図1〜図7は、本発明の第1の実施形態の切削インサートを示すものである。また、図8〜図13は、この第1の実施形態の切削インサートが着脱可能に取り付けられる刃先交換式エンドミル(刃先交換式ボールエンドミル)のエンドミル本体11の先端部を示すものであり、図14〜図19は、このエンドミル本体11のインサート取付座12に2つの第1の実施形態の切削インサートが着脱可能に取り付けられた本発明の刃先交換式エンドミル(刃先交換式ボールエンドミル)の一実施形態の先端部を示すものである。
本実施形態の切削インサートは、このように刃先交換式ボールエンドミル用の切削インサートであり、超硬合金等の硬質材料により形成されたインサート本体1を備えている。このインサート本体1は、図2に示すような平面視において木の葉形の板状に形成されている。このインサート本体1の上面が上述のような木の葉形のすくい面2とされるとともに、このすくい面2とは反対側を向く下面はすくい面2と略相似形をなすやはり木の葉形で、後述する溝部を除いて上記インサート取付座12の底面に密着する平坦な着座面3とされている。また、これらすくい面2と着座面3との間において周囲に延びる側面は逃げ面4とされている。
すくい面2と逃げ面4との交差稜線部には、すくい面2に対向する方向から見た平面視において図2に示すように円弧状に延びる円弧状切刃部5a、6aと、この円弧状切刃部5a、6aに接するように延びる直線状切刃部5b、6bとをそれぞれ備えた2つの切刃が、これら円弧状切刃部5a、6aと直線状切刃部5b、6bをすくい面2の周方向に交互に位置させて形成されている。これら2つの切刃のうちの一方の第1の切刃は主切刃5とされ、他方の第2の切刃は副切刃6とされる。
また、逃げ面4は、すくい面2から着座面3側に向かうに従いインサート本体1の内周側に向かうように傾斜しており、本実施形態の切削インサートはポジティブタイプの切削インサートとされている。さらに、すくい面2と着座面3の中央部には、インサート本体1を貫通するように形成された断面円形の取付孔7が開口しており、この取付孔7のすくい面2側は着座面3側に向かうに従い縮径するように形成されている。
ここで、上記平面視において、主切刃5の円弧状切刃部5aは略1/4円弧状をなしている。これに対して、副切刃6の円弧状切刃部6aは、主切刃5の円弧状切刃部5aと等しい半径で、ただし周方向の長さは主切刃5の円弧状切刃部5aよりも短くされており、すなわち1/4円弧よりも短い円弧状に形成されている。また、これに伴って、主切刃5の直線状切刃部5bは、逆に副切刃6の直線状切刃部6bよりも短くされている。すなわち、本実施形態の切削インサートのインサート本体1は、取付孔7の中心線E回りに180°回転対称とはされておらず、非対称とされている。
なお、これら主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bは、上記平面視において主切刃5の円弧状切刃部5aと副切刃6の直線状切刃部6bとが交差するすくい面2の第1の端部2aから主切刃5の直線状切刃部5bと副切刃6の円弧状切刃部6aとが交差するすくい面2の第2の端部2bに向かうに従い互いに近づくように延びている。また、これら第1、第2の端部2a、2bは、主切刃5と副切刃6の円弧状切刃部5a、6aと直線状切刃部5b、6bとに鈍角に交差する面取り状に形成されている。なお、第1の端部2aは、第2の端部2bよりも着座面3の近くに位置している。
さらに、これら主切刃5と副切刃6の円弧状切刃部5a、6aは、それぞれの直線状切刃部5b、6bから離れるに従い上記着座面3側から離れた後に該着座面3側に近づく凸曲線状に形成されており、これらの円弧状切刃部5a、6aがなす凸曲線が着座面3に対して最も離れて凸となる点(着座面3から最も突出した最突点)が、それぞれ主切刃最凸点および副切刃最凸点となる。なお、主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bは、逃げ面4に対向する方向から見た側面視においても、図4および図6に示すように円弧状切刃部5a、6aがなす凸曲線に接して、円弧状切刃部5a、6aから離れるに従い着座面3側に近づく略直線状に延びている。
ここで、上記主切刃5においては、上記平面視に円弧状切刃部5aの中心を通り、直線状切刃部5bに平行な回転軸(後述する第1の切削インサートとしてエンドミル本体11に取り付けられた状態でのエンドミル本体11の軸線O)回りの主切刃5の回転軌跡の上記回転軸に沿った断面において、上記回転軸のうち円弧状切刃部5aの中心から円弧状切刃部5aにおける直線状切刃部5bとの接点とは反対の端部側(第1の端部2a側。刃先交換式エンドミルにおいては、後述するエンドミル本体11の先端側)に延びる部分と、上記中心と主切刃最凸点とを結ぶ直線とが、43°〜47°の範囲内の角度で交差している。本実施形態においては、この角度は45°とされている。
また、上記副切刃6においても、後述する第2の切削インサートとしてエンドミル本体11に取り付けられた状態で上記平面視に主切刃5の円弧状切刃部5aの中心と一致する円弧状切刃部6aの中心を通り、直線状切刃部6bに平行な回転軸(同じく、後述するエンドミル本体11の軸線O)回りの副切刃6の回転軌跡の上記回転軸に沿った断面において、上記回転軸のうち円弧状切刃部6aの中心から円弧状切刃部6aにおける直線状切刃部6bとの接点とは反対の端部側(第2の端部2b側。同じく、刃先交換式エンドミルにおいては、後述するエンドミル本体11の先端側)に延びる部分と、上記中心と副切刃最凸点とを結ぶ直線とが、43°〜47°の範囲内の角度で交差している。本実施形態においては、この角度も45°とされている。
また、すくい面2の中央部における上記取付孔7の開口部の周辺には、主切刃5や副切刃6よりも着座面3から離れる方向に突出した上記平面視に略楕円状をなす突部2cが形成されている。この突部2cの上端面は着座面3と平行な平坦面とされていて、取付孔7はこの突部2cの上端面に開口している。さらに、この突部2cの外周面は上記上端面側に向かうに従いすくい面2の内側に向かうように傾斜している。また、すくい面2は、主切刃5および副切刃6から離れて該すくい面2の内側に向かうに従い着座面3側に延びた後に凹曲面状をなして突部2cの上記外周面に連なっている。
さらにまた、主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bに連なる逃げ面4は、上述のように傾斜する平面状に形成されている。一方、主切刃5と副切刃6の円弧状切刃部5a、6aに連なる逃げ面4は、すくい面2側ではこれら円弧状切刃部5a、6aに沿ってインサート本体1の周方向に湾曲しており、ただし主切刃5の円弧状切刃部5aの逃げ面4の着座面3側には、図3〜図7に示すように平面状に傾斜した平面部4aが形成されている。
さらに、図3、図4、図6および図7に示すように、上記着座面3には溝部8が形成されている。ここで、本実施形態では、着座面3に垂直に対向する方向から見た底面視において、図3に示すように、第1、第2の2つの溝部8A、8Bが、着座面3における取付孔7の開口部と間隔をあけて、この開口部を間にして互いに反対側に並列に延在するように形成されている。第1の溝部8Aは取付孔7の開口部よりもすくい面2の第1の端部2a側に形成されるとともに、第2の溝部8Bはすくい面2の第2の端部2b側に形成されている。
これらの溝部8は、該溝部8が延在する方向に直交する断面が、取付孔7が延びる方向に偏平した略長方形状に形成されており、すなわち着座面3に略垂直な方向に延びて互いに対向する第1、第2の2つの壁面8a、8bと、これら第1、第2の壁面8a、8bの間に延びる着座面3に平行な底面8cとを備えている。各溝部8の第1の壁面8aはすくい面2の第1の端部2a側を向いており、第2の壁面8bはすくい面2の第2の端部2b側を向いている。
ここで、第1の溝部8Aの取付孔7側の第1の壁面8aと、第2の溝部8Bの取付孔7側の第2の壁面8bとは、着座面3に対向する方向から見た底面視において図3に示すように、互いに平行に延びているとともに、取付孔7の中心線Eからの間隔dが互いに等しくされている。また、第1、第2の壁面8a、8bと着座面3との交差稜線部は凸曲面によって面取りされ、第1、第2の壁面8a、8bと底面8cとが交差する隅角部は凹曲面状に形成されている。
なお、第1の溝部8Aの取付孔7とは反対側の第2の壁面8bと、第2の溝部8Bの取付孔7とは反対側の第1の壁面8aとの少なくとも一方は、着座面3側に向かうに従い取付孔7とは反対側に向けて傾斜する傾斜面とされていてもよく、第1の溝部8Aの取付孔7側の第1の壁面8aと、第2の溝部8Bの取付孔7側の第2の壁面8bとの少なくとも一方は、着座面3側に向かうに従い取付孔7側に向けて傾斜する傾斜面とされていてもよい。
こうして傾斜面状に延びている場合において、第1の溝部8Aの取付孔7側の第1の壁面8aと、第2の溝部8Bの取付孔7側の第2の壁面8bとの取付孔7の中心線Eからの間隔dは、これら第1、第2の壁面8a、8bと底面8cとの交線の間隔となり、上述のように第1、第2の壁面8a、8bと底面8cとが交差する隅角部が凹曲面状に形成されているときには、平面状の第1、第2の壁面8a、8bと底面8cとを延長した場合の交線の間隔となる。
上記第1の溝部8Aは、副切刃6の直線状切刃部6bに連なる逃げ面4に開口するとともに、主切刃5の円弧状切刃部5aに連なる逃げ面4には開口しない止まり溝状に形成されている。また、この第1の溝部8Aの第1、第2の壁面8a、8bは上記底面視において互いに平行に延びていて、第1の溝部8Aの溝幅は、主切刃5の円弧状切刃部5a側の端部を除いて一定である。
なお、この第1の溝部8Aにおける主切刃5の円弧状切刃部5a側の端部は、上記底面8cから凹曲面をなすようにして着座面3に連なっているとともに、上記底面視において主切刃5の円弧状切刃部5aに並行するような凸曲線状または第1の溝部8Aの第1、第2の壁面8a、8bに斜交する斜辺状に形成されていて、第1の溝部8Aは着座面3に対向する方向から見て概略台形状に形成されている。
一方、上記第2の溝部8Bは、本実施形態では主切刃5の直線状切刃部5bに連なる逃げ面4と副切刃6の円弧状切刃部6aに連なる逃げ面4との双方に開口する貫通溝状に形成されている。従って、止まり溝状に形成された第1の溝部8Aの延在する方向の長さN1は、貫通溝状に形成された第2の溝部8Bの延在する方向の長さN2よりも短くされている。
さらに、本実施形態では、この第2の溝部8Bは、第2の溝部8Bが延びる方向の一端側から他端側に向けて溝幅が狭くなる幅狭部9を有している。ここで、本実施形態では、主切刃5の直線状切刃部5bに連なる逃げ面4側が第2の溝部8Bの一端側とされるとともに、副切刃6の円弧状切刃部6aに連なる逃げ面4側が他端側とされている。
また、図3に示すように、本実施形態では第2の溝部8Bの全体が、この幅狭部9とされている。この幅狭部9は、本実施形態では溝幅が狭くなる割合が第2の溝部8Bの一端側から他端側に向けて一定とされている。すなわち、第2の溝部8Bの第1、第2の壁面8a、8bは、上記底面視において一端側から他端側に向かうに従い直線状をなして互いに接近するように形成されている。
さらに、上記副切刃6の円弧状切刃部6aに連なる逃げ面4への第2の溝部8Bの開口部は、上記副切刃最凸点よりも副切刃6の直線状切刃部6b側に位置している。具体的には、上記底面視において、上記副切刃最凸点と副切刃6の円弧状切刃部6aがなす円弧の中心とを結ぶ直線と、副切刃6の直線状切刃部6b側を向く第2の溝部8Bの第1の壁面8aと逃げ面4との交差稜線部(面取り部分を除く)の着座面3側への端部と上記中心とを結ぶ直線(図示略)とがなす第1の交差角が5°〜60°の範囲とされている。
なお、上記幅狭部9の他端(本実施形態では第2の溝部8Bの他端)における溝幅W1(図示略)は、この幅狭部9を有する溝部(第2の溝部8B)の他端側に位置する円弧状切刃部(副切刃6の円弧状切刃部6a)の着座面3側から見た半径r(図示略)に対して0.05×r〜0.18×rの範囲とされ、例えば1mm〜7mmの範囲とされている。ただし、円弧状切刃部6aの着座面3側から見た形状が円弧からずれた形状になっている場合は、そのずれた形状に対して最も近接した円弧を仮想的に描いて、この仮想の円弧から半径rを求めることにする。
これに対して、幅狭部9の一端における溝幅W2(図示略)は、W2>W1で、幅狭部9を有する溝部(第2の溝部8B)の他端側に位置する円弧状切刃部(副切刃6の円弧状切刃部6a)の着座面3側から見た底面視、またはすくい面2側から見た平面視の半径rに対して0.10×r〜0.30×rの範囲で、主切刃5の直線状切刃部5bの上記平面視または底面視における長さR(図示略)に対しては0.10×R〜0.32×Rの範囲とされている。
なお、これらの溝幅W1、W2は、第1、第2の壁面8a、8bが着座面3に対向する方向から見た底面視において直線状に延びている場合は、これら第1、第2の壁面8a、8bがなす直線の二等分線に垂直な方向の幅であり、一方の溝壁面(例えば、第1の壁面8a)が曲線状であって、他方の溝壁面(例えば、第2の壁面8b)が直線状である場合は、直線状の溝壁面に垂直な方向の幅である。
ここで、このような超硬合金等の硬質材料により形成された切削インサートのインサート本体1は、粉末冶金技術の基本的な工程に沿って製造される。すなわち、インサート本体1が超硬合金製の場合は、炭化タングステン粉末とコバルト粉末を主成分として、必要に応じてクロムやタンタル等を副成分とする顆粒状の造粒粉末を用いて、金型を用いた粉末プレス成形を行う。
こうして得られたプレス成形体は、適切な雰囲気と温度に制御された焼結炉内で所定の時間焼結することにより、インサート本体1となる焼結体を製造することができる。インサート本体1の基本的形状は上記金型の設計により反映され、インサート本体1の詳細形状は金型成形によって得られる。さらに、インサート本体1の刃先形状の高精度化を図るために、必要に応じて研削砥石を用いた研削加工を施すこともある。
このような第1の実施形態の切削インサートは、上述のように図8〜図13に示す第1の実施形態のエンドミル本体11の先端部に形成されたインサート取付座12に着脱可能に取り付けられて、図14〜図19に示す本発明の刃先交換式エンドミル(刃先交換式ボールエンドミル)の第1の実施形態を構成する。
このエンドミル本体11は鋼材等の金属材料によって形成されて、その先端部は、基端側が軸線Oを中心とした円柱状とされるとともに、先端側は軸線O上に中心を有する基端側の円柱と等しい半径の凸半球状とされている。本実施形態の刃先交換式エンドミルは、このエンドミル本体11が軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転させられつつ該軸線Oに交差する方向に送り出されることにより、インサート取付座12に取り付けられた切削インサートによって被削材に切削加工を施す。
ここで、本実施形態では、エンドミル本体11の先端部外周を切り欠くようにして2つのチップポケット13が形成されており、これらのチップポケット13のエンドミル回転方向Tを向く底面に、それぞれインサート取付座12が周方向に間隔をあけて互いに反対側に形成されている。そして、これら2つのインサート取付座12には、第1の実施形態に基づく同形同大の1種2つの切削インサートが、第1、第2の切削インサート1A、1Bとしてそれぞれ取り付けられる。
これらのインサート取付座12は、後述する凸部を除いて平坦なエンドミル回転方向Tを向く底面12aと、この底面12aからエンドミル回転方向Tに延びてエンドミル本体11の外周側を向く先端内周側の壁面12bおよび先端外周側を向く後端外周側の壁面12cとを備えている。壁面12b、12cは、底面12aから離れるに従いインサート取付座12の外側に傾斜する平面状に形成され、底面12aにインサート本体1の着座面3を着座させた状態で、主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bに連なる平面状の逃げ面4と円弧状切刃部5a、6aに連なる逃げ面4の着座面3側の平面部4aに当接可能とされている。
また、これらの壁面12b、12cの間には、インサート本体1の湾曲した逃げ面4との接触を避けるために凹んだ凹部12dが形成されている。さらに、底面12aには、インサート本体1の取付孔7に挿通される図示されないクランプネジがねじ込まれるネジ孔12eが形成されている。なお、このネジ孔12eの中心線は、上述のようにインサート本体1の着座面3を底面12aに着座させて、主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bに連なる平面状の逃げ面4と円弧状切刃部5a、6aに連なる逃げ面4の着座面3側の平面部4aを壁面12b、12cに当接させた状態で、インサート本体1の取付孔7の中心線Eよりも凹部12d側に僅かに偏心するようにされている。
これら2つのインサート取付座12のうち第1のインサート取付座12Aは、図8〜図11に示すように、エンドミル本体11の先端部を先端側で軸線Oを含む範囲まで切り欠くように形成されている。この第1のインサート取付座12Aには、第1の実施形態の切削インサートのインサート本体1を有する第1の切削インサート1Aが、主切刃5の円弧状切刃部5aをエンドミル本体11先端内周側の軸線O近傍から後端外周側に延ばすようにして該軸線O上に該円弧状切刃部5aの円弧の中心を有する凸半球上に位置させるとともに、主切刃5の直線状切刃部5bをこの凸半球に接する軸線Oを中心とした円筒面上に位置させるようにして取り付けられる。
従って、第1のインサート取付座12Aの壁面12bには第1の切削インサート1Aにおける副切刃6の直線状切刃部6bに連なる平面状の逃げ面4が当接させられ、壁面12cには第1の切削インサート1Aにおける副切刃6の円弧状切刃部6aの逃げ面4の平面部4aが当接させられる。
さらに、この第1のインサート取付座12Aの底面12aには、第1の切削インサート1Aの着座面3に形成された第2の溝部8Bに収容されてこの第2の溝部8Bの壁面が当接可能な第1の凸部14Aが、ネジ孔12eと壁面12cとの間に突出するとともに、エンドミル本体11の先端部の外周面から上記凹部12dに向けて該凹部12dの手前にまで凹部12dと間隔をあけて延在するように形成されている。また、第1のインサート取付座12Aの底面12aのネジ孔12eよりも先端側には、第1の切削インサート1Aの第1の溝部8Aに収容される第4の凸部14Dが、エンドミル本体11の先端部の外周面と壁面12bとの間に間隔をあけて延在するように形成されている。
ここで、この第1の凸部14Aは、該第1の凸部14Aが延びる方向に直交する断面がエンドミル回転方向Tに偏平した略長方形状をなしており、全体が幅狭部9とされた第2の溝部8Bに対して、この第2の溝部8Bが延在する方向の上記他端側から上記一端側(エンドミル本体11の内周側から外周側)に向かうに従い全体的に幅広となるように形成されている。
ただし、この第1の凸部14Aの幅(第1の凸部14Aが延びる方向に直交する方向の幅)は、第2の溝部8Bが延在する方向において第1の凸部14Aに当接する位置での幅(第2の溝部8Bが延びる方向に直交する方向での幅)よりも僅かに小さくされているとともに、第1の凸部14Aの底面12aからの突出高さも第1の切削インサート1Aの着座面3からの第2の溝部8Bの深さよりも僅かに小さくされている。
一方、2つのインサート取付座12のうち第2のインサート取付座12Bは、図8、図9、図12および図13に示すように、エンドミル本体11の先端側で軸線Oから外周側に僅かに離れた位置から形成されている。この第2のインサート取付座12Bには、同じく第1の実施形態の切削インサートのインサート本体1を有する第2の切削インサート1Bが、その副切刃6の円弧状切刃部6aを軸線Oから離れた位置から第1の切削インサート1Aの主切刃5の円弧状切刃部5aが位置する上記凸半球上に位置させるとともに、この副切刃6の直線状切刃部6bを第1の切削インサート1Aの主切刃5の直線状切刃部5bが位置する上記円筒面上に位置させるようにして取り付けられる。
従って、第2のインサート取付座12Bの壁面12bには第2の切削インサート1Bの主切刃5の直線状切刃部5bに連なる平面状の逃げ面4が当接させられ、壁面12cには第2の切削インサート1Bの主切刃5の円弧状切刃部5aの逃げ面4の平面部4aが当接させられる。
さらに、この第2のインサート取付座12Bの底面12aには、ネジ孔12eよりも先端側に第2の凸部14Bが形成されるとともに、ネジ孔12eと壁面12cとの間には第3の凸部14Cが形成されている。これら第2、第3の凸部14B、14Cも、エンドミル本体11の先端部の外周面から内周側に向かって延びて、第2の凸部14Bは第2のインサート取付座12Bの壁面12bの手前にまで該壁面12bと間隔をあけ、また第3の凸部14Cは第2のインサート取付座12Bの凹部12dの手前にまで該凹部12dと間隔をあけて延在するように形成されている。従って、第2の凸部14Bは第2の切削インサート1Bの第2の溝部8Bに収容されて当接し、第3の凸部14Cは第2の切削インサート1Bの第1の溝部8Aに収容されて当接する。
また、これら第2、第3の凸部14B、14Cも、第2、第3の凸部14B、14Cが延びる方向に直交する断面がエンドミル回転方向Tに偏平した略長方形状をなしており、このうち第2の凸部14Bは、当接する第2の切削インサート1Bの第2の溝部8Bの全体が幅狭部9とされているのに対して、この第2の溝部8Bが延びる方向の上記他端側から上記一端側(エンドミル本体11の外周側から内周側)に向かうに従い全体的に幅広となるように形成されている。なお、第3の凸部14Cの幅は、この第3の凸部14Cが延びる方向に亙って一定である。
さらに、これら第2、第3の凸部14B、14Cの幅(第2、第3の凸部14B、14Cが延びる方向に直交する方向の幅)も、第2、第1の溝部8B、8Aが延在する方向において第2、第3の凸部14B、14Cに当接する位置での幅(第2、第1の溝部8B、8Aが延びる方向に直交する方向での幅)よりも僅かに小さくされている。また、第2のインサート取付座12Bの底面12aからの第2、第3の凸部14B、14Cの突出高さも第2の切削インサート1Bの着座面3からの第2、第1の溝部8B、8Aの深さよりも僅かに小さくされている。
そして、上記第1のインサート取付座12Aの底面12aに形成された第1の凸部14Aの延在する方向の長さL1と第2のインサート取付座12Bの底面12aに形成された第2の凸部14Bの延在する方向の長さL2とは、第1、第2の切削インサート1A、1Bのインサート本体1における着座面3に形成された第1の溝部8Aの延在する方向の長さN1よりも長くされている。
ここで、上述のように着座面3に対向する方向から見た上記底面視において、第1の溝部8Aにおける主切刃5の円弧状切刃部5a側の端部が主切刃5の円弧状切刃部5aに並行するような凸曲線状または第1の溝部8Aの第1、第2の壁面8a、8bに斜交する斜辺状に形成されて概略台形状に形成された第1の溝部8Aの延在する方向の長さN1は、図3に示すようにこの着座面3に対向する方向から見た底面視において、第1の溝部8Aの第2の壁面8bが凸曲線状または斜辺状に折れ曲がり始める部分までの長さとされている。
これに対して、第2のインサート取付座12Bの第2の凸部14Bの延在する方向の長さL2は、図12に示すようにこの第2の凸部14Bのエンドミル本体11先端側を向く側面14aの長さとなる。また、第1のインサート取付座12Aの底面12aに形成された第1の凸部14Aの延在する方向の長さL1は、図10に示すようにこの第1の凸部14Aのエンドミル本体11後端側を向く側面14bの長さとなる。
このような第1、第2のインサート取付座12A、12Bに第1、第2の切削インサート1A、1Bが上述のような正しい向きで着座させられて、倒立した円錐台状の頭部を有するクランプネジを取付孔7に挿通してネジ孔12eにねじ込んでゆくと、このネジ孔12eの中心線がインサート本体1の取付孔7の中心線よりも凹部12d側に僅かに偏心していることから、第1、第2の切削インサート1A、1Bはそれぞれ上述のように凹部12d側に押し付けられる。
このとき、第1のインサート取付座12Aにおいては、第1の切削インサート1Aの副切刃6の直線状切刃部6bに連なる逃げ面4と円弧状切刃部6aに連なる逃げ面4の平面部4aが壁面12b、12cにそれぞれ押圧される。また、第2のインサート取付座12Bにおいては、第2の切削インサート1Bの主切刃5の直線状切刃部5bに連なる逃げ面4が壁面12bに押圧され、主切刃5の円弧状切刃部5aに連なる逃げ面4の平面部4aが壁面12cに押圧される。
そして、これとともに、第1のインサート取付座12Aにおいては、第1の凸部14Aに第1の切削インサート1Aの第2の溝部8Bがエンドミル本体11の先端側から当接する。従って、この第1の凸部14Aには、そのエンドミル本体11の先端側を向く側面14aに第1の切削インサート1Aの第2の溝部8Bにおける第2の壁面8bが当接し、第2の溝部8Bにおける第1の壁面8aと第1の凸部14Aのエンドミル本体11後端側を向く側面14bとの間には僅かな間隔があけられることになる。
また、第2のインサート取付座12Bにおいては、第2、第3の凸部14B、14Cに第2の切削インサート1Bの第2、第1の溝部8B、8Aが同じくエンドミル本体11の先端側から当接する。従って、第2、第3の凸部14B、14Cには、そのエンドミル本体11の先端側を向く側面14aに第2、第1の溝部8B、8Aの第1の壁面8aがそれぞれ当接し、第2、第1の溝部8B、8Aの第2の壁面8bと第2、第3の凸部14B、14Cのエンドミル本体11後端側を向く側面14bとの間にはそれぞれ僅かな間隔があけられる。
このようにして第1、第2の切削インサート1A、1Bが正しい向きで第1、第2のインサート取付座12A、12Bに着座させられて、第1〜第3の凸部14A〜14Cに第1、第2の溝部8A、8Bが当接することにより、切削加工時の負荷によるインサート本体1のずれ動きを防止することができる。
ところで、このような正しい向きではなく、インサート本体1を誤った向きでインサート取付座12に取り付けようとした場合、例えば第1のインサート取付座12Aにインサート本体1を、取付孔7をネジ孔12eに重ねて副切刃6の円弧状切刃部6aがエンドミル本体11の先端内周側から後端外周側に延びるように取り付けようすると、第1のインサート取付座12Aの第1の凸部14Aにはインサート本体1の着座面3における第1の溝部8Aが対向することになる。
ところが、第1の凸部14Aの延在する方向の長さL1は、この第1の溝部8Aの延在する方向の長さN1よりも長いので、第1の溝部8Aに第1の凸部14Aを収容しようとしても、第1の溝部8Aが形成されていないインサート本体1の着座面3が第1の凸部14Aに乗り上げてしまう。
同様に、第2のインサート取付座12Bにインサート本体1を、取付孔7をネジ孔12eに重ねて主切刃5の円弧状切刃部5aがエンドミル本体11の先端内周側から後端外周側に延びるように誤った向きで取り付けようとすると、第2のインサート取付座12Bの第2の凸部14Bにはインサート本体1の着座面3における第1の溝部8Aが対向することになる。
ところが、第2の凸部14Bの延在する方向の長さL2も、この第1の溝部8Aの延在する方向の長さN1よりも長いので、第1の溝部8Aに第2の凸部14Bを収容しようとしても、第1の溝部8Aが形成されていないインサート本体1の着座面3が第2の凸部14Bに乗り上げてしまう。
このように、上記構成の刃先交換式エンドミル(刃先交換式ボールエンドミル)、およびエンドミル本体11と切削インサートでは、誤った向きでインサート本体1の取付孔7をインサート取付座12の底面12aのネジ孔12eに重ねて取り付けようとしても、インサート本体1の着座面3を底面12aに密着させることができなくなる。従って、切削インサートの誤装着を防止することができ、切削インサートの使用済みの切刃が誤って再び切削加工に使用されることがなくなって、切れ味が鈍った切刃により切削抵抗の増大を招いたり切削効率が低下したりするのを避けることができる。しかも、第1の切削インサート1Aと第2の切削インサート1Bとで、円弧状切刃部6aの周方向の長さが短い副切刃6がともに切削加工に使用されることもなくなるので、刃先交換式エンドミル本来の切刃(主切刃5と副切刃6)の刃径精度を確保して、被削材の加工面に削り残しが発生するのも避けることができる。
また、本実施形態では、インサート本体1の第1の溝部8Aの取付孔7側の第1の壁面8aと、第2の溝部8Bの取付孔7側の第2の壁面8bとは、着座面3に対向する方向から見た底面視において互いに平行で、取付孔7の中心線Eからの間隔dが互いに等しくされている。このため、インサート本体1における第1の溝部8Aおよび第2の溝部8Bと取付孔7との間の肉厚を互いに等しくすることができるので、この肉厚が偏ることによってインサート本体1のインサート取付座12への取り付けが不安定となるのを防ぐことができる。
さらに、本実施形態では、上記第2の溝部8Bが、この第2の溝部8Bの延在する方向の一端側から他端側に向かうに従い溝幅が狭くなる幅狭部9を有している。このため、本実施形態によれば、幅狭部9の溝幅が狭くなる他端側においてはインサート本体1の肉厚を確保して切削負荷による応力を分散することができ、インサート本体1の強度を向上させることができる。
さらにまた、このようにインサート本体1の第2の溝部8Bが幅狭部9を有しているのに対し、本実施形態では、第1のインサート取付座12Aの第1の凸部14Aと第2のインサート取付座12Bの第2の凸部14Bが、第2の溝部8Bの幅狭部9に収容される部分において、第2の溝部8Bの延在する方向の他端側から一端側に向かうに従い幅広となるように形成されている。
このため、これら第1の凸部14Aと第2の凸部14Bにおいて、切削加工時に作用する負荷に対する取付剛性を高めることができて切削インサートのずれ動きを確実に防止することが可能となる。なお、本実施形態では、これら第1のインサート取付座12Aの第1の凸部14Aと第2のインサート取付座12Bの第2の凸部14Bの双方が、第2の溝部8Bの延在する方向の他端側から一端側に向かうに従い幅広となるように形成されているが、少なくとも一方がこのように幅広となるように形成されていればよい。
さらにまた、本実施形態では、上記第2のインサート取付座12Bが、第2の凸部14Bを第2の溝部8Bに収容した第2の切削インサート1Bのインサート本体1における取付孔7を第2のインサート取付座12Bのネジ孔12eに重ねて着座面3を底面12aに密着させたときに、第1の溝部8Aに収容されるように延在する第3の凸部14Cを備えている。同様に、上記第1のインサート取付座12Aも、第1の凸部14Aを第2の溝部8Bに収容した第1の切削インサート1Aのインサート本体1における取付孔7を第1のインサート取付座12Aのネジ孔12eに重ねて着座面3を底面12aに密着させたときに、第1の溝部8Aに収容されるように延在する第4の凸部14Dを備えている。このため、例えば第1、第2のインサート取付座12A、12Bの第1、第2の凸部14A、14Bが上述のように幅広に形成されていなくても、第1、第2のインサート取付座12A、12Bに取り付けられた第1、第2の切削インサート1A、1Bのずれ動きを防止することができる。
また、本実施形態では、インサート本体1の第1の溝部8Aは着座面3の1つの辺稜部だけに開口する止まり溝状に形成されるとともに、第2の溝部8Bは、着座面3を横断して着座面3の2つの辺稜部に開口する貫通溝状に形成されていて、これにより第1の溝部8Aの延在する方向の長さN1が第2の溝部8Bの延在する方向の長さよりも短くされている。このため、第2の溝部8Bの第1の壁面8aや第2の壁面8bを研削工具によって仕上げ成形するのが容易となる。
さらに、本実施形態の刃先交換式エンドミルは刃先交換式のボールエンドミルであり、インサート本体1は、着座面3とは反対側を向いてエンドミル回転方向Tに向けられるすくい面2と、このすくい面2と着座面3との周囲に延びる逃げ面4とを備えており、これらすくい面2と逃げ面4との交差稜線部に、すくい面2に対向する方向から見た平面視において円弧状に延びる円弧状切刃部5a、6aと、この円弧状切刃部5a、6aの一端に接するように延びる直線状切刃部5b、6bとをそれぞれ備えた2つの切刃(主切刃5と副切刃6)が、円弧状切刃部5a、6aと直線状切刃部5b、6bをすくい面2の周方向に交互に位置させて形成されており、主切刃5の円弧状切刃部5aは、副切刃6の円弧状切刃部6aに対して等しい半径で周方向の長さが長く形成されている。
そして、第1の切削インサート1Aは、主切刃5の円弧状切刃部5aが、軸線O回りの回転軌跡において軸線O上に中心を有してエンドミル本体1先端の軸線Oから後端外周側に延びる半球状をなすように第1のインサート取付座12Aに取り付けられるとともに、第2の切削インサート1Bは、副切刃6の円弧状切刃部6aが、軸線O回りの回転軌跡において第1の切削インサート1Aの主切刃5の円弧状切刃部5aの回転軌跡がなす半球と重なり合ってエンドミル本体1先端の軸線Oから離れた位置から後端外周側に延びるように第2のインサート取付座12Bに取り付けられている。
このような刃先交換式エンドミル(ボールエンドミル)によれば、同形同大の1種のインサート本体1を有する切削インサートを第1の切削インサート1Aと第2の切削インサート1Bとして第1のインサート取付座12Aと第2のインサート取付座12Bに取り付けて切削を行うことができる。
このため、切削インサートの管理が容易となるとともに、インサート本体1を上述のような金型を用いた粉末プレス成形によって製造する場合に、この金型も1つで済むので、切削インサートの製造コストの低減を図ることができる。そして、このような刃先交換式ボールエンドミル用の切削インサートでは、インサート本体1の向きを誤ってインサート取付座12に取り付け易いので、上記構成のように誤装着を防止することができるのは効果的である。
次に、図20〜図25は、本発明をニック付きの刃先交換式ラジアスエンドミルに適用した場合の第2の実施形態の切削インサートのインサート本体21を示すものであり、図26〜図30は、この第2の実施形態の切削インサートを2つ、インサート取付座32に取り付けた本発明の刃先交換式エンドミルの第2の実施形態およびエンドミル本体31の第2の実施形態を示すものであり、図31および図32は、この第2の実施形態の刃先交換式エンドミルにおける2つの切削インサートの位置関係を示すものである。なお、図1〜図19に示した第1の実施形態の切削インサートおよび刃先交換式エンドミルと共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。
この第2の実施形態の切削インサートにおいては、インサート本体21が2つの切刃22を備えて、これらの切刃22が円弧状切刃部22aと直線状切刃部22bとを備えている点では第1の実施形態と共通するものの、2つの切刃22の円弧状切刃部22aの周方向の長さは互いに等しく、略1/4円弧状とされるとともに、これらの円弧状切刃部22aの一端(図20において取付孔7を中心として反時計回り方向側の端部)に接するようにして延びる直線状切刃部22bの長さも互いに等しくされている。
そして、この第2の実施形態の切削インサートでは、円弧状切刃部22aの他端(図20において取付孔7を中心として時計回り方向側の端部)にも、円弧状切刃部22aに接するようにして延びる他の直線状切刃部22cが形成されている。これらの他の直線状切刃部22cの長さも2つの切刃22同士で互いに等しくされ、上記直線状切刃部22bよりは短い長さとされている。また、他の直線状切刃部22cは、すくい面2に対向する方向から見て、上記直線状切刃部22bに垂直、または90°よりも僅かに小さい角度で交差する方向に延びている。
また、第2の実施形態の切削インサートにおいては、これら2つの切刃22が、すくい面2に対向する方向から見て取付孔7を中心とした反時計回り方向に、上記他の直線状切刃部22cと円弧状切刃部22aと直線状切刃部22bとをすくい面2の周方向に順に位置させて形成されている。従って、第2の実施形態の切削インサートのインサート本体21は、次述するニック10を除いてすくい面2に対向する平面視には取付孔7を中心に180°回転対称形状である。また、2つの切刃22は、本実施形態ではニック10を除いて着座面3に平行な平面上に形成されており、第1の実施形態のような最凸点を備えてはいない。
さらに、この第2の実施形態の切削インサートのインサート本体21では、すくい面2に、切刃22に達して逃げ面4に開口する凹溝状のニック10が形成されている。本実施形態おいてニック10は、逃げ面4に対向する方向から見てすくい面2を凹円弧等の凹曲線状に切り欠くようにして凹溝状に形成されたものであり、着座面3との間隔はすくい面2の内側に向かうに従い漸次大きくなるようにされて、突部2cの上端面に至る手前ですくい面2から切れ上がるように形成されている。
このニック10の着座面3側に最も凹んだ上記位置Mを通り、すくい面2の内側に向けて着座面3との間隔が小さい部分を繋いだ谷底線は、すくい面2に対向する平面視において切刃に略直交するように延びている。なお、ニック10とすくい面2との境界部は、逃げ面4への開口部に亙って凸曲面状に丸められている。
さらに、ニック10は、2つの切刃22において、切削インサートのインサート本体21を取付孔7を中心に180°回転させたときに重なり合わない位置に、それぞれ複数(2つ)ずつ形成されている。これら2つの切刃22のうち、第1の切刃22A(図20において右下側を向く切刃22)では、複数のニック10は、円弧状切刃部22aのすくい面2だけに形成されて逃げ面4に開口しており、直線状切刃部22bや他の直線状切刃部22cには形成されていない。
また、第2の切刃22B(図20において左上側を向く切刃22)では、複数(2つ)のニック10は、1つが円弧状切刃部22aのすくい面2に形成され、他の一つは円弧状切刃部22aと直線状切刃部22bとの接点の位置に形成されている。なお、第1、第2の切刃22A、22B同士では、円弧状切刃部22aの周方向に沿った方向における複数のニック10同士の間隔は、互いに略等しい。
さらに、この第2の実施形態においても、切削インサートの着座面3には、刃先交換式ラジアスエンドミルのエンドミル本体31に形成されたインサート取付座32の底面から突出する凸部33に当接可能な壁面を有する溝部8が、インサート本体21の逃げ面4に開口するように形成されている。ここで、上記ニック10の逃げ面4への開口部は、その全体が、すくい2面側からの透視図において図32に示すように、溝部8の逃げ面4への開口部とは重ならない位置に配置されている。
また、第2の実施形態においても、着座面3には2つの溝部8が形成されており、これら2つの溝部8のうち、図21において下側の第1の溝部8Aが、上記第2の切刃22Bの直線状切刃部22bの逃げ面4だけに開口する止まり溝状とされるとともに、図21において上側の第2の溝部8Bが、第1の切刃22Aの直線状切刃部22bと第2の切刃22Bの円弧状切刃部22aの逃げ面4に開口する貫通溝とされていて、第1の溝部8Aの延在する方向の長さN1は、第2の溝部8Bの延在する方向の長さN2よりも短くされている。さらに、第2の溝部8Bは、その全体が、第1の切刃22Aの逃げ面4側の一端側から第2の切刃22Bの逃げ面4側の他端側に向かうに従い溝幅が狭くなる幅狭部9とされている。
上記第2の実施形態の刃先交換式エンドミル(刃先交換式ラジアスエンドミル)においても、同形同大のインサート本体21を有する上述のような第2の実施形態の第1、第2の2つの切削インサート21A、21Bが、エンドミル本体31の先端部に周方向に互いに反対側に形成された2つの上記インサート取付座32にそれぞれ着脱可能に取り付けられる。ただし、この第2の実施形態の刃先交換式エンドミルおよびエンドミル本体31における2つのインサート取付座32は、その底面32aから突出する凸部33を除いて、エンドミル本体31の軸線Oに関して180°回転対称に形成されている。
上記2つのインサート取付座32のうち、図30に示す第1のインサート取付座32Aの底面32aには、エンドミル本体31の後端側に第1の切削インサート21Aの第2の溝部8Bが当接する第1の凸部33Aが形成されるとともに、図示は略するがエンドミル本体31の先端側に第1の切削インサート21Aの第1の溝部8Aが収容される第4の凸部が形成されている。そして、この第1のインサート取付座32Aには、第1の切削インサート21Aが、第1の切刃22Aの円弧状切刃部22aをエンドミル本体31の先端内周側から後端外周側に延ばすようにして、クランプネジ15により着脱可能に取り付けられる。
このとき、第1の切刃22Aの直線状切刃部22bは、軸線Oを中心とした円筒面上に位置するとともに、他の直線状切刃部22cは、軸線Oに垂直な平面に配置され、またはエンドミル本体31の内周側に向かうに従い僅かに後端側に延びるように配置される。なお、図29および図30に示すように、第2の実施形態の刃先交換式エンドミルおよびエンドミル本体31では、インサート取付座32の底面32aがエンドミル本体31の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に延びるように僅かに傾斜しており、これによって上述のように取り付けられた第1の切削インサート21Aの第1の切刃22Aおよび次述する第2の切削インサート21Bの第2の切刃22Bには正の軸方向すくい角が与えられる。
また、上記2つのインサート取付座32のうち、図29に示す第2のインサート取付座32Bの底面32aには、エンドミル本体31の先端側に、第2の切削インサート21Bの第2の溝部8Bが当接する第2の凸部33Bが形成されるとともに、エンドミル本体31の後端側には、第2の切削インサート21Bの第1の溝部8Aが当接する第3の凸部33Cが形成されている。この第2のインサート取付座32Bには、第2の切削インサート21Bが、軸線O回りの回転軌跡において第2の切刃22Bをニック10を除いて第1の切削インサート21Aの第1の切刃22Aと一致させるようにして、着脱可能に取り付けられる。
そして、この第2の実施形態においても、図示は略するがエンドミル本体31の第1のインサート取付座32Aの第1の凸部33Aの延在する方向の長さL1と、第2のインサート取付座32Bの第2の凸部33Bの延在する方向の長さL2とは、第1、第2の切削インサート21A、21Bのインサート本体21における第1の溝部8Aの延在する方向の長さN1よりも長くされている。
従って、このような第2の実施形態の刃先交換式エンドミル(刃先交換式ラジアスエンドミル)においても、第1の実施形態と同様に第1、第2の切削インサート21A、21Bのインサート本体21を誤った向きに誤装着してしまうのを防ぐことができる。このため、使用済みの切刃22を誤って再び切削加工に使用してしまって、摩耗等によって切れ味が鈍った切刃22により切削抵抗の増大を招いたり、切削効率の低下を生じたりすることがない。
また、ニック10の回転軌跡が第1、第2の切削インサート21A、21Bの第1、第2の切刃22A、22Bで一致するのも避けることができるので、刃先交換式エンドミル本来の切刃22(第1、第2の切刃22A、22B)の刃径精度を確保することができ、これらのニック10の回転軌跡が重なり合うことによって被削材の加工面に突条のような削り残しが生じることもない。さらに、第1、第2の切刃22A、22Bにより生成される切屑が伸延したり、幅広となったりする前にニック10によって分断することができるので、確実な切削抵抗の低減を図ることができる。
さらに、この第2の実施形態の切削インサートおよび刃先交換式エンドミル(刃先交換式ラジアスエンドミル)においては、ニック10の逃げ面4への開口部の着座面3側に最も凹んだ位置Mが、すくい面2側からの透視図において図32に示したように、溝部8の逃げ面4への開口部とは重ならない位置に配置されており、特にニック10の全体が溝部8の逃げ面4への開口部とは重ならない位置に配置されているので、ニック10と着座面3との間および溝部8とすくい面2との間の肉厚を確保することができて、切削インサートのインサート本体21に大きな切削負荷が作用しても損傷が生じるのを防ぐことができる。
また、第2の実施形態の切削インサートのインサート本体21においては、円弧状切刃部22aの他端に接する他の直線状切刃部22cが形成されており、第2の実施形態の刃先交換式エンドミルにおいては、この他の直線状切刃部22cが軸線Oに垂直な平面に配置され、またはエンドミル本体31の内周側に向かうに従い僅かに後端側に延びるように配置される。このため、エンドミル本体31の送りを高めても、他の直線状切刃部22cをサライ刃あるいはワイパー刃として作用させて被削材の加工面の底面を平滑に仕上げることができる。
なお、図33および図34に示すのは、この第2の実施形態の切削インサートおよび刃先交換式エンドミルの変形例を示すものであり、図20〜図32に示した第2の実施形態と共通する部分には同一の符号を配してある。この変形例では、2つの溝部8のうち第2の溝部8Bにおいて、すくい面2の第2の端部2b側を向く第2の壁面8bに、この第2の壁面8bからすくい面2の第1の端部2a側に凹む凹部8dが形成されている点が第2の実施形態と異なっている。
上記凹部8dは、着座面3に対向する方向から見て、第2の溝部8Bが延びる方向に延びる長方形状または台形状に形成されており、この変形例では、第2の溝部8Bが延びる方向に間隔をあけて複数(2つ)形成されている。なお、この変形例の切削インサートのインサート本体21において、すくい面2や切刃22、ニック10は第2の実施形態と同様に形成されている。
このような変形例の切削インサートでは、第1の切削インサート21Aにおいて第1のインサート取付座32Aの第1の凸部33Aに当接する第2の溝部8Bの第2の壁面8bに、このような凹部8dが形成されているので、溝部8(第2の溝部8B)の壁面(第2の壁面8b)を研削工具によって成形する際に凹部8dに研削工具を逃がすことができ、溝部8の成形が容易となる。なお、この変形例では凹部8dが2つであるが、1つでもよく、また3つ以上であってもよい。また、着座面3に対向する方向から見たときの凹部8dの形状は、上述のような長方形状または台形状の他に、丸や半円状、半長円状などでもよい。