図1乃至図12は、本発明の振盪機の一形態例を示すものである。振盪機11は、図1乃至図6に示すように、ベース12上に対向配置された支柱13,14間において設定高さ位置に軸支された水平方向の回転軸15と、該回転軸15の端部にカップリング16を介して連結されたモータ(動力源)17と、回転軸15上に振盪台18を支持するとともに、モータ17から動力を得て振盪台18の回転軸15に対する軸方向(図1において左右方向)の往復直線運動及び回転方向(軸心まわりの方向)の揺動運動を同時に実行可能な複合運動機構19とを備えている。振盪台18の上面には、振盪対象となる試料液を収容した大小様々な容器(図示せず)が着脱可能になっている。また、モータ17や制御基板などの各種電気部品は、操作部が設けられた筐体20に収容されている。
複合運動機構19は、回転軸15の回転運動を取り出して回転軸15上の振盪台18を一定の可動範囲で往復運動させる機械要素であり、主に板材からなる複数の部品を互いに可動自在に連結した状態で、モータ17及び振盪台18間に一体的に配置されている。複合運動機構19は、ベース12の上面に設けられたリンクベース21と、振盪台18の下面に設けられ、回転軸15に係合して軸方向及び回転方向に摺動可能なスライドリンク22と、回転軸15の軸心から偏心位置に設けられた円形のカムホイール(カム機構の原節)23及び該カムホイール23の径方向外側に相対回転可能、かつ、回転軸15の軸心まわりに公転可能に組み付けられたカムリング(カム機構の従節)24からなる入れ子式のカム機構部25と、リンクベース21及びスライドリンク22間に上下一対の球面軸受26,27を介して傾動可能に連結されたピボットリンク28とを備えている。
これら各部品は一体となって複合運動機構19の関節や回転部をなし、ビス止めされた樹脂製スライダあるいはカラーを介して互いに摺動可能に連結されている。例えば、カムホイール23とカムリング24との関係では、カムホイール23の外周面においてカラー29が、該カラー29を軸方向に挟持するカムリング24の内面とカムホイール23の両側面との間の隙間部においてスライダ30が周方向の3箇所にそれぞれ均等配置されている。また、回転軸15とスライドリンク22との関係では、スライドリンク22の対向する曲げ部22a,22bにおいて、すなわち、回転軸15を貫通する軸孔22cの部分においてスライダ31が周方向の3箇所にそれぞれ均等配置されている(図4)。
上下一対の球面軸受26,27は、筒状のケース26a,27aと、該ケース内に球面摺動可能に保持された球体26b,27bと、該球体の中心を通る軸上に設けられた連結軸26c,27cとをそれぞれ有しており、上側球面軸受26のケース26aは、前記スライドリンク22の曲げ部22bを更に折曲げ形成した板面22dに取り付けられている。一方、下側球面軸受27のケース27aは、前記リンクベース21の上部板面21aに取り付けられている。これにより、球面軸受26,27は、両連結軸26c,27cが前記ピボットリンク28に備わる上軸孔28a及び下軸孔28bにそれぞれ挿通した状態でスライダ32,33を介して組み付けられることにより、ピボットリンク28の傾動に伴って相対移動可能に構成されている。また、下軸孔28bは下側球面軸受27の連結軸27cに対応した円形であるのに対して、上軸孔28aは上下方向に延びた長孔状に形成され、上側球面軸受26の連結軸26cがスライダ32を介してこの長孔をスライド可能になっている。
さらに、ピボットリンク28には、前記カムリング24の下部に備わる連結片24aに連結され、該カムリング24の公転に連動して姿勢を変える作用部28cと、該作用部28cの揺れ動きに伴って下側球面軸受27を支点として水平方向に旋回しながら上側球面軸受26に対して押し回し運動(図2の矢印A)及び引き回し運動(図2の矢印B)を交互に付与する運動付与部28dとが設けられている。連結片24aと作用部28cとは、連結片24aの板面24bに取り付けられた上下一対のスライダ34,35が、作用部28cに備わる水平方向の上下長孔28e,28fをそれぞれ摺動可能に組み付けられている。また、上長孔28eの径は下長孔28fの径よりも僅かに大きく形成され、作用部28cが上下動する際に、スライダ34の自由度(可動領域)が確保されている。こうして、ピボットリンク28は、上下軸孔28a,28b及び上下長孔28e,28fの機能的な配置と相俟って、略L字形状をなして各部に連結されている。
ここで、振盪台18を水平状態に保持した基準位置(図1乃至図6)において、ピボットリンク28は、回転軸15の下方に偏心回転したカムホイール23により、カムリング24の連結片24aを介して作用部28cが押し下げられ、この状態で、回転軸15の軸方向の垂直平面上に位置している。また、リンクベース21、スライドリンク22及び連結片24aは、各板面21a,22d,24bがピボットリンク28の板面にそれぞれ平行な向きとなっている。
このように形成した振盪機11を用いて試料を振盪させる場合には、試料液を収容した容器を振盪台18に保持し、モータ17を駆動することによって回転軸15が、例えば、毎分10回転程度の回転数で一方向に低速回転される。ここで、以下では、回転軸15の回転に伴って変化する複合運動機構19及び振盪台18のそれぞれの姿勢について、回転軸15を1/4回転(90度)ずつ回転させた状態に対応して説明する。
まず、図7及び図8に示すように、基準位置から回転軸15を図8の矢印Cの方向に1/4回転(90度)させた状態で、カム機構部25は、カムホイール23を回転軸15と一体で回転させて該回転軸15の一側方(図8の右側)に偏心させる。これにより、カムリング24は、カムホイール23に対して相対回転しながら回転軸15の軸心まわりを1/4公転し、全体が引き上げられる反動によって連結片24aを傾斜させる。
一方、ピボットリンク28は、作用部28cが連結片24aの動きに連動して傾きをもって引き上げられ、これに伴い、運動付与部28dが上側球面軸受26に対して、押し回し運動(図2の矢印A)を付与する。このとき、上側球面軸受26は、下側球面軸受27を支点として回転軸15の軸方向に沿う円弧軌道を描くように移動し、連結軸26cをピボットリンク28の上軸孔28aの長孔に沿ってスライドさせる。そして、両球面軸受26,27の球面摺動が同時に作用することで、スライドリンク22は、ピボットリンク28の傾斜方向と逆方向に傾斜するとともに、回転軸15に対して軸方向及び回転方向に同時に摺動する。すなわち、押し回し運動の中間位置において、振盪台18は、カム機構部25の曲線運動を受けて、スライドリンク22の板面22dとピボットリンク28の板面とを逆ハ字状に傾斜させた状態で、直線運動及び傾斜運動からなる複合運動を実行する。
押し回し運動の中間位置から、回転軸15を更に1/4回転(90度)させると、図9及び図10に示すように、カムホイール23が回転して回転軸15の上方に偏心する。これにより、カムリング24は、カムホイール23に対して相対回転しながら回転軸15の軸心まわりを1/4公転し、全体が引き上げられる反動によって連結片24aの傾斜が戻される。これにより、ピボットリンク28は、作用部28cが連結片24aの動きに連動して傾斜を戻しながら引き上げられ、回転軸15の軸方向の垂直平面上に位置される。また、リンクベース21、スライドリンク22及び連結片24aは、各板面21a,22d,24bがピボットリンク28の板面にそれぞれ平行な向きとなる。こうして、押し回し運動の終了位置において、振盪台18は、直線運動を終了して、傾斜運動によって当初の水平状態に復帰する。
押し回し運動の終了位置から、回転軸15を更に1/4回転(90度)させると、図11及び図12に示すように、カムホイール23が回転して回転軸15の他側方(図12の左側)に偏心する。これにより、カムリング24は、カムホイール23に対して相対回転しながら回転軸15の軸心まわりを1/4公転し、全体が押し下げられる反動によって連結片24aを傾斜させる。これにより、ピボットリンク28は、作用部28cが連結片24aの動きに連動して傾きをもって押し下げられ、これに伴い、運動付与部28dが上側球面軸受26に対して、引き回し運動(図2の矢印B)を付与する。このとき、上側球面軸受26は、下側球面軸受27を支点として回転軸15の軸方向に沿う円弧軌道を描くように移動し、連結軸26cをピボットリンク28の上軸孔28aの長孔に沿ってスライドさせる。そして、両球面軸受26,27の球面摺動が同時に作用することで、スライドリンク22は、ピボットリンク28の傾斜方向と逆方向に傾斜するとともに、回転軸15に対して軸方向及び回転方向に同時に摺動する。すなわち、引き回し運動の中間位置において、振盪台18は、カム機構部25の曲線運動を受けて、スライドリンク22の板面22dとピボットリンク28の板面とをハ字状に傾斜させた状態で、直線運動及び傾斜運動からなる複合運動を実行する。
引き回し運動の中間位置から、回転軸15を更に1/4回転(90度)させると、カムホイール23が回転軸15の下方に偏心する(図1,図5)。これにより、カムリング24は、カムホイール23に対して相対回転しながら回転軸15の軸心まわりを1/4公転し、全体が押し下げられる反動によって連結片24aの傾斜が戻される。これにより、ピボットリンク28は、作用部28cが連結片24aの動きに連動して傾斜を戻しながら押し下げられ、回転軸15の軸方向の垂直平面上に位置される。また、リンクベース21、スライドリンク22及び連結片24aは、各板面21a,22d,24bがピボットリンク28の板面にそれぞれ平行な向きとなる。こうして、回転軸15が一回転(360度)した状態となる引き回し運動の終了位置において、振盪台18は、直線運動を終了して、傾斜運動によって当初の水平状態に、つまり基準位置に復帰する。
回転軸15の回転が継続されると、上述の押し回し運動と引き回し運動とが交互に繰り返される。この連続した動作状態において、ピボットリンク28は、カムホイール23の軸心が回転軸15の真上又は真下を通過する度に、カムホイール23の軸心側に下側球面軸受27を支点に傾斜し、カムホイール23の軸心が回転軸15の真横に位置したときに傾斜角度が最大、例えば、垂直平面に対して8度傾斜となる(図8,図12)。一方、振盪台18自体は、複合運動機構19の動作を受けて直線運動と傾斜運動とが同時又は交互に行われる。すなわち、振盪機11の運動サイクル(一周期)において、振盪台18は、水平状態(基準位置)から傾斜を始めながら、例えば、10度傾斜した状態で回転軸15の軸方向に、例えば、10mm進み、直線運動が終了すると傾斜を戻して水平状態に復帰する。その後、反対側に傾斜しながら、10度傾斜した状態で回転軸15の軸方向に10mm戻り、直線運動が終了すると傾斜を戻して当初の水平状態(基準位置)に復帰する。こうして、振盪機11は、設定時間が経過するまで、振盪台18の往復直線運動及び揺動運動を繰り返しながら試料液を振盪撹拌させる。
このように、本発明の振盪機11によれば、水平方向の回転軸15上に振盪台18を支持し、回転軸15の端部に連結したモータ17から動力を得て振盪台18の回転軸15に対する軸方向の往復直線運動及び回転方向の揺動運動を同時に実行可能な複合運動機構19を備えているので、振盪台18を水平に保持する機能と、試料液の撹拌に最適な振り動きを実現する機能とを両立させることが可能となり、試料液が容器内に偏った状態で滞ることを防止できる。また、振盪台18、複合運動機構19及びモータ17を横並びに集約配置することが可能であるため、全体として高さ寸法を低く抑えることができるだけでなく、容器から試料液がこぼれ落ちた場合であっても、モータ17に試料液が付着するおそれがなくなる。すなわち、コンパクトな構成でありながら、試料液を均一に撹拌することができ、かつ、故障発生に対する高い信頼性を確保可能な振盪機11の構造が得られる。
しかも、複合運動機構19の一要素であるピボットリンク28が、作用部28cをカムホイール23の回転に追従するカムリング24の公転に、すなわち、カム機構部25の運動によって作られる運動曲線に対応するように姿勢を変えながら上下動(揺れ動き)させることで、運動付与部28dが上下一対の球面軸受26,27同士の相対移動をもってスライドリンク22を回転軸15上で軸方向及び回転方向に摺動させるように旋回するので、複雑な機構や制御を必要とせずに、振盪台18の往復直線運動と揺動運動とを同時に実行することができる。とりわけ、運動付与部28dが旋回するときに上側球面軸受26の連結軸26cが長孔状の上軸孔28aをスライド可能に構成されているので、上側球面軸受26に対する押し回し運動及び引き回し運動を付与する動作が摩擦抵抗の増大やこじりによって妨げられることなく円滑に行え、振盪機11の安定した動作を確実なものとすることができる。
また、複合運動機構19が、運動特性に優れたカム機構部25と各種リンク部材21,22,28とを連結して一体的に構成され、運動の途中において振盪台18を水平状態に保持可能としつつ、特徴的な往復運動を付与するので、振盪台18に保持した容器について、例えば、トレイ状の容器を用いた場合、傾斜時に試料液が偏っても、直線運動で試料液が容器の内壁に当たって乱流しているときに傾斜を戻すので、試料液が容器全体に均一に広がることを促進する。また、シャーレを用いた場合、傾斜時に試料液が偏っても、直線運動で試料液が容器の内壁に沿って流れているときに傾斜を戻すので、トレイ状の容器の場合と同様に、試料液が容器全体に均一に広がることを促進する。
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものではなく、複合運動機構は、一つの回転軸の回転運動から複数方向の運動を取り出し、振盪台に対して直線運動及び揺動運動を付与するものであればよく、振盪の目的に応じて適宜に変更することができる。例えば、往復運動の可動範囲を変更するには、上下球面軸受の間隔によって直線運動の移動量を調節可能であり、間隔を大きくすれば移動量を多くでき、間隔を小さくすれば移動量を少なくできる。また、カムホイールの軸孔の位置によって揺動運動の角度を調節可能であり、カムホイールの軸心から遠くに位置すれば揺動角度を大きくでき、軸心から近くに位置すれば揺動角度を小さくできる。
さらに、各部の連結構造についても実施例に限定されず、例えば、ピボットリンクに備わる長孔の数や形状を適宜に変更可能であり、スライダやカラーの配置も任意である。加えて、回転軸の回転方向を逆転させた場合であっても同様の効果が得られ、高速運動にも耐えることができるのは勿論のこと、これら機構を除いた回転軸のみの簡素な構成とすれば、ホルダに固定された容器を軸まわりに回転させるだけの簡単な動作で試料の撹拌が行える。すなわち、拡張性をもたせて複数の仕様において共通化が図れ、容器には定形の平底容器の他、フラスコ、試験管など種々のものを採用できることから、実用性の高い振盪機が実現する。