JP2021017944A - 変速機の潤滑構造 - Google Patents

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Abstract

【課題】デファレンシャルギアケース内に潤滑油を供給し、デファレンシャルギアケース内を良好に潤滑させることを目的とする。【解決手段】本発明は変速機100の潤滑構造70である。差動装置30は、リングギア35が取り付けられ、一部に開口33を有するデファレンシャルギアケース31と、デファレンシャルギアケース31により支持されるピニオンシャフト38と、ピニオンシャフト38により回転可能に支持されるピニオンギア39a、39bと、ピニオンギア39a、39bに噛合され、ドライブシャフト2R、2Lに連結されるサイドギア40R、40Lと、を有する。変速機ケース10は、開口33の上方となる位置に、開口33に向けて潤滑油を滴下される滴下案内面74を有する。【選択図】図7

Description

本発明は、変速機の潤滑構造に関するものである。
FF式変速機のような横置き変速機の潤滑は、リングギアの回転に伴う潤滑油の流動を利用して潤滑油を潤滑必要箇所に供給する跳ね掛け式となっている。また、潤滑油を必要な部位に供給するためにオイルガータを配置したり、変速機ケースの壁面に潤滑油案内溝を形成したりしている。
近年、燃費改善のために潤滑油の撹拌抵抗を低減することを目的として、潤滑油の量を削減する試みがなされている。一方、潤滑油の量を削減し過ぎてしまうと潤滑不足を生じる虞がある。特に、変速機ケースに収容された差動装置において、潤滑不足が生じる部位は軸受けが設けられていないピニオンギアの軸支部位である。基本的に、ピニオンギアとピニオンシャフトとの間の潤滑は跳ね掛け式であって、ピニオンシャフトに付着した潤滑油がピニオンギアとピニオンシャフトの間に流れ込んで、当該部位の潤滑が行われる。
潤滑不足が生じる状況としては、例えば、雪道でスタックし、身動きできない状態からアクセルを踏み込んで走行しようと試みている状況がある。容易に脱出できない場合、比較的に長時間、片輪が高速空転した状態となる可能性がある。片輪が高速空転する状況では、差動装置は高速回転し、ピニオンギアもピニオンシャフトに対して高速回転する。しかしながら、高速回転するデファレンシャルギアケースからは遠心力で潤滑油が排出されてしまうので、ピニオンギアの軸支部位には潤滑油が供給されにくい。
このような問題に対して、特許文献1には、ファイナルリングギアの回転によって掻き上げられる潤滑油を潤滑必要箇所であるデフケース内に導く油案内体であるオイルガータを設けたデファレンシャルの潤滑装置が開示されている。
実開平5−3721号公報
しかしながら、特許文献1に開示されたデファレンシャルの潤滑装置では、別部品のオイルガータを設ける必要がある。
本発明は、変速機ケースの形状を工夫することで、デファレンシャルギアケース内に潤滑油を供給し、デファレンシャルギアケース内を良好に潤滑させることを目的とする。
本発明は、差動装置を収容する変速機ケースを備えた変速機の潤滑構造であって、前記差動装置は、リングギアが取り付けられ、一部に開口を有するデファレンシャルギアケースと、前記デファレンシャルギアケースにより支持されるピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトにより回転可能に支持されるピニオンギアと、前記ピニオンギアに噛合され、ドライブシャフトに連結されるサイドギアと、を有し、前記変速機ケースは、前記開口の上方となる位置に、前記開口に向けて潤滑油を滴下させる滴下案内面を有することを特徴とする。
本発明によれば、デファレンシャルギアケース内に潤滑油を供給し、デファレンシャルギアケース内を良好に潤滑させることができる。
図1は、変速機100の構成の一例を示す斜視図である。 図2は、変速機100の内部の構成の一例を示す図である。 図3は、差動装置30の構成の一例を示す斜視図である。 図4は、右側ケース11Rを左側から見た側面図である。 図5は、右側ケース11Rを下側かつ左側から見た斜視図である。 図6は、図4に示すI−I線の断面図であり、差動装置30の断面を追加した図である。 図7は、図4の一部を拡大した拡大図であり、差動装置30の断面を追加した図である。 図8は、図4に示すII−II線の断面図であり、差動装置30の一部断面を追加した図である。 図9は、潤滑構造70周辺の潤滑油の流れを示す側面図である。
本発明に係る実施形態では、差動装置30は、リングギア35が取り付けられ、一部に開口33を有するデファレンシャルギアケース31と、デファレンシャルギアケース31により支持されるピニオンシャフト38と、ピニオンシャフト38により回転可能に支持されるピニオンギア39a、39bと、ピニオンギア39a、39bに噛合され、ドライブシャフト2R、2Lに連結されるサイドギア40R、40Lと、を有し、変速機ケース10は、開口33の上方となる位置に、開口33に向けて潤滑油を滴下させる滴下案内面74を有する。したがって、滴下案内面74から潤滑油を滴下させることで、デファレンシャルギアケース31内に潤滑油を供給し、デファレンシャルギアケース31内を良好に潤滑させることができる。潤滑油はピニオンシャフト38に滴下され、ピニオンシャフト38とピニオンギア39a、39bとの間に供給される。
(実施例)
以下、本発明に係る変速機の潤滑構造の実施例について、図面を参照して説明する。
図1は、変速機ケース10の一部を透過した変速機100の構成の一例を示す斜視図である。図2は、変速機100の内部の構成の一例を示す図である。なお、図1を含む図面や説明には、変速機100を車両に搭載した状態を基準として、車両の前進側を前側とし、前側を矢印「前」で示し、その逆を後側とする。また、左側を矢印「左」で示し、その逆を右側とする。また、上側を矢印「上」で示し、その逆を下側とする。また、各図には、後述するドライブシャフト2R、2Lの左右方向に沿った軸線をSで示している。
変速機100は、車両の前部に配置されたエンジンルームに、左右方向のうち一方側にエンジン1が結合された状態で搭載される。エンジン1の出力は、変速機100からドライブシャフト2R、2Lを介してそれぞれ車輪に伝達される。
変速機100は、変速機ケース10を備える。本実施形態の変速機ケース10は、右側ケース11Rと、左側ケース11Lとにより左右に2分割して構成される。右側ケース11Rは、変速機ケース10内の空間を左右に隔てる隔壁50を有する。変速機ケース10は、隔壁50に隔てられた右側の空間にクラッチ13を主に収容し、隔壁50に隔てられた左側の空間に変速機構20と差動装置30とを主に収容する。変速機ケース10内には潤滑油が貯留され、差動装置30の一部が浸漬している。以後、左側の空間に面した変速機ケース10の面を内面とする。
変速機構20は、エンジン1からクラッチ13を介して伝達された動力を変速して差動装置30に伝達する。変速機構20は、変速機ケース10のうち差動装置30の前側に配置される。
変速機構20は、入力軸21と、第1のカウンタ軸24と、第2のカウンタ軸27とを有する。入力軸21、第1のカウンタ軸24および第2のカウンタ軸27は、それぞれ軸線が略平行であって、略左右方向に沿って延出される。図1に示すように、3つの軸のうち、最も前側に入力軸21が配置され、入力軸21よりも後側に順に第1のカウンタ軸24、第2のカウンタ軸27が配置される。また、3つの軸のうち、最も上方に第2のカウンタ軸27が配置され、第2のカウンタ軸27よりも下方に順に入力軸21、第1のカウンタ軸24が配置される。
図2に示すように、入力軸21は複数の変速ギア22a〜22eが設けられる。入力軸21は、隔壁50を貫通して右側の空間に突出し左右方向の右側の端部がクラッチ13と係合している。入力軸21は、隔壁50を貫通する部位が軸受け23Rによって、左側の端部が軸受け23Lによって回転可能に軸支される。軸受け23Rは隔壁50の入力軸支持部52で支持され、軸受け23Lは左側ケース11Lの内面に形成された軸受保持部で支持される。また、変速ギア22a〜22eは入力軸21の回転に伴って入力軸21と一体的に回転する。
第1のカウンタ軸24は、ファイナルドライブギア25aと、複数の変速ギア25b〜25eとが設けられる。第1のカウンタ軸24は左右方向の右側の端部が軸受け26Rによって、左側の端部が軸受け26Lによって回転可能に軸支される。軸受け26Rは隔壁50の内面51に形成された第1の支持部53で支持され、軸受け26Lは左側ケース11Lの内面に形成された軸受保持部で支持される。ファイナルドライブギア25aは、第1のカウンタ軸24と一体に形成されており、第1のカウンタ軸24の回転に伴って回転し、差動装置30の後述するファイナルドリブンギアとしてのリングギア35と噛合する。変速ギア25b〜25eは、遊転ギアであり、同期装置によって第1のカウンタ軸24の回転に伴って一体的に回転する場合と空転する場合とが切替えられる。
第2のカウンタ軸27は、ファイナルドライブギア28aと、複数の変速ギア28b〜28dとが設けられる。第2のカウンタ軸27は左右方向の右側の端部が軸受け29Rによって、左側の端部が軸受け29Lによって回転可能に軸支される。軸受け29Rは隔壁50の内面51に形成された第2の支持部54で支持され、軸受け29Lは左側ケース11Lの内面に形成された軸受保持部で支持される。ファイナルドライブギア28aは、第2のカウンタ軸27と一体に形成されており、第2のカウンタ軸27の回転に伴って回転し、差動装置30のリングギア35と噛合する。変速ギア28b〜28dは、遊転ギアであり、同期装置によって第2のカウンタ軸27の回転に伴って一体的に回転する場合と空転する場合とが切替えられる。なお、変速ギア28bは、後退用のギアであり、第1のカウンタ軸24の変速ギア25bと噛み合う。
変速機構20にはエンジン1からクラッチ13を介して入力軸21に動力が伝達され、入力軸21が回転する。入力軸21の回転は、変速ギア25b〜25eあるいは変速ギア28b〜28dのうち同期装置によって各カウンタ軸に連結されたギアを介して、第1のカウンタ軸24あるいは第2のカウンタ軸27に伝達される。第1のカウンタ軸24あるいは第2のカウンタ軸27の回転は、ファイナルドライブギア25aあるいはファイナルドライブギア28aからリングギア35を介して差動装置30に伝達される。つまり、変速機構20は、変速ギア25b〜25eあるいは変速ギア28b〜28dのうち各カウンタ軸に連結するギアを切替えて動力の伝達経路を変更することで、エンジン1からの動力を変速して差動装置30に伝達する。
差動装置30は、例えば、車両がカーブを曲がる等したときに生じる左右の車輪の回転数の差を吸収すると共に、変速機構20からの動力を左右の車輪に振り分けて伝達する。差動装置30は、変速機ケース10内のうち変速機構20の後側に配置される。
図3は、差動装置30の構成の一例を示す斜視図である。
差動装置30は、デファレンシャルギアケース31と、ピニオンシャフト38と、ピニオンギア39a、39bと、サイドギア40R、40Lとを有する。
デファレンシャルギアケース31は、差動装置30の各構成部品を収容する。デファレンシャルギアケース31は、ケース本体32と、リングギア取付部34と、回転軸部36R、36Lを有する。ケース本体32は、内部に空間が形成された略球状である。ケース本体32には、内部の空間と外部とを連通する開口33が設けられる。開口33は、ケース本体32の左右方向の中心を含みやや右側に偏って位置する。リングギア取付部34は、ケース本体32に一体的に形成された略板状の円環形状部である。リングギア取付部34は、ケース本体32の左右方向の中心よりもやや左側に偏って位置し、リングギア35がボルト等の締結部材を用いて取り付けられる。リングギア35は、ファイナルドライブギア25aおよびファイナルドライブギア28aと噛合する。回転軸部36R、36Lは、筒状であって、ケース本体32の左右両側の端部からそれぞれ略左右方向に沿って突出する。回転軸部36R、36Lは、軸線が共通で車両の左右方向に平行となるように形成されており、ドライブシャフト2R、2Lの変速機側の端部が挿入される。
デファレンシャルギアケース31は、右側の回転軸部36Rが軸受け37Rによって回転可能に軸支され、左側の回転軸部36Lが軸受け37Lによって回転可能に軸支される。軸受け37Rは右側ケース11Rの軸支持部60で支持され、軸受け37Lは左側ケース11Lの軸受保持部で支持される。
なお、上述したリングギア35は、ケース本体32の左右方向の中心から左側にオフセットしたリングギア取付部34の左側の面に取り付けられる。リングギア35が左側にオフセットされた分、ケース本体32の右側に開口33を広く形成することができる。本実施例では、左右方向において、開口33がケース本体32の左右方向の中心位置に配置されたピニオンシャフト38の位置にまで到っている(後述する図6を参照)。
ピニオンシャフト38は、デファレンシャルギアケース31内の空間を横切るような態様でデファレンシャルギアケース31に架設状態で支持される。ピニオンシャフト38は、その両端がデファレンシャルギアケース31の支持穴に挿入されており、その一端がデファレンシャルギアケース31にピンで固定されている。ピニオンシャフト38は、デファレンシャルギアケース31とともに回転する。また、ピニオンシャフト38は、デファレンシャルギアケース31の左右方向の略中心で、軸線が左右方向に対して直交する方向に沿って延出するように配置されている。図6、8に示すように、左右方向において、ピニオンシャフト38がケース本体32に支持された状態では、ケース本体32の開口33の位置にとピニオンシャフト38が配置されている。つまり、ケース本体32の開口33が上方を指向している場合に、上方から見て、開口33とピニオンシャフト38とは重なり合い、開口33を通してピニオンシャフト38を視認可能である。
図7に示すように、一対のピニオンギア39a、39bは、ピニオンシャフト38が挿通され、ピニオンシャフト38にてそれぞれ回転可能に支持される。一対のピニオンギア39a、39bは、デファレンシャルギアケース31の回転に伴って、デファレンシャルギアケース31の回転軸部36R、36Lの軸線を中心として公転すると共に、ピニオンシャフト38の軸線を中心として自転することができる。
なお、本実施例では、一対のピニオンギア39a、39bとピニオンシャフト38との間にはベアリング等の軸受けが設けられておらず、ピニオンギア39a、39bの内径とピニオンシャフト38の外径が接触しているが、後述する潤滑構造70により潤滑油を供給することによって円滑に自転することができる。
図6に示すように、サイドギア40R、40Lは、ピニオンシャフト38を挟んだ左右に配置され、それぞれピニオンギア39a、39bに噛合された状態に配置される。サイドギア40R、40Lはそれぞれデファレンシャルギアケース31に回転可能に支持される。ここで、サイドギア40R、40Lが回転するときの軸線は、デファレンシャルギアケース31の回転軸部36R、36Lの軸線と一致し、デファレンシャルギアケース31の回動軸線と一致する。また、サイドギア40Rには右側のドライブシャフト2Rが連結され、サイドギア40Lには左側のドライブシャフト2Lが連結される。
差動装置30では、変速機構20のファイナルドライブギア25aあるいはファイナルドライブギア28aからリングギア35を介して動力が伝達されると、デファレンシャルギアケース31が回転する。
車両が直進する場合には、左右の車輪の転がる距離が等しいので、一対のサイドギア40R、40Lは同じ回転速度で回転し、サイドギア40R、40Lと噛合するピニオンギア39a、39bは自転しない。したがって、ドライブシャフト2R、2Lは、デファレンシャルギアケース31と等速で回転するため、左右の車輪には左右に等しく動力が伝達される。
一方、車両がカーブを例えば左旋回する場合には、カーブ外側の車輪の転がる距離がカーブ内側の車輪よりも長いため、カーブ外側のサイドギア40Rはカーブ内側のサイドギア40Lよりも速く回転する。したがって、一対のサイドギア40R、40Lと噛合するピニオンギア39a、39bは公転に加えて自転もすることで、サイドギア40R、40Lの間に生じた回転数の差を吸収する。このため、カーブ外側のドライブシャフト2Rは、デファレンシャルギアケース31の回転数にデファレンシャルギアケース31に対するサイドギア40Rの回転数を加えた回転数で回転し、カーブ内側のドライブシャフト2Lは、デファレンシャルギアケース31の回転数からデファレンシャルギアケース31に対するサイドギア40Lの回転数を差し引いた回転数で回転するため、左右の車輪には左右に配分された動力が伝達される。
次に、変速機ケース10の隔壁50について図4、図5を参照して説明する。
図4は、変速機ケース10の右側ケース11Rを左側から見た側面図である。図5は、変速機ケース10の右側ケース11Rを左下側から見た斜視図である。
図4および図5に示すように、隔壁50は内面51のうち前後方向の略中央かつ上下方向の中央付近に、入力軸支持部52と、第1の支持部53と、第2の支持部54とが形成されている。入力軸支持部52は、入力軸21を軸支する軸受け23Rを支持する。第1の支持部53は、第1のカウンタ軸24を軸支する軸受け26Rを支持する。第2の支持部54は、第2のカウンタ軸27を軸支する軸受け29Rを支持する。3つの支持部のうち、最も前側に入力軸支持部52が配置され、入力軸支持部52よりも後側に順に第1の支持部53、第2の支持部54が配置される。また、3つの支持部のうち、最も上方に第2の支持部54が配置され、第2の支持部54よりも下方に順に入力軸支持部52、第1の支持部53が配置される。
また、隔壁50の内面51には、第1の支持部53に潤滑油を導く第1の供給溝55と、第2の支持部54に潤滑油を導く第2の供給溝56が形成されている。第1の供給溝55は、第2の支持部54に近接した下方の位置から第1の支持部53に向かって延びる。また、第2の供給溝56は、内面51のうち後側かつ上側の位置から第2の支持部54に向かって延びる。
また、隔壁50の後側には窪み部57が形成されている。窪み部57は、左右方向で右側に向って凹んでいる。窪み部57には、差動装置30の一部、具体的にはデファレンシャルギアケース31の右側の略半分が収容される。デファレンシャルギアケース31が窪み部57に収容された状態では、窪み部57の内周面58と、デファレンシャルギアケース31の右側の略半分とが対向する。また、内周面58は椀形に形成されている。つまり、窪み部57の奥側、すなわち右側の端部に向かうにしたがって窪み部57の内径が縮径するように傾斜している。本実施例の窪み部57の主な内周面58は、ドライブシャフト2R、2Lの軸線Sに対して略20度で傾斜している。なお、右側ケース11Rは、左右の金型による鋳造によって製造される。したがって、窪み部57の主な内周面58の傾斜が抜き勾配となるために金型から右側ケース11Rを容易に離型することができる。
図2、図4に示すように、窪み部57の奥側、すなわち右側の端部には円形の開口59が形成されている。開口59は、隔壁50によって隔てられた変速機ケース10の内部空間(左側空間)と右側の外部空間を連通させる。サイドギア40Rに連結された右側のドライブシャフト2Rは、開口59から変速機ケース10の内部に挿入されている。なお、開口59と右側のドライブシャフト2Rとの間にはオイルシールが配置される(図2を参照)。また、窪み部57の右側の端部であって、開口59を取り囲む位置に軸支持部60が形成されている。軸支持部60は、デファレンシャルギアケース31の右側の回転軸部36Rを軸支する軸受け37Rを支持する。
また、図4および図5に示すように、窪み部57の内周面58には、軸支持部60に配置された軸受け37Rに潤滑油を導く供給溝61を有する。供給溝61は、内周面58のうち軸線Sの上方に位置している。供給溝61は、窪み部57の略凹み始めの位置から軸支持部60に向かって延び、開口59に配置されたオイルシールと軸受け37Rとの間に潤滑油を供給するべく軸支持部60よりも右側となる位置にまで形成され、オイルシールと軸受け37Rとの間の空間に連通している。また、供給溝61のうち、溝が形成され始まる部位は、後述する滴下案内面74の前側に隣接して位置する。つまり、供給溝61は、左右方向で滴下案内面74の左側から軸支持部60よりも右側となる位置にまで形成されている(図6を参照)。
図6は、図4に示すI−I線に沿って切断して矢印方向から見た断面図である。図4に示すI−I線は供給溝61を通過する線である。なお、図6には、組み付けられた差動装置30の一部も図示している。
図6に示すように、供給溝61は、窪み部57の主な内周面58のドライブシャフト2R、2Lの軸線Sに対する傾斜角度と比べて供給溝61の奥面(底面)のドライブシャフト2R、2Lの軸線Sに対する傾斜角度を小さくすることによって溝を形成する。供給溝61は、軸受け37Rを支持する軸支持部60を経由して、開口59の手前まで形成される。
次に、本実施例の隔壁50は、窪み部57の上方であって略窪み部57が凹み始める位置に差動装置30を潤滑するための潤滑構造70が設けられている。
図5に示すように、潤滑構造70は、第1の突起部71と、第2の突起部76とを含んで構成される。
第1の突起部71は、窪み部57の上方に形成されている。第1の突起部71は、窪み部57の内周面58からドライブシャフト2R、2Lの軸線Sに向かって突出する。第1の突起部71は、第1の突出面72と、第2の突出面73と、滴下案内面74とにより構成される。
第1の突出面72は、窪み部57の後側の内周面58から連続する面であり、前後方向に関し後側がやや上方に位置し左右方向で左側(リングギア35側)がやや上方に位置する略水平に配置された平面状に形成されている。一方、第2の突出面73は、供給溝61から連続する面であり、供給溝61の後側に位置する略鉛直な壁状に形成されている。第1の突出面72と第2の突出面73はそれぞれドライブシャフト2R、2Lの軸線と略平行な面である。第1の突出面72と第2の突出面73とが交差する角度は、略90度である。第1の突出面72と第2の突出面73とが角度を持って接続することで稜線75が形成される(図5参照)。ここで、稜線75は第1の突起部71の下端に位置し、ドライブシャフト2R、2Lの軸線Sと略平行である。
滴下案内面74は、左右方向で第1の突起部71の左側(リングギア35側)の端部に形成されて潤滑油を案内する面である。すなわち、滴下案内面74は、第1の突起部71の左側の端面である。滴下案内面74は、窪み部57の略凹み始めの位置に形成される。滴下案内面74は略前後方向に沿った面であり、略平面状である。滴下案内面74は、隔壁50の内面51のうちリングギア35のギア部と対向する内面よりも奥側、すなわち右側に位置する(後述する図8を参照)。
図7は、図4に示す第1の突起部71および第2の突起部76の周辺の拡大図である。なお、図7には、組み付けられた差動装置30の一部を切断した断面も図示している。
滴下案内面74は、第1の突出面72および第2の突出面73と交差する角度は、略90度であり、下端縁が急角度に屈曲することで突出する。また、滴下案内面74は、下端から上方に向かうにしたがって前後方向の長さ、すなわち幅が広がる略扇状あるいは略三角形状である。なお、左右方向(軸線S方向)から見て、滴下案内面74の最も低い位置(下端)は、第1の突出面72および第2の突出面73が交差する稜線75の位置に略相当する。
図7に示すように、滴下案内面74の下端は、前後方向において軸線Sの位置に近接している。本実施例では、左右方向から見て、滴下案内面74の下端から上下方向(鉛直方向)の下方に垂下させた仮想線L1が差動装置30のピニオンシャフト38と交差する。換言すると、左右方向から見て、ピニオンシャフト38の上方に滴下案内面74が位置している。
図8は、図4に示すII−II線に沿って切断して矢印方向から見た断面図である。図4に示すII−II線は、第1の突起部71のうち、滴下案内面74および第1の突出面72を通過する線である。なお、図8には、組み付けられた差動装置30の一部も図示している。
図8に示すように、滴下案内面74は、略上下方向に沿った面である。本実施例では、前後方向から見て、滴下案内面74の下端から上下方向(鉛直方向)の下方に垂下させた仮想線L2が、差動装置30のデファレンシャルギアケース31の開口33を通過し、差動装置30のピニオンシャフト38と交差する。換言すると、前後方向から見て、差動装置30の開口33の上方に滴下案内面74が位置している。また、差動装置30のピニオンシャフト38の上方に滴下案内面74が位置している。
また、滴下案内面74と第1の突出面72とが交差する角度αは、例えば略90度である。滴下案内面74と稜線75とが交差する角度も同様の角度である。ただし、第1の突出面72および稜線75は、ドライブシャフト2R、2Lの軸線Sに対して僅かながら傾斜させて抜き勾配を設定することが好ましい。
図4および図5に示すように、第2の突起部76は、第1の突起部71の滴下案内面74に近接した位置、具体的には滴下案内面74の前側かつ上側で、左右方向で滴下案内面74よりも左側(リングギア35側)に突出するように形成される。また、第2の突起部76は、供給溝61に近接した位置、具体的には供給溝61の溝が形成され始まる部位の上方に形成され、左右方向(軸線S方向)から見て供給溝61の上方に形成される。第2の突起部76は、補給面77と、溝連続面78と、対向面79とにより構成される(図5参照)。
補給面77は潤滑油を滴下案内面74に導く面であり、略平面状である。補給面77はドライブシャフト2R、2Lの軸線Sと略平行な面、すなわち滴下案内面74に対して略直交する面である。ここでは、左右方向において、補給面77は滴下案内面74よりも左側に突出する。また、補給面77は、リングギア35の回転方向に対して対向する面であり、後ろ向きの面である。具体的に、補給面77は、前後方向および上下方向の何れの方向にも平行ではなく、下部が後側となるように後側に傾斜する面である。また、補給面77は、その上部が第2の供給溝56から連続した面であり、その下部が滴下案内面74に接続され、その下部が滴下案内面74上に入り込んでいる。溝連続面78は、供給溝61の溝が形成され始まる部位から対向面79まで第2の突起部76と供給溝61の溝を連続する。
対向面79は、略前後方向に沿った面であり、略平面状である。対向面79は、滴下案内面74よりも左側に位置する。また、対向面79は、隔壁50の内面51のうちリングギア35のギア部と対向する内面よりも左側に位置する。
次に、上述したように構成される潤滑構造70の作用について説明する。
エンジン1からの動力は変速機構20により変速されてリングギア35を介して差動装置30に伝達される。車両が前進する場合、図1に示す矢印方向、すなわち左方向から見て、リングギア35は反時計方向に回転する。リングギア35が回転することによって変速機ケース10内に貯留している潤滑油が掻き上げられ、主にリングギア35の回転方向と同方向に連れ回りながら変速機構20や差動装置30等に跳ね掛けられる。
図9は、上述した潤滑構造70周辺の潤滑油の流れを示す側面図である。
リングギア35によって掻き上げられ、リングギア35の回転方向と同方向に連れ回されている潤滑油の一部は、矢印A1に示すように回転方向に対向する面である補給面77にぶつかり補給面77によって受け止められる。補給面77によって受け止められた潤滑油は、補給面77に導かれて、矢印A2に示すように滴下案内面74に向かって流れ落ちる。
補給面77および隔壁50の内面51から滴下案内面74に流れた潤滑油は、滴下案内面74が略鉛直な面となっていることから、潤滑油は滴下案内面74によって案内されて下端に向かって流れる。このとき、滴下案内面74は下方に向かうにしたがって幅が狭くなる形状であることから、滴下案内面74は広い範囲から多量の潤滑油を集めて、下端に案内することができる。また、補給面77は、下方に向かうにしたがって後側となるように傾斜することから、滴下案内面74よりも上方に位置する領域では第2の突起部76よりも奥側、すなわち右側に位置する内面51を広く確保することができる。したがって、補給面77により、滴下案内面74よりも上方の内面51からも滴下案内面74に潤滑油を多量に導くことができる。
滴下案内面74の下端まで流れた潤滑油は、滴下案内面74と第1の突出面72との接続角度の作用で、隔壁50の内面51(滴下案内面74)から剥離して矢印A3に示すように下端から自重で滴下される(下方に流下する)流れと、矢印A4に示すように第1の突起部71の稜線75あるいは第2の突出面73を伝って第2の突出面73の前側に位置する供給溝61に向かう流れとに分岐される。
滴下案内面74の下端から矢印A3に示すように流下された潤滑油は、その下方に配置された差動装置30のデファレンシャルギアケース31に向かう。上述したように、左右方向から見て、滴下案内面74の下端から下方に垂下させた仮想線L1は差動装置30のピニオンシャフト38と交差する(図7)。また、上述したように、前後方向から見て、滴下案内面74を上下方向の下方に垂下させた仮想線L2は差動装置30のデファレンシャルギアケース31の開口33を通過し、差動装置30のピニオンシャフト38と交差する(図8)。したがって、矢印A3に示すように流下された潤滑油は、デファレンシャルギアケース31の開口33を通してピニオンシャフト38に到達する。
ピニオンシャフト38に到達した潤滑油は、ピニオンシャフト38に沿ってピニオンシャフト38の両側の端部に流れる。したがって、ピニオンシャフト38とピニオンギア39a、39bとの間に潤滑油を供給することができるので、ピニオンギア39a、39bは円滑に自転することができる。
また、滴下案内面74から矢印A4に示すように第1の突起部71の稜線75あるいは第2の突出面73を伝って供給溝61に向って流れた潤滑油は、供給溝61の側壁の下端に沿って窪み部57の右側の端部に向かって流れ、軸支持部60に取付けられた軸受け37Rの上面を流れることで軸受け37Rと供給溝61の間を経由して、開口59の手前であってオイルシールと軸受け37Rとの間の空間まで流れる。なお、供給溝61には、デファレンシャルギヤケース31等から飛散して直接流れ込む潤滑油等、第1の突起部71および第2の突起部76以外より導かれた潤滑油が流れ込み、オイルシールと軸受け37Rとの間の空間に供給される。したがって、第1の突起部71および第2の突起部76を設けることで供給溝61に流れ込む潤滑油の量を増大させることができ、デファレンシャルギアケース31を軸支する軸受け37Rに、より多くの潤滑油を供給することができるので、デファレンシャルギアケース31は円滑に回転することができる。
なお、リングギア35によって掻き上げられ、リングギア35の回転方向と同方向に連れ回される潤滑油の一部は、潤滑構造70の前側に位置する、第1の供給溝55および第2の供給溝56によって案内され、それぞれ第1の支持部53および第2の支持部54に流れる。したがって、第1の支持部53が支持する軸受け23R、および第2の支持部54が支持する軸受け26R等にも潤滑油が供給される。
以上のように、本実施例の変速機の潤滑構造70によれば、変速機ケース10は隔壁50の内面51のうち、デファレンシャルギアケース31の開口33の上方となる位置に開口33に向けて潤滑油を滴下させる滴下案内面74を有する。したがって、滴下案内面74から潤滑油を滴下させることで、開口33を通して確実にデファレンシャルギアケース31内に潤滑油を供給することができる。なお、開口33はデファレンシャルギアケース31に収容されたピニオンシャフト38と対向して位置する。したがって、開口33を通してピニオンシャフト38に潤滑油を滴下でき、ピニオンシャフト38とピニオンギア39a、39bとの間に潤滑油を供給することができる。
また、本実施例の滴下案内面74は下端が突出しているので、第1の突出面72あるいは第2の突出面73を伝ってしまう潤滑油の流れを剥離して、デファレンシャルギアケース31内に潤滑油を滴下されるための流れを形成することができる。なお、前後方向から見て、滴下案内面74と稜線75との交差する角度が略90度であるために第1の突出面72あるいは第2の突出面73を伝ってしまう潤滑油の流れを更に容易に剥離することができる。
また、本実施例の滴下案内面74は、下端から上方に向かうにしたがって幅が広がっているので、広い範囲から多量の潤滑油を集めて、下端に案内することができる。
また、本実施例の供給溝61は、第1の突起部71の前側に隣接して位置する。したがって、第1の突起部71の滴下案内面74の下端まで流れた潤滑油の一部を供給溝61に分岐させて、デファレンシャルギアケース31を軸支する軸受け37Rに潤滑油を供給することができる。なお、供給溝61は第1の突起部71の前側に隣接する場合に限られず、後側に隣接させてもよい。すなわち、供給溝61は第1の突起部71の前後に隣接させてもよい。
また、本実施例の変速機ケース10は、リングギア35の回転方向に対して対向し、潤滑油を滴下案内面74に導く補給面77を有する。したがって、リングギア35の回転方向と同方向に連れ回る潤滑油を、補給面77によって受け止めて、滴下案内面74に向かって多量に導くことができる。
また、本実施例の補給面77は、滴下案内面74よりもリングギア35側に突出して形成され、下方に向かうにしたがって滴下案内面74の側に傾斜する。したがって、滴下案内面74よりも上方では内面51を広く確保することができるので、滴下案内面74に潤滑油を多量に導くことができる。
以上、本発明に係る実施例について説明したが、本発明は上述した実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上述した実施例では、一対のピニオンギア39a、39bとピニオンシャフト38との間に軸受けを設けていない場合について説明したが、この場合に限られず、軸受けを設ける場合でも適用することができる。
100:変速機 1:エンジン 2R、2L:ドライブシャフト 10:変速機ケース 30:差動装置 31:デファレンシャルギアケース 33:開口 35:リングギア 38:ピニオンシャフト 39a、39b:ピニオンギア 40R、40L:サイドギア 74:滴下案内面 77:補給面

Claims (6)

  1. 差動装置を収容する変速機ケースを備えた変速機の潤滑構造であって、
    前記差動装置は、
    リングギアが取り付けられ、一部に開口を有するデファレンシャルギアケースと、
    前記デファレンシャルギアケースにより支持されるピニオンシャフトと、
    前記ピニオンシャフトにより回転可能に支持されるピニオンギアと、
    前記ピニオンギアに噛合され、ドライブシャフトに連結されるサイドギアと、を有し、
    前記変速機ケースは、
    前記開口の上方となる位置に、前記開口に向けて潤滑油を滴下させる滴下案内面を有することを特徴とする変速機の潤滑構造。
  2. 前記滴下案内面は、
    前記デファレンシャルギアケースの回動軸線方向から見て、下端が下方に突出していることを特徴とする請求項1に記載の変速機の潤滑構造。
  3. 前記滴下案内面は、
    前記デファレンシャルギアケースの回動軸線方向から見て、下端から上方に向かうにしたがって幅が広がっていることを特徴とする請求項1または2に記載の変速機の潤滑構造。
  4. 前記変速機ケースに対して前記デファレンシャルギアケースを回転可能に軸支する軸受けを有し、
    前記滴下案内面は、前記変速機ケースの内面から前記デファレンシャルギアケースに向って突出する突起部の端面であり、
    前記変速機ケースは、
    前記突起部に隣接した位置に、前記軸受けに潤滑油を供給する供給溝を有することを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の変速機の潤滑構造。
  5. 前記変速機ケースは、
    前記滴下案内面の上方であって、前記リングギアの回転方向に対して対向し、潤滑油を前記滴下案内面に導く補給面を有することを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の変速機の潤滑構造。
  6. 前記補給面は、
    前記滴下案内面よりも前記リングギヤ側に突出して形成され、下方に向かうにしたがって前記滴下案内面の側に傾斜していることを特徴とする請求項5に記載の変速機の潤滑構造。
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