JP2011111653A - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】磁束密度を向上したNbを含有したスラブからなる鋼板の鉄損特性も同時に向上させる方法を提供する。
【解決手段】鋼スラブの成分として、Mn、S、酸可溶性AlおよびNに加えて、Nb:0.001〜0.015質量%を含有し、最終冷間圧延の前に施す焼鈍の焼鈍温度を900℃以上とし、ついで、900℃から600℃までの冷却速度を平均で1℃/s以上として、最終冷間圧延における圧下率を80%以上とし、
再結晶焼鈍における焼鈍温度が900℃以下で、かつ鋼板が800℃以上の温度に保持される時間を600秒以内とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、変圧器の鉄心材料に好適な方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
方向性電磁鋼板については、インヒビターと呼ばれる析出物を利用して仕上焼鈍中にGoss方位を有する粒を優先して二次再結晶させることが一般的な技術として使用されている。例えば、特許文献1に記載のAlN、MnSを使用する技術、特許文献2に記載のMnS、MnSeを使用する技術が工業的に実用化されている。これらのインヒビターを用いる方法は、1300℃以上という高温でのスラブ加熱を必要とするものの、安定して二次再結晶粒を発達させるために有用な方法である。さらには、これらのインヒビターの働きを強化するために、Pb、Sb、Nb、Teを副次的に利用する技術が特許文献3に、Zr、Ti、B、Nb、Ta、V、Cr、Moを副次的に利用する技術が特許文献4に、開示されている。
しかし、インヒビターを利用する方向性電磁鋼板の製造においては、上述したとおり高温でのスラブ加熱を必要とするため、結晶粒が粗大化しやすく、熱間圧延での耳割れが生じることは大きな問題である。これに対し、特許文献5には、上記したように副インヒビターとしても利用可能であるNbを熱間圧延時の耳割れ防止用元素として用いることが記載されている。
特公昭40−15644号公報 特公昭51−13469号公報 特公昭38−8214号公報 特開昭52−24116号公報 特公平6−63031号公報
特許文献5では、耳割れ防止のために、方向性電磁鋼板にNbを添加するに当たり、磁気特性の劣化しない範囲に添加量を規制している。しかしながら、磁気特性のうち、磁束密度は比較的良好な値となっているが、鉄損については満足できるレベルではなく、Nbを添加する際の課題として残っていた。
そこで、発明者らは、この鉄損特性の劣化の理由を検討した。その結果、二次再結晶焼鈍と純化焼鈍を兼ねた最終仕上焼鈍後においても、鋼中において、特にNbが炭化物を形成して留まることで、ヒステリシス損が増大していることが明らかとなった。
次に、発明者らは、ヒステリシス損を低減する方策を検討した。そして、ヒステリシス損の増加量がNb添加量にほぼ比例し、Nb添加量を磁束密度の向上効果が維持できる範囲内にて制限することで、ヒステリシス損の増加をある程度抑制できることを知見した。
以下、本発明を成功に至らしめた実験について説明する。
[実験1]
質量%で、C:0.045〜0.062%、Si:3.10〜3.25%、Mn:0.06〜0.16%、Al:0.022〜0.025%、N:0.007〜0.009%、S:0.012〜0.015%およびSn:0.032〜0.035%を含み、さらにNbの添加量を種々に変更し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1250℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.7mmの厚さに仕上げた。ついで、1100℃,20秒の熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.30mmの板厚に仕上げた。その後、均熱条件が830℃,80秒の脱炭を兼ねた再結晶焼鈍を施した後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃,10時間保定する最終仕上焼鈍を行った。
得られたサンプルの磁気特性をJIS C 2550に規定の方法に従って測定した。Nb量と磁束密度B8およびヒステリシス損の関係を図1に示す。同図より、Nbが無添加の場合は、磁束密度B8が低く、またヒステリシス損が高くなり、Nb量を、0.001〜0.015質量%とした場合に、ヒステリシス損が低くなっていることが分かる。
この理由を検討するため、磁気特性を測定したサンプルの断面を光学顕微鏡で観察したところ、Nb添加量が増加するにつれて、鋼中に微細な析出物が多く残存している傾向が認められた。
鋼中の析出物は、磁壁の移動を阻害してヒステリシス損を劣化させることが知られているが、この劣化を抑制するためには、Nb添加量を0.015質量%以下に制限する必要があることが分かった。
上記知見をもとに、Nb添加量を少なくした実験を重ねると、製造条件によっては、二次再結晶粒が発現しない場合や、二次再結晶粒の方位が悪く、磁気特性が芳しくない場合などがかなりの頻度で認められるようになった。
この原因を調査するため、二次再結晶前のNbの形態を調べたところ、Nbは、鋼中に微細析出物を形成しつつ存在していることが明らかとなった。これら析出物は、前掲Nbの炭化物(NbC)であり、また、NbCがインヒビターの役割を担っていると推測した。
ここで、一般的に知られているインヒビターのMnSeやAlNは、1400℃程度の高温スラブ加熱により固溶し、その後の熱間圧延で微細に析出させる。そしてそれ以降、二次再結晶が発現するまでは固溶温度に達するほどの温度で焼鈍を行なわないことから、MnSeやAlNの粒径や分布にはあまり変化がないことが知られている。
しかしながら、NbCをインヒビターとして利用することを考えた場合、NbCのFeへの固溶温度が低いために、熱延板焼鈍や中間焼鈍でも固溶する可能性がある。さらに二次再結晶前の工程は、脱炭を伴う再結晶焼鈍であり、鋼中のC量が大幅に減少する工程である。このため、炭化物であるNbCの固溶−析出温度が変化し、均一かつ微細な析出物分布状態を維持することが困難となって、結果的に鋼板の磁気特性が不安定になると考えられる。
従って、NbCをインヒビターとして、その機能を充分に発現させるためには、二次再結晶時に、NbCが鋼中に微細かつ均一に分布していることが必要である。そのために、鋼板の製造工程のある時点でNbCを微細かつ均一に分布させると共に、二次再結晶まではその分布を変化させない工程条件が必要となる。
このように考えると、NbCをインヒビターとして、その機能を充分に発現させるための最適な工程条件は、最終冷間圧延直前の焼鈍で固溶させた後、最終冷間圧延後の再結晶焼鈍で析出させて、その後の再結晶焼鈍時には、NbCを再び固溶させないことが重要であると推測される。
そこで、最終冷間圧延直前の焼鈍条件を種々変更する実験を行った。
[実験2]
質量%で、C:0.062%、Si:3.23%、Mn:0.13%、S:0.020%、酸可溶性Al:0.025%、N:0.008%、Sn:0.13%、Nb:0.004%およびCr:0.07%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、連続鋳造にて製造し、1400℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.4mmの厚さに仕上げた。その後、表1に記載の保定温度、保定時間および冷却速度により熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.23mmの板厚に仕上げた。
表1の焼鈍種類の欄に記載された連続焼鈍とは、鋼コイルをストリップ状で払い出して1枚の板を連続的に焼鈍する方法であり、短時間の保定かつ短時間での冷却が特徴である。一方、バッチ焼鈍とは鋼コイルをその形状のまま炉に入れて焼鈍する方法であり、長時間の保定かつ長時間での冷却が特徴である。
よって、今回の実験では、この両者で焼鈍条件が大きく異なっている。
また、表1中の冷却速度とは、900℃から600℃までの冷却速度のことであり、900℃から600℃までに要した冷却時間から計算した平均冷却速度のことである。
その後、均熱条件が50%N2−50%H2湿潤雰囲気で、850℃,60秒の再結晶焼鈍を施した後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃で10時間保定する最終仕上焼鈍を行った。
Figure 2011111653
ついで、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティングの形成を兼ねた平坦化焼鈍を875℃,30秒の条件で施した。得られたサンプルの磁気特性をJIS C 2550に規定の方法で測定し、その測定結果を表1に併記する。同表より、保定温度が900℃以上で、かつ焼鈍種類が連続焼鈍のとき磁気特性が良好であることが分かる。
上述したとおり、NbCのインヒビター効果を利用するためには、インヒビター成分を一度固溶させて、その後微細かつ均一に析出させることが重要である。すなわち、保定温度が900℃以上になると磁気特性が向上するのは、この温度以上でNbCが固溶するためと考えられる。
また、連続焼鈍タイプが有効であるのは、冷却速度が重要であるためと考えられる。
前述したとおり、連続焼鈍タイプの冷却速度はバッチ焼鈍タイプより速いため、NbCは固溶したまま、過飽和の状態で、鋼中に存在すると考えられる。すなわち、鋼板の冷却速度には適正範囲があることがここに示唆されているのである。
そこで、さらに検討を行ったところ、NbCが固溶したままの過飽和状態を達成するためには、1℃/s以上の冷却速度が必要であることが分かった。
次に、NbCの分散状態は圧延条件にも依存すると考えられるため、冷間圧延の圧下率を変更した実験を行った。
[実験3]
実験2で使用した成分の鋼スラブを、1400℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により1.2〜2.7mmの厚さに仕上げた。その後、1050℃で90秒保定する連続焼鈍タイプの熱延板焼鈍を施し、冷間圧延により0.23〜0.35mmの板厚に仕上げた。この時、熱延板焼鈍の900℃から600℃までの冷却速度は60℃/sとした。また、熱間圧延後と冷間圧延後の板厚を種々作製することで、冷延圧下率を変更した。ついで、均熱条件が50%N2−50%H2湿潤雰囲気で、850℃,60秒の再結晶焼鈍を施した後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃で10時間保定する最終仕上焼鈍を行った。その後、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を875℃,30秒の条件で施した。
得られたサンプルの磁束密度B8をJIS C 2550に規定された方法で測定し、その測定結果を図2に示す。同図より、最終冷間圧延の圧下率が80%以上で磁束密度B8が良好であることが明らかとなった。
すなわち、冷間圧延前に過飽和に固溶したNbが鋼中に均一に析出物を形成させるためには、圧延による歪を多量かつ均一に、鋼板に導入する必要があると推定される。
以上の実験から得られた知見を以下にまとめ、NbCをインヒビターとして利用する際の技術的に重要なポイントを記す。
Nbは、多量に添加すると最終製品板の鋼中で析出物を形成して残存するため、鉄損が劣化する。この鉄損劣化を抑制するためには0.015質量%以下の添加量とすることが肝要である。
Nbは、NbCの微細析出物を形成し、インヒビター効果を発現することで磁気特性が良好になると考えられる。ただし、NbCは固溶温度が低いため、途中工程での、例えば、焼鈍工程でも、固溶および再析出をする場合がある。従って、インヒビター効果を充分発揮させるためには、最終冷間圧延前の焼鈍で900℃以上に保定してNbCを固溶させ、その焼鈍時の冷却速度を速くすることで、固溶したままの過飽和状態をつくり、さらに次工程の最終冷間圧延の圧下率を80%とすることで、NbCの析出サイトとなりうる圧延歪を、鋼板に均一に導入することが重要であると考えられる。
ここに、上記考察から予想されることとして、NbCは、冷間圧延の次工程である再結晶焼鈍の昇温過程で析出すると考えられる。このNbCが再度固溶すると、二次再結晶時のNbCのインヒビター効果が得られなくなるため、固溶を防止するために再結晶焼鈍の温度は900℃以下が必須と考えられる。しかし、900℃以下でも、長時間保定するとNbC析出物の粗大化が起こり、インヒビター効果が発揮されない可能性も考えられる。
そのため、再結晶焼鈍の高温域保定時間と磁気特性との関係を調査する実験を行った。
[実験4]
実験2で使用した成分の鋼スラブを、1400℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.7mmの厚さに仕上げた。それから1000℃で90秒保定する連続焼鈍タイプの熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.27mmの板厚に仕上げた。熱延板焼鈍の900℃から600℃までの冷却速度は45℃/sとした。その後、50%N2−50%H2湿潤雰囲気で、均熱温度が850℃の再結晶焼鈍を施した。この際、鋼板が800℃以上の温度で保持される時間(図3に保持時間として記載する)を種々変更した。
さらに、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した後、1200℃で10時間保定する最終仕上焼鈍を行い、ついで、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を840℃,30秒の条件で施した。
得られたサンプルの磁気特性をJIS C 2550に規定の方法で測定し、その測定結果を図3に示した。同図より、保持時間が長くなると磁束密度B8が徐々に劣化していることが明らかとなった。この結果からは、保持時間を600秒以下にする必要があるといえる。さらに磁束密度B8を良好とするためには200秒以下が望ましい。
以上のような実験、考察を経て、発明者らは、Nb、特にその炭化物をインヒビターとして利用する際には、その添加量を制限し、最終冷間圧延前焼鈍、最終冷間圧延および再結晶焼鈍の各焼鈍条件を制御することで、良好な磁気特性が得られることを知見した。
本発明は上記知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.C:0.002〜0.10質量%、Si:2.0〜8.0質量%、Mn:0.005〜1.0質量%、S:0.01〜0.05質量%、酸可溶性Al:0.01〜0.04質量%、N:0.003〜0.015質量%、Sn:0.01〜0.20質量%およびNb:0.001〜0.015質量%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延し、1回または、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚に仕上げ、ついで、得られた鋼板に脱炭を兼ねた再結晶焼鈍を施した後、最終仕上焼鈍を施す一連の工程よりなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
前記最終冷間圧延の直前に、900℃以上、かつ900℃から600℃までの冷却速度を平均で1℃/s以上とする焼鈍を施し、さらに、前記最終冷間圧延における圧下率を80%以上とし、
前記再結晶焼鈍は、温度が900℃以下で、かつ鋼板が800℃以上の温度に保持される時間を600秒以内とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
2.前記鋼スラブ成分中に、さらに、Ni:0.010〜1.50質量%、Cr:0.01〜0.50質量%、Cu:0.01〜0.50質量%およびP:0.005〜0.50質量%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする前記1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
3.前記鋼スラブ成分中に、さらに、Se:0.003〜0.050質量%、Sb:0.005〜0.50質量%、Bi:0.005〜0.50質量%、Mo:0.005〜0.100質量%およびB:2〜25質量ppmのうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする前記1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、Nbの炭化物をインヒビターとして効率的に利用することができ、もって良好な磁気特性の方向性電磁鋼板を得ることができる。
Nb添加量と磁束密度B8およびヒステリシス損との関係を示した図である。 最終冷間圧延圧下率と磁束密度B8との関係を示した図である。 再結晶焼鈍時における800℃以上の温度で保持される時間と磁束密度B8との関係を示した図である。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、本発明の構成要件の限定理由について述べる。なお、以下、特に断らない限り、鋼中等の成分組成は質量%および質量ppmを表すこととする。
C:0.002〜0.10%
Cは、スラブ鋼中の含有量が0.10%を超えると、鋼板の脱炭焼鈍時に磁気時効の起こらない含有量である50ppm以下とすることが困難になる。一方、0.002%に満たないと、Nb炭化物のインヒビター効果が発揮されず、磁気特性が劣化する。従って、Cは0.002〜0.10%に限定される。
Si:2.0〜8.0%
Siは、鋼の比抵抗を高め、鉄損を改善させるために必要な元素であるが、2.0%未満であると鉄損改善の効果がなく、一方8.0%を超えると鋼の加工性が劣化し、圧延が困難となることから2.0〜8.0%に限定される。
Sn:0.01〜0.20%
Snは、NbCをインヒビターとして用いた場合に生じる二次粒の粗大化を抑制して、鉄損を低減するために必須の元素である。添加量が0.01%未満では添加効果がなく、一方添加量が0.20%を超えると、鋼板の圧延性が著しく劣化することから、Snは0.01〜0.20%に限られる。
Nb:0.001〜0.015%
Nbは、本発明の根幹を成す元素であり、鋼板の耳割れの防止にも効果が有るが、本発明では、その炭化物をインヒビターとして用いるところに特徴がある。前記した実験より、0.001%に満たないと、NbCのインヒビターとしての効果が無く、一方0.015%を超えると、磁壁の移動を阻害してヒステリシス損を増加させる。なお、この範囲内でも、Nbが多いとヒステリシス損は増加する傾向が認められるため、0.005%以下が好適な範囲である。
ここに、Mn、S、酸可溶性AlおよびNは、析出物を形成し、インヒビター効果を発現させるために必須の元素である。
それぞれの添加量は、Mn:0.005〜1.0%、S:0.01〜0.05%、酸可溶性Al:0.01〜0.04%およびN:0.003〜0.015%である。
Mnは、熱間加工性を良好にするための元素であるが、0.005%未満であると効果がなく、一方1.0%を超えると製品板の磁束密度が低下するので、Mnは0.005〜1.0%とする。
また、それ以外のS、酸可溶性AlおよびNは、それぞれ添加量が下限量より少ない場合、インヒビターの形成量が少なく磁気特性が劣化し、一方上限量を超えた場合には、Nbの固溶温度が高くなって、スラブ加熱をする際に、これらインヒビターを十分固溶させることができなくなる。その結果、インヒビターの微細で均一な分布が達成されず、磁気特性が劣化する。
以上、本発明の基本成分について説明してきたが、本発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.010〜1.50%
本発明では、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるためにNiを添加することができる。添加量が0.010%未満であると磁気特性の向上が小さく、一方1.50%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Niを添加する場合は、0.010〜1.50%とする。
また、鉄損を低減させる目的で、Cr:0.01〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、P:0.005〜0.50%のうちから選んだ一種または二種以上を添加することができる。
それぞれ添加量が、下限量より少ない場合には鉄損の低減効果が少なく、上限量を超えると、二次再結晶が不安定になり鉄損が増大する。
さらに、磁束密度を向上させる目的で、Se:0.003〜0.050%、Sb:0.005〜0.50%、Bi:0.005〜0.50%、Mo:0.005〜0.100%、B:2〜25ppmのうちから選んだ一種または二種以上を添加することができる。
それぞれ添加量が、下限量より少ない場合には磁気特性向上効果がなく、上限量を超えると二次再結晶粒の発達が抑制され磁気特性が劣化する。
次に製造条件について説明する。
前記成分を有する溶鋼は、通常の造塊法や、連続鋳造法でスラブを製造してもよいし、100mm以下の厚さの薄鋳片を直接鋳造法で製造してもよい。
その後、スラブはインヒビター成分を固溶させる目的でスラブ加熱が施される。充分な固溶を確保するために、1400℃以上に加熱することが望ましいが、インヒビター成分が固溶できる範囲内で低温加熱とすることもコストの面では望ましい。その後、熱間圧延を施す。その際、インヒビターの析出制御の観点から、熱間圧延終了直後の温度を900℃以上とすることが望ましい。
次いで、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。良好な磁気特性を得るためには、熱延板焼鈍温度は800℃以上1150℃以下が好適である。というのは、熱延板焼鈍温度が800℃未満であると、熱延時のバンド組織が残留して、整粒した一次再結晶組織を実現することが困難となり、その結果、二次再結晶の発達が阻害されるおそれが生じる。一方、熱延板焼鈍温度が1150℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎて、整粒した一次再結晶組織を実現する上で極めて不利な組織となる。
なお、本発明では、冷間圧延を1回しか行わない場合は、熱延板焼鈍を必ず行うこととなるが、この場合は、熱延板焼鈍が最終冷間圧延の直前の焼鈍となるため、熱延板焼鈍温度を900℃以上とすることが必須となり、また900℃から600℃までの冷却速度を、平均で1℃/s以上とすることも必須となる。
熱延板焼鈍後、必要に応じて中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、再結晶焼鈍を行う工程とすることもできる。その際、複数回の冷間圧延の最後が最終冷間圧延となるが、中間焼鈍が最終冷間圧延直前の焼鈍となる場合は、この中間焼鈍の条件を、温度:900℃以上、900℃から600℃までの冷却速度を平均で1℃/s以上とすることが必須となる。
本発明では、最終冷間圧延の圧下率は、80%以上とすることが必須である。好ましくは85%以上、より好ましくは87%以上である。また、冷間圧延の温度を100℃〜300℃に上昇させて行うこと、および冷間圧延の途中、圧延温度が100〜300℃の範囲の間で時効処理を1回または複数回行うことが、再結晶集合組織を変化させて磁気特性を向上させるために有利である。
また、再結晶焼鈍は900℃以下とし、かつ鋼板が800℃以上の温度で保持される時間を600秒以下とすることが必須である。このとき、脱炭が必要となることから、雰囲気を湿潤雰囲気とすることが望ましい。再結晶焼鈍後は、浸珪法によってSi量を増加させる技術を併用してもよい。
その後、鉄損を重視してフォルステライト被膜を形成させる場合には、MgOを主体とする焼鈍分離剤を適用した後に仕上焼鈍を施すことにより、二次再結晶組織を発達させると共にフォルステライト被膜を形成させることが可能である。
また、打ち抜き加工性を重視してフォルステライト被膜を必要としない場合には、焼鈍分離剤を適用しないか、適用する場合でもフォルステライト被膜を形成するMgOは使用せずにシリカやアルミナ等を用いる。
これら焼鈍分離剤を塗布する際は、水分を持ち込まない静電塗布を行うことなどが有効である。また耐熱無機材料シート(シリカ、アルミナ、マイカ等)を用いてもよい。
最終仕上焼鈍は、二次再結晶発現のために800℃以上で行うことが望ましい。また、二次再結晶を完了させるために800℃以上の温度で20時間以上保持することが望ましい。打ち抜き性を重視してフォルステライト被膜を形成させない場合には、二次再結晶が完了すればよいので、その保持温度は850〜950℃の範囲が望ましく、当該保持を施すことで最終仕上焼鈍を終了することも可能である。
なお、鉄損を重視する場合やトランスの騒音を低下させるためにフォルステライト被膜を形成させる場合は、1200℃程度まで昇温させることが望ましい。
最終仕上焼鈍後には、付着した焼鈍分離剤を除去するため、水洗やブラッシング、酸洗を行うことが有効である。その後、平坦化焼鈍を行い形状を矯正することが鉄損低減のためには有利である。
鋼板を積層して使用する場合には、鉄損を改善するため平坦化焼鈍の前または後に、鋼板表面に絶縁コーティングを施すことが有効である。この絶縁コーティングは鉄損低減のために鋼板に張力を付与できるコーティングが望ましい。また、バインダーを介した張力コーティング塗布方法や物理蒸着法、化学蒸着法により、無機物を鋼板表層に成膜しコーティング層とする方法を採用すると、コーティング層の密着性に優れ、かつ著しい鉄損低減効果があるため望ましい。
鉄損低減のためには、磁区細分化処理を行うことが望ましい。磁区細分化処理の方法としては、従来公知の方法いずれもが使用できるが、最終製品板に溝をいれたり、レーザーやプラズマにより線状に熱歪や衝撃歪を導入する方法や、最終仕上板厚に達した冷間圧延板などの中間製品にあらかじめ溝をいれたりする方法などが好適に使用できる。
(実施例1)
表2記載の成分、および残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1420℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.7mmの厚さに仕上げた。ついで、1000℃,30秒、かつ900℃から600℃までの冷却速度を25℃/sとした熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.30mmの板厚(圧下率88.9%)に仕上げた。その後、40%N2−60%H2湿潤雰囲気で、830℃,60秒の再結晶焼鈍を行った。このとき、鋼板が800℃以上の温度で保持される時間は約120秒であった。
さらに、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した後に1200℃で6時間の最終仕上焼鈍を行った。その後、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を870℃,15秒の条件で施した。
得られたサンプルの磁気特性をJIS C 2550に規定の方法で測定し、表2に併記する。
Figure 2011111653
同表から明らかなように、上記した製造条件において、本発明の組成になる電磁鋼板は、いずれもが良好な磁気特性を有していることがわかる。
(実施例2)
C:0.026%、Si:3.31%、Mn:0.05%、S:0.013%、酸可溶性Al:0.035%、N:0.011%、Nb:0.010%およびSn:0.05%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、連続鋳造にて製造し、1400℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.3mmの厚さに仕上げた。
ついで、表3に記載の保定温度、保定時間および900℃から600℃までの冷却速度で熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により0.23mmの板厚(圧下率90%)に仕上げた。その後、50%N2−50%H2湿潤雰囲気で、均熱条件が850℃,60秒の再結晶焼鈍を施した。このとき、鋼板が800℃以上の温度で保持した時間は約150秒であった。さらに、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した後、1200℃,10時間保定する最終仕上焼鈍を行った。その後、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を850℃,40秒の条件で施した。得られたサンプルの磁気特性をJIS C 2550に規定の方法で測定し表3に併記する。
Figure 2011111653
同表に示したように、本発明に従って、保定温度と保定時間を選択し、900℃から600℃までの冷却速度で熱延板焼鈍を施した電磁鋼板は、いずれも、その磁気特性が良好である。
(実施例3)
C:0.077%、Si:3.22%、Mn:0.13%、S:0.022%、酸可溶性Al:0.028%、N:0.009%、Nb:0.005%、Sn:0.06%、Cr:0.07%およびP:0.010%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1400℃でスラブ加熱した後、表4に示すとおり、熱間圧延により1.5〜2.7mmの厚さに仕上げた。その後、1050℃,90秒保定する熱延板焼鈍を施した後、表4に示したとおり、冷間圧延により0.23〜0.35mmの板厚に仕上げた。
なお、熱延板焼鈍の900℃から600℃までの冷却速度は25℃/sとした。その後、50%N2-50%H2湿潤雰囲気で、均熱条件が840℃,80秒の再結晶焼鈍を施した。このとき、鋼板を800℃以上の温度で保持した時間は約140秒であった。さらにMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した後、1200℃,10時間保定する最終仕上焼鈍を行った。その後、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を850℃,40秒の条件で施した。
得られたサンプルの圧下率を計算し、またその磁気特性をJIS C 2550に規定の方法で測定した。結果を表4に併記する。
Figure 2011111653
同表に示したように、磁気特性のうち、鉄損は板厚の影響が大きいことから、磁束密度B8の値で比較すると、本発明に従う圧下率において、いずれの鋼板も磁束密度が良好であることが分かる。
(実施例4)
C:0.066%、Si:3.15%、Mn:0.16%、S:0.014%、酸可溶性Al:0.027%、N:0.009%、Nb:0.002%、Sn:0.05%、Cr:0.07%およびNi:0.04%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1400℃でスラブ加熱した後、熱間圧延により2.8mmの厚さに仕上げた。ついで、1000℃,40秒保定する熱延板焼鈍を施し、冷間圧延により1.8mmの板厚に仕上げた。その後、1025℃,30秒保持する中間焼鈍を施した。このときの900℃から600℃までの冷却速度は34℃/sとした。さらに冷間圧延により0.23mmの板厚に仕上げた。続いて、50%N2-50%H2湿潤雰囲気での再結晶焼鈍を施した。このとき、保定温度と鋼板が800℃以上の温度で保定される時間を、表5に示す種々の条件で実施した。
さらにMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した後、1250℃で4時間保定する最終仕上焼鈍を行った。その後、リン酸マグネシウムとほう酸を主体とした張力付与コーティング形成を兼ねた平坦化焼鈍を850℃,40秒の条件で施した。さらに、プラズマ照射により磁区細分化を行った。この条件は、鋼板の幅方向に平行に、太さ:200μmの線状熱歪を7mm間隔で導入することとした。得られたサンプルの磁気特性をJIS C 2550に規定の方法で測定し表5に併記する。
Figure 2011111653
同表に示したように、保定温度と鋼板の800℃以上の温度で保定される時間とが本発明に従う範囲の場合は、いずれの鋼板も磁気特性が良好であることが分かる。
本発明によれば、磁気特性、特に鉄損値に優れた鉄心材料を得ることが可能となり、もって、高品位な変圧器や電動機などの製造に貢献する。

Claims (3)

  1. C:0.002〜0.10質量%、Si:2.0〜8.0質量%、Mn:0.005〜1.0質量%、S:0.01〜0.05質量%、酸可溶性Al:0.01〜0.04質量%、N:0.003〜0.015質量%、Sn:0.01〜0.20質量%およびNb:0.001〜0.015質量%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延し、1回または、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚に仕上げ、ついで、得られた鋼板に脱炭を兼ねた再結晶焼鈍を施した後、最終仕上焼鈍を施す一連の工程よりなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
    前記最終冷間圧延の直前に、900℃以上、かつ900℃から600℃までの冷却速度を平均で1℃/s以上とする焼鈍を施し、さらに、前記最終冷間圧延における圧下率を80%以上とし、
    前記再結晶焼鈍は、温度が900℃以下で、かつ鋼板が800℃以上の温度に保持される時間を600秒以内とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
  2. 前記鋼スラブ成分中に、さらに、Ni:0.010〜1.50質量%、Cr:0.01〜0.50質量%、Cu:0.01〜0.50質量%およびP:0.005〜0.50質量%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 前記鋼スラブ成分中に、さらに、Se:0.003〜0.050質量%、Sb:0.005〜0.50質量%、Bi:0.005〜0.50質量%、Mo:0.005〜0.100質量%およびB:2〜25質量ppmのうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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