JP2019218305A - アルコキシ基とアシロキシ基を有するシラン類の製造方法、新規なシラン類、およびそれらの用途 - Google Patents
アルコキシ基とアシロキシ基を有するシラン類の製造方法、新規なシラン類、およびそれらの用途 Download PDFInfo
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Abstract
Description
とくに、テトラエトキシシラン(以下、TEOSと記載する)やテトラメトキシシラン(以下、TMOSと記載する)は、安価に製造できるシラン化合物であり、工業的に広く利用されている。
それらの化合物は、単独あるいは他の有機材料や無機材料と混合した形態で、各種材料の表面処理にも利用できるが、そのままでは反応性が低いために、液相系の表面処理では、通常、酸や塩基のような触媒存在下、水を含む溶媒中で、エトキシ基やメトキシ基を加水分解して、シラノールやそれらが縮重合したオリゴマーに変換してから使用されている(方法A、たとえば、特許文献1〜3、非特許文献1など)。
一方、シラノール以外の中間体に変換して表面処理を行う方法として、TEOSのエトキシ基やTMOSのメトキシ基の一部をアセトキシ基に変換することにより、材料表面との反応性を高めて、表面処理を行う方法が検討されている(方法B、特許文献4)。
これらのことから、従来技術の問題点を解決できる、工業的により有利な方法が求められている。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、TEOSやTMOS等の簡便に入手できるシラン類から容易に製造されるアルコキシシラン類を原料とし、表面処理剤として用いる場合に、修飾表面の疎水性・親水性等の性質や水や湿気に対する安定性を制御できる特徴を有するシラン類を製造する方法、それにより得られる新規なシラン類、およびそれらの表面処理剤としての用途を提供することを目的とするものである。
<1> メトキシ基またはエトキシ基と、他のアルコキシ基を有するアルコキシシラン類に、カルボン酸無水物を、触媒存在下で反応させる反応工程を含む、アルコキシ基とアシロキシ基を有するシラン類の製造方法であって、前記アルコキシシラン類が、下記一般式(I)で表されるアルコキシシラン類であり、前記カルボン酸無水物が、下記一般式(II)で表されるカルボン酸無水物であり、前記触媒が、酸触媒であり、前記反応工程で得られるシラン類が、下記一般式(IIIA)で表されるシラン類であることを特徴とする、アルコキシ基とアシロキシ基を有するシラン類の製造方法。
Si(OR1)p(OR2)4−p (I)
(式中、pは、1以上3以下の整数である。R1は、それぞれ独立して炭素数1〜24の炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立してメチル基またはエチル基である。R1の炭化水素基の水素原子の一部または全部が、反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
(R3CO)2O (II)
(式中、R3は、炭素数1〜10の炭化水素基であり、炭化水素基の水素原子の一部または全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
Si(OR1)r(OR2)4−(r+s)(OCOR3)s (IIIA)
(式中、R1、R2、およびR3は、それぞれ前記と同義であり、r、sは、1以上3以下の整数であり、(r、s)の組み合わせは、(1、1)、(1、2)、(1、3)、(2、1)、(2、2)、または(3、1)である。)
<2> 前記酸触媒が、無機系または有機系の酸である、<1>に記載のシラン類の製造方法。
<3> 前記無機系の酸が、無機系固体酸である、<2>に記載のシラン類の製造方法。<4> 前記無機系固体酸が、ゼオライトであり、USY型、ベータ型、またはY型からなる群より選ばれる少なくとも1種である、<3>に記載のシラン類の製造方法。
<5> 下記一般式(IIIB)で表されるシラン類。
Si(OR4)v(OR5)4−(v+w)(OCOR6)w (IIIB)
(式中、R4は、炭素数3〜20の炭化水素基、または、炭素上の水素原子の一部または全部がアルコキシ基で置換された炭素数1〜20の炭化水素基である。R5はメチル基またはエチル基であり、R6は、炭素数1〜3の炭化水素基、または、炭素上の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3の炭化水素基である。v、wは、1または2であり、(v、w)の組み合わせは、(1、1)、(1、2)、または(2、1)である。)
<6> <5>において、R4が、下記のいずれかの条件を満たす炭化水素基である(IIIB)のシラン類。
(1)R4が、2級または3級の脂肪族炭化水素基である。
(2)R4が、アルキル基を置換基として有する芳香族炭化水素基である。
(3)R4が、アラルキル基である。
<7> <5>または<6>に記載のシラン類を含有する組成物からなる表面処理剤。
<8> <1>〜<4>の何れかに記載の製造方法で得られるシラン類並びに<5>または<6>に記載のシラン類からなる群より選ばれる少なくとも1種類のシラン類を含有す
る組成物からなる表面処理剤を用いて、固体材料の表面を処理する工程を含む、表面処理方法。
(1)原料や触媒が入手し易く、取り扱いが容易で安全性も高い。
(2)固体触媒を使用する反応系では、触媒の分離・回収等も容易である。
(3)反応条件を制御することにより、複数のメトキシ基またはエトキシ基の一部をアシロキシ基に変換することが可能である。
(4)本発明の製造方法により、アルコキシ基とアシロキシ基を有する新規なシラン類を提供できる。
(5)材料表面の物性や安定性を多様に制御できる表面処理剤を提供できる。
本発明の製造方法は、表面処理剤等として有用なシラン類を、効率的に、また安全に製造することを可能にするもので、従来技術に比べて、経済性、環境負荷性等の面でも、大きな利点を有すると考える。
本発明の一実施形態である製造方法は、TEOSやTMOS等から容易に製造できるアルコキシシラン類を、酸触媒の存在下で、カルボン酸無水物と反応させる反応工程を含むことを特徴とする。
以下、本発明の原料として使用する、アルコキシシラン類、酸触媒、カルボン酸無水物、反応工程を説明する。
Si(OR1)p(OR2)4−p (I)
で表される。
それらの基等を有するアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル
基、2−オクチル基、デシル基、メンチル基(以下、メンチル基は、2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシル基を示す)、2−メトキシエチル基、3−エトキシプロピル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−ジメチルアミノエチル基、2−シアノエチル基、トリフルオロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロオクチル基、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル基等が挙げられる。
アリール基の水素原子の一部は、反応に関与しない基で置換されていてもよい。反応に関与しない基の具体例としては、上記のアルキル基の場合に示したもの等を挙げることができる。また、その他の反応に関与しない基として、環上の2つの炭素原子を結合させる2価の基であるオキシエチレン基やオキシエチレンオキシ基等が挙げられる。それらの基等を有するアリール基の具体例としては、メチルフェニル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、sec−ブチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ジメチルフェニル基、イソプロピル(メチル)フェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、オクトキシフェニル基、メチル(メトキシ)フェニル基、フルオロ(メチル)フェニル基、クロロ(メトキシ)フェニル基、ブロモ(メトキシ)フェニル基、2,3−ジヒドロベンゾフラニル基、1,4−ベンゾジオキサニル基等が挙げられる。
反応に関与しない基の具体例としては、上記のアルキル基の場合について示したもの等を挙げることができる。
それらの基等を有するアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、2−ナフチルメチル基、9−アントリルメチル基、(4−クロロフェニル)メチル基、1−(4−メトキシフェニル)エチル基等が挙げられる。
反応に関与しない基の具体例としては、上記のアルキル基の場合について示したもの等の他、上記に示したアリール基等を挙げることができる。
それらの基等を有するアルケニル基の具体例としては、ビニル基、2−プロペニル基、3−ブテニル基、5−ヘキセニル基、9−デセニル基、シトロネロイル基(以下、シトロネロイル基は、3,7−ジメチル−6−オクテニル基を示す)、2−フェニルエテニル基、2−(メトキシフェニル)エテニル基、2−ナフチルエテニル基、2−アントリルエテニル基等が挙げられる。
(2−オクトキシ)シラン(Si(O−2−Oct)(OMe)3)、ジメトキシジ(2−オクトキシ)シラン(Si(O−2−Oct)2(OMe)2)、((−)−メンチルオキシ)トリメトキシシラン(Si(O−(−)−Mentyl)(OMe)3)、((−)−シトロネロイルオキシ)トリメトキシシラン(Si(O−(−)−Citronel)(OMe)3)、トリメトキシ(2−フェネチルオキシ)シラン(Si(OCH2CH2Ph)(OMe)3)、ジメトキシジ(2−フェネチルオキシ)シラン(Si(OCH2CH2Ph)2(OMe)2)、(2−メチルフェノキシ)トリメトキシシラン(Si(O−2−MeC6H4)(OMe)3)、ジ(2−メチルフェノキシ)ジメトキシシラン(Si(O−2−MeC6H4)(OMe)2)、(5−イソプロピル−2−メチルフェノキシ)トリメトキシシラン(Si(O−5−iPr−2−Me−C6H3)(OMe)3)、ジ(5−イソプロピル−2−メチルフェノキシ)ジメトキシシラン(Si(O−5−iPr−2−Me−C6H3)2(OMe)2)、(2−イソプロピル−5−メチルフェノキシ)トリメトキシシラン(Si(O−2−iPr−5−Me−C6H3)(OMe)3)、トリエトキシヘキソキシシラン(Si(OHex)(OEt)3)、ジエトキシジヘキソキシシラン(Si(OHex)2(OEt)2)、シクロヘキソキシトリエトキシシラン(Si(O−cyc−Hex)(OEt)3)、トリエトキシデシルオキシシラン(Si(ODec)(OEt)3)、ジエトキシジ(2−メトキシエトキシ)シラン(Si(OCH2CH2OMe)2(OEt)2)、(ベンジルオキシ)トリエトキシシラン(Si(OCH2Ph)(OEt)3)、ジ(ベンジルオキシ)ジエトキシシラン(Si(OCH2Ph)2(OEt)2)。等を挙げることができる。
(R3CO)2O (II)
で表される。
それら炭化水素基の具体例としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基等が挙げられ、反応に関与しない基の具体例としては、上記の一般式(I)のR1の説明において示したもの等を挙げることができる。
炭化水素基R3中の炭素数に関しては、炭化水素基がアルキル基の場合には、好ましくは1〜9、より好ましくは1〜8であり、アリール基の場合には、好ましくは6〜10、より好ましくは6〜8であり、アラルキル基の場合には、好ましくは7〜10、より好ましくは7〜9であり、アルケニル基の場合には、好ましくは2〜9、より好ましくは2〜8である。また、R3が反応に関与しない基を含む場合には、炭素上の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜3の炭化水素基が好ましい。
それらの基の具体例としては、上記の一般式(I)のR1の説明において示したもの等を挙げることができる。
Si(OR1)r(OR2)4−(r+s)(OCOR3)s (IIIA)
で表されるアシロキシシランを製造できる。
式中、R1、R2、およびR3は、それぞれ上記一般式(I)中のR1、R2、一般式(II)中のR3と同義であり、r、sは、1以上3以下の整数であり、(r、s)の組み合わせは、(1、1)、(1、2)、(1、3)、(2、1)、(2、2)、または(3、1)である。
したがって、上記一般式(II)で表される非環状のカルボン酸無水物を用いた場合、本発明における反応はカルボン酸エステルの脱離を伴う反応となり、その反応工程は、1個のアルコキシ基と3個のメトキシ基またはエトキシ基を有するシラン類の反応では、たとえば、下記反応式で表すことができる。
なお、本発明の反応系では、前記のアシロキシ化反応だけでなく、原料あるいは生成物の分子の間で、置換基の交換による不均化反応も進行することがある。そのため、一般的な反応条件下では、アシロキシ基、アルコキシ基、および、メトキシ基またはエトキシ基の3つの群より選ばれる置換基を有する複数の種類のシラン類が同時に生成することが多
い。
酸触媒としては、従来公知の各種の酸触媒を使用することができ、無機系または有機系の酸を好ましく使用することができる。
固体酸触媒の具体例としては、金属塩、金属酸化物等の固体無機物等が挙げられ、より具体的に示せば、プロトン性水素原子あるいは金属カチオン(アルミニウム、チタン、ガリウム、鉄、セリウム、スカンジウム等)を有する、ゼオライト、メソポーラスシリカ、モンモリロナイトなどのほか、シリカゲル、ヘテロポリ酸や、カーボン系素材を担体とする無機系固体酸が挙げられる。
で、プロトン性水素原子を有するプロトン型のものは、H−Y型、H−SDUSY型、H−SUSY型、H−ベータ型、H−モルデナイト型、H−ZSM−5型等で表される。また、アンモニウム型のものである、NH4−Y型、NH4−VUSY型、NH4−ベータ型、NH4−モルデナイト型、NH4−ZSM−5型等のゼオライトを焼成して、プロトン型に変換したものも使用することができる。
さらに、ゼオライトのシリカ/アルミナ比(物質量比)については、反応条件に応じて各種の比を選択できるが、通常は3〜1000であり、好ましくは3〜800、より好ましくは5〜600、さらに好ましくは5〜400である。
さらに、ブレンステッド酸性またはルイス酸性を有する、固体酸以外の無機系または有機系の酸も触媒として使用できる。それらの具体例としては、無機系のものとしては、硫酸、硝酸、塩酸等のブレンステッド酸性の化合物や、塩化スカンジウム(III)、塩化イットリウム(III)、塩化チタン(IIIまたはIV)、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、過塩素酸鉄(III)、塩化ルテニウム(III)、塩化亜鉛(II)、フッ化ホウ素(III)、塩化ホウ素(III)、塩化アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、塩化ガリウム(III)、塩化インジウム(III)、塩化スズ(IV)、塩化ビスマス(III)等のルイス酸性の化合物が挙げられる。それらの化合物は、水和物の形態で使用してもよい。また、有機系のものとしては、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド等のブレンステッド酸性の化合物が挙げられる。加えて、有機系のものとしては、それらブレンス
テッド酸性の化合物の金属塩やトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン等でルイス酸性の化合物も使用できる。ルイス酸性の金属塩中の金属カチオンの種類としては、スカンジウム(III)、イットリウム(III)、鉄(III)、コバルト(II)、銅(II)、銀(I)、亜鉛(II)、スズ(II)、ビスマス(III)等の他、ランタノイド系元素のランタン(III)、プラセオジム(III)、サマリウム(III)、ネオジム(III)、イッテリビウム(III)等が挙げられる。
それらの中で、触媒活性の点では、無機系の酸においては、鉄、ルテニウム、アルミニウム、スカンジウム、またはインジウムから選ばれる元素を含む、塩化物、臭化物、または、過塩素酸塩等が好ましく、それらの具体例としては、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、過塩素酸鉄(III)、塩化ルテニウム(III)等が挙げられる。また、それらの元素の塩化物や臭化物に、過塩素酸銀等を添加し、塩化物や臭化物を過塩素酸塩に変換して使用することも、好ましい方法である。
さらに、有機系の酸においては、スルホン酸、スルホンイミド等が好ましく、それらの酸と、鉄、ルテニウム、アルミニウム、スカンジウム、またはインジウム等から選ばれる元素から生成する塩も好ましく使用される。それらのスルホン酸、スルホンイミドの具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、メタンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられ、それらと塩を形成する元素のカチオン種としては、スカンジウム(III)、鉄(III)、ルテニウム(III)、アルミニウム(III)、ガリウム(III)、インジウム(III)、ビスマス(III)等が挙げられる。固体酸以外の無機系と有機系の酸は、それらを複数組み合わせて使用することもでき、上記の固体酸と組み合わせて使用することもできる。
反応温度は、通常は−20℃以上、好ましくは−10〜300℃、より好ましくは、−10〜200℃である。また、カルボン酸無水物の反応性を制御するために、室温で反応を行う場合には、室温の温度範囲としては、通常は0〜40℃、好ましくは5〜40℃、より好ましくは10〜35℃である。
さらに、反応圧力は、通常は0.1〜100気圧で、好ましくは0.1〜50気圧、より好ましくは0.1〜10気圧である。
反応時間は、原料や触媒の量、反応温度、反応装置の形態等に依存するが、生産性や効率を考慮すると、通常は0.1〜1200分、好ましくは0.1〜600分、より好ましくは0.1〜300分程度である。
行うことができる。
また、生成したシラン類の精製も、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の有機化学上通常用いられる手段により容易に達せられる。
Si(OR4)v(OR5)4−(v+w)(OCOR6)w (IIIB)
さらに、一般式(IIIB)のR6において、炭素数1〜3の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基等を挙げることができ、それらの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、プロペニル基等を挙げることができる。また、水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3の炭化水素基としては、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等を挙げることができる。
(1)R4が、2級または3級の脂肪族炭化水素基である。
(2)R4が、アルキル基を置換基として有する芳香族炭化水素基である。
(3)R4が、アラルキル基である。
それらのR4の具体例としては、(1)では、シクロヘキシル基、2−オクチル基、tert−アミル等が挙げられ、(2)、メチルフェニル基、イソプロピル(メチル)フェニル基等が挙げられ、(3)では、2−フェネチル基、ベンジル基等が挙げられる。
一般式(IIIB)で表されるシラン類は、本発明の製造方法により好ましく製造される。
また、本発明の一実施形態に係る表面処理方法は、本発明の製造方法で得られる一般式(IIIA)で表されるシラン類又は本発明の一実施形態に係る一般式(IIIB)で表されるシラン類を含有する組成物からなる表面処理剤を用いて、固体材料の表面を処理する工程を含む。
本発明の一実施形態に係る製造方法により提供されるシラン類及び本発明の一実施形態に係るシラン類は、アルコキシ基を有し、かつアルコキシ基よりも反応性が高いアシロキシ基を有しているため、原料のアルコキシシラン類に比べて高い反応性を有し、表面処理剤等の機能性化学品として利用価値が高い。
それらの固体材料に対して、本発明の表面処理方法を用いることにより、室温で数分程度の温和な条件下で迅速に表面処理を行うことが可能で、使用するシラン類の種類に応じて、固体材料表面の親水性・疎水性を容易に制御することができる。
本発明の表面処理方法で使用する化合物は、上記の反応等で製造されるアシロキシシラン類を組成物とするもので、単離精製した単独のシラン類だけでなく、複数の種類のシラン類を含む混合溶液を使用することもできる。
さらに、本発明によるシラン類の製造方法では、共生成物であるカルボン酸エステルが表面処理の工程を阻害することはないため、生成したシラン類を含む反応液を、そのまま表面処理の工程に使用する方法も、本発明の特長を示す方法である。
得られたシラン類を表面処理剤として用いる場合は、必要に応じて、トルエン、ヘキサン等の生成したシラン類と反応しない有機溶剤で希釈して用いてもよい。
固体材料の表面処理の方法については、ディップ法(浸漬法)、キャスト法、スピンコート法、スプレーコート法等、従来公知の各種の方法により行うことができる。具体的には、例えば、後述の実施例に示すように、アルコキシシランとカルボン酸無水物の反応で得られたシラン類を含む組成物を、適当な溶媒に希釈して、固体材料を浸漬させる方法等により行うことができる。
Ia2:ジヘキソキシジメトキシシラン(Si(OHex)2(OMe)2)[162−164℃/26mmHg]
Ib1:シクロヘキソキシトリメトキシシラン(Si(O−cyc−Hex)(OMe)3)[88−90℃/10mmHg]
Ib2:ジシクロヘキソキシジメトキシシラン(Si(O−cyc−Hex)2(OMe)2)[147−149℃/10mmHg]
Ic1:トリメトキシ(2−オクトキシ)シラン(Si(O−2−Oct)(OMe)
3)[74−76℃/2.0mmHg]
Ic2:ジメトキシジ(2−オクトキシ)シラン(Si(O−2−Oct)2(OMe)2)[137−139℃/2.0mmHg]
Id1:((−)−メンチルオキシ)トリメトキシシラン(Si(O−(−)−Mentyl)(OMe)3)[107−109℃/3.0mmHg]
Ie1:((−)−シトロネロイルオキシ)トリメトキシシラン(Si(O−(−)−Citronel)(OMe)3)[91−93℃/0.3mmHg]
If1:トリメトキシ(2−フェネチルオキシ)シラン(Si(OCH2CH2Ph)(OMe)3)[98−99℃/1.0mmHg]
If2:ジメトキシジ(2−フェネチルオキシ)シラン(Si(OCH2CH2Ph)2(OMe)2)[173−174℃/1.0mmHg]
Ig1:(2−メチルフェノキシ)トリメトキシシラン(Si(O−2−MeC6H4)(OMe)3)[87−88℃/2.0mmHg]
Ig2:ジ(2−メチルフェノキシ)ジメトキシシラン(Si(O−2−MeC6H4)2(OMe)2)[137−139℃/2.0mmHg]
Ih1:(5−イソプロピル−2−メチルフェノキシ)トリメトキシシラン(Si(O−5−iPr−2−Me−C6H3)(OMe)3)[81−83℃/0.2mmHg]
Ih2:ジ(5−イソプロピル−2−メチルフェノキシ)ジメトキシシラン(Si(O−5−iPr−2−Me−C6H3)2(OMe)2)[149−151℃/0.15mmHg]
Ii1:(2−イソプロピル−5−メチルフェノキシ)トリメトキシシラン(Si(O−2−iPr−5−Me−C6H3)(OMe)3)[95−97℃/0.6mmHg]
Ij1:トリエトキシヘキソキシシラン(Si(OHex)(OEt)3)[85−87℃/1.1mmHg]
Ij2:ジエトキシジヘキソキシシラン(Si(OHex)2(OEt)2)[123−125℃/1.1mmHg]
Ik1:シクロヘキソキシトリエトキシシラン(Si(O−cyc−Hex)(OEt)3)[84−86℃/1.1mmHg]
Il1:トリエトキシデシルオキシシラン(Si(ODec)(OEt)3)[130−132℃/1.1mmHg]
Im2:ジエトキシジ(2−メトキシエトキシ)シラン(Si(OCH2CH2OMe)2(OEt)2)[114−116℃/10mmHg]
In1:(ベンジルオキシ)トリエトキシシラン(Si(OCH2Ph)(OEt)3)[108−110℃/1.5mmHg]
In2:ジ(ベンジルオキシ)ジエトキシシラン(Si(OCH2Ph)2(OEt)2)[162−164℃/1.5mmHg]
ジヘキソキシジメトキシシラン(Si(OHex)2(OMe)2)(Ia2) 3.2mmol、酢酸無水物(IIa) 6.4mmol、ゼオライト CBV780(ゼオリスト社製) 5mgの混合物を反応管に入れ、60℃で10分攪拌した。生成物を、ガスクロマトグラフ、ガスクロマトグラフ質量分析計、および核磁気共鳴スペクトル測定装置で分析し、生成物の収率を、核磁気共鳴スペクトル測定装置で測定した結果、アセトキシヘキソキシジメトキシシラン(Si(OHex)(OMe)2(OAc))(IIIA1a)、アセトキシジヘキソキシメトキシシラン(Si(OHex)2(OMe)(OAc))(IIIA2a)、アセトキシトリヘキソキシシラン(Si(OHex)3(OAc))(IIIA3a)、ジアセトキシヘキソキシメトキシシラン(Si(OHex)(OMe)(OAc)2)(IIIA4a)、およびジアセトキシジヘキソキシシラン(Si(OHex)2(OAc)2)(IIIA5a)が、それぞれ、19%、56%、2%、9%、および7%の収率で生成したことがわかった(表1参照)。
反応条件(触媒、原料、温度、時間等)を変えて、実施例1と同様に反応および分析を行い、生成物の収率をガスクロマトグラフ分析または核磁気共鳴スペクトル分析で測定した結果を表1(表1−1〜1−6)に示す。
実施例1で得られたシラン類(IIIA1a)〜(IIIA5a)を含む反応液 0.043mL(全シラン量として約0.1mmol)を、トルエンで1mLに希釈して、表面処理用の溶液(全シラン量として約0.1M濃度)を調製した。
調製溶液にガラス板(ホウケイ酸ガラス、1.8cm×1.8cm)を室温で2分間浸漬し、トルエン3mLおよびアセトン3mLで順次洗浄し、80℃で5分間乾燥させた。ガラス板の水に対する接触角を、接触角計(協和界面科学製 自動接触角計 DMe−201)で測定した結果、未処理の状態の20°から処理後の状態の87°に変化したことがわかった。このことは、ガラス板の表面が、アルコキシ基とアシロキシ基を有するシランにより修飾され、撥水性が高くなったことを示している(表3参照)。
このガラス板を、水に1分間浸漬し、アセトン、トルエン、アセトンで洗浄し、80℃で5分間乾燥させて、水接触角を測定した結果は、81°(水浸漬時間が1分後の水接触角)であった。さらに、同じガラス板を、水に2分間浸漬した後、同様に、ガラス板を洗浄、乾燥させて、水接触角を測定した結果は、77°(水浸漬合計時間が3分後の水接触角)であった。
実施例30と同様に、表1の実施例で得られたシラン類を用いて、表面処理用のトルエン溶液(全シラン量として約0.1M濃度)を調製した後、ガラス板の表面処理を行い、水接触角を測定した結果を表3に示す。
TMOS(Si(OMe)4) 2.0mmol、酢酸無水物(IIa) 2.2mmol、ゼオライト CBV780(ゼオリスト社製) 10mgの混合物を反応管に入れ、60℃で10分攪拌した。生成物を、ガスクロマトグラフ、ガスクロマトグラフ質量分析計、および核磁気共鳴スペクトル測定装置で分析し、生成物の収率を、核磁気共鳴スペクトル測定装置で測定した結果、アセトキシトリメトキシシラン(Si(OMe)3(OAc))およびジアセトキシジメトキシシラン(Si(OMe)2(OAc)2)が、それぞれ、60%および20%の収率で生成したことがわかった。
生成したシラン類を含む反応液 0.025mL(全シラン量として約0.1mmol)を、トルエンで1mLに希釈して表面処理用の溶液(全シラン量として約0.1M濃度)を調製し、実施例30と同様に、ガラス板の表面処理を行い、水接触角を測定した。
その結果、表面処理後、水に浸漬前の測定では、水接触角は68°であったが、ガラス板を水に浸漬すると、水接触角は大きく低下し、水浸漬合計時間が、1分、3分、10分、20分、および30分では、水接触角は、それぞれ、56°、53°、46°、47°、および45°であった(表3参照)。
TEOS(Si(OEt)4) 1.5mmol、酢酸無水物(IIa) 1.65mmol、ゼオライト CBV780(ゼオリスト社製) 15mgの混合物を反応管に入れ、25℃で20分攪拌した。生成物を、ガスクロマトグラフ、ガスクロマトグラフ質量分析計、および核磁気共鳴スペクトル測定装置で分析し、生成物の収率を、核磁気共鳴スペクトル測定装置で測定した結果、アセトキシトリエトキシシラン(Si(OEt)3(OAc))およびジアセトキシジエトキシシラン(Si(OEt)2(OAc)2)が、それぞれ、70%および20%の収率で生成したことがわかった。
生成したシラン類を含む反応液 0.034mL(全シラン量として約0.1mmol)を、トルエンで1mLに希釈して表面処理用の溶液(全シラン量として約0.1M濃度)を調製し、実施例30と同様に、ガラス板の表面処理を行い、水接触角を測定した。
その結果、表面処理後、水に浸漬前の測定では、水接触角は73°であったが、ガラス板を水に浸漬すると、水接触角は大きく低下し、水浸漬合計時間が、1分および10分では、水接触角は、それぞれ、58°および47°であった(表3参照)。
実施例30〜46の結果は、本発明の方法で得られた、アルコキシ基とアシロキシシラン基を有するシラン類を組成物とする溶液に、室温で短時間浸すだけという簡便な手法により、ガラス板の表面処理を行うことができ、ガラス板表面の水に対する接触角を、未処理の約20°に対して、62〜90°の範囲で、疎水的に修飾できることを示している。
さらに、本発明により、水に対する高い安定性を有する疎水処理を実現可能である。比較例1、2によると、TMOS又はTEOSをアシロキシ化した化合物を用いた場合も、68°、73°とガラス板表面を疎水的に修飾できるが、表面処理後の修飾状態の水に対する安定性については、実施例と比較例の間で大きい差が見られた。表面処理したガラス板を一定時間水に浸漬させて、水接触角を測定し、水に浸漬させる前の水接触角に対して何%変化しているか(変化率)を調べた結果、本発明の方法で得られたシラン類では、その変化率は小さかったが、比較例のTMOS、TEOSでは、大きな変化率が観察された。
具体的には、表3の変化率(水浸漬合計時間10分の変化率)の欄に示すように、原料のアルコキシシランより製造された、アルコキシ基とアシロキシ基と有するシラン類を用いて、ガラス板の表面処理を行い、水接触角の変化率を測定した結果は(以下、括弧内はアルコキシシランの種類を示す)、0%(Si(O−cyc−Hex)2(OMe)2)(Ib2))、−9%(Si(O−2−Oct)(OMe)3)(Ic1))、−10%(Si(O−2−Oct)2(OMe)2)(Ic2))、−16%(Si(O−(−)−Mentyl)(OMe)3(Id1))、−8%(Si(OCH2CH2Ph)(OMe)3(If1))、−6%(Si(OCH2CH2Ph)2(OMe)2(If2))、−2%(Si(O−5−iPr−2−Me−C6H3)(OMe)3(Ih1))、−11%(Si(O−2−iPr−5−Me−C6H3)(OMe)3(Ii1))、−32%(Si(OMe)4)、−36%(Si(OEt)4)であり、本発明の方法で得られたシラン類を用いた場合の変化率が、0〜−16%であったのに対して、比較例のTMOSおよびTEOSを用いた場合の変化率は、−32%および−36%と、大きく変化した。
このことは、メトキシ基またはエトキシ基以外のアルコキシ基を導入したアルコキシシランをアシロキシ化して表面処理に用いた場合、処理後のガラス板を水に浸漬させても、表面の状態が変化する程度は小さく、水に対して比較的安定な表面修飾を行うことが可能であることを示している。
とくに、表3の変化率の結果等より、前記一般式(IIIB)で表される、アルコキシ基とアシロキシ基を有するシラン類において、アルコキシ基(OR4)の置換基R4が下記の種類である場合には、表面処理後の水に対する安定性を向上させる効果が大きいと考えられる。
(1)R4が、2級または3級の脂肪族炭化水素基である。
(2)R4が、アルキル基を置換基として有する芳香族炭化水素基である。
(3)R4が、アラルキル基である。
Claims (8)
- メトキシ基またはエトキシ基と、他のアルコキシ基を有するアルコキシシラン類に、カルボン酸無水物を、触媒存在下で反応させる反応工程を含む、アルコキシ基とアシロキシ基を有するシラン類の製造方法であって、前記アルコキシシラン類が、下記一般式(I)で表されるアルコキシシラン類であり、前記カルボン酸無水物が、下記一般式(II)で表されるカルボン酸無水物であり、前記触媒が、酸触媒であり、前記反応工程で得られるシラン類が、下記一般式(IIIA)で表されるシラン類であることを特徴とする、アルコキシ基とアシロキシ基を有するシラン類の製造方法。
Si(OR1)p(OR2)4−p (I)
(式中、pは、1以上3以下の整数である。R1は、それぞれ独立して炭素数1〜24の炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立してメチル基またはエチル基である。R1の炭化水素基の水素原子の一部または全部が、反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
(R3CO)2O (II)
(式中、R3は、炭素数1〜10の炭化水素基であり、炭化水素基の水素原子の一部または全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
Si(OR1)r(OR2)4−(r+s)(OCOR3)s (IIIA)
(式中、R1、R2、およびR3は、それぞれ前記と同義であり、r、sは、1以上3以下の整数であり、(r、s)の組み合わせは、(1、1)、(1、2)、(1、3)、(2、1)、(2、2)、または(3、1)である。) - 前記酸触媒が、無機系または有機系の酸である、請求項1に記載のシラン類の製造方法。
- 前記無機系の酸が、無機系固体酸である、請求項2に記載のシラン類の製造方法。
- 前記無機系固体酸が、ゼオライトであり、USY型、ベータ型、またはY型からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載のシラン類の製造方法。
- 下記一般式(IIIB)で表されるシラン類。
Si(OR4)v(OR5)4−(v+w)(OCOR6)w (IIIB)
(式中、R4は、炭素数3〜20の炭化水素基、または、炭素上の水素原子の一部または全部がアルコキシ基で置換された炭素数1〜20の炭化水素基である。R5はメチル基またはエチル基であり、R6は、炭素数1〜3の炭化水素基、または、炭素上の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3の炭化水素基である。v、wは、1または2であり、(v、w)の組み合わせは、(1、1)、(1、2)、または(2、1)である。) - 請求項5において、R4が、下記のいずれかの条件を満たす炭化水素基である(IIIB)のシラン類。
(1)R4が、2級または3級の脂肪族炭化水素基である。
(2)R4が、アルキル基を置換基として有する芳香族炭化水素基である。
(3)R4が、アラルキル基である。 - 請求項5または6に記載のシラン類を含有する組成物からなる表面処理剤。
- 請求項1〜4の何れかの1項に記載の製造方法で得られるシラン類並びに請求項5または6に記載のシラン類からなる群より選ばれる少なくとも1種類のシラン類を含有する組成物からなる表面処理剤を用いて、固体材料の表面を処理する工程を含む、表面処理方法
。
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