JP2020053162A - 蓄電デバイス用負極材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】Siの高い蓄電容量が活かされ、且つ、充放電の繰り返しによる充放電容量低下が抑制された負極が得られる、蓄電デバイス用負極材料を提供する。【解決手段】蓄電デバイス用負極材料はSi系合金の粒子からなり、Si系合金が、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなり、元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素である。負極材料の20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において、600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上である。【選択図】図3
Description
本発明は、充放電にリチウムイオンの移動を伴う蓄電デバイスの負極に適した材料に関する。
従来、充放電にリチウムイオンの移動を伴う蓄電デバイスが知られている。このような蓄電デバイスには、リチウムイオン二次電池、全固体リチウムイオン二次電池、ハイブリットキャパシタ等が含まれる。リチウムイオン二次電池は、例えば、携帯電話機、携帯音楽プレーヤー、及び携帯端末等の携帯機器、並びに、電気自動車及びハイブリッド自動車などのモビリティに搭載される。全固体リチウムイオン二次電池は、例えば、上記電気駆動モビリティに搭載される。また、家庭用の定置蓄電デバイスとして、リチウムイオン二次電池及びハイブリットキャパシタが用いられている。
上記の蓄電デバイスは、集電体と、この集電体の表面に固着された負極活物質とを有する負極を備える。この蓄電デバイスでは、放電時に負極がリチウムイオンを吸蔵し、充電時には負極からリチウムイオンが放出される。
負極活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス等の炭素系材料が用いられてきた。この炭素系材料の、リチウムイオンに対する理論上の容量は、372mAh/gにすぎない。そこで、炭素系材料よりも容量の大きな負極活物質として、Siが注目されている。Siは、リチウムイオンと反応して化合物を生成する。典型的な化合物は、Li22Si5である。この反応により大量のリチウムイオンが負極に吸蔵される。
Siを含む活物質層がリチウムイオンを吸蔵すると、前述の化合物の生成により、活物質層が膨張する。この活物質層の膨張率は、約400%である。活物質層からリチウムイオンが放出されると、活物質層が収縮する。このようなリチウムイオンの吸蔵及び放出に伴う活物質の膨張及び収縮の繰り返しにより、活物質が集電体から脱落して、充放電容量が低下する。また、活物質の膨張及び収縮の繰り返しにより、活物質間の導電性が阻害されることがある。
純粋なSiの導電性は、炭素系材料及び金属系材料のそれに比べて低い。そこで、特許文献1,2では、Siと、炭素系材料等の導電助剤とを組み合わせることによって、充放電特性が改善された蓄電デバイス用負極材料が提案されている。
特許文献1では、Si又はSnからなるアモルファス金属のクラスター間に、アモルファス合金相が存在する負極材料が開示されている。この負極材料では、アモルファス合金相がSi又はSnの膨張及び収縮を抑制することにより、活物質層の導電性が向上して充放電特性が改善される。
特許文献2では、Si主要相以外の化合物相として、Si−Cr合金を母構造に、Si−Cr合金のCrの一部を他元素で置換した化合物、又は複合相を含む負極材料が開示されている。この負極材料では、Si主要相以外の化合物相が導電性に優れた元素を含むことにより、活物質層の充放電容量及び導電性が向上して充放電特性が改善される。
特許文献1では、アモルファス合金相がSiやSnを含む活物質層の膨張を抑制するものの、これだけでは活物質層の膨張を十分に抑え込むことは難しい。また、特許文献2では、化合物相の一部を他元素で置換することで化合物相内のリチウムイオン移動性が改善されるが、Siの高い蓄電容量を活かすための改良の余地が残されている。
以上に鑑み、本発明は、Siの高い蓄電容量が活かされ、且つ、充放電の繰り返しによる充放電容量低下が抑制された負極が得られる、蓄電デバイス用負極材料を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る蓄電デバイス用負極材料は、Si系合金の粒子からなり、充放電にリチウムイオンの移動が伴う蓄電デバイス用負極材料であって、
前記Si系合金が、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなり、
前記元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素であり、
20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上であることを特徴としている。
前記Si系合金が、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなり、
前記元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素であり、
20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上であることを特徴としている。
上記蓄電デバイス用負極材料において、前記Si系合金は非晶質又は低結晶性の前記Si相と前記シリサイド相とが微細に分散した構造を有し、前記Si相の結晶子サイズが10nm以下であり、且つ、前記シリサイド相の結晶子サイズが20nm以下であることが好ましい。
上記蓄電デバイス用負極材料において、前記Si系合金は、Si相とシリサイド相とを有し、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対する、シリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比(II/I)が、1.0以上であることが好ましい。
上記蓄電デバイス用負極材料において、前記粒子の集合であるSi系合金粉末は、粒子径が10μm以下の一次粒子を全粒子に対して50体積%以上含むことが好ましい。
上記蓄電デバイス用負極材料は、BET比表面積が2.0m2/g以上20.0m2/g以下であることが好ましい。
また、本発明の一態様に係る蓄電デバイス用負極材料は、Si系合金からなる母粒子と、当該母粒子を覆う、炭素系材料からなる被覆層とを有する粒子からなり、充放電にリチウムイオンの移動が伴う蓄電デバイス用負極材料であって、
前記Si系合金が、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなり、
前記元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素であり、
前記母粒子の集合である母粉末の20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上であることを特徴としている。
前記Si系合金が、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなり、
前記元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素であり、
前記母粒子の集合である母粉末の20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上であることを特徴としている。
上記蓄電デバイス用負極材料において、前記Si系合金は、Si相とシリサイド相とを有し、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対する、シリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比(II/I)が、1.0以上であることが好ましい。
上記蓄電デバイス用負極材料において、前記母粉末は、粒子径が10μm以下の一次粒子を累積50体積%以上含むことが好ましい。
上記蓄電デバイス用負極材料において、前記炭素系材料は、前記母粒子及び前記被覆層の合計に対して0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
上記蓄電デバイス用負極材料において、前記母粒子の平均粒径D1に対する前記被複層の平均粒径D2の比(D2/D1)が0.0001以上0.8以下であることが好ましい。
上記蓄電デバイス用負極材料において、前記炭素系材料が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、及び、グラフェンよりなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
上記蓄電デバイス用負極材料は、BET比表面積が2.0m2/g以40.0m2/g以下であることが好ましい。
上記の蓄電デバイス用負極材料は、示差走査熱量測定において600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上となるように、予め内部エネルギーが高められている。この内部エネルギーにより、Si系合金のリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮時に生じる内部応力を緩和させることができる。また、負極材料は、Si相とシリサイド相とが微細に混合した組織を有し、Siのリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮時に生じる内部応力をシリサイド相が緩和させる。このようにして緩和された内部応力は、Si系合金が塑性変形を開始する応力よりも小さくなる。つまり、蓄電デバイスの充放電に伴ってSi系合金からなる負極(負極活物質)が膨張・収縮を繰り返すが、その際に負極には塑性変形ではなく弾性変形が生じることとなる。これにより、負極の膨張・収縮の繰り返しによる負極の崩壊や、負極の割れに起因するSiの電気的孤立や、活物質の剥離が抑制される。更に、蓄電デバイス用負極材料の上記組成は、電気抵抗の改善、及び、リチウムイオンの拡散性の向上に寄与する。これらの効果の相乗により、本発明に係る負極材料からなる負極を備える蓄電デバイスは、Siの高い蓄電容量を活かした優れた充放電容量を有し、充放電に伴う負極の充放電容量の損失を低減することができる。
本発明によれば、Siの高い蓄電容量が最大限に生かされ、且つ、充放電の繰り返しによる充放電容量低下が抑制された負極が得られる、蓄電デバイス用負極材料を提供することができる。
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明する。本発明に係る蓄電デバイス用負極材料は、充放電にリチウムイオンの移動を伴う蓄電デバイスの負極活物質の材料として好適である。ここでは、充放電にリチウムイオンの移動を伴う蓄電デバイスの一例であるリチウムイオン二次電池の負極材料に関して説明する。但し、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められており、本実施形態に制限されない。
リチウムイオン二次電池の負極は、負極集電体と、その上に形成された負極活物質層とを有する。負極活物質層は、負極活物質、並びに、必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。この負極活物質として、本発明に係る負極材料が用いられうる。以下、本発明に係る蓄電デバイス用負極材料の第1実施形態及び第2実施形態を説明する。
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイス用負極材料は、Si系合金の粒子からなる。このSi系合金粒子の集合体を「Si系合金粉末」と称する。図1に示すように、Si系合金粒子は、表面に凹凸があり、全体として丸みを帯びた粒子形状を呈する。
本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイス用負極材料は、Si系合金の粒子からなる。このSi系合金粒子の集合体を「Si系合金粉末」と称する。図1に示すように、Si系合金粒子は、表面に凹凸があり、全体として丸みを帯びた粒子形状を呈する。
上記のSi系合金は、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなる。元素Aは、V,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素である。
Siは、リチウムイオンを吸蔵し、また、リチウムイオンを放出する。Siを含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、充電時にリチウムイオンを吸蔵し、放電時にリチウムイオンを放出する。
Siは、従来負極活物質として用いられてきた炭素系材料と比較して、約10倍以上の理論蓄電容量を持つ。このようなSiの蓄電容量を活かす観点から、Si系合金におけるSiの含有率は50at.%以上が好ましく、60at.%以上がより好ましく、70at.%以上が特に好ましい。Si系合金が十分な量の他の元素を含有しうるとの観点から、Siの含有率は95at.%以下が好ましく、90at.%以下がより好ましく、85at.%以下が特に好ましい。
Si系合金においてSiは、Si相を形成する。Si相は、Siマトリクスに固溶する他の元素を含んでもよい。好ましくは、Si相は、非晶質又は低結晶性である。低結晶性とは、Siの結晶子サイズが30nm以下であることを意味する。このようなSi相では、リチウムイオンの移動パスが多い。
前述の通り、Si系合金はCr及びTiを含む。このSi系合金では、Si2(Cr,Ti)のような金属間化合物が析出する。この金属間化合物により、シリサイド相が形成される。
Si相とシリサイド相とは、微細に混在し合う。Siがリチウムイオンを吸蔵するとき、Si相は膨張する。この膨張のときの応力を、シリサイド相が緩和する。Siがリチウムイオンを放出するとき、Si相は収縮する。この収縮のときの応力を、シリサイド相が緩和する。
Si系合金におけるCrの含有率は、5at.%以上20at.%以下である。負極におけるCrの含有率が5at.%以上であるリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れる。この観点から、Si系合金におけるCrの含有率は5at.%以上が好ましく、6at.%以上がより好ましく、7at.%以上が特に好ましい。負極におけるCrの含有率が20at.%以下であるリチウムイオン二次電池は、充放電容量に優れる。この観点から、Si系合金におけるCrの含有率は20at.%以下が好ましく、18at.%以下がより好ましく、15at.%以下が特に好ましい。
Si系合金におけるTiの含有率は、5at.%以上20at.%以下である。負極におけるTiの含有率が5at.%以上であるリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れる。この観点から、Si系合金におけるTiの含有率は5at.%以上が好ましく、7at.%以上がより好ましく、9at.%以上が特に好ましい。負極におけるTiの含有率が20at.%以下であるリチウムイオン二次電池は、充放電容量に優れる。この観点から、Si系合金におけるTiの含有率は20at.%以下が好ましく、18at.%以下がより好ましく、16at.%以下が特に好ましい。
前述の通り、Si系合金は、元素Aを含みうる。この元素Aは、V、Fe、Ni、Mo、Nb、Co、Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素である。元素Aは、必須の成分ではない。
V、Fe、Ni、Mo、Nb及びCoは、Si2(Cr,Ti)シリサイドに固溶する。V、Fe、Ni、Mo、Nb及びCoは、シリサイドの結晶格子を拡大させる。このシリサイドは、自らの内部を移動するリチウムイオンの拡散性に優れる。このシリサイドを含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、サイクル特性及び反応効率性に優れる。更に、V、Fe、Ni、Mo、Nb及びCoは、触媒作用を有する。従ってこれらの元素は、電池特性を高めうる。このような充放電の反応効率化の改善により、リチウムイオン二次電池は急速充放電にも対応可能となる。
Al及びSnは、Siに固溶しうる。Al及びSnは、Si相の導電性を高める。このSi相を有する負極材料では、電気抵抗が小さい。このSi相を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、充放電効率に優れる。Al及びSnは、それぞれ単体として負極材料中に分散しうる。単体のAl及びSnは、柔軟で靱性に優れる。単体のAl及びSnは、Si相の膨張時及び収縮時の応力を緩和しうる。
これらの観点から、Si系合金において元素Aは必須の成分ではないものの、Si系合金に含まれることが好ましい。そして、Si系合金における元素Aの含有率の合計は8at.%以下が好ましく、7at.%以下がより好ましく、6at.%以下が特に好ましい。
負極材料であるSi系合金粉末の平均粒径は、0.1μm以上23μm以下が好ましい。平均粒径は、粉末の全体積を100%として累積カーブが求められたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子直径である。平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置により測定される。
負極材料の平均粒径が23μmを超えると、リチウムイオンと反応する反応場が少なく、リチウムイオン二次電池の充放電容量が減少する。負極材料の平均粒径が0.1μm未満であると、リチウムイオンと反応する反応場が多く、リチウムイオン二次電池の充放電容量は大きいが、形成される抵抗被膜も多く、負極抵抗が増加し、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を劣化させる。このような観点から、負極材料であるSi系合金粉末の平均粒径は23μm以下が好ましく、18μm以下がより好ましく、8μm以下が特に好ましい。
負極材料であるSi系合金粉末は、粒子径が10μm以下の一次粒子(凝集していない粒子)を全粒子に対して50体積%以上含むことが好ましい。換言すれば、負極材料であるSi系合金粉末は、粒子径が10μm以下の一次粒子を累積50体積%以上含むことが好ましい。一次粒子の粒子径は、粒子を水等の溶媒中に分散し(分散し難い場合は分散剤を使用する)、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置に投入、粒子にレーザー光を照射し、そこから得られる散乱パターンから求められる。
後述する解砕により、負極材料であるSi系合金粉末には多くのSi系合金粒子が一次粒子として存在する。負極材料において、一次粒子であり且つ粒子径が10μm以下である粒子の全粒子に対する比率Ppは、50体積%以上が好ましい。この比率Ppが50体積%以上である粉末から得られた負極材料では、Si相における表面と内部とのリチウムイオンとの反応率の差が小さい。この負極材料では、リチウムイオンを吸蔵するときの応力集中が生じにくい。この負極材料からなる負極を有するリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れる。この観点から、比率Ppは50体積%以上が好ましく、60体積%以上がより好ましく、70体積%以上が特に好ましい。この比率Ppは、大きいほど好ましい。
また、負極材料であるSi系合金粉末の一次粒子の大半が10μm以下の微粉末であることによって、リチウムイオンとSi系合金粒子との反応の不均一が抑制される。粒子径が10μmより大きい一次粒子では、リチウムイオンと反応する際に、反応の不均一が生じることがある。即ち、一次粒子の中心部がリチウムイオンと未反応となったり、一次粒子の表層と中心部付近でのリチウムイオン濃度差が生じたりすることがある。このような反応の不均一が抑制されることによって、一次粒子の表層と内部との膨張・収縮率の差が低減され、一次粒子の表層と内部の境界付近が起点となって生じる粒子の割れや電気的孤立の発生を回避することができる。
負極材料であるSi系合金粉末のBET比表面積は、2.0m2/g以上20.0m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積は、「JIS Z 8830:2013」の規格に準拠して測定される。
BET比表面積が2.0m2/g以上であるSi系合金粉末では、Si系合金が広い面積でリチウムイオンと反応しうる。従って、この粉末が用いられた負極では、充放電容量が大きい。更に、この比表面積が2.0m2/g以上であるSi系合金粉末では、充放電時の粒子の内部と粒子の表面との応力差が小さい。従って、この粉末からなる負極では、粒子の微粉化が抑制され、充放電容量が維持される。これらの観点から、負極材料であるSi系合金粉末の比表面積は2.0m2/g以上が好ましく、2.5m2/g以上がより好ましく、3.0m2/g以上が特に好ましい。
負極材料であるSi系合金粉末のBET比表面積が20.0m2/g以下では、粒子の表面での電解液の分解反応が抑制される。従って、この粉末が用いられた負極では、リチウムイオンの減少が抑制され、固体電解質の形成が抑制される。この負極では、充放電容量が維持される。これらの観点から、負極材料であるSi系合金粉末のBET比表面積は20.0m2/g以下が好ましく、15.0m2/g以下がより好ましく、10.0m2/g以下が特に好ましい。
Si系合金は、前述の通り、Si相とシリサイド相とを有する。Si相の結晶子サイズは、10nm以下が好ましく、シリサイド相の結晶子サイズは、20nm以下が好ましい。
結晶子サイズは、X線回折により確認されうる。X線回折では、X線源として波長が1.54059オングストロームのCuKα線が用いられる。測定は、2θが20度以上80度以下である範囲でなされる。得られる回折スペクトルにおいて、結晶子サイズが小さいほど、ブロードな回折ピークが観測される。粉末X線回折分析で得られるピークの半値幅から、下記のScherrerの式が用いられて、結晶子サイズが求められ得る。
D=(K×λ)/(β×cosθ)
この数式において、Dは結晶子の大きさ(オングストローム)を表し、KはScherrerの定数を表し、λはX線管球の波長を表し、βは結晶子の大きさによる回折線の拡がりを表し、θは回折角を表す。
D=(K×λ)/(β×cosθ)
この数式において、Dは結晶子の大きさ(オングストローム)を表し、KはScherrerの定数を表し、λはX線管球の波長を表し、βは結晶子の大きさによる回折線の拡がりを表し、θは回折角を表す。
Si相の結晶子サイズが10nm以下である負極材料では、リチウムイオン二次電池の充放電時の応力に起因する粒子の割れ、電気的孤立及び集電体からの脱落が抑制される。この観点から、Si相の結晶子サイズは10nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましく、5nm以下が特に好ましい。本発明では、相が非晶質である場合、この相の結晶子サイズはゼロと見做される。
リチウムイオン二次電池の充放電時のSiの膨張・収縮の応力を緩和するシリサイド相の結晶子サイズも重要である。シリサイド相の結晶子サイズが20nm以下である負極材料では、化合物相内でリチウムイオンが容易に移動しうる。この結晶子サイズが20nm以下である負極材料では、充放電時に生じるSi相の膨張及び収縮の応力が緩和される。これらの観点から、シリサイド相の結晶子サイズは20nm以下が好ましく、18nm以下がより好ましく、15nm以下が特に好ましい。
Si相及びシリサイド相の結晶子サイズの制御は、原料の成分の調整によってなされうる。結晶子サイズの制御は、原料粉末を溶解した後の凝固時の冷却速度の制御によっても、なされうる。更に、粒子の粉砕及び解砕によっても、結晶子サイズの制御と、内部エネルギーの付与とがなされうる。
Si系合金では、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対する、シリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比(II/I)が、1.0以上であることが好ましい。
X線回折では、X線源として波長が1.54059オングストロームのCuKα線が用いられる。測定は、2θが20度以上80度以下の範囲でなされる。これにより、回折スペクトルが得られる。2θが20度以上80度以下の範囲で得られた回折スペクトルのなかから、Siメインピークである(111)面の強度値とシリサイドメインピークである(111)面の強度値が選定され、比(II/I)が算出される。
図5には、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度I、及びシリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIが示されている。回折ピーク強度Iに対する回折ピーク強度IIの比(II/I)が1.0以上であるSi系合金では、Si相とシリサイド相とが、微細に分散混合している。このSi系合金を含む負極を有するリチウムイオン二次電池では、充放電時の応力に起因する粒子の割れ、Siの電気的孤立及び脱落が生じにくい。このSi系合金を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れる。この観点から、比(II/I)は2.0以上がより好ましく、5.0以上が特に好ましい。比(II/I)は、10.0以下が好ましい。
本発明に係る負極材料は、結晶構造や内部歪みによって、内部エネルギーが高められている。例えば、後述するメカニカルミリング法などの、公知の歪み加工法を用いて負極材料に内部エネルギーを付与することができる。負極材料の有する内部エネルギーは、リチウムイオン二次電池の電池特性に大きく関与する。負極材料の内部エネルギーに関する熱量変化は、図4に示すようなXRDや、ミクロ観察だけでは判断することは難しい。そこで、一般的な示差走査熱量測定(DSC)法により負極材料の内部エネルギーに関する熱量変化を評価する。ここで、示差走査熱量測定法とは、物質及び基準物質の温度をプログラムによって変化させながら、その物質及び基準物質に対するエネルギー入力の差を温度の関数として測定する方法である。本発明におけるSi系合金の示差走査熱量測定は、後述する実施例の欄に記載の手法を用いて行われる。
負極材料の示差走査熱量の測定結果を、図3に示すような縦軸に熱流[W/g]、横軸に温度[℃]をとった曲線(DSC曲線)で表したときに、600〜700℃の範囲に発熱ピークが観察される。この発熱ピークの温度は、Si系合金のガラス転移温度である。この発熱ピークは、主に負極材料の非晶質(アモルファス)状態から結晶状態へ転移する際に放出される内部エネルギー、及び、歪みを含めた内部エネルギーに起因する。この発熱ピークにおける熱量(ΔH)は、20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において80J/g以上である。
このように、本発明に係る負極材料では、予め内部エネルギーが高められていることで、Si系合金のリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮時に生じる内部応力を緩和させることができる。また、負極材料は、前述のSi系合金組成を有することにより、Siのリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮時に生じる内部応力が緩和される。更に、負極材料は、Si相とシリサイド相とが微細に混合した組織を有し、Siのリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮時に生じる内部応力をシリサイド相が緩和させる。このようにして緩和された内部応力は、Si系合金が塑性変形を開始する応力よりも小さくなる。換言すれば、Si系合金の塑性変形が開始する応力が、Si系合金のリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮時にSi系合金粒子内に発生する応力以上となる。これにより、リチウムイオン二次電池の充放電に伴ってSi系合金からなる負極(負極活物質)が膨張・収縮を繰り返すが、その際に負極には塑性変形ではなく弾性変形が生じることとなる。これにより、負極(負極活物質)の膨張・収縮の繰り返しによる負極の崩壊や、負極の割れに起因するSiの電気的孤立や、活物質の剥離が抑制される。加えて、前述のSi系合金組成は、電気抵抗の改善、及び、リチウムイオンの拡散性の向上に寄与する。これらの効果の相乗により、本発明に係る負極材料からなる負極を備えるリチウムイオン二次電池は、Siの高い蓄電容量を活かした優れた充放電容量を有し、充放電に伴う負極の充放電容量の損失を低減することができる。
一方、20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において、600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークにおける熱量が80J/g未満であれば、負極材料の内部エネルギーが上記作用効果を得るには不十分である。つまり、Si系合金のリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮時にSi系合金粒子内に発生する応力が、Si系合金の塑性変形が開始する応力以上となる。その結果、リチウムイオン二次電池の充放電に伴って、Si系合金からなる負極が塑性変形し、負極の割れや微粉化、電極からの脱落、負極の割れに起因するSiの電気・電子的な孤立が生じ、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が劣化する。
以上の観点から、20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量は、80J/g以上が好ましく、85J/g以上がより好ましく、90J/g以上が特に好ましい。
〔負極材料の製造方法〕
ここで、負極材料の製造方法について説明する。先ず、Si系合金の粉末を作製する。粉末の作製方法として、水アトマイズ法、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法及び遠心アトマイズ法が例示される。そのうち、単ロール冷却法、ガスアトマイズ法、及び、ディスクアトマイズ法が好ましい。
ここで、負極材料の製造方法について説明する。先ず、Si系合金の粉末を作製する。粉末の作製方法として、水アトマイズ法、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法及び遠心アトマイズ法が例示される。そのうち、単ロール冷却法、ガスアトマイズ法、及び、ディスクアトマイズ法が好ましい。
次いで、得られた粉末に、機械的加工を施すことにより塑性歪みを付与する。粒子に塑性歪みを与える機械的加工法として、例えば、メカニカルミリング(Mechanical Milling: MM)法が挙げられる。MM法では、MM装置を用いて粉末をミリング(強撹拌)し、粉末に対して強歪み加工を施す。MM装置として、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、アトライタ、ボールミル。乾式ジェットミル、及び、湿式ジェットミル等が例示される。
MM法では、粉砕メディアが使用される。粉砕メディアと粒子とが衝突した時の衝撃力、粉砕メディア同士の間や粉砕メディアと容器との間で粒子が圧縮されたりせん断されたりする力、及び、粒子同士が衝突する力によって、粒子に歪み等の内部エネルギーが与えられる。付与する内部エネルギーを高める観点から、粉砕メディアの密度は5.0g/cm3以上が好ましく、粉砕メディアの径はφ15mm以上が好ましい。このような粉砕メディアとして、例えば、Fe系メディアやジルコニアメディア等の比較的密度の大きな粉砕メディアが挙げられる。
ミリング後の粉末は凝集している。そこで、粉末の粒度調整と更なる内部エネルギー付与との目的で、ジェットミルを用いて粉末を解砕(粉砕)し、負極材料を得る。但し、粉末の解砕工程は省略されてもよい。
粉末の解砕により、負極材料では多くの粒子が一次粒子として存在する。このように、負極材料では、より多くのSi系合金粒子が一次粒子として存在することが好ましい。粒子が凝集体として存在すると、凝集体の内部まで電解液が入り難いため、凝集体内部と外部のリチウムイオンの反応が不均一となり、リチウムイオン二次電池の充放電容量の低下やサイクル特性の劣化に至るおそれがある。そのため、負極材料の製造方法では、凝集体を解砕する工程を含むことが好ましい。以下では、上記の負極材料の製造方法を具体的な例を挙げて詳細に説明する。
例えば、単ロール冷却法を使用して、以下の通りに負極材料を製造することができる。底部に細孔を有する石英管の中に、原料が投入される。この原料が、アルゴンガス雰囲気中で、高周波誘導炉によって加熱され、溶融する。細孔から流出する原料が、銅ロールの表面に落とされて冷却され、リボンが得られる。このリボンが、ボールと共にポットに投入される。ボールの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。ポットの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。ポットの中にアルゴンガスが充満され、このポットが密閉される。このリボンがMM装置を用いてミリングされ、負極材料が得られる。粉末は、ミリングの後、ジェットミルで解砕されてもよい。
例えば、ガスアトマイズ法を使用して、以下の通りに負極材料を製造することができる。底部に細孔を有する石英坩堝の中に、原料が投入される。この原料が、アルゴンガス雰囲気中で、高周波誘導炉によって加熱され、溶融する。アルゴンガス雰囲気において、細孔から流出する原料に、アルゴンガスが噴射される。原料は急冷されて凝固し、粉末が得られる。この粉末に、例えばMM法などによって塑性歪みが付与されて、負極材料が得られる。粉末は、ミリングの後、ジェットミルで解砕されてもよい。
例えば、ディスクアトマイズ法を使用して、以下の通りに負極材料を製造することができる。ディスクアトマイズ法では、底部に細孔を有する石英坩堝の中に、原料が投入される。この原料が、アルゴンガス雰囲気中で、高周波誘導炉によって加熱され、溶融する。アルゴンガス雰囲気において、細孔から流出する原料が、高速で回転するディスクの上に落とされる。回転速度は、40000rpmから60000rpmである。ディスクによって原料は急冷され、凝固して、粉末が得られる。この粉末が、ボールと共にポットに投入される。ボールの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。ポットの材質として、ジルコニア、SUS304及びSUJ2が例示される。ポットの中にアルゴンガスが充満され、このポットが密閉される。この粉末がMM装置を用いてミリングされ、負極材料が得られる。粉末は、ミリングの後、ジェットミルで解砕されてもよい。
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態に係る蓄電デバイス用負極材料は、Si系合金からなる母粒子と、当該Si系合金母粒子を覆う、炭素系材料からなる被覆層とを有する粒子からなる。図2に示すように、被覆層で被覆されたSi系合金母粒子は、表面が凹凸が少なく滑らかであり、全体として丸みを帯びた粒子形状をしている。
本発明の第2実施形態に係る蓄電デバイス用負極材料は、Si系合金からなる母粒子と、当該Si系合金母粒子を覆う、炭素系材料からなる被覆層とを有する粒子からなる。図2に示すように、被覆層で被覆されたSi系合金母粒子は、表面が凹凸が少なく滑らかであり、全体として丸みを帯びた粒子形状をしている。
Si系合金母粒子は、第1実施形態のSi系合金粒子と同様の粒子である。即ち、Si系合金母粒子は、Si系合金の粒子であって、Si系合金が、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなる。元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素である。
Si系合金は、Si相とシリサイド相とを有する。Si系合金は、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対する、シリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比(II/I)が、1.0以上であることが好ましい。
Si系合金母粒子の集合であるSi系合金母粉末は、粒子径が10μm以下の一次粒子を累積50%以上含むことが好ましい。
Si系合金母粉末の20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において、600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上である。
Si系合金母粒子及びSi系合金母粉末についてのこれ以上の詳細な説明は、Si系合金母粒子をSi系合金粒子とし、Si系合金母粉末をSi系合金粉末として、第1実施形態に係る負極材料の説明を参照することにより省略する。
Si系合金は、電解液との反応に活性である。負極材料が被覆層を有しない場合、Si系合金の表層での電解液の分解反応が顕著であり、多くの抵抗皮膜が形成される。この抵抗皮膜は、負極の電気抵抗を高める。この抵抗皮膜は、リチウムイオン二次電池の蓄電容量を阻害する。更に、充放電時の母粒子の膨張及び収縮により、この抵抗皮膜が剥がれて負極内で堆積する。この体積は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を阻害する。被覆層は、Si系合金と電解液との反応を抑制する。被覆層を有するリチウムイオン二次電池では、抵抗被膜の形成が抑制され、電解液の枯渇も抑制される。
被覆層に適した炭素系材料として、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、及びグラフェンが例示される。その中でも、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、及び、グラフェンが好ましい。被覆層は、2種以上の炭素系材料を含有してもよい。
負極材料における炭素系材料(被覆層)の含有率Pc(Si系合金母粒子及び被覆層の合計に対する炭素系材料の割合)は、0.010質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。炭素系材料の含有率Pcが0.010質量%以上である負極材料では、Si系合金の電解液との反応が十分に抑制される。この観点から、炭素系材料の含有率Pcは0.010質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上が特に好ましい。炭素系材料の含有率Pcが5.0質量%以下である負極材料は、蓄電容量に優れる。この観点から、炭素系材料の含有率Pcは5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下が好ましい。
好ましくは、炭素系材料は、実質的にSi系合金母粒子には含有されない。従って、Si系合金母粒子の内部では、SiとCとの結合は、実質的には生じない。
被覆層は、Si系合金母粒子の表面に、炭素系材料からなる複数の微粒子が付着することで形成されている。Si系合金の平均粒径D1に対する被覆層の平均粒径D2の比(D2/D1)は、0.8以下が好ましい。換言すれば、粒径D1と粒径D2との差が大きいことが好ましい。比(D2/D1)が0.8以下である負極材料では、図2に示された母粒子の細かな凹凸に炭素系材料が入り込む。従って、Si系合金の表層に、緻密かつ均一に、被覆層が形成されうる。この被覆層により、Si系合金の表層での電解液の分解反応が、十分に抑制される。この観点から、比(D2/D1)は0.8以下が好ましく、0.10以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましい。比(D2/D1)は、0.00010以上が好ましい。平均粒径D1は、Si系合金母粒子(一次粒子)の径の平均値を意味する。
負極材料は、多数の粒子(図2参照)からなる。多数の粒子の集合は、粉末である。この粉末における平均粒径は、0.1μm以上25μm以下が好ましい。平均粒径は、粉末の全体積を100%として累積カーブが求められたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子直径である。平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置により測定される。
平均粒径が0.1μm以上である負極材料では、抵抗被膜の形成が抑制されうる。この観点から、平均粒径は0.1μm以上が好ましい。平均粒径が25μm以下である負極材料は、リチウムイオンと十分に反応する。従って、この負極材料を有するリチウムイオン二次電池の容量は、大きい。この観点から、負極材料の平均粒径は25μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下が特に好ましい。
負極材料のBET比表面積は、2.0m2/g以上40.0m2/g以下が好ましい。BET比表面積は、「JIS Z 8830:2013」の規格に準拠して測定される。
BET比表面積が2.0m2/g以上である負極材料では、Si系合金が広い面積でリチウムイオンと反応しうる。従って、この負極材料が用いられた負極では、充放電容量が大きい。更に、この比表面積が2.0m2/g以上であるSi系合金粉末では、充放電時の粒子の内部と粒子の表面との応力差が小さい。従ってこの負極材料が用いられた負極では、粒子の微粉化が抑制され、充放電容量が維持される。これらの観点から、Si系合金粉末の比表面積は2.0m2/g以上が好ましく、2.5m2/g以上がより好ましく、3.0m2/g以上が特に好ましい。
BET比表面積が20.0m2/g以下では、粒子の表面での電解液の分解反応が抑制される。従って、負極材料が用いられた負極では、リチウムイオンの減少が抑制され、固体電解質の形成が抑制される。この負極では、充放電容量が維持される。これらの観点から、負極材料である粉末のBET比表面積は40.0m2/g以下が好ましく、30.0m2/g以下がより好ましく、20.0m2/g以下が特に好ましい。
〔負極材料の製造方法〕
先ず、Si系合金母粉末を作製する。Si系合金母粉末の作製方法は、前述の第1実施形態における負極材料の製造方法と実質的に同じである。よって、Si系合金母粉末の作製方法の詳細な説明は、前述の第1実施形態における負極材料の製造方法を参照することにより省略する。
先ず、Si系合金母粉末を作製する。Si系合金母粉末の作製方法は、前述の第1実施形態における負極材料の製造方法と実質的に同じである。よって、Si系合金母粉末の作製方法の詳細な説明は、前述の第1実施形態における負極材料の製造方法を参照することにより省略する。
次に、Si系合金母粉末に、被覆処理を施す。被覆処理により、Si系合金母粉末の表面が炭素系材料で被覆され、図2に示された粒子が得られる。被覆処理方法の具体例として、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、アトライタ及び振動ボールミル等を用いたメカノケミカル、化学蒸着(CVD)、並びに、物理蒸着(PVD)が例示される。Si系合金母粒子の炭化により、被覆がなされてもよい。被覆処理によっても、炭素系材料はSi系合金母粒子の内部には進入しない。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
本発明に係る負極材料の効果を、二極式コイン型セルを用いて確認した。まず、表1−4に示された組成の原料を準備した。各原料から、ガスアトマイズ法及びメカニカルミリングにより、粉末を製作した。表3のNo.46〜60の粉末では、この粉末を母粉末として炭素系材料(アセチレンブラック)の被覆処理を行った。それぞれの粉末、導電材(アセチレンブラック)、結着材(ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン等)及び分散液(N−メチルピロリドン)を混合し、スラリーを得た。このスラリーを、集電体である銅箔の上に塗布した。このスラリーを、真空乾燥機で減圧乾燥した。乾燥温度は、ポリイミドが結着材である場合は200℃以上であり、ポリフッ化ビニリデンが結着材である場合は160℃以上であった。この乾燥によって溶媒を蒸発させ、活物質層を得た。この活物質層及び銅箔を、ロールにて押圧した。この活物質層及び銅箔をコイン型セルに適した形状に打ち抜き、負極を得た。
電解液として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒を準備した。両者の質量比は、3:7であった。更に、支持電解質として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を準備した。この支持電解質の量は、電解液1リットルに対して1モルである。この支持電解質を、電解液に溶解させた。
コイン型セルに適した形状のセパレータ及び正極を、準備した。この正極は、リチウム箔から打ち抜いた。減圧下で電解液にセパレータを浸漬し、5時間放置して、セパレータに電解液を充分に浸透させた。
コイン型セルに負極、セパレータ及び正極を組み込んだ。コイン型セルに電解液を充填した。なお、電解液は、露点管理された不活性雰囲気中で取り扱われる必要がある。従って、セルの組み立ては、不活性雰囲気のグローブボックスの中で行った。
上記コイン型セルにて、温度が25℃であり、電流密度が0.50mA/cm2である条件で、正極と負極との電位差が0Vとなるまで充電を行った。その後、電位差が1.5Vとなるまで放電を行った。この充電及び放電を、50サイクル繰り返した。初期の放電容量X及び50サイクルの充電及び放電を繰り返した後の放電容量Yを測定した。更に、放電容量Xに対する放電容量Yの比率(維持率)を算出した。この結果が、下記の表1−4に示されている。初期放電容量は、500mAh/g以上が好ましい。維持率は、80%以上が好ましい。
下記の表1−4において、No.1−60は本発明の実施例に係る負極材料の組成であり、No.61−112は比較例に係る負極材料の組成である。表1−4に記載された成分の残部は、Si及び不可避的不純物である。
表1−2に示す通り、No.1〜45の各実施例の負極材料は、Si系合金の粒子からなる負極材料である。このSi系合金は、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなり、元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素である。また、表2に示す通り、No.46〜60の各実施例の負極材料は、Si系合金からなる母粒子と、当該母粒子を覆う、炭素系材料からなる被覆層とを有する粒子からなる負極材料である。このSi系合金は、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなり、元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素である。
No.1〜45の各実施例の負極材料において、Si系合金は、Si相とシリサイド相とを有し、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対する、シリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比(II/I)が、1.0以上である。No.1〜45の各実施例の負極材料において、粒子の集合であるSi系合金粉末は、粒子径が10μm以下の一次粒子を全粒子に対して50体積%以上含む。No.1〜45の各実施例の負極材料は、BET比表面積が2.0m2/g以上20.0m2/g以下である。No.1〜45の各実施例の負極材料では、20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において、600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上である。
No.46〜60の各実施例の負極材料において、母粒子(Si系合金)は、Si相とシリサイド相とを有し、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対する、シリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比(II/I)が、1.0以上である。No.46〜60の各実施例の負極材料において、母粉末は、粒子径が10μm以下の一次粒子を累積50体積%以上含む。No.46〜60の各実施例の負極材料において、炭素系材料(カーボン)は、母粒子及び被覆層の合計に対して0.01質量%以上5質量%以下である。No.46〜60の各実施例の負極材料において、母粒子(Si系合金)の平均粒径D1に対する被覆層(カーボン材)の平均粒径D2の比(D2/D1)が0.0001以上0.8以下である。No.46〜60の各実施例の負極材料は、BET比表面積が2.0m2/g以40.0m2/g以下である。No.46〜60の各実施例の負極材料は、母粉末(Si系合金)の20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上である。このように、各実施例の負極材料は、本発明の全ての発明特定事項を具備している。
例えば、実施例に係るNo.12の負極材料では、Si系合金組成をSiwCrxTiyAzで表したときに、AはMo、Alであり、at.%でw=82、x=7、y=9、z=2である。この負極材料の示差走査熱量測定では、600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が93J/g以上である。この負極材料では、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対するシリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比の値(II/I)が6.1以上である。この負極材料では、多数のSi系合金粒子の集合であるSi系合金粉末における、一次粒子として存在しており且つその粒子径が10μm以下である粒子の、全粒子に対する比率の69体積%であり、Si系合金粒子のBET比表面積が5.3m2/gである。
上記の実施例に係るNo.12の負極材料の初期放電容量は、基準値である500mAh/gを上回る1391mAh/gである。また、実施例に係るNo.12の負極材料の放電容量維持率は、基準値である80%を上回る93%である。
また、例えば実施例に係るNo.54の負極材料では、Si系合金組成をSiwCrxTiyAzで表したときに、AはV、Fe、Mo、Nb、Alであり、at.%でw=82、x=5、y=10、z=3である。この負極材料の示差走査熱量測定では、600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が107J/g以上である。この負極材料では、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対するシリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比の値(II/I)が6.8以上である。この負極材料では、多数のSi系合金粒子(母粒子)の集合であるSi系合金粉末(母粉末)における、一次粒子として存在しており且つその粒子径が10μm以下である粒子の、全粒子に対する比率の87体積%である。この負極材料では、母粒子及び被覆層(カーボン材)の合計に対してカーボン材(アセチレンブラック)が3.70重量%を示し、母粒子の平均粒径D1に対する被覆層の平均粒径D2の比(D2/D1)が0.1であり、BET比表面積が11.4m2/gである。
上記の実施例に係るNo.54の負極材料の初期放電容量は、基準値である500mAh/gを上回る1384mAh/gである。また、実施例に係るNo.54の負極材料の放電容量維持率は、基準値である80%を上回る92%である。
各比較例の負極材料は、本発明の発明特定事項のいずれかを満たしていない。表3−4において、満たされていない発明特定事項に下線が付されている。
例えば、比較例に係るNo.82の負極材料では、Si系合金組成をSiwCrxTiyAzで表したときに、at.%でw=25.5、x=21、y=26、z=27.5であって、本発明の範囲外である。この負極材料の示差走査熱量測定では、600℃以上700℃以下の温度域に発熱ピークが現れない。この負極材料では、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対するシリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比の値(II/I)が、本発明の範囲外の0.2である。更に、この負極材料では、多数のSi系合金粒子の集合であるSi系合金粉末における、粒子径が10μm以下の一次粒子の全粒子に対する比率は、本発明の範囲外の44体積%であり、Si系合金粒子のBET比表面積は、本発明の範囲外の0.8m2/gである。
上記の比較例に係るNo.82の負極材料の初期放電容量は、基準値である500mAh/gに満たない128mAh/gである。また、比較例に係るNo.82の負極材料の放電容量維持率は、基準値である80%に満たない37%である。
以上の評価結果から、実施例に係る負極材料からなる負極を有するリチウムイオン二次電池は、比較例に係る負極材料からなる負極を有するリチウムイオン二次電池と比較して、高い充放電容量を有し、且つ、充放電を繰り返してもその高い充放電容量を維持することが明らかとなった。換言すれば、本発明に係る負極材料によれば、Siの高い蓄電容量が活かされ、且つ、充放電の繰り返しによる充放電容量低下が抑制された負極が得られることが明らかとなった。
以上説明された負極材料は、リチウムイオン二次電池のみならず、全固体リチウムイオン二次電池、ハイブリットキャパシタ等の、種々の蓄電デバイスにも適用されうる。
Claims (12)
- Si系合金の粒子からなり、充放電にリチウムイオンの移動が伴う蓄電デバイス用負極材料であって、
前記Si系合金が、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなり、
前記元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素であり、
20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上である、
蓄電デバイス用負極材料。 - 前記Si系合金は非晶質又は低結晶性のSi相とシリサイド相とが微細に分散した構造を有し、
前記Si相の結晶子サイズが10nm以下であり、且つ、前記シリサイド相の結晶子サイズが20nm以下である、
請求項1に記載の蓄電デバイス用負極材料。 - 前記Si系合金は、Si相とシリサイド相とを有し、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対する、シリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比(II/I)が、1.0以上である、
請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用負極材料。 - 前記粒子の集合であるSi系合金粉末は、粒子径が10μm以下の一次粒子を全粒子に対して50体積%以上含む、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用負極材料。 - BET比表面積が2.0m2/g以上20.0m2/g以下である、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用負極材料。 - Si系合金からなる母粒子と、当該母粒子を覆う、炭素系材料からなる被覆層とを有する粒子からなり、充放電にリチウムイオンの移動が伴う蓄電デバイス用負極材料であって、
前記Si系合金が、Si:50at.%以上95at.%以下、Cr:5at.%以上20at.%以下、Ti:5at.%以上20at.%以下、元素Aの合計:0at.%以上10at.%以下、及び、残部の不可避的不純物からなり、
前記元素AはV,Fe,Ni,Mo,Nb,Co,Al及びSnよりなる群から選択された1種又は2種以上の元素であり、
前記母粒子の集合である母粉末の20℃/minの昇温条件下での示差走査熱量測定において600℃以上700℃以下の温度域に現れる発熱ピークの熱量が80J/g以上である、
蓄電デバイス用負極材料。 - 前記Si系合金は、Si相とシリサイド相とを有し、Siメインピークである(111)面の回折ピーク強度Iに対する、シリサイドメインピークである(111)面の回折ピーク強度IIの比(II/I)が、1.0以上である、
請求項6に記載の蓄電デバイス用負極材料。 - 前記母粉末は、粒子径が10μm以下の一次粒子を累積50体積%以上含む、
請求項6又は7に記載の蓄電デバイス用負極材料。 - 前記炭素系材料は、前記母粒子及び前記被覆層の合計に対して0.01質量%以上5質量%以下である、
請求項6〜8のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用負極材料。 - 前記母粒子の平均粒径D1に対する前記被覆層の平均粒径D2の比(D2/D1)が0.0001以上0.8以下である、
請求項6〜9のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用負極材料。 - 前記炭素系材料が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、及び、グラフェンよりなる群から選択される1種又は2種以上である、
請求項6〜10のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用負極材料。 - BET比表面積が2.0m2/g以40.0m2/g以下である、
請求項6〜11のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用負極材料。
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WO2023053887A1 (ja) * | 2021-09-28 | 2023-04-06 | パナソニックIpマネジメント株式会社 | 二次電池用負極活物質および二次電池 |
WO2024095901A1 (ja) * | 2022-10-31 | 2024-05-10 | 大同特殊鋼株式会社 | リチウムイオン電池用の負極材料粉末 |
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