JP2020169366A - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
化学組成が、質量%で、
C:0.020〜0.100%、
Si:3.00〜4.00%、
Mn:0.010〜0.300%、
S及び/又はSe:合計で0.010〜0.050%、
sol.Al:0.020〜0.028%、
N:0.002〜0.015%、
Sn:0〜0.500%、
Cr:0〜0.500%、
Cu:0〜0.500%、
Bi:0〜0.0100%、及び、
残部がFe及び不純物からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の前記鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する冷間圧延工程と、
1又は複数回の前記冷間圧延のうち、最終の前記冷間圧延前の前記鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程と、
前記冷間圧延工程後の前記鋼板を800〜950℃の脱炭焼鈍温度まで加熱し、前記脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持する脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程とを備え、
前記熱間圧延工程は、
前記スラブに対して、粗圧延を実施して、粗バーを製造する粗圧延工程と、
前記粗バーに対して仕上げ圧延を実施して、前記鋼板を製造する仕上げ圧延工程とを含み、
前記粗圧延工程では、
前記スラブに対して複数回の圧下を実施し、
前記粗圧延工程での累積圧下率を75%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下での圧下率を50%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下直後の前記粗バーの温度を1350℃以上とし、
前記粗圧延工程での前記スラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、前記仕上げ圧延工程での前記粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間を150秒以下とし、
前記脱炭焼鈍工程では、
前記鋼板の温度が550℃から800℃になるまでの間、800℃/秒以上の平均昇温速度で前記鋼板を加熱する。
(条件A)粗圧延工程での累積圧下率TR:75%未満
(条件B)粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1:50%未満
(条件C)粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度T1:1350℃以上
(条件D)粗圧延工程でのスラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、仕上げ圧延工程での粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間t1:150秒以下
(条件E)平均昇温速度RR550-800:800℃/秒以上
(条件A)粗圧延工程での累積圧下率:75%未満
(条件B)粗圧延工程の最終の圧下での圧下率:50%未満
(条件C)粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度:1350℃以上
(条件D)粗圧延工程でのスラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、仕上げ圧延工程での粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間t1:150秒以下
(条件E)平均昇温速度RR550-800:800℃/秒以上
化学組成が、質量%で、
C:0.020〜0.100%、
Si:3.00〜4.00%、
Mn:0.010〜0.300%、
S及び/又はSe:合計で0.010〜0.050%、
sol.Al:0.020〜0.028%、
N:0.002〜0.015%、
Sn:0〜0.500%、
Cr:0〜0.500%、
Cu:0〜0.500%、
Bi:0〜0.0100%、及び、
残部がFe及び不純物からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の前記鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する冷間圧延工程と、
1又は複数回の前記冷間圧延のうち、最終の前記冷間圧延前の前記鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程と、
前記冷間圧延工程後の前記鋼板を800〜950℃の脱炭焼鈍温度まで加熱し、前記脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持する脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程とを備え、
前記熱間圧延工程は、
前記スラブに対して、粗圧延を実施して、粗バーを製造する粗圧延工程と、
前記粗バーに対して仕上げ圧延を実施して、前記鋼板を製造する仕上げ圧延工程とを含み、
前記粗圧延工程では、
前記スラブに対して複数回の圧下を実施し、
前記粗圧延工程での累積圧下率を75%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下での圧下率を50%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下直後の前記粗バーの温度を1350℃以上とし、
前記粗圧延工程での前記スラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、前記仕上げ圧延工程での前記粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間を150秒以下とし、
前記脱炭焼鈍工程では、
前記鋼板の温度が550℃から800℃になるまでの間、800℃/秒以上の平均昇温速度で前記鋼板を加熱する。
前記スラブの前記化学組成は、
Sn:0.010〜0.500%、
Cr:0.010〜0.500%、及び、
Cu:0.010〜0.500%、
からなる群から選択される1種以上を含有する。
前記スラブの前記化学組成は、
Bi:0.0010〜0.0100%
を含有する。
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法のフロー図である。図1を参照して、本製造方法は、スラブに対して熱間圧延を実施する熱間圧延工程(S1)と、熱間圧延後の鋼板(熱延鋼板)に対して1又は複数回の冷間圧延(S20)を実施する冷間圧延工程(S2)と、1又は複数回の冷間圧延(S20)のうち、最終の冷間圧延(S20)前の鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)と、冷間圧延工程(S2)後の鋼板(冷延鋼板)に対して脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程(S4)と、脱炭焼鈍工程(S4)後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程(S5)と、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程(S6)とを含む。以下、各工程S1〜S6について説明する。
熱間圧延工程(S1)は、準備されたスラブに対して熱間圧延を実施して熱延鋼板を製造する。スラブの化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.020〜0.100%
炭素(C)は、製造工程中における脱炭焼鈍工程完了までの組織制御に有効である。しかしながら、C含有量が0.020%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.100%を超えれば、後述の脱炭焼鈍工程を実施しても、脱炭が不十分となり、磁気時効が起こってしまう。この場合、十分な鉄損特性が得られない。したがって、C含有量は0.020〜0.100%である。C含有量の好ましい下限は0.030%であり、さらに好ましくは0.040%である。C含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%である。
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて、鉄損のうちの渦電流損を低減する。Si含有量が3.00%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が4.00%を超えれば、鋼の冷間加工性が低下する。したがって、Si含有量は3.00〜4.00%である。Si含有量の好ましい下限は3.10%であり、さらに好ましくは3.20%であり、さらに好ましくは、3.30%である。Si含有量の好ましい上限は3.90%であり、さらに好ましくは3.80%であり、さらに好ましくは3.70%である。
マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減する。Mnはさらに、熱間加工性を高めて、熱間圧延における割れの発生を抑制する。Mnはさらに、熱間圧延工程において、S及び/又はSeと結合して微細なMnS及び/又は微細MnSeを形成する。微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、熱間圧延工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、後段の最終冷間圧延前焼鈍工程において、十分な量の微細AlNが得られる。Mn含有量が0.010%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが析出しない。一方、Mn含有量が0.300%を超えれば、方向性電磁鋼板の磁束密度が低下する。したがって、Mn含有量は0.010〜0.300%である。Mn含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.030%である。Mn含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
硫黄(S)及びセレン(Se)は、熱間圧延工程中において、Mnと結合して、上述の微細MnS及び/又は微細MnSeを形成する。上述のとおり、微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、熱間圧延工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。S及び/又はSeの合計含有量が0.010%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが得られない。一方、S及び/又はSeの合計含有量が0.050%を超えれば、仕上げ焼鈍工程後の鋼板中においてもMnS及び/又はMnSeが残存する場合がある。この場合、磁気特性が低下する。したがって、S及び/又はSeの合計含有量は0.010〜0.050%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい下限は0.012%であり、さらに好ましくは0.014%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
アルミニウム(Al)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Nと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。sol.Al含有量が0.020%未満であれば、インヒビターとして機能する十分な量のAlNが得られない。一方、sol.Al含有量が0.028%を超えれば、インヒビターとしての機能が過大となり、良好な二次再結晶が発現しなくなる。したがって、sol.Al含有量は0.020〜0.028%である。sol.Al含有量の好ましい下限は0.021%であり、さらに好ましくは0.022%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.027%であり、さらに好ましくは0.026%である。なお、本明細書において、sol.Al含有量は、酸可溶Alの含有量を意味する。
窒素(N)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Alと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。N含有量を0.002%未満とするためには、製鋼工程において過度の精錬を必要とし、この場合、製造コストが高くなる。したがって、N含有量の下限は0.002%である。一方、鋼材中のN含有量が0.015%を超えれば、冷間圧延時に鋼板にブリスタ(空孔)が多数生成しやすくなる。したがって、N含有量は0.002〜0.015%である。N含有量の好ましい下限は0.004%であり、さらに好ましくは0.006%である。N含有量の好ましい上限は0.012%であり、さらに好ましくは0.010%である。
上述のスラブの化学組成は、Feの一部に代えて、Sn、Cr及びCuからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
すず(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。含有される場合、Snは、脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の緻密性を高める。その結果、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Snは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。Snはさらに、粒界偏析元素であり、二次再結晶を安定化する。しかしながら、Sn含有量が0.500%を超えれば、鋼板の表面が酸化されにくくなり、一次被膜の形成が不十分になる場合がある。したがって、Sn含有量は0〜0.500%である。上記効果をより有効に得るためのSn含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Sn含有量の好ましい上限は0.300%であり、さらに好ましくは0.200%である。
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Crは脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上し、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Crは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。しかしながら、Cr含有量が0.500%を超えれば、一次被膜の形成が不安定になる場合がある。したがって、Cr含有量は0〜0.500%である。上記効果をより有効に得るためのCr含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Cr含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、熱間圧延工程において、AlNの生成核となる微細MnSの析出を促進する。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、CuS析出物が析出し、CuS析出物が仕上げ焼鈍後にも残存する場合が生じる。鋼中にCuS析出物が残存していれば、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜0.500%である。Cu含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.050%である。Cu含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%である。
ビスマス(Bi)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Bi含有量は0%であってもよい。含有される場合、Biは、MnS及びMnSeを安定化して、インヒビターとしての機能を強化する。しかしながら、Bi含有量が0.0100%を超えれば鋼板上に形成される一次皮膜の密着性が低下する。したがって、Bi含有量は0〜0.0100%である。Bi含有量の好ましい下限は0.0005%であり、さらに好ましくは0.0007%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Bi含有量の好ましい上限は0.0070%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
以上の化学組成を有するスラブの製造方法の一例は次のとおりである。上記化学組成を有する溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いて、連続鋳造法により、スラブを製造する。
準備された上記化学組成を有するスラブに対して、熱間圧延機を用いて熱間圧延を実施して鋼板(熱延鋼板)を製造する。本実施形態において、熱間圧延工程は重要な工程である。以下、詳細を説明する。
加熱工程(S11)では、スラブを加熱する。たとえば、スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して、加熱する。スラブの好ましい加熱温度は1300〜1400℃である。加熱温度の好ましい下限は1320℃である。加熱温度の好ましい上限は1400℃である。
粗圧延工程(S12)では、加熱されたスラブに対して粗圧延を実施して、粗バーを製造する。ここで、粗圧延とは、粗圧延機RMを用いてスラブを熱間圧延することを意味する。粗バーとは、粗圧延完了後であって仕上げ圧延開始前の鋼板を意味する。粗圧延工程では、粗圧延機RMを用いて、スラブに対して複数回の圧下を付与し、粗バーを製造する。ここで、スラブが1台の粗圧延スタンドRMSを通過するときにスラブに対して圧下を付与したとき、1回の圧下が付与されたことを意味する。リバース式圧延の場合、スラブが粗圧延スタンドRMSを上流から下流に通過するときに、スラブに対して1回の圧下を付与する。また、スラブが同じ粗圧延スタンドRMSを下流から上流に通過するときにも、スラブに対して1回の圧下を付与する。なお、スラブが粗圧延スタンドRMSを通過するときに、スラブに対して圧下を付与しない場合もある。
(条件A)粗圧延工程での累積圧下率TR:75%未満
(条件B)粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1:50%未満
(条件C)粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度T1:1350℃以上
本実施形態において、粗圧延工程での累積圧下率TRは75%未満である。粗圧延工程での累積圧下率TRが75%以上であれば、粗バーに過剰な歪が蓄積される。過剰な歪はMnSの析出を誘起する。累積圧下率TRが75%以上であれば、粗バーに歪が過剰に導入されている。そのため、粗圧延工程完了後であって、粗バーの後端が仕上げ圧延工程での最初の圧下を受けるまでの間、つまり、スラブの後端が最終の圧下を行っている粗圧延スタンドRMSを通過してから、粗バーの後端が最初の仕上げ圧延スタンドFMS1を通過するまでの間に、MnS又はMnSeが析出して、成長及び粗大化する。
本実施形態において、粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1は50%未満である。ここで、最終の圧下での圧下率R1は、次のとおり定義される。
最終の圧下での圧下率R1=(1−粗バーの板厚/最終の圧下前のスラブの板厚)×100
本実施形態において、粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度T1は1350℃以上である。ここで、「粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度」とは、粗圧延が完了した直後の粗バーの温度を意味し、より具体的には、スラブの後端(粗バーの後端に相当)が最終の圧下を行っている粗圧延スタンドRMSを通過した直後の、粗バーの先端から後端までの長手方向の粗バーの板幅中心位置かつ板厚中心位置での温度の平均値を意味する。以下、粗バーの板幅中心位置かつ板厚中心位置での温度を単に「板厚中心温度」という。粗バーの板厚中心温度は、粗バーの板幅中心位置かつ板厚中心位置に熱電対を挿入して測定してもよい。粗バーの板厚中心温度は、粗圧延工程において最終の圧下を実施する粗圧延スタンドRMSの出側に設置された測温計で測定した鋼板の表面温度から伝熱計算により求めてもよい。測温計はたとえば放射温度計である。
仕上げ圧延工程(S13)では、粗圧延工程(S12)により製造された粗バーに対して、仕上げ圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。ここで、仕上げ圧延とは、仕上げ圧延機FMを用いて粗バーを熱間圧延することを意味する。仕上げ圧延工程では、パスラインPL上に一列に配列されたタンデム式の複数の仕上げ圧延スタンドFMS1〜FMSnを用いて、粗バーに複数回の圧下を付与して、熱延鋼板を製造する。仕上げ圧延工程では、各仕上げ圧延スタンドFMSの上流から下流に向かって粗バーが各仕上げ圧延スタンドFMSを通過し、粗バーが各仕上げ圧延スタンドFMSを通過するときに、各仕上げ圧延スタンドFMSのワークロールから圧下を受ける。なお、複数の仕上げ圧延スタンドFMSのうち、圧下を付与しない仕上げ圧延スタンドFMSがあってもよい。
(条件D)粗圧延後仕上げ圧延前時間t1:150秒以下
粗圧延後仕上げ圧延前時間t1が150秒を超えれば、粗圧延工程が条件A〜条件Cを満たしていても、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1中に粗バーの温度がMnインヒビターの生成促進温度域まで下がってしまう。そのため、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1中に粗バー中にMnインヒビター(MnS、MnSe)が析出し、成長及び粗大化してしまう。
冷間圧延工程(S2)では、製造された熱延鋼板に対して、1又は複数回の冷間圧延を実施する。図5は、冷間圧延工程を実施する冷間圧延設備ラインを示す模式図である。図5を参照して、冷間圧延設備ライン2は、上流から下流に向かってペイオフリール(巻き戻し装置)21と、冷間圧延機CMと、テンションリール(巻取り装置)22とを備える。ペイオフリール21は、巻き取られている鋼板(熱延鋼板又は冷延鋼板)STを巻き戻す。テンションリール22は、冷間圧延された鋼板STを巻き取る。冷間圧延機CMは、巻き戻された鋼板(熱延鋼板又は冷延鋼板)に対して冷間圧延を実施する。図5では、冷間圧延機CMは、上流から下流に向かって一列に配列された複数の冷間圧延スタンドCMS1〜CMSj(jは2以上の自然数)を備える。各冷間圧延スタンドCMSは、水平に延びる一対のワークロールを備える。図5では、冷間圧延機CMが複数の冷間圧延スタンドCMS1〜CMSjを備えた、タンデム式の連続圧延機である。しかしながら、冷間圧延機CMは、1つの冷間圧延スタンドCMSを備えるリバース式の圧延機であってもよい。
冷延率(%)=(100−最後の冷間圧延後の鋼板の板厚/最初の冷間圧延開始前の鋼板の板厚)×100
最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)では、冷間圧延工程(S2)における1又は複数回の冷間圧延(S20)のうち、最終の冷間圧延(S20)前の鋼板に対して、焼鈍処理を実施する。最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)では、二段階の熱処理(1次熱処理、2次熱処理)を実施する。始めに、1次熱処理を実施する。1次熱処理では、鋼板を1次熱処理温度まで加熱する。1次熱処理温度は1000〜1200℃である。鋼板を1次熱処理温度まで加熱した後、2次熱処理を実施する。2次熱処理では、鋼板を1次熱処理温度から2次熱処理温度まで下げて、2次熱処理温度で保持する。2次熱処理温度は850〜950℃である。2次熱処理温度での保持時間は30〜180秒である。以上の最終冷間前焼鈍処理を実施することにより、鋼板の板幅方向にわたってAlNを微細分散することができる。
脱炭焼鈍工程(S4)では、冷間圧延工程(S2)後の鋼板(冷延鋼板)に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶を発現させる。
昇温工程では、始めに、冷間圧延工程(S2)後の鋼板を熱処理炉に装入する。本実施形態における脱炭焼鈍用の熱処理炉では、たとえば、高周波誘導加熱により、冷延鋼板を脱炭焼鈍温度まで昇温する。昇温工程は次の条件Eを満たす。
(条件E)平均昇温速度RR550-800:800℃/秒以上
昇温工程において、鋼板の温度が550℃から800℃に至るまでの間の昇温速度の平均を、平均昇温速度RR550-800(℃/秒)と定義する。平均昇温速度RR550-800が800℃/秒未満であれば、再結晶の駆動力となる歪エネルギーが、再結晶が開始される前に解放されてしまう。この場合、鋼板の板幅中央部において圧延方向に延びているαファイバー方位群からの再結晶が促進されず、αファイバー方位群が残存し、その結果、方向性電磁鋼板内に、圧延方向に延びる線状不良領域が形成される。この場合、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。
脱炭焼鈍工程(S4)における脱炭工程(S42)では、昇温工程(S41)後の鋼板を脱炭焼鈍温度Taで保持して、脱炭焼鈍を実施する。これにより、鋼板に一次再結晶を発現させる。脱炭工程中の雰囲気は、周知の雰囲気で足り、たとえば、水素及び窒素を含有する湿潤窒素水素混合雰囲気である。脱炭焼鈍を実施することにより、鋼板中の炭素が鋼板から除去され、一次再結晶が発現する。脱炭工程(S42)での製造条件は次のとおりである。
脱炭焼鈍温度Taは、上述のとおり、脱炭焼鈍を実施する熱処理炉の炉温に相当し、脱炭焼鈍中の鋼板の温度に相当する。脱炭焼鈍温度Taが800℃未満であれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が小さすぎる。この場合、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。一方、脱炭焼鈍温度Taが950℃を超えれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が大きすぎる。この場合も、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。脱炭焼鈍温度Taが800〜950℃であれば、一次再結晶後の鋼板の結晶粒が適切なサイズとなり、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現する。
冷却工程(S43)では、脱炭工程(S42)後の鋼板を周知の方法で常温まで冷却する。冷却方法は放冷であってもよいし、水冷であってもよい。好ましくは、脱炭工程後の鋼板を放冷する。以上の工程により脱炭焼鈍工程(S4)では、鋼板に対して脱炭焼鈍処理を実施する。
脱炭焼鈍工程(S6)後の鋼板に対して、焼鈍分離剤塗布工程(S5)を実施する。焼鈍分離剤塗布工程(S5)では、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布する。具体的には、鋼板表面に焼鈍分離剤を含有する水性スラリーを塗布する。水性スラリーは、焼鈍分離剤に水を加えて攪拌して作製する。焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)を含有する。好ましくは、MgOは焼鈍分離剤の主成分である。ここで、「主成分」とは、焼鈍分離剤中のMgO含有量が、質量%で60.0%以上であることを意味する。焼鈍分離剤は、MgO以外に、周知の添加剤を含有してもよい。
焼鈍分離剤塗布工程(S5)後の鋼板に対して、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施して、二次再結晶を発現させる。仕上げ焼鈍工程(S6)は、熱処理炉を用いて実施する。仕上げ焼鈍工程(S6)での製造条件はたとえば、次のとおりである。なお、仕上げ焼鈍における炉内雰囲気は、周知の雰囲気である。
仕上げ焼鈍温度での保持時間:5〜30時間
仕上げ焼鈍温度が1150℃未満であれば、十分な二次再結晶が発現せず、また二次再結晶に用いた析出物を除去する純化が十分ではない。そのため、製造された方向性電磁鋼板の磁気特性が低くなる。一方、仕上げ焼鈍温度が1250℃を超えても二次再結晶、純化に対する効果が低いとともに、鋼板の変形などの問題が生じる。仕上げ温度が1150〜1250℃であれば、上記保持時間が適切であることを前提として、十分な二次再結晶が発現して、磁気特性が高まる。さらに、鋼板表面上にフォルステライトを含有する一次被膜が健全に形成される。
本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法ではさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程(S6)後に、周知の二次被膜形成工程を実施してもよい。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程(S6)の冷却後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする周知の絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施する。これにより、一次被膜上に、周知の張力付与絶縁被膜である二次被膜が形成される。
本実施形態による方向性電磁鋼板はさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程(S6)又は二次被膜形成工程後に、磁区細分化処理工程を実施してもよい。磁区細分化処理工程では、方向性電磁鋼板の表面に、磁区細分化効果のあるレーザ光を照射したり、表面に溝を形成したりする。この場合、さらに磁気特性に優れる方向性電磁鋼板が製造できる。
[磁気特性評価試験]
次の方法により、各試験番号の方向性電磁鋼板の磁束密度Bを、JIS C2556(2015)に準拠して、評価した。具体的には、各サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度B8(T)を測定した。得られた磁束密度B8を表2に示す。
熱間圧延工程により製造された各試験番号の熱延鋼板の板幅中央位置から、縦20mm、横20mmであり、板厚2.3mm(熱延鋼板の板厚と同じ)である、正方形のサンプルを採取した。採取されたサンプルのうち、圧延面及び圧延方向に平行な断面を観察面とする、走査型電子顕微鏡(SEM)用の試験片を作成した。試験片の観察面において、母相と析出物とはコントラストが異なる。そこで、観察面のうち、30mm2の観察視野内で、コントラストに基づいて、長軸長さが1μm以上の析出物(粗大析出物)を特定した。特定された粗大析出物はいずれもMnインヒビター(MnS及びMnSe)とみなした。特定された粗大析出物の個数をカウントし、粗大析出物の個数と、観察視野(30mm2)とに基づいて、粗大析出物の個数密度(個/mm2)を求めた。粗大析出物の個数密度について、次のとおり評価した。評価結果を表2に示す。
○:粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下である。
×:粗大析出物の個数密度が21個/mm2以上である。
図7は、不良組織深さ測定試験で用いたサンプル形状を示す図である。図7を参照して、各試験番号の方向性電磁鋼板の板幅をWと定義した。各試験番号の方向性電磁鋼板から、圧延方向RDに100mm、板幅方向TDにWmmのサンプルを採取した。採取したサンプルから、一次被膜及び二次被膜を次の方法で除去した。方向性電磁鋼板を、NaOH:40質量%及びH2O:60質量%を含有し、80〜90℃の水酸化ナトリウム水溶液に、7分間浸漬した。浸漬後の方向性電磁鋼板を水洗した。水洗後、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させた。以上の処理により二次被膜が除去された方向性電磁鋼板(つまり、1次被膜を備えた母材鋼板)を作製した。さらに、二次被膜が除去された方向性電磁鋼板を、80〜90℃の塩酸に5〜30秒浸漬して、母材鋼板から一次被膜を除去した。一次被膜を除去された母材鋼板を水洗し、水洗後に温風のブロアーで1分間弱、乾燥させた。以上の方法により、一次被膜及び二次被膜が除去され、さらに、圧延面(表面)がエッチングされたサンプルを作製した。
得られた試験結果を表2に示す。表2を参照して、試験番号10〜13、及び、17〜20では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。さらに、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8(T)、熱延鋼板中の粗大析出物の個数密度(個/mm2)、不良組織深さWOを求めた。
得られた試験結果を表4に示す。表4を参照して、試験番号8、9、11及び12では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。さらに、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8(T)、熱延鋼板中の粗大析出物の個数密度(個/mm2)、不良組織深さWOを求めた。
得られた結果を表6に示す。表6を参照して、試験番号1及び2では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。さらに、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8(T)、熱延鋼板中の粗大析出物の個数密度(個/mm2)、不良組織深さWOを求めた。
得られた結果を表8に示す。表8を参照して、試験番号1〜3では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。さらに、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8(T)、熱延鋼板中の粗大析出物の個数密度(個/mm2)、不良組織深さWOを求めた。
得られた試験結果を表9に示す。表9を参照して、試験番号1〜8では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。さらに、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。
Claims (3)
- 化学組成が、質量%で、
C:0.020〜0.100%、
Si:3.00〜4.00%、
Mn:0.010〜0.300%、
S及び/又はSe:合計で0.010〜0.050%、
sol.Al:0.020〜0.028%、
N:0.002〜0.015%、
Sn:0〜0.500%、
Cr:0〜0.500%、
Cu:0〜0.500%、
Bi:0〜0.0100%、及び、
残部がFe及び不純物からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の前記鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する冷間圧延工程と、
1又は複数回の前記冷間圧延のうち、最終の前記冷間圧延前の前記鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程と、
前記冷間圧延工程後の前記鋼板を800〜950℃の脱炭焼鈍温度まで加熱し、前記脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持する脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程とを備え、
前記熱間圧延工程は、
前記スラブに対して、粗圧延を実施して、粗バーを製造する粗圧延工程と、
前記粗バーに対して仕上げ圧延を実施して、前記鋼板を製造する仕上げ圧延工程とを含み、
前記粗圧延工程では、
前記スラブに対して複数回の圧下を実施し、
前記粗圧延工程での累積圧下率を75%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下での圧下率を50%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下直後の前記粗バーの温度を1350℃以上とし、
前記粗圧延工程での前記スラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、前記仕上げ圧延工程での前記粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間を150秒以下とし、
前記脱炭焼鈍工程では、
前記鋼板の温度が550℃から800℃になるまでの間、800℃/秒以上の平均昇温速度で前記鋼板を加熱する、
方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記スラブの前記化学組成は、
Sn:0.010〜0.500%、
Cr:0.010〜0.500%、及び、
Cu:0.010〜0.500%、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1又は請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記スラブの前記化学組成は、
Bi:0.0010〜0.0100%
を含有する、
方向性電磁鋼板の製造方法。
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