JP6795872B1 - 快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
Cu−Zn−Pb合金は、56〜65mass%のCuと、1〜4mass%のPbを含有し、残部がZnである。Cu−Sn−Zn−Pb合金は、80〜88mass%のCuと、2〜8mass%のSn、1〜8mass%のPbを含有し、残部がZnである。
特許文献1においては、Cu−Zn−Bi合金に、Snを0.7〜2.5mass%の量で添加してγ相を析出させることにより、被削性と耐食性の改善を図っている。
また、特許文献1に示すように、Cu−Zn−Sn合金においてγ相を析出させたとしても、Snを含有させたγ相は、被削性を持つBiの共添加を必要としているように、被削性に劣る。
そこで、快削性銅合金として、Pbの代わりにSiを含有したCu−Zn−Si合金が、例えば特許文献2〜9に提案されている。
特許文献5には、Cu−Zn−Si合金にFeを含有させた銅合金が提案されている。
特許文献6には、Cu−Zn−Si合金にSn,Fe,Co,Ni,Mnを含有させた銅合金が提案されている。
特許文献8には、Cu−Zn−Si合金において、κ相を含むα相マトリックスを有し、β相及びγ相の面積率を制限した銅合金が提案されている。
特許文献9には、Cu−Zn−Si合金において、γ相の長辺の長さ、μ相の長辺の長さを規定した銅合金が提案されている。
特許文献10には、Cu−Zn−Si合金に、Sn及びAlを添加した銅合金が提案されている。
特許文献11には、Cu−Zn−Si合金において、γ相をα相及びβ相の相境界の間に粒状に分布させることで被削性を向上させた銅合金が提案されている。
特許文献13には、Cu−Zn合金に、Sn、Pb、Siを添加した銅合金が提案されている。
特許文献10においては、熱処理なしに優れた耐食性を得るために、Cu−Zn−Si合金に、SnとAlを含有させることを必須とし、かつ、優れた被削性を実現させるために、多量のPb、またはBiを必要としている。
特許文献11においては、Cu濃度が約65mass%以上であり、鋳造性、機械的強度が良好なPbを含有しない銅合金鋳物であり、γ相によって被削性が改善されるとしており、Sn,Mn,Ni,Sb,Bを多量に含有した実施例が記載されている。
また、特許文献6においては、Cu−Zn−Si合金に、SnとFe,Co,Mnを添加しているが、Fe,Co,Mnは、いずれもSiと化合して硬くて脆い金属間化合物を生成する。このため、特許文献5と同様に、切削や研磨時に問題を生じさせる。
なお、本明細書において、特に断りのない限り、熱間加工材には、熱間押出材、熱間鍛造材、熱間圧延材を含んでいる。冷間加工性とは、抽伸、伸線、圧延、かしめ、曲げなど冷間で行われる加工の性能を指す。ドリル切削は、ドリルによる穴あけ切削加工を指す。良好な、優れた被削性とは、断りがない限り、旋盤を用いた外周切削やドリル穴あけ加工時、切削抵抗が低く、切屑の分断性が良いこと、或いは優れることを指す。伝導性とは、電気伝導性、熱伝導性を指す。また、β相には、β’相を含み、γ相には、γ’相を含み、α相にはα’相を含む。冷却速度とは、ある温度範囲での平均の冷却速度を指す。1昼夜は、1日間を意味する。実操業は、実機の量産設備で製造することを意味する。Pを含む化合物は、Pと、少なくともSi及びZnのいずれか一方又は両方とを含む化合物、場合によっては、さらにCuを含む化合物や、さらに不可避不純物であるFe、Mn、Cr、Coなどを含む化合物である。Pを含む化合物は、例えばP−Si、P−Si−Zn、P−Zn、P−Zn−Cuなどの化合物である。Pを含む化合物は、PとSi,Znを含む化合物とも言う。
上述の特許文献4では、Cu−Zn−Si合金において、β相は、銅合金の被削性にほとんど貢献することなく、むしろ阻害するとされている。特許文献2、3では、β相が存在する場合、熱処理によりβ相をγ相に変化させるとされている。特許文献7、8、9においても、β相の量は大幅に制限されている。特許文献13では、β相の耐脱亜鉛腐食性の改善のために、SnとSiが含有されること、700℃以上の温度で熱間押出されること、及び保持温度が400℃〜600℃であり、400℃〜200℃の平均冷却速度が0.2〜10℃/秒である熱処理を行うことが必要とされている。
しかしながら、被削性に大きな効果があるSiを含有するβ相であっても、切屑の分断性や、切削抵抗では、3mass%のPbを含有した快削黄銅との被削性の差は依然として大きかった。
しかしながら、被削性を向上させたβ相は、延性や靭性に乏しい。β相の被削性を損なわずに延性の改善を図るため、適正なβ相とα相の量と、α相とβ相の分布、およびα相の結晶粒の形状を制御した。
これらにより、一段と被削性を向上させたβ相と、延性に富んだα相と、少量のPbと、場合によっては少量のγ相とを含有させることにより、従来の多量のPbを含有するPb添加銅合金に匹敵する快削性能を有する銅合金を発明するに至った。
前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.40mass%未満であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.40mass%未満であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.3≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]−0.5×[P]≦59.3
の関係を有するとともに、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10相の金属相を対象とし、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%、μ相の面積率を(μ)%、κ相の面積率を(κ)%、δ相の面積率を(δ)%、ε相の面積率を(ε)%、ζ相の面積率を(ζ)%、η相の面積率を(η)%、χ相の面積率を(χ)%とし、(α)+(β)+(γ)+(μ)+(κ)+(δ)+(ε)+(ζ)+(η)+(χ)=100としたときに、
20≦(α)≦75、
25≦(β)≦80、
0≦(γ)<2、
20≦(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])≦78、
33≦(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])+([Pb])1/2×33+([P])1/2×14
の関係を有するとともに、
前記β相内に、粒径が3μm以下で、少なくとも2000倍の倍率で電子顕微鏡による調査で観察可能な大きさのPを含む化合物が存在していることを特徴とする。
前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.30mass%以下であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.30mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.7≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]−0.5×[P]≦58.7
の関係を有するとともに、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10相の金属相を対象とし、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%、μ相の面積率を(μ)%、κ相の面積率を(κ)%、δ相の面積率を(δ)%、ε相の面積率を(ε)%、ζ相の面積率を(ζ)%、η相の面積率を(η)%、χ相の面積率を(χ)%とし、(α)+(β)+(γ)+(μ)+(κ)+(δ)+(ε)+(ζ)+(η)+(χ)=100としたときに、
25≦(α)≦67、
33≦(β)≦75、
(γ)=0、
30≦(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])≦72、
44≦(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])+([Pb])1/2×33+([P])1/2×14
の関係を有するとともに、
前記β相内に、粒径が3μm以下で、少なくとも2000倍の倍率で電子顕微鏡による調査で観察可能な大きさのPを含む化合物が存在していることを特徴とする。
本実施形態である快削性銅合金は、自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品に用いられるものである。具体的には、バルブ、継手、歯車、ねじ、ナット、センサー、圧力容器などの、自動車部品、電気・家電・電子部品、機械部品、および、飲料用水、工業用水、水素などの液体または気体と接触する器具・部品に用いられるものである。
そして、本実施形態では、この含有量の表示方法を用いて、以下のように、組成関係式f1を規定している。
組成関係式f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]−0.5×[P]
そして、本実施形態では、以下のように、複数の組織関係式を規定している。
組織関係式f2=(α)
組織関係式f3=(β)
組織関係式f4=(γ)
組織関係式f5=(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])
組織・組成関係式f5A=(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])+([Pb])1/2×33+([P])1/2×14
また、本発明の第1、2の実施形態である快削性銅合金においては、アスペクト比(長辺/短辺)が4以下である粒状のα相結晶粒の占める割合(α相全体に対する割合)が50%以上であることが好ましい。厳密には、粒状のα相結晶粒の占める割合は、ある視野内でのα相結晶粒の総数(個数)を分母とし、アスペクト比が4以下である粒状のα相結晶粒の数(個数)を分子とする割合であり、(アスペクト比が4以下である粒状のα相結晶粒の数(個数)/α相結晶粒の総数(個数))×100である。
(Cu)
Cuは、本実施形態の合金の主要元素であり、本発明の課題を克服するためには、少なくとも58.5mass%以上の量のCuを含有する必要がある。Cu含有量が、58.5mass%未満の場合、Si,Zn,P,Pbの含有量や、製造プロセスにもよるが、β相の占める割合が80%を超え、材料としての延性に劣る。よって、Cu含有量の下限は、58.5mass%以上であり、好ましくは59.0mass%以上、より好ましくは59.5mass%以上であり、さらに好ましくは60.3mass%以上である。
一方、Cu含有量が63.5mass%より多いと、Si,Zn,P,Pbの含有量や、製造プロセスにもよるが、β相の占める割合が少なくなり、一方、γ相の占める割合が多くなる。従って、Cu含有量は、63.5mass%以下であり、好ましくは63.2mass%以下、より好ましくは63.0mass%以下であり、さらに好ましくは62.7mass%以下である。約3%のPbを含有する快削性黄銅棒は、JIS規格でCuの範囲が、56.0〜63.0mass%と定められており、本実施形態は経済面でも要求される条件を満たす。
Siは、本実施形態である快削性銅合金の主要な元素であり、Siは、κ相、γ相、μ相、β相、ζ相などの金属相の形成に寄与する。Siは、本実施形態の合金の被削性、強度、高温変形能、耐摩耗性、耐応力腐食割れ性を向上させる。被削性に関し、前記の範囲の量のCuと、Znと、Siの含有によって形成されるβ相に、優れた被削性を有することを究明した。被削性に優れるβ相は、例えば代表的なものとして、Cuが約59mass%、Siが約1mass%、Znが約40mass%からなるβ相が、挙げられる。
また、Siの含有によってα相、β相が固溶強化されるため、合金が強化され、合金の延性や靭性にも影響を与える。そしてSiの含有は、α相の導電率を低くするが、β相の形成により、合金の導電率を向上させる。
熱間加工性に関し、Siの含有により、500℃を超える温度域でのα相、β相の熱間変形能を高め、熱間変形抵抗を低くし、その結果、合金の熱間変形能を高め、変形抵抗を低くする。特にSiを0.4mass%超えて含有すると、その効果が顕著に発揮される。
Znは、Cu、Siとともに本実施形態である快削性銅合金の主要構成元素であり、被削性、強度、高温特性、鋳造性を高めるために必要な元素である。なお、Znは残部としているが、強いて記載すれば、Zn含有量は約40mass%より少なく、好ましくは約39.5mass%より少なく、約35mass%より多く、好ましくは35.5mass%より多い。
本実施形態においては、Pを含み、Siを含有したβ相によって合金として優れた被削性が得られるが、さらに少量のPbの含有によってより優れた被削性が達成される。本実施形態の組成において、約0.001mass%のPbがマトリックスに固溶し、それを超えた量のPbは直径が約0.1〜約3μmのPb粒子として存在する。Pbは、微量であっても被削性に効果があり、0.003mass%以上の含有量で効果を発揮する。Pb含有量は、好ましくは0.01mass%以上であり、さらに好ましくは0.02mass%以上であり、より好ましくは0.04mass%以上、若しくは0.06mass%以上である。被削性が大幅に改善されたβ相と、少量のPbの含有により、合金の被削性が大幅に向上する。Si含有量が少ない場合や、β相の割合が少ない場合、或いは、切削速度が速くなる場合、送りが大きくなる場合、外周切削の切込深さが深くなる場合、ドリル穴径が大きくなる場合などのように、切削条件が厳しくなる場合は、Pbの含有が効果的になる。
Pbは、銅合金の被削性を向上させることは周知の事実であるが、そのために、快削黄銅棒C3604に代表されるように、Cu−Znの2元合金に約3mass%のPbが必要とされる。本実施形態においては、Siを含有したβ相、そしてさらに、後述するPの固溶と、Pを含む化合物がβ相内に存在することにより、本実施形態の合金の主構成相のβ相は、すでに大よそC3604に近づく被削性を備えている。そして、少量のPbを含有させ、少量のPb粒子を金属組織に存在させることで、優れた被削性を有する合金が完成する。Pbは、人体に有害であることと、合金に高度な被削性を備えることを考慮し、Pbの上限を0.25mass%以下とした。さらに、Pb含有量は、好ましくは0.20mass%以下、より好ましくは0.15mass%以下であり、人体や環境への影響を鑑みれば、最適には0.10mass%以下である。
Pに関して、まず、Pがβ相に固溶することにより、その量が増えるにしたがって、β相の被削性、すなわち、β相の切屑分断性(切屑の分断性)を高め、切削抵抗を下げることができ、合金としての優れた被削性を得ることができる。そしてさらに、Pの含有と製造プロセスによって、平均で直径0.5〜3μm程度の大きさのPを含む化合物が、β相内に形成される。これらの化合物により、外周切削の場合、主分力、送り分力、背分力の3分力を低下させ、ドリル切削の場合では、特にトルクを大きく引き下げる。外周切削時の3分力と、ドリル切削時のトルクと、切屑形状とは、連動しており、3分力、トルクが小さいほど、切屑は分断される。
Pの含有量が、約0.015mass%以上であると、金属顕微鏡で、Pを含む化合物を観察することができる。また、Pの量が多くなるにしたがって、β相中に固溶するPの量、Pを含む化合物が増え、被削性の向上に貢献する。そして、Pの量が多くなるにしたがって、Pを含む化合物が形成される臨界の冷却速度が上がり、Pを含む化合物の形成を容易にする。
一方、Pを、0.19mass%を超えた量で含有させると、析出物が粗大化して被削性への効果が飽和するだけでなく、β相中のSi濃度が低下し、被削性が却って悪くなり、延性や靭性も低下する。このため、Pの含有量は、0.19mass%以下であり、好ましくは0.12mass%以下であり、より好ましくは0.09mass%以下である。Pの含有量は、約0.05mass%、または0.05mass%未満でも、十分な量の化合物を形成する。
本実施形態における不可避不純物としては、例えばMn,Fe,Al,Ni,Mg,Se,Te,Sn,Bi,Co,Ca,Zr,Cr,Ti,In,W,Mo,B,Ag及び希土類元素等が挙げられる。
従来から快削性銅合金、特にZnを約30mass%以上の量で含む快削黄銅は、電気銅、電気亜鉛など、良質な原料が主原料ではなく、リサイクルされる銅合金が主原料となる。当該分野の下工程(下流工程、加工工程)において、ほとんどの部材、部品に対して切削加工が施され、材料100に対して40〜80の割合で多量に廃棄される銅合金が発生する。例えば切屑、端材、バリ、湯道、および製造上の不良を含む製品などが挙げられる。これら廃棄される銅合金が、主たる原料となる。切削切屑、端材などの分別が不十分であると、Pbが添加された快削黄銅、Pbを含有しないがBiなどが添加されている快削性銅合金、或いは、Si,Mn,Fe,Alを含有する特殊黄銅合金、その他の銅合金から、Pb,Fe,Mn,Si,Se,Te,Sn,P,Sb,As,Bi,Ca,Al,Zr,Niおよび希土類元素が、原料として混入する。また切削切屑には、工具から混入するFe,W,Co,Moなどが含まれる。廃材は、めっきされた製品を含むため、Ni,Cr、Snが混入する。また、電気銅の代わりに使用される純銅系のスクラップの中には、Mg,Sn,Fe,Cr,Ti,Co,In,Ni,Se,Teが混入する。電気銅や電気亜鉛の代わりに使用される黄銅系のスクラップには、特に、Snがメッキされていることが度々あり、高濃度のSnが混入する。
その他の元素であるMg,Ca,Zr,Ti,In,W,Mo,B,および希土類元素等のそれぞれの含有量は、0.05mass%未満が好ましく、0.03mass%未満がより好ましく、0.02mass%未満がさらに好ましい。
なお、希土類元素の含有量は、Sc,Y,La、Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Tb,及びLuの1種以上の合計量である。
以上、これら不可避不純物の合計量は、1.0mass%未満が好ましく、0.8mass%未満がより好ましく、0.6mass%未満がさらに好ましい。
組成関係式f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]−0.5×[P]は、組成と、金属組織、被削性、強度、延性との関係を表す式で、各々の元素の量が上記に規定される範囲にあっても、この組成関係式f1を満足しなければ、本実施形態が目標とする諸特性を満足できない。組成関係式f1が56.3未満であると、製造プロセスを如何に工夫したとしても、β相の占める割合が多くなり、延性が悪くなる。また、後述する針状のα相結晶粒が増えやすくなる。よって、組成関係式f1の下限は、56.3以上であり、好ましくは56.5以上であり、より好ましくは56.7以上であり、さらに好ましくは57.0以上ある。組成関係式f1がより好ましい範囲になるにしたがって、α相の占める割合が増え、優れた被削性を保持するとともに、良好な延性、冷間加工性、衝撃特性、耐食性を備えることができる。
また、約600℃の熱間加工性に関しても、組成関係式f1は深くかかわっており、組成関係式f1が56.3より小さいと、熱間変形能に問題が生じる。組成関係式f1が59.3より大きいと、熱間変形抵抗が高くなり、600℃での熱間加工が困難になる。
なお、Sn,Al,Cr,Co,Fe,Mnおよび別途規定した不可避不純物については、不可避不純物として扱われる範疇の範囲内であれば、組成関係式f1に与える影響が小さいことから、組成関係式f1では規定していない。
ここで、上述した特許文献2〜13に記載されたCu−Zn−Si合金と本実施形態の合金との組成を比較した結果を表1,2に示す。
本実施形態と特許文献2〜9とは、主要元素であるCu、Siの含有量が異なっており、Cuを多量に必要としている。
特許文献2〜4、7〜9では、金属組織においてβ相は、被削性を阻害するとして、好ましくない金属相として挙げられている。そして、β相が存在する場合、熱処理によって、被削性に優れるγ相に、相変化させることが好ましいとされている。
特許文献4、7〜9では、許容できるβ相の量が記載されているが、β相の面積率は、最大で5%である。
特許文献10では、耐脱亜鉛腐食性を向上させるために、SnとAlを少なくとも、各々0.1mass%以上の量で含有し、優れた被削性を得るためには、多量のPb、Biの含有を必要としている。
特許文献11では、65mass%以上のCuを必要とし、Siの含有とともに、Al,Sb,Sn,Mn,Ni,B等を微量含有させることにより、良好な機械的性質、鋳造性を備えた耐食性銅合金鋳物である。
特許文献13では、0.2mass%以上のSnを含有し、β相の耐脱亜鉛腐食性を向上させるために、Sn、Siが含有され、被削性の向上のために700℃以上の温度で熱間押出し、耐食性の向上のために400℃〜600℃の熱処理を必要としている。明細書には、β相の割合は、5〜25%で、Siの含有量は、0.2mass%以下でよいと記載されている。
さらにいずれの特許文献においても、本実施形態で必須の要件である、Siを含有するβ相が被削性に優れていること、少なくともβ相は25%以上の量で必要であること、β相内に微細なPを含む化合物が存在することに関し、何も開示されておらず示唆もされていない。
Cu−Zn−Si合金には、10種類以上の相が存在し、複雑な相変化が起こり、組成範囲、元素の関係式だけでは、目的とする特性が必ずしも得られない。最終的には金属組織に存在する相の種類とその面積率の範囲を特定し、決定することによって、目的とする特性を得ることができる。そこで、以下のように、組織関係式を規定している。
20≦f2=(α)≦75、
25≦f3=(β)≦80、
0≦f4=(γ)<2、
20≦f5=(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])≦78
33≦f5A=(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])+([Pb])1/2×33+([P])1/2×14
特許文献2〜9に記載されているように、γ相は、Cu濃度が約69〜約80mass%、Si濃度が約2〜約4mass%のCu−Zn−Si合金において、被削性に最も貢献する相である。本実施形態においても、γ相は被削性に貢献するが、延性と強度とのバランスを優れたものにするためには、γ相を大幅に制限しなければならない。具体的には、γ相の占める割合を2%以上にすると、良好な延性や靭性が得られない。γ相は、少量で、ドリル切削の切屑分断性をよくする作用があるが、γ相が多く存在するとドリル切削のスラスト抵抗値を高くする。β相が25%以上の量で存在することを前提に、γ相の被削性への効果は、γ相の量の1/2乗の値に相当し、少量のγ相が含有する場合では、被削性への改善効果は大きいが、γ相の量を増やしても被削性の改善効果は減少していく。延性と、ドリル切削や外周切削の切削抵抗を考慮に入れると、γ相の占める割合は、2%未満にする必要がある。γ相の面積率は、1%未満であることが好ましく、γ相は含まないことがより好ましい。γ相が存在しない、すなわち、(γ)=0の場合でも、Siを含有するβ相を後述の割合で存在させることにより、優れた被削性が得られる。
特許文献に記載されているγ相を制限し、κ相、μ相を皆無、または含まず、優れた快削性を得るためには、最適なSi量とCu、Znとの配合割合、β相の量、β相に固溶するSi量が重要となる。なお、ここで、β相には、β’相が含まれるものとする。
本実施形態における組成範囲にあるβ相は、α相に比べると延性に乏しいが、γ相、μ相に比べると遥かに延性に富み、κ相と比べても延性に富む。したがって、延性の点から、比較的多くのβ相を含有させることができる。一方で、γ相は、延性や靭性の面からは、大きな制約を受ける。また、β相は、高濃度のZnとSiを含有するにも関わらず、良好な伝導性を得ることができる。但し、β相やγ相の量は、組成だけでなく、プロセスに大きく影響される。
なお、Siを約1mass%の量で含有したβ相は、500℃の熱間加工の最低レベルの温度から、優れた熱間変形能、すなわち低い熱間変形抵抗を示し、合金として優れた熱間変形能、低い熱間変形抵抗を示す。
β相は、本実施形態における組成範囲において、β相に固溶するSi量が増えるほど被削性が向上し、β相中に含有されるSi量は、好ましくは0.5mass%以上、より好ましくは0.7mass%以上、さらに好ましくは0.8mass%以上である。Pを含み、Si量が約1mass%のβ相単相合金の外周切削時の被削性は、大よそ、3%のPbを含有する快削黄銅棒に匹敵する。合金のSi濃度と、β相の量と、合金の被削性の関係を鋭意研究の結果、合金の被削性は、簡便的に、Si濃度(mass%)を[Si]としたとき、β相の量に、(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])を掛け合わすとよく適合することが判明した。すなわち、同じβ相であっても、Si濃度の高いβ相のほうが、被削性がよい。例えば、合金のSi濃度が0.8mass%、0.6mass%の場合、合金のSi濃度が1.0mass%の場合に比べ、各々約1.14倍、約1.39倍の量のβ相が必要であることを示している。
組織関係式f5は、組織関係式f2〜f4に加え、総合的に優れた被削性と延性、強度を得るための、γ相、β相の割合にそれぞれ係数を与えて示したものである。γ相は、前記のとおり、少量で、特にドリル切削時の切屑の分断性に優れた効果があり、γ相の量の1/2乗に係数3が掛け合わされている。β相は、合金のSi濃度に重みがつけられ、β相の量に、(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])が掛け合わされ、γ相の量の1/2乗に係数3を掛け合わした値との和が、被削性を得るための組織関係式f5として表されている。組織関係式f5は、重要であるが、前記の組成関係式f1と組織関係式f2〜f4を満たして初めて成立する。良好な被削性を得るための組織関係式f5の下限値は、20以上であり、好ましくは23以上であり、より好ましくは30以上である。被削性を重要視すれば、好ましくは40以上であり、さらに好ましくは45以上である。一方、組織関係式f5の上限は、延性、靱性等の特性を鑑み、78以下であり、好ましくは72以下である。延性、冷間圧延や、細棒製造等、冷間加工性を重要視する場合は、組織関係式f5は、好ましくは65以下である。
また、本実施形態においては、500倍の金属顕微鏡で観察できる大きさの析出物、金属相や、約1000倍の金属顕微鏡で確認、判別できる析出物、金属相を対象としている。したがって、観察できる析出物、金属相の大きさの最小値は、概ね、約0.5μmであり、例えば、β相内に、約0.5μmより小さな、0.1〜0.4μmの大きさのγ相が存在することもあるが、これらのγ相は、金属顕微鏡では確認できないので、β相と見なす。
合金として良好な被削性を得るための条件式として、f5の金属組織の関係式に、異なった作用で被削性を改善するPbおよびPの効果を加える必要がある。Siを含有するβ相であって、β相内にPを含む化合物が存在する条件下で、ごく少量のPbを含有すると、被削性が向上する。Pも同様に、β相中への固溶量が増すにしたがって、またはPを含む化合物の量が増えるにしたがって、被削性が向上する。鋭意研究を進めた結果、Pb、Pとも被削性の向上の度合いは、Pb、Pの量の1/2乗と深い関係を持つことが、見出された。すなわち、Pb、Pともごく少量の含有で大きな効果を発揮し、含有量が増すとともに被削性の向上効果は増すが、徐々に緩やかなものになる。
以上をまとめると、β相中に含有されるSi濃度およびβ相の量、β相中でのPの固溶量およびβ相中に存在するPを含む化合物の量、微細な粒子として存在するPbの量は、それぞれ別々の作用により合金の被削性を向上させる。これらのすべての要件が揃うと、それらの相乗作用により大きな被削性の改善効果を発揮し、Pb、Pともにごく少量の含有で、大幅に合金の被削性が向上する。
組織・組成関係式f5Aは、f5に、Pbの量(mass%、[Pb])の1/2乗に係数33が掛け合わされ、Pの量(mass%、[P])の1/2乗に係数14が掛け合わされ、各々加算されたものである。良好な被削性を得るためには、f5Aが少なくとも、33以上であり、好ましくは40以上、より好ましくは44以上、さらに好ましくは50以上である。組織関係式f5を満たしても、Pb、Pの効果を加えたf5Aを満たさないと、良好な被削性が得られない。なお、Pb、Pが、本実施形態で規定する範囲内であれば、延性等への影響は、f5の関係式の上限で定められているので、f5Aで規定する必要はない。なお、f5の値が比較的小さい場合であっても、Pb、Pの含有量を増すことにより、被削性は向上する。さらに、切削速度が速くなる場合、送りが大きくなる場合、外周切削の切込深さが深くなる場合、ドリル穴径が大きくなる場合などのように、切削条件が厳しくなる場合、f5Aを大きくすることが好ましく、その中でも、Pbの項を大きくすることが好ましい。
なお、f5、f5Aは、本実施形態で規定する各元素の濃度範囲内、f1〜f4で規定される範囲内でのみ適用される。
α相は、β相、或いはγ相とともにマトリックスを構成する主要な相である。Siを含有したα相は、Siを含有しないものに比べると、被削性指数で、約5%の向上に留まるが、Si量が増すにしたがって被削性は向上する。β相単相であると、合金の延性で問題があり、適切な量の延性に富むα相が必要である。優れた被削性を持つPを含む化合物を含有したβ相と、被削性に乏しいα相とを含んでいても、α相自体がクッション材の役割、或いは、切削時、硬質のβ相との境界で応力集中源の役割を果たし、α相を比較的多く含んでも、例えば約50%の面積率で含んでも、優れたβ単相合金の被削性が維持されると考えられる。なお、前記の如く、合金のSi濃度、β相中に含有されるSi濃度、そして、α相の形状や分布状況にも左右される。
合金の被削性、機械的性質に及ぼす、α相の形状、分布、β相の分布に関し、α相結晶粒の形状が針状(結晶粒の長辺/短辺の比が4を超える楕円形)であると、α相の分散が悪くなり、針状の、長辺の大きいα相が、切削時の妨げになる。そして、α相の周りのβ相の結晶粒が大きくなり、β相の分散度合いも悪くなる。さらに、α相結晶粒の結晶粒径が細かいほど被削性、機械的性質が良くなる。α相結晶粒の平均結晶粒径は、30μm以下が好ましい。α相結晶粒が、粒状で細かいと、α相の分布が均一になり、β相も分断される。このため、切削や強度・延性面において、α相が良いクッション材としての役割を果たし、或いは、α相とβ相の相境界が切屑分断の応力集中源としての役割を果たし、切屑は、β相単相合金よりむしろ分断される。したがって、好ましい実施形態として、α相全体に対して、長辺/短辺が4以下の粒状のα相結晶粒が占める割合(((長辺/短辺)が4以下である粒状のα相結晶粒の数(個数)/α相結晶粒の総数(個数))×100)が50%以上、より好ましくは75%以上であると、被削性は向上する。そして、針状の、長辺の大きいα相結晶粒が占める割合が50%を超えると、延性は概ね維持されるが、合金の強度が下がる。したがって、粒状のα相結晶粒の割合が大きくなると、強度が高くなり、強度と延性のバランスが向上する。長辺/短辺が4以下の粒状のα相結晶粒の占める割合が50%、或いは75%を超えるか否かは、組成だけでなく、製造プロセスに影響され、熱間加工温度が高いと、長辺/短辺が4を超える針状のα相結晶粒の占める割合が多くなる。
優れた被削性を備えるとともに、高い延性や靭性、高い強度を得るには、α、β、γ相以外の相の存在も重要である。本実施形態では、諸特性を鑑み、κ相、μ相、或いはδ相、ε相、ζ相、η相は、必要としない。金属組織を形成する構成相(α)、(β)、(γ)、(μ)、(κ)、(δ)、(ε)、(ζ)、(η)の総和を100としたとき、好ましくは、(α)+(β)+(γ)>99であり、計算上の誤差、数字の丸め方を除けば、最適には(α)+(β)+(γ)=100である。
Siを含有するβ相は、Pbを3mass%の量で含有する快削性銅合金に比べ、切屑の分断性が不十分であり、外周切削時の切削抵抗、ドリル切削時のトルクが高い。β相内に、粒径が0.5〜3μm程度のPを含む化合物が存在することによって、β相の被削性をさらに改善することができる。Pを含む化合物の存在による被削性の改善効果は、単純には、被削性指数で、約11%に相当する。被削性は、Pの含有量、β相の量と分布、形成されるPを含む化合物の大きさ、分布状況等にも影響される。このPを含む化合物は、Pと、少なくともSi及びZnのいずれか一方又は両方とを含む化合物、場合によっては、さらにCuを含む化合物や、さらに不可避不純物であるFe、Mn、Cr、Coなどを含む化合物である。そして、Pを含む化合物は、不可避不純物であるFe,Mn,Cr,Coなどにも影響される。不可避不純物の濃度が、前記で規定した量を超えると、Pを含む化合物の組成が変化し、被削性の向上に寄与しなくなるおそれがある。なお、約600℃の熱間加工温度では、Pを含む化合物は存在せず、熱間加工後の冷却時の臨界の冷却速度で生成する。したがって、熱間加工後の冷却速度が重要となり、530℃から450℃の温度域を、50℃/分以下の平均冷却速度で冷却することが好ましい。前記の平均冷却速度は、より好ましくは45℃/分以下である。一方、冷却速度が遅すぎると、Pを含む化合物が成長し易くなり、被削性への効果が低下する。前記の平均冷却速度の下限は、0.1℃/分以上が好ましく、0.3℃/分以上がより好ましい。
図1Aの銅合金は、Zn−61.7mass%Cu−0.92mass%Si−0.058mass%P−0.011mass%Pb合金であって、590℃で熱間押出加工し、530℃から450℃の平均冷却速度を25℃/分として得られた合金である。
図1Bの銅合金は、Zn−61.7mass%Cu−0.92mass%Si−0.058mass%P−0.011mass%Pb合金であって、615℃で熱間鍛造し、530℃から450℃の平均冷却速度を28℃/分として得られた合金である。
図1Cの銅合金は、Zn−62.1mass%Cu−0.90mass%Si−0.001mass%P−0.016mass%Pb合金であって、595℃で熱間押出加工し、530℃から450℃の平均冷却速度を30℃/分として得られた合金である。
一方、図1Cにおいては、P量が0.001mass%であるので、Pを含む析出物は存在しない。図1Cと図1A,図1Bと比較すると、同じ条件でエッチングしても、Pの量が0.001mass%の場合(図1C)、α相とβ相の相境界が明瞭ではないが、Pの量が0.058mass%の場合(図1A,図1B)、α相とβ相の相境界がよりクリアーになっている。前者のP量が0.001mass%であることと、両者のPの量の差である0.057mass%の差が、金属組織を変化させている。
本実施形態である組成範囲において生成するα相、β相、γ相のCu,Zn、Siの量には、おおよそ、次の関係がある。
Cu濃度は、α>β≧γ
Zn濃度は、β>γ>α
Si濃度は、γ>β>α
なお、特許文献2の代表組成のZn−76mass%Cu−3.1mass%Si合金を作製し、X線マイクロアナライザー(EPMA)で分析したところ、γ相の組成は、73mass%Cu−6mass%Si−20.5mass%Znであった。本実施形態の快削性銅合金のγ相の組成例である60mass%Cu−3mass%Si−37mass%Znと大きな相違があり、両者のγ相の性質も異なることが予想される。
一般に、3mass%のPbを含有する快削黄銅を基準とし、その被削性を100%として、様々な銅合金の被削性が数値(%)で表されている。一例として、1994年、日本伸銅協会発行、「銅および銅合金の基礎と工業技術(改訂版)」、p533、表1、及び1990年 ASM International発行“Metals Handbook TENTH EDITION Volume2 Properties and Selection: Nonferrous Alloys and Special-Purpose Materials”、p217〜228の文献に銅合金の被削性が記載されている。
表6の合金は、後述する実験室で作製したPbを0.01mass%の量で含む合金で、同じく実験室の押出試験機でφ22mmに熱間押出されたものである。Cu−Znの2元合金では、Pbを少量含んでも、被削性にほとんど影響がないことから、本実施形態の成分範囲内の0.01mass%の量のPbをそれぞれ含有させた。熱間押出温度は、合金A,Dでは、750℃であり、その他の合金B,C,E,Fでは、635℃であった。押出後、金属組織を調整するため、500℃で2時間熱処理した。後述する切削試験に従って、外周切削、ドリル切削の試験を行い、被削性を求めた。評価結果を表7に示す。なお、基準材の快削黄銅としては、市販されているC3604(Zn−59mass%Cu―3mass%Pb―0.2mass%Fe―0.3mass%Sn)を用いた。
外周切削は、主分力、送り分力、背分力に分解できるが、それらの合力(3分力)を切削抵抗とした。ドリル切削については、トルク、スラストに分解し、それらの平均値をドリルの切削抵抗の「総合」として記載した。さらに、合金の被削性として、外周の切削抵抗とドリル切削抵抗を平均し、被削性「総合」指数(評価)とした。
Cu−Zn−Si−P−Pb合金の被削性は、β相中にPを含む化合物が存在するか否か、およびβ相中のSi濃度に大きな影響を受け、β相中のSi濃度が1mass%であることにより、優れた被削性が発揮されるといえる。
本実施形態の快削性銅合金は、β相にPを含む化合物を含み、表3〜5の評価表に示されるように、β相に、Siが0.6〜1.3mass%の量で含有されることにより、良好な被削性を備えることができる。
(常温強度及び高温特性)
自動車部品を始め本実施形態の使用対象となる部材、部品に対し、薄肉化、軽量化の強い要請がある。必要な強度としては、引張強さが重要視され、延性とのバランスも重要とされている。
そのためには、熱間押出材、熱間圧延材及び熱間鍛造材は、冷間加工を施さない熱間加工あがりの状態で、引張強さが450N/mm2以上の高強度材であることが好ましい。引張強さは、より好ましくは490N/mm2以上で、さらに好ましくは520N/mm2以上である。バルブ、継手、圧力容器、空調・冷凍機に使用される多くの部品は、熱間鍛造で作られている。現行使用されている2mass%Pbを含有する鍛造用黄銅C3771の引張強さは、β相を含むにも拘らず、約400N/mm2、伸びが30〜35%である。Siの含有と組織関係式f2〜f5、f5Aの要件を満たすことにより、高い強度が得られ、軽量化が図れる。
熱間加工材と、熱間加工後にさらに加工率30%以内で冷間加工された材料、或いは、冷間加工と熱処理が施され、場合によっては繰り返し行われ、最終加工率30%以内で冷間加工された材料の場合、以下の特性を有する。以下、冷間加工率を[R]%とするが、冷間加工されない場合は、[R]=0である。引張強さS(N/mm2)は、好ましくは、(450+8×[R])N/mm2以上、より好ましくは、(490+8×[R])N/mm2以上である。伸びE(%)は、好ましくは、(0.02×[R]2−1.15×[R]+18)%以上、より好ましくは、(0.02×[R]2−1.2×[R]+20)%以上である。そして、強度と延性のバランスを示す特性関係式f6=S×(100+E)/100は、590以上であることが好ましく、より好ましくは620以上であり、さらに好ましくは650以上である。
なお、Pbを含有した熱間加工あがりの快削黄銅は、上述の特性関係式f6が約530である。このため、本実施形態の快削性銅合金の特性関係式f6は、Pbを含有した熱間加工あがりの快削黄銅の特性関係式f6よりも、少なくとも60以上、さらには90以上大きく、強度と延性のバランスに優れている。
本実施形態の用途には、電気・電子機器部品、EV化が進む自動車部品、その他高い伝導性部材・部品が含まれる。現在、これらの用途には、Snを約5mass%、約6mass%、或いは約8mass%の量で含有する、りん青銅(JIS規格、C5102,C5191,C5210)、が多く使用され、それらの導電率は、各々、約15%IACS、約14%IACS、約12%IACSである。したがって、本実施形態の銅合金の導電率は、16%IACS以上であれば、電気・電子部品、自動車部品用途において、電気伝導性に関し大きな問題は生じない。導電率を悪くする元素であるSiを約0.8mass%の量で含有し、かつ、Znを約37mass%の量で含有するにも関わらず、高い伝導性を示すのは、β相の量とβ相中に固溶するSiが影響している。β相は、α相より、Zn濃度が高いにもかかわらず、β相を多く含むほど、電気伝導性が向上する。なお、導電率の上限は、伝導性が良くなることで、実用上、問題となることはほとんどなく、特に規定しないが、敢えて抵抗溶接を想定し、導電率は、好ましくは23%IACS以下とする。
第1に、従来からCu−Zn−Si合金において生成するβ相は、合金の被削性向上に効果がない、或いは、合金の被削性を妨げるとされていた。しかしながら、鋭意研究の結果、一例として、Si量が約1mass%、Cu量が約59mass%、Zn量が約40mass%であるβ相に、優れた被削性を有することを究明した。
本実施形態の快削性銅合金は、約600℃で優れた変形能を有していることが特徴であり、断面積が小さな棒に熱間押出でき、複雑な形状に熱間鍛造できる。Pbを含有する銅合金は、約600℃で強加工すると大きな割れが発生するので、適正な熱間押出温度は625〜800℃とされ、適正な熱間鍛造温度は650〜775℃とされている。本実施形態の快削性銅合金の場合、600℃で80%以上の加工率で熱間加工した場合に割れないことが特徴であり、好ましい熱間加工温度は、650℃より低い温度であり、より好ましくは、625℃より低い温度である。
熱間加工温度が約600℃であり、従来の銅合金の加工温度より低いと、熱間押出用の押出ダイスなどの工具、押出機のコンテナー、鍛造金型は、400〜500℃に加熱され使用されている。それらの工具と熱間加工材の温度差が小さいほど、均質な金属組織が得られ、寸法精度の良い熱間加工材が作れ、工具の温度上昇がほとんどないので、工具寿命も長くなる。また、同時に、高い強度、強度と伸びのバランスに優れた材料が得られる。
次に、本発明の第1、2の実施形態に係る快削性銅合金の製造方法について説明する。
本実施形態の合金の金属組織は、組成だけでなく製造プロセスによっても変化する。熱間押出、熱間鍛造の熱間加工温度、熱処理条件に影響されるだけでなく、熱間加工や熱処理における冷却過程での平均冷却速度が影響する。鋭意研究を行った結果、熱間加工や熱処理の冷却過程において、530℃から450℃の温度領域における冷却速度に金属組織が大きく影響されることが分かった。
溶解は、本実施形態の合金の融点(液相線温度)より約100〜約300℃高い温度である約950〜約1200℃で行われる。融点より、約50〜約200℃高い温度である約900〜約1100℃の溶湯が、所定の鋳型に鋳込まれ、空冷、徐冷、水冷などの幾つかの冷却手段によって冷却される。そして、凝固後は、様々に構成相が変化する。
熱間加工としては、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延が挙げられる。それぞれの工程について、以下に説明する。なお、2以上の熱間加工工程を行う場合、最終の熱間加工工程を以下の条件で行う。
まず、熱間押出に関して、好ましい実施形態として、押出比(熱間加工率)、設備能力にもよるが、実際に熱間加工される時の材料温度、具体的には押出ダイスを通過直後の温度(熱間加工温度)が530℃超えて650℃より低い温度で熱間押出する。熱間押出温度の下限は、熱間での変形抵抗に関係し、上限は、α相の形状に関連し、より狭い温度で管理することにより、安定した金属組織が得られる。650℃以上の温度で熱間押出すると、α相結晶粒の形状が粒状でなく、針状になりやすくなる、或いは、直径50μmを超える大きなα相結晶粒が出現し易くなる。針状や、粗大なα相結晶粒が出現すると、強度がやや低くなり、強度と延性のバランスが少し悪くなり、Pを含む析出物の分布が悪くなり、長辺が大きく粗大なα相結晶粒が切削の障害となり、被削性が少し悪くなる。α相結晶粒の形状は、組成関係式f1と関係があり、組成関係式f1が58.0以下の場合は、押出温度が625℃より低いことが好ましい。Pb含有銅合金より、低い温度で押出することにより、良好な被削性と高い強度を備えることができる。
実測が可能な測定位置に鑑みて、熱間加工温度は、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延の終了時点から約3秒後または4秒後の実測が可能な熱間加工材の温度と定義する。金属組織は、大きな塑性変形を受けた加工直後の温度に影響を受ける。議論されている熱間加工後の平均冷却速度が約50℃/分であるので、3〜4秒後の温度低下は、計算上、約3℃であり、ほとんど影響を受けない。
熱間鍛造は、素材として、主として熱間押出材が用いられるが、連続鋳造棒も用いられる。熱間押出に比べ、熱間鍛造は、加工速度が速く、複雑形状に加工し、場合によっては、肉厚が約3mmにまで強加工することがあるので、鍛造温度は高い。好ましい実施形態として、鍛造品の主要部位となる大きな塑性加工が施された熱間鍛造材の温度、すなわち鍛造直後(鍛造の終了時点)から約3秒後または4秒後の材料温度は、530℃を超えて675℃より低いことが好ましい。鍛造用の黄銅合金として広く世の中で使用されているPbを2mass%の量で含有する黄銅合金(59Cu−2Pb−残Zn)では、熱間鍛造温度の下限は650℃とされるが、本実施形態の熱間鍛造温度は、650℃より低いことがより好ましい。熱間鍛造においても、組成関係式f1と関係があり、組成関係式f1が58.0以下の場合は、熱間鍛造温度が650℃より低いことが好ましい。熱間鍛造の加工率にもよるが、温度が低いほど、α相の結晶粒の大きさが小さくなり、α相結晶粒の形状が、針状から粒状に変化し、強度が高くなり、強度と延性のバランスが良くなり、かつ、被削性が良くなる。
熱間圧延では、鋳塊を加熱し、5回〜15回、繰り返し圧延される。そして、最終の熱間圧延終了時の材料温度(終了時点から3〜4秒経過後の材料温度)が、530℃超えて625℃より低いことが好ましい。熱間圧延終了後、圧延材が冷却されるが、熱間押出と同様、530℃から450℃の温度領域における平均冷却速度を0.1℃/分以上、50℃/分以下とすることが好ましい。前記の平均冷却速度は、より好ましくは、0.3℃/分以上、または45℃/分以下である。
銅合金の主たる熱処理は、焼鈍とも呼ばれ、例えば熱間押出では押出できない小さなサイズに加工する場合、冷間抽伸、或は冷間伸線後に、必要に応じて熱処理が行われ、この熱処理は、再結晶、すなわち材料を軟らかくすることを目的として実施される。圧延材も同様で、冷間圧延と熱処理が施される。本実施形態においては、さらに、γ相、β相の量を制御することも目的として熱処理が施される。
再結晶を伴う熱処理が必要な場合は、材料の温度が400℃以上600℃以下で、0.1時間から8時間の条件で加熱される。前工程で、Pを含む化合物が形成されていない場合、熱処理中に、Pを含む化合物が形成される。なお、530℃を超える温度で熱処理すると、Pを含む化合物が再固溶し、消失する。熱処理温度が530℃を超える場合、冷却過程において、530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を50℃/分以下、好ましくは45℃/分以下に設定して冷却し、Pを含む化合物を形成する必要がある。前記の平均冷却速度の下限は、0.1℃/分以上が好ましい。
熱間押出棒の場合、高い強度を得るため、寸法精度を良くするため、または押出された棒材、コイル材を曲がりの少ない直線形状にするために、熱間押出材に対して冷間加工を施されることがある。例えば熱間押出材に対して、約2%〜約30%の加工率で冷間抽伸、場合によっては矯正加工、低温焼鈍が施される。
細い棒、線、或いは、圧延材は、冷間加工と熱処理が繰り返し実施され、熱処理後、最終加工率0%〜約30%の冷間加工、矯正加工、低温焼鈍が施される。
冷間加工の利点は、合金の強度を高めることができる点である。熱間加工材に対して、冷間加工と、熱処理を組み合わせることにより、その順序が逆であっても、高い強度、延性、衝撃特性のバランスを取ることができ、用途に応じ、強度重視、延性や靱性重視の特性を得ることができる。なお、冷間加工による、被削性への影響は小さい。
棒、線、鍛造品、圧延材においては、残留応力の除去、棒材の矯正(棒材の直線度)、金属組織の調整と改善を主たる目的として、再結晶温度以下の温度で棒材、線材、鍛造品、圧延材を最終の工程で低温焼鈍することがある。本実施形態の場合、前記熱処理と区別するため、金属組織中で再結晶する割合が、50%より小さい場合を低温焼鈍と定義する。低温焼鈍は、保持温度が250℃以上430℃以下で、保持時間が10〜200分の条件で行われる。下限の条件は、残留応力が十分に除去できる最低の温度、または時間である。また、断面が凹状で、底面が平滑な面の型枠、例えば、幅約500mm、高さ約300mm、厚み約10mm、長さ約4000mmの鋼製の型枠(凹状のくぼみの深さは(高さ)−(厚み))に、棒材を整列して並べ、250℃以上430℃以下の温度で、10〜200分保持することにより、直線性に優れた棒材を得ることができる。温度をT℃、時間をt分とすると、300≦焼鈍条件式f7=(T−200)×(t)1/2≦2000の条件が好ましい。焼鈍条件式f7が300より小さいと、残留応力の除去、または矯正が不十分である。焼鈍条件式f7が2000を超えると、再結晶により材料の強度が低下する。焼鈍条件式f7は、好ましくは、400以上であり、1600以下である。前工程の冷却速度に関わらず、焼鈍条件式f7が400以上であると、微細なPを含む化合物が、低温焼鈍中に形成される。また、合金組成によるが、250℃以上430℃以下の温度で、10〜200分間、保持すると、β相内、またはβ相とα相の相境界に、微細なγ相が析出することがあり、穴あけ切削の切屑を微細にする。但し、γ相の増加とともに、β相が減少するので被削性が悪くなることがある。またγ相が、過多になると、被削性の向上が飽和し、延性が乏しくなる。このため、組織関係式f2〜f5、組織・組成関係式f5Aを注視しておく必要がある。
熱間加工工程、熱処理(焼鈍とも言う)工程、低温焼鈍工程は、銅合金を加熱する工程である。基本となる製造工程は、溶解・鋳造、熱間加工(押出、鍛造、圧延)、冷間加工(抽伸、伸線、圧延)、矯正加工、低温焼鈍であり、矯正加工、冷間加工、低温焼鈍を含まない場合もある。なお、矯正加工は、通常、冷間で行われるため、冷間加工とも言う。φ5〜7mm以下の細い棒、線、厚みが8mm以下の板は、前記工程に熱処理が含まれることがある。熱処理は、主として冷間加工後に行われ、最終寸法に応じ、熱処理と冷間加工が繰り返される。最終製品の直径が小さいほど、厚みが薄いほど、冷間加工性が、被削性と同等以上に、重要視される。熱処理は、熱間加工後、冷間加工前に行われることもある。
低温焼鈍工程は、熱間加工工程、冷間加工工程、矯正加工工程、及び焼鈍工程のうち、最終の工程の後に実施する。低温焼鈍工程を行う場合、通常、焼鈍工程は、加工工程の間に行うため、低温焼鈍工程は、熱間加工工程、冷間加工工程、及び矯正加工工程のうち、最終の加工工程の後に実施するともいえる。
具体的には、以下の製造工程の組み合わせが挙げられる。なお、熱間押出の代わりに、熱間圧延を行ってもよい。
(1)熱間押出−低温焼鈍
(2)熱間押出−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−低温焼鈍
(3)熱間押出−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−矯正加工−低温焼鈍
(4)熱間押出−冷間加工(伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−低温焼鈍
(5)熱間押出−冷間加工(冷間伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−矯正加工−低温焼鈍
(6)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−低温焼鈍
(7)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−矯正加工−低温焼鈍
(8)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−低温焼鈍
(9)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−矯正加工−低温焼鈍
(10)熱間押出−冷間抽伸−矯正加工(矯正加工は無くともよい)−熱間鍛造−低温焼鈍
(11)熱間押出−矯正加工−熱間鍛造−低温焼鈍
(12)熱間押出−熱間鍛造−低温焼鈍
(13)鋳造−熱間鍛造−低温焼鈍
(14)鋳造−矯正加工−熱間鍛造−低温焼鈍
また、実験室設備を用いて銅合金の試作試験を実施した。
合金組成を表8〜11に示す。また、製造工程を表12〜18に示す。なお、各製造工程について以下に示す。
表12に示すように、実操業している低周波溶解炉及び半連続鋳造機により直径240mmのビレットを製造した。原料は、実操業に準じたものを使用した。ビレットを長さ800mmに切断して加熱した。公称能力3000トンの熱間押出機で、直径25.6mmの丸棒を2本押出した。そして押出材を、530℃から450℃の温度領域を幾つかの冷却速度で冷却した。温度測定は、熱間押出の中盤から終盤を中心に放射温度計を用いて行い、押出機より押出されたときから約3〜4秒後の押出材の温度を測定した。なお、以後の熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延の温度測定には、LumaSense Technologies Inc製の型式IGA8Pro/MB20の放射温度計を用いた。
工程No.A0、A1、A2、A4、AH2では、押出温度が590℃であり、No.A3では、押出温度が635℃、No.AH1では、押出温度が680℃であった。そして、熱間押出後、530℃から450℃の平均冷却速度は、工程No.A2では45℃/分、工程No.AH2では65℃/分とした。工程No.A2、AH2以外の工程では、前記平均冷却速度は25℃/分であった。
f7=(T−200)×(t)1/2
T:温度(材料温度)(℃)、t:加熱時間(分)
曲がり測定結果は、合金No.S01に工程No.A5、A6、後述の工程No.B6を施して得られた試料の全ての曲がりが、棒材1メートルあたり0.1mm以下で、良好であった。
表13に示すように、実操業設備を用いて、工程No.B1〜B7、BH1、BH2では、直径20.0mmに熱間押出し、工程No.B5、B7を除き、直径19.03mmに冷間で抽伸した。工程No.B5では、直径18.5mmに冷間で抽伸した。工程No.B1,B2,B5,B6,B7では、押出温度を610℃とした。工程No.B3とBH2では押出温度を580℃とし、工程No.B4では押出温度を640℃とし、工程No.BH1では押出温度を680℃とし、熱間押出した。押出後の530℃から450℃の平均冷却速度は、工程No.BH2では55℃/分とし、工程No.B2では0.2℃/分とした。それ以外の工程では、平均冷却速度を38℃/分として冷却を行った。工程No.B6では、工程No.B1の材料を用いて、310℃で100分間、型枠に入れ低温焼鈍した。工程No.B7は、工程No.Eに進めた。
表14に示すように、実験室において、所定の成分比で原料を溶解した。意図的に、不可避不純物元素を含有させた試料も作製した。直径100mm、長さ180mmの金型に溶湯を鋳込み、ビレットを作製した(合金No.S51〜S68、S70〜S82)。なお、実操業している溶解炉からも溶湯を得て、さらに、Fe、Sn等の不純物をさらに意図的に加え、溶湯を直径100mm、長さ180mmの金型に鋳込み、ビレットを作製した(合金No.S11〜S17)。なお、意図的に加えたFe、Sn等の不純物の濃度は、市販のPbを含有した黄銅とおおよそ同じレベル、またはそれ以下である。
このビレットを加熱し、工程No.C1とC3とCH2では押出温度を595℃とし、工程No.C2では押出温度を635℃とし、工程No.CH1では押出温度を675℃とし、直径22mmの丸棒に押出した。押出後の530℃から450℃の平均冷却速度を、工程No.CH2では72℃/分とし、工程No.C1,C2,C3,CH1では30℃/分とした。次に、直線度の良いものは、矯正していないが、直線度の悪いものは、矯正した(加工率0%)。工程No.C3では、工程No.C1の棒を用い、型枠に入れずに、320℃、60分の条件で低温焼鈍した。
工程No.C10では、押出温度を575℃とし、直径45mmに押出し、平均冷却速度を、20℃/分とし、鍛造用素材とした。
前述した合金A〜合金Fは、工程Cの方法に従って作製された。ただし、押出温度は、合金A,Dでは、750℃とし、その他の合金B,C,E,Fでは、635℃とし、押出後の530℃から450℃の平均冷却速度を30℃/分とした。そして、すべての合金A〜合金Fは、押出後、金属組織を調整するために500℃で2時間熱処理した。なお、比較材の2mass%Pbを含有する鍛造用黄銅C3771、合金Hとしては、市販されているものを使用した。
工程No.Dでは、実験室と、実操業している溶解炉からも溶湯を得て、内径45mmの金型に鋳込んだ。冷却過程において、530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を40℃/分とし、工程No.Fの鍛造用素材とした。
表16に示すように、工程No.Eは焼鈍を含む工程である。主として、例えば直径7mm以下の細い棒材を作製する工程であるが、棒材が細いと切削試験ができないので、直径の大きな押出棒で代用試験した。
工程No.E1では、工程No.B7により得られた直径20mmの素材を、冷間抽伸加工で16.7mmとし、480℃、60分の熱処理を施し、次いで冷間抽伸で直径16mmとした。
工程No.E2では、工程No.C1により得られた直径22mmの素材を、冷間抽伸で18.4mmとし、450℃、90分の熱処理を施し、次いで冷間抽伸で直径17.7mmとした。
表17に示すように、工程No.A10、C10、Dで得られた直径45mmの丸棒を長さ180mmに切断した。この丸棒を横置きにして、熱間鍛造プレス能力150トンのプレス機で、厚み16mmに鍛造した。所定の厚みに熱間鍛造された直後から約3〜約4秒経過後に、放射温度計、および接触温度計を用いて温度の測定を行った。熱間鍛造温度(熱間加工温度)は、表17に示す温度±5℃の範囲((表に示す温度)−5℃〜(表に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
工程No.F1、F2、F3、F5、FH1、FH2では、熱間鍛造温度を、それぞれ660℃、640℃、615℃、620℃、685℃、615℃に変えて実施した。530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を、工程No.FH2では63℃/分とした。それ以外の工程では、平均冷却速度を28℃/分として冷却を実施した。工程Fでは、鍛造品を得ており、矯正(冷間加工)を実施せず、熱間鍛造ままであった。なお、工程No.F4では、工程No.F3の鍛造品を用い、290℃、100分の条件で、低温焼鈍した。
熱間鍛造材は、切断し、切削試験、機械的性質の実験に供した。
工程No.R1では、実操業している溶解炉から、溶湯の一部を、断面が35mm×70mmの鋳型に鋳込んだ。表18に示すように、鋳物の表面を面削して32mm×65mm×200mmとし、650℃に加熱し、2パスの熱間圧延を施して厚みを15mmにした。最終の熱間圧延の終了時点から約3〜約4秒後の材料温度は560℃であり、530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を20℃/分として、冷却した。そして得られた圧延板を厚み10mmまで冷間圧延し、電気炉を用いて480℃で60分の条件で熱処理し、次いで厚み9mmまで再度冷間圧延をした。
以下の方法により金属組織を観察し、α相、β相、γ相、κ相、μ相など各相の面積率(%)を画像解析により測定した。なお、α’相、β’相、γ’相は、各々α相、β相、γ相に含めることとした。
各試験材の棒材、鍛造品を、長手方向に対して平行に、または金属組織の流動方向に対して平行に切断した。次いで表面を研鏡(鏡面研磨)し、過酸化水素とアンモニア水の混合液でエッチングした。エッチングでは、3vol%の過酸化水素水3mLと、14vol%のアンモニア水22mLを混合した水溶液を用いた。約15℃〜約25℃の室温にてこの水溶液に金属の研磨面を約2秒〜約5秒浸漬した。
一つのα相の結晶粒において、長辺/短辺の比が4を超える場合を針状(楕円形状)のα相結晶粒とし、α相の結晶粒の長辺/短辺の比が4以下の場合を粒状のα相結晶粒として定義した。前記金属組織の観察のなかで、α相全体に対する粒状のα相結晶粒の占める個数の割合を調べた。粒状のα相結晶粒の占める割合が50%未満の場合を「×」(poor)と評価した。粒状のα相結晶粒の占める割合が50%以上75%未満の場合を「△」(fair)と評価した。粒状のα相結晶粒の占める割合が75%以上の場合を「〇」(good)と評価した。α相結晶粒の形状は、機械的性質、被削性に影響し、粒状のα相結晶粒が多くなるほど、機械的性質、被削性が良くなる。
各々の相の面積率、化合物の有無は、具体的には、約70mm×約90mmのサイズにプリントアウトした写真を用いて評価した。
また、幾つかの合金について、α相、β相、γ相、特にβ相に含有されるSi濃度を測定する場合、及びPを含む化合物の判断が困難な場合、主として、2000倍の倍率で、2次電子像、組成像を撮影し、X線マイクロアナライザーで定量分析、または定性分析した。測定には、日本電子製「JXA−8230」を用い、加速電圧20kV、電流値3.0×10−8Aの条件で行った。これらの電子顕微鏡による調査で、Pを含む化合物が、観察された場合、Pを含む化合物の存在評価を「△」(fair)とした。Pを含む化合物が観察されなかった場合、Pを含む化合物の存在評価を「×」(poor)とした。本実施形態で定義された「Pを含む化合物の存在」については、「△」も含むものとする。表では、Pを含む化合物の存在評価の結果を項目「P化合物」に示す。
導電率の測定は、日本フェルスター株式会社製の導電率測定装置(SIGMATEST D2.068)を用いた。なお、本明細書においては、「電気伝導」と「導電」の言葉を同一の意味に使用している。また、熱伝導性と電気伝導性は強い相関があるので、導電率が高い程、熱伝導性が良いことを示す。
各試験材をJIS Z 2241の10号試験片に加工し、引張強さの測定を行った。
冷間加工工程を含まない熱間押出材、或いは熱間鍛造材の引張強さが、好ましくは450N/mm2以上、より好ましくは490N/mm2以上、さらに好ましくは520N/mm2以上であれば、快削性銅合金の中で最高の水準であり、各分野で使用される部材の薄肉・軽量化、或いは許容応力の増大を図ることができる。また、強度と伸びとのバランスにおいても、引張強さをS(N/mm2)、伸びをE(%)とすると、強度と延性のバランスを示す特性関係式f6=S×(100+E)/100が、好ましくは590以上、より好ましくは620以上、さらに好ましくは650以上であると、熱間加工銅合金の中で非常に高い水準であるといえる。
被削性の評価は、以下のように、旋盤を用いた切削試験で評価した。
熱間押出棒材、熱間鍛造品について、切削加工を施して直径を14mmとして試験材を作製した。チップブレーカーの付いていないK10の超硬工具(チップ)を旋盤に取り付けた。この旋盤を用い、乾式下にて、すくい角:0°、ノーズ半径:0.4mm、逃げ角:6°、切削速度:40m/分、切り込み深さ:1.0mm、送り速度:0.11mm/rev.の条件で、直径14mmの試験材の円周上を切削した。
切削抵抗(主分力、送り分力、背分力の合力)=((主分力)2+(送り分力)2+(背分力)2)1/2
尚、各サンプルで4回測定し、その平均値を採用した。Zn−59mass%Cu−3mass%Pb−0.2mass%Fe−0.3mass%Sn合金からなる市販の快削黄銅棒C3604の切削抵抗を100とし、試料の切削抵抗の相対値(被削性指数)を算出し、相対評価をした。被削性指数が、高いほど良好な被削性を有する。尚、「3分力」の記載は、主分力、送り分力、背分力の合力を指し、被削性指数を示す。
なお、被削性指数は下記のようにして求めた。
試料の切削試験結果の指数(被削性指数)=(C3604の切削抵抗/試料の切削抵抗)×100
同等の強度であれば、切屑形状と被削性指数とは、相関関係があり、被削性指数が大きいと、切屑分断性が良い傾向があり、数値化できる。
冷間加工性を重視する場合においても、少なくとも、切屑、切削抵抗の評価が、「可」以上であることが必要である。
試験No.T202(合金No.S52)では、0.076mass%のPを含み、590℃で熱間押出され、Pを含む化合物が存在した。この試験No.T202(合金No.S52)の切屑の外観を図2Aに示す。また、試験No.T303(合金No.S71)では、Pの含有量が0.001mass%で、595℃で熱間押出され、Pを含む化合物の存在が金属顕微鏡および電子顕微鏡で確認できなかった。この試験No.T303(合金No.S71)の切屑の外観を図2Bに示す。
Pを含有し、Pを含む化合物が確認できる試験No.T202(合金No.S52)の切屑の平均長さは1mmで細かく分断されている。一方、Pの含有量が0.001mass%で、Pを含む化合物が観察されない試験No.T303(合金No.S71)は、切屑長さが15mmを超え、連続したものであった。
ボール盤でφ3.5mmハイス製JIS標準ドリルを使用し、深さ10mmのドリル加工を回転数:1250rpm、送り:0.17mm/rev.の条件で、乾式で切削した。ドリル加工時にAST式工具動力計で電圧変化を円周方向、軸方向で採取し、ドリル加工時のトルク・スラストを算出した。尚、各サンプルで4回測定し、その平均値を採用した。Zn−59mass%Cu−3mass%Pb−0.2mass%Fe−0.3mass%Sn合金からなる市販の快削黄銅棒C3604のトルク、スラストを100とし、試料のトルク、スラストの相対値(トルク指数、スラスト指数)を算出し、相対評価をした。被削性指数(トルク指数、スラスト指数、ドリル指数)が、高いほど良好な被削性を有する。ドリル加工は、ドリルの摩耗の影響を抑えるために、A→B→C→・・・C→B→Aの往復を2回実施し、各試料で4回測定した。
すなわち、被削性指数を下記のようにして求めた。
試料のドリル試験結果の指数(ドリル指数)=(トルク指数+スラスト指数)/2
試料のトルク指数=(C3604のトルク/試料のトルク)×100
試料のスラスト指数=(C3604のスラスト/試料のスラスト)×100
被削性と相反する特性である冷間加工性を重視する場合においても、少なくとも、切屑、切削抵抗の評価が、「可」(△、fair)以上であることが必要である。
工程No.A0の直径25.6mm、または、工程No.C1の直径22.0mmの棒材を切削によって直径15mmとし、長さ25mmに切断した。この試験材を600℃で20分間保持した。次いで試験材を縦置きにして、熱間圧縮能力10トンで電気炉が併設されているアムスラー試験機を用いて、ひずみ速度0.02/秒、加工率80%で圧縮し、厚み5mmとした。熱間加工中、試験材は600℃で維持された。
熱間変形能は、肉眼で割れの有無と表面に大きなしわが生じるかどうかで評価した。熱間変形抵抗は、加工率20%の時の変形抵抗を測定し、30N/mm2を境に評価した。30N/mm2は、設備能力や押出比などの熱間加工率にもよるが、一般的に製造される範囲の熱間押出棒が、問題がなく製造される熱間変形抵抗の境界値である。600℃の熱間加工試験で、割れがなく、大きなしわが生じず、熱間変形抵抗が30N/mm2以下の場合、熱間加工性が良好:“〇”(good)と評価した。熱間変形能、熱間変形抵抗のいずれか一方が上記基準を満たさない場合、条件付きで可“△”(fair)と評価した。熱間変形能、熱間変形抵抗の両方とも上記基準を満たさない場合、不適“×”(poor)と評価した。評価結果を表31に示す。
Pbを含有する鍛造用黄銅である合金Hは、割れが発生し、変形抵抗が高かった。組成関係式f1の値が56.3より低い場合、大きなしわが生じ、組成関係式f1の値が59.3より高い場合、変形抵抗が30N/mm2を超えた。
1)本実施形態の組成を満足し、組成関係式f1、金属組織の要件、および組織関係式f2〜f5、組織・組成関係式f5Aを満たすことにより、少量のPbの含有で、良好な被削性が得られ、約600℃で良好な熱間加工性、16%IACS以上の高い導電率、且つ高強度で、良好な延性、そして強度と延性の高いバランス(特性関係式f6)を持ち合せる熱間押出材、熱間鍛造材、熱間圧延材が得られることが確認できた(合金No.S01、S11、S12、S14、S16、S17、S51〜S68)。
3)Cu含有量が低いと、β相が多くなり、伸びが低くなった。Cu含有量が高いと、β相が少なく、強度が低くなり、被削性もよくなかった(合金No.S73、S81)。
4)Si含有量が低いと、組成関係式f1〜f5Aを満たしても、または、Pbを0.245mass%含有しても、被削性が悪かった(合金No.S74、S81)。
6)P含有量が0.005mass%より少ないと、Pを含む化合物が観察されず、旋盤、ドリルともに切屑の分断性が悪く、切削抵抗が高くなった。Pの量が、約0.015mass%を境にして、Pを含む化合物の存在の評価が、「△」から「〇」になった。金属顕微鏡でPを含む化合物が観察されると(Pを含む化合物の存在の評価が「〇」である場合)、被削性が、より良好となった(合金No.S71、S54、S53)。金属組織において、同じ条件でエッチングしても、Pの量が、約0.015mass%を境にして、Pの量が多いと、α相とβ相の境界の明瞭になった。この現象は、Pのβ相への固溶、Pを含む化合物の存在の有無、形態と関連があるように思われる。
7)Pbの含有量が0.003mass%より少ないと、被削性が悪かった。Pbの含有量が0.005mass%以上であると、被削性が良くなり、Pbの含有量が0.01mass%以上であると、被削性はさらに良くなり、Pbの含有量が0.06mass%以上であると、被削性は一層よくなった(合金No.S01、S61、S63、S67、S72)。Pbの量が0.245mass%で、かつβ相を多く含んでも、Siの量が少ないと、被削性が乏しく、強度も低かった(合金No.S81)。
11)β相の割合が、60%以上であると、Siを1mass%含有するβ単相合金と大よそ同等の、切削抵抗、切屑分断性を示した(合金F、S52、S70)。β相の割合が、33%以上、さらには45%以上で、かつ、組織・組成関係式f5Aが、44以上、さらには、55以上であると、Siを1mass%含有するβ単相合金の被削性がおおよそ維持された(合金No.S01、S52、S53、S56、S61、合金F)。
12)本実施形態の組成、関係式f1〜f4を満たしても、組織関係式f5と組織・組成関係式f5Aを満たさないと、満足する被削性、特性が得られなかった(合金No.S76、S78、S82)。組織・組成関係式f5Aが、44以上、さらには55以上であると、良好な被削性を示した(合金No.S51、S56、S61、S63)。
14)γ相の面積率が、2%以上であると、伸び値、引張強さ、バランス指数(特性関係式)f6が低くなった。γ相が適量であると、切屑が分断され、トルク指数が向上した。(合金No.S77、S55)。
16)本実施形態の組成、組成関係式f1を満たすと、600℃で良好な熱間加工性を示し、約600℃で、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延ができた。熱間加工温度が675℃以上であると、粒状のα相の割合が、50%より少なくなった。熱間加工温度が650℃より低いと、粒状のα相結晶粒の占める割合が、50%より多くなり、熱間加工温度が625℃より低いと、粒状のα相結晶粒の占める割合が、75%より多くなった。但し、組成関係式f1の値が56.8より低いと、粒状のα相結晶粒の占める割合が、少し低かった(例えば合金No.S01、S57)。
18)組成、f1〜f5Aの関係式を満たすと、冷間加工を施さない、熱間押出材、鍛造品の引張強さは、450N/mm2以上の高い値を示した。好ましい範囲内に組成、関係式の値があると、引張強さは、490N/mm2を超えた。同時に、強度と延性のバランスを示す特性関係式f6=S×(100+E)/100は、590以上を示した。好ましい範囲内に組成、関係式の値があると、特性関係式f6は、620以上、さらには650以上の高い数値であった。α相の形状、製造条件が、好ましい範囲外であると、引張強さ、特性関係式f6が低くなるが、引張強さは、450N/mm2以上、f6は、590以上を確保した(合金No.S01、S02、S51〜S65、各工程)。
19)組成、f1〜f5Aの関係式を満たすと、冷間加工を施し、冷間加工率を[R]%とした場合、引張強さは、いずれも(450+8×[R])N/mm2以上で、さらにすべて(490+8×[R])N/mm2以上であった。伸びE(%)は、(0.02×[R]2−1.15×[R]+18)%以上で、さらにすべて(0.02×[R]2−1.2×[R]+20)%以上であった(工程No.A1〜A6、B1〜B6、E1、E2)。
20)熱間加工温度、冷却条件により、β相の占める割合、組織関係式f5の数値、α相の形状が変化し、被削性や、引張強さ、伸び、導電率に影響を与えた(例えば、合金No.S01)。
22)冷却速度、Pの含有量に関わらず、金属顕微鏡でPを含む化合物が確認できず、電子顕微鏡でPを含む化合物が観察された場合、Pを含む化合物が確認できなかった場合より、被削性は良好であり、本実施形態の目標を満した。しかし、金属顕微鏡でPを含む化合物が観察された場合より、被削性の向上の度合いが小さかった(合金No.S53、工程No.A1、AH2、C1、CH2、F3、FH2)。
23)熱間加工材を、熱処理(焼鈍)条件式f7が750から1485の条件で低温焼鈍し(合金No.S01、工程No.A5、A6、B6)、得られた棒材の曲がりを測定すると、1mあたり0.1mm以下の曲がりの少ない棒材であることが分かった。低温焼鈍の条件によっては、γ相が析出する合金があり、トルク指数が向上した。低温焼鈍を実施したその他の工程、例えば工程No.A5,C3,F4で、トルク指数が向上した(合金No.S01)。
具体的には、前記分野に用いられるバルブ、継手、コック、給水栓、歯車、軸、軸受け、シャフト、スリーブ、スピンドル、センサー、ボルト、ナット、フレアナット、ペン先、インサートナット、袋ナット、ニップル、スペーサー、ねじなどの名称で使用されているものの構成材等として好適に適用できる。
Claims (8)
- 58.5mass%以上63.5mass%以下のCuと、0.4mass%超え1.0mass%以下のSiと、0.003mass%以上0.25mass%以下のPbと、0.005mass%以上0.19mass%以下のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.40mass%未満であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.40mass%未満であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.3≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]−0.5×[P]≦59.3
の関係を有するとともに、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10相の金属相を対象とし、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%、μ相の面積率を(μ)%、κ相の面積率を(κ)%、δ相の面積率を(δ)%、ε相の面積率を(ε)%、ζ相の面積率を(ζ)%、η相の面積率を(η)%、χ相の面積率を(χ)%とし、(α)+(β)+(γ)+(μ)+(κ)+(δ)+(ε)+(ζ)+(η)+(χ)=100としたときに、
20≦(α)≦75、
25≦(β)≦80、
0≦(γ)<2、
20≦(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])≦78、
33≦(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])+([Pb])1/2×33+([P])1/2×14
の関係を有するとともに、
前記β相内に、粒径が3μm以下で、少なくとも2000倍の倍率で電子顕微鏡による調査で観察可能な大きさのPを含む化合物が存在していることを特徴とする快削性銅合金。 - 59.5mass%以上63.0mass%以下のCuと、0.6mass%以上1.0mass%以下のSiと、0.01mass%以上0.15mass%以下のPbと、0.02mass%以上0.12mass%以下のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.30mass%以下であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.30mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.7≦f1=[Cu]−4.7×[Si]+0.5×[Pb]−0.5×[P]≦58.7
の関係を有するとともに、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10相の金属相を対象とし、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%、μ相の面積率を(μ)%、κ相の面積率を(κ)%、δ相の面積率を(δ)%、ε相の面積率を(ε)%、ζ相の面積率を(ζ)%、η相の面積率を(η)%、χ相の面積率を(χ)%とし、(α)+(β)+(γ)+(μ)+(κ)+(δ)+(ε)+(ζ)+(η)+(χ)=100としたときに、
25≦(α)≦67、
33≦(β)≦75、
(γ)=0、
30≦(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])≦72、
44≦(γ)1/2×3+(β)×(−0.5×([Si])2+1.5×[Si])+([Pb])1/2×33+([P])1/2×14
の関係を有するとともに、
前記β相内に、粒径が3μm以下で、少なくとも2000倍の倍率で電子顕微鏡による調査で観察可能な大きさのPを含む化合物が存在していることを特徴とする快削性銅合金。 - 電気伝導率が16%IACS以上であり、かつ、引張強さをS(N/mm2)、伸びをE(%)とした場合に、強度と伸びとのバランスを示す関係式S×(100+E)/100が590以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の快削性銅合金。
- アスペクト比(長辺/短辺)が4以下である粒状のα相結晶粒の個数の割合が、α相結晶粒の全数に対して、50%以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
- 自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品に用いられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
- 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された快削性銅合金の製造方法であって、
1以上の熱間加工工程を有し、
前記熱間加工工程のうち、最終の熱間加工工程においては、熱間加工温度が530℃超え675℃未満であり、熱間加工後の530℃から450℃までの温度領域における平均冷却速度が0.1℃/分以上50℃/分以下であることを特徴とする快削性銅合金の製造方法。 - 冷間加工工程、矯正加工工程、及び焼鈍工程から選択される1以上の工程を更に有することを特徴とする請求項6に記載の快削性銅合金の製造方法。
- 最終の加工工程の後に実施する低温焼鈍工程を更に有し、
前記低温焼鈍工程では、保持温度が250℃以上430℃以下であり、保持時間が10分以上200分以下であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の快削性銅合金の製造方法。
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