図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。車両10は、図1に示すように、駆動力源としてのエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18内に配設されたトルクコンバータ20及び自動変速機(遊星歯車式自動変速機)22を備えている。また、動力伝達装置16は、プロペラシャフト24と、ディファレンシャルギヤ26と、ドライブシャフト28と、を備えている。プロペラシャフト24は、自動変速機22の出力回転部材である変速機出力軸30に動力伝達可能に連結されている。ディファレンシャルギヤ26は、プロペラシャフト24に動力伝達可能に連結されている。ドライブシャフト28は、ディファレンシャルギヤ26に動力伝達可能に連結されている。
トルクコンバータ20は、エンジン12と自動変速機22との間の動力伝達経路に配設されており、トルクコンバータ20は、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとを備えた流体式伝動装置である。ポンプ翼車20pは、トルクコンバータ20の入力回転部材であり、エンジン12のクランク軸32に動力伝達可能に連結されている。タービン翼車20tは、トルクコンバータ20の出力回転部材であり、自動変速機22の入力回転部材である変速機入力軸(入力軸)34に動力伝達可能に連結されている。動力伝達装置16は、ポンプ翼車20pに動力伝達可能に連結された機械式のオイルポンプ36を備えている。オイルポンプ36は、エンジン12によって回転駆動されることにより、自動変速機22の変速制御に用いたり、動力伝達装置16の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油を吐出する。すなわち、オイルポンプ36によって汲み上げられた作動油は、車両10に備えられた油圧制御回路50の元圧として供給される。
図2は、自動変速機22の一例を説明する骨子図である。自動変速機22は、図2に示すように、第1遊星歯車装置38、第2遊星歯車装置40、第3遊星歯車装置42、及び第4遊星歯車装置44の複数組の遊星歯車装置と、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の複数の係合装置と、を備えている。本実施例では、特に区別しない場合は、これらの複数の係合装置を単に係合装置CBと称す。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、油圧制御回路50内のソレノイドバルブ等から各々出力される調圧された係合装置CBの各係合圧としての各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量である係合トルクTcbが変化させられることで、各々、係合状態や解放状態などの作動状態が切り替えられる。係合装置CBを滑らすことなくすなわち係合装置CBに差回転速度を生じさせることなく、変速機入力軸34と変速機出力軸30との間で、例えば自動変速機22に入力される入力トルクであるAT入力トルクTiを伝達する為には、そのAT入力トルクTiに対して係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある伝達トルク分が得られるトルク容量(=係合トルクTcb)が必要になる。上記伝達トルク分は、係合装置CBの分担トルクである。
自動変速機22は、複数組の遊星歯車装置38,40,42,44の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBを介して間接的に、一部が互いに連結されたり、変速機入力軸34、ケース18、或いは変速機出力軸30に連結されている。なお、第1遊星歯車装置38の各回転要素は、第1サンギヤS1、キャリアRCA、リングギヤRRである。第2遊星歯車装置40の各回転要素は、第2サンギヤS2、キャリアRCA、リングギヤRRである。第3遊星歯車装置42の各回転要素は、第3サンギヤS3、第3キャリアCA3、第3リングギヤR3である。第4遊星歯車装置44の各回転要素は、第4サンギヤS4、第4キャリアCA4、第4リングギヤR4である。第1遊星歯車装置38及び第2遊星歯車装置40においては、キャリアが共通のキャリアRCAで構成されると共にリングギヤが共通のリングギヤRRで構成される、所謂ラビニヨ型となっている。
自動変速機22は、係合装置CBが選択的に係合されることによって、変速比γ(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段が選択的に形成される有段変速機である。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸34の回転速度である自動変速機22の入力回転速度であって、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸30の回転速度である自動変速機22の出力回転速度である。各変速段に対応する自動変速機22の変速比γは、複数組の遊星歯車装置38,40,42,44の各歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1,ρ2,ρ3,ρ4によって適宜定められる。変速比はギヤ比と同意であり、変速段はギヤ段と同意である。
自動変速機22は、例えば図3の係合作動表に示すように、第1速ギヤ段−第10速ギヤ段の10段の前進用のギヤ段(図中の「1st」−「10th」参照)、及び1段の後進用のギヤ段(図中の「Rev」参照)が選択的に形成される。また、自動変速機22は、例えば係合装置CBが何れも解放状態とされることによりニュートラル状態とされても良いが、本実施例では、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2が係合状態とされた状態でニュートラル状態とされる(図中の「N」参照)。自動変速機22のニュートラル状態は、自動変速機22における動力伝達が遮断された状態、すなわち自動変速機22が動力を伝達することが不能な状態である。変速比γは、第1速ギヤ段が最も大きく、ハイ側となる第10速ギヤ段側程小さくなる。図3の係合作動表は、自動変速機22にて形成される各ギヤ段と係合装置CBの各作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合状態を表し、空欄は解放状態を表している。
自動変速機22は、後述する電子制御装置(制御装置)100(図1参照)によって、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて係合装置CBのうちの所定の係合装置の作動状態が切り替えられることで、変速が行われる。例えば、電子制御装置100は、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へのアップシフトでは、図3の係合作動表に示すように、解放側摩擦係合装置となる第2クラッチC2を解放すると共に、係合側摩擦係合装置となる第1ブレーキB1を係合する、所謂クラッチツゥクラッチ変速を実行する。この際、第2クラッチC2の解放過渡油圧や第1ブレーキB1の係合過渡油圧が調圧制御される。係合装置CBのうちの所定の係合装置は、自動変速機22の変速に関与する係合装置である。解放側摩擦係合装置は、所定の係合装置のうちの自動変速機22の変速前には係合状態とされていた係合装置であって、自動変速機22の変速時に解放状態へ切り替えられる係合装置、すなわち自動変速機22の変速過渡において係合状態から解放状態に向けて制御される係合装置である。係合側摩擦係合装置は、所定の係合装置のうちの自動変速機22の変速前には解放状態とされていた係合装置であって、自動変速機22の変速時に係合状態へ切り替えられる係合装置、すなわち自動変速機22の変速過渡において解放状態から係合状態に向けて制御される係合装置である。
図1に戻り、車両10は、例えば自動変速機22の変速制御などに関連する制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置100を備えている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。
電子制御装置100には、車両10に設けられた各種センサ等(例えば、操作ポジションセンサ102、入力回転速度センサ104、出力回転速度センサ106など)による検出値に基づく各種信号(例えば、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー52の操作ポジションPOSsh、AT入力回転速度Ni(=タービン回転速度Nt)、車速Vに対応するAT出力回転速度Noなど)が、それぞれ供給される。
また、電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えば油圧制御回路50など)に各種指令信号(例えば係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Satなど)が、それぞれ供給される。この油圧制御指令信号Satは、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbを調圧する油圧制御回路50内の各ソレノイドバルブ等を駆動する為の指令信号である。この油圧制御指令信号Satは、自動変速機22の変速を制御する為の指令信号でもある。電子制御装置100は、係合装置CBの狙いの係合トルクTcbを得る為の、各油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbの値に対応する指示油圧を設定し、その指示油圧に応じた駆動電流又は駆動電圧を油圧制御回路50へ出力する。
シフトレバー52は、自動変速機22における複数種類のシフトレンジを人為的操作により選択する為の操作装置である。シフトレバー52は、自動変速機22のシフトレンジに対応した操作ポジションPOSshへ運転者により操作される。操作ポジションPOSshは、例えばP、R、N、D操作ポジションを含んでいる。
P操作ポジションは、自動変速機22がニュートラル状態とされ且つ変速機出力軸30の回転が機械的に阻止された、自動変速機22のパーキングモード(=Pレンジ)を選択するパーキング操作ポジションである。R操作ポジションは、車両10の後進走行を可能とする自動変速機22の後進走行モード(=Rレンジ)を選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、自動変速機22がニュートラル状態とされた自動変速機22のニュートラルモード(=Nレンジ)を選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、車両10の前進走行を可能とする自動変速機22の前進走行モード(=Dレンジ)を選択する前進走行操作ポジションである。
電子制御装置100は、車両10における各種制御を実現する為に、変速制御手段すなわち変速制御部110を備えている。変速制御部110は、自動変速機22の変速制御を実行する。例えば、変速制御部110は、操作ポジションPOSshに基づいて自動変速機22のシフトレンジを切り替えるように係合装置CBの作動状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力する。変速制御部110は、Dレンジである場合には、予め定められた関係である例えば変速マップを用いて自動変速機22のギヤ段の切替えが必要であるか否かを判断し、そのギヤ段の切替えが必要であるとの変速判断をした場合には、自動変速機22のギヤ段を切り替えるように係合装置CBの作動状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力する。
ところで、自動変速機22の内部には、回転方向における相互に作用する二つの部品間のすきまであるバックラッシ(ガタとも称する)が存在する。自動変速機22のシフトレンジの違いや自動変速機22のギヤ段の違いによって、同じ部品間において、ガタが詰まる方向が異なったり、ガタが詰まっていない状態となる。その為、自動変速機22の変速制御の際には、ある部品間において、ガタが詰まる方向が変化したり、ガタが詰まっていない状態からガタが詰まっている状態へ変化したりする。この際、ガタが詰まることによるガタ打ち(=歯打ち)によって発生するトルクに起因するショックが生じる可能性がある。ガタが詰まる方向は、例えば車両10の前進方向の回転方向を正回転としたときに、正回転方向に作用するトルクによって詰まるガタを正側とする。また、本実施例では、ガタ打ち時のショックをガタ打ちショックと称する。
一方で、自動変速機22の変速制御において、係合側摩擦係合装置の指示油圧は、例えばAT入力トルクTiに応じた値であって、変速ショックの抑制と変速時間とを考慮した値に設定される。本実施例では、このような値に設定された指示油圧を通常指示油圧と称する。自動変速機22の変速制御の際に、例えば通常指示油圧よりもゆっくりと指示油圧を上昇させて係合側摩擦係合装置を緩やかに係合させることで、上述したようなガタ打ちショックを抑制することが考えられる。しかしながら、係合側摩擦係合装置を緩やかに係合させると、変速の進行が停滞してドライバビリティの低下につながる可能性がある。
本実施例では、自動変速機22の変速制御の際に、係合側摩擦係合装置を緩やかに係合させるのではなく、係合側摩擦係合装置の指示油圧は通常指示油圧としたままで、係合側摩擦係合装置とは別の係合装置のトルク容量を一時的に小さくすることでガタ打ちショックを抑制する。以下に、その制御について詳述する。
図4は、自動変速機22のNレンジにおいて各回転要素に作用するトルクを説明する図である。図5は、自動変速機22のNレンジにおける各回転要素の回転速度の状態を共線図上に示す図である。図6は、自動変速機22のRレンジにおいて各回転要素に作用するトルクを説明する図である。図7は、自動変速機22のRレンジにおける各回転要素の回転速度の状態を共線図上に示す図である。図4−図7では、自動変速機22の単体において、車重などによる路面からの負荷がない状態で、一定のAT入力回転速度Niを維持するようにAT入力トルクTiが付与された場合(図中の「Input」参照)を例示している。
図4、図6において、自動変速機22の骨子図上の矢印は各回転要素に作用するトルクの向きを示している。時計回りの矢印の方向が正側である。図4、図6では、図2に示した自動変速機22の骨子図に対して、変速機入力軸34の軸心の下半分が省略されている。
図5、図7に示す共線図は、各々、自動変速機22における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す図である。図5、図7において、9本の縦線Y1−Y9は、自動変速機22の9つの回転要素に対応している。縦線Y1は、第1回転要素RE1に対応する第1サンギヤS1の回転速度を表す軸である。縦線Y2は、第2回転要素RE2に対応するキャリアRCAの回転速度を表す軸である。縦線Y3は、第3回転要素RE3に対応するリングギヤRRの回転速度を表す軸である。縦線Y4は、第4回転要素RE4に対応する第2サンギヤS2の回転速度を表す軸である。縦線Y5は、第5回転要素RE5に対応する第3リングギヤR3の回転速度を表す軸である。縦線Y6は、第6回転要素RE6に対応する第3キャリアCA3の回転速度を表す軸である。縦線Y7は、第7回転要素RE7に対応する相互に連結された第3サンギヤS3及び第4サンギヤS4の回転速度を表す軸である。縦線Y8は、第8回転要素RE8に対応する第4キャリアCA4の回転速度を表す軸である。縦線Y9は、第9回転要素RE9に対応する第4リングギヤR4の回転速度を表す軸である。また、第2回転要素RE2及び第8回転要素RE8は、変速機入力軸34と連結され(図中の「in」参照)、第6回転要素RE6は、変速機出力軸30と連結されている(図中の「out」参照)。また、第3回転要素RE3と第7回転要素RE7とは、第1クラッチC1を介して選択的に連結され、第4回転要素RE4と第7回転要素RE7とは、第2クラッチC2を介して選択的に連結され、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5とは、第3クラッチC3を介して選択的に連結され、第6回転要素RE6と第9回転要素RE9とは、第4クラッチC4を介して選択的に連結され、第1回転要素RE1は、第1ブレーキB1を介してケース18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は、第2ブレーキB2を介してケース18に選択的に連結されている。
図4、図5において、自動変速機22のNレンジでは、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2が係合状態とされている。自動変速機22では、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2が係合状態とされていても、第1クラッチC1又は第3クラッチC3が解放状態とされていればNレンジが成立させられる。自動変速機22のNレンジでは、例えば第1速ギヤ段や後進用のギヤ段を形成することに備えて、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2が予め係合状態とされる。このような自動変速機22のNレンジでは、路面からの負荷がない状態であれば解放状態にある係合装置の引き摺りによって変速機出力軸30が正回転となるトルクが発生する。その為、第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部におけるガタは正側に詰まっている。
一方で、図6、図7において、自動変速機22のRレンジでは、第2クラッチC2、第3クラッチC3、及び第2ブレーキB2が係合状態とされている。自動変速機22のRレンジでは、各回転要素に作用するトルクによって、第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部におけるガタは負側に詰まっている。従って、自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の際には、ガタが詰まる方向が正側から負側に反転し、ガタ打ちが発生する。Rレンジでは、第3クラッチC3の係合によって第3回転要素RE3と第5回転要素RE5とが一体とされるので、第2ブレーキB2の係合によってケース18に連結されるイナーシャが大きくなる。その為、自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の際には、大きなガタ打ちショックが発生するおそれがある。
電子制御装置100は、車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の際には、係合状態とされている第2ブレーキB2の係合圧すなわち第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を、変速過渡時に変速制御前(変速前)の指示油圧Pb2より一時的に低い解放待機圧(待機圧)Prにして、第2ブレーキB2をスリップ状態(=半係合状態)とする。これにより、ガタ打ちによって発生するトルクの伝達が低減されて、ガタ打ちショックが抑制され得る。車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御では、第3クラッチC3の指示油圧Pc3は、例えばAT入力トルクTiに応じた値であって、変速ショックの抑制と変速時間とを考慮した値に設定される。これにより、第3クラッチC3の係合状態への切替え遅れに起因する変速の停滞が防止され得る。すなわち、電子制御装置100は、車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の際に、係合状態とされている第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を一時的に解放待機圧Prに低下するために、変速制御部110に、NR切替判定部112と、第1油圧制御部114と、ガタ打ち判定部116と、記憶部118と、第2油圧制御部120と、学習制御部122と、を備えている。
NR切替判定部112は、車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたか否かを判定する。例えば、NR切替判定部112は、出力回転速度センサ106から検出される車速V[km/h]がゼロであり、且つ、操作ポジションセンサ102から検出される操作ポジションPOSshがN操作ポジションからR操作ポジションに切り替えられると、車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定する。
変速制御部110は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、変速に伴う反力を担う第5回転要素(所定の回転要素)RE5に連結された第2ブレーキ(反力用摩擦係合装置)B2および第2クラッチC2の係合状態で、第5回転要素RE5とは異なる第3回転要素(他の回転要素)RE3に連結された第3クラッチ(係合側摩擦係合装置)C3を係合させるように、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2[Pa]と、第2クラッチC2の指示油圧Pc2[Pa]と、第3クラッチC3の指示油圧Pc3[Pa]と、それぞれ制御する。なお、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御において、第2クラッチC2の指示油圧Pc2は、例えば、変速前から変速後に亘って一定である。
第1油圧制御部114は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3[Pa]を制御する。例えば、図9に示すように、第1油圧制御部114は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を予め設定された第1指示油圧Pc3A[Pa]まで一時的に増圧させるクイックフィルを実行する。また、第1油圧制御部114は、前記クイックフィルが終了すると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を所定時間tA[sec]の間予め設定された第2指示油圧Pc3B[Pa]で待機させる。また、第1油圧制御部114は、所定時間tAが経過すると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を第2指示油圧Pc3Bから所定の上昇率で上昇させる。
ガタ打ち判定部116は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、ガタ打ちが発生したか否かを判定する。例えば、ガタ打ち判定部116は、図9から図11に示すように、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されたときに入力回転速度センサ104から検出されたタービン回転速度Nt[rpm]すなわちタービン回転速度N0[rpm]が低下してその低下したタービン回転速度Ntが予め設定された時間tB[sec]の間一定であると判定されると、ガタ打ちが発生したと判定する。なお、時間tB[sec]は、例えば実験等により求められた、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されて第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部のガタが詰められてから一時的にタービン回転速度Nt[rpm]が変化しなくなる時間、よりも十分に短い時間に設定されている。つまり、図9から図11に示すように、ガタ打ちが発生したとき(t2時点)のタービン回転速度Nt[rpm]と、ガタ打ち判定部116でガタが発生したと判定されたとき(t3時点)のタービン回転速度Nt[rpm]と、は同じである。
記憶部118は、予め設定された解放待機圧Pr[Pa]を記憶している。第2油圧制御部120は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2[Pa]を制御する。例えば、第2油圧制御部120は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、図9に示すように、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を前記変速制御が開始される前(変速前)の第2ブレーキB2の指示油圧Pb2すなわち指示油圧(係合圧)Pb2A[Pa]から記憶部118に記憶された解放待機圧Pr[Pa]まで減少させて、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を解放待機圧Prで待機させる。また、第2油圧制御部120は、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を解放待機圧Prで待機させた状態において、ガタ打ち判定部116でガタ打ちが発生したと判定されると、ガタ打ち判定部116でガタ打ちが発生したと判定されてから所定時間tC[sec]経過後に、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を解放待機圧Prから所定の上昇率で前記変速制御が開始される前の第2ブレーキB2の指示油圧Pb2A[Pa]まで上昇させる。
学習制御部122には、回転変化量計算部122aが備えられている。回転変化量計算部122aは、ガタ打ち判定部116でガタ打ちが発生したと判定されると、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の開始時の変速機入力軸34の回転速度と、第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部のガタが詰まったときの変速機入力軸34の回転速度と、の回転速度変化量ΔNt[rpm]を計算する。例えば、回転変化量計算部122aは、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されたときの入力回転速度センサ104から検出されたタービン回転速度N0[rpm]と、ガタ打ち判定部116でガタ打ちが発生したと判定されたときの入力回転速度センサ104から検出されたタービン回転速度NG[rpm]と、の差(N0−NG)から、タービン回転速度Ntの回転速度変化量ΔNt[rpm]を計算する。
学習制御部122は、回転変化量計算部122aでタービン回転速度Ntの回転速度変化量ΔNt[rpm]が計算されると、その計算された回転速度変化量ΔNtに応じて記憶部118に記憶された解放待機圧Prの値PrN[Pa]を学習すなわち変更する。なお、学習制御部122は、例えば、第2油圧制御部120で第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を解放待機圧Prから上昇させるときまたは変速終了後等に、記憶部118に記憶された解放待機圧Prの値PrN[Pa]を学習する。
例えば、学習制御部122は、図10に示すように回転変化量計算部122aで計算された回転速度変化量ΔNt[rpm]が予め設定された目標変化量上限値ΔNt_tg_max[rpm]より大きい(ΔNt>ΔNt_tg_max)と、記憶部118に記憶された解放待機圧Prの値PrNが小さくなるように解放待機圧Prの値PrNを学習すなわち変更する。なお、目標変化量上限値ΔNt_tg_maxは、例えば実験等によってガタ打ち時のガタ打ちショックを抑制させられ且つ変速するのに要する時間が長くなるのを抑制させられたときに、計測した回転速度変化量ΔNt[rpm]の上限値であり、解放待機圧Pr[Pa]まで指示油圧Pb2が低下させられたときに第2ブレーキB2のトルク容量が比較的に高いか否かを判定する判定値である。つまり、学習制御部122は、図10に示すように回転速度変化量ΔNtが目標変化量上限値ΔNt_tg_maxより大きいと、回転速度変化量ΔNt[rpm]から式(1)を用いて学習値Prl[Pa]を算出し、記憶部118に記憶されている解放待機圧Prの値PrNから学習値Prlを減算して解放待機圧Prの値PrNを値PrN+1に学習(PrN+1=PrN−Prl)すなわち変更する。なお、値PrNは、記憶部118に予め記憶されていた解放待機圧Prの値であり、値PrN+1は、前記学習した後の解放待機圧Prの値である。また、式(1)に示された「G」は、例えば実験等により予め設定された、回転速度変化量ΔNt[rpm]から学習値Prl[Pa]に変換する変換係数である。
Prl=ΔNt×G ・・・(1)
また、例えば、学習制御部122は、図11に示すように回転変化量計算部122aで計算された回転速度変化量ΔNt[rpm]が予め設定された目標変化量下限値ΔNt_tg_min[rpm]より小さい(ΔNt<ΔNt_tg_min)と、記憶部118に記憶された解放待機圧Prの値PrN[Pa]が大きくなるように解放待機圧Prの値PrN[Pa]を学習すなわち変更する。なお、目標変化量下限値ΔNt_tg_minは、例えば実験等によってガタ打ち時のガタ打ちショックを抑制させられ且つ変速するのに要する時間が長くなるのを抑制させられたときに、計測した回転速度変化量ΔNt[rpm]の下限値であり、解放待機圧Pr[Pa]まで指示油圧Pb2が低下させられたときに第2ブレーキB2のトルク容量が比較的低いか否かを判定する判定値である。つまり、学習制御部122は、図11に示すように回転速度変化量ΔNtが目標変化量下限値ΔNt_tg_minより小さいと、回転速度変化量ΔNtから式(1)を用いて学習値Prlを算出し、記憶部118に記憶されている解放待機圧Prの値PrNに学習値Prlを加算して解放待機圧Prの値PrNを値PrN+1に学習(PrN+1=PrN+Prl)すなわち変更する。なお、図10および図11において破線Lで示されているタービン回転速度Ntは、ガタ打ち時のガタ打ちショックを抑制させ且つ変速するのに要する時間が長くなるのを抑制させられたときのタービン回転速度Ntの挙動を仮想的に示す線である。
また、例えば、学習制御部122は、回転変化量計算部122aで計算された回転速度変化量ΔNt[rpm]が目標変化量上限値ΔNt_tg_max[rpm]以下であり且つ目標変化量下限値ΔNt_tg_min[rpm]以上である(ΔNt≦ΔNt_tg_max、ΔNt≧ΔNt_tg_min)と、記憶部118に記憶された解放待機圧Prの値PrNを変更させない。つまり、学習制御部122は、回転速度変化量ΔNtが目標変化量上限値ΔNt_tg_max以下であり且つ目標変化量下限値ΔNt_tg_min以上であると、学習値Prl[Pa]がゼロであると算出(Prl=0)し、記憶部118に記憶されている解放待機圧Prの値PrNに学習値Prlすなわちゼロを加算して解放待機圧Prの値PrNを値PrN+1に学習(PrN+1=PrN+Prl)すなわち変更する。
図8は、電子制御装置100において、例えば車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。なお、図9から図11は、図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例である。また、図9に示すt1時点は、NR切替判定部112において車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されたときである。
先ず、第2油圧制御部120の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2が記憶部118に記憶された解放待機圧Prまで減少させられる。次に、第1油圧制御部114の機能に対応するS20において、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が第1指示油圧Pc3Aまで一時的に増圧させられ、その後、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が第2指示油圧Pc3Bで待機させられる。次に、第1油圧制御部114の機能に対応するS30において、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が第2指示油圧Pc3Bから所定の上昇率で上昇させられる。
次に、ガタ打ち判定部116の機能に対応するS40において、ガタ打ちが発生したか否かが判定される。S40の判定が否定される場合には、S40が再度実行されるが、S40の判定が肯定される場合(図9から図11のt3時点)には、回転変化量計算部122aの機能に対応するS50が実行される。なお、図9から図11に示すt2時点は、第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部のガタが詰められてガタ打ちが発生したときである。S50では、タービン回転速度Ntの回転速度変化量ΔNtが計算される。
次に、学習制御部122の機能に対応するS60において、S50で計算された回転速度変化量ΔNtが目標変化量上限値ΔNt_tg_maxより大きいか否かが判定される。S60の判定が肯定される場合すなわち回転速度変化量ΔNtが目標変化量上限値ΔNt_tg_maxより大きい場合には、学習制御部122の機能に対応するS70が実行される。S60の判定が否定される場合には、学習制御部122の機能に対応するS80が実行される。S70では、S50で計算された回転速度変化量ΔNtから学習値Prlが算出される。次に、学習制御部122の機能に対応するS90において、記憶部118に記憶されている解放待機圧Prの値PrNから学習値Prlを減算して解放待機圧Prの値PrNが値PrN+1に学習(PrN+1=PrN−Prl)させられる。
S80では、S50で計算された回転速度変化量ΔNtが目標変化量下限値ΔNt_tg_minより小さいか否かが判定される。S80の判定が肯定される場合、すなわち回転速度変化量ΔNtが目標変化量下限値ΔNt_tg_minより小さい場合には、学習制御部122の機能に対応するS100が実行される。S80の判定が否定される場合、すなわち回転速度変化量ΔNtが目標変化量上限値ΔNt_tg_max以下であり且つ目標変化量下限値ΔNt_tg_min以上である場合には、学習制御部122の機能に対応するS110が実行される。
S100では、S50で計算された回転速度変化量ΔNtから学習値Prlが算出される。次に、学習制御部122の機能に対応するS120において、記憶部118に記憶されている解放待機圧Prの値PrNに学習値Prlを加算して解放待機圧Prの値PrNが値PrN+1に学習(PrN+1=PrN+Prl)させられる。
S110では、S50で計算された回転速度変化量ΔNtから学習値Prlが算出、すなわちS50で計算された回転速度変化量ΔNtから学習値Prlがゼロであると算出(Prl=0)される。次に、学習制御部122の機能に対応するS130において、記憶部118に記憶されている解放待機圧Prの値PrNに学習値Prlすなわちゼロを加算して解放待機圧Prの値PrNが値PrN+1に学習(PrN+1=PrN+Prl)させられる。
上述のように、本実施例の自動変速機22の電子制御装置100によれば、第2ブレーキB2は、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の変速の過渡時には前記変速前の指示油圧Pb2Aより一時的に低い解放待機圧Prとされ、解放待機圧Prは、前記変速の開始時の自動変速機22の変速機入力軸34のタービン回転速度N0と自動変速機22の内部のガタが詰まったときの変速機入力軸34のタービン回転速度NGとの回転速度変化量ΔNtに応じて学習させられる。このため、解放待機圧Prは、ガタ打ち時のショックを抑制させ且つ変速に要する時間が長くなるのを抑制させるように、回転速度変化量ΔNtに応じて学習させられるので、好適に前記ガタ打ち時のショックを抑制させ且つ前記変速に要する時間が長くなるのを抑制させることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、自動変速機22は、前進10段の各ギヤ段が形成されたが、この態様に限らない。例えば、自動変速機22は、複数のギヤ段が選択的に形成される自動変速機であれば良い。
また、前述の実施例では、車両10の駆動力源としてエンジン12を例示したが、この態様に限らない。例えば、前記駆動力源は、電動機等の他の原動機を単独で或いはエンジン12と組み合わせて採用することもできる。また、エンジン12の動力は、流体式伝動装置としてトルクコンバータ20を介して自動変速機22へ伝達されたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置は、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のない流体継手などの他の流体式伝動装置が用いられても良い。或いは、この流体式伝動装置は必ずしも設けられなくても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。