JP2020008092A - 流体動圧軸受装置、及びこの軸受装置を備えたモータ - Google Patents
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Abstract
【課題】負圧の発生を防止し、小型化と高軸受剛性の両立を可能とする流体動圧軸受装置を提供する。【解決手段】流体動圧軸受装置1は、小径部2と大径部3とを有する内側部材4と、大径部3を収容する外側部材5と、外側部材5に対する内側部材4の相対回転時、大径部3の外周面9dと外側部材5の内周面6a3との間の直径隙間に形成される潤滑流体の膜で内側部材4を半径方向に支持するラジアル軸受部と、外側部材5に対する内側部材4の相対回転時、大径部3の第一端面9b又は外側部材5の第一端面6b1と、大径部3の第二端面9c又は外側部材5の第二端面7bとに、潤滑流体の動圧作用を生じるスラスト動圧発生部10,11がそれぞれ設けられ、かつ大径部3の外周面9dと外側部材5の内周面6a3がともにラジアル動圧発生部を有しない円筒面である。【選択図】図1
Description
本発明は、流体動圧軸受装置、及びこの軸受装置を備えたモータに関する。
周知のように、流体動圧軸受装置は、高回転精度及び低騒音等の特長を有する。そのため、流体動圧軸受装置は、情報機器をはじめとする種々の電気機器に搭載されるモータ用の軸受装置として、具体的には、HDD等のディスク駆動装置に組み込まれるスピンドルモータ用、これらディスク駆動装置やPC等に組み込まれるファンモータ用、あるいはレーザビームプリンタ(LBP)に組み込まれるポリゴンスキャナモータ用の軸受装置として好適に使用されている。
また、この種の流体動圧軸受装置においては、更なる静音性向上並びに高寿命化を狙って、例えば流体動圧軸受装置を構成する軸受スリーブの内周面に動圧発生部としてのラジアル動圧溝を所定の態様で配列したものが知られている。また、上記軸受スリーブの軸方向一端面又は軸方向両端面に動圧発生部としてのスラスト動圧溝を所定の態様で配列したものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。この場合、軸受スリーブは流体動圧軸受装置の固定側を構成し、軸受スリーブの内周に挿入される軸部材は流体動圧軸受装置の回転側を構成する。
あるいは、更なる軸受剛性の向上を目的として、特許文献2には、軸受スリーブの外周面にラジアル動圧溝を設けた流体動圧軸受装置が提案されている。この流体動圧軸受装置は、内周面を有する外側部材と、外側部材に対して回転する軸部材と、軸部材に固定された軸受スリーブと、軸受スリーブとの間に第一軸方向隙間を形成する第一スラスト部材と、軸受スリーブとの間に第二軸方向隙間を形成する第二スラスト部材とを備える。この場合、軸受スリーブの外周面にラジアル動圧溝が設けられ、軸受スリーブが軸部材と一体的に回転した際、軸受スリーブの外周面に設けたラジアル動圧溝の動圧作用により、軸受スリーブの外周面と外側部材の内周面との直径隙間に潤滑油の動圧作用が生じるようになっている。また、軸受スリーブの軸方向両端面に設けたスラスト動圧溝の動圧作用により、軸受スリーブの軸方向一端面と第一スラスト部材の軸方向端面との間の軸方向隙間、及び軸受スリーブの軸方向他端面と第二スラスト部材の軸方向端面との間の軸方向隙間にそれぞれ潤滑油の動圧作用が生じるようになっている。
ところで、最近では、ノートパソコンなどに使用される冷却用ファンモータは薄型化の一途を辿っており、当該ファンモータに使用される流体動圧軸受装置にも上記薄型化への対応が求められている。この場合、例えば流体動圧軸受装置のスピンドルとなる軸部材やこの軸部材を支持する軸受スリーブの軸方向寸法を縮小することで、上記薄型化への対応が可能となる。一方で、最近のファンモータにおいては、従来のファンモータと同等の冷却性能を維持しつつ、更なる静粛性の向上を図るべく、インペラ(羽根)を大型化すると共に、より低速域での使用を推進している現状がある。このこと(インペラの大型化)により、軸受に作用する負荷は増しているが、軸受剛性を確保するために軸方向寸法を短くすることができない、といった問題が起きている。すなわち、上記薄型化への対応の一環として軸受スリーブの軸方向寸法を短くすると、その分ラジアル動圧溝が短くなり、あるいは軸方向の二箇所にラジアル軸受部が形成される場合、これらラジアル軸受部の軸方向スパンが減少する。そのため、ラジアル動圧溝のみを軸受スリーブの内周面に設けた構成では、増大化した負荷を許容し得るだけの軸受剛性を得ることが難しい。
例えば、特許文献2に記載のように、軸受スリーブの外周面にラジアル動圧溝を設けると共に軸方向両端面にスラスト動圧溝を設けて、軸受スリーブを軸部材と一体的に回転させる構成とすれば、軸受スリーブの内周面にラジアル動圧溝を設ける場合と比べて、ラジアル軸受部を半径方向外側に移行することができる。よって、軸受スリーブの軸方向寸法を縮小したことによる軸受剛性の低下を、ラジアル軸受部を半径方向外側に移行すること、及び動圧作用により軸受スリーブを軸方向両側で支持する二箇所のスラスト軸受部を設けたことにより補うことが期待できる。
しかしながら、上述のように、軸受スリーブの外周面と軸方向両端面に動圧溝を有する場合、動圧溝の形状によっては、例えば軸受スリーブの上端外周縁や下端外周縁からそれぞれ直径隙間の軸方向中央側や軸方向隙間の半径方向中央側に向けて潤滑油が押し込まれる結果、上述した上端外周縁付近の空間や下端外周縁付近の空間に負圧が発生するおそれが生じる。ここで、軸受スリーブの軸方向寸法を短くすると、その分ラジアル動圧溝の長手方向寸法が短くなり、その結果、軸受内部空間における潤滑油の流れが弱まるため、上記領域に負圧が発生するおそれがより高まる。また、低速で回転するほど、当然に軸受内部空間における潤滑油の流れは弱まるので、このこと(低速回転化)によっても、負圧の発生確率が高まる、といった問題があった。
以上の実情に鑑み、本発明では、負圧の発生を可及的に防止しつつも、小型化と高軸受剛性の両立を可能とする流体動圧軸受装置を提供することを、解決すべき技術課題とする。
前記課題の解決は、本発明に係る流体動圧軸受装置によって達成される。すなわち、この軸受装置は、小径部と大径部とを有する内側部材と、内側部材の少なくとも大径部を収容する外側部材と、外側部材に対する内側部材の相対回転時、大径部の外周面と外側部材の内周面との間の直径隙間に形成される潤滑流体の膜で内側部材を半径方向に支持するラジアル軸受部と、外側部材に対する内側部材の相対回転時、互いに軸方向で対向する大径部の第一端面と外側部材の第一端面の間の第一軸方向隙間、及び大径部の第二端面と外側部材の第二端面の間の第二軸方向隙間にそれぞれ形成される潤滑流体の膜で内側部材を軸方向に支持する第一及び第二スラスト軸受部とを備えた流体動圧軸受装置において、大径部の第一端面又は外側部材の第一端面と、大径部の第二端面又は外側部材の第二端面とに、潤滑流体の動圧作用を生じるスラスト動圧発生部がそれぞれ設けられ、かつ大径部の外周面と外側部材の内周面がともにラジアル動圧発生部を有しない円筒面である点をもって特徴付けられる。
このように、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、外側部材に対して相対回転する内側部材の大径部の第一端面又は外側部材の第一端面と、大径部の第二端面又は外側部材の第二端面とにスラスト動圧発生部をそれぞれ設けると共に、大径部の外周面と外側部材の内周面をともに動圧発生部を有しない円筒面とした。この構成によれば、外側部材の内周面と大径部の外周面は、ラジアル軸受隙間となる直径隙間に動圧作用を積極的に生じさせることのない流体軸受、いわば流体真円軸受を構成し得る。そのため、従来の如くラジアル動圧溝とスラスト動圧溝とが各々異なる向きに潤滑流体を押し込む作用を生じた結果、押し込み元の空間に負圧が発生する事態を可及的に防止することができる。また、従来よりもラジアル軸受隙間を半径方向外側に移行した位置に形成しているので、ラジアル動圧発生部がなくても最低限のラジアル軸受剛性を確保することができる。もちろん、スラスト軸受隙間となる二つの軸方向隙間にはそれぞれスラスト動圧発生部により潤滑流体の動圧作用が生じるので、スラスト方向の軸受剛性を高めることができる。以上より、本発明によれば、軸受装置全体として所要の軸受剛性を確保し、かつ流体動圧軸受装置の軸方向寸法を縮小した場合であっても、軸受内部空間における負圧の発生を可及的に防止することができ、これにより所要の軸受性能を長期にわたって発揮することが可能となる。また、この流体動圧軸受装置を組み込むことで、信頼性の高い回転駆動ユニット(例えばファンモータ)を得ることが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、直径隙間の大きさをG1[μm]、大径部の外径寸法の大きさをG2[mm]としたとき、0.03≦G2/G1<0.24を満たしてもよい。
本発明者らが行った検証の結果、回転側となる部材(例えば内側部材)の大径部の軸方向寸法を短くし、大径部の外径寸法の大きさG2[mm]を、ラジアル軸受隙間となる直径隙間の大きさG1[μm]の0.03倍以上でかつ0.24倍未満に設定した場合に、所定の軸受剛性を確保しつつも、軸受内部空間における負圧の発生を高確率で防止できることが判明した。よって、ラジアル軸受隙間となる直径隙間の大きさG1を大径部の外径寸法の大きさG2に合わせて上述の範囲内に設定することで、軸受全体として所要の軸受剛性を確保し、かつ流体動圧軸受装置の軸方向寸法を縮小した場合であっても、軸受内部空間における負圧の発生をより高確率で防止することができる。従って、当該流体動圧軸受装置、ひいてはこの流体動圧軸受装置を組み込んでなる回転駆動ユニットの信頼性をさらに向上させることが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、大径部の外径寸法の大きさをG2[mm]、大径部の軸方向寸法の大きさをG3[mm]としたとき、1.5≦G2/G3≦15を満たしてもよい。
上述のように、本発明に係る流体動圧軸受装置であれば、従来に比べて軸方向寸法が小さい設計であっても、負圧の発生を防止しつつ、所要の軸受剛性を確保することができる。そのため、上述のように、大径部を従来に比べて扁平形状(軸方向寸法に比べて外径寸法が大きいこと)にしても、軸受剛性を含む各種軸受性能に優れた流体動圧軸受装置を得ることが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、外側部材は、筒状をなすハウジング部と、ハウジング部の一端開口側に配設されるシール部とを有し、内側部材は、軸部と、軸部の外周に固定されるスリーブ部とを有し、シール部の内周面と軸部の外周面との間にシール空間が形成され、シール空間内に潤滑流体としての潤滑油の油面が維持されてもよい。
このように外側部材をハウジング部とシール部とで構成し、かつ内側部材を軸部とスリーブ部とで構成することで、従来ある構成部品を利用して、詳細には、スリーブ部の内周面形状を簡略化し、ハウジング部の内径寸法又はスリーブ部の外径寸法を変更するだけで、本発明に係る流体動圧軸受装置を組み立てることができる。よって、特別な部品を新たに製作する手間を省いて、低コストに本発明に係る流体動圧軸受装置を製造することが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、互いに軸方向で対向するシール部の軸方向端面とスリーブ部の軸方向端面の一方に、スラスト動圧発生部として、潤滑油を半径方向外側に押し込む形態のスラスト動圧溝が形成されていてもよい。
上述のように、流体動圧軸受装置を構成した場合、シール空間は、スリーブ部の半径方向内側に形成される。そのため、互いに軸方向で対向するシール部の軸方向端面とスリーブ部の軸方向端面(それぞれ外側部材の第一端面と内側部材の第一端面に相当)の一方に、スラスト動圧発生部として、潤滑油を半径方向外側に押し込む形態のスラスト動圧溝を形成することによって、シール部とスリーブ部との軸方向隙間に生じる動圧作用が、常にシール空間から半径方向に離れる向きに生じる。よって、シール空間から軸受外部空間への潤滑油の漏れ出しを効果的に防止することが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、軸部の外周面とスリーブ部の内周面との間に、スリーブ部の軸方向一端側の空間と軸方向他端側の空間との間で潤滑油を流通可能とする軸方向の流路が設けられていてもよい。
このように、軸部の外周面とスリーブ部の内周面との間に軸方向の流路を設けることで、上記流路を通じて、軸受内部空間を満たした潤滑油をスリーブ部の軸方向一端面側から軸方向他端面側へ迅速に移動させることができる。よって、軸受内部空間で油圧の急速な変動が生じた場合であっても、上記流路を通じて必要な空間に潤滑油を迅速に補給することができ、これにより、軸受内部空間における潤滑状態を安定化させ、負圧の発生をより効果的に防止することが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、スリーブ部は焼結金属の多孔質体で形成され、多孔質体の内部空孔に潤滑油が含浸されていてもよい。
スリーブ部は軸部の外周に配設されるので、内側部材の回転中心(すなわち軸部の中心軸線)から半径方向に離れた位置にある。よって、このスリーブ部を焼結金属の多孔質体で形成し、この多孔質体の内部空孔に潤滑油が含浸された構造をとることによって、内側部材の回転時、軸部と一体に回転するスリーブ部の内部空孔に保持された状態の潤滑油に相応の遠心力が作用する。これによりスリーブ部の表面からラジアル軸受隙間への潤滑油の滲み出しが助長され、かつラジアル軸受隙間からスリーブ部の内部への潤滑油の還流が抑制される。よって、ラジアル軸受隙間に常に潤沢な潤滑油を保持して、ラジアル方向の軸受剛性を効果的に高めることが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、大径部外周面の周速が0.02m/sec以上でかつ1.48m/sec未満に設定されてもよい。
本発明に係る流体動圧軸受装置であれば、上述のように、小型化と高剛性化を共に満足しつつも、軸受内部空間における負圧の発生を防止可能とするから、上述のように低速域を含む速度範囲で回転使用した場合であっても、負圧の発生を効果的に防止することが可能となる。
以上の説明に係る流体動圧軸受装置は、上述のように、負圧の発生を可及的に防止しつつも、小型化と高軸受剛性の両立を可能とするものであるから、例えば当該流体動圧軸受装置を備えたモータとして好適に提供可能である。
以上より、本発明によれば、負圧の発生を可及的に防止しつつも、小型化と高軸受剛性の両立を可能とする流体動圧軸受装置を提供することが可能となる。
以下、本発明の第一実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る流体動圧軸受装置1の断面図を示している。この流体動圧軸受装置1は、小径部2及び大径部3とを有する内側部材4と、内側部材4の少なくとも大径部3を収容する外側部材5とを主に備える。本実施形態では、内側部材4が流体動圧軸受装置1の回転側を構成し、外側部材5が流体動圧軸受装置1の固定側を構成する。外側部材5の内部空間(具体的には、図1中、密な散点ハッチングで示す領域)は、潤滑流体としての潤滑油で満たされている。以下、各構成要素の詳細を説明する。なお、以下の説明においては、説明の理解を容易にする目的で、図1に示す流体動圧軸受装置1の大径部3側を下側、その軸方向反対側となる小径部2側を上側とする。もちろん、この上下関係は流体動圧軸受装置1の設置態様、使用態様を限定するものではない。
外側部材5は、本実施形態では、筒状をなすハウジング部6と、ハウジング部6の上端開口側に配設されるシール部7とを有する。すなわち、このハウジング部6は、円筒状の筒部6aと、筒部6aの下端開口側を閉塞する底部6bとを一体に有する有底筒状をなしている。筒部6aの内周には、大径内周面6a1と、段部6a2を介して大径内周面6a1の下方に位置する小径内周面6a3とが設けられ、小径内周面6a3の内周に内側部材4の大径部3が収容されている。
また、シール部7は、例えば全体として円環状をなすもので、その内周に軸方向上側から軸方向下側に向かうにつれて縮径するテーパ状の内周面7aを有している。この場合、後述する小径部2としての軸部8の外周面8aとの間に、下方に向けて径方向寸法を漸次縮小させたシール空間Sを形成する。シール空間Sは、ハウジング部6の内部空間に充填された潤滑油の温度変化及び流体動圧軸受装置1の姿勢変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内で潤滑油の油面を常にシール空間Sの軸方向範囲内に保持する。上記構成のシール部7は、本実施形態では、その下端面7bを筒部6aの段部6a2に当接させた状態で、筒部6aの大径内周面6a1に適宜の手段で固定される。これにより、シール部7の下端面7bから、ハウジング部6の底部6bの上端面6b1までの軸方向寸法が所定の大きさに設定される。すなわち、後述する上下二箇所に形成されるスラスト軸受隙間としての二つの軸方向隙間(図5を参照)の総和が所定の大きさに設定される。
上記構成のハウジング部6とシール部7はそれぞれ任意の材料で形成可能であり、例えば樹脂、金属などで形成可能である。また、シール部7とハウジング部6との固定手段も任意であり、例えば接着(圧入を伴った接着を含む)、圧入、溶着など公知の固定手段を適用することができる。
内側部材4は、軸部8と、軸部8の外周に固定されたスリーブ部9とを有する。本実施形態では、軸部8は、軸方向全長にわたって外径寸法が一定の外周面8aを有し、外周面8aの下端にスリーブ部9の内周面9aを固定している。この場合、軸部8のうち外周面8aが露出する部分が本発明に係る小径部2に相当し、軸部8のうち外周面8aがスリーブ部9で覆われた部分及びスリーブ部9が本発明に係る大径部3に相当する。また、軸部8の外周面8aのうち、少なくともシール部7の内周面7aと対向する部分は、凹凸のない平滑な円筒面状に形成されている。
上記構成の軸部8は、例えばステンレス鋼などの金属材料をはじめとして、公知の材料で形成することが可能である。
スリーブ部9は、本実施形態では円筒状をなし、軸部8の外周面8aに適宜の手段(例えば接着、圧入など)で固定される。スリーブ部9の内周面9aは、図2に示すように、ラジアル動圧発生部を有しない平滑な円筒面状をなしている。スリーブ部9の外周面9dも、図1に示すように、ラジアル動圧発生部を有しない平滑な円筒面状をなしている。また、外周面9dと半径方向に対向するハウジング部6の小径内周面6a3も、ラジアル動圧発生部を有しない平滑な円筒面状をなしている。
ここで、スリーブ部9の外周面9dとハウジング部6の筒部6aの小径内周面6a3との間の直径隙間(ここでは、図1に示すハウジング部6の小径内周面6a3の内径寸法g1と、スリーブ部9の外周面9dの外径寸法g2との差に相当する半径方向の直径隙間)の大きさをG1[μm]、スリーブ部9の外径寸法g2の大きさをG2[mm](図2を参照)としたとき、0.03≦G2/G1<0.24の関係を満たすように、より好ましくは0.04≦G2/G1<0.15の関係を満たすように、ハウジング部6の小径内周面6a3の内径寸法g1と、スリーブ部9の外径寸法g2をそれぞれ設定するのがよい。
また、スリーブ部9の軸方向寸法g3の大きさをG3[mm](図2を参照)としたとき、1.5≦G2/G3≦15の関係を満たすように、より好ましくは3.0≦G2/G3≦14の関係を満たすように、スリーブ部9の外径寸法g2と軸方向寸法g3をそれぞれ設定するのがよい。
スリーブ部9の下端面9bは、対向するハウジング部6の底部6bの上端面6b1との間に、第一スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間となる軸方向隙間を形成する(後述する図5を参照)。よって、この下端面9bが本発明に係る内側部材4の第一端面に相当し、底部6bの上端面6b1が本発明に係る外側部材5の第一端面に相当する。また、スリーブ部9の下端面9bには、図3に示すように、第一スラスト軸受部T1の軸方向隙間内の潤滑油に動圧作用を発生させるためのスラスト動圧発生部10が形成されている。このスラスト動圧発生部10は、例えばスパイラル形状をなす複数のスラスト動圧溝10aと、隣り合うスラスト動圧溝10a、10aを区画する凸状の丘部10bとを円周方向で交互に配列することで構成されている。この場合、底部6bの上端面6b1は、スラスト動圧発生部を有しない平坦面状をなしている。
スリーブ部9の上端面9cは、対向するシール部7の下端面7bとの間に、第二スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間となる軸方向隙間を形成する(図5を参照)。よって、この上端面9cが本発明に係る内側部材4の第二端面に相当し、シール部7の下端面7bが本発明に係る外側部材5の第二端面に相当する。また、スリーブ部9の上端面9cには、図4に示すように、第二スラスト軸受部T2の軸方向隙間内の潤滑油に動圧作用を発生させるためのスラスト動圧発生部11が設けられている。このスラスト動圧発生部11は、図3に示すスラスト動圧発生部10と同様に、スパイラル形状をなす複数のスラスト動圧溝11aと、隣り合うスラスト動圧溝11a、11aを区画する凸状の丘部11bとを円周方向で交互に配列することで構成されている。この場合、シール部7の下端面7bは、スラスト動圧発生部を有しない平坦面状をなしている。
なお、本実施形態では、第一スラスト軸受部T1のスラスト動圧発生部10と、第二スラスト軸受部T2のスラスト動圧発生部11とでは、外側部材5に対する内側部材4の相対回転時、軸方向隙間内の潤滑油を押し込む向きが半径方向で互いに相違する。すなわち、第一スラスト軸受部T1のスラスト動圧発生部10は、このスラスト動圧発生部10に面する軸方向隙間において潤滑油を半径方向外側から内側へ押し込む形態をなすのに対し、第二スラスト軸受部T2のスラスト動圧発生部11は、このスラスト動圧発生部11に面する軸方向隙間において潤滑油を半径方向内側から外側へ押し込む形態をなしている。
スリーブ部9は、任意の材料で形成可能であり、本実施形態では焼結金属の多孔質体で形成される。多孔質体の原料粉末には、例えば銅粉末(純銅粉末又は銅合金粉末)と鉄粉末(純鉄粉末又はステンレス粉末などの鉄合金粉末)の一方又は双方を主成分とする原料粉末が使用可能である。この場合、多孔質体の内部空孔には、図2に密な散点ハッチングで示す潤滑油が含浸されていてもよい。
以上の構成を有する流体動圧軸受装置1において、内側部材4と外側部材5との相対回転開始前、ハウジング部6の小径内周面6a3とスリーブ部9の外周面9dとの間には、ラジアル軸受隙間となる直径隙間が既に形成された状態にある。一方、スリーブ部9の下端面9bとハウジング部6の底部6bの上端面6b1とは当接した状態にあり(図1を参照)、あるいは僅かな潤滑油の油膜を介して軸方向に対向した状態にある。
そして、内側部材4と外側部材5の相対回転が開始されるのに伴い、直径隙間に潤滑油の油膜が形成され、この油膜によりスリーブ部9をラジアル方向に相対回転自在に非接触支持するラジアル軸受部Rが形成される(図5を参照)。また、この際、焼結金属製のスリーブ部9の内部空孔に保持された状態の潤滑油が、相対回転に伴い発生する遠心力の作用で、スリーブ部9からの半径方向外側への滲み出しが促進される。その結果、ラジアル軸受隙間における油膜切れを防止して、ラジアル軸受部Rの軸受性能を安定的に発揮させ得る。あるいは、潤沢な潤滑油の供給によりラジアル軸受隙間における軸受剛性を高め得る。
また、内側部材4と外側部材5の相対回転が開始されるのに伴い、スリーブ部9の下端面9bに形成されたスラスト動圧発生部10により、スリーブ部9の下端面9bとハウジング部6の底部6bの上端面6b1との間に潤滑油の動圧作用が発生する。具体的には、下端面9bと上端面6b1との間に潤滑油の半径方向外側から内側(図5中、二点鎖線矢印で示す向き)への押し込み作用が生じる。これにより、下端面9bと上端面6b1との間に潤滑油の油膜を介して所定の大きさの軸方向隙間(スラスト軸受隙間)が形成されると共に、上記油膜の圧力が高められる。その結果、軸部8及びスリーブ部9を有する内側部材4をスラスト方向に相対回転自在に浮上支持する第一スラスト軸受部T1が形成される(図5を参照)。また、上記相対回転が開始されるのに伴い、スリーブ部9の上端面9cに形成されたスラスト動圧発生部11により、スリーブ部9の上端面9cとシール部7の下端面7bとの間に潤滑油の動圧作用、具体的には半径方向内側から外側(図5中、二点鎖線矢印で示す向き)への潤滑油の押し込み作用が生じる。これにより、上端面9cと下端面7bとの間にも潤滑油の油膜を介して所定の大きさの軸方向隙間(スラスト軸受隙間)が形成され、上記油膜の圧力が高められる。その結果、内側部材4をスラスト方向に非接触支持する第二スラスト軸受部T2が形成される(図5を参照)。
本実施形態に係る流体動圧軸受装置1においては、シール空間Sは、スリーブ部9の半径方向内側に形成される(図1を参照)。そのため、上述のように、シール部7の下端面7bと軸方向で対向するスリーブ部9の上端面9cに、スラスト動圧発生部11として、潤滑油を半径方向外側に押し込む形態のスラスト動圧溝11aを形成することによって、スリーブ部9とシール部7との軸方向隙間に生じる潤滑油の動圧作用が、常にシール空間Sから半径方向に離れる向きに生じる。よって、シール空間Sから軸受外部空間への潤滑油の漏れ出しを効果的に防止して、信頼性に優れた流体動圧軸受装置1を提供することが可能となる。
以上で説明した流体動圧軸受装置1は、例えば図示は省略するが、(1)HDDをはじめとしたディスク装置用のスピンドルモータ、(2)レーザビームプリンタ(LBP)用のポリゴンスキャナモータ、あるいは(3)PC用のファンモータなどのモータ用軸受装置として用いられる。(1)の場合、例えば軸部材2にディスク搭載面を有するディスクハブが一体又は別体に設けられ、(2)の場合、例えば軸部材2にポリゴンミラーが一体又は別体に設けられる。また、(3)の場合、例えば軸部材2にインペラを有するファンが一体又は別体に設けられる。
以上で説明したように、本発明に係る流体動圧軸受装置1では、外側部材5に対して相対回転する内側部材4の大径部3の第一端面となるスリーブ部9の下端面9bと、大径部3の第二端面となるスリーブ部9の上端面9cとにスラスト動圧発生部10,11をそれぞれ設けると共に、内側部材4の外周面となるスリーブ部9の外周面9dと外側部材5の内周面となる筒部6aの小径内周面6a3をともにラジアル動圧発生部を有しない円筒面とした(図1等を参照)。この構成によれば、筒部6aの小径内周面6a3とスリーブ部9の外周面9dは、ラジアル軸受隙間となる直径隙間に動圧作用を積極的に生じさせることのない流体軸受を構成し得る。また、従来よりもラジアル軸受隙間を半径方向外側に移行した位置に形成しているので、ラジアル動圧発生部がなくても最低限のラジアル軸受剛性を確保することができる。もちろん、スラスト軸受隙間となる二つの軸方向隙間にはそれぞれスラスト動圧発生部10,11により潤滑油の動圧作用が生じるので、スラスト方向の軸受剛性を高めることができる。以上より、本発明によれば、軸受装置全体として所要の軸受剛性を確保し、かつ流体動圧軸受装置1の軸方向寸法を縮小した場合であっても、軸受内部空間における負圧の発生を可及的に防止することができ、これにより所要の軸受性能を長期にわたって発揮することが可能となる。また、この流体動圧軸受装置1を組み込むことで、信頼性の高い回転駆動ユニット(例えばファンモータ)を得ることが可能となる。
特に、本実施形態のように、大径部3の外径寸法となるスリーブ部9の外径寸法g2の大きさG2[mm]を、直径隙間の大きさG1[μm]の0.03倍以上でかつ0.24倍未満に設定することによって、軸受全体として所要の軸受剛性を確保し、かつ流体動圧軸受装置1の軸方向寸法を縮小した場合であっても、軸受内部空間における負圧の発生をより高確率で防止することができる。従って、当該流体動圧軸受装置1、ひいてはこの流体動圧軸受装置1を組み込んでなる回転駆動ユニットの信頼性をさらに向上させることが可能となる。ただし、あまりに直径隙間を大きくし過ぎると、流体真円軸受としての作用効果(潤滑油の油膜でスリーブ部9をラジアル方向で非接触支持)が十分に得られないおそれがある。このような観点から、直径隙間の大きさG1は130μm以下にするのがよい。
以上、本発明の第一実施形態を説明したが、本発明に係る流体動圧軸受装置は上記例示の形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意の形態を採り得る。
図6は、本発明の第二実施形態に係る流体動圧軸受装置21の断面図を示している。図6に示す流体動圧軸受装置21は、主に軸受内部空間における潤滑油の流通形態について第一実施形態に係る流体動圧軸受装置1と相違する。以下、相違点を中心に説明する。なお、本実施形態に係る流体動圧軸受装置21の構成要素のうち、第一実施形態に係る流体動圧軸受装置1と同一の構成要素については、共通の符号を付し、詳細な説明を省略する。
本実施形態に係る内側部材24は、第一実施形態と同様、相対的に小径な小径部22と、小径部22に比べて大径な大径部23とからなるもので、軸部8と、軸部8の下側外周に配設されるスリーブ部25とを一体的に有する。ここで、スリーブ部25の内周面25aは、ラジアル動圧発生部を有しない平滑な円筒面状をなし、軸部8の外周面8aに固定されている。スリーブ部25の外周面25dも、ラジアル動圧発生部を有しない平滑な円筒面状をなし、同じく平滑な円筒面状をなす筒部6aの小径内周面6a3との間に、ラジアル軸受隙間となる直径隙間を形成する。
スリーブ部25の下端面25bには、軸方向で対向する底部6bの上端面6b1との間に潤滑油の動圧作用を発生させるためのスラスト動圧発生部26が形成されている。このスラスト動圧発生部26は、第一実施形態と同様に、外側部材5に対する内側部材24の相対回転時、下端面25bと上端面6b1との間の潤滑油を半径方向外側から内側(図8中、下側の二点鎖線矢印で示す向き)へ押し込む形態をなしている。
スリーブ部25の上端面25cには、軸方向で対向するシール部7の下端面7bとの間に潤滑油の動圧作用を発生させるためのスラスト動圧発生部27が形成されている。このスラスト動圧発生部27は、第一実施形態と同様に、外側部材5に対する内側部材24の相対回転時、上端面25cと下端面7bとの間の潤滑油を半径方向内側から外側(図8中、上側の二点鎖線矢印で示す向き)へ押し込む形態をなしている。図7に、スリーブ部25の上端面25cに設けたスラスト動圧発生部27の一例を示す。図7に示すように、このスラスト動圧発生部27は、スパイラル形状をなす複数のスラスト動圧溝27aと、隣り合うスラスト動圧溝27a,27aを区画する凸状の丘部27bとを円周方向で交互に配列することで構成される。この場合、内側部材24が所定の向きに回転した際に上端面25cと下端面7bとの間の潤滑油が動圧作用により半径方向外側に押し込まれるように、各スラスト動圧溝27aのスパイラル形状(スパイラルの向き)を設定している。
また、本実施形態では、図6に示すように、スリーブ部25の内周面25aに、スリーブ部9の軸方向に伸びる軸方向溝28が形成されている。これにより、軸部8の外周面8aとスリーブ部25の内周面25aとの間には、スリーブ部25の下端面25b側の空間と、上端面25c側の空間との間で潤滑油を流通可能とする軸方向の流路29が設けられる。本実施形態では、図7に示すように、三本の軸方向溝28が内周面25aに円周方向等間隔で形成されており、これにより、三本の軸方向の流路29が軸部8とスリーブ部25との間に円周方向等間隔で設けられている。
なお、本実施形態においても、スリーブ部25の外周面25dとハウジング部6の筒部6aの小径内周面6a3との間の直径隙間(図6に示す小径内周面6a3の内径寸法と、スリーブ部25の外周面9dの外径寸法との差に相当する半径方向の直径隙間)の大きさをG1[μm]、スリーブ部25の外径寸法の大きさをG2[mm]としたとき、0.03≦G2/G1<0.24の関係を満たすように、より好ましくは0.04≦G2/G1<0.15の関係を満たすように、ハウジング部6の小径内周面6a3の内径寸法と、スリーブ部25の外径寸法をそれぞれ設定するのがよい。
また、スリーブ部25の軸方向寸法の大きさをG3[mm]としたとき、1.5≦G2/G3≦15の関係を満たすように、より好ましくは3.0≦G2/G3≦14の関係を満たすように、スリーブ部25の外径寸法と軸方向寸法をそれぞれ設定するのがよい。
以上の構成を有する流体動圧軸受装置21において、内側部材24と外側部材5との相対回転開始前、ハウジング部6の小径内周面6a3とスリーブ部25の外周面25dとの間には、ラジアル軸受隙間となる直径隙間が既に形成された状態にある。一方、スリーブ部25の下端面25bとハウジング部6の底部6bの上端面6b1とは当接した状態にあり(図6を参照)、あるいは僅かな潤滑油の膜を介して軸方向に対向した状態にある。
そして、内側部材24と外側部材5の相対回転が開始されるのに伴い、直径隙間に潤滑油の油膜が形成され、この油膜によりスリーブ部25をラジアル方向に相対回転自在に非接触支持するラジアル軸受部Rが形成される(図6及び図8を参照)。また、この際、焼結金属製のスリーブ部25の内部空孔に保持された状態の潤滑油が、相対回転に伴い発生する遠心力の作用で、スリーブ部25からの半径方向外側への滲み出しが促進される。その結果、ラジアル軸受隙間における油膜切れを防止して、ラジアル軸受部Rの軸受性能を安定的に発揮させ得る。あるいは、潤沢な潤滑油の供給によりラジアル軸受隙間における軸受剛性を高め得る。
また、内側部材24と外側部材5の相対回転が開始されるのに伴い、スリーブ部25の下端面25bに形成されたスラスト動圧発生部26により、スリーブ部25の下端面25bとハウジング部6の底部6bの上端面6b1との間に潤滑油の動圧作用が発生する。具体的には、下端面25bと上端面6b1との間に潤滑油の半径方向外側から内側(図8中、二点鎖線矢印で示す向き)への押し込み作用が生じる。これにより、下端面25bと上端面6b1との間に潤滑油の油膜を介して所定の大きさの軸方向隙間(スラスト軸受隙間)が形成されると共に、上記油膜の圧力が高められる。その結果、軸部8及びスリーブ部25を有する内側部材24をスラスト方向に相対回転自在に浮上支持する第一スラスト軸受部T1が形成される(図8を参照)。また、上記相対回転が開始されるのに伴い、スリーブ部25の上端面25cに形成されたスラスト動圧発生部27により、スリーブ部25の上端面25cとシール部7の下端面7bとの間に潤滑油の動圧作用、具体的には半径方向内側から外側(図8中、二点鎖線矢印で示す向き)への潤滑油の押し込み作用が生じる。これにより、上端面25cと下端面7bとの間にも潤滑油の油膜を介して所定の大きさの軸方向隙間(スラスト軸受隙間)が形成され、上記油膜の圧力が高められる。その結果、内側部材24をスラスト方向に非接触支持する第二スラスト軸受部T2が形成される(図8を参照)。
また、本実施形態に係る流体動圧軸受装置21においては、軸部8の外周面8aとスリーブ部25の内周面25aとの間に、スリーブ部25の下端面25b側の空間と上端面25c側の空間との間で潤滑油を流通可能とする軸方向の流路29を設けるようにした(図6及び図7を参照)。このように、軸方向隙間の半径方向内側に軸方向の流路29を設けることで、この流路29を通じて、軸受内部空間を満たした潤滑油をスリーブ部25の下端面25b側の空間と上端面25c側の空間との間で迅速に移動させることができる。よって、軸受内部空間で油圧の急速な変動が生じた場合であっても、上記流路29を通じて必要な空間に潤滑油を迅速に補給することができ、これにより、軸受内部空間における潤滑状態を安定化させ、負圧の発生をより効果的に防止又は解消することが可能となる。
特に、本実施形態では、軸方向の流路29の下端とつながるスリーブ部25の下端面25b側の空間に、潤滑油を半径方向内側に押し込む動圧作用を生じるスラスト動圧発生部26を設けると共に、軸方向の流路29の上端とつながるスリーブ部25の上端面25c側の空間に、潤滑油を半径方向外側に押し込む動圧作用を生じるスラスト動圧発生部27を設けるようにしたので、内側部材24の相対回転時、下側の軸方向隙間内の潤滑油がスラスト動圧発生部26により半径方向内側に押し込まれた後、軸方向の流路29を通って上側の軸方向隙間内に送り出される。また、上側の軸方向隙間に送り出された潤滑油はスリーブ部25の上端面25cに設けられたスラスト動圧発生部27により半径方向外側に押し込まれる。上側の軸方向隙間を半径方向外側に送り出された潤滑油は、軸方向隙間の半径方向外周端に位置する直径隙間を通って、再び下側の軸方向隙間に導入される。よって、上記構成の流体動圧軸受装置21によれば、軸方向の流路29と、上側及び下側の軸方向隙間、及び直径隙間とで、潤滑油が循環する循環流路を構成することができ、これにより、軸受内部空間における潤滑状態を安定化させ、負圧の発生をより迅速かつ効果的に防止又は解消することが可能となる。
なお、上記実施形態では何れも、スラスト動圧発生部10,11(26,27)をスリーブ部9(25)の両端面9b,9c(25b,25c)に設けた場合を例示したが、もちろん、スラスト動圧発生部10,11(26,27)の一方又は双方を、底部6bの上端面6b1とシール部7の下端面7bの一方又は双方に設けてもよい。
また、スラスト動圧発生部10,11(26,27)としては、複数のスラスト動圧溝10a,11a(27a)をスパイラル状に配列したものに限らず、ステップ面や波型面など、スラスト軸受隙間となる軸方向隙間に潤滑油の動圧作用を生じさせ得る限りにおいて公知の形態を採用することが可能である。
また、上記実施形態では、有底筒状をなすハウジング部6と、ハウジング部6の一端開口側に配設されるシール部7とで外側部材5を構成した場合を例示したが、もちろん外側部材5はこれ以外の構成をとることも可能である。例えば図示は省略するが、両端開口形状をなすハウジング部と、ハウジング部の両端開口側にそれぞれ配設される二個のシール部とで外側部材を構成してもよい。
以下、本発明の作用効果を検証するための実施例(検証試験)について詳述する。この検証試験では、ラジアル軸受隙間となる直径隙間の大きさを異ならせた複数種類の流体動圧軸受装置(比較例1〜3、実施例1〜4)を用意し、内側部材の相対回転時、軸受内部空間における負圧の発生の有無を検証した。本試験では、一部の比較例(比較例1)のみ、大径部の外周面にラジアル動圧溝を設けた流体動圧軸受装置とし、残りの比較例及び実施例については全て、大径部の外周面にラジアル動圧溝を有しない流体動圧軸受装置とした。また、大径部外周面の周速を、比較例及び実施例ごとに異ならせて内側部材を回転させた際の負圧の発生の有無を検証した。なお、一部の実施例(実施例1)のみ流体動圧軸受装置は図6に示す構成とし、残りの比較例及び実施例については全て、図1に示す構成の流体動圧軸受装置とした。大径部(スリーブ部)は焼結金属の多孔質体とし、内部空孔に潤滑油を含浸させたものを用いて図1又は図6に示す流体動圧軸受装置を構成した。大径部のサイズ(軸方向寸法)は全て1mmとした。試験温度は全て100℃とした。
各比較例及び実施例のラジアル動圧溝の有無、ラジアル隙間比、及び大径部外周面の周速の値を表1に示す。ラジアル動圧発生部が有るものには○、無いものには×としている。また、表1の最も右側の欄に、負圧の発生の有無についての結果を示している。負圧が発生したものには○、発生しなかったものには×としている。なお、表1におけるラジアル隙間比は、直径隙間の大きさG1[μm]で大径部の外径寸法の大きさG2[mm]を除したときの値を意味する。
表1に示すように、ラジアル動圧溝を外周面に有する場合(比較例1)、負圧が発生した。また、ラジアル動圧溝を外周面に有しない場合であっても、直径隙間が所定の大きさ以下だと、言い換えるとラジアル隙間比が0.24以上だと(比較例2,3)、周速の程度によらず、負圧が発生した。これに対して、外周面のラジアル動圧溝を無くし、かつラジアル軸受隙間となる直径隙間(表1ではラジアル隙間比)を大きくとることによって、具体的には、ラジアル隙間比を0.24未満とすることによって(実施例1〜4)、軸受内部空間における負圧の発生を防止することができた。特に、低速域での回転時(例えば実施例1)においては、負圧が発生し易い条件下にあるが、ラジアル軸受隙間(ラジアル隙間比)を大きくし、かつ図6に示すように、潤滑油を軸受内部空間で積極的に循環させ得る構造をとる場合(実施例1の場合)、負圧の発生を防止できることが分かった。
1,21 流体動圧軸受装置
2,22 小径部
3,23 大径部
4,24 内側部材
5 外側部材
6 ハウジング部
6a 筒部
6a1 大径内周面
6a2 段部
6a3 小径内周面
6b 底部
6b1 上端面
7 シール部
7a 内周面
7b 下端面
8 軸部
8a 外周面
9,25 スリーブ部
9a,25a 内周面
9b,25b 下端面
9c,25c 上端面
9d,25d 外周面
10,11,26,27 スラスト動圧発生部
10a,11a,27a スラスト動圧溝
10b,11b,27b 丘部
28 軸方向溝
29 軸方向の流路
R ラジアル軸受部
S シール空間
T1,T2 スラスト軸受部
2,22 小径部
3,23 大径部
4,24 内側部材
5 外側部材
6 ハウジング部
6a 筒部
6a1 大径内周面
6a2 段部
6a3 小径内周面
6b 底部
6b1 上端面
7 シール部
7a 内周面
7b 下端面
8 軸部
8a 外周面
9,25 スリーブ部
9a,25a 内周面
9b,25b 下端面
9c,25c 上端面
9d,25d 外周面
10,11,26,27 スラスト動圧発生部
10a,11a,27a スラスト動圧溝
10b,11b,27b 丘部
28 軸方向溝
29 軸方向の流路
R ラジアル軸受部
S シール空間
T1,T2 スラスト軸受部
Claims (9)
- 小径部と大径部とを有する内側部材と、前記内側部材の少なくとも前記大径部を収容する外側部材と、前記外側部材に対する前記内側部材の相対回転時、前記大径部の外周面と前記外側部材の内周面との間の直径隙間に形成される潤滑流体の膜で前記内側部材を半径方向に支持するラジアル軸受部と、前記外側部材に対する前記内側部材の相対回転時、互いに軸方向で対向する前記大径部の第一端面と前記外側部材の第一端面の間の第一軸方向隙間、及び前記大径部の第二端面と前記外側部材の第二端面の間の第二軸方向隙間にそれぞれ形成される潤滑流体の膜で前記内側部材を軸方向に支持する第一及び第二スラスト軸受部とを備えた流体動圧軸受装置において、
前記大径部の第一端面又は前記外側部材の前記第一端面と、前記大径部の前記第二端面又は前記外側部材の前記第二端面とに、前記潤滑流体の動圧作用を生じるスラスト動圧発生部がそれぞれ設けられ、かつ
前記大径部の外周面と前記外側部材の内周面がともにラジアル動圧発生部を有しない円筒面であることを特徴とする流体動圧軸受装置。 - 前記直径隙間の大きさをG1[μm]、前記大径部の外径寸法の大きさをG2[mm]としたとき、0.03≦G2/G1<0.24を満たす、請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記大径部の外径寸法の大きさをG2[mm]、前記大径部の軸方向寸法の大きさをG3[mm]としたとき、1.5≦G2/G3≦15を満たす、請求項1又は2に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記外側部材は、筒状をなすハウジング部と、前記ハウジング部の一端開口側に配設されるシール部とを有し、
前記内側部材は、軸部と、前記軸部の外周に固定されるスリーブ部とを有し、
前記シール部の内周面と前記軸部の外周面との間にシール空間が形成され、前記シール空間内に前記潤滑流体としての潤滑油の油面が維持される。請求項1〜3の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置。 - 互いに軸方向で対向する前記シール部の軸方向端面と前記スリーブ部の軸方向端面の一方に、前記スラスト動圧発生部として、前記潤滑油を半径方向外側に押し込む形態のスラスト動圧溝が形成されている、請求項4に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記軸部の外周面と前記スリーブ部の内周面との間に、前記スリーブ部の軸方向一端側空間と他端側空間との間で前記潤滑油を流通可能とする軸方向の流路が設けられている。請求項4又は5に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記スリーブ部は焼結金属の多孔質体で形成され、前記多孔質体の内部空孔に前記潤滑油が含浸されている請求項4〜6の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記大径部外周面の周速が0.02m/sec以上でかつ1.48m/sec未満に設定される請求項1〜7の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置。
- 請求項1〜8の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置を備えたモータ。
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2019
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WO2020013049A1 (ja) | 2020-01-16 |
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