JP2021031733A - 水素分離合金 - Google Patents

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【課題】 水素分離合金において耐水素脆性が高く耐久性に優れる水素分離合金を提供する。【解決手段】 原子%で組成式:Nb100−(α+β+γ+δ)TiαNiβWγFeδ(10≦α≦60、10≦β≦50、0.5≦γ≦10、0.5≦δ≦10、α+β+δ≦90、不純物を含む)で表される水素分離合金において、該水素分離合金は、Nb−Ti−W相でなる水素透過相と(Ni、Fe)Ti相でなる耐水素脆性相との二相でなる水素分離合金。【選択図】 図1

Description

本発明は、高純度水素を得るために用いられる水素分離合金に関するものである。
最近、クリーンエネルギーとして燃料電池が注目されている。燃料電池の燃料である水素ガスは自然界に多量に存在しないため人工的に作り出さなければならない。その方法の一つとして水の電気分解によって水素を得る方法があるが、現在の技術レベルではコストがかかりすぎるため、現在は化石資源の改質によって水素が製造されている。
しかし、この方法では水素と同時にCO、CO、HO等の不純物ガスが発生する。特にCOは燃料電池の電極を被毒するため、化石資源の改質によって得られた水素を燃料電池で使用するためには、水素をこれらの不純物ガスから分離・精製して、高純度化しなければならない。
水素の精製方法としては金属膜を用いた膜分離法が簡便で且つ高純度な水素を得る方法として知られている。ここで用いられる水素分離膜には水素透過性能と耐水素脆性という相反する性質が求められている。この両者を満足し、現在実用化されている水素分離金属膜はPd−Ag合金膜、Pd−Cu合金膜等のPd基合金である。しかし将来、燃料電池が広く使用されるようになれば、高価で希少なPdが制約となり、需要に対応することができないと予測される。したがってPd基合金に替わる新たな金属膜材料の開発が必要とされている。
中でもV、Nb、Taが単体で高い水素透過性能を有することに着目し、これらと他の金属、例えばTi、Zr、Hf、Ni、Co等とを複相合金化することで高い水素透過性能と耐水素脆性とを併せ持つ水素分離合金の開発が盛んに行われている。例えば、特開2006−274297号公報(特許文献1)や特開2005−232491号公報(特許文献2)で提案した水素透過性を担う相と耐水素脆化性を担う相との複合相からなるNi−Ti−Nb系複相合金は注目を集めている。
また、特開2012−250234号公報(特許文献3)や特開2014−074211号公報(特許文献4)ではNbの高い水素透過能を活用する目的でWを微量添加することで水素分離合金を提供しようという試みも広く知られている。
特開2006−274297号公報 特開2005−232491号公報 特開2012−250234号公報 特開2014−074211号公報
上述した特許文献1及び2に開示される合金は、水素透過性能と耐水素脆性のバランスに優れるものの、実用化に当たっては更なる耐水素脆性の向上が求められていた。特許文献3に開示される合金は、水素透過性能に優れるNbを多量に含むため極めて高い水素透過性能を有するが、一方で耐水素脆性が極めて低く実用に耐えないという課題があった。特許文献4に開示される合金は、上記特許文献1〜3の複合効果を狙った合金であるが、合金の熱間加工性に関してのみ開示されており、その水素透過性能と耐水素脆性に関しては全く不明であった。
本発明の目的は、水素分離合金において耐水素脆性が高く耐久性に優れる水素分離合金を提供することである。
本願発明者は、既存のNb合金の水素脆化の原因を詳細に調査し、その水素固溶量が極めて大きいために水素脆化しやすくなっていることを見出した。さらに一般に相反するとされる水素透過性能を低下させることなく、合金の水素固溶量を低減し耐水素脆性を改善する添加元素について鋭意検討を行い、本発明に到達した。
すなわち本発明は、原子比における組成式:Nb100−(α+β+γ+δ)TiαNiβγFeδ(10≦α≦60、10≦β≦50、0.5≦γ≦10、0.5≦δ≦10、α+β+δ≦90、不純物を含む)で表される水素分離合金において、該水素分離合金は、Nb−Ti−W相でなる水素透過相と(Ni,Fe)−Ti相でなる耐水素脆性相との二相でなる水素分離合金である。
好ましくは、前記組成式において3≦γ≦7である。
本発明の水素分離合金は水素固溶量が少なく耐水素脆性に優れているため、耐久性に優れる水素分離合金を提供することができる。また本発明は耐水素脆性と相反する性質である水素透過性能についても公知の水素分離合金と同等以上の特性を有しており、優れた水素分離合金として利用ができる。
本発明例および比較例の300℃におけるPCT曲線を示す図である。 本発明例および比較例の水素透過係数(熱処理前)を示す図である。 本発明例および比較例の水素透過係数(熱処理後)を示す図である。
上述したように、本発明の重要な特徴は水素固溶量を低下させて耐水素脆性を向上させながら、水素透過性能を従来材同等以上となるような合金成分を見出したことにある。すなわち本発明の水素分離合金は、原子比における組成式が「Nb100−(α+β+γ+δ)TiαNiβγFeδ(10≦α≦60、10≦β≦50、0.5≦γ≦10、0.5≦δ≦10、α+β+δ≦90、不純物を含む)」で表される合金組成を有する。
本発明の水素分離合金において、上記の範囲で各化学組成を規定した理由は以下の通りである。なお、特に記載のない限り原子%として記す。
Nbは本発明合金においてNb−Ti−W相を形成し、水素透過性能を担う元素である。特に高い水素透過能を得るためのNbの含有量としては、100−(α+β+γ+δ)として10原子%以上となることが好ましい。本発明の水素分離合金はNb−Ti−W相と(Ni,Fe)Ti相の二相でなる合金であり、WはNbとともにNb−Ti−W相を形成するため、実質的には(Ni,Fe)Ti相を形成するα+β+δの総和が重要である。十分な(Ni,Fe)Ti相を形成するに必要なα+β+δの総和の上限は90原子%以下であることが好ましく、85原子%以下であることがより好ましく、80原子%以下であることがさらに好ましい。特に、好ましいα+β+δの総和は50〜70%の範囲である。Nbを過度に含む場合、水素透過性能は向上するものの、耐水素脆性が著しく低下するだけでなく、合金の融点が大きく上昇するため工業的な生産が極めて困難になることから、上述の範囲とした。
Tiは主にNi、Feとともに(Ni,Fe)Ti相を形成し、本合金の耐水素脆性を担う働きを有する。このため、Ti量はNi量とのバランスで決定されるものであり、その上限は、上述したとおりα+β+δで90原子%以下である。またTiについてはNb−Ti−W相にも少量含まれる元素であることから、α≧βとなることが好ましい。Tiを過度に含む場合、NiTiに代表される金属間化合物を形成しやすくなり、耐水素脆性が低下する。またTiが少なくなるにつれて(Ni,Fe)Ti相の量が低下し、耐水素脆性が低下するだけでなく、特にTi量がNi量よりも少なくなる場合、後述するようにNiを主体とした金属間化合物を形成し、耐水素脆性が大きく低下する要因となるため、Tiの含有量は10原子%以上60原子%以下とした。
Niは上述したようにTi、Feとともに(Ni,Fe)Ti相を形成して本合金の耐水素脆性を担う働きを有する。このためNi量はTi量とのバランスで決定する。Ni量が過度に多くなるとNi量を主体とする金属間化合物が形成し、耐水素脆性を低下させる。また一方、Ni量が少なくなるとNiTiに代表される金属間化合物を形成するだけでなく、塑性加工プロセス(例:圧延)において、加工性を低下させ、工業生産性が低下する。このためNiの含有量は10原子%以上50原子%以下とする。
Wは本発明においてNb−Ti−W相を形成する元素である。本発明の水素分離合金において、水素は主にNb−Ti−W相に固溶し、拡散していくことで水素分離現象が達成される。この時、WはNb−Ti−W相の水素固溶量を低下させる働きを有している。一般に水素脆化は合金中に固溶した拡散性水素によって引き起こされる現象であり、水素固溶量が低下すれば耐水素脆性が向上することは言うまでもない。水素固溶量低減の効果を得るためには0.5原子%以上のWを含むことが必要であり、より好ましくは1原子%以上含むことが良い。さらに好ましくは3原子%以上であり、特に好ましくは5原子%以上である。一方、Wは水素固溶を阻害する元素でもあり、過度に含む場合には水素透過性能が減少する可能性がある。またWは極めて高融点の金属であることから、過剰な添加はWの溶け残りを生じさせ、合金の均一性に悪影響を与える虞がある。このため、Wの上限は10原子%とする。好ましい上限は7原子%である。
Feは本発明において重要なWを溶解するために必要な元素である。W単独の融点は約3000℃と高融点であり、完全に溶融させることは難しいが、FeWを原料として使用することで、融点が約1500℃まで下がり、Wを安定して溶融させることが可能である。添加されたFeは本発明の主要な構成相であるNiTi相に多く分配されて(Ni,Fe)Ti相を形成するが、水素透過性能などの諸特性に影響を及ぼさずに上述した溶融性向上の利点を得ることが可能である。Feの添加量はW添加量に応じて調整することもでき、0.5原子%以上とする。より好ましくは1原子%以上であり、さらに好ましくは3原子%以上であり、特に好ましくは5原子%以上である。Fe添加量の上限は10原子%とし、好ましくは7原子%である。
また本願発明において他の元素は不可避不純物として含まれることに差し支えないが、特に酸素の含有量を0.1質量%以下とすることが好ましい。酸素が0.1質量%を越えて含まれる場合、塑性加工プロセスにおいて加工硬化を誘起しやすくなり、工業生産性が著しく低下するためである。
次に好ましい合金組織に関する規定について説明する。
<水素透過層の平均厚さが5μm以下>
水素分離合金の水素透過量は一般にその板厚に反比例することが知られている。このため水素分離合金の板厚は薄いほど好ましいが、本願発明においては、例えば圧延工程を経ることで、水素透過相と耐水素脆化相が伸展した組織とすることができる。また水素分離合金の伸展方向断面を電子顕微鏡により観察したとき、各水素透過層の平均厚さが5μm以下であることが好ましい。
本願発明の合金は鋳造時点において大きくは球状の水素透過相とそれを取り囲む耐水素脆化相を有しており、その結晶粒径は不均一である。水素固溶は水素透過層で優先的に発生するため、結晶粒径が不均一な状態では局所的な水素固溶とそれに続く水素脆化が発生しやすくなる。このため、合金組織の微細均一化を図るため、また同時に板厚を減ずるために合金を伸展させることが非常に有効である。例えば圧延により一方向に組織を伸展させることができる。十分な組織の微細均一化を図る上で、総圧下率は90%以上となることが好ましい。特に、熱間圧延などの熱間加工工程を経て総圧下率を95%以上とすることがより好ましい。
一方、圧延工程等を経ることで水素透過相と耐水素脆化相が伸展した組織となり、層状の水素透過相と耐水素脆化相とが互いに積層したような合金組織となる。この時、固溶した水素は水素透過相を主な経路として拡散していくため、水素透過相と水素透過相の間に耐水素脆化相が挟まれている場合、水素拡散が阻害され、結果として水素透過性能が低下することになる。このため、水素透過相と水素透過相とは十分に近接した位置にあり、かつ適度に密接していることが好ましい。この条件を満足するため、水素分離合金の伸展方向断面を電子顕微鏡により観察したとき、水素透過層の平均厚さは5μm以下となることが好ましい。水素透過層の平均厚さについて下限は特に規定しないが、固溶した水素は圧延工程によって生じた歪みに留まりやすく、水素透過を阻害する要因となるため、適切な熱処理によって再結晶化させることが必要であり、これによって水素透過層の平均厚さは一般的に0.5μm以上となる。この時の熱処理は十分な再結晶化、並びに上述した酸素の増加を抑制するため、真空または不活性ガス中で900〜1100℃、5分〜170時間程度行うのが良い。なお水素透過相の平均厚さを測定するに当たっては、下記の方法で計測すれば経験上十分である。すなわち、まず電子顕微鏡で10000倍の倍率で3視野程度を観察し、各視野任意5カ所を縦断する直線をひく。続いて、直線が通過した水素透過相の厚さをそれぞれ計測し(視野端部に存在する水素透過相は除く)、その平均を算出する。
<水素透過相内のWの最大濃度差が20原子%以下>
本発明の水素分離合金において、Wは鋳造時点で水素透過相の中心部分に強く偏析する傾向がある。上述した通りWは高融点金属であることから、溶湯からの凝固過程においてまずWが核を形成し、次いでNbとTiが凝固することで、Nb−Ti−W水素透過相が形成されるためであると考えられる。しかしWは水素固溶量を抑制する元素であることから、Wの偏析によって水素透過相内で不均一な水素固溶が発生することになり、耐水素脆性を低下させる要因となる。また水素透過を担う相の一部が局所的に水素を固溶しにくくなることは、水素透過性能の低下を招くことにつながる。従い、水素透過相内にWが実質的に均一に分布していることが好ましく、水素透過相内のWの最大濃度差が20原子%以下とする。
ここで、水素透過相内にWが実質的に均一に分布しているとは、電子顕微鏡を用いて水素透過相内の少なくとも中心付近と端付近を含む任意5点について元素分析を行い、W濃度の最大値と最小値の差(最大濃度差)が20原子%以下であることをいう。好ましくは15原子%以下であり、より好ましくは10原子%以下であり、さらに好ましくは5原子%以下であり、特に好ましくは3原子%以下である。Wの均一化を図る方法としては、Wが水素透過相内で十分に拡散できる熱処理を行うのが良いが、Wは高融点であることから熱処理の長時間化を招きやすい。しかし圧延を施し、合金組織を微細化した水素分離合金においてはWの拡散距離を短くすることが可能であるため、熱処理条件の簡略化を行うことができる。このため、本願発明の水素分離合金においては真空または不活性ガス中で900〜1100℃、5分〜170時間程度の熱処理を行えば十分である。
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
真空中のボタンアーク溶解で30gの水素分離合金を作製した。化学組成を表1に示す。
表1で示す4つの合金の300℃で測定したPCT(Pressure−Composition−Temperature)曲線を図1に示す。図1より、FeWが添加されている試料No.1〜3は、FeWが添加されていない試料No.4と比較して水素固溶量が低下しており、耐水素脆性の向上に寄与していることが確認できる。水素固溶量はWの添加量が増加するにつれて少なくなっており、本発明例の中で最もW添加量が多い試料No.3が、水素固溶量が最も低下しており、耐水素脆性が本発明例の中で最も優れている傾向にあることも確認できた。このように本発明は耐水素脆性に優れているため、高純度水素を安価に製造する水素分離装置に適用できる。
続いて、前記のNo.1〜No.4の合金について水素透過測定を行った。試料は(1)鋳造まま(熱処理前)、(2)1100℃×168hの熱処理を施した試料を準備した。ワイヤーカットにて板厚を0.5mmにスライスした後、表面を研磨紙、アルミナ粉末を用いた研磨剤にて鏡面研磨した。最後に表面にPdをスパッタにて約200nm成膜し水素透過測定用試料を作製した。測定の結果得られた熱処理前の水素透過係数を図2に、熱処理後の水素透過係数を図3に示す。図2、図3よりNo.1〜No.3は、No.4と比較して、熱処理前と熱処理後の両方においてもほぼ同等の水素透過係数を示していうることが確認された。これにより本発明例は、図1で示すように水素固溶量が低下して耐水素脆性が向上しているとともに、公知の水素分離合金と同等の水素透過性能も有していることが確認できた。

Claims (2)

  1. 原子比における組成式:Nb100−(α+β+γ+δ)TiαNiβγFeδ(10≦α≦60、10≦β≦50、0.5≦γ≦10、0.5≦δ≦10、α+β+δ≦90、不純物を含む)で表される水素分離合金であって、該水素分離合金は、Nb−Ti−W相でなる水素透過相と(Ni,Fe)−Ti相でなる耐水素脆性相との二相でなることを特徴とする水素分離合金。
  2. 前記組成式において、3≦γ≦7であることを特徴とする請求項1に記載の水素分離合金。

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