JP2019212477A - 透過電子顕微鏡 - Google Patents

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Abstract

【課題】保持膜を透過した電子線を参照波として用いる場合であっても、位相像の解像度を向上させることが可能な透過電子顕微鏡を提供する。【解決手段】電子線を放出する電子源と、前記電子線が照射される試料を保持する試料保持部と、前記試料を透過した電子線である物体波と前記物体波とは異なる経路の電子線である参照波を重ね合わせて干渉縞を形成させる電子バイプリズムとを備える透過電子顕微鏡であって、前記電子バイプリズムよりも電子線の進行方向の下流側に配置され、前記参照波に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去する除去素子を備えることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は透過電子顕微鏡に関し、特に電子線ホログラフィー法を実施する透過電子顕微鏡に関する。
透過電子顕微鏡は電子線を利用した高倍率の顕微鏡であり、電子源で発生させた電子を100kVから3000kV程度の高電圧で加速して試料に照射し、試料を透過した電子をレンズで拡大してカメラで検出することにより、高倍率の観察像を得る。また電子線ホログラフィー法を実施する透過電子顕微鏡は、試料を透過した電子線(物体波)と真空を透過した電子線(参照波)とを重ね合わせて形成される干渉縞から、試料による電子線の位相変化を計測することにより、試料内の電場や磁場の情報を取得する。
特許文献1には、試料による電子線の位相変化を可視化した位相像を実時間で取得するために、干渉縞の周期と同じ周期を有するスリットに物体波と参照波を透過/不透過させてから検出する干渉電子顕微鏡が開示されている。
特開2006−331652号公報
しかしながら特許文献1では、真空に隣接する試料を対象としており、保持膜上に配置された微細な観察物体のような試料に対する配慮はなされていない。保持膜の端部に観察物体が存在しないとき、真空を透過した電子線を参照波として取得することが困難であるので、保持膜を透過した電子線を参照波として用いる場合がある。このような参照波には高い空間周波数成分が含まれるので、参照波と物体波とを重ね合わせて形成される干渉縞から取得される位相像の解像度は低下する。
そこで本発明は、保持膜を透過した電子線を参照波として用いる場合であっても、位相像の解像度を向上させることが可能な透過電子顕微鏡を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために本発明は、参照波に含まれる高い空間周波数成分を除去する素子や、参照波と物体波との位相差を変調する素子を、参照波と物体波とを重ね合わせて干渉縞を形成させる電子線バイプリズムよりも電子線の進行方向の下流側に配置することを特徴とする。
より具体的には、本発明は、
電子線を放出する電子源と、前記電子線が照射される試料を保持する試料保持部と、前記試料を透過した電子線である物体波と前記物体波とは異なる経路の電子線である参照波を重ね合わせて干渉縞を形成させる電子バイプリズムとを備える透過電子顕微鏡であって、前記電子バイプリズムよりも電子線の進行方向の下流側に配置され、前記参照波に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去する除去素子を備えることを特徴とする。
また本発明は、電子線を放出する電子源と、前記電子線が照射される試料を保持する試料保持部と、前記試料を透過した電子線である物体波と前記物体波とは異なる経路の電子線である参照波を重ね合わせて干渉縞を形成させる電子バイプリズムとを備える透過電子顕微鏡であって、前記電子バイプリズムよりも電子線の進行方向の下流側に配置され、前記参照波と前記物体波の位相差を変調する変調素子を備えることを特徴とする。
本発明によれば、保持膜を透過した電子線を参照波として用いる場合であっても、位相像の解像度を向上させることが可能な透過電子顕微鏡を提供することができる。
本発明の実施例1の透過電子顕微鏡の概略構成図である。 電子線の照射から干渉縞の形成までを説明する図である。 真空領域が隣接する試料を観察したときの透過電子顕微鏡の(a)試料面、(b)クロスオーバー面、(c)像面、における電子線の面内分布を示す模式図である。 保持膜を透過した電子線を参照波としたときの実施例1の透過電子顕微鏡の(a)試料面、(b) クロスオーバー面、(c)像面、における電子線の面内分布を示す模式図である。 本発明の実施例1の除去素子の(a)構造、(b)孔の配置例1、(c)孔の配置例2、を示す模式図である。 本発明の実施例2の変調素子の(a)構造、(b)孔の配置例、(c)断面、を示す模式図である。 本発明の実施例3の透過電子顕微鏡の概略構成図である。
以下、図面を参照して、本発明の透過電子顕微鏡、すなわち電子線ホログラフィー法を実施する透過電子顕微鏡の実施例について説明する。電子線ホログラフィー法を実施する透過電子顕微鏡は、電子線の経路を分割して一方を試料に照射し、試料を透過した電子線である物体波と、物体波とは異なる経路の電子線である参照波とを重ね合わせて干渉縞を形成する装置である。多くの場合、真空領域を透過した電子線を参照波とするが、保持膜上に配置された配置された微細な観察物体を観察するときには、保持膜を透過した電子線を参照波とする場合がある。以下では、保持膜を透過した電子線を参照波として干渉縞を形成する透過電子顕微鏡について説明する。なお、各図の向きを示すために、各図にはXYZ座標系を付記する。
図1を用いて本実施例の透過電子顕微鏡について説明する。電子源1で発生した電子線2は、照射レンズ3で大きさを調整されて、保持膜7上に配置された観察物体6を含む試料に照射される。電子線2は、観察物体6および保持膜7を透過する物体波5と、観察物体6を含まない保持膜7を透過する参照波4に分割される。観察物体6を含む保持膜7の位置を試料微動装置19が微動させることによって、観察領域が調整される。保持膜7には、例えばアモルファス状のシートが用いられる。
物体波5と参照波4は、対物レンズ9を透過して回折像面10で集束した後、電子線バイプリズム11により偏向させられる。電子線バイプリズム11は、向かい合う平行平板状の接地電極の中心に、細い糸状の電極であるバイプリズムワイヤ12が配置された装置である。バイプリズムワイヤ12に正の電圧が印加されると、物体波5と参照波4はバイプリズムワイヤ12に引き寄せられるように偏向させられ、両者が重なり合う領域で干渉縞が形成される。
電子線バイプリズム11に偏向させられた物体波5と参照波4は、拡大レンズ14で拡大され、大きさの異なる複数の孔を有する絞り板30を通過した後、像面16に配置されたカメラ17により撮影される。像面16では、物体波5と参照波4が重なり合う領域に干渉縞18が形成されるので、干渉縞18がカメラ17に撮影され、画像生成装置31を介して、表示装置33に表示される。なお、電子源1、照射レンズ3、試料微動装置19、対物レンズ9、電子線バイプリズム11、拡大レンズ14、画像生成装置31は制御装置32によって制御される。
絞り板30は絞り板制御装置34により制御される。本実施例の絞り板制御装置34は絞り板30の3次元空間中の位置を制御する。ただし、像面16と直交する方向であるZ方向では、範囲50の中に絞り板30が配置されることが望ましい。範囲50は物体波5と参照波4とが空間的に分離される範囲である。
図2を用いて、観察物体6に電子線2が照射されてから干渉縞18が形成されるまでを再度説明する。観察物体6に照射される電子線2の波面は、像面16に平行な平面である。電子線2は観察物体6を透過することで参照波4と物体波5に分割される。参照波4と物体波5の各波面は、電圧が印加されたバイプリズムワイヤ12によって傾けられ、参照波4と物体波5が重なり合う領域に干渉縞18が形成される。
形成された干渉縞18から、例えばフーリエ変換法により位相像が得られる。フーリエ変換法では、干渉縞18が計算機上でフーリエ変換されて空間周波数情報としてマッピングされ、空間周波数情報のマップから位相情報だけを含む領域であるサイドバンドが抽出され、サイドバンドを逆フーリエ変換することにより位相像が得られる。
参照波4に所定の空間周波数よりも高い成分が含まれる場合、形成される干渉縞及び干渉縞から得られる位相像の解像度が低下する。そこで本実施例では、参照波4を絞り板30に通過させることにより、参照波4に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去する。すなわち、絞り板30は所定の空間周波数よりも高い成分を除去する除去素子として機能する。
図3と図4を対比させながら、本実施例の透過電子顕微鏡の各面における電子線の面内分布と、絞り板30の機能について説明する。図3は保持膜7上に観察物体6を配置した試料に真空領域20が隣接する場合であり、図3(a)は試料面8、図3(b)はクロスオーバー面15、図3(c)は像面16における電子線の面内分布を示す模式図である。また図4は図3の真空領域20が保持膜7になった場合であり、図4(a)乃至図4(c)の各面は図3(a)乃至図3(c)と同じである。なお、クロスオーバー面15とは参照波4と物体波5がそれぞれ集束される面であり、回折像が形成される。
図3(a)と図4(a)の右半面では観察物体6と保持膜7に電子線が照射され、観察物体6がある箇所ではない箇所に比べて電子線が減少する。図3(a)の左半面では真空領域20に電子線が照射され、電子線の面内分布に変化はない。図4(a)の左半面では保持膜7に電子線が照射され、電子線は面内で一様に減少する。
図3(b)と図4(b)の右半面では、物体波5が集束された中心ビーム22と観察物体6と保持膜7での電子線の散乱により形成される回折リング23とを含む回折パターンが生じる。図3(b)の左半面では、真空領域20を透過した参照波(真空参照波)が集束された中心ビーム21のみを含む回折パターンが生じる。真空領域20では電子線は散乱しないので、回折リングは形成されない。図4(b)の左半面では、保持膜7を透過した参照波4が集束された中心ビーム21と保持膜7により形成される回折リング24とを含む回折パターンが生じる。なお、中心ビーム22と中心ビーム21の位置は、試料面の右半分と左半分の各領域を空間周波数表示したときの原点座標に対応し、回折リング23や回折リング24は観察物体6や保持膜7の構造の高周波成分を反映する。すなわち回折リング23や回折リング24には高い空間周波数成分が含まれる。
絞り板30は電子線を遮蔽する程度の厚さを有し、孔35と孔36を備える。孔35は参照波4の中心ビーム21が通過でき、回折リング24が除去される程度の大きさを有する。孔35の形状は、中心ビーム21のみが通過できるように、例えば円形である。孔35を通過した参照波4は、高い空間周波数成分を含む回折リング24が除去されるので、実質的に真空領域20を通過した参照波と同等になり、空間的に平坦な参照波になる。孔36は物体波5の中心ビーム22とともに回折リング23が通過するのに十分な大きさを有するので、物体波5に含まれる高い空間周波数成分は維持される。
図3(c)では、観察物体6と保持膜7を透過した物体波5と真空領域20を透過した参照波25とが干渉して干渉縞18が形成される。干渉縞18には、観察物体6と保持膜7を透過したことによって生じた電子線の位相変化が、真空領域20を透過した電子線の位相を基準として反映される。
図4(c)では、保持膜7によって生じた回折リング24が絞り板30により除去された参照波4と物体波5とによって干渉縞18が形成される。絞り板30を通過した参照波4は空間的に平坦であるので、本実施例で得られる干渉縞18は、真空領域20を透過した参照波25を用いる場合と実質的に同等となる。
絞り板30により除去される回折リング24の大きさ、すなわち所定の空間周波数よりも高い成分は、絞り板30のZ方向の位置と孔35の大きさに依存する。例えば、特定の大きさの孔35を有する絞り板30のZ方向の位置を観察目的等に応じて調整しても良い。絞り板30のZ方向の位置を調整することにより、除去したい空間周波数の成分を制御できる。なお、絞り板30のZ方向の位置は、物体波5と参照波4とが空間的に分離される範囲50の中であることが望ましい。物体波5と参照波4とが空間的に分離される範囲50に絞り板30が配置されることにより、物体波5と参照波4とを個別に扱える。また絞り板30に異なる大きさの孔35を複数設けておき、いずれかの孔35を観察目的等に応じて使い分けても良い。異なる大きさの孔35を使い分けることにより、除去したい空間周波数の成分を制御できる。
図5を用いて本実施例の絞り板30の具体的な構造について説明する。図5(a)は絞り板30の一例の斜視図である。絞り板30はプレート51と薄膜53を含む。プレート51はモリブデンやタンタル等の金属製の板であり例えば5mm×31mm×0.3mmの大きさを有し、2.5mm×10.5mmの方形穴52を備える。方形穴52の上には薄膜53がエポキシ接着剤等により張り付けられる。薄膜53は金や銅等の金属製であって例えば0.4μmの厚さを有し、複数の孔35、36を備える。孔35、36は集束イオンビーム加工装置等により形成される。なお、絞り板30に用いられる材料は、上記に限定されず、帯電を防止可能な導電性と十分な機械強度を有する材料であれば良い。
図5(b)及び図5(c)は絞り板30に設けられる孔35、36の配置例である。図5(b)は、物体波5が通過する孔36の周りに、参照波4用の孔35を複数配置した例である。孔35と孔36との相対的距離や方向が異なる組合せを有しているので、干渉縞が形成される方向の自由度を向上できる。また、絞り板30をXY面内で回転させる機構を備えても良い。
図5(c)は、参照波4が通過する孔35の周りに、支持アーム55で円環を2つに分離して形成された物体波5用の孔36を配置した例である。図5(c)は、支持アーム55が2本の例であるが、1本或いは3本以上であっても良い。孔35は1μm程度の大きさである。孔36は20μm以上の大きさであって、任意の形状を有し、絞り板30の外部とつながる形状であっても良い。
本実施例によれば、保持膜を透過した電子線を参照波とする場合であっても、真空領域を透過した電子線を参照波としたときと実質的に同等な干渉縞を形成することができる。また干渉縞から得られる位相像も、真空領域を透過した電子線を参照波としたときと実質的に同等な位相像となる。すなわち、保持膜を透過した電子線を参照波として用いる場合であっても、位相像の解像度を向上させることが可能な透過電子顕微鏡を提供することができる。
また本実施例の参照波には保持膜7による平均的な位相変化が含まれ、観察物体6と保持膜7を透過した物体波5の位相像から、保持膜7による平均的な位相変化を差し引くことにより、観察物体6のみの位相変化量を抽出することができる。
なお本実施例の透過電子顕微鏡により、真空領域20が隣接する試料を観察した場合であっても、絞り板30の参照波用の孔35は真空領域20を透過した参照波の中心ビーム21を通過させるだけであるので問題は生じない。
実施例1では孔35を有する絞り板30を、参照波に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去する除去素子として機能させることについて説明した。本実施例では孔35を有する絞り板30を、除去素子として機能させるとともに、参照波と物体波との位相差を変調する変調素子として機能させることについて説明する。なお、孔35を有する絞り板30と絞り板30を制御する絞り板制御装置以外の構成は実施例1と同じであるので、説明を省略する。
図6を用いて本実施例の絞り板30の具体的な構造について説明する。図6(a)は絞り板30の一例の斜視図である。絞り板30はプレート51と金属薄膜61、63、65と絶縁膜62、64を含む。プレート51は、実施例1と同様に、モリブデンやタンタル等の金属製の板であり例えば5mm×31mm×0.3mmの大きさを有し、2.5mm×10.5mmの方形穴52を備える。方形穴52の上には、金属薄膜61、絶縁膜62、金属薄膜63、絶縁膜64、金属薄膜65の順にエポキシ接着剤等により張り付けられた5つの膜が積層される。金属薄膜61、63、65は金や銅等の金属製であって例えば0.4μmの厚さを有する。金属薄膜63には絞り板制御装置34を介して数ボルトの電圧が印加され、金属薄膜61、65は接地電圧される。絶縁膜62、64は例えば酸化ケイ素薄膜であり、金属薄膜63を金属薄膜61、65から電気的に絶縁する。積層された5つの膜には、集束イオンビーム加工装置等により複数の孔35、36が設けられる。
図6(b)及び図6(c)を用いて絞り板30に設けられる孔35、36の構造の一例について説明する。図6(b)は、参照波4が通過する孔35の周りに、支持アーム55で円環を3つに分離して形成された物体波5用の孔36を配置した例である。孔35の大きさを参照波4の中心ビーム21が通過できる程度にすることにより、参照波4に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去することは実施例1と同じである。
図6(c)は図6(b)のA−A断面図であって孔35の周りを拡大した図である。図6(c)には金属薄膜61、63、65に印加される電圧も示す。参照波用の孔35の内周面は絶縁膜と金属膜によって覆われ、金属薄膜61と金属薄膜65とは電気的に接続される。物体波用の孔36の内周面には絶縁膜や金属膜による覆いはなく、金属薄膜63が露出している。
このような構造によれば、金属薄膜63に電圧が印加されたとき、孔35内に電位は発生しないのに対し、孔36内には電位が発生する。すなわち、孔35を通過する参照波4は電位の影響を受けず、孔36を通過する物体波5は電位の影響を受けて位相変化が生じるので、参照波4と物体波5との位相差を変調することができる。また絞り板制御装置34により金属薄膜63に印加される電圧を制御することにより、参照波4と物体波5との位相差を所望の値にすることができる。なお、孔36を通過する電子線は、孔36内のどこを通過しても同じ位相変化となるので、位相の勾配は生じず、電子線も偏向されない。
よって、本実施例の絞り板30は、参照波に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去する除去素子として機能するとともに、参照波と物体波との位相差を変調する変調素子として機能する。なお、物体波用の孔36の内周面を絶縁膜と金属膜によって覆い、参照波用の孔35の内周面では金属薄膜63を露出させる構造であっても良い。この場合は、孔35を通過する参照波4に位相変化が生じ、孔36を通過する物体波5に位相変化は生じない。
なお、参照波4が通過する孔35を、参照波4の中心ビーム21だけでなく回折リング24が通過できる程度の大きさにしても良い。参照波用の孔35の大きさの制限をなくすことにより、絞り板30を参照波と物体波との位相差を変調する変調素子としてのみ機能させることができる。この変調素子は位相勾配を生じさせず、電子線を偏向させないので、縞走査法により位相像を得る際に有効である。
縞走査法とは、参照波と物体波との位相差が異なる干渉縞を3つ以上取得し、取得した干渉縞を用いて加減乗除演算して位相像を得る方法である。一例として、物体波と参照波の位相差が0、π/2、π、3π/2のときの4つの干渉縞を用いた演算について説明する。物体波の振幅をA、物体波の位相をφとすると、物体波と参照波の位相差が0、π/2、π、3π/2のときの干渉縞はAcos(φ)、Acos(φ+π/2)、Acos(φ+π)、Acos(φ+3π/2)となる。これらを用いて、次式を計算すれば、物体波の振幅Aが除かれてtan(φ)が得られるので物体波の位相φが求められる。
{Acos(φ+3π/2)−Acos(φ+π/2)}÷ {Acos(φ+0)−Acos(φ+π)}
干渉縞をフーリエ変換することなく、加減乗除演算により位相差が求められることが縞走査法の特徴である。
縞走査法では、異なる位相差の干渉縞を高精度に取得することが課題であるので、位相勾配を生じさせず、電子線を偏向させずに、参照波と物体波との位相差を高精度に変調する変調素子は縞走査法に有効である。また、電子線バイプリズム11を機械的に動かす必要もないので制御性が良い。
実施例1では孔35を有する絞り板30を、参照波に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去する除去素子として機能させることについて説明した。また実施例2では絞り板30を参照波と物体波との位相差を変調する変調素子として機能させることについて説明した。本実施例では電子線バイプリズムを2本用いた2段バイプリズム干渉計を実装した透過電子顕微鏡について説明する。2段バイプリズム干渉計は、干渉縞の縞間隔と縞のある領域の幅(干渉領域幅)とを独立に制御でき、かつ位相計測の精度を低下させるフレネル縞の発生を抑制できる技術である。なお、実施例1と同じ構成については説明を省略する。
図7を用いて本実施例について説明する。電子源1で発生した電子線2は、実施例1と同様に、照射レンズ3を介して、保持膜7と観察物体6を含む試料に照射され、物体波5と参照波4に分割される。物体波5と参照波4は、対物レンズ9を透過して回折像面10で集束した後、対物レンズ9の中間像面13に設置される1段目の電子線バイプリズム11aにより偏向させられる。1段目の電子線バイプリズム11aは中間像面13に設置されているため、物体波5と参照波4の角度を変えることにより干渉縞18の縞間隔 を制御する。
1段目の電子線バイプリズム11aを通過した物体波5と参照波4は、拡大レンズ14aで拡大された後、2段目の電子線バイプリズム11bで偏向され、物体波5と参照波4とが重なり合う領域である干渉領域幅が制御される。2段目の電子線バイプリズム11bを通過した物体波5と参照波4は、絞り板30a、拡大レンズ14b、絞り板30b、拡大レンズ14cを通過した後、像面16に配置されたカメラ17により干渉縞18を撮影される。撮影された干渉縞18は、画像生成装置31を介して、表示装置33に表示される。なお、電子源1、照射レンズ3、試料微動装置19、対物レンズ9、電子線バイプリズム11a、11b、拡大レンズ14a、14b、14c、画像生成装置31は制御装置32によって制御される。
本実施例では、2段目の電子線バイプリズム11bよりも電子線の進行方向の下流側であって、参照波4と物体波5がそれぞれ集束される面であるクロスオーバー面15a、15b、15cのいずれかの近傍に、実施例1または実施例2の絞り板30が設置される。すなわち、クロスオーバー面15a、15b、15cのいずれかの近傍には、除去素子または変調素子として機能する絞り板30を設置しても良いし、除去素子であって変調素子として機能する絞り板30を設置しても良い。なお、絞り板30a、30bが設置される位置は、物体波5と参照波4とが空間的に分離される範囲50a、50b、50cの中であることが望ましい。
例えば図7に示すように、クロスオーバー面15aに参照波4に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去する除去素子の絞り板30aを設置し、クロスオーバー面15bに参照波4と物体波5との位相差を変調する変調素子の絞り板30bを設置する。比較的高い回折像倍率となる面であるクロスオーバー面15aに除去素子を設定することにより、参照波4に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を十分に除去することができる。また各機能に特化した絞り板30a、30bを個別に設置することにより、絞り板30a、30bや、絞り板30a、30bをそれぞれ制御する絞り板制御装置34a、34bの構成を簡略化できる。また、どちらかの機能だけを使いたいときに使用の自由度が向上する。
以上、本発明の複数の実施例について説明した。本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、さまざまな変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したのであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。さらに、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
1:電子源、2:電子線、3:照射レンズ、4:参照波、5:物体波、6:観察物体、7:保持膜、8:試料面、9:対物レンズ、10:回折像面 、11:電子線バイプリズム、12:バイプリズムワイヤ、13:中間像面、14:拡大レンズ、15:クロスオーバー面、16:像面、17:カメラ、18:干渉縞、19:試料微動装置、20:真空領域、21:参照波の中心ビーム、22:物体波の中心ビーム、23:回折リング、24:回折リング、25:真空領域を通過した参照波、30:絞り板、31:画像生成装置、32:制御装置、33:表示装置、34:絞り板制御装置、35:参照波用の孔、36:物体波用の孔、50:範囲、51:プレート、52:方形穴、53:薄膜、55:支持アーム、61:金属薄膜、62:絶縁膜、63:金属薄膜、64:絶縁膜、65:金属薄膜

Claims (14)

  1. 電子線を放出する電子源と、
    前記電子線が照射される試料を保持する試料保持部と、
    前記試料を透過した電子線である物体波と前記物体波とは異なる経路の電子線である参照波を重ね合わせて干渉縞を形成させる電子バイプリズムとを備える透過電子顕微鏡であって、
    前記電子バイプリズムよりも電子線の進行方向の下流側に配置され、前記参照波に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去する除去素子を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  2. 請求項1に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記除去素子は、前記参照波の一部が通過する円形の孔を有する絞り板であることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  3. 請求項2に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記絞り板は、前記物体波が通過する孔をさらに有する絞り板であることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  4. 請求項3に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記物体波が通過する孔は、前記参照波の一部が通過する孔よりも大きいことを特徴とする透過電子顕微鏡。
  5. 請求項3に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記絞り板は、前記物体波が通過する孔と、前記参照波の一部が通過する孔との距離が異なる組合せを複数有することを特徴とする透過電子顕微鏡。
  6. 請求項2に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記孔の大きさは、前記所定の空間周波数に応じて定められることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  7. 請求項1に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記除去素子は、前記参照波と前記物体波の位相差を変調することを特徴とする透過電子顕微鏡。
  8. 請求項1に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記除去素子は、前記参照波と前記物体波とが空間的に分離される位置に配置されることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  9. 請求項1に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記電子バイプリズムよりも電子線の進行方向の下流側に配置され、前記参照波と前記物体波の位相差を変調する変調素子をさらに備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  10. 電子線を放出する電子源と、
    前記電子線が照射される試料を保持する試料保持部と、
    前記試料を透過した電子線である物体波と前記物体波とは異なる経路の電子線である参照波を重ね合わせて干渉縞を形成させる電子バイプリズムとを備える透過電子顕微鏡であって、
    前記電子バイプリズムよりも電子線の進行方向の下流側に配置され、前記参照波と前記物体波の位相差を変調する変調素子を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  11. 請求項10に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記変調素子は、前記参照波または前記物体波が通過する孔を有する絞り板であって、
    前記孔の内周には電極が設けられ、前記電極には電圧が印加されることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  12. 請求項11に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記電極に印加される電圧は変調される位相差に応じて調整されることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  13. 請求項10に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記変調素子は、前記参照波と前記物体波とが空間的に分離される位置に配置されることを特徴とする透過電子顕微鏡。
  14. 請求項10に記載の透過電子顕微鏡であって、
    前記電子バイプリズムよりも電子線の進行方向の下流側に配置され、前記参照波に含まれる所定の空間周波数よりも高い成分を除去する除去素子をさらに備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。
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