JP2020199615A - 被覆切削工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐摩耗性及び耐欠損性に優れ、従来よりも工具寿命を長くすることのできる被覆切削工具を提供する。
【解決手段】被覆切削工具6は、基材1と、基材1の上に形成された被覆層5とを含む。被覆層5は、複合化合物層3を含む。複合化合物層3は、(Ti1−x−yAl)Nで表される組成を有する。複合化合物層3の平均厚さが、1.0μm以上6.0μm以下である。複合化合物層3において、下記式(2)で表される立方晶(422)面の配向性指数TC(422)の値が、2.0以上5.0以下である。
Figure 2020199615

【選択図】図1

Description

本発明は、被覆切削工具に関する。
鋼などの切削加工には、超硬合金やcBN焼結体からなる基材の表面に硬質膜が被覆された被覆切削工具が広く使用されている。中でも、超硬合金からなる基材の表面に、TiN層、TiAlN層、AlN層などの硬質膜が被覆された被覆切削工具は、汎用性が高く、様々な加工に使用されている。
硬質膜に含まれる(Ti,Al,W)N層は、熱伝導率が高いことから、放熱性に優れる。また、AlN層は、切削時の高温によってアルミナとなって、硬質膜の耐熱性を向上させるとともに、耐溶着性を向上させる。
特許文献1には、炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、(a)前記硬質被覆層が、Crボンバード処理後、前記工具基体表面に形成された0.5〜5.0μmの平均層厚を有し、かつ、組成式:(AlTi1−X)N(XはAlとTiの合量に占めるAlの含有割合を示し、原子比で、0.65≦X≦0.90である)を満足する立方晶結晶構造を有するAlとTiの複合窒化物層であり、(b)前記立方晶構造を有するAlとTiの複合窒化物層の立方晶の(111)面の回折強度の最高ピークの半価幅が2θで0.6≦2θ≦1.1、かつ配向性指数Tc(111)が、1.0≦Tc(111)≦2.0であることを特徴とする被覆切削工具が開示されている。
特許文献2には、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、0.8〜5.0μmの層厚のTiとAlとM(但し、Mは、WまたはMo)の複合窒化物からなる硬質被覆層が蒸着形成された被覆切削工具において、前記硬質被覆層は、TiとAlとMの複合窒化物の粒状晶組織からなる薄層Aと柱状晶組織からなる薄層Bとの交互積層構造を有し、前記薄層Aおよび薄層Bはそれぞれ0.05〜2.0μmの層厚を有し、さらに、前記薄層Aを構成する粒状晶の平均結晶粒径は30nm以下であり、前記薄層Bを構成する柱状晶の平均結晶粒径は50〜500nmであることを特徴とする被覆切削工具が開示されている。
特開2015−110256号 特開2011−224685号
近年、加工能率を上げるために従来よりも切削条件が厳しくなる傾向がある。そのような傾向の中で、従来よりも寿命の長い切削工具が求められている。
特に、クーラントを使用しない高速加工においては、切削加工時の発熱によってすくい面のクレータ摩耗が進行する。このため、被覆切削工具の切れ刃の強度が低下するので、チッピングおよび欠損を生じることあった。
特許文献1に開示された被覆切削工具は、被覆層にW元素が含まれていないため、耐熱性の向上に限界があった。また、被覆層に含まれる結晶が(111)面に配向しているため、硬さに優れるものの、靭性が不十分であった。このような理由から、特許文献1に開示された被覆切削工具は、耐欠損性が劣り、工具寿命を長くすることができないという問題があった。
特許文献2に開示された被覆切削工具は、(Ti,Al,W)N層に含まれる結晶の配向性が制御されていないため、耐欠損性が劣り、工具寿命を長くすることができないという問題があった。
本発明は、耐摩耗性及び耐欠損性に優れ、従来よりも工具寿命を長くすることのできる被覆切削工具を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の課題を解決するために種々研究を行った。その結果、被覆層に含まれる(Ti,Al,W)N層の配向性を制御することにより、従来よりも耐摩耗性及び耐欠損性に優れる被覆切削工具が得られることを発見し、本発明を完成させた。具体的には、被覆層に含まれる(Ti,Al,W)N層を(422)面に配向させることによって、硬さと靭性のバランスに優れ、耐摩耗性と耐欠損性に優れる被覆切削工具が得られることを発見した。
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]基材と、該基材の上に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、
前記被覆層は複合化合物層を含み、
前記複合化合物層は、下記式(1)で表される組成を有し、
(Ti1−x−yAl)N ・・・(1)
(式中、xは、Ti元素とAl元素とW元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.30≦x≦0.70を満足し、yは、Ti元素とAl元素とW元素との合計に対するW元素の原子比を示し、0<y≦0.30を満足する。)
前記複合化合物層の平均厚さが、1.0μm以上6.0μm以下であり、
前記複合化合物層において、下記式(2)で表される立方晶(422)面の配向性指数TC(422)の値が、2.0以上5.0以下である、被覆切削工具。
Figure 2020199615
(式(2)中、I(hkl)は、前記複合化合物層のX線回折における(hkl)面のピーク強度を示し、I(hkl)は、ICDDカード番号01−071−5864における(hkl)面の標準回折強度を示し、(hkl)は、(111)、(200)、(220)、(311)、(222)、(400)、(331)、(420)及び(422)の9つの結晶面を指す。)
[2]前記基材の表面と垂直な断面を観察したときに、前記複合化合物層に含まれる(Ti,Al,W)Nの粒子のうち、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合が60面積%以上95面積%以下である、[1]に記載の被覆切削工具。
[3]前記複合化合物層に含まれる(Ti,Al,W)N粒子の平均粒径が、50nm以上500nm以下である、[1]又は[2]に記載の被覆切削工具。
[4]前記被覆層は、前記基材と前記複合化合物層との間に形成された下部層を有し、
前記下部層は、単層構造あるいは複数の層を含む積層構造を有しており、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含み、
前記下部層の平均厚さが、0.1μm以上3.5μm以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載の被覆切削工具。
[5]前記被覆層は、前記複合化合物層の上に形成された上部層を有し、
前記上部層は、単層構造あるいは複数の層を含む積層構造を有しており、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含み、
前記上部層の平均厚さが、0.1μm以上3.5μm以下である、[1]〜[4]のいずれかに記載の被覆切削工具。
[6]前記被覆層全体の平均厚さが、2.0μm以上7.0μm以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の被覆切削工具。
[7]前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス及び立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、[1]〜[6]のいずれかに記載の被覆切削工具。
本発明によれば、耐摩耗性及び耐欠損性に優れ、従来よりも工具寿命を長くすることのできる被覆切削工具を提供することができる。
被覆切削工具の断面模式図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る被覆切削工具6の断面模式図である。図1に示すように、被覆切削工具6は、基材1と、基材1の表面に形成された被覆層5とを含む。
基材1としては、被覆切削工具の基材として従来用いられているものであれば、特に限定なく使用可能である。基材1の例として、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、高速度鋼などを挙げることができる。基材1は、超硬合金、サーメット、セラミックスおよび立方晶窒化硼素焼結体のいずれかであることが好ましい。
被覆層5全体の平均厚さは、2.0μm以上7.0μm以下であることが好ましい。被覆層5全体の平均厚さが2.0μm未満であると、被覆切削工具の耐摩耗性が低下する傾向がある。一方、被覆層5全体の平均厚さが7.0μmを超えると、被覆切削工具の耐欠損性が低下する傾向がある。被覆層5全体の平均厚さは、より好ましくは、2.2μm以上6.5μm以下であり、さらに好ましくは、2.4μm以上6.0μm以下である。
以下、被覆層5に含まれる各層について説明する。
図1に示すように、被覆層5は、複合化合物層3を含む。複合化合物層3は、下記式(1)で表される組成を有する。
(Ti1−x−yAl)N ・・・(1)
(式中、xは、Ti元素とAl元素とW元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.30≦x≦0.70を満足し、yは、Ti元素とAl元素とW元素との合計に対するW元素の原子比を示し、0<y≦0.30を満足する。)
金属元素全体に対するAl含有量が30原子%以上(0.30≦x)であると、複合化合物層3の高温下での結晶安定性及び耐酸化性が向上する。その結果、耐摩耗性および耐欠損性に優れる被覆切削工具が得られる。一方、金属元素全体に対するAl含有量が70原子%以下(x≦0.70)であると、六方晶の形成が抑制されるため、硬度の低下が抑制される。その結果、耐摩耗性に優れる被覆切削工具が得られる。金属元素全体に対するAl含有量は、好ましくは、35原子%以上65原子%以下であり、より好ましくは、40原子%以上60原子%以下である。
金属元素全体に対するW含有量が0原子%を超える(0<y)と、複合化合物層3の耐熱性が向上し、耐クレータ摩耗性が向上する。その結果、切れ刃の強度が低下することによる欠損の発生を抑制することができる。一方、金属元素全体に対するW含有量が30原子%以下(y≦0.30)であると、複合化合物層3をPVDによって形成する際の放電が安定する。その結果、被覆切削工具を容易に製造することができる。金属元素全体に対するW含有量は、好ましくは、5原子%以上25原子%以下であり、より好ましくは、5原子%以上20原子%以下である。
なお、図1では、被覆層5に1つの複合化合物層3が含まれている例を示しているが、被覆層5には2つ以上の複合化合物層3が含まれてもよい。
複合化合物層3の平均厚さは、1.0μm以上6.0μm以下である。複合化合物層3の平均厚さが1.0μm未満であると、複合化合物層3の耐摩耗性が低下する傾向がある。一方、複合化合物層3の平均厚さが6.0μmを超えると、複合化合物層3の耐欠損性が低下する傾向がある。複合化合物層3の平均厚さは、好ましくは、1.5μm以上5.5μm以下であり、より好ましくは、2.4μm以上5.0μm以下である。複合化合物層3の平均厚さの求め方については後述する。
基材1の表面と垂直な断面を観察したときに、複合化合物層3に含まれる(Ti,Al,W)Nの粒子のうち、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合が60面積%以上95面積%以下であることが好ましい。
複合化合物層3に含まれる(Ti,Al,W)Nの粒子のアスペクト比が2以上であると、粒子の脱落を抑制する効果が得られる。その結果、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。一方、(Ti,Al,W)Nの粒子のアスペクト比が10以下であると、複合化合物層3を容易に形成できるため、被覆切削工具を容易に製造することができる。
アスペクト比が2以上10以下である(Ti,Al,W)N粒子の占める割合が60面積%以上であると、粒子の脱落を抑制する効果が高くなる。その結果、被覆切削工具の耐欠損性が一層向上する。一方、アスペクト比が2以上10以下である(Ti,Al,W)N粒子の占める割合が95面積%以下であると、複合化合物層3をより容易に形成できるため、被覆切削工具をより容易に製造することができる。アスペクト比が2以上10以下である(Ti,Al,W)N粒子の占める割合は、より好ましくは、64面積%以上92面積%以下であり、さらに好ましくは、66面積%以上90面積%以下である。
ここでいう「アスペクト比」は、以下の式によって求めることができる。
アスペクト比 = 長軸Aの長さ/短軸Bの長さ
長軸Aとは、複合化合物層3の断面組織内に存在する(Ti,Al,W)N粒子を見たときに、その粒子の外周上の2点を結ぶ線分のうち最も長い線分を意味する。短軸Bとは、その粒子の外周上の2点を結ぶ線分のうち、長軸Aに直交する線分の中で最も長い線分を意味する。
ここでいう「面積割合」は、以下の式によって求めることができる。
面積割合(%) = {アスペクト比が2以上10以下である(Ti,Al,W)N粒子の占める面積/(Ti,Al,W)N粒子全体の占める面積}×100
複合化合物層3に含まれる(Ti,Al,W)N粒子のアスペクト比は、複合化合物層3の断面組織を観察して求めることができる。また、アスペクト比が2以上10以下である(Ti,Al,W)N粒子の占める面積割合も、複合化合物層3の断面組織を観察して求めることができる。ここでいう「断面組織」は、基材1の表面に対して垂直又は略垂直な、複合化合物層3の断面組織を意味する。断面組織の観察には、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)や電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)などに付属した電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いることができる。
断面組織は、例えば、以下の方法で観察することができる。
まず、被覆切削工具を、基材の表面と垂直又は略垂直な方向に鏡面研磨する。鏡面研磨の方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストまたはコロイダルシリカを用いて研磨する方法や、イオンミリングが挙げられる。
次に、鏡面研磨によって得られた断面組織を有する試料を、FE−SEMにセットする。試料の断面組織に、70度の入射角度、15kVの加速電圧、および0.5nAの照射電流で、電子線を照射する。
EBSDにより、被覆切削工具の逃げ面における断面組織を、300μmの測定範囲において、0.1μmのステップサイズで測定するのが望ましい。このとき、方位差が5°以上の境界を結晶粒界とみなし、この結晶粒界によって囲まれる領域を粒子とみなす。
複合化合物層3に含まれる(Ti,Al,W)N粒子の平均粒径は、50nm以上500nm以下であることが好ましい。複合化合物層3に含まれる(Ti,Al,W)N粒子の平均粒径が50nm以上であると、切削加工中に粒子が脱落するのを抑制することができるため、被覆切削工具の耐摩耗性を向上させることができる。一方、複合化合物層3に含まれる(Ti,Al,W)N粒子の平均粒径が500nm以下であると、加工中に発生した亀裂が基材に向かって進展するのを抑制することができるため、被覆切削工具の耐欠損性を向上させることができる。複合化合物層3に含まれる(Ti,Al,W)N粒子の平均粒径は、より好ましくは、55nm以上400nm以下であり、さらに好ましくは、60nm以上384nm以下である。
ここで、「粒径」とは、(Ti,Al,W)N粒子の短軸Bの長さを意味する。「平均粒径」とは、複合化合物層3の断面組織を観察したときに、その断面組織に含まれる(Ti,Al,W)N粒子の粒径の算術平均値を意味する。なお、(Ti,Al,W)N粒子の平均粒径を求めるためには、断面組織に含まれる10個以上の粒子の粒径を測定することが望ましい。
複合化合物層3に含まれる(Ti,Al,W)N粒子の平均粒径は、複合化合物層3の断面組織を観察して求めることができる。複合化合物層3の断面組織を観察するためには、上述のアスペクト比を求める際の方法と同様の方法を用いることができる。
本実施形態の被覆切削工具6は、被覆層5に含まれる複合化合物層3が立方晶(422)面に配向していることを特徴とする。具体的には、下記式(2)で表される立方晶(422)面の配向性指数TC(422)が2.0以上5.0以下であることを特徴とする。
Figure 2020199615
式(2)中、I(hkl)は、前記複合化合物層のX線回折における(hkl)面のピーク強度を示し、I(hkl)は、ICDDカード番号01−071−5864における(hkl)面の標準回折強度を示し、(hkl)は、(111)、(200)、(220)、(311)、(222)、(400)、(331)、(420)及び(422)の9つの結晶面を指す。
(111)面は、最密面であるため、硬さが高くなる。一方、(200)面は、硬さが抑制されるが、靭性に優れる傾向がある。(422)面は、(111)面と、(200)面の特徴を有する。すなわち、(422)面は、(200)面よりも硬さが高く、(111)面よりも靭性に優れる。したがって、複合化合物層3を(422)面に配向させることによって、硬さと靭性のバランスに優れ、耐摩耗性と耐欠損性に優れる被覆切削工具が得られる。
複合化合物層3の各面指数のピーク強度は、市販のX線回折装置を用いて測定することができる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置RINT TTRIII(製品名)を用いることができる。測定には、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折測定を用いることができる。X線回折の測定条件は、例えば、以下の通りである。
出力:50kV、250mA、
入射側ソーラースリット:5°、
発散縦スリット:2/3°、
発散縦制限スリット:5mm、
散乱スリット2/3°、
受光側ソーラースリット:5°、
受光スリット:0.3mm、
BENTモノクロメータ、
受光モノクロスリット:0.8mm、
サンプリング幅:0.01°、
スキャンスピード:4°/min、
2θ測定範囲:30°〜135°
X線回折図形から、上記の各面指数のピーク強度を求めるときに、X線回折装置に付属の解析ソフトウェアを用いてもよい。解析ソフトウェアを用いるときには、三次式近似を用いてバックグラウンド処理およびKα2ピーク除去を行うとともに、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行う。これにより、各ピーク強度を求めることができる。
上記式(2)において、ICDDカード番号は、(Ti、Al)Nに関する番号を使用している。(Ti,Al,W)N層は、(Ti,Al)NにW元素を固溶させた組成を有しているためである。また、(Ti,Al,W)Nと(Ti、Al)Nとは、XRDにおけるピーク位置(2θ)がほぼ同じ位置に観察されるためである。ICDDカード番号01−071−5864に記載された標準回折強度I(hkl)は、以下の表1の通りである。
Figure 2020199615
複合化合物層3を構成する(Ti,Al,W)N層はW元素を含有するため、被覆層5の耐熱性が向上する。その結果、耐クレータ摩耗性に優れる被覆切削工具が得られる。
被覆層5は、基材1と複合化合物層3との間に形成された下部層2を有してもよい。下部層2は、単層構造あるいは複数の層を含む積層構造を有している。下部層2は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含む。被覆層5が下部層2を含むことによって、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。
下部層2の平均厚さは、0.1μm以上3.5μm以下であることが好ましい。下部層2の平均厚さがこの範囲にある場合、基材1に対する被覆層5の密着性が向上する傾向がある。下部層2の平均厚さは、より好ましくは、0.5μm以上3.0μm以下である。
被覆層5は、複合化合物層3の上に形成された上部層4を有してもよい。上部層4は、単層構造あるいは複数の層を含む積層構造を有している。上部層4は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含む。被覆層5が上部層4を含むことによって、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。
上部層4の平均厚さは、0.1μm以上3.5μm以下であることが好ましい。上部層4の平均厚さがこの範囲にある場合、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する傾向がある。上部層4の平均厚さは、より好ましくは、0.3μm以上3.0μm以下である。
被覆層5に含まれる各層の平均厚さは、被覆層5の断面組織を観察することで測定することができる。被覆層5全体の平均厚さも、被覆層5の断面組織を観察することで測定することができる。被覆層5の断面組織は、例えば、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することができる。被覆層5に含まれる各層の平均厚さは、被覆層5の断面の3箇所以上において各層の厚さを測定し、その平均値を算出したものである。被覆層5全体の平均厚さは、被覆層5の断面の3箇所以上において被覆層5全体の厚さを測定し、その平均値を算出したものである。被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から、当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、被覆層5に含まれる各層の平均厚さ及び被覆層5全体の平均厚さを測定する。
本実施形態の被覆切削工具において、被覆層5を形成する方法は、特に限定されない。その例として、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法、イオンミキシング法などの物理蒸着法を挙げることができる。これらの中でもアークイオンプレーティング法が好ましい。この方法で被覆層5を形成すると、被覆層5と基材1との密着性が向上する。
本実施形態の被覆切削工具6の製造方法について、具体例を用いて説明する。なお、本実施形態の被覆切削工具6の製造方法は、以下の例に限定されるものではない。
まず、工具形状に加工した基材と金属蒸発源を、物理蒸着装置の反応容器内に設置する。次に、反応容器内に、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスを導入する。アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスの体積比率を、30:70〜70:30に調整する。次に、基材の温度が350℃〜600℃になるまで加熱した後、基材に−120V〜−40Vのバイアス電圧を印加する。次に、金属蒸発源を100A〜150Aのアーク放電により蒸発させて(Ti1−x−yAl)Nを成膜する。このとき、Arガスの比率が大きいほど、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合(面積%)が大きくなる傾向がある。また、アーク放電の電流値が小さいほど、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合(面積%)が大きくなる傾向がある。成膜温度が低いほど、立方晶(111)面のピーク強度が大きくなる傾向がある。成膜温度が高いほど、立方晶(200)面のピーク強度が大きくなる傾向がある。基材に印加するバイアス電圧が高い(−120Vと−40Vとでは、−40Vの方が高い。)ほど、立方晶(200)面のピーク強度が大きくなる傾向がある。基材に印加するバイアス電圧が低いほど、立方晶(111)面のピーク強度が大きくなる傾向がある。これらの条件を調整することによって、中間の結晶配向である立方晶(422)面のピーク強度が大きくなるようにする。
本実施形態の被覆切削工具6の例として、フライス加工用または旋削加工用の刃先交換型切削インサート、ドリル、エンドミルなどを挙げることができる。
[実施例1]
以下、本発明のさらに具体的な実施例1について説明する。
基材として、工具形状に加工した、89.5WC−9.8Co−0.7Cr(質量%)の組成を有する超硬合金を用意した(型番:LNMU0303ZER−MJ、株式会社タンガロイ製)。アークイオンプレーティング装置の反応容器内に、下記の表2及び表3に示す複合化合物層の組成となる金属蒸発源を配置した。用意した基材を反応容器内の回転テーブルに固定した。
次に、反応容器内を真空引きした後、反応容器内のヒーターで、温度が400℃になるまで基材を加熱した。加熱後、反応容器内にArガスを導入して圧力を3.0Paとした。圧力2.4PaのArガス雰囲気にて、基材に−250Vのバイアス電圧を印加し、反応容器内のタングステンフィラメントに15Aの電流を流した。これにより、基材の表面を、Arガスによるイオンボンバードメント処理した。基材の表面をイオンボンバードメント処理した後、圧力1×10−2Pa以下の真空になるまで反応容器内を真空引きした。次に、反応容器内にアルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスを導入し、それらの混合比率を調整するとともに、反応容器内の圧力を3.0Paに調整した。アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスの混合比率を、下記の表2及び表3に示す。
基材が所定温度になるまで加熱した後、基材にバイアス電圧を印加し、金属蒸発源をアーク放電により蒸発させることによって、基材に被覆層を成膜した。被覆層の成膜条件(温度、バイアス電圧、放電電流)を、下記の表2及び表3に示す。
Figure 2020199615
Figure 2020199615
基材の表面に複合化合物層を形成した後、ヒーターの電源を切り、試料温度が100℃以下になった後で、反応容器内から試料(発明品1〜12および比較品1〜8)を取り出した。
反応容器内から取り出した試料について、複合化合物層の平均厚さを測定した。具体的には、得られた試料の断面をTEMによって観察し、複合化合物層の厚さを3箇所以上において測定し、それらの平均値を算出した。また、得られた試料の複合化合層の組成を、EDMによって測定した。測定結果を上記表2及び表3に示す。
次に、得られた試料の断面をEBSDによって観察した。観察によって得られた画像から、複合化合物層に含まれる(Ti,Al,W)N粒子の平均粒径を、画像解析ソフトを用いて求めた。また、アスペクト比が2以上10以下である(Ti,Al,W)N粒子の占める面積割合を、画像解析ソフトを用いて求めた。これらの結果を、下記の表4及び表5に示す。
また、得られた試料について、CuKα線を用いたX線回折測定を行って、複合化合物層の配向性指数TC(422)を算出した。結果を下記の表4及び表5に示す。
Figure 2020199615
Figure 2020199615
得られた試料(発明品1〜12および比較品1〜8)を用いて、以下の条件で切削試験を行い、試料の耐欠損性および耐摩耗性を評価した。試験結果を以下の表6及び表7に示す。
[試験条件]
被削材:SCM440、
被削材形状:150mm×200mm×60mmのブロック、
切削速度:200m/min、
1刃当たりの送り量:1.0mm/t、
切り込み深さ:0.6mm、
クーラント:無し、
評価項目:試料が欠損したとき、または試料の逃げ面摩耗幅または境界摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に至るまでの加工長さを測定した。
Figure 2020199615
Figure 2020199615
表6及び表7に示す結果から明らかなように、発明品1〜12は比較品1〜8よりも耐摩耗性及び耐欠損性に優れており、工具寿命が長かった。
[実施例2]
以下、本発明のさらに具体的な実施例2について説明する。
実施例2では、基材と複合化合物層の間に下部層を形成した(発明品13、17、25)。または、複合化合物層の上に上部層を形成した(発明品15)。または、下部層及び上部層の両方を形成した(発明品14、16、18〜24、26)。複合化合物層については、実施例1の発明品1、5、6、9、10のいずれかと同じ条件で成膜を行った。
以下の表8に、下部層の組成及び平均厚さ、上部層の組成及び平均厚さ、複合化合物層の組成及び平均厚さ、並びに、被覆層全体の平均厚さを示す。各層の組成及び平均厚さの測定については、実施例1と同様に行った。
Figure 2020199615
下部層及び上部層についても、実施例1の複合化合物層と同様に、アークイオンプレーティング装置の反応容器内にて成膜を行った。以下の表9に、下部層及び上部層を成膜する際の基材の加熱温度、反応容器内の圧力、基材に印加するバイアス電圧、及びアーク放電の電流値を示す。
Figure 2020199615
得られた試料(発明品13〜26)を用いて、上記実施例1と同様の条件で切削試験を行い、試料の耐欠損性および耐摩耗性を評価した。試験結果を以下の表10に示す。
Figure 2020199615
表10に示す結果から明らかなように、下部層及び上部層のいずれかあるいは両方を成膜した発明品13〜26は、複合化合物層のみを成膜した発明品1〜12よりも耐摩耗性及び耐欠損性に優れており、工具寿命が長かった。
1 基材
2 下部層
3 複合化合物層
4 上部層
5 被覆層
6 被覆切削工具

Claims (7)

  1. 基材と、該基材の上に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、
    前記被覆層は複合化合物層を含み、
    前記複合化合物層は、下記式(1)で表される組成を有し、
    (Ti1−x−yAl)N ・・・(1)
    (式(1)中、xは、Ti元素とAl元素とW元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.30≦x≦0.70を満足し、yは、Ti元素とAl元素とW元素との合計に対するW元素の原子比を示し、0<y≦0.30を満足する。)
    前記複合化合物層の平均厚さが、1.0μm以上6.0μm以下であり、
    前記複合化合物層において、下記式(2)で表される立方晶(422)面の配向性指数TC(422)の値が、2.0以上5.0以下である、被覆切削工具。
    Figure 2020199615

    (式(2)中、I(hkl)は、前記複合化合物層のX線回折における(hkl)面のピーク強度を示し、I(hkl)は、ICDDカード番号01−071−5864における(hkl)面の標準回折強度を示し、(hkl)は、(111)、(200)、(220)、(311)、(222)、(400)、(331)、(420)及び(422)の9つの結晶面を指す。)
  2. 前記基材の表面と垂直な断面を観察したときに、前記複合化合物層に含まれる(Ti,Al,W)Nの粒子のうち、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合が60面積%以上95面積%以下である、請求項1に記載の被覆切削工具。
  3. 前記複合化合物層に含まれる(Ti,Al,W)N粒子の平均粒径が、50nm以上500nm以下である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
  4. 前記被覆層は、前記基材と前記複合化合物層との間に形成された下部層を有し、
    前記下部層は、単層構造あるいは複数の層を含む積層構造を有しており、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含み、
    前記下部層の平均厚さが、0.1μm以上3.5μm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  5. 前記被覆層は、前記複合化合物層の上に形成された上部層を有し、
    前記上部層は、単層構造あるいは複数の層を含む積層構造を有しており、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含み、
    前記上部層の平均厚さが、0.1μm以上3.5μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  6. 前記被覆層全体の平均厚さが、2.0μm以上7.0μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  7. 前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス及び立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
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