JP2019203211A - 耐炎化繊維束および炭素繊維束の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐炎化熱処理途時に発生する単繊維間の接着を解繊させることで、高強度炭素繊維を得るための耐炎化繊維束および炭素繊維束の製造方法を提供する。【解決手段】ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気中で200〜300℃で耐炎化処理して、耐炎化繊維束を製造する工程において、比重が1.20〜1.50である繊維束を表面温度が180℃以下の糸道規制部材3に通過させて10〜40T/mの仮撚りを与える耐炎化繊維束の製造方法。【選択図】図1
Description
本発明は、耐炎化熱処理時に発生する単繊維間の接着状態を抑制することでより高い強度を有する炭素繊維束を提供することができる耐炎化繊維束および炭素繊維束の製造方法に関する。
炭素繊維束は、他の繊維に比べて優れた比強度および比弾性率を有するため、複合材料用補強材料として、スポーツ用途・航空宇宙用途だけではなく、自動車や風車、圧力容器などの一般産業用途にも幅広く使用されている。特に環境・コスト面から機体や車体の軽量化が強く求められる航空機や自動車分野においては、炭素繊維束の需要が高く、近年炭素繊維束を用いる顧客から更なる高性能化が求められており、とりわけ高い引張強度を有する炭素繊維束が要求されている。
炭素繊維束の強度は、原料であるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の強度に依存するが、強度に大きく影響を及ぼす要因として、欠陥が知られている。欠陥には、炭素繊維束製造工程において、粉塵や金属などの異物との接触や付着により単繊維に発生する傷や空隙、単繊維間の接着に起因する単繊維表面上の傷、ローラーとの擦過等で発生する炭素繊維束自体の傷が挙げられる。欠陥が炭素繊維束の単繊維の内部や表層いずれに形成されても、その欠陥の大きさと数が増加するにつれて炭素繊維束の強度は低下することが知られている。炭素繊維束自体が脆性を備えた素材であるために、軽微な傷が耐炎化繊維束を構成する単繊維の表面や内部に存在した状態で炭素繊維束にした時に、その傷が破壊開始点として作用して強度を大幅に低下させてしまうことから、耐炎化繊維束の製造工程で傷や単繊維間接着を抑制することは、炭素繊維束の高強度化において極めて重要なことである。特に、熱処理される耐炎化工程において、単繊維間に接着が形成された後で張力によりガイドローラーなどで繊維束に外力が作用して、接着している単繊維がはく離されてしまうことがある。その結果、炭素繊維束を構成する単繊維の表層部で繊維束方向に引き裂きが起こり、大きな欠陥が発生するために強度が大きく低下する。
ポリアクリロニトリル系炭素繊維束は、一般にポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を酸化性気体雰囲気下で200〜300℃で加熱して耐炎化繊維束を得て、次いで不活性ガス雰囲気下1000℃以上で加熱して得られる。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束は通常1000〜60000本の単繊維からなるが、ポリアクリロニトリル前駆体繊維束は可燃物であるため、酸化性雰囲気中で耐炎化熱処理する際に単繊維間で接着が発生することがある。
耐炎化熱処理時に発生する繊維束を構成する単繊維間の接着を抑制するためには、繊維束を構成する単繊維に物理的外力を付与して、接着した単繊維を解繊することが有効であり、繊維束への仮撚りや加撚またはローラーを用いて繊維束に物理的外力を付与している発明がいくつか開示されている。特許文献1には、耐炎化熱処理中に実質的に無撚状態の繊維束を溝付きローラーに対して0.1〜1.0°の進入角度をつけて斜行した状態で走行させることで、繊維束と溝ローラー側壁間の摩擦力で繊維束が回転して、0.1〜0.5T/mの仮撚りが発生する耐炎化糸の製造方法が記載されている。特許文献2には、前駆体繊維束に付着したシリコーン油剤のゲル化進行と共に発生する単繊維間の密着状態を、複数の固定ガイドバーを通過させて開繊した後に耐炎化することで単繊維間接着を抑制する炭素繊維の製造方法が記載されている。特許文献3には、前駆体繊維束供給工程であるクリールで5〜100回/mに加撚した複数本のアクリル繊維である前駆体繊維束を合糸して酸化性雰囲気中で耐炎化処理を施して、耐炎化処理後に分繊して炭化する炭素繊維束の連続的製造方法が記載されている。特許文献4には、回転数を制御できる巻出し機に仕掛けたポリアクリロニトリル前駆体繊維束に15回/m以下の撚数で加撚しながら引き出して、毛羽の発生が連続運転上支障となる耐炎化、炭化、黒鉛化のいずれかの工程の前で複数の繊維束を撚り合わせて熱処理を行い、その熱処理後もしくはその後に続く熱処理後にこの撚り合わせを戻す解撚を行う炭素繊維束の製造方法が記載されている。
しかし、特許文献1記載の発明は、加熱された酸化性雰囲気中で繊維束に仮撚りをかけたまま耐炎化熱処理を行うため、耐炎化熱処理時の繊維束の毛羽立ちや糸切れは減少するが、単繊維間の接着が一度発生してしまうと接着状態を維持したまま耐炎化熱処理が完了してしまうので、単繊維間が接着した状態を維持したまま耐炎化繊維束を炭化処理するために得られる炭素繊維束の強度が低下する問題がある。特許文献2記載の発明は、前駆体繊維束を複数の固定バーに通過させてから耐炎化熱処理するが、固定バーとの擦過で繊維束の毛羽が発生して、繊維束自体が傷つくことでかえって強度が低下する問題がある。特許文献3、4記載の発明は、前駆体繊維束に加撚して合糸した状態で炭素繊維束を得る製造方法であるが、撚りがかかった状態で合糸された繊維束が耐炎化熱処理されるために、繊維束内部にある単繊維に発熱反応に伴う蓄熱が発生して単繊維間で接着が発生するため、得られる炭素繊維束の強度は330〜380kgf/mm2(3.2〜3.7GPa)とポリアクリロニトリル系炭素繊維束の強度としては十分に高いものではない。
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、繊維束を糸道規制部材に通過させて仮撚りを掛けることで、繊維束に解繊の作用をもたらして耐炎化熱処理時に発生する単繊維間の接着を抑制して、高強度炭素繊維を得るための耐炎化繊維束および炭素繊維束の製造方法を提供することにある。
かかる課題を解決するための本発明の耐炎化繊維束の製造方法は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気中で200〜300℃で耐炎化処理して、耐炎化繊維束を製造する工程において、比重が1.20〜1.50である繊維束を表面温度が180℃以下の糸道規制部材に通過させて10〜40T/mの仮撚りを与える耐炎化繊維束の製造方法である。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法は、上記の耐炎化繊維束の製造方法で耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気中で1000〜2500℃で炭化処理する炭素繊維束の製造方法である。
本発明の耐炎化繊維束および炭素繊維束の製造方法によれば、耐炎化熱処理時に発生する繊維束を構成する単繊維間の接着を抑制することができ、強度が高いポリアクリロニトリル系強度炭素繊維束を製造することができる。
本発明において、耐炎化繊維束および炭素繊維束の原料として用いられるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束は、アクリル系重合体として、アクリルニトリルの単独重合体あるいは共重合体を、有機または無機溶媒を用いて紡糸することで得られる。アクリル系重合体は、アクリロニトリル90質量%以上からなる重合体であり、必要に応じて10質量%以下で他のコモノマーを使用する。コモノマーとしては、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸およびそれらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、あるいはアリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸およびそれらのアルカリ金属塩などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。
本発明で使用されるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造方法には特に制限がないが、紡糸原液を紡糸する方法は、凝固浴内の溶媒中に紡糸する湿式紡糸または紡糸原液を空気中に一旦紡糸する乾湿式紡糸が好ましく用いられ、その後、延伸、水洗、油剤付与、乾燥緻密化、必要あれば後延伸などの工程を経て得ることができる。
本発明で使用されるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束は、単繊維の繊度が0.4〜1.6dtexであって、前駆体繊維束を構成する単繊維数の総数であるフィラメント数が1000〜60000、好ましくは1000〜36000本である。
このようにして得られたポリアクリロニトリル系繊維束を、酸化性雰囲気中で200〜300℃の所定の温度で熱処理することで耐炎化処理を行う。酸化性雰囲気で用いる気体としては、コスト面から空気が好ましい。熱処理炉としては、熱風循環式の耐炎化炉が好ましく用いられ、かかる耐炎化炉の内側もしくは外側の両端には繊維束が複数回繰り返して走行できるように折り返しローラーが多段に設置される。耐炎化炉は、繊維束が走行する方向が水平となる横型耐炎化炉または繊維束が走行する方向が垂直となる縦型耐炎化炉のいずれでも構わないが、繊維束の通糸や分繊などの繊維束の取り扱いが容易な横型耐炎化炉の方が好ましい。かかる熱処理炉を横断した繊維束が、折り返し用のローラーにより進行方向を逆に変えて、耐炎化炉内を繰り返し通過して熱風を循環させて加熱させることで、ポリアクリロニトリル系繊維束が耐炎化処理される。このとき、炭素繊維束を製造したときに十分な引張強度を発現するために、熱処理炉で耐炎化処理される繊維束の単繊維の繊度は0.4〜1.7dtexであることが好ましい。
本発明では、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化工程で熱処理する際に、糸道規制部材を用いて繊維束を斜行させることで繊維束に仮撚りを付与することで、接着している単繊維を解繊する。ここで解繊とは、繊維束内の単繊維が仮撚りにより、繊維束を構成する単繊維が糸道規制部材で位置を変えることで強制的に外力が付与されることで、接着している単繊維を引き離す状態を指す。糸道規制部材を走行する繊維束を構成する単繊維が糸道規制部材との摩擦力で常に物理的な外力を付与されて、単繊維が繊維束内で位置を変えることで解繊されて単繊維間の接着状態の発生を抑制する。
かかる繊維束は、耐炎化処理している途中の繊維束または耐炎化熱処理が終了して耐炎化炉を通炉した後の耐炎化繊維束のいずれでも構わず、かかる繊維束または耐炎化繊維束の比重は1.20〜1.50、好ましくは1.25〜1.45である。比重が1.20未満であると、耐炎化熱処理がほとんどなされていない状態で単繊維間の接着はほとんど発生していないために、糸道規制部材を用いた斜行糸道による単繊維間の解繊による接着抑制効果は期待できず、炭素繊維束の強度は向上しない。比重が1.50を超えると、単繊維間の接着が解繊できないほどに強固なものになるばかりでなく、繊維束が脆弱になって糸道規制部材通過時に毛羽が発生してしまい、強度は低下する。
本発明で用いる繊維束に仮撚りを付与するための糸道規制部材は、公知の技術で得られるものでよく、糸道規制部材により走行する繊維束を斜行させて、繊維束を構成する単繊維に物理的外力で単繊維の位置を変動させることができればよい。
糸道規制部材は糸道を規制できる機能を有していればよく、その形状はU字型、V字型、H字型、ループ型、スネール型、フック型、パイプ型などが挙げられるが、その形状は特に限定されるものではない。また、部材としては、単独ガイド、櫛ガイド、単独ローラー及び単数または複数の溝を有する溝ローラーなどがあるが、繊維束の擦過を防ぐことができる回転する単独ローラーや溝ローラーといったローラーを用いることが好ましい。複数の繊維束を同時に斜行させたい場合には、複数の溝を有する溝ローラーを用いることで均一に単繊維に外力を付与することができて、効率的に解繊して接着抑制することができる。
糸道規制部材による仮撚りは、糸道規制部材と走行する繊維束の間の摩擦力により発生するものであり、繊維束すなわち繊維束を構成する単繊維に仮撚りによる物理的な外力を付与するものである。糸道規制部材を用いて繊維束を斜行させて仮撚りを付与するのであるが、斜行糸道を形成するためには、糸道規制部材の前後で繊維束の走行位置を規制することができる手段を設けて斜行糸道工程を構成する必要がある。かかる手段は、糸道規制部材前後で繊維束の走行位置を規制できるものであれば良く、特に限定はされないが、繊維束の走行位置の制御性や毛羽立ち発生の抑制の観点からローラーを使用することが好ましい。糸道規制部材の前後にローラーを適用して斜行糸道工程を構成する場合、斜行糸道工程は、糸道規制部材の前にある第1ローラーと糸道規制部材の後にある第2ローラーおよびこれら2つのローラーの間にある糸道規制部材から構成されるのが好ましい。糸道規制部材が、繊維束の走行方向に沿って第1ローラーと第2ローラーに挟まれた位置に存在し、第1ローラーと糸道規制部材の距離をL1(m)、糸道規制部材と第2ローラーの距離をL2(m)、繊維束が第1ローラーから離れる点と第2ローラーに接触する点を含む鉛直方向の平面に対する糸道規制部材からの垂線の長さD(mm)とした時、下式で求められる振り角θ1とθ2の和θ1+θ2が3〜13°となるように第1ローラーと第2ローラーおよび糸道規制部材を配置することが好ましい。また、斜行糸道工程通過前後で繊維束の撚り数が変わらない、言い換えれば残撚りがないようにするために、第1ローラーの軸と第2ローラーの軸は互いに平行であることが好ましい。
θn=arctan(D/(Ln×10−3))×360°÷2π (n=1または2)
Ln:第nローラーと糸道規制部材間の距離(m)
D:繊維束が第1ローラーから離れる点と第2ローラーに接触する点を含む鉛直方向の平面に対する糸道規制部材からの垂線の長さ(mm)。
Ln:第nローラーと糸道規制部材間の距離(m)
D:繊維束が第1ローラーから離れる点と第2ローラーに接触する点を含む鉛直方向の平面に対する糸道規制部材からの垂線の長さ(mm)。
次にL1、L2およびDについて、図を用いて説明する。図1に示すとおり、第1ローラーと糸道規制部材の距離L1(m)とは、第1ローラーから繊維束が離れる点から繊維束が糸道規制部材に接触する点までの距離であり、糸道規制部材と第2ローラーの距離L2(m)とは、糸道規制部材から繊維束が離れる点から繊維束が第2ローラーに接触する点までの距離である。また、移動距離D(mm)は図2に示すとおり、繊維束が第1ローラーから離れる点と第2ローラーに接触する点を含む鉛直方向の平面に対して、糸道規制部材の設置場所からの垂線の長さである。糸道規制部材の設置場所とは、第1ローラーから走行する繊維束が糸道規制部材に接触する点および繊維束が第2ローラーに向けて糸道規制部材から離れる点の2点をそれぞれ始点、終点とする糸道規制部材に接触している繊維束の中点である。すなわち、繊維束が斜行せずに直進する場合の糸道規制部材の位置から、斜行糸道を形成するために糸道規制部材を移動した時の移動距離のことである。
次に振り角について説明する。本発明では、振り角θ1+θ2を3〜13°にすることで、斜行による繊維束への外力を付与して解繊による単繊維間の接着を抑制できるばかりか、糸道規制部材での毛羽立ちやガイド外れや単繊維のアライメントの乱れを防ぐことができ、強度向上について奏功せしめることができる。かかる振り角θ1、θ2の定義は以下のとおりである。まずθ1については、第1ローラーと糸道規制部材の間の空間において、繊維束が第1ローラーから離れる場所を通る第1ローラー軸と平行な線および斜行糸道を走行する繊維束の両方を含む平面上で、繊維束が斜行糸道を適用しない、すなわち直進する糸道と斜行糸道がなす角度である。同様に、θ2については、糸道規制部材と第2ローラーの間の空間において、繊維束が第2ローラーに接触開始した場所を通る第2ローラー軸と平行な線および斜行糸道を走行する繊維束の両方を含む平面上で、繊維束が斜行糸道を適用しない、すなわち直進する糸道と斜行糸道がなす角度である。斜行糸道による単繊維間の接着抑制効果をより得るために、繊維束の比重が1.20〜1.50の間の耐炎化工程または耐炎化工程を終了した場所に、かかる斜行糸道工程を複数箇所設けても良い。
また、第1ローラーと第2ローラーとこれら2つのローラーの間にある糸道規制部材からなる斜行糸道工程に繊維束を通過させることで繊維束を斜行させて仮撚りを与えた後、再び繊維束を斜行させて逆向きの仮撚りを付与することで、斜行糸道工程前後で撚りの状態を等しくして、残撚りが発生しないようにすることが好ましい。斜行糸道工程で第1ローラーと糸道規制部材間で発生する仮撚りと糸道機材部材と第2ローラーで発生する仮撚りにおいて、仮撚り数が同じで互いに逆方向でなければ、糸道規制部材工程を通過した繊維束に撚りが残ってしまい、炭素繊維束の開繊性が低下するばかりか、糸道規制部材の後に耐炎化熱処理工程が残っている場合には、かかる残撚りにより繊維束内で蓄熱が発生して単繊維間接着を促進することになるため、糸道規制部材による斜行糸道の解繊作用の効果がなくなり、強度が低下してしまう。
糸道規制部材を用いて繊維束を斜行させることで付与する仮撚りは、糸道規制部材と繊維束間の摩擦により発生するものであり、かかる摩擦力は表面の材質、粗度、単繊維の素材、繊度、断面形状、繊維束を構成する単繊維の総本数、交絡状態、張力および雰囲気温度条件など多くの要因に支配されている。本発明においてこれらの要因の中で、単繊維間接着抑制の観点から繊維束の張力および糸道規制部材を設置する雰囲気温度がとりわけ重要である。まず、糸道規制部材を走行する繊維束の張力は、単繊維間接着を抑制する解繊作用をもたらすのに重要な要因であり、糸道規制部材の雰囲気温度は、走行している繊維束を構成する単繊維間で熱処理による接着が発生しない温度でなければならない。
糸道規制部材を通過する際の繊維束の張力としては、30〜180mg/dtexが好ましく、より好ましくは50〜150mg/dtexである。繊維束の張力を30〜180mg/dtexにすることで、繊維束が糸道規制部材上を走行する時に繊維束に外力が付与されることで、繊維束を構成する単繊維に解繊作用が発生して単繊維間の接着を抑制するばかりか、過張力による繊維束の毛羽立ちも防止できて繊維束の品位を維持することができる。ここでいう繊維束の張力とは、第1ローラーに接触する前の繊維束の張力と第2ローラーから離れた後の繊維束の張力をそれぞれ張力計で測定した張力の平均値である。張力計はデジタル式でもアナログ式のいずれでもよいが、測定精度が高いデジタル式張力計を使用することが好ましい。
糸道規制部材を設置する場所は、繊維束が走行する耐炎化熱処理途中または耐炎化繊維束が走行する耐炎化炉通炉後のいずれでも構わないが、耐炎化熱処理時に発生する単繊維間の接着を抑制することが繊維束を斜行させる糸道規制部材の設置目的であることから、繊維束が熱処理されない雰囲気温度を有する場所への設置が好ましい。特段に加温や冷却を目的とした温度制御手段を具備しない状態においては、経時的に糸道規制部材の表面温度は雰囲気温度と同じになることから、糸道規制部材の表面温度は繊維束を構成する単繊維間で接着が発生しない180℃以下であることが重要である。糸道規制部材を設置する周りの雰囲気温度が常温であれば、糸道規制部材を通過する繊維束も常温となるので、熱による繊維束を構成する単繊維間接着は発生しない。季節間の気温変動も考慮すれば、より好ましい糸道規制部材の表面温度は0〜50℃である。具体的な糸道規制部材の設置場所は、耐炎化熱処理炉の炉間や耐炎化繊維束が走行する耐炎化通炉後に設置しても良いし、耐炎化工程の折り返しローラーと熱処理炉の間に設置しても良い。
耐炎化処理している途中の繊維束または耐炎化繊維束を、斜行糸道工程を通過させて得られた耐炎化繊維束を窒素などの不活性雰囲気中で1000〜2500℃で炭化処理することで、耐炎化熱処理で発生する単繊維間の接着を抑制した高強度な炭素繊維束を得ることができる。具体的な製造方法について説明する。まず、斜行糸道工程を通過させた耐炎化繊維束を窒素などの不活性雰囲気中で300〜1000℃の温度で予備炭化処理して予備炭化繊維束を得た後、予備炭化繊維束を窒素などの不活性雰囲気中で1000〜2000℃の温度で炭化処理することによって炭化糸を得ることができ、さらに窒素などの不活性雰囲気中で2000〜2500℃の温度で黒鉛化処理することで、さらに弾性率が高い黒鉛化糸を得ることができる。本発明の炭素繊維束は、かかる炭化糸または黒鉛化糸のいずれでも構わない。
炭化処理後または黒鉛化処理後に、炭素繊維束の表面に官能基を生成してマトリックス樹脂との接着性を高めることを目的とした酸化表面処理を行うことが好ましい。酸化表面処理方法には、薬液を用いる液相酸化、電解液溶液中で炭素繊維を陽極として処理する電解表面処理、およびプラズマ処理などによる気相酸化表面処理等があるが、比較的取り扱い性がよく、製造コスト的に有利な電解表面処理方法が採用される。電解表面処理で用いる電解溶液は、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液のいずれも使用可能であるが、酸性水溶液としては強酸性を示す硫酸または硝酸が好ましく、またアルカリ性水溶液としては炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムや重炭酸アンモニウム等の無機アルカリの水溶液が好ましく用いられる。かかる電解表面処理を施した炭素繊維束は、必要に応じて水洗工程を経た後に乾燥機で水分を蒸発させた後に、サイジング剤を付与することが好ましい。ここでいうサイジング剤の種類は特に限定するものではないが、サイジング剤はエポキシ樹脂を主成分とするビスフェノールA型エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂などから高次加工で用いるマトリックス樹脂に応じて適時選ぶことができる。
本明細書に記載の各特性の測定方法は以下の通りである。
<繊維束の張力>
走行中の繊維束の張力は、第1ローラーに接触する前の繊維束の張力と第2ローラーから離れた繊維束に対して測定した。張力計としては、日本電産シンポ(株)社製の高性能ハンドヘルド型デジタルテンションメーターを用いて5秒間測定した。第1ローラーに接触する前の繊維束の張力と第2ローラーから離れた後の繊維束の張力をそれぞれ張力計で測定した張力の平均値を繊維束の張力とした。
走行中の繊維束の張力は、第1ローラーに接触する前の繊維束の張力と第2ローラーから離れた繊維束に対して測定した。張力計としては、日本電産シンポ(株)社製の高性能ハンドヘルド型デジタルテンションメーターを用いて5秒間測定した。第1ローラーに接触する前の繊維束の張力と第2ローラーから離れた後の繊維束の張力をそれぞれ張力計で測定した張力の平均値を繊維束の張力とした。
<繊維束の比重>
本発明の耐炎化繊維束を含む繊維束の比重は、JIS R7601(2006)記載の方法に準拠した。試薬はエタノール(和光純薬社製特級)を精製せずに用いた。1.0〜1.5gの繊維束を採取し、120℃で2時間絶乾した。絶乾質量(A)を測定したのち、比重既知(比重ρ)のエタノールに含浸し、エタノール中の繊維束質量(B)を測定した。下記に従い比重を算出した。
比重=(A×ρ)/(A−B)。
本発明の耐炎化繊維束を含む繊維束の比重は、JIS R7601(2006)記載の方法に準拠した。試薬はエタノール(和光純薬社製特級)を精製せずに用いた。1.0〜1.5gの繊維束を採取し、120℃で2時間絶乾した。絶乾質量(A)を測定したのち、比重既知(比重ρ)のエタノールに含浸し、エタノール中の繊維束質量(B)を測定した。下記に従い比重を算出した。
比重=(A×ρ)/(A−B)。
<炭素繊維束の強度>
炭素繊維束の強度は、JIS R7608(2007)の炭素繊維引張特性試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件は、圧力は常圧、温度は125℃、時間は30分とした。炭素繊維束5本を測定し、その平均値を炭素繊維束の強度とした。
炭素繊維束の強度は、JIS R7608(2007)の炭素繊維引張特性試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件は、圧力は常圧、温度は125℃、時間は30分とした。炭素繊維束5本を測定し、その平均値を炭素繊維束の強度とした。
<糸道規制部材の表面温度>
繊維束が糸道規制部材上を走行している時に、接触式温度計を繊維束が走行していない糸道規制部材部分に接触させて糸道規制部材の表面温度を測定した。接触式温度計としては、本体である安立計器(株)社製ハンディータイプ温度計(型式HA−100K)に小型移動回転表面用温度センサー(SHシリーズ)を取り付けたものを使用した。接触式温度計を糸道規制部材表面に1分間接触した後の温度を糸道規制部材の表面温度とした。
繊維束が糸道規制部材上を走行している時に、接触式温度計を繊維束が走行していない糸道規制部材部分に接触させて糸道規制部材の表面温度を測定した。接触式温度計としては、本体である安立計器(株)社製ハンディータイプ温度計(型式HA−100K)に小型移動回転表面用温度センサー(SHシリーズ)を取り付けたものを使用した。接触式温度計を糸道規制部材表面に1分間接触した後の温度を糸道規制部材の表面温度とした。
<仮撚り数>
糸道規制部材工程において、第1ローラーに繊維束が接触した直後の繊維束の糸幅方向と平行にテープを繊維束に貼り付けて、テープが1回転する繊維束の走行距離A(cm)を測定する。第1ローラーと糸道規制部材までの仮撚り数T1を、T1=100÷A(T/m)から算出する。次に、糸道規制部材から繊維束が離れた直後にテープを繊維束に貼り付けて、テープが1回転する繊維束の走行距離B(cm)を測定する。糸道規制部材と第2ローラーまでの仮撚り数T2を、T2=100÷B(T/m)から算出する。T1とT2の平均値を仮撚り数T(T/m)とした。
糸道規制部材工程において、第1ローラーに繊維束が接触した直後の繊維束の糸幅方向と平行にテープを繊維束に貼り付けて、テープが1回転する繊維束の走行距離A(cm)を測定する。第1ローラーと糸道規制部材までの仮撚り数T1を、T1=100÷A(T/m)から算出する。次に、糸道規制部材から繊維束が離れた直後にテープを繊維束に貼り付けて、テープが1回転する繊維束の走行距離B(cm)を測定する。糸道規制部材と第2ローラーまでの仮撚り数T2を、T2=100÷B(T/m)から算出する。T1とT2の平均値を仮撚り数T(T/m)とした。
[実施例1]
アクリル系重合体から紡糸原液を調製した後、湿式紡糸方法により単繊維繊度が1.1dtexで単繊維の総数であるフィラメント数が12000本であるポリアクリロニトリル系前駆体繊維を得た。かかるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を空気からなる酸化性雰囲気中で230〜270℃で耐炎化熱処理している途中である繊維束の比重1.32の繊維束を斜行糸道工程に走行させた。かかる斜行糸道工程において、第1ローラーと糸道規制部材の距離L1は2.2m、糸道規制部材と第2ローラーとの距離L2は1.5mとするとともに、第1ローラーと第2ローラーの間にある糸道規制部材として図1のようなハートローラーを用いた。糸道規制部材であるハートローラーをローラー軸と平行な方向に移動、すなわち移動距離Dを140mmにすることで繊維束の仮撚り数は25T/m、振り角θ1+θ2は9oとなる斜行糸道を形成した。ハートローラーの表面温度は30℃、斜行糸道工程を走行する繊維束の張力は70mg/dtexであった。
アクリル系重合体から紡糸原液を調製した後、湿式紡糸方法により単繊維繊度が1.1dtexで単繊維の総数であるフィラメント数が12000本であるポリアクリロニトリル系前駆体繊維を得た。かかるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を空気からなる酸化性雰囲気中で230〜270℃で耐炎化熱処理している途中である繊維束の比重1.32の繊維束を斜行糸道工程に走行させた。かかる斜行糸道工程において、第1ローラーと糸道規制部材の距離L1は2.2m、糸道規制部材と第2ローラーとの距離L2は1.5mとするとともに、第1ローラーと第2ローラーの間にある糸道規制部材として図1のようなハートローラーを用いた。糸道規制部材であるハートローラーをローラー軸と平行な方向に移動、すなわち移動距離Dを140mmにすることで繊維束の仮撚り数は25T/m、振り角θ1+θ2は9oとなる斜行糸道を形成した。ハートローラーの表面温度は30℃、斜行糸道工程を走行する繊維束の張力は70mg/dtexであった。
かかる耐炎化繊維束を窒素雰囲気中において700℃で予備炭化処理し、1400℃で炭化処理した後に、硫酸を電解溶液として電解表面処理を行い、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主剤としたサイジング剤を付与し炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は430kgf/mm2(4.2GPa)であった。結果を表1に示す。
[実施例2]
ハートローラーの移動距離Dを50mmにして、斜行糸道を走行する繊維束の仮撚りが10T/m、振り角を3°にしたこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は410kgf/mm2(4.0GPa)であった。結果を表1に示す。
ハートローラーの移動距離Dを50mmにして、斜行糸道を走行する繊維束の仮撚りが10T/m、振り角を3°にしたこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は410kgf/mm2(4.0GPa)であった。結果を表1に示す。
[実施例3]
ハートローラーの移動距離Dを165mmにして、斜行糸道を走行する繊維束の仮撚りが40T/m、振り角を13°にしたこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は440kgf/mm2(4.3GPa)であった。結果を表1に示す。
ハートローラーの移動距離Dを165mmにして、斜行糸道を走行する繊維束の仮撚りが40T/m、振り角を13°にしたこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は440kgf/mm2(4.3GPa)であった。結果を表1に示す。
[実施例4]
耐炎化温度を220〜230℃で熱処理した比重1.20の繊維束を折り返しローラーと耐炎化熱処理炉の間に設置した斜行糸道工程を通過させた後に、230〜270℃で耐炎化熱処理して耐炎化繊維束を得たこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、410kgf/mm2(4.0GPa)であった。結果を表1に示す
[実施例5]
耐炎化温度を220〜235℃で熱処理した比重1.25の繊維束を折り返しローラーと耐炎化熱処理炉の間に設置した斜行糸道工程を通過させた後に、235〜270℃で耐炎化熱処理して耐炎化繊維束を得たこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、440kgf/mm2(4.3GPa)であった。
耐炎化温度を220〜230℃で熱処理した比重1.20の繊維束を折り返しローラーと耐炎化熱処理炉の間に設置した斜行糸道工程を通過させた後に、230〜270℃で耐炎化熱処理して耐炎化繊維束を得たこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、410kgf/mm2(4.0GPa)であった。結果を表1に示す
[実施例5]
耐炎化温度を220〜235℃で熱処理した比重1.25の繊維束を折り返しローラーと耐炎化熱処理炉の間に設置した斜行糸道工程を通過させた後に、235〜270℃で耐炎化熱処理して耐炎化繊維束を得たこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、440kgf/mm2(4.3GPa)であった。
[実施例6]
耐炎化温度を230〜280℃で耐炎化処理した耐炎化繊維束の比重が1.50であること以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、420kgf/mm2(4.1GPa)であった。結果を表1に示す
[実施例7]
耐炎化工程の折り返しローラーと熱処理炉の間に斜行糸道工程を設置して、ハートローラーの表面温度を180℃にしたこと以外は、実施例1と同様に炭素繊維束を得た。ハートローラーの表面温度は常温に比べて高くなったが、単繊維間の接着を抑制できた。得られた炭素繊維束の強度は、410kgf/mm2(4.0GPa)であった。結果を表1に示す。
耐炎化温度を230〜280℃で耐炎化処理した耐炎化繊維束の比重が1.50であること以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、420kgf/mm2(4.1GPa)であった。結果を表1に示す
[実施例7]
耐炎化工程の折り返しローラーと熱処理炉の間に斜行糸道工程を設置して、ハートローラーの表面温度を180℃にしたこと以外は、実施例1と同様に炭素繊維束を得た。ハートローラーの表面温度は常温に比べて高くなったが、単繊維間の接着を抑制できた。得られた炭素繊維束の強度は、410kgf/mm2(4.0GPa)であった。結果を表1に示す。
[実施例8]
斜行糸道工程を走行する繊維束の張力を30mg/dtexにした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、410kgf/mm2(4.0GPa)であった。結果を表1に示す。
斜行糸道工程を走行する繊維束の張力を30mg/dtexにした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、410kgf/mm2(4.0GPa)であった。結果を表1に示す。
[実施例9]
斜行糸道工程を走行する繊維束の張力を180mg/dtexにした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、420kgf/mm2(4.1GPa)であった。結果を表1に示す。
斜行糸道工程を走行する繊維束の張力を180mg/dtexにした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、420kgf/mm2(4.1GPa)であった。結果を表1に示す。
[実施例10]
図3のとおり、糸道規制部材にくしガイドを用いた以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、くしガイドとの擦過で毛羽立ちが発生したために400kgf/mm2(3.9GPa)であった。結果を表1に示す。
図3のとおり、糸道規制部材にくしガイドを用いた以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は、くしガイドとの擦過で毛羽立ちが発生したために400kgf/mm2(3.9GPa)であった。結果を表1に示す。
[比較例1]
斜行糸道工程を構成する糸道規制部材を設置せずに、繊維束が第1ローラーと第2ローラーを直進したこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。耐炎化熱処理時に単繊維間に接着が発生したが、斜行糸道による繊維束への外力が作用しなかったため繊維束に仮撚りは発生しなかった。そのため、解繊による接着抑制効果が得られず、炭素繊維束の強度は、350kgf/mm2(3.4GPa)まで低減した。結果を表1に示す。
斜行糸道工程を構成する糸道規制部材を設置せずに、繊維束が第1ローラーと第2ローラーを直進したこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。耐炎化熱処理時に単繊維間に接着が発生したが、斜行糸道による繊維束への外力が作用しなかったため繊維束に仮撚りは発生しなかった。そのため、解繊による接着抑制効果が得られず、炭素繊維束の強度は、350kgf/mm2(3.4GPa)まで低減した。結果を表1に示す。
[比較例2]
ハートローラーの移動距離Dを80mmにして、斜行糸道を走行する繊維束の仮撚りが5T/m、振り角を2°にしたこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。斜行が不十分で、繊維束に十分な外力を付与することができずに、解繊による十分な単繊維間接着抑制効果を得ることができなかった。得られた炭素繊維束の強度は370kgf/mm2(3.6GPa)であった。結果を表1に示す。
ハートローラーの移動距離Dを80mmにして、斜行糸道を走行する繊維束の仮撚りが5T/m、振り角を2°にしたこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。斜行が不十分で、繊維束に十分な外力を付与することができずに、解繊による十分な単繊維間接着抑制効果を得ることができなかった。得られた炭素繊維束の強度は370kgf/mm2(3.6GPa)であった。結果を表1に示す。
[比較例3]
ハートローラーの移動距離Dを230mmにして、斜行糸道を走行する繊維束の仮撚りが45T/m、振り角を15°にしたこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。斜行は十分であったが、ハートローラーの端部から走行する繊維束の一部の単繊維がはみ出して毛羽や単繊維切れが発生したばかりか、ハートローラーの側面に沿って繊維束が広がったために、単繊維のアライメントが乱れた。得られた炭素繊維束の強度は380kgf/mm2(3.7GPa)であった。結果を表1に示す。
ハートローラーの移動距離Dを230mmにして、斜行糸道を走行する繊維束の仮撚りが45T/m、振り角を15°にしたこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。斜行は十分であったが、ハートローラーの端部から走行する繊維束の一部の単繊維がはみ出して毛羽や単繊維切れが発生したばかりか、ハートローラーの側面に沿って繊維束が広がったために、単繊維のアライメントが乱れた。得られた炭素繊維束の強度は380kgf/mm2(3.7GPa)であった。結果を表1に示す。
[比較例4]
耐炎化炉直近に斜行糸道工程を設置してハートローラーの表面温度を200℃にしたこと以外は、実施例1と同様に炭素繊維束を得た。斜行は十分であったが、ハートローラーの表面温度が高いために、耐炎化熱処理による単繊維間の接着が発生して、炭素繊維束の強度は、350kgf/mm2(3.4GPa)まで低減した。結果を表1に示す。
耐炎化炉直近に斜行糸道工程を設置してハートローラーの表面温度を200℃にしたこと以外は、実施例1と同様に炭素繊維束を得た。斜行は十分であったが、ハートローラーの表面温度が高いために、耐炎化熱処理による単繊維間の接着が発生して、炭素繊維束の強度は、350kgf/mm2(3.4GPa)まで低減した。結果を表1に示す。
[比較例5]
耐炎化温度を200〜210℃で熱処理した比重1.17の繊維束を斜行糸道工程に通過させた後に、210〜270℃で耐炎化熱処理して耐炎化繊維束を得たこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。耐炎化温度が低いために斜行糸道工程通過時の繊維束に対して耐炎化熱処理がほとんどなされておらず、繊維束を構成する単繊維間の接着が発生せずに斜行による単繊維間の接着抑制効果は発現されず、得られた炭素繊維束の強度は360kgf/mm2(3.5GPa)であった。結果を表1に示す。
耐炎化温度を200〜210℃で熱処理した比重1.17の繊維束を斜行糸道工程に通過させた後に、210〜270℃で耐炎化熱処理して耐炎化繊維束を得たこと以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。耐炎化温度が低いために斜行糸道工程通過時の繊維束に対して耐炎化熱処理がほとんどなされておらず、繊維束を構成する単繊維間の接着が発生せずに斜行による単繊維間の接着抑制効果は発現されず、得られた炭素繊維束の強度は360kgf/mm2(3.5GPa)であった。結果を表1に示す。
[比較例6]
耐炎化温度を230〜290℃で耐炎化熱処理した耐炎化繊維束の比重が1.55であること以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。耐炎化繊維束を構成する単繊維間の接着が強固なものとなり、斜行糸道工程通過時に解繊できないばかりか、耐炎化繊維束が脆弱になったために毛羽が発生して、得られた炭素繊維束の強度は370kgf/mm2(3.6GPa)であった。結果を表1に示す。
耐炎化温度を230〜290℃で耐炎化熱処理した耐炎化繊維束の比重が1.55であること以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。耐炎化繊維束を構成する単繊維間の接着が強固なものとなり、斜行糸道工程通過時に解繊できないばかりか、耐炎化繊維束が脆弱になったために毛羽が発生して、得られた炭素繊維束の強度は370kgf/mm2(3.6GPa)であった。結果を表1に示す。
[比較例7]
斜行糸道を走行する繊維束の張力を20mg/dtexにした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。張力が低いために、斜行時の繊維束の仮撚りが3T/mまで低下したことにより繊維束が十分解繊されず、得られた炭素繊維束の強度は360kgf/mm2(3.5GPa)であった。結果を表1に示す。
斜行糸道を走行する繊維束の張力を20mg/dtexにした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。張力が低いために、斜行時の繊維束の仮撚りが3T/mまで低下したことにより繊維束が十分解繊されず、得られた炭素繊維束の強度は360kgf/mm2(3.5GPa)であった。結果を表1に示す。
1:繊維束
2:第1ローラー
3:糸道規制部材
4:第2ローラー
5:斜行糸道工程がない場合の直進糸道
θ1、θ2:振り角
D:繊維束が第1ローラーから離れる点と第2ローラーに接触する点を含む鉛直方向の平面に対する糸道規制部材からの垂線の長さ
2:第1ローラー
3:糸道規制部材
4:第2ローラー
5:斜行糸道工程がない場合の直進糸道
θ1、θ2:振り角
D:繊維束が第1ローラーから離れる点と第2ローラーに接触する点を含む鉛直方向の平面に対する糸道規制部材からの垂線の長さ
Claims (4)
- ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気中で200〜300℃で耐炎化処理して、耐炎化繊維束を製造する工程において、比重が1.20〜1.50である繊維束を表面温度が180℃以下の糸道規制部材に通過させて10〜40T/mの仮撚りを与える耐炎化繊維束の製造方法。
- 糸道規制部材が、繊維束の走行方向に沿って第1ローラーと第2ローラーに挟まれた位置に存在し、第1ローラーと糸道規制部材の距離をL1(m)、糸道規制部材と第2ローラーの距離をL2(m)、繊維束が第1ローラーから離れる点と第2ローラーに接触する点を含む鉛直方向の平面に対する糸道規制部材からの垂線の長さをD(mm)とした時、下式で求められる振り角θ1とθ2に対して、θ1+θ2が3〜13°である請求項1に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
θn=arctan(D/(Ln×10−3))×360°÷2π (n=1または2)
Ln:第nローラーと糸道規制部材間の距離(m)
D:繊維束が第1ローラーから離れる点と第2ローラーに接触する点を含む鉛直方向の平面に対する糸道規制部材からの垂線の長さ(mm) - 糸道規制部材を通過する際の繊維束の張力が30〜180mg/dtexである請求項1または2に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法で耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気中で1000〜2500℃で炭化処理する炭素繊維束の製造方法。
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JP2018098467A JP2019203211A (ja) | 2018-05-23 | 2018-05-23 | 耐炎化繊維束および炭素繊維束の製造方法 |
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