以下に本発明の第一の実施形態に係るねじ締結機構1の逆回転防止構造について図面を参照して説明する。図1は第一の実施形態に係るねじ締結機構1の逆回転防止構造を示す部分断面図である。本実施形態のねじ締結機構1の逆回転防止構造は、互いに間隔を存して配置される複数の雄ねじ体10と、複数の挿通孔24が形成されたワッシャとしての介在部材20と、雄ねじ体10に螺合する雌ねじ体30、被締結体100、110とを具えて構成される。被締結体100、110は、雄ねじ体10及び雌ねじ体30からなるねじ締結体によって締結される。
図2は、第一の実施形態の雄ねじ体10を示す図である。雄ねじ体10は、所謂ボルトであり、頭部12と軸部14を有する。頭部12の下部乃至付け根に相当する部位には、締結部側座部12aが形成される。軸部14には、円筒部14aと雄ねじ部14bとが形成され、雄ねじ部14bの外周面には、雄ねじ螺旋溝が形成されている。勿論、円筒部14aは必須ではない。
図3は、第一の実施形態の介在部材20を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。介在部材20は、複数の挿通部22と、挿通部22同士を連結する連結部28とを有する。ここでは二つの挿通部22を有しているが、挿通部22の数は適宜設定し得るものであり、三つ以上の挿通部22を有してもよいことは言うまでもない。挿通部22は、軸部14が挿通し得る略円形状に開口した挿通孔24、挿通孔24を囲繞するように形成された係合溝部26(介在部材側回転防止部)を有する。また挿通部22は、雌ねじ体30の端面略全面と当接し得るようにその広さ(表面の面積)が設定される。
係合溝部26は、雌ねじ体30に当接する一端面(図3(b)に示す上端面)において、内周面がテーパを成す断面略円錐台形状の凹状に形成される。また係合溝部26のテーパ状の内周面には、周方向に沿って複数の凹凸が形成される。この凹凸は、鋸歯形状、即ち内周面に対して略垂直に立ち上がる垂直面と傾斜面(該垂直面と内周面とを接続する面)とから成る形状であって、凹凸が延びる方向、即ち稜線が伸びる方向が挿通孔24の半径方向に沿うように設定される。従って係合溝部26の内周面の凹凸は、挿通孔24の軸心から放射状に延びる。
連結部28は、所定の大きさ以上の外力が付加されることで弾性的及び/又は塑性的に変形し得るように、形状が設定される。ここでは、挿通部22間に存する介在部材20の平面視中央部が連結部28であって、連結部28は、挿通部22と比較してくびれを有して外力によって変形し易い形状としている。即ち連結部28は、挿通部22間に配設された部分であって、二つの挿通孔24の軸心を結ぶ仮想線に直交する幅の大きさが挿通部22の幅と比較して狭く設定される。これにより連結部28は、所定以上の外力の付加によって幅方向に沿って変形し得る。なお連結部28は、幅方向及び/又は軸方向に変形し得るものであってもよい。特に軸方向に変形させる場合、連結部28の軸方向の厚みを挿通部22と比して薄く設定することが好ましい。
また、上述した連結部28を撓ませる所定の大きさの外力は、例えば人力で印加可能な外力であってもよく、または各種工具を用いて印加可能な外力であってもよいが、使用環境や被締結体100、110の大きさ、雌ねじ体30のサイズ等に応じて適宜設定するものである。
図4は第一の実施形態の雌ねじ体30を示し、(a)は側面図、(b)は断面図である。雌ねじ体30は、所謂六角ナットであり、円筒部32を具え、円筒部32の内周面には、雄ねじ部14bの雄ねじ螺旋溝と螺合する雌ねじ螺旋条を有する雌ねじ部34が形成される。
また雌ねじ体30の軸方向の一端面には、係合溝部26と係合する係合突出部36(雌ねじ側回転防止部)が形成される。係合突出部36は、一端面から軸方向に沿って略円錐台形状に突出し、そのテーパ状の外周面には、周方向に沿って複数の凹凸が形成される。この凹凸は、鋸歯形状を成し(例えば図6(a)参照)、凹凸が延びる方向、即ち稜線が伸びる方向が雌ねじ体30の半径方向に沿うように設定される。結果、係合突出部36のテーパ状の外周面の凹凸は、軸心から放射状に延びる。
被締結体100、110には、それぞれ複数の貫通孔100a、110aを有する。該貫通孔100a、110aは、被締結体100、110同士で互いに対応する位置に形成され、ねじ締結機構1により被締結体100、110を締結する際に互いに連通する。
ここで被締結体100、110の締結について説明する。ねじ締結機構1によって被締結体100、110を締結するとき、貫通孔100a、110aに雄ねじ体10の軸部14を挿通する。このとき、頭部12の締結部側座部12aが被締結体110に当接し、軸部14の先端側には被締結体100が配置されているものとする。
また被締結体100、110を挟んだ該雄ねじ体10の頭部12の反対側には、介在部材20、雌ねじ体30が配置される。即ち、被締結体100、110の貫通孔100a、110aに挿通した軸部14に、介在部材20を、係合溝部26を外側(被締結体100の反対側)に向けて挿通する。更に介在部材20の外側から雌ねじ体30を雄ねじ部14bに螺合させる。このとき雌ねじ体30の係合突出部36を係合溝部26に対向させる。
これにより、介在部材20と雌ねじ体30との間には、介在部材20に対する雌ねじ体30の相対回転を規制する第一の回転防止機構が構成される。また介在部材20と複数の雌ねじ体30との間には、被締結体100、110に対する介在部材20の相対回転を規制する第二の回転防止機構が構成される。
第一の回転防止機構は、介在部材20の係合溝部26と、雌ねじ体30の係合突出部36との係合によって構成される。具体的に雌ねじ体30が締付け方向に回転して介在部材20側に移動したとき、係合突出部36は係合溝部26内に進入する。さらに雌ねじ体30が締付け方向に回転したとき、係合突出部36の凹凸と係合溝部26の凹凸とが係合する。
ここで、両者の鋸歯形状は、雌ねじ体30が締結方向に回転するとき、互いの傾斜面(或いは傾斜が緩い側の面)が当接して、両者の距離を軸方向に狭めながら相対スライドを許容するように設定する。一方で雌ねじ体30が緩み方向に回転するとき、互いの垂直面(或いは傾斜が強い側の面)同士が当接して両者の相対移動を防止するように設定する。
従って、第一の回転防止機構は、雌ねじ体30を締め付けることによって係合突出部36と係合溝部26との係合が強くなり、雌ねじ体30の緩み方向への回転に抗する強度が向上して雌ねじ体30の確実な緩み止めとして作用する。
第二の回転防止機構は、介在部材20と、介在部材20に挿通される複数の雄ねじ体10によって構成される。具体的には、複数の雄ねじ体10によって介在部材20が複数箇所で固定されるので、介在部材20を回転させ得る外力が作用してもその回転を規制し、介在部材20の回転を防止する機構として機能する。
上述のねじ締結機構1は、被締結体100(及び被締結体110)の貫通孔100a(及び貫通孔110a)同士の間隔が設計上の誤差等の様々な原因により、場所ごとに一致していない場合でも、介在部材20を変形させることで、挿通部22同士の相対位置を変位させ、被締結体100、110に固定することができる。具体的には、介在部材20は、図5に示すように、連結部28を撓ませたとき、連結部28の角度変化によって挿通孔24同士の相対位置が変化する。結果、連結部28を図3に示す初期状態から、角度変化を大きくすることで、挿通孔24間の距離aを短縮させることができ、被締結体100(及び被締結体110)において貫通孔100a(及び貫通孔110a)間の距離が場所ごとにずれていても確実に介在部材20を介した雄ねじ体10の挿通を行うことができる。
以上、説明したように、第一の実施形態に係るねじ締結機構1によれば、第一の回転防止機構によって介在部材20と雌ねじ体30とが係合し、雌ねじ体30が雄ねじ体10に対して緩み方向に回転するのを規制できる。また第二の回転防止機構によって介在部材20は各雄ねじ体10によって被締結体100、110に対して回転するのを規制される。従って振動等が生じても、全く緩まない締結状態を得ることが出来る。また連結部28を撓ませ角度変化させることで、挿通孔24同士の相対位置を変化させることができるので、貫通孔100a同士の距離が場所ごとにずれていても、同一種類の介在部材20を介した雄ねじ体10及び雌ねじ体30の締結を行うことができる。また介在部材20は、挿通部22が雌ねじ体30の端面の略全面に当接するので、挿通部22同士の相対位置を変位させても、安定して雌ねじ体30と係合することができる。
また、連結部28を変形させることで挿通部22同士の相対位置を変えるため、常に挿通部22同士が連結されているので、特許文献1に記載の複数の介在体によってワッシャを構成する場合と比較して人為的ミスにより被締結体100、110に対し介在部材20の回転防止機能が発揮されないということがなく、確実に被締結体100、110に対する介在部材20の回転を防止することができる。
なお、第一の回転防止機構である係合溝部26と係合突出部36とは、凹凸が鋸歯形状(図6(a)参照)であるものとして説明したが、これに限定するものではなく、例えば図6(b)に示すように、傾斜面から成る山形、図6(c)に示すように、峯と谷を湾曲させた波形であってもよい。
また、凹凸が延びる方向を半径方向として説明したが、図7(a)に示すように、渦巻き状に延びる凹凸や、図7(b)に示すように、半径方向に対して周方向位相が変化するように傾斜した方向に直線状に延びる凹凸であってもよい。
また、介在部材20は、複数の挿通部20を連結部28によって連結していれば、形状は特に限定するものではなく、例えば、図8(a)に示すように、連結部28は中央部において二股となる形状や、図8(b)に示すように平面視において外形が略矩形状を成す挿通部20と、該矩形の角部分同士を連結部として連結させた形状であってもよい。
次に第二の実施形態に係るねじ締結機構1について説明する。ここでは第一の実施形態に係るねじ締結機構1との相違点について説明し、同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略する。なお第二の実施形態のねじ締結機構1は、第一の実施形態に係るねじ締結機構1に対し、複数の部分体52、54を連結して介在部材50を構成する点が相違する。
図9は、第二の実施形態の介在部材を示す図、図10は第二の実施形態に係る介在部材を構成するための部分体を示し、(a)は平面図、(b)は断面図である。第二の実施形態に係る介在部材50は、連結部60を介して部分体52、54を相対回転可能に結合して連結することで構成される。図10に示すように、部分体52、54には、各々挿通部22が形成される。また部分体52は、連結部60の一部を成し、上面を凹ませた連結領域52aを具える。連結領域52aの略中央部には、凸形状を有する嵌入突起56が形成されている。一方、部分体54は、連結部60の一部を成し、下面を凹ませた連結領域54aを具える。また連結領域54aの略中央部には、嵌入突起56が嵌り得る嵌入孔部58が形成されている。
挿通孔24の軸方向に沿った連結領域52a、54aの厚みは、挿通部22の厚みの略半分に設定される。このため、部分体52は、図9(b)に示す向きにおいて、上面部において挿通部22と連結領域52aとの間に段53を有する。同様に部分体54は、その下面部において挿通部22と連結領域54aとの間に段55を有する。段53は、図9(a)に示すように平面視略直線状に延伸するように形成される。なお段55についても、段53と同様に平面視略直線状に延伸するように形成する。また段53,55は、介在部材50を形成したとき、連結部60を中心に対称な形状を成すように、延伸する方向等が設定される。
また図10(b)に示すように、嵌入突起56を嵌入孔部58内に嵌入させ、且つ部分体52の連結領域52aの上面と部分体54の連結領域54aの下面とを当接させたとき、部分体52、54は、各々の上面部が略面一に並び、また各々の下面が略面一に並んで介在部材50を成す。
このように嵌入突起56を嵌入孔部58に嵌入させて連結領域52a、54a同士が連結することで、連結部60を構成する。具体的には、連結領域52aの上面と連結領域54aの下面とが当接するように、嵌入突起56を嵌入孔部58に嵌入させることで行う。これにより部分体52は、連結部60(嵌入突起56)を中心に、部分体54に対し相対回転し得る。従って連結部60は、挿通部22間、即ち部分体52、54間の相対位置を変位させるように機能する。
ここで、図11は第二の実施形態に係る介在部材50による挿通部22同士の相対位置の変位を示す図である。図11(a)は部分体52、54間の距離が最も長い第一状態を示し、第一状態においては、部分体52、54の挿通孔24の軸心同士を結ぶ仮想線上に嵌入突起56及び嵌入孔部58の軸心が位置する。
図11(b)、(c)は、部分体52、54間の距離が第一状態よりも短くした状態を示し、第一状態を基準に部分体52を回動させた状態を示す。図11(b)は、第一状態と後述する規制状態との間の状態を示し、部分体52を、回動可能な範囲の途中位置に回動させた第二状態を示す。また図11(c)は、部分体52が回動可能な範囲の限度(規制位置)まで回動した規制状態を示す。ここで規制位置とは、部分体52の段53が部分体54の側面に当接した位置であり、且つ部分体54の段55が部分体52の側面に当接した位置である。即ち、部分体52(部分体54)は、段55(段53)に当接するため、これ以上の回動が規制される。
このように、部分体52が段55に当接し、且つ部分体54が段53に当接することで介在部材50の規制状態が形成され、規制状態となったとき挿通部22間の距離が最も短縮される。従って、介在部材50は、第一状態、第二状態、規制状態の順に、挿通部22の距離を短縮し得るように挿通部22同士の相対位置が変位する。
以上説明したように、第二の実施形態に係る介在部材50によれば、部分体52、54を互いに相対回転可能に連結し、部分体52、54を他方に対して相対的に回動させることで、挿通部22同士の相対位置を変位させることができる。
また部分体52、54を、嵌入突起56を嵌入孔部58に嵌入させることで連結させ、何れか一方を回動させることで、介在部材50の第一状態、第二状態、規制状態の何れかを形成することから、介在部材50を構成したまま、挿通部22の位置合わせを行って被締結体100と雌ねじ体30との間に配設することができる。即ち部分体52、54に分離し得ないように介在部材50を構成して被締結体100と雌ねじ体30との間に配設することができる。従って人為的なミス等により介在部材50を成さないまま、部分体のみが締結体100と雌ねじ体30との間に配設されることを確実に防止することができる。
なお、上記第二の実施形態において、部分体52、54は、嵌入突起56を嵌入孔部58に嵌入させることで連結させたが、これに限定するものではなく、勿論、嵌入突起56を嵌入孔部58に嵌入させた後、嵌入突起56をかしめてとめるようにしてもよい。また嵌入突起56、嵌入孔部58の代わりに、部分体52の連結領域52aと、部分体54の連結領域54aとにそれぞれ孔を設け、両孔を連通させてピンを挿嵌することで部分体52、54を相対回転可能に連結してもよい。
なお、上述した各実施形態においては、係合溝部26を介在部材の一方の面にのみ形成した場合を例に説明したが、係合溝部26を両面に形成するようにしてもよい。例えば、第一の実施形態に係る介在部材20においては、図12に示すように、挿通孔24の軸方向に沿って配置された二面において係合溝部26を形成する。
このように係合溝部26を挿通孔24の軸方向に沿って配置された二面に形成した介在部材20を用いれば、介在部材20を誤った向きで配置してしまうことを防止することが出来る。即ち、第一の実施形態に係るねじ締結機構1においては、介在部材20が図1等に示す向きと逆向きの係合溝部26が被締結体100に対向する向きに配置される虞がある。その場合、雌ねじ体30の係合突出部36は、係合溝部26と係合し得ないため、第一の回転防止機構が形成されない。これに対し、介在部材20の軸方向に沿って配置された二面に係合溝部26を形成すれば、介在部材20を何れの向きに配置しても確実に第一の回転防止機構を形成することができる。
また、同様に雌ねじ体30においても、図13に示すように、軸心に沿って配置された二面にそれぞれ係合突出部36を形成すれば、雄ねじ体10に雌ねじ体30を入れる向きを何れの向きにしても確実に係合突出部36が係合溝部26に係合するので、第一の回転防止機構を形成することができる。
また、上述したねじ締結構造1は、介在部材20と雌ねじ体30とが係合するものとして説明したが、勿論雄ねじ体10と係合するものであってもよい。例えば図14に示す被締結体100には、雄ねじ部に螺合する複数の雌ねじ穴100aが形成されており、被締結体100と雄ねじ体10との間で被締結体110を固定する場合において、雄ねじ体10と被締結体110との間に介在部材20を配設する。このような場合には、雄ねじ体10の頭部12の締結部側座部12aに係合突出部36に相当する係合突出部13を形成し、雄ねじ体10の係合突出部13bと介在部材20の係合溝部26とを係合させる。
また、介在部材20が係合溝部26を有し、雌ねじ体30が係合突出部36を有する場合を例に説明したが、これに限定するものではなく、介在部材20が係合突出部を有し、雌ねじ体30が係合溝部を有するものであってもよい。
また、上述した第二の実施形態に係る介在部材50において、部分体52、54の段53、55を平面視略直線状に延伸するものとしたが、これに限定するものではなく、途中で屈曲して延伸する形状であってもよい。このような屈曲した形状とすれば、直線状とした場合と比較して部分体52、54同士の相対的な回動範囲を狭める或いは拡げることができる。
例えば、部分52における段53が、連結領域52aの面積を縮小させるように屈曲しているとき、即ち図15(a)に示すように、段53の延伸する方向に沿った両端が連結領域52aの先端側に傾斜するように、段53が中央部で屈曲しているとき、部分体52、54同士の相対的に回動可能な範囲は、上述の第二の実施形態の場合と比較して縮小する。また段53が、連結領域52aの面積を拡大させるように屈曲しているとき、即ち図15(b)に示すように、段53の延伸する方向に沿った両端が挿通部22側に傾斜するように、段53が中央部で屈曲しているとき、部分体52、54同士の相対的な回動可能な範囲は、上述の第二の実施形態の場合と比較して拡大する。