(第1の実施形態)
以下、車両用ドアロック装置の第1の実施形態について説明する。なお、以下では、車両の前後方向を「前後方向」といい、車両の高さ方向上方及び下方をそれぞれ「上方」及び「下方」という。また、車室内方に向かう車両の幅方向内側を「車内側」といい、車室外方に向かう車両の幅方向外側を「車外側」という。特に、車両のドアについては、基本的に閉止状態と見なしてその方向をいう。
図1に示すように、車両のボデー1の側部には、その中央部にセンターピラーを有しない、いわゆるピラーレス型の開口2が形成されるとともに、該開口2に合わせてスイングドア11及びスライドドア12が前後方向に並設されている。すなわち、スイングドア11は、その前縁部に設けられたドアヒンジ(図示略)によりボデー1に回動自在に連結されており、ドアヒンジを中心に回動することで前席側の乗降口となる開口2の前部を開閉する。一方、スライドドア12は、適宜の支持部材(図示略)によりボデー1に前後方向に移動自在に連結されており、前後方向に移動することで後席側の乗降口となる開口2の後部を開閉する。
スイングドア11は、その下部を構成するドア本体13を備える。このドア本体13は、ドアアウタパネル及びドアインナパネル(図示略)が結合されてなる袋状の構造体である。また、スイングドア11は、ドア本体13の上端部に取着されたドアフレーム14を備える。このドアフレーム14は、ドア本体13の後部に固着されて上方に延びる略筒状の立柱部14aを有するとともに、ドア本体13の前部に固着されて後方斜め上方に延び立柱部14aの上端部に接続される略弓形の上縁部14bを有する。なお、立柱部14aは、ドア本体13内まで車両の高さ方向に連通している。
ドア本体13には、操作ハンドル15が揺動可能に連結されている。また、ドア本体13には、その内部空間において、操作ハンドル15に連係されたリモコン(リモートコントローラ)16が設置されている。
ドア本体13の後部下端(スイングドア11の後部下端)には、その内部空間において、ロアクローザ20が設置されている。このロアクローザ20は、開口2の下端でボデー1に設けられたストライカSTLと係合することでスイングドア11を全閉状態又は半ドア状態(閉止状態)で保持するロアラッチ機構30を有する。ロアラッチ機構30は、オープンケーブルC1を介してリモコン16に接続されており、操作ハンドル15の操作力がリモコン16及びオープンケーブルC1を介して伝達されることで、スイングドア11の閉止状態での保持を解除する。
また、ロアクローザ20には、アクチュエータ40が設けられている。ロアクローザ20は、ロアラッチ機構30においてアクチュエータ40に連携されている。ロアラッチ機構30は、ECU(電子制御装置)90によりアクチュエータ40が駆動制御されることで、半ドア状態にあるスイングドア11が全閉状態まで閉作動するように作動する。なお、アクチュエータ40は、キャンセルケーブルC2を介してリモコン16に接続されており、操作ハンドル15の操作力がリモコン16及びキャンセルケーブルC2を介して伝達されることで、スイングドア11の閉作動を中止すべくその出力を停止する。
一方、立柱部14aの上端(スイングドア11の後部上端)には、その内部空間において、アッパクローザ50が設置されている。このアッパクローザ50は、開口2の上端でボデー1に設けられたストライカSTUと係合することでスイングドア11を全閉状態又は半ドア状態(閉止状態)で保持するアッパラッチ機構60を有する。アッパラッチ機構60は、オープンケーブルC3を介してリモコン16に接続されており、操作ハンドル15の操作力がリモコン16及びオープンケーブルC3を介して伝達されることで、スイングドア11の閉止状態での保持を解除する。
また、アッパラッチ機構60は、連結部材としての駆動ケーブルC4の一端に接続されている。この駆動ケーブルC4は、立柱部14a内を下方に延びて他端がロアクローザ20のアクチュエータ40に接続されている。アッパラッチ機構60は、ECU90によりアクチュエータ40が駆動制御されることで、該アクチュエータ40の動力が駆動ケーブルC4を介して伝達されて、半ドア状態にあるスイングドア11が全閉状態まで閉作動するように作動する。つまり、ロアクローザ20のアクチュエータ40は、アッパクローザ50の駆動用のアクチュエータとして兼用されている。
次に、ロアクローザ20について説明する。
図2及び図3に示すように、ロアクローザ20は、例えば金属板からなるベースプレート31を有する。このベースプレート31は、スイングドア11の下端面に沿って広がってこれに締結される底壁31a及び該底壁31aの車内側端から起立する縦壁31bを有して略L字形状を呈している。そして、ベースプレート31には、底壁31a及び縦壁31bの間に跨って略スリット状のストライカ入出部31cが形成されている。このストライカ入出部31cは、スイングドア11の閉作動時にストライカSTLが進入するように配置されている。
ロアラッチ機構30は、ベースプレート31の底壁31aに軸支された互いに平行な一対の回転軸33,34と、回転軸33に対して回動可能に連結されたラッチ35と、回転軸34に一体回動可能に連結されたポール36とを有する。
ラッチ35には、ストライカ入出部31cの配置に合わせて略U字状の係合凹部35aが形成されている。そして、ラッチ35は、係合凹部35aを挟んでその一側及び他側(図3において時計回転方向及び反時計回転方向の側)にそれぞれ第1爪部35b及び第2爪部35cを形成する。周方向において、第1爪部35bの先端部の第2爪部35cから離間する端面及び第2爪部35cの先端部の第1爪部35bに対向する端面は、フルラッチ係合面35d及びハーフラッチ係合面35eをそれぞれ形成する。ラッチ35は、ベースプレート31に一端の掛止されたラッチ付勢ばね(図示略)の他端が掛止されることで図示時計回転方向に回動する側に付勢されるとともに、樹脂ボデー(図示略)に設置されたラッチストッパ(図示略)に当接することで当該方向への回動が規制され、所定の初期回動位置(以下、「アンラッチ位置」という)に保持される。なお、ラッチ35は、回転軸33を挟んで第2爪部35cの反対側に略アーム状の連動片35fを突出する。
一方、ポール36は、回転軸34からその径方向一側(図3の左下側)に延出する略鉤爪状の係合片36aを形成する。このポール36は、ポール付勢ばね(図示略)により図示反時計回転方向に回動する側、即ち係合片36aを図示下側に移動させる側に付勢され、所定の初期回動位置に保持される。なお、回転軸34のポール36から離間する側の先端には、ポール駆動レバー37が一体回動するように連結されている。
ここで、ロアラッチ機構30の基本的な動作について説明する。
スイングドア11が開放されている状態では、アンラッチ位置に保持されるラッチ35は、ボデー1に固着されたストライカSTLに係合凹部35aを対向させる。つまり、係合凹部35aは、ストライカ入出部31cと共にスイングドア11の閉作動に伴うストライカSTLの進入経路を開放している。また、所定の初期回動位置に保持されるポール36は、係合片36aを第2爪部35cの前方に配置する。なお、このときのロアラッチ機構30の状態をアンラッチ状態(解除状態)という。
次に、スイングドア11の閉作動に伴い、係合凹部35a内にストライカSTLが進入したとする。この際、ストライカSTLにより係合凹部35aの内壁面が押圧されることで、ラッチ35は、ラッチ付勢ばねに抗して図示反時計回転方向に回動し、ハーフラッチ係合面35eに係合片36aが係止されることで回り止めされる(図4(a)参照)。このとき、スイングドア11は、係合凹部35aにおいてストライカSTLと係合してこれを抜け止めする半ドア状態にある。このときのロアラッチ機構30の状態をハーフラッチ状態といい、ラッチ35の回動位置をハーフラッチ位置という。
続いて、スイングドア11の更なる閉作動に伴い、係合凹部35a内にストライカSTLが更に進入したとする。この際、ストライカSTLにより係合凹部35aの内壁面が押圧されることで、ラッチ35は、ラッチ付勢ばねに抗して図示反時計回転方向に更に回動し、図3に示すように、フルラッチ係合面35dに係合片36aが係止されることで回り止めされる。このとき、スイングドア11は、係合凹部35aにおいてストライカSTLと係合してこれを抜け止めする全閉状態にある。このときのロアラッチ機構30の状態をフルラッチ状態(係合状態)といい、ラッチ35の回動位置をフルラッチ位置という。
なお、ラッチ35は、フルラッチ位置で適宜のストッパに近接することで、フルラッチ位置を超える回動量が一定範囲に制限されている。
また、ハーフラッチ状態又はフルラッチ状態において、ポール36がポール付勢ばねに抗して図示時計回転方向に回動すると、係合片36aによるハーフラッチ係合面35e又はフルラッチ係合面35dの係止が解除される。このとき、ラッチ35は、例えばシール部材の反発力などでスイングドア11が開作動し始めることに伴い、係合凹部35a内から退出するストライカSTLにより係合凹部35aの内壁面が押圧されることで、図示時計回転方向に回動する。そして、スイングドア11は、係合凹部35aにおけるストライカSTLとの係合を解除して開放可能となる。
なお、ロアラッチ機構30は、ポール駆動レバー37においてオープンレバー(図示略)を介して前述のオープンケーブルC1に連携されている。そして、操作ハンドル15が操作されると、その操作力がリモコン16及びオープンケーブルC1及びオープンレバーを介してポール駆動レバー37に伝達されることで、該ポール駆動レバー37と共にポール36が前述の回動をするように構成されている。
図2及び図3に示すように、ロアクローザ20は、縦壁31bの上端部においてベースプレート31に締結されて上方に向かって広がる、例えば金属板からなるメインブラケット21を有する。メインブラケット21は、ベースプレート31とは別にスイングドア11に締結されている。図5に併せ示すように、このメインブラケット21は、略扇状の第1取付部22を有するとともに、該第1取付部22から前方斜め上方に突出する略三角形の第2取付部23を有し、更に第1取付部22の上端から後方に延出する略舌片状のケーブル取付部24を有する。
メインブラケット21には、前述のアクチュエータ40が設置されている。このアクチュエータ40は、電動モータ41と、該電動モータ41の回転軸の回転を減速する減速機構42とを有しており、該減速機構42においてメインブラケット21の第2取付部23に締結されている。この減速機構42は、ウォームギヤと、例えばリングギヤ、サンギヤ及びキャリアをそれぞれ固定軸、入力軸及び出力軸とする適宜の遊星歯車装置とを内蔵している。
また、図6に示すように、アクチュエータ40は、減速機構42の車内側にキャリアと一体回転する出力ギヤ43を有する。さらに、アクチュエータ40は、出力ギヤ43の前方斜め下方で該出力ギヤ43の軸線と平行な軸線周りに回動自在に連結された、例えば樹脂製の略アーム状のキャンセルレバー44を有する。アクチュエータ40は、キャンセルレバー44において前述のキャンセルケーブルC2に接続されている。このキャンセルレバー44は、減速機構42のリングギヤと係合・離脱可能な適宜のキャンセル部材に連結されている。キャンセルレバー44は、操作ハンドル15の操作力が前述のように伝達されると、軸線周りに回動してキャンセル部材及びリングギヤの係合状態を解除する。このとき、リングギヤが回転自在になってキャリアと共に出力ギヤ43の回転が停止、即ちアクチュエータ40の出力が停止するようになっている。つまり、アクチュエータ40は、その内部で電動モータ41の出力伝達経路を遮断可能となっている。
図2に示すように、アクチュエータ40は、メインブラケット21の第1取付部22において減速機構42の軸線と平行な軸線周りに回動自在に連結されたクローズレバー45を有する。このクローズレバー45は、その軸線を中心とする前方に向かう径方向(即ち減速機構42等に近付く方向)に延びる略鎌状の第1レバー突片46を有するとともに、後方に向かう径方向に延びる略二又状の第2レバー突片47を有する。
第1レバー突片46の外周部には、出力ギヤ43と噛合するセクタギヤ部46aが形成されている。従って、出力ギヤ43が回転すると、これに連動してクローズレバー45が回転する。
第2レバー突片47の先端部には、その図示時計回転方向に先行する側の端面から略直角に起立するロアラッチ作動部としての押圧片47aが形成されている。この押圧片47aは、その図示時計回転方向の回動軌跡上にハーフラッチ位置にあるラッチ35の連動片35fが配置されるようになっている(図4(a)参照)。従って、クローズレバー45が図示時計回転方向に回転すると、押圧片47aに連動片35fの押圧されるラッチ35は、図示反時計回転方向に回動してフルラッチ位置に到達する(図4(b)参照)。
また、第2レバー突片47の先端部には、その図示反時計回転方向に先行する側で略鍵穴状のケーブル引込み孔47bが形成されている。そして、第2レバー突片47の先端部には、例えば金属板からなる略三角形のケーブル引込みプレート48が締結されている。このケーブル引込みプレート48は、第2レバー突片47に締結される基端部に対して先端部が車外側に変位するように曲成されており、該先端部において第2レバー突片47との間に車両の幅方向の隙間を形成する。この先端部には、ケーブル引込み孔47bと同心の略円形のケーブル引込み孔48aが形成されている。ケーブル引込みプレート48は、第2レバー突片47と協働してアッパラッチ作動部としてのケーブル引込み部49を構成する。
アクチュエータ40は、クローズレバー45のケーブル引込み部49において前述の駆動ケーブルC4に接続されている。
すなわち、メインブラケット21のケーブル取付部24には、その車外側から重ねられる状態で、例えば金属板からなるサブブラケット25が取着されている。このサブブラケット25は、ケーブル取付部24の外形に合わせて略舌片状に成形されている。一方、駆動ケーブルC4のアウタケーシング70は、ロアクローザ20側の先端部71がケーブル取付部24及びサブブラケット25の間に挟持された状態で長手方向に沿う移動が規制されている。そして、アウタケーシング70に摺動自在に挿通されたワイヤ75のアウタケーシング70から露出するロアクローザ20側の端末76は、ケーブル引込み孔47b等と同心の略円柱状に成形されている。ワイヤ75の端末76は、両端がケーブル引込み孔47b及びケーブル引込み孔48aに回動自在に嵌挿されることでケーブル引込み部49(クローズレバー45)に連結されている。そして、クローズレバー45が図示時計回転方向に回動すると、アウタケーシング70からワイヤ75がロアクローザ20側に引き込まれる。
次に、アッパクローザ50について説明する。
図7〜図9に示すように、アッパクローザ50は、立柱部14aの上端部に載置されるハウジング61を備える。このハウジング61は、例えば金属板からなるメインプレート62と、該メインプレート62と略平行にその前方に配置された例えば金属板からなるサブプレート63と、それらメインプレート62及びサブプレート63の間に挟まれた樹脂ボデー64とを有する。そして、ハウジング61には、サブプレート63及び樹脂ボデー64の間に亘って略スリット状のストライカ入出部61aが形成されている。このストライカ入出部61aは、スイングドア11の閉作動時にストライカSTUが進入するように配置されている。
なお、メインプレート62には、その下端から前方に起立する略L字状のケーブル取付部62aが形成されている。前述の駆動ケーブルC4のアウタケーシング70は、アッパクローザ50側の先端部72がケーブル取付部62aに保持された状態で長手方向に沿う移動が規制されている。
アッパラッチ機構60は、樹脂ボデー64に収容されたラッチ65及びポール66を有する。ラッチ65及びポール66は、樹脂ボデー64を貫通する状態でメインプレート62及びサブプレート63の間に架け渡された互いに平行な一対の支持軸67,68にそれぞれ軸支されている。両支持軸67,68は、車両の高さ方向に並設されている。
ラッチ65には、ストライカ入出部61aの配置に合わせて略U字状の係合凹部65aが形成されている。また、ラッチ65は、支持軸67を挟む係合凹部65aの反対側で周方向に並ぶ一対の突部65b,65cを有する。図示反時計回転方向に先行する側に配置された一方の突部65bの当該方向に先行する端面はフルラッチ係合面65dを形成し、他方の突部65cの当該方向に先行する端面はハーフラッチ係合面65eを形成する。ラッチ65は、ハウジング61に一端の掛止されたラッチ付勢ばね(図示略)の他端が掛止されることで図示反時計回転方向に回動する側に付勢されるとともに、該ハウジング61に設置されたラッチストッパ(図示略)に当接することで当該方向への回動が規制され、所定の初期回動位置(アンラッチ位置)に保持される。なお、ラッチ65は、支持軸67を中心とする一の径方向(図7において右方)に鉤爪状の連動片65fを突出する。
一方、ポール66は、支持軸68からその径方向一側(図7の左側)に延出する略鉤爪状の係合片66aを形成する。また、ポール66は、支持軸68からその径方向他側(図7の左下側)に延出する略アーム状の被押圧部66bを形成する。このポール66は、ポール付勢ばね(図示略)により図示時計回転方向に回動する側、即ち係合片66aを上方に移動させる側に付勢され、所定の初期回動位置に保持される。
なお、アッパラッチ機構60(ラッチ65、ポール66)の基本的な動作は、符号及び方向が異なることを除けばロアラッチ機構30と同様であるため、その説明を省略する。
なお、ラッチ65も、フルラッチ位置で適宜のストッパに近接することで、フルラッチ位置を超える回動量が一定範囲に制限されている。
メインプレート62には、ポール66等の下方で支持軸67の中心線と平行に中心線の延びる支持軸51が設けられるとともに、該支持軸51には、例えば金属板からなるリリースレバー52が軸支されている。このリリースレバー52は、支持軸51を中心とする径方向に延びる略アーム状の接続部52aを有するとともに、図示時計回転方向の回動軌跡上にポール66の被押圧部66bが位置する押圧部52bを有する。
アッパラッチ機構60は、接続部52aにおいて前述のオープンケーブルC3に接続されている。そして、操作ハンドル15が操作されると、その操作力がリモコン16及びオープンケーブルC3を介して伝達されることで、リリースレバー52が図示時計回転方向に回動する。そして、押圧部52bに被押圧部66bの押圧されるポール66が図示反時計回転方向に回動する。このとき、アッパラッチ機構60がハーフラッチ状態又はフルラッチ状態にあれば、係合片66aによるハーフラッチ係合面65e又はフルラッチ係合面65dの係止が解除される。そして、スイングドア11は、係合凹部65aにおけるストライカSTUとの係合を解除して開放可能となる。
また、樹脂ボデー64には、その車外側縁部に沿って車両の高さ方向に連通するガイド部64aが形成されるとともに、該ガイド部64aには、その連通方向にスライダ55が摺動自在に配置されている。このスライダ55は、例えば金属板からなり、ガイド部64a内に位置する略長尺状の本体部55aを有するとともに、該本体部55aの下端に接続されてガイド部64aから露出する略四角筒状の接続部55bを有する。アッパラッチ機構60は、接続部55bにおいて前述の駆動ケーブルC4(ワイヤ75)に接続されている。従って、前述のようにワイヤ75がロアクローザ20側に引き込まれると、スライダ55はガイド部64aに沿って下方に移動する。なお、スライダ55には、サブプレート63に一端の係止された引張コイルスプリング56の他端が掛止されている。スライダ55は、引張コイルスプリング56により上方(即ちワイヤ75の引込み方向とは逆方向)に移動する側に付勢されるとともに、ガイド部64aの終端に当接することで当該方向への移動が規制され、所定の初期位置に保持される。
スライダ55には、本体部55aの範囲で車両の幅方向に連通する略四角形の長孔55cが形成されている。スライダ55が初期位置にあるとき、長孔55cは、ラッチ65がアンラッチ位置及びフルラッチ位置の間を移動する際に連動片65fの移動軌跡を開放する。そして、ラッチ65がハーフラッチ位置にあるとき、長孔55cには連動片65fが挿通される(図9参照)。従って、ラッチ65がハーフラッチ位置にある状態でスライダ55がガイド部64aに沿って初期位置から下方に移動すると、長孔55cの上端の内壁面に連動片65fの押圧されるラッチ65は、図示時計回転方向に回動してフルラッチ位置に到達する。このとき、スイングドア11は、半ドア状態から全閉状態になるまで閉作動する。
なお、ロアクローザ20側へのワイヤ75の引込みが終了すると、スライダ55はフルラッチ位置にあるラッチ65を残置したまま引張コイルスプリング56に付勢されて初期位置に復帰する。このとき、長孔55cは、ラッチ65がフルラッチ位置からアンラッチ位置へと移動する際の連動片65fの移動軌跡を開放することはいうまでもない。
次に、スイングドア11が閉作動に伴い半ドア状態に到達したときの作用について総括して説明する。このとき、ロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60は共にハーフラッチ状態にある(図4(a)、図9参照)。なお、車両用ドアロック装置は、ロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60の少なくとも一方がハーフラッチ状態又はフルラッチ状態にあることを検知する適宜の検知部材(図示略)を備えており、前述のECU90は、当該検知部材の検知結果に基づいてスイングドア11が半ドア状態又は全閉状態にあることを検知する。そして、ECU90は、スイングドア11が半ドア状態にあることが検知されると、全閉状態まで閉作動させるべくアクチュエータ40の駆動を開始する。
アクチュエータ40の駆動に伴い電動モータ41が一方向に回転すると、該回転が減速機構42及び出力ギヤ43を介してクローズレバー45に伝達されて、該クローズレバー45が一方向(図4(a)において時計回転方向)に回動する。このとき、押圧片47aに連動片35fを押圧されるラッチ35は、図示反時計回転方向に回動してフルラッチ位置に到達する(図4(b)参照)。そして、フルラッチ位置に到達したラッチ35は、フルラッチ係合面35dにポール36の係合片36aが係止されることで回り止めされ、ロアラッチ機構30がフルラッチ状態になる。
同時に、クローズレバー45が一方向に回動すると、ケーブル引込み部49によりワイヤ75がロアクローザ20側に引き込まれ、引張コイルスプリング56の付勢力に抗してスライダ55がガイド部64aに沿って下方に移動する。このとき、長孔55cの内壁面に連動片65fの押圧されるラッチ65は、図9において時計回転方向に回動してフルラッチ位置に到達する。そして、フルラッチ位置に到達したラッチ65は、フルラッチ係合面65dにポール66の係合片66aが係止されることで回り止めされ、アッパラッチ機構60がフルラッチ状態になる。
以上により、スイングドア11が全閉状態になる。
ECU90は、前述の検知部材の検知結果に基づいてスイングドア11が全閉状態にあることが検知されると、アクチュエータ40の駆動を停止するとともに、電動モータ41を逆方向に回転させるべくアクチュエータ40の駆動を開始する。
アクチュエータ40の駆動に伴い電動モータ41が逆方向に回転すると、該回転が減速機構42及び出力ギヤ43を介してクローズレバー45に伝達されて、該クローズレバー45が逆方向(図4(b)において反時計回転方向)に回動する。このとき、押圧片47aから連動片35fの解放されたラッチ35は、アンラッチ位置までの回動軌跡が開放される(図3参照)。
加えて、クローズレバー45が逆方向に回動すると、スライダ55はフルラッチ位置にあるラッチ65を残置したまま引張コイルスプリング56に付勢されてアッパクローザ50側にワイヤ75を引き込みつつ初期位置に復帰する。このとき、長孔55cの内壁面から連動片65fの解放されたラッチ65は、アンラッチ位置までの回動軌跡が開放される(図7参照)。
なお、スイングドア11が半ドア状態又は全閉状態にあるときに操作ハンドル15が操作されると、その操作力が前述の態様でポール36,66に伝達されて係合片36a,66aによるハーフラッチ係合面35e,65e又はフルラッチ係合面35d,65dの係止が解除される。これにより、スイングドア11が開放可能となる。
次に、クローズレバー45について更に説明する。
図10に示すように、クローズレバー45は、例えば金属板からなるアッパレバー80及びロアレバー85と、これらアッパレバー80及びロアレバー85の間に介装されたロア用付勢部材89とで構成されている。
アッパレバー80は、前述の第1レバー突片46を有してメインブラケット21に回動自在に連結されている。従って、アクチュエータ40の出力ギヤ43が回転すると、これに連動してアッパレバー80が回動する。また、アッパレバー80は、後方斜め上方に向かう径方向に延びるアッパレバー突片81を有する。前述のケーブル引込み部49は、アッパレバー突片81の先端部にケーブル引込みプレート48が締結されることで構成されている。なお、アッパレバー80には、アッパレバー突片81の基端部上端から車外側(紙面に直交する手前側)に起立する略爪状のばね係止片82が突設されている。
ロアレバー85は、アッパレバー80の車内側(紙面に直交する奥側)でこれに重ねられており、該アッパレバー80と同軸でメインブラケット21に回動自在に連結されている。つまり、ロアレバー85は、アッパレバー80に対して相対回動可能にメインブラケット21に連結されている。
ロアレバー85は、後方斜め下方に向かう径方向に延びるロアレバー突片86を有する。前述の押圧片47aは、ロアレバー突片86の先端部に形成されている。ロアレバー突片86は、アッパレバー突片81と協働して前述の第2レバー突片47を構成する。また、ロアレバー85は、前方に向かう径方向に延びる略二又状の第3レバー突片87を有する。
第3レバー突片87には、第1レバー突片46よりも下方に位置する先端から車外側に起立する略爪状のストッパ片87aが突設されている。従って、アッパレバー80に対するロアレバー85の図示時計回転方向の回動は、ストッパ片87aが第1レバー突片46に当接するまでの範囲に制限されている。また、第3レバー突片87には、第1レバー突片46よりも上方に位置する先端から車外側に起立する略爪状のばね係止片87bが突設されている。
ロア用付勢部材89は、例えば引張コイルスプリングからなり、両脚部が両ばね係止片82,87bにそれぞれ掛止されている。従って、ロアレバー85は、圧縮方向に弾性復帰しようとするロア用付勢部材89に付勢されて、アッパレバー80に対して図示時計回転方向に回動する。そして、ロアレバー85は、通常はストッパ片87aが第1レバー突片46に当接することで、アッパレバー80に対して所定の回動位置に保持されている。ロア用付勢部材89の付勢力は、通常はロアレバー85が当該回動位置に保持された状態でアッパレバー80の回転を伝達できるように好適に確保されている。すなわち、ロア用付勢部材89は、ラッチ35をハーフラッチ位置からフルラッチ位置まで回動させるときに要する荷重を超えない限り実質的に弾性変形しないようにその付勢力が設定されている。従って、アッパレバー80及びロアレバー85は、通常はロア用付勢部材89を介して実質的に一体化されて、前述のようにクローズレバー45として機能する。
ところで、クローズレバー45が図示時計回転方向に回動する際、アッパラッチ機構60に先行してロアラッチ機構30がフルラッチ状態になることがある。これは、例えば駆動ケーブルC4のワイヤ75の長さばらつき、各機構部のばらつきに起因するものである。
図11に実線で示すように、クローズレバー45が図示時計回転方向に回動することに伴い、押圧片47aにラッチ35(連動片35f)の押圧されるロアラッチ機構30がフルラッチ状態になったとする。そして、この段階では、ケーブル引込み部49によるワイヤ75の引き込み量が不十分で、アッパラッチ機構60が未だフルラッチ状態になっていないとする。
ロアラッチ機構30が先行してフルラッチ状態になることで、前述のストッパによりラッチ35と共に押圧片47a(ロアレバー85)の回動が規制される。このとき、アッパレバー80は、ロアレバー85を残置したままロア用付勢部材89を弾性変形させつつ回動可能である(回転許容部)。従って、図11に2点鎖線で示すように、アッパレバー80が図示時計回転方向に更に回動すると、ケーブル引込み部49によりワイヤ75が十分に引き込まれ、前述のようにアッパラッチ機構60がフルラッチ状態になる。
つまり、ロアラッチ機構30が先行してフルラッチ状態になることで押圧片47aの回動が規制されたとしても、アッパラッチ機構60がフルラッチ状態になるまでケーブル引込み部49の回動が許容される(回転許容部)。
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、スイングドア11が半ドア状態にあるときにアクチュエータ40によってアッパラッチ機構60及びロアラッチ機構30を共にハーフラッチ状態からフルラッチ状態にでき、ひいてはスイングドア11をより的確に全閉状態にできる。また、アクチュエータ40は、アッパラッチ機構60及びロアラッチ機構30に共用の一つでよいため、例えばそれらアッパラッチ機構60及びロアラッチ機構30に個別にアクチュエータを設ける場合に比べて装置全体としての重量の増加及びコストの増加を抑制できる。
(2)本実施形態では、ロアラッチ機構30が先行してフルラッチ状態になることで押圧片47aの回動が規制されたとしても、アッパラッチ機構60がフルラッチ状態になるまでケーブル引込み部49の回動が許容される。従って、電動モータ41の回転が伝達されるクローズレバー45の一方向の回動によってロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60を共にフルラッチ状態にできる。すなわち、ロアラッチ機構30が先行してフルラッチ状態になることで押圧片47a(ロアレバー85)の回動が規制されたとしても、アッパレバー80は、ロア用付勢部材89を弾性変形させつつ回動可能である。つまり、アッパラッチ機構60がフルラッチ状態になるまでケーブル引込み部49(アッパレバー80)の回動が許容される。このように、クローズレバー45がアッパレバー80と、ロアレバー85とを備え、前述の回動許容をロア用付勢部材89で構成することで、簡易にロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60を共にフルラッチ状態にできる。
(3)本実施形態では、ロアレバー85の回動が規制された状態でアッパレバー80が回動するとき、ロアレバー85に生じるトルクの増加分は、ロア用付勢部材89の付勢力に応じたトルクに制限される。このように、ロア用付勢部材89がロアレバー85に生じるトルクを制限するトルクリミッタとして機能することで、ロアレバー85やロアラッチ機構30の機構部(ラッチ35等)、ラッチ35の回動量を制限する前述のストッパ等に過負荷がかかることを抑制できる。
従って、例えばロアラッチ機構30の機構部(ラッチ35等)の剛性を確保するためにロアラッチ機構30が大型化することを抑制できる。あるいは、ロアレバー85やロアラッチ機構30の機構部(ラッチ35等)などの変形を抑制できる。
(4)本実施形態では、ロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60が同時にフルラッチ状態にならなくてもよい。このため、例えば駆動ケーブルC4のワイヤ75の長さばらつきや各機構部のばらつきなどを僅少又は皆無にするためにワイヤ75の長さ調整をしなくてもよく、組付工数を削減できる。
(5)本実施形態では、ストッパ片87aにより、ロア用付勢部材89に付勢されるロアレバー85及びアッパレバー80同士が当接することで、ロアレバー85は、通常はアッパレバー80に対して所定の回動位置に保持される。このため、クローズレバー45の姿勢をより安定化できる。
(第2の実施形態)
以下、車両用ドアロック装置の第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態は、アッパラッチ機構60が先行してフルラッチ状態になっても、ロアラッチ機構30がフルラッチ状態になれるようにしたことが第1の実施形態とは異なる構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明は省略する。
図12に示すように、本実施形態のクローズレバー45は、例えば金属板からなるロアレバー100及びアッパレバー110と、これらロアレバー100及びアッパレバー110の間に介装されたアッパ用付勢部材120とで構成されている。
ロアレバー100は、前述の第1レバー突片46を有してメインブラケット21に回動自在に連結されている。従って、アクチュエータ40の出力ギヤ43が回転すると、これに連動してロアレバー100が回動する。また、ロアレバー100は、後方斜め下方に向かう径方向に延びるロアレバー突片101を有する。前述の押圧片47aは、ロアレバー突片101の先端部に形成されている。なお、ロアレバー100には、ロアレバー突片101の先端部上端から車外側(紙面に直交する手前側)に起立する略爪状のばね係止片102が突設されている。
アッパレバー110は、ロアレバー100の車外側でこれに重ねられており、該ロアレバー100と同軸でメインブラケット21に回動自在に連結されている。つまり、アッパレバー110は、ロアレバー100に対して相対回動可能にメインブラケット21に連結されている。
アッパレバー110は、後方斜め上方に向かう径方向に延びるアッパレバー突片111を有する。前述のケーブル引込み部49は、アッパレバー突片111の先端部にケーブル引込みプレート48が締結されることで構成されている。アッパレバー突片111は、ロアレバー突片101と協働して前述の第2レバー突片47を構成する。なお、アッパレバー突片111には、その先端部下端から車外側に起立する略爪状のばね係止片111aが突設されている。
また、アッパレバー110は、前方斜め下方に向かう径方向に延びる略三角形状の第3レバー突片112を有する。第3レバー突片112には、第1レバー突片46よりも下方に位置する先端から車内側(紙面に直交する奥側)に起立する略爪状のストッパ片112aが突設されている。従って、ロアレバー100に対するアッパレバー110の図示時計回転方向の回動は、ストッパ片112aが第1レバー突片46に当接するまでの範囲に制限されている。
アッパ用付勢部材120は、例えば引張コイルスプリングからなり、両脚部が両ばね係止片102,111aにそれぞれ掛止されている。従って、アッパレバー110は、圧縮方向に弾性復帰しようとするアッパ用付勢部材120に付勢されて、ロアレバー100に対して図示時計回転方向に回動する。そして、アッパレバー110は、通常はストッパ片112aが第1レバー突片46に当接することで、ロアレバー100に対して所定の回動位置に保持されている。アッパ用付勢部材120の付勢力は、通常はアッパレバー110が当該回動位置に保持された状態でロアレバー100の回転を伝達できるように好適に確保されている。すなわち、アッパ用付勢部材120は、ラッチ65をハーフラッチ位置からフルラッチ位置まで回動させるべくワイヤ75を引き込むときに要する荷重を超えない限り実質的に弾性変形しないようにその付勢力が設定されている。従って、ロアレバー100及びアッパレバー110は、通常はアッパ用付勢部材120を介して実質的に一体化されて、前述のようにクローズレバー45として機能する。
ところで、クローズレバー45が図示時計回転方向に回動する際、ロアラッチ機構30に先行してアッパラッチ機構60がフルラッチ状態になることがある。これは、例えば駆動ケーブルC4のワイヤ75の長さばらつき、各機構部のばらつきに起因するものである。
図13に実線で示すように、クローズレバー45が図示時計回転方向に回動することに伴い、ケーブル引込み部49によりワイヤ75を介して引き込まれるスライダ55にラッチ65(連動片65f)の押圧されるアッパラッチ機構60がフルラッチ状態になったとする。そして、この段階では、押圧片47aの回動量が不十分で、ロアラッチ機構30が未だフルラッチ状態になっていないとする。
アッパラッチ機構60が先行してフルラッチ状態になることで、前述のストッパによりラッチ65と共にケーブル引込み部49(アッパレバー110)の回動が規制される。このとき、ロアレバー100は、アッパレバー110を残置したままアッパ用付勢部材120を弾性変形させつつ回動可能である(回転許容部)。従って、図13に2点鎖線で示すように、ロアレバー100が図示時計回転方向に更に回動すると、押圧片47aにラッチ35が十分に押圧され、前述のようにロアラッチ機構30がフルラッチ状態になる。
つまり、アッパラッチ機構60が先行してフルラッチ状態になることでケーブル引込み部49の回動が規制されたとしても、ロアラッチ機構30がフルラッチ状態になるまで押圧片47aの回動が許容される(回転許容部)。
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第1の実施形態における(1)、(4)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、アッパラッチ機構60が先行してフルラッチ状態になることでケーブル引込み部49の回動が規制されたとしても、ロアラッチ機構30がフルラッチ状態になるまで押圧片47aの回動が許容される。従って、電動モータ41の回転が伝達されるクローズレバー45の一方向の回動によってロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60を共にフルラッチ状態にできる。すなわち、アッパラッチ機構60が先行してフルラッチ状態になることでケーブル引込み部49(アッパレバー110)の回動が規制されたとしても、ロアレバー100は、アッパ用付勢部材120を弾性変形させつつ回動可能である。つまり、ロアラッチ機構30がフルラッチ状態になるまで押圧片47a(ロアレバー100)の回動が許容される。このように、クローズレバー45がロアレバー100と、アッパレバー110とを備え、前述の回動許容をアッパ用付勢部材120で構成することで、簡易にロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60を共にフルラッチ状態にできる。
(2)本実施形態では、アッパレバー110の回動が規制された状態でロアレバー100が回動するとき、アッパレバー110に生じるトルクの増加分は、アッパ用付勢部材120の付勢力に応じたトルクに制限される。このように、アッパ用付勢部材120がアッパレバー110に生じるトルクを制限するトルクリミッタとして機能することで、アッパレバー110やアッパラッチ機構60の機構部(ラッチ65等)、ラッチ65の回動量を制限する前述のストッパ等に過負荷がかかることを抑制できる。
従って、例えばアッパラッチ機構60の機構部(ラッチ65等)の剛性を確保するためにアッパラッチ機構60が大型化することを抑制できる。あるいは、アッパレバー110やアッパラッチ機構60の機構部(ラッチ65等)などの変形を抑制できる。
(3)本実施形態では、ストッパ片112aにより、アッパ用付勢部材120に付勢されるロアレバー100及びアッパレバー110同士が当接することで、ロアレバー100は、通常はアッパレバー110に対して所定の回動位置に保持される。このため、クローズレバー45の姿勢をより安定化できる。
(第3の実施形態)
以下、車両用ドアロック装置の第3の実施形態について説明する。なお、第3の実施形態は、ロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60のいずれが先行してフルラッチ状態になっても、残りがフルラッチ状態になれるようにしたことが第1及び第2の実施形態とは異なる構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明は省略する。
図14に示すように、本実施形態のクローズレバー45は、例えば金属板からなる入力レバー150、ロアレバー160及びアッパレバー170と、入力レバー150及びロアレバー160の間に介装されたロア用付勢部材180と、入力レバー150及びアッパレバー170の間に介装されたアッパ用付勢部材190とで構成されている。
入力レバー150は、前述の第1レバー突片46を有してメインブラケット21に回動自在に連結されている。従って、アクチュエータ40の出力ギヤ43が回転すると、これに連動して入力レバー150が回動する。
ロアレバー160は、入力レバー150の車内側(紙面に直交する奥側)でこれに重ねられており、該入力レバー150と同軸でメインブラケット21に回動自在に連結されている。つまり、ロアレバー160は、入力レバー150に対して相対回動可能にメインブラケット21に連結されている。
ロアレバー160は、後方斜め下方に向かう径方向に延びるロアレバー突片161を有する。前述の押圧片47aは、ロアレバー突片161の先端部に形成されている。また、ロアレバー160は、前方に向かう径方向に延びる略L字状の第3レバー突片162を有する。第3レバー突片162には、第1レバー突片46よりも下方に位置する先端から車外側(紙面に直交する手前側)に起立する略爪状のストッパ片162aが突設されている。従って、入力レバー150に対するロアレバー160の図示時計回転方向の回動は、ストッパ片162aが第1レバー突片46に当接するまでの範囲に制限されている。
アッパレバー170は、入力レバー150の車外側でこれに重ねられており、該入力レバー150と同軸でメインブラケット21に回動自在に連結されている。つまり、アッパレバー170は、入力レバー150に対して相対回動可能にメインブラケット21に連結されている。
アッパレバー170は、後方斜め上方に向かう径方向に延びるアッパレバー突片171を有する。前述のケーブル引込み部49は、アッパレバー突片171の先端部にケーブル引込みプレート48が締結されることで構成されている。アッパレバー突片171は、ロアレバー突片161と協働して前述の第2レバー突片47を構成する。また、アッパレバー170は、前方に向かう径方向に延びる略L字状の第4レバー突片172を有する。第4レバー突片172には、第1レバー突片46よりも下方に位置する先端から車内側に起立する略爪状のストッパ片172aが突設されている。従って、入力レバー150に対するアッパレバー170の図示時計回転方向の回動は、ストッパ片172aが第1レバー突片46に当接するまでの範囲に制限されている。
ロア用付勢部材180は、例えば入力レバー150等の軸線周りに巻回されたねじりコイルスプリングからなり、両脚部が第1レバー突片46及びロアレバー突片161にそれぞれ掛止されている。従って、ロアレバー160は、ねじれの緩方向に弾性復帰しようとするロア用付勢部材180に付勢されて、入力レバー150に対して図示時計回転方向に回動する。そして、ロアレバー160は、通常はストッパ片162aが第1レバー突片46に当接することで、入力レバー150に対して所定の回動位置に保持されている。ロア用付勢部材180の付勢力は、通常はロアレバー160が当該回動位置に保持された状態で入力レバー150の回転を伝達できるように好適に確保されている。すなわち、ロア用付勢部材180は、ラッチ35をハーフラッチ位置からフルラッチ位置まで回動させるときに要する荷重を超えない限り実質的に弾性変形しないようにその付勢力が設定されている。
アッパ用付勢部材190は、例えば入力レバー150等の軸線周りに巻回されたねじりコイルスプリングからなり、両脚部が第1レバー突片46及びアッパレバー突片171にそれぞれ掛止されている。従って、アッパレバー170は、ねじれの緩方向に弾性復帰しようとするアッパ用付勢部材190に付勢されて、入力レバー150に対して図示時計回転方向に回動する。そして、アッパレバー170は、通常はストッパ片172aが第1レバー突片46に当接することで、入力レバー150に対して所定の回動位置に保持されている。アッパ用付勢部材190の付勢力は、通常はアッパレバー170が当該回動位置に保持された状態で入力レバー150の回転を伝達できるように好適に確保されている。すなわち、アッパ用付勢部材190は、ラッチ65をハーフラッチ位置からフルラッチ位置まで回動させるべくワイヤ75を引き込むときに要する荷重を超えない限り実質的に弾性変形しないようにその付勢力が設定されている。
以上により、入力レバー150、ロアレバー160及びアッパレバー170は、通常はロア用付勢部材180及びアッパ用付勢部材190を介して実質的に一体化されて、前述のようにクローズレバー45として機能する。
ところで、クローズレバー45が図示時計回転方向に回動する際、既述のようにアッパラッチ機構60に先行してロアラッチ機構30がフルラッチ状態になることがある。
図15に実線で示すように、クローズレバー45が図示時計回転方向に回動することに伴い、押圧片47aにラッチ35(連動片35f)の押圧されるロアラッチ機構30がフルラッチ状態になったとする。そして、この段階では、ケーブル引込み部49によるワイヤ75の引き込み量が不十分で、アッパラッチ機構60が未だフルラッチ状態になっていないとする。
ロアラッチ機構30が先行してフルラッチ状態になることで、前述のストッパによりラッチ35と共に押圧片47a(ロアレバー160)の回動が規制される。このとき、入力レバー150は、ロアレバー160を残置したままロア用付勢部材180を弾性変形させつつ回動可能である(回転許容部)。従って、図15に2点鎖線で示すように、入力レバー150と共にアッパレバー170が図示時計回転方向に更に回動すると、ケーブル引込み部49によりワイヤ75が十分に引き込まれ、前述のようにアッパラッチ機構60がフルラッチ状態になる。
つまり、ロアラッチ機構30が先行してフルラッチ状態になることで押圧片47aの回動が規制されたとしても、アッパラッチ機構60がフルラッチ状態になるまでケーブル引込み部49の回動が許容される(回転許容部)。
あるいは、クローズレバー45が図示時計回転方向に回動する際、既述のようにロアラッチ機構30に先行してアッパラッチ機構60がフルラッチ状態になることがある。
図16に実線で示すように、クローズレバー45が図示時計回転方向に回動することに伴い、ケーブル引込み部49によりワイヤ75を介して引き込まれるスライダ55にラッチ65(連動片65f)の押圧されるアッパラッチ機構60がフルラッチ状態になったとする。そして、この段階では、押圧片47aの回動量が不十分で、ロアラッチ機構30が未だフルラッチ状態になっていないとする。
アッパラッチ機構60が先行してフルラッチ状態になることで、前述のストッパによりラッチ65と共にケーブル引込み部49(アッパレバー170)の回動が規制される。このとき、入力レバー150は、アッパレバー170を残置したままアッパ用付勢部材190を弾性変形させつつ回動可能である(回転許容部)。従って、図16に2点鎖線で示すように、入力レバー150と共にロアレバー160が図示時計回転方向に更に回動すると、押圧片47aにラッチ35が十分に押圧され、前述のようにロアラッチ機構30がフルラッチ状態になる。
つまり、アッパラッチ機構60が先行してフルラッチ状態になることでケーブル引込み部49の回動が規制されたとしても、ロアラッチ機構30がフルラッチ状態になるまで押圧片47aの回動が許容される(回転許容部)。
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第1の実施形態における(1)、(4)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、ロアラッチ機構30が先行してフルラッチ状態になることで押圧片47aの回動が規制されたとしても、アッパラッチ機構60がフルラッチ状態になるまでケーブル引込み部49の回動が許容される。従って、電動モータ41の回転が伝達されるクローズレバー45の一方向の回動によってロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60を共にフルラッチ状態にできる。すなわち、ロアラッチ機構30が先行してフルラッチ状態になることで押圧片47a(ロアレバー160)の回動が規制されたとしても、入力レバー150は、ロア用付勢部材180を弾性変形させつつ回動可能である。つまり、アッパラッチ機構60がフルラッチ状態になるまでケーブル引込み部49(アッパレバー170)の回動が許容される。
あるいは、アッパラッチ機構60が先行してフルラッチ状態になることでケーブル引込み部49の回動が規制されたとしても、ロアラッチ機構30がフルラッチ状態になるまで押圧片47aの回動が許容される。従って、電動モータ41の回転が伝達されるクローズレバー45の一方向の回動によってロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60を共にフルラッチ状態にできる。すなわち、アッパラッチ機構60が先行してフルラッチ状態になることでケーブル引込み部49(アッパレバー170)の回動が規制されたとしても、入力レバー150は、アッパ用付勢部材190を弾性変形させつつ回動可能である。つまり、ロアラッチ機構30がフルラッチ状態になるまで押圧片47a(ロアレバー160)の回動が許容される。
以上により、クローズレバー45が入力レバー150と、ロアレバー160と、アッパレバー170とを備え、前述の回動許容をロア用付勢部材180と、アッパ用付勢部材190とで構成することで、簡易にロアラッチ機構30及びアッパラッチ機構60を共にフルラッチ状態にできる。
(2)本実施形態では、ロアレバー160の回動が規制された状態で入力レバー150が回動するとき、ロアレバー160に生じるトルクの増加分は、ロア用付勢部材180の付勢力に応じたトルクに制限される。このように、ロア用付勢部材180がロアレバー160に生じるトルクを制限するトルクリミッタとして機能することで、ロアレバー160やロアラッチ機構30の機構部(ラッチ35等)、ラッチ35の回動量を制限する前述のストッパ等に過負荷がかかることを抑制できる。
従って、例えばロアラッチ機構30の機構部(ラッチ35等)の剛性を確保するためにロアラッチ機構30が大型化することを抑制できる。あるいは、ロアレバー160やロアラッチ機構30の機構部(ラッチ35等)などの変形を抑制できる。
あるいは、アッパレバー170の回動が規制された状態で入力レバー150が回動するとき、アッパレバー170に生じるトルクの増加分は、アッパ用付勢部材190の付勢力に応じたトルクに制限される。このように、アッパ用付勢部材190がアッパレバー170に生じるトルクを制限するトルクリミッタとして機能することで、アッパレバー170やアッパラッチ機構60の機構部(ラッチ65等)、ラッチ65の回動量を制限する前述のストッパ等に過負荷がかかることを抑制できる。
従って、例えばアッパラッチ機構60の機構部(ラッチ65等)の剛性を確保するためにアッパラッチ機構60が大型化することを抑制できる。あるいは、アッパレバー170やアッパラッチ機構60の機構部(ラッチ65等)などの変形を抑制できる。
(3)本実施形態では、ストッパ片162aにより、ロア用付勢部材180に付勢される入力レバー150及びロアレバー160同士が当接することで、ロアレバー160は、通常は入力レバー150に対して所定の回動位置に保持される。また、ストッパ片172aにより、アッパ用付勢部材190に付勢される入力レバー150及びアッパレバー170同士が当接することで、アッパレバー170は、通常は入力レバー150に対して所定の回動位置に保持される。以上により、クローズレバー45の姿勢をより安定化できる。
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・前記第1の実施形態において、ロア用付勢部材89は、圧縮コイルスプリングやねじりコイルスプリング、ゴムなどであってもよい。
・前記第1の実施形態においては、ロアレバー85の第3レバー突片87に突設したストッパ片87aを第1レバー突片46に当接させることで、アッパレバー80に対してロアレバー85を所定の回動位置に保持した。これに代えて、若しくはこれに加えて、第1レバー突片46に突設したストッパ片をロアレバー85のロアレバー突片86に当接させることで、アッパレバー80に対してロアレバー85を所定の回動位置に保持してもよい。
・前記第1の実施形態において、第3レバー突片87のストッパ片87aを省略してもよい。つまり、ロア用付勢部材89の弾性復帰状態に基づいてアッパレバー80に対してロアレバー85を所定の回動位置に保持してもよい。
・前記第2の実施形態において、アッパ用付勢部材120は、圧縮コイルスプリングやねじりコイルスプリング、ゴムなどであってもよい。
・前記第2の実施形態においては、アッパレバー110の第3レバー突片112に突設したストッパ片112aを第1レバー突片46に当接させることで、ロアレバー100に対してアッパレバー110を所定の回動位置に保持した。これに代えて、若しくはこれに加えて、第1レバー突片46に突設したストッパ片をアッパレバー110の第3レバー突片112に当接させることで、ロアレバー100に対してアッパレバー110を所定の回動位置に保持してもよい。
・前記第2の実施形態において、第3レバー突片112のストッパ片112aを省略してもよい。つまり、アッパ用付勢部材120の弾性復帰状態に基づいてロアレバー100に対してアッパレバー110を所定の回動位置に保持してもよい。
・前記第3の実施形態において、ロア用付勢部材180又はアッパ用付勢部材190は、引張コイルスプリングや圧縮コイルスプリング、ゴムなどであってもよい。
・前記第3の実施形態においては、ロアレバー160の第3レバー突片162に突設したストッパ片162aを第1レバー突片46に当接させることで、入力レバー150に対してロアレバー160を所定の回動位置に保持した。これに代えて、若しくはこれに加えて、第1レバー突片46に突設したストッパ片をロアレバー160の第3レバー突片162に当接させることで、入力レバー150に対してロアレバー160を所定の回動位置に保持してもよい。
・前記第3の実施形態においては、アッパレバー170の第4レバー突片172に突設したストッパ片172aを第1レバー突片46に当接させることで、入力レバー150に対してアッパレバー170を所定の回動位置に保持した。これに代えて、若しくはこれに加えて、第1レバー突片46に突設したストッパ片をアッパレバー170の第4レバー突片172に当接させることで、入力レバー150に対してアッパレバー170を所定の回動位置に保持してもよい。
・前記第3の実施形態において、第3レバー突片162のストッパ片162aを省略してもよい。つまり、ロア用付勢部材180の弾性復帰状態に基づいて入力レバー150に対してロアレバー160を所定の回動位置に保持してもよい。
・前記第3の実施形態において、第4レバー突片172のストッパ片172aを省略してもよい。つまり、アッパ用付勢部材190の弾性復帰状態に基づいて入力レバー150に対してアッパレバー170を所定の回動位置に保持してもよい。
・前記各実施形態においては、アッパラッチ機構60の引き込みに駆動ケーブルC4を使用したが、これに代えて連結部材としての適宜のリンク(例えば金属製の棒状部材)等を使用してもよい。
・前記各実施形態において、アクチュエータ40の動力を駆動ケーブルC4に準じた駆動ケーブルを介してロアラッチ機構30に伝達してもよい。この場合、アクチュエータ40をスイングドア11内の適宜の位置に設けてもよい。
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)上記車両用ドアロック装置において、
前記ロアレバー及び前記アッパレバーの間に介設され、前記ロア用付勢部材に付勢される前記ロアレバー及び前記アッパレバー同士を当接させるストッパ部材を備えた、車両用ドアロック装置。
この構成によれば、前記ストッパ部材により、前記ロア用付勢部材に付勢される前記ロアレバー及び前記アッパレバー同士が当接することで、前記ロアレバーは、通常は前記アッパレバーに対して所定の回動位置に保持される。このため、前記クローズレバーの姿勢をより安定化できる。
(ロ)上記車両用ドアロック装置において、
前記ロアレバー及び前記アッパレバーの間に介設され、前記アッパ用付勢部材に付勢される前記ロアレバー及び前記アッパレバー同士を当接させるストッパ部材を備えた、車両用ドアロック装置。
この構成によれば、前記ストッパ部材により、前記アッパ用付勢部材に付勢される前記ロアレバー及び前記アッパレバー同士が当接することで、前記アッパレバーは、通常は前記ロアレバーに対して所定の回動位置に保持される。このため、前記クローズレバーの姿勢をより安定化できる。
(ハ)上記車両用ドアロック装置において、
前記入力レバー及び前記ロアレバーの間に介設され、前記ロア用付勢部材に付勢される前記入力レバー及び前記ロアレバー同士を当接させるロア用ストッパ部材と、
前記入力レバー及び前記アッパレバーの間に介設され、前記アッパ用付勢部材に付勢される前記入力レバー及び前記アッパレバー同士を当接させるアッパ用ストッパ部材とを備えた、車両用ドアロック装置。
この構成によれば、前記ロア用ストッパ部材により、前記ロア用付勢部材に付勢される前記入力レバー及び前記ロアレバー同士が当接することで、前記ロアレバーは、通常は前記入力レバーに対して所定の回動位置に保持される。同様に、前記アッパ用ストッパ部材により、前記アッパ用付勢部材に付勢される前記入力レバー及び前記アッパレバー同士が当接することで、前記アッパレバーは、通常は前記入力レバーに対して所定の回動位置に保持される。このため、前記クローズレバーの姿勢をより安定化できる。