記載された構成要件、プロセス、条件が、本実施形態の技術的範囲を限定するものでない。
実操業で使用している低周波溶解炉及び半連続鋳造機を用いて銅合金の試作試験を実施した。
また、実験室設備を用いて銅合金の試作試験を実施した。
合金組成を表9〜11に示す。また、製造工程を表12〜17に示す。なお、組成において、“MM”は、ミッシュメタルを示し、希土類元素の合計量を示す。各製造工程について以下に示す。
(工程No.A1〜A6,A10)
表12に示すように、実操業の低周波溶解炉及び半連続鋳造機により直径240mmのビレットを製造した。原料は、実操業に準じたものを使用した。ビレットを長さ800mmに切断して加熱した。公称能力3000トンの熱間押出機で、直径25.6mmの丸棒を2本押出した。そして押出材を、530℃から450℃の温度領域を幾つかの冷却速度で冷却した。温度測定は、熱間押出の中盤から終盤を中心に放射温度計を用いて行い、押出機より押出されたときから約3〜4秒後の押出材の温度を測定した。なお、以後の熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延の温度測定には、LumaSense Technologies Inc製の型式IGA8Pro/MB20の放射温度計を用いた。
その押出材の温度の平均値が表12に示す温度の±5℃((表に示す温度)−5℃〜(表に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
工程No.A1、A2、A6では、押出温度が580℃であり、No.A3、A5では押出温度が620℃、No.A4では押出温度が680℃であった。そして、熱間押出後、530℃から450℃の平均冷却速度は、工程No.A3では40℃/分、工程No.A5では70℃/分とした。工程No.A3、A5、A10以外の工程では、前記平均冷却速度は30℃/分であった。
熱間押出終了後、工程No.A1では、熱間押出上がりとし、冷間で矯正した。矯正では、実質的な冷間加工率は0%であった。工程No.A1、A10以外では、直径25.6mmから直径25.0mmに冷間で抽伸した(加工率4.6%)。さらに、工程No.A6では、工程No.A1の素材を用い、310℃で100分間の条件で、型枠に材料を入れ低温焼鈍した。
工程No.A10では、570℃で、直径45mmに熱間押出を行い、530℃から450℃の平均冷却速度を20℃/分で実施した。工程No.A10は、鍛造実験に使用した。
ここで、低温焼鈍を実施したものについては、以下に示す焼鈍条件式f9を算出した。
f9=(T−200)×(t)1/2
T:温度(材料温度)(℃)、t:加熱時間(分)
また、断面が凹状、幅500mm、高さ300mm、厚み10mmで、長さが4000mmの鋼製の型枠に、棒材を4段積みに整列して並べた状態で低温焼鈍し、次いで、棒材の曲がりを測定した。
曲がり測定結果は、合金No.S01、S02に低温焼鈍を施して得られた試料の全ての曲がりが、棒材1メートルあたり0.1mm以下で、良好であった。
(工程No.C1〜C5,C10)
表13に示すように、実験室において、所定の成分比で原料を溶解した。意図的に、不可避不純物元素をさらに追加で添加させた試料も作製した。直径100mm、長さ180mmの金型に溶湯を鋳込み、ビレットを作製した(合金No.S11〜S34、S51〜S65)。
このビレットを加熱し、押出温度を、工程No.C1、C3、C10では590℃とし、工程No.C2、C5では620℃とし、工程No.C4では680℃とし、直径24mm又は45mmの丸棒に押出した。押出後の530℃から450℃の温度範囲での平均冷却速度を、工程No.C5では65℃/分とし、工程No.C1,C2,C4では25℃/分とした。次に、直線度の良いものは、矯正していないが、直線度の悪いものは、矯正した(加工率0%)。工程No.C3では、工程No.C1の棒を用い、型枠に入れずに、320℃、60分の条件で低温焼鈍した。
また、前述した合金A〜合金Hは、熱間押出温度は異なるが、工程No.C1に準じた方法で作製され、500℃で2時間熱処理した。さらに比較材として、市販のPb添加黄銅棒、Pb添加鍛造用黄銅棒(合金No.SI)を準備した。
工程No.C10では、押出温度を590℃とし、直径45mmに押出し、530℃から450℃の温度範囲での平均冷却速度を20℃/分とし、鍛造用素材とした。
(工程D)
表14に示すように、工程No.D1では、実験室の溶解炉から溶湯を得て、内径45mmの金型に鋳込んだ。冷却過程において、530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を40℃/分とし、工程No.Fの鍛造用素材とした。
(工程No.E1、E2)
表15、16に示すように、工程No.E1、E2は焼鈍を含む工程である。
工程No.E1では、工程No.A1の条件にしたがって、直径25.6mmに熱間押出したものを使用し、冷間抽伸で21.6mmとし、480℃、60分の熱処理した。次いで、冷間抽伸で直径20.5mmとした。この工程は、主として、例えば直径7mm以下の細い棒材の工程であるが、棒材が細いと切削試験ができないので、直径の大きな押出棒で代用試験した。
工程No.E2では、実操業している溶解炉から溶湯の一部を取鍋に移し、断面が35mm×70mmの鋳型に鋳込んだ。得られた35mm×70mm×210mmの鋳物の表面を面削して、32mm×65mm×180mmとした。鋳物を650℃に加熱し、2パスの熱間圧延を施して厚みを15mmにした。最終の熱間圧延の終了時点から約3〜約4秒後の材料温度は550℃であり、その後に空冷した。530℃から450℃の温度範囲での平均冷却速度が20℃/分の条件で冷却を行った。そして得られた圧延板を厚み10mmまで冷間圧延し、電気炉を用いて480℃で60分の条件で熱処理し、冷間圧延で厚み9mm(加工率10%)に仕上げた。厚みが薄いので、試験はドリル切削だけ行った。
(工程No.F1〜6)
表17に示すように、工程No.A10、C10、D1で得られた直径45mmの丸棒、鋳物を長さ180mmに切断した。この丸棒を横置きにして、熱間鍛造プレス能力150トンのプレス機で、厚み16mmに鍛造した。所定の厚みに熱間鍛造された直後(熱間鍛造の終了時点)から約3〜約4秒経過後に、放射温度計、および接触温度計を用いて温度の測定を行った。熱間鍛造温度(熱間加工温度)は、表17に示す温度±5℃の範囲((表に示す温度)−5℃〜(表に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
熱間鍛造温度を、工程No.F1、F6では640℃とし、F2、F3、F5では、それぞれ600℃、625℃、690℃として熱間鍛造を実施した。530℃から450℃の温度領域での冷却速度を、工程No.F1では10℃/分とし、工程No.F2、F3、F5では28℃/分とし、工程No.F6では70℃/分として冷却を実施した。なお、工程No.F4では、工程No.F1の鍛造品を用い、340℃、25分の条件で、低温焼鈍した。
熱間鍛造材は、切断し、切削試験、機械的性質の実験に供した。
上述の試験材について、以下の項目について評価を実施した。評価結果を表18〜36に示す。
(金属組織の観察)
以下の方法により金属組織を観察し、α相、β相、γ相、κ相、μ相など各相の面積率(%)を画像解析により測定した。なお、α’相、β’相、γ’相は、各々α相、β相、γ相に含めることとした。
各試験材の棒材、鍛造品を、長手方向に対して平行に、または金属組織の流動方向に対して平行に切断した。次いで表面を研鏡(鏡面研磨)し、過酸化水素とアンモニア水の混合液でエッチングした。エッチングでは、3vol%の過酸化水素水3mLと、14vol%のアンモニア水22mLを混合した水溶液を用いた。約15℃〜約25℃の室温にてこの水溶液に金属の研磨面を約2秒〜約5秒浸漬した。
金属顕微鏡を用いて、倍率500倍で金属組織を観察し、各相の割合を求め、Bi粒子の存在場所、Pを含む化合物の有無を調べた。金属組織の状況によっては1000倍で観察し、金属相、Bi粒子とPを含む化合物を確認した。5視野の顕微鏡写真において、画像処理ソフト「Photoshop CC」を用いて各相(α相、β相、γ相、κ相、μ相)を手動で塗りつぶした。次いで画像解析ソフト「WinROOF2013」で2値化し、各相の面積率を求めた。詳細には、各相について、5視野の面積率の平均値を求め、平均値を各相の相比率とした。酸化物、硫化物、Bi粒子とPb粒子、Pを含む化合物を除く析出物、晶出物は、除外され、全ての構成相の面積率の合計を100%とした。
そして、Pを含む化合物を観察した。金属顕微鏡を用い、500倍で観察できる最小の析出粒子の大きさは、おおよそ0.5μmである。相の割合と同様に、500倍の金属顕微鏡で観察でき、1000倍で判別、確認できる析出物で、まず、Pを含む化合物の有無の判断を行った。Pの含有量、製造条件にもよるが、1つの顕微鏡視野の中に、数個〜数百個のPを含む化合物が存在する。Pを含む化合物は、ほとんどがβ相内、α相とβ相の相境界に存在するので、β相に含めた。さらに、β相内に、大きさが0.5μm未満のγ相が存在することがある。本実施形態においては、倍率500倍、場合によっては1000倍の金属顕微鏡で、0.5μm未満の大きさの相の識別が不可能なので、超微細なγ相は、β相として処理された。Pを含む化合物は、金属顕微鏡で、黒灰色を呈し、Mn、Feで形成される析出物、化合物は、水色を呈するので、区別がつく。
なお、Pを含有した試料を、本実施形態のエッチング液でエッチングすると、図1に示す通り、α相とβ相の相境界が明瞭に見える。Pの含有量が、大よそ0.01mass%を境にして、相境界がより明瞭になり、Pの含有が、金属組織に変化を生じさせている。
Bi粒子を、Pを含む化合物と同様、金属顕微鏡で観察した。金属顕微鏡写真から、Bi粒子と、Pを含む化合物は、明瞭に区別がつく、特に、Pを含む化合物は、α相中にほとんど存在しないので、α相に存在する粒子は、Bi粒子である。両者の区別が困難な場合は、分析機能を備える電子顕微鏡、EPMAなどで判断した。顕微鏡写真で、α相結晶粒内に、Bi粒子が観察できれば、α相内にBi粒子が存在するとし、「〇」(good)と評価した。Bi粒子が、α相とβ相の境界に存在する場合は、α相内に存在しないと判定した。α相内にBi粒子が存在しない場合、「×」(poor)と評価した。
α相の形状に関しては、以下のように評価した。
一つのα相の結晶粒において、長辺/短辺が4を超える場合を針状(楕円形状)のα相結晶粒として定義した。α相の結晶粒の長辺/短辺が4以下の場合を粒状のα相結晶粒として定義した。前記金属組織の観察のなかで、α相全体に対する粒状のα相結晶粒の個数の割合を調べた。粒状のα相結晶粒の占める割合が50%未満の場合を「×」(poor)、粒状のα相結晶粒の占める割合が50%以上75%未満の場合を「△」(fair)、粒状のα相結晶粒の占める割合が75%以上を「〇」(good)とそれぞれ評価した。α相の形状は、機械的性質、被削性に影響し、粒状のα相結晶粒が多くなるほど、機械的性質、被削性が良くなる。
相の同定、析出物の同定、Pを含む化合物、およびBi粒子の判定が困難な場合は、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子株式会社製のJSM−7000F)と付属のEDSを用いて、加速電圧15kV、電流値(設定値15)の条件で、FE−SEM−EBSP(Electron Back Scattering Diffracton Pattern)法により、倍率500倍又は2000倍で、相、析出物を特定した。Pを含有した試料で、金属顕微鏡による観察の段階でPを含む化合物が観察されなかった場合、倍率2000倍でPを含む化合物の有無を確認した。
また、幾つかの合金について、α相、β相、γ相、特にβ相に含有されるSi濃度を測定する場合、Pを含む化合物の判断が困難な場合、及びBi粒子が小さい場合、2000倍の倍率で、2次電子像、組成像を撮影し、X線マイクロアナライザーで定量分析、または定性分析した。測定には、日本電子製「JXA−8230」を用い、加速電圧20kV、電流値3.0×10−8Aの条件で行った。
Pを含む化合物が、金属顕微鏡で確認された場合、Pを含む化合物の存在評価を「〇」(good)と評価した。Pを含む化合物が2000倍の倍率で確認された場合、Pを含む化合物の存在評価を「△」(fair)と評価した。Pを含む化合物が確認されなかった場合、Pを含む化合物の存在評価を「×」(poor)と評価した。本実施形態のPを含む化合物の存在については、「△」も含むものとする。表では、Pを含む化合物の存在評価の結果を項目「P化合物」に示す。
(導電率)
導電率の測定は、日本フェルスター株式会社製の導電率測定装置(SIGMATEST D2.068)を用いた。なお、本明細書においては、「電気伝導」と「導電」の言葉を同一の意味に使用している。また、熱伝導性と電気伝導性は強い相関があるので、導電率が高い程、熱伝導性が良いことを示す。
(引張強さ/伸び)
各試験材をJIS Z 2241の10号試験片に加工し、引張強さ及び伸びの測定を行った。
冷間加工工程を含まない熱間押出材、或いは熱間鍛造材の引張強さが、好ましくは440N/mm以上、より好ましくは480N/mm以上、さらに好ましくは520N/mm以上であれば、快削性銅合金の中で最高の水準であり、各分野で使用される部材の薄肉・軽量化、或いは許容応力の増大を図ることができる。また、強度と伸びとのバランスにおいても、引張強さをS(N/mm)、伸びをE(%)とすると、強度と延性のバランスを示す特性関係式f8=S×(100+E)/100が、好ましくは580以上、より好ましくは620以上、さらに好ましくは650以上であると、被削性を有し熱間加工された銅合金の中で非常に高い水準であるといえる。
<旋盤による被削性試験>
被削性の評価は、以下のように、旋盤を用いた切削試験で評価した。
熱間押出棒材、熱間鍛造品について、切削加工を施して直径を14mmとして試験材を作製した。チップブレーカーの付いていないK10の超硬工具(チップ)を旋盤に取り付けた。この旋盤を用い、乾式下にて、すくい角:0°、ノーズ半径:0.4mm、逃げ角:6°、切削速度:40m/分、切り込み深さ:1.0mm、送り速度:0.11mm/rev.の条件で、直径14mmの試験材の円周上を切削した。
工具に取り付けられた3部分から成る動力計(三保電機製作所製、AST式工具動力計AST−TL1003)から発せられるシグナルが、電気的電圧シグナルに変換され、レコーダーに記録された。次にこれらのシグナルは切削抵抗(主分力、送り分力、背分力、N)に変換された。切削試験は、チップの摩耗の影響を抑えるために、A→B→C→・・・C→B→Aの往復を2回実施し、各試料について4回測定した。切削抵抗は、以下の式によって求められる。
切削抵抗(主分力、送り分力、背分力の合力)=((主分力)+(送り分力)+(背分力)1/2
なお、各サンプルで4回測定し、その平均値を採用した。Zn−59mass%Cu−3mass%Pb−0.2mass%Fe−0.3mass%Sn合金からなる市販の快削黄銅棒C3604の切削抵抗を100とし、試料の切削抵抗の相対値(被削性指数)を算出し、相対評価をした。被削性指数が、高いほど良好な被削性を有する。「3分力」の記載は、主分力、送り分力、背分力の合力を指し、被削性指数を示す。
なお、被削性指数は下記のようにして求めた。
試料の切削試験結果の指数(被削性指数)=(C3604の切削抵抗/試料の切削抵抗)×100
同時に切屑を採取し、切屑形状により被削性を評価した。実用の切削で問題となるのは、切屑の工具への絡みつき、及び、切屑の嵩張りである。このため、切屑形状として、平均で長さが4mmより短い切屑が生成した場合を良好“○”(good)と評価した。切屑形状として、平均で長さが4mm以上10mm未満の切屑が生成した場合を、実用上多少問題があるが外周切削可能と判断し、可“△”(fair)と評価した。平均で長さが10mm以上の切屑が生成した場合を“×”(poor)と評価した。なお、最初に生成された切屑は除外して評価した。本実施形態では、前記の外周切削の条件のもと、「〇」、「△」を合格とした。
切削抵抗は、材料のせん断強さ、引張強さに依存し、強度が高い材料ほど切削抵抗が高くなる傾向がある。高強度材の場合、Pbを1〜4mass%含有する快削黄銅棒の切削抵抗に対して、切削抵抗が約40%高くなる程度であれば、実用上良好とされる。本実施形態においては、3mass%Pbを含有する快削黄銅C3604に比べ、押出材のせん断強さが、おおよそ1.2倍あり、そのため本実施形態における被削性の評価基準を、被削性指数が70を基準として評価した。本実施形態においては、優れた被削性を目指しているので、被削性指数が84以上であれば、被削性に優れる(評価:◎、excellent)と評価した。被削性指数が75以上84未満であれば、被削性が良好である(評価:○、good)と評価した。被削性指数が68以上75未満であれば、被削性が可である(評価:△、fair)とし、大よそ基準に達している。被削性指数が68未満であれば、被削性が不可である(評価:×、poor)と評価した。
同じ強度であれば、切屑形状と被削性指数とは、相関関係があり、被削性指数が大きいと、切屑の分断性が良い傾向があり、数値化できる。前記の外周切削の条件のもと、「◎」、「〇」、「△」を合格とした。
因みに、Zn濃度が高く、Pbを0.01mass%含み、β相を約50%含む快削性銅合金であるZn−58.1mass%Cu−0.01mass%Pb合金の被削性指数は39であり、切屑の長さは10mmを超えた。同様に、Siを含まず、0.01mass%のPbを含むβ単相の銅合金であるZn−55mass%Cu−0.01mass%Pb合金の被削性指数は41であり、切屑の長さは10mmを超えた。
試験No.T09(合金No.S01)では、63.1mass%のCu、1.13mass%のSi、0.073mass%のBi、0.053mass%のPb、0.047mass%のPを含み、640℃で熱間鍛造され、Bi粒子がα相内に存在し、Pを含む化合物が存在した。この試験No.T09(合金No.S01)の切屑の外観を図2に示す。試験No.T09(合金No.S01)の切屑の平均長さは1mmより短く、細かく分断されている。
<ドリル切削試験>
ボール盤でφ3.5mmハイス製JIS標準ドリルを使用し、深さ10mmのドリル加工を回転数:1250rpm、送り:0.17mm/rev.の条件で、乾式で切削した。ドリル加工時にAST式工具動力計で電圧変化を円周方向、軸方向で採取し、ドリル加工時のトルク・スラストを算出した。尚、各サンプルで4回測定し、その平均値を採用した。Zn−59mass%Cu−3mass%Pb−0.2mass%Fe−0.3mass%Sn合金からなる市販の快削黄銅棒C3604のトルク、スラストを100とし、試料のトルク、スラストの相対値(トルク指数、スラスト指数)を算出し、相対評価をした。被削性指数(トルク指数、スラスト指数、ドリル指数)が、高いほど良好な被削性を有する。ドリル加工は、ドリルの摩耗の影響を抑えるために、A→B→C→・・・C→B→Aの往復を2回実施し、各試料で4回測定した。
すなわち、被削性指数を下記のようにして求めた。
試料のドリル試験結果の指数(ドリル指数)=(トルク指数+スラスト指数)/2
試料のトルク指数=(C3604のトルク/試料のトルク)×100
試料のスラスト指数=(C3604のスラスト/試料のスラスト)×100
3回目の試験時に、切屑を採取した。切屑形状により被削性を評価した。実用の切削で問題となるのは、切屑の工具への絡みつき、及び、切屑の嵩張り、である。このため、切屑形状が、切屑の平均で、1巻き以下の切屑が生成した場合を良好“○”(good)と評価した。切屑形状が1巻き超え2巻き以下までの切屑が生成した場合を可“△”(fair)と評価し、実用上多少問題があるがドリル切削可能と評価した。切屑形状が2巻き超えの切屑が生成した場合を“×”(poor)と評価した。なお、最初に生成された切屑は除外した。前記のドリル切削条件のもと、「〇」、「△」を合格とした。
高強度材のトルク、スラストは、Pbを1〜4mass%含有する快削黄銅棒の切削抵抗に対して約40%高くなる程度であれば、実用上良好とされる。本実施形態においては、被削性指数が約70%を基準に評価した。詳細には、ドリル指数が76以上であれば、被削性に優れる(評価:◎、excellent)と評価した。ドリル指数が71以上76未満であれば、被削性が良好である(評価:〇、good)と評価した。ドリル指数が68以上71未満であれば、大よそ基準に達しており、被削性が可である(評価:△、fair)と評価し、実用上多少問題があるがドリル切削が可能であると評価した。ドリル指数が68未満であれば、被削性が不可である(評価:×、poor)と評価した。前記のドリル切削の条件のもと、「◎」、「〇」を合格とし、トルク指数、スラスト指数とともに、被削性指数(ドリル指数)が、67以上であることを条件として、「△」を合格とした。
同じ強度であれば、切屑形状とトルク指数とは、強い関係がある。トルク指数が大きいと、切屑の分断性が良い傾向にあるので、切屑形状をトルク指数で数値比較できる。ただし、本実施形態の合金は、3mass%Pbを含有する快削黄銅に比べ、引張強さと概ね比例関係にあるせん断強さが、おおよそ1.2倍ある。切削抵抗は、せん断強さと強い関係を持つので、材料強度を考慮に入れる必要がある。
因みに、Zn濃度が高く、Pbを0.01mass%を含み、β相を約50%含む快削性銅合金であるZn−58.1mass%Cu−0.01mass%Pb合金のドリル指数は49であり(トルク指数は46、スラスト指数は52)、切屑は3巻きを超えた。同様に、Siを含まず0.01mass%Pbを含むβ単相の銅合金であるZn−55mass%Cu−0.01mass%Pb合金のドリル指数は61であり(トルク指数は53、スラスト指数は68)、切屑は3巻きを超えた。
精密穴加工用の専用工具として、近年ますます各種の機器が小型化し、それらの部品に対する微細な穴加工の必要性が高まっている。例えば、金型のピン穴、紡孔、プリント基板等の半導体関連の装置部品、光デバイス関連の装置部品など幅広いニーズが挙げられる。情報家電や医療機器、自動車部品など、さまざまな工業製品の軽薄短小化は今後ますます加速する。このような流れの中にあって、ドリルメーカー各社は0.1mm以下の超硬ドリルのラインアップの充実を図る。これまでは加工穴の直径と深さの比率は10倍程度が限界であったが、最近では0.5mm以下の穴でも、加工穴の直径と深さの比率が100倍程度まで加工できるドリルが数多く登場している。小径・深穴あけ加工の可能性を広げており、これらの分野で、被削性の良い材料が求められている。
(熱間加工試験)
工程No.A1、工程No.C1、工程No.C10(工程No.F1)の各棒材、そして、工程No.D1の鋳物材(工程No.F3)、および市販の合金No.SIを切削によって直径15mmとし、長さ25mmに切断した。この試験材を600℃で20分間保持した。次いで試験材を縦置きにして、熱間圧縮能力10トンで電気炉が併設されているアムスラー試験機を用いて、ひずみ速度0.02/秒、加工率80%で圧縮し、厚み5mmとした。熱間加工中、試験材は600℃で維持された。
熱間変形能は、肉眼で割れの有無と表面に大きなしわが生じるかどうかで評価した。熱間変形抵抗は、加工率20%の時の変形抵抗を測定し、30N/mmを境に評価した。30N/mmは、設備能力や押出比などの熱間加工率にもよるが、一般的に製造される範囲の熱間押出棒が、問題がなく製造される熱間変形抵抗の境界値である。600℃の熱間加工試験で、割れがなく、大きなしわが生じず、熱間変形抵抗が30N/mm以下の場合、熱間加工性が良好:“○”(good)と評価した。熱間変形能、熱間変形抵抗のいずれか一方が上記基準を満たされない場合、条件付きで可“△”(fair)と評価した。熱間変形能、熱間変形抵抗の両方とも上記基準を満たさない場合、不適“×”(poor)と評価した。評価結果を表36に示す。
600℃での熱間押出や熱間鍛造は、一般的な銅合金で実施されることは、ほとんどない。Pbを含有する快削銅合金の場合、600℃で試験すると、割れが発生し、熱間変形抵抗は30N/mmを超える。低い温度で熱間加工することにより、高い強度、高い強度と伸びのバランス、良好な被削性が得られ、寸法精度の向上、工具の長寿命化が図れ、地球環境にも優しい。
組成関係式f1の値が56.3より低い場合、大きなしわが生じ、組成関係式f1の値が59.5より高い場合、変形抵抗が30N/mmを超えた。
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上述の測定結果から、以下のような知見を得た。
1)本実施形態の組成を満足し、組成関係式f1、f2、組織関係式f3〜f5、組成・組織関係式f6、f7を満たし、Bi粒子がα相内に存在すことにより、少量のPbとBiの含有で優れた被削性が得られ、約600℃で良好な熱間加工性、14%IACS以上の高い導電率、且つ高強度で、良好な延性、そして強度と延性の高いバランス(特性関係式f8)を持ち合せる熱間加工材(熱間押出材、熱間鍛造材)が得られることが確認できた(合金No.S01、S02、S11〜S34)。
2)Cu含有量が65.0mass%以上であると、γ相が多くなり、伸びが低くなり、被削性もよくなかった(合金No.S57、S58)。
3)Si含有量が0.3mass%より少ないと、被削性が悪く、引張強さが低かった。Si含有量が0.5mass%を超え、さらに0.7mass%を超えると、被削性、機械的性質が、さらに良くなった。Si含有量が1.3mass%以上であると、γ相が多くなり、伸びが低くなった(例えば、合金No.S14、S28、S53、S58)。
4)Pを含まないと、被削性が悪かった。Pを0.001mass%を超えて含有すると、被削性が良くなり、P含有量が0.010mass%を超えると、さらに被削性が良くなった。Pを含む化合物が存在し、さらに金属顕微鏡でPを含む化合物が観察できると、より一層被削性が向上した。Pの含有、そしてPを含む化合物の存在は、β相の被削性を向上させ、合金としての被削性も向上させていると考えられる(例えば合金No.S01、S02、S24、S33、S52、S63)。
5)Bi含有量が0.020mass%を超え、Pb含有量が0.001mass%を超え、かつBiとPbの含有量の合計(f2)が0.025mass%を超えると、被削性が良好であった。Bi含有量が0.030mass%を超え、Pb含有量が0.003mass%以上であり、かつBiとPbの含有量の合計(f2)が0.04mass%以上であると、被削性がさらに良好となった(合金No.S01、S02、S11〜S34)。Bi含有量が0.020mass%以下で、f2が0.025より少ないと、被削性が悪かった(合金No.S56)。
6)実操業で行われる程度の不可避不純物を含有しても、諸特性に大きな影響を与えないことが確認できた(合金No.S12、S17、S22、S26、S30)。不可避不純物の好ましい範囲を超えるFe,Mn,CoまたはCrを含有すると、Fe,Mn等とSiの金属間化合物を形成していると考えられる。その結果、Fe等とSiの化合物の存在と、有効に働くSi濃度が減少し、さらに、Pを含む化合物の組成が変化している可能性があり、被削性が悪くなったと考えられる(合金No.S12.3、S22.2、S26.2)。不可避不純物の好ましい範囲を超える量のSn,Alを含有すると、γ相が出現するか、またはγ相が多くなり、β相が減少する、或いは、β相、γ相の性質が変化すると思われ、その結果、伸び値が減少し、バランス指数f8が低くなり、被削性が悪くなった(合金No.S12.6、S17.2、S30.2)。
7)α相中に、Bi粒子が存在すると、被削性がよかった(合金No.S01、S02等)。たとえBi含有量が0.020mass%を超えていても、Bi粒子が、α相中に存在しないと、被削性が悪かった。α相中にBi粒子が存在するか否かは、合金のSi含有量と、Bi含有量に関係しているものと考えられる(合金No.S56、S63、S65)。
8)組成関係式f1が56.5より小さいと、伸び値が低くなった。f1が59.5より大きいと、被削性が悪くなり、引張強さが低くなった。そして両者ともに、600℃での熱間加工性が悪くなった(合金No.S51、S54、S62、S66)。
9)f3が、85以上、または、f4が15以下であると、被削性が悪く、引張強さ、バランス指数f8が低かった。f3が20未満、または、f4が80超えであると、伸びが低かった。f3が、30以上75以下、または、f4が25以上70以下であると、被削性が良くなり、引張強さ、伸びが高く、バランス指数f8が高くなった。特に、f4が35以上、さらには、f4が40以上であると、さらに被削性がよくなった(合金No.S11〜S34、S51〜S65)。
10)γ相の量、f5が5以上となると、伸びが低くなり、被削性も悪くなった(合金No.S57)。f5が3より小さいと、伸びの低下が少なくなり、トルク被削性指数が向上した(合金No.S01、S02)。
11)f6の値が8.0より小さいと、被削性が悪く、f6の値が17.0より大きいと、伸びが低かった。f7の値が0.9より小さいと、被削性が悪く、4.0より大きいと、伸びが低かった。組成、f1、f2、f3〜f5の要件を満たしても、f6、f7の両方を満たさないと、被削性に問題が生じた。f6が、10.0以上であり、f7が、1.2以上であると、被削性がさらに優れるようになった(合金No.S01、S02、S11〜S34、S53、S56、59〜64)。
12)γ相を含まず、β相の面積率が約40%〜約50%であっても、f6が10.0以上であり、f7が1.2以上であると、β単相合金である合金Hの被削性が維持、或いは上回った(例えば、合金No.S01、S14、S18、S20、S21、S23)。
13)β相中のSi濃度が、0.4mass%以上であると、被削性が良くなり、0.6mass%以上、さらには、1.0mass%以上であると、一層被削性が良くなった。製造条件により、同じ組成の合金であっても、また不可避不純物の量によっても、β相中のSi濃度が少し変動した(合金No.S01、S02、S11〜S34)。
14)α相の形状に関し、長辺/短辺が4以下の粒状のα相結晶粒が全α相結晶粒に占める割合が75%以上であると、引張強さ、伸び、f8が高くなり、被削性が良くなった(合金No.S01、S02、S11〜S34、S51、S62)。
15)組成および、f1〜f7を満たすと、引張強さが440N/mm以上、バランス指数f8は、580以上であった。f1〜f7が好ましい範囲であると、ほとんどの合金で、引張強さが480N/mm以上、かつ、バランス指数f8は、620以上を達成した(合金No.S01、S02、S11〜S34)。
16)熱間加工後に加工率4.6%で冷間抽伸した材料(工程No.A2〜A6)および、熱間加工後に冷間加工と熱処理を施し、冷間加工率10%で冷間加工した材料(工程No.E1、E2)の機械的性質は、冷間加工率を[R]%としたとき、以下の特性を満足した。引張強さS(N/mm)は、(440+8×[R])N/mm以上であり、伸びE(%)は、(0.02×[R]−1.15×[R]+18)%以上であり、高い強度と良好な伸びを示した(合金No.S01、S02)。
17)冷却を含む熱間加工条件が変わると、β相、γ相の占める割合が変化し、被削性や、引張強さ、伸び、導電率に影響を与えた(例えば、合金No.S01、各工程)。
18)熱間押出後、熱間鍛造後の冷却で、530℃から450℃の平均冷却速度が、50℃/分以下であると、Pを含む化合物の存在が確認できた。Pを含む化合物の評価が、「△」から「〇」になると、被削性がさらに向上した(各工程)。
19)熱間押出し、次いで冷間抽伸した棒を、熱処理条件式f9が1100の条件で低温焼鈍すると、曲がりの測定結果が1mあたり0.1mm以下であり曲がりの少ない棒材が得られた。低温焼鈍の条件によっては、γ相が析出する合金があり、γ相が適量であると、トルク指数が向上した(合金No.S01、工程No.A6)。
以上のことから、本実施形態の合金のように、各添加元素の含有量および組成関係式f1、f2、組織関係式f3〜f5、組成・組織関係式f6、f7が適正な範囲にある本実施形態の快削性銅合金は、熱間加工性(熱間押出、熱間鍛造)に優れ、被削性、機械的性質も良好である。また、本実施形態の快削性銅合金において優れた特性を得るためには、熱間押出、熱間鍛造での製造条件、熱処理での条件を適正範囲とすることで達成できる。
本実施形態の快削性銅合金は、Pb、Biの含有量を少量に留め、被削性、熱間加工性に優れ、高強度で、強度と伸びとのバランスに優れる。このため、本実施形態の快削性銅合金は、自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品、及び飲料水、工業用水、排水、水素などの液体や気体に係る部品に好適である。
具体的には、前記分野に用いられるバルブ、継手、コック、給水栓、歯車、軸、軸受け、シャフト、スリーブ、スピンドル、センサー、ボルト、ナット、フレアナット、ペン先、インサートナット、袋ナット、ニップル、スペーサー、ねじなど名称で使用されているものの構成材等として好適に適用できる。
本発明の第1の態様である快削性銅合金は、58.0mass%超え65.0mass%未満のCuと、0.30mass%超え1.30mass%未満のSiと、0.001mass%超え0.20mass%以下のPbと、0.020mass%超え0.10mass%以下のBiと、0.001mass%超え0.20mass%未満のPを含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co及びCrの合計量は、0.45mass%未満であり、かつSn及びAlの合計量は、0.45mass%未満であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Biの含有量を[Bi]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.5≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]−0.5×[P]≦59.5
0.025≦f2=[Pb]+[Bi]<0.25
の関係を有し、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10相の金属相を対象とし、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%、μ相の面積率を(μ)%、κ相の面積率を(κ)%、δ相の面積率を(δ)%、ε相の面積率を(ε)%、ζ相の面積率を(ζ)%、η相の面積率を(η)%、χ相の面積率を(χ)%とし、(α)+(β)+(γ)+(μ)+(κ)+(δ)+(ε)+(ζ)+(η)+(χ)=100としたときに、
20≦(α)<85
15<(β)≦80
0≦(γ)<5
8.0≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5≦17.0
0.9≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2≦4.0
の関係を有し、
α相内にBiを含む粒子が存在し、かつ、前記β相内に、粒径が3μm以下で、少なくとも2000倍の倍率で電子顕微鏡による調査で観察可能な大きさのPを含む化合物が存在していることを特徴とする。
本発明の第2の態様である快削性銅合金は、59.5mass%以上64.5mass%以下のCuと、0.50mass%超え1.20mass%以下のSiと、0.003mass%以上0.10mass%未満のPbと、0.030mass%以上0.10mass%未満のBiと、0.010mass%以上0.14mass%以下のPを含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co及びCrの合計量は、0.35mass%以下であり、かつSn及びAlの合計量は、0.35mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Biの含有量を[Bi]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.8≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]−0.5×[P]≦59.0
0.04≦f2=[Pb]+[Bi]≦0.19
の関係を有し、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10相の金属相を対象とし、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%、μ相の面積率を(μ)%、κ相の面積率を(κ)%、δ相の面積率を(δ)%、ε相の面積率を(ε)%、ζ相の面積率を(ζ)%、η相の面積率を(η)%、χ相の面積率を(χ)%とし、(α)+(β)+(γ)+(μ)+(κ)+(δ)+(ε)+(ζ)+(η)+(χ)=100としたときに、
30≦(α)≦75
25≦(β)≦70
0≦(γ)<3
10.0≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5≦14.0
1.2≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2≦3.0
の関係を有し、
α相内にBiを含む粒子が存在し、かつ、前記β相内に、粒径が3μm以下で、少なくとも2000倍の倍率で電子顕微鏡による調査で観察可能な大きさのPを含む化合物が存在していることを特徴とする。
本発明の第8の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第6,7の態様である快削性銅合金の製造方法において、最終の加工工程の後に実施する低温焼鈍工程を更に有し、前記低温焼鈍工程では、保持温度が250℃以上430℃以下であり、保持時間が10分以上200分以下であることを特徴とする。

Claims (8)

  1. 58.0mass%超え65.0mass%未満のCuと、0.30mass%超え1.30mass%未満のSiと、0.001mass%超え0.20mass%以下のPbと、0.020mass%超え0.10mass%以下のBiと、0.001mass%超え0.20mass%未満のPを含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
    前記不可避不純物であるFe,Mn,Co及びCrの合計量は、0.45mass%未満であり、かつSn及びAlの合計量は、0.45mass%未満であり、
    Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
    56.5≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]−0.5×[P]≦59.5
    0.025≦f2=[Pb]+[Bi]<0.25
    の関係を有し、
    金属組織は、α相およびβ相を含み、金属間化合物、析出物、酸化物、及び硫化物である非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%とした場合に、
    20≦(α)<85
    15<(β)≦80
    0≦(γ)<5
    8.0≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5≦17.0
    0.9≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2≦4.0
    の関係を有し、
    α相内にBiを含む粒子が存在していることを特徴とする快削性銅合金。
  2. 59.5mass%以上64.5mass%以下のCuと、0.50mass%超え1.20mass%以下のSiと、0.003mass%以上0.10mass%未満のPbと、0.030mass%以上0.10mass%未満のBiと、0.010mass%以上0.14mass%以下のPを含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
    前記不可避不純物であるFe,Mn,Co及びCrの合計量は、0.35mass%以下であり、かつSn及びAlの合計量は、0.35mass%以下であり、
    Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
    56.8≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]−0.5×[P]≦59.0
    0.04≦f2=[Pb]+[Bi]≦0.19
    の関係を有し、
    金属組織は、α相、β相を含み、金属間化合物、析出物、酸化物、及び硫化物である非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%とした場合に、
    30≦(α)≦75
    25≦(β)≦70
    0≦(γ)<3
    10.0≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×10+([P]−0.001)1/2×5+((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2×1.2+(γ)1/2×0.5≦14.0
    1.2≦([Bi]+[Pb]−0.002)1/2×((β)−7)1/2×([Si]−0.1)1/2≦3.0
    の関係を有し、
    α相内にBiを含む粒子が存在し、かつβ相内にPを含む化合物が存在していることを特徴とする快削性銅合金。
  3. 前記β相中に含有されるSi量が0.4mass%以上1.7mass%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の快削性銅合金。
  4. 熱間加工材、または熱間加工材に冷間加工が施された材料、または熱間加工と、焼鈍と、冷間加工とが施された材料であり、電気伝導率が14%IACS以上であり、かつ、少なくとも引張強さS(N/mm)が440N/mm以上であって、強度と伸び(E%)とのバランスを示すf8=S×(100+E)/100が580以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
  5. 自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品に用いられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された快削性銅合金の製造方法であって、
    1以上の熱間加工工程を有し、
    前記熱間加工工程のうち、最終の熱間加工工程においては、熱間加工温度が530℃超え650℃未満であり、熱間加工後の530℃から450℃までの温度領域における平均冷却速度が0.1℃/分以上50℃/分以下であることを特徴とする快削性銅合金の製造方法。
  7. 冷間加工工程、矯正加工工程、及び焼鈍工程から選択される1以上の工程を更に有することを特徴とする請求項6に記載の快削性銅合金の製造方法。
  8. 前記熱間加工工程、前記冷間加工工程、前記矯正加工工程、及び前記焼鈍工程のうち、最終の工程の後に実施する低温焼鈍工程を更に有し、
    前記低温焼鈍工程では、保持温度が250℃以上430℃以下であり、保持時間が10分以上200分以下であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の快削性銅合金の製造方法。
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