JP2020159484A - 動圧軸受装置およびこれを備えたモータ - Google Patents
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Abstract
【課題】スラストブッシュ材質を樹脂に変更しても、十分な接着強度、隙間精度を維持し、薄型化にも対応可能で、高い回転精度を誇る動圧軸受ユニットを低コストに提供する。【解決手段】軸部材は、軸部と、軸部のハウジング内の軸端に連設されるフランジ部とを有し、フランジ部の端面との間にスラスト軸受隙間を形成するスラスト軸受面を有する樹脂製のスラストブッシュを備えた動圧軸受装置である。スラストブッシュの外周面に、複数の凸部とこの凸部間に設けられる凹部とを形成する。ハウジングに設けられた嵌合用凹部にスラストブッシュを嵌入することによって、複数の凸部が嵌合用凹部に対して圧入される。凸部間の凹部にて嵌合用凹部の内周面とスラストブッシュの外周面の間に接着剤が嵌入される隙間が形成される。【選択図】図2
Description
本発明は、動圧軸受装置およびこれを備えたモータに関する。
動圧軸受装置は、高速回転、高回転精度および低騒音等の特長を有する。このため、動圧軸受装置は、種々の電気機器に搭載される各種モータ、例えば、HDD等のディスク駆動装置に組み込まれるスピンドルモータ用、PC等に組み込まれるファンモータ用、あるいはレーザビームプリンタに組み込まれるポリゴンスキャナモータ用の軸受装置などとして好適に使用されている。
一般にこの種の動圧軸受装置は、ハウジングと、ハウジングの内周に固定された多孔質の焼結材料(焼結金属)からなる軸受スリーブ、軸受スリーブの内周面で形成され、流体(例えば、潤滑油)が介在するラジアル軸受隙間と、ラジアル軸受隙間内の流体に生じる動圧作用で支持すべき軸(軸受スリーブの内周に挿入される軸部材)をラジアル方向に相対回転自在に非接触支持するラジアル軸受部とを備える。
また、軸部材が軸部とこの軸部の軸端部に設けられたフランジ部とで構成され、また、軸部材のフランジ部の端面との間にスラスト軸受隙間を形成するスラスト軸受面を有する蓋部材(スラストブッシュ)が、ハウジングの開口部に装着されているものがある(特許文献1〜特許文献4)。
特許文献1では、スラストブッシュを樹脂材料や黄銅等の金属材料から構成し、このスラストブッシュを、接着、圧入、溶着、溶接、加締等の既知の固定手段を介してハウジングに固定することが記載されている。
特許文献2では、スラストブッシュを黄銅等の金属材料から構成し、スラストブッシュの外周面にテーパ面を設けている。このテーパ面を設けることによって、スラストブッシュをハウジングの嵌合部に圧入する際に発生する金属粉を接着剤でトラップするものである。
特許文献3では、スラストブッシュの外周面とこれに対向するハウジングの内周面との間の接着剤溜りを形成するとともに、この接着剤溜りよりも径方向隙間を狭めた接着隙間を形成したものである。この接着隙間は、接着剤溜りの上側に連設されている。
このように構成することによって、スラストブッシュと軸部材との間が完全にシールされ、また、接着剤が接着隙間に漏れなく均一に充填されることで、両部材間で所要の固定力を安定して得ることができる。
特許文献4では、ハウジングの内周面とスラストブッシュの外周面との間に隙間を設け、この隙間に接着剤を介在させて、この接着剤を硬化させたものである。このように、構成することによって、ハウジングのクリープ変形により固定力が低下することなく、長期にわたって優れた固定力を維持することができるというものである。
ハードディスクの記憶容量を増加させる場合、ディスク枚数が増えることになる。このように、ディスク枚数が増えれば、軸受ユニット(動圧軸受装置)にかかる荷重も大きくなる。このため、各部材の締結強度の向上が求められている。また、パソコンに搭載するファンモータでは、パソコンの薄型化に伴い、軸受の薄型化の要求がある。
ところで、特許文献1と特許文献2等のように、スラストブッシュとハウジングを圧入と接着により固定する場合、圧入部分への接着剤の供給不足や円周上に接着剤の塗布ムラがあると十分な接着強度が得られない。しかも、スラストブッシュとハウジングの隙間を完全に封止できないおそれもある。また、スラストブッシュの材質を樹脂にした場合、金属に比べて濡れ性が低いため、接着剤の供給不足が発生した場合、更に接着強度が低下するおそれがある。特許文献4に記載のように、接着剤のみの接合では、接着剤の供給不足や円周上に接着剤の塗布ムラがあると十分な接着強度が得られない。
特に、前記特許文献3では、スラストブッシュとハウジングの嵌合部に対して、軸方向に、一部分が圧入接着、一部分が隙間接着になっている。このような構成では、軸受の軸方向長さが長くなるため、薄型化に対応し難い。
本発明の課題は、スラストブッシュ材質を樹脂に変更しても、十分な接着強度、隙間精度を維持し、薄型化にも対応可能で、高い回転精度を誇る動圧軸受ユニットを低コストに提供することである。
本発明の動圧軸受装置は、軸受スリーブと、この軸受スリーブとの間で軸受隙間を形成する軸部材と、前記軸受スリーブを収納するハウジングと、前記軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材と前記軸受スリーブをラジアル方向に相対回転自在に非接触支持するものであり、前記軸部材は、軸部と、軸部のハウジング内の軸端に連設されるフランジ部とを有し、このフランジ部の端面との間にスラスト軸受隙間を形成するスラスト軸受面を有する樹脂製のスラストブッシュを備えた動圧軸受装置であって、前記スラストブッシュの外周面に、複数の凸部とこの凸部間に設けられる凹部とを形成し、前記ハウジングに設けられた嵌合用凹部にこのスラストブッシュを嵌入することによって、複数の凸部がこの嵌合用凹部に対して圧入され、凸部間の凹部にて嵌合用凹部の内周面とスラストブッシュの外周面の間に接着剤が嵌入される隙間が形成されるものである。
本発明の動圧軸受装置によれば、複数の凸部がこの嵌合用凹部に対して圧入され、凸部間の凹部にて嵌合用凹部の内周面とスラストブッシュの外周面の間に接着剤が嵌入される隙間が形成されるので、この隙間に安定して接着剤を注入でき、この隙間が維持されたまま接着剤が硬化する。
前記隙間寸法は、スラストブッシュの凸部の外面が円弧面であって、この外面が描く円形の直径をDとし、凹部の内面が円弧面であって、この内面が描く円形の直径をdとしたときに、(D−d)/2であり、この隙間寸法を10μm〜30μmに設定するのが好ましい。このような隙間寸法に設定することによって、この隙間内に毛細管現象で接着剤が引き込まれる力が作用して、装置内部への接着剤の流動を阻止できる。これにより、隙間内において接着剤が不足することがなく、安定した接着力を確保することができる。
凸部を周方向に沿って等ピッチで少なくとも3か所に設けるのが好ましい。2か所であれば、ハウジングにスラストブッシュを圧入した場合、楕円形状に変形するおそれがあり、変形すれば、隙間精度が低下して安定した接着強度を得ることができなくなる。
1つの凸部の周方向の幅寸法を少なくとも1mm以上とするのが好ましい。このように設定することによって、接着剤が硬化するまで隙間を安定して確保することができる。
前記スラストブッシュを繊維強化プラスチックにて構成することができる。ここで、繊維強化プラスチックは、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維をプラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料である。繊維強化プラスチックとしては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いることができ、さらには、ボロン繊維強化プラスチック(BFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP, KFRP)やポリエチレン繊維強化プラスチック(DFRP)等も用いることができる。また、含浸させる短繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維等を用いることができるが、カーボンナノチューブ(CNT)やセルロースナノファイバー(CNF)等であってもよい。スラストブッシュとしての繊維強化プラスチックは液晶ポリマーを主成分として、充填材としてガラス繊維を30〜50質量%配合したものが好ましい。
ところで、繊維強化プラスチックは、弾性が高い、耐熱性・耐衝撃性・耐水性・耐薬品性・電気絶縁性に優れるなどのメリットがある。また、対金属に関してのメリットは、金属と比べても強度性が高く、軽量で錆びずに腐食しにくい点である。
前記スラストブッシュは射出成形品であるのが好ましい。液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂であれば、射出成形に適している。射出成形にて成形することによって、端面のスラスト軸受面や外周面の凹凸部等の形状を安定して製造でき、しかも、コスト低減を図ることができる。
本発明のモータは、前記動圧軸受装置と、ロータマグネットと、ステーコイルとを有するものである。
本発明では、スラストブッシュの接着強度が向上する。このため、スラストブッシュが樹脂製であっても、隙間精度が維持されて十分な接着強度を有し、薄型化にも対応できて、高い回転精度を得る動圧軸受装置を提供できる。
以下本発明の実施の形態を図1〜図9に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る流体動圧軸受装置1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する流体動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はケーシング6に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3に取付けられる。流体動圧軸受装置1のハウジング7の外周面は、ケーシング6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスク50が所定枚数保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に作用する電磁力でロータ5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
図3に示すように、流体動圧軸受装置1は、軸部材2と、ハウジング7と、ハウジング7の内周に保持された軸受スリーブ8と、ハウジング7の軸方向一端の開口部に設けられたシール部9と、ハウジング7の軸方向他端を閉塞する蓋部を構成する円盤形状の樹脂製のスラストブッシュ10とを有する。なお、以下の説明では、便宜上、軸方向でハウジング7の閉塞側を下側、ハウジング7の開口側を上側と言うが、これは流体動圧軸受装置1の使用態様を限定する趣旨ではない。
軸部材2は、軸部2aと、軸部2aの下端に設けられたフランジ部2bとを備える。軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、本実施形態では、軸部2aおよびフランジ部2bを含む軸部材2全体が一体に形成される。軸部2aとフランジ部2bを別体に形成することもできる。
軸部2aの外周面には、軸方向に離隔する2箇所に形成された円筒面2a1と、2箇所の円筒面2a1の間に設けられ、円筒面2a1よりも小径な環状凹部2a2とが設けられる。円筒面2a1は、軸受スリーブ8の内周面8aの軸受面8a1と半径方向で対向する軸受対向面として機能する。
ハウジング7は軸受スリーブ8を保持する部材であり、例えば真ちゅう等で円筒状に形成される。ハウジング7の内周面7aには、軸受スリーブ8の外周面8dが接着によって固定される。接着としては、軸受スリーブ8の外周面8dとハウジング7の内周面7aとを隙間嵌めの状態で接着した、いわゆる隙間接着が採用される。隙間接着は、ハウジング7の内周に軸受スリーブ8をすきまばめ(JIS B 0401−1参照)することで互いに対向するハウジング7の内周面7aと軸受スリーブ8の外周面8dとの間に径方向隙間15(図6参照)を形成し、この径方向隙間15に介在させた接着剤17を硬化させることで両者を固定する方法であり、軸受スリーブ8の外周面8dとハウジング7の内周面7aを隙間嵌めで嵌合させた状態で、両面間の隙間に接着剤17を注入し、毛細管力で隙間の奥に引き込むことにより行われる。この他、軸受スリーブ8の外周面8dとハウジング7の内周面7aのどちらか一方に接着剤を塗布した上で、両者を隙間嵌めで嵌合させてもよい。接着剤17としては、空気との遮断により硬化する嫌気性の接着剤、エポキシ系等のような加熱硬化型の接着剤、紫外線の照射で硬化する紫外線硬化型の接着剤等が知られている。本実施形態では、公知の接着剤を任意に使用することができる。
隙間接着により、軸受スリーブ8の外周面8dとハウジング7の内周面7aの間に、硬化した接着剤17からなる接着剤層18(図6参照)が形成される。接着剤層18は、軸受スリーブ8の外周面8dとハウジング7の内周面7aの間の隙間の全域にわたって形成する他、当該隙間の一部領域(軸方向の一部領域、あるいは円周方向の一部領域等)に限って形成してもよい。
軸受スリーブ8は、多孔質の焼結体で円筒状に形成された焼結軸受である。この焼結体としては、例えば、20質量%以上の銅を含む焼結金属が使用される。銅を20質量%以上含む限り、他の含有元素は任意であり、銅のみを主成分とする銅系焼結金属の他、銅と鉄を主成分とする銅鉄系焼結金属、あるいは、銅とステンレス鋼を主成分とするステンレス系焼結金属等を使用することもできる。
軸受スリーブ8の内周面8aには、図4に示すように、軸方向に離隔した2箇所にラジアル軸受面8a1が形成される。各ラジアル軸受面8a1には、動圧発生部としてヘリングボーン形状に配列された動圧発生溝G1,G2が設けられる。図中クロスハッチングで示す領域は、内径側に盛り上がった丘部を示している。上側の動圧発生溝G1は軸方向で非対称な形状を成し、下側の動圧発生溝G2は軸方向で対称な形状を成している。軸方向非対称形状の上側の動圧発生溝G1により、ラジアル軸受隙間の潤滑流体が軸方向下向きに押し込まれ、ハウジング7の内部で潤滑流体が強制的に循環される(後述する)。ラジアル軸受面8a1の軸方向間領域には、円筒面8a2が設けられる。円筒面8a2は、動圧発生溝G1、G2の溝底面と同一円筒面上に連続して設けられる。
なお、上下の動圧発生溝G1,G2の双方を軸方向対称形状としてもよい。また、上下の動圧発生溝G1,G2を軸方向で連続させたり、上下の動圧発生溝G1,G2の一方あるいは双方を省略したりしてもよい。また、軸受スリーブ8の内周面8aを円筒面として、軸部2aの外周面(軸受対向面)に動圧発生部を設けてもよい。また、軸受スリーブ8の軸受面8a1および軸部2aの軸受対向面の双方を円筒面とした、いわゆる真円軸受を使用することもできる。
軸受スリーブ8の下側端面8bにはスラスト軸受面が形成される。スラスト軸受面には、動圧発生部として、図5に示すようなポンプインタイプのスパイラル形状の動圧発生溝8b1が形成される。尚、動圧発生溝の形状として、ヘリングボーン形状や放射溝形状等を採用しても良い。また、軸受スリーブ8の下側端面8bを平坦面として、軸部材2のフランジ部2bの上側端面2b1に動圧発生溝を形成してもよい。なお、図中クロスハッチングで示す領域は、盛り上がった丘部を示している。
シール部9は、ハウジング7の上端から内径側に突出している。本実施形態では、シール部9がハウジング7と一体に形成されているが、シール部9をハウジング7に対して別体にすることもできる。シール部9の内周面9aは、下方に向けて漸次縮径したテーパ状を成す。シール部9の内周面9aと軸部2aの外周面との間には、下方に向けて半径方向幅を徐々に狭めたシール空間Sが形成される。この他、シール部9の内周面を円筒面とする一方で、軸部2aの外周面に上方に向けて漸次縮径するテーパ面を設け、これらの間にシール空間Sを形成してもよい。シール部9の下側端面9bには、軸受スリーブ8の上側端面8cが当接している。
蓋部を構成するスラストブッシュ10は、例えば、繊維強化プラスチックにて構成することができる。ここで、繊維強化プラスチックは、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維をプラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料である。繊維強化プラスチックとしては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いることができ、さらには、ボロン繊維強化プラスチック(BFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP, KFRP)やポリエチレン繊維強化プラスチック(DFRP)等も用いることができる。また、含浸させる短繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維等を用いることができるが、カーボンナノチューブ(CNT)やセルロースナノファイバー(CNF)等であってもよい。スラストブッシュ10としての繊維強化プラスチックは液晶ポリマーを主成分として、充填材としてガラス繊維を30〜50質量%配合したものが好ましい。
このスラストブッシュ10がハウジング7の内周面7aの下端部に後述するような圧入及び接着剤Mを用いた接着にて固定される。これによりハウジング7の内部の空間がシール空間Sでのみ大気に開放された密閉空間となる。この場合の接着剤Mとしては、前記空気との遮断により硬化する嫌気性の接着剤、エポキシ系等のような加熱硬化型の接着剤、紫外線の照射で硬化する紫外線硬化型の接着剤等が知られている。本実施形態では、公知の接着剤を任意に使用することができる。このため、この接着剤Mとしては、前記接着剤17と同じ接着剤を用いることができる。
スラストブッシュ10の一方の端面(上端面)10aにはスラスト軸受面20が形成される。このスラスト軸受面20には、図2に示す例えばスパイラル形状の動圧発生溝20aが形成される。端面10aの中心部には凹窪部10bが設けられるとともに、端面10aの外径側に面取部10cが設けられ、スラスト軸受面20は、凹窪部10bより所定寸だけ外径側から面取部10cより所定寸だけ内径側までの範囲である。また、図3に示すように、スラストブッシュ10の他方の端面(上端面)10dの中心部には凹窪部10eが設けられるとともに、端面10dの外径側に面取部10fが設けられている。なお、動圧発生溝20aの形状として、ヘリングボーン形状や放射溝形状等を採用しても良い。
また、このスラストブッシュ10の外周面には、図2(a)(b)に示すように、複数の凸部21とこの凸部21間に設けられる凹部22とを形成している。凸部21は周方向に沿って90°ピッチで4個配設される。このため、周方向に隣り合う凸部間に凹部22が形成され、この凹部22も周方向に沿って90°ピッチで4個配設されている。
ところで、ハウジング7の下端部には大径の開口部(嵌合用凹部)23が設けられ、この嵌合用凹部23に、スラストブッシュ10が嵌合するものであり、嵌合用凹部23に嵌合する場合、凸部21が開口部に圧入される。すなわち、図2(a)に示すように、圧入する前のスラストブッシュ10の凸部21の外面21aが円弧面であってこの外面21aが描く円形の直径をD1とし、嵌合用凹部23の内径寸法をD2とした場合に、D1>D2としている。
そして、スラストブッシュ10を嵌合用凹部23に圧入した際に、凸部21が嵌合用凹部23に対していわゆるしまりばめ状となり、凹部22の内面22aと嵌合用凹部23の内周面23aとの間に隙間25が形成される。この場合、凸部21の外面21aが描く円形の直径をD(圧入されたことによって、D1からDと変形している)とし、凹部22の内面22aが円弧面であってこの内面22aが描く円形の直径をdとしたときに、この隙間25の隙間寸法C(図8参照)を(D−d)/2で表すことができ、この隙間寸法Cを10μm〜30μmに設定している。
また、凸部21の幅寸法W(図2参照)を、1mm以上例えば2mm程度に設定できる。この凸部21の幅寸法Wは、周方向長さ(弧長)ではなく、弦長である。
そして、凸部21側においては、図7に示すように、一方の面取部10cと嵌合用凹部23の内周面23aとの間、及び他方の面取部10fと嵌合用凹部23の内周面23aとの間に接着剤Mが塗布されることなる。また、凹部22側においては、図8に示すように、隙間25に接着剤Mが嵌入されることになる。
ハウジング7の内部には、図3に示すように、軸方向に延びる軸方向通油路11と、半径方向に延びる半径方向通油路12とが形成される。図3に示す実施形態において、軸方向通油路11は、軸受スリーブ8の外周面8dとハウジング7の内周面7aとの間に形成され、半径方向通油路12は、軸受スリーブ8の上側端面8cとシール部9の下側端面9bとの間に形成されている。軸方向通油路11の下端は、軸受スリーブ8の下側端面8bよりも下方の空間に開口し、上端は半径方向通油路12の外径端と連通する。半径方向通油路12の内径端はシール空間Sに開口している。
図3の実施形態では、軸受スリーブ8の外周面8dに軸方向に延びる軸方向溝8d1を設け、軸方向溝8d1とハウジング7の内周面7aとで画成された隙間により、軸受スリーブ8の外周面8dに沿う軸方向通油路11が形成されている。軸受スリーブ8の上側端面8cには、環状溝8c1と環状溝8c1の内径側に位置する複数の半径方向溝8c2とが設けられ、環状溝8c1および半径方向溝8c2と、シール部9の下側端面9aとで形成される隙間により、軸受スリーブ8の上側端面8cに沿う半径方向通油路12が形成されている。また、シール部9の下側端面の外径側領域は、軸受スリーブ8の上側端面8cから離反した位置にあり、この外径側領域と軸受スリーブ8の上側端面8cとの間に形成された環状隙間13に、軸方向通油路11の上端と半径方向通油路12の外径端とがそれぞれ開口している。環状隙間13は、軸方向通油路11もしくは半径方向通油路12の一部を構成する。かかる構成から、軸受スリーブ8の下側端面8bよりも下方の空間が、軸方向通油路11および半径方向通油路12を介してシール空間S、さらにはラジアル軸受隙間と連通した状態となる。
なお、軸方向通油路11および半径方向通油路12は、軸受スリーブ8の下側端面8bよりも下方の空間とシール空間Sとを連通させるものである限り任意の形態を採用することができ、図2および図3に示す形態には限定されない。例えば軸方向溝8d1をハウジング7の内周面7aに形成してもよい。また、環状溝8c1や半径方向溝8c2をシール部9の下側端面9aに形成してもよい。
流体動圧軸受装置1の内部には、潤滑流体としての潤滑油が真空含浸等の手段により供給され、ハウジング7の内部の全ての空間、例えば軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2aの外周面との間の隙間、軸受スリーブ8の下側端面8bとフランジ部2bの上側端面2b1との間の隙間、フランジ部2bの下側端面2b2と蓋部10の端面10aとの間の隙間、軸方向通油路11、および半径方向通油路12が、軸受スリーブ8の内部気孔を含めて全て潤滑油で満たされる。この時、油面は、シール空間S内に形成される。
軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面8a1と軸部2aの円筒面2a1との間にラジアル軸受隙間が形成される。そして、動圧発生溝G1,G2によりラジアル軸受隙間に形成された油膜の圧力が高められ、これにより軸部材2をラジアル方向に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1及び第2ラジアル軸受部R2が構成される。これと同時に、軸受スリーブ8の下側端面8b(スラスト軸受面)とフランジ部2bの上側端面2b1との間、及び、スラストブッシュ(蓋部)10の端面10a(スラスト軸受面)とフランジ部2bの下側端面2b2との間に、それぞれスラスト軸受隙間が形成される。そして、軸受スリーブ8の下側端面8bの動圧発生溝8b1及びスラストブッシュ10の端面10aの動圧発生溝により、各スラスト軸受隙間に形成された油膜の圧力が高められ、これにより軸部材を両スラスト方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T1及び第2スラスト軸受部T2が構成される。
また、軸部材2の回転中は、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2の各動圧発生溝G1,G2の非対称性等に起因して、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2aの外周面との間の隙間を満たす潤滑油に一定方向の流れ(例えば下向き)が生じる。そのため、第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受隙間から流出した潤滑油は、スラスト軸受隙間、軸方向通油路11、半径方向通油路12を経てシール空間Sに達し、さらには第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間を介して第2ラジアル軸受部のラジアル軸受隙間に還流する。
軸受スリーブ8は、金属粉末を含む原料粉を金属内で圧縮成形することによって圧粉体を形成し、この圧粉体を所定条件で焼結することによって焼結体を形成し、この焼結体に、サイジング(再圧縮)、洗浄等を施した後、潤滑剤(潤滑油)を含油させることになる。すなわち、軸受内部に潤滑油を含油するが、通常、軸受内部が密封された流体動圧軸受装置に潤滑油を含浸する際、一度、軸受内部を減圧して、圧力差により軸受内部に潤滑油を含浸する。
本発明の流体動圧軸受装置では、複数の凸部21がこの嵌合用凹部23に対して圧入され、凸部21間の凹部22にて嵌合用凹部23の内周面23aとスラストブッシュ10の外周面の間に接着剤Mが嵌入される隙間25が形成されるので、この隙間25に安定して接着剤Mを注入でき、この隙間25が維持されたまま接着剤が硬化する。
このため、スラストブッシュ10の接着強度が向上し、スラストブッシュ10が樹脂製であっても、隙間精度が維持されて十分な接着強度を有し、薄型化にも対応できて、高い回転精度を得る動圧軸受装置を提供できる。
隙間25の隙間寸法Cは、スラストブッシュ10の凸部21の外面21aが円弧面であって、この外面21aが描く円形の直径をD(圧入後の径)とし、凹部22の内面22aが円弧面であって、この内面22aが描く円形の直径をdとしたときに、(D−d)/2であり、この隙間寸法Cを10μm〜30μmに設定するのが好ましい。このような隙間寸法Cに設定することによって、この隙間内に毛細管現象で接着剤Mが引き込まれる力が作用して、装置内部への接着剤Mの流動を阻止できる。これにより、隙間25内において接着剤Mが不足することがなく、安定した接着力を確保することができる。
また、凸部21が周方向に沿って等ピッチで少なくとも3か所に設けるのが好ましい。すなわち、2か所であれば、ハウジング7にスラストブッシュ10を圧入した場合、楕円形状に変形するおそれがあり、変形すれば、隙間精度が低下して安定した接着強度を得ることができなくなる。これに対して、凸部21を周方向に沿って等ピッチで少なくとも3か所に設ければ、ハウジング7にスラストブッシュ10を圧入した場合において、楕円形状に変形せず、安定して隙間25を形成することができて、安定した接着強度を得ることができる。
1つの凸部21の周方向の幅寸法Wを少なくとも1mm以上とするのが好ましい。このように設定することによって、接着剤Mが硬化するまで隙間25を安定して確保することができる。
また、スラストブッシュ10に繊維強化プラスチックにて形成できる。繊維強化プラスチックは、弾性が高い、耐熱性・耐衝撃性・耐水性・耐薬品性・電気絶縁性に優れるなどのメリットがある。また、対金属に関してのメリットは、金属と比べても強度性が高く、軽量で錆びずに腐食しにくい点である。
前記スラストブッシュ10は射出成形品であるのが好ましい。液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂であれば、射出成形に適している。射出成形にて成形することによって、端面のスラスト軸受面や外周面の凹凸部等の形状を安定して製造でき、しかも、コスト低減を図ることができる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、軸受スリーブ8として、黄銅等の軟質金属や樹脂材料等、非多孔質材料で形成されたものも使用する場合にも適用することができる。
また、本発明は、軸部材2を回転側、軸受スリーブ8を静止側とした流体動圧軸受装置のみならず、軸部材2を静止側、軸受スリーブ8を回転側とした流体動圧軸受装置にも好ましく適用することができる。
また、本発明は、送風用の羽根を有するロータ、あるいはポリゴンミラーが軸部材2に設けられる流体動圧軸受装置にも好ましく適用することができる。すなわち、本発明は、図1に示すディスク駆動装置用のスピンドルモータのみならず、PC用のファンモータやレーザビームプリンタ(LBP)用のポリゴンスキャナモータ等、その他の電気機器用モータに組み込まれる流体動圧軸受装置にも好ましく適用することができる。
実施品1〜実施品9を作成するとともに、比較品1〜比較品9を作成し、各実施品と比較品との接着強度を測定した。各実施品1〜実施品9は、図9に示すように、ハウジング7を真鍮にて構成し、ハウジング7の内径寸法A1を7.51mmとし、ハウジング7の外径寸法B1を9.5mmとし、軸受スリーブ8を焼結材にて構成し、軸受スリーブ8の内径寸法A2を4mmとし、軸受スリーブ8の外径寸法B2を7.5mmとし、軸部材2のフランジ部2bの外径寸法B3を7mmとし、フランジ部2bの肉厚m1を1mmとした。また、スラストブッシュ10をガラス繊維を40質量%配合した液晶ポリマーにて構成し、スラストブッシュ10の前記外径寸法Dを8.5mmとし、前記凹部22の前記内径寸法dを8.45mmとし、(D−d)/2を25μmとし、スラストブッシュ10の肉厚m2を1.3mmとし、ハウジング7の開口部(嵌合用凹部23)の内径寸法D2(図2(b)参照)を8.49mmとし、スラストブッシュ10の面取部10cを「C0.4」とし、スラストブッシュ10の面取部10fを「C0.2」とした。
すなわち、各実施品1〜実施品9は、ハウジング7の嵌合用凹部23にスラストブッシュ10を圧入した状態で形成される隙間25に接着剤Mを注入するとともに、凸部21の上下に面取部10c、10fに接着剤Mを塗布したものである。また、接着剤Mとして熱硬化型エポキシ接着剤を用いた。
また、比較品1〜比較品9に、外周面に凹凸部を有さない円盤体からなるスラストブッシュ10を、ハウジング7の嵌合用凹部23に圧入したものである。この場合、ハウジング7の嵌合凹部23の内径寸法を8.49mmとし、スラストブッシュ10の外径寸法を8.5mmとし、スラストブッシュ10の肉厚を1.3mmとしている。また、スラストブッシュ10の面取部10cを「C0.4」とし、ハウジング7の面取部10fを「C0.2」とした。各比較品の他の部材は、実施品の部材と同一材質・同一寸法とした。
各実施品及び各比較品は各部品を同一材質・同一寸法で製造しても、設計上の誤差、加工上の誤差、及び組立上の誤差等で接着強度に差が生じる。
接着強度の測定は、図9に示す、治具30を用いるとともに、荷重測定機として、株式会社島津製作所のオートグラフ(AG−Xplusシリーズ)を用いた。治具30は、内周面30aに段付受部30a1が設けられた円筒体にて構成される。すなわち、内周面30aが大径部31と小径部32とを有し、大径部31の内径寸法A5を9.53mmとし、小径部32の内径寸法A4を8.8mmとしている。このため、段付受部30a1の段付差寸法c1が0.365mmとなっている。また、治具30の軸方向長さLを10mmとし、大径部31の軸方向長さL1を7mmとし、小径部32の軸方向長さL2を3mmとしている。
そして、図9に示すように、各実施品1〜実施品9及び比較品1〜比較品9の動圧軸受装置を治具30にセットする。すなわち、組立てられた各実施品1〜9及び比較品1〜9を治具30に嵌入して、段付受部30a1にてハウジングの開口部の下端縁に係止させる。この場合、ハウジング7の嵌合用凹部(開口部)23の内周面23aは、治具30の小径部32の内周面よりも内径側に位置する。
このようにセットされた動圧軸受装置に対して、軸部材2の軸部2aの端面に、荷重測定機(ロードセル:5kN)から荷重が矢印のように負荷され、実施品1〜実施品9と比較品1〜比較品9の接着強度が測定される。すなわち、ここで、接着強度とはハウジング7からスラストブッシュ10が外れたときの荷重である。そして、その結果を次に表1に示す。
この表1から分かるように、実施品の接着強度が比較品の接着強度よりも約1.2倍増加していることが分かる。
2 軸部材
2a 軸部
2b フランジ部
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
10 スラストブッシュ(蓋部)
20 スラスト軸受面
21 凸部
21a 外面
22 凹部
22a 内面
23 嵌合用凹部
25 隙間
M 接着剤
2a 軸部
2b フランジ部
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
10 スラストブッシュ(蓋部)
20 スラスト軸受面
21 凸部
21a 外面
22 凹部
22a 内面
23 嵌合用凹部
25 隙間
M 接着剤
Claims (8)
- 軸受スリーブと、この軸受スリーブとの間で軸受隙間を形成する軸部材と、前記軸受スリーブを収納するハウジングと、前記軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材と前記軸受スリーブをラジアル方向に相対回転自在に非接触支持するものであり、前記軸部材は、軸部と、軸部のハウジング内の軸端に連設されるフランジ部とを有し、このフランジ部の端面との間にスラスト軸受隙間を形成するスラスト軸受面を有する樹脂製のスラストブッシュを備えた動圧軸受装置であって
前記スラストブッシュの外周面に、複数の凸部とこの凸部間に設けられる凹部とを形成し、前記ハウジングに設けられた嵌合用凹部にこのスラストブッシュを嵌入することによって、複数の凸部がこの嵌合用凹部に対して圧入され、凸部間の凹部にて嵌合用凹部の内周面とスラストブッシュの外周面の間に接着剤が嵌入される隙間が形成されることを特徴とする動圧軸受装置。 - 前記隙間寸法は、スラストブッシュの凸部の外面が円弧面であって、この外面が描く円形の直径をDとし、凹部の内面が円弧面であって、この内面が描く円形の直径をdとしたときに、(D−d)/2であり、この隙間寸法を10μm〜30μmに設定したことを特徴とする請求項1に記載の動圧軸受装置。
- 凸部を周方向に沿って等ピッチで少なくとも3か所に設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の動圧軸受装置。
- 1つの凸部の周方向の幅寸法を少なくとも1mm以上としたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の動圧軸受装置。
- 前記スラストブッシュを繊維強化プラスチックにて構成したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の動圧軸受装置。
- 前記繊維強化プラスチックは液晶ポリマーを主成分として、充填材としてガラス繊維を30〜50質量%配合したものであることを特徴とする請求項5に記載の動圧軸受装置。
- 前記スラストブッシュは射出成形品であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の動圧軸受装置。
- 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の動圧軸受装置と、ロータマグネットと、ステーコイルとを有することを特徴とするモータ。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2019060272A JP2020159484A (ja) | 2019-03-27 | 2019-03-27 | 動圧軸受装置およびこれを備えたモータ |
Applications Claiming Priority (1)
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JP2019060272A JP2020159484A (ja) | 2019-03-27 | 2019-03-27 | 動圧軸受装置およびこれを備えたモータ |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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ID=72642565
Family Applications (1)
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JP2019060272A Pending JP2020159484A (ja) | 2019-03-27 | 2019-03-27 | 動圧軸受装置およびこれを備えたモータ |
Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP2020159484A (ja) |
-
2019
- 2019-03-27 JP JP2019060272A patent/JP2020159484A/ja active Pending
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