JP2020083803A - ビスフェノール化合物の製造方法及び固体酸化物触媒 - Google Patents
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Abstract
Description
・触媒として、メルカプト基を有する含窒素化合物で修飾したヘテロポリ酸及び/又はメルカプト基を有する含窒素化合物で修飾したヘテロポリ酸塩を用いる方法(特許文献2参照)。
・触媒として、タングステン−ジルコニウム複合固体酸化物触媒を用いる方法(特許文献3参照)。
・触媒として、ジルコニア−リン複合固体酸触媒を用いる方法(特許文献4参照)。
特許文献2に記載のヘテロポリ酸(塩)を用いる方法は、反応収率が低いという問題点があった。さらに、触媒の一部が反応中に溶解してしまうため、使用後の触媒の回収及び再利用が困難であった。
特許文献3に記載のタングステン−ジルコニウム複合固体酸化物触媒を用いる方法は、反応収率が低いという問題点があった。
特許文献4のジルコニア−リン複合固体酸触媒を用いる方法は、反応収率が低いという問題点があった。
本発明の他の一態様は、ビスフェノール化合物の製造に好適に使用でき、使用後に再利用可能な触媒を提供することを目的とする。
〔1〕WO3とZrO2とXOyとを含む固体酸化物触媒に、カルボニル化合物とフェノール化合物とを接触させる工程を含む、ビスフェノール化合物の製造方法。
但し、XOyにおけるXは周期表の第3族、第5族、第7族〜第13族及び第15族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、yは、Xの原子価を満足するのに必要な酸素の原子比であって0.5〜4の数を示す。
〔2〕XOyにおけるXが、周期表の第3族及び第13族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕のビスフェノール化合物の製造方法。
〔3〕XOyにおけるXがInである、前記〔1〕又は〔2〕のビスフェノール化合物の製造方法。
〔4〕前記固体酸化物触媒の総質量に対して、WO3が10質量%以上、50質量%以下である、前記〔1〕〜〔3〕の何れかのビスフェノール化合物の製造方法。
〔5〕前記固体酸化物触媒がTiO2をさらに含み、
前記固体酸化物触媒の総質量に対するTiO2の割合が0.1質量%以上である、前記〔1〕〜〔4〕の何れかのビスフェノール化合物の製造方法。
〔6〕チオール化合物の存在下で前記固体酸化物触媒に前記カルボニル化合物と前記フェノール化合物とを接触させる、前記〔1〕〜〔5〕の何れかのビスフェノール化合物の製造方法。
〔7〕前記カルボニル化合物の1モルに対して、前記チオール化合物が0.1モル以上である、前記〔6〕のビスフェノール化合物の製造方法。
〔8〕前記固体酸化物触媒の酸強度が50μmol/g以上である、前記〔1〕〜〔7〕の何れかのビスフェノール化合物の製造方法。
〔9〕ZrO2の結晶構造の80%以上がテトラゴナル型である、前記〔1〕〜〔8〕の何れかのビスフェノール化合物の製造方法。
〔10〕WO3とZrO2とXOyとを含み、
酸強度が50μmol/g以上である、固体酸化物触媒。
但し、XOyにおけるXは周期表の第3族、第5族、第7族〜第13族及び第15族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、yは、Xの原子価を満足するのに必要な酸素の原子比であって0.5〜4の数を示す。
〔11〕WO3とZrO2とXOyとを含み、
ZrO2の結晶構造の80%以上がテトラゴナル型である、固体酸化物触媒。
但し、XOyにおけるXは周期表の第3族、第5族、第7族〜第13族及び第15族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、yは、Xの原子価を満足するのに必要な酸素の原子比であって0.5〜4の数を示す。
〔12〕ZrO2の結晶構造の80%以上がテトラゴナル型である、前記〔10〕の固体酸化物触媒。
〔13〕XOyにおけるXがInである、前記〔10〕〜〔12〕の何れかの固体酸化物触媒。
〔14〕前記固体酸化物触媒の総質量に対して、WO3が10質量%以上、50質量%以下である、前記〔10〕〜〔13〕の何れかの固体酸化物触媒。
〔15〕前記固体酸化物触媒の総質量に対して、XOyが0.1質量%以上、30質量%以下である、前記〔10〕〜〔14〕の何れかの固体酸化物触媒。
本発明の固体酸化物触媒は、ビスフェノール化合物の製造に好適に使用できる。また、本発明の固体酸化物触媒は、使用後に再利用可能である。
本発明における固体酸化物触媒(以下、「触媒A」ともいう。)は、WO3とZrO2とXOyとを含む。触媒Aは、換言すれば、XOyを含むタングステン−ジルコニウム複合固体酸化物触媒である。
XOyにおけるXは、周期表の第3族、第5族、第7族〜第13族及び第15族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Xは、典型的には、金属元素である。
なお、W、Zr、Oはそれぞれ元素記号である。すなわち、W、Zr、Oはそれぞれタングステン、ジルコニウム、酸素を示す。
Xとしては、カルボニル化合物とフェノール化合物との縮合反応に好適な活性点の形成しやすさの点から、Inが特に好ましい。
WO3の含有量は、触媒Aの総質量に対して、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましい。WO3の含有量が前記上限値以下であれば、触媒Aの表面にカルボニル化合物とフェノール化合物との縮合反応に好適な活性点が充分に生じ、ビスフェノール化合物の生産性が優れる。
前記したXOyの含有量の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、WO3の含有量は、触媒Aの総質量に対して、10質量%以上、50質量%以下であってよく、10質量%以上、40質量%以下であってよく、10質量%以上、35質量%以下であってよく、10質量%以上、30質量%以下であってよい。
XOyの含有量は、触媒Aの総質量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。XOyの含有量が前記上限値以下であれば、タングステン−ジルコニウム複合固体酸化物の結晶構造が過剰に変化せず、カルボニル化合物とフェノール化合物の縮合反応に好適な活性点が充分に生じるので、ビスフェノール化合物の生産性が優れる。
前記したXOyの含有量の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、XOyの含有量は、触媒Aの総質量に対して、0.1質量%以上、30質量%以下であってよく、1質量%以上、20質量%以下であってよく、1質量%以上、10質量%以下であってよく、2質量%以上、10質量%以下であってよく、4質量%以上、10質量%以下であってよい。
第4の金属としては、特に制限は無いが、周期表の第4族の金属(Zrを除く)、周期表の第6族の金属(Wを除く)が好ましい。中でも、触媒の結晶構造の安定性の点で、Tiが好ましい。すなわち、触媒Aは、TiO2を含むことが好ましい。
第4の金属の酸化物の含有量は、触媒Aの総質量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。第4の金属の酸化物の含有量が前記上限値以下であれば、触媒を長期間使用した際の触媒の結晶構造安定性がより優れる。
前記した第4の金属の酸化物の含有量の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
具体的には、例えば、本発明のビスフェノール化合物の製造方法の場合、カルボニル化合物とフェノール化合物とからビスフェノール化合物が生成する反応が起こり易い点では酸性度が高いことが好ましい。また、一方で、生成したビスフェノール化合物の分解や副生物の生成が起こり難い点では低いことが好ましい。
前記した酸強度の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、酸強度は、50μmol/g以上、300μmol/g以下であってよく、70μmol/g以上、250μmol/g以下であってよく、80μmol/g以上、200μmol/g以下であってよい。
先ず、試料(固体酸化物触媒)を試料管に充填し、500℃で1時間脱気、冷却後、NH3ガスを導入し100℃で1時間静置する。次に、100℃で1時間脱気し、試料に吸着していないNH3ガスを除去する。その後、試料管をThermo Scientific社製「TPDRO110 Series Catalyst」に取り付け、Heガスを50ccm/分で流通しながら150℃〜800℃まで10℃/分で昇温し、触媒から脱離したNH3の質量を測定する。
触媒Aは、非晶質であっても結晶質であってもよいが、結晶質であることが好ましい。中でも、テトラゴナル型のZrO2の結晶構造を有することが好ましい。本発明者らの検討によれば、テトラゴナル型のZrO2の結晶構造を有する触媒Aは、カルボニル化合物とフェノール化合物との縮合反応等に用いる触媒として好適である。
テトラゴナル型のZrO2の結晶構造を有する触媒Aは、カルボニル化合物とフェノール化合物の縮合反応等の活性点であるブレンステッド酸点が触媒表面に露出しやすく、酸強度がより、前記縮合反応等に適した状態へと変化しているものと推定される。
ZrO2の結晶構造のうちのテトラゴナル型の割合の上限は、例えば99.9%である。
テトラゴナル型のZrO2の結晶構造は、粉末X線回折測定において、通常、2θが29.8°〜30.6°、34.4°〜35.7°、50.0°〜51.1°、及び59.2°〜60.6°に回折線が確認される。また、モノクリニック型のZrO2の結晶構造は、粉末X線回折測定において、通常、2θが27.8°〜28.6°、31.1°〜31.9°、33.8°〜34.6°、及び55.2°〜56.0°に回折線が確認される。
ZrO2の結晶構造のうちのテトラゴナル型の割合は、粉末X線回折測定の結果から、検出されたテトラゴナル型のZrO2の結晶構造の最大ピーク強度とモノクリニック型のZrO2の結晶構造の最大ピーク強度の合計に対するテトラゴナル型のZrO2の結晶構造の最大ピーク強度の割合として算出される。
具体的には、例えば、本発明のビスフェノール化合物の製造方法の場合、触媒AのBET比表面積は、カルボニル化合物とフェノール化合物との縮合反応が起こり易い点では、大きいことが好ましい。また、一方で、生成したビスフェノール化合物の分解や副生物の生成が起こり難い点では、小さいことが好ましい。
前記したBET比表面積の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
BET法では、ガス吸着法による比表面積測定器(MICROMERITICS社製「ASAP2420」)を用い、吸着ガスとして窒素を用い、触媒のガス吸着量を測定し、比表面積を算出する。
具体的には、後述する実施例で行ったように、以下の手順でBET比表面積を求める。
そして、縦軸にp/(v(1−p))、横軸にpを取り、pが0.05〜0.20の範囲でプロットしたときの傾きb(g/cm3)と切片c(g/cm3)から、下式に基づいて比表面積S(m2/g)を求める。
但し、触媒Aを適用する反応は、このカルボニル化合物とフェノール化合物との反応に限定されるものではなく、他の反応にも好適に用いることができる。
触媒Aは、例えば、以下の製造方法1又は2により製造できる。但し、触媒Aの製造方法はこれらに限定されない。
製造方法1:タングステン−ジルコニウム複合固体酸化物触媒の製造時に原料としてX供給源を添加する方法。
製造方法2:タングステン−ジルコニウム複合固体酸化物触媒にXOyを追担持させる方法。
製造方法2において、タングステン−ジルコニウム複合固体酸化物触媒に、XOyとともに、第4の金属の酸化物を追担持させてもよい。
製造方法1では、ジルコニウム供給源及びタングステン供給源と共に、X供給源、及び必要に応じて第4の金属の供給源を接触させる。
各供給源は、反応を均一に進める観点から、撹拌下で接触させることが好ましい。
ジルコニウム供給源としては、これらの中でも、反応性及びコスト等の観点から、酸化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウムが好ましく、酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウムがより好ましい。
ジルコニウム供給源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
タングステン供給源としては、これらの中でも、取扱性及びコスト等の観点から、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウムが好ましく、パラタングステン酸アンモニウムがより好ましい。
タングステン供給源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
X供給源としては、これらの中でも、取扱性及びコスト等の観点から、Xの水酸化物、硝酸塩、硫酸塩が好ましく、硝酸塩が更に好ましい。
X供給源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
第4の金属の供給源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
ジルコニウム化合物とタングステン化合物を接触させるときのpHは、アンモニウム塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のpH調整剤を用いて調整してもよく、上述したジルコニウム供給源、タングステン供給源、X供給源等の種類と量により調整してもよい。
前駆体は通常、反応液の下の方に沈殿する。そこで、この沈殿を濾過することにより、前駆体を回収することができる。
前記した加熱温度の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
前記した加熱時間の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
本発明のビスフェノール化合物の製造方法は、固体酸化物触媒にカルボニル化合物とフェノール化合物とを接触させる工程(接触工程)を含む。
固体酸化物触媒にカルボニル化合物とフェノール化合物とを接触させると、カルボニル化合物とフェノール化合物との反応により、ビスフェノール化合物が生成する。
カルボニル化合物とフェノール化合物の反応は、通常、縮合反応である。
カルボニル化合物は、カルボニル基を有する化合物である。
カルボニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、ケトン化合物およびアルデヒド化合物が挙げられる。
不飽和脂肪族ケトンとしては、例えば、メシチルオキシドが挙げられる。
芳香族ケトンとしては、例えば、フェニルメチルケトン及びベンゾフェノンが挙げられる。
脂環式ケトンとしては、例えば、シクロヘキサノン、シクロドデカノン、及び炭素数1〜6のアルキル基を置換基として有するシクロヘキサノン(例えば、4−n−プロピルシクロヘキサノン)が挙げられる。
ハロゲン置換ケトンとしては、例えば、ヘキサフルオロアセトン、ヘキサクロロアセトン、ヘキサブロモアセトン及びメチルペンタフルオロフェニルケトンが挙げられる。
ケトン化合物としては、アセトンが最も好ましい。
上記のうち、カルボニル化合物としては、ホルムアルデヒド及びアセトンからなる群から選ばれる少なくとも1種が特に好ましく、アセトンが最も好ましい。
カルボニル化合物としてアセトンを用いる場合、通常入手できる市販の工業用アセトンを使用することができる。一般的には純度99.0重量%以上のものが入手可能である。また、蒸留精製したアセトン、キュメン法フェノールプロセスにおける蒸留塔底液から得られる粗アセトン等も使用可能である。
フェノール化合物としては、特に限定されないが、例えば、無置換のフェノール及び置換基を有するフェノールが挙げられる。
置換基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン、アリール基等が挙げられる。置換基を有するフェノールにおける置換基の数は1つでもよく2つ以上でもよい。2つ以上の置換基を有する場合、2つ以上の置換基は互いに同一でもよく異なってもよい。
フェノール化合物の具体例としては、無置換のフェノール;o−クレゾール、m−クレゾール、キシレノール(2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、2,3,6−トリメチルフェノール及び2,6−ジ−tert−ブチルフェノール等の炭素数1〜4のアルキル基で置換されたフェノール;イソプロペニルフェノール;o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、2,3−ジクロロフェノール、2,5−ジクロロフェノール及び2,6−ジクロロフェノール等のハロゲンで置換されたフェノール;2−フェニルフェノール等のアリール基で置換されたフェノール等が挙げられる。
上記のうち、フェノール化合物としては、フェノール、イソプロペニルフェノール及びо−クレゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、フェノール及びо−クレゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノールが特に好ましい。
フェノール化合物としてフェノールを用いる場合、通常入手できる市販の工業用フェノールを使用することができる。一般的に、純度98重量%以上のものが入手可能である。また、クメン法により得られるフェノール、トルエン酸化法等により得られるフェノール等も使用可能である。
フェノール化合物としてクレゾールを用いる場合についても、通常入手できる市販の工業用クレゾールを使用することができる。
接触工程では、カルボニル化合物とフェノール化合物とを、固体酸化物触媒に接触させる。
接触工程は、バッチ式で行ってもよく、連続式で行ってもよい。工業的には、連続式で行うことが好ましい。
連続式で接触工程を行う場合、例えば、触媒Aを充填した反応器に、カルボニル化合物とフェノール化合物とを連続的に供給する。
そこで、具体的には、カルボニル化合物1モルに対して、フェノール化合物が2モル以上であることが好ましく、4モル以上であることがより好ましい。また、カルボニル化合物1モルに対して、フェノール化合物が20モル以下であることが好ましく、15モル以下であることがより好ましい。
ポリカーボネート樹脂等の原料として有用なビスフェノールAを得る観点からは、フェノール化合物としてフェノールを使用し、カルボニル化合物としてアセトンを使用することが好ましい。また、フェノール化合物として、カルボニル化合物とフェノール化合物との縮合反応で副生するイソプロペニルフェノールを使用し、カルボニル化合物としてアセトンを使用することも同様に好ましい。
本明細書において、有効触媒量とは、カルボニル化合物とフェノール化合物から所望するビスフェノール化合物を製造することができる量を意味する。
有効触媒量は、使用する原料や反応条件等に応じて適宜設定すればよい。
例えば、アセトンとフェノールからビスフェノールAを製造する場合、又はアセトンとо−クレゾールからビスフェノールCを製造する場合、アセトン1gに対して、固体酸化物触媒を0.1g以上用いることが好ましく、0.5g以上用いることがより好ましく、1.0g以上用いることが特に好ましい。また、一方で、アセトン1gに対して、固体酸化物触媒を10g以下用いることが好ましく、5g以下用いることがより好ましく、2.5g以下用いることが特に好ましい。
これらの中でも、アルキルメルカプタン化合物が好ましい。アルキルメルカプタン化合物の炭素数は、1以上が好ましく、3以上が更に好ましい。また、アルキルメルカプタン化合物の炭素数は、6以下が好ましく、5以下が更に好ましい。
チオール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
チオール化合物の使用量は、ビスフェノール化合物の収率の観点から、カルボニル化合物の1モルに対して、チオール化合物を0.1モル以上用いることが好ましく、0.15モル以上用いることがより好ましく、0.2モル以上用いることが特に好ましい。また、一方で、ビスフェノール化合物とチオール化合物の分離コストの観点から、カルボニル化合物の1モルに対して、チオール化合物を10モル以下用いることが好ましく、5モル以下用いることが特に好ましい。
なお、本発明のビスフェノール化合物の製造方法は、前記した固体酸化物触媒を用いることにより、イオン交換樹脂触媒を用いる場合に比べ、100℃以上という高温反応により反応速度を上げることが可能である。
反応圧力については、減圧、加圧および常圧のいずれの条件下でも実施することが可能である。
反応液中には、目的のビスフェノール化合物の他に、未反応原料、反応時に副生する水及び不純物等が含まれる。そこで、反応液を精製することにより、ビスフェノール化合物を取り出すことができる。すなわち、本発明のビスフェノール化合物の製造方法は、反応液から目的のビスフェノール化合物を分離精製する工程を含むことが好ましい。
以下、ビスフェノール化合物がビスフェノールAの場合を例に挙げて、分離精製方法の例を説明する。
なお、この低沸点成分には、フェノール等が含まれていてもよい。また、低沸点成分を蒸発させた後のビスフェノールAとフェノールとを含む成分の組成は、さらに蒸留等によってフェノールを除去する、又はフェノールを追加するなどによって、所望の組成に調整することができる。なお、分離された低沸点成分に含まれる未反応アセトンは、分離回収して、反応に再利用することができる。
晶析は、例えば、冷却、貧溶媒の添加、水等の添加及びその後の蒸発(蒸発熱で冷却)、フェノール除去による濃縮、及びこれらの方法の組み合わせ等により付加物の析出を行えばよい。晶析は、1回のみ行ってもよく、所望の純度の付加物を得るために、任意の方法の組み合わせで複数回行ってもよい。
造粒方法としては、例えば、ノズルから溶融ビスフェノールAを噴射させ、冷却ガスと接触させることにより、小球状のビスフェノールAプリルを得る方法等が簡便で好ましい。なお、固液分離で得られた付加物の結晶から、フェノールを除去せずに、再度、晶析を行うことによってもビスフェノールAを得ることができる。
例えば、母液の少なくとも一部を反応器に戻し、母液に含まれる成分を原料の少なくとも一部として、ビスフェノールAを製造することができる。
また、母液の少なくとも一部について、アルカリ又は酸の存在下で加熱後に蒸留することにより、不純物となる重質分を除くと共に軽質分を取得し、この軽質分を、酸触媒等を用いて再結合反応させることによりビスフェノールAを得ることもできる。
この他、母液の少なくとも一部について、酸触媒等を用いて異性化反応させることによりビスフェノールAを得ることもできる。
なお、再結合反応や異性化反応に用いる酸触媒として、接触工程で用いる固体酸化物触媒を好適に用いることができる。
以上説明した本発明のビスフェノール化合物の製造方法にあっては、触媒としてWO3とZrO2とXOyとを含む固体酸化物触媒を用いるので、ビスフェノール化合物を高転化率で高収率に製造できる。また、選択率も良好である。
ガスクロマトグラフ:島津製作所株式会社製「GC−2010」
カラム:Restack社製「Rtx−5(Crossbond 5% diphenyl−95% dimethyl polysiloxane) 30m×0.32mm×0.5μm」
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)
キャリアーガス:He
ビスフェノール化合物の収率(%)=[(生成したビスフェノール化合物のモル数/仕込んだカルボニル化合物のモル数)]×100
ビスフェノール化合物の選択率(%)=[ビスフェノール化合物の収率(%)/カルボニル化合物の転化率(%)]×100
すなわち、カルボニル化合物とフェノール化合物との反応においては、固体酸化物触媒上の酸点により、所望のビスフェノール化合物を生成する反応以外に様々な副反応が起こり得る。例えば、アセトンとフェノールとの反応では、前記したように、4,4’−BPA以外に、2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンやDianin化合物等が副生する。ここで、一般的に、固体酸化物触媒は、強い酸点が多く、触媒の比表面積が大きいほど触媒活性が高いと考えられている。
触媒Aにあっては、タングステン−ジルコニウム複合固体酸化物にXOyが導入されたことにより、固体酸化物の結晶構造にゆがみが生じ、カルボニル化合物とフェノール化合物のとの反応に好適な酸点が出現していると考えられる。
特に、酸強度が50μmоl/g以上、又はZrO2の結晶構造のうちのテトラゴナル型の割合が80%以上であれば、酸点の強さと量が、所望のビスフェノール化合物を生成する反応の促進に好適であるために、カルボニル化合物とフェノール化合物との反応において、副反応が抑制されると考えられる。
反応に用いた固体酸化物触媒の回収方法としては、例えば、固体酸化物触媒を網目スクリーンやイナートボール等で保持した反応器からマンホール等を開放して回収する方法、反応器に接続した焼結フィルター等のろ過機で反応液や洗浄液と固体酸化物触媒を分離した後に反応器を開放して回収する方法等が挙げられる。
回収した固体酸化物触媒を再生する前に、固体酸化物触媒を水や有機溶媒で洗浄することが好ましい。
固体酸化物触媒の再生方法としては、固体酸化物触媒を加熱する方法が挙げられる。
長時間反応に用いた固体酸化物触媒は、触媒質量当たりの酸強度が低くなりやすい。また、長時間反応に用いた固体酸化物触媒は、BET比表面積が小さくなりやすい。そして、長時間反応に用いた固体酸化物触媒は、触媒活性、ビスフェノール化合物の選択率が低下しやすい。
反応に用いた固体酸化物触媒を加熱することにより、固体酸化物触媒の酸強度を高くすることができる。また、反応に用いた固体酸化物触媒を加熱することにより、触媒のBET比表面積を大きくすることができる。
前記した加熱温度の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
前記した加熱時間の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
触媒の粉末X線回折測定は以下の手順で行った。
ペレット状に成型した触媒を、Bruker社製の固体粉末X線回折装置「D8 ADVANCE」(線源CuKα)を用いて、2θ=10〜80°の範囲で分析した。
触媒の酸強度は、アンモニア昇温脱離法(NH3−TPD法)に基づいてTPDスペクトルの測定を行い、得られたTPDスペクトルの積分値に基づいて算出した。
TPDスペクトルの測定は、Thermo Scientific社製「TPDRO110 Series Catalyst」を用いて行った。具体的には、触媒を試料管に充填し、500℃で1時間脱気、冷却後、NH3ガスを導入し100℃で1時間静置した。次に、100℃で1時間脱気し、触媒に吸着していないNH3ガスを除去した。その後、試料管をThermo Scientific社製「TPDRO110 Series Catalyst」に取り付け、Heを50ccm/分で流通しながら150℃〜800℃まで10℃/分で昇温し、触媒から脱離したNH3の質量を測定した。
触媒のBET比表面積は、ガス吸着法による比表面積測定器(MICROMERITICS社製「ASAP2420」)を用いて、触媒のガス吸着量を測定し、下式により算出した。具体的には、触媒を試料管に充填し、350℃で減圧乾燥後の質量を測定し、次に、試料管を−196℃に冷却し、試料管に窒素を導入し触媒に窒素を吸着させ、窒素分圧と吸着量の関係(吸着等温線)を測定した。ここで、窒素の相対圧をp、窒素の吸着量をv(cm3/g STP)とし、BETプロットを行った。そして、縦軸にp/[v(1−p)]、横軸にpを取り、pが0.05〜0.20の範囲でプロットしたときの傾きb(g/cm3)と切片c(g/cm3)から、下式に基づいて比表面積S(m2/g)を求めた。
アセトン転化率(%)、4,4’−BPA収率(%)、4,4’−BPA選択率(%)はそれぞれ、以下の条件でのガスクロマトグラフィーによる測定値から、下記算出式により算出した。
ガスクロマトグラフ:島津製作所株式会社製「GC−2010」
カラム:Restack社製「Rtx−5(Crossbond 5% diphenyl−95% dimethyl polysiloxane) 30m×0.32mm×0.5μm」
検出器:FID
キャリアーガス:He
アセトン転化率(%)=[(仕込みアセトンのモル数−未反応アセトンのモル数)/(仕込みアセトンのモル数)]×100
4,4’−BPA収率(%)=[(生成した4,4’−BPAのモル数/仕込みアセトンのモル数)]×100
4,4’−BPA選択率(%)=[4,4’−BPA収率(%)/アセトン転化率(%)]×100
濃度6.5質量%に調整した二塩化酸化ジルコニウム水溶液200cm3にメタタングステン酸アンモニウム1.3gと硝酸インジウム0.56gを添加し、1時間、50℃で撹拌した。その後、濃度28質量%のアンモニア水溶液8mLを加えて、さらに1晩、100℃で撹拌した。撹拌後、濾別し、得られた固形物を水洗し、120℃で一晩乾燥した。そして、得られた固形物を大気下、800℃で1時間焼成することにより、ジルコニウム−タングステン−インジウム複合固体酸化物触媒を得た。
水酸化ジルコニウム3.0gとオルトチタン酸テトライソプロピル0.11gを30mLエタノールに添加し1時間攪拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用い、50℃でエタノールを留去した。次に、30mLの水とメタタングステン酸アンモニウム0.80gと硝酸インジウム0.32gを添加し、1時間、50℃で撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用い、60℃で水分を留去した。得られた固形物を60℃で一晩乾燥した。そして、得られた固形物を大気下、800℃で1時間焼成することにより、ジルコニウム−タングステン−インジウム−チタン複合固体酸化物触媒を得た。
水酸化ジルコニウム3.0gとメタタングステン酸アンモニウム0.80gと硝酸イットリウム6水和物0.1gを30mLの水と混合し、1時間、50℃で撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用い、60℃で水分を留去した。得られた固形物を60℃で一晩乾燥した。そして、得られた固形物を大気下、800℃で1時間焼成することにより、ジルコニウム−タングステン−イットリウム複合固体酸化物触媒を得た。
このジルコニウム−タングステン−イットリウム複合固体酸化物触媒を用いて、実施例1と同様に縮合反応を行った。表1に結果を示す。
実施例3において、硝酸イットリウム6水和物の代わりに塩化スズ5水和物0.07gを使用した以外は、実施例3と同様にして、ジルコニウム−タングステン−スズ複合固体酸化物触媒を得て、縮合反応を行った。表1に結果を示す。
実施例3において、硝酸イットリウム6水和物の代わりに塩化ニオブ0.12gを使用した以外は、実施例3と同様にして、ジルコニウム−タングステン−ニオブ複合固体酸化物触媒を得て、実施例1と同様に縮合反応を行った。表1に結果を示す。
実施例3において、硝酸イットリウム6水和物の代わりにリン酸0.038gを使用した以外は、実施例3と同様にして、ジルコニウム−タングステン−リン複合固体酸化物触媒を得て、縮合反応を行った。表1に結果を示す。
実施例3において、硝酸イットリウム6水和物の代わりに硝酸インジウム0.065gを使用した以外は、実施例3と同様にして、ジルコニウム−タングステン−インジウム複合固体酸化物触媒を得て、縮合反応を行った。表1に結果を示す。
実施例1において、硝酸インジウムを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、ジルコニウム−タングステン複合固体酸化物触媒を得て、縮合反応を行った。表1に結果を示す。
実施例1において、ジルコニウム−タングステン−インジウム複合固体酸触媒の代わりに、特開2013−202458号公報の[実施例2]に記載された方法により製造した2−ピリジルエタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂を0.52g使用し、反応温度を70℃とした以外は、実施例1と同様にして、縮合反応を行った。表2に結果を示す。
実施例1において、硝酸インジウムの代わりに水酸化カリウム0.07gを使用した以外は、実施例1と同様にして、ジルコニウム−タングステン−カリウム複合固体酸化物触媒を得て、縮合反応を行った。表1に結果を示す。
実施例1において、硝酸インジウムの代わりに水酸化ナトリウム0.08gを使用した以外は、実施例1と同様にして、ジルコニウム−タングステン−ナトリウム複合固体酸化物触媒を得て、縮合反応を行った。表1に結果を示す。
XOyを含まないタングステン−ジルコニウム複合固体酸化物触媒を用いた比較例1は、転化率に劣っていた。そのため、4,4’−BPAの収率にも劣っていた。
触媒としてイオン交換樹脂を用いた比較例2は、転化率に劣っていた。そのため、4,4’−BPAの収率にも劣っていた。
XOyの代わりに周期表の第1族元素の酸化物を含むタングステン−ジルコニウム複合固体酸化物触媒を用いた比較例3、4は、転化率に劣っていた。そのため、4,4’−BPAの収率にも劣っていた。
Claims (15)
- WO3とZrO2とXOyとを含む固体酸化物触媒に、カルボニル化合物とフェノール化合物とを接触させる工程を含む、ビスフェノール化合物の製造方法。
但し、XOyにおけるXは周期表の第3族、第5族、第7族〜第13族及び第15族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、yは、Xの原子価を満足するのに必要な酸素の原子比であって0.5〜4の数を示す。 - XOyにおけるXが、周期表の第3族及び第13族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
- XOyにおけるXがInである、請求項1又は2に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
- 前記固体酸化物触媒の総質量に対して、WO3が10質量%以上、50質量%以下である、請求項1〜3の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
- 前記固体酸化物触媒がTiO2をさらに含み、
前記固体酸化物触媒の総質量に対するTiO2の割合が0.1質量%以上である、請求項1〜4の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。 - チオール化合物の存在下で前記固体酸化物触媒に前記カルボニル化合物と前記フェノール化合物とを接触させる、請求項1〜5の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
- 前記カルボニル化合物の1モルに対して、前記チオール化合物が0.1モル以上である、請求項6に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
- 前記固体酸化物触媒の酸強度が50μmol/g以上である、請求項1〜7の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
- ZrO2の結晶構造の80%以上がテトラゴナル型である、請求項1〜8の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
- WO3とZrO2とXOyとを含み、
酸強度が50μmol/g以上である、固体酸化物触媒。
但し、XOyにおけるXは周期表の第3族、第5族、第7族〜第13族及び第15族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、yは、Xの原子価を満足するのに必要な酸素の原子比であって0.5〜4の数を示す。 - WO3とZrO2とXOyとを含み、
ZrO2の結晶構造の80%以上がテトラゴナル型である、固体酸化物触媒。
但し、XOyにおけるXは周期表の第3族、第5族、第7族〜第13族及び第15族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、yは、Xの原子価を満足するのに必要な酸素の原子比であって0.5〜4の数を示す。 - ZrO2の結晶構造の80%以上がテトラゴナル型である、請求項10に記載の固体酸化物触媒。
- XOyにおけるXがInである、請求項10〜12の何れか一項に記載の固体酸化物触媒。
- 前記固体酸化物触媒の総質量に対して、WO3が10質量%以上、50質量%以下である、請求項10〜13の何れか一項に記載の固体酸化物触媒。
- 前記固体酸化物触媒の総質量に対して、XOyが0.1質量%以上、30質量%以下である、請求項10〜14の何れか一項に記載の固体酸化物触媒。
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