JPWO2019035225A1 - 高強度快削性銅合金、及び、高強度快削性銅合金の製造方法 - Google Patents

高強度快削性銅合金、及び、高強度快削性銅合金の製造方法 Download PDF

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Abstract

この高強度快削性銅合金は、Cu:75.4〜78.0%、Si:3.05〜3.55%、P:0.05〜0.13%、及びPb:0.005〜0.070%を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、不可避不純物として存在するSn量が0.05%以下、Al量が0.05%以下、SnとAlの合計量が0.06%以下であり、組成は以下の関係を満たし、78.0≦f1=Cu+0.8×Si+P+Pb≦80.8、60.2≦f2=Cu−4.7×Si−P+0.5×Pb≦61.5構成相の面積率(%)は以下の関係を満たし、29≦κ≦60、0≦γ≦0.3、β=0、0≦μ≦1.0、98.6≦f3=α+κ、99.7≦f4=α+κ+γ+μ、0≦f5=γ+μ≦1.2、30≦f6=κ+6×γ1/2+0.5×μ≦62、γ相の長辺が25μm以下、μ相の長辺が20μm以下であり、α相内にκ相が存在している。

Description

本発明は、高い強度、高温強度、優れた延性および衝撃特性、良好な耐食性を備えるとともに、鉛の含有量を大幅に減少させた高強度快削性銅合金、及び、高強度快削性銅合金の製造方法に関する。特に、様々な厳しい環境で使用されるバルブ、継手、圧力容器などの電気・自動車・機械・工業用配管、水素に係る容器、バルブ、継手、さらには、給水栓、バルブ、継手などの飲料水に使用される器具に用いられる高強度快削性銅合金、及び、高強度快削性銅合金の製造方法に関連している。
本願は、2017年8月15日に、出願された国際出願PCT/JP2017/29369、PCT/JP2017/29371、PCT/JP2017/29373、PCT/JP2017/29374、PCT/JP2017/29376に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
従来から、飲料水の器具類を始め、バルブ、継手、圧力容器など電気・自動車・機械・工業用配管に使用されている銅合金として、56〜65mass%のCuと、1〜4mass%のPbを含有し、残部がZnとされたCu−Zn−Pb合金(いわゆる快削黄銅)、あるいは、80〜88mass%のCuと、2〜8mass%のSn、2〜8mass%のPbを含有し、残部がZnとされたCu−Sn−Zn−Pb合金(いわゆる青銅:ガンメタル)が一般的に使用されていた。
しかしながら、近年では、Pbの人体や環境に与える影響が懸念されるようになり、各国でPbに関する規制の動きが活発化している。例えば、米国カリフォルニア州では、2010年 1月より、また、全米においては、2014年1月より、飲料水器具等に含まれるPb含有量を0.25mass%以下とする規制が発効されている。近い将来には、幼児等への影響を鑑み、0.05mass%程度までの規制がなされるであろうと言われている。米国以外の国においても、その規制の動きは急速であり、Pb含有量の規制に対応した銅合金材料の開発が求められている。
また、その他の産業分野、自動車、機械や電気・電子機器の分野においても、例えば、欧州のELV指令、RoHS指令では、快削性銅合金のPb含有量が例外的に4mass%まで認められているが、飲料水の分野と同様、例外の撤廃を含め、Pb含有量の規制強化が活発に議論されている。
このような快削性銅合金のPb規制強化の動向の中、Pbの代わりに被削性機能を有するBi及びSeを含有する銅合金、あるいは、CuとZnの合金においてβ相を増やして被削性の向上を図った高濃度のZnを含有する銅合金などが提唱されている。
例えば、特許文献1においては、Pbの代わりにBiを含有させるだけでは耐食性が不十分であるとし、β相を減少させてβ相を孤立させるために、熱間押出後の熱間押出棒を180℃になるまで徐冷し、さらには、熱処理を施すことを提案している。
また、特許文献2においては、Cu−Zn−Bi合金に、Snを0.7〜2.5mass%添加してCu−Zn−Sn合金のγ相を析出させることにより、耐食性の改善を図っている。
しかしながら、特許文献1に示すように、Pbの代わりにBiを含有させた合金は、耐食性に問題がある。そして、Biは、Pbと同様に人体に有害であるおそれがあること、希少金属であるので資源上の問題があること、銅合金材料を脆くする問題などを含め、多くの問題を有している。さらに、特許文献1、2で提案されているように、熱間押出後の徐冷、或いは熱処理により、β相を孤立させて耐食性を高めたとしても、到底、厳しい環境下での耐食性の改善には繋がらない。
また、特許文献2に示すように、Cu−Zn−Sn合金のγ相を析出させたとしても、このγ相は、元来、α相に比べ耐食性に乏しく、到底、厳しい環境下での耐食性の改善には繋がらない。また、Cu−Zn−Sn合金では、Snを含有させたγ相は、被削性機能を持つBiを共に添加することを必要としているように、被削性機能に劣る。
一方、高濃度のZnを含有する銅合金については、β相は、Pbに比べ被削性の機能が劣るので、到底、Pbを含有する快削性銅合金の代替にはなりえないばかりか、β相を多く含むので、耐食性、特に耐脱亜鉛腐食性、耐応力腐食割れ性がすこぶる悪い。また、これら銅合金は、強度、特に高温(例えば約150℃)での強度が低いため、例えば、炎天下でかつエンジンルームに近い高温下で使用される自動車部品や、高温・高圧下で使用されるバルブや配管においては、薄肉、軽量化に応えられない。さらに、例えば高圧水素に係る圧力容器、バルブ、配管においては、引張強さが低いために、低い常用圧力下でしか用いることができない。
さらに、Biは銅合金を脆くし、β相を多く含むと延性が低下するので、Biを含有する銅合金、または、β相を多く含む銅合金は、自動車、機械、電気用部品として、また、バルブを始めとする飲料水器具材料としては、不適切である。なお、Cu−Zn合金にSnを含有させたγ相を含む黄銅についても、応力腐食割れを改善できず、常温および高温での強度が低く、衝撃特性が悪いため、これらの用途での使用は不適切である。
他方、快削性銅合金として、Pbの代わりにSiを含有したCu−Zn−Si合金が、例えば特許文献3〜9に提案されている。
特許文献3,4においては、主としてγ相の優れた被削性機能を有することにより、Pbを含有させずに、又は、少量のPbの含有で、優れた切削性を実現させたものである。Snは、0.3mass%以上の含有により、被削性機能を有するγ相の形成を増大、促進させ、被削性を改善させる。また、特許文献3,4においては、多くのγ相の形成により、耐食性の向上を図っている。
また、特許文献5においては、0.02mass%以下の極少量のPbを含有させ、主として、Pb含有量を考慮し、単純にγ相、κ相の合計含有面積を規定することにより、優れた快削性を得るものとしている。ここで、Snは、γ相の形成及び増大化に働き、耐エロージョンコロージョン性を改善させるとしている。
さらに、特許文献6,7においては、Cu−Zn−Si合金の鋳物製品が提案されており、鋳物の結晶粒の微細化を図るために、PとZrを極微量含有させており、P/Zrの比率等が重要としている。
また、特許文献8には、Cu−Zn−Si合金にFeを含有させた銅合金が提案されている。
さらに、特許文献9には、Cu−Zn−Si合金にSn,Fe,Co,Ni,Mnを含有させた銅合金が提案されている。
ここで、上述のCu−Zn−Si合金においては、特許文献10及び非特許文献1に記載されているように、Cu濃度が60mass%以上、Zn濃度が30mass%以下、Si濃度が10mass%以下の組成に絞っても、マトリックスα相の他に、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10種類の金属相、場合によっては、α’、β’、γ’を含めると13種類の金属相が存在することが知られている。さらに、添加元素が増えると、金属組織はより複雑になることや、新たな相や金属間化合物が出現する可能性があること、また、平衡状態図から得られる合金と実生産されている合金では、存在する金属相の構成に大きなずれが生じることが経験上よく知られている。さらに、これらの相の組成は、銅合金のCu、Zn、Si等の濃度、および、加工熱履歴によっても、変化することがよく知られている。
ところで、γ相は優れた被削性能を有するが、Si濃度が高く、硬くて脆いため、γ相を多く含むと、厳しい環境下での耐食性、延性、衝撃特性、高温強度(高温クリープ)、常温での強度、冷間加工性に問題を生じる。このため、多量のγ相を含むCu−Zn−Si合金についても、Biを含有する銅合金やβ相を多く含む銅合金と同様に、その使用に制約を受ける。
なお、特許文献3〜7に記載されているCu−Zn−Si合金は、ISO−6509に基づく脱亜鉛腐食試験では、比較的良好な結果を示す。しかしながら、ISO−6509に基づく脱亜鉛腐食試験では、一般的な水質での耐脱亜鉛腐食性の良否を判定するために、実際の水質とは全く異なる塩化第二銅の試薬を用い、24時間という短時間で評価しているに過ぎない。すなわち、実環境と異なった試薬を用い、短時間で評価しているため、厳しい環境下での耐食性を十分に評価できていない。
また、特許文献8においては、Cu−Zn−Si合金にFeを含有させることを提案している。ところが、FeとSiは、γ相より硬く脆いFe−Siの金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、切削加工時には切削工具の寿命を短くし、研磨時にはハードスポットが形成され外観上の不具合が生じるなど問題がある。また、添加元素であるSiを金属間化合物として消費することから、合金の性能を低下させてしまう。
さらに、特許文献9においては、Cu−Zn−Si合金に、SnとFe、Co、Mnを添加しているが、Fe,Co,Mnは、いずれもSiと化合して硬くて脆い金属間化合物を生成する。このため、特許文献8と同様に、切削や研磨時に問題を生じさせる。さらに、特許文献9によれば、Sn,Mnを含有させることによりβ相を形成させているが、β相は、深刻な脱亜鉛腐食を生じさせ、応力腐食割れの感受性を高める。
特開2008−214760号公報 国際公開第2008/081947号 特開2000−119775号公報 特開2000−119774号公報 国際公開第2007/034571号 国際公開第2006/016442号 国際公開第2006/016624号 特表2016−511792号公報 特開2004−263301号公報 米国特許第4,055,445号 国際公開第2012/057055号 特開2013−104071号公報
美馬源次郎、長谷川正治、伸銅技術研究会誌、2(1963)、62〜77頁
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、常温および高温での強度に優れ、かつ優れた衝撃特性、延性を備え、厳しい環境下での耐食性が良好な高強度快削性銅合金、及び、高強度快削性銅合金の製造方法を提供することを課題とする。なお、本明細書において、特に断りのない限り、耐食性とは、耐脱亜鉛腐食性、耐応力腐食割れ性の両方を指す。また、熱間加工材とは、熱間押出材、熱間鍛造材、熱間圧延材を指す。冷間加工性とは、かしめ、曲げなど冷間で行われる加工性を指す。高温特性とは、約150℃(100℃〜250℃)における、高温クリープ、引張強さを指す。冷却速度とは、ある温度範囲での平均冷却速度を指す。
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の第1の態様である高強度快削性銅合金は、75.4mass%以上78.0mass%以下のCuと、3.05mass%以上3.55mass%以下のSiと、0.05mass%以上0.13mass%以下のPと、0.005mass%以上0.070mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
不可避不純物として存在するSnの含有量が0.05mass%以下、Alの含有量が0.05mass%以下で、SnとAlの合計含有量が0.06mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
78.0≦f1=[Cu]+0.8×[Si]+[P]+[Pb]≦80.8、
60.2≦f2=[Cu]−4.7×[Si]−[P]+0.5×[Pb]≦61.5、
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
29≦(κ)≦60、
0≦(γ)≦0.3、
(β)=0、
0≦(μ)≦1.0、
98.6≦f3=(α)+(κ)、
99.7≦f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
0≦f5=(γ)+(μ)≦1.2、
30≦f6=(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦62、
の関係を有するとともに、
γ相の長辺の長さが25μm以下であり、μ相の長辺の長さが20μm以下であり、α相内にκ相が存在していることを特徴とする。
本発明の第2の態様である高強度快削性銅合金は、本発明の第1の態様の高強度快削性銅合金において、さらに、0.01mass%以上0.07mass%以下のSb、0.02mass%以上0.07mass%以下のAs、0.005mass%以上0.10mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有することを特徴とする。
本発明の第3態様である高強度快削性銅合金は、75.6mass%以上77.8mass%以下のCuと、3.15mass%以上3.5mass%以下のSiと、0.06mass%以上0.12mass%以下のPと、0.006mass%以上0.045mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
不可避不純物として存在するSnの含有量が0.03mass%以下、Alの含有量が0.03mass%以下で、SnとAlの合計含有量が0.04mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
78.5≦f1=[Cu]+0.8×[Si]+[P]+[Pb]≦80.5、
60.4≦f2=[Cu]−4.7×[Si]−[P]+0.5×[Pb]≦61.3、
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
33≦(κ)≦58、
(γ)=0、
(β)=0、
0≦(μ)≦0.5、
99.3≦f3=(α)+(κ)、
99.8≦f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
0≦f5=(γ)+(μ)≦0.5、
33≦f6=(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦58、
の関係を有するとともに、
α相内にκ相が存在しており、μ相の長辺の長さが15μm以下であることを特徴とする。
本発明の第4の態様である高強度快削性銅合金は、本発明の第3の態様の高強度快削性銅合金において、さらに、0.012mass%以上0.05mass%以下のSb、0.025mass%以上0.05mass%以下のAs、0.006mass%以上0.05mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有し、かつSb、As、Biの合計含有量が0.09mass%以下であることを特徴とする。
本発明の第5の態様である高強度快削性銅合金は、本発明の第1〜4の態様のいずれかの高強度快削性銅合金において、前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であることを特徴とする。
本発明の第6の態様である高強度快削性銅合金は、本発明の第1〜5の態様のいずれかの高強度快削性銅合金において、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値が12J/cm以上50J/cm以下、常温での引張強さが550N/mm以上であり、かつ室温での0.2%耐力に相当する荷重を負荷した状態で150℃で100時間保持した後のクリープひずみが0.3%以下であることを特徴とする。
なお、シャルピー衝撃試験値は、Uノッチ形状の試験片での値である。
本発明の第7の態様である高強度快削性銅合金は、本発明の第1〜5の態様のいずれかの高強度快削性銅合金において、熱間加工材であり、引張強さS(N/mm)が550N/mm以上、伸びE(%)が12%以上、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値I(J/cm)が12J/cm以上であり、かつ
675≦f8=S×{(E+100)/100}1/2、または
700≦f9=S×{(E+100)/100}1/2+Iであることを特徴とする。
本発明の第8の態様である高強度快削性銅合金は、本発明の第1〜7の態様のいずれかの高強度快削性銅合金において、水道用器具、工業用配管部材、液体、ガスと接触する器具、圧力容器・継手、自動車用部品、又は電気製品部品に用いられることを特徴とする。
本発明の第9の態様である高強度快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜8の態様のいずれかの高強度快削性銅合金の製造方法であって、
冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を加熱、冷却し、
(1)525℃以上575℃以下の温度で15分から8時間保持するか、
(2)505℃以上525℃未満の温度で、100分から8時間保持するか、又は、
(3)最高到達温度が525℃以上620℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域を15分以上保持するか、又は
(4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
次いで、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする。
本発明の第10の態様である高強度快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜6の態様のいずれかの高強度快削性銅合金の製造方法であって、
鋳造工程と、前記鋳造工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を加熱、冷却し、
(1)525℃以上575℃以下の温度で15分から8時間保持するか、
(2)505℃以上525℃未満の温度で、100分から8時間保持するか、
(3)最高到達温度が525℃以上620℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域を15分以上保持するか、又は
(4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
次いで、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却する。
本発明の第11の態様である高強度快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜8の態様のいずれかの高強度快削性銅合金の製造方法であって、
熱間加工工程を含み、
熱間加工される時の材料温度が、600℃以上、740℃以下であり、
熱間での塑性加工後の冷却過程において、575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする。
本発明の第12の態様である高強度快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜8の態様のいずれかの高強度快削性銅合金の製造方法であって、
冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程後に実施する低温焼鈍工程と、を有し、
前記低温焼鈍工程においては、材料温度を240℃以上350℃以下の範囲とし、加熱時間を10分以上300分以下の範囲とし、材料温度をT℃、加熱時間をt分としたとき、150≦(T−220)×(t)1/2≦1200の条件とすることを特徴とする。
本発明の態様によれば、被削性機能に優れるが耐食性、延性、衝撃特性、高温強度(高温クリープ)に劣るγ相を極力少なく、または皆無(含まない)とし、被削性に有効なμ相を限りなく少なく、または含まないとし、かつ強度、被削性、耐食性に有効なκ相がα相内に存在した金属組織を規定している。更に、この金属組織を得るための組成、製造方法を規定している。このため、本発明の態様により、常温および高温の強度が高く、衝撃特性、延性、耐摩耗性、耐圧特性、かしめや曲げなどの冷間加工性、耐食性に優れた高強度快削性銅合金、及び、高強度快削性銅合金の製造方法を提供することができる。
実施例1における高強度快削性銅合金(試験No.T05)の組織の電子顕微鏡写真である。 実施例1における高強度快削性銅合金(試験No.T73)の組織の金属顕微鏡写真である。 実施例1における高強度快削性銅合金(試験No.T73)の組織の電子顕微鏡写真である。
以下に、本発明の実施形態に係る高強度快削性銅合金及び高強度快削性銅合金の製造方法について説明する。
本実施形態である高強度快削性銅合金は、バルブ、継手、摺動部品などの電気・自動車・機械・工業用配管部材、液体または気体と接触する器具、部品、圧力容器・継手、給水栓、バルブ、継手などの人が毎日摂取する飲料水に使用される器具、として用いられるものである。
ここで、本明細書では、[Zn]のように括弧の付いた元素記号は当該元素の含有量(mass%)を示すものとする。
そして、本実施形態では、この含有量の表示方法を用いて、以下のように、複数の組成関係式を規定している。
組成関係式f1=[Cu]+0.8×[Si]+[P]+[Pb]
組成関係式f2=[Cu]−4.7×[Si]−[P]+0.5×[Pb]
さらに、本実施形態では、金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%で示すものとする。なお、金属組織の構成相は、α相、γ相、κ相などを指し、金属間化合物や、析出物、非金属介在物などは含まれない。また、α相内に存在するκ相は、α相の面積率に含める。すべての構成相の面積率の和は、100%とする。
そして、本実施形態では、以下のように、複数の組織関係式を規定している。
組織関係式f3=(α)+(κ)
組織関係式f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)
組織関係式f5=(γ)+(μ)
組織関係式f6=(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)
本発明の第1の実施形態に係る高強度快削性銅合金は、75.4mass%以上78.0mass%以下のCuと、3.05mass%以上3.55mass%以下のSiと、0.05mass%以上0.13mass%以下のPと、0.005mass%以上0.070mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなる。不可避不純物として存在するSnの含有量が0.05mass%以下、Alの含有量が0.05mass%以下であり、かつSnとAlの合計含有量が0.06mass%以下であり、組成関係式f1が78.0≦f1≦80.8の範囲内、組成関係式f2が60.2≦f2≦61.5の範囲内とされる。κ相の面積率が29≦(κ)≦60の範囲内、γ相の面積率が0≦(γ)≦0.3の範囲内、β相の面積率が0((β)=0)、μ相の面積率が0≦(μ)≦1.0の範囲内とされる。組織関係式f3が98.6≦f3、組織関係式f4が99.7≦f4、組織関係式f5が0≦f5≦1.2の範囲内、組織関係式f6が30≦f6≦62の範囲内とされる。γ相の長辺の長さが25μm以下であり、μ相の長辺の長さが20μm以下とされ、α相内にκ相が存在している。
本発明の第2の実施形態に係る高強度快削性銅合金は、75.6mass%以上77.8mass%以下のCuと、3.15mass%以上3.5mass%以下のSiと、0.06mass%以上0.12mass%以下のPと、0.006mass%以上0.045mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなる。不可避不純物として存在するSnの含有量が0.03mass%以下、Alの含有量が0.03mass%以下であり、かつSnとAlの合計含有量が0.04mass%以下からなる。組成関係式f1が78.5≦f1≦80.5の範囲内、組成関係式f2が60.4≦f2≦61.3の範囲内とされる。κ相の面積率が33≦(κ)≦58の範囲内、γ相およびβ相の面積率が0((γ)=0、(β)=0)、μ相の面積率が0≦(μ)≦0.5の範囲内とされる。組織関係式f3が99.3≦f3、組織関係式f4が99.8≦f4、組織関係式f5が0≦f5≦0.5の範囲内、組織関係式f6が33≦f6≦58の範囲内とされる。α相内にκ相が存在し、μ相の長辺の長さが15μm以下とされている。
また、本発明の第1の実施形態である高強度快削性銅合金においては、さらに、0.01mass%以上0.07mass%以下のSb、0.02mass%以上0.07mass%以下のAs、0.005mass%以上0.10mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有してもよい。
また、本発明の第2の実施形態である高強度快削性銅合金においては、さらに、0.012mass%以上0.05mass%以下のSb、0.025mass%以上0.05mass%以下のAs、0.006mass%以上0.05mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有してもよいが、Sb、As、Biの合計含有量が0.09mass%以下とされる。
本発明の第1、2の実施形態に係る高強度快削性銅合金においては、不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であることが好ましい。
また、本発明の第1、2の実施形態に係る高強度快削性銅合金においては、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値が12J/cm以上50J/cm以下であり、室温(常温)での引張強さが550N/mm以上であり、かつ室温での0.2%耐力(0.2%耐力に相当する荷重)を負荷した状態で銅合金を150℃で100時間保持した後のクリープひずみが0.3%以下であることが好ましい。
本発明の第1、2の実施形態に係る熱間加工を経た高強度快削性銅合金(熱間加工材)においては、引張強さS(N/mm)、伸びE(%)、シャルピー衝撃試験値I(J/cm)との関係において、引張強さSが550N/mm以上、伸びEが12%以上、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値Iが12J/cm以上であり、かつ、引張強さ(S)と{(伸び(E)+100)/100}の1/2乗との積であるf8=S×{(E+100)/100}1/2の値が675以上であるか、または、f8とIの和であるf9=S×{(E+100)/100}1/2+Iの値が700以上であることが好ましい。
以下に、成分組成、組成関係式f1,f2、金属組織、組織関係式f3,f4,f5,f6、機械的特性を、上述のように規定した理由について説明する。
<成分組成>
(Cu)
Cuは、本実施形態の合金の主要元素であり、本発明の課題を克服するためには、少なくとも75.4mass%以上の量のCuを含有する必要がある。Cu含有量が、75.4mass%未満の場合、Si,Zn,Sn,Pbの含有量や、製造プロセスにもよるが、γ相の占める割合が0.3%を超え、耐食性、衝撃特性、延性、常温の強度、および高温特性(高温クリープ)が劣る。場合によっては、β相が出現することもある。よって、Cu含有量の下限は、75.4mass%以上であり、好ましくは75.6mass%以上、より好ましくは75.8mass%以上、最も好ましくは76.0mass%以上である。
一方、Cu含有量が78.0mass%を超えると、耐食性、常温の強度、および高温強度への効果が飽和するばかりか、γ相は減少するものの、κ相の占める割合が多くなりすぎるおそれがある。また、Cu濃度の高いμ相、場合によってはζ相、χ相が析出し易くなる。その結果、金属組織の要件にもよるが、被削性、延性、衝撃特性、熱間加工性が悪くなるおそれがある。従って、Cu含有量の上限は、78.0mass%以下であり、好ましくは77.8mass%以下、延性や衝撃特性を重要視すれば77.5mass%以下であり、さらに好ましくは77.3mass%以下である。
(Si)
Siは、本実施形態の合金の多くの優れた特性を得るために必要な元素である。Siは、κ相、γ相、μ相、β相、ζ相などの金属相の形成に寄与する。Siは、本実施形態の合金の被削性、耐食性、強度、高温特性、耐摩耗性を向上させる。被削性に関しては、α相の場合、Siを含有しても被削性の改善は、ほとんどない。しかし、Siの含有によって形成されるγ相、κ相、μ相などのα相より硬質な相によって、多量のPbを含有しなくとも、優れた被削性を有することができる。しかしながら、γ相やμ相などの金属相の占める割合が多くなるに従って、延性、衝撃特性、冷間加工性の低下の問題、厳しい環境下での耐食性の低下の問題、及び長期間使用に耐えうる高温特性に問題を生じる。κ相は、被削性や強度の向上に有用であるが、κ相が過剰であると、延性、衝撃特性、加工性を低下させ、場合によっては被削性も悪くする。このため、κ相、γ相、μ相、β相を適正な範囲に規定する必要がある。
また、Siは、溶解、鋳造時、Znの蒸発を大幅に抑制する効果があり、さらにSi含有量を増すに従って比重を小さくできる。
これらの金属組織の問題を解決し、諸特性をすべて満たすためには、Cu、Zn等の含有量にもよるが、Siは3.05mass%以上含有する必要がある。Si含有量の下限は、好ましくは3.1mass%以上であり、より好ましくは3.15mass%以上、さらに好ましくは3.2mass%以上である。特に強度を重視する場合、3.25mass%以上が好ましい。一見、Si濃度の高いγ相や、μ相の占める割合を少なくするためには、Si含有量を低くすべきであると考えられる。しかし、他の元素との配合割合、および製造プロセスを鋭意研究した結果、上述のようにSi含有量の下限を規定する必要がある。また、他の元素の含有量、組成の関係式f1、f2や製造プロセスによって大きく左右されるが、Si含有量が約3.0mass%を境にして、α相内に、細長い、針状のκ相が存在し始めるようになり、Si含有量が約3.15mass%を境にして、針状のκ相の量がさらに増大し、Si含有量が約3.25mass%に達すると針状のκ相の存在が顕著になる。このα相内に存在するκ相により、延性を損なわずに被削性、引張強さ、高温特性、衝撃特性、耐摩耗性が向上する。以下、α相内に存在するκ相をκ1相とも呼ぶ。
一方、Si含有量が多すぎると、κ相が多くなり過ぎる。同時にα相中に存在するκ1相も過剰になる。κ相が過剰になると、κ相はもともとα相より延性に劣り、硬いので、合金の延性や衝撃特性、被削性の点で問題となる。またκ1相が多くなり過ぎると、α相自身の持つ延性が損なわれ、合金としての延性が低下する。本実施形態では、高い強度と共に良好な延性(伸び)と衝撃特性を兼ね備えることを主眼に置いているので、Si含有量の上限は3.55mass%以下であり、好ましくは3.5mass%以下であり、特に、延性や衝撃特性、かしめ等の冷間加工性を重視すると、より好ましくは3.45mass%以下であり、さらに好ましくは3.4mass%以下である。
(Zn)
Znは、Cu,Siとともに本実施形態の合金の主要構成元素であり、被削性、耐食性、強度、鋳造性を高めるために必要な元素である。なお、Znは残部としているが、強いて記載すれば、Zn含有量の上限は約21.5mass%以下であり、下限は、約17.5mass%以上である。
(Pb)
Pbの含有は、銅合金の被削性を向上させる。Pbは約0.003mass%がマトリックスに固溶し、それを超えたPbは直径1μm程度のPb粒子として存在する。Pbは、微量であっても被削性に効果があり、0.005mass%以上の含有量で効果を発揮し始める。本実施形態の合金では、被削性能に優れるγ相を0.3%以下に抑えているため、Pbは、少量であってもγ相の代替をする。Pbの含有量の下限は、好ましくは0.006mass%以上である。
一方、Pbは、人体に有害であり、組成や金属組織とも関連するが、延性、衝撃特性、常温および高温強度、冷間加工性への影響がある。このため、Pbの含有量の上限は、0.070mass%以下であり、好ましくは0.045mass%以下であり、人体や環境への影響を鑑みれば、最適には0.020mass%未満である。
(P)
Pは、厳しい環境下での耐食性を大幅に向上させる。同時に、少量のPの含有は、被削性を高め、引張強さ、延性を向上させる。
これらの効果を発揮するためには、Pの含有量の下限は0.05mass%以上であり、好ましくは0.055mass%以上、より好ましくは0.06mass%以上である。
一方、Pを0.13mass%を超えて含有させると、耐食性の効果が飽和するだけでなく、急激に衝撃特性、延性、冷間加工性が悪くなり、被削性も却って悪くなる。このため、Pの含有量の上限は、0.13mass%以下であり、好ましくは0.12mass%以下であり、より好ましくは0.115mass%以下である。
(Sb、As、Bi)
Sb、Asは、ともにP、Snと同様に特に厳しい環境下での耐脱亜鉛腐食性を更に向上させる。
Sbを含有することによって耐食性の向上を図るためには、Sbは0.01mass%以上含有する必要があり、0.012mass%以上のSbを含有することが好ましい。一方、Sbを0.07mass%超えて含有しても、耐食性が向上する効果は飽和し、却ってγ相が増えるので、Sbの含有量は、0.07mass%以下であり、好ましくは0.05mass%以下である。
また、Asを含有することによって耐食性の向上を図るためには、Asは0.02mass%以上含有する必要があり、0.025mass%以上のAsを含有することが好ましい。一方、Asを0.07mass%超えて含有しても、耐食性が向上する効果は飽和するので、Asの含有量は0.07mass%以下であり、好ましくは0.05mass%以下である。
Biは、さらに銅合金の被削性を向上させる。そのためには、Biを0.005mass%以上含有する必要があり、0.006mass%以上含有することが好ましい。一方、Biの人体への有害性は不確かであるが、衝撃特性、高温特性、熱間加工性、冷間加工性への影響から、Biの含有量の上限を0.10mass%以下とし、好ましくは0.05mass%以下とする。
本実施形態では、高い強度と同時に良好な延性、冷間加工性、靱性を目指すものであり、Sb、As、Biは、耐食性等を向上させる元素であるが、過剰な量を含有させると、耐食性の効果を飽和させるだけでなく、却って、延性、冷間加工性、靱性を損なう。したがって、Sb、As、Biの合計含有量は、0.10mass%以下が好ましく、より好ましくは0.09mass%以下である。
(Sn、Al、Fe、Cr、Mn、Co、および不可避不純物)
本実施形態における不可避不純物としては、例えばAl,Ni,Mg,Se,Te,Fe,Mn,Sn,Co,Ca,Zr,Cr,Ti,In,W,Mo,B,Ag及び希土類元素等が挙げられる。
従来から快削性銅合金は、電気銅、電気亜鉛など、良質な原料が主ではなく、リサイクルされる銅合金が主原料となる。当該分野の下工程(下流工程、加工工程)において、ほとんどの部材、部品に対して切削加工が施され、材料100に対して40〜80の割合で多量に廃棄される銅合金が発生する。例えば切り屑、端材、バリ、湯道、および製造上の不良を含む製品などが挙げられる。これら廃棄される銅合金が、主たる原料となる。切削切り屑等の分別が不十分であると、他の快削性銅合金からPb,Fe,Mn,Se,Te,Sn,P,Sb,As,Bi,Ca,Al,Zr,Niおよび希土類元素が混入する。また切削切り屑には、工具から混入するFe,W,Co,Moなどが含まれる。廃材は、めっきされた製品を含むため、Ni,Cr、Snが混入する。純銅系のスクラップの中には、Mg,Fe,Cr,Ti,Co,In,Ni,Se,Teが混入する。資源の再使用の点と、コスト上の問題から、少なくとも特性に悪影響を与えない範囲で、これらの元素を含む切り屑等のスクラップは、ある限度まで原料として使用される。
経験的に、Niはスクラップ等からの混入が多いが、Niの量は0.06mass%未満まで許容されるが、0.05mass%未満が好ましい。
Fe,Mn,Co,Crは、Siと金属間化合物を形成し、場合によってはPと金属間化合物を形成し、被削性、耐食性やその他の特性に影響する。Cu、Si、Sn、Pの含有量や、関係式f1、f2にもよるが、Feは、Siと化合しやすく、Feの含有は、Feと等量のSiを消費させる恐れがあり、被削性に悪い影響を与えるFe−Si化合物の形成を促進させる。このため、Fe,Mn,Co,及びCrのそれぞれの量は、0.05mass%以下が好ましく、0.04mass%以下がより好ましい。特に、Fe,Mn,Co,Crの含有量の合計を0.08mass%未満とすることが好ましく、この合計量は、より好ましくは0.06mass%以下であり、さらに好ましくは0.05mass%以下である。
一方、他の快削性銅合金、めっきが施された廃製品などから混入するSnとAlは、本実施形態の合金において、γ相の形成を促進させる。さらに、主たるγ相の形成場所であるα相とκ相の相境界において、γ相の形成までされずとも、Sn、Alの濃度が高められる恐れがある。γ相の増加、およびα−κ相境界(α相とκ相との相境界)へのSn、Alの偏析は、延性、冷間加工性、衝撃特性、高温特性を低下させ、また延性の低下に伴い引張強さの低下を引き起こす恐れがあるので、不可避不純物であるSn、Alの量も制限しておくことが必須である。Sn、Alのそれぞれの含有量は、0.05mass%以下が好ましく、0.03mass%以下がより好ましい。また、Sn、Alの含有量の合計は、0.06mass%以下にする必要があり、0.04mass%以下がより好ましい。
そして、Fe,Mn,Co,Cr,Sn,及びAlの合計量は、0.10mass%以下であることが好ましい。
他方、Agについては、一般的にAgはCuとみなされ、諸特性への影響がほとんどないことから、特に制限する必要はないが、0.05mass%未満が好ましい。
Te、Seは、その元素自身が快削性を有し、稀であるが多量に混入する恐れがある。延性や衝撃特性への影響を鑑み、Te、Seの各々の含有量は、0.03mass%未満が好ましく、0.02mass%未満がさらに好ましい。
その他の元素であるAl,Mg,Ca,Zr,Ti,In,W,Mo,B,および希土類元素等のそれぞれの量は、0.03mass%未満が好ましく、0.02mass%未満がより好ましく、0.01mass%未満がさらに好ましい。
なお、希土類元素の量は、Sc,Y,La、Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Tb,及びLuの1種以上の合計量である。
以上、延性、衝撃特性、常温および高温強度、かしめなどの加工性を特に優れたものにするためには、これら不可避不純物の量は、管理、制限しておくことが望ましい。
(組成関係式f1)
組成関係式f1は、組成と金属組織の関係を表す式で、各々の元素の量が上記に規定される範囲にあっても、この組成関係式f1を満足しなければ、本実施形態が目標とする諸特性を満足できない。組成関係式f1が78.0未満であると、製造プロセスを如何に工夫したとしても、γ相の占める割合が多くなり、場合によってはβ相が出現し、またγ相の長辺が長くなり、耐食性、延性、衝撃特性、高温特性が悪くなる。よって、組成関係式f1の下限は、78.0以上であり、好ましくは78.2以上であり、より好ましくは78.5以上、さらに好ましくは78.8以上である。組成関係式f1がより好ましい範囲になるにしたがって、γ相の面積率は大幅に減少、または0%になり、延性、冷間加工性、衝撃特性、常温での強度、高温特性、耐食性が向上する。
一方、組成関係式f1の上限は、主としてκ相の占める割合に影響し、組成関係式f1が80.8より大きいと、延性や衝撃特性を重視した場合、κ相の占める割合が多くなりすぎる。またμ相が析出し易くなる。κ相やμ相が多すぎると、延性、衝撃特性、冷間加工性、高温特性、熱間加工性、耐食性、被削性が悪くなる。よって、組成関係式f1の上限は80.8以下であり、好ましくは80.5以下であり、より好ましくは80.2以下である。
このように、組成関係式f1を、上述の範囲に規定することで、特性の優れた銅合金が得られる。なお、選択元素であるAs,Sb,Biおよび別途規定した不可避不純物については、それらの含有量を考え合わせ、組成関係式f1にほとんど影響を与えないことから、組成関係式f1では規定していない。
(組成関係式f2)
組成関係式f2は、組成と加工性、諸特性、金属組織の関係を表す式である。組成関係式f2が60.2未満であると、金属組織中のγ相の占める割合が増え、β相を始め他の金属相が出現し易く、また残留し易くなり、耐食性、延性、衝撃特性、冷間加工性、高温特性が悪くなる。また熱間鍛造時に結晶粒が粗大化し、割れが生じ易くなる。よって、組成関係式f2の下限は60.2以上であり、好ましくは60.4以上であり、より好ましくは60.5以上である。
一方、組成関係式f2が61.5を超えると、熱間変形抵抗が高くなり、熱間での変形能が低下し、熱間押出材や熱間鍛造品に表面割れが生じるおそれがある。また、熱間加工方向と平行方向の金属組織中に、長さが1000μm、幅が200μmを超えるような粗大なα相が出現し易くなる。粗大なα相が存在すると、被削性、強度が低下し、α相とκ相の境界に存在するγ相の長辺の長さが長くなるか、或いは、γ相の形成には至らないが、SnやAlの偏析が生じやすくなる。そして、f2の値が高いと、α相中でκ1相が、出現し難くなり、強度が低くなり、被削性、高温特性、耐摩耗性が悪くなる。また、凝固温度の範囲、すなわち(液相線温度−固相線温度)が50℃を超えるようになり、鋳造時におけるひけ巣(shrinkage cavities)が顕著となり、健全な鋳物(sound casting)が得られなくなる。従って、組成関係式f2の上限は61.5以下であり、好ましくは61.4以下であり、より好ましくは61.3以下であり、さらに好ましくは61.2以下である。f1が60.2以上であり、かつf2の上限が好ましい値であると、α相の結晶粒が約50μm以下に細かくなり、α相が均一に分布するようになる。これにより、より高い強度、良好な延性、冷間加工性、衝撃特性、高温特性を有し、強度と延性、衝撃特性のバランスに優れる合金になる。
このように、組成関係式f2を、上述のように狭い範囲に規定することで、特性の優れた銅合金を、歩留り良く製造できる。なお、選択元素であるAs,Sb,Biおよび別途規定した不可避不純物については、それらの含有量を考え合わせ、組成関係式f2にほとんど影響を与えないことから、組成関係式f2では規定していない。
(特許文献との比較)
ここで、上述した特許文献3〜12に記載されたCu−Zn−Si合金と本実施形態の合金との組成を比較した結果を表1に示す。
本実施形態と特許文献3とはPb及び選択元素であるSnの含有量が異なっている。本実施形態と特許文献4とはPb及び選択元素であるSnの含有量が異なっている。本実施形態と特許文献6,7とはZrを含有するか否かで異なっている。本実施形態と特許文献8とはFeを含有するか否かの点で相違している。本実施形態と特許文献9とはPbを含有するか否かで異なっており、Fe,Ni,Mnを含有するか否かの点でも相違している。
以上のように、本実施形態の合金と、特許文献5を除いた特許文献3〜9に記載されたCu−Zn−Si合金とは組成範囲が異なっている。特許文献5は、強度、被削性、耐摩耗性に貢献するα相中に存在するκ1相、f1、f2について沈黙しており、強度バランスも低い。特許文献11は、700℃以上に加熱されるろう付けに関わり、ろう付け構造体に関わるものである。特許文献12は、ねじや歯車に転造加工される素材に関わるものである。
<金属組織>
Cu−Zn−Si合金は、10種類以上の相が存在し、複雑な相変化が起こり、組成範囲、元素の関係式だけでは、目的とする特性が必ずしも得られない。最終的には金属組織に存在する金属相の種類とその範囲を特定し、決定することによって、目的とする特性を得ることができる。
複数の金属相から構成されるCu−Zn−Si合金の場合、各々の相の耐食性は同じではなく、優劣がある。腐食は、最も耐食性の劣る相、すなわち最も腐食しやすい相、或は、耐食性の劣る相とその相に隣接する相との境界から始まって進行する。Cu,Zn,Siの3元素からなるCu−Zn−Si合金の場合、例えば、α相、α’相、β(β’を含む)相、κ相、γ(γ’を含む)相、μ相の耐食性を比較すると、耐食性の序列は、優れる相から順にα相>α’相>κ相>μ相≧γ相>β相である。κ相とμ相の間の耐食性の差が特に大きい。
ここで各相の組成は、合金の組成及び各相の占有面積率によって数値が変動するが、以下のことが言える。
各相のSi濃度は、濃度の高い順から、μ相>γ相>κ相>α相>α’相≧β相である。μ相、γ相及びκ相におけるSi濃度は、合金のSi濃度よりも高い。また、μ相のSi濃度は、α相のSi濃度の約2.5〜約3倍であり、γ相のSi濃度は、α相のSi濃度の約2〜約2.5倍である。
各相のCu濃度は、濃度の高い順から、μ相>κ相≧α相>α’相≧γ相>β相、である。μ相におけるCu濃度は、合金のCu濃度よりも高い。
特許文献3〜6に示されるCu−Zn−Si合金において、被削性機能が最も優れるγ相は、主としてα’相と共存、或は、κ相、α相との境界に存在する。γ相は、銅合金にとって厳しい水質下或は環境下では、選択的に腐食の発生源(腐食の起点)になり、腐食が進行する。勿論、β相が存在すれば、γ相の腐食より先にβ相の腐食が始まる。μ相とγ相が共存する場合、μ相の腐食は、γ相より少し遅れるか、または、ほぼ同時に始まる。例えばα相、κ相、γ相、μ相が共存する場合、γ相やμ相が、選択的に脱亜鉛腐食されると、腐食されたγ相やμ相は、脱亜鉛現象によりCuに富んだ腐食生成物となり、その腐食生成物がκ相、或いは近接するα’相を腐食させ、連鎖反応的に腐食が進行する。したがって、β相は、0%であることが必須で、γ相、μ相は、可能な限り少ないほうが好ましく、皆無であることが、理想である。
なお、日本を始め全世界における飲料水の水質は様々であり、かつ、その水質が銅合金にとって腐食しやすい水質となってきている。例えば人体への安全性の問題から、上限はあるものの消毒目的で使用される残留塩素の濃度が高くなり、水道用器具である銅合金が腐食しやすい環境になってきている。前記の自動車部品、機械部品、工業用配管も含めた部材の使用環境のように多くの溶液の介在する使用環境での耐食性についても、飲料水と同様のことが言え、腐食に弱い相を減少させる必要性はますます大きくなる。
また、γ相は、硬くて脆い相のため、銅合金部材に大きな負荷が加わったとき、ミクロ的に応力集中源となる。γ相は、主としてα−κの相境界(α相とκ相との相境界)に細長く存在する。そしてγ相は、応力集中源となるため、切削時、切屑分断の起点になり、切屑分断を促進し、切削抵抗を低くする効果を有する。一方、γ相は、前記の応力集中源となることが原因となり、延性、冷間加工性や衝撃特性を悪くし、延性の欠乏に伴って引張強さも低くなる。更に、α相、κ相の境界を中心にγ相が存在するので、高温クリープ強度を低下させる。本実施形態の合金は、高い強度、延性、優れた衝撃特性、高温特性を目指しているので、γ相の量および長辺の長さを制限しなければならない。
μ相は、α相の結晶粒界、α相、κ相の相境界に主として存在するため、γ相と同様、ミクロ的な応力集中源になる。応力集中源となるか或は粒界滑り現象により、μ相は、応力腐食割れ感受性を増大させ、衝撃特性を低下させ、延性、冷間加工性、常温および高温の強度を低下させる。なお、μ相は、γ相と同様、被削性を改善する効果を有するが、その効果は、γ相に比べ遥かに小さい。したがって、μ相の量、長辺の長さを制限する必要がある。
しかしながら、前記諸特性を改善するために、γ相、もしくはγ相とμ相の存在割合を大幅に減少させるか、或は皆無にすると、少量のPbの含有とα相、α’相、κ相の3相だけでは、満足な被削性が得られない可能性がある。そこで、僅かな量のPbを含有し、かつ優れた被削性を有することが前提で、延性、衝撃特性、強度、高温特性、耐食性を改善するために、金属組織の構成相(金属相、結晶相)を以下のように規定する必要がある。
なお、以下、各相の占める割合(存在割合)の単位は、面積率(面積%)である。
(γ相)
γ相は、Cu−Zn−Si合金の被削性に最も貢献する相であるが、厳しい環境下での耐食性、常温での強度、高温特性、延性、冷間加工性、衝撃特性を優れたものにするためには、γ相を制限しなければならない。被削性と諸特性を同時に満足させるために、組成関係式f1、f2、後述する組織関係式、製造プロセスを限定している。
(β相およびその他の相)
良好な耐食性を得て、高い延性、衝撃特性、強度、高温強度を得るには、特に金属組織中に占めるβ相、γ相、μ相、およびζ相などその他の相の割合が重要である。
β相の占める割合は、諸特性に悪影響を与えることから、少なくとも倍率500倍の金属顕微鏡で観察されない、すなわち0%にする必要がある。
α相、κ相、β相、γ相、μ相以外のζ相などその他の相の占める割合は、好ましくは0.3%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。最適にはζ相等その他の相が存在しないことが好ましい。
まず、優れた耐食性、強度、延性、冷間加工性、衝撃特性、高温特性を得るためには、γ相の占める割合を0.3%以下、且つ、γ相の長辺の長さを25μm以下とする必要がある。これらの特性をさらに向上させるためには、γ相の占める割合は、好ましくは0.1%以下であり、γ相が、500倍の顕微鏡で観察されないこと、つまりγ相の量が実質上0%であることが最適である。
γ相の長辺の長さは、以下の方法により測定される。例えば500倍または1000倍の金属顕微鏡写真を用い、1視野において、γ相の長辺の最大長さを測定する。この作業を、後述するように、5視野の任意の視野において行う。それぞれの視野で得られたγ相の長辺の最大長さの平均値を算出し、γ相の長辺の長さとする。このため、γ相の長辺の長さは、γ相の長辺の最大長さと言うこともできる。
γ相は、γ相の占める割合が低くとも、2次元で観察すると、相境界を中心に細長い形状で存在する。そしてγ相の長辺の長さが長いと、深さ方向への腐食を速め、高温クリープを助長させ、延性、引張強さ、衝撃特性、冷間加工性を低下させる。
これらから、γ相の長辺の長さは、25μm以下にする必要があり、好ましくは15μm以下にする。なお、500倍の顕微鏡で明確にγ相と判別できる大きさは、長辺の長さが約3μm以上のγ相である。長辺の長さが約3μmより小さなγ相は、その量が少ないと、引張強さ、延性、高温特性、衝撃特性、冷間加工性、耐食性への影響がほとんどないことから、無視し得る。ところで被削性に関しては、γ相の存在は、本実施形態の銅合金の被削性を向上させる効果が最も大きいが、γ相の持つ種々の問題点から可能な限り皆無とする必要があり、後述するκ1相がγ相の代替となる。
γ相の占める割合、及び、γ相の長辺の長さは、Cu,Sn,Siの含有量および、組成関係式f1、f2と大きな関連を持っている。
(μ相)
μ相は、被削性の向上には効果があるが、耐食性を始め、延性、冷間加工性、衝撃特性、常温の引張強さ、高温特性に影響することから、少なくともμ相の占める割合を0%以上1.0%以下にする必要がある。μ相の占める割合は、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.3%以下であり、μ相は存在しないことが最適である。μ相は、主として結晶粒界、相境界に存在する。このため、厳しい環境下では、μ相は、μ相が存在する結晶粒界で粒界腐食を生じる。また、粒界に細長く存在するμ相は、合金の衝撃特性、延性を低下させ、延性の低下により結果的に引張強さも低下させる。さらに、例えば、自動車のエンジン回りに使われるバルブや高圧ガスバルブに銅合金を使用した場合、150℃の高温で長時間保持すると粒界が滑り、クリープが生じ易くなる。このため、μ相の量を制限すると同時に、主として結晶粒界に存在するμ相の長辺の長さを20μm以下とする必要がある。μ相の長辺の長さは、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは5μm以下である。
μ相の長辺の長さは、γ相の長辺の長さの測定方法と同様の方法で測定される。すなわち、μ相の大きさに応じて、500倍を基本とし、場合によっては1000倍の金属顕微鏡写真、或いは2000倍または5000倍の2次電子像写真(電子顕微鏡写真)を用い、1視野において、μ相の長辺の最大長さを測定する。この作業を、5視野の任意の視野において行う。それぞれの視野で得られたμ相の長辺の最大長さの平均値を算出し、μ相の長辺の長さとする。このため、μ相の長辺の長さは、μ相の長辺の最大長さと言うこともできる。
(κ相)
近年の高速の切削条件のもと、切削抵抗、切屑の排出性を含め材料の被削性能は最も重要である。ところが、最も優れた被削性機能を有するγ相の占める割合を0.3%以下に制限した状態で、優れた被削性を備えるためには、κ相の占める割合を少なくとも29%以上とする必要がある。κ相の占める割合は、好ましくは33%以上であり、より好ましくは35%以上である。強度を重視すれば、38%以上である。
κ相は、γ相、μ相、β相に比べ、脆さはなく、はるかに延性に富み、耐食性に優れる。γ相、μ相は、α相の粒界や相境界に沿って存在するが、κ相にはそのような傾向は認められない。またα相より、強度、被削性、耐摩耗性、高温特性に優れる。
κ相の占める割合が増すとともに、被削性が向上し、引張強さ、高温強度が高くなり、耐摩耗性が向上する。しかし、一方で、κ相が増すにしたがって、延性、冷間加工性や衝撃特性は徐々に低下していく。そして、κ相の占める割合が約50%に達すると、被削性が向上する効果も飽和し、さらにκ相が増えるとκ相は硬く強度が高いために切削抵抗が増す。またκ相の量が多すぎると切り屑は連なる傾向になる。そしてκ相の占める割合が約60%に達すると、延性の低下に伴い引張強さが飽和し、冷間加工性、熱間加工性も悪くなる。このように強度、延性、衝撃特性、被削性を総合的に判断すると、κ相の占める割合は60%以下にする必要がある。κ相は、好ましくは58%以下または56%以下であり、より好ましくは54%以下であり、特に延性、衝撃特性、かしめや曲げ加工性を重視すると50%以下である。
κ相は、γ相と共に優れた被削性機能を有するが、γ相は、主として相境界に存在し、切削時に応力集中源になることにより、少量のγ相で優れた切屑分断性が得られ、切削抵抗を低下させる。後述する被削性に係る関係式f6において、γ相の量の平方根には、κ相の量の6倍もの係数が与えられている。一方、κ相は、γ相、μ相のように相境界に偏在することはなく、α相と共に金属組織を形成し、軟らかいα相と共存することにより、被削性を改善する機能が発揮される。言い換えると、κ相が軟らかいα相と共存することにより、κ相の被削性を改善する機能が活かされ、この機能は、κ相の量やα相とκ相の混合状態に応じて発揮される。したがって、α相とκ相の分布状態も被削性に影響し、粗大なα相が形成されると被削性が悪くなる。γ相の占める割合が大幅に制限されている場合、κ相の量が約50%付近を境にして、切屑分断性を向上させる効果や、切削抵抗を低減する効果が飽和し、さらにκ相の量が増すにしたがって徐々に悪くなっていく。すなわち、κ相が多くなり過ぎても、軟質のα相との構成比率、混合状態が悪くなり、切屑の分断性が低下していく。そしてκ相の割合が約50%を超えると、強度の高いκ相の影響が強くなり、切削抵抗が徐々に高くなっていく。
少量のPbと、被削性能に優れるγ相の面積率を0.3%以下、好ましくは0.1%或いは0%に制限した状態で優れた被削性を得るためには、κ相の量だけではなく、α相の被削性を向上させる必要がある。すなわち、α相内に針状のκ相、κ1相を存在させることにより、α相の被削性が向上し、延性をほとんど損なわずに、合金の被削性能が向上する。そしてα相内に存在するκ1相の量が増えるにしたがって、合金の被削性がさらに向上する。但し、関係式や製造プロセスにもよるが、金属組織中のκ相が増加にともなって、α相中のκ1相の量も増える。過剰な量のκ1相の存在は、α相自体の延性を低下させ、合金の延性、冷間加工性、衝撃特性に悪影響を与えるので、κ相の占める割合を60%以下にする必要があり、κ相は、好ましくは58%以下または56%以下である。以上により、金属組織中に占めるκ相の割合として、約33%〜約56%が、延性、冷間加工性、強度、衝撃特性、耐食性、高温特性、被削性、耐摩耗性のバランスの観点から最適である。また、f1、f2の値にもよるが、κ相の占める割合が33%以上、56%以下であると、α相中のκ1相の量も増え、Pbの含有量が0.020mass%未満でも良好な被削性が確保できる。
(α相中での細長く針状のκ相(κ1相)の存在)
上述した組成、組成関係式f1、f2、プロセスの要件を満たすと、α相内に、針状のκ相が存在するようになる。このκ相は、α相より硬質である。α相内に存在するκ相(κ1相)の厚みは、約0.1μmから約0.2μm程度(約0.05μm〜約0.5μm)であり、厚みが薄く、細長く、針状であることが特徴である。α相中に、針状のκ1相が存在することにより、以下の効果が得られる。
1)α相が強化され、合金としての引張強さが向上する。
2)α相の被削性が向上し、合金の切削抵抗の低下や切屑分断性の向上などの被削性が向上する。
3)α相内に存在するため、合金の耐食性に悪い影響を及ぼさない。
4)α相が強化され、合金の耐摩耗性が向上する。
5)α相内に存在するため、延性、衝撃特性への影響は、軽微である。
α相中に存在する針状のκ相は、Cu、Zn、Siなどの構成元素や関係式f1、f2、そして製造プロセスに影響される。本実施形態の組成、金属組織の要件が満たされる場合、Siがκ1相の存在を左右する主因子の1つであり、一例として、Si量が約2.95mass%以上であるとα相中にκ1相が存在し始める。Si量が約3.05mass%以上で、κ1相が明瞭になり、約3.15mass%以上で、より明瞭にκ1相が存在するようになる。また、κ1相の存在は、関係式に影響を受け、例えば組成関係式f2が61.5以下であることが必要であり、f2が、61.2、61.0になるにしたがって、κ1相がより多く存在するようになる。
一方、結晶粒の大きさが2〜100μmのα結晶粒、またはα相中において、κ1相の幅がわずか約0.2μmであっても、κ1相の占める割合が大きくなる、すなわちκ1相の量が多くなりすぎると、α相の持つ延性や衝撃特性が損なわれる。α相中でのκ1相の量は、主として、金属組織中のκ相の量と連動し、Cu、Si、Znの含有量、関係式f1、f2、製造プロセスに強く影響を受ける。主因子である金属組織中のκ相の占める割合が60%を超えると、α相中に存在するκ1相の量が多くなりすぎる。α相中に存在する適切な量のκ1相の観点から、金属組織中のκ相の量は、60%以下であり、好ましくは58%以下、より好ましくは54%以下であり、延性、冷間加工性や衝撃特性を重視した場合は、好ましくは、54%以下であり、さらに好ましくは、50%以下である。また、κ相の占める割合が高く、f2の値が低い場合、κ1相の量が多くなる。逆に、κ相の占める割合が低く、f2の値が高いと、α相中に存在するκ1相の量が少なくなる。
α相内に存在するκ1相は、金属顕微鏡で、500倍の倍率で、場合によっては約1000倍に拡大すると、細い線状物、針状物として確認できる。しかし、κ1相の面積率を算出するのは困難なため、α相中のκ1相は、α相の面積率に含めるものとする。
(組織関係式f3、f4、f5)
優れた耐食性、延性、衝撃特性、高温特性を得るためには、α相、κ相の占める割合の合計(組織関係式f3=(α)+(κ))が、98.6%以上である。f3の値は、好ましくは99.3%以上であり、より好ましくは99.5%以上である。同様にα相、κ相、γ相、μ相の占める割合の合計(組織関係f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ))は、99.7%以上であり、好ましくは99.8%以上である。
さらに、γ相、μ相の占める合計の割合(f5=(γ)+(μ))が0%以上1.2%以下である。f5の値は、好ましくは0.5%以下である。
ここで、金属組織の関係式f3〜f6において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10種類の金属相を対象としており、金属間化合物、Pb粒子、酸化物、非金属介在物、未溶解物質などは対象としていない。また、α相に存在する針状のκ相(κ1相)は、α相に含め、500倍または1000倍の金属顕微鏡では観察できないμ相は除外される。なお、Si、P及び不可避的に混入する元素(例えばFe,Co,Mn)によって形成される金属間化合物は、金属相の面積率の適用範囲外である。しかし、これら金属間化合物は被削性に影響を与えるので、不可避不純物を注視しておく必要がある。
(組織関係式f6)
本実施形態の合金においては、Cu−Zn−Si合金においてPbの含有量を最小限に留めながらも被削性が良好であり、そして衝撃特性、延性、冷間加工性、耐圧特性、常温、高温強度、耐食性の全てを満足させる必要がある。しかしながら、被削性と衝撃特性、延性、耐食性とは、相反する特性である。
金属組織的には、被削性能に最も優れるγ相を多く含む方が、被削性はよいが、衝撃特性、延性、強度、耐食性その他の特性の点からは、γ相は少なくしなければならない。γ相の占める割合が0.3%以下の場合、実験結果より上述の組織関係式f6の値を適正な範囲とすることが、良好な被削性を得るために必要であることが分かった。
γ相は、被削性能に最も優れるため、被削性能に関する組織関係式f6において、γ相の占める割合((γ)(%))の平方根の値に6倍の高い係数が与えられる。一方、κ相の係数は1である。κ相は、α相と共に金属組織を形成し、γ相、μ相のような相境界に偏在することはなく、存在割合に応じて効果を発揮する。良好な被削性能を得るには、組織関係式f6の値は30以上である必要がある。f6は、好ましくは33以上であり、より好ましくは35以上である。
一方、組織関係式f6が、62を超えると、被削性は却って悪くなり、衝撃特性、延性の悪化が目立つようになる。このため、組織関係式f6は62以下である必要がある。f6の値は、好ましくは58以下であり、より好ましくは54以下である。
<特性>
(常温強度及び高温特性)
飲料水のバルブ、器具、水素ステーション、水素発電などの水素に関わるか、または高圧水素環境にある容器、継手、配管、バルブ、自動車のバルブ、継手をはじめ様々な分野で必要な強度としては、引張強さが重要視されている。また、例えば自動車のエンジンルームに近い環境で使用されるバルブや高温・高圧バルブは、最高約150℃の温度環境に曝されるが、その時、圧力、応力が加わった時に変形や破壊されないことが要求される。圧力容器の場合、その許容応力は、引張強さに影響される。圧力容器には、用途、使用条件に応じ、必要最小限の延性、衝撃特性が要求され、適宜、強度とのバランスで決定される。また、自動車部品を始め本実施形態の使用対象となる部材、部品の薄肉化、軽量化の強い要請がある。
そのためには、熱間加工材である熱間押出材、熱間圧延材及び熱間鍛造材は、常温での引張強さが550N/mm以上の高強度材であることが好ましい。常温での引張強さは、より好ましくは580N/mm以上で、さらに好ましくは600N/mm以上、最適には625N/mm以上である。バルブや圧力容器の多くは、熱間鍛造で作られ、580N/mm以上、好ましくは600N/mm以上の引張強さを有することができれば、本実施形態の合金は、水素脆化が起こらないので、例えば低温脆性で問題となる水素用バルブ、水素発電用バルブなどの代替ができるようになり、産業用の利用価値が高まる。なお、熱間鍛造材は、一般的に冷間加工が施されない。例えばショットによって、表面を硬化させることができるが、実質的に0.1〜1.5%程度の冷間加工率に過ぎず、引張強さの向上は2〜15N/mm程度である。
本実施形態の合金は、材料の再結晶温度より高い適正な温度条件で熱処理を施す、或いは適切な熱履歴を施すことにより、引張強さが向上する。具体的には、熱処理前の熱間加工材に比べ、組成や熱処理条件にもよるが、約10〜約100N/mm向上する。コルソン合金やTi−Cuのような時効硬化型合金以外に、再結晶温度より高温の熱処理により、引張強度が上昇する例は、銅合金においてほとんど見当たらない。本実施形態の合金で強度が向上する理由は、以下のように考えられる。505℃以上575℃以下の適切な条件で熱処理を行うことにより、マトリックスのα相やκ相が軟らかくなる。一方、α相内に針状のκ相が存在することによりα相が強化されること、γ相の減少によって延性が増大し破壊に耐えうる最大荷重が増すこと、及びκ相の割合が増すことが、α相、κ相の軟化を大きく上回る。これらにより、熱間加工材に比べ、耐食性だけでなく、引張強さ、延性、衝撃値、冷間加工性ともに大幅に向上し、高強度で、高延性、高靱性な合金に仕上がる。
一方、熱間加工材は、場合によっては、適切な熱処理後、冷間で抽伸、伸線、圧延され強度が向上する。本実施形態の合金では、冷間加工が施される場合、冷間加工率が15%以下では、引張強さは、冷間加工率1%につき、約12N/mm上昇する。その反面、衝撃特性は、冷間加工率1%につき、約4%減少する。または、熱処理材の衝撃値をI、冷間加工率をRE%とすると、冷間加工後の衝撃値Iは、冷間加工率20%以下の条件で概ね、I=I×(20/(20+RE))で整理できる。例えば、引張強さが580N/mm、衝撃値が30J/cmの合金材に対して、冷間加工率5%の冷間抽伸を施し、冷間加工材を作製した場合、冷間加工材の引張強さは約640N/mmとなり、衝撃値は約24J/cmになる。冷間加工率が異なると、一義的に引張強さ、衝撃値は決められない。
このように、冷間加工を施すと、引張強さは高くなるが、衝撃値、伸びは低下する。用途に応じ、目標とする強度、伸び、衝撃値を得るために、適正な冷間加工率を設定する必要がある。
他方、抽伸、伸線、圧延の冷間加工を行い、次いで適切な条件の熱処理を施すと、熱間加工材、特に熱間押出材に比して、引張強さ、伸び、衝撃特性がともに高まる。なお、鍛造品等で引張試験が実施できないことがある。その場合、ロックウエルBスケール(HRB)と引張強さ(S)には強い相関関係があるので、簡便的に、ロックウエルBスケールで測定し、引張強さの推定が可能である。但し、この相関関係は、本実施形態の組成を満たし、f1〜f6の要件を満たしていることが前提である。
HRB:65以上88以下の時:S=4.3×HRB+242
HRB:88超え99以下の時:S=11.8×HRB−422
HRBが、65、75、85、88、93、98の時の引張強さは、各々概ね、520、565、610、625、675、735N/mmと見積もられる。
高温特性に関しては、室温の0.2%耐力に相当する応力を負荷した状態で、150℃で100時間、銅合金を保持した後のクリープひずみが0.3%以下であることが好ましい。このクリープひずみは、より好ましくは0.2%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。この場合、高温高圧バルブ、自動車のエンジンルームに近いバルブ材等のように高温に晒されても、変形しにくく、高温特性に優れる。
被削性が良好で、引張強さが高くても、延性、冷間加工性に乏しい場合、その用途は制限される。冷間加工性に関し、例えば、水道関連器具、配管部品、自動車、電気部品の用途で、熱間鍛造材、切削加工材に軽度なかしめ加工や曲げなどの冷間加工が施されることがあり、割れないことが必要である。被削性は、切りくずが分断されるために、材料に一種の脆さを求められるが、冷間加工性とは、相反する特性である。同様に、引張強さと延性とは相反する特性であるが、引張強さと延性(伸び)において高度のバランスが取れることが望ましい。すなわち、少なくとも引張強さが550N/mm以上、伸びが12%以上であり、引張強さ(S)と{(伸び(E%)+100)/100}の1/2乗の積、f8=S×{(E+100)/100}1/2の値が、好ましくは675以上であることが、1つの高強度・高延性材料の尺度となる。f8は、より好ましくは690以上であり、さらに好ましくは700以上である。2〜15%の冷間加工率での冷間加工を含む場合、12%以上の伸びと630N/mm以上、さらには650N/mm以上の引張強さを兼ね備えることができ、f8は、690以上、さらには700以上に達する。
なお、鋳物については、結晶粒が粗大になりやすく、ミクロ的な欠陥が含むこともあるので適用外とする。
60mass%のCu、3mass%のPbを含み、残部がZnと不可避不純物からなるPbを含有する快削黄銅の場合、熱間押出材、熱間鍛造品の常温での引張強さは360N/mm〜400N/mmで、伸びは35%〜45%である。すなわち、f8は、約450である。また室温の0.2%耐力に相当する応力を負荷した状態で合金を150℃に100時間晒した後であっても、クリープひずみは約4〜5%である。このため、本実施形態の合金の引張強さ、耐熱性は、従来のPbを含有する快削黄銅に比べて高い水準である。すなわち、本実施形態の合金は、耐食性に優れ、室温で高い強度を備え、その高い強度を付加して高温に長時間曝してもほとんど変形しないため、高い強度を生かして薄肉・軽量が可能となる。特に高圧ガス、高圧水素用のバルブなどの鍛造材の場合、実質的に冷間加工を施すことができないので、高い強度を活かし、許容圧力の増大、或いは薄肉、軽量化を図れる。
また、Pbを3%含有する快削性銅合金は、かしめ加工等の冷間加工性に乏しい。
本実施形態の合金の高温特性は、押出材、冷間加工を施した材料もほぼ同じである。すなわち、冷間加工を施すことにより、0.2%耐力は高まるが、その冷間加工により高まった0.2%耐力に相当する荷重を加えた状態であっても合金を150℃に100時間晒した後のクリープひずみが0.3%以下であって高い耐熱性を備えている。高温特性は、β相、γ相、μ相の面積率に主として影響され、それらの面積率が高いほど、悪くなる。また、高温特性は、α相の結晶粒界や、相境界に存在するμ相、γ相の長辺の長さが長いほど悪くなる。
(耐衝撃性)
一般的に、材料が高い強度を有する場合、脆くなる。切削において切り屑の分断性に優れる材料は、ある種の脆さを有すると言われている。衝撃特性と被削性、衝撃特性と強度とは、ある面において相反する特性である。
しかしながら、バルブ、継手などの飲料水器具、自動車部品、機械部品、工業用配管等、様々な部材に銅合金が使用される場合、銅合金には、高強度であるだけでなく、衝撃に対して耐える特性が必要である。具体的には、Uノッチ試験片でシャルピー衝撃試験を行ったときに、シャルピー衝撃試験値(I)は、12J/cm以上が好ましい。冷間加工を含む場合、その加工率が高くなるにつれて、衝撃値は低下するが、より好ましくは、15J/cm以上である。一方、冷間加工が施されていない熱間加工材では、シャルピー衝撃試験値は、好ましくは15J/cm以上であり、より好ましくは16J/cm以上であり、更に好ましくは20J/cm以上、最適には、24J/cm以上である。本実施形態の合金は、被削性に優れた合金に関わり、シャルピー衝撃試験値は、50J/cmを超える必要は特にない。むしろ、シャルピー衝撃試験値が50J/cmを超えると、延性や靭性が増すため、切削抵抗が高くなり、切り屑が連なりやすくなり、被削性が悪くなる。このため、シャルピー衝撃試験値は、50J/cm以下が好ましい。
材料の強度、被削性に貢献する硬質のκ相が増えすぎたり、κ1相の量が増え過ぎると、靱性すなわち衝撃特性は低下する。このため、強度や被削性と、衝撃特性(靱性)とは、相反する特性である。以下の式により、強度・伸びに衝撃特性を加味した強度・伸び・衝撃バランス指数f9を定義する。
熱間加工材に関して、引張強さ(S)が550N/mm以上、伸び(E)が12%以上、シャルピー衝撃試験値(I)が12J/cm以上であり、かつ、Sと{(E+100)/100}の1/2乗の積とIの和、f9=S×{(E+100)/100}1/2+Iが、好ましくは700以上、より好ましくは、715以上、さらに好ましくは、725以上であると、高強度で、高い伸び、および靱性を備えた材料であると言える。加工率2〜15%の冷間加工を含む場合、さらに好ましくは、f9が740以上である。
前記の強度・延性バランス指数f8が675以上であるか、又は強度・延性・衝撃バランス指数f9が700以上のいずれかを満足することが好ましい。衝撃特性と伸びは、両方とも延性の尺度であるが、静的な延性と瞬時の延性と区別され、f8、f9の両方を満たすのがより好ましい。
衝撃特性は、金属組織と密接な関係があり、γ相、μ相は衝撃特性を悪化させる。また、α相の結晶粒界、α相、κ相の相境界に、γ相、μ相が存在すると結晶粒界及び相境界が脆弱化し、衝撃特性が悪くなる。前記のとおり、面積率だけでなく、γ相、μ相の長辺の長さも衝撃特性に影響を与える。
<製造プロセス>
次に、本発明の第1、2の実施形態に係る高強度快削性銅合金の製造方法について説明する。
本実施形態の合金の金属組織は、組成だけでなく製造プロセスによっても変化する。熱間押出、熱間鍛造の熱間加工温度、熱処理条件に影響されるだけでなく、熱間加工や熱処理における冷却過程での平均冷却速度(単に、冷却速度という)が影響する。鋭意研究を行った結果、熱間加工や熱処理の冷却過程において、450℃から400℃の温度領域における冷却速度、および575℃から525℃の温度領域における冷却速度に金属組織が大きく影響されることが分かった。
本実施形態の製造プロセスは、本実施形態の合金にとって必要なプロセスであり、組成との兼ね合いもあるが、基本的に、以下の重要な役割を果たす。
1)延性、強度、衝撃特性、耐食性を悪化させるγ相を大幅に減少または皆無にし、γ相の長辺の長さを小さくする。
2)延性、強度、衝撃特性、耐食性を悪化させるμ相の生成を抑制し、μ相の長辺の長さを制御する。
3)α相内に針状のκ相を出現させる。
(溶解鋳造)
溶解は、本実施形態の合金の融点(液相線温度)より約100℃〜約300℃高い温度である約950℃〜約1200℃で行われる。鋳造、および鋳物製品は、融点より、約50℃〜約200℃高い温度である約900℃〜約1100℃で所定の鋳型に鋳込まれ、空冷、徐冷、水冷などの幾つかの冷却手段によって冷却される。そして、凝固後は、様々に構成相が変化する。
(熱間加工)
熱間加工としては、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延が挙げられる。
例えば熱間押出に関して、設備能力にもよるが、実際に熱間加工される時の材料温度、具体的には押出ダイスを通過直後の温度(熱間加工温度)が600〜740℃である条件で熱間押出を実施することが好ましい。740℃を超えた温度で熱間加工すると、塑性加工時にβ相が多く形成され、β相が残留することがあり、γ相も多く残留し、冷却後の構成相に悪影響を与える。また、次の工程で熱処理を施しても、熱間加工材の金属組織が影響する。熱間加工温度は、670℃以下が好ましく、645℃以下がより好ましい。熱間押出を645℃以下で実施すると、熱間押出材のγ相は少なくなる。さらに、α相が細かい粒形状となり、強度が向上する。このγ相の少ない熱間押出材を用いて、熱間鍛造材、そして熱間鍛造後熱処理材を作製した場合、熱間鍛造材、熱処理材のγ相の量はより少なくなる。
そして熱間押出後の冷却速度の工夫により、被削性、耐食性等の諸特性を備えた材料を得ることもできる。すなわち、熱間押出後の冷却過程で、575℃から525℃の温度領域において、0.1℃/分以上3℃/分以下の冷却速度で冷却すると、γ相が減少する。冷却速度が3℃/分を超えると、γ相の量の減少が不十分となる。575℃から525℃の温度領域における冷却速度は、好ましくは1.5℃/分以下であり、より好ましくは1℃/分以下である。次に、450℃から400℃の温度領域における冷却速度を3℃/分以上500℃/分以下とする。450℃から400℃の温度領域における冷却速度は、好ましくは4℃/分以上であり、より好ましくは8℃/分以上である。これにより、μ相の増加を防ぐ。
なお、次工程または最終工程で、熱処理を行う場合、熱間加工後の575℃から525℃の温度領域での冷却速度、450℃から400℃の温度領域における冷却速度の制御は必要ない。
また、熱間加工温度が低い場合、熱間での変形抵抗が高くなる。変形能の点から、熱間加工温度の下限は、好ましくは600℃以上である。押出比が50以下の場合や、比較的単純な形状に熱間鍛造する場合では、600℃以上で熱間加工は実施できる。余裕をみて熱間加工温度の下限は、好ましくは605℃である。設備能力にもよるが、熱間加工温度は、可能な限り低いほうが好ましい。
実測が可能な測定位置に鑑みて、熱間加工温度は、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延後から約3秒後または4秒後の実測が可能な熱間加工材の温度と定義する。金属組織は、大きな塑性変形を受けた加工直後の温度に影響を受ける。
本実施形態では、熱間での塑性加工後の冷却過程において、575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却する。次いで、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却する。
Pbを1〜4mass%の量で含有する黄銅合金は、銅合金の押出材の大半を占めるが、この黄銅合金の場合、押出径が大きいもの、例えば、直径が約38mmを超えるものを除き、通例では、熱間押出後にコイルに巻き取られる。押出中の鋳塊(ビレット)は、押出装置により熱を奪われ温度が低下する。押出材は、巻き取り装置に接触することによって熱を奪われ、更に温度が低下する。押出当初の鋳塊の温度から、または押出材の温度から、約50℃〜100℃の温度の低下は、比較的早い冷却速度で起こる。その後に巻き取られたコイルは、保温効果により、コイルの重量等にもよるが、450℃から400℃までの温度領域を、約2℃/分の比較的ゆっくりとした冷却速度で冷却される。材料温度が約300℃に達した時、それ以降の冷却速度はさらに遅くなるので、ハンドリングを考慮して水冷されることもある。Pbを含有する黄銅合金の場合、約600〜700℃で熱間押出されるが、押出直後の金属組織には、熱間加工性に富むβ相が多量に存在する。押出後の冷却速度が速いと、冷却後の金属組織に多量のβ相が残留し、耐食性、延性、衝撃特性、高温特性が悪くなる。それを避けるために、押出コイルの保温効果等を利用した比較的遅い冷却速度で冷却することにより、β相をα相に変化させ、α相に富んだ金属組織にしている。前記のように、押出直後は、押出材の冷却速度が比較的速いので、その後の冷却を遅くすることにより、α相に富んだ金属組織にしている。なお、特許文献1には、冷却速度の記載はないが、β相を少なくし、β相を孤立させる目的で、押出材の温度が180℃以下になるまで徐冷すると開示している。
以上により、本実施形態の合金は、従来のPbを含有する黄銅合金の製造方法とは熱間加工後の冷却過程において全く異なる冷却速度で製造している。
(熱間鍛造)
熱間鍛造の素材としては、主として熱間押出材が用いられるが、連続鋳造棒も用いられる。熱間押出に比べ、熱間鍛造は複雑形状に加工するので、鍛造前の素材の温度は高い。しかし、鍛造品の主要部位となる大きな塑性加工が施された熱間鍛造材の温度、すなわち鍛造直後から約3秒後または4秒後の材料温度は、熱間押出材と同様、600℃から740℃が好ましい。
なお、熱間押出棒の製造時の押出温度を低くし、γ相が少ない金属組織にしておけば、この熱間押出棒に対して熱間鍛造を施す場合、熱間鍛造温度が高くとも、γ相の少ない状態が維持された熱間鍛造組織が得られる。
さらに、鍛造後の冷却速度の工夫により、耐食性、被削性等の諸特性を備えた材料を得ることができる。すなわち、熱間鍛造後、約3秒または4秒経過時点での鍛造材の温度は600℃以上740℃以下である。その後の冷却過程で、575℃から525℃の温度領域、特に570℃から530℃の温度領域において、0.1℃/分以上3℃/分以下の冷却速度で冷却すると、γ相が減少する。575℃から525℃までの温度領域での冷却速度の下限値は、経済性を考慮して0.1℃/分以上としており、一方、冷却速度が3℃/分を超えると、γ相の量の減少が不十分となる。好ましくは1.5℃/分以下であり、より好ましくは1℃/分以下である。そして、450℃から400℃の温度領域における冷却速度を3℃/分以上500℃/分以下とする。450℃から400℃の温度領域における冷却速度は、好ましくは4℃/分以上であり、より好ましくは8℃/分以上である。これにより、μ相の増加を防ぐ。このように575〜525℃の温度領域では、3℃/分以下、好ましくは1.5℃/分以下の冷却速度で冷却する。また450から400℃の温度領域では、3℃/分以上、好ましくは4℃/分以上の冷却速度で冷却する。このように、575〜525℃の温度領域では冷却速度を遅くし、450℃から400℃の温度領域では反対に冷却速度を早くすることにより、より好適な材料に仕上がる。熱間押出材は一方向の塑性加工であるが、鍛造品は、一般的に複雑な塑性変形であるので、γ相の減少の度合い、γ相の長辺の長さの減少の度合いは、熱間押出材よりも大きい。
(熱間圧延)
熱間圧延の場合は、繰り返し圧延されるが、最終の熱間圧延温度(3〜4秒経過後の材料温度)は、好ましくは600℃以上740℃以下であり、より好ましくは605℃以上670℃以下である。熱間圧延材の冷却は、熱間押出と同様、575℃から525℃の温度領域において、0.1℃/分以上3℃/分以下の冷却速度で冷却し、次に、450℃から400℃の温度領域における冷却速度を3℃/分以上500℃/分以下とする。
なお、次工程または最終工程で、再度熱処理を行う場合、熱間加工後の575℃から525℃の温度領域での冷却速度、450℃から400℃の温度領域における冷却速度の制御は必要ない。
(熱処理)
銅合金の主たる熱処理は、焼鈍とも呼ばれ、例えば熱間押出では押出できない小さなサイズに加工する場合、冷間抽伸、或は冷間伸線後に、必要に応じて熱処理が行われ、再結晶させ、すなわち通常は材料を軟らかくする目的で実施される。また、熱間加工材においても、加工ひずみのほとんどない材料が要望される場合や、適正な金属組織にする場合など、必要に応じて熱処理が実施される。
Pbを含有する黄銅合金においても、必要に応じて熱処理が実施される。特許文献1のBiを含む黄銅合金の場合、350〜550℃で、1〜8時間の条件で熱処理される。
本実施形態の合金の場合、まず、525℃以上575℃以下の温度で、15分以上、8時間以下で保持すると、引張強さ、延性、耐食性、衝撃特性、高温特性が向上する。しかし、材料の温度が620℃を超えた条件で熱処理すると、却ってγ相、またはβ相が多く形成され、α相が粗大化する。熱処理条件としては、熱処理の温度は、575℃以下がよい。
一方、525℃より低い温度の熱処理でも可能であるが、γ相の減少の度合いが急激に小さくなって時間を要する。少なくとも505℃以上であって、525℃未満の温度では、100分以上、好ましくは120分以上の時間が必要となる。さらに505℃より低い温度で長時間の熱処理は、γ相の減少が僅かに留まるか、またはほとんどγ相が減少せず、条件によってはμ相が出現する。
熱処理の時間(熱処理の温度で保持される時間)は、525℃以上575℃以下の温度で、少なくとも、15分以上保持する必要がある。保持時間は、γ相の減少に寄与するので、好ましくは40分以上であり、より好ましくは80分以上である。保持時間の上限は、8時間であり、経済性から480分以下であり、好ましくは240分以下である。または、前記のとおり、505℃以上、好ましくは515℃以上525℃未満の温度では、100分以上、好ましくは120分以上、480分以下である。
この温度での熱処理の利点は、熱処理前の材料のγ相の量が少ない場合、α相、κ相の軟化を最小限にとどめ、α相の粒成長がほとんど起こらなく、より高い強度を得ることができる。また、強度や被削性に寄与するκ1相は、515℃以上545℃以下の熱処理で、最も多く存在するようになる。κ1相は、前記温度から高くなる、または低くなるにしたがって、κ1相の量は少なくなり、500℃以下、590℃以上では、ほとんど存在しなくなる。
もう1つの熱処理方法として、熱間押出材、熱間鍛造品、熱間圧延材または、冷間で抽伸、伸線など加工された材料が、熱源内を移動する連続熱処理炉の場合、材料温度が620℃を超えると前記のごとく問題である。しかし、一旦、525℃以上好ましくは530℃以上で、620℃以下、好ましくは595℃以下に材料の温度を上げ、次いで525℃以上575℃以下の温度領域で15分以上保持することに相当する条件、すなわち、525℃以上575℃以下の温度領域で保持される時間と、保持後、冷却において525℃以上575℃以下の温度域を通過する時間との合計が、15分以上であることにより、金属組織の改善が可能となる。連続炉の場合、最高到達温度で保持される時間が短いので、575℃から525℃までの温度領域での冷却速度は、好ましくは0.1℃/分以上3℃/分以下であり、より好ましくは2℃/分以下であり、さらに好ましくは1.5℃/分以下である。勿論、575℃以上の設定温度に拘りはなく、例えば、最高到達温度が545℃の場合、545℃から525℃の温度を少なくとも15分以上保持すればよい。仮に最高到達温度である545℃に完全に達し、その保持時間が0分の場合、545℃から525℃の温度領域を1.3℃/分以下の平均冷却速度になる条件で通過させればよい。すなわち、525℃以上の温度領域で20分以上保持されれば、525℃から620℃の範囲内であれば最高到達温度は問題ではない。連続炉に限らず、保持時間の定義は、最高到達温度マイナス10℃に達した時からの時間とするものとする。
これらの熱処理においても、材料は常温まで冷却されるが、冷却過程において、450℃から400℃の温度領域での冷却速度を3℃/分以上500℃/分以下とする必要がある。450℃から400℃の温度領域での冷却速度は、好ましくは4℃/分以上である。すなわち、500℃付近を境にして冷却速度を早くする必要がある。一般的には、炉からの冷却では、より低い温度の方が、例えば550℃より430℃の方が冷却速度は遅くなる。
(鋳物の熱処理)
最終製品が、鋳物の場合においても、鋳込み後、常温まで冷却された鋳物を以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を加熱、冷却する。
(1)525℃以上575℃以下の温度で15分から8時間保持するか、
(2)505℃以上525℃未満の温度で100分から8時間保持するか、
(3)一旦、525℃以上、620℃以下まで材料の温度を上げ、次いで525℃以上575℃以下の温度領域で15分以上保持するか、または
(4)上記(3)に相当する条件、具体的には、525℃以上575℃以下の温度領域を0.1℃/分以上3℃/分以下の平均冷却速度で冷却する。
次いで、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することにより、金属組織の改善が可能となる。
2000倍または5000倍の電子顕微鏡で金属組織を観察すると、μ相が存在するか否かの境界の冷却速度は、450℃から400℃までの温度領域において約8℃/分である。特に、諸特性に大きな影響を与える臨界の冷却速度は、約3℃/分、或は約4℃/分である。勿論、μ相の出現は、組成にも依存し、Cu濃度が高く、Si濃度が高く、金属組織の関係式f1の値が高いほど、μ相の形成が速く進む。
すなわち、450℃から400℃までの温度領域の冷却速度が約8℃/分より遅いと、粒界に析出するμ相の長辺の長さが約1μmに達し、冷却速度が遅くなるに従ってさらに成長する。そして冷却速度が約5℃/分になると、μ相の長辺の長さが約3μmから10μmになる。冷却速度が約3℃/分未満となると、μ相の長辺の長さが15μmを超え、場合によっては25μmを超える。μ相の長辺の長さが約10μmに達すると、1000倍の金属顕微鏡で、μ相が結晶粒界と区別でき、観察することが可能となる。一方、冷却速度の上限は、熱間加工温度などにもよるが、冷却速度が速すぎると、高温で形成された構成相がそのまま常温にまで持ちこされ、κ相が多くなり、耐食性、衝撃特性に影響を与えるβ相、γ相が増える。
現在、Pbを含有する黄銅合金が、銅合金の押出材の大半を占める。このPbを含有する黄銅合金の場合、特許文献1にあるように、350〜550℃の温度で必要に応じて熱処理される。下限の350℃は、再結晶し、材料がほぼ軟化する温度である。上限の550℃では、再結晶が完了し、再結晶粒が粗大化し始める。また、温度を上げることによるエネルギー上の問題があり、また550℃超の温度で熱処理するとβ相が顕著に増加する。このため、上限が550℃であると考えられる。一般的な製造設備としては、バッチ炉、または、連続炉が用いられ、バッチ炉の場合は、炉冷後、約300℃から約50℃に達してから空冷される。連続炉の場合は、約300℃に材料温度が下がるまでは比較的ゆっくりとした速度で冷却される。本実施形態の合金の製造方法とは異なる冷却速度で冷却される。
本実施形態の合金の金属組織に関して、製造工程で重要なことは、熱処理後、又は熱間加工後の冷却過程で、450℃から400℃の温度領域における冷却速度である。冷却速度が3℃/分未満である場合、μ相の占める割合が増大する。μ相は、主として、結晶粒界、相境界を中心に形成される。厳しい環境下では、μ相は、α相、κ相に比べ耐食性が悪いので、μ相の選択腐食や粒界腐食の原因となる。また、μ相は、γ相と同様に、応力集中源になるか、或いは粒界滑りの原因になり、衝撃特性や、高温強度を低下させる。好ましくは、熱間加工後の冷却において、450℃から400℃の温度領域における冷却速度は、3℃/分以上であり、好ましくは4℃/分以上であり、より好ましくは8℃/分以上であり、上限は、熱ひずみの影響を考慮して500℃/分以下であり、好ましくは300℃/分以下である。
(冷間加工工程)
高い強度を得るため、寸法精度を良くするため、または押出されたコイルを直線にするために、熱間押出材に対して冷間加工を施しても良い。例えば熱間押出材に対して、約2%〜約20%、好ましくは約2%〜約15%、より好ましくは約2%〜約10%の加工率で冷間抽伸を施し、熱処理が施される。または熱間加工、次いで熱処理後、約2%〜約20%、好ましくは約2%〜約15%、より好ましくは約2%〜約10%の加工率で、冷間で伸線加工、圧延加工が施され、場合によっては矯正工程が加えられる。最終製品の寸法によっては、冷間加工と熱処理が繰り返し、実施されることもある。なお、矯正設備のみにより棒材の直線度を向上させること、または熱間加工後の鍛造品にショットピーニングを施すことがあり、実質的な冷間加工率は、約0.1%〜約1.5%程度であるが、僅かな冷間加工率であっても、強度は高くなる。
冷間加工の利点は、合金の強度を高めることができる点である。熱間加工材に対して、2%〜20%の加工率での冷間加工と、熱処理を組み合わせることにより、その順序が逆であっても、高い強度、延性、衝撃特性のバランスを取ることができ、用途に応じ、強度重視、延性や靱性重視の特性を得ることができる。
加工率2〜15%の冷間加工後、本実施形態の熱処理を施す場合、熱処理により、α相、κ相の両相は十分回復するが、完全に再結晶せずに、両相に加工ひずみが残留する。同時に、γ相が減少する一方で、α相内に針状のκ相(κ1相)が存在しα相が強化され、そしてκ相が増える。この結果、延性、衝撃特性、引張強さ、高温特性、強度・延性バランス指数の何れもが、熱間加工材を上回り、バランス指数f8は690以上、さらには、700以上になる。または、f9が、715以上、さらには725以上に達する。このような製造プロセスを採用することにより、耐食性に優れ、衝撃特性、延性、強度、被削性に優れた合金に仕上がる。
なお、快削性銅合金として、広く一般的に使用されている銅合金では、2〜15%の冷間加工を施した後に、505℃〜575℃に加熱すると、再結晶により強度は大幅に低下する。すなわち、冷間加工を施した従来の快削銅合金では、再結晶熱処理により強度が大幅に低下するが、冷間加工を施した本実施形態の合金は逆に強度が上昇し、非常に高い強度を得る。このように、冷間加工を施した本実施形態の合金と従来の快削銅合金とは熱処理後の挙動が全く異なるものである。
(低温焼鈍)
棒材、鍛造品、鋳物においては、残留応力の除去や棒材の矯正を主たる目的として、再結晶温度以下の温度で棒材、鍛造品を低温焼鈍することがある。本実施形態の合金の場合、引張強さを維持しつつ、伸び、耐力が向上する。その低温焼鈍の条件として、材料温度を240℃以上350℃以下とし、加熱時間を10分から300分とすることが望ましい。さらに低温焼鈍の温度(材料温度)をT(℃)、加熱時間をt(分)とすると、150≦(T−220)×(t)1/2≦1200の関係を満たす条件で低温焼鈍を実施することが好ましい。なお、ここで、所定の温度T(℃)に達する温度より10℃低い温度(T−10)から、加熱時間t(分)をカウント(計測)するものとする。
低温焼鈍の温度が240℃より低い場合、残留応力の除去が不十分であり、また十分に矯正が行えない。低温焼鈍の温度が350℃を超える場合、結晶粒界、相境界を中心にμ相が形成される。低温焼鈍の時間が10分未満であると、残留応力の除去が不十分である。低温焼鈍の時間が300分を超えると、μ相が増大する。低温焼鈍の温度を高くするか、或いは時間が長くなるにつれて、μ相が増大し、耐食性、衝撃特性、高温特性が低下する。しかしながら、低温焼鈍を施すことにより、μ相の析出は避けられず、如何にして、残留応力を除去しつつ、μ相の析出を最小限に留めるかがポイントとなる。
なお、(T−220)×(t)1/2の値の下限は、150であり、好ましくは180以上であり、より好ましくは200以上である。また、(T−220)×(t)1/2の値の上限は、1200であり、好ましくは1100以下であり、より好ましくは1000以下である。
このような製造方法によって、本発明の第1,2の実施形態に係る高強度快削性銅合金が製造される。
熱間加工工程、熱処理(焼鈍とも言う)工程、低温焼鈍工程は、銅合金を加熱する工程である。低温焼鈍工程を行わない場合、又は低温焼鈍工程の後に熱間加工工程や熱処理工程を行う場合(低温焼鈍工程が最後に銅合金を加熱する工程とならない場合)、冷間加工の有無に関わらず、熱間加工工程、熱処理工程のうち、後に行う工程が重要となる。熱処理工程の後に熱間加工工程を行うか、または熱間加工工程の後に熱処理工程を行わない場合(熱間加工工程が最後に銅合金を加熱する工程となる場合)、熱間加工工程は、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。熱間加工工程の後に熱処理工程を行うか、または熱処理工程の後に熱間加工工程を行わない場合(熱処理工程が最後に銅合金を加熱する工程となる場合)、熱処理工程は、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。例えば、熱間鍛造の工程の後に熱処理工程を行わない場合、熱間鍛造の工程は、上述した熱間鍛造の加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。熱間鍛造の工程の後に熱処理工程を行う場合、熱処理工程が上述した熱処理の加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。この場合、熱間鍛造の工程は、必ずしも上述した熱間鍛造の加熱条件と冷却条件を満たす必要はない。
低温焼鈍工程では、材料温度が240℃以上350℃以下であり、この温度は、μ相が生成するか否かに関わり、γ相が減少する温度範囲(575〜525℃、525〜505℃)とは関わらない。このように、低温焼鈍工程での材料温度は、γ相の増減に関わらない。このため、熱間加工工程や熱処理工程の後に、低温焼鈍工程を行う場合(低温焼鈍工程が最後に銅合金を加熱する工程となる場合)、低温焼鈍工程の条件と共に、低温焼鈍工程の前の工程(低温焼鈍工程の直前に銅合金を加熱する工程)の加熱条件や冷却条件が重要となり、低温焼鈍工程と低温焼鈍工程の前の工程は、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。詳細には、低温焼鈍工程の前の工程において、熱間加工工程、熱処理工程のうち、後に行う工程の加熱条件や冷却条件も重要となり、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。低温焼鈍工程の後に熱間加工工程や熱処理工程を行う場合、前述したように熱間加工工程、熱処理工程のうち、後に行う工程が重要となり、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。なお、低温焼鈍工程の前又は後に熱間加工工程や熱処理工程を行っても良い。
以上のような構成とされた本発明の第1、第2の実施形態に係る快削性合金によれば、合金組成、組成関係式、金属組織、組織関係式を上述のように規定しているので、厳しい環境下での耐食性、衝撃特性、高温特性に優れている。また、Pbの含有量が少なくても優れた被削性を得ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的要件を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
以下、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果を示す。なお、以下の実施例は、本発明の効果を説明するためのものであって、実施例に記載された構成要件、プロセス、条件が本発明の技術的範囲を限定するものでない。
(実施例1)
<実操業実験>
実操業で使用している低周波溶解炉及び半連続鋳造機を用いて銅合金の試作試験を実施した。表2に合金組成を示す。なお、実操業設備を用いていることから、表2に示す合金においては不純物についても測定した。また、製造工程は、表5〜表11に示す条件とした。
(工程No.A1〜A14、AH1〜AH14)
実操業している低周波溶解炉及び半連続鋳造機により直径240mmのビレットを製造した。原料は、実操業に準じたものを使用した。ビレットを長さ700mmに切断して加熱した。熱間押出を行って直径25.6mmの丸棒状とし、コイルに巻き取った(押出材)。次いで、コイルの保温とファンの調整により、575℃〜525℃の温度領域、及び450℃から400℃の温度領域を20℃/分の冷却速度で押出材を冷却した。400℃以下の温度領域でも約20℃/分の冷却速度で冷却した。温度測定は、熱間押出の終盤を中心に放射温度計を用いて行い、押出機より押出されたときから約3〜4秒後の押出材の温度を測定した。なお、温度測定には、大同特殊鋼株式会社製の型式DS−06DFの放射温度計を用いた。
その押出材の温度の平均値が表5,6に示す温度の±5℃((表5,6に示す温度)−5℃〜(表5,6に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
工程No.AH14では、押出温度を580℃とした。工程AH14以外の工程では、押出温度を640℃とした。押出温度が580℃の工程No.AH14では、準備した2種類の材料とも、最後まで押出できず、断念した。
押出後、工程No.AH1では、矯正のみを実施した。工程No.AH2では、直径25.6mmの押出材を直径25.0mmに冷間で抽伸した。
工程No.A1〜A6、AH3〜AH6では、直径25.6mmの押出材を直径25.0mmに冷間で抽伸した。抽伸材を実操業の電気炉又は実験室の電気炉で、所定の温度、時間で加熱保持し、冷却過程の575℃から525℃の温度領域での平均冷却速度、または450℃から400℃の温度領域での平均冷却速度を変化させた。
工程No.A7〜A9、AH7〜AH8では、直径25.6mmの押出材を直径25.0mmに冷間で抽伸した。抽伸材を連続炉で熱処理し、最高到達温度、冷却過程の575℃から525℃の温度領域での冷却速度、または450℃から400℃の温度領域での冷却速度を変化させた。
工程No.A10、A11では、直径25.6mmの押出材を熱処理した。次いで、工程No.A10、A11において、冷間加工率がそれぞれ約5%、約8%の冷間抽伸を施し、そして直径をそれぞれ25mm、24.5mmにし、矯正した(熱処理後に抽伸、矯正)。
工程No.A12は、抽伸後の寸法がφ24.5mmであること以外は、工程No.A1と同じ工程である。
工程No.A13、工程No.A14と、工程No.AH12、工程No.AH13では、熱間押出後の冷却速度を変え、冷却過程の575℃から525℃の温度領域での冷却速度、または450℃から400℃の温度領域での冷却速度を変化させた。
熱処理条件に関して、表5,6に示すように、熱処理の温度を490℃から635℃まで変化させ、保持時間も5分から180分に変化させた。
なお、以下の表において、熱処理前に冷間抽伸を行った場合を“○”で示し、行わなかった場合を“−”で示した。
合金No.1に関しては、溶湯を保持炉に移し、Sn、Feを追加で含有させ、工程No.EH1、E1工程を施し、評価した。
(工程No.B1〜B3、BH1〜BH3)
工程No.A10で得られた直径25mmの材料(棒材)を、長さ3mに切断した。次いで、この棒材を型枠に並べ、矯正目的で低温焼鈍した。その時の低温焼鈍条件を表8に示す条件とした。
なお、表中の条件式の値は、以下の式の値である。
(条件式)=(T−220)×(t)1/2
T:温度(材料温度)(℃)、t:加熱時間(分)
結果は、工程No.BH1のみが、直線度が悪かった。このため、工程No.BH1で作製された銅合金に関して、特性の評価を行わなかった。
(工程No.C0、C1)
実操業している低周波溶解炉及び半連続鋳造機により直径240mmの鋳塊(ビレット)を製造した。原料は、実操業に準じたものを使用した。ビレットを長さ500mmに切断して加熱した。そして、熱間押出を行って直径50mmの丸棒状の押出材とした。この押出材は、直棒の形状で押出テーブルに押出した。温度測定は、押出の終盤を中心に放射温度計を用いて行い、押出機より押出された時点から約3秒〜4秒後の押出材の温度を測定した。その押出材の温度の平均値が表9に示す温度の±5℃((表9に示す温度)−5℃〜(表9に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。なお、押出後の575℃から525℃の冷却速度および450℃から400℃の冷却速度は、それぞれ15℃/分、15℃/分であった(押出材)。後述する工程にて、工程No.C0で得られた押出材(丸棒)を鍛造用素材として用いた。工程No.C1は、560℃で、60分加熱し、次いで450℃から400℃の冷却速度を12℃/分とした。
(工程No.D1〜D7、DH1〜DH6)
工程No.C0で得られた直径50mmの丸棒を長さ180mmに切断した。この丸棒を横置きにして、熱間鍛造プレス能力150トンのプレス機で、厚み16mmに鍛造した。所定の厚みに熱間鍛造された直後から約3秒〜約4秒経過後に、放射温度計を用いて温度の測定を行った。熱間鍛造温度(熱間加工温度)は、表10に示す温度±5℃の範囲((表10に示す温度)−5℃〜(表10に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
工程No.D1〜D4、DH2、DH6では、実験室の電気炉で熱処理を行い、熱処理の温度、時間、575℃から525℃の温度領域での冷却速度、及び450℃から400℃の温度領域での冷却速度を変えて実施した。
工程No.D5、D7、DH3、DH4では、連続炉で、565℃から590℃で3分間加熱し、冷却速度を変えて実施した。
なお、熱処理の温度は、材料の最高到達温度であり、保持時間としては、最高到達温度から(最高到達温度−10℃)までの温度領域で保持された時間を採用した。
工程No.DH1、D6、DH5では、熱間鍛造後の冷却で、575℃から525℃、および450℃から400℃の温度領域での冷却速度を変えて実施した。なお、いずれも鍛造後の冷却で試料の作製作業を終了した。
<実験室実験>
実験室設備を用いて銅合金の試作試験を実施した。表3及び表4に合金組成を示す。なお、残部はZn及び不可避不純物である。表2に示す組成の銅合金も実験室実験に用いた。また、製造工程は、表12〜表16に示す条件とした。
(工程No.E1、EH1)
実験室において、所定の成分比で原料を溶解した。直径100mm、長さ180mmの金型に溶湯を鋳込み、ビレットを作製した。なお、実操業している溶解炉からも、溶湯の一部を直径100mm、長さ180mmの金型に鋳込み、ビレットを作製した。このビレットを加熱し、工程No.E1、EH1では直径40mmの丸棒に押出した。
押出試験機が停止直後に放射温度計を用いて温度測定を行った。結果的に押出機より押出されたときから約3秒または4秒後の押出材の温度に相当する。
工程No.EH1では、押出で試料の作製作業を終了とし、得られた押出材は、後述する工程にて、熱間鍛造素材として用いた。
工程No.E1では、押出後に表12に示す条件で熱処理を行った。
(工程No.F1〜F5、FH1、FH2)
工程No.EH1、および後述する工程No.PH1で得られた直径40mmの丸棒を長さ180mmに切断した。工程No.EH1の丸棒又は工程No.PH1の鋳物を横置きにして、熱間鍛造プレス能力150トンのプレス機で、厚み15mmに鍛造した。所定の厚みに熱間鍛造された直後から約3秒〜4秒経過後に、放射温度計を用いて温度の測定を行った。熱間鍛造温度(熱間加工温度)は、表13に示す温度±5℃の範囲((表13に示す温度)−5℃〜(表13に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
575℃から525℃までの温度領域での冷却速度、および450℃から400℃までの温度領域での冷却速度をそれぞれ20℃/分、18℃/分とした。工程No.FH1では、工程No.EH1で得られた丸棒に対して熱間鍛造を施したが、熱間鍛造後の冷却で試料の作製作業を終了とした。
工程No.F1、F2、F3、FH2では、工程No.EH1で得られた丸棒に対して熱間鍛造を施し、熱間鍛造後に熱処理を行った。加熱条件、575℃から525℃までの温度領域での冷却速度、及び450℃から400℃までの温度領域での冷却速度を変えて熱処理を実施した。
工程No.F4、F5では、鍛造素材として金型に鋳込まれた鋳物(No.PH1)を用い、熱間鍛造した。熱間鍛造後に加熱条件、冷却速度を変えて熱処理(焼鈍)を実施した。
(工程No.P1〜P3,PH1)
工程No.PH1では、所定の成分比で原料を溶解した溶湯を、内径φ40mmの金型に鋳込み、鋳物を得た。実操業している溶解炉から、溶湯の一部を内径40mmの金型に鋳込み、鋳物を作製した。
工程No.PCでは、連続鋳造によって直径φ40mmの連続鋳造棒を作製した(表に記載なし)。
工程No.P1では、工程No.PH1の鋳物に対して熱処理を施し、工程No.P2、P3では、工程No.PCの鋳物に対して熱処理を施した。工程No.P1〜P3では、加熱条件、冷却速度を変えて熱処理を実施した。
工程No.R1では、実操業している溶解炉から、溶湯の一部を、35mm×70mmの鋳型に鋳込んだ。鋳物の表面を面削して30mm×65mmとし、780℃に加熱し、3パスの熱間圧延を施して厚みを8mmにした。最終の熱間圧延の終了後、約3秒〜約4秒後の材料温度は640℃であり、その後に空冷した。そして得られた圧延板を電気炉で熱処理した。
上述の試験材について、以下の手順にて、金属組織観察、耐食性(脱亜鉛腐食試験/浸漬試験)、被削性について評価を行った。
(金属組織の観察)
以下の方法により金属組織を観察し、α相、κ相、β相、γ相、μ相の面積率(%)を画像解析により測定した。なお、α’相、β’相、γ’相は、各々α相、β相、γ相に含めることとした。
各試験材の棒材、鍛造品を、長手方向に対して平行に、または金属組織の流動方向に対して平行に切断した。次いで表面を研鏡(鏡面研磨)し、過酸化水素とアンモニア水の混合液でエッチングした。エッチングでは、3vol%の過酸化水素水3mLと、14vol%のアンモニア水22mLを混合した水溶液を用いた。約15℃〜約25℃の室温にてこの水溶液に金属の研磨面を約2秒〜約5秒浸漬した。
金属顕微鏡を用いて、主として倍率500倍で金属組織を観察し、金属組織の状況によっては1000倍で金属組織を観察した。5視野の顕微鏡写真において、画像処理ソフト「Photoshop CC」を用いて各相(α相、κ相、β相、γ相、μ相)を手動で塗りつぶした。次いで画像解析ソフト「WinROOF2013」で2値化し、各相の面積率を求めた。詳細には、各相について、5視野の面積率の平均値を求め、平均値を各相の相比率とした。そして、全ての構成相の面積率の合計を100%とした。
γ相、μ相の長辺の長さは、以下の方法により測定した。主として500倍、判別し難い場合は1000倍の金属顕微鏡写真を用い、1視野において、γ相の長辺の最大長さを測定した。この作業を任意の5視野において行い、得られたγ相の長辺の最大長さの平均値を算出し、γ相の長辺の長さとした。同様に、μ相の大きさに応じて、500倍または1000倍の金属顕微鏡写真、或いは2000倍または5000倍の2次電子像写真(電子顕微鏡写真)を用い、1視野において、μ相の長辺の最大長さを測定した。この作業を任意の5視野において行い、得られたμ相の長辺の最大長さの平均値を算出し、μ相の長辺の長さとした。
具体的には、約70mm×約90mmのサイズにプリントアウトした写真を用いて評価した。500倍の倍率の場合、観察視野のサイズは276μm×220μmであった。
相の同定が困難な場合は、FE−SEM−EBSP(Electron Back Scattering Diffracton Pattern)法によって、倍率500倍又は2000倍で、相を特定した。
また、冷却速度を変化させた実施例においては、主として結晶粒界に析出するμ相の有無を確認するために、日本電子株式会社製のJSM−7000Fを用いて、加速電圧15kV、電流値(設定値15)の条件で、2次電子像を撮影し、2000倍または5000倍の倍率で金属組織を確認した。2000倍または5000倍の2次電子像でμ相が確認できても、500倍または1000倍の金属顕微鏡写真でμ相が確認できない場合は、面積率には算定しなかった。すなわち、2000倍または5000倍の2次電子像で観察されたが500倍または1000倍の金属顕微鏡写真では確認できなかったμ相は、μ相の面積率には含めなかった。何故なら、金属顕微鏡で確認できないμ相は、主として長辺の長さが5μm以下、幅は0.3μm以下であるので、面積率に与える影響は、小さいためである。
μ相の長さは、任意の5視野で測定し、前述したように5視野の最長の長さの平均値をμ相の長辺の長さとした。μ相の組成確認は、付属のEDSで行った。なお、μ相が500倍または1000倍で確認できなかったが、より高い倍率でμ相の長辺の長さが測定された場合、表中の測定結果において、μ相の面積率は0%であるがμ相の長辺の長さは記載している。
(μ相の観察)
μ相に関しては、熱間押出後や熱処理後、450℃〜400℃の温度領域を8℃/分、または15℃/分以下の冷却速度で冷却すると、μ相の存在が確認できた。図1は、試験No.T05(合金No.S01/工程No.A3)の2次電子像の一例を示す。α相の結晶粒界に、μ相が析出していることが確認された(白灰色の細長い相)。
(α相中に存在する針状のκ相)
α相中に存在する針状のκ相(κ1相)は、幅が約0.05μmから約0.5μmで、細長い直線状、針状の形態である。幅が0.1μm以上であれば、金属顕微鏡で、κ1相の存在が、確認できる。
図2は、代表的な金属顕微鏡写真として、試験No.T73(合金No.S02/工程No.A1)の金属顕微鏡写真を示す。図3は、代表的なα相内に存在する針状のκ相の電子顕微鏡写真として、試験No.T73(合金No.S02/工程No.A1)の電子顕微鏡写真を示す。なお、図2,3の観察箇所は同一ではない。銅合金においては、α相に存在する双晶と混同する恐れがあるが、α相中に存在するκ相は、κ相自身の幅が狭く、双晶は2つで1組になっているので、区別がつく。図2の金属顕微鏡写真において、α相内に、細長く直線的な針状の模様の相が認められる。図3の二次電子像(電子顕微鏡写真)において、明瞭に、α相内に存在する模様が、κ相であることが確認される。κ相の厚みは、約0.1〜約0.2μmであった。
α相中での針状のκ相の量(数)は、金属顕微鏡で判断した。金属構成相の判定(金属組織観察)で撮影された倍率500倍または1000倍の5視野の顕微鏡写真を用いた。縦が約70mm、横が約90mmの寸法にプリントアウトした拡大視野において、針状のκ相の数を測定し、5視野の平均値を求めた。針状のκ相の数の5視野での平均値が20以上70未満の場合、針状のκ相を概ね十分に有すると判断し、“△”と表記した。針状のκ相の数の5視野での平均値が70以上の場合、多くの針状のκ相を有すると判断し、“○”と表記した。針状のκ相の数の5視野での平均値が19以下の場合、針状のκ相を有しない、または、十分な量の針状のκ相が存在しないと判断し、“×”と表記した。写真で確認できない針状のκ1相の数は含めなかった。
(機械的特性)
(引張強さ)
各試験材をJIS Z 2241の10号試験片に加工し、引張強さの測定を行った。冷間加工工程を含まない熱間押出材、或いは熱間鍛造材の引張強さが、550N/mm以上、好ましくは580N/mm以上、より好ましくは、600N/mm以上、最適には625N/mm以上であれば、快削性銅合金の中でも最高の水準であり、各分野で使用される部材の薄肉・軽量化、或いは許容応力の増大を図ることができる。
なお、本実施形態の合金は、高い引張強さを有する銅合金であるので、引張試験片の仕上げ面粗さが、伸びや引張強さに影響を与える。このため、下記の条件を満たすように引張試験片を作製した。
(引張試験片の仕上げ面粗さの条件)
引張試験片の標点間の任意の場所の基準長さ4mm当たりの断面曲線において、Z軸の最大値と最小値の差が2μm以下であること。断面曲線とは、測定断面曲線にカットオフ値λsの低減フィルタを適用して得られる曲線をさす。
(高温クリープ)
各試験片から、JIS Z 2271の直径10mmのつば付き試験片を作製した。室温の0.2%耐力に相当する荷重を試験片にかけた状態で、150℃で100時間経過後のクリープひずみを測定した。0.2%耐力すなわち常温における標点間の伸びで、0.2%の塑性変形に相当する荷重を加え、この荷重をかけた状態で試験片を150℃、100時間保持した後のクリープひずみが0.3%以下であれば良好である。このクリープひずみが0.2%以下であれば、銅合金では最高の水準であり、例えば、高温で使用されるバルブ、エンジンルームに近い自動車部品では、信頼性の高い材料として使用できる。
(衝撃特性)
衝撃試験では、押出棒材、鍛造材およびその代替材、鋳造材、連続鋳造棒材から、JIS Z 2242に準じたUノッチ試験片(ノッチ深さ2mm、ノッチ底半径1mm)を採取した。半径2mmの衝撃刃でシャルピー衝撃試験を行い、衝撃値を測定した。
なお、Vノッチ試験片とUノッチ試験片で行ったときの衝撃値の関係は、およそ以下のとおりである。
(Vノッチ衝撃値)=0.8×(Uノッチ衝撃値)−3
(被削性)
被削性の評価は、以下のように、旋盤を用いた切削試験で評価した。
直径50mm、40mm、又は25.6mmの熱間押出棒材、直径25mm(24.5mm)の冷間抽伸材、および鋳物については、切削加工を施して直径を18mmとして試験材を作製した。鍛造材については、切削加工を施して直径を14.5mmとして試験材を作製した。ポイントノーズ・ストレート工具、特にチップブレーカーの付いていないタングステン・カーバイド工具を旋盤に取り付けた。この旋盤を用い、乾式下にて、すくい角−6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度150m/分、切削深さ1.0mm、送り速度0.11mm/revの条件で、直径18mm又は直径14.5mmの試験材の円周上を切削した。
工具に取り付けられた3部分から成る動力計(三保電機製作所製、AST式工具動力計AST−TL1003)から発せられるシグナルが、電気的電圧シグナルに変換され、レコーダーに記録された。次にこれらのシグナルは切削抵抗(N)に変換された。従って、切削抵抗、特に切削の際に最も高い値を示す主分力を測定することにより、合金の被削性を評価した。
同時に切屑を採取し、切屑形状により被削性を評価した。実用の切削で最も問題となるのは、切屑が工具に絡みついたり、切屑が嵩張ることである。このため、切屑形状が1巻き以下の切屑しか生成しなかった場合を良好“○”(good)と評価した。切屑形状が1巻きを超えて3巻きまでの切屑が生成した場合を可“△”(fair)と評価した。切屑形状が3巻きを超える切屑が生成した場合を“×”(poor)と評価した。このように、3段階の評価をした。
切削抵抗は、材料の強度、例えば、剪断応力、引張強さや0.2%耐力にも依存し、強度が高い材料ほど切削抵抗が高くなる傾向がある。切削抵抗がPbを1〜4%含有する快削黄銅棒の切削抵抗に対して約10%から約20%高くなる程度であれば、実用上十分許容される。本実施形態においては、切削抵抗が130Nを境(境界値)として評価した。詳細には、切削抵抗が130N以下であれば、被削性に優れる(評価:○)と評価した。切削抵抗が130N超え150N以下であれば、被削性を“可(△)”と評価した。切削抵抗が150N超えであれば、“不可(×)”と評価した。因みに、58mass%Cu−42mass%Zn合金に対して工程No.F1を施して試料を製作して評価したところ、切削抵抗は185Nであった。
(熱間加工試験)
直径50mm、直径40mm、直径25.6mm、または直径25.0mmの棒材、および鋳物を切削によって直径15mmとし、長さ25mmに切断し、試験材を作製した。試験材を740℃又は635℃で15分間保持した。次いで試験材を縦置きにして、熱間圧縮能力10トンで電気炉が併設されているアムスラー試験機を用いて、ひずみ速度0.02/秒、加工率80%で高温圧縮し、厚み5mmとした。
熱間加工性の評価は、倍率10倍の拡大鏡を用い、0.2mm以上の開口した割れが観察された場合、割れ発生と判断した。740℃、635℃の2条件とも割れが発生しなかった時を“○”(good)と評価した。740℃で割れが発生したが635℃で割れが発生しなかった場合を“△”(fair)と評価した。740℃で割れが発生しなかったが635℃で割れが発生した場合を“▲”(fair)と評価した。740℃、635℃の2条件とも割れが発生した場合を“×”(poor)と評価した。
740℃、635℃の2条件で割れが発生しなかった場合、実用上の熱間押出、熱間鍛造に関し、実施上、多少の材料の温度低下が生じても、また、金型やダイスと材料が瞬時であるが接触し、材料の温度低下があっても、適正な温度で実施すれば、実用上問題は無い。740℃、635℃のいずれかの温度で割れが生じた場合、熱間加工が実施可能と判断されるが、実用上の大きな制約を受け、より狭い温度範囲で管理する必要がある。740℃、635℃の両者の温度で、割れが生じた場合は、実用上大きな問題があると判断され、不可である。
(かしめ(曲げ)加工性)
かしめ(曲げ)加工性を評価するため、棒材、鍛造材の外周を切削して外径を13mmとし、直径φ10mmのドリルで穴あけし、長さを10mmに切断した。以上により、外径13mm、厚み1.5mm、長さ10mmの円筒状試料を作製した。この試料をバイスに挟み、人力により楕円形に偏平させ、割れの有無を調査した。
割れ発生時のかしめ率(偏平率)を以下の式により算出した。
(かしめ率)=(1−(偏平後の内側の短辺の長さ)/(内径))×100(%)
(偏平後の内側の短辺の長さ(mm))=(偏平させた楕円形状の外側の短辺の長さ)−(肉厚)×2
(内径(mm))=(円筒の外径)−(肉厚)×2
なお、円筒状の材料に力をかけ偏平させ、除荷するとスプリングバックにより、元の形状に戻ろうとするが、ここでは、永久変形した形状を指す。
ここで、割れ発生するときのかしめ率(曲げ加工率)が、30%以上の場合、かしめ(曲げ)加工性を“○”(良、good)と評価した。かしめ率(曲げ加工率)が15%以上、30%未満の場合、かしめ(曲げ)加工性を“△”(可、fair)と評価した。かしめ率(曲げ加工率)が15%未満の場合、かしめ(曲げ)加工性を“×”(不可、poor)と評価した。
因みに市販のPb添加快削黄銅棒(59%Cu−3%Pb−残部Zn)でかしめ試験をしたところ、かしめ率が9%であった。優れた快削性を備える合金は、ある種の脆さがある。
(脱亜鉛腐食試験1)
試験材が押出材の場合、試験材の暴露試料表面が押出し方向に対して垂直となるよう試験材をフェノール樹脂材に埋込んだ。試験材が鋳物材(鋳造棒)の場合、試験材の暴露試料表面が鋳物材の長手方向に対して垂直となるよう試験材をフェノール樹脂材に埋込んだ。試験材が鍛造材の場合、試験材の暴露試料表面が鍛造の流動方向に対して垂直となるようにしてフェノール樹脂材に埋込んだ。
試料表面を1200番までのエメリー紙により研磨し、次いで、純水中で超音波洗浄してブロワーで乾燥した。その後、各試料を、準備した浸漬液に浸漬した。
試験終了後、暴露表面が、押出し方向、長手方向、又は鍛造の流動方向に対して直角を保つように、試料をフェノール樹脂材に再び埋め込んだ。次に、腐食部の断面が最も長い切断部として得られるように試料を切断した。続いて試料を研磨した。
金属顕微鏡を用い、500倍の倍率で顕微鏡の視野10ヶ所(任意の10箇所の視野)にて、腐食深さを観察した。最も深い腐食ポイントが最大脱亜鉛腐食深さとして記録された。
脱亜鉛腐食試験では、浸漬液として、以下の試験液を準備して上記の作業を実施した。
試験液は、蒸留水に市販の薬剤を投入し調整した。腐食性の高い水道水を想定し、塩化物イオン80mg/L、硫酸イオン40mg/L、硝酸イオン30mg/Lを投入した。アルカリ度および硬度は日本の一般的な水道水を目安にそれぞれ30mg/L、60mg/Lに調整した。pHを6.5に下げるために二酸化炭素を流量調整しながら投入し、溶存酸素濃度を飽和させるために酸素ガスを常時投入した。水温は25℃±5℃(20〜30℃)で行なった。この溶液を用いると、その厳しい腐食環境での約50倍の加速試験となることが推定される。最大腐食深さが50μm以下であれば、耐食性は良好である。優れた耐食性が求められる場合は、最大腐食深さは、好ましくは35μm以下であり、さらに好ましくは25μm以下であると推定される。本実施例では、これらの推定値をもとに評価した。
なお、試験液中に試料を3ヶ月間保持した。次いで、水溶液中から試料を取出して、その脱亜鉛腐食深さの最大値(最大脱亜鉛腐食深さ)を測定した。
(脱亜鉛腐食試験2:ISO6509脱亜鉛腐食試験)
本試験は、脱亜鉛腐食試験方法として、多くの国々で採用されており、JIS規格においても、JIS H 3250で規定されている。
脱亜鉛腐食試験と同様に、試験材をフェノール樹脂材に埋込んだ。各試料を、1.0%の塩化第2銅2水和塩(CuCl・2HO)の水溶液(12.7g/L)中に浸漬し、75℃の温度条件下で24時間保持した。その後、水溶液中から試料を取出した。
暴露表面が押出し方向、長手方向、又は鍛造の流動方向に対して直角を保つように、試料をフェノール樹脂材に再び埋め込んだ。次に、腐食部の断面が最も長い切断部として得られるように試料を切断した。続いて試料を研磨した。
金属顕微鏡を用い、100倍、または500倍の倍率で、顕微鏡の視野10ヶ所にて、腐食深さを観察した。最も深い腐食ポイントが最大脱亜鉛腐食深さとして記録された。
なお、ISO 6509の試験を行ったとき、最大腐食深さが200μm以下であれば、実用上の耐食性に関して問題ないレベルとされている。特に優れた耐食性が求められる場合は、最大腐食深さは、好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下とされている。
本試験において、最大腐食深さが200μmを超える場合は“×”(poor)と評価した。最大腐食深さが50μm超え、200μm以下の場合を“△”(fair)と評価した。最大腐食深さが50μm以下の場合を“○”(good)と厳しく評価した。本実施形態は、厳しい腐食環境を想定しているために厳しい評価基準を採用し、評価が“○”である場合のみを、耐食性が良好であるとした。
評価結果を表17〜表55に示す。
試験No.T01〜T62,T71〜T114,T121〜T169は、実操業の実験での結果である。試験No.T201〜T208は、実操業炉の溶湯に、意図的に追加でSn、Feを含有させたものである。試験No.T301〜T337は、実験室の実験での実施例に相当する結果である。試験No.T501〜T537は、実験室の実験での比較例に相当する結果である。
なお、表中のμ相の長辺の長さに関して、値“40”は、40μm以上を意味する。また、表中のγ相の長辺の長さに関して、値“150”は、150μm以上を意味する。
以上の実験結果は、以下のとおりに纏められる。
1)本実施形態の組成を満足し、組成関係式f1、f2、金属組織の要件、および組織関係式f3、f4、f5、f6を満たすことにより、少量のPbの含有で、良好な被削性が得られ、良好な熱間加工性、厳しい環境下での優れた耐食性を備え、且つ高強度で、良好な延性、衝撃特性、曲げ加工性、高温特性を持ち合せる熱間押出材、熱間鍛造材が得られることが確認できた(例えば、合金No.S01、S02、S13、工程No.A1、C1、D1、E1、F1、F4)。
2)Sb、Asを含有することによって、さらに厳しい条件下での耐食性を向上させることが確認できた(合金No.S51、S52)。但し、過剰量のSb、As含有しても耐食性の向上効果は飽和し、却って、延性(伸び)、衝撃特性、高温特性が悪くなる(合金No.S51、S52、S116)。
3)Biの含有により、さらに切削抵抗が低くなることが確認できた(合金No.S51)。
4)α相中に針状のκ相すなわちκ1相が存在することにより、強度が上昇し、強度・伸びバランスf8、強度・伸び・衝撃バランスf9が高くなり、被削性が良好に保たれ、耐食性、高温特性が向上することが確認できた。特にκ1相の量が多くなると、強度の向上が顕著となり、γ相が0%であっても、良好な被削性が確保できた(例えば合金No.S01、S02、S03)。
5)Cu含有量が少ないと、γ相が多くなり被削性は良好であったが、耐食性、延性、衝撃特性、曲げ加工性、高温特性が悪くなった。逆にCu含有量が多いと、被削性が悪くなった。また、延性、衝撃特性、曲げ加工性も悪くなった(合金No.S102、S103、S112)。
6)Si含有量が、3.05mass%より少ないと、κ1相が十分に存在しないため、引張強さが低く、被削性が悪く、高温特性も悪かった。Si含有量が、3.55mass%より多いと、κ相の量が過剰となり、またκ1相も過剰に存在したため、伸びが低く、加工性、衝撃特性、被削性が悪く、引張強さも飽和していた(合金No.S102、S104、S113)。
7)P含有量が多いと、衝撃特性、延性、引張強さ、曲げ加工性が悪くなった。一方、P含有量が少ないと、厳しい環境下での脱亜鉛腐食深さが大きく、強度が低く、切削性も悪かった。いずれも、f8、f9が低かった。Pbの含有量が多いと、被削性は向上したが、高温特性、延性、衝撃特性が悪くなった。Pbの含有量が少ないと、切削抵抗が高くなり、切り屑形状が悪くなった(合金No.S108、S110、S118、S111)。
8)少量のSnまたはAlを含有すると、γ相の増加は僅かであるが、衝撃特性、高温特性が少し悪くなり、伸びが少し低くなった。相境界等でSnまたはAlが濃化したものと思われる。さらに、SnまたはAlの含有量が増し、各々0.05mass%を超えるか、またはSnとAlの合計含有量が0.06mass%を超えると、γ相が増し、衝撃特性、伸び、高温特性への影響が明瞭になり、耐食性が悪くなり、引張強さも低くなった(合金No.S01、S11、S12、S41、S114、S115)。
9)実操業で行われる程度の不可避不純物を含有しても、諸特性に大きな影響を与えないことが確認できた(合金No.S01、S02、S03)。本実施形態の境界値付近の組成であるが、不可避不純物の好ましい範囲を超えるFe、またはCrを含有すると、FeとSiの金属間化合物、或は、FeとPの金属間化合物を形成していると考えられ、その結果、有効に働くSi濃度、P濃度が減少し、κ1相の量が少なくなり、耐食性が少し悪くなり、強度が少し低くなった。金属間化合物の形成と相まって被削性能、衝撃特性、冷間加工性が少し低くなった(合金No.S01、S13、S14、S117)。
10)組成関係式f1の値が低いと、γ相が多くなり、β相が出現することもあり、被削性は、良好であったが、耐食性、衝撃特性、冷間加工性、高温特性が悪くなった。組成関係式f1の値が高いと、κ相が多くなり、μ相が出現する場合もあり、被削性、冷間加工性、熱間加工性、衝撃特性が悪くなった(合金No.S103、S104、S112)。
11)組成関係式f2の値が低いと、γ相の量が多くなり、場合によってはβ相が出現し、被削性は、良好であったが、熱間加工性、耐食性、延性、衝撃特性、冷間加工性、高温特性が悪くなった。特に、合金No.S109は、f2を除きすべての組成の要件を満たしているが、熱間加工性、耐食性、延性、衝撃特性、冷間加工性、高温特性が悪かった。組成関係式f2の値が高いと、Si含有量にも拘らず、κ1相が十分に存在しないか、または少ないために、引張強さが低く、熱間加工性が悪かった。そして粗大なα相の形成とκ1相の量が少ないことが主原因と推測されるが、切削抵抗が高く、切屑の分断性も悪かった。特に、合金No.S105〜S107は、f2を除きすべての組成の要件、関係式f3〜f6の大部分を満たしているが、引張強さが低く、被削性が悪かった(合金No.S109、S105〜S107)。
12)金属組織において、γ相の割合が0.3%より多いと、または、γ相の長辺の長さが25μmより長いと、被削性は良好であったが、強度が低く、耐食性、延性、冷間加工性、衝撃特性、高温特性が悪くなった(合金No.S101、S102)。γ相の割合が、0.1%以下、さらには、0%であると、耐食性、衝撃特性、冷間加工性、常温および高温強度が良くなった(合金No.S01、S02、S03)。
μ相の面積率が1.0%より多い場合、または、μ相の長辺の長さが20μmを超える場合、耐食性、延性、衝撃特性、冷間加工性、高温特性が悪くなった(合金No.S01、工程No.AH4、BH2、DH2)。μ相の割合が、0.5%以下で、かつμ相の長辺の長さが15μm以下であると、耐食性、延性、衝撃特性、常温および高温特性が良くなった(合金No.S01、S11)。
κ相の面積率が60%より多いと、被削性、延性、曲げ加工性、衝撃特性が悪くなった。一方、κ相の面積率が29%より少ないと、引張強さが低く、被削性が悪かった(合金No.S104、S113)。
13)組織関係式f5=(γ)+(μ)が1.2%を超える場合、またはf3=(α)+(κ)が98.6%より小さい場合、耐食性、延性、衝撃特性、曲げ加工性、常温および高温特性が悪くなった。組織関係式f5が、0.5%以下であると耐食性、延性、衝撃特性、常温および高温特性がよくなった(合金No.S01、工程No.AH2、FH1、A1、F1)。
組織関係式f6=(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)が62より大きいか、又は30より小さいと、被削性が悪かった。なお、同じ組成を有し、かつ異なるプロセスで製造された合金において、f6の値が同じか、または高い場合であっても、κ1相の量が少ないと、切削抵抗は高いか、または同等であり、切屑の分断性が悪くなる場合もあった(合金No.S01、S02、S104、S113、工程No.A1、AH5〜AH7、AH9〜AH11)。
14)組成の要件、金属組織の要件をすべて満たし、冷間加工が施されていない熱間押出材や鍛造材では、Uノッチのシャルピー衝撃試験値が15J/cm以上であり、殆どが16J/cm以上であった。引張強さは、すべて550N/mm以上であり、多くは580N/mm以上であった。κ相が約33%以上であり、κ1相が多く存在すると、引張強さは、約590N/mm以上であり、620N/mm以上の熱間鍛造品もあった。そして、強度・伸びのバランス指数f8は675以上であり、多くは690以上であった。強度・伸び・衝撃のバランス指数f9は、700を超え、多くは715を超え、強度と延性のバランスが取れていた(合金No.S01、S02、S03、S23、S27)。
15)組成の要件、金属組織の要件をすべて満たしておれば、冷間加工との組み合わせで、Uノッチのシャルピー衝撃試験値が12J/cm以上を確保し、引張強さは、600N/mm以上で高い強度を示し、バランス指数f8は、690以上、多くは700以上であり、f9は、715以上、多くは725以上であった(合金No.S01、S03、工程No.A1、A10〜A12)。
16)引張強さと硬さの関係において、合金No.S01、S03、S101の組成に対して工程No.F1を施して作製された合金では、引張強さが602N/mm、625N/mm、534N/mmであり、硬さHRBは各々、84、88、68であった。
17)Si量が、約3.05%以上で、α相内に針状のκ1相が存在し始め(△)、Si量が、約3.15%以上で、κ1相が大幅に増えた(○)。関係式f2は、κ1相の量に影響を与え、f2が61.0以下であるとκ1相が増えた。
κ1相の量が増えると、被削性、引張強さ、高温特性、強度・伸び・衝撃のバランスが良くなった。α相の強化や被削性の向上が主因と推測される(合金No.S01、S02、S26、S29等)。
18)ISO6509の試験方法では、β相を約1%以上、またはγ相を約5%以上含む合金は不合格(評価:△、×)であったが、γ相を約3%含有するか、μ相を約3%含む合金は合格(評価:○)であった。本実施形態で採用した腐食環境は、厳しい環境を想定したものであることの裏付けである(合金No.S01、S26、S103、S109等)。
19)量産設備を用いた材料と実験室で作製した材料の評価では、ほぼ同じ結果が得られた(合金No,S01、S02、工程No.C1、E1、F1)。
20)製造条件について:
熱間押出材、押出・抽伸された材料、熱間鍛造材を、525℃以上、575℃以下の温度領域内で15分以上保持するか、或いは、505℃以上525℃未満の温度で100分以上保持するか、または、連続炉において、525℃以上575℃以下の温度で、3℃/分以下の冷却速度で冷却し、次いで、450℃から400℃の温度領域を3℃/分以上の冷却速度で冷却すると、γ相が大幅に減少し、μ相のほとんど存在しない、耐食性、延性、高温特性、衝撃特性、冷間加工性、機械的強度の優れた材料が得られた(工程No.A1、A5、A8)。
熱間加工材、および冷間加工材を熱処理する工程において、熱処理の温度が低い(490℃)か、または505℃以上525℃未満の温度での熱処理で保持時間が短いと、γ相の減少が少なく、κ1相の量が少なく、耐食性、衝撃特性、延性、冷間加工性、高温特性、強度・延性・衝撃バランスが悪かった(工程No.AH6、AH9、DH6)。熱処理の温度が高いとα相の結晶粒が粗大化し、κ1相が少なく、γ相の減少が少なかったため、耐食性、冷間加工性が悪く、被削性にも劣り、引張強さも低く、f8、f9も低かった(工程No.AH11、AH6)。
熱間鍛造材、押出材を515℃または520℃の温度で、120分以上の長時間で熱処理を行うと、γ相は大幅に減少し、κ1相の量も多く、伸びや衝撃値の低下を最小限に留め、引張強さが高くなり、高温特性、f8、f9も向上するので、耐圧性能の求められるバルブ用途に最適である(工程No.A5、D4、F2)。
熱処理後の冷却で、450℃から400℃までの温度領域での冷却速度が遅いとμ相が存在し、耐食性、衝撃特性、延性、高温特性が悪く、引張強さも低かった(工程No.A1〜A4、AH8、DH2、DH3)。
熱処理方法として、525℃〜620℃に一旦温度を上げ、冷却過程で575℃から525℃までの温度領域での冷却速度を遅くすることにより、γ相が大幅に減少するか、或いは0%になり、良好な耐食性、衝撃特性、冷間加工性、高温特性が得られた。連続熱処理方法でも特性が改善することを確認できた(工程No.A7〜A9、D5)。
熱間鍛造後、熱間押出後の冷却で、575℃から525℃の温度領域での冷却速度を、1.6℃/分にコントロールすることにより、熱間鍛造後のγ相の占める割合が少ない鍛造品が得られた(工程No.D6)。また、熱間鍛造素材として鋳物を使用しても、押出材の使用と同様、良好な諸特性が得られた(工程No.F4、F5)。鋳物を適切な条件で熱処理すると、γ相の占める割合が少ない鋳物が得られた(工程No.P1〜P3)。
熱間圧延材を適切な条件で熱処理すると、γ相の占める割合が少ない圧延材が得られた(工程No.R1)。
押出材に対して加工率が約5%、約8%の冷間加工を施した後、所定の熱処理を行うと、熱間押出材に比べ、耐食性、衝撃特性、高温特性、引張強さが向上し、特に引張強さは、約60N/mm、約70N/mm高くなり、バランス指数f8、f9も約70〜約80向上した(工程No.AH1、A1、A12)。
熱処理材を冷間加工率5%で加工すると、押出材に比べ、引張強さは、約90N/mm高くなり、f8、f9は、約100向上し、耐食性、高温特性も向上した。冷間加工率を約8%にすると、引張強さは約120N/mm高くなり、f8、f9は、約120向上した(工程No.AH1、A10、A11)。
適切な熱処理を施すと、α相中に針状のκ相が存在するようになった(工程No.A1、D7、C1、E1、F1)。κ1相が存在することにより、引張強さが向上し、被削性も良好で、γ相の大幅な減少を補えたと推測される。
冷間加工後、或は、熱間加工後、低温焼鈍する場合は、240℃以上350℃以下の温度で10分から300分加熱し、加熱温度をT℃、加熱時間をt分とする時、150≦(T−220)×(t)1/2≦1200の条件で熱処理すると、過酷な環境下での優れた耐食性を備え、良好な衝撃特性、高温特性を持ち合せる冷間加工材、熱間加工材が得られることが確認できた(合金No.S01、工程No.B1〜B3)。
合金No.S01、S02に対して工程No.AH14を施した試料においては、変形抵抗が高いために、最後まで押出することができなかったので、その後の評価を中止した。
工程No.BH1においては、矯正が不十分で低温焼鈍が不適であり、品質上問題が生じた。
以上のことから、本実施形態の合金のように、各添加元素の含有量および各組成関係式、金属組織、各組織関係式が適正な範囲にある本実施形態の合金は、熱間加工性(熱間押出、熱間鍛造)に優れ、耐食性、被削性も良好である。また、本実施形態の合金において優れた特性を得るためには、熱間押出および熱間鍛造での製造条件、熱処理での条件を適正範囲とすることで達成できる。
本実施形態の快削性銅合金は、熱間加工性(熱間押出性および熱間鍛造性)に優れ、被削性、高強度で、伸び、衝撃特性とのバランス、高温特性、耐食性に優れる。このため、本実施形態の快削性銅合金は、給水栓、バルブ、継手などの人や動物が毎日摂取する飲料水に使用される器具、バルブ、継手などの電気・自動車・機械・工業用配管部材、常温、高温、低温で高圧ガス、液体と接触するバルブ、継手、器具、部品、水素と接触するバルブ、継手、器具、部品に好適である。
具体的には、飲料水、排水、工業用水が流れる、給水栓金具、混合水栓金具、排水金具、水栓ボディー、給湯機部品、エコキュート部品、ホース金具、スプリンクラー、水道メーター、止水栓、消火栓、ホースニップル、給排水コック、ポンプ、ヘッダー、減圧弁、弁座、仕切り弁、弁、弁棒、ユニオン、フランジ、分岐栓、水栓バルブ、ボールバルブ、各種バルブ、配管継手、例えばエルボ、ソケット、チーズ、ベンド、コネクタ、アダプター、ティー、ジョイントなどの名称で使用されているものの構成材等として好適に適用できる。
また、自動車部品として用いられる、ソレノイドバルブ、コントロールバルブ、各種バルブ、ラジエータ部品、オイルクーラー部品、シリンダ、機械用部材として、配管継手、バルブ、弁棒、熱交換器部品、給排水コック、シリンダ、ポンプ、工業用配管部材として、配管継手、バルブ、弁棒などに好適に適用できる。
さらに水素ステーション、水素発電など、水素に係るバルブ、継手、耐圧容器、圧力容器などに好適に適用できる。
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の第1の態様である高強度快削性銅合金は、75.4mass%以上78.0mass%以下のCuと、3.05mass%以上3.55mass%以下のSiと、0.05mass%以上0.13mass%以下のPと、0.005mass%以上0.070mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であり、
不可避不純物として存在するSnの含有量が0.05mass%以下、Alの含有量が0.05mass%以下で、SnとAlの合計含有量が0.06mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
78.0≦f1=[Cu]+0.8×[Si]+[P]+[Pb]≦80.8、
60.2≦f2=[Cu]−4.7×[Si]−[P]+0.5×[Pb]≦61.5、
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
29≦(κ)≦60、
0≦(γ)≦0.3、
(β)=0、
0≦(μ)≦1.0、
98.6≦f3=(α)+(κ)、
99.7≦f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
0≦f5=(γ)+(μ)≦1.2、
30≦f6=(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦62、
の関係を有するとともに、
γ相の長辺の長さが25μm以下であり、μ相の長辺の長さが20μm以下であり、α相内に針状のκ相が存在していることを特徴とする。
本発明の第3態様である高強度快削性銅合金は、75.6mass%以上77.8mass%以下のCuと、3.15mass%以上3.5mass%以下のSiと、0.06mass%以上0.12mass%以下のPと、0.006mass%以上0.045mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であり、
不可避不純物として存在するSnの含有量が0.03mass%以下、Alの含有量が0.03mass%以下で、SnとAlの合計含有量が0.04mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
78.5≦f1=[Cu]+0.8×[Si]+[P]+[Pb]≦80.5、
60.4≦f2=[Cu]−4.7×[Si]−[P]+0.5×[Pb]≦61.3、
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
33≦(κ)≦58、
(γ)=0、
(β)=0、
0≦(μ)≦0.5、
99.3≦f3=(α)+(κ)、
99.8≦f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
0≦f5=(γ)+(μ)≦0.5、
33≦f6=(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦58、
の関係を有するとともに、
α相内に針状のκ相が存在しており、μ相の長辺の長さが15μm以下であることを特徴とする。
本発明の第5の態様である高強度快削性銅合金は、本発明の第1〜4の態様のいずれかの高強度快削性銅合金において、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値が12J/cm以上50J/cm以下、常温での引張強さが550N/mm以上であり、かつ室温での0.2%耐力に相当する荷重を負荷した状態で150℃で100時間保持した後のクリープひずみが0.3%以下であることを特徴とする。
なお、シャルピー衝撃試験値は、Uノッチ形状の試験片での値である。
本発明の第6の態様である高強度快削性銅合金は、本発明の第1〜4の態様のいずれかの高強度快削性銅合金において、熱間加工材であり、引張強さS(N/mm)が550N/mm以上、伸びE(%)が12%以上、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値I(J/cm)が12J/cm以上であり、かつ
675≦f8=S×{(E+100)/100}1/2、または
700≦f9=S×{(E+100)/100}1/2+Iであることを特徴とする。
本発明の第7の態様である高強度快削性銅合金は、本発明の第1〜6の態様のいずれかの高強度快削性銅合金において、水道用器具、工業用配管部材、液体、ガスと接触する器具、圧力容器・継手、自動車用部品、又は電気製品部品に用いられることを特徴とする。
本発明の第8の態様である高強度快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜7の態様のいずれかの高強度快削性銅合金の製造方法であって、
冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を加熱、冷却し、
(1)525℃以上575℃以下の温度で15分から8時間保持するか、
(2)505℃以上525℃未満の温度で、100分から8時間保持するか、又は、
(3)最高到達温度が525℃以上620℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域を15分以上保持するか、又は
(4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
次いで、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする。
本発明の第9の態様である高強度快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜5の態様のいずれかの高強度快削性銅合金の製造方法であって、
鋳造工程と、前記鋳造工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を加熱、冷却し、
(1)525℃以上575℃以下の温度で15分から8時間保持するか、
(2)505℃以上525℃未満の温度で、100分から8時間保持するか、
(3)最高到達温度が525℃以上620℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域を15分以上保持するか、又は
(4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
次いで、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却する。
本発明の第10の態様である高強度快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜7の態様のいずれかの高強度快削性銅合金の製造方法であって、
熱間加工工程を含み、
熱間加工される時の材料温度が、600℃以上、740℃以下であり、
熱間での塑性加工後の冷却過程において、575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする。
本発明の第11の態様である高強度快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜7の態様のいずれかの高強度快削性銅合金の製造方法であって、
冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程後に実施する低温焼鈍工程と、を有し、
前記低温焼鈍工程においては、材料温度を240℃以上350℃以下の範囲とし、加熱時間を10分以上300分以下の範囲とし、材料温度をT℃、加熱時間をt分としたとき、150≦(T−220)×(t)1/2≦1200の条件とすることを特徴とする。

Claims (12)

  1. 75.4mass%以上78.0mass%以下のCuと、3.05mass%以上3.55mass%以下のSiと、0.05mass%以上0.13mass%以下のPと、0.005mass%以上0.070mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
    不可避不純物として存在するSnの含有量が0.05mass%以下、Alの含有量が0.05mass%以下で、SnとAlの合計含有量が0.06mass%以下であり、
    Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
    78.0≦f1=[Cu]+0.8×[Si]+[P]+[Pb]≦80.8、
    60.2≦f2=[Cu]−4.7×[Si]−[P]+0.5×[Pb]≦61.5、
    の関係を有するとともに、
    金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
    29≦(κ)≦60、
    0≦(γ)≦0.3、
    (β)=0、
    0≦(μ)≦1.0、
    98.6≦f3=(α)+(κ)、
    99.7≦f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
    0≦f5=(γ)+(μ)≦1.2、
    30≦f6=(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦62、
    の関係を有するとともに、
    γ相の長辺の長さが25μm以下であり、μ相の長辺の長さが20μm以下であり、α相内にκ相が存在していることを特徴とする高強度快削性銅合金。
  2. さらに、0.01mass%以上0.07mass%以下のSb、0.02mass%以上0.07mass%以下のAs、0.005mass%以上0.10mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度快削性銅合金。
  3. 75.6mass%以上77.8mass%以下のCuと、3.15mass%以上3.5mass%以下のSiと、0.06mass%以上0.12mass%以下のPと、0.006mass%以上0.045mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
    不可避不純物として存在するSnの含有量が0.03mass%以下、Alの含有量が0.03mass%以下で、SnとAlの合計含有量が0.04mass%以下であり、
    Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
    78.5≦f1=[Cu]+0.8×[Si]+[P]+[Pb]≦80.5、
    60.4≦f2=[Cu]−4.7×[Si]−[P]+0.5×[Pb]≦61.3、
    の関係を有するとともに、
    金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
    33≦(κ)≦58、
    (γ)=0、
    (β)=0、
    0≦(μ)≦0.5、
    99.3≦f3=(α)+(κ)、
    99.8≦f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
    0≦f5=(γ)+(μ)≦0.5、
    33≦f6=(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦58、
    の関係を有するとともに、
    α相内にκ相が存在しており、μ相の長辺の長さが15μm以下であることを特徴とする高強度快削性銅合金。
  4. さらに、0.012mass%以上0.05mass%以下のSb、0.025mass%以上0.05mass%以下のAs、0.006mass%以上0.05mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有し、かつSb、As、Biの合計含有量が0.09mass%以下であることを特徴とする請求項3に記載の高強度快削性銅合金。
  5. 前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高強度快削性銅合金。
  6. Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値が12J/cm以上50J/cm以下、常温での引張強さが550N/mm以上であり、かつ室温での0.2%耐力に相当する荷重を負荷した状態で150℃で100時間保持した後のクリープひずみが0.3%以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高強度快削性銅合金。
  7. 熱間加工材であり、引張強さS(N/mm)が550N/mm以上、伸びE(%)が12%以上、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値I(J/cm)が12J/cm以上であり、かつ
    675≦f8=S×{(E+100)/100}1/2、または
    700≦f9=S×{(E+100)/100}1/2+Iであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項高強度快削性銅合金。
  8. 水道用器具、工業用配管部材、液体、ガスと接触する器具、圧力容器・継手、自動車用部品、又は電気製品部品に用いられることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の高強度快削性銅合金。
  9. 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載された高強度快削性銅合金の製造方法であって、
    冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
    前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を加熱、冷却し、
    (1)525℃以上575℃以下の温度で15分から8時間保持するか、
    (2)505℃以上525℃未満の温度で、100分から8時間保持するか、又は、
    (3)最高到達温度が525℃以上620℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域を15分以上保持するか、又は
    (4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
    次いで、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする高強度快削性銅合金の製造方法。
  10. 請求項1から請求項6のいずれか一項に記載された高強度快削性銅合金の製造方法であって、
    鋳造工程と、前記鋳造工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
    前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を加熱、冷却し、
    (1)525℃以上575℃以下の温度で15分から8時間保持するか、
    (2)505℃以上525℃未満の温度で、100分から8時間保持するか、
    (3)最高到達温度が525℃以上620℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域を15分以上保持するか、又は
    (4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
    次いで、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする高強度快削性銅合金の製造方法。
  11. 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載された高強度快削性銅合金の製造方法であって、
    熱間加工工程を含み、
    熱間加工される時の材料温度が、600℃以上、740℃以下であり、
    熱間での塑性加工後の冷却過程において、575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、3℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、450℃から400℃までの温度領域を3℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする高強度快削性銅合金の製造方法。
  12. 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載された高強度快削性銅合金の製造方法であって、
    冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程後に実施する低温焼鈍工程と、を有し、
    前記低温焼鈍工程においては、材料温度を240℃以上350℃以下の範囲とし、加熱時間を10分以上300分以下の範囲とし、材料温度をT℃、加熱時間をt分としたとき、150≦(T−220)×(t)1/2≦1200の条件とすることを特徴とする高強度快削性銅合金の製造方法。
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