以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における高周波回路基板は、図1や図2に示すように、樹脂フィルム1と、この樹脂フィルム1に積層される導電層3とを積層構造に備えた第五世代移動通信システム(5G)用の回路基板であり、樹脂フィルム1を熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2としてその相対結晶化度を80%以上とし、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の成形材料11の熱可塑性ポリイミド樹脂を、少なくともテトラカルボン酸成分と、脂肪族ジアミンを主成分とするジアミン成分とにより調製し、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の周波数800MHz以上100GHz以下の範囲における比誘電率を3.5以下とするとともに、誘電正接を0.006以下とするようにしている。
樹脂フィルム1は、熱硬化性のポリイミド(PI)樹脂ではなく、結晶性の熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂を含有する成形材料11により、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2に成形される(図2参照)。この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2は、透明、不透明、半透明、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムを特に問うものではない。
成形材料11中の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸成分と、ジアミン成分との重合により得られる。熱可塑性ポリイミド樹脂のテトラカルボン酸成分としては、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸等の脂環族テトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、ピロメリット酸等があげられる。また、これらのアルキルエステル体も使用することが可能である。
これらの中でも、テトラカルボン酸成分のうち、50モル%を越える成分がピロメリット酸であることが好ましい。これは、テトラカルボン酸成分がピロメリット酸を主成分とすれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の耐熱性、二次加工性、及び低吸水性が向上するからである。係る観点から、テトラカルボン酸成分のうち、ピロメリット酸は、60モル%以上が好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上が良い。とりわけ、テトラカルボン酸成分の全て(100モル%)がピロメリット酸であるのが最適である。
熱可塑性ポリイミド樹脂を構成するジアミン成分は、脂肪族ジアミン(脂環族ジアミンをも含む)を主成分とすることが重要である。すなわち、ジアミン成分のうち50モル%を越える成分が脂肪族ジアミンであることが重要であり、60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。とりわけ、ジアミン成分の全て(100モル%)が脂肪族ジアミンであるのが最適である。この主成分が脂肪族ジアミンであることにより、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2に、優れた耐熱性、低吸水性、成形性、及び二次加工性を付与することができる。
ジアミン成分に含まれる脂肪族ジアミンとしては、炭化水素基の両末端にアミン基を有するジアミン成分であれば、特に限定されるものではないが、耐熱性を重視する場合には、環状炭化水素の両末端にアミン基を有する脂環族ジアミンを含むことが好ましい。脂環族ジアミンの具体例としては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等があげられる。これらの中では、耐熱性と成形性、二次加工性を両立できるという観点から、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが最適である。
樹脂フィルム1の成形性や二次加工性を重視する場合には、ジアミン成分に含まれる脂肪族ジアミンとして、直鎖状炭化水素の両末端にアミン基を有する直鎖状脂肪族ジアミンを含むことが好ましい。直鎖状脂肪族ジアミンとしては、アルキル基の両末端にアミン基を有するジアミン成分であれば特に制限はないが、具体例としては、エチレンジアミン(炭素数2)、プロピレンジアミン(炭素数3)、ブタンジアミン(炭素数4)、ペンタンジアミン(炭素数5)、ヘキサンジアミン(炭素数6)、ヘプタンジアミン(炭素数7)、オクタンジアミン(炭素数8)、ノナンジアミン(炭素数9)、デカンジアミン(炭素数10)、ウンデカンジアミン(炭素数11)、ドデカンジアミン(炭素数12)、トリデカンジアミン(炭素数13)、テトラデカンジアミン(炭素数14)、ペンタデカンジアミン(炭素数15)、ヘキサデカンジアミン(炭素数16)、ヘプタデカンジアミン(炭素数17)、オクタデカンジアミン(炭素数18)、ノナデカンジアミン(炭素数19)、エイコサン(炭素数20)、トリアコンタン(炭素数30)、テトラコンタン(炭素数40)、ペンタコンタン(炭素数50)等があげられる。
これらの中では、成形性や二次加工性、低吸湿性に優れるという観点から、炭素数4〜12の直鎖状脂肪族ジアミンが最適である。これら直鎖状脂肪族ジアミンは、炭素数1〜10の枝分かれ構造を有するものでも良い。
ジアミン成分に含まれる脂肪族ジアミン以外の成分としては、他のジアミン成分を含んでいても良い。具体的には、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、2,4−トルエンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)1,4’−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン成分、ポリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル等のエーテルジアミン成分、シロキサンジアミン類等があげられる。
ジアミン成分は、脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンのいずれか、又は両方を含んでも良いが、耐熱性と成形性のバランスに優れることから、脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンの両方を含むことが好ましい。脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンを両方含む場合、それぞれの含有量は、脂環族ジアミン:直鎖状脂肪族ジアミン=99:1〜1:99モル%の範囲であることが好ましく、90:10〜10:90モル%であることがより好ましく、80:20〜20:80モル%であることがさらに好ましく、70:30〜30:70モル%であることが特に好ましく、60:40〜40:60モル%が最適である。ジアミン成分に含まれる脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンの割合が係る範囲であれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の耐熱性と成形性は、バランスに優れる。
熱可塑性ポリイミド樹脂の融点(融解温度ともいう)は、290℃以上370℃以下であり、好ましくは300℃以上350℃以下、より好ましくは310℃以上330℃以下が良い。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂の融点が290℃未満の場合には、はんだ耐熱性を有する熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を得ることができないからである。これに対し、熱可塑性ポリイミド樹脂の融点が370℃を越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の製造温度が400℃以上となってしまうため、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の製造が困難となり、しかも、使用可能な溶融押出成形機10が制限されてしまう等の問題が生じるからである。
熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移点は、160℃以上240℃以下、好ましくは170℃以上210℃以下、より好ましくは170℃以上190℃以下が良い。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移点が160℃未満の場合には、はんだ耐熱性を有する熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を得ることができないからである。これに対し、熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移点が240℃を越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂の融点が370℃を越え、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の製造温度が400℃以上となって樹脂フィルム1の製造に支障を来したり、使用可能な溶融押出成形機10の制限を招くからである。
熱可塑性ポリイミド樹脂の見掛けの剪断粘度は、温度350℃における見掛けの剪断速度1×102sec−1の場合に、1×102Pa・s以上1×104Pa・s以下の範囲内、好ましくは5×102Pa・s以上5×103Pa・s以下の範囲内、より好ましくは7×102Pa・s以上1×103Pa・s以下の範囲内が良い。これは、温度350℃、見掛けの剪断速度1×102sec−1における熱可塑性ポリイミド樹脂の見掛けの剪断粘度が1×102Pa・s以上1×104Pa・s以下の範囲内であれば、良好な溶融押出成形が可能になるという理由に基づく。
熱可塑性ポリイミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、あるいは変性体も使用することができる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂の形状は、粉状、フレーク状、ペレット状、塊状等、いかなる形状でも良い。
熱可塑性ポリイミド樹脂は特に限定されるものではないが、好ましくは特許第5365762号公報、特許第6024859号公報、特許第6037088号公報記載、あるいは特許第6394662号公報記載の熱可塑性を有するポリイミド樹脂、より好ましくは特許第6024859号公報、特許第6037088号公報記載、あるいは特許第6394662号公報に記載された熱可塑性のポリイミド樹脂が好適である。この熱可塑性ポリイミド樹脂の具体例としては、強度、結晶性、耐熱性やフィルム成形性に優れるサープリムシリーズ〔三菱瓦斯化学社製:製品名〕があげられる。
成形材料11は、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の他、上記以外のポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂等のポリイミド樹脂、ポリアミド4T(PA4T)樹脂、ポリアミド6T(PA6T)樹脂、変性ポリアミド6T(PA6T)樹脂、ポリアミド9T(PA9T)樹脂、ポリアミド10T(PA10T)樹脂、ポリアミド11T(PA11T)樹脂、ポリアミド6(PA6)樹脂、ポリアミド66(PA66)樹脂、ポリアミド46(PA46)樹脂等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂等のポリアリーレンエーテルケトン樹脂、ポリサルホン(PSU)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリフェニルサルホン(PPSU)樹脂等のポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトンスルホン樹脂等のポリアリーレンサルファイド樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂等を必要に応じ、添加することができる。
成形材料11には、本発明の特性を損なわない範囲で上記樹脂の他、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、無機化合物、有機化合物、樹脂改質剤等を選択的に添加することができる。
ポリイミド樹脂フィルム1の厚さは、2μm以上1000μm以下であれば特に限定されるものではないが、高周波回路基板の厚さの充分な確保、ハンドリング性や薄型化の観点からすると、好ましくは10μm以上800μm以下、より好ましくは20μm以上500μm以下、さらに好ましくは25μm以上250μm以下が良い。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の周波数800MHz以上100GHz以下、好ましくは1GHz以上90GHz以下、より好ましくは10GHz以上85GHz以下、さらに好ましくは25GHz以上80GHz以下の範囲における比誘電率は、高周波数帯を活用した高速通信の実現の観点から、3.5以下、好ましくは3.3以下、より好ましくは3.1以下、さらに好ましくは3.0以下が良い。この比誘電率の下限は、特に限定されるものではないが、実用上1.5以上である。
具体的には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の周波数1GHzにおける比誘電率が2.8以下、周波数10GHzにおける比誘電率が2.75以下、周波数28GHz付近における比誘電率が2.73以下、周波数76.5GHzにおける比誘電率が2.77以下が好ましい。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の周波数800MHz以上100GHz以下の範囲における比誘電率が3.5を越えると、電気信号の伝搬速度が低下するため、高速通信に不適であるという問題が生じるからである。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の周波数800MHz以上100GHz以下、好ましくは1GHz以上90GHz以下、より好ましくは10GHz以上85GHz以下、さらに好ましくは25GHz以上80GHz以下の範囲における誘電正接は、高周波数帯を活用した高速通信を実現するため、0.006以下、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.004以下が望ましい。この誘電正接の下限は、特に限定されるものではないが、実用上0.0001以上である。
具体的には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の周波数1GHzにおける誘電正接が0.004以下、周波数10GHz付近における誘電正接が0.004以下が望ましい。また、周波数28GHz付近における誘電正接が0.0038以下、周波数76.5GHz付近における誘電正接が0.0049以下が良い。これらは、周波数800MHz以上100GHz以下の範囲における誘電正接が0.006を越える場合は、損失が大きく、信号伝達率が低下するため、大容量通信には不適切であるという理由に基づく。
これら比誘電率と誘電正接の測定方法としては、特に制約されるものではないが、同軸プローブ法、同軸Sパラメータ法、導波管Sパラメータ法、フリースペースSパラメータ法等の反射・伝送(Sパラメータ)法、ストリップライン(リング)共振器を用いた測定法、空洞共振器摂動法、スプリットポスト誘電体共振器を用いた測定法、円筒型(スプリットシリンダー)空洞共振器を用いた測定法、マルチ周波数平衡形円板共振器を用いた測定法、遮断円筒導波管空洞共振器を用いた測定法、ファブリペロー共振器を用いた開放型共振器法等の共振器法等の方法があげられる。
また、干渉計開放型を使用するファブリペロー法、空洞共振器摂動法により高周波数の比誘電率及び誘電正接を求める方法、相互誘導ブリッジ回路による3端子測定法等があげられる。これらの中では、高分解性に優れる空洞共振器摂動法、ファブリペロー法の選択が最適である。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の相対結晶化度は、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは100%以上が良い。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の相対結晶化度が80%未満の場合には、樹脂フィルム1のはんだ耐熱性に問題が生じるからである。また、相対結晶化度が80%以上であれば、高周波回路基板として使用可能な機械的強度の確保が期待できるからである。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の結晶化度は、相対結晶化度により表すことができる。この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の相対結晶化度は、示差走査熱量計を用いて10℃/分の昇温速度で測定した熱分析結果に基づき、以下の式により算出される。
相対結晶化度(%)={1−(ΔHc/ΔHm)}×100
ΔHc:再結晶化ピークの熱量(J/g)
ΔHm:融解ピークの熱量(J/g)
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の機械的特性は、23℃における引張最大強度、引張破断時伸び、及び引張弾性率で評価することができる。引張最大強度は、80N/mm2以上、好ましくは85N/mm2以上、より好ましくは100N/mm2以上である。また、引張破断時伸びは、80%以上、好ましくは100%以上、より好ましくは200%以上、さらに好ましくは250%以上である。これは、引張最大強度が80N/mm2未満で破断時伸びが80%未満の場合、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2が十分な靭性を有していないので、高周波回路基板の加工中に破断や割れ等のトラブルが生じてしまうおそれがあるからである。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の23℃における引張弾性率は、2000N/mm2以上5000N/mm2以下、好ましくは2300N/mm2以上4700N/mm2以下、より好ましくは2500N/mm2以上4000N/mm2以下の範囲が最適である。これは、引張弾性率が2000N/mm2未満の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2が剛性に劣るため、高周波回路基板の加工中のハンドリング性が低下してしまうという理由に基づく。逆に、5000N/mm2を越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の成形に長時間を要し、コストの削減が期待できないという理由に基づく。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の吸水率は、23℃で1.0%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.4%以下が良い。これは、吸水率が23℃で1.0%以下の場合には、例え高周波回路基板の使用環境が高湿度の環境でも、高い電気絶縁性を維持することができるからである。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の耐熱性は、高周波回路基板の製造の便宜を考慮すると、はんだ耐熱性で評価されるのが望ましい。具体的には、JIS規格 C 5016の試験法に準拠し、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を288℃のはんだ浴に10秒間浮かべ、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2に変形やシワの発生が認められた場合には、耐熱性に問題有と評価され、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2に変形やシワの発生が認められない場合には、耐熱性に問題無と評価される。
このような熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を製造する場合、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂含有の成形材料11を用い、溶融押出成形法、カレンダー成形、又はキャスティング成形法等の公知の製造方法を採用することができる。これらの製造方法の中では、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の厚さ精度、生産性、ハンドリング性の向上、設備の簡略化の観点から、Tダイス14を用いた溶融押出成形法により連続的に押出成形することが好ましい。
ここで、溶融押出成形法とは、溶融押出機成形機を使用して結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂含有の成形材料11を溶融混練し、溶融押出成形機10のTダイス14から結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を連続的に押し出す成形方法である(図2参照)。溶融押出成形機10は、例えば単軸押出成形機や二軸押出成形機等を使用することができ、特に制限されるものでない。
溶融押出成形機10は、例えば単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなり、投入された成形材料11を溶融混練するように機能する。この溶融押出成形機10の上部後方には、成形材料11用の原料投入口12が設置され、この原料投入口12には、へリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスを必要に応じて供給する不活性ガス供給管13が接続されており、この不活性ガス供給管13による不活性ガスの流入により、成形材料11の酸化劣化や酸素架橋が有効に防止される。
単軸押出成形機や二軸押出成形機等の溶融押出成形機10としては、ベント口を有している溶融押出成形機10の使用が好ましい。これは、ベント口を使用して減圧下で溶融混練することにより、成形材料11に中に含まれている水分や昇華した有機物を十分に脱気しやすくなるからである。また、成形材料11の溶融混練前の含水率の調整が不要となるからである。
溶融押出成形機10の溶融混練時の熱可塑性ポリイミド樹脂の温度は、溶融可能な温度であり、熱可塑性ポリイミド樹脂が分解しない温度であれば、特に制限されるものでないが、熱可塑性ポリイミド樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲が良い。具体的には、280℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上380℃以下、さらに好ましくは320℃以上360℃以下に調整される。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂の融点未満の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂含有の成形材料11を溶融押出成形することができず、逆に熱分解温度以上の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂の成形材料11が激しく分解するおそれがあるからである。
溶融押出成形機10で溶融混練された成形材料11は、溶融押出成形機10の先端部のTダイス14により帯形の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2に連続して押出成形され、この連続した熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2が下方の一対の圧着ロール18と冷却ロール19との間に挟んで冷却された後、巻取機20に巻き取られることで製造される。
Tダイス14は、溶融押出成形機10の先端部に連結管15を介して装着され、帯形の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を連続的に下方に押し出すよう機能する。このTダイス14の押出時の温度は、熱可塑性ポリイミド樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲である。具体的には、280℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上380℃以下、さらに好ましくは320℃以上360℃以下に調整される。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂の融点未満の場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂含有の成形材料11の溶融押出成形に支障を来し、逆に熱分解温度を越える場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂の成形材料11が激しく分解するおそれがあるという理由に基づく。
Tダイス14の上流の連結管15には、ギアポンプ16とフィルター17とがそれぞれ装着されることが好ましい。ギアポンプ16は、溶融押出成形機10により溶融混練された成形材料11を一定の流量で、かつ高精度にTダイス14にフィルター17を介して移送する。フィルター17は、溶融状態の成形材料11のゲルや異物等を分離し、溶融状態の成形材料11をTダイス14に移送する。
フィルター17は、例えば多数の孔を同心円に備えた円形、多数の孔を有する焼結金属、あるいは金属性のメッシュからなり、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の平均厚さの0.5倍以上6倍以下、好ましくは0.5倍以上4倍以下、より好ましく0.5倍以上3.8倍以下の小さな開口を複数有する。熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の開口が0.5倍以上なのは、0.5倍未満の場合には、成形材料11の押出圧量が高くなるので、フィルター17の破損を招くおそれがあり、しかも、生産性が著しく低下するからである。
一対の圧着ロール18は、Tダイス14の下方に回転可能に軸支され、冷却ロール19を摺接可能に狭持しており、この冷却ロール19との間に熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を挟持して冷却する。この一対の圧着ロール18のうち、下流の圧着ロール18のさらに下流には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を巻き取る巻取機20の巻取管21が回転可能に設置され、圧着ロール18と巻取機20の巻取管21との間には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の側部にスリットを形成するスリット刃22が昇降可能に配置されており、このスリット刃22と巻取機20の巻取管21との間には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2にテンションを作用させて円滑に巻き取るための回転可能なテンションロール23が必要数軸支される。
各圧着ロール18の周面には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2と冷却ロール19との密着性を向上させる観点から、少なくとも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム層が必要に応じて被膜形成され、このゴム層には、シリカやアルミナ等の無機化合物が選択的に添加される。これらの中では、耐熱性に優れるシリコーンゴムやフッ素ゴムの採用が好ましい。
圧着ロール18としては、表面が金属の金属弾性ロールが必要に応じて使用され、この金属弾性ロールが使用される場合には、表面が平滑性に優れる熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の成形が可能となる。金属弾性ロールの具体例としては、例えば金属スリーブロール、エアーロール〔ディムコ社製:製品名〕、UFロール〔日立造船社製:製品名〕が該当する。
このような圧着ロール18は、50℃以上260℃以下、好ましくは100℃以上240℃以下、より好ましくは130℃以上220℃以上、さらに好ましくは150℃以上200℃以下の温度に調整され、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2に摺接してこれを冷却ロール19に圧接する。圧着ロール18の温度が係る範囲なのは、圧着ロール18の温度が260℃を越える場合には、製造中の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2が圧着ロール18に貼り付き、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2が破断するか、あるいは圧着ロール18に被覆形成されたゴム層が熱分解するおそれがあるからである。
逆に、圧着ロール18の温度が50℃未満の場合には、圧着ロール18が結露するため、好ましくないという理由に基づく。圧着ロール18の温度調整や冷却方法としては、空気、水、オイル等の熱媒体による方法、あるいは電気ヒーターや誘電加熱ロール等があげられる。
冷却ロール19は、例えば圧着ロール18よりも拡径の金属ロールからなり、Tダイス14の下方に回転可能に軸支されて押し出された熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を圧着ロール18との間に狭持し、圧着ロール18と共に熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を冷却しながらその厚さを所定の範囲内に制御する。この冷却ロール19は、圧着ロール18と同様、50℃以上260℃以下、好ましくは100℃以上240℃以下、より好ましくは130℃以上220℃以上、さらに好ましくは150℃以上200℃以下の温度に調整され、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2に摺接する。
冷却ロール19が50℃以上260℃以下の温度に調整されるのは、冷却ロール19の温度が260℃を越える場合には、製造中の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2が冷却ロール19に密着して熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の破断を招いたり、あるいはゴム層が被覆形成された圧着ロール18の場合、圧着ロール18のゴム層が熱分解するおそれがあるからである。これに対し、冷却ロール19の温度が50℃未満の場合には、冷却ロール19の結露を招き、好ましくないからである。冷却ロール19の温度調整や冷却方法は、空気、水、オイル等の熱媒体による方法、あるいは電気ヒーターや誘導加熱等があげられる。
上記において、高周波回路基板用の樹脂フィルム1を製造する場合には図2に示すように、先ず、溶融押出成形機10の原料投入口12に、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂含有の成形材料11を同図に矢印で示す不活性ガスを供給しながら投入し、溶融押出成形機10により成形材料11を加熱・加圧状態で溶融混練し、Tダイス14から結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を連続的に帯形に押し出す。
この際、熱可塑性ポリイミド樹脂含有の成形材料11の溶融押出前における含水率は、2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm以上500ppm以下に調整される。これは、熱可塑性ポリイミド樹脂の溶融押出前における含水率が2000ppmを越える場合には、Tダイス14から押し出された直後、熱可塑性ポリイミド樹脂が発泡するおそれがあるからである。成形材料11の溶融混練前の含水率の下限は、特に限定されるものでないが、100ppm以上が良い。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を押し出したら、一対の圧着ロール18、冷却ロール19、テンションロール23、巻取機20の巻取管21に順次巻架し、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を冷却ロール19により冷却した後、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の両側部をスリット刃22でそれぞれカットするとともに、巻取管21に順次巻き取れば、高周波回路基板用の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を製造することができる。この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2製造の際、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の表面には、本発明の効果を失わない範囲で微細な凹凸を形成し、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2表面の摩擦係数を低下させることができる。
次に、高周波回路基板を製造する場合には、製造した結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2上に導電層3を形成し、その後、導電層3に導電回路の配線パターンを形成すれば、高周波回路基板を製造することができる。導電層3は、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の表裏両面、表面、裏面のいずれかの面に形成され、後から導電回路の配線パターンが形成される。この導電層3に用いられる導電体としては、通常、例えば銅、金、銀、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、スズ等の金属、あるいはこれら金属からなる合金があげられる。
導電層3の形成方法としては、(1)熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2と金属箔とを熱融着して導電層3を形成する方法、(2)熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2と金属箔とを接着剤で接着することにより、導電層3を形成する方法、(3)熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2上にシード層4を形成するとともに、このシード層4上に金属層5を積層形成し、これらシード層4と金属層5とから導電層3を形成する方法等があげられる。
(1)の方法は、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2と金属箔とをプレス成形機あるいはロール間に挟み、加熱・加圧して導電層3を形成する方法である。この方法の場合、金属箔の厚さは、1μm以上500μm以下、好ましくは3μm以上400μm以下、より好ましくは5μm以上300μm以下、さらに好ましくは10μm以上200μm以下の範囲内が良い。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2あるいは金属箔の表面は、熱融着時の融着強度を向上させるため、微細な凹凸を形成することができる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2あるいは金属箔の表面をコロナ照射処理、紫外線照射処理、プラズマ照射処理、フレーム照射処理、イトロ照射処理、酸化処理、ヘアライン加工、サンドマット加工等で表面処理しても良い。また、熱可塑性ポリイミドフィルムあるいは金属箔の表面をシランカップリング剤、シラン剤、チタンネート系カップリング剤、あるいはアルミネート系カップリング剤で処理することもできる。
(2)の方法は、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム1と金属箔の間にエポキシ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、シロキサン変性ポリアミドイミド樹脂系接着剤等の接着剤を配置し、プレス成形機あるいはロール間に挟んだ後、加熱・加圧して金属箔を熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2上に形成する方法である。この方法の場合、金属箔の厚さは、1μm以上500μm以下、好ましくは3μm以上400μm以下、より好ましくは5μm以上300μm以下、さらに好ましくは10μm以上200μm以下の範囲内が良い。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2あるいは金属箔の表面は、上記同様、接着強度を向上させる観点から、微細な凹凸を形成することができる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2あるいは金属箔の表面をコロナ照射処理、紫外線照射処理、プラズマ照射処理、フレーム照射処理、イトロ照射処理、酸化処理、ヘアライン加工、サンドマット加工等で表面処理を施しても構わない。また、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2あるいは金属箔の表面を上記同様、シランカップリング剤、シラン剤、チタンネート系カップリング剤、あるいはアルミネート系カップリング剤で処理することも可能である。
(3)の方法は、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2上にスパッタリング法、蒸着法、あるいはメッキ法等の方法により接着用のシード層4を形成し、このシード層4上に熱融着法や蒸着法、メッキ法により金属層5を形成し、これらシード層4と金属層5とを導電層3に形成する方法である。シード層4としては、例えば銅、金、銀、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、スズ、亜鉛等の金属、あるいはこれら金属からなる合金を使用することができる。シード層4の厚さは、通常、0.1μm以上2μm以下の範囲である。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2上にシード層4を形成する際、これらの接着強度を改良する目的でアンカー層を形成することが可能である。このアンカー層は、ニッケルあるいはクロム等の金属があげられるが、好ましくは環境性に優れるニッケルが最適である。
金属層5としては、例えば銅、金、銀、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、スズ、亜鉛等の金属あるいはこれら金属からなる合金を使用することができる。この金属層5は、1種類の金属からなる単層でも良いし、2種類以上の金属からなる複層や多層でも良い。金属層5の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1μm以上50μm以下、好ましくは1μm以上30μm以下が良い。
シード層4と金属層5からなる導電層3は、0.2μm以上50μm以下、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは5μm以上20μm以下、さらに好ましくは5μm以上10μm以下の範囲内が良い。シード層4と金属層5は、同じ金属でも良いし、異なる金属でも良い。また、金属層5の表面上には、表面の腐食を防止するため、金やニッケル等の金属保護層を被覆形成しても良い。
これらの導電層3の形成方法の中では、10μm以下の薄膜の金属層5を形成しやすい(3)の方法が最適である。この(3)の方法におけるシード層4は、例えば銅、金、銀、ニッケル、クロム等を用いたスパッタリング法、蒸着法、メッキ法等により、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の表面に積層形成され、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2と金属層5とを密着させ、密着強度を安定化させるよう機能する。
シード層4の積層形成の際、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法等を採用することができるが、スパッタリング法を採用すれば、様々な金属をシード層4として自由に使用することができ、しかも、高い密着強度を得ることができる。また、金属層5は、シード層4上に熱融着法や蒸着法、メッキ法により形成されるが、接着剤を省略することのできるメッキ法や熱融着法の採用が最適である。
導電回路の配線パターンは、エッチング法、メッキ法、あるいは印刷法等により必要数形成することができる。この配線パターンの形成方法には、アンダーカットや配線細りの発生を最小限に止め、良好な配線形成を可能とする硫酸‐過酸化水素系、塩化鉄のエッチング剤等の使用が可能である。このような所定形状の配線パターンを形成すれば、低誘電性に優れ、信号の損失を抑制することのできる高周波回路基板を製造することができる。
上記によれば、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の熱可塑性ポリイミド樹脂がテトラカルボン酸成分と、ジアミン成分とにより調製されるので、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の周波数800MHz以上100GHz以下の範囲における比誘電率が3.5以下で、かつ誘電正接が0.006以下となり、比誘電率と誘電正接の値を従来よりも低くすることができる。したがって、大容量の高周波信号を高速で送受信可能な高周波回路基板を得ることができる。また、この高周波回路基板の使用により、第五世代移動通信システムの実現に大いに寄与することができる。
また、耐熱性に優れる相対結晶化度80%以上の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を基板材料に用いるので、優れたはんだ耐熱性を得ることができる。また、放熱特性に優れる熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を用いるので、損失が減少して熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の安定した長期使用が可能となり、高周波数帯を活用した高速通信の実現が非常に容易となる。さらに、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルムではなく、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2を用いるので、高周波回路基板を簡易に多層化することが可能となる。
次に、図3は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の表裏両面に接着用の薄いシード層4をスパッタリング法によりそれぞれ積層し、各シード層4に配線パターン用の金属層5をメッキ法により積層し、これらシード層4と金属層5とにより導電層3を形成するようにしている。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の両面に導電層3をそれぞれ形成するので、高周波回路基板の配線の高密度化や高周波回路基板の多層化が容易となるのは明らかである。
なお、上記実施形態では熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2にシード層4をスパッタリング法により積層形成したが、何らこれに限定されるものではなく、蒸着法やメッキ法により積層形成しても良い。また、高周波回路基板を、自動車の衝突防止ミリ波レーダ装置、先進運転支援システム(ADAS)、人工知能(AI)等に用いても良い。
以下、本発明に係る高周波回路基板及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、高周波回路基板の樹脂フィルム用の成形材料として、市販されている結晶性の熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂〔三菱瓦斯化学社製 製品名:サープリムTO−65〕を用意し、この熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機で12時間乾燥させた。この際、乾燥した成形材料の水分率が300ppm以下であるのを確認した。
こうして熱可塑性ポリイミド樹脂を乾燥させたら、この熱可塑性ポリイミド樹脂を幅900mmのTダイスを備えたφ40mm単軸押出成形機にセットして溶融混練し、この溶融混練した熱可塑性ポリイミド樹脂を単軸押出成形機のTダイスから連続的に押し出し、その後、150℃の冷却ロールである金属ロールで冷却することにより、厚さ25μmの高周波回路基板用の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを製造した。ここで、φ40mm単軸押出成形機の温度は340℃〜355℃、Tダイスの温度は355℃、単軸押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は355℃にそれぞれ調整した。
連結管には、ギアポンプを装着してその温度を355℃に調整した。また、単軸押出成形機に熱可塑性ポリイミド樹脂を投入する際には、窒素ガス18L/分を供給した。溶融した熱可塑性ポリイミド樹脂の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定することとし、測定したところ、353℃であった。
熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移点(Tg)、及び融点(融解温度ともいう)については、JIS K 7121に準拠して測定した。具体的には、熱可塑性ポリイミド樹脂から測定用試料を約5mgを秤量し、示差走査熱量計〔エスアイアイ・テクノロージーズ社製:高感度型示差走査熱量計 X−DSC7000〕を使用して昇温速度10℃/分、測定温度範囲20℃から380℃まで加熱し、測定した。その結果、ガラス転移点は172℃、融点は322℃であった。
熱可塑性ポリイミド樹脂の見掛けの剪断粘度については、熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃で12時間乾燥させた後、ツインキャピラリーレオメーターR6000〔IMATEK社製:製品名〕を使用して測定した。具体的には、先ず、キャピラリーダイ:φ1.0mm×16mm(ロングダイ)、φ1.0mm×0.25mm(ショートダイ)、バレル径:15mm、温度:350℃において、熱可塑性ポリイミド樹脂をバレル内に40g投入し、ロングダイ側:0.9MPa、ショートダイ側:0.3MPaになるまでピストンを50mm/minの速度で押し込み、圧力が所定値の圧力となったら、そのままの状態で6分間保持した。
その後、再び、ロングダイ側:0.9MPa、ショートダイ側:0.3MPaになるまでピストンを50mm/minの速度で押し込み、圧力が所定値の圧力となったら、所定の見掛けの剪断速度(10、20、30、50、80、100、200、300、800sec−1)を与えて測定し、見掛けの剪断断粘度を求めた。見掛けの剪断速度が100sec−1のときの熱可塑性ポリイミド樹脂の見掛けの剪断粘度は1320Pa・sであった。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを押出成形したら、この連続した熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取機の巻取管に順次巻き取り、長さ100m、幅650mmの熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを製造した。この際、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムは、シリコーンゴム製の一対の圧着ロール、150℃の冷却ロールである金属ロール、及びこれらの下流に位置する6インチの巻取管に順次巻架し、圧着ロールと金属ロールとに狭持させた。
高周波回路基板用の樹脂フィルムである熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムが得られたら、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの熱的特性、吸水率、機械的特性、誘電特性、及び耐熱性を評価し、その結果を表1に記載した。熱的特性は、ガラス転移点、融点(融解温度ともいう)、及び相対結晶化度で評価した。また、機械的特性は、引張最大強度、引張破断時伸び,及び引張弾性率で評価した。誘電特性は、比誘電率と誘電正接とにより評価した。耐熱性については、はんだ耐熱性により、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのカール、及びフィルムの変形により評価した。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのフィルム厚
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのフィルム厚は、マイクロメータ〔ミツトヨ社製 製品名:クーラントプルーフマイクロメータ 符号MDC−25PJ〕を使用して測定した。測定に際しては、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの幅方向(押出方向の直角方向)の任意の10箇所を測定し、その平均値をフィルム厚とした。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのガラス転移点(Tg)
高周波回路基板用の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのガラス転移点(Tg)については、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの損失弾性率(E”)を測定し、その測定値が極大になった温度をガラス転移点とした。
損失弾性率は、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの押出方向で測定した。具体的には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを押出方向60mm×幅方向(押出方向の直角方向)6mmの大きさに切り出し、粘弾性スペクトロメータ〔ティー・エス・インスルメント・ジャパン社製 製品名:RSA−G2〕を用いた引張モードにより、周波数1Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、チャック間21mmの条件で測定した。ここで、実施例1〜3は測定温度範囲−60℃〜360℃、比較例1は測定温度範囲−60℃〜330℃、比較例2は温度範囲−60℃〜440℃で測定した。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの融点
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの融点については、JIS K 7121に準拠して測定した。具体的には、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムから測定用試料を約5mg秤量し、示差走査熱量計〔エスアイアイ・テクノロージーズ社製:高感度型示差走査熱量計 X−DSC7000〕を使用して昇温速度10℃/分、測定温度範囲20℃から380℃まで加熱し、測定した。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの相対結晶化度
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの相対結晶化度については、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムから測定試料約5mgを秤量し、示差走査熱量計〔エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:EXSTAR7000シリーズ X−DSC7000〕を使用して昇温速度10℃/分、測定温度範囲20℃から380℃まで測定した。このときに得られる融解ピークの熱量(J/g)、再結晶化ピークの熱量(J/g)から以下の式を用いて算出した。
相対結晶化度(%)={1−(ΔHc/ΔHm)}×100
ここで、ΔHcは熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの10℃/分の昇温条件下での再結晶化ピークの熱量(J/g)を表し、ΔHmは熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの10℃/分の昇温条件下での融解ピークの熱量(J/g)を表す。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの吸水率
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの吸水率は、JIS K 7209 A法に準拠して測定した。測定する場合には、浸漬時間を24時間とし、3枚の試験片を使用し、測定値の平均値を吸水率とした。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの機械的特性
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの機械的特性は、23℃における引張最大強度、引張破断時伸び、及び引張弾性率で評価した。機械的特性は、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの押出方向と幅方向(押出方向の直角方向)について測定した。測定は、JIS K 7127に準拠し、引張速度50mm/分、温度23℃の条件で実施した。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの誘電特性〔周波数:1GHz〕
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの周波数:1GHzにおける誘電特性は、ネットワーク・アナライザー〔アジレント・テクノロジー社製 PNA−Lネットワークアナライザー N5230A〕を用い、空洞共振器摂動法により測定した。1GHzにおける誘電特性の測定は、空洞共振器を空洞共振器1GHz〔関東電子応用開発社製 型式:CP431〕に変更した以外は、ASTMD2520に準拠して実施した。誘電特性の測定は、温度:23℃±1℃、湿度50%RH±5%RH環境下で実施した。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの誘電特性〔周波数:10GHz〕
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの周波数:10GHzにおける誘電特性は、ネットワーク・アナライザー〔アジレント・テクノロジー社製 PNA−Lネットワークアナライザー〕を用い、空洞共振器摂動法により測定した。10GHzにおける誘電特性の測定は、ASTMD2520に準拠して実施した。空洞共振器は10GHz共振器〔キーコム社製〕、誘電特性の測定は、温度:23℃±1℃、湿度50%RH±5%RH環境下で実施した。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの誘電特性〔周波数:28GHz付近、76.5GHz付近〕
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの周波数:28GHz付近、76.5GHz付近の誘電特性は、ベクトルネットワークアナライザーを用い、開放型共振器法の一種であるファブリペロー法により測定した。共振器は、開放型共振器〔キーコム社製:ファブリペロー共振器 Model No.DPS03〕を使用した。
測定に際しては、開放型共振器冶具の試料台上に熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを載せ、ベクトルネットワークアナライザー用いて開放型共振器法の一種であるファブリペロー法で測定した。具体的には、試料台上に熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを載せない状態と、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを載せた状態の共振周波数の差を利用する共振法により、比誘電率と誘電正接とを測定した。誘電特性の測定に用いた具体的な周波数は表2に示す通りである。
誘電特性の測定、具体的には28GHz付近の誘電特性は、温度:26℃、湿度30%環境下、28GHz付近、及び76.5GHz付近の誘電特性は温度:24℃、湿度45%環境下で測定した。所定の測定装置としては、28GHz付近はベクトルネットワークアナライザE8361A〔アジレント・テクノロジー社製:製品名〕を用いた。76.5GHz付近では、ベクトルネットワークアナライザN5227A〔アジレント・テクノロジー社製:製品名〕を使用した。
・熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの耐熱性
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの耐熱性、すなわち、はんだ耐熱性は、JIS C 5016の試験法に準拠し、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを288℃のはんだ浴に10秒間浮かべ、室温まで冷却した後、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのカールの発生の有無、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの膨れやシワの発生による変形の有無を目視により観察した。
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのカール
○:カールが発生しなかった場合
×:カールが発生した場合
熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの変形
◎:熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムに膨れやシワの発生による変形が全く認められ
ない場合
○:熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムに膨れやシワの発生による変形が実用上認めら
れない場合
×:熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムに膨れやシワの発生による変形が認められた場
合
〔実施例2〕
基本的には実施例1と同様だが、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの厚さを25μmから50μmに変更した。高周波回路基板用の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを製造したら、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのフィルム厚、熱的特性、吸水率、機械的特性、誘電特性、及び耐熱性を実施例1と同様の方法により測定し、結果を表1に記載した。
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様だが、熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムの厚さを124μmに変更した。高周波回路基板用の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムが得られたら、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムのフィルム厚、熱的特性、吸水率、機械的特性、誘電特性、及び耐熱性を実施例1と同様の方法により測定し、結果を表1に記載した。
〔比較例1〕
先ず、高周波回路基板の樹脂フィルム用の成形材料として、市販されている非晶性のポリエーテルイミド樹脂〔SABICイノベーティプラスチック社製 製品名:ウルテム CRS5001‐1000〕を用意し、このポリエーテルイミド樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機で12時間乾燥させた。この際、乾燥した成形材料の水分率が300ppm以下であるのを確認した。
ポリエーテルイミド樹脂を乾燥させたら、このポリエーテルイミド樹脂を実施例1と同様の方法により、高周波回路基板用の帯形のポリエーテルイミド樹脂フィルムに製造した。成形材料をセットする際には、窒素ガス18L/分を供給した。また、φ40mm単軸押出成形機の温度は320℃〜340℃、Tダイスの温度は340℃、単軸押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は340℃にそれぞれ調整した。
連結管には、ギアポンプを装着してその温度を340℃に調整した。また、溶融したポリエーテルイミド樹脂の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定することとし、測定したところ、341℃であった。ポリエーテルイミド樹脂のガラス転移点、及び融点を実施例1と同様の方法で測定したところ、ガラス転移点は222℃であったが、融点を確認することはできなかった。また、ポリエーテルイミド樹脂の見掛けの剪断粘度を実施例1と同様の方法で測定した結果、350℃における見掛けの剪断粘度100sec−1のときのポリエーテルイミド樹脂の見掛けの剪断粘度は1490Pa・sであった。
ポリエーテルイミド樹脂フィルムを押出成形したら、この連続したポリエーテルイミド樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取機の巻取管に順次巻き取り、厚さ25μm、長さ100m、幅650mmのポリエーテルイミド樹脂フィルムを製造した。この際、ポリエーテルイミド樹脂フィルムは、シリコーンゴム製の一対の圧着ロール、150℃の冷却ロールである金属ロール、及びこれらの下流に位置する6インチの巻取管に順次巻架し、圧着ロールと金属ロールとに狭持させた。
ポリエーテルイミド樹脂フィルムが得られたら、このポリエーテルイミド樹脂フィルムの吸水率、機械的特性、誘電特性、及び耐熱性を評価し、その結果を表3に記載した。誘電特性は、比誘電率と誘電正接とにより評価した。また、機械的特性は、引張最大強度、引張破断時伸び,及び引張弾性率で評価した。耐熱性は、はんだ耐熱性により評価した。
〔比較例2〕
高周波回路基板用の樹脂フィルムとして、市販されているポリイミド樹脂フィルム〔東レ・デュポン社製、製品名:カプトン 100H〕を用意し、このポリイミド樹脂フィルムのフィルム厚、吸水率、機械的特性、誘電特性、及び耐熱性を実施例1と同様の方法により測定し、結果を表3に記載した。
〔結 果〕
実施例の相対結晶化度が80%以上の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムは、比較例と異なり、比誘電率が2.8以下であり、誘電正接が0.005以下であった。また、288℃のはんだ浴に10秒間浮かべても、変形やシワの発生が全く認められず、高周波回路基板用として使用可能な耐熱性を確認した。これらの測定結果から、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムが誘電特性に優れ、MHz帯域からGHz帯域の高周波帯域で用いられる高周波回路基板に最適であるのが判明した。