以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
(実施の形態)
(湿潤応答性可逆変形構造体1)
実施の形態では、マトリックスが水分を吸着及び脱離することで体積変化を起こし、印刷パターンの形状が変化することにより、目視による構造体の外観が変化する、可逆的、且つ繰り返し使用可能な、湿潤応答性可逆変形構造体について説明する。
図1は、実施の形態に係る湿潤応答性可逆変形構造体の一例を説明する断面模式図である。図1は、マトリックス11の一方面に印刷パターン13が形成され、マトリックス11の他方面に水分の吸着及び脱離で体積変化しない基材14が密着した湿潤応答性可逆変形構造体1の模式図である。図1(a)は乾燥状態の湿潤応答性可逆変形構造体の断面模式図であり、図1(b)は湿潤状態の湿潤応答性可逆変形構造体の断面模式図である。図2は、本発明の実施の形態に係る湿潤応答性可逆変形構造体の一例を説明する平面模式図である。図2(a)は乾燥状態の湿潤応答性可逆変形構造体の平面模式図であり、図2(b)は、湿潤状態の湿潤応答性可逆変形構造体の平面模式図である。図1(a)、(b)に示すように、湿潤応答性可逆変形構造体1は、基材14と、基材14の少なくとも一方の面に密着して積層されたマトリックス11と、マトリックス11の表面(基材14側と反対側の面)にインキ12により形成された印刷パターン13とを有する。マトリックス11は、水分を吸着及び脱離する特性を有するゲル材料を少なくとも含む材料から構成される。基材14は、水分の吸着及び脱離により体積が変化しない材料から構成される。基材14がマトリックス11の一方の面と密着することで、マトリックス11が部分的に変形を抑制された構造とすることができる。部分的にマトリックス11の変形を抑制することで、水分の吸着及び脱離に伴う体積変化による変形が異方的となり、印刷パターン13の変形にも変化を与えることができる。変形の抑制とは、完全に変形させないこと、あるいは、変形率を減少させることを意味する。
図2(a)、(b)に示すように、印刷パターン13は、インキ12が印刷された幅Lの印刷部21と、隣り合う印刷部21の間のインキ12が印刷されていない幅Sの非印刷部22とを含む、幅Pの単位パターン23を有する。尚、印刷パターン13の詳細は後述する。
詳細は後述するが、図1(b)に示すように、マトリックス11が膨潤すると、マトリックス11は、基材14と密着する面側の膨張が抑制され、基材14と密着していない面側において膨張する。印刷パターン13の印刷部に変形し難い固いインキ12を使用した場合、マトリックス11における非印刷部の膨張率が高くなり、インキ12を圧縮するように変形し、凹凸が形成される。その結果、図1(b)、図2(b)に示すように、マトリックス11の膨潤前後で印刷パターン13が変化し、視覚的な変化を起すことが可能となる。
尚、本明細書において、水分とは、気体、液体、固体(気相、液相、固相)のいずれであってもよく、例えば水であれば、水蒸気、液滴、氷のいずれであってもよい。水分は、マトリックス12に対して吸着及び脱離可能であればよい。水分は、単独でなく、他の物質と混合していても良い。例えば、水蒸気に他の成分(例えば香料成分)が混合していても良い。また、水分は、分子内に水酸基(OH基)を有している物質、例えばアルコールを含んでいてもよい。
実施の形態に係る湿潤応答性可逆変形構造体1は、フィルム状構造に限られたものではなく、球状や板状、ロッド状、三次元の構造体でもよい。
(マトリックス11)
マトリックス11は、高湿度状態あるいは湿潤状態とすることで水分を吸着し、体積を増大する。マトリックス11の表面に形成された印刷パターン13は、インキ12が接する部分あるいはその周囲の部分の体積増大に伴って、印刷パターン13の形状が変化し、その結果、印刷パターン13の視覚的変化が起こる。この視覚的変化は、マトリックス11を乾燥状態とすることで、マトリックス11からの水分の脱離による体積減少に伴って、元の印刷パターン13へと戻る。マトリックス11の水分の吸着及び脱離に伴う体積変化率は、マトリックス11を構成する材料によって異なる。
マトリックス11は、基材14に密着しているため、体積変化は異方的となり、マトリックス11が水分を吸着及び脱離することで体積変化を起こすと、マトリックス11の膜厚が大きく変化する。また、マトリックス11の体積増大に伴って、マトリックス11の印刷面(基材14側と反対側の面)において、印刷パターン13に制御された凹凸形状が形成される。図1(b)に示すように、特に、印刷パターン13の非印刷部22が膨らむことで凹凸形状が形成される。
マトリックス11は、乾燥状態の膜厚に対して湿潤状態の膜厚が1.2倍以上となることが好ましい。また、乾燥状態における単位面積あたりの重量に対し、湿潤状態における単位面積あたりの重量が、1.2倍以上となることが好ましい。
マトリックス11は、乾燥状態の膜厚に対して、湿潤状態の膜厚が、1.2倍以上10倍以下であることが好ましく、1.5倍以上10倍以下であることがより好ましく、2.0倍以上8.0倍以下であることが更に好ましい。また、マトリックス11の乾燥状態の単位面積あたりの重量に対し、湿潤状態の単位面積あたりの重量が、1.2倍以上10倍以下であることが好ましく、1.5倍以上10倍以下であることがより好ましく、2.0倍以上8.0倍以下であることが更に好ましい。湿潤状態のマトリックス11の膜厚、単位面積あたりの重量が、乾燥状態のマトリックス11の膜厚、単位面積あたりの重量に対し、それぞれ、1.2倍以上10倍以下であると、乾燥及び湿潤により変化する印刷パターン13の形状を制御しやすい。
マトリックス11の乾燥状態における膜厚は、特に限定されないが、10μm以上400μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上200μm以下であり、更に好ましくは20μm以上100μm以下である。マトリックス11の乾燥状態における膜厚が10μm以上400μm以下であると印刷パターン13の形状が制御しやすい。
マトリックス11の湿潤状態における1m2あたりの重量は、特に限定されないが、50g以上500g以下であることが好ましい。より好ましくは1m2あたりの重量が100g以上300g以下である。また、マトリックス11の湿潤状態における膜厚は、特に限定されないが、40μm以上1000μm以下であることが好ましい。より好ましくは、100μm以上500μm以下である。また、マトリックス11の湿潤状態において形成される凹凸形状の高低差が5μm以上100μm以下となることが好ましい。より好ましくは10μm以上50μm以下である。
マトリックス11を構成する材料や乾燥状態における膜厚によって、湿潤刺激により単位面積あたりに吸着される水分の量が制御され、体積変化の程度が制御される。湿潤刺激によりマトリックス11が膨潤して膜厚が厚くなると共に印刷面に凹凸形状が形成されたとき、印刷パターン13により凹凸形状が制御されると共に印刷パターン13の形状が変化する。印刷パターン13の形状と、湿潤状態におけるマトリックス11の水分吸着量とを制御することにより、可逆性、繰り返し性が良好で、湿潤状態と乾燥状態との目視による変化の大きい湿潤応答性可逆変形構造体1を得ることができる。
マトリックス11の乾燥状態及び湿潤状態における膜厚は、公知の方法で測定することが可能である。例えば、接触式膜厚計を用いて測定することが可能である。湿潤状態の膜厚は、例えば、マトリックス11の印刷面に純水を滴下して30秒放置後、印刷面の表面の純水を拭き取り、直ぐに膜厚を測定することで求めることができる。また、マトリックス11の湿潤状態における単位面積あたりの重量の測定方法は、特に限定されない。例えば、湿潤状態における単位面積あたりの重量は、湿潤応答性可逆変形構造体1を純水に浸漬し、20分放置後、湿潤応答性可逆変形構造体1の総重量を測定し、基材14に直接印刷パターン13を設けた場合の重量を差し引いて求めることができる。印刷パターン13のインキ12が、厚みが薄く水分の吸着性が低い場合には、印刷パターン13の重量を無視して湿潤応答性可逆変形構造体1の総重量から基材14の重量を差し引いて求めても良い。また、マトリックス11の印刷面に形成された凹凸形状の高低差の測定方法は、特に限定されない。例えば、凹凸形状の高低差は、マトリックス11の印刷面に純水を滴下して数分後に印刷面の表面の純水を拭き取り、レーザー顕微鏡を用いて断面形状を観察し、最高点と最低点の高低差を測定することにより求めることができる。
マトリックス11を構成する材料としては、水分の吸収、脱離に伴って体積変化を発現するゲル材料であれば特に限定されない。ゲル材料としては、例えば、少なくとも1種類の親水性高分子系材料を含むことが好ましい。また、ゲル材料は、混合材料系のゲル材料を用いることが好ましい。具体的には、二種類の親水性高分子鎖が相互進入高分子網目を形成することで高強度化されたダブルネットワークゲルや、後述する粘土化合物が物理架橋点として作用するナノコンポジットゲルが好ましい。
親水性高分子系材料としては、親水基であるカルボキシル基、アルデヒド基、水酸基、アミノ基、アミド基、スルホン基などを有する親水性高分子系材料が挙げられる。例えば、ポリアクリル酸系、ポリマレイン酸系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルピロリドン系、ポリビニルピリジン系、ポリアクリルアミド系、ポリエチレンオキシド系、ポリビニルスルホン系などを挙げることができる。また、これらの材料系において2種類以上が主鎖あるいは側鎖に組み込まれて構成される混合物であってもよい。具体的には、ポリアクリル酸とポリビニルアルコール系の共重合体やポリアクリル酸とポリマレイン酸の共重合体などが挙げられる。
上記のゲル材料には、電離放射線硬化性あるいは熱硬化性を有する有機モノマー、オリゴマー、ポリマーにより形成される硬化性樹脂材料が含まれることが好ましい。以降、オリゴマー及びポリマーを総じて樹脂と称する場合がある。
電離放射線硬化性有機モノマー、オリゴマーおよびポリマーとは、紫外線や電子線といった活性エネルギー線の照射により架橋反応を経て硬化する物質のことをいう。硬化性の材料を用いることで、フィルム状だけでなく凹凸構造や球構造など様々な3次元の構造体としても成形することが可能となる。また、硬化条件を変更することで架橋密度を制御することができるため、水分の吸収、脱離に伴う体積変化率をコントロールすることも可能となる。熱硬化性を有する有機モノマー、オリゴマーおよびポリマーとは、加熱による架橋反応を経て硬化する物質のことをいう。
ゲル材料に用いられる電離放射線硬化性モノマー、オリゴマーとしては、具体的には、アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド各種四級塩、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート各種四級塩、アクリル酸、各種アルキルアクリレート、メタクリル酸、各種アルキルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、スチレン、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2−ビス〔4−(アクリロキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン、2−ヒドロキシ−1−アクリロキシ−3−メタクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシポリプロポキシ)フェニル〕プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
ゲル材料に用いられる熱硬化性樹脂材料としては、不飽和ポリエステル樹脂又はエポキシ樹脂を主成分とし、より具体的には、不飽和ポリエステル樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂と、水酸基及び炭素−炭素二重結合を有する反応性希釈剤と、重合開始剤とを必須成分とする樹脂組成物、又は、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂と、水酸基及び炭素−炭素二重結合を有するフェノール樹脂硬化剤と、硬化促進剤とを必須成分とする樹脂組成物が好ましい。
実施の形態に係るゲル材料には、適宜、架橋剤を添加してもよい。架橋剤としては、重合性官能基を2つ以上有する化合物を用いることができ、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N−メチレン−ビス−N−ビニルアセトアミド、N,N−ブチレン−ビス−N−ビニルアセトアミド、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、アリル化デンプン、アリル化セルロース、ジアリルフタレート、テトラアリロキシエタン、ペンタエリストールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルトリメリテート等が挙げられる。
また、実施の形態に係るゲル材料には、適宜、フィラーを添加してもよい。フィラーの形状としては、球状、粒子状、針状、繊維状、板状、燐片形状、ロッド状、不定形等が挙げられ、親水性表面を持つものがモノマーや樹脂との相溶性の観点から好ましい。例えば、粒子状であれば、親水化処理された金属酸化物微粒子や金属微粒子、ゼオライト、ポリマー微粒子などが挙げられる。また、板状であれば、サポナイトやスティブンナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト、ルーセンタイト、ソマシフなど水膨潤性の粘土化合物などが挙げられる。また、繊維状であればセルロースナノファイバーや親水化処理されたカーボンナノチューブ、ガラスフィラーなどが挙げられる。
実施の形態に係るゲル材料には、その重合様式によって、重合開始剤を適宜選択することができる。重合開始剤としては、具体的には、過酸化水素、過硫酸塩、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等、アゾ系開始剤、例えば2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)2塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1,−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕2塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4’−ジメチルバレロニトリル)、ベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスホンオキサイド、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン等の紫外光によってラジカルを発生する化合物、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシプロポキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロライド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)チタニウム、1,3−ジ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゼンや3,3’,4,4’−テトラ−(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン等のパーオキシエステルに、チオピリリウム塩、メロシアニン、キノリン、スチルキノリン系色素を混合した物質等の360nm以上の波長の光によってラジカルを発生する化合物等が挙げられる。また、過酸化水素あるいは過硫酸塩は、例えば、亜硫酸塩、L−アスコルビン酸等の還元性物質やアミン塩等を組み合わせてレドックス系の開始剤としても使用することができる。
また、マトリックス11の内部を部分的に変形抑制してもよい。マトリックス11内部を変形抑制する方法としては、マトリックス11の架橋密度や硬化度、重合度を変更すればよい。マトリックス11の架橋密度や硬化度、重合度を変更する方法としては、マトリックス形成用塗液の塗膜の硬化時の開始剤活性化率を変更する方法が挙げられる。開始剤の活性化率が減少すると、重合反応及び架橋反応の発生点が減少することから、架橋密度や硬化度、重合度が低下する。その結果、マトリックス11内部で体積変形率が高いところと、低いところの分布が発生し、異方的な体積変化を誘起することができる。開始剤活性化率を変更する方法としては、例えば、紫外線硬化性樹脂を用いた場合、紫外線遮蔽マスクを利用して、紫外線照射量や照度について塗膜内で分布を持たせる方法や、紫外線照射時における塗膜内部での紫外線強度の減衰を利用して、開始剤の活性化率に分布を持たせる方法が挙げられる。
マトリックス11は、基材14に密着しているため、マトリックス11の水分の吸着及び脱離に伴う体積変化は異方的となる。また、マトリックス11が体積変化を起こすと、マトリックス11の膜厚が大きく変化する。また、マトリックス11の体積増大に伴って、マトリックス11の印刷面において、印刷パターン13に制御された凹凸形状が形成される。特に、印刷パターン13の非印刷部22が優先的に膨らむことで凹凸形状が形成される。
また、実施の形態に係るゲル材料は、粘土化合物が物理的架橋点として作用するナノコンポジットゲルであることが好ましい。ナノコンポジットゲルは、乾燥状態において脆性と靭性をかねそろえ、かつ、湿潤させることで膨潤し、柔軟性を有するゲル特性を示すことができる。ナノコンポジットゲルは、電離放射線硬化性樹脂と、電離放射線硬化性有機モノマーと、粘土化合物とを含む電離放射線硬化性組成物の塗液を硬化させて作製することが好ましい。
電離放射線硬化性樹脂は、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂より選択され、1分子中にウレタン骨格を有し、1つ以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を含むモノマーを使用する。アクリロイル基またはメタクリロイル基が1分子中に4つ以上である場合、硬化収縮が大きくなることでフィルムにカールが発生し、かつ、フィルムの引張伸度が著しく低下するため、アクリロイル基またはメタクリロイル基は1分子中に1〜3つ含むことが望ましい。ウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、主に靭性の向上に寄与する。ウレタン骨格は水素結合などによる分子間結合を誘起することからマトリックス11の靭性を向上させることができる。
また、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、水溶性であることが望まれる。非水溶性の樹脂を用いた場合、電離放射線硬化フィルムの湿潤性が低下し、十分な膨潤特性を得ることができない。
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、UA−W2AやUA−7100(新中村化学工業社製)、ビームセットAQ−17(荒川化学工業社製)などが挙げられる。なお、これら樹脂骨格の一部をアルキル基ε―カプロラクトンで置換したウレタン(メタ)アクリレート樹脂なども使用することができ、特にその材料を限定しない。
また、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂には、水分散性エマルジョンなども使用することができ、例えば、ビームセットEM−90やEM−92(荒川化学工業社製)、アクリットWBR−829D(大成ファインケミカル社製)などが挙げられる。なお、これら樹脂骨格の一部をアルキル基ε―カプロラクトンで置換したウレタン(メタ)アクリレート樹脂なども使用することができ、特にその材料を限定しない。
電離放射線硬化性有機モノマーは、(メタ)アクリルアミドより選択され、例えば、ジメチルアクリルアミドやアクリロイルモルホリン、イソプロピルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩(KJケミカルズ社製)などが挙げられるが、なかでもHEAAが望まれる。HEAAは末端に水酸基を有しており、重合してポリマー化した際に、分子間結合により電離放射線硬化フィルムの靭性を向上させることができる。なお、上記モノマーは一種類以上を混合して用いてもよい。
(メタ)アクリルアミドモノマーおよびその重合体は、アミド基が粘土鉱物の表面と静電相互作用や水素結合により相互作用することにより物理的架橋点を形成し、三次元架橋構造を構築する。この物理的架橋点を有する三次元架橋構造が、水やアルコールに対する膨潤収縮性と高強度で高伸度なゲル特性を発現させる。
粘土化合物は、水膨潤性の層状粘土鉱物であることが好ましく、サポナイトやスティブンナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト、ルーセンタイト、ソマシフなどが挙げられる。層状粘土鉱物は、溶媒中および電離放射線硬化性有機モノマー存在下で膨潤し、層状に剥離状態となることが望ましく、さらに、有機性修飾基などを添加して分散時に溶液の粘土を低下させられるものが望まれる。層状粘土鉱物は、溶液中で層状に剥離状態となるとカードハウス構造を形成し、その溶液は強いチキソトロピー性を示すことが知られている。チキソトロピー性は塗工工程おいて、膜厚の不均一化や面性の悪化を引き起こす要因となることから、抑制されることが望まれる。
粘土鉱物としては、例えば、鉱物の端部がリン酸塩で修飾されたLAPONITE RDS(BYK社製)が挙げられる。
電離放射線で硬化させる場合には、電離放射線重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、主に紫外線照射によりラジカルが発生するものが使用でき、例えば、アセトフェノン類やベンゾイン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類を用いることができる。具体的には、例えば、Irgacure2959やIrgacure184(BASF社製)などが挙げられる。なかでもIrgacure2959は水溶性を示し、塗液中に溶解させることができることからより好ましく用いられる。
電離放射線硬化性組成物の塗液の溶媒は、主として水を使用することが好ましい。水は純水が最も望まれるが、それに限定されることはなく、水道水や超純水、あるいは、水に溶解可能な溶剤、たとえばアルコール類などとの混合溶媒も使用することができる。
また、電離放射線硬化性樹脂と、電離放射線硬化性有機モノマーと、粘土化合物と、電離放射線重合開始剤と、溶媒とを含む電離放射線硬化性組成物の塗液の組成は、電離放射線硬化性組成物100重量部のうち、電離放射線硬化性有機樹脂が0.25〜7重量部とし、電離放射線硬化性有機モノマーが40〜50重量部とし、粘土鉱物が2〜10重量部とし、電離放射線重合開始剤が0.01〜1重量部とし、溶媒が40〜60重量部とすることが好ましい。電離放射線硬化性樹脂は、0.25重量部未満ではマトリックス11の強度を向上させることができず、また7重量部を超えるとマトリックス11の脆性が高くなる。また、電離放射線硬化性有機モノマーは、40重量部未満では相対的に粘土化合物の含有量が増加して3次元架橋構造が密になることで湿潤状態における体積変化が小さくなり、また50重量部を超えるとマトリックス11の強度が低下する。粘土化合物は、2重量部未満では三次元架橋密度の低下によりマトリックス11の強度が低下し、10重量部を超えると塗液のチキソトロピー性が高くなり、塗工困難となる。電離放射線重合開始剤は、0.01重量部未満では開始剤が少なくマトリックス11の形成が困難となり、1重量部を超えると重合開始剤の分解物によるマトリックス11からのアウトガスが発生し、臭気や面性悪化の要因となる。溶媒は、40重量部未満では塗液が高粘度化することで塗工困難となり、60重量部を超えると塗液の低粘度化により膜厚の不安定化や溶媒除去を行う乾燥工程への負荷が高くなる。
(基材14)
基材14は、マトリックス11を部分的に変形抑制できるものであれば、特に限定されず、水分をほとんど吸収せず、水分の吸着及び脱離により体積が変化しない材料であればよい。マトリックス11を部分的に変形抑制する方法としては、マトリックス11の表面あるいは内部の体積変化を部分的に抑制すればよい。マトリックス11の表面を変形抑制する方法としては、図1(a)、(b)に示すように、水分の吸着及び脱離により体積が変化する材料からなるマトリックス11の一方面が、水分をほとんど吸収せず、水分の吸着及び脱離により体積が変化しない材料からなる基材11と密着し固定されていればよい。尚、上述したように、マトリックス11の内部を変形抑制する方法としては、マトリックス11の架橋密度や硬化度、重合度を変更すればよい。
水分をほとんど吸収しない基材14の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)などの樹脂材料や、ステンレスやニッケル板や銅板などの金属体等を用いることができる。また、基材14は、水分をほとんど吸収しないように表面処理を施すことで、木材、紙、セラミック(陶器、磁器など)なども用いることができる。マトリックス11表面を変形抑制するには、水分の吸着及び脱離により体積変化する材料からなるマトリックス11と水分をほとんど吸収しない材料からなる基材14との密着性が強いほどよいことから、密着性を向上させるためにマトリックス11または基材14に表面処理を施してもよい。
表面処理方法としては、オゾン処理やコロナ処理、プラズマ処理などの親水化処理や、シランカップリング剤などを用いた自己組織化単分子膜による表面改質などを利用することができる。
基材14の厚みは、特に限定されないが、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
(インキ12)
印刷パターン13を構成するインキ12は、特に限定されず、印刷方法及び用途によって適宜選択され、湿潤応答性可逆変形構造体1に印刷パターン13を形成可能であればよい。インキ12の種類としては、例えば伸縮性を有するインキや伸縮性を有さない固いインキ、導電性を有するインキや様々な色を再現できる有色インキ、磁性材料を含有する磁性インキ、紫外線発色インキ、蓄光インキなどを挙げることができる。
インキ12は、少なくとも1色の有色のインキの組み合わせで構成されることが好ましい。有色インキを用いることで、湿潤依存的に印刷パターン13の形状を変化させることにより、色の濃淡を変化させることが可能である。有色インキを用いる場合、2種類以上の有色インキを組み合わせてもよい。また、選択するインキによって、湿潤応答性可逆変形構造体1の体積変化に伴い発現する機能も様々なものとすることが出来る。実施の形態では白や黒のインキも有色インキとして扱う。インキ12は、マトリックス11の変形の際に割れない程度の柔軟性(追随性)があればよい。また、インキ12は、1種類のインキだけでなく、複数のインキを混合してもよい。例えば、同じ色で物性の異なるインキを複数種混合して柔軟性を実現してもよいし、色の異なる複数のインキを混合する場合も、物性の異なるインキを複数種混合して柔軟性を実現しても良い。
尚、実施の形態の湿潤応答性可逆変形構造体1を構成する印刷パターン13に加えて、更に印刷パターン13と形状及び色が異なる別の印刷パターンを設けても良い。例えば、直線を赤色のインキで印刷した印刷パターンに加え、ドット柄を黄色のインキで印刷した印刷パターンを有する湿潤応答性可逆変形構造体1とすることができる。この場合、乾燥状態では橙色に見え、湿潤状態では直線の印刷パターンのみが大きな形状変化を起こして橙色から黄色に変化させることができる。また、使用するインキの種類によっては様々な機能の発現が期待され、例えば導電性インキを用いて回路パターンを作製することで、印刷物の体積変化に伴う電気的特性の変化を利用したセンサーデバイスとしての機能を付与することができる。
(印刷パターン13)
(第1の印刷パターン13A)
図3は、本発明の実施の形態に係る湿潤応答性可逆変形構造体の第1の印刷パターンを説明する模式図である。図4(a)〜(d)は、本発明の実施の形態に係る湿潤応答性可逆変形構造体の第1の印刷パターンの例を表した模式図である。図4(a)は直線状の印刷部を有する印刷パターンの例を示す模式図であり、図4(b)は波状の印刷部を有する印刷パターンの例を示す模式図であり、図4(c)は楕円形が連なった印刷部を有する印刷パターンの例を示す模式図であり、図4(d)は菱形が連なった印刷部を有する印刷パターンの例を示す模式図である。
図3及び図4(a)〜(d)に示すように、第1の印刷パターン13Aは、印刷パターン13aを有する。印刷パターン13aは、インキ12が印刷された印刷部21aと、隣り合う印刷部21aの間のインキ12が印刷されていない非印刷部22aを含む、単位パターン23aを有する。印刷パターン13aは、単位パターン23aを少なくとも4以上繰り返した印刷パターンである。第1の印刷パターン13Aは、後述する図5に係る印刷パターン13Bのように、印刷部21bと印刷部21aにより形成された印刷部21cと、印刷部21bと印刷部21aにより囲まれた非印刷部22cは形成されていない。
印刷部21aの平面形状は特に限定されず、直線状でも曲線状でもよく、折れ曲がっていても良い。マトリックス11の乾燥状態における印刷部22aの幅Laの平均値が、40μm以上1mm以下であることが好ましい。印刷部幅Laの平均値が40μm未満であると、乾燥状態と湿潤状態における印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。また、印刷部21aが乾燥状態と湿潤状態の形状変化に耐えられず、印刷部21aがマトリックス11から剥離したり、印刷部21aに亀裂が入ったりすることがあり、印刷パターン13aを可逆的に変化させることが難しくなる。印刷部幅Laの平均値が1mmを超えると、目視でパターンが確認でき、乾燥状態と湿潤状態の印刷パターン13aの形状の変化を色や色の濃淡表現として認識するのが難しくなる。
マトリックス11の乾燥状態における非印刷部22aの幅Saの平均値は、40μm以上1mm以下であることが好ましい。非印刷部幅Saの平均値が40μm未満であると、乾燥状態と湿潤状態の印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。また、乾燥状態と湿潤状態の印刷部13aの形状変化の制御が難しくなる。そのため、印刷部21aがマトリックス11から剥離したり、印刷部21aに亀裂が入ったりすることがあり、印刷パターン13aを可逆的に変化させることが難しくなる。非印刷部幅Saの平均値が1mmを超えると、目視でパターンが確認でき、乾燥状態と湿潤状態の印刷パターン13aの形状の変化を色や色の濃淡表現として認識するのが難しくなる。
マトリックス11の乾燥状態における印刷部幅Laと非印刷部幅Saを合わせた単位パターン幅Paの平均値は、80μm以上2mm以下であることが好ましい。より好ましくは、単位パターン幅Paの平均値は、100μm以上500μm以下である。単位パターン幅Paの平均値が80μm未満であると、乾燥状態と湿潤状態における印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。また、単位パターン幅Paの平均値が2mmを超えると、目視でパターンが確認でき、乾燥状態と湿潤状態の印刷部13aの形状の変化を色や色の濃淡表現として認識するのが難しくなる。
また、単位パターン幅Paの平均値に対する印刷部幅Laの平均値を印刷部幅比率(La/Pa)とすると、印刷部幅比率は0.2以上0.8以下であることが好ましく、より好ましくは0.4以上0.6以下である。印刷部幅比率が0.2以上0.8以下であると、安定的かつ可逆的に湿潤応答性形状変化を起こすことが可能である。印刷部幅比率が0.2未満であると、印刷部21aに亀裂が入りやすくなることがある。印刷部幅比率が0.8を超えると乾燥状態と湿潤状態における印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。
印刷パターン13aの乾燥状態における印刷被覆率は、特に限定されないが、20%以上80%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以上60%以下である。印刷被覆率が20%以上80%以下であると、安定的かつ可逆的に、湿潤応答性形状変化を起こすことが可能である。印刷被覆率が20%未満であると、印刷部21aに亀裂が入りやすくなることがある。印刷被覆率が80%を超えると乾燥状態と湿潤状態における印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。
印刷パターン13aの厚みは特に限定されない。印刷パターン13aの厚みにより湿潤状態における第1の印刷パターン13Aの形状を制御することもできる。
(第2の印刷パターン13B)
図5は、本発明の実施の形態に係る湿潤応答性可逆変形構造体の第2の印刷パターンを説明する模式図である。図6(a)〜(d)は、本発明の実施の形態に係る湿潤応答性可逆変形構造体の第2の印刷パターンの例を表した模式図である。図6(a)は格子形状の印刷部を有する印刷パターンの例を示す模式図であり、図6(b)は波状の印刷部に囲まれた非印刷部を有する印刷パターンの例を示す模式図であり、図6(c)は傾斜した直線状の印刷部に囲まれた菱形の非印刷部を有する印刷パターンの例を示す模式図であり、図6(d)は隣接する印刷部のそれぞれの半円形の切欠き部により円形の非印刷部が形成された印刷パターンの例を示す模式図である。
図5及び図6(a)〜(d)に示すように、第2の印刷パターン13Bは、上述した印刷パターン13aと、印刷パターン13aの印刷部21aと接点または交点を有する印刷部21bを有する印刷パターン13bとから構成される印刷パターンである。図5に係る第2の印刷パターン13Bは、印刷パターン13bと印刷パターン13aとにより構成され、印刷部21bと印刷部21aとにより囲まれた非印刷部22cが形成されている点が、図3に係る第1の印刷パターン13Aと異なる。
印刷パターン13bは、インキ12が印刷された印刷部21bと、隣り合う印刷部21bの間のインキ12が印刷されていない非印刷部22bを含む、単位パターン23bを有する。印刷パターン13bは、単位パターン23bを少なくとも4以上繰り返した印刷パターンである。印刷パターン13bの印刷部21bは、印刷パターン13aの印刷部21aと接点または交点を有する。印刷部21bと印刷部21aとが接点または交点を有することにより、印刷部21bと印刷部21aとに囲まれた非印刷部22cが形成される。これにより、第2の印刷パターンBは、例えば、印刷パターン13aと印刷パターン13bとにより形成された格子形状により構成される。第2の印刷パターンBは、印刷パターン13aを印刷した後に印刷パターン13bを印刷するなど、複数回に分けて印刷してもよい。また、印刷パターン13aと印刷パターン13bとを一度に印刷しても構わない。
上述したように、印刷パターン13bは、少なくとも印刷部21bと、隣り合う印刷部21bの間の印刷されていない非印刷部22bを有する、単位パターンを有する、少なくとも4以上繰り返した印刷パターンである。
印刷部21bの平面形状は特に限定されず、直線状でも曲線状でもよく、折れ曲がっていても良い。また、マトリックス11の乾燥状態における印刷部21bの幅Lb及び非印刷部22bの幅Sbが均一でなくてもよい。印刷部21bの幅Lbの平均値が10μm以上1mm以下であることが好ましく、隣り合う印刷部21bと印刷部21bとにより形成された非印刷部幅Sbの平均値が10μm以上1mm以下であることが好ましい。
マトリックス11の乾燥状態における印刷部幅Lbの平均値が10μm以上1mm以下であることが好ましく、より好ましくは、20μm以上500μm以下である。印刷部幅Lbの平均値が10μm未満であると、乾燥状態と湿潤状態における印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。また、印刷部21bが乾燥状態と湿潤状態の形状変化に耐えられず、印刷部21bがマトリックス11から剥離したり、印刷部21bに亀裂が入ったりすることがあり、印刷パターン13bを可逆的に変化させることが難しくなる。印刷部幅Lbの平均値が1mmを超えると、目視でパターンが確認でき、乾燥状態と湿潤状態の印刷パターン13bの形状の変化を色や色の濃淡表現として認識するのが難しくなる。
マトリックス11の乾燥状態における非印刷部幅Sbの平均値は、10μm以上1mm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上500μm以下である。非印刷部幅Sbの平均値が10μm未満であると、乾燥状態と湿潤状態の印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。また、乾燥状態と湿潤状態の印刷パターン13bの形状変化の制御が難しくなる。そのため、印刷部21bがマトリックス11から剥離したり、印刷部21bに亀裂が入ったりすることがあり、印刷パターン13bを可逆的に変化させることが難しくなる。非印刷部幅Sbの平均値が1mmを超えると、目視でパターンが確認でき、乾燥状態と湿潤状態の印刷パターン13bの形状の変化を色や色の濃淡表現として認識するのが難しくなる。
マトリックス11の乾燥状態における印刷部幅Lbと非印刷部幅Sbを合わせた単位パターン幅Pbの平均値は、20μm以上2mm以下であることが好ましい。より好ましくは、単位パターン幅Pbの平均値は、40μm以上1mm以下である。単位パターン幅Pbの平均値が20μm未満であると、乾燥状態と湿潤状態における印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。また、単位パターン幅Pbの平均値が2mmを超えると、目視でパターンが確認でき、乾燥状態と湿潤状態の印刷部13bの形状の変化を色や色の濃淡表現として認識するのが難しくなる。
また、単位パターン幅Pbの平均値に対する印刷部幅Lbの平均値の比率、すなわち印刷部幅比率(Lb/Pb)は、0.2以上0.8以下であることが好ましく、より好ましくは0.4以上0.6以下である。印刷部幅比率が0.2以上0.8以下であると、安定的かつ可逆的に、湿潤応答性形状変化を起こすことが可能である。印刷部幅比率が0.2未満であると、印刷部21bに亀裂が入りやすくなることがある。印刷部幅比率が0.8を超えると乾燥状態と湿潤状態における印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。
図6(a)〜(d)に第2の印刷パターン13における印刷パターン13bの例を示す。湿潤応答性可逆変形体1の印刷パターン13bは、直線でも曲線でもよく、折れ曲がっていても良い。また、印刷部幅Lb及び非印刷部幅Sbが均一でなくてもよい。
印刷パターン13a及び13bの乾燥状態における印刷被覆率は、特に限定されないが、20%以上80%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以上60%以下である。印刷被覆率が20%以上80%以下であると、安定的かつ可逆的に、湿潤応答性形状変化を起こすことが可能である。印刷被覆率が20%未満であると、印刷部21a及び21bに亀裂が入りやすくなることがある。印刷被覆率が80%を超えると乾燥状態と湿潤状態における印刷被覆率の差が小さくなり、色の変化や色の濃淡の変化が小さくなる。
印刷パターン13bの厚みは特に限定されない。印刷パターン13bの厚みにより湿潤状態における第2の印刷パターン13Bの形状を制御することもできる。
尚、湿潤応答性可逆変形構造体1を構成する印刷パターン13aに加えて、更に印刷パターン13aと形状及び色が異なる別の印刷パターンを設けても良い。例えば、直線を赤色のインキで印刷した印刷部を有する印刷パターンと、ドット形状を黄色のインキで印刷した印刷部を有する印刷パターンとにより構成される印刷パターンを設けた湿潤応答性可逆変形構造体1とすることができる。この場合、湿潤状態では、赤色の直線により形成された印刷パターンが大きく変化し、赤色の濃度が薄くなるが、黄色のドット柄で形成された印刷パターンの形状はあまり変化せず、黄色の濃度はあまり変化しない。そのため、乾燥状態では橙色に見え、湿潤状態で直線の印刷パターンのみが大きな形状変化を起こすことで橙色から黄色に変化させることができる。
(湿潤応答性可逆変形構造体1の形成方法)
次に、実施の形態に係る湿潤応答性可逆変形構造体1の製造方法について説明する。
マトリックス11の成形方法としては、溶液流延法や積層成形、注型、射出成形、3Dプリンタなどを用いることができる。特にフィルム状に成形する場合には、溶液流延法が適しており、具体的には、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、プレードコーティング法、ワイヤードクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等を利用することができる。
上述したように、マトリックス11の乾燥状態における膜厚は、特に限定されないが、10μm以上400μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上200μm以下であり、更に好ましくは20μm以上100μm以下である。マトリックス11の乾燥状態における膜厚が10μm以上400μm以下であると印刷パターン13の形状が制御しやすい。
また、マトリックス11の表面には、様々な3次元形状を腑型することができる。腑型方法としては、ナノインプリントや微細な金型を用いた熱プレスなどを利用することができる。
まず、上述したマトリックス11を形成するための材料及び必要に応じて溶媒を混合し、マトリックス形成用塗液を調製する。
次に、調整したマトリックス形成用塗液を基材14上に塗布する。基材14は、水分をほとんど吸収せず、水分の吸着及び脱離により体積が変化しない材料からなり、マトリックス11を部分的に変形抑制することができるものであればよい。基材14としては、ロール状の金属体やポリエチレンテレフタレート(PETフィルム)などを使用することができる。更に、基材14は、塗液を塗布した後に行われる、熱処理工程、電離放射線照射工程等の工程において変形しないことが好ましい。
基材14に、コロナ処理等の表面処理を施したり、易接着層を設けたりしても構わない。表面処理や易接着層を用いることにより、基材14とマトリックス11の密着性を高めることができる。
次に、基材14上に塗布された塗液を熱処理により乾燥させて塗液内の溶媒を除去し、塗膜を形成する。熱処理は、適宜公知の乾燥手段を採用できる。例えば、乾燥手段として、加熱、送風、熱風などを利用することができる。
マトリックス11の作製に電離放射線硬化性モノマーあるいは電離放射線硬化性樹脂を使用する場合、3次元架橋構造を有する硬化膜を得るために、熱処理工程の後に電離放射線照射工程を設ける。電離放射線照射工程は、塗膜に電離放射線を照射することにより、塗膜を硬化させる工程である。
電離放射線としては、紫外線、電子線などを採用できる。紫外線硬化の場合、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアークなどの光源を利用することができる。紫外線の照射条件としては、照射強度は100〜500mW/cm2が適しており、照射量は200mJ/cm2以上が望まれる。200mJ/cm2未満では、硬化不十分となり、十分な強度を得ることが出来ない場合がある。
電子線硬化の場合、コックロフトワルト型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型、などの各種電子線加速器から放出される電子線を利用することができる。電子線としては、50KeV以上1000KeV以下程度のエネルギーを有するのが好ましく、100KeV以上300KeV以下程度のエネルギーを有する電子線がより好ましい。
尚、マトリックス11の変形に影響を及ぼさない範囲でマトリックス11を着色することができる。例えば、マトリックス11の作製において、マトリックス形成用塗液に色材(染料、顔料等)を混合することでマトリックス11を着色することが可能である。また、作製した例えば乳白色のマトリックス11に印刷パターン13を形成する際に、マトリックス11の表面を着色することも可能である。その他に、マトリックス11にナノインプリントなどで微細な表面加工を施すことで、光の回折などを利用して発色させることも可能である。着色したマトリックス11と印刷パターン13とを組合せることで、パターンだけでなく、文字、図柄などを表現することもできるため、意匠性の高い湿潤応答性可逆変形構造体1を作製することが可能である。
次に、湿潤応答性可逆変形構造体1に形成される印刷パターン13の形成方法について説明する。湿潤応答性可逆変形構造体1に形成される印刷パターン13は、構造体の最表面あるいは内部のいずれの場所に形成されてもよい。印刷パターン13の形成方法は、印刷法だけに限られたものではなく、レーザー描画法やフォトリソグラフィ、インプリントなど印刷パターン13やマトリックス11の材質に合わせて適宜選択することができる。印刷法としては、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、活版印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などが挙げられる。
また、印刷パターン13は、マトリックス11の表面に凸部又は凹部を形成した後に、形成した凸部又は凹部の全面又は一部にインキ12を印刷することで形成してもよい。
上述したように、印刷に使用されるインキ12は、印刷方法及び用途によって適宜選択されるが、湿潤応答性可逆変形構造体1に印刷パターン13を形成可能であればよい。インキ12の種類としては、例えば伸縮性を有するインキや伸縮性を有さない固いインキ、導電性を有するインキや様々な色を再現できるカラーインキ、磁性材料を含有する磁性インキ、紫外線発色インキ、蓄光インキなどを挙げることができる。カラーインキを用いる場合、複数のカラーインキを組み合わせてもよい。選択するインキによって、湿潤応答性可逆変形構造体1の体積変化に伴い発現する機能も様々なものとすることが出来る。実施の形態では白や黒のインキも有色インキとして扱う。インキ12は、マトリックス11の変形の際に割れない程度の柔軟性(追随性)があればよい。また、インキ12は、1種類のインキだけでなく、複数のインキを混合してもよい。例えば、同じ色で物性の異なるインキを複数種混合して柔軟性を実現してもよいし、色の異なる複数のインキを混合する場合も、物性の異なるインキを複数種混合して柔軟性を実現しても良い。
湿潤応答性可逆変形構造体1を構成する印刷パターン13に加えて、更に印刷パターン13と形状及び色が異なる別の印刷パターンを設けても良い。別の印刷パターンは、印刷パターン13を印刷する前や後に印刷してもよく、印刷パターン13と合わせた版を用いて印刷しても構わない。
第2の印刷パターン13Bにおいては、印刷パターン13aを印刷した後に印刷パターン13bを印刷するなど、複数回に分けて印刷してもよい。また、印刷パターン13aと印刷パターン13bとにより形成された例えば格子形状の版を用いて一度に格子形状の印刷パターンを印刷しても構わない。また、印刷パターン13の他に印刷パターンを設けても構わない。また、印刷パターン13aと印刷パターン13bとにより形成された、例えば格子形状の版を用いて一度に格子形状の印刷パターン13Bを印刷しても構わない。更に印刷パターン13Bの他に印刷パターンを設けても構わない。別の印刷パターンは、印刷パターン13を印刷する前や後に印刷してもよく、印刷パターン13と合わせた版を用いて印刷しても構わない。
(湿潤応答性可逆変形構造体1の効果)
図1(a)は、マトリックス11の一方の面に印刷パターン13が形成され、マトリックス11の他方面に水分の吸着及び脱離で体積変化しない基材14が密着した湿潤応答性可逆変形構造体1の乾燥状態における断面模式図である。図2(a)は、マトリックス11の一方の面に印刷パターン13が形成され、マトリックス11の他方面に水分の吸着及び脱離で体積変化しない基材14が密着した湿潤応答性可逆変形構造体1の乾燥状態における平面模式図である。本発明に係る湿潤応答性可逆変形構造体1によれば、図1(b)に示すように、一方面が変形抑制されたマトリックス11が膨潤すると、マトリックス11は、基材14と密着する面側の膨張が抑制され、基材14と密着していない印刷面側において基材14面と垂直方向であって基材14面と離れる方向にのみ膨張する。そこで印刷パターン13の印刷部21に変形し難い固いインキ12を使用した場合、マトリックス11における非印刷部22の膨張率が高くなり、インキ12を圧縮するように変形する。その結果、図2(b)に示すように、印刷パターン13の印刷部幅Lは細くなる。一方、印刷パターン13の単位パターン幅Pは、基材14による変形抑制の影響により変化しない。つまり、単位パターン幅Pは変化せずに印刷部幅Lだけが収縮することになり、視覚的には印刷パターン13が薄く、見えづらくなる。このような変化は、新たな視覚効果の発現といえる。
以下、本発明の具体的な実施例を挙げて説明する。
(実施例1)
(湿潤応答性可逆変形構造体1)
親水性電離放射線硬化性樹脂、親水性電離放射線硬化性モノマーおよびフィラーを添加したマトリックス形成用塗液を調製した。親水性UV硬化性樹脂UA−W2A(新中村化学工業社製、5重量部)、親水性UV硬化性モノマーHEAA(KJケミカルズ社製、40重量部)、水膨潤性層状粘土鉱物LAPONITE RDS(BYK社製、5重量部)、光重合開始剤Irgacure2959(BASF社製、0.02重量部、外添)、溶媒として純水(50重量部)を混合したマトリックス形成用塗液を調製した。
次に、調製したマトリックス形成用塗液を基材14上に塗布した。基材14は、ポリエチレンテレフタレート(PET)(ルミラーT60、厚さ75μm、東レ社製)とした。また、塗工はダイコーターの連続塗工機を使用して、塗工幅450mm、塗工長さが100mとなるように連続塗工した。マトリックス形成用塗液の塗布量は、乾燥膜厚が45μmとなるように設定した。
次に、基材14に塗布されたマトリックス形成用塗液を熱処理により乾燥させ、基材14上に塗膜を形成した。熱処理条件は、100℃で3分間とした。
次に、基材14上に形成した塗膜に電離放射線を照射し、塗膜を硬化させ、基材14上にマトリックス11を形成した。このとき、電離放射線として紫外線を照射した。また、紫外線の照射は、コンベア式紫外線硬化装置を用いて露光量420mJ/cm2とした。
得られたマトリックス11の基材14と反対側の面にグラビアオフセット印刷を用いて、乾燥状態における、印刷部幅Laの平均値が75μm、非印刷部幅Saの平均値が65μm、単位パターン幅Paの平均値が140μmの直線状の印刷部21aを有する印刷パターン13Aを黒インキにて印刷し、湿潤応答性可逆変形構造体1を作製した。
(評価方法)
(光学顕微鏡観察)
乾燥状態、湿潤状態、及び湿潤状態から乾燥状態になった再乾燥状態の湿潤応答性可逆変形構造体1の光学顕微鏡観察を行った。作製した湿潤応答性可逆変形構造体1(乾燥状態)のマトリックス11の印刷面を、レーザー顕微鏡OLS−4000(オリンパス社製)の光学顕微鏡モードで観察した。湿潤応答性可逆変形構造体1のマトリックス11の印刷面に純水を滴下し、30秒間放置後、純水を拭き取り、直ぐに湿潤状態の顕微鏡観察を行った。純水を拭き取って30分放置した後に再乾燥状態の顕微鏡観察を行った。
(レーザー顕微鏡観察)
乾燥状態、湿潤状態、及び再乾燥状態の湿潤応答性可逆変形構造体1のレーザー顕微鏡観察を行い、マトリックス11の表面の凹凸形状を評価した。作製した湿潤応答性可逆変形構造体1(乾燥状態)のマトリックス11の印刷面を、レーザー顕微鏡OLS−4000(オリンパス社製)のレーザー顕微鏡モードで観察した。湿潤状態における湿潤応答性可逆変形構造体1のレーザー顕微鏡観察は、マトリックス11の印刷面に純水を滴下し、30秒間放置後、純水を拭き取り、直ぐに行った。再乾燥状態におけるレーザー顕微鏡観察は、純水を拭き取って30分放置した後に行った。
(印刷パターン13の評価)
乾燥状態における印刷パターン13の印刷部幅L(La)、非印刷部幅S(Sa)、単位パターン幅P(Pa)の平均値は次のようにして測定した。乾燥状態の湿潤応答性可逆変形構造体1のマトリックス11の印刷面を、レーザー顕微鏡OLS−4000(オリンパス社製)の光学顕微鏡モードで観察した。顕微鏡観察画像において、印刷部幅L(La)、非印刷部幅S(Sa)、単位パターン幅P(Pa)を3回測定し、それぞれの平均値を算出した。
(膜厚の測定)
乾燥状態及び湿潤状態におけるマトリックス11の膜厚は、接触式膜厚計を用いて測定した。乾燥状態及び湿潤状態のマトリックス11の膜厚は、それぞれ湿潤応答性可逆変形構造体1の総厚を測定し、基材14の膜厚75μmを差し引いて算出した。印刷パターン13の膜厚は1〜2μmであったので、無視することとした。湿潤状態におけるマトリックス11の膜厚測定は、湿潤応答性可逆変形構造体1の印刷面に純水を滴下し、30秒間放置後、純水を拭き取り、直ぐに行った。
(高低差の測定)
湿潤状態における湿潤応答性可逆変形構造体1のマトリックス11の表面の凹凸形状の高低差は、湿潤状態の湿潤応答性可逆変形構造体1のマトリックス11の印刷面を、レーザー顕微鏡OLS−4000(オリンパス社製)の光学顕微鏡モードで観察した画像から、最高点と最低点の差を測定して求めた。
(印刷被覆率の算出)
乾燥状態、湿潤状態、及び再乾燥状態の光学顕微鏡観察画像を、画像処理ソフトImage Jを用いて二値化して印刷被覆率を算出した。
(全光線透過率の評価)
湿潤応答性可逆変形構造体1を2cm×2cmの大きさに切ってヘーズメーターNDH4000(日本電色社製)にて全光線透過率を測定した。空の状態をリファレンスとし、湿潤応答性可逆変形構造体1をカットした試料のマトリクス11の印刷面を光源側とし、乾燥状態の全光線透過率を測定した。湿潤状態の全光線透過率は、湿潤応答性可逆変形構造体1の印刷面に純水を滴下し、30秒間放置後、水滴を拭き取り、すぐに測定した。
(繰り返し性の評価)
湿潤応答性可逆変形構造体1のマトリックス11の印刷面に純水を滴下して30秒放置し、純水を拭き取って30分乾燥させた後、更に同様に湿潤応答性可逆変形構造体1を湿潤、再乾燥させる工程を合計4回繰り返した。1回湿潤及び再乾燥させた後、並びに、合計4回湿潤及び再乾燥させた後の湿潤応答性可逆変形構造体1のマトリックス11の印刷面を、レーザー顕微鏡OLS−4000(オリンパス社製)の光学顕微鏡モードで観察した。印刷パターン13に亀裂や剥離がなく、印刷パターン13が元の形状に戻った場合を『〇』とし、亀裂や剥離により印刷パターン13が元に戻らなかった場合を『×』とした。
図7は、実施例1に係る、乾燥状態における印刷部幅Laの平均値が75μm、非印刷部幅Saの平均値が65μmの直線状の印刷パターン13aを有する湿潤応答性可逆変形構造体1の光学顕微鏡観察図であり、図7(a)は乾燥状態、図7(b)は湿潤状態、図7(c)は再乾燥状態の光学顕微鏡観察図である。
図8は、実施例1に係る、乾燥状態における印刷部幅Laの平均値が75μm、非印刷部幅Saの平均値が65μmの直線状の印刷パターン13aを有する湿潤応答性可逆変形構造体1を、レーザー顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。図8(a)は乾燥状態における3D形状であり、図8(b)は湿潤状態における3D形状である。図8(c)は湿潤状態における凹凸形状の高低差を測定した結果を示す図である。
図9は、乾燥状態及び湿潤状態における実施例1に係る湿潤応答性可逆変形構造体1の写真である。図9(a)は乾燥状態の湿潤応答性可逆変形構造体1の写真であり、図9(b)は湿潤状態の湿潤応答性可逆変形構造体1の写真である。
図7(a)に示す乾燥状態では、印刷部幅Laの平均値が75μm、非印刷部幅Saの平均値が65μm、単位パターン幅Paの平均値が140μmであった。図7(b)に示すように、湿潤状態では、単位パターン幅Paは変わらないまま印刷部幅Laが小さくなり、非印刷部幅Saが大きくなった。乾燥状態での印刷被覆率は52.3%であり、湿潤状態での印刷被覆率は11.2%であり、印刷被覆率は41.1%低下した。乾燥状態における全光線透過率は42.5%であり、湿潤状態における全光線透過率は76.7%であり、全光線透過率は34.2%上昇した。図7(c)に示すように、再度乾燥すると、印刷部幅La及び非印刷部幅Lbは元に戻り、印刷部21aに剥離や亀裂は見られなかった。
図8(a)に示すように、乾燥状態ではあまり凹凸形状が見られなかったが、図8(b)に示すように、湿潤状態では非印刷部22aが膨張し、印刷部21aと非印刷部22aとの高低差が生じていた。最高点と最低点の高低差は29.5μmであった。
図9(a)に示すように、乾燥状態で湿潤応答性可逆変形構造体1は黒く見えていたが、図9(b)に示すように、湿潤状態において湿潤応答性可逆変形構造体1は透明になっていた。
(実施例2)
印刷部幅Laの平均値を50μm、非印刷部幅Saの平均値を71μmとし、単位パターン幅Paの平均値を141μmとした以外は、実施例1と同様に刺激応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
(実施例3)
印刷部幅Laの平均値を65μm、非印刷部幅Saの平均値を55μmとし、単位パターン幅Paの平均値を121μmとした以外は、実施例1と同様に刺激応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
(実施例4)
印刷部幅Laの平均値を101μm、非印刷部幅Saの平均値を98μmとし、単位パターン幅Paの平均値を199μmとした以外は、実施例1と同様に刺激応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
(実施例5)
親水性UV硬化性樹脂UA−W2A(新中村化学工業社製、3重量部)、親水性UV硬化性モノマーHEAA(KJケミカルズ社製、42重量部)、水膨潤性層状粘土鉱物LAPONITE RDS(BYK社製、5重量部)、光重合開始剤Irgacure2959(BASF社製、0.02重量部、外添)、溶媒として純水(50重量部)を混合したマトリックス形成用塗液を調製した以外は実施例1と同様に刺激応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
(実施例6)
親水性UV硬化性樹脂UA−W2A(新中村化学工業社製、2重量部)、親水性UV硬化性モノマーHEAA(KJケミカルズ社製、43重量部)、水膨潤性層状粘土鉱物LAPONITE RDS(BYK社製、3重量部)、光重合開始剤Irgacure2959(BASF社製、0.02重量部、外添)、溶媒として純水(50重量部)を混合したマトリックス形成用塗液を調製し、乾燥膜厚を35μmとしてマトリックス11を作製した以外は実施例1と同様に刺激応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
(実施例7)
印刷部幅Laの平均値を50μm、非印刷部幅Saの平均値を50μmとし、単位パターン幅Paの平均値を100μmとした印刷パターン13aと、印刷部幅Lbの平均値を35μm、非印刷部幅Sbの平均値を65μmとし、単位パターン幅Pbの平均値を100μmとした印刷パターン13bとにより形成された格子形状により構成された印刷パターン13を設けた以外は、実施例6と同様に刺激応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
図10は、実施例7の湿潤応答性可逆変形構造体1の光学顕微鏡観察図であり、図10(a)は乾燥状態、図10(b)は湿潤状態、図10(c)は再乾燥状態の光学顕微鏡観察図である。
図11は、実施例7の湿潤応答性可逆変形構造体1のレーザー顕微鏡観察結果を示す図である。図11(a)は乾燥状態における3D形状であり、図11(b)は湿潤状態における3D形状である。
図12は、乾燥状態及び湿潤状態における実施例7に係る湿潤応答性可逆変形構造体1の写真である。図12(a)は乾燥状態の湿潤応答性可逆変形構造体1であり、図12(b)は湿潤状態の湿潤応答性可逆変形構造体1である。
図10(a)に示す乾燥状態では、印刷パターン13aにおける印刷部幅Laの平均値が50μm、非印刷部幅Saの平均値が50μm、単位パターン幅Paの平均値が100μmであり、印刷パターン13bにおける印刷部幅Lbの平均値が35μm、非印刷部幅Saの平均値が65μm、単位パターン幅Paの平均値が100μmであった。図10(b)に示すように、湿潤状態では、単位パターン幅Pa及び単位パターン幅Pbは変わらないまま印刷部幅La及び印刷部幅Lbが小さくなり、非印刷部幅Sa及び非印刷部幅Sbが大きくなった。乾燥状態での印刷被覆率は71.7%であり、湿潤状態での印刷被覆率は20.4%であり、印刷被覆率は51.3%低下した。乾燥状態における全光線透過率は37.7%であり、湿潤状態における全光線透過率は76.4%であり、全光線透過率が38.7%上昇した。図10(c)に示すように、再度乾燥すると、印刷部幅La、印刷部幅Sa、印刷部幅Lb、及び非印刷部幅Sbが元に戻り、印刷パターン13に亀裂や剥離は見られなかった。
また、図11(a)に示すように、乾燥状態ではあまり凹凸形状が見られなかったが、図11(b)に示すように、湿潤状態では非印刷部22a及び22bが膨張し、印刷部21a及び21bと非印刷部22a及び22bとの高低差が生じていた。最高点と最低点の高低差は18.6μmであった。
図12(a)に示すように、乾燥状態で湿潤応答性可逆変形構造体1は黒く見えていたが、図12(b)に示すように、湿潤応答性可逆変形構造体1のマトリックス11の印刷面の中央部に純水を滴下して30秒放置し、純水を拭き取って直ぐに観察したところ、湿潤状態の中央部は透明になっていた。
(比較例1)
印刷部幅Laの平均値を35μm、非印刷部幅Saの平均値を26μmとし、単位パターン幅Paの平均値を61μmとした以外は、実施例1と同様に湿潤応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
図13は、比較例1に係る湿潤応答性可逆変形構造体1の光学顕微鏡観察図であり、図13(a)は乾燥状態、図13(b)は湿潤状態、図13(c)は再乾燥状態の光学顕微鏡観察図である。
図14は、比較例1に係る湿潤応答性可逆変形構造体1のレーザー顕微鏡観察結果を示す図である。図14(a)は乾燥状態における3D形状であり、図14(b)は湿潤状態における3D形状である。
図13(a)に示す乾燥状態では、印刷部幅Laの平均値が35μm、非印刷部幅Saの平均値が26μm、単位パターン幅Paの平均値が61μmであった。図13(b)に示すように、湿潤状態では、単位パターン幅Paは変わらないまま印刷部幅Laが小さくなる部分とあまり変化しない部分、及び、非印刷部幅Saが大きくなる部分とあまり変化しない部分が生じてランダムな形状となった。図14(b)に示すように、比較例1に係る湿潤応答性可逆変形構造体1は、湿潤状態において、印刷部21aが形成された領域においてもマトリックス11が大きく膨張していた。乾燥状態での印刷被覆率は50.0%であり、湿潤状態での印刷被覆率は39.7%であり、印刷被覆率が10.3%低下した。乾燥状態における全光線透過率は45.1%であり、湿潤状態における全光線透過率は61.0%であり、全光線透過率は15.9%上昇した。図13(c)に示すように、再度乾燥すると印刷部幅La及び非印刷部幅Saは基本的に元に戻ったが、一部印刷部21aがマトリックス11から剥離していた。
(比較例2)
印刷部幅Laの平均値を32μm、非印刷部幅Saの平均値を68μmとし、単位パターン幅Paの平均値を100μmとした印刷パターンと、印刷部幅Lbの平均値を28μm、非印刷部幅Sbの平均値を72μmとした印刷パターンとにより形成された格子形状により構成された印刷パターンを設けた以外は、実施例7と同様に湿潤応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
(比較例3)
UV硬化性ポリウレタンアクリレートJ15S−590(日華化学社製、50重量部)、光重合開始剤Esacure ONE(IGM社製、1.5重量部、外添)、溶媒としてメチルエチルケトン(50重量部)を混合した塗液を調製した以外は実施例1と同様に刺激応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
(比較例4)
グラビアオフセット印刷により印刷パターン13を形成しなかった以外は実施例1と同様に刺激応答性可逆変形構造体1を作製し、実施例1と同様に評価した。
表1に、実施例1から実施例7及び比較例1から比較例4の乾燥状態における印刷パターン13の印刷部幅L及び非印刷部幅S、湿潤状態のマトリックス11の膜厚及びマトリックス11の表面に形成された凹凸形状の高低差、湿潤による印刷パターン13の変化による印刷被覆率の変化量、全光線透過率の変化量、及び、繰り返し性を評価した結果を示す。
実施例1から実施例7の湿潤応答性可逆変形構造体1は、湿潤状態においてマトリックス11の膜厚が大きく変化し、マトリックス11の印刷面に5μm以上の凹凸形状が形成された。このことから、マトリックス11が水分を吸着して大きく体積変化を起こしていることが分かった。また、比較例1から比較例2、比較例4においても湿潤によりマトリックス11の膜厚が大きく変化し、水分を吸着して大きく体積変化を起こしていた。一方、比較例3は、湿潤状態においてもほとんど膜厚が変化せず、マトリックス11の表面に形成された凹凸形状の高低差もほとんど生じていなかった。このことから、比較例3に係るマトリックス11はほとんど水分を吸着せず、体積変化を起こしていないことが分かった。
実施例1から実施例7の湿潤応答性可逆変形構造体1は、乾燥状態と湿潤状態とで大きく印刷被覆率が変化し、全光線透過率が大きく変化していた。一方、比較例1及び比較例2においては、乾燥状態と湿潤状態とであまり印刷被覆率及び全光線透過率が変化していなかった。比較例3においては、湿潤状態においてマトリックス11が水分を吸着せずに体積変化を起こしていないので、印刷被覆率がほとんど変化せず、全光線透過率もほとんど変化していなかった。比較例4は印刷パターンを形成していないので、乾燥状態と湿潤状態で全光線透過率がほとんど変化していなかった。
実施例1から実施例7の湿潤応答性可逆変形構造体1は、湿潤と再乾燥を4回繰り返しても印刷パターン13に亀裂や剥離は生じておらず、可逆的に変化することが判明した。一方、比較例1及び比較例2においては1回湿潤と乾燥を行うと亀裂や剥離が生じていた。比較例3においては湿潤と再乾燥を4回繰り返しても印刷パターンに亀裂や剥離は生じていなかった。比較例4においては、印刷パターンを形成していないので、評価の対象とはならなかった。