<貼付剤の第1実施形態>
本発明者らは、本発明に係る貼付剤を完成させる過程で、MCAの存在下において、AA由来の構成単位を有するアクリル系共重合体と、イソシアネート系架橋剤と、を架橋反応させて粘着剤層を試作した。しかし、この試作品では、意外にも、皮膚から剥がすときに粘着剤層が凝集破壊され糊残りする問題があった。その原因として、イソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基により、AA由来の構成単位が有するカルボキシ基が架橋反応されるだけでなく、MCAが有するアミノ基やカルボキシ基も架橋反応に巻き込まれやすいから、AA由来の構成単位が架橋点として機能しにくいため、凝集破壊されやすい軟弱な網目構造が形成されたのであろうと、本発明者らは考えた。
ここで本発明者らは、イソシアネート基に対し、カルボキシ基よりもアルコール性ヒドロキシ基の方が優先的に架橋反応されやすいと考えた。つまり、イソシアネート系架橋剤と、アルコール性ヒドロキシ基を有する構成単位(例えば、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル由来の構成単位)と、を架橋反応させれば、MCAの分子内にあるカルボキシ基が架橋反応に巻き込まれにくいと考えた。また、ノニオン界面活性剤の存在下では、水相にMCAが分布し、油相にアクリル系共重合体やイソシアネート系架橋剤が分布するから、水相に引き離されたMCAは更に架橋反応に巻き込まれにくいと考えた。これらの考えに基づき試作された粘着剤層は、皮膚から剥がすときに糊残りせず剥がせた。このように鋭意検討を重ねた結果、本発明者らは、本発明に係る貼付剤の第1実施形態(以下「貼付剤1a」という。)を開発するに至った。
図1に示すように、貼付剤1aは、支持体3と粘着剤層2aを備える。粘着剤層2aは、粘着性であり三次元的な網目構造を有する樹脂組成物と、この網目構造の微細な隙間に溜められた液状組成物と、を含有して成るシート状物であり、例えば常温(5℃以上かつ35℃以下)で皮膚に軽く触れさせると皮膚に粘着する。粘着剤層2aは、貼付剤1aが貼付されるときに皮膚に接する皮膚当接面6を有し、シート形状において皮膚当接面6の反対側の面で投錨効果により支持体3に接着し支えられている。投錨効果とは、支持体3表面の微細なくぼみや空隙に樹脂組成物の一部が浸透し、粘着剤層2aが支持体3から剥がれにくくなる効果である。
架橋を大別すると、高分子化合物が化学反応による共有結合により連結された化学架橋と、高分子化合物が実質的に共有結合以外の分子間力(分子同士または高分子化合物での離れた部位同士の間に働く力。例えば、水素結合、イオン結合、又は配位結合など。)により連結された物理架橋が挙げられる。粘着剤層2aにおいて樹脂組成物が有する網目構造は、イソシアネート系架橋剤(分子内にイソシアネート基を2つ以上有する化合物)により、アクリル系共重合体が化学架橋され形成された網目構造である。樹脂組成物の原料として用いられるアクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸エステルから選ばれた2種以上のモノマーが付加重合され形成された構造を主に有する共重合体である。(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれた1種以上の化合物を意味する。化学架橋を可能とし比較的に柔らかな樹脂組成物を形成させるために、アクリル系共重合体は、化学架橋に実質的に関与せずソフトセグメントのように機能し得る構成単位(以下「第1構成単位」という。)と、化学架橋に関与しハードセグメントのように機能し得る構成単位(以下「第2構成単位」という。)と、をそれぞれ複数含んで構成される。「実質的に」とは、例外が存在しても、内容や本質において本発明の目的や作用効果の妨げにならない程度に過ぎなければ許容されることを意味する。
アクリル系共重合体の第1構成単位は、化学架橋に実質的に関与せずソフトセグメントのように機能させるために、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、分子内にヒドロキシ基を有しない(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、及び飽和脂肪酸ビニルエステルからなる群(以下「第1モノマー群」という。)より選ばれた1種以上のモノマーに由来するか、又はこの1種以上のモノマーの付加重合物に由来する。第1モノマー群に該当するモノマーは、分子内に(メタ)アクリロイル基またはビニル基を有するため付加重合に関与し得るが、分子内にアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、及びその他にイソシアネート基と反応しやすい基やイソシアネート基を有しないため、実質的に化学架橋に関与しない化合物である。なお、アミノ基は(−NH2)で表わされる。(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基、及びメタクリロイル基からなる群より選ばれた1種以上の置換基である。ヒドロキシ基は、芳香族炭化水素に共有結合されたフェノール性ヒドロキシ基と、芳香族炭化水素に該当しない炭化水素に共有結合されたアルコール性ヒドロキシ基に大別される。アルコール性ヒドロキシ基は、結合している炭素原子に結合された炭化水素基の数に応じ、第一級ヒドロキシ基から第三級ヒドロキシ基のいずれかに分類される。
第1モノマー群に該当する(メタ)アクリル酸アルキルエステルや(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルは、その分子内に有するアルキル基が直鎖状でも分岐鎖状でも良い。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、又は(メタ)アクリル酸エチル等の化合物が例示される。分子内にヒドロキシ基を有しない(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メトキシアルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸エトキシアルキルエステル等の化合物が例示される。第1モノマー群に該当する飽和脂肪酸ビニルエステルは、分子内に有するアルキル基が直鎖状でも分岐鎖状でも良い。飽和脂肪酸ビニルエステルとして、例えば、ラウリル酸ビニル、又はプロピオン酸ビニル等の化合物が挙げられる。第1モノマー群として飽和脂肪酸ビニルエステルを用いる場合に、付加重合の程度を制御しやすい観点から、更に第1モノマー群として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は分子内にヒドロキシ基を有しない(メタ)アクリル酸アルコキシエステルを併用するのが好ましい。同様の観点から、飽和脂肪酸ビニルエステルとして、酢酸ビニル(Vinyl Acetate:以下「VAc」という。)を用いるのが更に好ましい。
上記した飽和脂肪酸ビニルエステルよりも重合反応を制御しやすく、アクリル系共重合体において第1構成単位が結晶化するのを避けソフトセグメントのように機能させやすい観点から、第1モノマー群のモノマーは、好ましくは、構造中にエーテル結合があってもよいアルキル基を分子内に有し、前記アルキル基の炭素数が3以上かつ12以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選ばれた1種以上のモノマーである。例えば、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル等の化合物が挙げられる。同様の観点から、第1モノマー群として用いるモノマーは、直鎖状または分岐鎖状で炭素数が4以上かつ10以下であるアルキル基を分子内に有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選ばれた1種以上の化合物であるのが更に好ましく、このアルキル基が分岐鎖状であるのが更により好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の化合物が挙げられる。
第1構成単位が第1モノマー群から選ばれた1種以上のモノマーの付加重合物に由来する場合、この付加重合物は、第1モノマー群から選ばれた1種のモノマーが付加重合されたホモ重合体でも良い。更に結晶化しにくい観点から、第1構成単位は、第1モノマー群から選ばれた2種以上のモノマーが付加重合された共重合体であるのが好ましい。例えば、第1構成単位として好ましくは、VAcと(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルの共重合体、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルと(メタ)アクリル酸2−メトキシエチルの共重合体が挙げられる。
粘着剤層2aを柔らかい感触にしやすい観点では、アクリル系共重合体は、ソフトセグメントのように機能し得る第1構成単位を主な構成単位とするものが良い。このためには、「アクリル系共重合体の質量」に対し「その原料として用いた第1モノマー群の質量」が占める質量比(第1モノマー群の質量/アクリル系共重合体の質量)が、好ましくは0.50以上、更に好ましくは0.70以上、更により好ましくは0.90以上である。この質量比の計算において第1モノマー群に該当するモノマーを2種以上使用した場合に「第1モノマー群の質量」とは、該当する2種以上のモノマーの合計質量を意味し、このことは他の質量比の計算でも同様である。液状組成物を多く溜め得る網目構造を形成させる観点では、前記質量比(第1モノマー群の質量/アクリル系共重合体の質量)は、好ましくは0.99以下、更に好ましくは0.97以下、更により好ましくは0.95以下である。粘着剤層2aの水蒸気透過性を高め皮膚を蒸れにくくする観点では、第1モノマー群として用いる複数種のモノマーにVAc又はアクリル酸アルコキシエステル等の比較的に高い極性を有するモノマーを含めて、「アクリル系共重合体の質量」に対し「その原料として用いた比較的に高い極性を有するモノマーの質量」が占める質量比(比較的に高い極性を有するモノマーの質量/アクリル系共重合体の質量)が、0.050以上かつ0.30以下となるようにするのが好ましい。
アクリル系共重合体の第2構成単位は、化学架橋に関与させハードセグメントのように機能させ得るために、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドからなる群(以下「第2モノマー群」という。)より選ばれた1種以上のモノマーに由来するか、又はこの1種以上のモノマーの付加重合物に由来する。第2モノマー群に該当するモノマーは、分子内に(メタ)アクリロイル基を有するから付加重合に関与し得るだけでなく、分子内にアルコール性ヒドロキシ基を有するため、アクリル系共重合体においてイソシアネート系架橋剤との架橋点としてハードセグメントのように機能し得る化合物である。第2モノマー群に該当するモノマーは、アルコール性ヒドロキシ基を除けば、アミノ基、カルボキシ基、及びその他にイソシアネート系架橋剤と実質的に架橋反応し得る官能基やイソシアネート基を分子内に有しない化合物である。例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸5−ヒドロキシヘキシル等の化合物が挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドとして例えば、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド等の化合物が挙げられる。
第2構成単位をハードセグメントのように機能させやすく、安定した品質の樹脂組成物を得やすい観点から、アクリル系共重合体での第2構成単位は、炭素数が2以上かつ4以下で直鎖状または分岐鎖状であり構造中に第一級ヒドロキシ基を含むアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれた1種以上のモノマーに由来するか、又はこの1種以上のモノマーの付加重合物に由来するのが好ましい。このような(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等のエステル化合物が例示される。このようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドとして、ヒドロキシエチルアクリルアミド等の化合物が例示される。ヒドロキシエチルアクリルアミドは、皮膚刺激を生じさせにくい観点からも好ましい。
第2構成単位が第2モノマー群から選ばれた1種以上のモノマーの付加重合物に由来する場合、この付加重合物は、2種以上の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルのランダム共重合体、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドのランダム共重合体でも良い。安定した品質の樹脂組成物を得やすい観点から、この付加重合物は、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルから選ばれた1種以上のモノマーのホモ重合体またはブロック共重合体が好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのホモ重合体、又は(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルと(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルのブロック共重合体などが挙げられる。
液状組成物を多く溜め得る網目構造を形成させる観点から、「アクリル系共重合体の質量」に対し「その原料として用いた第2モノマー群に該当するモノマーの質量」が占める質量比(第2モノマー群の質量/アクリル系共重合体の質量)は、好ましくは0.010以上、更に好ましくは0.030以上、更により好ましくは0.050以上である。粘着剤層2aを柔らかい感触にしやすい観点から、前記質量比(第2モノマー群の質量/アクリル系共重合体の質量)が、好ましくは0.20以下、更に好ましくは0.15以下、更により好ましくは0.10以下である。
アクリル系共重合体として例えば、第1モノマー群と第2モノマー群との、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体からなる群より選ばれた1種の共重合体、又は2種以上の共重合体の混合物が挙げられる。アクリル系共重合体は、製造容易な観点ではランダム共重合体が好ましく、柔らかで安定した品質の粘着剤層2aを得やすい観点ではブロック共重合体が好ましい。
アクリル系共重合体は、第1構成単位や第2構成単位と共に、本発明の目的に反しない程度の少量であれば、第1モノマー群や第2モノマー群に属さないその他のモノマー1種以上に由来する構成単位を含んで構成されても良い。樹脂組成物にPADD類が共有結合されるのを避ける観点から、その他のモノマーは、分子内にエチレン性付加重合性基を有するが、分子内にアミノ基やカルボキシ基やイソシアネート基を有しないモノマーが好ましい。エチレン性付加重合性基は、その構造中に炭素原子間の二重結合を含むため、付加重合し得る官能基である。この二重結合は、他の飽和結合と共役していても良い。ただし、芳香環のように安定し付加重合しない置換基は、エチレン性付加重合性基に該当しない。エチレン性付加重合基として例えば、アリル基、ビニル基、又は(メタ)アクリロイル基などの官能基が挙げられる。
上記したその他のモノマーとして、例えば、脂肪族不飽和炭化水素、脂肪族不飽和アルコール、又はジメチルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドとして例えば、ジメチルアミノメチルアクリルアミド、又はジメチルアミノペンチルアクリルアミド等の化合物が挙げられる。この様に分子内に第三級アミン構造を有するその他のモノマーを用いる場合、イソシアネート系架橋剤としてブロック化イソシアネートを用いれば、アクリル系共重合体においてこのモノマー由来の構成単位を架橋点として機能させ得る。アミン構造とは、アンモニア分子の水素原子が炭化水素または芳香族原子団で置換された構造であり、置換された数に応じ第一級から第四級のいずれかに分類される。粘着剤層2aから皮膚へPADD類の放出性を適度に保つ観点から、「アクリル系共重合体」に対し「その原料として用いたその他のモノマー」の質量比(その他のモノマーの質量/アクリル系共重合体の質量)が、好ましくは0.050以上かつ0.10以下である。更に柔らかく糊残りしにくい粘着剤層2aを得やすい観点から、アクリル系共重合体は、複数の第1構成単位と複数の第2構成単位から実質的に成る共重合体であるか、または、分子内にアミノ基とカルボキシ基とイソシアネート基を実質的に有しない共重合体であるのが更に好ましい。
アクリル系共重合体と共に樹脂組成物の原料として用いるイソシアネート系架橋剤として、例えば、分子内にイソシアネート基を2つ以上有する、脂肪族化合物、及び芳香族化合物からなる群より選ばれた1種以上の化合物が挙げられる。ここでの脂肪族化合物として例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下「HDI」という。)、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、エチリデンジイソシアネート、ブチリデンジイソシアネート、又は1,3−シクロペンタンジイソシアネート等の化合物が挙げられる。ここでの芳香族化合物として例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(以下「TDI」という。)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下「MDI」という。)、4,4'−トルイジンジイソシアネート、又は1,4−キシレンジイソシアネート等の化合物が挙げられる。2種以上のイソシアネート系架橋剤を併用する場合、好適な例としてTDIとMDIの組み合わせが挙げられる。
イソシアネート系架橋剤は、効率良く架橋反応を進めやすい観点から好ましくは上記した脂肪族化合物または芳香族化合物が多価アルコール(例えばトリメチロールプロパン等)に付加されて成るアダクト体であり、同様の観点に加え入手容易な観点から更に好ましくは、HDI、TDI、及びMDIからなる群より選ばれたジイソシアネートが多価アルコールに付加されて成るアダクト体である。好適な市販のイソシアネート系架橋剤として例えば、HDIに由来するアダクト体であるコロネートHLや、TDI又はMDIに由来するアダクト体であるコロネートLが挙げられる(共に、東ソー株式会社製)。
液状組成物が溜まりやすく粘着剤層2aが引き伸ばされても凝集破壊されにくい網目構造を形成させる観点から、「樹脂組成物の質量」に対し「その原料として用いたイソシアネート系架橋剤の質量」が占める質量比(イソシアネート系架橋剤の質量/樹脂組成物の質量)は、好ましくは1.0×10−4以上、更に好ましくは1.0×10−3以上である。粘着剤層2aで柔らかい感触を保ち、未反応のイソシアネート系架橋剤が残存して皮膚刺激を生じるのを避ける観点から、前記質量比(イソシアネート系架橋剤の質量/樹脂組成物の質量)が、好ましくは0.040以下、更に好ましくは0.020以下である。
樹脂組成物の含有量が25質量%未満である場合の粘着剤層は、樹脂組成物が少なすぎるから、粘着力が不足して皮膚から剥脱しやすく、凝集力が不足し凝集破壊されやすいため、実用性に欠ける。貼付後に短時間で皮膚から剥脱しにくい粘着力を粘着剤層2aに付与し、皮膚から剥がすときに糊残りしにくく、保形性を高める観点から、粘着剤層2aにおける樹脂組成物の含有量は、25質量%以上であり、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。含有量とは、例えば粘着剤層2aに2種以上の樹脂組成物が含有される場合など、該当する化合物が2種以上ある場合には合計の含有量を意味する。粘着剤層2aにおける樹脂組成物の含有量は、液状組成物を含有する余地を残すために100質量%未満であり、液状組成物を多く溜めて粘着剤層2aを柔らかな感触にする観点から、好ましくは75質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
樹脂組成物と共に粘着剤層2aに含有される液状組成物は、皮膚に触れることが薬理学的に許容され、皮膚刺激を生じさせにくく、皮膚の表面付近の温度(例えば30℃)で液状の組成物である。このために液状組成物は、ノニオン界面活性剤を含んで成る。ノニオン界面活性剤は、非イオン界面活性剤ともいい、他種の界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及び両性界面活性剤)と比べ、分子内にアミノ基やカルボキシ基やヒドロキシ基を有しないか、又は有していても分子全体に対し占める割合が少ないため、化学的に安定し皮膚刺激を生じにくい。同じ理由によりノニオン界面活性剤は、イソシアネート系架橋剤や樹脂組成物に共有結合されにくい。このため、製造過程で粘着剤層2aを形成させる際、ノニオン界面活性剤の存在下においてイソシアネート系架橋剤によりアクリル系共重合体を架橋させても、架橋反応が効率よく進みやすい。ノニオン界面活性剤は、例えば、Tween、Triton、Brij、又はPluronic等の登録商標が付された1種以上の市販のノニオン界面活性剤でも良い。ノニオン界面活性剤として、例えば、脂肪酸アルキルエステル、ポリオキシエチレン(以下「POE」という。)アルキルエーテル、POEアルキルフェニルエーテル、アルキルグリコシド、及びポリオール脂肪酸エステルからなる群より選ばれた1種以上の化合物が挙げられる。
脂肪酸アルキルエステルは、高級脂肪酸とアルコールがエステル結合されて成るノニオン界面活性剤であり、例えば、イソオクチルパルミテート、ミリスチン酸テトラデシル、又はミリスチン酸イソプロピル(Isopropyl Myristate:以下「IPM」という。)等の化合物が挙げられる。POEアルキルエーテルは、高級アルコールに酸化エチレンが付加されて成るノニオン界面活性剤である。POEアルキルフェニルエーテルは、アルキルフェノールに酸化エチレンが付加されて成るノニオン界面活性剤である。アルキルグリコシドは、糖と高級アルコールがグリコシド結合されて成るノニオン界面活性剤であり、例えば、デシルグルコシド、又はラウリルグリコシド等の化合物が挙げられる。その他にノニオン界面活性剤として例えば、セバシン酸ジエチル等の化合物が挙げられる。
ノニオン界面活性剤は、樹脂組成物に共有結合されにくく、皮膚刺激を生じさせにくく、入手容易で安全性が高い観点から、好ましくはポリオール脂肪酸エステル、更に好ましくは脂肪酸ソルビタンエステル、更により好ましくはトリ脂肪酸ソルビタンエステルである。ポリオール脂肪酸エステルは例えば、グリセリン、ソルビトール、又はショ糖などの多価アルコール(ポリオール)と、脂肪酸と、がエステル結合されて成るノニオン界面活性剤であり、一般的に化粧品用界面活性剤や食品用乳化剤として用いられ安全性が高い。ポリオール脂肪酸エステルとして例えば、脂肪酸ソルビタンエステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、又はショ糖脂肪酸エステル等の化合物が挙げられる。脂肪酸ソルビタンエステルとして例えば、モノステアリン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、又はモノラウリン酸ソルビタン等のエステルが挙げられる。トリ脂肪酸ソルビタンエステルとして例えば、トリオレイン酸ソルビタン、又はトリステアリン酸ソルビタン等のエステルが挙げられる。
粘着剤層2aに含有される液状組成物が油中水滴(W/O)エマルションか又はO/W/Oエマルションを形成している場合、連続相である油相に樹脂組成物が分布しやすいのに対し、分散相である水相に後述するPADD類が分布しやすい。水相に分布するPADD類は、油相に分布する樹脂組成物から引き離されているから、樹脂組成物に共有結合されにくいものと推定される。このため、液状組成物が粘着剤層2aから皮膚へ放出されるときに、水相に分布するPADD類は、樹脂組成物に妨げられることなく皮膚へ放出されやすいと考えられる。したがって、液状組成物がW/Oエマルション又はO/W/Oエマルションを形成しやすい観点から、液状組成物に含まれる1種以上のノニオン界面活性剤のHLB値の平均値は、好ましくは2.0以上かつ8.0以下、更に好ましくは3.0以上かつ6.0以下である。例えば、モノオレイン酸ソルビタンエステルのHLB値は4.3で、トリオレイン酸ソルビタンエステルのHLB値は2.0であり、このようにHLB値が異なる2種以上のノニオン界面活性剤の配合比を調整してHLB値の平均値を3.0以上かつ6.0以下に調整した状態で粘着剤層2aを形成させるのが、更に好ましい。
粘着剤層2aを柔らかい感触にし、後述するPADD類を溶解または分散させやすく、皮膚に貼付されたときに粘着剤層2aから液状組成物と共にPADD類が放出されやすい観点から、粘着剤層2aにおけるノニオン界面活性剤の含有量は、好ましくは25質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、更により好ましくは50質量%以上である。同様の観点から、粘着剤層2aにおいて「ノニオン界面活性剤の含有量」が「液状組成物の含有量」に対し占める質量比(ノニオン界面活性剤の含有量/液状組成物の含有量)は、好ましくは0.50以上、更に好ましくは0.80以上である。粘着剤層2aに樹脂組成物やPADD類を十分に含有させる余地を残す観点から、粘着剤層2aにおけるノニオン界面活性剤の含有量は、75質量%未満であり、好ましくは70質量%以下である。同様の観点から、前記質量比(ノニオン界面活性剤の含有量/液状組成物の含有量)は、好ましくは0.95以下、更に好ましくは0.80以下である。
PADD類が体内でコラーゲン産生促進作用など(特許文献1から特許文献4を参照)を奏するのを期待する観点から、粘着剤層2aに含有される液状組成物は、ノニオン界面活性剤と共にPADD類(ホスホン酸ジエステル誘導体類)を含んで成る。PADD類は、水に可溶で分子内にアミノ基およびカルボキシ基を有するホスホン酸ジエステル誘導体、及びその塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物である。粘着剤層2a中において、PADD類はノニオン界面活性剤により液状組成物中に溶解または分散されている。ホスホン酸ジエステル誘導体の塩は、薬理学的に許容されれば特に限定されないが、粘着剤層2a中で析出しにくい観点から、好ましくはアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、更に好ましくはナトリウム塩またはカリウム塩である。
PADD類は、樹脂組成物に共有結合されにくい観点から、水に可溶で分子内にアミノ基およびカルボキシ基を有するが、第二級から第四級までのアミン構造、エチレン性付加重合性基、アルコール性ヒドロキシ基、及びイソシアネート基を分子内に有しないホスホン酸ジエステル誘導体であるのが好ましい。例えば、次の一般式(1)で表される化合物のうちで水溶性のものが挙げられる。
一般式(1)でR
1とR
2の各々は、炭素数が1以上かつ11以下で直鎖状でも分岐鎖状でも良く構造中にアミノ基またはカルボキシ基を含んでも良いアルキル基、フェニル基、および、炭素数が1以上かつ5以下で直鎖状でも分岐鎖状でも良く構造中にアミノ基またはカルボキシ基を含んでも良いアルキル基を有するベンジル基、からなる群より選ばれた1種以上の置換基である。R
1とR
2は同一でも異なっても良く、R
1とR
2の少なくとも一方は構造中にアミノ基またはカルボキシ基を有する置換基である。つまり、この場合のPADD類は、アミノ基か又はカルボキシ基を分子内に2つ以上有する化合物である。
分子量が小さいほど、液状組成物に溶解または分散されやすく、液状組成物と共に皮膚内部に浸透しやすい観点から、PADD類は分子量が500以下である化合物が好ましい。コラーゲン産生作用を有すると実証されている(特許文献1と特許文献2を参照)観点から、PADD類として更に好ましくは、次の一般式(2)で表されるMCAである。
MCAは、分子量331程度で、水に可溶でエタノールに不溶である。MCAは、表皮細胞や繊維芽細胞を活性化させコラーゲン等の産生を促進し皮膚のバリア機能を改善させ、創傷の治癒促進、及び皮膚のきめやシワの改善などの効果を奏することが報告されている(特許文献1と特許文献2を参照)。また、貼付剤1aは貼付されると粘着剤層2aからPADD類を皮膚へ放出しやすく、皮膚から剥脱しにくく、剥がすときに糊残りしにくく皮膚を傷つけにくい観点から、液状組成物にMCAが含まれる場合の貼付剤1aは、肌荒れ、シミ、及びシワからなる群より選ばれた1種以上の皮膚の異常改善に用いられるのが好ましく、更に好ましくは創傷の治癒促進に用いられる創傷被覆剤である。
粘着剤層2aにおけるPADD類の含有量は、粘着剤層2a中でのPADD類の析出を避ける観点から好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.10質量%以下、更により好ましくは0.050質量%以下であり、一方、MCA等によるコラーゲン産生作用などを発揮させやすい観点から好ましくは5.0×10−4質量%以上、更に好ましくは1.0×10−3質量%以上、更により好ましくは5.0×10−3質量%以上である。
油は、動物、植物、又は鉱物から得られる、水と相分離する疎水性物質のうちで、常温(5℃以上かつ35℃以下)で液状になり得るものである。皮膚の表面付近の温度である30℃で液状である油(以下「液油」という。)は、ノニオン界面活性剤よりも安価で大量に入手可能である。このため、液油を多く含んだ液状組成物を用いれば、柔らかな粘着剤層2aを有する貼付剤1aを低コストで量産可能である。また、液状組成物に液油を含ませれば油相の量が増すから、油相において水相との界面付近から離れた部分に樹脂組成物が分布しやすくなるため、水相に分布するPADD類を樹脂組成物から更に引き離すことができ、PADD類が粘着剤層2aから更に放出されやすいと考えられる。これらの観点から、粘着剤層2aに含有される液状組成物は、ノニオン界面活性剤やPADD類に加え、さらに、液油を含んで成るのが好ましい。液油として例えば、植物油、魚油、及び鉱油からなる群より選ばれた1種以上の油が挙げられる。30℃で液状である鉱油として例えば、ナフテン、又は流動パラフィンが挙げられる。粘着剤層2aを安価で形成し、樹脂組成物に結合されにくく、臭いにくく、使用者に天然素材だと訴求可能な観点から、液油は、更に好ましくは精製された植物油である。精製された植物油として例えば、オリーブ油、ナッツ油、又はサラダ油が挙げられる。サラダ油として例えば、菜種油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、ゴマ油、サフラワー油、綿実油、米油、又はこれらの2種以上が混合された調合サラダ油などが挙げられる。
高価なノニオン界面活性剤の使用量を少なく抑え、W/Oエマルションを形成しやすい観点から、粘着剤層2aにおける液油の含有量は、好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。同様の観点から、粘着剤層2aにおいて「液油の含有量」に対する「ノニオン界面活性剤の含有量」の質量比(液油の含有量/ノニオン界面活性剤の含有量)は、好ましくは0.30以上、更に好ましくは0.50以上である。粘着剤層2aに十分量の樹脂組成物やノニオン界面活性剤を含有させる余地を残す観点から、粘着剤層2aにおける液油の含有量は、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。同様の観点から、前記質量比(液油の含有量/ノニオン界面活性剤の含有量)は、好ましくは2.0以下、更に好ましくは1.0以下である。
粘着剤層2aに含有される液状組成物は、ノニオン界面活性剤やPADD類と共に、水を含んで成るものでも良い。このためには後述するが、製造過程で用いる塗工液に、水を含有させても良い。ただ、塗工液を加熱乾燥させる際に水は気化しやすいため、加熱乾燥により形成される粘着剤層2aにおいて、水は実質的に残存していない場合が多い。
粘着剤層2aは、本発明の目的に反しない程度の少量であれば、更にその他の化合物または組成物を含有しても良い。その他の化合物または組成物は、液状組成物に溶解もしくは分散されるか又は30℃で液状である場合には液状組成物の構成成分とし、液状組成物に溶解も分散もされず30℃で液状でない場合には樹脂組成物にも液状組成物にも属しない成分とする。その他の化合物または組成物として例えば、粘着付与剤、安定剤、溶解補助剤、抗炎症剤、清涼剤、美白剤、抗菌剤、抗シワ剤、及び天然物の親水性抽出物からなる群より選ばれた1種以上の化合物または組成物が挙げられる。
粘着付与剤は、分子量が数百から数千程度の熱可塑性樹脂であり、例えば、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、又はキシレン系樹脂などが挙げられる。安定剤として例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ビタミンC若しくはその誘導体、又はビタミンE等の化合物が挙げられる。安定剤はアンチエイジング剤としても機能し得る。溶解補助剤として例えば、N−メチルピロリドン、又は一価の高級アルコール等が挙げられる。抗炎症剤として例えば、グリチルリチン酸、サリチル酸エステル、イブプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、フルビナク、ジクロフェナック、ロキソプロフェン、インドメタシン、又はこれらの塩などの化合物が挙げられる。清涼剤として例えばメントール等が挙げられる。美白剤として例えば、アルブチン、又はヒドロキノン等の化合物が挙げられる。抗菌剤として、イソプロピルメチルフェノール(以下「IPMP」という。)、ヒビテン(登録商標)、塩化ベンザルコニウム、または銀化合物などが挙げられる。抗シワ剤として例えば、α−ヒドロキシ酸、又はサリチル酸などの化合物が挙げられる。α−ヒドロキシ酸として例えば、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、又は酢酸などの化合物が挙げられる。
貼付剤1aの製造過程で樹脂組成物と液状組成物のそれぞれの原料の配合比を調節することにより、粘着剤層2aにおける樹脂組成物の含有量と液状組成物の含有量を調節して、粘着剤層2aの柔らかさ、粘着力、及び保湿性を調整可能である。このため、貼付剤1aの用途に応じ、原料の配合比を調節するのが好ましい。相対的に樹脂組成物が多いほど粘着剤層2aが皮膚から剥脱しにくく糊残りしにくい観点から、粘着剤層2aでの液状組成物の含有量は、75質量%以下であり、好ましくは60質量%以下である。
日常生活で、手指、手首、肘、膝、及び足首は、頻繁に伸展され屈曲される。これに伴い、これら関節部で体表面を覆う皮膚は、弛みを生じ深いシワを生じさせたり、引き伸ばされシワが平坦化され解消したりしている。また、粘着剤層2aにおいて液状組成物の含有量が少ない程、相対的に樹脂組成物の含有量が多くなるから、粘着剤層2aが強い粘着力を有して皮膚から剥脱しにくく、引き伸ばされても更に凝集破壊されにくくなる。これらの観点から、貼付剤1aが、手指、手首、肘、膝、及び足首からなる群より選ばれた1種以上の関節部で伸展運動または屈曲運動に伴いシワが生じる部分(以下「関節シワ部」という。)の皮膚に貼付される場合、粘着剤層2aにおける液状組成物の含有量は、好ましくは0.050質量%以上かつ25質量%未満である。
一方、関節シワ部の皮膚と比べ、それ以外の外皮(例えば、目元等の顔面の皮膚、体幹部の皮膚)は、日常生活で伸縮する程度が少ないため、シワを生じたり解消したりする程度が小さい。関節シワ部に貼付される場合と比べ、それ以外の外皮に貼付される場合の粘着剤層2aは、伸縮される程度が小さいから、樹脂組成物の含有量が少なく粘着力が弱くても皮膚から剥脱しにくい。むしろ液状組成物の含有量が多い程、更に柔らかな感触で保湿性に優れた粘着剤層2aが形成される観点から、関節シワ部以外の外皮に貼付される場合の粘着剤層2aにおける液状組成物の含有量は、好ましくは25質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。同様の観点から、このように粘着剤層2aで液状組成物の含有量が多い場合の貼付剤1aは、例えば、スキンケア用マスクとして、又は皮膚炎を生じている皮膚に貼付される被覆剤として用いられるのが更に好ましい。例えば、指先で皮膚を掻いたり皮膚が乾燥したりすると皮膚炎が悪化する場合があるため、掻かれないよう皮膚を被覆しつつ保湿すれば皮膚炎が悪化するのを避けやすくなる。
関節シワ部の皮膚に貼付される場合に粘着剤層2aの厚みTは、使用者が皮膚に違和感を覚えにくい観点からは好ましくは50μm以下、更に好ましくは40μm以下であり、皮膚から剥脱しにくい観点からは好ましくは20μm以上、更に好ましくは25μm以上である。関節シワ部以外の外皮に貼付される場合に粘着剤層2aの厚みTは、分厚くても違和感を覚えにくい観点からは好ましくは130μm以下、更に好ましくは100μm以下であり、皮膚を保湿して湿潤療法を行う観点からは好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上である。
粘着剤層2aが有する粘着力は、JIS Z 0237:2009に準拠したSUS板に対する180°引き剥がし粘着力の測定値で評価可能である。このためには、表面仕上げBA(冷間圧延後、光輝熱処理)のSUS304板(JIS Z 0237:2009用)に2kgゴムローラーで1往復し貼付剤1aを貼り付け、剥離速度300mm/minの条件で貼付剤1aを引っ張り、SUS板に対する180°引き剥がし粘着力を測定する。関節シワ部に貼付される場合の貼付剤1aでのこの粘着力は、不意に皮膚から剥脱するのを避ける観点からは好ましくは0.30N/20mm以上、更に好ましくは0.50N/20mm以上であり、剥がすときに皮膚刺激や糊残りを避ける観点からは好ましくは1.5N/20mm以下、更に好ましくは1.0N/20mm以下である。関節シワ部以外の外皮に貼付される場合の貼付剤1aでのこの粘着力は、不意に皮膚から剥脱するのを避ける観点からは好ましくは0.10N/20mm以上、更に好ましくは0.20N/20mm以上であり、剥がすときに皮膚刺激や糊残りを避ける観点からは好ましくは0.50N/20mm以下、更に好ましくは0.30N/20mm以下である。
粘着剤層2aが有する皮膚接着力の強さは、ヒト前腕の屈側または伸側の皮膚に貼付剤1aを貼り付け、剥離速度300mm/minの条件で貼付剤1aを引っ張り、皮膚に対する180°引きはがし粘着力の測定値で評価可能である。関節シワ部に貼付される場合にこの皮膚接着力は、不意に皮膚から剥脱するのを避ける観点からは0.30N/20mm以上が好ましく、剥がすときに皮膚刺激や糊残りを避ける観点からは1.50N/20mm以下が好ましい。関節シワ部以外の外皮に貼付される場合の貼付剤1aでのこの皮膚接着力は、不意に皮膚から剥脱するのを避ける観点からは好ましくは0.050N/20mm以上、更に好ましくは0.10N/20mm以上であり、剥がすときに皮膚刺激や糊残りを避ける観点からは好ましくは0.50N/20mm以下、更に好ましくは0.30N/20mm以下である。
支持体3は、粘着剤層2aを支えるシート状物であり、貼付剤1aが皮膚に貼付されたときに、粘着剤層2aを保護し皮膚表面の形状に沿うよう変形しやすい部材である。支持体3は、粘着剤層2aに接着された第一面5と、第一面5に対し支持体3の反対側にある第二面4を有する。支持体3として例えば、布帛、不織布、樹脂製フィルム、及び発泡プラスチック製シートからなる群より選ばれた1種から成るシート状物か、又は2種以上の前記シート状物が積層されて成る積層シートが挙げられる。布帛または不織布を構成する繊維として例えば、植物繊維、再生繊維、及び合成繊維からなる群より選ばれた1種以上の繊維が挙げられる。植物繊維として例えば、綿繊維、又は麻繊維などが挙げられる。再生繊維として例えばビスコース繊維などが挙げられる。合成繊維として例えば、ポリエチレン系合成繊維、ポリプロピレン系合成繊維、ポリウレタン(以下「PU」という。)系合成繊維、ポリエステル(以下「PET」という。)系合成繊維、又はナイロン繊維などが挙げられる。高温に晒されても変形しにくい観点から、支持体3は、植物繊維、及び再生繊維からなる群より選ばれた1種以上の繊維製である布帛または不織布が好ましい。
または、支持体3が薄く柔らかくても粘着剤層2aを支持可能な観点から、支持体3は樹脂製フィルム又はその積層物から成るのが好ましい。フィルムを構成する樹脂として例えば、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、VAc系樹脂、シリコーン系樹脂、PET系樹脂、ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、又はメタクリル系樹脂などが挙げられる他、軟質ポリ塩化ビニル、又はPET等の高分子化合物も挙げられる。樹脂製フィルムは、2種以上の樹脂の混合物がフィルム状に成形されたものでも良いし、又は別種の樹脂から成るフィルム同士が積層された積層物でも良い。樹脂製フィルムとしてアクリル系樹脂またはメタクリル系樹脂を用いる場合、製造時にシート状に成形しやすい観点から、ガラス転移点(以下「Tg」ともいう。)が40℃以上かつ80℃以下である樹脂が好ましい。支持体3が薄く柔らかくても粘着剤層2aを支持可能な観点と、貼付剤1aを貼付された皮膚が蒸れるのを避けやすい観点から、支持体3は、PU、及びVAc−エチレン共重合体からなる群より選ばれた1種以上の樹脂製であるのが更に好ましい。
皮膚に貼付した貼付剤1aの第二面4に化粧料(ファンデーション、又はコンシーラー等)を塗布し外観上で貼付剤1aが貼られていると分かりにくく隠蔽可能な観点から、支持体3の第二面4に、化粧料に含有される粒子がはまり込む微小サイズの凹部が多数形成されているのが好ましい。ただし、化粧料ごとに含有される粒子の平均粒子径は、例えば0.10μm以上かつ60μm以下の範囲内で異なる。また、支持体3の厚みWよりも深い凹部を第二面4上に形成させることはできない。これらの理由により化粧ののりを良くする観点から、化粧料に含有される粒子の平均粒子径をdとするときに、第二面4の十点平均粗さRzはd≦Rz≦Wであるのが好ましい。粒子径が異なる複数種類の化粧料を重ね塗りしやすい観点から、支持体3の厚みWが15μm以上である場合に第二面4の十点平均粗さRzは、d≦Rzかつ15μm≦Rz≦Wであるのが更に好ましい。化粧を誤った場合に第二面4から化粧料を落とし塗り直しやすい観点から、第二面4での十点平均粗さRzは、好ましくは平均粒子径dの60倍以下(つまりRz≦60dかつRz≦W)、更に好ましくはRz≦60dかつRz≦40μmかつRz≦Wである。Rzは、JIS B 0601−1994に準拠し表面粗さ測定器により、基準長さ500μm、カットオフ値200μmの条件で、支持体3又はその素材の第二面4の表面形状の測定値である。平均粒子径dは、JIS Z 8825−1:2001に準拠した粒子径解析・レーザー回析法で測定される、体積基準粒子分布で累積値50%の粒子径(メジアン径)である。
外見上で露出する皮膚(顔面など)に貼付される場合に貼付剤1aを目立ちにくくする観点から、肌に似た色合いや模様が支持体3の第二面4に印刷されているのが好ましい。貼付剤1aを柔らかいパック材として用いやすい観点から、支持体3は、発泡プラスチック製シートであるのが好ましい。樹脂製フィルムに関し前述した各種の樹脂は、発泡プラスチック製シートの原料として使用可能である。貼付剤1aが関節シワ部以外の外皮(例えば顔面)に貼付される場合、皮膚に小規模な伸縮(例えば表情変化)があっても支持体3にシワが生じにくい観点から、支持体3は、ある程度の剛性を有する、PET製、エチレン−VAc共重合体製、又はポリエチレン製のフィルムであるのが好ましい。
貼付剤1aが貼付された皮膚が伸縮しても支持体3にシワが生じにくい観点から、支持体3の弾性率Eは、好ましくは15MPa以下、更に好ましくは5.0MPa以下である。支持体3に適度なコシやハリがあれば製造時に支持体3が不意に折れ曲がりにくいため貼付剤1aを製造しやすい観点から、支持体3の弾性率Eは、好ましくは0.20MPa以上、更に好ましくは1.0MPa以上である。弾性率Eは、35℃の窒素雰囲気下で、支持体3から成る試料片を初期荷重1.0mNで10分間引っ張りつつ試料片の温度が雰囲気温度と平衡になるように保ち、その後に荷重を1分間あたり100mNの割合で強めながら荷重が30kPaに達するまで試料片を引っ張って伸長させ、初期荷重1.0mNを10分間かけたときの試料片の長さ(チャック間距離)をL0とし、荷重が30kPaに達したときの試料片の長さをL30として、次の数式1により算出される。30kPa=0.030MPaであるため、次の数式1で測定荷重Wは0.030MPaである。
支持体3の弾性率Eがある程度あれば伸縮し過ぎないため、貼付剤1aを皮膚から剥がしやすい。この観点から、支持体3の20%引張強度は、好ましくは0.10N/cm以上、更に好ましくは0.30N/cm以上である。また、支持体3の弾性率Eが大きすぎなければ、貼付剤1aが貼付されたときに、支持体3が皮膚表面の形状に沿って変形しやすく皮膚の伸縮に追従し伸縮しやすいから、皮膚に違和感を覚えたり痛みを感じたりしにくく、貼付剤1aが皮膚から剥脱しにくい。この観点から、支持体3の20%引張強度は、好ましくは15N/cm以下、更に好ましくは5.0N/cm以下である。20%引張強度は、支持体3から成る試料片を1.0cm幅に切断し、チャック間距離を5.0cmに設定し、約25℃に保たれた恒温室内で1.0cm幅になった試料片を30cm/minの速度で引っ張り変形させ、試料片が20%伸びたときの応力の測定値である。
支持体3から成る厚みWが30μmである試料片を作製した場合、この試料片の透湿度は、貼付剤1aを貼付された皮膚が蒸れにくい観点から、好ましくは600g/(m2・day)以上、更に好ましくは1,000g/(m2・day)以上であり、貼付された皮膚を保湿し湿潤療法を行う観点から、好ましくは5,000g/(m2・day)以下、更に好ましくは3,000g/(m2・day)以下である。貼付剤1aを顔面等に貼付するパック材として用いる場合、貼付された皮膚に水分を貯留させ張りや潤いをもたらす観点から、厚みWが30μmである試料片の透湿度が、1,500g/(m2・day)以下であるのが更により好ましい。透湿度は、JIS Z 0208に準拠したカップ法において、塩化カルシウムを吸湿剤とし、融点が52℃以上かつ54℃以下である市販のパラフィンを封止剤とし、吸湿剤を入れたカップを40℃かつ90%RHに保たれた恒温恒湿槽内に置き、測定開始から1.5時間おきにカップ全体の増加する質量を3回測定し、2回目の測定値と3回目の測定値から算出される平均値である。
支持体3として例えば樹脂製フィルムを用いる場合、支持体3の厚みWは、貼付する直前の貼付剤1aが不意に折れ曲がり皮膚当接面6同士で粘着するのを避ける観点からは好ましくは5.0μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、皮膚表面の形状に沿うよう貼付剤1aを変形させやすい観点からは好ましくは100μm以下、更に好ましくは60μm以下、更により好ましくは50μm以下である。支持体3として発泡プラスチック製シートを用いる場合、同様の観点から支持体3の厚みWは、好ましくは100μm以上かつ2.0mm以下、更に好ましくは200μm以上かつ1.0mm以下である。
以上に説明した貼付剤1aによれば、粘着性を有する樹脂組成物が粘着剤層2aにおいて25質量%以上を占めるため、不意には皮膚から剥脱しにくい。この樹脂組成物は、ノニオン界面活性剤の存在下において、イソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基と、第2構成単位が有するアルコール性ヒドロキシ基と、の間の架橋反応による化学架橋を伴う網目構造を有するから、皮膚から剥がすときに凝集破壊されにくい。このため、粘着剤層2aは糊残りしにくく皮膚を傷つけにくい。
<貼付剤の第2実施形態>
前述した貼付剤1aと比べ、本発明に係る貼付剤の第2実施形態(以下「貼付剤1b」という。)は、樹脂組成物と後述する製造方法が異なることを除けば同様に構成されている。以下、貼付剤1bの説明に際し、貼付剤1aと共通する事項の説明は概ね省略し、異なる事項を主に説明する。図2に示すように貼付剤1bは、支持体3と粘着剤層2bを備える。粘着剤層2bは、スチレン系ブロック共重合体が物理架橋された網目構造を有する樹脂組成物、及び前記網目構造の隙間に溜められた液状組成物を含有して成る。
スチレン系ブロック共重合体は、物理架橋に実質的に関与せずソフトセグメントのように機能し得る構成単位と、物理架橋に関与しハードセグメントのように機能し得る構成単位をそれぞれ複数含んで構成されている。また、スチレン系ブロック共重合体では、そのガラス転移点(Tg)以下の温度で一部の構成単位が結晶化し物理架橋され、網目構造が形成されている。換言すればスチレン系ブロック共重合体は、そのTgが常温(5℃から35℃までの範囲内)よりも高温であり、常温(Tg未満の温度)では、ランダムに配向した非晶部分となる構成単位と、離れた部位同士で比較的に規則正しく配列して結晶状態になりやすい構成単位と、を有する結晶性樹脂ともいえる。または、スチレン系ブロック共重合体は、スチレン系の熱可塑性エラストマーともいえる。
後述するπ−π相互作用に実質的に関与せずソフトセグメントのように機能しやすい観点から、スチレン系ブロック共重合体は、1種以上の脂肪族不飽和炭化水素のホモ重合体に由来する構成単位を複数有する。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、又はポリデセン等のホモ重合体に由来する構成単位が挙げられる。この構成単位同士が集合し結晶化するのを避けソフトセグメントのように機能しやすい観点から、スチレン系ブロック共重合体は、好ましくは、単量体として分子内の炭素数が4以上かつ6以下である脂肪族不飽和炭化水素のホモ重合体1種以上に由来する構成単位を複数有する。肪族不飽和炭化水素のホモ重合体として例えば、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリペンテン、又はポリヘキセン等のホモ重合体に由来する構成単位が好ましい。同様の観点から、スチレン系ブロック共重合体は更に好ましくは、単量体として分岐鎖状で分子内の炭素数が4以上かつ6以下である脂肪族不飽和炭化水素のホモ重合体1種以上に由来する構成単位を複数有する。例えば、ポリイソプレン等のホモ重合体に由来する構成単位が挙げられる。
物理架橋されハードセグメントのように機能しやすい観点から、スチレン系ブロック共重合体は、ポリスチレン(polystyrene:以下「PS」という。)に由来する構成単位も複数有する。この構成単位では、疎水性であるフェニル基が規則正しく並んでいる。スチレン系ブロック共重合体では、離れた部位にあるPS由来の構成単位同士が芳香環によるπ−π相互作用などにより集合し安定化して結晶化しやすいため、物理架橋される。「スチレン系ブロック共重合体の質量」に対し「PS由来の構成単位の質量」が占める質量比(PS由来の構成単位の質量/スチレン系ブロック共重合体の質量)は、液状組成物を多く溜める網目構造を形成させる観点からは好ましくは0.13以上、粘着剤層2bを更に柔らかくする観点からは好ましくは0.25以下、更に好ましくは0.18以下である。
スチレン系ブロック共重合体は、ゴム的で柔らかい粘着剤層2bを得る観点から、PS−ポリイソプレン−PS(SIS)、PS−ポリブタジエン−PS(SBS)、SISに水素添加し得られるPS−エチレン−プロピレン−PS(SEPS)、SBSに水素添加し得られるPS−エチレン−ブチレン−PS(SEBS)、及びこれらのアクリル変性体からなる群より選ばれた1種以上のブロック共重合体を含んで構成されるのが好ましい。アクリル変性は、共重合体の骨格中に(メタ)アクリロイル基が導入されることである。
更に柔らかい粘着剤層2bを得る観点から、スチレン系ブロック共重合体のTgは50℃以上であるのが好ましい。製造過程でスチレン系ブロック共重合体を高温で加熱しなくても済み、更に柔らかな粘着剤層2bを得やすい観点から、スチレン系ブロック共重合体のTgは、好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下、更により好ましくは80℃以下である。不意に皮膚から剥脱するのを更に避ける観点から、粘着剤層2bには、更に粘着付与剤(タッキファイヤー)が含有されるのが好ましい。
以上に説明した貼付剤1bによれば、スチレン系ブロック共重合体でPS由来の構成単位が結晶化し物理架橋されるから、アミノ基やカルボキシ基が関わる架橋反応を実質的に伴うことなく、網目構造を有する柔らかな樹脂組成物が形成されやすい。このため、前述した貼付剤1aと同様、貼付剤1bでもPADD類は粘着剤層2bの製造過程で樹脂組成物に共有結合されにくい。このため、貼付剤1aの粘着剤層2aと同様に、貼付剤1bの粘着剤層2bも凝集破壊されにくいため、糊残りしにくく皮膚を傷つけにくい。
<貼付剤の第3実施形態>
前述した貼付剤(1a又は1b)と比べ、図3に示す本発明に係る貼付剤の第3実施形態(以下「貼付剤1c」という。)は、次に説明する事項を除けば同様に構成されている。貼付剤1cは順に、支持体3と、粘着剤層(2a又は2b)と、剥離性シート70と、を備える。貼付剤1cは、図1又は図2に示す貼付剤(1a又は1b)の粘着剤層(2a又は2b)の皮膚当接面6に、図3に示す剥離性シート70を仮付けした構成である。剥離性シート70として例えば、シリコーン処理が施されたPET製フィルム、片面にシリコーン処理が施された紙、または、紙とポリオレフィン薄膜が貼り合わされたシート状物などが挙げられる。剥離性シート70は、皮膚当接面6に仮付けされ、貼付剤1cが使用される直前まで粘着剤層(2a又は2b)を保護する。粘着剤層(2a又は2b)から剥離性シート70を剥がすと、皮膚当接面6が露出し皮膚に貼付可能になる。粘着剤層(2a又は2b)から剥がしやすいため、剥離性シート70に、皮膚当接面6を被覆する部分と、皮膚当接面6から突出した摘み部と、が設けられるのが好ましい。同様の理由で、剥離性シート70に、第一片部71aと第二片部71bに分断されるよう切込み73を設けられるのが好ましく、この場合に更に好ましくは、第一片部71aに第一摘み部72aが設けられ第二片部71bに第二摘み部72bが設けられる。
<貼付剤の第4実施形態>
前述した貼付剤1cと比べ、図4に示す本発明に係る貼付剤の第4実施形態(以下「貼付剤1d」という。)は、次に説明する事項を除けば、同様に構成されている。貼付剤1dは、順に、キャリアシート80と、支持体3と、粘着剤層(2a又は2b)と、剥離性シート70と、を備える。つまり、貼付剤1dは、図3に示す貼付剤1cの支持体3に、図4に示すキャリアシート80を仮付けさせた構成である。キャリアシート80は、支持体3の第二面4を覆うよう仮付けされた保護シート(81a,81b)と、更に保護シート(81a,81b)上の一部に積層され接着された剥離補助シート(84a,84b)を有する。保護シート(81a,81b)と剥離補助シート(84a,84b)の各々は、剛性を有する樹脂製フィルムである。キャリアシート80にはその厚み方向に貫通する切込み83が設けられているため、保護シートは81aと81bの二片に分断され、剥離補助シートは84aと84bの二片に分断されている。支持体3の第二面4上に仮付けさせるために、保護シート(81a,81b)での支持体3側の片面には、公知の粘着剤が薄く塗布されて成る弱粘着剤層82が設けられても良い。支持体3の材質によっては、弱粘着剤層82が無くても、保護シート(81a,81b)を支持体3の第二面4上に仮付け可能である。剥離補助シート(84a,84b)での保護シート(81a,81b)側の片面には、剥離補助シート(84a,84b)を保護シート(81a,81b)に接着し固定させるために、公知の接着剤が塗布されて成る接着剤層85が設けられる。
貼付剤1dでは、製造時にキャリアシート80が支持体3に仮付けされてから、使用時にキャリアシート80が支持体3から剥がされるまで、キャリアシート80により支持体3が保護される。このため、不意に支持体3が折れ曲がったり第二面4が汚損したりするのは、避けられる。不意に支持体3が折れ曲がるのを更に避ける観点から、貼付剤1dをその平面上(キャリアシート80側)から見て、剥離性シート70での切込み73と重複しない位置に、キャリアシート80の切込み83が設けられるのが好ましい。
使用者は貼付剤1dを貼付する際に例えば、粘着剤層(2a又は2b)から剥離性シート70を剥がし、露出した皮膚当接面6を皮膚に粘着させてから、キャリアシート80を切込み83で折り曲げて支持体3から容易に剥がすことができる。使用者は目視困難な身体部位の皮膚(例えば後頚部の皮膚)に貼付剤1dを貼り付ける場合でも、指先の感覚だけで皮膚上から剥離補助シート(84a,84b)を探し出し、皮膚上でキャリアシート80を折り曲げ支持体3から容易に剥がすことができる。例えば、支持体3として柔らかい樹脂製のフィルム又は発泡プラスチック製シートを用いた場合や、支持体3の第二面4(皮膚に貼付されたときに外観上で視認される面)に微小サイズの凹部が多数形成された場合に、キャリアシート80を備える貼付剤1dは、支持体3にシワが生じたり第二面4が汚損したりするのを避けつつ皮膚に綺麗に貼付しやすい観点から好ましい。
<貼付剤のその他の実施形態>
本発明に係る貼付剤が備える粘着剤層の形状は、本発明の目的に反しない限り、支持体の第一面の全体にわたり接着したシート状に限られない。例えば、図5(a)に示す本発明に係る貼付剤1eでの粘着剤層2eは、支持体3の第一面5の周縁部に沿って接着されている。つまり、粘着剤層2eは、貼付剤1eをその平面上(又はその皮膚当接面6側)から見たときに枠状である。あるいは、図5(b)と図5(c)に示すように、本発明に係る貼付剤1fでの粘着剤層2fは、貼付剤1fをその平面上(又はその皮膚当接面6側)から見たときに枠付きの格子状である。図5(a)から図5(c)に示す貼付剤(1e又は1f)が皮膚に貼付されたときに、皮膚と粘着剤層(2e又は2f)と支持体3に囲まれた空間(99e又は99f)が形成されても良い。この空間(99e又は99f)に、何らかの薬効成分を含有する膏体が充填されても良い。このように、本発明に係る貼付剤での粘着剤層は、本発明の目的に反しない限り、支持体の少なくとも一部に接着された形態でも良い。また、本発明に係る貼付剤は、その製造を容易にする観点から、以下に説明する製造方法により製造されたものが好ましい。
<貼付剤の製造方法の第1実施態様>
本発明に係る貼付剤の製造方法の第1実施態様(以下「本製法1」という。)を説明するに際し、本発明に係る貼付剤に関し説明したのと共通事項の説明を概ね省略し、異なる事項を主に説明する。本製法1は、図6に示すように、原料準備工程S11、重合工程S12、塗工液調製工程S20a、加熱乾燥工程S30a、及び成形工程S40を含み、例えば図1に示す貼付剤1aを製造可能である。
図6に示す原料準備工程S11では、液状組成物の原料、樹脂組成物の原料、樹脂組成物の原料を溶解または分散させるための液状媒質、及び支持体を準備する。液状組成物の原料として少なくとも、ノニオン界面活性剤とPADD類を含んで成る液原料群を準備する。樹脂組成物の原料として、第1モノマー群から選ばれた1種以上のモノマーと、第2モノマー群から選ばれた1種以上のモノマーと、イソシアネート系架橋剤を準備する。
効率良く重合反応を起こさせる観点から、準備する液状媒質として、常温(5℃から35℃)で液状であり、モノマー等を溶解または分散させることが可能な、有機溶媒、及び親水性分散媒からなる群より選ばれた1種以上の化合物が挙げられる。親水性分散媒は、モノマー等やノニオン界面活性剤と混合されると、モノマー等を分散させる分散媒として機能し得る親水性化合物である。液状媒質として親水性分散媒のみを用いる場合でも、次の重合工程S12で乳化重合によりモノマーを重合させることが可能である。親水性分散媒として例えば、水、又はエタノール等の化合物が挙げられる。準備する液状媒質は、後述する塗工液などで水相と油相を形成させ、水相に分布するPADD類などが油相に分布するモノマーやアクリル系共重合体やイソシアネート系架橋剤などから引き離され共有結合されにくい観点から、有機溶媒と親水性分散媒の混合物であるのが好ましい。
準備する液状媒質は、加熱乾燥により気化させやすい観点から、標準気圧での沸点が常温よりも高温かつ120℃未満である有機溶媒または親水性分散媒であるのが好ましい。同様の観点から準備する有機溶媒は、標準気圧で沸点が常温よりも高温かつ95℃以下である有機溶媒か、又は常温で揮発性を有する有機溶媒が更に好ましい。例えば、ヘキサン(沸点69℃)、酢酸エチル(沸点77℃)、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、アセトン(沸点56℃)、及びメチルエチルケトン(沸点79℃)からなる群より選ばれた1種以上の有機溶媒が挙げられる。常温で揮発性を有する有機溶媒として、トルエン(沸点110℃)等が挙げられる。同様の観点と更に樹脂原料を溶解または分散させやすい観点から、準備する液状媒質は酢酸エチル又はトルエンであるのが更により好ましい。
柔らかい粘着剤層を低コストで量産可能な観点から、準備する液原料群には、更に液油を含ませるのが好ましい。図3に示す貼付剤1cを製造する場合、図6に示す原料準備工程S11では更に剥離性シートを準備する。本発明の目的に反しない限り必要に応じ、さらに、ラジカル開始剤、粘着付与剤、安定剤、溶解補助剤、抗炎症剤、清涼剤、美白剤、抗菌剤、抗シワ剤、及び天然物の親水性抽出物からなる群より選ばれた1種以上の化合物または組成物を準備しても良い。ラジカル開始剤は、穏和な加熱条件で化学反応(重合反応、又は架橋反応等)を開始させる化合物であり、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、又は過酸化ベンゾイル等の化合物が挙げられる。安全性が高い観点からラジカル開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(以下「AIBN」という。)が好ましい。
重合工程S12では、液状媒質の存在下で、少なくとも、第1モノマー群から選ばれた1種以上のモノマーと、第2モノマー群から選ばれた1種以上のモノマーと、を混合させた混合液を加熱して、モノマー同士で付加重合による重合反応を起こさせて、アクリル系共重合体を形成させる。液状媒質として主に親水性分散媒を用いる場合には、モノマー等を分散させるために、更にノニオン界面活性剤を混合する。重合工程S12では、重合反応を効率よく起こさせる観点から、更にラジカル開始剤を混合して得られる混合液を加熱するのが好ましい。安定した品質の樹脂組成物を得る観点から、窒素ガス雰囲気下で重合反応を進ませつつ、冷却還流管を用いて混合液の温度が高くなり過ぎないよう60℃以上かつ65℃以下の範囲内に調節するのが好ましく、混合液の温度が60℃以上かつ63℃以下程度に保たれるように管理するのが更に好ましい。
原料準備工程S11と重合工程S12の組み合わせは、樹脂組成物の原料としてアクリル系共重合体とイソシアネート系架橋剤を含んで成る樹脂原料群を準備し、かつ、液状組成物の原料としてノニオン界面活性剤とPADD類を含んで成る液原料群を準備する工程S10aとして機能する。原料準備工程S11で準備した液状媒質は、樹脂原料群を溶解または分散させるための液状媒質として機能する。工程を簡略化させる観点から、市販のアクリル系共重合体か又はこれと液状媒質の混合物を入手可能な場合には、重合工程S12を省略するのが好ましい。適度な粘性を有するため次の工程S20aで塗工液を調製しやすい観点と、塗工液で良好な粘着性を得やすい観点から、アクリル系共重合体の重量平均分子量は80万以上かつ150万以下であるのが好ましい。
塗工液調製工程S20aでは、液状媒質の存在下において、アクリル系共重合体およびイソシアネート系架橋剤を含んで成る樹脂原料群と、少なくともノニオン界面活性剤およびPADD類を含んで成る液原料群と、を混合させることにより、乳濁液となった混合組成物(以下「塗工液」という。)を得る。塗工液を調製する際、後に形成される粘着剤層において樹脂組成物の含有量が25質量%以上かつ100質量%未満に調整するために、「液原料群と樹脂原料群の合計質量」に対し「樹脂原料群の質量」が占める質量比(樹脂原料群の質量/液原料群および樹脂原料群の合計質量)が0.25以上かつ1.0未満となるように、これら原料を混合する。また、後に形成される粘着剤層において液状組成物の含有量が0質量%よりも多くかつ75質量%以下に調整するために、「液原料群と樹脂原料群の合計質量」に対し「液原料群の質量」が占める質量比(液原料群の質量/液原料群および樹脂原料群の合計質量)が0より大きくかつ0.75以下となるように、これら原料を混合するのが好ましい。
標準気圧で沸点が120℃未満であるか又は常温で揮発性を有する液状媒質は、次の工程S30aで加熱乾燥により気化し除去されやすく、粘着剤層での液状組成物に残存しにくいため、塗工液調製工程S20aでの質量比の計算で液原料群の構成成分として扱わない。一方、沸点が高く加熱乾燥でほとんど気化しない化合物を液状媒質として含む場合には、この化合物は液状組成物中に残存するため、質量比の計算で液原料群の構成成分として扱う。本発明の目的に反しない限り必要に応じ、さらに、粘着付与剤、安定剤、溶解補助剤、抗炎症剤、清涼剤、美白剤、抗菌剤、抗シワ剤、及び天然物の親水性抽出物からなる群より選ばれた1種以上の化合物または組成物を混合し塗工液を調製しても良い。塗工液調製工程S20aでは、樹脂原料群が液状媒質に溶解または分散されやすいように、例えば塗工液を50℃以上に加熱したり、塗工液を撹拌したりするのが好ましい。
加熱乾燥工程S30aでは、先の工程S20aで得られた塗工液を加熱乾燥し粘着剤層を形成させ、少なくとも支持体と粘着剤層を備える積層物を得る。例えば、コーターにより支持体に塗工液を塗布し、乾燥機により支持体ごと塗工液を加熱乾燥させ、支持体と粘着剤層を備える積層物を得ても良い。加熱中に支持体が膨潤し変形するのを避ける観点から、支持体は、植物繊維、及び再生繊維からなる群より選ばれた1種以上の繊維製である布帛または不織布であるのが好ましい。ここで得られた積層物をそのまま貼付剤1aとして扱っても良いが、使いやすく実用的な貼付剤を得る観点から、この積層物で粘着剤層側に剥離性シートを仮付けするのが好ましく、仮付けされた積層物を後述する成形工程S40に供するのが好ましい。支持体として不織布、樹脂製フィルム、又は発泡プラスチック製シートを用いる場合、支持体が膨潤するのを避け得る観点から、加熱乾燥工程S30aでは、塗工液を剥離性シート上に塗工し、加熱乾燥により剥離性シート上に粘着剤層を形成させ、この粘着剤層に支持体を貼り合わせて積層物を形成させるのが好ましい。この積層物をそのまま貼付剤1cとして扱っても良いが、使いやすく実用的な貼付剤を得る観点から、この積層物を成形工程S40に供するのが更に好ましい。
加熱乾燥工程S30aでは、支持体上または剥離性シート上で所定の膜厚になるように調節しながら塗工液を塗布することにより、形成される粘着剤層の厚みを調整可能である。塗工液の加熱温度や加熱時間の長さは、塗工液での液状媒質の含有量や、液状媒質の気化しやすさに応じ、適宜調節する。架橋反応が進みやすく液状媒質が気化しやすいため加熱時間を短縮できる観点から、加熱乾燥工程S30aでは、好ましくは塗工液を95℃よりも高温の雰囲気下で加熱し、更に好ましくは塗工液を98℃以上の雰囲気下で加熱する。望ましくない熱変性を避ける観点から、加熱乾燥工程S30aでは、塗工液を120℃以下の雰囲気下で加熱するのが好ましい。加熱温度が高すぎると、塗工液が沸騰し生じる気泡により粘着剤層の表面に凹凸が生じやすい場合がある。沸騰を避ける観点から、加熱温度は65℃以上かつ95℃以下でも好ましい。例えば、剥離性シートごとその上に塗布された塗工液を乾燥機内に通し、順に、65℃、75℃、85℃、及び95℃の熱風を当て加熱乾燥させ、形成された積層物(粘着剤層と剥離性シート)を支持体と貼り合わせて貼付剤を製造するのが好ましい。
加熱乾燥工程S30aで塗工液を加熱乾燥すると、塗工液中でイソシアネート系架橋剤によりアクリル系共重合体が化学架橋されて網目構造を有する樹脂組成物が形成されるだけでなく、塗工液から液状媒質が気化して実質的に除去される。このため、三次元的な網目構造を有する樹脂組成物と、その網目構造の微細な隙間に溜められた液状組成物と、を含んで成る粘着剤層が、支持体上または剥離性シート上に形成される。したがって、支持体と粘着剤層を備える積層物が得られる。支持体上で塗工液を加熱乾燥させ粘着剤層を形成させた場合、粘着剤層に含有される樹脂組成物の一部が支持体に十分に投錨している。一方、加熱乾燥を済ませ既に形成された粘着剤層を支持体と貼り合わせて、支持体と粘着剤層を備える積層物を得る場合には、樹脂組成物を支持体に投錨させるために、この積層物を更に50℃以上かつ120℃以下の雰囲気に晒すのが好ましい。
成形工程S40では、先の加熱乾燥工程S30aで得られた積層物を切り出すか又は型抜きするかして成形し、使いやすいサイズや形状に整えられた貼付剤1aを得る。先の加熱乾燥工程S30aで、順に支持体と粘着剤層と剥離性シートを備える積層物を得た場合、剥離性シートにより粘着剤層が保護されるから、成形が容易になる。
以上に説明した本製法1によれば、貼付剤1aに関して前述したのと同様の理由により、皮膚から剥脱しにくく、皮膚を傷つけにくく、粘着剤層にPADD類(例えばMCA)が含有される貼付剤を製造可能である。
本製法1では、アクリル系重合体を効率良く形成させやすい観点から、原料準備工程S11において、ラジカル開始剤と有機溶媒と親水性分散媒(例えば水)を準備し、次の重合工程S12において、有機溶媒と親水性分散媒の存在下でラジカル開始剤によりモノマーを乳化重合させた乳濁液を得るのが好ましい。乳化重合により、重量平均分子量が比較的に大きなアクリル系共重合体を得やすい。この場合に重合工程S12で得られる乳濁液では、エマルションが形成されアクリル系共重合体が油相に分布し、乳濁液の粘度が高くなりにくい。この場合の乳濁液は例えば、その固形分(アクリル系共重合体)含有量が約50質量%でも、粘度が低く扱いやすいため好ましい。
塗工液調製工程S20aで混合させるPADD類は、例えばMCA等の親水性が強いものほど好ましい。混合され得られる塗工液においてPADD類は、水相に分布するから、ノニオン界面活性剤によって、油相に分布するアクリル系共重合体やイソシアネート系架橋剤から引き離される。また、次の加熱乾燥工程S30aでは、アクリル系共重合体やイソシアネート系架橋剤が分布する油相で優先的に架橋反応が起こる。親水性が強いPADD類ほど、架橋反応に巻き込まれにくいため樹脂組成物に共有結合されにくい観点から好ましい。同様の観点から本製法では、あらかじめ水とPADD類とノニオン界面活性剤と有機溶媒を混合させた乳濁液を調製し、更にアクリル系共重合体やイソシアネート系架橋剤を混合して塗工液を調製するのも好ましい。親水性分散媒(例えば水)が塗工液に含有される場合、加熱乾燥工程S30aで塗工液を加熱乾燥すると、親水性分散媒は気化し実質的に除去されやすい。加熱乾燥工程S30aで形成される粘着剤層では、本発明の目的に反しない微量であれば、液状媒質(例えば水)が残存しても許容される。
<貼付剤の製造方法の第2実施態様>
本発明に係る貼付剤の製造方法の第2実施態様(以下「本製法2」という。)に関し、本製法1との共通事項の説明を概ね省略し、異なる事項を説明する。図7に示すように本製法2は、原料準備工程S10b、混合工程S20b、押出成形工程S30b、積層工程S31、及び成形工程S40を含み、例えば図2に示す貼付剤1bを製造可能である。
図7に示す原料準備工程S10bでは、液状組成物の原料としてPADD類とノニオン界面活性剤を含んで成る液原料群を準備する。工程を簡略化させるため、樹脂組成物の原料として、SIS、SBS、SIBS、SEPS、及びこれらのアクリル変性体からなる群より選ばれた1種の以上のスチレン系ブロック共重合体を準備するのが好ましく、例えばJSR株式会社製の粘着剤用のSIS等が挙げられる。液状媒質(例えば水)や支持体も準備する。次の工程S20bでスチレン系ブロック共重合体を軟化させ液原料群を混合しやすい観点から、粘着付与剤や30℃で液状の鉱油なども準備するのが好ましい。
混合工程S20bでは、スチレン系ブロック共重合体と液原料群と液状媒質(例えば水)を混合し混合組成物を得る。スチレン系ブロック共重合体をTg以上に加熱した状態では、PS由来の構成単位同士での物理架橋が解消され網目構造が維持されておらず、混合しやすい。例えば、スチレン系ブロック共重合体を140℃程度に加熱し溶融させた状態で粘着付与剤と鉱油を混錬し、その後90℃程度に冷えたとき(まだTgよりも高温であるとき)に、液原料群と水の混合物を添加し撹拌して、混合組成物を得るのが好ましい。
押出成形工程S30bでは、Tg以上の温度になっている混合組成物を、押出成形機により剥離性シート上に押し出す。押出成形された混合組成物が剥離性シート上で冷え、粘着剤層が形成される。つまり、混合組成物中においてTg未満に降温したスチレン系ブロック共重合体は、PS由来の構成単位同士の再結晶化により物理架橋を形成するため、網目構造を有する樹脂組成物となる。混合組成物に含有される液状組成物が網目構造の隙間に溜められるため、柔らかな粘着剤層が形成されやすい。
積層工程S31では、先の工程S30bで得られた粘着剤層上に支持体を貼り合わせ、順に、支持体と、粘着剤層と、剥離性シートと、を備える積層物を得る。天然繊維製または再生繊維製の支持体を用いる場合には、支持体が高熱に晒されても変形しにくいため、押し出され十分に冷えていない混合組成物上に支持体を載置して積層物を得ても良い。本製法2では、積層物をそのまま図2又は図3に示す貼付剤(1b又は1c)としても良いが、貼付剤(1b又は1c)を使いやすいサイズや形状に整えるために、図7に示すように、この積層物を切り出すか又は型抜きする成形工程S40を行うのが好ましい。
<貼付剤の製造方法のその他の実施態様>
本発明に係る貼付剤の製造方法は、本製法1または本製法2を以下に例示するよう変更した態様でも良い。図1から図5のいずれかに示す支持体3の第二面4に微小サイズの凹部が多数形成された場合の貼付剤を製造するには、そのような支持体3を図6の工程S10a又は図7の工程S10bで準備する。例えば、十点平均粗さRzが5μm以上かつ60μm以下である凹凸表面を有するキャスト用剥離性基板を準備し、凹凸表面上に樹脂溶液を流延し乾燥させ、形成される乾燥物を基板から剥離することにより、基板の表面性状が転写され第二面(凹凸の転写面)のRzが5μm≦Rz≦60μmかつ厚みW≦Rzとなった樹脂製フィルム(支持体の素材)を製造可能である。図4に示す貼付剤1dを製造する場合、図6での加熱乾燥工程S30a又は図7での積層工程S31で支持体にキャリアシートを積層しても良いが、支持体の第二面を保護する観点から、図6に示す原料準備工程S11又は図7に示す原料準備工程S10bで、あらかじめ第二面にキャリアシートが仮付けされた支持体を準備するのが好ましい。
図2に示す貼付剤1bは、次の方法でも製造可能である。例えば、スチレン系ブロック共重合体、流動パラフィン(30℃で液状の鉱油)、及びエステルガム(粘着付与剤)等をトルエンと混合し、50℃以上の温度でスチレン系ブロック共重合体をトルエン中に溶解させた樹脂溶解液を得る。樹脂溶解液に、軟化剤として鉱油(流動パラフィン)やタッキファイヤー(例えば、荒川化学社製のパインクリスタルKE310)を加え、略均一になるよう溶解させる。また、PADD類(例えばMCA)を水に溶解させPADD類水溶液(MCA水溶液)を調製する。この水溶液やノニオン界面活性剤を冷やした樹脂溶解液に混合し攪拌し、塗工液(乳濁液)を得る。塗工液を剥離性シート上に塗布し、加熱乾燥によりトルエンを気化させ粘着剤層を形成し、PU製フィルム(支持体)に貼り合わせる。トルエンや酢酸エチル等の有機溶媒は、気化して粘着剤層に実質的に残存しない。
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施することができる。また、同一の作用または効果が生じる範囲内で、いずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
<原料など>
第1モノマー群から選ばれた1種以上のモノマーとして、アクリル酸2−エチルヘキシル(2-Ethylhexyl acrylate:以下「2−EHA」という。東亜合成化学株式会社製)と、アクリル酸2−メトキシエチル(2-Methoxyethyl Acrylate:以下「2−MEA」という。東亜合成化学株式会社製、製品名:アクリックス(登録商標)C−1)を準備した。第2モノマー群から選ばれた1種以上のモノマーとして、アクリル酸2−ヒドロキシエチル(2-Hydroxyethyl Acrylate:以下「2−HEA」という。東亜合成化学株式会社製)を準備した。その他のモノマーとしてAA(東亜合成化学株式会社製のアクリル酸)を準備した。スチレン系ブロック共重合体として、SIS(JSR株式会社製、型番:SIS5229)を準備した。このSISでの質量比(PS由来の構成単位の質量/スチレン系ブロック共重合体の質量)は0.15である。イソシアネート系架橋剤としてコロネートL(東ソー株式会社製)を準備した。コロネートLは、酢酸エチルとアダクト型のTDIやMDIを含有し、固形分の含有量が約75質量%である。
コロネートLに含有される酢酸エチルと別に有機溶媒として、酢酸エチルとトルエンを準備した(富士フイルム和光純薬株式会社製)。ラジカル開始剤として富士フイルム和光純薬株式会社製のAIBNを準備した。支持体のPUフィルムとして、共和工業株式会社製の厚さ10μmのものと、シーダム株式会社製の厚さ25μmのDSU438と、大倉工業株式会社製の厚さ50μmのものを準備した。これらと別の支持体を調製するため、ウレタン樹脂溶液としてレオコートU−6285M(東レコーテックス株式会社製)を準備した。剥離性シートとして、シリコーン処理されたPETフィルムを準備した。
PADD類として、MCAを含有する化粧品原料であるナールスゲン(株式会社ナールスコーポレーション製)を準備した。ノニオン界面活性剤として、トリオレイン酸ソルビタンエステル(花王株式会社製、製品名:レオドールSP−O30V)と、IPM(日光ケミカルズ株式会社製のミリスチン酸イソプロピル、製品名:NIKKOL IPM−100)を準備した。30℃で液状である鉱油として、カネダ株式会社製の流動パラフィン(カネダ株式会社製、製品名:ハイコールM)を準備した。粘着付与材として水素化ロジンエステル(荒川化学工業株式会社製、製品名:エステルガムH)を準備した。なお、ナールスゲン、レオドール、NIKKOL、及びハイコールの各々は登録商標である。
アンチエイジング剤としてビタミンCエステルの一種であるテトラ2−ヘキシルデカン酸アスコビル(日光ケミカルズ株式会社製、製品名:NIKKOL VC−IP、以下「VC−IP」という。)を準備した。美白剤としてアルブチン(三菱ケミカル社製、製品名:β−アルブチン)を準備した。抗炎症剤として、グリチルリチン酸ジカリウム(以下「グリチルリチン酸K2」という。)と、ロキソプロフェンを準備した。抗菌剤としてIPMP(大阪化成株式会社製の3−メチル−4−イソプロピルフェノール)を準備した。
<実施例1>
2−EHAを68質量部と、2−MEAを25質量部と、2−HEAを7.0質量部と、AIBNを0.20質量部と、酢酸エチルを150質量部と、を混合し温度が60℃以上かつ65℃以下となるよう加熱することにより、酢酸エチル中で付加重合によりアクリル系共重合体が形成された粘着剤液を調製した。粘着剤液の配合を次の表1に示す。
ナールスゲンを蒸留水に溶解させ、MCAの含有量が1.0質量%である水溶液を調製した。この水溶液を0.10gと、トリオレイン酸ソルビタンエステルを0.20gと、VC−IPを0.020gと、1.9gの酢酸エチルを混合し撹拌することにより、MCAとノニオン界面活性剤を含有する混合液(以下「液原料含有液」という。)を調製した。液原料含有液の配合を次の表2に示す。
粘着剤液を249gと、液原料含有液の全量(2.22g)と、を混合し均一になるよう撹拌し、更にコロネートLを0.020g添加して撹拌し、乳濁液となった塗工液が得られた。塗工液の配合と、配合から算出した質量比(イソシアネート系架橋剤の質量/樹脂組成物の質量)を、次の表3に示す。
シリコーン処理されたPETフィルム(剥離性シート)に所定の膜厚になるよう塗工液を塗布し、剥離性シートごと塗工液を乾燥機内に収容し、95℃の雰囲気下で5分にわたり送風し加熱乾燥させた。加熱乾燥された塗工液中で網目構造を有する樹脂組成物が形成され、蒸留水と酢酸エチルが気化し、厚み40μmのシート状である粘着剤層が剥離性シート上に形成された。塗工液から蒸留水と酢酸エチルが全て気化し粘着剤層が形成された前提で、粘着剤層での各種成分の含有量などを算出して次の表4に示す。
粘着剤層にPUフィルム(支持体、DSU438)を積層し、得られた積層物を恒温器内に置き2日間40℃に保って粘着剤層での架橋反応を完結させ、粘着剤層を支持体に十分に接着し固定させた。こうして、順に、PUフィルム(支持体)と、粘着剤層と、PETフィルム(剥離性シート)を備える積層物を得て、貼付剤の原反とした。この原反から、後述する評価試験で所定の形状に切り出し、実施例1に係る貼付剤を複数得た。
<実施例2から実施例7>
実施例2から実施例7の各々では、表1から表3で前述した配合に従い、表4に示す厚みの支持体を用い、その他は次に説明する事項を除いて実施例1と同様にして貼付剤を複数得た。実施例6と実施例7の各々では、十点平均粗さRzが約30μmである基板上にウレタン樹脂溶液(レオコートU−6285M)を塗布し、乾燥機内の110℃の雰囲気下で5分間かけ送風して加熱乾燥させ、ウレタン樹脂溶液から有機溶媒が気化し形成された樹脂層を基板上から剥離することにより、あらかじめ試作したPUフィルムを支持体として用いた。この試作PUフィルムは、厚み30μmで、十点平均粗さRzが約10μmである転写面(凹凸面)を有していた。また、実施例5から実施例7の各々では、剥離性シート上に塗工液を塗布し、塗布された塗工液を剥離性シートごと乾燥機内において110℃の雰囲気下で5分にわたり送風し加熱乾燥させ、粘着剤層を形成させた。
<実施例8>
ナールスゲンを蒸留水に溶解させ、MCA含有量が1.0質量%である水溶液を調製した。この水溶液を0.10gと、5.0gのトリオレイン酸ソルビタンエステルを、2.0gの蒸留水に混合し溶解させ、更に0.020gのVC−IPと約2gのトルエンを混合し撹拌し、乳濁液を得た。また、20gのSISと、40gの流動パラフィンと、30gの水素化ロジンエステルと、135gのトルエンを混合し、40℃よりも高温かつ60℃以下に加熱しSISを溶解させた樹脂溶解液を得た。樹脂溶解液が約40℃に冷えたときに、乳濁液の全量(9.12g)を混合し、均一になるよう十分に撹拌し混合組成物を得た。塗工機を用いて混合組成物を、シリコーン処理されたPETフィルム(剥離性シート)に塗工した。塗工された混合組成物を剥離性シートごと乾燥機内で約110℃の雰囲気下で加熱乾燥させ、蒸留水やトルエンが気化し、剥離性シート上に厚み100μmのシート状である粘着剤層が形成された。この粘着剤層での原料の配合を次の表5に示し、混合組成物から蒸留水とトルエンが全て気化した前提で、粘着剤層での各種成分の含有量などを算出し前述した表4に示す。その後、粘着剤層に対しPUフィルム(支持体、DSU438)を積層し固定させ、順に、PUフィルム(支持体)と、粘着剤層と、PETフィルム(剥離性シート)を備える積層物を得て、貼付剤の原反とした。この原反から後述する評価試験ごとに所定の形状に切り出し、実施例8に係る貼付剤を複数得た。
<比較例1から比較例6>
比較例1から実施例6の各々で、次の表6から表8に示す配合に従い、後の表9に示す厚みの支持体を用い、その他は実施例1と同様にして貼付剤を複数得た。表2と表7を比べて明らかなように、比較例1、比較例2、比較例3はこの順で各々、実施例1、実施例2、実施例3からMCAと蒸留水を除いた配合で調製した。塗工液から蒸留水と酢酸エチルが全て気化した前提で、粘着剤層での各種成分の含有量などを算出し、表9に示す。
<評価試験1>
実施例1から実施例8、及び比較例1から比較例6の各々に係る貼付剤を、肌に1日貼付し剥がすことにより、実用性を評価した。また、JIS Z 0237:2009に準拠し、実施例1から実施例3、実施例7、及び比較例6の各々に係る貼付剤を、表面仕上げBA(冷間圧延後、光輝熱処理)のSUS304板に2kgゴムローラーで1往復して貼り付け、剥離速度300mm/分の条件で貼付剤を引っ張ることにより、SUS板に対する180°引き剥がし粘着力を測定した。実施例1から実施例8、及び比較例1から比較例3の各々では、1日貼付しても肌から剥離せず、剥がすときに糊残りや皮膚刺激は認められなかったから、実用性が認められた。実施例では、ノニオン界面活性剤の存在下、2−HEA由来のアルコール性ヒドロキシ基がイソシアネート基と効率良く架橋反応し、凝集破壊されにくい粘着剤層が形成されたと考えられる。次の表10に示すように、分厚く液状組成物の含有量が多い粘着剤層ほど柔らかく、樹脂組成物の含有量が多い粘着剤層ほどSUS板に対する180°引き剥がし粘着力が強かった。
一方、比較例4では、粘着剤層から剥離性シートを剥離しようとすると、凝集力が足りず粘着剤層が凝集破壊され層間剥離した。これは表6に示すように、比較例4ではAA由来のカルボキシ基を架橋点としたことに因ると考えられる。つまり、比較例4では、ノニオン界面活性剤の存在下でコロネートL(イソシアネート系架橋剤)を2.0gも使用した(表8)にも関わらず、AA由来のカルボキシ基とイソシアネート基との間で架橋反応が効率良く進まず、カルボキシ基を有するMCAがイソシアネート基との架橋反応に巻き込まれたから、その結果、引き伸ばされると凝集破壊されるようなゲル強度の低い粘着剤層が形成されたものと推定される。比較例4は、明らかに実用性を欠いていた。
比較例5に係る貼付剤では、実施例1に係る貼付剤よりも更に強固に肌に粘着し、剥がすときに強い皮膚刺激を感じた。表9で前述したように、比較例5で粘着剤層には実質的に液状組成物が含有されていないから、樹脂組成物の強すぎる粘着力が液状組成物により何ら緩和されておらず、強い皮膚刺激を生じたものと考えられる。また、比較例5では粘着剤層に全くノニオン界面活性剤が含有されていないため、MCAの多くは架橋反応に巻き込まれる等して樹脂組成物と一体化し、粘着剤層から放出されないであろうと考えられた。これらの理由から、比較例5も実用性を欠いていた。
比較例6では、表8に示すようにコロネートL(イソシアネート系架橋剤)を3.0gも使用した(表8)にも関わらず、粘着剤層がべた付いて剥がすときに糊残りしたから、実用性を欠いていた。これは表9に示すように、比較例6で粘着剤層における樹脂組成物の含有量が21.8質量%と少なすぎるため、粘着剤層のゲル強度が不足したものと考えられる。他方、表4に示すように粘着剤層における樹脂組成物の含有量が26.4質量%である実施例2では、粘着剤層の凝集破壊は認められなかった。これらの結果から、本発明で糊残りしにくい実用的な貼付剤を得るには、粘着剤層における樹脂組成物の含有量は25.0質量%以上であるのが良いと考えられる。
<評価試験2>
被験者として、手指が肌荒れしている主婦を8名選定した。試験開始日(試験1日目)に、主婦5名には、実施例1に係る貼付剤と比較例1に係る貼付剤をそれぞれ複数手渡し、右手の肌荒れしている手指に実施例1に係る貼付剤を、左手の肌荒れしている手指に比較例1に係る貼付剤を、それぞれ1枚ずつ貼付してもらった。この際、まず貼付剤(テープ)の一端部を手指に貼り付け、指の周りを一周し、前記一端部の支持体上に貼付剤の他端部での粘着剤層が粘着するように貼り付けてもらった。この主婦5名には、普段どおりに生活してもらい、毎晩の就寝前に、右手の手指には実施例1に係る貼付剤を、左手の手指には比較例1に係る貼付剤を、それぞれ未使用のものに貼り替えてもらった。また、比較例7として、MCAを含有する化粧水(株式会社ナールスコーポレーション製、商品名:ナールスミント(登録商標)プラス)を準備した。残る主婦3名には、毎日の朝と就寝前に、比較例7に係る化粧水を右手によく塗り込んでもらった。
試験期間中、主婦8名には、普段どおりに水仕事、手洗い、及び入浴をしてもらった。また、試験開始日に主婦8名に、次の表11に示す質問Aから質問Eが記載されたアンケート用紙を複数手渡した。主婦5名には、毎晩の就寝前に貼付剤を貼り替える際、実施例1と比較例1の各々について、その一日を振り返って質問Aから質問Eの回答をアンケート用紙に記入してもらった。残る主婦3名には、毎晩の就寝前に化粧水を塗り込む際、その一日を振り返って質問Aから質問Cの回答をアンケート用紙に記入してもらった。試験開始日から14日後(試験終了日)、主婦8名からアンケート用紙を回収した。アンケート結果から得られた平均値を、次の表12に示す。
表12に示すように、試験開始日に、左手よりも右手でひどく肌荒れしている者が多かった。それにも関わらず、比較例1(左手)よりも実施例1(右手)で、肌荒れが早期改善された。全員で肌荒れ完治に要した日数は、実施例1(右手)で約6日、比較例1(左手)で約14日であった。比較例7(化粧水)では、試験終了日までに肌荒れ完治に至らなかった。比較例1は、実施例1からMCAを除いた他は、ほぼ同条件で調製されている(表1から表4、及び表6から表9を参照)。このため、表12に示す実施例1と比較例1での結果を比べると、実施例1では含有されているMCAに起因して比較例1よりも早期に肌荒れが改善されたといえる。実施例1では、粘着剤層からMCAが適度に放出され、手指でコラーゲン産生促進などの好ましい作用がMCAにより発揮されやすかったため、肌荒れが早期改善されたと考えられる。
表12の質問E回答で示すように、実施例1と比較例1では、試験日の経過と共に皮膚刺激が小さく抑えられた。この評価結果は、実施例1や比較例1で手指から剥がすときに粘着剤層が凝集破壊されず、糊残りを生じなかったことに因るものと考えられる。なお、表11に示す質問Bに関し、水仕事以外で手指に痛みを感じるのは、手指に物が触れたとき、手洗いのとき、及び入浴のときであった。比較例7は化粧水であり、貼付剤のように剥がす必要がないから剥がす際の剥離刺激を生じない反面、手指が露出しているから水仕事の際に手指に痛みを感じやすかった。一方、実施例1や比較例1では、貼付剤により手指が被覆され保護され、手指が水に触れにくいため痛みを感じにくかった。
<評価試験3>
上記した評価試験2と同じ主婦8名を被験者とした。主婦5名には、入浴を済ませ就寝する直前に、両目の目元の皮膚に市販の化粧水(株式会社ノエビア製、商品名:なめらか本舗(登録商標)乳液NA)を塗布し、化粧水が皮膚内部に概ね浸透して皮膚表面が濡れていない状態になってから、右目の目元には実施例2に係る貼付剤を、左目の目元には比較例2に係る貼付剤を、それぞれ貼付して、翌朝の起床時まで貼り付けたままにしてもらった。また、比較例8として、市販の部分パック材(コーセーコスメポート株式会社製。商品名:クリアターン 肌ふっくら アイゾーンマスクa)を準備した。残る主婦3名には、比較例8に係る部分パック材を目元に貼付してもらった。なお、不織布に化粧水が塗布される等した市販の部分パック材では、顔面に貼付して10分を過ぎる頃に乾燥しはじめるため、それ以上の長時間は貼付しないよう注意書きされている場合がある。このため、比較例8に係る部分パック材については、目元に貼付し20分経過時に剥がしてもらった。後日に主婦8名から報告された評価結果を、次の表13に示す。
表13に示すように、比較例8では表情変化により目元の皮膚が動く度に、むず痒さを感じ、貼付し約15分経過すると剥がれはじめた。一方、実施例2と比較例2では、一晩貼付しても痒さを感じず、全く剥がれなかった。実施例2に係る貼付剤はMCAを含有するが、評価試験3では肌荒れ等の異常を生じていない目元の皮膚に貼付したため、MCAによる好ましい効果を確認するに至らなかった。評価試験3の結果から、実施例2や、実施例2の配合からMCAを除いて調製された比較例2では、同様に粘着剤層が柔らかで皮膚から剥脱しにくいことが示唆された。この評価結果は、MCAではなくて、粘着剤層を構成する樹脂組成物に起因すると考えられる。
一般的なパック材と異なり、実施例2や比較例2では、その製造過程で加熱乾燥により水が気化し、粘着剤層に水は実質的に含有されていない。このように、粘着剤層にノニオン界面活性剤やPADD類を含有するが水を実質的に含有しない貼付剤では、皮膚に貼付されると、まず粘着剤層から液状組成物と共にPADD類(例えばMCA)が皮膚へ放出され皮膚内部に浸透し、その後に不感蒸泄により皮膚内部から皮膚表面へ水分がにじみ出て皮膚に潤いをもたらすから、PADD類を皮膚内部に早く浸透させつつ肌の保湿を図ることが可能なため、肌の美容に有用と考えられる。
<評価試験4>
日本チャールズ・リバー株式会社から6週齢のWistar/ST系雄性マウスを4匹購入し、予備飼育した。4匹各々の背部を、剃毛し18Gの注射針で井桁状に傷を付けた。ラット1匹を対照群とし、傷をそのままガーゼで覆い、このガーゼをテープで固定した。他のラット1匹では、傷に比較例7に係るMCA含有化粧水(ナールスミントプラス)を十分に吹きかけてから、同様にガーゼで覆い固定した。残るラット2匹では、傷を覆うように、実施例3又は比較例3に係る貼付剤を貼付した。これらラット4匹を個別に14日飼育した。飼育の際に毎日それぞれ、対照群では未使用のガーゼに付け替え、比較例7では昨日に付けたガーゼを剥がし十分量の化粧水を吹きかけてから未使用のガーゼに付け替え、実施例3又は比較例3では未使用の貼付剤に貼り替え、その都度、傷の外観を次の基準で評価した。評価結果を、次の表14に示す。
−1点:傷が拡大し悪化した。
0点:処置前と比べて傷に変化なし。
1点:傷つけた箇所に、かさぶたが形成されている。
2点:傷つけた箇所で、表皮が部分的に形成されている。
3点:傷つけた箇所で、表皮が十分に形成され、傷が治癒した。
表14に示すように、対照群(無処理)ラットでは、治癒に14日を要した。比較例7に係る化粧水を吹きかけられたラットでは、治癒に要する日数が10日に短縮された。しかし、吹きかけられた化粧水は短時間で乾いてしまうため、かさぶたが形成されてから剥脱するのに10日要したとも評価できる。比較例3に係る貼付剤を貼付されたラットでは、硬くない感触の粘着剤層に被覆されて傷が閉塞され湿潤状態に保たれ、貼り替えの際に糊残りせず綺麗に剥がせたため、かさぶたが形成されることなく皮膚の再生が促進され、治癒が6日で済んだ。しかも、かさぶたが形成されなかったため、皮膚が綺麗に再生していた。つまり、MCAを含有する化粧水を傷にふきかける場合(比較例7)よりも、MCA無しで傷を湿潤治療する場合(比較例3)の方が、皮膚の再生が促進されたといえる。実施例3に係る貼付剤を貼付されたラットに至っては、4日という短期間で治癒が済み、皮膚が綺麗に再生していた。実施例3に係る貼付剤を貼付されたラットでは、比較例3と同様に綺麗に剥がしやすく糊残りしなかったことに加え、粘着剤層からMCAが傷へ適度に放出されたことが相俟って、短期間で傷の再生が完了したものと推察される。