JP2020169366A - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】十分な磁束密度を有し、かつ、板幅方向の端部において不良組織の生成を抑制できる、方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。【解決手段】本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法では、熱間圧延工程(S1)において、粗圧延工程での粗圧延工程での累積圧下率を75%未満とし、粗圧延工程の最終の圧下での圧下率を50%未満とし、最終の圧下直後の粗バーの温度を1350℃以上とし、粗圧延工程でのスラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、仕上げ圧延工程での粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間を150秒以下とする。さらに、脱炭焼鈍工程(S4)において、鋼板の温度が550℃から800℃になるまでの間、800℃/秒以上の平均昇温速度で鋼板を加熱する。【選択図】図1

Description

本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
方向性電磁鋼板は、質量%で、Siを0.5〜7%程度含有し、結晶方位を{110}<001>方位(ゴス方位)に集積させた鋼板である。方向性電磁鋼板は、軟質磁性材料として、トランスやその他の電気機器の鉄心材料に利用されている。方向性電磁鋼板の結晶方位の制御には、二次再結晶と呼ばれるカタストロフィックな粒成長現象が利用される。
方向性電磁鋼板の製造方法は次のとおりである。スラブを加熱して熱間圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。製造された熱延鋼板を焼鈍する。熱延鋼板を必要に応じて酸洗する。酸洗後の熱延鋼板に対して、80%以上の冷延率で冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する。冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して、一次再結晶を発現する。脱炭焼鈍後の冷延鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施して、二次再結晶を発現する。以上の工程により、方向性電磁鋼板が製造される。
方向性電磁鋼板には、磁気特性が求められ、特に、優れた励磁特性が求められる。方向性電磁鋼板の励磁特性を示す指標として、たとえば、磁場の強さが800A/mにおける磁束密度であるB8が利用されている。
上述の磁束密度を高める方法として、ゴス方位への集積度の向上が知られている。ゴス方位への集積度の向上は、仕上げ焼鈍工程中の二次再結晶の優劣に依存する。優れた二次再結晶を発現させるためには、二次再結晶を発現させる仕上焼鈍工程前までの、析出物(インヒビター)の造り込みが重要である。鋼板中において、微細なインヒビターを均一に分散させることにより、二次再結晶において、ゴス方位以外の磁気特性に劣位な結晶方位の成長を抑制することができる。
方向性電磁鋼板の製造において、インヒビターとしてMnS、MnSe、AlNを利用する場合、製鋼工程で生成された粗大なMnS、MnSe、AlNを含むスラブを、熱間圧延前に1300℃以上に加熱して、MnS、MnSe及びAlNを完全に固溶させる。そして、加熱されたスラブを熱間加工して製造された熱延鋼板を焼鈍する工程において、これらのインヒビターの析出を制御し、微細に分散させる。これにより、二次再結晶の成長を制御することができる。
二次再結晶の成長を制御する方法が、特開平4−124218号公報(特許文献1)、特開平6−192736号公報(特許文献2)、特開平9−104924号公報(特許文献3)、及び、国際公開第2013/145784号(特許文献4)に提案されている。
特許文献1では、熱延鋼板の組織の微細化とインヒビターの微細均一析出との両立を目的として、熱間圧延工程の粗圧延の最終パスを、鋼板の最表層から板厚の1/5の深さまでの温度が1200〜1250℃の範囲でかつ、圧下率:50%以上の条件下で実施することを特徴とする。しかしながら、特許文献1の場合、粗圧延の最終パスの圧下率を50%以上としているため、粗圧延完了から仕上げ圧延開始までの間で、粗圧延で導入された歪に誘起され、粗大なMnS、MnSeが析出する可能性がある。この場合、仕上げ焼鈍工程での二次再結晶が不安定になりやすく、その結果、方向性電磁鋼板の板幅方向における両端部に、ゴス方位結晶粒が十分成長していない二次再結晶の不良領域が発生しやすくなる。二次再結晶の不良領域での結晶粒は、正常領域での結晶粒と比較して非常に微細であり、ゴス方位粒とは異なる結晶粒で構成されている。以下、このような方向性電磁鋼板の板幅方向の端部に発生する二次再結晶の不良領域を、「不良組織」と称する。
特許文献2も特許文献1と同様に、熱延鋼板の組織の微細化とインヒビターの微細均一析出との両立を目的とする。特許文献2では、熱間圧延工程の粗圧延の最終パスの終了温度を1200℃以上、粗圧延終了から仕上げ圧延出側までを150秒以下とし、かつ、仕上げ圧延出側温度を1000℃以下とし、かつ、鋼板の最終冷延前に焼鈍し表層の炭素量を低減させることを特徴とする。しかしながら、特許文献2においても、熱延鋼板の組織微細化を目的として、粗圧延の最終パスの出側温度を1300℃未満としている。そのため、粗圧延完了から仕上げ圧延開始までの間で、粗圧延工程で導入された歪に誘起され、粗大なMnS、MnSeが析出する可能性がある。その結果、方向性電磁鋼板において、不良組織が生成しやすい。
特許文献3も特許文献1及び特許文献2と同様に、熱延鋼板の組織の微細化とインヒビターの微細均一析出との両立を目的とする。特許文献3では、粗圧延の累積圧下率を75%以上とし、粗圧延をスラブ加熱温度に応じた時間で完了させることを特徴とする。しかしながら、特許文献3においても、熱延鋼板において組織微細化を目的として、粗圧延の累積圧下率を75%以上としている。そのため、粗圧延完了から仕上げ圧延開始までの間で、粗圧延工程で導入された歪に誘起され、粗大なMnS、MnSeが析出する可能性がある。粗大なMnS及びMnSeが生成した場合、仕上げ圧延工程での二次再結晶が不安定になる。そのため、方向性電磁鋼板において、不良組織が生成しやすい。
特許文献4も特許文献1〜特許文献3と同様に、熱延鋼板の組織の微細化とインヒビターの微細均一析出との両立を目的とする。特許文献4では、Si、C、Ni量に応じたα単相相出温度で30%以上の粗圧延の1パス目を行い、仕上圧延工程において、少なくとも1パスをγ相が最大化される温度で圧延することを特徴とする。しかしながら、特許文献4では、熱延鋼板の組織微細化を目的として、粗圧延工程にて高い圧下率で圧延を行うため、粗圧延完了から仕上げ圧延開始までの間で、粗圧延工程で導入された歪に誘起され、粗大なMnS、MnSeが析出する可能性がある。粗大なMnS及びMnSeが生成した場合、仕上げ圧延工程での二次再結晶が不安定になる。そのため、方向性電磁鋼板において、不良組織が生成しやすい。
特開平4−124218号公報 特開平6−192736号公報 特開平9−104924号公報 国際公開第2013/145784号
方向性電磁鋼板の板幅方向の端部に不良組織が発生した場合、不良組織が存在する端部は十分な磁気特性が得られない。そのため、方向性電磁鋼板のうち、不良組織を有する端部を切断する必要があり、製品歩留まりが低下する。そのため、方向性電磁鋼板としての磁気特性(磁束密度)を高く維持しつつ、不良組織の生成が抑制される方が好ましい。
本開示の目的は、高い磁束密度を有し、かつ、板幅方向の端部において不良組織の生成を抑制できる、方向性電磁鋼板の製造方法を提供することである。
本開示による方向性電磁鋼板の製造方法は、
化学組成が、質量%で、
C:0.020〜0.100%、
Si:3.00〜4.00%、
Mn:0.010〜0.300%、
S及び/又はSe:合計で0.010〜0.050%、
sol.Al:0.020〜0.028%、
N:0.002〜0.015%、
Sn:0〜0.500%、
Cr:0〜0.500%、
Cu:0〜0.500%、
Bi:0〜0.0100%、及び、
残部がFe及び不純物からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の前記鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する冷間圧延工程と、
1又は複数回の前記冷間圧延のうち、最終の前記冷間圧延前の前記鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程と、
前記冷間圧延工程後の前記鋼板を800〜950℃の脱炭焼鈍温度まで加熱し、前記脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持する脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程とを備え、
前記熱間圧延工程は、
前記スラブに対して、粗圧延を実施して、粗バーを製造する粗圧延工程と、
前記粗バーに対して仕上げ圧延を実施して、前記鋼板を製造する仕上げ圧延工程とを含み、
前記粗圧延工程では、
前記スラブに対して複数回の圧下を実施し、
前記粗圧延工程での累積圧下率を75%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下での圧下率を50%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下直後の前記粗バーの温度を1350℃以上とし、
前記粗圧延工程での前記スラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、前記仕上げ圧延工程での前記粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間を150秒以下とし、
前記脱炭焼鈍工程では、
前記鋼板の温度が550℃から800℃になるまでの間、800℃/秒以上の平均昇温速度で前記鋼板を加熱する。
本開示による方向性電磁鋼板の製造方法は、高い磁束密度を有し、かつ、板幅方向の端部において不良組織の生成を抑制できる。
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法の製造工程を示すフロー図である。 図2は、図1中の熱間圧延工程を実施する熱間圧延設備ラインを示す模式図である。 図3は、図2と異なる、熱間圧延設備ラインを示す模式図である。 図4は、図1中の熱間圧延工程の詳細を示すフロー図である。 図5は、図1中の冷間圧延工程を実施する冷間圧延設備ラインを示す模式図である。 図6は、図1中の脱炭焼鈍工程でのヒートパターンを示す模式図である。 図7は、実施例中の不良組織深さ測定試験で用いたサンプルの形状を示す模式図である。
本発明者らは、MnS及びMnSe(以下、MnS及びMnSeをMnインヒビターともいう)が粗大化する原因について、調査及び検討を行った。具体的には、化学組成が、質量%で、C:0.020〜0.100%、Si:3.00〜4.00%、Mn:0.010〜0.300%、S及び/又はSe:合計で0.010〜0.050%、sol.Al:0.020〜0.028%、N:0.002〜0.015%、Sn:0〜0.500%、Cr:0〜0.500%、Cu:0〜0.500%、Bi:0〜0.0100%、及び、残部がFe及び不純物からなるスラブから方向性電磁鋼板を製造して、熱延鋼板における長軸長さが1μm以上となる粗大Mnインヒビターの発生原因について、調査を行った。その結果、Mnインヒビターの析出及び成長は、熱間圧延工程において、粗圧延工程での累積圧下率TR(条件A)、粗圧延工程での最終の圧下での圧下率R1(条件B)、粗圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1(条件C)、及び、粗圧延工程でのスラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、仕上げ圧延工程での粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間t1(条件D)の4つの条件に特に影響を受けることを知見した。
そこで、上記知見に基づいて、上述の化学組成のスラブに対して、条件A〜条件Dを種々の条件に設定して方向性電磁鋼板の製造を試みた。その結果、次の条件を満たすことにより、方向性電磁鋼板の板幅方向の端部の不良組織が顕著に抑制されることを見出した。
(条件A)粗圧延工程での累積圧下率TR:75%未満
(条件B)粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1:50%未満
(条件C)粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度T1:1350℃以上
(条件D)粗圧延工程でのスラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、仕上げ圧延工程での粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間t1:150秒以下
しかしながら、上述の条件A〜条件Dを満たす熱間圧延工程を実施して方向性電磁鋼板を製造した場合、不良組織を顕著に抑制できるものの、磁束密度が劣化する場合があることが判明した。そこで、磁束密度の劣化の原因を調査すべく、方向性電磁鋼板のミクロ組織を調査した。その結果、方向性電磁鋼板の板幅方向の中央位置に、圧延方向に延びる線状の不良領域(以下、線状不良領域)が発生していた。この線状不良領域の発生原因を調査した結果、次の理由が考えられた。
上述の条件A〜条件Dを満たす条件で熱間圧延工程を実施した場合、熱延鋼板の板幅中央位置において、圧延方向に延びるαファイバー方位群が発達する場合がある。ここで、αファイバー方位群とは、結晶の<110>軸が圧延方向に沿った結晶粒群を意味する。熱間圧延工程で生成したαファイバー方位群は、圧延安定方位であり、冷間圧延工程後の鋼板にも残存する。このαファイバー方位群が一次再結晶組織を劣化して、仕上げ焼鈍工程での二次再結晶時において、ゴス方位の選択成長性を抑える。その結果、αファイバー方位群が線状不良領域として方向性電磁鋼板内に残存し、ゴス方位への集積度が低下し、磁気特性(磁束密度)を劣化すると考えられる。
そこで、本発明者らはさらに、上述の条件A〜条件Dを実施しても、αファイバー方位群の生成及び発達を抑制可能な製造方法について検討を行った。その結果、冷間圧延工程後の脱炭焼鈍工程において、550℃から800℃までの間の平均昇温速度RR550-800を従来よりも顕著に速くすれば、熱延鋼板にαファイバー方位群が生成していても、αファイバー方位群からの再結晶を促進させることができ、その結果、線状不良領域の発生を抑制して、高い磁気特性が得られることを見出した。具体的には、脱炭焼鈍工程において、次の条件Eを満たすことにより、優れた磁束密度が得られることを知見した。
(条件E)平均昇温速度RR550-800:800℃/秒以上
この理由は定かではないが、次の理由が考えられる。脱炭焼鈍工程での550℃から800℃までの間の昇温速度を速くすることにより、一次再結晶において、αファイバー方位群からの再結晶を促進させることができ、ゴス方位の選択成長性を高めるΣ9対応方位({411}<148>)等の再結晶方位粒が増加する。Σ9対応方位粒は、ゴス方位粒の選択成長性を高める。そのため、二次再結晶においてゴス方位の集積度が高まり、線状不良領域を抑制することができる。その結果、優れた磁気特性が得られると考えられる。
以上のとおり、本発明者らは、上述の化学組成を有するスラブを用いて、条件A〜条件Eを満たす製造工程を実施することにより、板幅方向の不良組織の発生を抑制でき、かつ、高い磁束密度が得られる方向性電磁鋼板を製造可能なことを見出した。
(条件A)粗圧延工程での累積圧下率:75%未満
(条件B)粗圧延工程の最終の圧下での圧下率:50%未満
(条件C)粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度:1350℃以上
(条件D)粗圧延工程でのスラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、仕上げ圧延工程での粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間t1:150秒以下
(条件E)平均昇温速度RR550-800:800℃/秒以上
以上の知見により完成した本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法の要旨は次のとおりである。
[1]の方向性電磁鋼板の製造方法は、
化学組成が、質量%で、
C:0.020〜0.100%、
Si:3.00〜4.00%、
Mn:0.010〜0.300%、
S及び/又はSe:合計で0.010〜0.050%、
sol.Al:0.020〜0.028%、
N:0.002〜0.015%、
Sn:0〜0.500%、
Cr:0〜0.500%、
Cu:0〜0.500%、
Bi:0〜0.0100%、及び、
残部がFe及び不純物からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の前記鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する冷間圧延工程と、
1又は複数回の前記冷間圧延のうち、最終の前記冷間圧延前の前記鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程と、
前記冷間圧延工程後の前記鋼板を800〜950℃の脱炭焼鈍温度まで加熱し、前記脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持する脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程とを備え、
前記熱間圧延工程は、
前記スラブに対して、粗圧延を実施して、粗バーを製造する粗圧延工程と、
前記粗バーに対して仕上げ圧延を実施して、前記鋼板を製造する仕上げ圧延工程とを含み、
前記粗圧延工程では、
前記スラブに対して複数回の圧下を実施し、
前記粗圧延工程での累積圧下率を75%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下での圧下率を50%未満とし、
前記粗圧延工程の最終の圧下直後の前記粗バーの温度を1350℃以上とし、
前記粗圧延工程での前記スラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、前記仕上げ圧延工程での前記粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間を150秒以下とし、
前記脱炭焼鈍工程では、
前記鋼板の温度が550℃から800℃になるまでの間、800℃/秒以上の平均昇温速度で前記鋼板を加熱する。
[2]の方向性電磁鋼板の製造方法は、[1]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記スラブの前記化学組成は、
Sn:0.010〜0.500%、
Cr:0.010〜0.500%、及び、
Cu:0.010〜0.500%、
からなる群から選択される1種以上を含有する。
[3]の方向性電磁鋼板の製造方法は、[1]又は[2]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記スラブの前記化学組成は、
Bi:0.0010〜0.0100%
を含有する。
以下、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法について詳述する。なお、本明細書において、元素の含有量に関する%は、特に断りのない限り、質量%を意味する。
[製造工程フロー]
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法のフロー図である。図1を参照して、本製造方法は、スラブに対して熱間圧延を実施する熱間圧延工程(S1)と、熱間圧延後の鋼板(熱延鋼板)に対して1又は複数回の冷間圧延(S20)を実施する冷間圧延工程(S2)と、1又は複数回の冷間圧延(S20)のうち、最終の冷間圧延(S20)前の鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)と、冷間圧延工程(S2)後の鋼板(冷延鋼板)に対して脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程(S4)と、脱炭焼鈍工程(S4)後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程(S5)と、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程(S6)とを含む。以下、各工程S1〜S6について説明する。
[熱間圧延工程(S1)]
熱間圧延工程(S1)は、準備されたスラブに対して熱間圧延を実施して熱延鋼板を製造する。スラブの化学組成は、次の元素を含有する。
[スラブの化学組成中の必須元素]
C:0.020〜0.100%
炭素(C)は、製造工程中における脱炭焼鈍工程完了までの組織制御に有効である。しかしながら、C含有量が0.020%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.100%を超えれば、後述の脱炭焼鈍工程を実施しても、脱炭が不十分となり、磁気時効が起こってしまう。この場合、十分な鉄損特性が得られない。したがって、C含有量は0.020〜0.100%である。C含有量の好ましい下限は0.030%であり、さらに好ましくは0.040%である。C含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%である。
Si:3.00〜4.00%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて、鉄損のうちの渦電流損を低減する。Si含有量が3.00%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が4.00%を超えれば、鋼の冷間加工性が低下する。したがって、Si含有量は3.00〜4.00%である。Si含有量の好ましい下限は3.10%であり、さらに好ましくは3.20%であり、さらに好ましくは、3.30%である。Si含有量の好ましい上限は3.90%であり、さらに好ましくは3.80%であり、さらに好ましくは3.70%である。
Mn:0.010〜0.300%
マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減する。Mnはさらに、熱間加工性を高めて、熱間圧延における割れの発生を抑制する。Mnはさらに、熱間圧延工程において、S及び/又はSeと結合して微細なMnS及び/又は微細MnSeを形成する。微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、熱間圧延工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、後段の最終冷間圧延前焼鈍工程において、十分な量の微細AlNが得られる。Mn含有量が0.010%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが析出しない。一方、Mn含有量が0.300%を超えれば、方向性電磁鋼板の磁束密度が低下する。したがって、Mn含有量は0.010〜0.300%である。Mn含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.030%である。Mn含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
S及び/又はSe:合計で0.010〜0.050%
硫黄(S)及びセレン(Se)は、熱間圧延工程中において、Mnと結合して、上述の微細MnS及び/又は微細MnSeを形成する。上述のとおり、微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、熱間圧延工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。S及び/又はSeの合計含有量が0.010%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが得られない。一方、S及び/又はSeの合計含有量が0.050%を超えれば、仕上げ焼鈍工程後の鋼板中においてもMnS及び/又はMnSeが残存する場合がある。この場合、磁気特性が低下する。したがって、S及び/又はSeの合計含有量は0.010〜0.050%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい下限は0.012%であり、さらに好ましくは0.014%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
sol.Al:0.020〜0.028%
アルミニウム(Al)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Nと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。sol.Al含有量が0.020%未満であれば、インヒビターとして機能する十分な量のAlNが得られない。一方、sol.Al含有量が0.028%を超えれば、インヒビターとしての機能が過大となり、良好な二次再結晶が発現しなくなる。したがって、sol.Al含有量は0.020〜0.028%である。sol.Al含有量の好ましい下限は0.021%であり、さらに好ましくは0.022%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.027%であり、さらに好ましくは0.026%である。なお、本明細書において、sol.Al含有量は、酸可溶Alの含有量を意味する。
N:0.002〜0.015%
窒素(N)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Alと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。N含有量を0.002%未満とするためには、製鋼工程において過度の精錬を必要とし、この場合、製造コストが高くなる。したがって、N含有量の下限は0.002%である。一方、鋼材中のN含有量が0.015%を超えれば、冷間圧延時に鋼板にブリスタ(空孔)が多数生成しやすくなる。したがって、N含有量は0.002〜0.015%である。N含有量の好ましい下限は0.004%であり、さらに好ましくは0.006%である。N含有量の好ましい上限は0.012%であり、さらに好ましくは0.010%である。
本実施形態によるスラブの化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、方向性電磁鋼板の素材であるスラブを工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の製造方法により製造される方向性電磁鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[スラブの化学組成中の任意元素]
上述のスラブの化学組成は、Feの一部に代えて、Sn、Cr及びCuからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
Sn:0〜0.500%
すず(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。含有される場合、Snは、脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の緻密性を高める。その結果、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Snは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。Snはさらに、粒界偏析元素であり、二次再結晶を安定化する。しかしながら、Sn含有量が0.500%を超えれば、鋼板の表面が酸化されにくくなり、一次被膜の形成が不十分になる場合がある。したがって、Sn含有量は0〜0.500%である。上記効果をより有効に得るためのSn含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Sn含有量の好ましい上限は0.300%であり、さらに好ましくは0.200%である。
Cr:0〜0.500%
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Crは脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上し、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Crは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。しかしながら、Cr含有量が0.500%を超えれば、一次被膜の形成が不安定になる場合がある。したがって、Cr含有量は0〜0.500%である。上記効果をより有効に得るためのCr含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Cr含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
Cu:0〜0.500%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、熱間圧延工程において、AlNの生成核となる微細MnSの析出を促進する。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、CuS析出物が析出し、CuS析出物が仕上げ焼鈍後にも残存する場合が生じる。鋼中にCuS析出物が残存していれば、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜0.500%である。Cu含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.050%である。Cu含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%である。
上述のスラブの化学組成は、Feの一部に代えて、Biを含有してもよい。
Bi:0〜0.0100%
ビスマス(Bi)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Bi含有量は0%であってもよい。含有される場合、Biは、MnS及びMnSeを安定化して、インヒビターとしての機能を強化する。しかしながら、Bi含有量が0.0100%を超えれば鋼板上に形成される一次皮膜の密着性が低下する。したがって、Bi含有量は0〜0.0100%である。Bi含有量の好ましい下限は0.0005%であり、さらに好ましくは0.0007%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Bi含有量の好ましい上限は0.0070%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
[上記化学組成を有するスラブの製造方法]
以上の化学組成を有するスラブの製造方法の一例は次のとおりである。上記化学組成を有する溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いて、連続鋳造法により、スラブを製造する。
[上記スラブを用いた熱間圧延工程]
準備された上記化学組成を有するスラブに対して、熱間圧延機を用いて熱間圧延を実施して鋼板(熱延鋼板)を製造する。本実施形態において、熱間圧延工程は重要な工程である。以下、詳細を説明する。
図2は、熱間圧延工程を実施する熱間圧延機列を含む熱間圧延設備ラインを示す模式図である。図2を参照して、熱間圧延設備ライン1は、上流から下流に向かって順に、粗圧延機RMと、仕上げ圧延機FMとを備える。粗圧延機RM及び仕上げ圧延機FMは、パスラインPL上に配置されている。ここで、パスラインPLとは、スラブ(及び熱間圧延中の鋼板)が通過する仮想のラインを意味する。
粗圧延機RMは、パスラインPL上に配置された1台、又は、パスラインPL上に一列に並んだ複数台の粗圧延スタンドRMSを備える。図2では、粗圧延機RMは、1台の粗圧延スタンドRMSを備えている。しかしながら、図3に示すように、粗圧延機RMは、複数台の粗圧延スタンドRMS1〜RMSm(mは2以上の自然数)を備えていてもよい。各粗圧延スタンドRMSは、上下に配置された複数のワークロールを含む。粗圧延機RM中の粗圧延スタンドRMSが1台の場合、粗圧延スタンドRMSはリバース式の圧延機である。粗圧延機RM中の粗圧延スタンドRMSが複数台配置されている場合、粗圧延スタンドRMSは、リバース式であってもよいし、タンデム式であってもよい。
仕上げ圧延機FMは、パスラインPL上に一列に配列された複数の仕上げ圧延スタンドFMS1〜FMSn(nは2以上の自然数)を備える。複数の仕上げ圧延スタンドFMS1〜FMSnのうち、仕上げ圧延スタンドFMS1が熱間圧延設備ライン1の最上流に配置され、仕上げ圧延スタンドFMSnが熱間圧延設備ライン1の最下流に配置される。各仕上げ圧延スタンドFMSは、上下に配置された複数のワークロールを含む。複数の仕上げ圧延スタンドFMS1〜FMSnを含む仕上げ圧延機FMは、タンデム式である。
図4は、図1に示す熱間圧延工程(S1)の詳細を示すフロー図である。図4を参照して、熱間圧延工程(S1)は、加熱工程(S11)と、粗圧延機RMを用いた粗圧延工程(S12)と、仕上げ圧延機FMを用いた仕上げ圧延工程(S13)とを含む。以下、各工程について説明する。
[加熱工程(S11)]
加熱工程(S11)では、スラブを加熱する。たとえば、スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して、加熱する。スラブの好ましい加熱温度は1300〜1400℃である。加熱温度の好ましい下限は1320℃である。加熱温度の好ましい上限は1400℃である。
[粗圧延工程(S12)]
粗圧延工程(S12)では、加熱されたスラブに対して粗圧延を実施して、粗バーを製造する。ここで、粗圧延とは、粗圧延機RMを用いてスラブを熱間圧延することを意味する。粗バーとは、粗圧延完了後であって仕上げ圧延開始前の鋼板を意味する。粗圧延工程では、粗圧延機RMを用いて、スラブに対して複数回の圧下を付与し、粗バーを製造する。ここで、スラブが1台の粗圧延スタンドRMSを通過するときにスラブに対して圧下を付与したとき、1回の圧下が付与されたことを意味する。リバース式圧延の場合、スラブが粗圧延スタンドRMSを上流から下流に通過するときに、スラブに対して1回の圧下を付与する。また、スラブが同じ粗圧延スタンドRMSを下流から上流に通過するときにも、スラブに対して1回の圧下を付与する。なお、スラブが粗圧延スタンドRMSを通過するときに、スラブに対して圧下を付与しない場合もある。
上述のとおり、粗圧延工程では、スラブに対して複数回の圧下を付与して、粗バーを製造する。このとき、粗圧延工程での累積圧下率TR、最終の圧下での圧下率R1、及び、最終の圧下直後の粗バーの温度T1を、次のとおりとする。
(条件A)粗圧延工程での累積圧下率TR:75%未満
(条件B)粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1:50%未満
(条件C)粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度T1:1350℃以上
[(条件A)粗圧延工程での累積圧下率TRについて]
本実施形態において、粗圧延工程での累積圧下率TRは75%未満である。粗圧延工程での累積圧下率TRが75%以上であれば、粗バーに過剰な歪が蓄積される。過剰な歪はMnSの析出を誘起する。累積圧下率TRが75%以上であれば、粗バーに歪が過剰に導入されている。そのため、粗圧延工程完了後であって、粗バーの後端が仕上げ圧延工程での最初の圧下を受けるまでの間、つまり、スラブの後端が最終の圧下を行っている粗圧延スタンドRMSを通過してから、粗バーの後端が最初の仕上げ圧延スタンドFMS1を通過するまでの間に、MnS又はMnSeが析出して、成長及び粗大化する。
粗圧延工程での累積圧下率TRが75%未満であれば、粗バーに過剰な歪が蓄積されるのを抑制できる。そのため、条件B、C及び後述の条件Dを満たすことを前提として、粗圧延工程後の粗バーに粗大なMnS又はMnSeが生成するのを抑制することができる。粗圧延工程での累積圧下率TRの好ましい上限は74%であり、さらに好ましくは73%であり、さらに好ましくは72%であり、さらに好ましくは71%である。粗圧延工程での累積圧下率TRの下限は特に限定されないが、たとえば、55%であり、さらに好ましくは60%である。
[(条件B)粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1について]
本実施形態において、粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1は50%未満である。ここで、最終の圧下での圧下率R1は、次のとおり定義される。
最終の圧下での圧下率R1=(1−粗バーの板厚/最終の圧下前のスラブの板厚)×100
最終の圧下前のスラブの板厚とは、たとえば、粗圧延工程でm回(mは2以上の自然数)の圧下を実施して粗バーを製造する場合、m−1回目の圧下を完了した後のスラブの板厚が、「最終の圧下前のスラブの板厚」に相当する。
最終の圧下の圧下率R1が50%以上である場合も、粗バーに過剰な歪が蓄積される。上述のとおり、過剰な歪はMnSの析出を誘起する。そのため、最終の圧下での圧下率R1が50%以上であれば、粗圧延工程完了後であって、粗バーの後端が仕上げ圧延工程での最初の圧下を受けるまでの間、つまり、スラブの後端が最終の圧下を行っている粗圧延スタンドRMSを通過してから、粗バーの後端が最初の仕上げ圧延スタンドFMS1を通過するまでの間に、MnS又はMnSeが析出して、成長及び粗大化する。
粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1が50%未満であれば、粗バーに過剰な歪が蓄積されるのを抑制できる。そのため、条件A、条件C及び条件Dを満たすことを前提として、粗圧延工程後の粗バーに粗大なMnS又はMnSeが生成するのを抑制することができる。粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1の好ましい上限は49%であり、さらに好ましくは48%であり、さらに好ましくは47%であり、さらに好ましくは46%であり、さらに好ましくは45%である。
[(条件C)粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度T1について]
本実施形態において、粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度T1は1350℃以上である。ここで、「粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度」とは、粗圧延が完了した直後の粗バーの温度を意味し、より具体的には、スラブの後端(粗バーの後端に相当)が最終の圧下を行っている粗圧延スタンドRMSを通過した直後の、粗バーの先端から後端までの長手方向の粗バーの板幅中心位置かつ板厚中心位置での温度の平均値を意味する。以下、粗バーの板幅中心位置かつ板厚中心位置での温度を単に「板厚中心温度」という。粗バーの板厚中心温度は、粗バーの板幅中心位置かつ板厚中心位置に熱電対を挿入して測定してもよい。粗バーの板厚中心温度は、粗圧延工程において最終の圧下を実施する粗圧延スタンドRMSの出側に設置された測温計で測定した鋼板の表面温度から伝熱計算により求めてもよい。測温計はたとえば放射温度計である。
粗圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1が1350℃未満であれば、粗圧延工程完了後であって、粗バーの後端が仕上げ圧延工程での最初の圧下を受けるまでの間に、粗バーの温度が、MnS及びMnSeの生成促進温度域まで低下する。この場合、仕上げ圧延が粗バーの全長にわたって仕上げ圧延工程の最初の圧下が付与される前に、MnS及びMnSeが析出して成長し、粗大化する。
粗圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1が1350℃以上であれば、粗圧延工程完了後であって、粗バーの後端が仕上げ圧延工程での最初の圧下を受けるまでの間に、粗バーの温度が、MnS及びMnSeの生成促進温度域まで低下するのを抑制できる。そのため、条件A、条件B及び条件Dを満たすことを前提として、仕上げ圧延が粗バーの全長にわたって仕上げ圧延工程の最初の圧下が付与される前に、MnS及びMnSeが析出するのを抑制できる。粗圧延工程の最終の圧下直後の粗バーの温度T1の好ましい下限は1355℃であり、さらに好ましくは1360℃であり、さらに好ましくは1370℃である。粗圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1の好ましい上限は、1400℃である。
[仕上げ圧延工程(S13)]
仕上げ圧延工程(S13)では、粗圧延工程(S12)により製造された粗バーに対して、仕上げ圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。ここで、仕上げ圧延とは、仕上げ圧延機FMを用いて粗バーを熱間圧延することを意味する。仕上げ圧延工程では、パスラインPL上に一列に配列されたタンデム式の複数の仕上げ圧延スタンドFMS1〜FMSnを用いて、粗バーに複数回の圧下を付与して、熱延鋼板を製造する。仕上げ圧延工程では、各仕上げ圧延スタンドFMSの上流から下流に向かって粗バーが各仕上げ圧延スタンドFMSを通過し、粗バーが各仕上げ圧延スタンドFMSを通過するときに、各仕上げ圧延スタンドFMSのワークロールから圧下を受ける。なお、複数の仕上げ圧延スタンドFMSのうち、圧下を付与しない仕上げ圧延スタンドFMSがあってもよい。
上述のとおり、仕上げ圧(S13)では、粗バーに対して複数回の圧下を実施して、鋼板(熱延鋼板)を製造する。ここで、粗圧延工程(S12)でのスラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、仕上げ圧延工程(S13)での粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間t1、つまり、スラブの後端(ボトム)が最終の圧下を行っている粗圧延スタンドRMSを通過してから、粗バーの後端(ボトム)が最初の仕上げ圧延スタンドFMS1を通過するまでの時間t1を、「粗圧延後仕上げ圧延前時間」t1と称する。このとき、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1を次のとおりとする。
(条件D)粗圧延後仕上げ圧延前時間t1:150秒以下
[(条件D)粗圧延後仕上げ圧延前時間t1について]
粗圧延後仕上げ圧延前時間t1が150秒を超えれば、粗圧延工程が条件A〜条件Cを満たしていても、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1中に粗バーの温度がMnインヒビターの生成促進温度域まで下がってしまう。そのため、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1中に粗バー中にMnインヒビター(MnS、MnSe)が析出し、成長及び粗大化してしまう。
粗圧延後仕上げ圧延前時間t1が150秒以下であれば、粗圧延工程が条件A〜条件Cを満たすことを前提として、粗バーの温度がMnインヒビターの生成促進温度域まで低下する前に、粗バーの全長にわたって、仕上げ圧延を開始することができる。この場合、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1中でのMnインヒビターの生成を抑制することができる。その結果、仕上げ圧延後の熱延鋼板において、長軸長さが1μm以上の粗大なMnインヒビターを抑制することができ、熱延鋼板中に、長軸長さが1μm未満の微細なMnインヒビターを分散させることができる。粗圧延後仕上げ圧延前時間t1の好ましい上限は145秒であり、さらに好ましくは140秒であり、さらに好ましくは135秒であり、さらに好ましくは130秒であり、さらに好ましくは125秒である。
以上の熱間圧延工程(S1)により、熱延鋼板を製造する。本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法では、熱間圧延工程にて、条件A〜条件Dの全てを満たす熱間圧延を実施することにより、熱延鋼板において、微細なインヒビター(MnS、MnSe)を造り込む。
[冷間圧延工程(S2)]
冷間圧延工程(S2)では、製造された熱延鋼板に対して、1又は複数回の冷間圧延を実施する。図5は、冷間圧延工程を実施する冷間圧延設備ラインを示す模式図である。図5を参照して、冷間圧延設備ライン2は、上流から下流に向かってペイオフリール(巻き戻し装置)21と、冷間圧延機CMと、テンションリール(巻取り装置)22とを備える。ペイオフリール21は、巻き取られている鋼板(熱延鋼板又は冷延鋼板)STを巻き戻す。テンションリール22は、冷間圧延された鋼板STを巻き取る。冷間圧延機CMは、巻き戻された鋼板(熱延鋼板又は冷延鋼板)に対して冷間圧延を実施する。図5では、冷間圧延機CMは、上流から下流に向かって一列に配列された複数の冷間圧延スタンドCMS1〜CMSj(jは2以上の自然数)を備える。各冷間圧延スタンドCMSは、水平に延びる一対のワークロールを備える。図5では、冷間圧延機CMが複数の冷間圧延スタンドCMS1〜CMSjを備えた、タンデム式の連続圧延機である。しかしながら、冷間圧延機CMは、1つの冷間圧延スタンドCMSを備えるリバース式の圧延機であってもよい。
本明細書において、「1回の冷間圧延を実施する」とは、リバース式の冷間圧延機CMを用いて1回以上の往復を含む複数回の圧延で所望の最終板厚の冷延鋼板にする、又は、タンデム式の冷間圧延機CMを用いて、一列に配列された複数の冷間圧延スタンドCMS1〜CMSjの先頭の圧延スタンドCMS1から末尾の圧延スタンドCMSjまで鋼板を通過させて所望の最終板厚の冷延鋼板に圧延することを意味する。なお、冷間圧延を実施した後、中間焼鈍及び/又は酸洗等の別ラインでの通板を実施し、さらに冷間圧延を実施して所望の最終板厚の冷延鋼板に圧延する場合、「2回の冷間圧延を実施する」に該当する。中間焼鈍を途中で挟まずに複数回の圧延を実施する場合、「1回の冷間圧延を実施する」に該当する。
上述のとおり、本実施形態の冷間圧延工程では、冷間圧延を1回実施してもよいし、冷間圧延を複数回実施してもよい。冷間圧延を1回のみ実施する場合、ペイオフリール21により巻き戻された熱延鋼板を冷間圧延機CMに1回通過させて圧下を付与して、冷延鋼板とする。一方、冷間圧延を複数回実施する場合、ペイオフリール21により巻き戻された鋼板(熱延鋼板又は冷延鋼板)を冷間圧延機CMに1回通過させて圧下を付与し、テンションリール22により巻き取り、その後、巻き取られた鋼板を再度ペイオフリール21により巻き戻して、冷間圧延機CMに1回通過させて圧下を付与し、再度テンションリールにより巻き取る。
冷間圧延工程において、冷間圧延を複数回実施する場合、冷間圧延を実施した後、中間焼鈍を実施し、その後、次の冷間圧延を実施する。冷間圧延と次の冷間圧延との間に実施する中間焼鈍処理の条件は、公知の条件で足りる。中間焼鈍処理での焼鈍温度はたとえば900〜1200℃であり、焼鈍温度での保持時間は30〜180秒である。中間焼鈍処理により、前段の冷間圧延にて鋼板に導入された歪みを低減した(鋼板を軟化した)後、次段の冷間圧延を実施する。
なお、冷間圧延工程では、上述のとおり、1回の冷間圧延のみを実施してもよい。
1回又は複数回での冷間圧延における、累積圧下率は特に限定されない。冷間圧延工程(S2)での好ましい累積圧下率は、80〜95%である。ここで、冷間圧延工程(S2)での累積圧下率(%)は次のとおり定義される。
冷延率(%)=(100−最後の冷間圧延後の鋼板の板厚/最初の冷間圧延開始前の鋼板の板厚)×100
なお、冷間圧延工程において、1回の冷間圧延のみを実施する場合、上記冷延率は、1回のみの冷間圧延での冷延率である。冷間圧延工程により製造された鋼板は、コイル状に巻き取られる。
[最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)]
最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)では、冷間圧延工程(S2)における1又は複数回の冷間圧延(S20)のうち、最終の冷間圧延(S20)前の鋼板に対して、焼鈍処理を実施する。最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)では、二段階の熱処理(1次熱処理、2次熱処理)を実施する。始めに、1次熱処理を実施する。1次熱処理では、鋼板を1次熱処理温度まで加熱する。1次熱処理温度は1000〜1200℃である。鋼板を1次熱処理温度まで加熱した後、2次熱処理を実施する。2次熱処理では、鋼板を1次熱処理温度から2次熱処理温度まで下げて、2次熱処理温度で保持する。2次熱処理温度は850〜950℃である。2次熱処理温度での保持時間は30〜180秒である。以上の最終冷間前焼鈍処理を実施することにより、鋼板の板幅方向にわたってAlNを微細分散することができる。
[脱炭焼鈍工程(S4)]
脱炭焼鈍工程(S4)では、冷間圧延工程(S2)後の鋼板(冷延鋼板)に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶を発現させる。
図6は、脱炭焼鈍工程(S4)でのヒートパターンを示す模式図である。図6を参照して、脱炭焼鈍工程(S4)は、昇温工程(S41)と、脱炭工程(S42)と、冷却工程(S43)とを含む。昇温工程(S41)では、鋼板を脱炭焼鈍温度Taまで加熱する。脱炭工程(S42)では、鋼板を脱炭焼鈍温度Taで保持して脱炭焼鈍を実施し、一次再結晶を発現させる。冷却工程(S43)では、脱炭工程(S42)後の鋼板を周知の方法で冷却する。本実施形態では、昇温工程(S41)において、鋼板の再結晶温度域に相当する550から800℃までの温度域での昇温速度を顕著に速くする。これにより、熱間圧延工程(S1)において鋼板の板幅中央位置に発達したαファイバー方位群の再結晶を促進して、αファイバー方位群の残存を抑制する。その結果、方向性電磁鋼板の板幅中央位置において、αファイバー方位群が残存することにより発生する、圧延方向に延在する線状不良領域の発生を抑制できる。その結果、線状不良領域に起因した、方向性電磁鋼板の磁気特性の低下を抑制することができる。以下、各工程の詳細を説明する。
[昇温工程(S41)]
昇温工程では、始めに、冷間圧延工程(S2)後の鋼板を熱処理炉に装入する。本実施形態における脱炭焼鈍用の熱処理炉では、たとえば、高周波誘導加熱により、冷延鋼板を脱炭焼鈍温度まで昇温する。昇温工程は次の条件Eを満たす。
(条件E)平均昇温速度RR550-800:800℃/秒以上
[(条件E)平均昇温速度RR550-800について]
昇温工程において、鋼板の温度が550℃から800℃に至るまでの間の昇温速度の平均を、平均昇温速度RR550-800(℃/秒)と定義する。平均昇温速度RR550-800が800℃/秒未満であれば、再結晶の駆動力となる歪エネルギーが、再結晶が開始される前に解放されてしまう。この場合、鋼板の板幅中央部において圧延方向に延びているαファイバー方位群からの再結晶が促進されず、αファイバー方位群が残存し、その結果、方向性電磁鋼板内に、圧延方向に延びる線状不良領域が形成される。この場合、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。
平均昇温速度RR550-800が800℃/秒以上であれば、再結晶が開始するまで歪エネルギーの解放が抑制される。そのため、αファイバー方位群からの再結晶が促進され、αファイバー方位群の残存を抑制することができる。その結果、方向性電磁鋼板において、線状不良領域が形成されるのを抑制でき、優れた磁気特性が得られる。
なお、平均昇温速度RR550-800の上限は特に限定されない。しかしながら、平均昇温速度RR550-800を2400℃/秒よりも速くしても、上記効果は飽和する。したがって、平均昇温速度RR550-800の上限は、2400℃/秒である。
平均昇温速度RR550-800の好ましい下限は850℃/秒であり、さらに好ましくは860℃/秒であり、さらに好ましくは880℃/秒であり、さらに好ましくは900℃/秒である。平均昇温速度RR550-800の好ましい上限は2300℃/秒であり、さらに好ましくは2200℃/秒であり、さらに好ましくは2100℃/秒である。
平均昇温速度RR550-800は次の方法により測定する。熱処理炉内には、鋼板の表面温度を測定するための複数の測温計が設置されている。複数の測温計は、熱処理炉の上流から下流に向かって配列されている。測温計により測定された鋼板の温度と、鋼板温度が550℃から800℃に上昇するまでに掛かった時間とに基づいて、平均昇温速度RR550-800を求める。平均昇温速度RR550-800は、サンプルの鋼板に熱電対を付けて実際に温度の時間変化を測定することにより、求めてもよい。
[脱炭工程(S42)]
脱炭焼鈍工程(S4)における脱炭工程(S42)では、昇温工程(S41)後の鋼板を脱炭焼鈍温度Taで保持して、脱炭焼鈍を実施する。これにより、鋼板に一次再結晶を発現させる。脱炭工程中の雰囲気は、周知の雰囲気で足り、たとえば、水素及び窒素を含有する湿潤窒素水素混合雰囲気である。脱炭焼鈍を実施することにより、鋼板中の炭素が鋼板から除去され、一次再結晶が発現する。脱炭工程(S42)での製造条件は次のとおりである。
脱炭焼鈍温度Ta:800〜950℃
脱炭焼鈍温度Taは、上述のとおり、脱炭焼鈍を実施する熱処理炉の炉温に相当し、脱炭焼鈍中の鋼板の温度に相当する。脱炭焼鈍温度Taが800℃未満であれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が小さすぎる。この場合、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。一方、脱炭焼鈍温度Taが950℃を超えれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が大きすぎる。この場合も、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。脱炭焼鈍温度Taが800〜950℃であれば、一次再結晶後の鋼板の結晶粒が適切なサイズとなり、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現する。
なお、脱炭工程(S42)における、脱炭焼鈍温度Taでの保持時間は特に限定されない。脱炭焼鈍温度Taでの保持時間はたとえば、15〜150秒である。
[冷却工程(S43)]
冷却工程(S43)では、脱炭工程(S42)後の鋼板を周知の方法で常温まで冷却する。冷却方法は放冷であってもよいし、水冷であってもよい。好ましくは、脱炭工程後の鋼板を放冷する。以上の工程により脱炭焼鈍工程(S4)では、鋼板に対して脱炭焼鈍処理を実施する。
以上の脱炭焼鈍工程(S4)を実施することにより、熱間圧延工程において鋼板中に生成したαファイバー方位群からの再結晶を促進させることができ、αファイバー方位群の残存を抑制することができる。そのため、仕上げ焼鈍工程(S6)において、ゴス方位粒を成長させることができ、方向性電磁鋼板内に、αファイバー方位群に起因した、圧延方向に延びる線状不良領域が形成されるのを抑制することができる。
[焼鈍分離剤塗布工程(S5)]
脱炭焼鈍工程(S6)後の鋼板に対して、焼鈍分離剤塗布工程(S5)を実施する。焼鈍分離剤塗布工程(S5)では、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布する。具体的には、鋼板表面に焼鈍分離剤を含有する水性スラリーを塗布する。水性スラリーは、焼鈍分離剤に水を加えて攪拌して作製する。焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)を含有する。好ましくは、MgOは焼鈍分離剤の主成分である。ここで、「主成分」とは、焼鈍分離剤中のMgO含有量が、質量%で60.0%以上であることを意味する。焼鈍分離剤は、MgO以外に、周知の添加剤を含有してもよい。
焼鈍分離剤塗布工程では、鋼板の表面上に水性スラリーの焼鈍分離剤を塗布する。表面に焼鈍分離剤が塗布された鋼板を巻取り、コイル状にする。鋼板をコイル状にした後、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施する。
なお、鋼板表面上に水性スラリーの焼鈍分離剤を塗布し、鋼板をコイル状にした後、仕上げ焼鈍工程を実施する前に、焼付け処理を実施してもよい。焼付け処理では、コイル状の鋼板を、400〜1000℃に保持した炉内に装入し、保持する(焼付け処理)。これにより、鋼板表面上に塗布された焼鈍分離剤が乾燥する。保持時間はたとえば10〜90秒である。
焼付け処理を実施せずに、焼鈍分離剤が塗布されたコイル状の鋼板に対して、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施してもよい。
[仕上げ焼鈍工程(S6)]
焼鈍分離剤塗布工程(S5)後の鋼板に対して、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施して、二次再結晶を発現させる。仕上げ焼鈍工程(S6)は、熱処理炉を用いて実施する。仕上げ焼鈍工程(S6)での製造条件はたとえば、次のとおりである。なお、仕上げ焼鈍における炉内雰囲気は、周知の雰囲気である。
仕上げ焼鈍温度:1150〜1250℃
仕上げ焼鈍温度での保持時間:5〜30時間
仕上げ焼鈍温度が1150℃未満であれば、十分な二次再結晶が発現せず、また二次再結晶に用いた析出物を除去する純化が十分ではない。そのため、製造された方向性電磁鋼板の磁気特性が低くなる。一方、仕上げ焼鈍温度が1250℃を超えても二次再結晶、純化に対する効果が低いとともに、鋼板の変形などの問題が生じる。仕上げ温度が1150〜1250℃であれば、上記保持時間が適切であることを前提として、十分な二次再結晶が発現して、磁気特性が高まる。さらに、鋼板表面上にフォルステライトを含有する一次被膜が健全に形成される。
本実施形態の製造方法では、熱間圧延工程(S1)において、長軸長さが1μm未満の微細なMnインヒビター(MnS及びMnSe)が鋼板中に微細に分散している。そのため、これらの微細なMnインヒビター、及び、最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)において生成した微細なAlNインヒビターが、仕上げ焼鈍工程(S5)における二次再結晶を安定化する。その結果、方向性電磁鋼板の板幅方向の両端部において、二次再結晶の不良領域が発生するのを抑制することができる。
本実施形態の製造方法では、熱間圧延工程(S2)において、条件A〜条件Dを実施することにより、Mnインヒビターの微細化を優先する。そのため、熱間圧延工程(S1)後の熱延鋼板の板幅方向中央位置に、圧延方向に延びるαファイバー方位群が生成する可能性がある。しかしながら、脱炭焼鈍工程(S4)において、550℃から800℃までの間の温度域での平均昇温速度RR550-800を800℃/秒以上とすることにより(条件E)、再結晶を開始するまでに鋼板中の歪エネルギーが解放されるのを抑制し、αファイバー方位群からの再結晶を促進する。これにより、方向性電磁鋼板において、αファイバー方位群に起因した線状不良領域が残存するのを抑制することができ、優れた磁気特性が得られる。
なお、仕上げ焼鈍工程(S6)により、鋼板の化学組成の各元素が鋼板中からある程度取り除かれる。特に、インヒビターとして機能するS、Al、N等は大幅に取り除かれる。
なお、仕上げ焼鈍工程(S6)後の方向性電磁鋼板の表面には、フォルステライトを含有する一次被膜が形成されている。
[二次被膜形成工程]
本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法ではさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程(S6)後に、周知の二次被膜形成工程を実施してもよい。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程(S6)の冷却後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする周知の絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施する。これにより、一次被膜上に、周知の張力付与絶縁被膜である二次被膜が形成される。
[磁区細分化処理工程]
本実施形態による方向性電磁鋼板はさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程(S6)又は二次被膜形成工程後に、磁区細分化処理工程を実施してもよい。磁区細分化処理工程では、方向性電磁鋼板の表面に、磁区細分化効果のあるレーザ光を照射したり、表面に溝を形成したりする。この場合、さらに磁気特性に優れる方向性電磁鋼板が製造できる。
以下に、本発明の態様を実施例により具体的に説明する。これらの実施例は、本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法の効果を確認するための一例であり、本発明を限定するものではない。
実施例1では、熱間圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1(条件C)と、脱炭焼鈍工程での550℃から800℃までの間での平均昇温速度RR550-800(条件E)とを変化させて、磁束密度B8と、板幅方向の両端部に発生する不良組織の発生状況について調査を行った。具体的には、表1の化学組成を有するスラブを準備した。
Figure 2020169366
表1中の「−」は、対応する元素の含有量が検出限界未満であったことを示す。上記スラブを加熱炉にて1370℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延工程を実施して、熱延鋼板を製造した。いずれの試験番号においても、粗圧延工程の最終の圧下での圧下率R1は48%であり、粗圧延工程での累積圧下率TRは73%であった。さらに、粗圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1は、表2に示すとおりであった。粗圧延工程後、仕上げ圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。このとき、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1は、いずれも、120秒であった。
Figure 2020169366
熱間圧延工程により製造された熱延鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍工程を実施した。最終冷間圧延前焼鈍工程では、熱延鋼板を1120℃まで加熱して再結晶させた後、焼鈍温度を900℃、焼鈍温度での保持時間を30秒として、鋼板を焼鈍した。
最終冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、1回の冷間圧延(最終冷間圧延)を実施して、厚さ0.22mmの冷延鋼板を製造した。冷間圧延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程を実施した。脱炭焼鈍工程において、脱炭焼鈍温度Taを800℃とし、脱炭焼鈍温度での保持時間を120秒とした。さらに、脱炭焼鈍工程の昇温工程での550℃から800℃までの平均昇温速度RR550-800は、表2に示すとおりであった。
脱炭焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを主成分とする焼結分離剤(水スラリー)を塗布した後、コイル状に巻き取った。コイル状に巻き取られた鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施した。仕上げ焼鈍温度を1200℃とし、仕上げ焼鈍温度での保持時間を20時間とした。仕上げ焼鈍後の鋼板を放冷した。
仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、二次被膜形成工程を実施した。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。焼付温度を900℃とし、焼付温度での保持時間を30秒とした。これにより、一次被膜上に、張力付与絶縁被膜である二次被膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
[評価試験]
[磁気特性評価試験]
次の方法により、各試験番号の方向性電磁鋼板の磁束密度Bを、JIS C2556(2015)に準拠して、評価した。具体的には、各サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度B8(T)を測定した。得られた磁束密度B8を表2に示す。
[熱延鋼板中の粗大析出物個数密度測定試験]
熱間圧延工程により製造された各試験番号の熱延鋼板の板幅中央位置から、縦20mm、横20mmであり、板厚2.3mm(熱延鋼板の板厚と同じ)である、正方形のサンプルを採取した。採取されたサンプルのうち、圧延面及び圧延方向に平行な断面を観察面とする、走査型電子顕微鏡(SEM)用の試験片を作成した。試験片の観察面において、母相と析出物とはコントラストが異なる。そこで、観察面のうち、30mm2の観察視野内で、コントラストに基づいて、長軸長さが1μm以上の析出物(粗大析出物)を特定した。特定された粗大析出物はいずれもMnインヒビター(MnS及びMnSe)とみなした。特定された粗大析出物の個数をカウントし、粗大析出物の個数と、観察視野(30mm2)とに基づいて、粗大析出物の個数密度(個/mm2)を求めた。粗大析出物の個数密度について、次のとおり評価した。評価結果を表2に示す。
○:粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下である。
×:粗大析出物の個数密度が21個/mm2以上である。
[不良組織深さ測定試験]
図7は、不良組織深さ測定試験で用いたサンプル形状を示す図である。図7を参照して、各試験番号の方向性電磁鋼板の板幅をWと定義した。各試験番号の方向性電磁鋼板から、圧延方向RDに100mm、板幅方向TDにWmmのサンプルを採取した。採取したサンプルから、一次被膜及び二次被膜を次の方法で除去した。方向性電磁鋼板を、NaOH:40質量%及びH2O:60質量%を含有し、80〜90℃の水酸化ナトリウム水溶液に、7分間浸漬した。浸漬後の方向性電磁鋼板を水洗した。水洗後、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させた。以上の処理により二次被膜が除去された方向性電磁鋼板(つまり、1次被膜を備えた母材鋼板)を作製した。さらに、二次被膜が除去された方向性電磁鋼板を、80〜90℃の塩酸に5〜30秒浸漬して、母材鋼板から一次被膜を除去した。一次被膜を除去された母材鋼板を水洗し、水洗後に温風のブロアーで1分間弱、乾燥させた。以上の方法により、一次被膜及び二次被膜が除去され、さらに、圧延面(表面)がエッチングされたサンプルを作製した。
図7に示すとおり、エッチング後のサンプルにおいて、板幅方向のTDの両端部に不良組織IAが生成している場合、不良組織IAの結晶粒のサイズは、正常組織NAの結晶粒のサイズよりも遥かに小さい。そのため、不良組織IAは目視により容易に識別可能である。そこで、エッチングされたサンプルを目視により確認して、両端部の不良組織IAの有無を識別した。そして、図7における板幅方向TDの左端部に不良組織IAが発生している場合、不良組織IAの板幅方向TDの長さのうち、最大の長さを不良組織深さWL(mm)と定義した。さらに、図7における板幅方向TDの右端部に不良組織IAが発生している場合、不良組織IAの板幅方向TDの長さのうち、最大の長さを不良組織深さWR(mm)と定義した。不良組織深さWL及びWRのうち、値が大きい方を、その試験番号の方向性電磁鋼板での不良組織深さWO(mm)と定義した。得られた不良組織深さWOを表2に示す。
[試験結果]
得られた試験結果を表2に示す。表2を参照して、試験番号10〜13、及び、17〜20では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。さらに、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。
一方、試験番号1〜6では、少なくとも、熱間圧延工程における最終の圧下直後の粗バーの温度T1(条件C)が低かった。そのため、熱延鋼板において、粗大析出物の個数密度が21個/mm2以上であった。その結果、不良組織深さWOが5mm以上であり、板幅方向TDの両端部において、不良組織が過剰に発生した。さらに、方向性電磁鋼板の磁束密度B8が1.930T未満であり、磁気特性が低かった。
試験番号7〜9、14〜16では、熱間圧延工程における最終の圧下直後の粗バーの温度T1(条件C)は適切だったものの、脱炭焼鈍工程での平均昇温速度RR550-800(条件E)が遅かった。そのため、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていたものの、方向性電磁鋼板の磁束密度B8が1.930T未満であり、磁気特性が低かった。
実施例2では、熱間圧延工程における最終の圧下での圧下率R1(条件B)と、最終の圧下直後の粗バーの温度T1(条件C)と、脱炭焼鈍工程での平均昇温速度RR550-800(条件E)とを変化させて、磁束密度B8と、板幅方向の両端部に発生する不良組織の発生状況について調査を行った。具体的には、表3の化学組成を有するスラブを準備した。
Figure 2020169366
表3中の「−」は、対応する元素の含有量が検出限界未満であったことを示す。上記スラブを加熱炉にて1370℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。各試験番号において、粗圧延工程での最終の圧下での圧下率R1は表4に示すとおりであった。また、いずれの試験番号においても、粗圧延工程での累積圧下率は73%であった。さらに、粗圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1は、表4に示すとおりであった。粗圧延工程後、仕上げ圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。このとき、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1は、いずれも、120秒であった。
Figure 2020169366
熱間圧延工程により製造された熱延鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍工程を実施した。最終冷間圧延前焼鈍工程では、熱延鋼板を1120℃まで加熱して再結晶させた後、焼鈍温度を900℃、焼鈍温度での保持時間を30秒として、鋼板を焼鈍した。
最終冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、1回の冷間圧延(最終冷間圧延)を実施して、厚さ0.22mmの冷延鋼板を製造した。冷間圧延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程を実施した。脱炭焼鈍工程において、脱炭焼鈍温度Taを800℃とし、脱炭焼鈍温度Taでの保持時間を120秒とした。さらに、脱炭焼鈍工程での平均昇温速度RR550-800は、表4に示すとおりであった。
脱炭焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを主成分とする焼結分離剤(水スラリー)を塗布した後、コイル状に巻き取った。コイル状に巻き取られた鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施した。仕上げ焼鈍温度を1150℃とし、仕上げ焼鈍温度での保持時間を10時間とした。仕上げ焼鈍後の鋼板を放冷した。
仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、二次被膜形成工程を実施した。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。焼付温度を900℃とし、焼付温度での保持時間を30秒とした。これにより、一次被膜上に、張力付与絶縁被膜である二次被膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
[評価試験]
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8(T)、熱延鋼板中の粗大析出物の個数密度(個/mm2)、不良組織深さWOを求めた。
[試験結果]
得られた試験結果を表4に示す。表4を参照して、試験番号8、9、11及び12では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。さらに、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。
一方、試験番号1〜6では、少なくとも、熱間圧延工程における最終の圧下直後の粗バーの温度T1(条件C)が低かった。そのため、熱延鋼板において、粗大析出物の個数密度が21個/mm2以上であった。その結果、不良組織深さWOが5mm以上であり、板幅方向TDの両端部において、不良組織が過剰に発生した。さらに、方向性電磁鋼板の磁束密度B8が1.930T未満であり、磁気特性が低かった。
試験番号7及び10では、脱炭焼鈍工程での平均昇温速度RR550-800(条件E)が遅かった。そのため、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていたものの、方向性電磁鋼板の磁束密度B8が1.930T未満であり、磁気特性が低かった。
試験番号13〜18では、少なくとも、熱間圧延工程における最終の圧下での圧下率R1(条件(B))が高すぎた。そのため、熱延鋼板において、粗大析出物の個数密度が21個/mm2以上であった。その結果、不良組織深さWOが5mm以上であり、板幅方向TDの両端部において、不良組織が過剰に発生した。さらに、方向性電磁鋼板の磁束密度B8が1.930T未満であり、磁気特性が低かった。
実施例3では、熱間圧延工程における最終の圧下での圧下率R1(条件B)と、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1(条件D)とを変化させて、磁束密度B8と、板幅方向の両端部に発生する不良組織の発生状況について調査を行った。具体的には、表5の化学組成を有するスラブを準備した。
Figure 2020169366
表5中の「−」は、対応する元素の含有量が検出限界未満であったことを示す。上記スラブを加熱炉にて1370℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延工程を実施して、熱延鋼板を製造した。各試験番号において、粗圧延工程での最終の圧下での圧下率R1は表6に示すとおりであった。また、いずれの試験番号においても、粗圧延工程での累積圧下率は73%であり、粗圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1は1350℃であった。粗圧延工程後、仕上げ圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。このとき、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1は、表6に示すとおりであった。
Figure 2020169366
熱間圧延工程により製造された熱延鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍工程を実施した。最終冷間圧延前焼鈍工程では、熱延鋼板を1120℃まで加熱して再結晶させた後、焼鈍温度を900℃、焼鈍温度での保持時間を30秒として、鋼板を焼鈍した。
最終冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、1回の冷間圧延(最終冷間圧延)を実施して、厚さ0.22mmの冷延鋼板を製造した。冷間圧延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程を実施した。脱炭焼鈍工程において、脱炭焼鈍温度Taを800℃とし、脱炭焼鈍温度での保持時間を120秒とした。さらに、脱炭焼鈍工程での平均昇温速度RR550-800は、1000℃/秒とした。
脱炭焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを主成分とする焼結分離剤(水スラリー)を塗布した後、コイル状に巻き取った。コイル状に巻き取られた鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施した。仕上げ焼鈍温度を1150℃とし、仕上げ焼鈍温度での保持時間を10時間とした。仕上げ焼鈍後の鋼板を放冷した。
仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、二次被膜形成工程を実施した。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。焼付温度を900℃とし、焼付温度での保持時間を30秒とした。これにより、一次被膜上に、張力付与絶縁被膜である二次被膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
[評価試験]
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8(T)、熱延鋼板中の粗大析出物の個数密度(個/mm2)、不良組織深さWOを求めた。
[試験結果]
得られた結果を表6に示す。表6を参照して、試験番号1及び2では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。さらに、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。
一方、試験番号3及び4では、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1(条件D)が長すぎた。そのため、熱延鋼板において、粗大析出物の個数密度が21個/mm2以上であった。その結果、不良組織深さWOが5mm以上であり、板幅方向TDの両端部において、不良組織が過剰に発生した。さらに、方向性電磁鋼板の磁束密度B8が1.930T未満であり、磁気特性が低かった。
試験番号5〜8では、少なくとも、粗圧延工程での最終の圧下での圧下率R1(条件B)が高すぎた。そのため、熱延鋼板において、粗大析出物の個数密度が21個/mm2以上であった。その結果、不良組織深さWOが5mm以上であり、板幅方向TDの両端部において、不良組織が過剰に発生した。さらに、方向性電磁鋼板の磁束密度B8が1.930T未満であり、磁気特性が低かった。
実施例4では、熱間圧延工程における粗圧延工程での累積圧下率TR(条件A)、粗圧延工程での最終の圧下での圧下率R1(条件B)とを変化させて、磁束密度B8と、板幅方向の両端部に発生する不良組織の発生状況について調査を行った。具体的には、表7の化学組成を有するスラブを準備した。
Figure 2020169366
表7中の「−」は、対応する元素の含有量が検出限界未満であったことを示す。上記スラブを加熱炉にて1370℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延工程を実施して熱延鋼板を製造した。各試験番号において、粗圧延工程での累積圧下率TR、及び、最終の圧下での圧下率R1は表8に示すとおりであった。また、いずれの試験番号においても、粗圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1は1350℃であった。粗圧延工程後、仕上げ圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。このとき、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1は、いずれの試験番号においても、120秒であった。
Figure 2020169366
熱間圧延工程により製造された熱延鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍工程を実施した。最終冷間圧延前焼鈍工程では、熱延鋼板を1120℃まで加熱して再結晶させた後、焼鈍温度を900℃、焼鈍温度での保持時間を30秒として、鋼板を焼鈍した。
最終冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、1回の冷間圧延(最終冷間圧延)を実施して、厚さ0.22mmの冷延鋼板を製造した。冷間圧延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程を実施した。脱炭焼鈍工程において、脱炭焼鈍温度Taを800℃とし、脱炭焼鈍温度Taでの保持時間を120秒とした。さらに、脱炭焼鈍工程の昇温工程での550℃から800℃までの平均昇温速度RR550-800は、1000℃/秒とした。
脱炭焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを主成分とする焼結分離剤(水スラリー)を塗布した後、コイル状に巻き取った。コイル状に巻き取られた鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施した。仕上げ焼鈍温度を1150℃とし、仕上げ焼鈍温度での保持時間を10時間とした。仕上げ焼鈍後の鋼板を放冷した。
仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、二次被膜形成工程を実施した。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。焼付温度を900℃とし、焼付温度での保持時間を30秒とした。これにより、一次被膜上に、張力付与絶縁被膜である二次被膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
[評価試験]
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8(T)、熱延鋼板中の粗大析出物の個数密度(個/mm2)、不良組織深さWOを求めた。
[試験結果]
得られた結果を表8に示す。表8を参照して、試験番号1〜3では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。さらに、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。
一方、試験番号4〜6では、粗圧延工程での累積圧下率TR(条件A)が高すぎた。そのため、熱延鋼板において、粗大析出物の個数密度が21個/mm2以上であった。その結果、不良組織深さWOが5mm以上となり、板幅方向TDの両端部において、不良組織が過剰に発生した。さらに、方向性電磁鋼板の磁束密度B8が1.930T未満であり、磁気特性が低かった。
試験番号7〜12では、少なくとも、粗圧延工程での最終の圧下での圧下率R1(条件(B))が高すぎた。そのため、熱延鋼板において、粗大析出物の個数密度が21個/mm2以上であった。その結果、不良組織深さWOが5mm以上となり、板幅方向TDの両端部において、不良組織が過剰に発生した。さらに、方向性電磁鋼板の磁束密度B8が1.930T未満であり、磁気特性が低かった。
実施例5では、任意元素を含む種々の化学組成のスラブを準備して、磁束密度B8と、板幅方向の両端部に発生する不良組織の発生状況について調査を行った。具体的には、表9の化学組成を有するスラブを準備した。
Figure 2020169366
表9中の「−」は、対応する元素の含有量が検出限界未満であったことを示す。また、「任意元素」欄中の数値と元素記号は、任意元素として含有されていた元素と、その含有量(質量%)を示す。たとえば、試験番号2では、任意元素として、質量%で0.053%のCuと、0.054%のCrとを含有していることを意味する。
各試験番号のスラブを加熱炉にて1370℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延工程を実施して熱延鋼板を製造した。粗圧延工程での累積圧下率TR(条件A)は73%であり、最終の圧下での圧下率R1(条件B)は48%であった。さらに、粗圧延工程での最終の圧下直後の粗バーの温度T1(条件C)は1360℃であった。粗圧延工程後、仕上げ圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。このとき、粗圧延後仕上げ圧延前時間t1(条件D)は、120秒であった。
熱間圧延工程により製造された熱延鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍工程を実施した。最終冷間圧延前焼鈍工程では、熱延鋼板を1120℃まで加熱して再結晶させた後、焼鈍温度を900℃、焼鈍温度での保持時間を30秒として、鋼板を焼鈍した。
最終冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、1回の冷間圧延(最終冷間圧延)を実施して、厚さ0.22mmの冷延鋼板を製造した。冷間圧延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程を実施した。脱炭焼鈍工程において、脱炭焼鈍温度Taを800℃とし、脱炭焼鈍温度Taでの保持時間を120秒とした。さらに、脱炭焼鈍工程の昇温工程での550℃から800℃までの平均昇温速度RR550-800(条件E)は、800℃/秒であった。
脱炭焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを主成分とする焼結分離剤(水スラリー)を塗布した後、コイル状に巻き取った。コイル状に巻き取られた鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施した。仕上げ焼鈍温度を1150℃とし、仕上げ焼鈍温度での保持時間を10時間とした。仕上げ焼鈍後の鋼板を放冷した。
仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、二次被膜形成工程を実施した。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。焼付温度を900℃とし、焼付温度での保持時間を30秒とした。これにより、一次被膜上に、張力付与絶縁被膜である二次被膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
[評価試験]
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8(T)、熱延鋼板中の粗大析出物の個数密度(個/mm2)、不良組織深さWOを求めた。
[試験結果]
得られた試験結果を表9に示す。表9を参照して、試験番号1〜8では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、製造工程中の条件A〜条件Eが適切であった。そのため、いずれの番号の熱延鋼板においても、粗大析出物の個数密度が20個/mm2以下であった。その結果、磁束密度B8は1.930T以上と高く、磁気特性に優れた。さらに、不良組織深さWOはいずれも5mm未満(具体的にはいずれも0mm)であり、不良組織が十分に抑制されていた。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (3)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.020〜0.100%、
    Si:3.00〜4.00%、
    Mn:0.010〜0.300%、
    S及び/又はSe:合計で0.010〜0.050%、
    sol.Al:0.020〜0.028%、
    N:0.002〜0.015%、
    Sn:0〜0.500%、
    Cr:0〜0.500%、
    Cu:0〜0.500%、
    Bi:0〜0.0100%、及び、
    残部がFe及び不純物からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する熱間圧延工程と、
    前記熱間圧延工程後の前記鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する冷間圧延工程と、
    1又は複数回の前記冷間圧延のうち、最終の前記冷間圧延前の前記鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程と、
    前記冷間圧延工程後の前記鋼板を800〜950℃の脱炭焼鈍温度まで加熱し、前記脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持する脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程と、
    前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
    前記焼鈍分離剤が塗布された前記鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程とを備え、
    前記熱間圧延工程は、
    前記スラブに対して、粗圧延を実施して、粗バーを製造する粗圧延工程と、
    前記粗バーに対して仕上げ圧延を実施して、前記鋼板を製造する仕上げ圧延工程とを含み、
    前記粗圧延工程では、
    前記スラブに対して複数回の圧下を実施し、
    前記粗圧延工程での累積圧下率を75%未満とし、
    前記粗圧延工程の最終の圧下での圧下率を50%未満とし、
    前記粗圧延工程の最終の圧下直後の前記粗バーの温度を1350℃以上とし、
    前記粗圧延工程での前記スラブの後端に対する最終の圧下が完了した後、前記仕上げ圧延工程での前記粗バーの後端に対する最初の圧下が完了するまでの時間を150秒以下とし、
    前記脱炭焼鈍工程では、
    前記鋼板の温度が550℃から800℃になるまでの間、800℃/秒以上の平均昇温速度で前記鋼板を加熱する、
    方向性電磁鋼板の製造方法。
  2. 請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    前記スラブの前記化学組成は、
    Sn:0.010〜0.500%、
    Cr:0.010〜0.500%、及び、
    Cu:0.010〜0.500%、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、
    方向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    前記スラブの前記化学組成は、
    Bi:0.0010〜0.0100%
    を含有する、
    方向性電磁鋼板の製造方法。
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