以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
図1は、実施形態にかかるモータ制御装置110を含む車両Vの駆動システム100の構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図1に示されるように、実施形態にかかる車両Vの駆動システム100は、エンジン101と、モータジェネレータ102と、トランスミッション103と、ダンパ104と、クラッチ105と、モータ制御装置110と、を備えている。
エンジン101およびモータジェネレータ102は、車両Vの動力源である。エンジン101は、エンジンECU(不図示)の制御に応じてエンジントルクを出力し、クランクシャフト121を回転させる。同様に、モータジェネレータ102は、モータ制御装置110の制御に応じてモータトルクを出力し、モータシャフト122を回転させる。
トランスミッション103は、エンジン101のクランクシャフト121のエンジントルクおよびモータジェネレータ102のモータシャフト122のモータトルクのうち少なくとも一方に基づく駆動トルクを選択された変速比で車輪W側に伝達する。駆動トルクは、ドライブシャフト123を介したドライブシャフトトルクとして車輪W側に伝達される。
ダンパ104は、クランクシャフト121の振動、すなわちエンジントルクの変動を低減(吸収)するトルク変動吸収装置である。ダンパ104は、次の図2に示されるような構成に基づき、エンジントルクの変動に応じて、捩れトルクおよびヒステリシストルクを含むダンパトルクを発生させる。
図2は、実施形態にかかるダンパ104の構成を示した例示的かつ模式的な図である。図2に示されるように、実施形態にかかるダンパ104は、入力慣性部材201と、中間慣性部材202と、出力慣性部材203と、を備えている。入力慣性部材201、中間慣性部材202、および出力慣性部材203は、同一の回転中心に対して互いに相対的に回転可能な構造を有している。
入力慣性部材201は、エンジン101のクランクシャフト121に接続される。すなわち、入力慣性部材201は、ダンパ104においてエンジントルクの変動が入力される入力側に設けられる。
中間慣性部材202は、入力慣性部材201に対して弾性部材211と摩擦部材213とを介して接続される。これにより、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間には、弾性部材211に起因する捩れトルクの伝達経路と、摩擦部材213に起因するヒステリシストルクの伝達経路と、が構成される。なお、弾性部材211は、「第1の弾性部材」の一例である。
出力慣性部材203は、ダンパ104においてダンパトルクが出力される出力側に設けられる。より具体的に、出力慣性部材203は、中間慣性部材202に対して弾性部材212を介して入力慣性部材201とは反対側に接続される。これにより、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間には、弾性部材212に起因する捩れトルクの伝達経路が構成される。なお、弾性部材211は、「第2の弾性部材」の一例である。
図1に戻り、クラッチ105は、エンジン101とトランスミッション103との間に設けられ、エンジン101のクランクシャフト121とトランスミッション103のインプットシャフト124との接続/遮断を切り替える。より具体的に、クラッチ105は、クランクシャフト121とインプットシャフト124とを接続する接続状態になっている場合に、クランクシャフト121とインプットシャフト124との間のトルク(の少なくとも一部)の伝達を実施し、クランクシャフト121とインプットシャフト124との接続を遮断する接続状態になっている場合に、クランクシャフト121とインプットシャフト124との間のトルクの伝達を遮断する。
モータ制御装置110は、たとえば、プロセッサやメモリなどといった通常のコンピュータと同様のハードウェアを備えたマイクロコンピュータとして構成されたECU(Electronic Control Unit)である。モータ制御装置110は、モータジェネレータ102に指令値としてのモータトルク指令を与えることで、モータジェネレータ102のモータトルクを制御する。
モータ制御装置110は、車両Vに設けられる各種のセンサを、制御に利用することができる。図1に示される例では、各種のセンサとして、クランク角センサ131と、モータ角センサ132と、アクセルポジションセンサ133と、クラッチポジションセンサ134と、シフトポジションセンサ135と、が例示されている。
クランク角センサ131は、クランクシャフト121の回転角度としてのクランク角を検出する。モータ角センサ132は、モータシャフト122の回転角度としてのモータ角を検出する。
アクセルポジションセンサ133は、たとえばアクセルペダルなどといった、車両Vを加速させる加速操作を行うための加速操作部(不図示)の操作量(操作位置)などを検出することで、ドライバにより加速操作が行われているか否かを検出する。クラッチポジションセンサ134は、たとえばクラッチペダルなどといった、クラッチ105を操作するためのクラッチ操作部(不図示)の操作量(操作位置)などを検出することで、クラッチ105が接続状態になっているか遮断状態になっているかを検出する。
シフトポジションセンサ135は、トランスミッション103に現在設定されている変速段(シフト段)を検出する。
ところで、従来、実施形態にかかる中間慣性部材202に対応した構成を含まないダンパ、すなわち、入力慣性部材201に対応した構成と出力慣性部材203に対応した構成と(のみ)を含んだダンパが発生させるダンパトルクを推定し、推定したダンパトルクと逆位相のモータトルクを出力することで、ダンパトルクに起因して発生する振動を低減する技術が知られている。このような従来の技術において、ダンパトルクは、クランク角とモータ角との差分、すなわち、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角に基づいて推定される。
しかしながら、実施形態にかかるダンパ104のような、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間に中間慣性部材202を含んだ構成においては、中間慣性部材202の特性も考慮しないと、モータトルクで打ち消すべきダンパトルクを正確に推定することができない。
より具体的に、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間に中間慣性部材202を含んだ構成において、ダンパトルクを正確に推定するためには、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角を考慮することが重要になる。しかしながら、上述した従来の技術は、中間慣性部材202の特性を考慮することなく、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角のみを考慮しているので、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間に中間慣性部材202を含んだ構成のダンパトルクを正確に推定することができない。
したがって、たとえば次の図3に示される例のように、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間に中間慣性部材202を含んだ実施形態にかかるダンパ104に対して、上述した従来の技術と同様の技術的思想による比較例にかかる技術を適用しても、ダンパトルクに起因して発生する振動、すなわち、ドライブシャフトトルクの変動を適切に低減することができない。
図3は、比較例にかかる技術を実施形態にかかるダンパ104に適用した場合に実現されるダンパトルク、モータトルク、およびドライブシャフトトルクの変動を示した例示的かつ模式的な図である。比較例にかかる技術においては、上述した従来の技術と同様に、クランク角とモータ角との差分に基づいてダンパトルクが推定され、推定されたダンパトルクと逆位相のモータトルクが出力される。
図3の(a)に示される例において、実線L311は、実施形態にかかるダンパ104の(実際の)ダンパトルクの時間変化の一例に対応し、図3の(b)に示される例において、実線L321は、比較例にかかる技術によって推定される推定上のダンパトルクに基づいて出力されるモータトルクの時間変化の一例に対応する。
実線L311と実線L321とを比較すれば分かるように、比較例にかかる技術においては、ダンパトルクとモータトルクとが完全に逆位相とはなっておらず、位相のずれが発生している。したがって、比較例にかかる技術においては、次の図3の(c)に示される例のように、ドライブシャフトトルクの変動を適切に低減することができない。
図3の(c)に示される例において、実線L331は、図3の(b)に示されるモータトルクによって図3の(a)に示されるダンパトルクの相殺を試みる制振制御を実行した場合における、エンジン101の回転数に対するドライブシャフトトルクの変動の一例に対応し、一点鎖線L332は、制振制御を実行しない場合における、エンジン101の回転数に対するドライブシャフトトルクの変動の一例に対応する。
実線L331および一点鎖線L332を比較すれば分かるように、比較例にかかる技術においては、制振制御を実行する場合の方が、制振制御を実行しない場合よりもむしろ、ドライブシャフトトルクの変動のレベルが悪化している。これは、比較例にかかる技術においては、前述したように、中間慣性部材202の特性を考慮することなく不正確なダンパトルクを推定し、この不正確なダンパトルクに基づいてモータトルクを決定しているためである。
このように、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間に中間慣性部材202を含んだ実施形態にかかるダンパ104においては、比較例にかかる技術とは異なる技術で、ドライブシャフトトルクの変動、すなわち、ダンパトルクに応じて発生する振動を低減することが望まれる。
そこで、実施形態は、次の図4に示されるような機能モジュール群をモータ制御装置110内に実現することで、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間に中間慣性部材202を含んだダンパ104のダンパトルクに応じて発生する振動を低減することを実現する。
図4は、実施形態にかかるモータ制御装置110が有する機能モジュール群を示した例示的かつ模式的なブロック図である。図4に示される機能モジュール群は、たとえば、モータ制御装置110のプロセッサがメモリなどに記憶された制御プログラムを読み出した結果として、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される。ただし、実施形態では、図4に示される機能モジュール群の一部または全部が、専用のハードウェア(回路)によって実現されてもよい。
図4に示されるように、モータ制御装置110は、判定部401と、ダンパトルク算出部402と、フィルタ処理部403と、逆相トルク算出部404と、フィルタ処理部405と、補正量算出部406と、補正処理部407と、指令決定部408と、制御部409と、をそれぞれ機能モジュールとして備えている。また、モータ制御装置110は、制御に使用するデータとして、特性マップ411を備えている。
判定部401は、アクセルポジションセンサ133およびクラッチポジションセンサ134の検出結果に基づいて、ダンパトルクを相殺してドライブシャフト123の振動を低減するためのモータトルクの出力の要否を判定する。なお、以下では、ドライブシャフト123の振動を低減するためのモータトルクを、制振トルクと表現することがある。
たとえば、クラッチ105が遮断状態になっている場合や、クラッチ105が接続状態になっていたとしても加速操作が行われていない場合などにおいては、エンジントルクの変動がドライブシャフト123に伝達されないので、制振トルクを出力する必要がない。したがって、このような場合、判定部401は、制振トルクがゼロになるように、制振トルクを出力する必要がない旨を指令決定部408に通知する。
一方、クラッチ105が接続状態になっており、かつ加速操作が行われている場合は、エンジントルクの変動がドライブシャフト123に伝達されるので、制振トルクによって振動を低減する必要がある。したがって、このような場合、判定部401は、ダンパトルクを相殺するための制振トルクが出力されるように、制振トルクを出力する必要がある旨を指令決定部408に通知する。
ダンパトルク算出部402は、クランク角センサ131およびモータ角センサ132の検出結果に基づいて、次に説明するような計算により、上述した比較例にかかる技術と同様の、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角を考慮した推定上のダンパトルクを算出(推定)する。
すなわち、クランク角センサ131の検出結果としてのクランク角をθ1とし、モータ角センサ132の検出結果としてのモータ角をθ2とすると、ダンパトルク算出部402は、θ1とθ2との差分を表す(θ1−θ2)という式に基づいて、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角を算出する。そして、ダンパ104の回転ばね定数をKとすると、ダンパトルク算出部402は、(θ1−θ2)という式で表されるダンパ104の捩れ角とKとの乗算に基づいて、推定上のダンパトルクを算出する。
なお、前述したように、実施形態にかかるダンパ104は、2つの弾性部材211および212を含んでいる。そして、これら2つの弾性部材211および212は、互いに直列に接続されていると言える(図2参照)。したがって、推定上のダンパトルクを算出するための上記の計算において、弾性部材211および212の回転ばね定数をそれぞれK1およびK2とすると、ダンパトルク算出部402は、(K1×K2)/(K1+K2)という式で表される合成ばね定数を、ダンパ104の回転ばね定数を表すKとして算出する。
フィルタ処理部403は、ダンパトルク算出部402の算出結果にフィルタリング処理を施し、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した振動成分を抽出する。フィルタ処理部403は、このような抽出処理を、たとえば、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタによって実現する。
逆相トルク算出部404は、フィルタ処理部403の抽出結果に対する位相の反転処理などを実行することで、制振トルクを算出する基となる、推定上のダンパトルクとは逆位相の逆相トルクを算出する。
ところで、前述したように、実施形態にかかるダンパ104において打ち消すべきダンパトルクは、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角に基づく値である。
これに対して、逆相トルクを算出する基として逆相トルク算出部404に入力される推定上のダンパトルクは、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角に基づく値、すなわち、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角と、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角と、の両方を含んだ値である。
したがって、ダンパトルクに応じて発生する振動を有効に低減するためには、逆相トルク算出部404により算出される逆相トルクに対して、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角に対応した分のずれの補正を施す必要がある。
ここで、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角と、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角と、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角と、の間には、次の図5に示されるような関係がある。
図5は、実施形態にかかるダンパ104において発生しうる位相差の一例を示した例示的かつ模式的な図である。図5に示される例において、実線L501は、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角(を示す位相差)とエンジン101の回転数との関係の一例に対応し、実線L502は、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角(を示す位相差)とエンジン101の回転数との関係の一例に対応する。
図5に示されるように、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角(を示す位相差)Δt1と、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角(を示す位相差)Δt0との間には、位相差Δt2が存在する。この位相差Δt2は、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角(を示す位相差)に対応する。
このように、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角(を示す位相差)Δt1と、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角(を示す位相差)Δt2と、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角(を示す位相差)Δ0と、の間には、Δt0=Δt1−Δt2という関係があると言える。
したがって、実施形態は、以下に説明するような構成により、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角と、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角と、の差分に基づいて、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角を算出し、算出結果に基づいて、逆相トルク算出部404により算出される逆相トルクを補正する。
図4に戻り、フィルタ処理部405は、クランク角センサ131およびモータ角センサ132の検出結果にフィルタリング処理を施し、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した振動成分を抽出する。フィルタ処理部403と同様、フィルタ処理部405は、このような抽出処理を、たとえば、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタによって実現する。
補正量算出部406は、フィルタ処理部405の抽出結果と、アクセルポジションセンサ133およびシフトポジションセンサ135の検出結果と、に基づいて、逆相トルクの位相の補正量を算出する。
より具体的に、補正量算出部406は、クランク角およびモータ角の、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した振動成分の位相差に対応した第1の値と、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角(を示す推定上の位相差)に対応した第2の値と、の差分に基づいて、補正量を算出する。なお、以下では、第1の値を実位相差、第2の値を特性位相差と表現することがある。
実位相差は、フィルタ処理部405の抽出結果に基づいて算出することができる。すなわち、前述したように、フィルタ処理部405は、クランク角センサ131の検出結果としてのクランク角と、モータ角センサ132の検出結果としてのモータ角と、のそれぞれの、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した振動成分を抽出しているので、これらの抽出結果を比較すれば、たとえば次の図6に示されるような形で、実位相差を算出することができる。
図6は、実施形態におけるクランク角とモータ角との位相差の一例を示した例示的かつ模式的な図である。図6に示される例において、実線L601は、クランク角の、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した振動成分の時間変化を表しており、実線L602は、モータ角の、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した振動成分の時間変化を表している。
図6に示されるように、クランク角が所定の閾値Thを超えるタイミングT1と、モータ角が所定の閾値Thを超えるタイミングT2と、の間には、所定の時間差Δta(=T1−T2)が存在する。補正量算出部406は、フィルタ処理部405の抽出結果に基づいて時間差Δtaを取得し、当該時間差Δtaに基づいて、実位相差を算出する。
なお、図6に示される例において、実位相差は、クランク角が所定の閾値Thを下回るタイミングと、モータ角が所定の閾値Thを下回るタイミングと、の差分に基づいて算出されてもよい。
一方、特性位相差は、クランク角センサ131およびシフトポジションセンサ135の検出結果と、次の図7に示されるような特性マップ411と、に基づいて算出することができる。
図7は、実施形態にかかる特性マップ411の一例を示した例示的かつ模式的な図である。図7に示されるように、特性マップ411とは、エンジン101の回転数と、トランスミッション103の変速段と、特性位相差と、の関係を示すものとして予め設定されたデータである。
特性マップ411には、エンジン101の回転数と特性位相差との関係が、変速段の段階に応じた複数の線(実線L701、破線L702、一点鎖線L703、および二点鎖線L704)として定義されている。実線L701は、低速〜中速(たとえば第1速〜第3速)の変速段におけるエンジン101の回転数と特性位相差との関係に対応し、破線L702は、実線L701の変速段よりも高速(たとえば第4速)の変速段におけるエンジン101の回転数と特性位相差との関係に対応する。また、一点鎖線L703は、破線L702の変速段よりもさらに高速(たとえば第5速)の変速段におけるエンジン101の回転数と特性位相差との関係に対応し、二点鎖線L704は、最高速(たとえば第6速)の変速段におけるエンジン101の回転数と特性位相差との関係に対応する。
特性マップ411によれば、上述した複数の線から、シフトポジションセンサ135の検出結果に基づいて取得される変速段に応じた1つの線を選択した上で、クランク角センサ131の検出結果に基づいて取得されるエンジン101の回転数に対応した点を抽出することで、特性位相差を容易に取得することができる。
このように、実施形態において、補正量算出部406は、エンジン101の回転数とトランスミッション103の変速段とに基づいて特性マップ411を参照することで、特性位相差を取得する。
そして、実施形態において、補正量算出部406は、実位相差と特性位相差との差分に基づいて、逆相トルクに施すべき補正量を算出する。前述したように、実位相差は、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角に対応し、特性位相差は、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角に対応する。したがって、実位相差をΔtaとし、特性位相差をΔtbとすると、両者の差分を示す(Δta−Δtb)という式により算出される補正量は、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角に対応する。
図2に戻り、補正処理部407は、逆相トルク算出部404により算出された逆相トルクを、補正量算出部406により算出された補正量に基づいて補正する。より具体的に、補正量の分だけ、逆相トルクの位相をずらす(遅らせる)。これにより、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角の影響を除去し、実施形態にかかるダンパ104において本来推定すべき、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角のみを考慮したダンパトルクを相殺可能な制振トルクを算出することができる。
なお、上記のような位相の遅延処理は、逆相トルクをTq、補正量をΔt、制御周期をTsとすると、遅延演算子z−1を利用したTq×(z−1)Δt/Tsという式によって実現することができる。
指令決定部408は、制振トルクを出力する必要があると判定部401により判定された場合に、補正処理部407により算出された制振トルクに基づいて、モータジェネレータ102に与えるモータトルク指令を決定する。
そして、制御部409は、指令決定部408により決定されたモータトルク指令に基づいて、モータジェネレータ102を駆動する。
このように、指令決定部408および制御部409は、補正用位相差により位相が補正された逆相トルクに基づいて、モータジェネレータ102に与えるモータトルク指令を出力するモータトルク指令出力部として機能する。
以上の構成に基づき、実施形態にかかるモータ制御装置110は、次の図8に示されるような処理フローに従って一連の処理を実行する。
図8は、実施形態にかかるモータ制御装置110が実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
図8に示されるように、実施形態では、まず、S801において、モータ制御装置110の判定部401は、制振トルクによる制振が必要か否かを判断する。前述したように、この判断は、アクセルポジションセンサ133の検出結果と、クラッチポジションセンサ134の検出結果と、に基づいて行われる。
S801において、制振が必要だと判断された場合、S802に処理が進む。そして、S802において、モータ制御装置110のダンパトルク算出部402は、クランク角センサ131の検出結果と、モータ角センサ132の検出結果と、ダンパ104の回転ばね定数(弾性部材211および212の回転ばね定数に基づく直列の合成ばね定数)と、に基づく前述した計算により、推定上のダンパトルクを算出する。
そして、S803において、モータ制御装置110のフィルタ処理部403は、S802で算出されたダンパトルクに対するフィルタリング処理を実行する。このS803で実行されるフィルタリング処理は、前述したように、ダンパトルクから、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した振動成分を抽出する処理である。
そして、S804において、モータ制御装置110の逆相トルク算出部404は、S803の処理の結果に対する位相の反転処理などを実行することで、ダンパトルクとは逆位相の逆相トルクを算出する。
そして、S805において、モータ制御装置110のフィルタ処理部405は、クランク角センサ131およびモータ角センサ132のそれぞれの検出結果としてのクランク角およびモータ角に対するフィルタリング処理を実行する。このS805で実行されるフィルタリング処理は、前述したように、クランク角およびモータ角から、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した振動成分を抽出する処理である。
そして、S806において、モータ制御装置110の補正量算出部406は、S805で抽出された2つの振動成分の差分に基づいて、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角に対応した実位相差を算出する。
そして、S807において、モータ制御装置110の補正量算出部406は、クランク角センサ131の検出結果から取得されるエンジン101の回転数と、シフトポジションセンサ135の検出結果から取得されるトランスミッション103の変速段と、に基づいて特性マップ411を参照することで、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角に対応した特性位相差を算出する。
そして、S808において、モータ制御装置110の補正量算出部406は、S806で算出された実位相差と、S807で算出された特性位相差と、の差分に基づいて、S804で算出された逆相トルクの位相の補正量を算出する。この補正量は、前述したように、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角に対応する。
そして、S809において、モータ制御装置110の補正処理部407は、S808で算出された補正量により、S804で算出された逆相トルクを補正する。これにより、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角の影響を除去し、実施形態にかかるダンパ104において本来推定すべき、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角のみを考慮したダンパトルクを相殺可能な制振トルクを算出することができる。
そして、S810において、モータ制御装置110の指令決定部408は、S807で補正された逆相トルクに応じたモータトルクを発生させるためのモータトルク指令を決定する。
そして、S811において、モータ制御装置110の制御部409は、S810で決定されたモータトルク指令をモータジェネレータ102に出力する。そして、処理が終了する。
なお、実施形態では、S801において制振が必要だと判断された場合、S812に処理が進む。そして、S812において、モータ制御装置110の指令決定部408は、モータトルクをゼロにするためのモータトルク指令を決定する。
S812の処理の後は、S810の処理の後と同様、S811に処理が進む。そして、S811において、モータ制御装置110の制御部409は、S810で決定された、モータトルクをゼロにするためのモータトルク指令をモータジェネレータ102に出力する。そして、処理が終了する。
以上説明したように、実施形態にかかるモータ制御装置110は、クランクシャフト121に接続される入力慣性部材201と、当該入力慣性部材201に対して少なくとも弾性部材211を介して接続される中間慣性部材202と、当該中間慣性部材202に対して少なくとも弾性部材212を介して入力慣性部材201とは反対側に接続される出力慣性部材203と、を有するダンパ104を備えた車両Vに適用される。
また、実施形態にかかるモータ制御装置110は、ダンパトルク算出部402と、逆相トルク算出部404と、補正量算出部406と、モータトルク指令出力部としての指令決定部408および制御部409と、を備えている。ダンパトルク算出部402は、クランク角とモータ角との差分に基づいて、エンジントルクの変動に応じてダンパが発生させるダンパトルクを算出する。逆相トルク算出部404は、ダンパトルク算出部402により算出されたダンパトルクに基づいて、当該ダンパトルクと逆位相の逆相トルクを算出する。補正量算出部406は、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角に対応した第1の値(実位相差)と、中間慣性部材202と出力慣性部材203との間の捩れ角に対応した第2の値(特性位相差)と、の差分に基づいて、逆相トルク算出部404により算出された逆相トルクの位相の補正量を算出する。指令決定部308および制御部309は、補正量算出部406により算出された補正量に応じて位相が補正された逆相トルクに基づいて、モータジェネレータ102に与えるモータトルク指令を出力する。
上記のような構成によれば、実位相差と特性位相差との差分に基づく補正量により、入力慣性部材201と中間慣性部材202との間の捩れ角の影響を除去するように逆相トルクを補正することができるので、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間に中間慣性部材202を含んだダンパ104のダンパトルクに応じて発生する振動を低減することができる。
ここで、実施形態において、指令決定部308および制御部309は、エンジン101とトランスミッション103との間に設けられるクラッチ105が、クランクシャフト121とインプットシャフト124とを接続する接続状態になっている場合に、モータトルク指令を出力し、クラッチ105がクランクシャフト121とインプットシャフト124との接続を遮断する遮断状態になっている場合に、モータトルクをゼロにするモータトルク指令を出力する。このような構成によれば、ダンパトルクがクラッチを介して車輪W側に伝達されるか否かに応じて、当該ダンパトルクの影響を低減するためのモータトルクを発生させるか否かを切り替えることができる。
さらに、実施形態において、指令決定部308および制御部309は、クラッチ105が接続状態になっている場合であっても、車両Vを加速させる加速操作が行われていない場合には、モータトルクをゼロにするモータトルク指令を出力する。このような構成によれば、クラッチ105の状態に加えて加速操作の有無をさらに考慮して、ダンパトルクがクラッチを介して車輪W側に伝達されるか否かに応じて、当該ダンパトルクの影響を低減するためのモータトルクを発生させるか否かを切り替えることができる。
なお、実施形態において、補正量算出部406は、クランク角およびモータ角の、エンジン101の爆発の一次周波数に対応した振動成分の位相差に基づいて、実位相差を取得する。このような構成によれば、クランク角およびモータ角の位相差に基づいて、適切な実位相差を容易に取得することができる。
また、実施形態において、補正量算出部406は、エンジン101の回転数と、トランスミッション103の変速段と、に基づいて、特性位相差を取得する。このような構成によれば、特性位相差が変化する要因として考えられるエンジン101の回転数およびトランスミッション103の変速段の両方を考慮して、適切な特性位相差を取得することができる。
より具体的に、実施形態において、モータ制御装置110は、エンジン101の回転数と、トランスミッション103の変速段と、特性位相差と、の関係を示すマップとしての特性マップ411を備えている。そして、補正量算出部406は、エンジン101の回転数とトランスミッション103の変速段とに基づいて特性マップ411を参照することで、特性位相差を取得する。このような構成によれば、特性マップ411を利用して、適切な特性位相差を容易に取得することができる。
なお、実施形態において、補正量算出部406は、エンジン101の回転数と、トランスミッション103の変速段と、の両方を考慮して、特性位相差を取得している。しかしながら、実施形態では、エンジン101の回転数と、トランスミッション103の変速段と、のうちの一方のみに基づいて特性位相差を取得することも可能な場合がある。
また、実施形態において、駆動システムの状態がドライブシャフト123にトルクが伝達される伝達状態になっている場合、エンジン101の回転数およびトランスミッション103の変速段は、モータジェネレータ102の回転数などから求めることが可能である。さらに、実施形態において、トランスミッション103の変速段は、トランスミッション103のインプットシャフト124とアウトプットシャフト(不図示)との回転数の比などから求めることも可能である。
以下、実施形態にかかる技術の効果についてシミュレーションした結果を簡単に説明する。
図9は、実施形態にかかる技術によって実現されるダンパトルク、モータトルク、およびドライブシャフトトルクの変動レベルを示した例示的かつ模式的な図である。この図9は、前述した図3と対比することが可能である。
図9の(a)に示される例において、実線L911は、実施形態にかかるダンパ104の(実際の)ダンパトルクの時間変化の一例に対応し、図9の(b)に示される例において、実線L921は、実施形態にかかる技術において制振トルクとして出力されるモータトルクの時間変化の一例に対応する。
実線L911と実線L921とを比較すれば分かるように、実施形態にかかる技術においては、ダンパトルクとモータトルクとが、略完全に逆位相となっている。したがって、実施形態にかかる技術によれば、次の図9の(c)に示される例のように、ドライブシャフトトルクの変動を適切に低減することができる。
図9の(c)に示される例において、実線L931は、図9の(b)に示されるモータトルクによって図9の(a)に示されるダンパトルクの相殺を試みる制振制御を実行した場合における、エンジン101の回転数に対するドライブシャフトトルクの変動の一例に対応し、一点鎖線L932は、制振制御を実行しない場合における、エンジン101の回転数に対するドライブシャフトトルクの変動の一例に対応する。
実線L331および一点鎖線L332を比較すれば分かるように、実施形態にかかる技術においては、制振制御を実行する場合の方が、制振制御を実行しない場合よりも、明確に、ドライブシャフトトルクの変動のレベルが良化している。これは、実施形態にかかる技術においては、前述したように、入力慣性部材201と出力慣性部材203との間の捩れ角に対応した推定上のダンパトルクに基づく逆相トルクを適切に補正した上でモータトルクを決定しているためである。
また、図10は、実施形態にかかる技術と比較例にかかる技術との比較効果を示した例示的かつ模式的な図である。
図10に示される例において、実線L1001は、実施形態にかかる技術によって得られるドライブシャフトトルクの時間変化の一例に対応し、破線L1002は、比較例にかかる技術によって得られるドライブシャフトトルクの時間変化の一例に対応する。
実線L1001と破線L1002とを比較すれば分かるように、実施形態にかかる技術によって得られるドライブシャフトトルクの変動幅は、比較例にかかる技術によって得られるドライブシャフトトルクの変動幅よりも明確に小さい。したがって、実施形態にかかる技術によれば、比較例にかかる技術に比べて、ドライブシャフトトルクの変動をより低減することができる。
以上、本開示の実施形態を説明したが、上述した実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態およびその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とに含まれる。