JP5299972B2 - フラン類の製造方法 - Google Patents

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本発明は、フラン類の効率的な製造方法に関する。
2,5−位に同一または相異なる置換基を有するフラン類は、医・農薬や電子材料等の分野で利用されている機能性化学品である。2,5−二置換フラン類の主要な製造法としては、1,4−位の炭素原子上に置換基を有する1,4−ジケトン類の酸触媒を用いた閉環反応(Paal−Knorr法)が知られていた。この反応では、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩酸等の酸性物質が触媒として使用されてきたが、それら触媒の分離・回収等の点で問題があった。
一方、触媒として、分離・回収が容易なゼオライトや金属含有シリカのような固体酸触媒を用いる方法が報告されている(非特許文献1〜3)。この方法は、触媒を生成物から容易に分離できる点で有利である。しかし、それらの反応系では、反応効率が高くないために、一般に高温の反応条件を必要とする問題があった。たとえば、ZSM−5型を用いた反応系では、250℃以上の温度が通常必要で、例えば、250℃では収率が97.6%と効率がよいものの、225℃では24.0%に低下する等、250℃未満では大幅な収率低下が起きる。同様に、金、ガリウム、ニオブのような金属を含有したMCM−41型触媒でも、350℃の高温の反応条件が一般に必要であり、350℃、30分での原料転化率は、MCM−41、Ga/MCM−41、Nb/MCM−41の各触媒においてそれぞれ、2.8%、77.9%、97.1%である。
これらのことから、低温でも効率よく反応が進行するような、工業的により有利な方法が求められていた。
Zeolites,10,205(1990) J.Catal.245,259(2007) Appl.Catal.A,325,328(2007)
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、2,5−位に置換基を有するフラン類を効率よく製造することを目的とするものである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、1,4−ジケトン類が大きい誘電損失係数を有し、マイクロ波を吸収しやすい性質を示すとともに、固体酸触媒存在下での反応がマイクロ波により大きく加速され、目的とするフラン類が効率よく得られるという新規な事実を見いだし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉下記一般式(I)
Figure 0005299972
(式中、RおよびR’は、互いに同一または相異なるアリール基、アルキル基またはアラルキル基である。炭素上の水素原子の一部または全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
で表される1,4−ジケトンを、固体酸触媒存在下、マイクロ波を照射して反応させることにより、下記一般式(II)
Figure 0005299972
(式中、R、R’は前記と同じ意味である。また、炭素上の水素原子の一部または全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
で表されるフラン類を製造する方法であって、
前記固体酸触媒として、ベータ型ゼオライト又はY型ゼオライトを用いることを特徴とするフラン類の製造方法。
〉前記ベータ型ゼオライト又はY型ゼオライトとして、シリカ/アルミナ比が2〜400のものを使用することを特徴とする〈〉に記載の製造方法。
本発明の製法方法を用いることにより、従来の方法に比べ効率的にフラン類を得ることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、1,4−ジケトンを、固体酸触媒存在下、マイクロ波を照射して反応させることを特徴とする。
本発明において、原料として使用する1,4−ジケトンは、下記一般式(I)
Figure 0005299972
で表されるものである。
一般式(I)において、RおよびR’は、互いに同一または相異なるアリール基、アルキル基またはアラルキル基である。アリール基の場合、炭素数が好ましくは6〜22、より好ましくは6〜14であり、アルキル基の場合には、炭素数が好ましくは1〜18、より好ましくは1〜14であり、アラルキル基の場合には、炭素数が好ましくは7〜24、より好ましくは7〜20である。それら基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
また、上記式(I)の炭素上の水素原子の一部が反応に関与しない基で置換されていてもよく、それらの基の具体例としては、メチル基、イソプロピル基、ヘキシル基等のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ヘキシルオキシ基のようなアルコキシ基の他に、環上の2つの炭素原子を結合させる2価の基であるオキシエチレン基やオキシエチレンオキシ基、塩素原子、臭素原子のようなハロゲン原子等を挙げることができる。
したがって、それらの基を有する1,4−ジケトン(I)の具体例としては、2,5−ヘキサンジオン、1,4−ジフェニル−1,4−ブタンジオン、1−フェニル−1,4−ペンタンジオン、1,5−ジフェニル−1,4−ペンタンジオン、1,4−ビス(4−メチルフェニル)−1,4−ブタンジオン、1,4−ビス(4−メトキシフェニル)−1,4−ブタンジオン、1,4−ビス(4−クロロフェニル)−1,4−ブタンジオン等を挙げることができる。
これらの1,4−ジケトン類は、マイクロ波領域における複素誘電率を測定した結果、大きい誘電損失係数を有し、マイクロ波を吸収しやすい性質があることがわかった。たとえば、2.45GHzの空洞共振器を用いた摂動法による測定では、2,5−ヘキサンジオン、1−フェニル−1,4−ペンタンジオンの誘電損失係数は、それぞれ、4.37、3.45であった。
これらの値は、マイクロ波吸収性が低いヘキサン、トルエンの誘電損失係数(それぞれ、0.00078、0.012)よりも数百〜数千倍大きいもので、これらの1,4−ジケトン類がマイクロ波を吸収しやすい性質を有し、マイクロ波照射下で活性化されやすいことを示している。
上記一般式(I)の反応により、下記一般式(II)で表されるフラン類を製造できる。
Figure 0005299972
一般式(II)において、R、R’としては、前記例示したものを挙げることができる。また、原料化合物に由来する反応に関与しない基が、R、R’およびフラン環上に存在していてもかまわない。
それらフラン類の具体例としては、2,5−ジメチルフラン、2,5−ジフェニルフラン、2−メチル−5−フェニルフラン、2−エチル−5−フェニルフラン、2−ベンジル−5−フェニルフラン、2−(4−メチルフェニル)−5−フェニルフラン、2,5−ビス(4−メトキシフェニル)フラン、2,5−ビス(4−クロロフェニル)フラン等を挙げることができる。
本発明では、従来公知の各種の固体酸触媒を用いることができる。それらの具体例としては、金属塩(アルミニウム、鉄等の塩化物、臭化物等)や、プロトン性水素原子あるいは金属カチオン(アルミニウム、チタン、ガリウム、鉄、セリウム、スカンジウム等)を有するゼオライト、モンモリロナイト、シリカ、ヘテロポリ酸等の無機系固体酸が挙げられ、また、スルホ基を有するナフィオン(Nafion、登録商標、デュポン社より入手可能)、ダウエックス(Dowex、登録商標、ダウ・ケミカル社より入手可能)、アンバーライト(Amberlite、登録商標、ローム&ハス社より入手可能)等の酸性ポリマーや他の有機系固体酸が挙げられる。さらに、シリカ等にナフィオン等の有機系酸性化合物を担持した触媒(たとえば、Nafion SAC−13等)を用いることもできる。
触媒として用いられるゼオライトの種類としては、ベータ型、Y型、ZSM−5型、モルデナイト型、SAPO型等の基本骨格を有する各種のゼオライトが使用可能で、この中では、ベータ型、Y型、モルデナイト型およびZSM−5型が好ましく、べータ型およびY型がより好ましい。これらゼオライトにおいて、プロトン型のものは、H−ベータ型、H−Y型、H−モルデナイト型、H−ZSM−5型等で表される。さらに、それらゼオライトのシリカ/アルミナ比については、反応条件に応じて各種の比を選択できるが、好ましくは2〜400であり、より好ましくは3〜300であり、さらに好ましくは3〜150である。
原料に対する触媒量は任意に決めることができるが、重量比では、通常は0.0001〜20程度で、好ましくは0.001〜10程度、さらに好ましくは0.001〜6程度である。
本発明で使用するマイクロ波照射装置としては、接触式または非接触式の温度センサーを備えた各種の市販装置等が使用可能である。マイクロ波照射の出力、キャビティの種類(マルチモード、シングルモード)、照射の形態(連続的、断続的)等は、反応のスケールや種類等に応じて任意に決めることができる。マイクロ波の周波数としては、通常、0.3〜30GHzである。
本発明におけるマイクロ波照射下での反応では、反応系をより効率よく加熱するために、マイクロ波を吸収して発熱する加熱材(サセプター)を反応系に添加することができる。加熱材の種類としては、活性炭、黒鉛、炭化ケイ素、炭化チタン等、従来公知の各種のものを使用できる。また、先に記載した触媒と加熱材の粉末を混合して、セピオライト、ホルマイト等の適当なバインダーを利用して焼成加工した成形触媒を用いることもできる。
本発明の反応は、反応温度や反応圧力に応じて、液相または気相状態で行うことができる。また、反応装置の形態としては、バッチ型、フロー型等、従来知られている各種形態で行うことができる。反応温度は、20℃以上、好ましくは20〜350℃、より好ましくは、20〜300℃である。さらに、反応圧力は、通常0.1〜100気圧で、好ましくは0.1〜80気圧、より好ましくは0.1〜60気圧である。反応時間は、反応温度、触媒量、反応装置の形態等に依存するが、通常、10時間以内、好ましくは5時間以内、より好ましくは2時間以内である。
また、反応を液相系で行う場合、溶媒の有無にかかわらず実施できるが、溶媒を用いる場合には、デカリン(デカヒドロナフタレン)、デカン等の炭化水素、クロロベンゼン、1,2−又は1,3−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジブチルエーテル等のエーテル等、原料と反応するものを除いた各種の溶媒が使用可能で、2種以上混合して用いることもできる。また、反応を気相で行う場合には、窒素等の不活性ガスを混合して反応を行うこともできる。
本発明の方法で生成したフラン類の精製は、再結晶、カラムクロマトグラフィー、蒸留等の有機化学上通常用いられる手段により容易に達せられる。
次に、本発明を実施例および参考例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
1,4−ジフェニル−1,4−ブタンジオン(Ia) 0.10mmol、H−ベータ型ゼオライト(SiO/Al=40) CP811C(ゼオリスト社製) 50mg 、1,2−ジクロロベンゼン 1.0mLの混合物を反応管に入れ、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(Biotage社製、Initiator、シングルモード型)を用いて、攪拌しながら200℃で10分反応させた。生成物をガスクロマトグラフおよびガスクロマトグラフ質量分析計で分析した結果、2,5−ジフェニルフラン(IIa)が94.2%の収率で生成したことがわかった(表1参照)。
(実施例2〜26、参考例1〜4
反応条件(触媒、原料、温度、時間等)を変えて、実施例1と同様に反応及び分析を行い、生成物の収率を測定した結果を表1に示す。
Figure 0005299972
反応条件:I 0.10mmol、触媒 10−51mg、溶媒 1.0mL、100−200℃
1)Ia:1,4-ジフェニル-1,4-ブタンジオン
Ib:2,5-ヘキサンジオン
Ic:1-フェニル-1,4-ペンタンジオン
2)Hβ(40):H-ベータ型ゼオライトCP811C(ゼオリスト社製)
HY(80):H-Y型ゼオライトCBV780(ゼオリスト社製)
HZSM-5(80):H-ZSM-5型ゼオライトCBV8014(ゼオリスト社製)
HM(20):H-モルデナイト型ゼオライトCBV21A(ゼオリスト社製)
Sn-mont:Sn4+−モンモリロナイト(Na+−モンモリロナイトのNa+をSn4+カチオ
ンで置換して製造)
Nafion:Nafion SAC-13(アルドリッチ社製)
なおゼオライト触媒の()内はSiO2/Al2O3比を示す。
3)DCB:1,2−ジクロロベンゼン
T:トルエン
4)A:Initiator(Biotage社製)
B:Discover(CEM社製)
C:Discover S-class(CEM社製)
5)IIa:2,5-ジフェニルフラン
IIb:2,5-ジメチルフラン
IIc:2-メチル-5-フェニルフラン
6)ガスクロマグラフィー分析によるIIの収率
(実施例27
1−フェニル−1,4−ペンタンジオン(Ic) 4.86mmol、H−Y型ゼオライト(SiO/Al=80) CBV780(ゼオリスト社製) 100mg 、トルエン 10mLの混合物を反応管に入れ、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(Biotage社製、Initiator、シングルモード型)を用いて、攪拌しながら140℃で50分反応させた。遠心分離器で固体成分と上澄み液を分離し、固体成分をトルエンおよびアセトンで洗浄した(各4mlで2回ずつ)。上澄み液と洗浄液を合わせて減圧濃縮し、ガラスチューブオーブンによるショートパス蒸留(160℃、3mmHg)を行った結果、2−メチル−5−フェニルフラン(IIc)を、収率86.4%(4.20mmol)で得ることができた。
(参考例
マイクロ波照射装置の代わりにオイルバス加熱装置を用いる他は実施例と同様に反応および分析を行った結果、IIaの収率は31.0%であった。IIaの収率を、実施例で得られた値と比較すると、実施例の方が1.69倍高いことがわかった(表2参照)。
Figure 0005299972
括弧内の数字は、実施例の数値/比較例の数値
(参考例
オイルバス加熱を用いて、反応条件を変えて、参考例と同様に反応および分析を行った結果を、対応する実施例の結果とともに表2に示す。いずれの参考例でも、対応する実施例におけるIIの収率の方が高いことがわかった。
オイルバス加熱を用いたこれらの結果は、マイクロ波照射を用いた本発明の方法が、同じ反応温度・時間でのオイルバスによる通常加熱の方法に比べ、IIをより高い収率で効率的に製造できることを示すもので、マイクロ波照射を用いることによりフラン類をより効率的に製造できることが示された。
本発明の方法により、機能性化学品として有用なフラン類を、より効率的かつ安全に製造できるため、本発明の利用価値は高く、その工業的意義は多大である。

Claims (2)

  1. 下記一般式(I)
    Figure 0005299972
    (式中、RおよびR’は、同一または相異なるアリール基、アルキル基またはアラルキル基である。炭素上の水素原子の一部または全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
    で表される1,4−ジケトン類を、固体酸触媒存在下、マイクロ波を照射して反応させることにより、下記一般式(II)
    Figure 0005299972
    (式中、R、R’は前記と同じ意味である。また、炭素上の水素原子の一部または全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
    で表されるフラン類を製造する方法であって、
    前記固体酸触媒として、ベータ型ゼオライト又はY型ゼオライトを用いることを特徴とするフラン類の製造方法。
  2. 前記ベータ型ゼオライト又はY型ゼオライトとして、シリカ/アルミナ比が2〜400のものを使用することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
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