JP7159594B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
方向性電磁鋼板は、質量%で、Siを0.5~7%程度含有し、結晶方位を{110}<001>方位(ゴス方位)に集積させた鋼板である。方向性電磁鋼板は、軟質磁性材料として、トランスやその他の電気機器の鉄心材料に利用されている。方向性電磁鋼板の結晶方位の制御には、二次再結晶と呼ばれるカタストロフィックな粒成長現象が利用される。
方向性電磁鋼板の製造方法は次のとおりである。スラブを加熱して熱間圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。熱延鋼板を必要に応じて焼鈍する。熱延鋼板を必要に応じて酸洗する。酸洗後の熱延鋼板に対して、80%以上の冷延率で冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する。冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して、一次再結晶を発現する。脱炭焼鈍後の冷延鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施して、二次再結晶を発現する。以上の工程により、方向性電磁鋼板が製造される。
方向性電磁鋼板には、磁気特性が求められ、特に、優れた励磁特性及び鉄損特性が求められる。方向性電磁鋼板の励磁特性を示す指標として、たとえば、磁場の強さが800A/mにおける磁束密度であるB8が利用されている。また、方向性電磁鋼板の鉄損特性を示す指標として、たとえば、50Hzで1.7Tまで磁化させたときの単位質量あたりの鉄損であるW17/50が利用されている。
近年、方向性電磁鋼板の鉄損特性のさらなる改善への要求が高まっている。方向性電磁鋼板のさらなる低鉄損化により、発電機及び変圧器の効率が高まるからである。
鉄損は、履歴損と渦電流損とからなる。履歴損は、方向性電磁鋼板の純度、内部ひずみ、結晶方位等に影響される。渦電流損は方向性電磁鋼板の電気抵抗、板厚、結晶粒度、磁区の大きさ、鋼板の表面に形成される被膜の張力等に影響される。
Si含有量を高めれば、鋼板の電気抵抗が高まるために、渦電流損が低減する。そのため、低鉄損化のためにSi含有量を高めることは有効と考えられる。しかしながら、Si含有量を高めた場合、Si含有量に応じた所望の鉄損特性が得られない場合がある。
Si含有量を高めた方向性電磁鋼板での鉄損特性を改善する技術が、特開2001-192733号公報(特許文献1)及び特開平5-345921号公報(特許文献2)に提案されている。
特許文献1に開示された一方向性電磁鋼板の製造方法では、質量%で、Si:3.0~3.8%、Mn:0.03~0.45%、S、Se:単独又は複合で0.15%以下、酸可溶性Al:0.015~0.035%、及び、N:0.0035~0.012%を含有する電磁鋼スラブを、1250℃以下の温度に加熱した後熱間圧延し、熱延板焼鈍を行い、冷間圧延により最終板厚とし、次いで、脱炭焼鈍、窒化処理、仕上げ焼鈍をする。そして、熱延板の板厚をtA(mm)、最終冷間圧延板の板厚をtC(mm)とするとき、tA/tCを、Si含有量(Si(%))に応じて、3.57-0.43×Si(%)≦ln(tA/tC)≦4.58-0.64×Si(%)の範囲内に制御する。特許文献1では、冷延率(tA/tC)を上記式の範囲内で調整することにより、一次再結晶におけるゴス方位を効果的に増加させることにより、二次再結晶においてゴス方位集積度を高めることができ、その結果、Si含有量に応じた鉄損特性を得ることができる、と記載されている。
特許文献2に開示された一方向性電磁鋼板の製造方法では、質量%で、C:0.090%以下、Si:2.5~4.5%、Mn:0.03~0.15%、S:0.010~0.050%、酸可溶性Al:0.010~0.050%、N:0.0045~0.012%、Sn:0.03~0.5%、Cu:0.02~0.3%、Ni:0.05~1.0%を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる電磁鋼スラブを1250℃以上に加熱した後熱延し、析出焼鈍をし、最終冷延率80%以上の冷延と脱炭焼鈍、仕上焼鈍を施す。特許文献2では、Si含有量が高い方向性電磁鋼板の化学組成にさらに、Niを含有することにより、磁気特性(磁束密度及び鉄損)が高まる、と記載されている。
特開2001-192733号公報 特開平5-345921号公報
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2の方法によりSi含有量が3.30%以上の方向性電磁鋼板を製造した場合、十分な鉄損特性が得られない場合がある。特に、これらの特許文献に提案された製造方法により、Si含有量が3.30%以上の方向性電磁鋼板を製造した場合、磁気時効により鉄損が低下する場合がある。
本開示の目的は、Si含有量が3.30%以上であっても、磁気時効の発生を抑制でき、優れた鉄損特性が得られる、方向性電磁鋼板の製造方法を提供することである。
本開示による方向性電磁鋼板の製造方法は、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、最終冷間圧延前焼鈍工程と、脱炭焼鈍工程と、焼鈍分離剤塗布工程と、仕上げ焼鈍工程とを備える。
熱間圧延工程では、化学組成が質量%で、C:0.020~0.100%、Si:3.30~3.75%、Mn:0.010~0.300%、S及び/又はSe:合計で0.001~0.050%、sol.Al:0.010~0.065%、N:0.002~0.015%、Sn:0~0.500%、Cr:0~0.500%、Cu:0~0.500%、及び、残部:Fe及び不純物、からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する。
冷間圧延工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する。
最終冷間圧延前焼鈍工程では、1又は複数回の冷間圧延のうち、最終の冷間圧延前の鋼板に対して焼鈍処理を実施する。
脱炭焼鈍工程は、昇温工程と、脱炭工程とを含む、昇温工程では、鋼板を脱炭焼鈍温度まで加熱し、さらに、鋼板の温度が少なくとも500~700℃になるまでの間、800~2400℃/秒の平均昇温速度で鋼板を加熱する。脱炭工程では、昇温工程後の鋼板を、800~950℃の脱炭焼鈍温度で保持する。
焼鈍分離剤塗布工程では、脱炭焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する。
仕上げ焼鈍工程では、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する。
本開示による方向性電磁鋼板の製造方法は、Si含有量が3.30%以上であっても、磁気時効の発生を抑制でき、優れた鉄損特性が得られる方向性電磁鋼板を製造できる。
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法の製造工程を示すフロー図である。 図2は、図1中の脱炭焼鈍工程でのヒートパターンを示す模式図である。
本発明者らは、Si含有量が3.30%以上の方向性電磁鋼板において、Si含有量に応じた十分な鉄損が得られない理由について検討を行った。
上述のとおり方向性電磁鋼板内のSi含有量を高めれば、鋼板の電気抵抗を高めることができ、渦電流損が低減する。その結果、鉄損特性が向上し、鉄損が低下する。
しかしながら、本発明者の検討の結果、Si含有量を3.30%以上に高め、化学組成が質量%で、C:0.020~0.100%、Si:3.30~3.75%、Mn:0.010~0.300%、S及び/又はSe:合計で0.001~0.050%、sol.Al:0.010~0.065%、N:0.002~0.015%、Sn:0~0.500%、Cr:0~0.500%、Cu:0~0.500%、及び、残部:Fe及び不純物、からなるスラブを用いて製造された方向性電磁鋼板では、磁気時効が起こり、鉄損特性が低下する場合があることが判明した。
そこで、本発明者らは、Si含有量を3.30%以上に高めた上記化学組成のスラブを用いて製造された方向性電磁鋼板において、磁気時効が起こる原因について、さらに調査を行った。その結果、本発明者らは、Si含有量を3.30%以上に高めた上記化学組成のスラブを用いて方向性電磁鋼板を製造した場合、脱炭焼鈍工程において、次の現象が生じていることを新たに知見した。
Si含有量を3.30%以上に高めた上記化学組成のスラブを用いて方向性電磁鋼板を製造する場合、脱炭焼鈍工程の昇温過程において、鋼板表層に多数のSiOが生成して、外部酸化層が生成する。脱炭焼鈍工程の昇温過程で生成した外部酸化層は、脱炭工程中の脱炭を抑制する。そのため、脱炭焼鈍工程後の鋼板中に、C(炭素)が過剰に残存してしまう。その結果、製造された方向性電磁鋼板において、時効により鋼板中に炭化物が生成する。この炭化物が、方向性電磁鋼板の鉄損特性を低下し、磁気時効が起こる。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、脱炭焼鈍工程において、SiOの生成を抑制する方法を検討した。SiOの生成温度域は500~700℃である。以下、この温度域を「SiO生成温度域」という。脱炭焼鈍温度は800℃以上であり、かつ湿潤窒素水素混合雰囲気で脱炭焼鈍するため、脱炭焼鈍中(脱炭焼鈍温度での保持中)はSiOが生成し難い。したがって、脱炭焼鈍工程の昇温時において、鋼板温度がSiO生成温度域に滞在している間に、SiOが生成し、外部酸化層が形成されると考えられる。
以上のメカニズムを考慮して、本発明者らは、脱炭焼鈍工程において、鋼板のSiO生成温度域での滞在時間を短くすれば、SiOの生成を抑えられると考えた。さらに検討した結果、Si含有量が3.30%以上と高い化学組成を有するスラブを用いた場合、脱炭焼鈍工程において、SiO生成温度域での鋼板の平均昇温速度を800℃/秒以上とすれば、Si含有量が高くても外部酸化層の生成を十分に抑制でき、十分な脱炭が可能となり、優れた鉄損特性が得られることを見出した。
以上の知見により完成した本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法は、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、最終冷間圧延前焼鈍工程と、脱炭焼鈍工程と、焼鈍分離剤塗布工程と、仕上げ焼鈍工程とを備える。
熱間圧延工程では、化学組成が質量%で、C:0.020~0.100%、Si:3.30~3.75%、Mn:0.010~0.300%、S及び/又はSe:合計で0.001~0.050%、sol.Al:0.010~0.065%、N:0.002~0.015%、Sn:0~0.500%、Cr:0~0.500%、Cu:0~0.500%、及び、残部:Fe及び不純物、からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する。
冷間圧延工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する。
最終冷間圧延前焼鈍工程では、1又は複数回の冷間圧延のうち、最終の冷間圧延前の鋼板に対して焼鈍処理を実施する。
脱炭焼鈍工程は、昇温工程と、脱炭工程とを含む、昇温工程では、鋼板を脱炭焼鈍温度まで加熱し、さらに、鋼板の温度が少なくとも500~700℃になるまでの間、800~2400℃/秒の平均昇温速度で鋼板を加熱する。脱炭工程では、昇温工程後の鋼板を、800~950℃の脱炭焼鈍温度で保持する。
焼鈍分離剤塗布工程では、脱炭焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する。
仕上げ焼鈍工程では、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する。
上記スラブの化学組成は、Sn:0.010~0.500%、Cr:0.010~0.500%、及び、Cu:0.010~0.500%、からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
上記製造工程中の脱炭焼鈍工程の昇温工程において、鋼板の温度が少なくとも500~700℃になるまでの間の雰囲気中の酸素ポテンシャルを0.001以下にしてもよい。
上記製造工程により製造される方向性電磁鋼板の板厚は0.18~0.23mmであってもよい。好ましい板厚は0.20mm以下である。
以下、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法について詳述する。なお、本明細書において、元素の含有量に関する%は、特に断りのない限り、質量%を意味する。
[製造工程フロー]
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法のフロー図である。図1を参照して、本製造方法は、スラブに対して熱間圧延を実施する熱間圧延工程(S1)と、熱間圧延後の鋼板(熱延鋼板)に対して1又は2回以上の冷間圧延(S20)を実施する冷間圧延工程(S2)と、1又は2回以上の冷間圧延のうち、最終の冷間圧延前の鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)と、冷間圧延工程後の鋼板(冷延鋼板)に対して脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程(S4)と、脱酸焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程(S5)と、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程(S6)とを含む。以下、各工程S1~S6について説明する。
[熱間圧延工程(S1)]
熱間圧延工程(S1)は、準備されたスラブに対して熱間圧延を実施して熱延鋼板を製造する。スラブの化学組成は、次の元素を含有する。
[スラブの化学組成中の必須元素]
C:0.020~0.100%
炭素(C)は、製造工程中における脱炭焼鈍工程完了までの組織制御に有効である。しかしながら、C含有量が0.02%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.100%を超えれば、後述の脱炭焼鈍工程を実施しても、脱炭が不十分となり、磁気時効が起こってしまう。この場合、十分な鉄損特性が得られない。したがって、C含有量は0.020~0.100%である。C含有量の好ましい下限は0.030%であり、さらに好ましくは0.040%である。C含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%である。
Si:3.30~3.75%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて、鉄損のうちの渦電流損を低減する。Si含有量が3.30%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が3.75%を超えれば、鋼の冷間加工性が低下する。したがって、Si含有量は3.30~3.75%である。Si含有量の好ましい下限は3.35%であり、さらに好ましくは3.40%である。Si含有量の好ましい上限は3.70%であり、さらに好ましくは3.60%である。
Mn:0.010~0.300%
マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減する。Mnはさらに、熱間加工性を高めて、熱間圧延における割れの発生を抑制する。Mnはさらに、最終冷間圧延前焼鈍工程において、S及び/又はSeと結合して微細なMnS及び/又は微細MnSeを形成する。微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、最終冷間圧延前焼鈍工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。Mn含有量が0.010%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが析出しない。一方、Mn含有量が0.300%を超えれば、方向性電磁鋼板の磁束密度が低下する。したがって、Mn含有量は0.010~0.300%である。Mn含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.030%である。Mn含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
S及び/又はSe:合計で0.001~0.050%
硫黄(S)及びセレン(Se)は、製造工程中において、Mnと結合して、上述の微細MnS及び/又は微細MnSeを形成する。微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、最終冷間圧延前焼鈍工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。S及び/又はSeの合計含有量が0.001%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが得られない。一方、S及び/又はSeの合計含有量が0.050%を超えれば、仕上げ焼鈍工程後の鋼板中においてもMnS及び/又はMnSeが残存する場合がある。この場合、磁気特性が低下する。したがって、S及び/又はSeの合計含有量は0.001~0.050%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい下限は0.005%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
sol.Al:0.010~0.065%
アルミニウム(Al)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Nと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。sol.Al含有量が0.010%未満であれば、インヒビターとして機能する十分な量のAlNが得られない。一方、sol.Al含有量が0.065%を超えれば、AlNが粗大化して、インヒビター強度が低下する。したがって、sol.Al含有量は0.010~0.065%である。sol.Al含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.055%であり、さらに好ましくは0.045%である。なお、本明細書において、sol.Alは酸可溶Alを意味する。したがって、sol.Al含有量は、酸可溶Alの含有量である。
N:0.002~0.015%
窒素(N)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Alと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。N含有量を0.002%未満とするためには、製鋼工程において過度の精錬を必要とし、この場合、製造コストが高くなる。したがって、N含有量の下限は0.002%である。一方、鋼材中のN含有量が0.015%を超えれば、冷間圧延時に鋼板にブリスタ(空孔)が多数生成しやすくなる。したがって、N含有量は0.002~0.015%である。N含有量の好ましい下限は0.004%であり、さらに好ましくは0.006%である。N含有量の好ましい上限は0.012%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
本実施形態によるスラブの化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、方向性電磁鋼板の素材であるスラブを工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の製造方法により製造される方向性電磁鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[スラブの化学組成中の任意元素]
上述のスラブの化学組成は、Feの一部に代えて、Sn、Cr及びCuからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
Sn:0~0.500%
すず(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。含有される場合、Snは、脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上し、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Snは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。Snはさらに、粒界偏析元素であり、二次再結晶を安定化する。しかしながら、Sn含有量が0.500%を超えれば、鋼板の表面が酸化されにくくなり、一次被膜の形成が不十分になる場合がある。したがって、Sn含有量は0~0.500%である。上記効果をより有効に得るためのSn含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Sn含有量の好ましい上限は0.300%であり、さらに好ましくは0.200%である。
Cr:0~0.500%
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Crは脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上し、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Crは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。しかしながら、Cr含有量が0.500%を超えれば、一次被膜の形成が不安定になる場合がある。したがって、Cr含有量は0~0.500%である。上記効果をより有効に得るためのCr含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Cr含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
Cu:0~0.500%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、AlNの生成核となる微細MnSの析出を促進する。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、CuS析出物が析出し、CuS析出物が仕上げ焼鈍後にも残存する場合が生じる。鋼中にCuS析出物が残存していれば、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.500%である。Cu含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.050%である。Cu含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%である。
[上記化学組成を有するスラブの製造方法]
以上の化学組成を有するスラブの製造方法の一例は次のとおりである。上記化学組成を有する溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いて、連続鋳造法により、スラブを製造する。
[上記スラブを用いた熱間圧延工程(S1)]
準備された上記化学組成を有するスラブに対して、熱間圧延機を用いて熱間圧延を実施して鋼板(熱延鋼板)を製造する。初めに、鋼材を加熱する。たとえば、スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して、加熱する。スラブの好ましい加熱温度は1300~1400℃であり、さらに好ましくは、1320~1380℃である。
加熱されたスラブに対して、熱間圧延機を用いた熱間圧延を実施して、鋼板(熱延鋼板)を製造する。熱間圧延機は、粗圧延機と、粗圧延機の下流に配置された仕上げ圧延機とを備える。粗圧延機は、1つ、又は一列に並んだ複数の粗圧延スタンドを備える。各粗圧延スタンドは、上下に配置された複数のロールを含む。仕上げ圧延機も同様に、一列に並んだ仕上げ圧延スタンドを備える。各仕上げ圧延スタンドは、上下に配置される複数のロールを含む。加熱されたスラブを粗圧延機により圧延した後、さらに、仕上げ圧延機により圧延して、熱延鋼板を製造する。
熱間圧延により製造される熱延鋼板の厚さは特に限定されず、公知の厚さとすることができる。熱間圧延工程における仕上げ温度(仕上げ圧延機において最後に鋼板を圧下する仕上げ圧延スタンドの出側での鋼板温度)は、たとえば1000~1100℃である。仕上げ温度は、最終の圧下を行う仕上げ圧延スタンド出側に配置された測温計により得られる、鋼板の表面温度(℃)である。以上の圧延工程により、鋼板を製造する。
[冷間圧延工程(S2)]
冷間圧延工程(S2)では、製造された鋼板に対して、1又は複数回の冷間圧延を実施する。冷間圧延は、冷間圧延機を用いて実施する。冷間圧延機は、一列に配列された複数の冷間圧延スタンドを備えるタンデム式の圧延機であってもよいし、1台の冷間圧延スタンドからなるリバース式の圧延機であってもよい。各冷間圧延スタンドは、複数の冷間圧延ロールを含む。
図1に示すとおり、冷間圧延工程において、冷間圧延は1回の冷間圧延(S20)のみ実施してもよいし、複数回の冷間圧延(S20)を実施してもよい。冷間圧延を複数回実施する場合、上記の冷間圧延機を用いて冷間圧延を実施した後、鋼板の軟化を目的とした中間焼鈍処理を実施してもよい。この場合、中間焼鈍処理後、次の冷間圧延を実施する。つまり、冷間圧延の間に、中間焼鈍処理を実施してもよい。
冷間圧延と次の冷間圧延との間に実施する中間焼鈍処理の条件は、公知の条件で足りる。中間焼鈍処理での焼鈍温度はたとえば900~1200℃であり、焼鈍温度での保持時間は30~180秒である。中間焼鈍処理により、前段の冷間圧延にて鋼板に導入された歪みを低減した(鋼板を軟化した)後、次段の冷間圧延を実施する。
なお、中間焼鈍工程を実施することなく、複数の冷間圧延工程を実施する場合、製造された方向性電磁鋼板において、均一な特性が得られにくい場合がある。一方、複数回の冷間圧延を実施し、かつ、各冷間圧延の間に中間焼鈍処理を実施する場合、製造された方向性電磁鋼板において、磁束密度が低くなる場合がある。したがって、冷間圧延の回数、及び、中間焼鈍処理の有無は、最終的に製造される方向性電磁鋼板に要求される特性及び製造コストに応じて決定される。
なお、冷間圧延工程では、上述のとおり、1回の冷間圧延のみを実施してもよい。
1回又は複数回での冷間圧延における、好ましい累計の冷延率は80~95%である。ここで、累計の冷延率(%)は次のとおり定義される。
冷延率(%)=100-最終の冷間圧延後の冷延鋼板の板厚/最初の冷間圧延開始前の鋼板の板厚×100
なお、冷間圧延工程において、1回の冷間圧延のみを実施する場合、上記冷延率は、1回のみの冷間圧延での冷延率である。冷間圧延工程により製造された鋼板は、コイル状に巻き取られる。
[最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)]
最終冷間圧延前焼鈍工程(S3)では、冷間圧延工程(S2)における1又は複数回の冷間圧延(S20)のうち、最終の冷間圧延(S20)前の鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍処理を実施する。最終冷間圧延前焼鈍処理の条件は、上述の中間焼鈍処理での条件と同じである。最終冷間圧延前焼鈍工程での焼鈍温度はたとえば900~1200℃であり、焼鈍温度での保持時間は30~180秒である。
[脱炭焼鈍工程(S4)]
脱炭焼鈍工程(S4)では、冷間圧延工程(S2)後の鋼板(冷延鋼板)に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶を発現させる。
図2は、脱炭焼鈍工程(S4)でのヒートパターンを示す模式図である。図2を参照して、脱炭焼鈍工程(S4)は、昇温工程(S41)と、脱炭工程(S42)と、冷却工程(S43)とを含む。昇温工程(S41)では、鋼板を脱炭焼鈍温度Taまで加熱する。脱炭工程(S42)では、脱炭焼鈍温度Taまで加熱された鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して、一次再結晶を発現させる。冷却工程(S43)では、脱炭工程(S42)後の鋼板を周知の方法で冷却する。本実施形態では、昇温工程(S41)のSiO生成温度域(500~700℃)での昇温速度を顕著に速くすることにより、鋼板中のSi含有量が3.30%以上であっても、優れた脱炭性を維持する。以下、各工程の詳細を説明する。
[昇温工程(S41)]
昇温工程(S41)では、初めに、冷間圧延工程後の鋼板を熱処理炉に装入する。本実施形態における脱炭焼鈍用の熱処理炉では、たとえば、高周波誘導加熱により、冷延鋼板を脱炭焼鈍温度まで昇温する。昇温工程における製造条件は次のとおりである。
平均昇温速度RR500-700:800~2400℃/秒
昇温工程において、鋼板の温度が500℃から700℃に至るまでの間の昇温速度の平均を、平均昇温速度RR500-700(℃/秒)と定義する。上述のとおり、本実施形態のスラブの化学組成でのSi含有量は3.30%以上と高い。この場合、昇温工程において、鋼板表層でのSiOの生成が促進し、外部酸化層による被覆率が高まる。外部酸化層は、鋼板の脱炭を抑制する。そのため、脱炭が不十分となり、製造後の方向性電磁鋼板において、磁気時効が生じる。その結果、優れた鉄損特性が得られない。
SiOは、500~700℃の温度域(SiO生成温度域)で顕著に生成する。脱炭焼鈍温度は後述のとおり800℃以上である。そのため、SiO生成温度域は、脱炭焼鈍温度よりも低い。つまり、鋼板を加熱する昇温工程において、鋼板はSiO生成温度域を通過する。鋼板のSiO生成温度域での滞在時間が長くなれば、鋼板表層でのSiOの生成が促進されてしまう。そこで、本実施形態では、SiO生成温度域での昇温速度を速くすることにより、鋼板のSiO生成温度域での滞在時間を短くする。
平均昇温速度RR500-700が800℃/秒以上であれば、冷延鋼板のSiO生成温度域での滞在時間を顕著に短縮できる。そのため、スラブの化学組成中のSi含有量が3.30%以上と高くても、外部酸化層の生成を抑え、脱炭性の低下を抑制できる。その結果、方向性電磁鋼板において、優れた鉄損特性が得られる。
なお、平均昇温速度RR500-700が2400℃/秒を超えれば、仕上げ焼鈍工程においてゴス方位粒の成長を促す対応方位粒が減少してしまう。この場合、仕上げ焼鈍工程においてゴス方位粒の成長が抑制される。そのため、ゴス方位集積度(B8/Bs)が低下して、鉄損のうちの履歴損が高くなる。その結果、優れた鉄損特性が得られなくなる。また、ゴス方位粒の成長が抑制されるため、磁束密度も低下する。したがって、平均昇温速度RR500-700の上限は、2400℃/秒である。
平均昇温速度RR500-700の好ましい下限は900℃/秒であり、さらに好ましくは1000℃/秒である。平均昇温速度RR500-700の好ましい上限は2100℃/秒である。
なお、昇温工程中の雰囲気は、酸素ポテンシャル(PH2O/PH2)が0.1以下の乾燥窒素雰囲気である。好ましくは、昇温工程中の少なくともSiO生成温度域における雰囲気の酸素ポテンシャル(PH2O/PH2)を0.001以下にする。この場合、昇温工程において、鋼板表層でのSiOの生成をさらに抑制することができる。その結果、さらに優れた鉄損特性が得られる。
平均昇温速度RR500-700は次の方法により測定する。熱処理炉内には、鋼板の表面温度を測定するための複数の測温計が設置されている。複数の測温計は、熱処理炉の上流から下流に向かって配列されている。測温計により測定された鋼板の温度と、鋼板温度が500℃から700℃に上昇するまでに掛かった時間とに基づいて、平均昇温速度RR500-700を求める。
[脱炭工程(S42)]
脱炭焼鈍工程(S4)における脱炭工程(S42)では、昇温工程(S41)後の鋼板を脱炭焼鈍温度Taで保持して、脱炭焼鈍を実施する。これにより、鋼板に一次再結晶を発現させる。脱炭工程中の雰囲気は、周知の雰囲気で足り、たとえば、水素及び窒素を含有する湿潤窒素水素混合雰囲気である。脱炭焼鈍を実施することにより、鋼板中の炭素が鋼板から除去され、一次再結晶が発現する。脱炭工程での製造条件は次のとおりである。
脱炭焼鈍温度Ta:800~950℃
脱炭焼鈍温度Taは、上述のとおり、脱炭焼鈍を実施する熱処理炉の炉温に相当し、脱炭焼鈍中の鋼板の温度に相当する。脱炭焼鈍温度Taが800℃未満であれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が小さすぎる。この場合、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。一方、脱炭焼鈍温度Taが950℃を超えれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が大きすぎる。この場合も、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。脱炭焼鈍温度Taが800~950℃であれば、一次再結晶後の鋼板の結晶粒が適切なサイズとなり、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現する。
なお、脱炭工程(S42)における、脱炭焼鈍温度Taでの保持時間は特に限定されない。脱炭焼鈍温度Taでの保持時間はたとえば、15~150秒である。
[冷却工程(S43)]
冷却工程(S43)では、脱炭工程(S42)後の鋼板を周知の方法で常温まで冷却する。冷却方法は放冷であってもよいし、水冷であってもよい。好ましくは、脱炭工程後の鋼板を放冷する。以上の工程により脱炭焼鈍工程(S4)では、鋼板に対して脱炭焼鈍処理を実施する。
[焼鈍分離剤塗布工程(S5)]
脱炭焼鈍工程(S4)後の鋼板に対して、焼鈍分離剤塗布工程(S5)を実施する。焼鈍分離剤塗布工程(S5)では、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布する。具体的には、鋼板表面に焼鈍分離剤を含有する水性スラリーを塗布する。水性スラリーは、焼鈍分離剤に水を加えて攪拌して作製する。焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)を含有する。好ましくは、MgOは焼鈍分離剤の主成分である。ここで、「主成分」とは、焼鈍分離剤中のMgO含有量が、質量%で60.0%以上であることを意味する。焼鈍分離剤は、MgO以外に、周知の添加剤を含有してもよい。
焼鈍分離剤塗布工程では、鋼板の表面上に水性スラリーの焼鈍分離剤を塗布する。表面に焼鈍分離剤が塗布された鋼板を巻取り、コイル状にする。鋼板をコイル状にした後、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施する。
なお、鋼板表面上に水性スラリーの焼鈍分離剤を塗布し、鋼板をコイル状にした後、仕上げ焼鈍工程を実施する前に、焼付け処理を実施してもよい。焼付け処理では、コイル状の鋼板を、400~1000℃に保持した炉内に装入し、保持する(焼付け処理)。これにより、塗布された焼鈍分離剤が乾燥する。保持時間はたとえば10~90秒である。
焼付け処理を実施せずに、焼鈍分離剤が塗布されたコイル状の鋼板に対して、仕上げ焼鈍工程を実施してもよい。
[仕上げ焼鈍工程(S6)]
焼鈍分離剤塗布工程(S5)後の鋼板に対して、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施して、二次再結晶を発現させる。仕上げ焼鈍工程は、熱処理炉を用いて実施する。仕上げ焼鈍工程での製造条件はたとえば、次のとおりである。なお、仕上げ焼鈍における炉内雰囲気は、周知の雰囲気である。
仕上げ焼鈍温度:1150~1250℃
仕上げ焼鈍温度での保持時間:5~30時間
仕上げ焼鈍温度が1150℃未満であれば、十分な二次再結晶が発現せず、また二次再結晶に用いた析出物を除去する純化が十分ではない。そのため、製造された方向性電磁鋼板の磁気特性が低くなる。一方、仕上げ焼鈍温度が1250℃を超えても二次再結晶、純化に対する効果が低いとともに、鋼板の変形などの問題が生じる。仕上げ焼鈍温度が1150~1250℃であれば、上記保持時間が適切であることを前提として、十分な二次再結晶が発現して、磁気特性が高まる。さらに、鋼板表面上にフォルステライトを含有する一次被膜が健全に形成される。
なお、仕上げ焼鈍工程(S6)により、鋼板の化学組成の各元素が鋼中成分からある程度取り除かれる。特に、インヒビターとして機能するS、Al、N等は大幅に取り除かれる。
以上の製造工程により、本実施形態による方向性電磁鋼板が製造される。製造された方向性電磁鋼板では、Si含有量が3.30%以上と高いにも関わらず、脱炭焼鈍工程において、十分な脱炭が可能である。そのため、磁気時効が起こりにくく、優れた鉄損特性が得られる。
なお、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面には、フォルステライトを含有する一次被膜が形成されている。
[二次被膜形成工程]
本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法ではさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程(S6)後に、二次被膜形成工程を実施してもよい。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程の冷却後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施する。これにより、一次被膜上に、張力絶縁被膜である二次被膜が形成される。
[磁区細分化処理工程]
本実施形態による方向性電磁鋼板はさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程又は二次被膜形成工程後に、磁区細分化処理工程を実施してもよい。磁区細分化処理工程では、方向性電磁鋼板の表面に、磁区細分化効果のあるレーザ光を照射したり、表面に溝を形成したりする。この場合、さらに磁気特性に優れる方向性電磁鋼板が製造できる。
以下に、本発明の態様を実施例により具体的に説明する。これらの実施例は、本発明の効果を確認するための一例であり、本発明を限定するものではない。
[各試験番号の方向性電磁鋼板の製造]
化学組成が、質量%で、C:0.075%、Mn:0.075%、S:0.028%、sol.Al:0.028%、N:0.008%を含有し、さらに、表1に示す含有量(質量%)のSiを含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
Figure 0007159594000001
各試験番号のスラブを加熱炉にて1350℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。仕上げ圧延温度(℃)は、いずれの試験番号においても1000~1100℃の範囲内であった。
熱延鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍工程を実施した。最終冷間圧延前焼鈍工程では、熱延鋼板を1120℃まで加熱し、その後、焼鈍温度を900℃、焼鈍温度での保持時間を40秒として、鋼板を焼鈍した。
最終冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、1回の冷間圧延(最終冷間圧延)を実施して、厚さ0.23mmの冷延鋼板を製造した。冷間圧延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程を実施した。脱炭焼鈍工程において、脱炭焼鈍温度を830℃とした。脱炭焼鈍処理を実施する熱処理炉内の雰囲気を、水素及び窒素を含有する周知の湿潤窒素水素混合雰囲気とした。そして、昇温工程での雰囲気中の酸素ポテンシャル(PH2O/PH2)を0.1とした。さらに、昇温中のSiO温度域(500~700℃)での平均昇温速度RR500-700を表1に示す値とした。
脱炭焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを主成分とする焼鈍分離剤(水性スラリー)を塗布した後、コイル状に巻き取った。コイル状に巻き取られた鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施した。仕上げ焼鈍温度を1150℃とし、仕上げ焼鈍温度での保持時間を10時間とした。仕上げ焼鈍後の鋼板を放冷した。
仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、二次被膜形成工程を実施した。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。これにより、一次被膜上に、張力絶縁被膜である二次被膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
[評価試験]
[磁気特性評価試験]
次の方法により、各試験番号の方向性電磁鋼板の磁気特性(磁束密度B8、及び、鉄損W17/50)をJIS C2556:2015に準拠して、評価した。具体的には、各サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度B8(T)を測定した。また、周波数を50Hz、最大磁束密度を1.7Tとしたときの鉄損W17/50(W/kg)を測定した。また、飽和磁束密度Bs(T)はSi含有量(質量%)を用い、次の式で求めた。
Bs=2.2032-0.0581Si
得られた磁束密度B8及び飽和磁束密度Bsとに基づいて、飽和磁束密度Bsに対する磁束密度B8の比であるゴス方位集積度(B8/Bs)を求めた。
得られた磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、及び鉄損W17/50を表1に示す。
[磁気時効試験]
上記方法により磁束密度B8及び鉄損W17/50を測定した後、雰囲気を乾燥窒素雰囲気、熱処理温度を150℃、熱処理温度での保持時間を120時間とした時効熱処理を実施した。時効熱処理後のサンプルに対して、上述の方法により、鉄損W17/50(W/kg)を求めた。そして、次の式により、時効熱処理前と時効熱処理後の鉄損差ΔW(%)を求めた。
ΔW={(時効熱処理後の鉄損W17/50-時効熱処理前の鉄損W17/50)/時効熱処理前の鉄損W17/50}×100
鉄損差ΔWが5%以下の場合、磁気時効が抑制されており、優れた鉄損特性が得られたと判断した(表1中で「○」)。一方、鉄損差ΔWが5%を超えた場合、磁気時効が発生して、鉄損特性が低下した判断した(表1中で「×」)。
[試験結果]
得られた試験結果を表1に示す。表1を参照して、試験番号10~13、18~21、26~29、34~37では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.920T以上と高く、ゴス方位集積度B8/Bsは0.958以上と高かった。さらに鉄損W17/50も0.812W/kg以下と低かった。さらに磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWはいずれも5%以下であり、磁気時効が十分に抑制できており、優れた鉄損特性が得られた。
一方、試験番号1~6では、Si含有量が低すぎた。そのため、少なくとも鉄損W17/50が0.812W/kgを超え、鉄損特性が低かった。
一方、試験番号7~9、15~17、23~25、31~33では、スラブの化学組成は適切であるものの、平均昇温速度RR500-700が低すぎた。その結果、磁束密度B8は1.920T未満であり、ゴス方位集積度B8/Bsは0.958未満であった。さらに鉄損W17/50も0.812W/kgを超え、高かった。さらに、磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWが5%を超え、磁気時効が発生して鉄損特性が低下した。
試験番号14、22、30、38では、スラブの化学組成は適切であったものの、平均昇温速度RR500-700が2400℃/秒を超え、高すぎた。そのため、磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWが5%以下であったものの、磁束密度B8は1.920T未満であり、ゴス方位集積度B8/Bsは0.958未満であり、鉄損W17/50も0.812W/kgを超えた。
試験番号39~44では、Si含有量が高すぎた。そのため、試験番号39~42では、冷間圧延中に鋼板に割れが発生した。また、試験番号43及び44では、磁束密度B8は1.920T未満であり、ゴス方位集積度B8/Bsは0.958未満であった。さらに鉄損W17/50も0.812W/kgを超え、高かった。さらに、磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWが5%を超え、磁気時効が発生して鉄損特性が低下した。
[各試験番号の方向性電磁鋼板の製造]
化学組成が、質量%で、C:0.075%、Mn:0.075%、S:0.028%、sol.Al:0.028%、N:0.008%、Sn:0.100%、Cu:0.070%、Cr:0.050%を含有し、さらに、表2に示す含有量(質量%)のSiを含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
Figure 0007159594000002
各試験番号のスラブを加熱炉にて1350℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。仕上げ圧延温度(℃)は、いずれの試験番号においても1000~1100℃の範囲内であった。
熱延鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍工程を実施した。最終冷間圧延前焼鈍工程では、熱延鋼板を1120℃まで加熱し、その後、焼鈍温度を900℃、焼鈍温度での保持時間を40秒として、熱延鋼板を焼鈍した。
最終冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、1回の冷間圧延(最終冷間圧延)を実施して、厚さ0.23mmの冷延鋼板を製造した。冷間圧延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程を実施した。脱炭焼鈍工程において、脱炭焼鈍温度を830℃とした。脱炭焼鈍処理を実施する熱処理炉内の雰囲気を、水素及び窒素を含有する周知の湿潤窒素水素混合雰囲気とした。そして、昇温工程での雰囲気中の酸素ポテンシャル(PH2O/PH2)を0.1とした。さらに、昇温中のSiO温度域(500~700℃)での平均昇温速度RR500-700を表2に示す値とした。
脱炭焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを主成分とする焼鈍分離剤(水性スラリー)を塗布した後、コイル状に巻き取った。コイル状に巻き取られた鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施した。仕上げ焼鈍温度を1150℃とし、仕上げ焼鈍温度での保持時間を10時間とした。仕上げ焼鈍後の鋼板を放冷した。
仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、二次被膜形成工程を実施した。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。これにより、一次被膜上に、張力絶縁被膜である二次被膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
[評価試験]
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、鉄損W17/50、及び鉄損差ΔWを求めた。
[試験結果]
得られた試験結果を表2に示す。表2を参照して、試験番号10~13、18~21、26~29、34~37では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.923T以上と高く、ゴス方位集積度B8/Bsは0.961以上と高かった。さらに鉄損W17/50も0.795W/kg以下と低かった。さらに磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWはいずれも5%以下であり、磁気時効が十分に抑制できており、優れた鉄損特性が得られた。
一方、試験番号1~6では、Si含有量が低すぎた。そのため、少なくとも鉄損W17/50が0.795W/kgを超え、鉄損特性が低かった。
一方、試験番号7~9、15~17、23~25、31~33では、スラブの化学組成は適切であるものの、平均昇温速度RR500-700が低すぎた。その結果、磁束密度B8は1.923T未満であり、ゴス方位集積度B8/Bsは0.961未満であった。さらに鉄損W17/50も0.795W/kgを超え、高かった。さらに、磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWが5%を超え、磁気時効が発生して鉄損特性が低下した。
試験番号14、22、30、38では、スラブの化学組成は適切であったものの、平均昇温速度RR500-700が2400℃/秒を超え、高すぎた。そのため、磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWが5%以下であったものの、磁束密度B8は1.923T未満であり、ゴス方位集積度B8/Bsは0.961未満であり、鉄損W17/50も0.795W/kgを超えた。
試験番号39~44では、Si含有量が高すぎた。そのため、試験番号39、41及び42では、冷間圧延中に鋼板に割れが発生した。また、試験番号40、43及び44では、磁束密度B8は1.923T未満であり、ゴス方位集積度B8/Bsは0.961未満であった。さらに鉄損W17/50も0.795W/kgを超え、高かった。さらに、磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWが5%を超え、磁気時効が発生して鉄損特性が低下した。
[各試験番号の方向性電磁鋼板の製造]
化学組成が、質量%で、C:0.070%、Mn:0.075%、S:0.027%、sol.Al:0.026%、N:0.008%、Sn:0.110%、Cu:0.070%、Cr:0.035%を含有し、さらに、表3に示す含有量(質量%)のSiを含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
Figure 0007159594000003
各試験番号のスラブを加熱炉にて1350℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。仕上げ圧延温度(℃)は、いずれの試験番号においても1000~1100℃の範囲内であった。
熱延鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍工程を実施した。最終冷間圧延前焼鈍工程では、熱延鋼板を1120℃まで加熱し、その後、焼鈍温度を900℃、焼鈍温度での保持時間を40秒として、熱延鋼板を焼鈍した。
最終冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、1回の冷間圧延(最終冷間圧延)を実施して、厚さ0.23mmの冷延鋼板を製造した。冷間圧延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程を実施した。脱炭焼鈍工程において、脱炭焼鈍温度を830℃とした。脱炭焼鈍処理を実施する熱処理炉内の雰囲気を、水素及び窒素を含有する周知の湿潤窒素水素混合雰囲気とした。そして、昇温工程での雰囲気中の酸素ポテンシャル(PH2O/PH2)を表3に示す値とした。さらに、昇温中のSiO温度域(500~700℃)での平均昇温速度RR500-700を表3に示す値とした。
脱炭焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを主成分とする焼鈍分離剤(水性スラリー)を塗布した後、コイル状に巻き取った。コイル状に巻き取られた鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施した。仕上げ焼鈍温度を1150℃とし、仕上げ焼鈍温度での保持時間を10時間とした。仕上げ焼鈍後の鋼板を放冷した。
仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、二次被膜形成工程を実施した。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。これにより、一次被膜上に、張力絶縁被膜である二次被膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
[評価試験]
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、鉄損W17/50、及び鉄損差ΔWを求めた。なお、磁気焼鈍試験において、鉄損差ΔWが1%以下の場合、磁気時効が顕著に抑制されており、極めて優れた鉄損特性が得られたと判断した(表3中で「◎」)。また、鉄損差ΔWが5%以下の場合、磁気時効が抑制されており、優れた鉄損特性が得られたと判断した(表3中で「○」)。一方、鉄損差ΔWが5%を超えた場合、磁気時効が発生して、鉄損特性が低下した判断した(表3中で「×」)。
[試験結果]
得られた試験結果を表3に示す。表3を参照して、試験番号1~32のいずれにおいても、スラブの化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.905T以上と高く、ゴス方位集積度B8/Bsは0.958以上と高かった。さらに鉄損W17/50も0.821W/kg以下と低かった。さらに磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWはいずれも5%以下であり、磁気時効が十分に抑制できており、優れた鉄損特性が得られた。
さらに、試験番号17~32では、脱炭焼鈍工程の昇温工程における酸素ポテンシャルが0.001以下であった。そのため、磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWはいずれも1%以下であり、磁気時効が十分に抑制できており、極めて優れた鉄損特性が得られた。
[各試験番号の方向性電磁鋼板の製造]
化学組成が、質量%で、C:0.075%、Mn:0.075%、S:0.027%、sol.Al:0.026%、N:0.008%、Sn:0.100%、Cu:0.070%、Cr:0.035%を含有し、さらに、表4に示す含有量(質量%)のSiを含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
Figure 0007159594000004
各試験番号のスラブを加熱炉にて1350℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延工程を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。仕上げ圧延温度(℃)は、いずれの試験番号においても1000~1100℃の範囲内であった。
熱延鋼板に対して、最終冷間圧延前焼鈍工程を実施した。最終冷間圧延前焼鈍工程では、熱延鋼板を1120℃まで加熱し、その後、焼鈍温度を900℃、焼鈍温度での保持時間を40秒として、熱延鋼板を焼鈍した。
最終冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、1回の冷間圧延(最終冷間圧延)を実施して、厚さ0.20mm又は0.18mmの冷延鋼板を製造した。冷間圧延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程を実施した。脱炭焼鈍工程において、脱炭焼鈍温度を830℃とした。脱炭焼鈍処理を実施する熱処理炉内の雰囲気を、水素及び窒素を含有する周知の湿潤窒素水素混合雰囲気とした。そして、昇温工程での雰囲気中の酸素ポテンシャル(PH2O/PH2)を0.1とした。さらに、昇温中のSiO温度域(500~700℃)での平均昇温速度RR500-700を表4に示す値とした。
脱炭焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを主成分とする焼鈍分離剤(水性スラリー)を塗布した後、コイル状に巻き取った。コイル状に巻き取られた鋼板に対して、仕上げ焼鈍を実施した。仕上げ焼鈍温度を1150℃とし、仕上げ焼鈍温度での保持時間を10時間とした。仕上げ焼鈍後の鋼板を放冷した。
仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、二次被膜形成工程を実施した。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。これにより、一次被膜上に、張力絶縁被膜である二次被膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
[評価試験]
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、鉄損W17/50、及び鉄損差ΔWを求めた。なお、磁気焼鈍試験において、鉄損差ΔWが1%以下の場合、磁気時効が顕著に抑制されており、極めて優れた鉄損特性が得られたと判断した(表4中で「◎」)。また、鉄損差ΔWが5%以下の場合、磁気時効が抑制されており、優れた鉄損特性が得られたと判断した(表4中で「○」)。一方、鉄損差ΔWが5%を超えた場合、磁気時効が発生して、鉄損特性が低下した判断した(表4中で「×」)。
[試験結果]
表4を参照して、試験番号1~32のいずれにおいても、スラブの化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。また、板厚が0.20mm又は0.18mmであった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.905T以上と高く、ゴス方位集積度B8/Bsは0.958以上と高かった。さらに鉄損W17/50も0.821W/kg以下と低かった。さらに磁気時効試験により得られた鉄損差ΔWはいずれも1%以下であり、磁気時効が十分に抑制できており、優れた鉄損特性が得られた。さらに、これらの試験番号の鉄損W17/50は、表2に示す板厚が0.23mmの鉄損W17/50と比較して、顕著に低かった。
試験番号17~32では、いずれも、スラブの化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。また、板厚が0.18mmであった。そのため、試験番号17~32の鉄損W17/50は、板厚が0.20mmの表4中の試験番号1~16のうち、Si含有量及び昇温速度が同じ条件の試験番号の鉄損W17/50と比較して、さらに低い値を示し、優れた鉄損特性を示した。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (4)

  1. 化学組成が、
    質量%で、
    C:0.020~0.100%、
    Si:3.3~3.75%、
    Mn:0.010~0.300%、
    S及び/又はSe:合計で0.001~0.050%、
    sol.Al:0.010~0.065%、
    N:0.002~0.015%、
    Sn:0~0.500%、
    Cr:0~0.500%、
    Cu:0~0.500%、及び、
    残部:Fe及び不純物、
    からなるスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する熱間圧延工程と、
    前記熱間圧延工程後の前記鋼板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施する冷間圧延工程と、
    1又は複数回の前記冷間圧延のうち、最終の前記冷間圧延前の前記鋼板に対して焼鈍処理を実施する最終冷間圧延前焼鈍工程と、
    冷間圧延工程後の前記鋼板を脱炭焼鈍温度まで加熱し、500~700℃の温度域を、800~2400℃/秒の平均昇温速度で前記鋼板を加熱する昇温工程と、800~950℃の脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持して脱炭焼鈍を実施する脱炭工程とを含む、脱炭焼鈍工程と、
    前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
    前記焼鈍分離剤が塗布された前記鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程と、
    を備える、方向性電磁鋼板の製造方法。
  2. 請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    前記スラブの化学組成は、
    Sn:0.010~0.500%、
    Cr:0.010~0.500%、及び、
    Cu:0.010~0.500%、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、方向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    前記脱炭焼鈍工程の前記昇温工程では、前記鋼板の温度が少なくとも500~700℃になるまでの間、雰囲気中の酸素ポテンシャルを0.001以下にする、方向性電磁鋼板の製造方法。
  4. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    前記方向性電磁鋼板の板厚は0.18~0.23mmである、方向性電磁鋼板の製造方法。
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