以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における高周波回路基板1は、図1や図2に示すように、薄い樹脂フィルム2と、この樹脂フィルム2に積層される導電層4とを積層構造に備えた第五世代移動通信システム(5G)用の回路基板であり、樹脂フィルム2が、熱可塑性ポリイミド樹脂と板状無機化合物を含有した成形材料3により成形されるとともに、この成形材料3の組成体積比率が熱可塑性ポリイミド樹脂70体積%以上99体積%以下、板状無機化合物1体積%以上30体積%以下とされる。
樹脂フィルム2は、少なくとも結晶性の熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂と、電気絶縁性等に優れる非膨潤性の板状無機化合物とを含有した成形材料3を用いた成形法により、2μm以上1000μm以下の厚さのフィルムに押出成形される。この成形材料3は、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を組成体積比率で70体積%以上99体積%以下、非膨潤性の板状無機化合物を組成体積比率で1体積%以上30体積%以下含有することにより、調製される。成形材料3には、本発明の特性を損なわない範囲で上記樹脂や無機化合物の他、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、無機化合物、有機化合物等が選択的に添加される。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸成分と、ジアミン成分との重合により得られる。この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のテトラカルボン酸成分としては、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸等の脂環族テトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ピロメリット酸等があげられる。また、これらのアルキルエステル体も使用することが可能である。
これらの中でも、テトラカルボン酸成分のうち、50モル%を越える成分がピロメリット酸であることが好ましい。これは、テトラカルボン酸成分がピロメリット酸を主成分とすれば、高周波回路基板1の耐熱性、二次加工性、及び低吸水性が向上するからである。係る観点から、テトラカルボン酸成分のうち、ピロメリット酸は、60モル%以上が好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上が良い。とりわけ、テトラカルボン酸成分の全て(100モル%)がピロメリット酸であるのが最適である。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のジアミン成分は、脂肪族ジアミン(脂環族ジアミンをも含む)を主成分とすることが重要である。すなわち、ジアミン成分のうち50モル%を越える成分が脂肪族ジアミンであることが重要であり、60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。とりわけ、ジアミン成分の全て(100モル%)が脂肪族ジアミンであるのが最適である。この主成分が脂肪族ジアミンであることにより、高周波回路基板1に優れた耐熱性、低吸水性、成形性、及び二次加工性を付与することができる。
ジアミン成分に含まれる脂肪族ジアミンとしては、炭化水素基の両末端にアミン基を有するジアミン成分であれば、特に限定されるものではないが、耐熱性を重視する場合には、環状炭化水素の両末端にアミン基を有する脂環族ジアミンを含むことが好ましい。脂環族ジアミンの具体例としては、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等があげられる。これらの中では、耐熱性と成形性、二次加工性を両立できるという観点から、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが最適である。
高周波回路基板1の成形性や二次加工性を重視する場合には、ジアミン成分に含まれる脂肪族ジアミンとして、直鎖状炭化水素の両末端にアミン基を有する直鎖状脂肪族ジアミンを含むことが好ましい。直鎖状脂肪族ジアミンとしては、アルキル基の両末端にアミン基を有するジアミン成分であれば特に制限はないが、具体例としては、エチレンジアミン(炭素数2)、プロピレンジアミン(炭素数3)、ブタンジアミン(炭素数4)、ペンタンジアミン(炭素数5)、ヘキサンジアミン(炭素数6)、ヘプタンジアミン(炭素数7)、オクタンジアミン(炭素数8)、ノナンジアミン(炭素数9)、デカンジアミン(炭素数10)、ウンデカンジアミン(炭素数11)、ドデカンジアミン(炭素数12)、トリデカンジアミン(炭素数13)、テトラデカンジアミン(炭素数14)、ペンタデカンジアミン(炭素数15)、ヘキサデカンジアミン(炭素数16)、ヘプタデカンジアミン(炭素数17)、オクタデカンジアミン(炭素数18)、ノナデカンジアミン(炭素数19)、エイコサン(炭素数20)、トリアコンタン(炭素数30)、テトラコンタン(炭素数40)、ペンタコンタン(炭素数50)等があげられる。
これらの中では、成形性や二次加工性、低吸湿性に優れるという観点から、炭素数4~12の直鎖状脂肪族ジアミンが最適である。これら直鎖状脂肪族ジアミンは、炭素数1~10の枝分かれ構造を有するものでも良い。
ジアミン成分に含まれる脂肪族ジアミン以外の成分としては、他のジアミン成分を含んでいても良い。具体的には、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)1,4’-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン成分、ポリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル等のエーテルジアミン成分、シロキサンジアミン類等が該当する。
ジアミン成分は、脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンのいずれか、又は両方を含んでも良いが、耐熱性と成形性のバランスに優れることから、脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンの両方を含むことが好ましい。脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンを両方含む場合、それぞれの含有量は、脂環族ジアミン:直鎖状脂肪族ジアミン=99:1~1:99モル%の範囲であることが好ましく、90:10~10:90モル%であることがより好ましく、80:20~20:80モル%であることがさらに好ましく、70:30~30:70モル%であることが特に好ましく、60:40~40:60モル%が最適である。ジアミン成分に含まれる脂環族ジアミンと直鎖状脂肪族ジアミンの割合が係る範囲であれば、高周波回路基板1の耐熱性と成形性のバランスを向上させることができる。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点(融解温度ともいう)は、280℃以上370℃以下であり、好ましくは300℃以上350℃以下、より好ましくは310℃以上330℃以下が良い。これは、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点が280℃未満の場合には、耐熱性を有する高周波回路基板1用の樹脂フィルム2を得ることができないからである。これに対し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点が370℃を越える場合には、高周波回路基板1の製造温度が400℃を越えてしまうため、高周波回路基板1の製造が困難となり、しかも、使用可能な溶融押出成形機10が制限されてしまう等の問題が生じるからである。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移点は、160℃以上240℃以下、好ましくは170℃以上210℃以下、より好ましくは170℃以上190℃以下が良い。これは、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移点が160℃未満の場合には、耐熱性を有する高周波回路基板1を得ることができないからである。これに対し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移点が240℃を越える場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点が370℃を越えるので、高周波回路基板1用の樹脂フィルム2の製造温度が400℃を越えて樹脂フィルム2の製造に支障を来したり、使用可能な溶融押出成形機10の制限を招くからである。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の見掛けの剪断粘度は、温度350℃における見掛けの剪断速度1×102sec-1の場合に、1×102Pa・s以上1×104Pa・s以下の範囲内、好ましくは5×102Pa・s以上5×103Pa・s以下の範囲内、より好ましくは7×102Pa・s以上1×103Pa・s以下の範囲内が良い。これは、温度350℃、見掛けの剪断速度1×102sec-1における結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の見掛けの剪断粘度が1×102Pa・s以上1×104Pa・s以下の範囲内であれば、良好な溶融押出成形が可能になるという理由に基づく。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、あるいは変性体も使用することができる。また、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の形状は、粉状、フレーク状、ペレット状、塊状等、いかなる形状でも良い。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂は特に限定されるものではないが、好ましくは特許第5365762号公報、特許第6024859号公報、特許第6037088号公報記載、あるいは特許第6394662号公報記載の熱可塑性を有するポリイミド樹脂、より好ましくは特許第6024859号公報、特許第6037088号公報記載、あるいは特許第6394662号公報に記載された熱可塑性のポリイミド樹脂が好適である。この熱可塑性ポリイミド樹脂の具体例としては、高強度、高耐熱性、高耐溶剤性、結晶性、フィルム成形性に優れるサープリムシリーズ〔三菱瓦斯化学社製:製品名〕があげられる。
非膨潤性の板状無機化合物は、寸法安定性等に優れる非膨潤性のタルク、マイカ(雲母ともいう)、窒化ホウ素、シリカあるいはガラス等が該当する。これら非膨潤性の板状無機化合物は、単独で使用しても良いし、2種類以上を混合して使用しても構わない。これらの中では、タルクあるいはマイカがコストあるいは新モース硬度が低く、溶融押出成形機10の摩耗を抑制できる点で好ましい。より好ましくは、電気絶縁性に優れるマイカが好適である。このマイカは、自然界で産出される天然マイカ(白雲母、黒雲母、金雲母等)と、タルクを主原料として人工的に製造される合成マイカの2種類に分類され、工業的に優れた電気絶縁材料として広く用いられている。
天然マイカは、その産地により組成や構造が異なり、加えて不純物を多く含むため、品質の安定した高周波回路基板1用の樹脂フィルム2の製造には不適切である。また、天然マイカは、水酸基〔OH基〕有しているため、耐熱性に問題がある。これに対し、合成マイカは、人工的に製造されたマイカで、組成や構造が一定であり、不純物も少ないため、加熱寸法安定性等に安定した高品質の樹脂フィルム2の製造に好適である。加えて、合成マイカは、水酸基が全てフッ素〔F基〕で置換されているので、天然マイカより耐熱性に優れる。したがって、マイカは、天然マイカより合成マイカが好ましい。
合成マイカは、水に対する挙動の違いにより、非膨潤性マイカと、膨潤性マイカとに分類される。非膨潤マイカは、水と接触しても寸法安定性等に変化を起こさないタイプの合成マイカである。これに対し、膨潤性マイカは、空気中の水分等を吸収して膨潤し、劈開してしまう性質の合成マイカである。膨潤性マイカを使用した場合、膨潤性マイカが水分を含むため、高周波回路基板1用の樹脂フィルム2が成形中に発泡してしまうおそれがある。このため、本発明で使用可能な合成マイカは、加熱寸法安定性や耐水性に優れる非膨潤性マイカが好ましく、より好ましくは600℃以上で熱処理を施された合成マイカが最適である。
非膨潤性の合成マイカとしては、特に限定されないが下記一般式で示される合成マイカが好適に使用される。
一般式:X1/3~1.0Y2~3(Z4O10)F1.5~2.0
ここで、Xは配位数12の層間をしめる陽イオン、Yは配位数6の八面体席をしめる陽イオン、Zは配位数4の四面体をしめる陽イオンであり、それぞれ以下の1種または2種以上のイオンで置換される〔X:Na+、K+、Li+、Rb+、Ca2+、Ba2+及びSr2+、Y:Mg2+、Fe2+、Ni2+、Mn2+、Co2+、Zn2+、Ti2+、Al3+、Cr3+、Fe3+、Li+、Z:Al3+、Fe3+、Si4+、Ge4+、B3+〕。
非膨潤性の合成マイカとしては、例えばフッ素金雲母(KMg3(AlSi3O10)F2)、フッ素四ケイ素雲母(カリウム四ケイ素雲母ともいう。KMg2.5(Si4O10)F2)、カリウムテニオライト(KMg2Li(Si4O10)F2)があげられる。これらの中では、非膨潤性のフッ素四ケイ素雲母、フッ素金雲母が最適である。この合成マイカの具体例としては、耐熱性に優れる高純度で微粉末の片倉アグリコープ社製のフッ素四ケイ素雲母〔製品名:ミクロマイカMKシリーズ〕、トピー工業社製のフッ素金雲母〔PDMシリーズ〕、トピー工業社製のカリウム四ケイ素雲母〔PDMシリーズ〕等があげられる。
合成マイカの製造方法としては、(1)溶融法、(2)固相反応法、(3)インターカレーション法等の方法があげられる。(1)の溶融法は、シリカ、酸化マグネシウム、アルミナ、フッ化物、長石、カラン岩、それに各種金属の酸化物や炭素塩等の原料を組み合わせて混合し、1300℃の以上の高温で溶融して徐冷する製造法である。(2)の固相反応法は、タルクを主原料とし、このタルクに、フッ化アルカリ、ケイフッ化アルカリ、さらに遷移金属を含む各種金属の酸化物や炭酸塩等を加えて混合し、1000℃前後で反応させる製造法である。(3)のインターカレーション法は、タルクを主原料とするインターカレーション法により製造する製造法である。
非膨潤性の板状無機化合物の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下、好ましくは0.5μm以下30μm以下、より好ましくは1μm以上20μm以下、さらに好ましくは3μm以上10μm以下が良い。これは、非膨潤性の板状無機化合物の平均粒子径が0.1μm未満の場合には、板状無機化合物が凝集しやすく、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂中における均一分散性が低下するという理由に基づく。
これに対し、非膨潤性の板状無機化合物の平均粒子径が50μmを越える場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と非膨潤性の板状無機化合物の混合物より得られる高周波回路基板1用の樹脂フィルム2の靱性が低下するという理由に基づく。また、非膨潤性の板状無機化合物が樹脂フィルム2の表面から突き出し、樹脂フィルム2の表面が粗れて伝送特性に支障を来すからである。
非膨潤性の板状無機化合物のアスペクト比は、3以上100以下が良い。ここで、アスペクト比は、合成マイカが鱗片状粉末の場合、粒子の径を厚みで割った値をいう。合成マイカの具体的なアスペクト比は、3以上100以下、好ましくは10以上90以下、より好ましくは20以上80以下、さらに好ましくは30以上50以下が良い。
これは、アスペクト比が3未満の場合には、加熱寸法安定性の改良効果が低く、しかも、樹脂フィルム2の押出方向と幅方向の機械的特性、及び加熱寸法安定性の異方性が大きくなり、不適切であるからである。これに対し、アスペクト比が100を越える場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と板状無機化合物の混合物より得られる樹脂フィルム2の靱性低下を招くからである。板状無機化合物のアスペクト比は、例えば動的画像解析法やレーザー回析散乱法等により求めることができる。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と非膨潤性の板状無機化合物の組成体積比率としては、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の組成体積比率が70体積%以上99体積%以下、非膨潤性の板状無機化合物の組成体積比率が1体積%以上30体積%以下であるが、好ましくは結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の組成体積比率が75体積%以上95体積%以下、非膨潤性の板状無機化合物の組成体積比率が5体積%以上25体積%以下、より好ましくは結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の組成体積比率が75体積%以上90体積%以下、非膨潤性の板状無機化合物の組成体積%が10体積%以上20体積%以下の範囲である。
これは、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の組成体積%が99体積%を越える場合には、高周波回路基板1用の樹脂フィルム2の加熱寸法安定性の調製効果が不十分となるからである。これに対し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の組成体積%が70体積%未満の場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と非膨潤性の板状無機化合物よりなる成形材料3の調製中、著しく発熱し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が熱分解するおそれがあるからである。また、この成形材料3より得られる樹脂フィルム2の靱性が失われて著しく脆くなり、樹脂フィルム2が成形中に損傷するおそれがあるからである。さらに、非膨潤性の板状無機化合物の組成体積比率が多くなるため、比誘電率や誘電正接が必要以上に著しく上昇してしまうという理由に基づく。
非膨潤性の板状無機化合物は、高周波回路基板1用の樹脂フィルム2の特性を損なわない範囲において、例えば、シランカップリング剤〔ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトシキシラン、N-2(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトシキシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、3‐トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等〕、シラン剤〔メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6-ビス(トリメトキシシリルシラン)ヘキサン、トリフルオロプロピルメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、イミダゾールシラン等〕、チタネート系カップリング剤〔イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジートリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシ-1-ブチル)ビス(ジートリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等〕、アルミネート系カップリング剤〔アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等〕等からなる各種カップリング剤で処理を施すことができる。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と非膨潤性の板状無機化合物とは、所定の時間溶融混練されて樹脂フィルム2用の成形材料3となるが、この成形材料3を調製する方法として、(1)結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と微粉末の非膨潤性の板状無機化合物とを撹拌混合することなく、溶融した結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂中に非膨潤性の板状無機化合物を添加し、これらを溶融混練して成形材料3を調製する方法、(2)結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と微粉末の非膨潤性の板状無機化合物とを室温(0℃以上50℃以下程度の温度)で撹拌混合させた後に溶融混練し、成形材料3を調製する方法があげられる。これら(1)、(2)の方法は、いずれでも良いが、分散性や作業性の観点からすると、(1)の方法が好ましい。
(1)の方法について具体的に説明すると、成形材料3を調製するには、先ず、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂をミキシングロール、加圧ニーダー、バンバリーミキサー単軸押出機、多軸押出機(二軸押出機、三軸押出機、四軸押出機等)等の溶融混練機で溶融し、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂に非膨潤性の板状無機化合物を添加して溶融混練分散させることにより、成形材料3を調製する。
溶融混練機の調製時の温度は、溶融混練分散が可能で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が分解しない温度であれば、特に制限されないが、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲である。具体的には、280℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上380℃以下、さらに好ましくは320℃以上360℃以下の範囲が良い。
これは、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点未満の場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が溶融しないので、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂含有の成形材料3を溶融押出成形することができず、逆に熱分解温度を越える場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が激しく分解するおそれがあるという理由に基づく。調製された成形材料3は、通常は塊状、ストランド状、シート状、棒状に押し出された後、粉砕機あるいは裁断機で塊状、顆粒状、ペレット状等の成形加工に適した形態で使用される。
次に(2)の方法について具体的に説明すると、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と非膨潤性の板状無機化合物とを攪拌混合して攪拌混合物を得るには、タンブラーミキサー、ヘンシルミキサー、V型混合機、ナウターミキサー、リボンブレンダー、あるいは万能攪拌ミキサー等を使用する。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の形状は、合成マイカとより均一に分散可能な粉体状であるのが好ましい。粉体に粉砕する方法としては、例えばせん断粉砕法、衝撃粉砕法、衝突粉砕法、冷凍粉砕法、溶液粉砕法等があげられる。
成形材料3は、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と非膨潤性の板状無機化合物の攪拌混合物をミキシングロール、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出機、多軸押出機(二軸押出機、三軸押出機、四軸押出機等)等の溶融混練機で溶融混練し、分散させることで調製される。
この調製時における溶融混練機の温度は、溶融混練分散が可能で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が分解しない温度であれば、特に制限はないが、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲である。具体的には、(1)の方法の場合と同様の理由から、280℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上380℃以下、より好ましくは320℃以上360℃以下の範囲が良い。調製された成形材料3は、通常は塊状、ストランド状、シート状、棒状に押し出された後、粉砕機あるいは裁断機で塊状、顆粒状、ペレット状等の成形加工に適した形態で使用される。
成形材料3は、溶融押出成形法、カレンダー成形法、あるいはキャスティング成形法等の各種成形法により樹脂フィルム2に成形される。これらの成形法の中では、ハンドリング性の向上や設備の簡略化の観点から、溶融押出成形法が最適である。この溶融押出成形法は、図2に示すように、単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなる溶融押出成形機10で成形材料3を溶融混練し、溶融押出成形機10のTダイス13から複数の冷却ロール16と一対の圧着ロール17方向に帯形の樹脂フィルム2を連続的に押出成形する方法である。
溶融押出成形機10は、図2に示すように、例えば単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなり、投入された成形材料3を溶融混練するように機能する。この溶融押出成形機10の上流側の上部後方には、成形材料3用の原料投入口11が設置され、この原料投入口11には、へリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスを必要に応じて供給する不活性ガス供給管12が接続されており、この不活性ガス供給管12による不活性ガスの流入により、成形材料3中の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の酸化劣化や酸素架橋が有効に防止される。
溶融押出成形機10の温度は、樹脂フィルム2の成形が可能で、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が分解しない温度であれば、特に制限されるものでないが、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲が良い。具体的には、280℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上380℃以下、より好ましくは320℃以上360℃以下に調整される。これは、溶融押出成形機10の温度が結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点未満の場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が溶融せずに樹脂フィルム2の成形が困難となり、逆に熱分解温度以上の場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が激しく分解するからである。
Tダイス13は、溶融押出成形機10の先端部に連結管14を介して装着され、帯形の樹脂フィルム2を連続的に下方に押し出すよう機能する。このTダイス13の押出時の温度は、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲である。具体的には、280℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上380℃以下、さらに好ましくは320℃以上360℃以下に調整される。これは、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の融点未満の場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂含有の成形材料3の溶融押出成形に支障を来し、逆に熱分解温度を越える場合には、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が激しく分解するおそれがあるという理由に基づく。
Tダイス13の上流の連結管14には、ギアポンプ15が装着されることが好ましい。このギアポンプ15は、溶融押出成形機10により溶融混練された成形材料3を一定の流量で、かつ高精度にTダイス13に移送する。
複数の冷却ロール16は、例えば圧着ロール17よりも拡径の回転可能な金属ロールからなり、Tダイス13の下方からその下流方向に一列に配列軸支されており、押し出された樹脂フィルム2を隣接する圧着ロール17や冷却ロール16との間に狭持し、圧着ロール17と共に樹脂フィルム2を冷却しながらその厚さを所定の範囲内に制御する。各冷却ロール16は、圧着ロール17と同様、50℃以上260℃以下、好ましくは100℃以上240℃以下、より好ましくは130℃以上220℃以上、さらに好ましくは150℃以上200℃以下の温度に調整され、樹脂フィルム2に摺接する。
冷却ロール16が50℃以上260℃以下の温度に調整されるのは、冷却ロール16の温度が260℃を越える場合には、製造中の高周波回路基板1用の樹脂フィルム2が冷却ロール16に密着して樹脂フィルム2の破断を招いたり、あるいはゴム層が被覆形成された圧着ロール17の場合、圧着ロール17のゴム層が熱分解するおそれがあるからである。これに対し、冷却ロール16の温度が50℃未満の場合には、冷却ロール16の結露を招き、好ましくないからである。冷却ロール16の温度調整や冷却方法は、空気、水、オイル等の熱媒体による方法、あるいは電気ヒーターや誘導加熱等があげられる。
一対の圧着ロール17は、溶融押出成形機10のTダイス13下方からその下流方向に一対が回転可能に軸支され、一列に並んだ複数の冷却ロール16を挟持し、冷却ロール16に樹脂フィルム2を圧接する。この一対の圧着ロール17は、下流側に位置する圧着ロール17のさらに下流に、樹脂フィルム2用の巻取機18が設置され、この巻取機18の巻取管19との間には、樹脂フィルム2の側部にスリットを形成するスリット刃20が少なくとも昇降可能に配置されており、このスリット刃20と巻取機18の巻取管19との間には、樹脂フィルム2にテンションを作用させて円滑に巻き取るためのテンションロール21が回転可能に必要数軸支される。
各圧着ロール17の周面には、樹脂フィルム2と冷却ロール16との密着性を向上させるため、少なくとも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム層が必要に応じて被覆形成され、このゴム層には、シリカやアルミナ等の無機化合物が選択的に添加される。これらの中では、耐熱性に優れるシリコーンゴムやフッ素ゴムの採用が好ましい。
各圧着ロール17は、表面が金属の金属弾性ロールが必要に応じて使用され、この金属弾性ロールが使用される場合には、表面が平滑性に優れる結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム2の成形が可能となる。この金属弾性ロールの具体例としては、金属スリーブロール、エアーロール〔ディムコ社製:製品名〕、UFロール〔日立造船社製:製品名〕等が該当する。
このような圧着ロール17は、50℃以上260℃以下、好ましくは100℃以上240℃以下、より好ましくは130℃以上220℃以上、さらに好ましくは150℃以上200℃以下の温度に調整され、熱可塑性ポリイミド樹脂製のフィルムに摺接してこれを冷却ロール16に圧接する。圧着ロール17の温度が係る範囲なのは、圧着ロール17の温度が260℃を越える場合には、製造中のフィルムが圧着ロール17に貼り付き、高周波回路基板1用の樹脂フィルム2が破断するか、あるいは圧着ロール17に被覆形成されたゴム層が熱分解するおそれがあるからである。
逆に、圧着ロール17の温度が50℃未満の場合には、圧着ロール17が結露するため、好ましくないという理由に基づく。圧着ロール17の温度調整や冷却方法としては、空気、水、オイル等の熱媒体による方法、あるいは電気ヒーターや誘電加熱ロール等があげられる。
上記構成において、高周波回路基板1用の樹脂フィルム2を製造する場合には図2に示すように、先ず、溶融押出成形機10の原料投入口11に、成形材料3を同図に矢印で示す不活性ガスを供給しながら投入し、溶融押出成形機10により成形材料3の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と板状無機化合物とを溶融混練し、Tダイス13から樹脂フィルム2を連続的に帯形に押し出す。
この際、成形材料3の溶融押出前における含水率は、2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm以上500ppm以下に調整される。これは、含水率が2000ppmを越える場合には、Tダイス13から押し出された直後、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂が発泡するおそれがあるからである。
樹脂フィルム2を押し出したら、複数の冷却ロール16、一対の圧着ロール17、テンションロール21、巻取機18の巻取管19に順次巻架し、樹脂フィルム2を冷却ロール16により冷却した後、樹脂フィルム2の両側部をスリット刃20でそれぞれカットするとともに、巻取機18の巻取管19に順次巻き取れば、高周波回路基板1用の樹脂フィルム2を製造することができる。この樹脂フィルム2製造の際、樹脂フィルム2の表面には、本発明の効果を失わない範囲で微細な凹凸を形成し、樹脂フィルム2表面の摩擦係数を低下させることができる。
樹脂フィルム2の厚さは、2μm以上1000μm以下であれば特に限定されるものではないが、高周波回路基板1の厚さの充分な確保、ハンドリング性や薄型化の観点からすると、好ましくは10μm以上800μm以下、より好ましくは20μm以上500μm以下、さらに好ましくは75μm以上250μm以下が良い。
樹脂フィルム2の周波数800MHz以上100GHz以下、好ましくは1GHz以上90GHz以下、より好ましくは10GHz以上85GHz以下、さらに好ましくは25GHz以上80GHz以下の範囲における比誘電率は、高周波数帯を活用した高速通信の実現の観点から、4.0以下、好ましくは3.7以下、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.3以下が良い。この比誘電率の下限は、特に制約されるものではないが、実用上1.5以上である。
具体的には、樹脂フィルム2の周波数1GHzにおける比誘電率が3.6以下、周波数10GHzにおける比誘電率が3.7以下、周波数28GHz付近における比誘電率が3.7以下、周波数76.5GHzにおける比誘電率が3.7以下が好ましい。これは、樹脂フィルム2の周波数800MHz以上100GHz以下の範囲における比誘電率が4.0を越えると、電気信号の伝搬速度が低下するため、高速通信に不適であるという問題が生じるからである。
樹脂フィルム2の周波数800MHz以上100GHz以下、好ましくは1GHz以上90GHz以下、より好ましくは10GHz以上85GHz以下、さらに好ましくは25GHz以上80GHz以下の範囲における誘電正接は、高周波数帯を活用した高速通信を実現するため、0.010以下、好ましくは0.008以下、より好ましくは0.007下、さらに好ましくは0.006以下が良い。この誘電正接の下限は、特に限定されるものではないが、実用上0.0001以上である。
具体的には、樹脂フィルム2の周波数1GHzにおける誘電正接が0.007以下、周波数10GHz付近における誘電正接が0.007以下が望ましい。また、周波数28GHz付近における誘電正接が0.007以下、周波数76.5GHzにおける比誘電率が0.008以下が良い。これらは、周波数800MHz以上100GHz以下の範囲における誘電正接が0.010を越える場合は、損失が大きく、信号伝達率が低下するため、大容量通信には不適切であるという理由に基づく。
これら比誘電率と誘電正接の測定方法としては、特に制約されるものではないが、同軸プローブ法、同軸Sパラメータ法、導波管Sパラメータ法、フリースペースSパラメータ法等の反射・伝送(Sパラメータ)法、ストリップライン(リング)共振器を用いた測定法、空洞共振器摂動法、スプリットポスト誘電体共振器を用いた測定法、円筒型(スプリットシリンダー)空洞共振器を用いた測定法、マルチ周波数平衡形円板共振器を用いた測定法、遮断円筒導波管空洞共振器を用いた測定法、ファブリペロー共振器を用いた開放型共振器法等の共振器法等の方法があげられる。
また、干渉計開放型を使用するファブリペロー法、空洞共振器摂動法により高周波数の比誘電率及び誘電正接を求める方法、相互誘導ブリッジ回路による3端子測定法等があげられる。これらの中では、高分解性に優れるファブリペロー法や空洞共振器摂動法の選択が最適である。
樹脂フィルム2の相対結晶化度は、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは100%が良い。これは、樹脂フィルム2の相対結晶化度が80%未満の場合には、樹脂フィルム2のはんだ耐熱性に問題が生じるからである。また、相対結晶化度が80%以上であれば、高周波回路基板1として使用可能な加熱寸法安定性の確保が期待できるからである。
樹脂フィルム2の結晶化度は、相対結晶化度により表すことができる。この樹脂フィルム2の相対結晶化度は、示差走査熱量計を用いて10℃/分の昇温速度で測定した熱分析結果に基づき、以下の式により算出される。
相対結晶化度(%)={1-(ΔHc/ΔHm)}×100
ΔHc:再結晶化ピークの熱量(J/g)
ΔHm:融解ピークの熱量(J/g)
樹脂フィルム2の加熱寸法安定性は、線膨張係数により表すことができる。この線膨張係数は、熱機械分析装置を用いた引張モードにより測定した場合に、樹脂フィルム2の押出方向と幅方向(押出方向と直角方向)共に1ppm/℃以上50ppm/℃以下、好ましくは3ppm/℃以上40ppm/℃以下、より好ましくは5ppm/℃以上35ppm/℃以下、さらに好ましくは10ppm/℃以上30ppm/℃以下が良い。
これは、線膨張係数が1ppm/℃以上50ppm/℃以下の範囲から逸脱すると、樹脂フィルム2と導電層4との積層時にカールや反りが生じやすくなり、しかも、樹脂フィルム2と導電層4とが剥離してしまうおそれがあるからである。また、高周波回路基板1上に電子部品を実装する際、実装前後で寸法変化が起こり、はんだにクラックが生じたり、接続不良が生じるおそれがあるからである。
樹脂フィルム2の機械的特性は、23℃における引張弾性率で評価することができる。樹脂フィルム2の23℃における引張弾性率は、2000N/mm2以上5000N/mm2以下、好ましくは2100N/mm2以上4000N/mm2以下、より好ましくは2300N/mm2以上3000N/mm2以下の範囲が最適である。これは、引張弾性率が2000N/mm2未満の場合には、樹脂フィルム2が剛性に劣るため、高周波回路基板1の製造中に樹脂フィルム2にシワが生じたり、樹脂フィルム2の変形を招くおそれがあるからである。逆に、5000N/mm2を越える場合には、樹脂フィルム2の成形に長時間を要し、コストの削減が期待できないという理由に基づく。
樹脂フィルム2の耐熱性は、高周波回路基板1の製造の便宜を考慮すると、はんだ耐熱性で評価されるのが望ましい。具体的には、JIS規格 C 5016の試験法に準拠し、樹脂フィルム2を288℃のはんだ浴に10秒間浮かべ、樹脂フィルム2に変形やシワの発生が認められた場合には、耐熱性に問題有と評価され、樹脂フィルム2に変形やシワの発生が認められない場合には、耐熱性に問題無と評価される。
次に、高周波回路基板1を製造する場合には、製造した樹脂フィルム2上に導電層4を形成し、その後、導電層4に導電回路の配線パターンを形成すれば、高周波回路基板1を製造することができる。導電層4は、樹脂フィルム2の表裏両面、表面、裏面のいずれかの面に形成され、後から導電回路の配線パターンが形成される。この導電層4に用いられる導電体としては、通常、例えば銅、金、銀、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、スズ等の金属、あるいはこれら金属からなる合金があげられる。
導電層4の形成方法としては、(1)樹脂フィルム2と金属箔5とを熱融着して導電層4を形成する方法、(2)樹脂フィルム2と金属箔5とを接着剤で接着することにより、導電層4を形成する方法、(3)樹脂フィルム2上にシード層を形成するとともに、このシード層上に金属層を積層形成し、これらシード層と金属層とから導電層4を形成する方法等があげられる。
(1)の方法は、樹脂フィルム2と金属層である金属箔5とをプレス成形機あるいはロール間に挟み、加熱・加圧して導電層4を形成する方法である。この方法の場合、金属箔5の厚さは、1μm以上100μm以下、好ましくは5μm以上80μm以下、より好ましくは10μm以上70μm以下の範囲内が良い。
樹脂フィルム2あるいは金属箔5の表面は、熱融着時の融着強度を向上させるため、微細な凹凸を形成することができる。また、樹脂フィルム2あるいは金属箔5の表面をコロナ照射処理、紫外線照射処理、プラズマ照射処理、フレーム照射処理、イトロ照射処理、酸化処理、ヘアライン加工、サンドマット加工等で表面処理しても良い。また、樹脂フィルム2あるいは金属箔5の表面をシランカップリング剤、シラン剤、チタンネート系カップリング剤、あるいはアルミネート系カップリング剤で処理することもできる。
(2)の方法は、樹脂フィルム2と金属箔5の間にエポキシ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、シロキサン変性ポリアミドイミド樹脂系接着剤等の接着剤を配置し、プレス成形機あるいはロール間に挟んだ後、加熱・加圧して金属箔5を樹脂フィルム2上に形成する方法である。この方法の場合、金属箔5の厚さは、1μm以上100μm以下、好ましくは5μm以上80μm以下、より好ましくは10μm以上70μm以下の範囲内が良い。
樹脂フィルム2あるいは金属箔5の表面は、上記同様、接着強度を向上させる観点から、微細な凹凸を形成することができる。また、樹脂フィルム2あるいは金属箔5の表面をコロナ照射処理、紫外線照射処理、プラズマ照射処理、フレーム照射処理、イトロ照射処理、酸化処理、ヘアライン加工、サンドマット加工等で表面処理を施しても構わない。また、樹脂フィルム2あるいは金属箔5の表面を上記同様、シランカップリング剤、シラン剤、チタンネート系カップリング剤、あるいはアルミネート系カップリング剤で処理することも可能である。
(3)の方法は、樹脂フィルム2上にスパッタリング法、蒸着法、あるいはめっき法等の方法により接着用のシード層を形成し、このシード層上に熱融着法や蒸着法、めっき法により金属箔5等の金属層を形成し、これらシード層と金属層とを導電層4に形成する方法である。シード層としては、例えば銅、金、銀、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、スズ、亜鉛等の金属、あるいはこれら金属からなる合金を使用することができる。シード層の厚さは、通常、0.1μm以上2μm以下の範囲である。
樹脂フィルム2上にシード層を形成する際、これらの接着強度を改良する目的でアンカー層を形成することが可能である。このアンカー層は、ニッケルあるいはクロム等の金属があげられるが、好ましくは環境性に優れるニッケルが最適である。
金属層としては、例えば銅、金、銀、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、スズ、亜鉛等の金属あるいはこれら金属からなる合金を使用することができる。この金属層は、1種類の金属からなる単層でも良いし、2種類以上の金属からなる複層や多層でも良い。金属層の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1μm以上50μm以下、好ましくは1μm以上30μm以下が良い。
シード層と金属層からなる導電層4は、0.2μm以上50μm以下、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは5μm以上20μm以下、さらに好ましくは5μm以上10μm以下の範囲内が良い。シード層と金属層は、同じ金属でも良いし、異なる金属でも良い。また、金属層の表面上には、表面の腐食を防止するため、金やニッケル等の金属保護層を被覆形成しても良い。
これらの導電層4の形成方法の中では、樹脂フィルム2と金属箔5とを熱融着する(1)の方法が最適である。これは、(2)の方法の場合には、樹脂フィルム2と金属箔5とを接着剤で接着する必要があるので、接着剤の誘電特性が反映され、高周波回路基板1の比誘電率や誘電正接が上昇してしまうという事態が生じるからである。また、(3)の方法の場合には、導電層4の形成工程が煩雑となり、コスト高を招くという理由に基づく。
導電回路の配線パターンは、エッチング法、めっき法、あるいは印刷法等により必要数形成することができる。この配線パターンの形成方法には、アンダーカットや配線細りの発生を最小限に止め、良好な配線形成を可能とする硫酸‐過酸化水素系、塩化鉄のエッチング剤等の使用が可能である。このような所定形状の配線パターンを形成すれば、低誘電性に優れ、信号の損失を抑制することのできる高周波回路基板1を製造することができる。
上記によれば、樹脂フィルム2を、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の他、非膨潤性の板状無機化合物含有の成形材料3により成形するので、線膨張係数を低下させることができる。したがって、樹脂フィルム2の加熱寸法安定性を向上させ、金属箔5等からなる導電層4との加熱寸法特性の相違を抑制することができ、導電層4を積層して高周波回路基板1を製造する場合に、高周波回路基板1がカールしたり、変形するのを防止することができる。
また、樹脂フィルム2を、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂含有の成形材料3により成形するので、樹脂フィルム2の周波数800MHz以上100GHz以下の範囲における比誘電率が3.5以下で、かつ誘電正接が0.007以下となり、比誘電率と誘電正接の値を従来よりも低くすることができる。したがって、大容量の高周波信号を高速で送受信可能な高周波回路基板1を得ることが可能となる。また、この高周波回路基板1の使用により、第五世代移動通信システムの実現に大いに寄与することが可能となる。
また、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の使用により、損失が減少し、しかも、高周波回路基板1用の樹脂フィルム2の長期使用が可能となり、高周波数帯を活用した高速通信の実現が非常に容易となる。また、単なるポリイミド樹脂ではなく、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を用いるので、高周波回路基板1を簡易に多層化することが可能となる。また、耐熱性に優れる相対結晶化度80%以上の樹脂フィルム2を基板材料に用いるので、優れたはんだ耐熱性を得ることができる。さらに、金属箔5等の金属層をそのまま導電層4とすれば、製造コストの削減が大いに期待できる。
次に、図3は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、樹脂フィルム2の表裏両面に配線パターン用の金属箔5を熱融着法によりそれぞれ積層し、この一対の金属箔5により導電層4を形成するようにしている。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、樹脂フィルム2の両面に導電層4をそれぞれ形成するので、高周波回路基板1の配線の高密度化や高周波回路基板1の多層化が容易となるのは明らかである。
なお、上記実施形態では非膨潤性の板状無機化合物を1種類単独で使用したが、2種以上を併用しても良い。また、一枚の樹脂フィルム2に導電層4を積層したが、何らこれに限定されるものではなく、積層構造の複数枚の樹脂フィルム2に導電層4を新たに積層しても良い。また、樹脂フィルム2の表面に金属箔5を熱融着法により積層し、導電層4を積層形成したが、何らこれに限定されるものではなく、蒸着法やめっき法により積層形成しても良い。さらに、高周波回路基板1を、自動車の衝突防止ミリ波レーダ装置、先進運転支援システム(ADAS)、人工知能(AI)等に用いることもできる。
以下、本発明に係る高周波回路基板及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、高周波回路基板用の樹脂フィルムを製造するため、市販されている結晶性の熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂〔三菱瓦斯化学社製 製品名:サープリムTO-65〕を用意し、この熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿熱風乾燥器で12時間以上乾燥させた。
こうして熱可塑性ポリイミド樹脂を乾燥させたら、この熱可塑性ポリイミド樹脂を、同方向回転二軸押出機〔φ25mm、L/D=41、パーカーコーポレーション社製 製品名:HK25D〕のスクリュー根元付近に設けられた第一供給口であるホッパーに投入した。また、非膨潤性の板状無機化合物として、合成マイカを使用した。合成マイカは、同方向回転二軸押出機の大気圧に開放されたベント口のすぐ隣のサイドフィーダーの第二供給口より強制圧入した。この合成マイカについては、フッ素四珪素雲母〔片倉コープアグリ社製、製品名:ミクロマイカ MK-300、平均粒子径:12.2μm〕を採用した。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を投入し、非膨潤性の合成マイカを圧入したら、これらを同方向回転二軸押出機のバレルの温度:200℃~350℃、スクリューの回転数:150rpm、時間当たりの吐出量:5.8kg/hrの条件下で溶融混練し、ストランド状に押出した。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂の溶融状態は、同方向回転二軸押出機のベント口から目視により観察した。この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と合成マイカとは、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と合成マイカが組成体積比率で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂89.3体積%、合成マイカ10.7体積%となるように添加した。同方向回転二軸押出機よりストランド状の押出成形物を押し出したら、この押出成形物を空冷固化した後、ペレット状にカッティングして成形材料を作製した。
次いで、得られた成形材料を幅150mmのTダイス付きの単軸押出機に投入して溶融混練し、この溶融混練した成形材料をTダイスから連続的に押し出して高周波回路基板用の樹脂フィルムを厚さ50μmの帯形に押出成形した。単軸押出成形機は、φ20mm、スクリュー:フルフライトスクリュー(L/D=25、圧縮比:2.5)タイプとした。また、単軸押出成形機の温度は340~350℃、Tダイスの温度350℃、単軸押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度はそれぞれ350℃に調整した。溶融した成形材料の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定することとし、測定したところ353℃であった。
こうして高周波回路基板用の樹脂フィルムを押出成形したら、この高周波回路基板用の樹脂フィルムを、図2に示すようなシリコーンゴム製の一対の圧着ロール、150℃の冷却ロールである複数の金属ロール、及びこれらの下流に位置する巻取機の3インチの巻取管に順次巻架するとともに、圧着ロールと金属ロールとに挟持させ、連続した樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取管に順次巻き取ることにより、長さ10m、幅130mmの高周波回路基板用の樹脂フィルムを製造した。
高周波回路基板用の樹脂フィルムを製造したら、この樹脂フィルムのフィルム厚、相対結晶化度、機械的特性、誘電特性、加熱寸法安定性、及び耐熱性を評価し、その結果を表1に記載した。機械的特性は引張弾性率で評価し、誘電特性は比誘電率と誘電正接とにより評価した。また、加熱寸法安定性は線膨張係数により評価した。耐熱性については、はんだ耐熱性により、高周波回路基板用の樹脂フィルムのカール、及びフィルムの変形で評価した。
・高周波回路基板用の樹脂フィルムのフィルム厚
高周波回路基板用の樹脂フィルムのフィルム厚さについては、マイクロメータ〔ミツトヨ社製 製品名:クーラントプルーフマイクロメータ 符号MDC-25PJ〕を使用して測定した。測定に際しては、樹脂フィルムの幅方向(押出方向の直角方向)の任意の5箇所を測定し、その平均値をフィルム厚とした。
・高周波回路基板用の樹脂フィルムの相対結晶化度
高周波回路基板用の樹脂フィルムの相対結晶化度については、樹脂フィルムから測定試料約5mgを秤量し、示差走査熱量計〔エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:EXSTAR7000シリーズ X-DSC7000〕を使用して昇温速度10℃/分、測定温度範囲20℃から380℃まで測定した。このときに得られる融解ピークの熱量(J/g)、再結晶化ピークの熱量(J/g)から以下の式を用いて算出した。
相対結晶化度(%)={1-(ΔHc/ΔHm)}×100
ここで、ΔHcは樹脂フィルムの10℃/分の昇温条件下での再結晶化ピークの熱量(J/g)を表し、ΔHmは樹脂フィルムの10℃/分の昇温条件下での融解ピークの熱量(J/g)を表す。
・高周波回路基板用の樹脂フィルムの機械的性質
高周波回路基板用の樹脂フィルムの機械的性質は、23℃における引張弾性率で評価した。機械的性質は、押出方向と幅方向(押出方向の直角方向)について測定した。測定は、JIS K 7127に準拠し、引張速度50mm/分、温度23℃±2℃、相対湿度50RH±5%RHの条件で測定した。また、引張弾性率については、5回測定してその平均値を引張弾性率とした。
・高周波回路基板用の樹脂フィルムの誘電特性〔周波数:1GHz、10GHz〕
高周波回路基板用の樹脂フィルムの周波数:1GHz、10GHzにおける誘電特性は、ベクトル・ネットワーク・アナライザー〔アンリツ社製 MS46122B+040+002〕を用い、空洞共振器摂動法により測定した。1GHzにおける誘電特性の測定は、空洞共振器を空洞共振器1GHz〔キーコム社製 型式;1GHz近辺用〕、空洞共振器10GHz〔キーコム社製 型式;10GHz近辺用〕に変更した以外は、ASTMD2520に準拠して実施した。誘電特性の測定は、温度:23℃±1℃、湿度50%RH±5%RH環境下で実施した。
・高周波回路基板用の樹脂フィルムの誘電特性〔周波数:28GHz、76.5GHz〕
高周波回路基板用の樹脂フィルムの周波数:28GHz、76.5GHzの誘電特性は、ベクトル・ネットワーク・アナライザーを用い、開放型共振器法の一種であるファブリペロー法により測定した。共振器は、開放型共振器〔キーコム社製:ファブリペロー共振器〕を使用した。
測定に際しては、開放型共振器冶具の試料台上に高周波回路基板用の樹脂フィルムを載せ、ベクトル・ネットワーク・アナライザー用いて開放型共振器法の一種であるファブリペロー法で測定した。具体的には、試料台の上に樹脂フィルムを載せない状態と、樹脂フィルムを載せた状態の共振周波数の差を利用する共振法により、比誘電率と誘電正接とを測定した。
誘電特性の測定、具体的には28GHzの誘電特性は、温度:25℃、湿度45%環境下で所定の測定装置により測定した。所定の測定装置としては、28GHzはベクトル・ネットワーク・アナライザーE8361A〔アジレント・テクノロジー社製:製品名〕を使用した。76.5GHz付近では、ベクトル・ネットワーク・アナライザーN5227A〔アジレント・テクノロジー社製:製品名〕を用いた。
・高周波回路基板用の樹脂フィルムの線膨張係数
高周波回路基板用の樹脂フィルムの線膨張係数は、樹脂フィルムの押出方向と幅方向(押出方向の直角方向)について測定した。具体的には、樹脂フィルムの押出方向の線膨張係数を測定する場合には、押出方向20mm×幅方向4mm、幅方向の線膨張係数を測定する場合には、押出方向4mm×幅方向20mmの大きさに切り出して測定した。線膨張係数の測定に際しては、熱機械分析装置〔日立ハイテクサイエンス社製 製品名:SII//SS7100〕を用いた引張モードにより、荷重:50mN、昇温速度:5℃/min.の割合で25℃から250℃まで昇温速度:5℃/minの割合で昇温し、寸法の温度変化を測定し、25℃から125℃までの範囲の傾きにより線膨張係数を求めた。
・高周波回路基板用の樹脂フィルムのはんだ耐熱性
高周波回路基板用の樹脂フィルムのはんだ耐熱性は、JIS C 5016の試験法に準拠し、樹脂フィルムを288℃のはんだ浴に10秒間浮かべ、室温まで冷却した後、樹脂フィルムの変形やシワの発生の有無を目視により観察した。
○:樹脂フィルムに変形やシワの発生が認められない場合
×:樹脂フィルムに変形やシワの発生が認められた場合
〔実施例2〕
先ず、高周波回路基板用の樹脂フィルムを製造するため、結晶性の熱可塑性ポリイミドとして、実施例1で使用した市販の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を用意し、この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿熱風乾燥器で12時間以上乾燥させた。また、非膨潤性の板状無機化合物として、合成マイカを使用した。この合成マイカについては、市販のフッ素四ケイ素雲母〔片倉コーブアグリ社製、製品名:ミクロマイカMK-100、平均粒子径:4.8μm〕を使用した。
次いで、結晶性の熱可塑性ポリイミドと合成マイカとを実施例1と同様の方法により、高周波回路基板用の樹脂フィルムの成形材料に調製した。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と合成マイカとは、組成体積比率で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂82.1体積%、合成マイカ17.9体積%となるように添加した。成形材料を調製したら、この成形材料を使用して実施例1と同様の方法により、高周波回路基板用の樹脂フィルムを厚さ25μmの帯形に押出成形した。樹脂フィルムを押出成形したら、この樹脂フィルムの厚さ、相対結晶化度、機械的性質、誘電特性、加熱寸法安定性及び耐熱性をそれぞれ実施例1と同様の方法により評価し、表1にまとめた。
〔実施例3〕
先ず、高周波回路基板用の樹脂フィルムを製造するため、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、実施例1で使用した市販の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を用意し、この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿熱風乾燥器で12時間以上乾燥させた。非膨潤性の板状無機化合物としては、市販の合成マイカを使用した。この合成マイカについては、実施例2と同じフッ素四ケイ素雲母〔片倉コーブアグリ社製、製品名:ミクロマイカ MK-100、平均粒子径:4.8μm〕を使用した。
次いで、結晶性の熱可塑性ポリイミドと合成マイカとを実施例1と同様の方法により、高周波回路基板用の樹脂フィルムの成形材料に調製した。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と合成マイカとは、組成体積比率で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂82.1体積%、合成マイカ17.9体積%となるように添加した。成形材料を調製したら、この成形材料を使用して実施例1と同様の方法により、高周波回路基板用の樹脂フィルムを厚さ100μmの帯形に押出成形した。樹脂フィルムを押出成形したら、樹脂フィルムの厚さ、相対結晶化度、機械的性質、誘電特性、加熱寸法安定性、及び耐熱性をそれぞれ実施例1と同様の方法で評価し、表1にまとめた。
〔実施例4〕
高周波回路基板用の樹脂フィルムを製造するため、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、市販の実施例1で使用した市販の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を用意し、この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿熱風乾燥器で12時間以上乾燥させた。非膨潤性の板状無機化合物としては、合成マイカを採用した。この合成マイカについては、市販のフッ素四ケイ素雲母〔片倉コーブアグリ社製、製品名:ミクロマイカMK-100DS、平均粒子径:2.9μm〕を用いた。
次いで、結晶性の熱可塑性ポリイミドと合成マイカとを実施例1と同様の方法により、高周波回路基板用の樹脂フィルムの成形材料に調製した。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と合成マイカとは、組成体積比率で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂74.9体積%、合成マイカ25.1体積%となるように添加した。成形材料を調製したら、この成形材料を使用して実施例1と同様の方法で高周波回路基板用の樹脂フィルムを厚さ75μmの帯形に押出成形した。樹脂フィルムを押出成形したら、この樹脂フィルムの厚さ、相対結晶化度、機械的性質、誘電特性、加熱寸法安定性、及び耐熱性をそれぞれ実施例1と同様の方法で評価し、表1にまとめた。
〔実施例5〕
高周波回路基板用の樹脂フィルムを製造するため、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、市販の実施例1で使用した市販の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を用意し、この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿熱風乾燥器で12時間以上乾燥させた。非膨潤性の板状無機化合物としては、市販のタルクを採用した。このタルクについては、ミクロエースP-8〔製品名、日本タルク社製、平均粒子径:3.3μm〕を使用した。
次いで、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂とタルクとを実施例1と同様の方法で高周波回路基板用の樹脂フィルムの成形材料に製造した。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂とタルクとは、組成体積比率で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂82.1体積%、タルク17.9体積%となるように添加した。成形材料を調製後、この成形材料を使用して実施例1と同様の方法で高周波回路基板用の樹脂フィルムを厚さ50μmの帯形に押出成形した。樹脂フィルムを押出成形したら、この樹脂フィルムの厚さ、相対結晶化度、機械的性質、誘電特性、加熱寸法安定性、及び耐熱性をそれぞれ実施例1と同様の方法で評価して表2にまとめた。
〔実施例6〕
高周波回路基板用の樹脂フィルムを製造するため、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂として、市販の実施例1で用いた市販の結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を用意し、この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿熱風乾燥器で12時間以上乾燥させた。非膨潤性の板状無機化合物としては、市販の窒化ホウ素を採用した。この窒化ホウ素については、デンカBN SP-2〔製品名、デンカ社製、平均粒子径:4.0μm〕を使用した
次いで、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と窒化ホウ素とを実施例1と同様の方法で高周波回路基板用の樹脂フィルムの成形材料に製造した。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と窒化ホウ素は、組成体積比率で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂83.3体積%、窒化ホウ素16.7体積%となるように添加した。成形材料を調製後、この成形材料を使用して実施例1と同様の方法で高周波回路基板用の樹脂フィルムを厚さ55μmの帯形に押出成形した。樹脂フィルムを押出成形したら、この樹脂フィルムの厚さ、相対結晶化度、機械的性質、誘電特性、加熱寸法安定性、及び耐熱性をそれぞれ実施例1と同様の方法により評価して表2にまとめた。
〔比較例1〕
実施例1で使用した結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂のみを用意し、この結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機で12時間以上乾燥させた。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を乾燥させたら、この熱可塑性ポリイミド樹脂を実施例1で使用した幅150mmのTダイスを備えたφ20mm押出成形機にセットして溶融混練し、この溶融混練した熱可塑性ポリイミド樹脂を単軸押出成形機のTダイスから連続的に押し出し、高周波回路基板用の樹脂フィルムを厚さ50μmの帯形に押出成形した。φ20mm単軸押出成形機の温度は340℃~350℃(確認)、Tダイスの温度は350℃とした。
こうして結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを押出成形したら、この熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムを、図1に示すようなシリコーンゴム製の一対の圧着ロール、150℃の冷却ロールである金属ロール、及びこれらの下流に位置する巻取機の3インチの巻取管に順次巻架するとともに、圧着ロールと金属ロールとに挟持させ、連続した高周波回路基板用樹脂フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取管に順次巻き取ることにより、長さ10m、幅130mmの高周波回路基板用樹脂フィルムを製造した。
高周波回路基板用樹脂フィルムを製造したら、この高周波基板用樹脂フィルムのフィルム厚、相対結晶化度、機械的性質、誘電特性、加熱寸法安定性及び耐熱性を実施例1と同様の方法により評価して表3に記載した。
〔比較例2〕
実施例1で使用した結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を用意し、この熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機で12時間以上乾燥させた。こうして熱可塑性ポリイミド樹脂を12時間以上乾燥させた。また、非膨潤性の板状無機化合物として、合成マイカを用意した。この合成マイカについては、実施例2で使用したフッ素四ケイ素雲母〔片倉コープアグリ社製、製品名:ミクロマイカ MK-100平均粒子径:4.8μm〕を使用した。
次いで、結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と合成マイカとを実施例1と同様の方法で高周波回路基板用の樹脂フィルムの成形材料に製造した。結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と合成マイカとは、組成体積比率で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂67.4体積%、合成マイカ32.6体積%となるように添加した。
成形材料を調製したら、この成形材料を使用して実施例1と同様の方法で高周波回路基板用の樹脂フィルムを押出成形を試みた。しかしながら、押出成形した樹脂フィルムを3インチの巻取管に巻き取る際、樹脂フィルムが割れてしまい、樹脂フィルムを得ることができなかった。樹脂フィルムを得ることができなかったので、樹脂フィルムの厚さ、相対結晶化度、機械的性質、誘電特性、加熱寸法安定性、及び耐熱性を測定しなかった。
〔比較例3〕
実施例1で使用した結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を用意し、この熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機で12時間以上乾燥させた。この熱可塑性ポリイミド樹脂を12時間以上乾燥させたら、この熱可塑性ポリイミド樹脂と形状が真球状の非晶質シリカ〔アドマテックス社製、製品名:SC5500-SQ、平均粒子径:1.4μm〕とを、実施例1と同様の方法により、高周波回路基板用の樹脂フィルムの成形材料に調製した。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と非晶質シリカとについては、組成体積比率で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂81.2体積%、合成マイカ18.8体積%となるように添加した。
成形材料を調製したら、この成形材料を使用して実施例1と同様の方法により、高周波回路基板用の樹脂フィルムを厚さ75μmの帯形に押出成形した。樹脂フィルムが得られたら、この樹脂フィルムの厚さ、相対結晶化度、機械的性質、誘電特性、加熱寸法安定性、及び耐熱性をそれぞれ実施例と同様の方法により評価し、表3に記載した。
〔比較例4〕
実施例1で使用した結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂を用意し、この熱可塑性ポリイミド樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機で12時間以上乾燥させた。こうして熱可塑性ポリイミド樹脂を12時間以上乾燥させたら、この熱可塑性ポリイミド樹脂と形状が不定形の炭酸カルシウム〔東洋ファインケミカル社製、製品名:ホワイトンP-10、平均粒子径:2.5μm〕とを実施例1と同様の方法により、高周波回路基板用の樹脂フィルムの成形材料に調製した。
結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂と炭酸カルシウムとは、組成体積比率で結晶性の熱可塑性ポリイミド樹脂81.9体積%、合成マイカ18.1体積%となるように添加した。
次いで、成形材料を使用して実施例1と同様の方法により、高周回路基板用の樹脂フィルムを押出成形した。樹脂フィルムを押出成形したら、この樹脂フィルムの厚さ、相対結晶化度、機械的性質、加熱寸法安定性、誘電特性、耐熱性をそれぞれ実施例1と同様の方法により評価し、表3にまとめた。
〔結 果〕
各実施例の場合、高周波回路基板用の樹脂フィルムは、比誘電率が3.5以下であり、誘電正接が0.006以下であった。また、機械的特性は、引張弾性率が2000N/mm2以上で高い剛性を有しているため、高周波回路基板の組み立て時のハンドリング性に優れていた。加熱寸法安定性は、線膨張係数が50ppm/℃以下となり、従来よりも優れた結果を得た。さらに、樹脂フィルムの耐熱性に関し、288℃のはんだ浴に10秒間浮かべても、全く変形やシワの発生が認められず、高周波回路基板として使用可能な耐熱性を有していた。
これに対して、比較例1の場合、成形材料に板状無機化合物を添加しなかったので、高周波回路基板用の樹脂フィルムの線膨張係数が68ppm/℃以上となり、十分な結果を得ることができなかった。また、比較例2の場合、合成マイカを32.6体積%添加したので、樹脂フィルムに靱性が無く、巻取機の巻取管に巻き取る際、樹脂フィルムが割れてしまった。
比較例3の場合、成形材料の無機化合物に形状が真球状の非晶質シリカを使用したので、樹脂フィルムの線膨張係数が60ppm/℃以上となり、十分な加熱寸法安定性を得ることができなかった。さらに、比較例4の場合、成形材料の無機化合物に形状が不定形の炭酸カルシウムを使用したので、比較例3と同様、樹脂フィルムの線膨張係数が60ppm/℃以上となり、加熱寸法安定性が不十分な結果となった。
これらの測定結果から、各実施例の樹脂フィルムは、誘電特性と加熱寸法安定性に優れ、MHz帯域からGHz帯域の高周波帯域で用いられる高周波回路基板に最適であるのが判明した。