JP2019178379A - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
熱間圧延工程では、化学組成が質量%で、C:0.020〜0.100%、Si:3.20〜3.70%、Mn:0.010〜0.300%、S及び/又はSe:合計で0.001〜0.050%、sol.Al:0.020〜0.028%、N:0.002〜0.015%、Sn:0〜0.500%、Cr:0〜0.500%、Cu:0〜0.500%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、冷間圧延工程後の鋼板の板厚をD(mm)と定義したとき、式(1)及び式(2)を満たすスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する。
2×D+2.86≦Si≦2×D+3.26 (1)
0.04×D+0.0132≦sol.Al≦0.04×D+0.0192 (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の元素記号には、スラブの化学組成における対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
冷間圧延前焼鈍工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対して焼鈍処理を実施する。
冷間圧延工程では、冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、途中で焼鈍処理を実施することなく89.0〜93.0%の冷延率で冷間圧延を実施して、板厚Dが0.17〜0.22mmの鋼板を製造する。
脱炭焼鈍工程では、昇温工程と脱炭工程とを含む。昇温工程では、冷間圧延工程後の鋼板を脱炭焼鈍温度まで加熱し、鋼板の温度が少なくとも500〜700℃になるまでの間、800〜2400℃/秒の平均昇温速度で鋼板を加熱する。脱炭工程では、800〜950℃の脱炭焼鈍温度で鋼板を保持して脱炭焼鈍を実施する。
焼鈍分離剤塗布工程では、脱炭焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する。
仕上げ焼鈍工程では、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する。
2×D+2.86≦Si≦2×D+3.26 (1)
0.04×D+0.0132≦sol.Al≦0.04×D+0.0192 (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の元素記号には、スラブの化学組成における対応する元素の含有量(質量%)が代入される。Dは、冷間圧延工程後の鋼板(つまり、冷延鋼板)の板厚(mm)である。
熱間圧延工程では、化学組成が質量%で、C:0.020〜0.100%、Si:3.20〜3.70%、Mn:0.010〜0.300%、S及び/又はSe:合計で0.001〜0.050%、sol.Al:0.020〜0.028%、N:0.002〜0.015%、Sn:0〜0.500%、Cr:0〜0.500%、Cu:0〜0.500%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、冷間圧延工程後の鋼板の板厚をD(mm)と定義したとき、式(1)及び式(2)を満たすスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する。
2×D+2.86≦Si≦2×D+3.26 (1)
0.04×D+0.0132≦sol.Al≦0.04×D+0.0192 (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の元素記号には、スラブの化学組成における対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
冷間圧延前焼鈍工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対して焼鈍処理を実施する。
冷間圧延工程では、冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して、途中で焼鈍処理を実施することなく89.0〜93.0%の冷延率で冷間圧延を実施して、板厚Dが0.17〜0.22mmの鋼板を製造する。
脱炭焼鈍工程では、昇温工程と脱炭工程とを含む。昇温工程では、冷間圧延工程後の鋼板を脱炭焼鈍温度まで加熱し、鋼板の温度が少なくとも500〜700℃になるまでの間、800〜2400℃/秒の平均昇温速度で鋼板を加熱する。脱炭工程では、800〜950℃の脱炭焼鈍温度で鋼板を保持して脱炭焼鈍を実施する。
焼鈍分離剤塗布工程では、脱炭焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する。
仕上げ焼鈍工程では、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する。
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法のフロー図である。図1を参照して、本製造方法は、スラブに対して熱間圧延を実施する熱間圧延工程(S1)と、熱間圧延後の鋼板(熱延鋼板)に対して焼鈍処理を実施する冷間圧延前焼鈍工程(S2)と、冷間圧延前焼鈍工程後の鋼板に対して1回の冷間圧延を実施する冷間圧延工程(S3)と、冷間圧延工程後の鋼板(冷延鋼板)に対して脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程(S4)と、脱酸焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程(S5)と、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程(S6)とを含む。以下、各工程S1〜S6について説明する。
熱間圧延工程(S1)は、準備されたスラブに対して熱間圧延を実施して熱延鋼板を製造する。スラブの化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.020〜0.100%
炭素(C)は、製造工程中における脱炭焼鈍工程完了までの組織制御に有効である。しかしながら、C含有量が0.020%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.100%を超えれば、後述の脱炭焼鈍工程を実施しても、脱炭が不十分となり、磁気時効が起こってしまう。この場合、十分な鉄損特性が得られない。したがって、C含有量は0.020〜0.100%である。C含有量の好ましい下限は0.030%であり、さらに好ましくは0.040%である。C含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%である。
シリコン(Si)は、板厚が0.17〜0.22mmの極薄手の方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて、鉄損のうちの渦電流損を低減する。Si含有量が3.20%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が3.70%を超えれば、鋼の冷間加工性が低下する。したがって、Si含有量は3.20〜3.70%である。Si含有量の好ましい下限は3.25%であり、さらに好ましくは3.30%である。Si含有量の好ましい上限は3.65%であり、さらに好ましくは3.60%である。
マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減する。Mnはさらに、熱間加工性を高めて、熱間圧延における割れの発生を抑制する。Mnはさらに、冷間圧延前焼鈍工程において、S及び/又はSeと結合して微細MnS及び/又は微細MnSeを形成する。微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、冷間圧延前焼鈍工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。Mn含有量が0.010%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが析出しない。一方、Mn含有量が0.300%を超えれば、方向性電磁鋼板の磁束密度が低下する。したがって、Mn含有量は0.010〜0.300%である。Mn含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.030%である。Mn含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
硫黄(S)及びセレン(Se)は、製造工程中において、Mnと結合して、上述の微細MnS及び/又は微細MnSeを形成する。微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、冷間圧延前焼鈍工程において、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。S及び/又はSeの合計含有量が0.001%未満であれば、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが得られない。一方、S及び/又はSeの合計含有量が0.050%を超えれば、仕上げ焼鈍工程後の鋼板中においてもMnS及び/又はMnSeが残存する場合がある。この場合、磁気特性が低下する。したがって、S及び/又はSeの合計含有量は0.001〜0.050%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい下限は0.005%である。S及び/又はSeの合計含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
アルミニウム(Al)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Nと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。sol.Al含有量が0.020%未満であれば、板厚Dが0.17〜0.22mmの鋼板を1回の冷間圧延で製造する場合において、インヒビターとして機能する十分な量のAlNが得られない。一方、sol.Al含有量が0.028%を超えれば、板厚Dが0.17〜0.22mmの鋼板を1回の冷間圧延で製造する場合において、微細なAlNが少なくなり(つまり、粗大なAlNが多くなり)、板厚Dが0.17〜0.22mmの鋼板を1回の冷間圧延で製造する場合におけるAlNのインヒビター強度が低下する。したがって、sol.Al含有量は0.020〜0.028%である。sol.Al含有量の好ましい下限は0.021%であり、さらに好ましくは0.022%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.027%であり、さらに好ましくは0.026%である。なお、本明細書において、sol.Alは酸可溶Alを意味する。したがって、sol.Al含有量は、酸可溶Alの含有量である。
窒素(N)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Alと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。N含有量を0.002%未満とするためには、製鋼工程において過度の精錬を必要とし、この場合、製造コストが高くなる。したがって、N含有量の下限は0.002%である。一方、鋼材中のN含有量が0.015%を超えれば、冷間圧延時に鋼板にブリスタ(空孔)が多数生成しやすくなる。したがって、N含有量は0.002〜0.015%である。N含有量の好ましい下限は0.004%であり、さらに好ましくは0.006%である。N含有量の好ましい上限は0.012%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
上述のスラブの化学組成は、Feの一部に代えて、Sn、Cr及びCuからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
すず(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。含有される場合、Snは、脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上し、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Snは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。Snはさらに、粒界偏析元素であり、二次再結晶を安定化する。しかしながら、Sn含有量が0.500%を超えれば、鋼板の表面が酸化されにくくなり、一次被膜の形成が不十分になる場合がある。したがって、Sn含有量は0〜0.500%である。Sn含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Sn含有量の好ましい上限は0.300%であり、さらに好ましくは0.200%である。
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Crは脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上し、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。さらに、Crは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。しかしながら、Cr含有量が0.500%を超えれば、一次被膜の形成が不安定になる場合がある。したがって、Cr含有量は0〜0.500%である。Cr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Cr含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、冷間圧延前焼鈍工程において、AlNの生成核となる微細MnSの析出を促進する。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、CuS析出物が析出し、CuS析出物が仕上げ焼鈍後にも残存する場合が生じる。鋼中にCuS析出物が残存していれば、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜0.500%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.050%である。Cu含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%である。
上述のスラブの化学組成はさらに、冷間圧延工程により製造される鋼板(冷延鋼板)の板厚をD(mm)と定義したとき、式(1)及び式(2)を満たす。
2×D+2.86≦Si≦2×D+3.26 (1)
0.04×D+0.0132≦sol.Al≦0.04×D+0.0192 (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
式(1)は冷延鋼板の板厚Dに対して適切なSi含有量を定義する。上述のとおり、Siは鋼板の電気抵抗(固有抵抗)を高め、渦電流損を低減することにより、鉄損を低下する。しかしながら、板厚が0.17〜0.22mmの極薄手の場合、Si含有量が3.20%以上であっても、Si含有量が式(1)の下限(2×D+2.86)以上でなければ、本実施形態の製造方法で製造された方向性電磁鋼板において十分に低い鉄損が得られない。
式(2)は冷延鋼板の板厚Dに対して適切なAl含有量を定義する。上述のとおり、Al含有量を0.028%以下に抑えることにより、鋼板中に析出するAlNを微細なまま維持することができる。その場合、表層部の結晶粒と板厚中央部の結晶粒との粒径差を大きくすることができる。具体的には、微細なAlNのインヒビター作用により、板厚中央部の結晶粒を、表層部の結晶粒よりも小さく維持できる。その結果、表層の結晶粒と板厚中央部の結晶粒との粒径差に起因する二次再結晶時の粒成長駆動力を確保できる。
以上の化学組成を有するスラブの製造方法の一例は次のとおりである。上記化学組成を有する溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いて、連続鋳造法により、スラブを製造する。
準備された上記化学組成を有するスラブに対して、熱間圧延機を用いて熱間圧延を実施して鋼板(熱延鋼板)を製造する。初めに、鋼材を加熱する。たとえば、スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して、加熱する。スラブの好ましい加熱温度は1300〜1400℃であり、さらに好ましくは、1320〜1380℃である。
冷間圧延前焼鈍工程では、熱間圧延工程後の鋼板(熱延鋼板)に対して焼鈍処理を実施する。本工程での焼鈍処理の条件は、周知の条件で足りる。冷間圧延前焼鈍工程での焼鈍温度はたとえば900〜1200℃であり、焼鈍温度での保持時間は30〜180秒である。
冷間圧延工程(S3)では、製造された鋼板に対して、途中で焼鈍処理を実施することなく89.0〜93.0%の冷延率で冷間圧延を実施して、板厚Dが0.17〜0.22mmの鋼板(冷延鋼板)を製造する。ここで、「途中で焼鈍処理を実施することなく」とは、冷間圧延を1回実施することを意味する。「冷間圧延を1回実施する」とは、冷間圧延の途中で焼鈍処理を実施せずに、本工程での鋼板の圧延を完了することを意味する。たとえば、リバース式の圧延機を用いて、1回のパスにて冷間圧延を実施する場合、「冷間圧延を1回実施する」に相当する。また、リバース式の圧延機を用いて複数回のパスにて冷間圧延を実施する場合、冷間圧延のパスとパスとの間に焼鈍処理を挟まずに複数回パスの冷間圧延を実施した場合は、「冷間圧延を1回実施する」に相当する。なお、たとえば、複数回パスの冷間圧延の途中で焼鈍処理を1回実施した場合、「冷間圧延を2回実施する」に相当する。ここで、「パス」とは、鋼板に圧延スタンドを通過させて圧下を与えることを意味し、1回のパスとは、鋼板に圧延スタンドを1回通過させて圧下を与えることを意味する。
冷延率(%)=100−最終の冷間圧延後の冷延鋼板の板厚/最初の冷間圧延開始前の鋼板の板厚×100
脱炭焼鈍工程(S4)では、冷間圧延工程(S3)後の鋼板(冷延鋼板)に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶を発現させる。本実施形態では、脱炭焼鈍工程の昇温時において、500〜700℃の温度域の平均昇温速度を800℃/秒以上とすることにより、極薄手の方向性電磁鋼板を1回の冷間圧延で実施しても、優れた磁気特性が得られる。
昇温工程(S41)では、初めに、冷間圧延工程後の上述の板厚(0.17〜0.22mm)の鋼板を熱処理炉に装入する。本実施形態における脱炭焼鈍用の熱処理炉では、たとえば、高周波誘導加熱により、冷延鋼板を脱炭焼鈍温度まで昇温する。昇温工程における製造条件は次のとおりである。
昇温工程において、鋼板の温度が500℃から700℃に至るまでの間の昇温速度の平均を、平均昇温速度RR500−700(℃/秒)と定義する。500〜700℃は、一次再結晶が発現する温度域である。上述のとおり、本実施形態のスラブの化学組成でのSi含有量は3.20%以上と高い。さらに、本実施形態では冷間圧延工程において冷間圧延を1回のみとし、冷間圧延後の冷延鋼板の板厚を0.17〜0.22mmと極薄手とする。この場合、熱間圧延工程おいて鋼板中のフェライト比率が高まるため、板厚中央部にαファイバー方位群が発達し、冷延鋼板においてもαファイバー方位群が残存する場合がある。
脱炭焼鈍工程(S4)における脱炭工程(S42)では、昇温工程(S41)後の鋼板を脱炭焼鈍温度Taで保持して、脱炭焼鈍を実施する。これにより、鋼板に一次再結晶を発現させる。脱炭工程中の雰囲気は、周知の雰囲気で足り、たとえば、水素及び窒素を含有する湿潤窒素水素混合雰囲気である。脱炭焼鈍を実施することにより、鋼板中の炭素が鋼板から除去され、一次再結晶が発現する。脱炭工程での製造条件は次のとおりである。
脱炭焼鈍温度Taは、上述のとおり、脱炭焼鈍を実施する熱処理炉の炉温に相当し、脱炭焼鈍中の鋼板の温度に相当する。脱炭焼鈍温度Taが800℃未満であれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が小さすぎる。この場合、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。一方、脱炭焼鈍温度Taが950℃を超えれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が大きすぎる。この場合も、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。脱炭焼鈍温度Taが800〜950℃であれば、一次再結晶後の鋼板の結晶粒が適切なサイズとなり、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現する。
冷却工程(S43)では、脱炭工程(S42)後の鋼板を周知の方法で常温まで冷却する。冷却方法は放冷であってもよいし、水冷であってもよい。好ましくは、脱炭工程後の鋼板を放冷する。以上の工程により脱炭焼鈍工程(S4)では、鋼板に対して脱炭焼鈍処理を実施する。
脱炭焼鈍工程(S4)後の鋼板に対して、焼鈍分離剤塗布工程(S5)を実施する。焼鈍分離剤塗布工程(S5)では、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布する。具体的には、鋼板表面に焼鈍分離剤を含有する水性スラリーを塗布する。水性スラリーは、焼鈍分離剤に水を加えて攪拌して作製する。焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)を含有する。好ましくは、MgOは焼鈍分離剤の主成分である。ここで、「主成分」とは、焼鈍分離剤中のMgO含有量が、質量%で60.0%以上であることを意味する。焼鈍分離剤は、MgO以外に、周知の添加剤を含有してもよい。
焼鈍分離剤塗布工程(S5)後の鋼板に対して、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施して、二次再結晶を発現させる。仕上げ焼鈍工程は、熱処理炉を用いて実施する。仕上げ焼鈍工程での製造条件は周知の条件で足りる。仕上げ焼鈍工程での製造条件はたとえば、次のとおりである。なお、仕上げ焼鈍における炉内雰囲気は、周知の雰囲気である。
仕上げ焼鈍温度での保持時間:5〜30時間
仕上げ焼鈍温度が1150℃未満であれば、十分な二次再結晶が発現せず、また二次再結晶に用いた析出物を除去する純化が十分ではない。そのため、製造された方向性電磁鋼板の磁気特性が低くなる。一方、仕上げ焼鈍温度が1250℃を超えても二次再結晶、純化に対する効果が低いとともに、鋼板の変形などの問題が生じる。仕上げ焼鈍温度が1150〜1250℃であれば、上記保持時間が適切であることを前提として、十分な二次再結晶が発現して、磁気特性が高まる。さらに、鋼板表面上にフォルステライトを含有する一次被膜が健全に形成される。
本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法ではさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程(S6)後に、二次被膜形成工程を実施してもよい。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍工程の冷却後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施する。これにより、一次被膜上に、張力絶縁被膜である二次被膜が形成される。二次被膜形成工程では、焼き付け時に鋼板に張力を付与する平坦化焼鈍を実施してもよい。平坦化焼鈍は周知の条件で実施すればよい。平坦化焼鈍での焼鈍温度はたとえば800〜950℃である。
本実施形態による方向性電磁鋼板はさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程又は二次被膜形成工程後に、磁区細分化処理工程を実施してもよい。磁区細分化処理工程では、方向性電磁鋼板の表面に、磁区細分化効果のあるレーザ光を照射したり、表面に溝を形成したりする。この場合、さらに磁気特性に優れる方向性電磁鋼板が製造できる。
化学組成が、質量%で、C:0.075%、Si:3.40%、Mn:0.075%、S:0.028%、sol.N:0.008%を含有し、さらに、表1に示す含有量(質量%)のAlを含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
[磁気特性評価試験]
次の方法により、各試験番号の方向性電磁鋼板の磁気特性(磁束密度B8、及び、鉄損W17/50)をJIS C2556:2015に準拠して、評価した。具体的には、各サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度B8(T)を測定した。また、周波数を50Hz、最大磁束密度を1.7Tとしたときの鉄損W17/50(W/kg)を測定した。
得られた磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、及び鉄損W17/50を表1に示す。表1を参照して、試験番号2〜5、10〜12、17〜20では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、Si含有量(3.40%)が式(1)を満たし、Al含有量が式(2)を満たし、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.914T以上と高く、鉄損W17/50も0.806W/kg以下と低かった。したがって、これらの試験番号では、1回の冷間圧延であっても、磁気特性の優れた極薄手の方向性電磁鋼板が得られた。
化学組成が、質量%で、C:0.075%、Mn:0.075%、S:0.028%、N:0.008%を含有し、さらに、表2に示す含有量(質量%)のSi及びsol.Alを含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8、及び、鉄損W17/50を求めた。本実施例ではさらに、次式に基づいて、飽和磁束密度Bsを求めた。
Bs=2.2032−0.0581Si
ここで、式中のSiは、各試験番号のSi含有量(質量%)が代入される。得られた磁束密度B8及び飽和磁束密度Bsとに基づいて、飽和磁束密度Bsに対する磁束密度B8の比であるゴス方位集積度(B8/Bs)を求めた。
得られた試験結果を表2に示す。表2を参照して、試験番号1〜4、6〜9、11〜14、17〜20、22〜25、27〜30では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、Si含有量が式(1)を満たし、Al含有量が式(2)を満たし、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.907T以上と高く、ゴス方位集積度B8/Bsは0.952以上と高く、鉄損W17/50も0.808W/kg以下と低かった。したがって、これらの試験番号では、1回の冷間圧延であっても、磁気特性の優れた極薄手の方向性電磁鋼板が得られた。
化学組成が、質量%で、C:0.077%、Si:3.45%、Mn:0.075%、S:0.028%、N:0.008%を含有し、さらに、表3に示す含有量(質量%)のsol.Alを含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、及び、鉄損W17/50を求めた。
得られた試験結果を表3に示す。表3を参照して、試験番号4〜12、19〜27では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、Si含有量が式(1)を満たし、Al含有量が式(2)を満たし、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.918T以上と高く、鉄損W17/50も0.803W/kg以下と低かった。したがって、これらの試験番号では、1回の冷間圧延であっても、磁気特性の優れた極薄手の方向性電磁鋼板が得られた。
化学組成が、質量%で、C:0.077%、Si:3.45%、Mn:0.075%、S:0.028%、N:0.008%、Sn:0.100%、Cu:0.070%、Cr:0.050%を含有し、さらに、表4に示す含有量(質量%)のsol.Alを含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
実施例1と同じ方法により、各試験番号の磁束密度B8、ゴス方位集積度B8/Bs、及び、鉄損W17/50を求めた。
得られた試験結果を表4に示す。表4を参照して、試験番号4〜12、19〜27では、いずれもスラブの化学組成が適切であり、Si含有量が式(1)を満たし、Al含有量が式(2)を満たし、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、いずれの試験番号においても、磁束密度B8は1.915T以上と高く、鉄損W17/50も0.779W/kg以下と低かった。したがって、これらの試験番号では、1回の冷間圧延であっても、磁気特性の優れた極薄手の方向性電磁鋼板が得られた。
Claims (2)
- 化学組成が質量%で、
C:0.020〜0.100%、
Si:3.20〜3.70%、
Mn:0.010〜0.300%、
S及び/又はSe:合計で0.001〜0.050%、
sol.Al:0.020〜0.028%、
N:0.002〜0.015%、
Sn:0〜0.500%、
Cr:0〜0.500%、
Cu:0〜0.500%、及び、
残部:Fe及び不純物、
からなり、冷間圧延工程後の鋼板の板厚をD(mm)と定義したとき、式(1)及び式(2)を満たすスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の前記鋼板に対して焼鈍処理を実施する冷間圧延前焼鈍工程と、
前記冷間圧延前焼鈍工程後の前記鋼板に対して、途中で焼鈍処理を実施することなく89.0〜93.0%の冷延率で冷間圧延を実施して、前記板厚Dが0.17〜0.22mmの前記鋼板を製造する冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後の前記鋼板を脱炭焼鈍温度まで加熱し、前記鋼板の温度が少なくとも500〜700℃になるまでの間、800〜2400℃/秒の平均昇温速度で前記鋼板を加熱する昇温工程と、800〜950℃の前記脱炭焼鈍温度で前記鋼板を保持して脱炭焼鈍を実施する脱炭工程とを含む、脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程と、
を備える、方向性電磁鋼板の製造方法。
2×D+2.86≦Si≦2×D+3.26 (1)
0.04×D+0.0132≦sol.Al≦0.04×D+0.0192 (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の元素記号には、前記スラブの前記化学組成における対応する元素の含有量(質量%)が代入される。 - 請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記スラブの前記化学組成は、
Sn:0.005〜0.500%、
Cr:0.010〜0.500%、及び、
Cu:0.010〜0.500%、
からなる群から選択される1種以上を含有する、方向性電磁鋼板の製造方法。
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