JP6448166B1 - 快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法 - Google Patents

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Abstract

この快削性銅合金は、Cu:76.0〜78.7%、Si:3.1〜3.6%、Sn:0.40〜0.85%、P:0.05〜0.14%、Pb:0.005%以上0.020%未満を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、組成は以下の関係を満たし、
75.0≦f1=Cu+0.8×Si−7.5×Sn+P+0.5×Pb≦78.2
60.0≦f2=Cu−4.8×Si−0.8×Sn−P+0.5×Pb≦61.5
0.09≦f3=P/Sn≦0.30
構成相の面積率(%)は以下の関係を満たし、
30≦κ≦65、0≦γ≦2.0、0≦β≦0.3、0≦μ≦2.0、96.5≦f4=α+κ、99.4≦f5=α+κ+γ+μ、0≦f6=γ+μ≦3.0、35≦f7=1.05×κ+6×γ1/2+0.5×μ≦70
α相内にκ相が存在し、γ相の長辺が50μm以下、μ相の長辺が25μm以下である。

Description

本発明は、優れた耐食性、高い強度、高温強度、良好な延性および衝撃特性を備えるとともに、鉛の含有量を大幅に減少させた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法に関する。特に、給水栓、バルブ、継手などの人や動物が毎日摂取する飲料水に使用される器具、さらには、高速の流体が流れる厳しい環境で使用されるバルブ、継手などの電気・自動車・機械・工業用配管に用いられる快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法に関連している。
本願は、2017年8月15日に、出願された国際出願PCT/JP2017/29369、PCT/JP2017/29371、PCT/JP2017/29373、PCT/JP2017/29374、PCT/JP2017/29376に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
従来から、飲料水の器具類を始め、バルブ、継手、圧力容器など電気・自動車・機械・工業用配管に使用されている銅合金として、56〜65mass%のCuと、1〜4mass%のPbを含有し、残部がZnとされたCu−Zn−Pb合金(いわゆる快削黄銅)、あるいは、80〜88mass%のCuと、2〜8mass%のSn、2〜8mass%のPbを含有し、残部がZnとされたCu−Sn−Zn−Pb合金(いわゆる青銅:ガンメタル)が一般的に使用されていた。
しかしながら、近年では、Pbの人体や環境に与える影響が懸念されるようになり、各国でPbに関する規制の動きが活発化している。例えば、米国カリフォルニア州では、2010年1月より、また、全米においては、2014年1月より、飲料水器具等に含まれるPb含有量を0.25mass%以下とする規制が発効されている。また、飲料水類へ浸出するPbの浸出量についても、将来、幼児等への影響を鑑み、0.05mass%程度までの規制がなされるであろうと言われている。米国以外の国においても、その規制の動きは急速であり、Pb含有量の規制に対応し、さらにはより一層Pb含有量を減少させた銅合金材料の開発が求められている。
また、その他の産業分野、自動車、機械や電気・電子機器の分野においても、例えば、欧州のELV指令、RoHS指令では、快削性銅合金のPb含有量が例外的に4mass%まで認められているが、飲料水の分野と同様に、例外の撤廃を含め、Pb含有量の規制強化が活発に議論されている。
このような快削性銅合金のPb規制強化の動向の中、Pbの代わりに被削性機能を有するBi及びSeを含有する銅合金、あるいは、CuとZnの合金においてβ相を増やして被削性の向上を図った高濃度のZnを含有する銅合金などが提唱されている。
例えば、特許文献1においては、Pbの代わりにBiを含有させるだけでは耐食性が不十分であるとし、β相を減少させてβ相を孤立させるために、熱間押出後の熱間押出棒を180℃になるまで徐冷し、さらには、熱処理を施すことを提案している。
また、特許文献2においては、Cu−Zn−Bi合金に、Snを0.7〜2.5mass%添加してCu−Zn−Sn合金のγ相を析出させることにより、耐食性の改善を図っている。
しかしながら、特許文献1に示すように、Pbの代わりにBiを含有させた合金は、耐食性に問題がある。そして、Biは、Pbと同様に人体に有害であるおそれがあること、希少金属であるので資源上の問題があること、銅合金材料を脆くする問題などを含め、多くの問題を有している。さらに、特許文献1、2で提案されているように、熱間押出後の徐冷、或いは熱処理により、β相を孤立させて耐食性を高めたとしても、到底、厳しい環境下での耐食性の改善には繋がらない。
また、特許文献2に示すように、Cu−Zn−Sn合金のγ相を析出させたとしても、このγ相は、元来、α相に比べ耐食性に乏しく、到底、厳しい環境下での耐食性の改善には繋がらない。また、Cu−Zn−Sn合金では、Snを含有させたγ相は、被削性機能を持つBiを共に添加することを必要としているように、被削性機能に劣る。
一方、高濃度のZnを含有する銅合金については、β相は、Pbに比べ被削性の機能が劣るので、到底、Pbを含有する快削性銅合金の代替にはなりえないばかりか、β相を多く含むので、耐食性、特に耐脱亜鉛腐食性、耐応力腐食割れ性がすこぶる悪い。また、これら銅合金は、高温(例えば150℃)での強度が低いため、例えば、炎天下でかつエンジンルームに近い高温下で使用される自動車部品や、高温・高圧下で使用される配管などにおいては、薄肉、軽量化に応えられない。
さらに、Biは銅合金を脆くし、β相を多く含むと延性が低下するので、Biを含有する銅合金、または、β相を多く含む銅合金は、自動車、機械、電気用部品として、また、バルブを始めとする飲料水器具材料としては、不適切である。なお、Cu−Zn合金にSnを含有させたγ相を含む黄銅についても、応力腐食割れを改善できず、常温および高温での強度が低く、衝撃特性が悪いため、これらの用途での使用は不適切である。
他方、快削性銅合金として、Pbの代わりにSiを含有したCu−Zn−Si合金が、例えば特許文献3〜9に提案されている。
特許文献3,4においては、主としてγ相の優れた被削性機能を有することにより、Pbを含有させずに、又は、少量のPbの含有で、優れた切削性を実現させたものである。Snは、0.3mass%以上の含有により、被削性機能を有するγ相の形成を増大、促進させ、被削性を改善させる。また、特許文献3,4においては、多くのγ相の形成により、耐食性の向上を図っている。
また、特許文献5においては、0.02mass%以下の少量のPbを含有させ、単純にγ相とκ相の合計含有面積を規定することにより、優れた快削性を得るものとしている。ここで、Snは、γ相の形成及び増大化に働き、耐エロージョンコロージョン性を改善させるとしている。
さらに、特許文献6,7においては、Cu−Zn−Si合金の鋳物製品が提案されており、鋳物の結晶粒の微細化を図るために、PとZrを極微量含有させており、P/Zrの比率等が重要としている。
また、特許文献8には、Cu−Zn−Si合金にFeを含有させた銅合金が提案されている。
さらに、特許文献9には、Cu−Zn−Si合金にSn,Fe,Co,Ni,Mnを含有させた銅合金が提案されている。
ここで、上述のCu−Zn−Si合金においては、特許文献10及び非特許文献1に記載されているように、Cu濃度が60mass%以上、Zn濃度が30mass%以下、Si濃度が10mass%以下の組成に絞っても、マトリックスα相の他に、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10種類の金属相、場合によっては、α’、β’、γ’を含めると13種類の金属相が存在することが知られている。さらに、添加元素が増えると、金属組織はより複雑になることや、新たな相や金属間化合物が出現する可能性があること、また、平衡状態図から得られる合金と実生産されている合金では、存在する金属相の構成に大きなずれが生じることが経験上よく知られている。さらに、これらの相の組成は、銅合金のCu、Zn、Si等の濃度、および、加工熱履歴によっても、変化することがよく知られている。
ところで、γ相は優れた被削性能を有するが、Si濃度が高く、硬くて脆いため、γ相を多く含むと、厳しい環境下での耐食性、延性、衝撃特性、高温強度(高温クリープ)等に問題を生じる。このため、多量のγ相を含むCu−Zn−Si合金についても、Biを含有する銅合金やβ相を多く含む銅合金と同様に、その使用に制約を受ける。
なお、特許文献3〜7に記載されているCu−Zn−Si合金は、ISO−6509に基づく脱亜鉛腐食試験では、比較的良好な結果を示す。しかしながら、ISO−6509に基づく脱亜鉛腐食試験では、一般的な水質での耐脱亜鉛腐食性の良否を判定するために、実際の水質とは全く異なる塩化第二銅の試薬を用い、24時間という短時間で評価しているに過ぎない。すなわち、実環境と異なった試薬を用い、短時間で評価しているため、厳しい環境下での耐食性を十分に評価できていない。
また、特許文献8においては、Cu−Zn−Si合金にFeを含有させることを提案している。ところが、FeとSiは、γ相より硬く脆いFe−Siの金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、切削加工時には切削工具の寿命を短くし、研磨時にはハードスポットが形成され外観上の不具合が生じるなど問題がある。また、添加元素であるSiを金属間化合物として消費することから、合金の性能を低下させてしまう。
さらに、特許文献9においては、Cu−Zn−Si合金に、SnとFe、Co、Mnを添加しているが、Fe,Co,Mnは、いずれもSiと化合して硬くて脆い金属間化合物を生成する。このため、特許文献8と同様に、切削や研磨時に問題を生じさせる。さらに、特許文献9によれば、Sn,Mnを含有させることによりβ相を形成させているが、β相は、深刻な脱亜鉛腐食を生じさせ、応力腐食割れの感受性を高める。
特開2008−214760号公報 国際公開第2008/081947号 特開2000−119775号公報 特開2000−119774号公報 国際公開第2007/034571号 国際公開第2006/016442号 国際公開第2006/016624号 特表2016−511792号公報 特開2004−263301号公報 米国特許第4,055,445号明細書 国際公開第2012/057055号 特開2013−104071号公報
美馬源次郎、長谷川正治、伸銅技術研究会誌、2(1963),62〜77頁
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、厳しい水質環境下、流速の早い流体での耐食性、衝撃特性、延性、常温および高温強度に優れた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法を提供することを課題とする。なお、本明細書において、特に断りのない限り、耐食性とは、耐脱亜鉛腐食性を指す。また、熱間加工材とは、熱間押出材、熱間鍛造材、熱間圧延材を指す。高温特性とは、約150℃(100℃〜250℃)における、高温クリープ、引張強さを指す。冷却速度とは、ある温度範囲での平均冷却速度を指す。
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の第1の態様である快削性銅合金は、76.0mass%以上78.7mass%以下のCuと、3.1mass%以上3.6mass%以下のSiと、0.40mass%以上0.85mass%以下のSnと、0.05mass%以上0.14mass%以下のPと、0.005mass%以上0.020mass%未満のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Snの含有量を[Sn]mass%、Pの含有量を[P]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%とした場合に、
75.0≦f1=[Cu]+0.8×[Si]−7.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]≦78.2、
60.0≦f2=[Cu]−4.8×[Si]−0.8×[Sn]−[P]+0.5×[Pb]≦61.5、
0.09≦f3=[P]/[Sn]≦0.30、
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
30≦(κ)≦65、
0≦(γ)≦2.0、
0≦(β)≦0.3、
0≦(μ)≦2.0、
96.5≦f4=(α)+(κ)、
99.4≦f5=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
0≦f6=(γ)+(μ)≦3.0、
35≦f7=1.05×(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦70、
の関係を有するとともに、
α相内に針状のκ相が存在しており、γ相の長辺の長さが40μm以下であり、μ相の長辺の長さが15μm以下であることを特徴とする。
本発明の第2の態様である快削性銅合金は、本発明の第1の態様の快削性銅合金において、さらに、0.01mass%以上0.08mass%以下のSb、0.02mass%以上0.08mass%以下のAs、0.01mass%以上0.10mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有することを特徴とする。
発明の第3態様である快削性銅合金は、76.5mass%以上78.3mass%以下のCuと、3.15mass%以上3.5mass%以下のSiと、0.45mass%以上0.77mass%以下のSnと、0.06mass%以上0.13mass%以下のPと、0.006mass%以上0.018mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Snの含有量を[Sn]mass%、Pの含有量を[P]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%とした場合に、
75.5≦f1=[Cu]+0.8×[Si]−7.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]≦77.7、
60.2≦f2=[Cu]−4.8×[Si]−0.8×[Sn]−[P]+0.5×[Pb]≦61.3、
0.10≦f3=[P]/[Sn]≦0.27
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
33≦(κ)≦60、
0≦(γ)≦1.5、
0≦(β)≦0.1、
0≦(μ)≦1.0、
97.5≦f4=(α)+(κ)、
99.6≦f5=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
0≦f6=(γ)+(μ)≦2.0、
38≦f7=1.05×(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦65、
の関係を有するとともに、
α相内に針状のκ相が存在しており、γ相の長辺の長さが40μm以下であり、μ相の長辺の長さが15μm以下であることを特徴とする。
本発明の第4の態様である快削性銅合金は、本発明の第1〜3の態様のいずれかの快削性銅合金において、κ相に含有されるSnの量が0.43mass%以上0.90mass%以下であり、κ相に含有されるPの量が0.06mass%以上0.22mass%以下であることを特徴とする。
本発明の第5の態様である快削性銅合金は、本発明の第1〜4の態様のいずれかの快削性銅合金において、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値が12J/cm以上45J/cm以下であり、かつ室温での0.2%耐力に相当する荷重を負荷した状態で、150℃で100時間保持した後のクリープひずみが0.4%以下であることを特徴とする。
なお、シャルピー衝撃試験値は、Uノッチ形状の試験片での値である。
本発明の第6の態様である快削性銅合金は、本発明の第1〜4の態様のいずれかの快削性銅合金において、熱間加工材であり、引張強さS(N/mm)が550N/mm以上、伸びE(%)が12%以上、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値I(J/cm)が12J/cm以上45J/cm以下であり、かつ
650≦f8=S×{(E+100)/100}1/2、または
665≦f9=S×{(E+100)/100}1/2+Iであることを特徴とする。
本発明の第7の態様である快削性銅合金は、本発明の第1〜6の態様のいずれかの快削性銅合金において、水道用器具、工業用配管部材、液体と接触する器具、圧力容器、および継手、又は液体と接触する自動車用部品および電気製品部品に用いられることを特徴とする。
本発明の第8の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜7の態様のいずれかの快削性銅合金の製造方法であって、
冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を保持し、
(1)525℃以上575℃以下の温度で20分から8時間保持するか、
(2)515℃以上525℃未満の温度で100分から8時間保持するか、
(3)最高到達温度が525℃以上610℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域で20分以上保持するか、又は
(4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、2.5℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
次いで、460℃から400℃までの温度領域を2.5℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする。
本発明の第9の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜5の態様のいずれかの快削性銅合金の製造方法であって、
鋳造工程と、前記鋳物工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を保持し、
(1)525℃以上575℃以下の温度で20分から8時間保持するか、
(2)515℃以上525℃未満の温度で100分から8時間保持するか、
(3)最高到達温度が525℃以上610℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域で20分以上保持するか、又は
(4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、2.5℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
次いで、460℃から400℃までの温度領域を2.5℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする。
本発明の第10の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜7の態様のいずれかの快削性銅合金の製造方法であって、
熱間加工工程を含み、熱間加工される時の材料温度が、600℃以上、740℃以下であり、
熱間での塑性加工後の冷却過程において、575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、2.5℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、460℃から400℃までの温度領域を2.5℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする。
本発明の第11の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜7の態様のいずれかの快削性銅合金の製造方法であって、
冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程の後に実施する低温焼鈍工程と、を有し、
前記低温焼鈍工程においては、材料温度を240℃以上350℃以下の範囲とし、加熱時間を10分以上300分以下の範囲とし、材料温度をT℃、加熱時間をt分としたとき、150≦(T−220)×(t)1/2≦1200の条件とすることを特徴とする。
本発明の態様によれば、被削性機能に優れるが耐食性、延性、衝撃特性、高温強度(高温クリープ)に劣るγ相を極力少なくし、かつ、被削性に有効なμ相も限りなく少なくし、かつ強度、被削性、延性、耐食性に有効なκ相がα相内に存在した金属組織を規定している。更に、この金属組織を得るための組成、製造方法を規定している。このため、本発明の態様により、被削性、高速の流体を含む厳しい環境下での耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、常温の強度、高温強度、耐摩耗性に優れた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法を提供することができる。
実施例1における快削性銅合金(試験No.T05)の組織の電子顕微鏡写真である。 実施例1における快削性銅合金(試験No.T03)の組織の金属顕微鏡写真である。 実施例1における快削性銅合金(試験No.T03)の組織の電子顕微鏡写真である。 実施例2における試験No.T401の8年間過酷な水環境下で使用された後の断面の金属顕微鏡写真である。 実施例2における試験No.T402の脱亜鉛腐食試験1の後の断面の金属顕微鏡写真である。 実施例2における試験No.T63の脱亜鉛腐食試験1の後の断面の金属顕微鏡写真である。
以下に、本発明の実施形態に係る快削性銅合金及び快削性銅合金の製造方法について説明する。
本実施形態である快削性銅合金は、給水栓、バルブ、継手などの人や動物が毎日摂取する飲料水に使用される器具、バルブ、継手などの電気・自動車・機械・工業用配管部材、液体と接触する器具、部品、圧力容器・継手として用いられるものである。
ここで、本明細書では、[Zn]のように括弧の付いた元素記号は当該元素の含有量(mass%)を示すものとする。
そして、本実施形態では、この含有量の表示方法を用いて、以下のように、複数の組成関係式を規定している。
組成関係式f1=[Cu]+0.8×[Si]−7.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]
組成関係式f2=[Cu]−4.8×[Si]−0.8×[Sn]−[P]+0.5×[Pb]
組成関係式f3=[P]/[Sn]
さらに、本実施形態では、金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%で示すものとする。なお、金属組織の構成相は、α相、γ相、κ相などを指し、金属間化合物や、析出物、非金属介在物などは含まれない。また、α相内に存在するκ相は、α相の面積率に含める。α’相はα相に含める。すべての構成相の面積率の和は、100%とする。
そして、本実施形態では、以下のように、複数の組織関係式を規定している。
組織関係式f4=(α)+(κ)
組織関係式f5=(α)+(κ)+(γ)+(μ)
組織関係式f6=(γ)+(μ)
組織関係式f7=1.05×(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)
本発明の第1の実施形態に係る快削性銅合金は、76.0mass%以上78.7mass%以下のCuと、3.1mass%以上3.6mass%以下のSiと、0.40mass%以上0.85mass%以下のSnと、0.05mass%以上0.14mass%以下のPと、0.005mass%以上0.020mass%未満のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなる。組成関係式f1が75.0≦f1≦78.2の範囲内とされ、組成関係式f2が60.0≦f2≦61.5の範囲内とされ、組成関係式f3が0.09≦f3≦0.30の範囲内とされる。κ相の面積率が30≦(κ)≦65の範囲内とされ、γ相の面積率が0≦(γ)≦2.0の範囲内とされ、β相の面積率が0≦(β)≦0.3の範囲内とされ、μ相の面積率が0≦(μ)≦2.0の範囲内とされる。組織関係式f4が96.5≦f4の範囲内とされ、組織関係式f5が99.4≦f5の範囲内とされ、組織関係式f6が0≦f6≦3.0の範囲内とされ、組織関係式f7が35≦f7≦70の範囲内とされる。α相内にκ相が存在している。γ相の長辺の長さが50μm以下であり、μ相の長辺の長さが25μm以下とされている。
本発明の第2の実施形態に係る快削性銅合金は、76.5mass%以上78.3mass%以下のCuと、3.15mass%以上3.5mass%以下のSiと、0.45mass%以上0.77mass%以下のSnと、0.06mass%以上0.13mass%以下のPと、0.006mass%以上0.018mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなる。組成関係式f1が75.5≦f1≦77.7の範囲内とされ、組成関係式f2が60.2≦f2≦61.3の範囲内とされ、組成関係式f3が0.1≦f3≦0.27の範囲内とされる。κ相の面積率が33≦(κ)≦60の範囲内とされ、γ相の面積率が0≦(γ)≦1.5の範囲内とされ、β相の面積率が0≦(β)≦0.1の範囲内とされ、μ相の面積率が0≦(μ)≦1.0の範囲内とされる。組織関係式f4が97.5≦f4の範囲内とされ、組織関係式f5が99.6≦f5の範囲内とされ、組織関係式f6が0≦f6≦2.0の範囲内とされ、組織関係式f7が38≦f7≦65の範囲内とされる。α相内にκ相が存在している。γ相の長辺の長さが40μm以下であり、μ相の長辺の長さが15μm以下とされている。
また、本発明の第1の実施形態である快削性銅合金においては、さらに、0.01mass%以上0.08mass%以下のSb、0.02mass%以上0.08mass%以下のAs、0.01mass%以上0.10mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有してもよい。
本発明の第1、2の実施形態に係る快削性銅合金においては、不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であることが好ましい。
さらに、本発明の第1、2の実施形態に係る快削性銅合金においては、κ相に含有されるSnの量が0.43mass%以上0.90mass%以下、かつκ相に含有されるPの量が0.06mass%以上0.22mass%以下であることが好ましい。
また、本発明の第1、2の実施形態に係る快削性銅合金においては、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値が12J/cm以上45J/cm以下であり、かつ室温での0.2%耐力(0.2%耐力に相当する荷重)を負荷した状態で銅合金を150℃で100時間保持した後のクリープひずみが0.4%以下であることが好ましい。
本発明の第1、2の実施形態に係る熱間加工を経た快削性銅合金(熱間加工材)においては、引張強さS(N/mm)、伸びE(%)、シャルピー衝撃試験値I(J/cm)との関係において、引張強さSが550N/mm以上、伸びEが12%以上、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値Iが12J/cm以上45J/cm以下であり、かつ、引張強さ(S)と{(伸び(E)+100)/100}の1/2乗との積であるf8=S×{(E+100)/100}1/2の値が650以上であるか、または、f8とIの和であるf9=S×{(E+100)/100}1/2+Iの値が665以上であることが好ましい。
以下に、成分組成、組成関係式f1,f2,f3、金属組織、組織関係式f4,f5,f6,f7、機械的特性を、上述のように規定した理由について説明する。
<成分組成>
(Cu)
Cuは、本実施形態の合金の主要元素であり、本発明の課題を克服するためには、少なくとも76.0mass%以上含有する必要がある。Cu含有量が、76.0mass%未満の場合、Si,Zn,Snの含有量や、製造プロセスにもよるが、γ相の占める割合が2%を超え、耐脱亜鉛腐食性が悪くなるばかりか、耐応力腐食割れ性、衝撃特性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、延性、常温の強度および高温クリープが劣る。場合によっては、β相が出現することもある。よって、Cu含有量の下限は、76.0mass%以上であり、好ましくは76.5mass%以上、より好ましくは76.8mass%以上である。
一方、Cu含有量が78.7mass%を超える場合には、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、強度への効果が飽和するばかりか、κ相の占める割合が多くなりすぎるおそれがある。またCu濃度の高いμ相、場合によってはζ相、χ相が析出し易くなる。その結果、金属組織の要件にもよるが、被削性、衝撃特性、延性、熱間加工性が悪くなるおそれがある。従って、Cu含有量の上限は、78.7mass%以下であり、好ましくは78.3mass%以下であり、延性や衝撃特性を重要視すれば好ましくは78.0mass%以下、より好ましくは77.7mass%以下である。
(Si)
Siは、本実施形態の合金の多くの優れた特性を得るために必要な元素である。Siは、κ相、γ相、μ相などの金属相の形成に寄与する。Siは、本実施形態の合金の被削性、耐食性、耐応力腐食割れ性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、耐摩耗性、常温の強度および高温特性を向上させる。被削性に関しては、Siを含有しても、α相の被削性はほとんど改善しない。しかし、Siの含有によって形成されるγ相、κ相、μ相などのα相より硬質な相の存在によって、多量のPbを含有しなくとも、優れた被削性を有することができる。しかしながら、γ相やμ相などの金属相の占める割合が多くなるに従って、延性や衝撃特性が低下する。厳しい環境下での耐食性に劣るようになる。さらには長期間使用に耐えうる高温クリープ特性に問題を生じる。一方、κ相は、被削性、強度、耐キャビテーション性、耐摩耗性の向上に有用であるが、κ相が過剰であると、延性、衝撃特性、加工性を低下させ、場合によっては被削性も悪くする。このため、κ相、γ相、μ相、β相を適正な範囲に規定する必要がある。
これらの金属組織の問題を解決し、諸特性をすべて満たすためには、Cu、Zn,Sn等の含有量にもよるが、Siは3.1mass%以上含有する必要がある。Si含有量の下限は、好ましくは3.15mass%以上であり、より好ましくは3.17mass%以上、さらに好ましくは3.2mass%以上である。一見、Si濃度の高いγ相や、μ相の占める割合を少なくするためには、Si含有量を低くすべきと考えられる。しかし、他の元素との配合割合、および製造プロセスを鋭意研究した結果、上述のようにSi含有量の下限を規定する必要がある。また、他の元素や、組成の関係式、製造プロセスにもよるが、Si含有量が約3%を超えると、α相内に、細長い、針状のκ相を存在させることができる。そして、Si含有量が3.1mass%〜3.15mass%を境にして、針状のκ相の量が増大する。以下、α相内に存在するκ相をκ1相とも呼ぶ。α相内に存在するκ相により、α相が強化され、延性を損なわずに引張強さ、高温強度、被削性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、耐食性、耐摩耗性、衝撃特性を向上させることができる。
一方、Si含有量が多すぎると、κ相が過剰になり、延性、衝撃特性、更には被削性が悪くなる。このため、Si含有量の上限は、3.6mass%以下であり、好ましくは3.5mass%以下であり、延性や衝撃特性を重視すると、好ましくは3.45mass%以下、より好ましくは3.4mass%以下である。
(Zn)
Znは、Cu,Siとともに本実施形態の合金の主要構成元素であり、被削性、耐食性、強度、鋳造性を高めるために必要な元素である。なお、Znは残部としているが、強いて記載すれば、Zn含有量の上限は約20.5mass%以下であり、下限は、約16.5mass%以上である。
(Sn)
Snは、厳しい環境下での耐脱亜鉛腐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を大幅に向上させ、耐応力腐食割れ性、被削性、耐摩耗性を向上させる。複数の金属相(構成相)からなる銅合金では、各金属相の耐食性には優劣があり、最終的にα相とκ相の2相となっても、耐食性に劣る相から腐食が開始し、腐食が進行する。Snは、最も耐食性に優れるα相の耐食性を高めると同時に、2番目に耐食性に優れるκ相の耐食性も同時に改善する。Snは、α相に配分される量よりもκ相に配分される量が約1.4倍ある。すなわち、κ相に配分されるSn量は、α相に配分されるSn量の約1.4倍である。Sn量が多い分、κ相の耐食性はより向上する。Snの含有量の増加によりα相とκ相の耐食性の優劣はほとんどなくなり、あるいは、少なくともα相とκ相の耐食性の差が縮まり、合金としての耐食性は、大きく向上する。
しかしながら、Snの含有は、γ相あるいはβ相の形成を促進する。Sn自身は優れた被削性機能を持たないが、優れた被削性能を持つγ相を形成することによって、結果として合金の被削性が向上する。一方で、γ相は、合金の耐食性、延性、衝撃特性、高温特性を悪くし、強度を低下させる。約0.5%のSnを含有する場合、Snは、α相に比して約7倍から約15倍、γ相に多く配分される。すなわち、γ相に配分されるSn量は、α相に配分されるSn量の約7倍から約15倍である。Snを含むγ相は、Snを含まないγ相に比べ耐食性は少し改善される程度で、不十分である。このように、Cu−Zn−Si合金へのSnの含有は、κ相、α相の耐食性を高めるにも関わらず、γ相の形成を促進する。このため、Cu、Si、P、Pbの必須元素をより適正な配合比率とし、かつ、製造プロセスを含め適正な金属組織の状態にしなければ、Snの含有は、κ相、α相の耐食性を僅かに高めるに留まる。却ってγ相の増大により、合金の耐食性、延性、衝撃特性、高温特性、引張強さの低下を招く。
α相、κ相中のSnの濃度が増加することによってα相、κ相の強化が図られ、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、耐摩耗性を向上させることができる。さらに、α相中に存在する細長いκ相が、α相が強化され、より一層これらの特性に、効果的に働く。
また、κ相にSnを含有させると、κ相の被削性が向上する。その効果は、Pと共添加することによって増す。
これらのようにいかにSnを活用するかによって、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、耐摩耗性、常温の強度、高温特性、衝撃特性、被削性が大きく左右される。その利用方法を誤れば、γ相の増大により逆にこれらの特性を悪くすることになる。
後述する関係式、製造プロセスを含めた金属組織の制御により、諸特性に優れた銅合金を作り上げることが可能となる。このような効果を発揮させるためには、Snの含有量の下限を0.40mass%以上とする必要があり、好ましくは0.45mass%以上、より好ましくは0.48mass%以上である。
一方、Snを0.85mass%を超えて含有すると、組成の配合割合を工夫しても、製造プロセスを工夫しても、γ相の占める割合が多くなる。またκ相中へのSnの固溶量が過剰となり、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性への効果も飽和する。κ相中への過剰なSnの存在は、κ相の靭性を損ない、合金の延性、衝撃特性を低下させる。Sn含有量の上限は、0.85mass%以下であり、好ましくは0.77mass%以下であり、より好ましくは0.70mass%以下である。
(Pb)
Pbの含有は、銅合金の被削性を向上させる。Pbは約0.003mass%がマトリックスに固溶し、それを超えたPbは直径1μm程度のPb粒子として存在する。本実施形態の合金の被削性は、基本的にはα相より硬いκ相の被削性機能を利用したものであり、軟質のPb粒子という違った作用を備えると一段と被削性が向上する。本実施形態の合金は、合金中、κ相中へのSnの含有、κ相の適正量の確保、α相中のκ1相の存在などにより、高度な被削性能を備えているので、Pbは微量で十分な効果が得られる。Pbは、0.005mass%以上で効果を発揮する。好ましくは0.006mass%以上である。
Pbは、人体に有害であり、本実施形態の合金は、κ相を多く含み、γ相を0%にするのは困難なため、Pb含有量が増えるにしたがって、延性、衝撃特性、常温の強度、高温特性への影響が大きくなる。本実施形態の合金は、既に高度な被削性を備えており、かつ人体等の影響を鑑みれば、Pbの含有量は、0.020mass%未満で十分である。好ましくは0.018mass%以下である。
(P)
Pは、厳しい環境下での耐脱亜鉛腐食性、被削性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、耐摩耗性を向上させる。特に、Snと共にPを添加することでその効果が顕著になる。
Pは、α相に配分される量に対してκ相に配分される量が約2倍である。すなわち、κ相に配分されるP量は、α相に配分されるP量の約2倍である。また、Pは、α相の耐食性を高める大きな効果を有するが、Pの単独の添加では、κ相の耐食性を高める効果は小さい。Pは、Snと共存することにより、κ相の耐食性を向上させることができるが、γ相の耐食性をほとんど改善しない。また、Pの被削性の効果は、PとSnとを共に添加することで、より効果的なものとなる。
これらの効果を発揮するためには、Pの含有量の下限は、0.05mass%以上であり、好ましくは0.06mass%以上、より好ましくは0.07mass%以上である。
一方、Pを0.14mass%超えて含有させても、耐食性の効果が飽和するだけでなく、κ相中でのP濃度の上昇により、衝撃特性、延性が悪くなり、被削性にも悪い影響をおよぼす。また、PとSiの化合物が形成し易くなる。このため、Pの含有量の上限は、0.14mass%以下であり、好ましくは0.13mass%以下であり、より好ましくは0.12mass%以下である。
(Sb、As、Bi)
Sb、Asの両者は、P、Snと同様に、特に厳しい環境下での耐脱亜鉛腐食性、耐応力腐食割れ性をさらに向上させる。
Sbを含有することによって耐食性の向上を図るためには、Sbは0.01mass%以上の量で含有する必要があり、0.015mass%以上の量のSbを含有することが好ましい。一方、Sbを0.08mass%を超えて含有しても、耐食性が向上する効果は飽和し、却ってγ相が増えるので、Sbの含有量は、0.08mass%以下であり、好ましくは0.06mass%以下である。
また、Asを含有することによって耐食性の向上を図るためには、Asは0.02mass%以上の量で含有する必要があり、0.025mass%以上が好ましい。一方、Asを0.08mass%超えて含有しても耐食性が向上する効果は飽和するので、Asの含有量は、0.08mass%以下であり、好ましくは0.06mass%以下である。
Sbを単独で含有することにより、α相の耐食性を向上させる。Sbは、Snより融点は高いものの低融点金属であり、Snと類似の挙動を示し、α相に比べて、γ相、κ相に多く配分され、κ相の耐食性を向上させる。しかし、Sbには、γ相の耐食性を改善する効果はほとんどないばかりか、過剰量のSbを含有することは、γ相を増加させる恐れがある。このため、Sbを活用させるためにも、γ相を2.0%以下にすることが好ましい。
Asは、Sn、P、Sb、Asの中で、α相の耐食性を強化する。κ相が腐食されても、α相の耐食性が高められているので、Asは、連鎖反応的に起こるα相の腐食を食い止める働きをする。しかしながら、Asが単独で添加された場合も、Sn、P、Sbと共にAsが添加された場合であっても、κ相、γ相の耐食性を向上させる効果は小さい。
なお、Sb、Asを共に含有する場合、Sb、Asの合計含有量が0.10mass%を超えても、耐食性が向上する効果は飽和し、延性、衝撃特性が低下する。このため、Sb、Asの合計含有量を0.10mass%以下とすることが好ましい。
Biは、さらに銅合金の被削性を向上させる。そのためには、Biを0.01mass%以上の量で含有する必要があり、0.02mass%以上のBiを含有することが好ましい。一方、Biの人体への有害性は不確かであるが、衝撃特性、高温特性への影響から、Biの含有量の上限を0.10mass%以下とし、好ましくは0.05mass%以下とする。
(不可避不純物)
本実施形態における不可避不純物としては、例えばAl,Ni,Mg,Se,Te,Fe,Mn,Co,Ca,Zr,Cr,Ti,In,W,Mo,B,Ag及び希土類元素等が挙げられる。
従来から快削性銅合金は、電気銅、電気亜鉛など、良質な原料が主ではなく、リサイクルされる銅合金が主原料となる。当該分野の下工程(下流工程、加工工程)において、ほとんどの部材、部品に対して切削加工が施され、材料100に対して40〜80の割合で多量に廃棄される銅合金が発生する。例えば切り屑、端材、バリ、湯道、および製造上の不良を含む製品などが挙げられる。これら廃棄される銅合金が、主たる原料となる。切削切り屑等の分別が不十分であると、他の快削性銅合金からPb,Fe,Mn,Se,Te,Sn,P,Bi,Sb,As,Ca,Al,Zr,Niおよび希土類元素が混入する。また切削切り屑には、工具から混入するFe,W,Co,Moなどが含まれる。廃材には、めっきされた製品を含むためNi,Cr,Snが混入する。純銅系のスクラップの中には、Mg,Fe,Te,Se,Cr,Ti,Co,In,Niが混入する。資源の再使用の点と、コスト上の問題から、少なくとも特性に悪影響を与えない範囲で、これらの元素を含む切り屑等のスクラップは、ある限度まで原料として使用される。
経験的に、Niはスクラップ等からの混入が多いが、Niの量は0.06mass%未満まで許容されるが、Niの量は0.05mass%以下が好ましい。
Fe,Mn,Co,Cr等は、Siと金属間化合物を形成し、場合によってはPと金属間化合物を形成し、被削性、耐食性やその他の特性に影響する。Cu、Si、Sn、Pの含有量や、関係式f1、f2にもよるが、Feは、Siと化合しやすく、Feの含有は、Feと等量のSiを消費させる恐れがあり、被削性に悪い影響を与えるFe−Si化合物の形成を促進させる。このため、Fe,Mn,Co,及びCrのそれぞれの量は、0.05mass%以下が好ましく、0.04mass%以下がより好ましい。またFeは、Pとも金属間化合物を形成し易く、Pを消耗させるだけでなく、金属間化合物は被削性を阻害する。したがってFe,Mn,Co,及びCrの合計の含有量を0.08mass%未満とすることが好ましい。この合計量(Fe,Mn,Co,及びCrの合計量)は、より好ましくは0.07mass%未満であり、原料事情が許せば、さらに好ましくは0.06mass%未満である。
他方、Agについては、一般的にAgはCuとみなされ、諸特性への影響がほとんどないことから、特に制限する必要はないが、0.05mass%未満が好ましい。
Te、Seは、その元素自身が快削性を有し、稀であるが多量に混入する恐れがある。延性や衝撃特性への影響を鑑みれば、Te、Seの各々の含有量は、0.03mass%未満が好ましく、0.02mass%未満がさらに好ましい。
その他の元素であるAl,Mg,Ca,Zr,Ti,In,W,Mo,B,および希土類元素等のそれぞれの量は、0.03mass%未満が好ましく、0.02mass%未満がより好ましく、0.01mass%未満がさらに好ましい。
なお、希土類元素の量は、Sc,Y,La、Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Tb,及びLuの1種以上の合計量である。
これらの不可避不純物の量は、本実施形態の合金の特性への影響を鑑みれば、管理、制限しておくことが望ましい。
(組成関係式f1)
組成関係式f1は、組成と金属組織の関係を表す式で、各々の元素の量が上記に規定される範囲にあっても、この組成関係式f1を満足しなければ、本実施形態が目標とする諸特性を満足できない。組成関係式f1において、Snには−7.5の大きな係数が与えられている。組成関係式f1が75.0未満であると、他の関係式にもよるが、γ相の占める割合が多くなり、またγ相の長辺が長くなる。これにより、耐食性の悪化はもとより、常温での強度が低くなり、延性、衝撃特性、高温特性が悪くなり、また耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が悪くなる。よって、組成関係式f1の下限は、75.0以上であり、好ましくは75.5以上であり、より好ましくは75.8以上である。組成関係式f1がより好ましい範囲になるにしたがって、γ相の面積率は小さくなり、γ相が存在しても、γ相は粒状化される。すなわち長辺の長さの短いγ相になる傾向にあり、より耐食性、衝撃特性、延性、常温での強度、高温特性が向上する。
一方、組成関係式f1の上限は、Sn含有量が本実施形態の範囲内にある場合、主としてκ相の占める割合に影響する。組成関係式f1が78.2より大きいと、κ相の占める割合が多くなりすぎ、またμ相が析出し易くなる。κ相が多すぎると、衝撃特性、延性、被削性、熱間加工性、耐エロージョンコロージョン性が悪くなる。よって、組成関係式f1の上限は、78.2以下であり、好ましくは77.7以下であり、より好ましくは77.3以下である。
このように、組成関係式f1を、上記の範囲に規定することで、特性の優れた銅合金が得られる。なお、選択元素であるAs,Sb,Biおよび別途規定した不可避不純物については、それらの含有量を考え合わせ、組成関係式f1にほとんど影響を与えないことから、組成関係式f1では規定していない。
(組成関係式f2)
組成関係式f2は、組成と加工性、諸特性、金属組織の関係を表す式である。組成関係式f2が60.0未満であると、金属組織中のγ相の占める割合が増え、β相を始め他の金属相が出現し易く、また残留し易くなり、耐食性、延性、衝撃特性、冷間加工性、高温強度特性が悪くなる。また熱間鍛造時に結晶粒が粗大化し、割れが生じ易くなる。よって、組成関係式f2の下限は60.0以上であり、好ましくは60.2以上であり、より好ましくは60.3以上である。
一方、組成関係式f2が61.5を超えると、熱間変形抵抗が高くなり、熱間での変形能が低下し、熱間押出材や熱間鍛造品に表面割れが生じるおそれがある。また、熱間加工方向と平行方向の長さが500μmを超え、かつ幅が150μmを超えるような粗大なα相が出現するおそれがある。粗大なα相が存在すると、被削性が低下し、強度が低くなる。そして、粗大なα相とκ相の境界を中心に、長辺の長さの長いγ相が存在し易くなり、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、高温特性、耐摩耗性が悪くなる。一方、α相内に存在する針状のκ相の生成にも影響を与え、f2の値が大きいほど、κ1相が存在し難くなる。組成関係式f2の上限は61.5以下であり、好ましくは61.3以下であり、より好ましくは61.2以下である。このように、組成関係式f2を狭い範囲に設定することにより、良好な耐食性、耐エロージョンコロージョン性、強度、被削性、熱間加工性、衝撃特性、高温特性を得ることができる。
なお、選択元素であるAs,Sb,Biおよび別途規定した不可避不純物については、それらの含有量を考え合わせ、組成関係式f2にほとんど影響を与えないことから、組成関係式f2では規定していない。
(組成関係式f3)
0.40mass%以上の量でSnを含有することは、特に耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を向上させる。本実施形態では、金属組織中のγ相を減少させ、効果的にκ相またはα相にSnをより多く含有させる。さらに、Pと共にSnを添加することで、その効果はより高まる。組成関係式f3は、PとSnの配合割合に関わり、P/Snの値が、0.09以上、0.30以下、すなわち概ね原子濃度でSn1原子に対して、P原子の数が1/3〜1.1であると、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を向上させることができる。f3は、好ましくは0.10以上である。また、f3の好ましい上限値は、0.27以下である。P/Snの範囲の下限を下回ると、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が特に悪くなり、上限を超えると、特に衝撃特性、延性が悪くなる。
(特許文献との比較)
ここで、上述した特許文献3〜12に記載されたCu−Zn−Si合金と本実施形態の合金との組成を比較した結果を表1に示す。
本実施形態と特許文献3とはPbの含有量が異なっている。本実施形態と特許文献5とはP/Snの比を規定するかどうかで異なっている。本実施形態と特許文献4とはPbの含有量が異なっている。本実施形態と特許文献6,7とはZrを含有するか否かで異なっている。本実施形態と特許文献8とはFeを含有するか否かの点で相違している。本実施形態と特許文献9とはPbを含有するか否かで異なっており、Fe,Ni,Mnを含有するか否かの点でも相違している。特許文献10はSn,P,Pbを含有していない点で本実施形態と異なる。特許文献5は、強度、被削性、耐摩耗性に貢献するα相中に存在するκ1相、f2、f7について沈黙しており、強度バランスも低い。特許文献11は、700℃以上に加熱されるろう付けに関わり、ろう付け構造体に関わるものである。特許文献12は、ねじや歯車に転造加工される素材に関わるものである。
以上のように、本実施形態の合金と、特許文献3〜12に記載されたCu−Zn−Si合金とは組成範囲が異なっている。
<金属組織>
Cu−Zn−Si合金は、10種類以上の相が存在し、複雑な相変化が起こり、組成範囲、元素の関係式だけでは、目的とする特性が必ずしも得られない。最終的には金属組織に存在する金属相の種類とその範囲を特定し、決定することによって、目的とする特性を得ることができる。
複数の金属相から構成されるCu−Zn−Si合金の場合、各々の相の耐食性は同じではなく、優劣がある。腐食は、最も耐食性の劣る相、すなわち最も腐食しやすい相、或は、耐食性の劣る相とその相に隣接する相との境界から始まって進行する。Cu,Zn,Siの3元素からなるCu−Zn−Si合金の場合、例えば、α相、α’相、β(β’を含む)相、κ相、γ(γ’を含む)相、μ相の耐食性を比較すると、耐食性の序列は、優れる相から順にα相>α’相>κ相>μ相≧γ相>β相である。κ相とμ相の間の耐食性の差が特に大きい。
ここで各相の組成は、合金の組成及び各相の占有面積率によって数値が変動するが、以下のことが言える。
各相のSi濃度は、濃度の高い順から、μ相>γ相>κ相>α相>α’相≧β相、である。μ相、γ相及びκ相におけるSi濃度は、合金成分のSi濃度よりも高い。また、μ相のSi濃度は、α相のSi濃度の約2.5〜約3倍であり、γ相のSi濃度は、α相のSi濃度の約2〜約2.5倍である。
各相のCu濃度は、濃度の高い順から、μ相>κ相≧α相>α’相≧γ相>β相、である。μ相におけるCu濃度は、合金のCu濃度よりも高い。
特許文献3〜6に示されるCu−Zn−Si合金において、被削性機能が最も優れるγ相は、主としてα’相と共存、或は、κ相、α相との境界に存在する。γ相は、銅合金にとって厳しい水質下或は環境下では、選択的に腐食の発生源(腐食の起点)になり、腐食が進行する。勿論、β相が存在すれば、γ相の腐食より先にβ相の腐食が始まる。μ相とγ相が共存する場合、μ相の腐食は、γ相より少し遅れるか、または、ほぼ同時に始まる。例えばα相、κ相、γ相、μ相が共存する場合、γ相やμ相が、選択的に脱亜鉛腐食されると、腐食されたγ相やμ相は、脱亜鉛現象によりCuに富んだ腐食生成物となり、その腐食生成物がκ相、或いは近接するα’相を腐食させ、連鎖反応的に腐食が進行する。
なお、日本を始め全世界における飲料水の水質は様々であり、かつ、その水質が銅合金にとって腐食しやすい水質となってきている。例えば人体への安全性の問題から、上限はあるものの消毒目的で使用される残留塩素の濃度が高くなり、水道用器具である銅合金が腐食しやすい環境になってきている。前記の自動車部品、機械部品、工業用配管も含めた部材の使用環境のように多くの溶液の介在する使用環境での耐食性についても、飲料水と同様或はそれ以上のことが言える。また、時代の要請から、高温または高速流体下での耐食性や高圧容器や高圧バルブの信頼性の確保、或は、薄肉・軽量化に応えるため、高強度で、高温クリープに優れ、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性に優れた銅合金部材が必要となっている。
他方、γ相、もしくはγ相、μ相、β相の量を制御、すなわちこれら各相の存在割合を大幅に減少させるか、或は皆無にさせても、α相、κ相の2相で構成されるCu−Zn−Si合金の耐食性は万全ではない。腐食環境によっては、α相より耐食性の劣るκ相が、選択的に腐食されることがあり、κ相の耐食性の向上を図る必要がある。さらには、κ相が腐食されると、腐食されたκ相は、Cuに富んだ腐食生成物となり、その腐食生成物によりα相を腐食させる。このため、α相の耐食性の向上も図る必要がある。
また、γ相は、硬くて脆い相であり、銅合金部材に大きな負荷が加わったとき、ミクロ的に応力集中源となる。γ相は、応力集中源となるため、切削時、切屑分断の起点となり、切屑の分断を促進し、切削抵抗を低くする働きをする。このように被削性の向上には繋がるが、応力腐食割れ感受性を増し、延性や衝撃特性を低下させる。また高温クリープ現象により、高温強度を低下させる。μ相は、γ相と同様に、Siを多量に含む硬質な相であり、α相の結晶粒界、α相、κ相の相境界に主として存在する。このため、γ相と同様に、μ相は、ミクロ的な応力集中源になる。応力集中源となるか或は粒界滑り現象により、μ相は、延性、衝撃特性を低下させ、高温強度を低下させる。また、γ相やμ相は、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を悪化させる。なお、μ相は、γ相と同様、応力集中源となるが、被削性を改善する効果は、γ相に比べ小さい。
しかしながら、耐食性や前記諸特性を改善するために、γ相、もしくはγ相とμ相の存在割合を大幅に減少させるか、或は皆無にすると、少量のPbの含有とα相、κ相の2相だけでは、満足な被削性が得られない可能性がある。そこで、少量のPbを含有し、かつ優れた被削性を有することが前提で、厳しい使用環境での耐食性、および延性、衝撃特性、強度、高温強度、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を改善するために、金属組織の構成相(金属相、結晶相)を以下のように規定する必要がある。
なお、以下、各相の占める割合(存在割合)の単位は、面積率(面積%)である。
(γ相)
γ相は、Cu−Zn−Si合金の被削性に最も貢献する相であるが、厳しい環境下での耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、延性、強度、高温特性、衝撃特性を優れたものにするためには、γ相を制限しなければならない。耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を優れたものにするためには、Snの含有を必要とするが、Snの含有量が増えるにしたがって、γ相はさらに増加する。これら相反する現象、すなわち被削性と耐食性を同時に満足させるために、Sn、Pの含有量、組成関係式f1、f2、f3、後述する組織関係式、製造プロセスを限定している。
(β相およびその他の相)
良好な耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を得て、高い延性、衝撃特性、強度、高温特性を得るには、特に金属組織中に占めるβ相、γ相、μ相、およびζ相などその他の相の割合が重要である。
β相の占める割合は、少なくとも0%以上0.3%以下とする必要があり、0.1%以下であることが好ましく、最適にはβ相が存在しないことが好ましい。
α相、κ相、β相、γ相、μ相以外のζ相などその他の相の占める割合は、好ましくは0.3%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。最適にはζ相等その他の相が存在しないことが好ましい。
まず、優れた耐食性を得るためには、γ相の占める割合を0%以上2.0%以下、且つ、γ相の長辺の長さを50μm以下とする必要がある。
γ相の長辺の長さは、以下の方法により測定される。例えば500倍または1000倍の金属顕微鏡写真を用い、1視野において、γ相の長辺の最大長さを測定する。この作業を、後述するように、主として5視野の任意の視野において行う。それぞれの視野で得られたγ相の長辺の最大長さの平均値を算出し、γ相の長辺の長さとする。このため、γ相の長辺の長さは、γ相の長辺の最大長さと言うこともできる。
γ相の占める割合は、好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。優れた被削性機能を有するγ相の占める割合が0.5%以下であっても、Sn、Pの含有によって被削性能が向上したκ相と、少量のPbの含有、そして、α相内に存在するκ相(κ1相)により、合金として優れた被削性を備えることができる。
γ相の長辺の長さは耐食性に影響することから、γ相の長辺の長さは、50μm以下であり、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、最適には20μm以下である。
γ相の量が多いほど、γ相が選択的に腐食されやすくなり、有効元素Sn、Pが効果的にκ相に配分されなくなる。また、γ相が長く連なるほど、その分、選択的に腐食されやすくなり、深さ方向への腐食の進行を速める。γ相は、γ相の量とともにγ相の長辺の長さが、耐食性以外の特性に影響を与える。長く連なったγ相は、主としてα相とκ相の境界に存在し、延性の低下に伴う常温での強度の低下、衝撃特性、高温特性、耐摩耗性、耐キャビテーション性を悪くする。
γ相の占める割合、及び、γ相の長辺の長さは、Cu,Sn,Siの含有量および、組成関係式f1、f2と大きな関連を持っている。
γ相が多くなると、延性、衝撃特性、常温での強度、高温強度、耐応力腐食割れ性、耐摩耗性が悪くなるので、γ相は、2.0%以下であることが必要であり、好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。金属組織中に存在するγ相は、高い応力が負荷された時、応力集中源になる。またγ相の結晶構造がBCCであることが相まって、常温での強度、高温強度が低くなり、衝撃特性、耐応力腐食割れ性を低下させる。
(μ相)
μ相は、耐食性を始め、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、延性、衝撃特性、高温特性に影響することから、少なくともμ相の占める割合を0%以上2.0%以下にする必要がある。μ相の占める割合は、好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.3%以下であり、μ相は存在しないことが最適である。μ相は、主として結晶粒界、相境界に存在する。このため、厳しい環境下では、μ相は、μ相が存在する結晶粒界で粒界腐食を生じる。また、衝撃作用を与えると粒界に存在する硬質なμ相を起点としたクラックが生じやすくなる。また、例えば、自動車のエンジン回りに使われるバルブや高温高圧ガスバルブに銅合金を使用した場合、150℃の高温で長時間保持すると粒界が滑り、クリープが生じ易くなる。このため、μ相の量を制限すると同時に、主として結晶粒界に存在するμ相の長辺の長さを25μm以下とする必要がある。μ相の長辺の長さは、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、最適には2μm以下である。
μ相の長辺の長さは、γ相の長辺の長さの測定方法と同様の方法で測定される。すなわち、μ相の大きさに応じて、主として500倍または1000倍の金属顕微鏡写真、或いは2000倍または5000倍の2次電子像写真(電子顕微鏡写真)を用い、1視野において、μ相の長辺の最大長さを測定する。この作業を、5視野の任意の視野において行う。それぞれの視野で得られたμ相の長辺の最大長さの平均値を算出し、μ相の長辺の長さとする。このため、μ相の長辺の長さは、μ相の長辺の最大長さと言うこともできる。
(κ相)
近年の高速の切削条件のもと、切削抵抗、切屑の排出性を含め材料の被削性能は重要である。ところが、最も優れた被削性機能を有するγ相の占める割合を2.0%以下に制限し、かつ優れた被削性機能を有するPb含有量を0.020mass%未満に制限した状態で、優れた被削性を備えるためには、κ相の占める割合を少なくとも30%以上とする必要がある。κ相の占める割合は、好ましくは33%以上であり、より好ましくは35%以上である。
κ相は、γ相、μ相、β相に比べ、脆さはなく、はるかに延性に富み、耐食性に優れる。γ相、μ相は、α相の粒界や相境界に沿って存在するが、κ相にはそのような傾向は認められない。またκ相は、α相より、延性を除く、強度、被削性、キャビテーション性、耐摩耗性、高温特性に優れる。本実施形態の合金であるα相とκ相の混合組織は、適正な相比率にし、さらに、α相、κ相の改良をすることにより、被削性を含む各種の機械的性質、各種耐食性に優れた銅合金に創りあげることが可能である。
κ相が増すとともに、被削性が向上し、κ相は硬質な相であるので引張強さが高くなる。一方、κ相が増すにしたがって、延性や衝撃特性は徐々に低下していく。そして、κ相の占める割合が60%を超え、約2/3に達すると、κ相が高強度であり、硬いという性質が被削性改善機能より勝り、切削抵抗が高くなり、切り屑の分断性が悪くなる。同時に、延性や衝撃特性の低下が起こり、延性の低下に伴って引張強さも飽和する。従って、金属組織中に約1/3以上の軟質のα相と2/3以下の硬質のκ相を共存させることによって、κ相の延性、衝撃特性の問題点よりも、κ相の被削性能や高強度といった優れた特性が活きてくる。また、本実施形態では、κ相中にSnが約0.43mass%から約0.90mass%の量で含有され、κ相のキャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、耐食性、耐摩耗性、被削性機能がより優れたものになっている反面、κ相の延性、衝撃特性が更に低下している。したがって、被削性と、延性や衝撃特性を鑑みた場合、κ相の占める割合は少なくとも65%以下に設定する必要がある。κ相の占める割合は、好ましくは60%以下であり、より好ましくは56%以下であり、更に好ましくは52%以下である。
同時に、組成と製造プロセスの条件により、α相中に針状のκ相(κ1相)を存在させことができる。α相中にκ相を存在させることによって、α相自身の被削性能、強度、高温特性、耐摩耗性の機械的性質面での向上、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性の向上を図ることができる。その結果、合金としての被削性、常温での強度、高温特性、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、耐摩耗性が向上する。
(α相、その改善)
α相は、マトリックスを形成する主要な相であり、本実施形態の合金を含めたすべての銅合金の特性の源となる相である。α相は、最も延性、靱性に富み、いわゆる粘りのある相である。しかしながら、α相の粘りが、合金の切削抵抗を高め、切屑を連なったものにする。α相の被削性機能および機械的性質を良好なものにするために、α相中にSnを含有させてその粘りをやや低める。そして、針状のκ相(κ1相)をα相中に存在させると、α相自身の被削性機能がさらに改善され、強度、耐摩耗性が大きく改善される。したがってα相内にκ1相が適量存在することにより、延性や靱性を損なわずに、合金の、被削性、強度、耐摩耗性、耐キャビテーション、耐エロージョンコロージョン性、高温特性が高められる。このように本実施形態の合金では、κ1相が存在することによりα相そのものの被削性能が向上し、少量のPbでも優れた被削性機能を有する。
(α相中での細長く針状のκ相(κ1相)の存在)
組成、組成関係式f1、f2、プロセスの要件を満たすと、α相内に、針状のκ相(κ1相)が存在するようになる。このκ相は、α相より硬質である。α相内に存在するκ相(κ1相)の厚みは、約0.1μmから約0.2μm程度(約0.05μm〜約0.5μm)であり、厚みが薄く、細長く、針状であることが特徴である。α相中に、針状のκ1相が存在することにより、以下の効果が得られる。
1)α相が強化され、合金としての引張強さが向上する。
2)α相の被削性が向上し、合金の切削抵抗の低下や切屑分断性の向上などの被削性が向上する。
3)α相内に存在するため、合金の耐食性に悪い影響を及ぼさない。
4)α相が強化され、合金の耐摩耗性が向上する。
5)α相内に存在するため、延性、衝撃特性への影響は、軽微である。
α相中に存在する針状のκ相は、Cu、Zn、Siなどの構成元素や関係式に影響される。本実施形態の組成、金属組織の要件が満たされる場合、Si量が約3.0mass%を超えると、α相中に針状のκ1相が存在し始める。Si量が約3.1mass%〜約3.15mass%で、より明瞭にκ1相がα相中に存在するようになる。但し、κ1相の存在は、組成の関係式f2またはf1に大きく影響を受け、f2の値が大きいとκ1相が存在し難くなる。
一方、α相中でのκ1相の占める割合が大きくなる、すなわちκ1相の量が多くなりすぎると、α相の持つ延性や衝撃特性が損なわれるようになる。その結果、合金の延性や衝撃特性が損なわれ、強度も低くなる。α相中でのκ1相の占める割合は、主として、金属組織中のκ相の割合と連動し、Cu、Si、Znの含有量、関係式にも影響を受ける。κ相の占める割合が、65%を超えると、α相中に存在するκ1相の割合が、多くなりすぎる。α相中に存在する適切な量のκ1相の観点からも、金属組織中のκ相の量は、65%以下であり、好ましくは60%以下であり、延性や衝撃特性を重視した場合は、好ましくは、56%以下であり、さらに好ましくは、52%以下である。
α相内に存在するκ1相は、金属顕微鏡で、500倍の倍率で、場合によっては約1000倍に拡大すると、細い線状物、針状物として確認できる。しかし、κ1相の面積率を算出するのは困難なため、α相中のκ1相は、α相の面積率に含めるものとする。
(組織関係式f4、f5、f6)
優れた各種の耐食性、延性、強度、衝撃特性、高温特性を得るためには、延性に富み耐食性に優れる主要相であるα相と、κ相の占める割合の合計(組織関係式f4=(α)+(κ))が、96.5%以上である。このf4の値は、好ましくは97.5%以上であり、より好ましくは98%以上であり、最適には98.5%以上である。κ相の範囲が規定されているので、α相の範囲も概ね決定される。
同様にα相、κ相、γ相、μ相の占める割合の合計(組織関係f5=(α)+(κ)+(γ)+(μ))が、99.4%以上であり、99.6%以上が好ましい。
さらに、γ相、μ相の占める合計の割合(f6=(γ)+(μ))が0%以上3.0%以下である必要がある。このf6の値は、好ましくは、2.0%以下であり、より好ましくは1.0%以下であり、最適には0.5%以下である。
ここで、金属組織の関係式、f4〜f6において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10種類の金属相を対象としており、金属間化合物、Pb粒子、酸化物、非金属介在物、未溶解物質などは対象としていない。また、κ1相は、α相に含め、500倍または1000倍の金属顕微鏡では観察できないμ相は除外される。なお、Si、P及び不可避的に混入する元素(例えばFe,Co,Mn)によって形成される金属間化合物は、金属相の面積率に算入されないが、被削性に影響を与えるので、不可避不純物を注視しておく必要がある。
(組織関係式f7)
本実施形態の合金は、Cu−Zn−Si合金において、人体に有害なPbの含有量を最小限に留めながらも被削性に優れる。そして特に優れた耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、衝撃特性、延性、耐摩耗性、常温の強度、高温特性の全てを満足させる必要がある。しかしながら、被削性と優れた耐食性、衝撃特性とは、相反する特性である。
金属組織的には、被削性能に最も優れるγ相を多く含む方が被削性はよいが、耐食性や衝撃特性、その他の特性の点からは、γ相は少なくしなければならない。γ相の占める割合が2.0%以下の場合、実験結果より上述の組織関係式f7の値を適正な範囲とすることが、良好な被削性を得るために必要であることが分かった。
被削性に関する組織関係式f7に関して、γ相は被削性能に最も優れ、特にγ相が少量の場合、すなわちγ相の面積率が2.0%以下の場合、効果的に被削性に寄与する。このため、γ相の占める割合(%)の平方根に、κ相に比べ6倍の高い係数が与えられる。また、κ相はSnを含有するのでκ相の被削性が向上する。このため、κ相には1.05の係数が与えられ、この係数は、μ相の係数の2倍以上である。良好な被削性能を得るには、組織関係式f7は、35以上必要であり、好ましくは38以上であり、より好ましくは42以上である。
一方、組織関係式f7が70を超えると、切削抵抗が高くなり、切屑の分断性も悪くなる。そして、衝撃特性や延性が悪くなり、延性低下に伴い強度も低くなる。このため、組織関係式f7は、70以下であり、好ましくは65以下、より好ましくは60以下、さらに好ましくは55以下である。
(κ相に含有されるSn、Pの量)
κ相の耐食性を向上させるために、合金中に、Snを0.43mass%以上0.90mass%以下の量で含有させ、Pを0.06mass%以上0.22mass%以下の量で含有させることが好ましい。
本実施形態の合金では、Snの含有量が前記範囲内であるとき、α相に配分されるSn量を1としたときに、κ相に約1.4、γ相に約7から約15、μ相に約2の割合で、Snは配分される。例えば、本実施形態の合金の場合、Snを0.5mass%含有するCu−Zn−Si合金において、α相の占める割合が50%、κ相の占める割合が49%、γ相の占める割合が1%の場合、α相中のSn濃度は約0.38mass%、κ相中のSn濃度は約0.53mass%、γ相中のSn濃度は約4mass%になる。なお、γ相の面積率が大きいと、γ相に費やされる(消費される)Snの量が多くなり、κ相、α相に配分されるSnの量が少なくなる。したがって、γ相の量を少なくすると、後述するように耐食性、被削性にSnが有効に活用される。
一方、α相に配分されるP量を1としたときに、κ相に約2、γ相に約3、μ相には約4の割合で、Pは配分される。例えば、本実施形態の合金の場合、Pを0.1mass%を含有するCu−Zn−Si合金において、α相の占める割合が50%、κ相の占める割合が49%、γ相の占める割合が1%の場合、α相中のP濃度は約0.06mass%、κ相中のP濃度は約0.12mass%、γ相中のP濃度は約0.18mass%になる。
Sn,Pの両元素は、α相、κ相の耐食性を向上させるが、κ相に含有されるSn,Pの量が、α相に含有されるSn,Pの量に比べて、それぞれ約1.4倍、約2倍である。すなわち、κ相に含有されるSn量は、α相に含有されるSn量の約1.4倍であり、κ相に含有されるP量は、α相に含有されるP量の約2倍である。このため、κ相の耐食性の向上の度合いが、α相の耐食性の向上の度合いより勝る。その結果、κ相の耐食性は、α相の耐食性に近づく。そして、P/Snの比(f3)が適切であると、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、耐食性がさらに向上する。
銅合金中のSnの含有量が0.40mass%以下の場合、過酷な条件下での耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性に問題がある。この問題は、Snの含有量を増やすと共に、κ相中へのSnおよびPの濃度を増やし、かつPとSnの濃度比を制御することにより、解決できる。同時に耐食性も良くなる。また、κ相中にSnが多く配分されると、κ相の被削性能が向上し、これにより、γ相が少なくなることによる被削性の喪失分を補うことができる。
一方、Snは、γ相に多く配分されるが、γ相に多量のSnを含有させても、γ相の耐食性はほとんど向上せず、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を向上させる効果も少ない。これは、γ相の結晶構造がBCC構造であることが主たる原因と考えられる。それどころか、γ相の占める割合が多いと、κ相に配分されるSnの量が少なくなり、κ相の耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性の向上の度合いは小さくなる。このため、κ相に含有されるSn濃度は、好ましくは0.43mass%以上であり、より好ましくは0.47mass%以上であり、さらに好ましくは0.54mass%以上である。元々、κ相は、α相より延性、靭性に劣るが、κ相中のSn濃度が1mass%にも達すると、さらにκ相の延性、靱性が損なわれる。よって、κ相に含有されるSn濃度は、好ましくは0.90mass%以下であり、より好ましくは0.84mass%以下であり、さらに好ましくは0.78mass%以下である。κ相にSnが所定量で含有されると、延性、靱性を大きく損なわずに、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が向上し、被削性、耐摩耗性も向上する。
Pは、Snと同様に、κ相に多く配分されると、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が向上するとともにκ相の被削性の向上に寄与する。ただし、Pが過剰に含有されると、PがSiとの金属間化合物の形成に費やされ、特性を悪くする、または、過剰なPのκ相中への固溶は、κ相の延性、靭性を損ない、合金としての衝撃特性や延性を損ない、延性の低下に伴う強度の低下を引き起こす。κ相に含有されるP濃度は、好ましくは0.06mass%以上であり、より好ましくは0.07mass%以上、さらに好ましくは0.08mass%以上である。κ相に含有されるP濃度の上限は、好ましくは0.22mass%以下であり、より好ましくは0.19mass%以下、さらに好ましくは0.16mass%以下である。
PとSnとを共に添加することにより、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、被削性が向上する。
<特性>
(常温強度及び高温強度)
継手、配管、バルブ、自動車のバルブ、水素ステーション、水素発電などの高圧水素環境にある容器をはじめ様々な分野で必要な強度としては、引張強さが重要視されている。圧力容器の場合、その許容応力は、引張強さに影響される。また、例えば自動車のエンジンルームに近い環境で使用されるバルブや高温・高圧バルブは、最高約150℃の温度環境で使用されるが、その時、圧力、応力が加わった時に変形や破壊されないことが要求される。本実施形態の合金は、水素脆化が起こらないので、高い強度を備えると、許容応力、許容圧力が高くなり、水素に係る用途で、より安全に使用できる。
そのためには、熱間加工材である熱間押出材及び熱間鍛造材は、常温での引張強さが550N/mm以上の高強度材であることが好ましい。常温での引張強さは、好ましくは565N/mm以上であり、より好ましくは575N/mm以上、最適には、590N/mm以上である。590N/mm以上の高い引張強さを備え、かつ快削性を備えた熱間鍛造合金は、本実施形態の合金以外では見当たらない。熱間鍛造材は、一般的に冷間加工が施されない。例えばショットによって、表面を硬化させることができるが、実質的に0.1〜2.5%程度の冷間加工率に過ぎず、引張強さの向上は2〜40N/mm程度である。耐圧性能は、引張強さに依存し、圧力容器やバルブ類等の圧力が掛かる部材には、高い引張強さが求められる。このため本実施形態の鍛造材は、これら圧力容器やバルブ類等の圧力が掛かる部材に適している。
本実施形態の合金は、材料の再結晶温度より高い適正な温度条件で熱処理を施す、或いは適切な熱履歴を施すことにより、引張強さが向上する。具体的には、熱処理前の熱間加工材に比べ、組成や熱処理条件にもよるが、約10〜約60N/mm向上する。コルソン合金やTi−Cuのような時効硬化型合金以外に、再結晶温度より高温の熱処理により、引張強度が上昇する例は、銅合金においてほとんど見当たらない。本実施形態の合金で強度が向上する理由は、以下のように考えられる。515℃以上575℃以下の適切な条件で熱処理を行うことにより、マトリックスのα相やκ相が軟らかくなる。一方、α相内に針状のκ相が存在することによりα相が強化されること、γ相の減少によって延性が増大し、破壊に耐えうる最大荷重が増すこと、及びκ相の割合が増すことが、α相、κ相の軟化を大きく上回る。本実施形態の合金は、これらの金属組織状態にすることにより、熱処理前の熱間加工材に比べ、耐食性だけでなく、引張強さ、延性、衝撃値、冷間加工性ともに大幅に向上し、高強度で、高延性、高靱性な合金に仕上がる。
一方、熱間加工材は、適切な熱処理後、冷間で抽伸、伸線、圧延され強度が向上する。本実施形態の合金では、冷間加工が施される場合、冷間加工率が15%以下では、引張強さは、冷間加工率1%につき、約12N/mm上昇する。その反面、衝撃特性、シャルピー衝撃試験値は、冷間加工率1%につき、約4%減少する。または、熱処理材の衝撃値をI、冷間加工率をRE%とすると、冷間加工後の衝撃値Iは、冷間加工率20%以下の条件で概ね、I=I×{20/(20+RE)}で整理できる。例えば、引張強さが570N/mm、衝撃値が30J/cmの合金材に対して、冷間加工率5%の冷間抽伸を施し、冷間加工材を作製した場合、冷間加工材の引張強さは約630N/mmとなり、衝撃値は約24J/cmになる。冷間加工率が異なると、一義的に引張強さ、衝撃値は決められない。このように、冷間加工を施すと、引張強さは高くなるが、衝撃値、伸びは低下する。用途に応じ、目標とする強度、伸び、衝撃値を得るために、適正な冷間加工率を設定する必要がある。
高温強度(特性)に関しては、室温の0.2%耐力に相当する応力を負荷した状態で銅合金を150℃に100時間晒した(保持した)後のクリープひずみが0.4%以下であることが好ましい。このクリープひずみは、より好ましくは0.3%以下であり、さらに好ましくは0.2%以下である。これにより、高温に晒されても変形し難く、高温強度に優れた銅合金が得られる。
(常温強度、延性、冷間加工性)
被削性が良好で、引張強さが高くても、延性、靱性に乏しい場合、その用途は制限される。被削性は、切削時に切りくずが分断されるために、材料に一種の脆さを求められる。引張強さと延性とは相反する特性であるが、引張強さと延性(伸び)において高度のバランスが取れることが望ましい。熱処理工程を含み、熱間加工材、または熱間加工後の熱処理前後に冷間加工が施された材料において、引張強さが550N/mm以上、伸びが12%以上であり、かつ、引張強さ(S)と{(伸び(E%)+100)/100}の1/2乗の積、f8=S×{(E+100)/100}1/2の値が650以上であることが、1つの高強度・高延性材料の尺度となる。f8は、より好ましくは665以上あり、さらに好ましくは680以上である。
なお、鋳物については、結晶粒が粗大になりやすく、ミクロ的な欠陥が含むこともあるので適用外とする。
因みに、60mass%のCu、3mass%のPbを含み、残部がZnと不可避不純物からなるPbを含有する快削黄銅の場合、熱間押出材、熱間鍛造品の常温での引張強さは、360N/mm〜400N/mmで、伸びは35%〜45%である。すなわち、f8は、約450である。また室温の0.2%耐力に相当する応力を負荷した状態で合金を150℃に100時間晒した後のクリープひずみが約4〜5%である。このため、本実施形態の合金の引張強さ、耐熱性は、従来のPbを含有する快削黄銅に比べて非常に高い水準である。すなわち、本実施形態の合金は、各種の耐食性に優れ、室温で高い強度を備え、その高い強度を付加して高温に長時間曝してもほとんど変形しないため、高い強度を生かして薄肉・軽量が可能となる。特に高圧バルブ、高圧水素用バルブなどの鍛造材の場合、冷間加工を施すことができないので、高い強度を活かし、許容圧力の増大、或いは、薄肉、軽量化を図れる。
本実施形態の合金の高温特性は、熱間鍛造材、押出材、冷間加工を施した材料もほぼ同じである。すなわち、冷間加工を施すことにより、0.2%耐力は高まるが、その高い0.2%耐力に相当する荷重を加えた状態であっても合金を150℃に100時間晒した後のクリープひずみが0.4%以下であって高い耐熱性を備えている。高温特性は、β相、γ相、μ相の面積率に主として影響され、それらの面積率が高いほど、悪くなる。また、高温特性は、α相の結晶粒界や、相境界に存在するμ相、γ相の長辺の長さが長いほど悪くなる。
(耐衝撃性)
一般的に、材料が高い強度を有する場合、脆くなる。切削において切り屑の分断性に優れる材料は、ある種の脆さを有すると言われている。衝撃特性と被削性、衝撃特性と強度は、ある面において相反する特性である。
しかしながら、バルブ、継手などの飲料水器具、自動車部品、機械部品、工業用配管等、様々な部材に銅合金が使用される場合、銅合金には、高強度であるだけでなく、衝撃に対して耐える特性が必要である。具体的には、Uノッチ試験片でシャルピー衝撃試験を行った時に、シャルピー衝撃試験値は、好ましくは12J/cm以上であり、より好ましくは14J/cm以上であり、さらに好ましくは16J/cm以上である。特に、冷間加工が施されていない熱間加工材、熱間鍛造材については、シャルピー衝撃試験値は、14J/cm以上が好ましく、より好ましくは16J/cm以上であり、さらに好ましくは18J/cm以上である。本実施形態の合金は、被削性に優れた合金に関わり、シャルピー衝撃試験値は45J/cmを超える必要はない。むしろ、シャルピー衝撃試験値が45J/cmを超えると、靭性、材料の粘りが増すため、切削抵抗が高くなり、切り屑が連なりやすくなるなど被削性が悪くなる。このため、シャルピー衝撃試験値は、好ましくは45J/cm以下である。
硬質のκ相が増えたり、α相に存在する針状のκ相の量が増えたり、κ相中のSn濃度が高くなり、またα相に存在する針状のκ相の量が増えると、強度、被削性は高まるが、靱性すなわち衝撃特性は低下する。このため、強度や被削性と、靱性(衝撃特性)とは、相反する特性である。以下の式により、強度・延性に衝撃特性を加味した強度・延性・衝撃バランス指数f9を定義する。
熱間加工材に関して、引張強さ(S)が550N/mm以上、伸び(E)が12%以上、シャルピー衝撃試験値(I)が12J/cm以上であり、かつSと{(E+100)/100}の1/2乗の積とIの和、f9=S×{(E+100)/100}1/2+Iが、好ましくは665以上、より好ましくは680以上、さらに好ましくは690以上であると、高強度で、延性、および靱性を備えた材料であると言える。
衝撃特性(靭性)と延性は、類似の特性であるが、強度・延性バランス指数f8が650以上であるか、強度・延性・衝撃バランス指数f9(以下、f8、f9を強度バランス指数ともいう)が665以上のいずれかを満足することが好ましい。
本実施形態の合金の衝撃特性は、金属組織とも密接な関係があり、γ相は衝撃特性を悪化させる。また、α相の結晶粒界、α相、κ相、γ相の相境界にμ相が存在すると結晶粒界及び相境界が脆弱化し、衝撃特性が悪くなる。
研究の結果、結晶粒界、相境界において、長辺の長さが25μmを超えるμ相が存在すると、衝撃特性が特に悪くなることが分かった。このため、存在するμ相の長辺の長さは、25μm以下であり、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、最適には2μm以下である。また、同時に、結晶粒界に存在するμ相は、厳しい環境下において、α相やκ相に比べて、腐食されやすく、粒界腐食を生じ、また高温特性を悪くする。なお、μ相の場合、その占有割合が小さくなり、μ相の長さが短く、幅が狭くなると、500倍または1000倍程度の倍率の金属顕微鏡では確認が困難になる。μ相の長さが5μm以下の場合、倍率が2000倍または5000倍の電子顕微鏡で観察すると、μ相が結晶粒界、相境界に観察できる場合がある。
(諸特性とκ相の関係)
延性や靱性との兼ね合いもあるが、α相より硬質のκ相が多くなると、引張強さは増す。同時に、κ相は、良好な被削性機能を有し、耐摩耗性に優れるので、κ相の占める割合は、30%以上が必要であり、好ましくは33%以上、より好ましくは35%以上である。一方、κ相の占める割合が65%を超えると、靱性や延性が著しく低下し、延性の低下に伴って引張強さが低下する。硬質のκ相は、軟質のα相と共存することにより、κ相による被削性への効果が発揮できる。しかし、κ相の割合が65%を超えると、その効果が発揮できないばかりか、切削抵抗が増大し、切屑の分断性が悪くなる。このため、κ相の占める割合は、好ましくは60%以下であり、より好ましくは56%以下であり、さらに好ましくは52%以下である。また、κ相中に適量のSnが含まれると、耐食性が向上し、κ相の被削性、強度、耐摩耗性も向上する。一方で、κ相のSnの含有量が増すにしたがって、κ相の延性や衝撃特性が低下していく。金属組織中のκ相の占める割合と、κ相中のSnの含有量を適量、より好ましい量にすることにより、被削性、強度、延性、衝撃特性、各種耐食性のバランスが取れる。そのためには、関係式f1、f2が重要である。
(α相内のκ相(κ1相))
組成とプロセスの条件により、α相中に、針状のκ相を存在させることができる。具体的には、通常であれば、α相の結晶粒とκ相の結晶粒はそれぞれ独立して存在するが、本実施形態の合金の場合、α相の結晶粒の内部に針状のκ相を複数存在させることができる。このように、α相内にκ相が存在することにより、α相が適切に強化され、延性、靱性を大きく損なうことなく、引張強さ、耐摩耗性、被削性が向上する。
ある側面から観ると、耐キャビテーション性は、耐摩耗性、強度、耐食性に影響され、耐エロージョンコロージョン性は、耐食性、耐摩耗性に影響される。特に、κ相の量が多い場合、α相中にκ1相が存在する場合、及びκ相中のSn濃度が高い場合、耐キャビテーション性は向上する。耐エロージョンコロージョン性を改善するためには、κ相中のSn濃度を上げることが最も効果的であり、α相中にκ1相が存在するとさらに良好なものとなる。耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性に関して、合金のSn濃度より、寧ろκ相中のSn濃度が重要であり、κ相中のSn濃度が0.43mass%、0.47%、0.54%と増すに従って、両方の特性は更に良くなる。また、κ相中のSn濃度と共に重要なのが、合金の耐食性である。何故なら、銅合金を実際に使用している際に、材料が腐食され、腐食生成物が形成されると、それらの腐食生成物は高速流体下などでは、容易に、剥離し、新たな新生面が露出する。そして、腐食、剥離を繰り返す。促進試験(腐食性の加速試験)においても、その傾向は判断できる。
本実施形態の合金では、Snを含有し、かつγ相を2.0%以下、好ましくは、1.5%以下、より好ましくは1.0%以下に制限する。これにより、κ相とα相に固溶するSn量を増加させ、耐食性、耐摩耗性、耐エロージョンコロージョン性、耐キャビテーション性を大幅に向上させている。
<製造プロセス>
次に、本発明の第1、2の実施形態に係る快削性銅合金の製造方法について説明する。
本実施形態の合金の金属組織は、組成だけでなく製造プロセスによっても変化する。熱間押出、熱間鍛造の熱間加工温度、熱処理条件に影響されるだけでなく、熱間加工や熱処理における冷却過程での平均冷却速度(単に、冷却速度とも言う)が影響する。鋭意研究を行った結果、熱間加工や熱処理の冷却過程において、460℃から400℃の温度領域における冷却速度、および575℃から525℃、特に570℃から530℃の温度領域における冷却速度に金属組織が大きく影響されることが分かった。
本実施形態の製造プロセスは、本実施形態の合金にとって必要なプロセスであり、組成との兼ね合いもあるが、基本的に、以下の重要な役割を果たす。
1)耐食性、衝撃特性を悪化させるγ相を減少させ、γ相の長辺の長さを小さくする。
2)耐食性、衝撃特性を悪化させるμ相を制御し、μ相の長辺の長さを制御する。
3)α相内に針状のκ相(κ1相)を出現させる。
4)γ相の量を減少させ、κ相とα相に固溶するSnの量(濃度)を増加させる。
(溶解鋳造)
溶解は、本実施形態の合金の融点(液相線温度)より約100℃〜約300℃高い温度である約950℃〜約1200℃で行われる。鋳造、および鋳物製品は、融点より、約50℃〜約200℃高い温度である約900℃〜約1100℃で行われる。所定の鋳型に鋳込まれ、空冷、徐冷、水冷などの幾つかの冷却手段によって冷却される。そして、凝固後は、様々に構成相が変化する。
(熱間加工、熱間押出)
熱間加工としては、熱間押出、熱間鍛造が挙げられる。
例えば熱間押出に関して、設備能力にもよるが、実際に熱間加工される時の材料温度、具体的には押出ダイスを通過直後の温度(熱間加工温度)が600〜740℃である条件で熱間押出を実施することが好ましい。740℃を超えた温度で熱間加工すると、塑性加工時にβ相が多く形成され、β相が残留することがあり、γ相も多く残留し、冷却後の構成相に悪影響を与える。また、次の工程で熱処理を施しても、熱間加工材の金属組織が影響する。熱間加工温度は、670℃以下が好ましく、645℃以下がより好ましい。熱間押出を645℃以下で実施すると、熱間押出材のγ相は少なくなる。さらに、α相が細かい粒形状となり、強度が向上する。このγ相の少ない熱間押出材を用いて、熱間鍛造材、そして熱間鍛造後熱処理材を作製した場合、その熱間鍛造材、熱処理材のγ相の量はより少なくなる。
一方、熱間加工温度が低い場合、熱間での変形抵抗が高くなる。変形能の点から、熱間加工温度の下限は、好ましくは600℃以上である。押出比が50以下の場合や、比較的単純な形状に熱間鍛造する場合では、600℃以上で熱間加工は実施できる。余裕をみて熱間加工温度の下限は、好ましくは605℃である。設備能力にもよるが、熱間加工温度は、可能な限り低いほうが好ましい。
実測が可能な測定位置に鑑みて、熱間加工温度は、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延後から約3秒後または4秒後の実測が可能な熱間加工材の温度と定義する。金属組織は、大きな塑性変形を受けた加工直後の温度に影響を受ける。
Pbを1〜4mass%の量で含有する黄銅合金は、銅合金の押出材の大半を占めるが、この黄銅合金の場合、押出径が大きいもの、例えば、直径が約38mmを超えるものを除き、通例では、熱間押出後にコイルに巻き取られる。押出中の鋳塊(ビレット)は、押出装置により熱を奪われ温度が低下する。押出材は、巻き取り装置に接触することによって熱を奪われ、更に温度が低下する。押出当初の鋳塊の温度から、または押出材の温度から、約50℃〜100℃の温度の低下は、比較的早い冷却速度で起こる。その後に巻き取られたコイルは、保温効果により、コイルの重量等にもよるが、460℃から400℃までの温度領域を、約2℃/分の比較的ゆっくりとした冷却速度で冷却される。材料温度が約300℃に達した時、それ以降の冷却速度はさらに遅くなるので、ハンドリングを考慮して水冷されることもある。Pbを含有する黄銅合金の場合、約600〜800℃で熱間押出されるが、押出直後の金属組織には、熱間加工性に富むβ相が多量に存在する。押出後の冷却速度が速いと、冷却後の金属組織に多量のβ相が残留し、耐食性、延性、衝撃特性、高温特性が悪くなる。それを避けるために、押出コイルの保温効果等を利用した比較的遅い冷却速度で冷却することにより、β相をα相に変化させ、α相に富んだ金属組織にしている。前記のように、押出直後は、押出材の冷却速度が比較的速いので、その後の冷却を遅くすることにより、α相に富んだ金属組織にしている。なお、特許文献1には、冷却速度の記載はないが、β相を少なくし、β相を孤立させる目的で、押出材の温度が180℃以下になるまで徐冷すると開示している。
以上により、本実施形態の合金は、従来のPbを含有する黄銅合金の製造方法とは全く異なる冷却速度で製造している。
(熱間鍛造)
熱間鍛造の素材としては、主として熱間押出材が用いられるが、連続鋳造棒も用いられる。熱間押出に比べ、熱間鍛造は複雑形状に加工するので、鍛造前の素材の温度は高い。しかし、鍛造品の主要部位となる大きな塑性加工が施された熱間鍛造材の温度、すなわち鍛造直後から約3秒後または4秒後の材料温度は、熱間押出材と同様、600℃から740℃が好ましい。
そして、熱間鍛造後の冷却時、575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、2.5℃/分以下の冷却速度で冷却する。次いで、460℃から400℃の温度領域を2.5℃/分以上、500℃/分以下の冷却速度で冷却する。460℃から400℃の温度領域における冷却速度は、より好ましくは4℃/分以上であり、さらに好ましくは8℃/分以上である。これにより、μ相の増加を防ぐ。
さらに、鍛造後の冷却速度の工夫により、耐食性、被削性等の諸特性を備えた材料を得ることができる。すなわち、熱間鍛造後、約3秒または4秒経過時点での鍛造材の温度は600℃以上740℃以下である。熱間鍛造後の冷却で、575℃から525℃の温度領域、特に570℃から530℃の温度領域において、0.1℃/分以上2.5℃/分以下の冷却速度で冷却すると、γ相が減少する。575℃から525℃までの温度領域での冷却速度の下限値は、経済性を考慮して0.1℃/分以上としており、一方、冷却速度が2.5℃/分を超えると、γ相の量の減少が不十分となる。好ましくは1.5℃/分以下であり、より好ましくは1℃/分以下である。575℃以上525℃以下の温度領域で、2.5℃/分以下の冷却速度で冷却することは、525℃以上575℃以下の温度領域を計算上20分以上保持に相当する条件となり、後述の熱処理と概ね同等の効果が得られ、金属組織の改善が可能となる。
そして、460℃から400℃の温度領域における冷却速度を2.5℃/分以上500℃/分以下であり、好ましくは4℃/分以上、より好ましくは8℃/分以上である。これにより、μ相の増加を防ぐ。このように575〜525℃の温度領域では、2.5℃/分以下、好ましくは1.5℃/分以下の冷却速度で冷却する。そして、460から400℃の温度領域では、2.5℃/分以上、好ましくは4℃/分以上の冷却速度で冷却する。このように、575〜525℃の温度領域では冷却速度を遅くし、460℃から400℃の温度領域では反対に冷却速度を早くすることにより、より好適な材料に仕上がる。なお、次工程または最終工程で、熱処理を行う場合、熱間加工後の、575℃から525℃の温度領域での冷却速度、460℃から400℃の温度領域における冷却速度の制御を必要としない。
(熱処理)
銅合金の主たる熱処理は、焼鈍とも呼ばれ、例えば熱間押出では押出できない小さなサイズに加工する場合、冷間抽伸、或は冷間伸線後に、必要に応じて熱処理が行われ、再結晶させ、すなわち材料を軟らかくする目的で実施される。また、熱間加工材においても、加工ひずみのほとんどない材料が要望される場合や、適正な金属組織にする場合など、必要に応じて熱処理が実施される。
Pbを含有する黄銅合金においても、必要に応じて熱処理が実施される。特許文献1のBiを含む黄銅合金の場合、350〜550℃で、1〜8時間の条件で熱処理される。
本実施形態の合金の場合、まず、525℃以上575℃以下の温度で、20分以上、8時間以下で保持すると、耐食性、衝撃特性、高温特性、強度、延性が向上する。しかし、材料の温度が610℃を超えた条件で熱処理すると、却ってγ相、またはβ相が多く形成され、α相が粗大化する。熱処理条件としては、熱処理の温度は、575℃以下がよい。一方、525℃より低い温度の熱処理でも可能であるが、γ相の減少の度合いが急激に小さくなって時間を要する。少なくとも515℃以上であって、525℃未満の温度では、100分以上、好ましくは120分以上の時間が必要となる。さらに515℃より低い温度で長時間の熱処理は、γ相の減少が僅かに留まるか、またはほとんどγ相が減少せず、条件によってはμ相が出現する。熱処理の時間(熱処理の温度で保持される時間)は、525℃以上575℃以下の温度で、少なくとも、20分以上保持する必要がある。保持時間は、γ相の減少に寄与するので、好ましくは40分以上であり、より好ましくは80分以上である。保持時間の上限は、8時間であり、経済性から480分以下であり、好ましくは240分以下である。または、前記のとおり、515℃以上525℃未満の温度では、100分以上、好ましくは120分以上、480分(8時間)以下である。515℃以上525℃未満の温度での熱処理の利点は、熱処理前の材料のγ相の量が少ない場合、α相、κ相の軟化を最小限にとどめ、α相の粒成長がほとんど起こらなく、より高い強度を得ることができる。
もう1つの熱処理方法として、熱間押出材、熱間鍛造品、熱間圧延材または、冷間で抽伸、伸線など加工された材料が、熱源内を移動する連続熱処理炉の場合、材料温度が610℃を超えると前記のごとく問題である。しかし、一旦、525℃以上、610℃以下、好ましくは595℃以下まで材料の温度を上げ、次いで525℃以上575℃以下の温度領域で20分以上保持することに相当する条件、すなわち、525℃以上575℃以下の温度領域で保持される時間と、保持後、冷却において525℃以上575℃以下の温度域を通過する時間との合計が、20分以上であることにより、金属組織の改善が可能となる。連続炉の場合、最高到達温度で保持される時間が短いので、575℃から525℃までの温度領域での冷却速度は、好ましくは、2.5℃/分以下であり、より好ましくは、2℃/分以下であり、さらに好ましくは1.5℃/分以下である。勿論、575℃以上の設定温度に拘りはなく、例えば、最高到達温度が545℃の場合、545℃から525℃の温度を少なくとも20分以上、545℃に達したときの保持時間が0分の場合、1℃/分以下の冷却速度になる条件で通過させてもよい。連続炉に限らず、保持時間の定義は、最高到達温度マイナス10℃に達した時からの時間とするものとする。
これらの熱処理においても、材料は常温まで冷却されるが、冷却過程において、460℃から400℃の温度領域での冷却速度を2.5℃/分以上500℃/分以下とする必要がある。好ましくは4℃/分以上である。すなわち、500℃付近を境にして冷却速度を早くする必要がある。一般的には、炉からの冷却では、より低い温度の方が、例えば550℃より430℃の方が冷却速度は遅くなる。
2000倍または5000倍の電子顕微鏡で金属組織を観察すると、μ相が存在するか否かの境界の冷却速度は、460℃から400℃までの温度領域において約8℃/分である。特に、諸特性に大きな影響を与える臨界の冷却速度は、約2.5℃/分、或は約4℃/分である。勿論、μ相の出現は、組成にも依存し、Cu濃度が高く、Si濃度が高く、金属組織の関係式f1の値が高いほど、μ相の形成が速く進む。
すなわち、460℃から400℃までの温度領域の冷却速度が約8℃/分より遅いと、粒界に析出するμ相の長辺の長さが約1μmに達し、冷却速度が遅くなるに従ってさらに成長する。そして冷却速度が約5℃/分になると、μ相の長辺の長さが約3μmから10μmになる。冷却速度が約2.5℃/分未満となると、μ相の長辺の長さが15μmを超え、場合によっては25μmを超える。μ相の長辺の長さが約10μmに達すると、1000倍の金属顕微鏡で、μ相が結晶粒界と区別でき、観察することが可能となる。一方、冷却速度の上限は、熱間加工温度などにもよるが、冷却速度が速すぎると(500℃/分超)、高温で形成された構成相がそのまま常温にまで持ちこされ、κ相が多くなり、耐食性、衝撃特性に影響を与えるβ相、γ相が増える。
現在、Pbを含有する黄銅合金が、銅合金の押出材の大半を占める。このPbを含有する黄銅合金の場合、特許文献1にあるように、350〜550℃の温度で必要に応じて熱処理される。下限の350℃は、再結晶し、材料がほぼ軟化する温度である。上限の550℃では、再結晶が完了し、再結晶粒が粗大化し始める。また、温度を上げることによるエネルギー上の問題があり、また550℃超の温度で熱処理するとβ相が顕著に増加する。このため、上限が550℃であると考えられる。一般的な製造設備としては、バッチ炉、または、連続炉が用いられ、バッチ炉の場合は、炉冷後、約300℃または約200℃に達してから空冷される。連続炉の場合は、約300℃に材料温度が下がるまでは比較的ゆっくりとした速度で冷却される。本実施形態の合金の製造方法とは異なる冷却速度で冷却される。
本実施形態の合金の金属組織に関して、製造工程で重要なことは、熱処理後、又は熱間加工後の冷却過程で、460℃から400℃の温度領域における冷却速度である。冷却速度が2.5℃/分未満である場合、μ相の占める割合が増大する。μ相は、主として、結晶粒界、相境界を中心に形成される。厳しい環境下では、μ相は、α相、κ相に比べ耐食性が悪いので、μ相の選択腐食や粒界腐食の原因となる。また、μ相は、γ相と同様に、応力集中源になるか、或いは粒界滑りの原因になり、衝撃特性や、高温強度を低下させる。好ましくは、熱間加工後の冷却において、460℃から400℃の温度領域における冷却速度は、2.5℃/分以上であり、好ましくは4℃/分以上であり、より好ましくは8℃/分以上である。この冷却速度の上限は、熱ひずみの影響を考慮して好ましくは500℃/分以下であり、より好ましくは300℃/分以下である。
(冷間加工工程)
寸法精度を良くするためや、押出されたコイルを直線にするために、熱間押出材に対して冷間加工を施しても良い。例えば熱間押出材に対して、約2%〜約20%、好ましくは約2%〜約15%、より好ましくは約2%〜約10%の加工率で冷間抽伸を施し、熱処理が施される。または熱間加工、次いで熱処理後、約2%〜約20%、好ましくは約2%〜約15%、より好ましくは約2%〜約10%の加工率で、冷間で伸線加工が施され、場合によっては矯正工程が加えられる。最終製品の寸法によっては、冷間加工と熱処理が繰り返し、実施されることもある。なお、矯正設備のみにより棒材の直線度を向上させること、または熱間加工後の鍛造品にショットピーニングを施すことがあり、実質的な冷間加工率は、約0.1%〜約2.5%程度であるが、僅かな冷間加工率であっても、強度は高くなる。
冷間加工の利点は、合金の強度を高めることができる点である。熱間加工材に対して、2%〜20%の加工率での冷間加工と、熱処理を組み合わせることにより、その順序が逆であっても、高い強度、延性、衝撃特性のバランスを取ることができ、用途に応じ、強度重視、延性や靱性重視の特性を得ることができる。
加工率2〜15%の冷間加工後、本実施形態の熱処理を施す場合、熱処理により、α相、κ相の両相は十分回復するが、完全に再結晶せずに、両相に加工ひずみが残留する。同時に、γ相が減少する一方で、α相内に針状のκ相(κ1相)が存在しα相が強化され、そしてκ相が増える。この結果、延性、衝撃特性、引張強さ、高温特性、強度・延性バランス指数の何れもが、熱間加工材を上回る。快削性銅合金として、広く一般的に使用されている銅合金では、2〜15%の冷間加工を施した後に、525℃〜575℃に加熱すると、再結晶により強度は大幅に低下する。
一方、熱処理後、適切な冷間加工率で冷間加工を施すと、延性、衝撃特性は低くなるが、より強度の高い材料に仕上がり、バランス指数f8は670以上または、f9は680以上を達することができる。
このような製造プロセスを採用することにより、耐食性に優れ、衝撃特性、延性、強度、被削性に優れた合金に仕上がる。
(低温焼鈍)
棒材、鍛造品においては、残留応力の除去や棒材の矯正を目的として、再結晶温度以下の温度で棒材、鍛造品を低温焼鈍することがある。その低温焼鈍の条件として、材料温度を240℃以上350℃以下とし、加熱時間を10分から300分とすることが望ましい。さらに低温焼鈍の温度(材料温度)をT(℃)、加熱時間をt(分)とすると、150≦(T−220)×(t)1/2≦1200の関係を満たす条件で低温焼鈍を実施することが好ましい。なお、ここで、所定の温度T(℃)に達する温度より10℃低い温度(T−10)から、加熱時間t(分)をカウント(計測)するものとする。
低温焼鈍の温度が240℃より低い場合、残留応力の除去が不十分であり、また十分に矯正が行えない。低温焼鈍の温度が350℃を超える場合、結晶粒界、相境界を中心にμ相が形成される。低温焼鈍の時間が10分未満であると、残留応力の除去が不十分である。低温焼鈍の時間が300分を超えると、μ相が増大する。低温焼鈍の温度を高くするか、或いは時間を長くするにつれ、μ相が増大し、耐食性、衝撃特性、高温強度が低下する。しかしながら、低温焼鈍を施すことにより、μ相の析出は避けられず、如何にして、残留応力を除去しつつ、μ相の析出を最小限に留めるかがポイントとなる。
なお、(T−220)×(t)1/2の値の下限は、150であり、好ましくは180以上であり、より好ましくは200以上である。また、(T−220)×(t)1/2の値の上限は、1200であり、好ましくは1100以下であり、より好ましくは1000以下である。
(鋳物の熱処理)
最終製品が、鋳物の場合においても、鋳込み後、常温まで冷却された鋳物に対して、以下のいずれかの条件で熱処理を施すことにより金属組織の改善が可能である。
525℃以上575℃以下の温度で20分から8時間保持するか、又は515℃以上525℃未満の温度で100分から8時間保持する。または、一旦、525℃以上、610℃以下まで材料の温度を上げ、次いで525℃以上575℃以下の温度領域で20分以上保持する。または、それに相当する条件、具体的には、525℃以上575℃以下の温度領域を0.1℃/分以上2.5℃/分以下の冷却速度で冷却する。
次いで、460℃から400℃までの温度領域を2.5℃/分以上、500℃/分以下の冷却速度で冷却することにより、金属組織の改善が可能となり、耐食性、耐摩耗性、耐エロージョンコロージョン性を改善させることができる。
なお、鋳物は結晶粒が粗大化しており、鋳物の欠陥が存在するため、引張強さ、伸び、f8、f9の強度バランス特性は適用されない。
このような製造方法によって、本発明の第1,2の実施形態に係る快削性銅合金が製造される。
熱間加工工程、熱処理(焼鈍とも言う)工程、低温焼鈍工程は、銅合金を加熱する工程である。低温焼鈍工程を行わない場合、又は低温焼鈍工程の後に熱間加工工程や熱処理工程を行う場合(低温焼鈍工程が最後に銅合金を加熱する工程とならない場合)、冷間加工の有無に関わらず、熱間加工工程、熱処理工程のうち、後に行う工程が重要となる。熱処理工程の後に熱間加工工程を行うか、または熱間加工工程の後に熱処理工程を行わない場合(熱間加工工程が最後に銅合金を加熱する工程となる場合)、熱間加工工程は、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。熱間加工工程の後に熱処理工程を行うか、または熱処理工程の後に熱間加工工程を行わない場合(熱処理工程が最後に銅合金を加熱する工程となる場合)、熱処理工程は、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。例えば、熱間鍛造の工程の後に熱処理工程を行わない場合、熱間鍛造の工程は、上述した熱間鍛造の加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。熱間鍛造の工程の後に熱処理工程を行う場合、熱処理工程が上述した熱処理の加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。この場合、熱間鍛造の工程は、必ずしも上述した熱間鍛造の加熱条件と冷却条件を満たす必要はない。
低温焼鈍工程では、材料温度が240℃以上350℃以下であり、この温度は、μ相が生成するか否かに関わり、γ相が減少する温度範囲(575〜525℃、525〜515℃)とは関わらない。このように、低温焼鈍工程での材料温度は、γ相の増減に関わらない。このため、熱間加工工程や熱処理工程の後に、低温焼鈍工程を行う場合(低温焼鈍工程が最後に銅合金を加熱する工程となる場合)、低温焼鈍工程の条件と共に、低温焼鈍工程の前の工程(低温焼鈍工程の直前に銅合金を加熱する工程)の加熱条件や冷却条件が重要となり、低温焼鈍工程と低温焼鈍工程の前の工程は、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。詳細には、低温焼鈍工程の前の工程において、熱間加工工程、熱処理工程のうち、後に行う工程の加熱条件や冷却条件も重要となり、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。低温焼鈍工程の後に熱間加工工程や熱処理工程を行う場合、前述したように熱間加工工程、熱処理工程のうち、後に行う工程が重要となり、上述した加熱条件と冷却条件を満たす必要がある。なお、低温焼鈍工程の前又は後に熱間加工工程や熱処理工程を行っても良い。
以上のような構成とされた本発明の第1、第2の実施形態に係る快削性合金によれば、合金組成、組成関係式、金属組織、組織関係式を上述のように規定しているので、厳しい環境下での耐食性、衝撃特性、高温特性に優れている。また、Pbの含有量が少なくても優れた被削性を得ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的要件を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
以下、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果を示す。なお、以下の実施例は、本発明の効果を説明するためのものであって、実施例に記載された構成要件、プロセス、条件が本発明の技術的範囲を限定するものでない。
(実施例1)
<実操業実験>
実操業で使用している低周波溶解炉及び半連続鋳造機を用いて銅合金の試作試験を実施した。表2及び表3に合金組成を示す。なお、実操業設備を用いていることから、表2及び表3に示す合金においては不純物についても測定した。また、製造工程は、表6〜表12に示す条件とした。
(工程No.A1〜A12、AH1〜AH11)
実操業している低周波溶解炉及び半連続鋳造機により直径240mmのビレットを製造した。原料は、実操業に準じたものを使用した。ビレットを長さ800mmに切断して加熱した。熱間押出を行って直径25.6mmの丸棒状とし、コイルに巻き取った(押出材)。次いで、コイルの保温とファンの調整により、575℃〜525℃の温度領域での冷却速度を20℃/分とし、かつ460℃から400℃の温度領域での冷却速度を15℃/分として、押出材を冷却した。400℃以下の温度領域でも約15℃/分の冷却速度で冷却した。温度測定は、熱間押出の終盤を中心に放射温度計を用いて行い、押出機より押出されたときから約3〜4秒後の押出材の温度を測定した。なお、温度測定には、大同特殊鋼株式会社製の型式DS−06DFの放射温度計を用いた。
その押出材の温度の平均値が表6,7に示す温度の±5℃((表6,7に示す温度)−5℃〜(表6,7に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
工程No.AH11では、押出温度を580℃とした。工程AH11以外の工程では、押出温度を640℃とした。押出温度が580℃の工程No.AH11では、準備した3種類の材料とも、最後まで押出できず、断念した。
押出後、工程No.AH1では、矯正のみを実施した。工程No.AH2では、直径25.6mmの押出材を直径25.0mmに冷間で抽伸した。
工程No.A1〜A9、AH3〜AH10では、直径25.6mmの押出材を直径25.0mmに冷間で抽伸した。抽伸材を実操業の電気炉、実験室の電気炉、又は実験室の連続炉で、所定の温度、時間で加熱保持した。または、最高到達温度を変化させ、冷却過程の575℃から525℃の温度領域での冷却速度、または460℃から400℃の温度領域での冷却速度を変化させた。
工程No.A10、A11では、直径25.6mmの押出材を熱処理した。次いで、工程No.A10、A11において、冷間加工率がそれぞれ約5%、約8%の冷間抽伸を施し、そして直径をそれぞれ25mm、24.5mmにし、矯正した(熱処理後に抽伸、矯正)。
工程No.A12は、抽伸後の寸法がφ24.5mmであることを除き、工程No.A1と同じ工程である。
熱処理条件に関して、表6,7に示すように、熱処理の温度を505℃から620℃まで変化させ、保持時間も5分から180分に変化させた。
なお、以下の表において、熱処理前に冷間抽伸を行った場合を“○”で示し、行わなかった場合を“−”で示した。
合金No.S01の関しては、溶湯を保持炉に移し、Sn、Feを追加で含有させた。合金No.S02の関しては、溶湯を保持炉に移し、Pbを追加で含有させた。合金S01,S02に対して工程No.EH1又は工程No.E1を施し、評価した。
(工程No.B1〜B3、BH1〜BH3)
工程No.A10で得られた直径25mmの材料(棒材)を、長さ3mに切断した。次いで、この棒材を型枠に並べ、矯正目的で低温焼鈍した。その時の低温焼鈍条件を表9に示す条件とした。
なお、表中の条件式の値は、以下の式の値である。
(条件式)=(T−220)×(t)1/2
T:温度(材料温度)(℃)、t:加熱時間(分)
結果は、工程No.BH1のみが、準備した3種類の材料とも直線度が悪かったので、以後の特性調査(金属組織の分析を除く)を実施しなかった。
(工程No.C0、C1)
実操業している低周波溶解炉及び半連続鋳造機により直径240mmの鋳塊(ビレット)を製造した。原料は、実操業に準じたものを使用した。ビレットを長さ500mmに切断して加熱した。そして、熱間押出を行って直径50mmの丸棒状の押出材とした。この押出材は、直棒の形状で押出テーブルに押出した。温度測定は、押出の終盤を中心に放射温度計を用いて行い、押出機より押出された時点から約3秒〜4秒後の押出材の温度を測定した。その押出材の温度の平均値が表10に示す温度の±5℃((表10に示す温度)−5℃〜(表10に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。なお、押出後の575℃から525℃の冷却速度および460℃から400℃の冷却速度は、16℃/分、12℃/分であった(押出材)。後述する工程にて、工程No.C0で得られた押出材(丸棒)を鍛造用素材として用いた。工程No.C1は、560℃で、80分加熱し、次いで460℃から400℃の冷却速度を12℃/分とした。
(工程No.D1〜D7、DH1〜DH7)
工程No.C0で得られた直径50mmの丸棒を長さ180mmに切断した。この丸棒を横置きにして、熱間鍛造プレス能力150トンのプレス機で、厚み16mmに鍛造した。所定の厚みに熱間鍛造された直後から約3秒〜約4秒経過後に、放射温度計を用いて温度の測定を行った。熱間鍛造温度(熱間加工温度)は、表11に示す温度±5℃の範囲((表11に示す温度)−5℃〜(表11に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
工程No.D1〜D4、DH2、DH6、DH7では、実験室の電気炉で熱処理を行い、熱処理の温度、時間、575℃から525℃の温度領域での冷却速度、及び460℃から400℃の温度領域での冷却速度を変えて実施した。
工程No.D5、D7、DH3、DH4では、実験室の連続炉で、565℃から590℃で3分間加熱し、冷却速度を変えて実施した。
なお、熱処理の温度は、材料の最高到達温度であり、保持時間としては、最高到達温度から(最高到達温度−10℃)までの温度領域で保持された時間を採用した。
工程No.DH1、D6、DH5では、熱間鍛造後の冷却で、575℃から525℃、および460℃から400℃の温度領域での冷却速度を変えて実施した。なお、いずれも鍛造後の冷却で試料の作製作業を終了した。
<実験室実験>
実験室設備を用いて銅合金の試作試験を実施した。表4及び表5に合金組成を示す。なお、残部はZn及び不可避不純物である。表2及び表3に示す組成の銅合金も実験室実験に用いた。また、製造工程は、表13〜表17に示す条件とした。
(工程No.E1、EH1)
実験室において、所定の成分比で原料を溶解した。直径100mm、長さ180mmの金型に溶湯を鋳込み、ビレットを作製した。なお、実操業している溶解炉からも、溶湯の一部を直径100mm、長さ180mmの金型に鋳込み、ビレットを作製した。このビレットを加熱し、工程No.E1、EH1では直径40mmの丸棒に押出した。
押出試験機が停止直後に放射温度計を用いて温度測定を行った。結果的に押出機より押出されたときから約3秒後または4秒後の押出材の温度に相当する。
工程No.EH1では、押出で試料の作製作業を終了とし、得られた押出材は、後述する工程にて、熱間鍛造素材として用いた。
工程No.E1では、押出後に表13に示す条件で熱処理を行った。
工程No.EH1、E1で得られた押出材は、熱間加工性の評価用素材としても使用した。
(工程No.F1〜F5、FH1、FH2)
工程No.EH1、および後述する工程No.PH1で得られた直径40mmの丸棒を長さ180mmに切断した。工程No.EH1の丸棒又は工程No.PH1の鋳物を横置きにして、熱間鍛造プレス能力150トンのプレス機で、厚み15mmに鍛造した。所定の厚みに熱間鍛造された直後から約3秒〜4秒経過後に、放射温度計を用いて温度の測定を行った。熱間鍛造温度(熱間加工温度)は、表14に示す温度±5℃の範囲((表14に示す温度)−5℃〜(表14に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
熱間鍛造後の575℃から525℃までの温度領域での冷却速度、および460℃から400℃までの温度領域での冷却速度をそれぞれ22℃/分、18℃/分とした。工程No.FH1では、工程No.EH1で得られた丸棒に対して熱間鍛造を施したが、熱間鍛造後の冷却で試料の作製作業を終了とした。
工程No.F1、F2、F3、FH2では、工程No.EH1で得られた丸棒に対して熱間鍛造を施し、熱間鍛造後に熱処理を行った。加熱条件、575℃から525℃までの温度領域での冷却速度、及び460℃から400℃までの温度領域での冷却速度を変えて熱処理した。
工程No.F4、F5では、鍛造素材として金型に鋳込まれた鋳物(No.PH1)を用い、熱間鍛造した。熱間鍛造後に加熱条件、冷却速度を変えて熱処理した。
(工程No.P1〜P3、PH1)
工程No.PH1では、所定の成分比で原料を溶解した溶湯を、内径φ40mmの金型に鋳込み、鋳物を得た。なお、実操業している溶解炉からも、溶湯の一部を内径40mmの金型に鋳込み、鋳物を作製した。
工程No.PCでは、連続鋳造によって直径φ40mmの連続鋳造棒を作製した(表に記載なし)。
工程No.P1では、工程No.PH1の鋳物に対して熱処理を施し、工程No.P2、P3では、工程No.PCの鋳物に対して熱処理を施した。工程No.P1〜P3では、加熱条件、冷却速度を変えて熱処理を実施した。
上述の試験材について、以下の手順にて、金属組織観察、耐食性(脱亜鉛腐食試験/浸漬試験)、被削性について評価を行った。
(金属組織の観察)
以下の方法により金属組織を観察し、α相、κ相、β相、γ相、μ相の面積率(%)を画像解析により測定した。なお、α’相、β’相、γ’相は、各々α相、β相、γ相に含めることとした。
各試験材の棒材、鍛造品を、長手方向に対して平行に、または金属組織の流動方向に対して平行に切断した。次いで表面を研鏡(鏡面研磨)し、過酸化水素とアンモニア水の混合液でエッチングした。エッチングでは、3vol%の過酸化水素水3mLと、14vol%のアンモニア水22mLを混合した水溶液を用いた。約15℃〜約25℃の室温にてこの水溶液に金属の研磨面を約2秒〜約5秒浸漬した。
金属顕微鏡を用いて、主として倍率500倍で金属組織を観察し、金属組織の状況によっては1000倍で金属組織を観察した。5視野の顕微鏡写真において、画像処理ソフト「Photoshop CC」を用いて各相(α相、κ相、β相、γ相、μ相)を手動で塗りつぶした。次いで画像解析ソフト「WinROOF2013」で2値化し、各相の面積率を求めた。詳細には、各相について、5視野の面積率の平均値を求め、平均値を各相の相比率とした。そして、全ての構成相の面積率の合計を100%とした。
γ相、μ相の長辺の長さは、以下の方法により測定した。主として500倍、判別し難い場合は1000倍の金属顕微鏡写真を用い、1視野において、γ相の長辺の最大長さを測定した。この作業を任意の5視野において行い、得られたγ相の長辺の最大長さの平均値を算出し、γ相の長辺の長さとした。同様に、μ相の大きさに応じて、500倍または1000倍の金属顕微鏡写真、或いは2000倍または5000倍の2次電子像写真(電子顕微鏡写真)を用い、1視野において、μ相の長辺の最大長さを測定した。この作業を任意の5視野において行い、得られたμ相の長辺の最大長さの平均値を算出し、μ相の長辺の長さとした。
具体的には、約70mm×約90mmのサイズにプリントアウトした写真を用いて評価した。500倍の倍率の場合、観察視野のサイズは276μm×220μmであった。
相の同定が困難な場合は、FE−SEM−EBSP(Electron Back Scattering Diffracton Pattern)法によって、倍率500倍又は2000倍で、相を特定した。
また、冷却速度を変化させた実施例においては、主として結晶粒界に析出するμ相の有無を確認するために、日本電子株式会社製のJSM−7000Fを用いて、加速電圧15kV、電流値(設定値15)の条件、および日本電子株式会社製のJXA−8230を用いて、加速電圧20kV、電流値3.0×10−11Aの条件で2次電子像を撮影し、2000倍または5000倍の倍率で金属組織を確認した。2000倍または5000倍の2次電子像でμ相が確認できても、500倍または1000倍の金属顕微鏡写真でμ相が確認できない場合は、面積率には算定しなかった。すなわち、2000倍または5000倍の2次電子像で観察されたが500倍または1000倍の金属顕微鏡写真では確認できなかったμ相は、μ相の面積率には含めなかった。何故なら、金属顕微鏡で確認できないμ相は、主として長辺の長さが5μm以下、幅は0.3μm以下であるので、面積率に与える影響は、小さいためである。
μ相の長さは、任意の5視野で測定し、前述したように5視野の最長の長さの平均値をμ相の長辺の長さとした。μ相の組成確認は、付属のEDSで行った。なお、μ相が500倍または1000倍で確認できなかったが、より高い倍率でμ相の長辺の長さが測定された場合、表中の測定結果において、μ相の面積率は0%であるがμ相の長辺の長さは記載している。
(μ相の観察)
μ相に関しては、熱間押出後や熱処理後、460℃〜400℃の温度領域を8℃/分、または15℃/分以下の冷却速度で冷却すると、μ相の存在が確認できた。図1は、試験No.T05(合金No.S01/工程No.A3)の2次電子像の一例を示す。α相の結晶粒界に、μ相が析出していることが確認された(白灰色の細長い相)。
(α相中に存在する針状のκ相)
α相中に存在する針状のκ相(κ1相)は、幅が約0.05μmから約0.5μmで、細長い直線状、針状の形態である。幅が0.1μm以上であれば、金属顕微鏡でも、その存在は、確認できる。
図2は、代表的な金属顕微鏡写真として、試験No.T03(合金No.S01/工程No.A1)の金属顕微鏡写真を示す。図3は、代表的なα相内に存在する針状のκ相の電子顕微鏡写真として、試験No.T03(合金No.S01/工程No.A1)の電子顕微鏡写真を示す。なお、図2,3の観察箇所は同一ではない。銅合金においては、α相に存在する双晶と混同する恐れがあるが、α相中に存在するκ相は、κ相自身の幅が狭く、双晶は2つで1組になっているので、区別がつく。図2の金属顕微鏡写真において、α相内に、細長く直線的な針状の模様の相が認められる。図3の二次電子像(電子顕微鏡写真)において、明瞭に、α相内に存在する模様が、κ相であることが確認される。κ相の厚みは、約0.1〜約0.2μmであった。
α相中での針状のκ相の量(数)は、金属顕微鏡で判断した。金属構成相の判定(金属組織観察)で撮影された倍率500倍または1000倍の5視野の顕微鏡写真を用いた。縦が約70mm、横が約90mmの寸法にプリントアウトした拡大視野において、針状のκ相の数を測定し、5視野の平均値を求めた。針状のκ相の数の5視野での平均値が20以上70未満の場合、明瞭に針状のκ相を有すると判断し、“△”と表記した。針状のκ相の数の5視野での平均値が70以上の場合、多くの針状のκ相を有すると判断し、“○”と表記した。針状のκ相の数の5視野での平均値が19以下の場合、針状のκ相をほとんど有していないと判断し、“×”と表記した。写真で確認できない針状のκ1相の数は含めなかった。500倍の倍率の場合、観察視野のサイズは276μm×220μmであった。
(κ相に含有されるSn量、P量)
κ相に含有されるSn量、P量をX線マイクロアナライザーで測定した。測定には、日本電子製「JXA−8200」を用いて、加速電圧20kV、電流値3.0×10−8Aの条件で行った。
試験No.T101(合金No.S03/工程No.AH1)、試験No.T103(合金No.S03/工程No.A1)、試験No.T130(合金No.S03/工程No.BH3)について、X線マイクロアナライザーで、各相のSn、Cu、Si、Pの濃度の定量分析を行った結果を表18〜表20に示す。
μ相については、JSM−7000Fに付属のEDSで測定し、視野内で長辺の長さが、大きい部分を測定した。
上述の測定結果から、以下のような知見を得た。
1)製造方法によって各相に配分される濃度が少し異なる。
2)κ相へのSnの配分はα相の約1.3倍である。
3)γ相のSn濃度は、α相のSn濃度の約8〜約11倍である。
4)κ相、γ相、μ相のSi濃度は、α相のSi濃度に比べ、各々約1.5倍、約2.2倍、約2.7倍である。
5)μ相のCu濃度は、α相、κ相、γ相、μ相に比べ高い。
6)γ相の割合が多くなると、必然的に、κ相のSn濃度が低くなる。
7)κ相へのPの配分はα相の約2倍である。
8)γ相、μ相のP濃度は、α相のP濃度の約2.5倍、約3.5倍である。
9)同じ組成であっても、γ相の割合が減少すると、α相のSn濃度は、0.34mass%から0.44mass%に約1.3倍に高まる。同様にκ相のSn濃度は、0.44mass%から0.58mass%に約1.3倍に高まる。κ相のSnの増加分が、α相のSnの増加分を上回った(合金No.S03)。
(機械的特性)
(引張強さ)
各試験材をJIS Z 2241の10号試験片に加工し、引張強さの測定を行った。熱間押出材或いは熱間鍛造材の引張強さが、550N/mm以上、好ましくは565N/mm以上、575N/mm以上、さらには590N/mm以上であれば、快削性銅合金の中でも最高の水準であり、各分野で使用される部材の許容応力の向上、または薄肉・軽量化を図ることができる。
なお、本実施形態の合金は、高い引張強さを有する銅合金であるので、引張試験片の仕上げ面粗さが、伸びや引張強さに影響を与える。このため、下記の条件を満たすように引張試験片を作製した。
(引張試験片の仕上げ面粗さの条件)
引張試験片の標点間の任意の場所の基準長さ4mm当たりの断面曲線において、Z軸の最大値と最小値の差が2μm以下であること。断面曲線とは、測定断面曲線にカットオフ値λsの低減フィルタを適用して得られる曲線をさす。
(高温クリープ)
各試験片から、JIS Z 2271の直径10mmのつば付き試験片を作製した。室温の0.2%耐力に相当する荷重を試験片にかけた状態で、150℃で100時間経過後のクリープひずみを測定した。0.2%耐力すなわち常温における標点間の伸びで、0.2%の塑性変形に相当する荷重を加え、この荷重をかけた状態で試験片を150℃、100時間保持した後のクリープひずみが0.4%以下であれば良好である。このクリープひずみが0.3%以下、さらには0.2%以下であれば、銅合金では最高の水準であり、例えば、高温で使用されるバルブ、エンジンルームに近い自動車部品では、信頼性の高い材料として使用できる。
(衝撃特性)
衝撃試験では、押出棒材、鍛造材およびその代替材、鋳造材、連続鋳造棒材から、JIS Z 2242に準じたUノッチ試験片(ノッチ深さ2mm、ノッチ底半径1mm)を採取した。半径2mmの衝撃刃でシャルピー衝撃試験を行い、衝撃値を測定した。
なお、Vノッチ試験片とUノッチ試験片で行ったときの衝撃値の関係は、およそ以下のとおりである。
(Vノッチ衝撃値)=0.8×(Uノッチ衝撃値)−3
(被削性)
被削性の評価は、以下のように、旋盤を用いた切削試験で評価した。
直径50mm、40mm、又は25.6mmの熱間押出棒材、直径25mm(24.5mm)の冷間抽伸材、および鋳物については、切削加工を施して直径を18mmとして試験材を作製した。鍛造材については、切削加工を施して直径を14.5mmとして試験材を作製した。ポイントノーズ・ストレート工具、特にチップブレーカーの付いていないタングステン・カーバイド工具を旋盤に取り付けた。この旋盤を用い、乾式下にて、すくい角−6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度150m/分、切削深さ1.0mm、送り速度0.11mm/revの条件で、直径18mm又は直径14.5mmの試験材の円周上を切削した。
工具に取り付けられた3部分から成る動力計(三保電機製作所製、AST式工具動力計AST−TL1003)から発せられるシグナルが、電気的電圧シグナルに変換され、レコーダーに記録された。次にこれらのシグナルは切削抵抗(N)に変換された。従って、切削抵抗、特に切削の際に最も高い値を示す主分力を測定することにより、合金の被削性を評価した。
同時に切屑を採取し、切屑形状により被削性を評価した。実用の切削で最も問題となるのは、切屑が工具に絡みついたり、切屑が嵩張ることである。このため、切屑形状が1巻き以下の切屑しか生成しなかった場合を良好“○”(good)と評価した。切屑形状が1巻きを超えて3巻きまでの切屑が生成した場合を可“△”(fair)と評価した。切屑形状が3巻きを超える切屑が生成した場合を“×”(poor)と評価した。このように、3段階の評価をした。
切削抵抗は、材料の強度、例えば、剪断応力、引張強さや0.2%耐力にも依存し、強度が高い材料ほど切削抵抗が高くなる傾向がある。切削抵抗がPbを1〜4%含有する快削黄銅棒の切削抵抗に対して約10%から約20%高くなる程度であれば、実用上十分許容される。本実施形態においては、Pbの含有量を最小限に留めながら、α相内にκ1相を存在させ、κ相中のSn、Pの濃度を高め、高度な被削性を目指しているので、切削抵抗が125Nを境(境界値)として評価した。詳細には、切削抵抗が125N以下であれば、被削性に優れる(評価:○)と評価した。切削抵抗が125N超え145N以下であれば、被削性を“可(△)”と評価した。切削抵抗が145N超えであれば、“不可(×)”と評価した。因みに、58mass%Cu−42mass%Zn合金に対して工程No.E1を施して試料を製作して評価したところ、切削抵抗は185Nであった。
(熱間加工試験)
直径50mm、直径40mm、直径25.6mm、または直径25.0mmの棒材、および鋳物を切削によって直径15mmとし、長さ25mmに切断し、試験材を作製した。試験材を740℃又は635℃で20分間保持した。次いで試験材を縦置きにして、熱間圧縮能力10トンで電気炉が併設されているアムスラー試験機を用いて、ひずみ速度0.02/秒、加工率80%で高温圧縮し、厚み5mmとした。
熱間加工性の評価は、倍率10倍の拡大鏡を用い、0.2mm以上の開口した割れが観察された場合、割れ発生と判断した。740℃、635℃の2条件とも割れが発生しなかった時を“○”(good)と評価した。740℃で割れが発生したが635℃で割れが発生しなかった場合を“△”(fair)と評価した。740℃で割れが発生しなかったが635℃で割れが発生した場合を“▲”(fair)と評価した。740℃、635℃の2条件とも割れが発生した場合を“×”(poor)と評価した。
740℃、635℃の2条件で割れが発生しなかった場合、実用上の熱間押出、熱間鍛造に関し、実施上、多少の材料の温度低下が生じても、また、金型やダイスと材料が瞬時であるが接触し、材料の温度低下があっても、適正な温度で実施すれば、実用上問題は無い。740℃、635℃のいずれかの温度で割れが生じた場合、熱間加工が実施可能と判断されるが、実用上の制約を受け、より狭い温度範囲で管理する必要がある。740℃、635℃の両者の温度で、割れが生じた場合は、実用上大きな問題があると判断され、不可である。
(脱亜鉛腐食試験1,2)
試験材が押出材の場合、試験材の暴露試料表面が押出し方向に対して垂直となるよう試験材をフェノール樹脂材に埋込んだ。試験材が鋳物材(鋳造棒)の場合、試験材の暴露試料表面が鋳物材の長手方向に対して垂直となるよう試験材をフェノール樹脂材に埋込んだ。試験材が鍛造材の場合、試験材の暴露試料表面が鍛造の流動方向に対して垂直となるようにしてフェノール樹脂材に埋込んだ。
試料表面を1200番までのエメリー紙により研磨し、次いで、純水中で超音波洗浄してブロワーで乾燥した。その後、各試料を、準備した浸漬液に浸漬した。
試験終了後、暴露表面が、押出し方向、長手方向、又は鍛造の流動方向に対して直角を保つように、試料をフェノール樹脂材に再び埋め込んだ。次に、腐食部の断面が最も長い切断部として得られるように試料を切断した。続いて試料を研磨した。
金属顕微鏡を用い、500倍の倍率で顕微鏡の視野10ヶ所(任意の10箇所の視野)にて、腐食深さを観察した。最も深い腐食ポイントが最大脱亜鉛腐食深さとして記録された。
脱亜鉛腐食試験1では、浸漬液として、以下の試験液1を準備して上記の作業を実施した。脱亜鉛腐食試験2では、浸漬液として、以下の試験液2を準備して上記の作業を実施した。
試験液1は、酸化剤となる消毒剤が過剰に投与され、pHが低く厳しい腐食環境を想定し、さらにその腐食環境での加速試験を行うための溶液である。この溶液を用いると、その厳しい腐食環境での約75〜100倍の加速試験となることが推定される。本実施形態では、厳しい環境下での優れた耐食性を目指すため、最大腐食深さが80μm以下であれば、耐食性は良好である。優れた耐食性が求められる場合は、最大腐食深さは、好ましくは60μm以下であり、さらに好ましくは40μm以下であると良いと推定される。
試験液2は、塩化物イオン濃度が高く、pHが低く、厳しい腐食環境の水質を想定し、さらにその腐食環境での加速試験を行うための溶液である。この溶液を用いると、その厳しい腐食環境での約30〜50倍の加速試験となることが推定される。最大腐食深さが50μm以下であれば、耐食性は良好である。優れた耐食性が求められる場合は、最大腐食深さは、好ましくは35μm以下であり、さらに好ましくは25μm以下であると良いと推定される。本実施例では、これらの推定値をもとに評価した。
脱亜鉛腐食試験1では、試験液1として、次亜塩素酸水(濃度30ppm、pH=6.8、水温40℃)を用いた。以下の方法で試験液1を調整した。蒸留水40Lに市販の次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を投入し、ヨウ素滴定法による残留塩素濃度が30mg/Lになるように調整した。残留塩素は時間とともに、分解し減少するため、残留塩素濃度を常時ボルタンメトリー法により測定しながら、電磁ポンプにより次亜塩素酸ナトリウム投入量を電子制御した。pHを6.8に下げるために二酸化炭素を流量調整しながら投入した。水温は40℃になるように温度コントローラーにて調整した。このように残留塩素濃度、pH、水温を一定に保ちながら、試験液1中に試料を2ヶ月間保持した。次いで水溶液中から試料を取り出して、その脱亜鉛腐食深さの最大値(最大脱亜鉛腐食深さ)を測定した。
脱亜鉛腐食試験2では、試験液2として、表21に示す成分の試験水を用いた。試験液2は、蒸留水に市販の薬剤を投入し調整した。腐食性の高い水道水を想定し、塩化物イオン80mg/L、硫酸イオン40mg/L、硝酸イオン30mg/Lを投入した。アルカリ度および硬度は日本の一般的な水道水を目安にそれぞれ30mg/L、60mg/Lに調整した。pHを6.3に下げるために二酸化炭素を流量調整しながら投入し、溶存酸素濃度を飽和させるために酸素ガスを常時投入した。水温は室温と同じ25℃で行なった。このようにpH、水温を一定に保ち、溶存酸素濃度を飽和状態としながら、試験液2中に試料を3ヶ月間保持した。次いで、水溶液中から試料を取出して、その脱亜鉛腐食深さの最大値(最大脱亜鉛腐食深さ)を測定した。
(脱亜鉛腐食試験3:ISO6509脱亜鉛腐食試験)
本試験は、脱亜鉛腐食試験方法として、多くの国々で採用されており、JIS規格においても、JIS H 3250で規定されている。
脱亜鉛腐食試験1,2と同様に、試験材をフェノール樹脂材に埋込んだ。例えば暴露試料表面が押出材の押出し方向に対して直角となるようにしてフェノール樹脂材に埋込んだ。試料表面を1200番までのエメリー紙により研磨し、次いで、純水中で超音波洗浄して乾燥した。
次いで、各試料を、1.0%の塩化第2銅2水和塩(CuCl・2HO)の水溶液(12.7g/L)中に浸漬し、75℃の温度条件下で24時間保持した。その後、水溶液中から試料を取出した。
暴露表面が押出し方向、長手方向、又は鍛造の流動方向に対して直角を保つように、試料をフェノール樹脂材に再び埋め込んだ。次に、腐食部の断面が最も長い切断部として得られるように試料を切断した。続いて試料を研磨した。
金属顕微鏡を用い、200倍または500倍の倍率で、顕微鏡の視野10ヶ所にて、腐食深さを観察した。最も深い腐食ポイントが最大脱亜鉛腐食深さとして記録された。
なお、ISO 6509の試験を行ったとき、最大腐食深さが200μm以下であれば、実用上の耐食性に関して問題ないレベルとされている。特に優れた耐食性が求められる場合は、最大腐食深さは、好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下とされている。
本試験において、最大腐食深さが200μmを超える場合は“×”(poor)と評価した。最大腐食深さが50μm超え、200μm以下の場合を“△”(fair)と評価した。最大腐食深さが50μm以下の場合を“○”(good)と厳しく評価した。本実施形態は、厳しい腐食環境を想定しているために厳しい評価基準を採用し、評価が“○”である場合のみを、耐食性が良好であるとした。
(耐キャビテーション性)
キャビテーションとは、液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる現象を言う。耐キャビテーション性とは、泡の発生と消滅による損傷の受け難さを意味する。
直接式磁わい振動試験により耐キャビテーション性を評価した。切削加工により試料の直径を16mmとし、次いで暴露試験面を#1200の耐水研磨紙で研摩し、試料を作製した。試料を振動子の先端にあるホーンに取り付けた。振動数:18kHz、振幅:40μm、試験時間:2時間の条件で、試料を試験液中で超音波振動させた。試料表面を浸漬する試験液として、イオン交換水を用いた。イオン交換水を入れたビーカーを冷却し、水温を20℃±2℃(18℃〜22℃)とした。試験前後の試料の重量を測定し、その重量差によって耐キャビテーション性を評価した。重量差(重量の減少量)が0.03gを超えた場合、表面に損傷があり、耐キャビテーション性が乏しく不可と判断した。重量差(重量の減少量)が0.005gを超え0.03g以下の場合、表面損傷も軽微であり、耐キャビテーション性が良いと考えられる。しかし、本実施形態は優れた耐キャビテーション性を目指すので不可と判断した。重量差(重量の減少量)が0.005g以下の場合、ほとんど表面の損傷もなく、耐キャビテーション性に優れていると判断した。重量差(重量の減少量)が0.003g以下の場合、耐キャビテーション性に特に優れていると判断できる。
因みに、同じ試験条件で59Cu−3Pb−38ZnのPbを含む快削黄銅を試験した結果、重量の減少量は、0.10gであった。
(耐エロージョンコロージョン性)
エロージョンコロージョンとは、流体による化学的な腐食現象と、物理的な削り取られ現象が組み合わさり、局所的に急速に腐食が進む現象を言う。耐エロージョンコロージョン性は、この腐食の受け難さを意味する。
試料表面を直径20mmのフラットな真円形状とし、次いで、表面を♯2000のエメリー紙により研磨し、試料を作製した。口径1.6mmのノズルを使用して、約9m/秒の流速(試験方法1)又は約7m/秒の流速(試験方法2)で試験水を試料に当てた。詳細には、試料表面の中心に、試料表面と垂直方向から水を当てた。また、ノズル先端と試料表面の中心との間の距離を0.4mmとした。この条件で試料に試験水を336時間当てた後の腐食減量を測定した。
試験水として、次亜塩素酸水(濃度30ppm、pH=7.0、水温40℃)を用いた。試験水は、以下の方法により作製した。蒸留水40Lに市販の次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を投入した。ヨウ素滴定法による残留塩素濃度が30mg/Lになるように次亜塩素酸ナトリウムの量を調整した。残留塩素は時間とともに分解し減少する。このため、残留塩素濃度を常時ボルタンメトリー法により測定しながら、電磁ポンプにより次亜塩素酸ナトリウム投入量を電子制御した。pHを7.0に下げるために二酸化炭素を流量調整しながら投入した。水温は40℃になるように温度コントローラーにて調整した。このように残留塩素濃度、pH、水温を一定に保った。
試験方法1において、腐食減量が75mgを超えた場合、耐エロージョンコロージョン性が悪いと評価した。腐食減量が50mg超え、75mg以下の場合、耐エロージョンコロージョンが良好であると評価した。腐食減量が30mg超え、50mg以下の場合、耐エロージョンコロージョンが優れると評価した。腐食減量が30mg以下の場合、耐エロージョンコロージョンが特に優れると評価した。
同様に試験方法2において、腐食減量が60mgを超えた場合、耐エロージョンコロージョン性が悪いと評価した。腐食減量が40mg超え、60mg以下の場合、耐エロージョンコロージョンが良好であると評価した。腐食減量が25mg超え、40mg以下の場合、耐エロージョンコロージョンが優れると評価した。腐食減量が25mg以下の場合、耐エロージョンコロージョンが特に優れると評価した。
評価結果を表22〜表69に示す。
試験No.T01〜T164は、実操業の実験での結果である。試験No.T201〜T258は、実験室の実験での実施例に相当する結果である。試験No.T301〜T329は、実験室の実験での比較例に相当する結果である。
なお、表中のμ相の長辺の長さに関して、値“40”は、40μm以上を意味する。また、表中のγ相の長辺の長さに関して、値“150”は、150μm以上を意味する。
以上の実験結果は、以下のとおりに纏められる。
1)本実施形態の組成を満足し、組成関係式f1、f2、f3、金属組織の要件、および組織関係式f4〜f7を満たすことにより、少量のPbの含有で、良好な被削性が得られ、良好な熱間加工性、過酷な環境下での優れた耐食性(以下、耐食性と称す)、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、且つ高強度で、良好な衝撃特性、高温特性、高いバランス指数を持ち合せる熱間押出材、熱間鍛造材が得られることが確認できた(合金No.S01、S02、S03、S21〜S35)。
2)Sb、Asの含有は、さらに過酷な条件下での耐食性を向上させることが確認できた(合金No.S41〜S43)。
3)Biの含有により、さらに切削抵抗が低くなることが確認できた(合金No.S42〜S43)。
4)Cu含有量が少ないと、被削性は良好であったが、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、衝撃特性、延性、高温特性が悪かった。Cu含有量が多いと、被削性、熱間加工性、延性、衝撃特性が悪かった(合金No.S52、S55、S65)。
5)Si含有量が多いと、被削性、伸び、衝撃特性、強度バランス指数が悪かった。Si含有量が少ないと、被削性、耐キャビテーション、耐エロージョンコロージョンが悪く、強度が低かった(合金No.S53、S56)。
6)Sn含有量が0.85mass%より多いと、γ相の面積率が2%より多くなり、耐キャビテーション、耐エロージョンコロージョンは良好であったが、伸び、衝撃特性、強度バランス指数が悪かった。一方、Sn含有量が0.40mass%より少ないと、耐キャビテーション、耐エロージョンコロージョン性が悪かった(合金No.S59、S58、S64)。
7)P含有量が多いと、延性、衝撃特性が悪く、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が悪くなった。一方、P含有量が少ないか、又はPが含まれていない場合、過酷な環境下での脱亜鉛腐食深さが大きく、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、被削性が悪くなった(合金No.S60、S63、S64)。
8)実操業で行われる程度の不可避不純物を含有しても、諸特性に大きな影響を与えないことが確認できた(合金No.S01、S02、S03)。
9)合金No.S01に、Feをさらに含有させると、κ相の割合が低くなり、被削性、引張強さが低下し、さらにFeの量を増すと、被削性、引張強さが低下に加え、耐食性、耐エロージョンコロージョン性が悪くなり、伸び、衝撃値、強度バランス指数が少し下がった。但し、被削性、耐食性、耐エロージョンコロージョン性は、合格の範囲内であった(合金No.S01、S11、S12)。本実施形態の組成範囲外であるが、不可避不純物の限度を超えるFeを含有すると、主としてFeとSiの金属間化合物を形成したものと推測され、前記特性の低下を招いたと考えられる。
10)合金No.S02に、Pbをさらに含有させると、被削性は向上したが、その他の引張強さ、伸び、衝撃値、高温特性、耐キャビテーション性、強度バランス指数などほとんどの特性が少し悪くなり、さらにPbの量を増すと、前記の特性がさら悪くなった(合金No.S02、S13、S14)。被削性を満足できれば、Pbの含有は、最小限に留めるべきである。なお、Pbの含有量が、0.002mass%であると、切削抵抗が高くなり、切削切屑の分断が悪くなった(合金No.S71)。
11)各元素の組成を満たしていても、組成関係式f1の値が、75.0以上かつ78.2以下、好ましくは、75.5以上、または77.7以下であると、Snを0.40〜0.85%含有しても、γ相率が2%以下の銅合金が得られ、被削性、耐食性、強度、衝撃特性、高温特性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が良好であった(合金No.S01〜S03、S21〜S35、工程No.E1、F1等)。
12)各元素の組成を満たし、組成関係式f2の値が低いと、γ相が多くなるか、またはγ相の長辺が長くなった。被削性は良好であったが、β相が存在するものも有り、熱間加工性、耐食性、伸び、衝撃特性、高温特性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が悪く、強度も低くなった。組成関係式f2の値が高いと、κ1相が存在し難くなり、熱間加工性、被削性が悪くなり、強度も低くなった(合金No.S52〜S54、S66〜S68)。
13)f1を満たしても、f2を満たさない場合や、f2を満たしても、f1を満たさない場合があり、これらの場合、満たさない特性が優先される(合金No.S54、S58、S66〜S68)。したがって、f1、f2の両関係式を満たすことが必須である。
Sn、Pの量が適正であっても、関係式f3を満たさないと、耐食性、耐キャビテーション性が悪くなり、またSn含有量に比して耐エロージョンコロージョン性が悪くなり、衝撃特性、延性、強度、高温特性、被削性のすべての特性に影響を与えた(合金No.S61、S64)。
14)金属組織において、γ相の面積率が2%より多い場合、または、γ相の長辺の長さが50μmより長い場合、被削性は良好であったが、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、衝撃特性、高温特性、引張強さ、強度バランス指数が悪かった。特にγ相が多いと、過酷な環境下での脱亜鉛腐食試験においてγ相の選択腐食が生じた(合金No.S01、工程No.AH1、AH2、AH6、C0、DH1、DH5、EH1、FH1、合金No.S51等)。γ相率が、1.5%以下、更には0.8%以下であり、かつγ相の長辺の長さが40μm以下、さらには、30μm以下であると、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、衝撃特性、高温特性、引張強さ、強度バランス指数がさらによくなった(合金No.S01〜S03、S21〜S35、工程No.E1、F1)。
15)μ相の面積率が2%より多いと、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、衝撃特性、高温特性、強度バランス指数が悪くなった。過酷な環境下での脱亜鉛腐食試験において、粒界腐食やμ相の選択腐食が生じた(合金No.S01、工程No.AH4、AH8、BH3)。μ相率が、1.0%以下、更には0.5%以下であり、かつμ相の長辺の長さが15μm以下、さらには、5μm以下であると、耐食性、高温特性、引張強さ、強度バランス指数がさらによくなった(合金No.S01〜S03、工程No.A3、A4、AH3、B1、B3、D2、D3、DH2、FH2)。
β相の面積率が0.3%より多いと、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、伸び、衝撃特性、高温特性が悪かった(合金No.S52、S67)。
κ相の面積率が65%より多いと、被削性、伸び、衝撃特性が悪かった。一方、κ相の面積率が30%より少ないと、被削性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が悪かった(合金No.S56、S53)。
α相内にκ相が存在し、κ1相の存在が増加すると、耐食性、強度、伸び、強度バランス指数、衝撃特性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、高温特性が向上し、大幅にγ相が減少しても良好な被削性が維持できた。κ1相は、α相の強化や、切削抵抗の減少、切屑分断性に繋がっているように推測される(合金No.S01〜03、工程No.AH1、AH2、A1、A6)。なお、関係式f2は、針状のκ相の量に影響を与えた(合金No.S54、S66、S68S30等)。
16)組織関係式f6=(γ)+(μ)が3%を超える場合、またはf4=(α)+(κ)が96.5%より小さい場合、耐食性、衝撃特性、高温特性が悪かった(合金No.S52)。
組織関係式f7=1.05(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)が、35より小さいか、または70より大きいと、被削性が悪かった(合金No.S56、S53、S54)。
17)κ相に含有されるSn量が0.43mass%より低いと、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が悪くなった。合金のSn含有量が同じであっても、γ相の占める割合により、κ相中のSn濃度が大きく異なり、エロージョンコロージョン試験の減量(耐エロージョンコロージョン性)に大きな差が生じた。耐エロージョンコロージョン性は、f1、f2、f3、α相内の針状のκ相の有無にも影響されるが、耐食性と、κ相中のSn濃度に依存し、κ相中のSn濃度の約0.45%が、クリティカルなSn量のように思われる(合金No.S01、工程No.AH1、A1、及び合金No.S33、工程No.FH1、F1)。
ほぼ同じκ相率の場合、κ相のSn濃度が低いと、切削抵抗が高かった(合金No.S29、S32、S59等)。
18)組成の要件、金属組織の要件をすべて満たしておれば、引張強さが550N/mm以上、室温での0.2%耐力を負荷して150℃で100時間保持したときのクリープひずみが、殆どが0.3%以下で良好であった(合金No.S01、S02、S03等)。
19)組成の要件、金属組織の要件をすべて満たしておれば、シャルピー衝撃試験値が12J/cm以上であった。また、熱間押出、熱間鍛造材は、シャルピー衝撃試験値が14J/cm以上であった(合金No.S01、S21〜S35、工程No.E1、F1等)。
組成の要件、金属組織の要件をすべて満たしておれば、強度バランス指数f8は、650以上、f9は、665以上であった(合金No.S01)。
ISO6509の試験方法では、β相を約0.5%以上、またはγ相を約5%以上含む合金は不合格(評価:△、×)であったが、γ相を3〜5%含有し、μ相を約3%含む合金は合格(評価:○)であった。本実施形態で採用した腐食環境は、厳しい環境を想定したものであることの裏付けである(合金No.S01、S02、S03、S52、S67)。
20)量産設備を用いた材料と実験室で作製した材料の評価では、ほぼ同じ結果が得られた(合金No.S01、S02、工程No.F1、E1、C1、D1)。
21)製造条件について、以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たすと、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を備え、良好な強度、延性、強度バランス指数、衝撃特性、高温特性を持ち合せる熱間押出材、熱間鍛造材得られることが確認できた。鍛造素材として連続鋳造棒を用いても良好な特性を備える鍛造品が得られた。耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性を備える鋳物も確認できた(合金No.S01、工程No.A1〜A9、D1〜D7、F1〜F5、P1〜P3)。
(1)熱間加工温度が600℃以上、740℃以下で熱間加工が行われた。次いで熱間加工材を525℃〜575℃で、20分以上480分以下で熱処理するか、または、515℃以上525℃で、100分以上、480分以下で熱処理した。次いで460℃から400℃までの温度範囲を2.5℃/分以上500℃/分以下の冷却速度で冷却した。
(2)610℃以下の最高到達温度で熱処理した。次いで、575℃から525℃の温度範囲を2.5℃/分以下の冷却速度で冷却した。次いで460℃から400℃までの温度範囲を2.5℃/分以上500℃/分以下の冷却速度で冷却した。
(3)鍛造後の冷却において、575℃から525℃の温度範囲を2.5℃/分以下の冷却速度で冷却した。次いで、460℃から400℃までの温度範囲を2.5℃/分以上500℃/分以下の冷却速度で冷却した。
22)適切な熱処理、及び熱間鍛造後の適切な冷却条件により、κ相に含有されるSn量、P量が増した(合金No.S01、S02、S03、工程No.A1、AH1、C0、C1、D6)。
23)工程の中に4〜10%の加工率の冷間工程が含まれると(冷間抽伸後熱処理、熱処理後冷間抽伸)、元の押出材や冷間加工を含まないものに比べ、引張強さが、50N/mm以上向上し、強度バランス指数が大幅に向上した。冷間加工後、525℃〜575℃で熱処理すると、引張強さと衝撃特性の両方とも、熱間押出材に比べ向上した(合金No.S01、工程No.AH1、AH2、A1、A10〜12)。
熱間加工材および冷間加工材に、適切な熱処理を施すと、α相中に針状のκ相が存在するようになり、κ相中に含有するSnの量が増え、γ相は大幅に減少するものの、良好な被削性が確保でき、引張強さ、伸び、衝撃特性、高温特性、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性が大幅に向上していることを確認した(合金No.S01〜S03、工程No.AH1、A1、D7、C0、C1、EH1、E1、FH1、F1)。
熱間加工材、および冷間加工材を熱処理する工程において、熱処理の温度が低い(505℃)場合、または515℃以上525℃未満での熱処理で保持時間が短い場合、γ相の減少が少なく、κ1相の量が少なく、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、衝撃特性、延性、高温特性、強度バランス指数が悪かった(工程No.AH6、AH9、DH7)。熱処理の温度が高い場合、α相の結晶粒が粗大化し、κ1相が少なく、γ相の減少が少なかった。このため、耐食性、耐キャビテーション性、耐エロージョンコロージョン性、被削性が悪く、引張強さも低く、f8、f9も低かった(工程No.AH5、AH10、DH6)。
冷間加工後、或は、熱間加工後に、低温焼鈍する場合は、240℃以上350℃以下の温度で10分から300分加熱し、加熱温度をT℃、加熱時間をt分とする時、150≦(T−220)×(t)1/2≦1200の条件で熱処理すると、過酷な環境下での優れた耐食性を備え、良好な衝撃特性、高温特性を持ち合せる冷間加工材、熱間加工材が得られることが確認できた(合金No.S01、工程No.B1〜B3)。
合金No.S01〜S03に対して工程No.AH11を施した試料においては、変形抵抗が高いために、最後まで押出することができなかったので、その後の評価を中止した。
工程No.BH1においては、矯正が不十分で低温焼鈍が不適であり、品質上問題が生じた。
以上のことから、本実施形態の合金のように、各添加元素の含有量および各組成関係式、金属組織、各組織関係式が適正な範囲にある本実施形態の合金は、熱間加工性(熱間押出、熱間鍛造)に優れ、耐食性、被削性も良好である。また、本実施形態の合金において優れた特性を得るためには、熱間押出および熱間鍛造での製造条件、熱処理での条件を適正範囲とすることで達成できる。
(実施例2)
本実施形態の比較例である合金に関して、8年間過酷な水環境下で使用された銅合金Cu−Zn−Si合金鋳物(試験No.T401/合金No.S101)を入手した。なお、使用された環境の水質などの詳細な資料は無い。実施例1と同様の方法で、試験No.T401の組成、金属組織の分析を行った。また金属顕微鏡を用いて断面の腐食状態を観察した。詳細には、暴露表面が長手方向に対して直角を保つように、試料をフェノール樹脂材に埋め込んだ。次に、腐食部の断面が最も長い切断部として得られるように試料を切断した。続いて試料を研磨した。金属顕微鏡を用いて断面を観察した。また最大腐食深さを測定した。
次に、試験No.T401と同様の組成及び作製条件で、類似の合金鋳物を作製した(試験No.T402/合金No.S102)。類似の合金鋳物(試験No.T402)について、実施例1に記載の組成、金属組織の分析などの評価(測定)、及び脱亜鉛腐食試験1〜3を行った。そして、試験No.T401の実際の水環境による腐食状態と、試験No.T402の脱亜鉛腐食試験1〜3の加速試験による腐食状態とを比較し、脱亜鉛腐食試験1〜3の加速試験の妥当性を検証した。
また、実施例1に記載の本実施形態の合金(試験No.T63/合金No.S02/工程No.C1)の脱亜鉛腐食試験1の評価結果(腐食状態)と、試験No.T401の腐食状態や試験No.T402の脱亜鉛腐食試験1の評価結果(腐食状態)とを比較し、試験No.T63の耐食性を考察した。
試験No.T402は、以下の方法で作製した。
試験No.T401(合金No.S101)とほぼ同じ組成となるように原料を溶解し、鋳込み温度1000℃で、内径φ40mmの鋳型に鋳込み、鋳物を作製した。その後、鋳物は、575℃〜525℃の温度領域を約20℃/分の冷却速度で冷却され、次いで、460℃から400℃の温度領域を約15℃/分の冷却速度で冷却された。以上により、試験No.T402の試料を作製した。
組成、金属組織の分析方法、機械的特性などの測定方法、及び脱亜鉛腐食試験1〜3の方法は、実施例1に記載された通りである。
得られた結果を表70〜表73及び図4〜図6に示す。
8年間過酷な水環境下で使用された銅合金鋳物(試験No.T401)では、少なくともSn、Pの含有量が本実施形態の範囲外である。
図4は、試験No.T401の断面の金属顕微鏡写真を示す。
試験No.T401は、8年間過酷な水環境下で使用されたが、この使用環境により生じた腐食の最大腐食深さは、138μmであった。
腐食部の表面では、α相、κ相に関わらず脱亜鉛腐食が生じていた(表面から平均で約100μmの深さ)。
α相、κ相が腐食されている腐食部分の中で、内部に向かうにしたがって、健全なα相が存在していた。
α相、κ相の腐食深さは一定ではなく凹凸があるが、大まかにその境界部から内部に向かって、腐食は、γ相で優先的に起こっていた(α相、κ相が腐食されている境界部分から、内部に向かって約40μmの深さ:局所的に生じているγ相の優先的な腐食)。
図5は、試験No.T402の脱亜鉛腐食試験1の後の断面の金属顕微鏡写真を示す。
最大腐食深さは、153μmであった。
腐食部の表面では、α相、κ相に関わらず脱亜鉛腐食が生じていた(表面から平均で約100μmの深さ)。
その中で、内部に向かうにしたがって、健全なα相が存在していた。
α相、κ相の腐食深さは一定ではなく凹凸があるが、大まかにその境界部から内部に向かって、腐食は、γ相で優先的に起こっていた(α相、κ相が腐食されている境界部分から、局所的に生じているγ相の優先的な腐食の長さは約45μmであった)。
図4の8年間の過酷な水環境により生じた腐食と、図5の脱亜鉛腐食試験1により生じた腐食とは、ほぼ同じ腐食形態であることがわかった。またSn、Pの量が本実施形態の範囲を満たしていないために、水や試験液と接する部分では、α相とκ相の両者が腐食し、腐食部の先端では、所々でγ相が選択的に腐食していた。なお、κ相中のSn及びPの濃度は低かった。
試験No.T401の最大腐食深さは、試験No.T402の脱亜鉛腐食試験1での最大腐食深さよりも少し浅かった。しかし、試験No.T401の最大腐食深さは、試験No.T402の脱亜鉛腐食試験2での最大腐食深さよりも少し深かった。実際の水環境による腐食の度合いは水質の影響を受けるが、脱亜鉛腐食試験1,2の結果と、実際の水環境による腐食結果とは、腐食形態及び腐食深さの両者で概ね一致した。従って、脱亜鉛腐食試験1,2の条件は、妥当であり、脱亜鉛腐食試験1,2では、実際の水環境による腐食結果とほぼ同等の評価結果が得られることが分かった。
また、腐食試験方法1,2の加速試験の加速率は、実際の厳しい水環境による腐食と概ね一致し、このことは、腐食試験方法1,2が、厳しい環境を想定したものであることの裏付けであると思われる。
試験No.T402の脱亜鉛腐食試験3(ISO6509脱亜鉛腐食試験)の結果は、“○”(good)であった。このため、脱亜鉛腐食試験3の結果は、実際の水環境による腐食結果とは、一致していなかった。
脱亜鉛腐食試験1の試験時間は2ヶ月であり、約75〜100倍の加速試験である。脱亜鉛腐食試験2の試験時間は3ヶ月であり、約30〜50倍の加速試験である。これに対して、脱亜鉛腐食試験3(ISO6509脱亜鉛腐食試験)の試験時間は24時間であり、約1000倍以上の加速試験である。
脱亜鉛腐食試験1,2のように、実際の水環境に、より近い試験液を用い、2,3ヶ月の長時間で試験を行うことによって、実際の水環境による腐食結果とほぼ同等の評価結果が得られたと考えられる。
特に、試験No.T401の8年間の過酷な水環境による腐食結果や、試験No.T402の脱亜鉛腐食試験1,2の腐食結果では、表面のα相、κ相の腐食と共にγ相が腐食していた。しかし、脱亜鉛腐食試験3(ISO6509脱亜鉛腐食試験)の腐食結果では、γ相がほとんど腐食していなかった。このため、脱亜鉛腐食試験3(ISO6509脱亜鉛腐食試験)では、表面のα相、κ相の腐食と共にγ相の腐食が適切に評価できず、実際の水環境による腐食結果と一致しなかったと考えられる。
図6は、試験No.T63(合金No.S02/工程No.A1)の脱亜鉛腐食試験1の後の断面の金属顕微鏡写真を示す。
表面付近では、表面に露出しているγ相のみが腐食されていた。α相、κ相は健全であった(腐食されていなかった)。試験No.T63では、γ相の長辺の長さが、γ相の量と共に、腐食深さを決定する大きな要因の1つであると考えられる。
図4、図5の試験No.T401,T402に比べて、図6の本実施形態の試験No.T63では、表面付近のα相およびκ相の腐食が、全くないかあるいは大幅に抑制されていることが分かる。これは、腐食形態の観察結果より、κ相中のSn含有量が0.68%に達し、κ相の耐食性が高まったためであると考えられる。
本発明の快削性銅合金は、熱間加工性(熱間押出性および熱間鍛造性)に優れ、耐食性、被削性に優れる。このため、本発明の快削性銅合金は、給水栓、バルブ、継手などの人や動物が毎日摂取する飲料水に使用される器具、バルブ、継手などの電気・自動車・機械・工業用配管部材、液体と接触する器具、部品に好適である。
具体的には、飲料水、排水、工業用水が流れる、給水栓金具、混合水栓金具、排水金具、水栓ボディー、給湯機部品、エコキュート部品、ホース金具、スプリンクラー、水道メーター、止水栓、消火栓、ホースニップル、給排水コック、ポンプ、ヘッダー、減圧弁、弁座、仕切り弁、弁棒、ユニオン、フランジ、分岐栓、水栓バルブ、ボールバルブ、各種バルブ、配管継手、例えばエルボ、ソケット、チーズ、ベンド、コネクタ、アダプター、ティー、ジョイントなどの名称で使用されているものの構成材等として好適に適用できる。
また、自動車部品として用いられる、ソレノイドバルブ、コントロールバルブ、各種バルブ、ラジエータ部品、オイルクーラー部品、シリンダ、機械用部材として、配管継手、バルブ、弁棒、熱交換器部品、給排水コック、シリンダ、ポンプ、工業用配管部材として、配管継手、バルブ、弁棒などに好適に適用できる。

Claims (11)

  1. 76.0mass%以上78.7mass%以下のCuと、3.1mass%以上3.6mass%以下のSiと、0.40mass%以上0.85mass%以下のSnと、0.05mass%以上0.14mass%以下のPと、0.005mass%以上0.020mass%未満のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
    前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であり、
    Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Snの含有量を[Sn]mass%、Pの含有量を[P]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%とした場合に、
    75.0≦f1=[Cu]+0.8×[Si]−7.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]≦78.2、
    60.0≦f2=[Cu]−4.8×[Si]−0.8×[Sn]−[P]+0.5×[Pb]≦61.5、
    0.09≦f3=[P]/[Sn]≦0.30、
    の関係を有するとともに、
    金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
    30≦(κ)≦65、
    0≦(γ)≦2.0、
    0≦(β)≦0.3、
    0≦(μ)≦2.0、
    96.5≦f4=(α)+(κ)、
    99.4≦f5=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
    0≦f6=(γ)+(μ)≦3.0、
    35≦f7=1.05×(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦70、
    の関係を有するとともに、
    α相内に針状のκ相が存在しており、γ相の長辺の長さが40μm以下であり、μ相の長辺の長さが15μm以下であることを特徴とする快削性銅合金。
  2. さらに、0.01mass%以上0.08mass%以下のSb、0.02mass%以上0.08mass%以下のAs、0.01mass%以上0.10mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の快削性銅合金。
  3. 76.5mass%以上78.3mass%以下のCuと、3.15mass%以上3.5mass%以下のSiと、0.45mass%以上0.77mass%以下のSnと、0.06mass%以上0.13mass%以下のPと、0.006mass%以上0.018mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
    前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であり、
    Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Snの含有量を[Sn]mass%、Pの含有量を[P]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%とした場合に、
    75.5≦f1=[Cu]+0.8×[Si]−7.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]≦77.7、
    60.2≦f2=[Cu]−4.8×[Si]−0.8×[Sn]−[P]+0.5×[Pb]≦61.3、
    0.10≦f3=[P]/[Sn]≦0.27
    の関係を有するとともに、
    金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
    33≦(κ)≦60、
    0≦(γ)≦1.5、
    0≦(β)≦0.1、
    0≦(μ)≦1.0、
    97.5≦f4=(α)+(κ)、
    99.6≦f5=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
    0≦f6=(γ)+(μ)≦2.0、
    38≦f7=1.05×(κ)+6×(γ)1/2+0.5×(μ)≦65、
    の関係を有するとともに、
    α相内に針状のκ相が存在しており、γ相の長辺の長さが40μm以下であり、μ相の長辺の長さが15μm以下であることを特徴とする快削性銅合金。
  4. κ相に含有されるSnの量が0.43mass%以上0.90mass%以下であり、κ相に含有されるPの量が0.06mass%以上0.22mass%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
  5. Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値が12J/cm以上45J/cm以下であり、かつ室温での0.2%耐力に相当する荷重を負荷した状態で150℃で100時間保持した後のクリープひずみが0.4%以下であることを特徴とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
  6. 熱間加工材であり、引張強さS(N/mm)が550N/mm以上、伸びE(%)が12%以上、Uノッチ形状のシャルピー衝撃試験値I(J/cm)が12J/cm以上45J/cm以下であり、かつ
    650≦f8=S×{(E+100)/100}1/2、または
    665≦f9=S×{(E+100)/100}1/2+Iであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
  7. 水道用器具、工業用配管部材、液体と接触する器具、圧力容器、および継手、又は液体と接触する自動車用部品および電気製品部品に用いられることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
  8. 請求項1から請求項7のいずれか一項に記載された快削性銅合金の製造方法であって、
    冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
    前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を保持し、
    (1)525℃以上575℃以下の温度で20分から8時間保持するか、
    (2)515℃以上525℃未満の温度で100分から8時間保持するか、
    (3)最高到達温度が525℃以上610℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域で20分以上保持するか、又は
    (4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、2.5℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
    次いで、460℃から400℃までの温度領域を2.5℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする快削性銅合金の製造方法。
  9. 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された快削性銅合金の製造方法であって、
    鋳造工程と、前記鋳造工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
    前記焼鈍工程では、以下の(1)〜(4)のいずれかの条件で銅合金を保持し、
    (1)525℃以上575℃以下の温度で20分から8時間保持するか、
    (2)515℃以上525℃未満の温度で100分から8時間保持するか、
    (3)最高到達温度が525℃以上610℃以下であり、575℃から525℃までの温度領域で20分以上保持するか、又は
    (4)575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、2.5℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
    次いで、460℃から400℃までの温度領域を2.5℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする快削性銅合金の製造方法。
  10. 請求項1から請求項7のいずれか一項に記載された快削性銅合金の製造方法であって、
    熱間加工工程を含み、熱間加工される時の材料温度が、600℃以上、740℃以下であり、
    熱間での塑性加工後の冷却過程において、575℃から525℃までの温度領域を0.1℃/分以上、2.5℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、460℃から400℃までの温度領域を2.5℃/分以上、500℃/分以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする快削性銅合金の製造方法。
  11. 請求項1から請求項7のいずれか一項に記載された快削性銅合金の製造方法であって、
    冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程の後に実施する低温焼鈍工程と、を有し、
    前記低温焼鈍工程においては、材料温度を240℃以上350℃以下の範囲とし、加熱時間を10分以上300分以下の範囲とし、材料温度をT℃、加熱時間をt分としたとき、150≦(T−220)×(t)1/2≦1200の条件とすることを特徴とする快削性銅合金の製造方法。
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