図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。車両10は、図1に示すように、駆動力源としてのエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18内に配設されたトルクコンバータ20及び自動変速機(遊星歯車式自動変速機)22を備えている。また、動力伝達装置16は、プロペラシャフト24と、ディファレンシャルギヤ26と、ドライブシャフト28と、を備えている。プロペラシャフト24は、自動変速機22の出力回転部材である変速機出力軸30に動力伝達可能に連結されている。ディファレンシャルギヤ26は、プロペラシャフト24に動力伝達可能に連結されている。ドライブシャフト28は、ディファレンシャルギヤ26に動力伝達可能に連結されている。
トルクコンバータ20は、エンジン12と自動変速機22との間の動力伝達経路に配設されており、トルクコンバータ20は、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとを備えた流体式伝動装置である。ポンプ翼車20pは、トルクコンバータ20の入力回転部材であり、エンジン12のクランク軸32に動力伝達可能に連結されている。タービン翼車20tは、トルクコンバータ20の出力回転部材であり、自動変速機22の入力回転部材である変速機入力軸(入力軸)34に動力伝達可能に連結されている。動力伝達装置16は、ポンプ翼車20pに動力伝達可能に連結された機械式のオイルポンプ36を備えている。オイルポンプ36は、エンジン12によって回転駆動されることにより、自動変速機22の変速制御に用いたり、動力伝達装置16の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油を吐出する。すなわち、オイルポンプ36によって汲み上げられた作動油は、車両10に備えられた油圧制御回路50の元圧として供給される。
図2は、自動変速機22の一例を説明する骨子図である。自動変速機22は、図2に示すように、第1遊星歯車装置38、第2遊星歯車装置40、第3遊星歯車装置42、及び第4遊星歯車装置44の複数組の遊星歯車装置と、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の複数の係合装置と、を備えている。本実施例では、特に区別しない場合は、これらの複数の係合装置を単に係合装置CBと称す。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、油圧制御回路50内のソレノイドバルブ等から各々出力される調圧された係合装置CBの各係合圧としての各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量である係合トルクTcbが変化させられることで、各々、係合状態や解放状態などの作動状態が切り替えられる。係合装置CBを滑らすことなくすなわち係合装置CBに差回転速度を生じさせることなく、変速機入力軸34と変速機出力軸30との間で、例えば自動変速機22に入力される入力トルクであるAT入力トルクTiを伝達する為には、そのAT入力トルクTiに対して係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある伝達トルク分が得られるトルク容量(=係合トルクTcb)が必要になる。上記伝達トルク分は、係合装置CBの分担トルクである。
自動変速機22は、複数組の遊星歯車装置38,40,42,44の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBを介して間接的に、一部が互いに連結されたり、変速機入力軸34、ケース18、或いは変速機出力軸30に連結されている。なお、第1遊星歯車装置38の各回転要素は、第1サンギヤS1、キャリアRCA、リングギヤRRである。第2遊星歯車装置40の各回転要素は、第2サンギヤS2、キャリアRCA、リングギヤRRである。第3遊星歯車装置42の各回転要素は、第3サンギヤS3、第3キャリアCA3、第3リングギヤR3である。第4遊星歯車装置44の各回転要素は、第4サンギヤS4、第4キャリアCA4、第4リングギヤR4である。第1遊星歯車装置38及び第2遊星歯車装置40においては、キャリアが共通のキャリアRCAで構成されると共にリングギヤが共通のリングギヤRRで構成される、所謂ラビニヨ型となっている。
自動変速機22は、係合装置CBが選択的に係合されることによって、変速比γ(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段が選択的に形成される有段変速機である。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸34の回転速度である自動変速機22の入力回転速度であり、AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸30の回転速度である自動変速機22の出力回転速度である。各変速段に対応する自動変速機22の変速比γは、複数組の遊星歯車装置38,40,42,44の各歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1,ρ2,ρ3,ρ4によって適宜定められる。変速比はギヤ比と同意であり、変速段はギヤ段と同意である。
自動変速機22は、例えば図3の係合作動表に示すように、第1速ギヤ段-第10速ギヤ段の10段の前進用のギヤ段(図中の「1st」-「10th」参照)、及び1段の後進用のギヤ段(図中の「Rev」参照)が選択的に形成される。また、自動変速機22は、例えば係合装置CBが何れも解放状態とされることによりニュートラル状態とされても良いが、本実施例では、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2が係合状態とされた状態でニュートラル状態とされる(図中の「N」参照)。自動変速機22のニュートラル状態は、自動変速機22における動力伝達が遮断された状態、すなわち自動変速機22が動力を伝達することが不能な状態である。変速比γは、第1速ギヤ段が最も大きく、ハイ側となる第10速ギヤ段側程小さくなる。図3の係合作動表は、自動変速機22にて形成される各ギヤ段と係合装置CBの各作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合状態を表し、空欄は解放状態を表している。
自動変速機22は、後述する電子制御装置(制御装置)100(図1参照)によって、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて係合装置CBのうちの所定の係合装置の作動状態が切り替えられることで、変速が行われる。例えば、電子制御装置100は、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へのアップシフトでは、図3の係合作動表に示すように、解放側摩擦係合装置となる第2クラッチC2を解放すると共に、係合側摩擦係合装置となる第1ブレーキB1を係合する、所謂クラッチツゥクラッチ変速を実行する。この際、第2クラッチC2の解放過渡油圧や第1ブレーキB1の係合過渡油圧が調圧制御される。係合装置CBのうちの所定の係合装置は、自動変速機22の変速に関与する係合装置である。解放側摩擦係合装置は、所定の係合装置のうちの自動変速機22の変速前には係合状態とされていた係合装置であって、自動変速機22の変速時に解放状態へ切り替えられる係合装置、すなわち自動変速機22の変速過渡において係合状態から解放状態に向けて制御される係合装置である。係合側摩擦係合装置は、所定の係合装置のうちの自動変速機22の変速前には解放状態とされていた係合装置であって、自動変速機22の変速時に係合状態へ切り替えられる係合装置、すなわち自動変速機22の変速過渡において解放状態から係合状態に向けて制御される係合装置である。
図1に戻り、車両10は、例えば自動変速機22の変速制御などに関連する制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置100を備えている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。
電子制御装置100には、車両10に設けられた各種センサ等(例えば、操作ポジションセンサ102、入力回転速度センサ104、出力回転速度センサ106、アクセル操作量センサ108など)による検出値に基づく各種信号(例えば、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー52の操作ポジションPOSsh、AT入力回転速度Ni(=タービン回転速度Nt)、車速Vに対応するAT出力回転速度No、図示しないアクセルペダルの踏込量の大きさを表すアクセル操作量θaccなど)が、それぞれ供給される。
また、電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えば油圧制御回路50など)に各種指令信号(例えば係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Satなど)が、それぞれ供給される。この油圧制御指令信号Satは、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbを調圧する油圧制御回路50内の各ソレノイドバルブ等を駆動する為の指令信号である。この油圧制御指令信号Satは、自動変速機22の変速を制御する為の指令信号でもある。電子制御装置100は、係合装置CBの狙いの係合トルクTcbを得る為の、各油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbの値に対応する指示油圧を設定し、その指示油圧に応じた駆動電流又は駆動電圧を油圧制御回路50へ出力する。
シフトレバー52は、自動変速機22における複数種類のシフトレンジを人為的操作により選択する為の操作装置である。シフトレバー52は、自動変速機22のシフトレンジに対応した操作ポジションPOSshへ運転者により操作される。操作ポジションPOSshは、例えばP、R、N、D操作ポジションを含んでいる。
P操作ポジションは、自動変速機22がニュートラル状態とされ且つ変速機出力軸30の回転が機械的に阻止された、自動変速機22のパーキングモード(=Pレンジ)を選択するパーキング操作ポジションである。R操作ポジションは、車両10の後進走行を可能とする自動変速機22の後進走行モード(=Rレンジ)を選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、自動変速機22がニュートラル状態とされた自動変速機22のニュートラルモード(=Nレンジ)を選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、車両10の前進走行を可能とする自動変速機22の前進走行モード(=Dレンジ)を選択する前進走行操作ポジションである。
電子制御装置100は、車両10における各種制御を実現する為に、変速制御手段すなわち変速制御部110を備えている。変速制御部110は、自動変速機22の変速制御を実行する。例えば、変速制御部110は、操作ポジションPOSshに基づいて自動変速機22のシフトレンジを切り替えるように係合装置CBの作動状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力する。変速制御部110は、Dレンジである場合には、予め定められた関係である例えば変速マップを用いて自動変速機22のギヤ段の切替えが必要であるか否かを判断し、そのギヤ段の切替えが必要であるとの変速判断をした場合には、自動変速機22のギヤ段を切り替えるように係合装置CBの作動状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路50へ出力する。
ところで、自動変速機22の内部には、回転方向における相互に作用する二つの部品間のすきまであるバックラッシ(ガタとも称する)が存在する。自動変速機22のシフトレンジの違いや自動変速機22のギヤ段の違いによって、同じ部品間において、ガタが詰まる方向が異なったり、ガタが詰まっていない状態となる。その為、自動変速機22の変速制御の際には、ある部品間において、ガタが詰まる方向が変化したり、ガタが詰まっていない状態からガタが詰まっている状態へ変化したりする。この際、ガタが詰まることによるガタ打ち(=歯打ち)によって発生するトルクに起因するショックが生じる可能性がある。ガタが詰まる方向は、例えば車両10の前進方向の回転方向を正回転としたときに、正回転方向に作用するトルクによって詰まるガタを正側とする。また、本実施例では、ガタ打ち時のショックをガタ打ちショックと称する。
一方で、自動変速機22の変速制御において、係合側摩擦係合装置の指示油圧は、例えばAT入力トルクTiに応じた値であって、変速ショックの抑制と変速時間とを考慮した値に設定される。本実施例では、このような値に設定された指示油圧を通常指示油圧と称する。自動変速機22の変速制御の際に、例えば通常指示油圧よりもゆっくりと指示油圧を上昇させて係合側摩擦係合装置を緩やかに係合させることで、上述したようなガタ打ちショックを抑制することが考えられる。しかしながら、係合側摩擦係合装置を緩やかに係合させると、変速の進行が停滞してドライバビリティの低下につながる可能性がある。
本実施例では、自動変速機22の変速制御の際に、係合側摩擦係合装置を緩やかに係合させるのではなく、係合側摩擦係合装置の指示油圧は通常指示油圧としたままで、係合側摩擦係合装置とは別の係合装置のトルク容量を一時的に小さくすることでガタ打ちショックを抑制する。以下に、その制御について詳述する。
図4は、自動変速機22のNレンジにおいて各回転要素に作用するトルクを説明する図である。図5は、自動変速機22のNレンジにおける各回転要素の回転速度の状態を共線図上に示す図である。図6は、自動変速機22のRレンジにおいて各回転要素に作用するトルクを説明する図である。図7は、自動変速機22のRレンジにおける各回転要素の回転速度の状態を共線図上に示す図である。図4-図7では、自動変速機22の単体において、車重などによる路面からの負荷がない状態で、一定のAT入力回転速度Niを維持するようにAT入力トルクTiが付与された場合(図中の「Input」参照)を例示している。
図4、図6において、自動変速機22の骨子図上の矢印は各回転要素に作用するトルクの向きを示している。時計回りの矢印の方向が正側である。図4、図6では、図2に示した自動変速機22の骨子図に対して、変速機入力軸34の軸心の下半分が省略されている。
図5、図7に示す共線図は、各々、自動変速機22における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す図である。図5、図7において、9本の縦線Y1-Y9は、自動変速機22の9つの回転要素に対応している。縦線Y1は、第1回転要素RE1に対応する第1サンギヤS1の回転速度を表す軸である。縦線Y2は、第2回転要素RE2に対応するキャリアRCAの回転速度を表す軸である。縦線Y3は、第3回転要素RE3に対応するリングギヤRRの回転速度を表す軸である。縦線Y4は、第4回転要素RE4に対応する第2サンギヤS2の回転速度を表す軸である。縦線Y5は、第5回転要素RE5に対応する第3リングギヤR3の回転速度を表す軸である。縦線Y6は、第6回転要素RE6に対応する第3キャリアCA3の回転速度を表す軸である。縦線Y7は、第7回転要素RE7に対応する相互に連結された第3サンギヤS3及び第4サンギヤS4の回転速度を表す軸である。縦線Y8は、第8回転要素RE8に対応する第4キャリアCA4の回転速度を表す軸である。縦線Y9は、第9回転要素RE9に対応する第4リングギヤR4の回転速度を表す軸である。また、第2回転要素RE2及び第8回転要素RE8は、変速機入力軸34と連結され(図中の「in」参照)、第6回転要素RE6は、変速機出力軸30と連結されている(図中の「out」参照)。また、第3回転要素RE3と第7回転要素RE7とは、第1クラッチC1を介して選択的に連結され、第4回転要素RE4と第7回転要素RE7とは、第2クラッチC2を介して選択的に連結され、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5とは、第3クラッチC3を介して選択的に連結され、第6回転要素RE6と第9回転要素RE9とは、第4クラッチC4を介して選択的に連結され、第1回転要素RE1は、第1ブレーキB1を介してケース18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は、第2ブレーキB2を介してケース18に選択的に連結されている。
図4、図5において、自動変速機22のNレンジでは、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2が係合状態とされている。自動変速機22では、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2が係合状態とされていても、第1クラッチC1又は第3クラッチC3が解放状態とされていればNレンジが成立させられる。自動変速機22のNレンジでは、例えば第1速ギヤ段や後進用のギヤ段を形成することに備えて、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2が予め係合状態とされる。このような自動変速機22のNレンジでは、路面からの負荷がない状態であれば解放状態にある係合装置の引き摺りによって変速機出力軸30が正回転となるトルクが発生する。その為、第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部におけるガタは正側に詰まっている。
一方で、図6、図7において、自動変速機22のRレンジでは、第2クラッチC2、第3クラッチC3、及び第2ブレーキB2が係合状態とされている。自動変速機22のRレンジでは、各回転要素に作用するトルクによって、第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部におけるガタは負側に詰まっている。従って、自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の際には、ガタが詰まる方向が正側から負側に反転し、ガタ打ちが発生する。Rレンジでは、第3クラッチC3の係合によって第3回転要素RE3と第5回転要素RE5とが一体とされるので、第2ブレーキB2の係合によってケース18に連結されるイナーシャが大きくなる。その為、自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の際には、大きなガタ打ちショックが発生するおそれがある。
電子制御装置100は、車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の際には、係合状態とされている第2ブレーキB2の係合圧すなわち第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を、変速過渡時に変速制御前(変速前)の指示油圧Pb2Kより一時的に低い解放待機圧(待機圧)Prにして、第2ブレーキB2をスリップ状態(=半係合状態)とする。これにより、ガタ打ちによって発生するトルクの伝達が低減されて、ガタ打ちショックが抑制され得る。車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御では、第3クラッチC3の指示油圧Pc3は、例えばAT入力トルクTiに応じた値であって、変速ショックの抑制と変速時間とを考慮した値に設定される。これにより、第3クラッチC3の係合状態への切替え遅れに起因する変速の停滞が防止され得る。すなわち、電子制御装置100は、車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の際に、係合状態とされている第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を一時的に解放待機圧Prに低下するために、変速制御部110に、NR切替判定部112と、ガタ打ち判定部114と、イナーシャトルク推定部116と、係合順選択部118と、第1油圧制御部120と、第2油圧制御部122と、を備えている。
NR切替判定部112は、車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたか否かを判定する。例えば、NR切替判定部112は、出力回転速度センサ106から検出されるAT出力回転速度No[rpm]すなわち車速V[km/h]がゼロであり、且つ、操作ポジションセンサ102から検出される操作ポジションPOSshがN操作ポジションからR操作ポジションに切り替えられると、車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定する。
変速制御部110は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、前記変速制御の変速に伴う反力を担う第5回転要素(所定の回転要素)RE5に連結された第2ブレーキ(反力用摩擦係合装置)B2および第2クラッチC2の係合状態で、第5回転要素RE5とは異なる第3回転要素(他の回転要素)RE3に連結された第3クラッチ(係合側摩擦係合装置)C3を係合させるように、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2[Pa]と、第2クラッチC2の指示油圧Pc2[Pa]と、第3クラッチC3の指示油圧Pc3[Pa]と、それぞれ制御する。なお、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御において、第2クラッチC2の指示油圧Pc2は、例えば、変速前から変速後に亘って一定である。
ガタ打ち判定部114は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、ガタ打ちが発生したか否かを判定する。例えば、ガタ打ち判定部114は、図10に示すように、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されたときに入力回転速度センサ104から検出されたタービン回転速度Nt[rpm]すなわちタービン回転速度Nt0[rpm]が低下してその低下したタービン回転速度Ntが予め設定された所定時間tA[sec]の間一定であると判定されると、ガタ打ちが発生したと判定する。なお、ガタ打ちショックを抑制するために第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を一時的に解放待機圧Prに低下させると、自動変速機22の変速機入力軸34の回転速度すなわちタービン回転速度Ntが変速の開始時のタービン回転速度Nt0から自動変速機22の内部のガタが詰まるまで変化するが、自動変速機22の内部のガタが詰まってから一時的にタービン回転速度Ntが変化しなくなる現象が発生する。所定時間tAは、例えば実験等により求められた、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されて第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部のガタが詰められてから一時的にタービン回転速度Ntが変化しなくなる時間、よりも十分に短い時間に設定されている。つまり、図10に示すように、ガタ打ちが発生したとき(t2時点)のタービン回転速度Nt[rpm]と、ガタ打ち判定部114でガタが発生したと判定されたとき(t3時点)のタービン回転速度Nt[rpm]と、は同じである。
イナーシャトルク推定部116には、差回転速度推定部116aが備えられている。差回転速度推定部116aは、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、入力回転速度センサ104から検出されるタービン回転速度Ntと出力回転速度センサ106から検出されるAT出力回転速度Noとを用いて、第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2[rpm]および第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3[rpm]を推定する。なお、第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2は、第3リングギヤR3の回転速度Nr3[rpm]と同じであり、第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3は、リングギヤRRの回転速度Nrr[rpm]と第3リングギヤR3の回転速度Nr3[rpm]との差(Nrr-Nr3)である。つまり、差回転速度推定部116aは、入力回転速度センサ104から検出されるタービン回転速度Ntと出力回転速度センサ106から検出されるAT出力回転速度Noとから第3リングギヤR3の回転速度Nr3およびリングギヤRRの回転速度Nrrを推定して、その推定した第3リングギヤR3の回転速度Nr3およびリングギヤRRの回転速度Nrrから第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とを算出する。
図8は、例えば、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御において、入力回転速度センサ104から検出されるタービン回転速度Ntと出力回転速度センサ106から検出されるAT出力回転速度Noとから、第3リングギヤR3の回転速度Nr3およびリングギヤRRの回転速度Nrrをそれぞれ推定する方法を詳細に説明する共線図である。なお、図8に示されている実線L1は、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の変速前の状態のときの各回転要素の回転速度を表す線である。また、図8に示されている破線L2は、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されて第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部のガタが詰められたときの各回転要素の回転速度を表す線である。
始めに、図8に示すように、入力回転速度センサ104から検出されるタービン回転速度Ntから、キャリアRCAの回転速度Nrcaと第4キャリアCA4の回転速度Nca4とが求められる(Nt=Nrca=Nca4)。また、出力回転速度センサ106から検出されるAT出力回転速度Noから、第3キャリアCA3の回転速度Nca3が求められる(No=Nca3)。次に、入力回転速度センサ104および出力回転速度センサ106から検出されたタービン回転速度NtおよびAT出力回転速度Noとを用いて、第3サンギヤS3および第4サンギヤS4の回転速度Ns3s4すなわち第7回転要素RE7の回転速度Ns3s4が式(1)から推定される。但し、式(1)に示された「X」は、予め実験等により設定された、タービン回転速度Ntに関連する係数であり、係数Xは、解放された各係合装置CBの引き摺りトルクおよび各係合装置CBのイナーシャ(慣性モーメント)のバランスから決定した係数である。また、式(1)に示された「Y」は、予め実験等により設定された、AT出力回転速度Noに関連する係数であり、係数Yは、解放された各係合装置CBの引き摺りトルクおよび各係合装置CBのイナーシャ(慣性モーメント)のバランスから決定した係数である。次に、第7回転要素RE7の回転速度Ns3s4が推定されると、その推定された回転速度Ns3s4を用いて式(2)から第3リングギヤR3の回転速度Nr3が推定される。但し、式(2)に示された「ρ3」は、第3遊星歯車装置42の歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)である。次に、第2サンギヤS2の回転速度Ns2から式(3)を用いてリングギヤRRの回転速度Nrrが推定される。なお、NレンジからRレンジへ切り替える変速制御では第2クラッチC2が完全係合しているので、図8に示すように第7回転要素RE7の回転速度Ns3s4と第2サンギヤS2の回転速度Ns2とが同じ回転速度になる。また、式(3)に示された「ρ2」は、第2遊星歯車装置40の歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)である。これによって、入力回転速度センサ104から検出されるタービン回転速度Ntと出力回転速度センサ106から検出されるAT出力回転速度Noとから、第3リングギヤR3の回転速度Nr3およびリングギヤRRの回転速度Nrrがそれぞれ推定される。
Ns3s4=X×Nt+Y×No ・・・(1)
Nr3=ρ3×Ns3s4 ・・・(2)
Nrr=ρ2×Ns2(Ns3s4) ・・・(3)
イナーシャトルク推定部116は、差回転速度推定部116aで第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とがそれぞれ推定されると、第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Ir[Nm]と、第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Ic[Nm]と、をそれぞれ推定する。例えば、イナーシャトルク推定部116は、差回転速度推定部116aで推定された第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2から式(4)を用いて第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irを推定し、差回転速度推定部116aで推定された第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3から式(5)を用いて第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icを推定する。なお、式(4)に示されている「Ib2」は、第2ブレーキB2のイナーシャ(慣性モーメント)[kg・m2]であり、予め実験等に設定された値である。また、式(5)に示されている「Ic3」は、第3クラッチC3のイナーシャ(慣性モーメント)[kg・m2]であり、予め実験等により設定された値である。
T_Ir=Ib2×ΔNb2 ・・・(4)
T_Ic=Ic3×ΔNc3 ・・・(5)
係合順選択部118は、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定されると、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定されたときにイナーシャトルク推定部116で推定された第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irと第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icとから、完全係合していない第2ブレーキB2と第3クラッチC3とを完全係合させる順番を選択する。例えば、係合順選択部118は、第2ブレーキB2および第3クラッチC3のうちのイナーシャトルクT_Ir、T_Icの推定値が小さい方の係合装置CBを完全係合させた後に、第2ブレーキB2および第3クラッチC3のうちのイナーシャトルクT_Ir、T_Icの推定値が大きい方の係合装置CBを完全係合させる順番を選択する。すなわち、係合順選択部118は、例えば、第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irの推定値が第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icの推定値より大きい場合には、第3クラッチC3を完全係合させた後に第2ブレーキB2を完全係合させる順番を選択する。また、係合順選択部118は、例えば、第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irの推定値が第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icの推定値以下である場合には、第2ブレーキB2を完全係合させた後に第3クラッチC3を完全係合させる順番を選択する。
第1油圧制御部120は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3[Pa]を制御する。例えば、図10に示すように、第1油圧制御部120は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を予め設定された第1指示油圧Pc3A[Pa]まで一時的に増圧させるクイックフィルを実行する。次に、第1油圧制御部120は、前記クイックフィルが終了すると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を所定時間tB[sec]の間予め設定された第2指示油圧Pc3B[Pa]で待機させる。また、第1油圧制御部120は、所定時間tBが経過すると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を第2指示油圧Pc3Bから所定の上昇率でガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定されるまで上昇させる。
第1油圧制御部120には、完全係合判定部120aが備えられている。完全係合判定部120aは、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、第3クラッチC3が完全係合したか否かを判定する。例えば、完全係合判定部120aは、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が所定の指示油圧Pc3K(図10参照)以上になると、第3クラッチC3が完全係合したと判定する。なお、所定の指示油圧Pc3Kは、AT入力トルクTiに対して第3クラッチC3にて受け持つ必要のある伝達トルク分(第3クラッチC3の分担トルク)が得られるトルク容量を確保することができる指示油圧Pc3であり、例えばAT入力トルクTiから予め算出される。
第1油圧制御部120は、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定され、且つ、係合順選択部118で第2ブレーキB2と第3クラッチC3とを完全係合させる順番が選択されると、係合順選択部118で選択された順番に基づいて第3クラッチC3の指示油圧Pc3を制御する。例えば、第1油圧制御部120は、係合順選択部118で第3クラッチC3を完全係合させた後に第2ブレーキB2を完全係合させる順番が選択されると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を、予め設定された所定最短時間tM1[sec]内に所定の指示油圧Pc3Kに上昇するように設定された上昇率で、完全係合判定部120aで第3クラッチC3が完全係合したと判定されるまで増加する。なお、所定最短時間tM1は、変速ショックが抑制される範囲内で第3クラッチC3を完全係合させることが可能な最短の時間であり、例えばイナーシャトルク推定部116で推定された第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icから算出される。また、第1油圧制御部120は、完全係合判定部120aで第3クラッチC3が完全係合したと判定されると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を所定の指示油圧Pc3Kで維持する。
例えば、第1油圧制御部120は、係合順選択部118で第2ブレーキB2を完全係合させた後に第3クラッチC3を完全係合させる順番が選択されると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を第3指示油圧Pc3C(図10参照)で、後述する第2油圧制御部122に備えられた完全係合判定部122aで第2ブレーキB2が完全係合したと判定されるまで維持する。なお、第3指示油圧Pc3Cは、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定されたときの第3クラッチC3の指示油圧Pc3である。また、第1油圧制御部120は、完全係合判定部122aで第2ブレーキB2が完全係合したと判定されると、第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Ic[Nm]と目標変速時間t_tgt[sec]とからタービン回転速度Ntの目標変化速度ΔNt_tgtを決定し、実際のタービン回転速度Ntの変化速度ΔNtが目標変化速度ΔNt_tgtとなるように、完全係合判定部120aで第3クラッチC3が完全係合したと判定されるまで第3クラッチC3の指示油圧Pc3を制御してフィードバック制御を実行する。なお、タービン回転速度Ntの変化速度ΔNtは、単位時間当たりにタービン回転速度Ntが変化(低下)する変化量(低下量)であり、図10に示すタービン回転速度Ntの変速勾配である。また、第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icは、完全係合判定部122aで第2ブレーキB2が完全係合したと判定されたときにイナーシャトルク推定部116で推定された第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icである。また、図10に示すように、NレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されてから終了(完了)するまでの時間t_totalは実験等により予め設定されており、目標変速時間t_tgtは、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されてから完全係合判定部122aで第2ブレーキB2が完全係合したと判定されるまでに経過した経過時間tp1から算出(t_tgt=t_total-tp1)されるようになっている。
第2油圧制御部122に備えられた完全係合判定部122aは、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、第2ブレーキB2が完全係合したか否かを判定する。例えば、完全係合判定部122aは、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2が所定の指示油圧Pb2K(図10参照)以上になると、第2ブレーキB2が完全係合したと判定する。なお、所定の指示油圧Pb2Kは、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始される前(変速前)の第2ブレーキB2の指示油圧Pb2である。
第2油圧制御部122は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2[Pa]を制御する。例えば、第2油圧制御部122は、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されると、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を前記変速制御が開始される前(変速前)の指示油圧(係合圧)Pb2Kから予め設定された解放待機圧Prまで減少させて、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定されるまで第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を解放待機圧Prで待機させる。
第2油圧制御部122は、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定され、且つ、係合順選択部118で第2ブレーキB2と第3クラッチC3とを完全係合させる順番が選択されると、係合順選択部118で選択された順番に基づいて第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を制御する。例えば、第2油圧制御部122は、係合順選択部118で第3クラッチC3を完全係合させた後に第2ブレーキB2を完全係合させる順番が選択されると、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を解放待機圧Prで、第1油圧制御部120に備えられた完全係合判定部120aで第3クラッチC3が完全係合したと判定されるまで待機する。また、第2油圧制御部122は、完全係合判定部120aで第3クラッチC3が完全係合したと判定されると、第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Ir[Nm]と目標変速時間t_tgt[sec]とからタービン回転速度Ntの目標変化速度ΔNt_tgtを決定し、実際のタービン回転速度Ntの変化速度ΔNtが目標変化速度ΔNt_tgtとなるように、完全係合判定部122aで第2ブレーキB2が完全係合したと判定されるまで第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を制御してフィードバック制御を実行する。なお、第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irは、完全係合判定部120aで第3クラッチC3が完全係合したと判定されたときにイナーシャトルク推定部116で推定された第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irである。また、目標変速時間t_tgtは、NR切替判定部112で車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されてから完全係合判定部120aで第3クラッチC3が完全係合したと判定されるまでに経過した経過時間tp2から算出(t_tgt=t_total-tp2)されるようになっている。
例えば、第2油圧制御部122は、係合順選択部118で第2ブレーキB2を完全係合させた後に第3クラッチC3を完全係合させる順番が選択されると、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を、予め設定された所定最短時間tM2[sec]内に所定の指示油圧Pb2Kに上昇するように設定された上昇率で、完全係合判定部122aで第2ブレーキB2が完全係合したと判定されるまで増加する。なお、所定最短時間tM2は、変速ショックが抑制される範囲内で第2ブレーキB2を完全係合させることが可能な最短の時間であり、例えばイナーシャトルク推定部116で推定された第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irから算出される。また、第2油圧制御部122は、完全係合判定部122aで第2ブレーキB2が完全係合したと判定されると、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を所定の指示油圧Pb2Kで維持する。
図9は、電子制御装置100において、例えば車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。なお、図10は、図9のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例である。また、図10に示すt1時点は、NR切替判定部112において車両停止中に自動変速機22をNレンジからRレンジへ切り替える変速制御が開始されたと判定されたときである。
先ず、第2油圧制御部122の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2が解放待機圧Prまで減少させられる。次に、第1油圧制御部120の機能に対応するS20において、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が第1指示油圧Pc3Aまで一時的に増圧させられ、その後、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が第2指示油圧Pc3Bで待機させられる。次に、第1油圧制御部120の機能に対応するS30において、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が第2指示油圧Pc3Bから所定の上昇率で上昇させられる。
次に、ガタ打ち判定部114の機能に対応するS40において、ガタ打ちが発生したか否かが判定される。S40の判定が否定される場合には、S40が再度実行されるが、S40の判定が肯定される場合(図10のt3時点)には、差回転速度推定部116aの機能に対応するS50が実行される。なお、図10に示すt2時点は、第2ブレーキB2とケース18との間のスプライン嵌合部のガタが詰められてガタ打ちが発生したときである。S50では、第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とが推定される。
次に、イナーシャトルク推定部116の機能に対応するS60において、S50で推定された第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とから、第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irと第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icとが推定される。次に、係合順選択部118の機能に対応するS70において、S60で推定された第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irと第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icとの大小関係によって、すなわち第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irが第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icより大きいか否かによって、第2ブレーキB2と第3クラッチC3とを完全係合する順番が選択される。S70の判定が肯定される場合、すなわち第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irが第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icよりも大きくイナーシャトルクT_Icの推定値が小さい方の第3クラッチC3を完全係合させた後にイナーシャトルクT_Irの推定値が大きい方の第2ブレーキB2を完全係合させる順番が選択される場合には、第1油圧制御部120の機能に対応するS80が実行される。S70の判定が否定される場合、すなわち第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irが第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Ic以下でありイナーシャトルクT_Irの推定値が小さい方の第2ブレーキB2を完全係合させた後にイナーシャトルクT_Icの推定値が大きい方の第3クラッチC3を完全係合させる順番が選択される場合には、第2油圧制御部122の機能に対応するS90が実行される。
S80では、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を所定最短時間tM1で所定の指示油圧Pc3Kに上昇する上昇率で、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が増加させられる。次に、完全係合判定部120aの機能に対応するS100において、第3クラッチC3が完全係合したか否かが判定される。S100の判定が否定される場合には、再度S100が実行されるが、S100の判定が肯定される場合(図10のt4時点)には、第2油圧制御部122の機能に対応するS110が実行される。S110では、第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irと目標変速時間t_tgtとからタービン回転速度Ntの目標変化速度ΔNt_tgtが決定され、タービン回転速度Ntの変化速度ΔNtが目標変化速度ΔNt_tgtとなるように第2ブレーキの指示油圧Pb2が制御されてフィードバック制御が実行される。次に、完全係合判定部122aの機能に対応するS120において、第2ブレーキB2が完全係合したか否かが判定される。S120の判定が否定される場合には、再度S120が実行されるが、S120の判定が肯定される場合(図10のt5時点)には、NレンジからRレンジへ切り替える変速制御が終了される。
S90では、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を所定最短時間tM2で変速前の指示油圧Pb2Kに上昇する上昇率で、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2が増加させられる。次に、完全係合判定部122aの機能に対応するS130において、第2ブレーキB2が完全係合したか否かが判定される。S130の判定が否定される場合には、再度S130が実行されるが、S130の判定が肯定される場合には、第1油圧制御部120の機能に対応するS140が実行される。S140では、第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icと目標変速時間t_tgtとからタービン回転速度Ntの目標変化速度ΔNt_tgtが決定され、タービン回転速度Ntの変化速度ΔNtが目標変化速度ΔNt_tgtとなるように第3クラッチC3の指示油圧Pc3が制御され、フィードバック制御が実行される。次に、完全係合判定部120aの機能に対応するS150において、第3クラッチC3が完全係合したか否かが判定される。S150の判定が否定される場合には、再度S150が実行されるが、S150の判定が肯定される場合には、NレンジからRレンジへ切り替える変速制御が終了される。
上述のように、本実施例の自動変速機22の電子制御装置100によれば、第2ブレーキB2は、車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の変速の過渡時には前記変速前の指示油圧Pb2Kより一時的に低い解放待機圧Prとされ、第2ブレーキB2と第3クラッチC3との前記変速の過渡時に発生するイナーシャトルクT_Ir、T_Icをそれぞれ推定し、第2ブレーキB2および第3クラッチC3のうちのイナーシャトルクT_Ir、T_Icの推定値が小さい方の係合装置CBを完全係合させた後に、タービン回転速度Ntの変化速度ΔNtが目標変化速度ΔNt_tgtとなるように、第2ブレーキB2および第3クラッチC3のうちのイナーシャトルクT_Ir、T_Icの推定値が大きい方の係合装置CBを制御する。このため、第2ブレーキB2および第3クラッチC3のうちのイナーシャトルクT_Ir、T_Icの推定値が小さい方の係合装置CBが完全係合させられた状態で、第2ブレーキB2および第3クラッチC3のうちのイナーシャトルクT_Ir、T_Icの推定値が大きい方の係合装置CBだけを制御することでフィードバック制御を実行させられるので、変速時のショックを抑制させ、且つ、変速に要する時間が長くなるのを抑制させることができる。また、始めに、第2ブレーキB2および第3クラッチC3のうちのイナーシャトルクT_Ir、T_Icの推定値が小さい方の係合装置CBが完全係合させられるので、第2ブレーキB2および第3クラッチC3のうちのイナーシャトルクT_Ir、T_Icの推定値が大きい方の係合装置CBが始めに完全係合させられるに比べて、短い時間で第2ブレーキB2および第3クラッチC3の一方を完全係合させることができる。これによって、第2ブレーキB2および第3クラッチC3の他方を完全係合させるための時間を好適に長くすることができるので、好適に、変速時のショックを抑制させ、且つ、変速に要する変速時間が長くなるのを抑制させることができる。
続いて、本発明の他の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
図11および図12は、本発明の他の実施例の自動変速機22の電子制御装置(制御装置)130を説明する図である。本実施例の電子制御装置130は、変速制御部110に変速ショック発生推定部132が備えられている点と、差回転速度推定部116aに差回転不定判定部116bが備えられている点と、で相違しており、その他は実施例1の電子制御装置100と略同じである。
差回転不定判定部116bは、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定されると、第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とをそれぞれ計算(推定)することが可能であるか否かを判定する。例えば、差回転不定判定部116bは、入力回転速度センサ104からタービン回転速度Ntが検出され、且つ、出力回転速度センサ106からAT出力回転速度Noが検出されると、第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とをそれぞれ計算することができると判定する。また、差回転不定判定部116bは、例えば入力回転速度センサ104および出力回転速度センサ106の少なくとも一方が故障して、タービン回転速度NtおよびAT出力回転速度Noの少なくとも一方が検出されないと、第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とをそれぞれ計算することができないと判定する。なお、差回転速度推定部116aは、差回転不定判定部116bで第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とをそれぞれ計算することができると判定されると、第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2および第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3を推定する。
第1油圧制御部120は、差回転不定判定部116bで第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とをそれぞれ計算することができないと判定されると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を予め設定された所定の上昇率Rup1で、完全係合判定部120aで第3クラッチC3が完全係合したと判定されるまで増加する。なお、上昇率Rup1は、第3クラッチC3を完全係合させる際に変速ショックが抑制されるように予め実験等によって設定された上昇率であり、上昇率Rup1は、単位時間あたりに第3クラッチC3の指示油圧Pc3が上昇する上昇量である。
第2油圧制御部122は、差回転不定判定部116bで第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とをそれぞれ計算することができないと判定されると、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を予め設定された所定の上昇率Rup2で、完全係合判定部122aで第2ブレーキB2が完全係合したと判定されるまで増加する。なお、上昇率Rup2は、第2ブレーキB2を完全係合させる際に変速ショックが抑制されるように予め実験等によって設定された上昇率であり、上昇率Rup2は、単位時間あたりに第2ブレーキB2の指示油圧Pb2が上昇する上昇量である。
変速ショック発生推定部132は、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定されると、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定されたときにイナーシャトルク推定部116で推定された第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irと第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icとから、予め設定された時間t_total内でNレンジからRレンジへ切り替える変速制御を完了させようとした場合に前記変速制御の過渡時に変速ショックを抑制することができるか否かを推定する。例えば、変速ショック発生推定部132は、イナーシャトルク推定部116で推定された第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irと第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icとの少なくとも一方が予め設定された所定値Tm[Nm]以上であると、前記変速制御の過渡時に変速ショックを抑制することができないと推定する。なお、所定値Tmは、予め設定された時間t_total内で第2ブレーキB2と第3クラッチC3とをそれぞれ完全係合させた場合に比較的高い確率で変速ショックが発生するイナーシャトルクT_Ir、T_Icである。また、係合順選択部118は、ガタ打ち判定部114でガタ打ちが発生したと判定され、且つ、変速ショック発生推定部132でNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の過渡時に変速ショックを抑制することができると推定されると、完全係合していない第2ブレーキB2と第3クラッチC3とを完全係合させる順番を選択する。
第1油圧制御部120は、変速ショック発生推定部132でNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の過渡時に変速ショックを抑制することができないと推定されると、第3クラッチC3の指示油圧Pc3を予め設定された所定の上昇率Rup3で、完全係合判定部120aで第3クラッチC3が完全係合したと判定されるまで増加する。なお、上昇率Rup3は、第3クラッチC3を完全係合させる際に変速ショックが抑制されるように予め実験等によって設定された上昇率であり、例えば変速ショック発生推定部132で変速ショックを抑制することができないと推定されたときにイナーシャトルク推定部116で推定された第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icから算出される。
第2油圧制御部122は、変速ショック発生推定部132でNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の過渡時に変速ショックを抑制することができないと推定されると、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2を予め設定された所定の上昇率Rup4で、完全係合判定部122aで第2ブレーキB2が完全係合したと判定されるまで増加する。なお、上昇率Rup4は、第2ブレーキB2を完全係合させる際に変速ショックが抑制されるように予め実験等によって設定された上昇率であり、例えば変速ショック発生推定部132で変速ショックを抑制することができないと推定されたときにイナーシャトルク推定部116で推定された第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irから算出される。
図12は、電子制御装置130において、例えば車両停止中にNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。なお、図12のフローチャートでは、図9のフローチャートのS40の前に示されていたS10、S20、およびS30が省略されている。また、図12のフローチャートに示されているS70からS150は、図9のフローチャートに示されていたS70からS150と同じステップであるので、図12のフローチャートではS70からS150の説明を省略する。
先ず、ガタ打ち判定部114の機能に対応するS40において、ガタ打ちが発生したか否かが判定される。S40の判定が否定される場合には、S40が再度実行されるが、S40の判定が肯定される場合には、差回転不定判定部116bの機能に対応するS200が実行される。S200では、第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とをそれぞれ計算することが可能であるか否かが判定される。S200の判定が肯定される場合には、差回転速度推定部116aの機能に対応するS50が実行されるが、S200の判定が否定される場合には、第1油圧制御部120、完全係合判定部120a、第2油圧制御部122、および完全係合判定部122aの機能に対応するS210が実行される。S50では、第2ブレーキB2の差回転速度ΔNb2と第3クラッチC3の差回転速度ΔNc3とが推定される。
S210では、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が予め設定された所定の上昇率Rup1で第3クラッチC3が完全係合するまで増加され、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2が予め設定された所定の上昇率Rup2で第2ブレーキB2が完全係合するまで増加される。次に、イナーシャトルク推定部116の機能に対応するS60において、第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irと第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icとがそれぞれ推定される。次に、変速ショック発生推定部132の機能に対応するS220において、S60で推定された第2ブレーキB2のイナーシャトルクT_Irと第3クラッチC3のイナーシャトルクT_Icとの少なくとも一方が所定値Tm以上であるか否かが、すなわちNレンジからRレンジへ切り替える変速制御の過渡時に変速ショックを抑制することができないか否かが判定される。S220の判定が否定される場合、すなわち前記変速制御の過渡時に変速ショックを抑制することができる場合には、係合順選択部118の機能に対応するS70が実行される。S220の判定が肯定される場合、すなわち前記変速制御の過渡時に変速ショックを抑制することができない場合には、第1油圧制御部120、完全係合判定部120a、第2油圧制御部122、および完全係合判定部122aの機能に対応するS230が実行される。S230では、第3クラッチC3の指示油圧Pc3が予め設定された所定の上昇率Rup3で第3クラッチC3が完全係合するまで増加され、第2ブレーキB2の指示油圧Pb2が予め設定された所定の上昇率Rup4で第2ブレーキB2が完全係合するまで増加される。